特許異議申立
2023-701336
害虫防除用樹脂成形体の製造方法
- 審判番号
- 2023-701336
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-023798
- 登録番号
- 7297287
- 請求日
- 2023年12月19日
- 審決日
- 2024年07月30日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
- 【異議申立人】安藤 慶治
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 廣田 健介
- 審判官 井口 猶二
- 分類
- P1651.537-YAA(B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7297287号発明「害虫防除用樹脂成形体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7297287号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
特許第7297287号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7297287号(請求項の数は1。以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019-23798号)は、平成31年2月13日の出願であって、令和5年6月16日に特許権の設定の登録がされ、同年6月26日に特許公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年12月19日に、特許異議申立人 安藤 慶治(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 6年 2月27日付け:取消理由通知書
令和 6年 4月26日 :訂正請求書の提出(以下「本件訂正請求」という。)
令和 6年 4月26日 :意見書(特許権者)の提出
令和 6年 6月26日 :意見書(特許異議申立人)の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7297287号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、請求項1について、以下に示す訂正事項1~4からなるものである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「揮散性防虫剤」と記載されているのを、「トランスフルトリン、メトフルトリンおよびエンペントリンからなる群より選択される少なくとも1種の揮散性防虫剤」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「と樹脂を含有する樹脂組成物」と記載されているのを、「と、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体およびポリエチレン、または、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリエチレンとを含有する樹脂組成物」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「射出成形機に充填した後、」と記載されているのを「射出成形機に充填した後、
前記樹脂組成物を射出成形機のシリンダー内で溶融した後、金型に設けられたゲートを通じて金型内のキャビティに前記樹脂組成物を射出して前記害虫防除用樹脂成形体を得るものであり(ただし、前記シリンダー内の温度は160~220℃、前記金型温度は150~200℃、前記樹脂組成物の注入圧力は100~300MPaとする)、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「(ただし、前記樹脂組成物のメルトフローレートは1~50g/10minとする)」と記載されているのを、「(ただし、前記の長さの総和は100~15000cmとし、前記の樹脂組成物のメルトフローレートは1~50g/10minとする)」に訂正する。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、「揮散性防虫剤」が、「トランスフルトリン、メトフルトリンおよびエンペントリンからなる群より選択される少なくとも1種」であることを特定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
次に、上記「揮散性防虫剤」に関して、本件特許明細書等には、「本発明に係る害虫防除用樹脂成形体において、使用される揮散性防虫剤としては、トランスフルトリン(蒸気圧(25℃)3.5×10-3Pa)、メトフルトリン(蒸気圧(25℃)1.8×10-4Pa)、エンペントリン(蒸気圧(25℃)0.02Pa)、・・・中略・・・等のピレスロイド系化合物が挙げられる。」(【0010】)と記載されているから、訂正事項1に係る訂正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項1に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、「樹脂組成物」に含有される「樹脂」が、「エチレン-メタクリル酸メチル共重合体およびポリエチレン、または、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリエチレン」であることを限定するものであるから、訂正事項2に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
次に、上記「樹脂」に関して、本件特許明細書等には、「これら樹脂のなかで揮散性防虫剤の揮散性の観点から、ポリオレフィン系樹脂とカルボン酸エステルの共重合体としてはカルボン酸エステルがポリオレフィン系樹脂に対して1~35重量%配合された、エチレン-メタアクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましく、またポリエチレン系樹脂とこれら共重合体とのポリマーブレンドを用いることがより好ましい。」(【0013】)と記載されていることからみて、訂正事項2に係る訂正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項2に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、「射出成形」による製造方法について、「前記樹脂組成物を射出成形機のシリンダー内で溶融した後、金型に設けられたゲートを通じて金型内のキャビティに前記樹脂組成物を射出して前記害虫防除用樹脂成形体を得るものであり(ただし、前記シリンダー内の温度は160~220℃、前記金型温度は150~200℃、前記樹脂組成物の注入圧力は100~300MPaとする)、」との記載を追加して発明特定事項を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
次に、上記「射出成形」による製造方法に関して、本件特許明細書等には、「本発明の害虫防除用樹脂成形体は、公知の射出成形法により製造され、例えば、前記樹脂組成物を射出成形機のシリンダー内で溶融した後、金型に設けられたゲートを通じて金型内のキャビティに前記樹脂組成物を射出して前記害虫防除用樹脂成形体を得るという工程を有する。」(【0024】)、「射出成形機のシリンダー内の温度は、160~220℃となるように設定する。160℃より低いと、溶融した樹脂組成物が金型の末端部に到達できないといった成形不良(ショートショット)が生じ、220℃より高いと常温揮散性防虫剤が分解するおそれがある。」(【0026】)、「射出成形時の金型温度は、150~200℃・・・中略・・・である。また金型への前記樹脂組成物の注入圧力は、100~300MPa・・・中略・・・である。」(【0027】)と記載されているから、訂正事項3に係る訂正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項3に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(4)訂正事項4
訂正事項4に係る訂正は、「害虫防除用樹脂成形体」の「前記外枠体、前記角材、及び前記補強部材のそれぞれの長さの総和」を「100~15000cm」であることを限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
次に、上記「長さの総和」に関して、本件特許明細書等には、「前記外枠体1、前記補強部材2、及び前記角材3のそれぞれの長さの総和a(cm)は、・・・中略・・・好ましくは100~15000cm・・・中略・・・の範囲である。」(【0023】)と記載されている。よって、訂正事項4に係る訂正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項4に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
4 まとめ
上記のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許第7297287号の特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
第3 本件特許発明について
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
外枠体、及び該外枠体の内側に複数の補強部材及び該外枠体の内側に少なくとも一部に立体状の曲部を有する複数の角材が配されてなり、前記外枠体、前記補強部材および前記角材の厚みまたはそれらの幅がそれぞれ0.1~3mmの範囲にある害虫防除用樹脂成形体を射出成形により製造する方法において、
トランスフルトリン、メトフルトリンおよびエンペントリンからなる群より選択される少なくとも1種の揮散性防虫剤と、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体およびポリエチレン、または、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリエチレンとを含有する樹脂組成物を射出成形機に充填した後、
前記樹脂組成物を射出成形機のシリンダー内で溶融した後、金型に設けられたゲートを通じて金型内のキャビティに前記樹脂組成物を射出して前記害虫防除用樹脂成形体を得るものであり(ただし、前記シリンダー内の温度は160~220℃、前記金型温度は150~200℃、前記樹脂組成物の注入圧力は100~300MPaとする)、
前記外枠体、前記角材、及び前記補強部材のそれぞれの長さの総和をa(cm)、前記射出成形にて使用される金型に設けられたゲートの数をb(個)、前記樹脂組成物のJISK7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定されるメルトフローレート(g/10min)の対数値を常用対数でcとしたときに、
(式) a/(b×c)≦100
を満足させて、前記金型内に射出成形することを特徴とする害虫防除用樹脂成形体の製造方法。(ただし、前記の長さの総和は100~15000cmとし、前記の樹脂組成物のメルトフローレートは1~50g/10minとする)」
第4 令和6年2月27日付け取消理由通知に記載された取消理由の概要について
令和6年2月27日付けで通知された取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由:(サポート要件)本件特許の請求項1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 令和6年2月27日付け取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
1 取消理由(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
(2)サポート要件についての判断
上記(1)の判断基準を前提として、以下検討する。
ア 本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許明細書の【0005】~【0006】、【0008】等の記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題は、複雑な形状を有する立体状の害虫防除用樹脂成形体を射出成形により製造する際に、目的とする成形体の一部に欠損を生ずるショートショットの発生を防ぎ、容易に製造する方法を提供すること、であると認められる。
イ 特許請求の範囲の記載事項
上記第3に記載のとおりである。
ウ サポート要件についての判断
本件特許明細書等には、上記課題を解決するための手段及び発明の効果について、
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外枠体、及び該外枠体の内側に複数の補強部材及び該外枠体の内側に少なくとも一部に立体状の曲部を有する複数の角材が配されてなる害虫防除用樹脂成形体を射出成形により製造する方法において、
揮散性防虫剤と樹脂を含有する樹脂組成物を射出成形機に充填した後、前記外枠体、前記角材、及び前記補強部材のそれぞれの長さの総和をa(cm)、前記射出成形にて使用される金型に設けられたゲートの数をb(個)、前記樹脂組成物のJIS K7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定されるメルトフローレート(g/10min)の対数値をcとしたときに、
(式) a/(b×c)≦100
を満足させて、前記金型内に射出成形することを特徴とする害虫防除用樹脂成形体の製造方法よって前記の課題を解決したものである。」(【0007】)
「本発明によれば、射出成形で該害虫防除用樹脂成形体を製造する際に、ショートショットの発生を防ぐことが可能となる。」(【0008】)
と記載されている。
加えて、本件特許明細書等の発明を実施するための形態の項には、好ましい材料・組成や外枠体、補強部材、角材の厚み・幅・それぞれの長さの総和、ゲートの条件等について以下の記載がある。
「本発明に係る害虫防除用樹脂成形体において、使用される揮散性防虫剤としては、トランスフルトリン(蒸気圧(25℃)3.5×10-3Pa)、メトフルトリン(蒸気圧(25℃)1.8×10-4Pa)、エンペントリン(蒸気圧(25℃)0.02Pa)、プロフルトリン(蒸気圧(25℃)0.01Pa)等のピレスロイド系化合物が挙げられる。」(【0010】)、
「本発明で使用される樹脂としては、前記揮散性防虫剤が効率よく担持でき、さらに担持された該揮散性防虫剤が本発明の害虫防除用樹脂成形体表面から徐々に揮散させることが可能なものであれば特に限定されず、・・・中略・・・これら樹脂のなかで揮散性防虫剤の揮散性の観点から、ポリオレフィン系樹脂とカルボン酸エステルの共重合体としてはカルボン酸エステルがポリオレフィン系樹脂に対して1~35重量%配合された、エチレン-メタアクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましく、またポリエチレン系樹脂とこれら共重合体とのポリマーブレンドを用いることがより好ましい。」(【0012】~【0013】)、
「前記樹脂組成物は、JIS K7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定されるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1~50g/10min・・・中略・・・となるように調整する。MFRが本範囲にあることにより、射出成形する際に金型に前記樹脂組成物をスムーズに流し込むことができ、かつ射出成形した後の金型の冷却時間が短時間ですむ。」(【0017】)
「本発明の害虫防除用樹脂成形体は、外枠体1と、該外枠体の内側に複数の補強部材2及び該外枠体の内側に少なくとも一部に立体状の曲部を有する複数の角材3が配される。該害虫防除用樹脂成形体の例としては、図1~図3に示すような害虫防除用樹脂成形体をあげることができる。・・・中略・・・前記外枠体1、前記補強部材2、及び前記角材3の厚みは、揮散性防虫剤の揮散性の点から0.1~3mmの範囲とすることが好ましい。・・・中略・・・前記外枠体1、前記補強部材2、及び前記角材3の幅は、揮散性防虫剤の揮散性の点から0.1~3mmの範囲とすることが好ましい。」(【0018】~【0020】)、
「前記外枠体1、前記補強部材2、及び前記角材3のそれぞれの長さの総和a(cm)は、使用環境、使用期間、樹脂の強度などによって適宜設計されるが、好ましくは100~15000cm・・・中略・・・の範囲である。」(【0023】)、
「本発明の害虫防除用樹脂成形体は、公知の射出成形法により製造され、例えば、前記樹脂組成物を射出成形機のシリンダー内で溶融した後、金型に設けられたゲートを通じて金型内のキャビティに前記樹脂組成物を射出して前記害虫防除用樹脂成形体を得るという工程を有する。」(【0024】)、
「前記ゲートの数は、前記害虫防除用樹脂成形体の外枠体、角材及び補強部材のそれぞれの総和と成形体の形状や使用する樹脂組成物のメルトフローレートの対数値を基に、本発明の製造方法を満足するように設ける。・・・中略・・・射出成形機のシリンダー内の温度は、160~220℃となるように設定する。160℃より低いと、溶融した樹脂組成物が金型の末端部に到達できないといった成形不良(ショートショット)が生じ、220℃より高いと常温揮散性防虫剤が分解するおそれがある。・・・中略・・・射出成形時の金型温度は、150~200℃・・・中略・・・である。また金型への前記樹脂組成物の注入圧力は、100~300MPa・・・中略・・・である。」(【0025】~【0027】)
さらに、本件特許明細書等の発明を実施するための形態に対応する実施例について、、(式)a/(b×c)≦100を満たし、かつ、上述した好ましい材料・組成や外枠体、補強部材、角材の厚み・幅・それぞれの長さの総和、ゲートの条件等を満たす実施例1~4においてはショートショットが発生しないとの評価結果が記載されている(【0030】~【0038】)。
これらの記載に接した当業者であれば、
「外枠体、及び該外枠体の内側に複数の補強部材及び該外枠体の内側に少なくとも一部に立体状の曲部を有する複数の角材が配されてなり、前記外枠体、前記補強部材および前記角材の厚みまたはそれらの幅がそれぞれ0.1~3mmの範囲にある害虫防除用樹脂成形体を射出成形により製造する方法において、
トランスフルトリン、メトフルトリンおよびエンペントリンからなる群より選択される少なくとも1種の揮散性防虫剤と、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体およびポリエチレン、または、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリエチレンとを含有する樹脂組成物を射出成形機に充填した後、
前記樹脂組成物を射出成形機のシリンダー内で溶融した後、金型に設けられたゲートを通じて金型内のキャビティに前記樹脂組成物を射出して前記害虫防除用樹脂成形体を得るものであり(ただし、前記シリンダー内の温度は160~220℃、前記金型温度は150~200℃、前記樹脂組成物の注入圧力は100~300MPaとする)、
前記外枠体、前記角材、及び前記補強部材のそれぞれの長さの総和をa(cm)、前記射出成形にて使用される金型に設けられたゲートの数をb(個)、前記樹脂組成物のJISK7210に基づいて荷重2.16kgf、かつ試験温度190℃で測定されるメルトフローレート(g/10min)の対数値を常用対数でcとしたときに、
(式) a/(b×c)≦100
を満足させて、前記金型内に射出成形することを特徴とする害虫防除用樹脂成形体の製造方法。(ただし、前記の長さの総和は100~15000cmとし、前記の樹脂組成物のメルトフローレートは1~50g/10minとする)」
との特定事項を満たせば、上記アの課題が解決できることは当業者であれば十分に認識できるというべきである。
そして、本件特許発明は、本件特許発明の課題を解決できると認識できる上記特定事項を全て有するものであるから、当然、上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たすものである。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年6月26日提出の意見書(第3~7頁)において、概略、揮発性防虫剤と樹脂の種類、角材の高さ、長さの総和(a)について、本件特許明細書等に記載の実施例ではショートショットが生じないことが具体的に示されているものの、それ以外の場合についてはショートショットが生じないことは示されておらず、実施例で具体的に示されたものを超える部分を有する本件特許発明は、本件特許明細書によってサポートされていない旨主張している。
しかしながら、上記(2)で検討したように、本件特許発明は、訂正により、本件特許明細書等の発明を実施するための形態の項に記載される好ましい材料・組成や外枠体、補強部材、角材の厚み・幅・それぞれの長さの総和、ゲートの条件等について、上記(2)アの課題を解決できると認識できる全ての特定事項を具備するに至ったものである。「角材の高さ」についても、請求項でその数値範囲等が特定されていないとしても、「(式)a/(b×c)≦100」、及び、「長さの総和(a)」が「100から15000cm」との要件を含む本件特許発明の範囲内において、上記(2)アの課題は解決されるものと推認できる。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(4)以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(サポート要件)には、その理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由についての当審の判断
1 明確性要件(特許法36条6項2号)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許発明は、上記第3に記載されているとおりであって、その記載は明確であるから、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和5年12月19日提出の特許異議申立書(18~22頁)において、
ア 甲第4号証(特許第7228234号公報)の実施例1が本件特許発明の式を満たさないにもかかわらず、ショートショットが生じないこと、
イ 外枠体、角材及び補強部材のそれぞれの長さの総和a、ゲート数bが、それぞれ、ゼロ、無限大である場合など、明らかに実施が困難な範囲を含んでいること、
ウ 「立体状の曲部」ではない部分がどのような部分であるか、「立体状の曲部」の具体的な形状、が規定されていないこと、
エ 「揮散性防虫剤」について、例示された防虫剤から、揮散性を有する防虫剤全般に用いることができる旨の説明がないこと、
等を根拠に本件訂正発明が明確性要件を満たさない旨主張するが、いずれの主張も上記(2)の明確性要件の判断を左右するものではない。
(4)以上のとおりであるから、異議申立書に記載した特許異議申立理由(明確性要件)は、採用すべき理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書において通知した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701336