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特許異議申立

2023-700787

ポリプロピレン系樹脂組成物及び自動車内装部品用成形体

審判番号
2023-700787
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-042006外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7248457
請求日
2023年07月28日
審決日
2024年05月21日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7248457号発明「ポリプロピレン系樹脂組成物及び自動車内装部品用成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7248457号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7248457号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 25項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第7248457号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成31年3月7日に出願され、令和5年3月20日に特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行されたされたものである。

その後、その特許に対し、令和5年7月28日に、特許異議申立人である森本美奈(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~8)がされた。

その後の経緯は、以下のとおりである。

令和5年12月26日付け 取消理由通知書

令和6年 2月27日提出 意見書及び訂正請求書(特許権者)

同年 3月 7日付け 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛て)

同年 4月 1日提出 意見書(申立人)

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に、

「前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が50/50~85/15であり、」とあるのを、

「前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が60/40~85/15であり、」に訂正する。

請求項1の記載を引用する請求項2~8についても同様に訂正される。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に、

「前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルである、ポリプロピレン系樹脂組成物。」

とあるのを、

「前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルであり、
帯電防止剤としてアミン化合物を含まない、ポリプロピレン系樹脂組成物。」

に訂正する。

請求項1の記載を引用する請求項2~8についても同様に訂正される。

訂正前の請求項1~8において、請求項2~8は請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1及び2により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~8は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、訂正前の請求項1の「成分(A)」と「成分(B)」の「配合の質量比」が、「50/50~85/15」であるのを、「60/40~85/15」であるとしたものであって、上記「配合の質量比」の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0016】には、上記「配合の質量比」として、「60/40」であることが記載されていたものである。

したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、訂正前の請求項1の「ポリプロピレン系樹脂組成物」が、「帯電防止剤としてアミン化合物を含まない」ものであることに限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。

また、訂正事項2は、令和5年12月26日付け取消理由通知における取消理由1(進歩性)に対応してなされたものであり、訂正前の請求項1に係る発明において、該発明に包含される一部の発明特定事項を除外したものであるから、いわゆる除くクレームとする訂正であって、新たな技術的事項を導入するものではない。

したがって、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 独立特許要件

訂正前の全ての請求項1~8について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。

4 令和6年4月1日提出の意見書(申立人)の主張について

申立人は、令和6年4月1日提出の意見書において、訂正請求書における訂正事項2(「帯電防止剤としてアミン化合物を含まない」こと)は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、「帯電防止剤としてのアミン化合物」にどのような化学構造を有する化合物群が含まれるのか不明であり、「帯電防止剤としてのアミン化合物」が明確でないから、特許請求の範囲の減縮に相当せず、訂正要件を満たさないことを主張している。

そこで検討する。

まず、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正でないと主張するも、上記2(2)に示したとおりであって、新たな技術的事項を導入するものではないことから、当該主張は妥当でない。

ついで、訂正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか否かについては、上記2(2)に示したように、訂正前の請求項1に係る発明において、一部の発明特定事項を除外して、除くクレームとする訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正要件を満たしている。そして、「帯電防止剤としてのアミン化合物を含まない」ことは、「帯電防止剤」として「アミン化合物」自体は明確であるし、「帯電防止剤」として該「アミン化合物」以外のものを用いることが明らかであるから、当該主張は妥当でない。

したがって、申立人の主張は採用できない。

5 小括

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の特許請求の範囲の記載

本件訂正請求により訂正された請求項1~8に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。

「【請求項1】
ポリプロピレン系重合体を主成分とし、組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、かつMFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分であり、前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が60/40~85/15であり、
前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルであり、
帯電防止剤としてアミン化合物を含まない、ポリプロピレン系樹脂組成物。
続きを表示(全18行)
【請求項2】
組成物全体の総質量に対して、前記ポリプロピレン系重合体以外に他の重合体を40質量%まで含む、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記他の重合体がポリエチレン及びエチレンとα-オレフィンとの共重合体から選択される、請求項2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、組成物全体の総質量に対してハイドロタルサイト類を0.01~5質量%含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、組成物全体の総質量に対してハイドロタルサイト類以外の無機充填剤を40質量%まで含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形して得られる自動車内装部品用成形体。
【請求項7】
前記自動車内装部品用成形体が、ドアトリム、グローブボックス、コラムカバー、インスツルメントパネル、パッケージトレイ、リアトレイ、ピラーガーニッシュ又はコンソールボックスである請求項6に記載の自動車内装部品用成形体。
【請求項8】
前記自動車内装部品用成形体が、ドアトリムである請求項6に記載の自動車内装部品用成形体。」

以下では、本件特許の請求項1~8に係る発明を、「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。

第4 特許異議申立書の申立理由及び当審が通知した取消理由

1 特許異議申立書(以下、「申立書」ということがある。)の申立理由

(1)申立理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)

本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(甲第4号証を主引例とする進歩性欠如)

本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(甲第5号証を主引例とする進歩性欠如)

本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件違反)

本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

具体的理由の概要は以下のとおり。

本件発明における、「前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が50/50~85/15」について、「70/30」と「72/28」以外は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(5)申立理由5(実施可能要件違反)

本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

具体的な理由の概要は以下のとおり。

本件発明における、「前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が50/50~85/15」について、「70/30」と「72/28」以外は、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

2 申立書及び意見書とともに提出された証拠方法

(1)申立書に添付した証拠方法

・甲第1号証:特開2008-266463号公報
・甲第2号証:特開2010-280841号公報
・甲第3号証:特開平10-101865号公報
・甲第4号証:特開平10-292072号公報
・甲第5号証:国際公開第2014/046086号

(2)令和6年4月1日提出の意見書に添付した証拠方法

・甲第6号証:特開2017-179350号公報

(以下、甲第1号証~甲第6号証をそれぞれ「甲1」~「甲6」という。)

3 当審が通知した令和5年12月26日付け取消理由通知の取消理由

当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

・取消理由1(進歩性)

本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲1、甲4又は甲5に記載された発明に基づいて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 当審の判断

当審は、上記第4の各申立理由及び意見書における申立人の主張、並びに取消理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)及び取消理由1(進歩性)のうち甲1を主引例とする進歩性欠如について

申立理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)は、取消理由1(進歩性)のうち甲1を主引例とする進歩性欠如と、主引例を同じくするものであるから、併せて検討する。

(1)甲1に記載された発明

甲1の、表1に示した実施例2の配合組成に着目して整理すると、次の発明が記載されている。

「配合組成(%)で、ステアリルジエタノールアミン8.4%、ステアリルジエタノールアミンモノステアレート35%、ステアリルジエタノールアミンジステアレート26.6%、グリセリンモノステアレート20%、ジグリセリンセスキステアレート10%を溶融混合し、ペレット状の帯電防止剤を調製し、
次いで、調製した帯電防止剤をポリプロピレン(ホモポリマー、MFR=2.5g/10min)に対して0.8重量%となるように混合し、二軸押出成形機にて230℃で溶融混練し、Tダイより押出した後、一軸延伸して成形した厚さ30μmのフィルム。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲1発明を対比する。

(ア)甲1発明では、「ポリプロピレン(ホモポリマー、MFR=2.5g/10min)」が樹脂成分であるから、本件発明1の「ポリプロピレン系重合体を主成分と」することに相当する。

(イ)甲1発明の「帯電防止剤」は、「グリセリンモノステアレート20%」、「ジグリセリンセスキステアレート10%」を含み、「ポリプロピレン(ホモポリマー、MFR=2.5g/10min)」に対して0.8重量%となるように混合することから、「グリセリンモノステアレート」は0.16重量%(=20/100×0.8)、「ジグリセリンセスキステアレート」は0.08重量%(=10/100×0.8)となり、「ポリプロピレン」と「帯電防止剤」との組成物全体に対して、「グリセリンモノステアレート」は約0.159重量%(≒0.16×1/1.008)、「ジグリセリンセスキステアレート」は約0.079重量%(≒0.08×1/1.008)含むことになる。

そうすると、「ポリプロピレン」と「帯電防止剤」との組成物全体に対して、「グリセリンモノステアレート」及び「ジグリセリンセスキステアレート」の合計は、約0.238重量%(≒約0.159+約0.079)となり、「グリセリンモノステアレート」と「ジグリセリンセスキステアレート」の配合の質量比が2/1であるところ、これは、本件発明1の「組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、」「前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が60/40~85/15であ」ることに相当する。

(ウ)甲1発明の「ジグリセリンセスキステアレート」は、甲1の請求項5、段落【0029】によれば、ジグリセリンモノステアリン酸エステルとジグリセリンジステアリン酸エステルとの混合物であることがわかるから、本件発明1の「ジグリセリン脂肪酸エステル」に相当する。

(エ)甲1発明の「フィルム」は、Tダイより押し出されて一軸延伸されるものであるところ、その組成自体は変化するものではないから、該「フィルム」は成形された組成物であり、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂組成物」とは組成上差異はない。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、

「ポリプロピレン系重合体を主成分とし、組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が60/40~85/15であり、
前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルである、ポリプロピレン系樹脂組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

本件発明1では帯電防止剤としてアミン化合物を含まないのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点

<相違点2>

ポリプロピレン系樹脂組成物に関し、本件発明1ではMFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分であるのに対し、甲1発明ではMFRが不明である点

イ 判断

相違点1から検討する。

甲1発明は、帯電防止剤として、ステアリンジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミンモノステアレート、ステアリルジエタノールジステアレート、グリセリンモノステアレート、ジグリセリンセスキステアレートを含むものであり、帯電防止剤としてアミン化合物を含むものである。

そして、甲1には、「【請求項1】アルキルアミンエチレンオキサイド付加物(A)、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物のモノアルキル脂肪酸エステル(B)、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物のジアルキル脂肪酸エステル(C)、グリセリン脂肪酸エステル(D)、およびポリグリセリン脂肪酸エステル(E)を含有する熱可塑性樹脂用帯電防止剤であって、前記帯電防止剤に占める、成分(A)の割合が3~23重量%、成分(B)の割合が18~54重量%、成分(C)の割合が22~46重量%、成分(D)の割合が5~30重量%、成分(E)の割合が1~15重量%である、熱可塑性樹脂用帯電防止剤。」と記載されている。

この記載によると、熱可塑性樹脂用帯電防止剤として挙げられたアルキルアミンエチレンオキサイド付加物(A)、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物のモノアルキル脂肪酸エステル(B)、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物のジアルキル脂肪酸エステル(C)はアミン化合物であって、かつ、帯電防止剤として必須の構成成分であることが理解できる。

そうすると、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明は、帯電防止剤としてアミン化合物を必ず含むものであるところ、帯電防止剤としてアミン化合物を含まないようにする動機付けがない。

また、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見いだせない。

したがって、相違点1に係る構成は、当業者が容易に想到し得ないものである。

そして、帯電防止性に優れ、製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、良好な外観を保つことができ、さらにはガラス霞性が良好であるポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体を得ることができるという、本件発明1の効果を、甲1から当業者は予測しえないものである。

よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2~8について

本件発明2~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 申立理由2(甲4を主引例とする進歩性欠如)及び取消理由1(進歩性)のうち甲4を主引例とする進歩性欠如について

申立理由2(甲4を主引例とする進歩性欠如)は、取消理由1(進歩性)のうち甲4を主引例とする進歩性欠如と、主引例を同じくするものであるから、併せて検討する。

(1)甲4に記載された発明

甲4の実施例3について、段落【0019】における1.樹脂及び無機充填剤の基本処方、2.添加剤の基本処方、及び表-1における添加剤配合処方を、二軸混練押出機により混練してポリプロピレン系樹脂組成物を得ること(【0018】、【0020】)に着目して整理すると、以下の発明が記載されている。

「樹脂組成物が、エチレン-プロピレンブロック共重合体:65重量%、エチレン-ブテンランダム共重合体ゴム:15質量%、タルク:20重量%を含む樹脂組成物100重量部に対して、
添加剤として、ステアリン酸カルシウム0.05重量部、ジミリスチル-チオ-ジプロピオネート0.03重量部、2,4ジ-tブチル・フェニル-3,5ジtブチル-4ヒドロキシベンゾエート0.05重量部と、
それ以外の添加剤として、酸化防止剤0.05重量部、耐候剤0.1重量部、脂肪酸ビスアミド0.03重量部、帯電防止剤0.3重量部を、
ヘンシェルミキサーおよびタンブラーで均一に予備混合した後、二軸混練押出機で製造されたポリプロピレン系樹脂組成物。
ここで、上記帯電防止剤は、(1)モノエステル含有量が93%のグリセリンモノ脂肪酸エステル(C18成分の含有量65重量%)50重量部、(2)ジグリセリン1モルに対しC18成分の含有量が65%の脂肪酸を1.2モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル45重量部、(3)アルキル基組成中のC18成分の含有量が65%のアルキルジエタノールアミン5重量部、からなる組成物である。(当審注:(1)等は○中に1等の数字が入る丸数字を意味する。以下同様。)」(以下、「甲4発明」という。)

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲4発明を対比する。

(ア)甲4発明の「エチレン-プロピレンブロック共重合体」は、甲4において、ポリプロピレン系樹脂の代表例であることが記載されている(【0007】)。

そして、甲4発明では、「エチレン-プロピレンブロック共重合体」を樹脂組成物100重量部中に65重量%含むものであり、添加剤の総計が0.13重量部(=ステアリン酸カルシウム0.05重量部+ジミリスチル-チオ-ジプロピオネート0.03重量部+2,4ジ-tブチル・フェニル-3,5ジtブチル-4ヒドロキシベンゾエート0.05重量部)、それ以外の添加剤の配合量が総計0.48重量部(=酸化防止剤0.05重量部+耐候剤0.1重量部+脂肪酸ビスアミド0.03重量部+帯電防止剤0.3重量部)であるから、上記「エチレン-プロピレンブロック共重合体」が「ポリプロピレン系樹脂組成物」中の主成分であり、本件発明1の「ポリプロピレン系重合体を主成分と」することに相当する。

(イ)甲4発明の「帯電防止剤」は、「(1)モノエステル含有量が93%のグリセリンモノ脂肪酸エステル(C18成分の含有量65重量%)50重量部」、「(2)ジグリセリン1モルに対しC18成分の含有量が65%の脂肪酸を1.2モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル45重量部」、「(3)アルキル基組成中のC18成分の含有量が65%のアルキルジエタノールアミン5重量部」からなる組成物であって、上記(ア)から「ポリプロピレン系樹脂組成物」の総計は100.61重量部(=樹脂組成物100重量部+添加剤の総計0.13重量部+それ以外の添加剤の総計0.48重量部)だから、「ポリプロピレン系樹脂組成物」の総計100.61重量部に上記帯電防止剤を0.3重量部含み、上記帯電防止剤0.3重量部のうち95重量%が「(1)」「グリセリンモノ脂肪酸エステル」、「(2)」「ジグリセリン脂肪酸エステル」だから、「ポリプロピレン系樹脂組成物」の総計100重量部に、「(1)」「グリセリンモノ脂肪酸エステル」及び「(2)」「ジグリセリン脂肪酸エステル」を約0.283重量部(≒0.3×100/100.61×95/100)含むこととなる。

そうすると、甲4発明の「帯電防止剤」は、「(1)」「グリセリンモノ脂肪酸エステル」「50重量部」、「(2)」「ジグリセリン脂肪酸エステル」「45重量部」、「(3)」「アルキルジエタノールアミン」「5重量部」からなる組成物であって、「ポリプロピレン型樹脂組成物」の総計100.61重量部に上記「帯電防止剤」0.3重量部を含むことは、本件発明1の「組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、」「前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルである」ことに相当する。

(ウ)甲4発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物」は、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、

「ポリプロピレン系重合体を主成分とし、組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、
前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルである、ポリプロピレン系樹脂組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1’>

本件発明1では帯電防止剤としてアミン化合物を含まないのに対し、甲4発明では(3)アルキル基組成中のC18成分の含有量が65%のアルキルジエタノールアミンを含む点

<相違点2’>

成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合の質量比に関し、本件発明1では60/40~85/15であるのに対し、甲4発明では「(1)」「グリセリンモノ脂肪酸エステル」を「50重量部」、「(2)」「ジグリセリン脂肪酸エステル」を「45重量部」含む、すなわち、「(1)」「グリセリンモノ脂肪酸エステル」と「(2)」「ジグリセリン脂肪酸エステル」との配合の質量比が約52.6/47.4(≒50/45)である点

<相違点3’>

ポリブロピレン系樹脂組成物に関し、本件発明1ではMFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分であるのに対し、甲4発明ではMFRが不明である点

イ 判断

相違点1’から検討する。

甲4発明は、帯電防止剤が、(1)モノエステル含有量が93%のグリセリンモノ脂肪酸エステル(C18成分の含有量65重量%)50重量部、(2)ジグリセリン1モルに対しC18成分の含有量が65%の脂肪酸を1.2モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル45重量部、(3)アルキル基組成中のC18成分の含有量が65%のアルキルジエタノールアミン5重量部、からなる組成物であり、帯電防止剤としてアミン化合物を含むものである。

そして、甲4には、「【請求項1】(A)ポリプロピレン系樹脂が50重量%以上、(B)無機充填剤1~40重量%、及び(C)エチレン-αオレフィンランダム共重合体ゴム及び/又はビニル芳香族化合物含有ゴム0~ 40重量%からなり、且つ(A)、(B)及び(C)の合計が100重量%である樹脂組成物100重量部に対し、(D)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01~0.2重量部、(E)耐候剤0.01~0.3重量部、(F)脂肪酸アミド及び/又は脂肪酸ビスアミド0.01~0.2重量部、及び(G)帯電防止剤組成物0.01~2.0重量部を配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物であり、且つ、該ポリプロピレン系樹脂組成物の耐候性(サンシャインウエザーメーター、83℃-水有り)が500Hr以上であり、耐熱性(150℃ギヤオーブンライフ)が700Hr以上であり、帯電防止性(JISK6911に準拠した表面固有抵抗値)が2×E15Ω以下であり、加熱蒸散性(ASTM-E308に準拠したガラス霞度、100℃×20Hr)が15%以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。・・・【請求項4】帯電防止剤組成物が(1)モノエステル含有量が90%以上のグリセリンモノ脂肪酸エステル(但し、脂肪酸の炭素数組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分含有量が50%以上)35~55重量部、(2)ジグリセリン1モルに対し炭素数組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分含有量が50重量%以上の脂肪酸を1.0~1.5モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル40~60重量部、(3)アルキル基組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分含有量が50重量%以上のアルキルジエタノールアミン3~10重量部からなり、且つ、及びの合計が100重量部である請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物。」と記載されている。

この記載によると、帯電防止剤組成物を構成する一成分として、「(3)」「アルキルジエタノールアミン」が実質的に用いられているアミン化合物であって、かつ、帯電防止剤として必須の構成成分であることが理解できる。

そうすると、甲4発明、すなわち甲4に記載された発明は、帯電防止剤としてアミン化合物を必ず含むものであるところ、帯電防止剤としてアミン化合物を含まないようにする動機付けがない。

また、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見いだせない。

したがって、相違点1’に係る構成は、当業者が容易に想到し得ないものである。

そして、帯電防止性に優れ、製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、良好な外観を保つことができ、さらにはガラス霞性が良好であるポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体を得ることができるという、本件発明1の効果を、甲4から当業者は予測しえないものである。

よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2~8について

本件発明2~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 申立理由3(甲5を主引例とする進歩性欠如)及び取消理由1(進歩性)のうち甲5を主引例とする進歩性欠如について

申立理由3(甲5を主引例とする進歩性欠如)は、取消理由1(進歩性)のうち甲5を主引例とする進歩性欠如と、主引例を同じくするものであるから、併せて検討する。

(1)甲5に記載された発明

甲5の実施例10について、表1に示されたプロピレン系樹重合体A-2、段落[0219]に記載された成分、段落[0178]に記載されたMFRの測定方法、表2に示された配合割合に着目して整理すると、以下の発明が記載されている。

「プロピレン系重合体A-2:65重量部、エチレン・α-オレフィン共重合体B-1:20重量部、脂肪酸アミドC-1:0.5重量部、界面活性剤D-1:0.3重量部、無機充填材E-1:15重量部を用い、その他の添加剤として、酸化防止剤としてIrganox1010(BASF(株))0.1重量部およびIrgafos168(BASF(株))0.1重量部、耐光剤としてLA-52((株)ADEKA)0.1重量部、滑剤としてステアリン酸カルシウム((株)日本油脂)0.1重量部、核剤としてアデカスタブNA-11((株)ADEKA)0.1重量部、および黒色顔料としてMB PPCM 888Y-232((株)東京インキ製)3重量部を用い、これらを順次配合してドライブレンドし、
得られた混合物を、二軸押出機で混練して製造した、MFR(JIS K 7210に準拠し、230℃、21.6N荷重)が29g/10minであるポリプロピレン系樹脂組成物ペレット。
ここで、各成分の詳細は以下のとおり。
・プロピレン系重合体A-2:(a-1)MFR(JIS K 7210に準拠し、230℃、21.6N荷重)が70g/10minであるプロピレン系重合体、(a-2)極限粘度[η]が2.6dl/gのプロピレン・エチレン共重合体を(a-1):(a-2)=89wt%:11wt%で含むもの
・エチレン・α-オレフィン系共重合体B-1:α-オレフィン(オクテン)量が38.6重量%であり、MFRが2g/10分であるエチレン・オクテンランダム共重合体
・脂肪酸アミドC-1:エルカ酸アミド
・界面活性剤D-1:グリセロールモノステアレート
・無機充填剤E-1:タルク」(以下、「甲5発明」という。)

(2)甲4に記載された事項

甲4には、以下の記載がある。

「【請求項1】(A)ポリプロピレン系樹脂が50重量%以上
(B)無機充填剤1~40重量%、及び
(C)エチレン-αオレフィンランダム共重合体ゴム及び/又はビニル芳香族化合物含有ゴム0~ 40重量%からなり、且つ(A)、(B)及び(C)の合計が100重量%である樹脂組成物100重量部に対し、
(D)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.01~0.2重量部
(E)耐候剤0.01~0.3重量部
(F)脂肪酸アミド及び/又は脂肪酸ビスアミド0.01~0.2重量部、及び
(G)帯電防止剤組成物0.01~2.0重量部を配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物であり、且つ、該ポリプロピレン系樹脂組成物の耐候性(サンシャインウエザーメーター、83℃-水有り)が500Hr以上であり、耐熱性(150℃ギヤオーブンライフ)が700Hr以上であり、帯電防止性(JISK6911に準拠した表面固有抵抗値)が2×E15Ω以下であり、加熱蒸散性(ASTM-E308に準拠したガラス霞度、100℃×20Hr)が15%以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
・・・
【請求項4】帯電防止剤組成物がモノエステル含有量が(1)90%以上のグリセリンモノ脂肪酸エステル(但し、脂肪酸の炭素数組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分含有量が50%以上)35~55重量部、(2)ジグリセリン1モルに対し炭素数組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分含有量が50重量%以上の脂肪酸を1.0~1.5モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル40~60重量部、(3)アルキル基組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分含有量が50重量%以上のアルキルジエタノールアミン3~10重量部からなり、且つ、及びの合計が100重量部である請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形方法により成形してなることを特徴とする射出成形体。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】この様な現状を鑑み、本願発明の目的は、耐熱性、耐候性、帯電防止性に優れ、且つ加熱蒸散性(高温で使用される場合において樹脂から揮散する成分が少ない)に優れるポリプロピレン系樹脂組成物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、樹脂組成及び酸化防止剤、帯電防止剤を特定化し、更に耐候剤を配合することにより上記目的が得られることを見出し、本発明に到達したものである。・・・」
「【0014】
又、本発明に用いられる帯電防止剤としては、代表例としてモノエステル含有量が90%以上のグリセリンモノ脂肪酸エステル(但し、脂肪酸の炭素数組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分の含有量が50%以上のもの)35~55重量部ジグリセリン1モルに対し炭素数組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分の含有量が50重量%以上の脂肪酸を1.0~1.5モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル40~60重量部、及びアルキル基組成がC16~C18の範囲で、且つC18成分の含有量が50重量%以上のアルキルジエタノールアミン3~10重量部から成り、且つ、及びの合計が100重量部である組成物があげられる。配合量は前記ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部に対し、0.1~2.0重量部であり、0.1重量部未満の配合では帯電防止性の効果を十分に達成できない。2.0重量部以上配合した場合にも効果は変わらず、経済的にも好ましくない。」
「【0016】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明するが、これらは単なる例示であり、本発明は要旨を逸脱しない限りこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例における物性値の測定法は以下の通りである。
(1)耐候性試験法
スガ試験機(株)製サンシャインスーパーロングライフウエザーメーター(WEL-SUN-DC型)を使用して促進耐候試験を行った。そして試験片表面に亀裂(クラック)等、外観異常が発生する時間を測定した。試験条件は次に示す。
続きを表示(全46行)
(1)試験片寸法:70mm×25mm×1mm(厚み)のプレスシート
(2)ブラックパネル温度:83℃
(3)スプレー/ドライサイクル:18分/120分
(4)試験機槽内湿度:50%RH
(5)亀裂等外観異常の観察:顕微鏡(×50)による観察
(2)耐熱性試験法
JIS K 7212[熱可塑性プラスチックの熱老化性試験法(オーブン法)通則]に準拠して評価を行った。東洋精機製作所(株)製、ギヤーオーブンを使用し150℃で測定した。そして試験片(厚み1mmのプレスシート)が完全劣化するまで、言い換えれば抗張力が零になるまでの時間(GOライフ)を測定した。
(3)帯電防止性試験法
JIS K 6911に準拠した測定電極(川口電気製作所製P-616型)と超絶縁計(川口電気製作所製R-503型)を組み合わせることにより試料の表面固有抵抗値を測定した。試料は射出成形による厚み3mmの平板試験片を測定に供した。
(4)加熱蒸散性試験法
ASTM-E308に準拠したガラス霞み性促進試験によって測定した。25×100×2mm厚みの射出成形試験片を内容量500mlの曇り点測定用耐圧瓶(共栄理化製)に入れ、ガラスプレートで密閉した後シリコンオイルバスに侵漬し100±2℃で20時間加熱する。加熱試験終了後のガラスプレートを積分球式光線透過率測定装置(東洋精機製作所製:直読式ヘイズメーター)を用いてガラス霞み度を測定した。
【0017】上記(2)、(3)、(4)の物性評価用試験片は、特にことわりのない限り次の射出成形条件下で作製した。すなわち、組成物を熱風乾燥器で120℃で2時間乾燥後、東芝機械製IS150E-V型射出成形機を用い成形温度220℃、金型冷却温度50℃、射出時間15sec、冷却時間30secで射出成形を行った。
【0018】以下の組成物は特にことわりのない限り次のような条件で製造した。各成分の所定量を計量し、ヘンシェルミキサーおよびタンブラーで均一に予備混合した後、二軸混練押出機(日本製鋼所社製TEX44SS30BW-2V型)にて押出量50kg/hr、スクリュー回転数350rpm、ベント吸引下で行った。スクリューは三条タイプのローターとニーディングディスクを混練ゾーン2ケ所、おのおの第1フィード口、第2フィード口の次のゾーンに配置して構成した。
【0019】樹脂、無機充填剤及び添加剤の基本処方は以下の通りである。
1.樹脂及び無機充填剤の基本処方
(1)エチレン-プロピレンブロック共重合体:65重量%
この共重合体の結晶性ポリプロピレン部分の極限粘度[η]P=1.03、13C-NMRにより計算されるアイソタクチックペンダット分率=0.98である。
(住友化学工業製、商品名住友ノーブレン:WPZ5344)
(2)エチレン-ブテンランダム共重合体ゴム: 15重量%(住友化学工業製、商品名エスプレンSPO:N0394 )
(3)タルク: 20重量%(林化成製、商品名ミクロンホワイト:5000S)
2.添加剤の基本処方
(1)ステアリン酸カルシウム:0.05重量部
(2)ジミリスチル-チオ-ジプロピオネート:0.03重量部
(3)2,4ジ-tブチル・フェニル-3,5ジtブチル-4ヒドロキシベンゾエート:0.05重量部
【0020】実施例1~3、比較例1~5
前記の樹脂及び無機充填剤の基本処方による樹脂組成物100重量部に対して、前記の添加剤の基本処方と、それ以外の表-1に示す添加剤を用いた配合処方で混錬、成形し、各々の性能を評価した。表-1で用いた添加剤の種類と名称は以下の通りである。性能の評価結果も表-1に示した。
【0021】1.酸化防止剤
A:3,9-ビス-[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニ ル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
2.耐候剤
A:ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート
B:ポリ[[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ]
3.脂肪酸ビスアミド
エチレンビスステアリルアマイド
4.帯電防止剤
A:モノエステル含有量が93%のグリセリンモノ脂肪酸エステル(C18成分の含有量65重量%)50重量部、ジグリセリン1モルに対しC18成分の含有量が65%の脂肪酸を1.2モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル45重量部、アルキル基組成中のC18成分の含有量が65%のアルキルジエタノールアミン5重量部、からなる組成物
B:グリセリン脂肪酸エステルとステアリルジエタノールアミンモノステアレートの混合物
C:グリセリン脂肪酸エステル、N,Nビス(2-ヒドロキシエチル)脂肪酸アミン、直鎖脂肪酸飽和1価アルコール、SiO2の混合物
【0022】
【表1】
[図:0001413318000001.jpg]
【0023】
【発明の効果】本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、耐候性、耐熱性、帯電防止性、加熱蒸散性において優れている。特に、特定の酸化防止剤及び帯電防止剤組成物を使用することにより帯電防止性と加熱蒸散性のバランスが著しく改良されており、工業用部品を中心とした射出成形品分野でその効果が大きく発揮できる。」

(3)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲5発明を対比する。

(ア)甲5発明の「プロピレン系重合体A-2」は、89wt%の「(a-1)プロピレン系重合体」と11wt%の「(a-2)プロピレン・エチレン共重合体」とからなり、上記「プロピレン系重合体A-2」65重量部中に、「(a-1)プロピレン系重合体」、「(a-2)プロピレン・エチレン共重合体」は、順に57.85重量部(=65×89/100)、7.15重量部(=65×11/100)とからなる。

そして、上記「プロピレン系重合体A-2」65重量部は、「エチレン・α-オレフィン共重合体B-1」20重量部と併せて樹脂分としてみると、「プロピレン系重合体A-2」と「エチレン・α-オレフィン系共重合体B-1」とからなる樹脂分85重量部(=65+20)において、「(a-1)プロピレン系重合体」を57.85重量部、「(a-2)プロピレン・エチレン共重合体」と「エチレン・α-オレフィン共重合体B-1」を27.15重量部(=7.15+20)含むものである。

そして、「ポリプロピレン系樹脂組成物ペレット」は、樹脂成分以外に、「脂肪酸アミドC-1:0.5重量部」、「界面活性剤D-1:0.3重量部」、「無機充填材E-1:15重量部」、「酸化防止剤としてIrganox1010(BASF(株))0.1重量部」、「Irgafos168(BASF(株))0.1重量部」、「耐光剤としてLA-52((株)ADEKA)0.1重量部」、「滑剤としてステアリン酸カルシウム((株)日本油脂)0.1重量部」、「核剤としてアデカスタブNA-11((株)ADEKA)0.1重量部」、「黒色顔料としてMB PPCM 888Y-232((株)東京インキ製)3重量部」を含むことから、添加剤の総計として19.3重量部を含むものである。

そうすると、「ポリプロピレン系樹脂組成物ペレット」を構成する組成の総計は、104.3重量部(=樹脂成分85重量部+添加剤の総計19.3重量部)となり、そのうちの57.85重量部が「(a-1)プロピレン系重合体」であるから、主成分として含まれていることがわかり、本件発明1の「ポリプロピレン系重合体を主成分と」することに相当する。

(イ)甲5発明の「グリセロールモノステアレート」、「ポリプロピレン系樹脂組成物ペレット」は、本件発明1の「成分(A)グリセリン脂肪酸エステル」、「ポリプロピレン系樹脂組成物」にそれぞれ相当する。

そして、「ポリプロピレン系樹脂組成物ペレット」を構成する組成の総計104.3重量部中に「グリセロールモノステアレート」を0.3重量部含有することは、「ポリプロピレン系樹脂組成物ペレット」に上記「グリセリンモノステアレート」を約0.288重量%(≒0.3×100/104.3)含むことである。そうすると、甲5発明において、「ポリプロピレン系樹脂組成物ペレット」を構成する組成の総計に対して、「グリセロールモノステアレート」を約0.288重量%含むことと、本件発明1の「組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含」むこととは、「ポリプロピレン系樹脂組成物全体の総質量に対して、グリセリン脂肪酸エステル」を「0.2~1.5質量%含」む限りにおいて一致する。

(ウ)甲5発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物ペレット」の「MFR(JIS K 7210に準拠し、230℃、21.6N荷重)が29g/10min」であることは、本件発明1の「MFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分であ」ることに相当する。

そうすると、本件発明1と甲5発明とは、

「ポリプロピレン系重合体を主成分とし、組成物全体の総質量に対して、グリセリン脂肪酸エステルを0.2~1.5質量%含み、かつMFR(JIS K7210-1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)5~150g/10分である、ポリプロピレン系樹脂組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>

ポリプロピレン系樹脂組成物において、本件発明1では、「組成物全体の総質量に対して、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計で0.2~1.5質量%含み、」「前記成分(A)と前記成分(B)の配合の質量比が60/40~85/15であり、」「前記成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルであり、」「帯電防止剤としてアミン化合物を含まない」のに対して、甲5発明では「帯電防止剤」である「グリセロールモノステアレート」を0.3重量部含有する点

イ 判断

相違点4について検討する。

甲5には、ポリプロピレン系樹脂組成物を構成する界面活性剤(D)は、ポリプロピレン系樹脂組成物中において、帯電防止剤としての作用を有するものであること([0150])、界面活性剤(D)としてグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルなどが好ましく用いられること([0152])、界面活性剤(D)はポリプロピレン系樹脂組成物中に基材成分(当審注:樹脂成分及び無機充填剤のこと)100重量部に対して0.2~1重量部含まれること([0156])が記載されている一方で、グリセリンモノ脂肪酸エステルとジグリセリン脂肪酸エステルとを併用することについては明記されていない。

そこで、甲4の記載を考慮すれば、甲5発明において、成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ジグリセリン脂肪酸エステルとを特定の配合の質量比で、特定量含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、さらに帯電防止剤としてアミン化合物を含まないことを当業者が容易に想到し得るかについて検討する。

甲4には、樹脂の組成及び酸化防止剤、帯電防止剤を特定化し、更に耐候剤を配合することにより、耐熱性、耐候性、帯電防止性に優れ、且つ加熱蒸散性(高温で使用される場合において樹脂から揮散する成分が少ない)に優れるポリプロピレン系樹脂組成物が得られること(【0005】、【0006】)が記載され、実施例3では、帯電防止剤として(1)モノエステル含有量が93%のグリセリンモノ脂肪酸エステル(C18成分の含有量65重量%)50重量部、(2)ジグリセリン1モルに対しC18成分の含有量が65%の脂肪酸を1.2モル反応させたジグリセリン脂肪酸エステル45重量部、(3)アルキル基組成中のC18成分の含有量が65%のアルキルジエタノールアミン5重量部、からなる組成物を用いたものが、帯電防止性及び加熱蒸散性が良好であること、比較例3では、帯電防止剤としてグリセリン脂肪酸エステルとステアリルジエタノールアミンモノステアレートの混合物を用いたものが、帯電防止性及び加熱蒸散性が好ましくないことが示されている。

しかしながら、上記2(2)イでも言及したように、甲4は帯電防止剤として「アルキルジエタノールアミン」を使用することを必須とするものであるから、甲5発明に甲4の知見を適用しても、「帯電防止剤としてアミン化合物を含まない」という相違点4の構成に当業者が容易に想到するとはいえない。

さらに、他の証拠をみても、かかる事項が動機付けられたとするに足りる根拠は見いだせない。

したがって、相違点4に係る構成は、当業者が容易に想到し得ないものである。

そして、帯電防止性に優れ、製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、良好な外観を保つことができ、さらにはガラス霞性が良好であるポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体を得ることができるという、本件発明1の効果を、当業者は予測しえないものである。

よって、本件発明1は、甲5発明及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2~8について

本件発明2~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(3)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立人の主張について

申立人は、令和6年4月1日提出の意見書において、新たに甲6を提示し、本件発明1は、甲5発明と甲4、甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであると主張をしている。

そこで検討する。

甲5発明、甲4に記載された事項は、上記(1)、同(2)に示したとおりであり、甲5発明に甲4に記載された事項を適用したときの判断は、上記(3)イに示したとおりである。

より詳細には、甲5発明に甲4に記載された事項を適用しても、帯電防止剤としてアミン化合物を含まない、という構成には当業者が容易に想到することはないというものである。

ここで、甲6には、成分(A):グリセリンと脂肪酸とのエステル化物、成分(B):重合度3~10のポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化物及び成分(C):ジグリセリンと脂肪酸とのエステル化物を必須成分として含有するポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤であること(請求項1)、帯電防止剤の、その他の成分としてポリオキシアルキレンアルカノールアミン、脂肪族ジエタノールアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸ジエタノールアミド等の含窒素界面活性剤を多量に使用するとフィルム作成時の作業者の安全性、帯電防止剤を含んだフィルムが食品と接した際の有害性、フィルム高温保管時の臭気の発生等の問題が生じることがあり、特にポリオキシアルキレンアルカノールアミンを多量に使用すると、刺激性、有害性以外にも、フィルムの白化や帯電防止性の経時的な低下を招く可能性がある上、積層フィルムとした際に、接着剤等の親水層に悪影響を受け帯電防止性能が低下するという問題が存在すること、帯電防止剤において含窒素界面活性剤の量を示すアミン価を小さくすること(以上、【0043】)、成形体がフィルムであることが特に好ましいこと、その用途として食品等の包装材、電線被覆材、ハウス・トンネル等の農業用資材、玩具・文具等の雑貨・日用品、壁紙等の建材等が挙げられること(以上、【0055】)、実施例8、11、12、14には帯電防止剤として成分(A):グリセリンと脂肪酸とのエステル化物と成分(C):ジグリセリンと脂肪酸とのエステル化物とを60:40~75:25の配合比とし、帯電防止剤濃度が0.30%となるようにポリエチレン樹脂と溶融混練して形成したフィルムが透明性、帯電防止性、臭気に優れることが記載されている。

上記甲6の記載によれば、帯電防止剤として含窒素界面活性剤を含むことによる作業者の安全性、有害性、臭気等の問題や帯電防止性能の低下を抑制するために、含窒素界面活性剤の使用を控えること、グリセリンと脂肪酸とのエステル化物とジグリセリンと脂肪酸とのエステル化物を60:40~75:25の配合比で用いることで、帯電防止性能に優れるという知見が把握できる。

しかしながら、甲6に成分(A):グリセリン脂肪酸エステルと成分(B):ジグリセリン脂肪酸エステルを併用することや、ポリオキシアルキラエンアルカノールアミン等の含窒素界面活性剤の使用を控えることについての記載があるとしても、甲4は「帯電防止剤」として「アルキルジエタノールアミン」を必須成分とするものであるから、これを使用しないことは当業者が容易に想到することではないし、甲4に記載された「アルキルジエタノールアミン」は「界面活性剤」ではないから、甲6に含窒素界面活性剤の使用を控える記載があっても、甲4で必須とされている「アルキルエタノールアミン」の使用を取りやめる動機付けになるともいえない。

また、帯電防止性に優れ、製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、良好な外観を保つことができ、さらにはガラス霞性が良好であるポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体を得ることができるという、本件発明1の効果を、当業者は予測しえないものである。

してみると、甲5発明に甲4、甲6に記載された事項を適用して、本件発明1のように構成することは、当業者が容易に想到しえたものではない。

したがって、申立人の当該主張は採用できない。

キ 小括

以上から、本件発明1~8は、甲1、甲4又は甲5に記載された発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1~8の特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものではない。

4 取消理由通知において採用しなかった申立理由について

(1)申立理由4(サポート要件違反)

ア 特許法第36条第6項第1号の判断手法について

特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。

同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 本件発明の課題について

本件明細書の段落【0004】に記載されているように、「帯電防止性に優れ、かつ夏場の炎天下車内環境下における使用状況においても、製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず外観・意匠性を確保でき、さらには自動車運転時の安全性確保からガラス霞性の良好なポリプロピレン系樹脂組成物及びその組成物を成形してなる自動車内装部品用成形体を提供すること」が本件発明の課題であると認められる。

ウ 判断

本件発明1が、上記イに示した本件発明の課題を解決するか検討する。

本件明細書には以下の記載がある。

「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、帯電防止剤として、成分(A)グリセリン脂肪酸エステル及び成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを特定の量で配合したポリプロピレン系樹脂組成物を開発することにより上記課題を解決した。
すなわち、本発明は下記のポリプロピレン系樹脂組成物及び自動車内装部品用成形体を提供する。」
「【0014】
<帯電防止剤>
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物中に分散して帯電防止の作用を有する、2種の成分(成分(A)及び成分(B))を併用する。成分(A)はグリセリン脂肪酸エステル(グリセリンと高級脂肪酸のエステル化物)であり、成分(B)はポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンと高級脂肪酸のエステル化物)である。成分(A)と成分(B)の配合量は、本発明の樹脂組成物の総質量に対して、合計で0.2~1.5質量%である。下限値として好ましくは0.25質量%、さらに好ましくは0.30質量%、特に好ましくは0.35質量%であり、上限値として好ましくは1.2質量%、さらに好ましくは1.0質量%、特に好ましくは0.8質量%である。特定の帯電防止剤を所定量配合することにより、帯電防止性に優れ、かつ成形製品とした時、夏場の炎天下車内環境における使用状況においても製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、さらにはガラス霞性も良好な自動車内装部品を与える。
【0015】
成分(A)又は成分(B)を構成する脂肪酸エステルは、「炭素数10以上の炭化水素の水素原子がカルボキシル基によって置換された高級脂肪酸」のエステル化物である。上記脂肪酸エステルとしては、単量体(モノ脂肪酸エステル)が好ましい。・・・
成分(A)はグリセリンの単量体で構成され、成分(B)はグリセリンの多量体(ポリグリセリン)で構成される。成分(B)を構成するポリグリセリンとしては、二量体、三量体、四量体などが挙げられるが、ポリプロピレン系重合体との親和性の観点から二量体であるジグリセリンが好ましい。
【0016】
本発明において、成分(A)と成分(B)の配合の質量比は、50/50~85/15であり、好ましくは60/40~80/20、さらに好ましくは65/35~75/25、特に好ましくは68/32~72/28で配合することにより、帯電防止に優れ、かつ成形製品とした時、夏場の炎天下車内環境下における使用状況においても製品内部からのブリードアウトに起因する白濁化を生じず、さらにはガラス霞性も良好な自動車内装部品を与える。成分(A)もしくは成分(B)が単体で使用される場合、成形体表面に層(単層)が形成され導電層として機能することで帯電防止性を引き出すが、夏場の炎天下で滲み出る場合には多層配列を形成し、これが結晶化することで白濁物として視認されると考えられる。一方、成分(A)と成分(B)が適量配合されることで導電層での分子配列の規則性が乱され多層配列・結晶化しにくくなり、結果として白濁化を生じなくなると考えられる。白濁物としての成形体表面への過剰な滲み出しが抑制されることにより、ガラス霞性も良好になると考えられる。」

そして、実施例1~15では、ポリプロピレン系樹脂及び予備組成物に、帯電防止剤としてアミン化合物を含まず、グリセリンモノステアレート及びジグリセリンモノステアレートを合計で0.25~1.0質量%含み、上記グリセリンモノステアレートと上記ジグリセリンモノステアレートとの配合の質量比が70:30、72:28で含有することで、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFR、帯電防止性(表面抵抗率)、ブリード性、ガラス霞性に優れるのに対し、比較例2、3では、「ジグリセリンモノステアレート」を含まず、代わりにステアリルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールモノステアレートを含むプロピレン系樹脂組成物とした結果、ガラス霞性が悪化することが示されている。

これらの記載によると、帯電防止剤であるグリセリン脂肪酸エステル又はジグリセリン脂肪酸エステルを単体で使用したときには滲み出しによる白濁化を引き起こし、ガラス霞性を悪化させることがあったところ、帯電防止剤としてアミン化合物を含まず、グリセリン脂肪酸エステルとジグリセリン脂肪酸エステルとを特定の配合の質量比にして、ポリプロピレン系樹脂組成物中に合計で特定量配合することにより、帯電防止性とガラス霞性に優れた組成物が得られることを、当業者は理解できる。

そうすると、本件発明1の発明特定事項を満たすことで、つまり、帯電防止剤としてアミン化合物を含まず、グリセリン脂肪酸エステルとジグリセリン脂肪酸エステルとを特定の配合の質量比にして、合計で特定量配合することで、本件発明の課題を解決することが、本件明細書に記載されている。

よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。

また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~8についても同様である。

エ 申立人の主張について

申立人は、申立書で、本件発明1において、成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ジグリセリン脂肪酸エステルの配合は、その質量比が50/50~85~15であり、本件明細書には、成分(A)と成分(B)が適量配合されることで導電層での分子配向の規則性が乱され多層配列・結晶化しにくくなり、結果として白濁化を生じなくなり、白濁物としての成形体表面への過剰な滲み出しが抑制されることにより、ガラス霞性も良好になること(【0016】)が記載されているものの、導電層での分子配列の規則性については発明の詳細な説明には記載されていないことに加えて、実施例では成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ジグリセリン脂肪酸エステルの配合の質量比が「72/28」と「70/30」の2例しかないことから、本件明細書には、成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ジグリセリン脂肪酸エステルの配合の質量比が70/30~72/28であることについて、記載されていないことを主張している。

しかしながら、配合の質量比として「70/30」、「72/28」の例があれば、その近辺であって、成分(A)が主成分で成分(B)が副成分の範囲となる60/40~85/15程度であれば、本件発明の課題を解決することができるであろうことは、当業者が予測できる程度のことである。

そして、本件発明1の発明特定事項を有することで本件発明の課題を解決することは上述のとおりであるから、導電層での分子配列の規則性が明らかにならなければ、本件発明の課題が解決できないとはいえないし、特定の配合の質量比である実施例であるときに、本件発明の課題を解決することが示されていることが、その特定の配合の質量比以外の場合に、本件発明の課題を解決しないことを意味するということもできない。

また、申立人は、本件発明の課題を解決できない可能性があることを主張するだけであって、具体的な根拠を提示して、本件発明の課題を解決できないことを立証しているわけではない。

したがって、申立人の主張は採用できない。

(2)申立理由5(実施可能要件違反)

ア 特許法第36条第4項第1号の判断手法について

特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。

特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

イ 判断

本件発明1が、本件明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施できる程度に記載されているか検討する。

本件明細書には、上記(1)ウのほか、以下の記載がある。

「【0010】
<ポリプロピレン系重合体>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は樹脂の主成分(すなわち、組成物全体の総質量に対して50質量%以上の割合で)としてポリプロピレン系重合体を含む。
本発明で使用するポリプロピレン系重合体は、JISK7210-1に準じて温度230℃、荷重2.16kgで測定したMFRが5~150g/10分であることが好ましく、7~120g/10分がさらに好ましい。」
「【0025】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を成形体とする場合は、通常の方法により、主成分のポリプロピレン系重合体に本発明に係る帯電防止剤を配合して製造することができ、さらに、他の重合体、ハイドロタルサイト類、無機充填剤、顔料や他の添加剤を配合してもよい。例えば、パウダー状、ペレット状のポリプロピレン系重合体及び他の重合体に、本発明に係る帯電防止剤、必要により無機充填剤、顔料その他の添加剤を配合し、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等にて混合後、一軸又は二軸の混練押出機で溶融混練してペレット化する。このようにして得たペレットを射出成形機にかけて成形体に加工する。ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが5g/10分に満たないと、射出成形における成形性が悪く、自動車内装部品用途として適さない。また、150g/10分を超える場合は、耐衝撃性に劣り、自動車内装部品用途として適さない。」
「【0026】
[自動車内装部品用成形体]
本発明の自動車内装部品用成形体は、上記のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより製造することができる。
成形温度は一般的には150~350℃、好ましくは170~250℃で実施される。成形温度が350℃を超えると、樹脂組成物の劣化及び成形不良の原因となり、150℃より低いと外観不良、成形不良が発生する。金型温度については、10~60℃の範囲で行うことが好ましい。金型温度が60℃を超えると成形体の表面仕上げ度が優れ、剛性に優れた成形体が得られるものの、成形サイクルが長くなり生産性が低下する。逆に、金型温度を10℃より低温に設定すると反りや収縮などが顕著になり、満足な成形体が得られにくくなるばかりか、金型に結露が生じやすくなるために金型腐食を進行させる原因となる。冷却に関わるエネルギーコストの観点からも適さない。」
「【0043】
[ポリプロピレン系樹脂組成物の調製]
ドアトリム等の自動車内装部品を想定したポリプロピレン系樹脂組成物として、上記PP-1~PP-12に対し、酸化防止剤(BASF社製B225)0.2質量%と耐候剤(株式会社ADEKA製LA502XP)0.3質量%と無機顔料(キャボット社製カーボンブラックIP-1000が60質量%、石原産業株式会社製チタンホワイトCR-60が40質量%の混合物)0.5質量%の合計1.0質量%に加え、グリセリンモノステアレートと、ジグリセリンモノステアレートと、ステアリルジエタノールアミンと、ステアリルジエタノールアミンモノステアレートと、ハイドロタルサイト類と、カルシウムステアレートと、を表1に示す配合量(樹脂組成物全体で100質量%)で添加し、ドライブレンドした。得られたポリプロピレン系樹脂組成物を直径30mmの2軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX30α)を用いて、スクリュー回転数500rpm、シリンダー温度200℃、吐出量30kg/hrの条件で溶融混練した。押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。・・・」

実施例では、ポリプロピレン系重合体主成分として含み、成分(A)としてグリセリン脂肪酸エステル、成分(B)としてジグリセリンモノステアレートを適切な配合の質量比、かつ適切な含有量で含み、さらに帯電防止剤としてアミン化合物を含まないことで、帯電防止性及びガラス霞性に優れることが示されている。

これらの記載によると、プロピレン系樹脂組成物の主成分がプロピレン系重合体であること、成分(A)と成分(B)には適切な配合の質量比があり、成分(A)と成分(B)を組成物全体に対して合計で適切な含有量で配合し、成分(B)がジグリセリン脂肪酸エステルであって、帯電防止剤としてアミン化合物を含まない樹脂組成物及びその製造方法が理解できるから、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明1を過度の試行錯誤なく実施することができるものといえる。

また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~8についても同様である。

ウ 申立人の主張について

申立人は、申立書において、本件発明が、成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ジグリセリン脂肪酸エステルの配合は、その質量比が50/50~85~15であり、実施例では成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ジグリセリン脂肪酸エステルの配合の質量比が「72/28」と「70/30」の2例しかなく、本件明細書には、成分(A)と成分(B)が適量配合されることで導電層での分子配向の規則性が乱され多層配列・結晶化しにくくなり、結果として白濁化を生じなくなり、白濁物としての成形体表面への過剰な滲み出しが抑制されることにより、ガラス霞性も良好になること(【0016】)が記載されているものの、成分(A)と成分(B)配合量と、導電層での分子配列の規則性については全く記載されていないから、成分(A)グリセリン脂肪酸エステルと成分(B)ジグリセリン脂肪酸エステルの配合の質量比が70/30~72/28以外の配合については、実際に配合して導電性、ブリード性、ガラス霞性をそれぞれ確認するほかないから、当業者には過度の試行錯誤を強いるものであると主張している。

しかしながら、上記イで示したように、本件明細書からは、プロピレン系重合体を主成分として、成分(A)と成分(B)とを適切な配合の質量比で、かつ組成物全体に対して適切な含有量で配合し、成分(B)としてジグリセリン脂肪酸エステルを溶融混練することで、帯電防止剤としてアミン化合物を含まない樹脂組成物を形成できるが理解できるから、上記配合の質量比が「72/28」と「70/30」以外の場合であっても、成分(A)と成分(B)の混合割合を調節することによって、配合の質量比が60/40~85/15の全範囲において、その物を作り、その物を使用することができると認められる

そして、導電層での分子配列の規則性が明らかにならなければ、当業者が本件発明を実施することができないという理由もない。

したがって、申立人の主張は採用できない。

第6 むすび

以上のとおり、本件特許に対する訂正は適法であるから、これを認める。

そして、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2023-700787

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