特許異議申立
2024-700346
塗装品質予測装置および学習済みモデルの生成方法
- 審判番号
- 2024-700346
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-037001
- 登録番号
- 7363589
- 請求日
- 2024年04月16日
- 審決日
- 2025年02月20日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】トヨタ自動車株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人あーく事務所
- 【異議申立人】森本 美奈
- 審判長/審判官
- 審判長 林 毅
- 審判官 脇岡 剛
- 審判官 大塚 俊範
- 分類
- P1651.113-YAA(G06N) / P1651.121-YAA(G06N) / P1651.536-YAA(G06N) / P1651.537-YAA(G06N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7363589号発明「塗装品質予測装置および学習済みモデルの生成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7363589号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、4〕、8について訂正することを認める。
特許第7363589号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1.手続の経緯
特許第7363589号の請求項1ないし10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年3月4日に出願されたものであって、その後の手続の概要は、次のとおりである。
令和5年 8月31日付け:特許査定
同年10月10日 :特許権の設定登録
同年10月18日 :特許掲載公報の発行
令和6年 4月16日 :特許異議の申立て
(特許異議申立人 森本 美奈による
特許異議申立書の提出)
同年 7月30日付け:取消理由通知
同年10月 4日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年10月25日付け:手続補正指令書(方式)
同年11月 8日 :手続補正書(方式)の提出
同年12月10日付け:訂正請求があった旨の通知
なお、上記令和6年12月10日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、特許異議申立人(以下、「申立人」という。)からは、応答がなされなかった。
第2.特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法について
1.特許異議申立ての理由の概要
申立人による特許異議申立ての理由の概要は以下のとおりと認められる。
(1)理由1
本件特許発明1及び8は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(特許異議申立書第46頁ないし第54頁)
(2)理由2
本件特許発明1ないし10は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載されたそれぞれの発明を主引用発明とし、当該主引用発明及び甲第1号証ないし甲第16号証に記載され事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(特許異議申立書第54頁ないし第74頁)
(3)理由3
本件特許発明1ないし10は、以下のアないしウの点において、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(特許異議申立書第74頁ないし第79頁)
ア.「学習済みモデル」について
(ア)本件特許発明1ないし4における「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」との構成は、明確でない。
(イ)本件特許発明2ないし4における「前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部」との構成は、明確でない。
(ウ)本件特許発明5ないし7における「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」との構成は、明確でない。
(エ)本件特許発明5ないし7における「前記学習済みモデルを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する算出部」との構成は、明確でない。
(オ)本件特許発明8、9における「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」との構成は、明確でない。
(カ)本件特許発明10における「前記教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップ」との構成は、明確でない。
イ.「塗膜の表面の平滑性」について
本件特許発明2ないし4、9における「その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性」及び「塗膜の表面の平滑性」について、「その塗料」が、「中塗り塗料」、「ベース塗料」及び「クリア塗料」のうちのいずれの塗料を指すのか、さらに、いずれの塗料の「塗膜の表面の平滑性」を意味するのか明確でない。
ウ.「被塗装物の面の向き」について
本件特許発明1、4、8における「被塗装物の面の向き」との構成は、明確でない。
(4)理由4
本件特許発明1ないし10は、以下のア、イの点において、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(特許異議申立書第79頁ないし第82頁)
ア.「塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」について
(ア)本件特許発明1ないし4の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」及び「前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部」について、学習プログラム・計算手法・アルゴリズム等としてどのようなものを用いれば、塗膜の平滑性を算出し得るのかが立証されているとはいえず、発明の詳細な説明の記載に基づき、前記課題が解決できることが明らかにされているとはいえない。
(イ)本件特許発明8、9の「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」及び「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」について、学習プログラム・計算手法・アルゴリズム等としてどのようなものを用いれば、塗膜の平滑性を算出し得るのかが立証されているとはいえず、発明の詳細な説明の記載に基づき、前記課題が解決できることが明らかにされているとはいえない。
イ.「塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」について
(ア)本件特許発明5ないし7の「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」及び「前記学習済みモデルを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する算出部」について、学習プログラム・計算手法・アルゴリズム等としてどのようなものを用いれば、複数の被塗装物における塗色のばらつきを算出し得るのかが立証されているとはいえず、発明の詳細な説明の記載に基づき、前記課題が解決できることが明らかにされているとはいえない。
(イ)本件特許発明10の「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとを含む教師データを取得するステップ」及び「前記教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップ」について、学習プログラム・計算手法・アルゴリズム等としてどのようなものを用いれば、複数の被塗装物における塗色のばらつきを算出し得るのかが立証されているとはいえず、発明の詳細な説明の記載に基づき、前記課題が解決できることが明らかにされているとはいえない。
(5)理由5
本件特許発明1ないし10の「学習」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、「学習プログラム」により行われると一般的・抽象的に記載されているだけであり、学習プログラム・計算手法・アルゴリズム等の詳細について、具体的にどのような構成とするのかが何ら記載されていないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(特許異議申立書第82頁ないし第83頁)
2.証拠方法
甲第1号証:特開2019-217431号公報
甲第2号証:特開平7-112148号公報
甲第3号証:特開2000-246167号公報
甲第4号証:特表2008-509486号公報
甲第5号証:特開2004-118580号公報
甲第6号証:特開平1-63076号公報
甲第7号証:特開平3-262569号公報
甲第8号証:特開平3-127659号公報
甲第9号証:「塗装便覧」、産業図書株式会社、昭和32年11月15日、701ページ~723ページ
甲第10号証:特開2018-130673号公報
甲第11号証:「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい 塗料の本」、株式会社日刊工業新聞社、2008年4月15日、70ページ~71ページ
甲第12号証:特開平8-117656号公報
甲第13号証:「塗料の研究 No.148」、関西ペイント株式会社発行、平成19年9月28日、2ページ~9ページ
甲第14号証:特開2009-204622号公報
甲第15号証:特開2016-155342号公報
甲第16号証:特開2004-329986号公報
第3.令和6年7月30日付けの取消理由通知書に記載した取消理由について
当審が令和6年7月30日付けで特許権者に通知した取消理由(以下「取消理由」という。)は、次のとおりである。
「(明確性)本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
記
●理由(明確性)
・請求項1、4、8
請求項1の「被塗装物の面の向き」とは、本件明細書の段落0032の記載「塗装方向(被塗装物の面の向き)」及び「「塗装方向」は、被塗装物の面が鉛直方向と直交するように配置された被塗装物に対する塗装であるか、被塗装物の面が水平方向と直交するように配置された被塗装物に対する塗装であるかを示すものである。」によれば、「被塗装物の面が鉛直方向と直交するように配置された被塗装物に対する塗装であるか、被塗装物の面が水平方向と直交するように配置された被塗装物に対する塗装であるかを示すもの」であると認められる。
また、本件明細書の段落0024、0059、0065、0091等の記載によれば、本願における「被塗装物」には、少なくとも、車体のボディやバンパ等、曲面あるいは複数の面を有する製品を含むものと認められるところ、そのような「被塗装物の面」が水平方向と直交する、あるいは鉛直方向と直交するように「被塗装物」が配置されるとは、「被塗装物」のどの面を基準して「水平方向」又は「垂直方向」と直交する配置と判断するものであるのか不明であって、本件明細書及び図面の記載並びに本願出願時の技術常識を考慮しても、「被塗装物の面の向き」の具体的な技術内容が明確ではない。
したがって、請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるから、請求項1に係る発明は明確ではない。
そして、同様の理由により、請求項8、及び、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、明確ではない。
以上のとおり、本件特許の請求項1、4、8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。」
第4.訂正請求について
1.訂正の趣旨
令和6年11月8日提出の手続補正書により補正された同年10月4日提出の訂正請求書(以下、上記補正された訂正請求書を「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求の趣旨は、「特許第7363589号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項1、4、8について訂正することを求める。」(訂正請求書第1頁)というものである。
2.訂正の内容
上記訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は当審で付与した。以下同様である。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む」と記載されているのを、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む」と記載されているのを、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」に訂正する。
3.一群の請求項について
本件訂正前の請求項4は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、4に対応する本件訂正後の請求項1、4は、特許法第120条120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む」と事項について、「当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」とすることにより、明確化するためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)における、段落0031の「具体例として、生データ20aの1つのレコードには以下の項目が含まれ、生データ20aは多数のレコードによって構成されている。」、段落0032の「(d1)塗装方向(被塗装物の面の向き)…項目(d1)~(d3)は、「塗装時条件」に含まれる項目である。」との記載によると、「塗料の塗装時の条件」としては、「被塗装物の面の向き」が、「鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」ことを含むことが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、当該訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記ア及びイのとおり、本件訂正前の請求項1に記載された「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む」との事項を本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項8に記載された「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む」と事項について、「当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」とすることにより、明確化するためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(1)イで説示したとおり、本件特許明細書等には、「塗料の塗装時の条件」として、「被塗装物の面の向き」が、「鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」ことを含むことが記載されているといえる。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、当該訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記ア及びイのとおり、本件訂正前の請求項1に記載された「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含む」との事項を本件特許明細書等に記載した事項の範囲内において限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1ないし10についてなされているので、訂正事項1に係る請求項1、及び、訂正事項2に係る請求項8には、訂正の適否の要件として、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
5.訂正請求についての結論
以上のとおりであるから、訂正事項1、2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1、4〕、8について訂正することを認める。
第5.本件特許発明
本件訂正の請求が認められたことにより、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)
「【請求項1】
塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備え、
塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかであることを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項2】
塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備え、
前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、
前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むことを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の塗装品質予測装置において、
前記ベース塗料の特性は、そのベース塗料の材料に基づいて算出されることを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の塗装品質予測装置において、
前記学習済みモデルは、塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の測定結果を複数の波長領域に分解して得られる各波長領域の値との関係が学習されていることを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項5】
塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する算出部とを備えることを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の塗装品質予測装置において、
塗色のばらつきは、CIE1976L*a*b*表色系における各値のばらつきを含むことを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の塗装品質予測装置において、
塗料に関する情報は、塗料の見本色を含むことを特徴とする塗装品質予測装置。
【請求項8】
塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備え、
塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかであることを特徴とする学習済みモデルの生成方法。
【請求項9】
塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備え、
前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、
前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むことを特徴とする学習済みモデルの生成方法。
【請求項10】
塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップとを備えることを特徴とする学習済みモデルの生成方法。」
第6.当審の判断
1.取消理由について
本件特許発明1の「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」との記載の(「塗料の塗装時の条件」に含まれる)「被塗装物の面の向き」との事項について、塗装方向を被塗装物の面の向きに置き換えて表すことは、本件特許出願時の技術常識といえることからすると、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合に規定される塗装方向である塗装時の条件を、その際の被塗装物の面の向きに置き替えて規定し、同様に、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合に規定される塗装方向である塗装時の条件を、その際の被塗装物の面の向きに置き替えて規定するものであると解するのが相当である。
したがって、本件特許発明1について、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、同様の理由により、本件特許発明4、8は、不明確であるとはいえない。
2.特許異議申立ての理由1、2について
(1)甲号証の記載事項
ア.甲第1号証
甲第1号証の記載によれば、甲第1号証には、次の(ア)、(イ)の発明(以下、それぞれ「甲1a発明」、「甲1b発明」という。)が記載されていると認められる。(以下、甲第1号証ないし甲第16号証を「甲1」ないし「甲16」という。)
(ア)甲1a発明
「スプレーガンの種類、塗料の吐出量、塗料を霧化するための霧化エアーの圧力、噴霧された塗料を所定のパターンにするためのパターンエアーの圧力、噴霧する塗料の種類、塗料の色、塗料の粘度、スプレーガンとワークとの距離等をスプレー条件とし(請求項2、段落0032)、
スプレーガンから噴霧される粒子の初速、粒子速度、粒子径分布、噴霧パターンを含む噴霧情報をスプレー条件ごとに多数作成して、現実の噴霧情報のデータベースを作成し(請求項1、段落0033、0073)、
次に、データベース化された現実の噴霧情報について、バーチャルな空間で再現するために必要なバーチャルの噴霧情報を算出することで、バーチャルの噴霧情報のデータベースを作成し(請求項1、段落0042、0073)、
作成されたバーチャルの噴霧情報のデータベースを用いてバーチャルな空間でワークの塗装を再現する塗装シミュレーション方法であって(請求項3、段落0043)、
スプレー条件を設定し、設定したスプレー条件に対応したバーチャルの噴霧情報をバーチャルの噴霧情報のデータベースから呼び出し(請求項3、段落0045)、
呼び出したバーチャルの噴霧情報を用いて、スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する(請求項3、段落0025、0028、0047)、
塗装シミュレーション方法を実施するためのシステム。」
(イ)甲1b発明
「スプレーガンの種類、塗料の吐出量、塗料を霧化するための霧化エアーの圧力、噴霧された塗料を所定のパターンにするためのパターンエアーの圧力、噴霧する塗料の種類、塗料の色、塗料の粘度、スプレーガンとワークとの距離等をスプレー条件とし(請求項2、段落0032)、
スプレーガンから噴霧される粒子の初速、粒子速度、粒子径分布、噴霧パターンを含む噴霧情報をスプレー条件ごとに多数作成して、現実の噴霧情報のデータベースを作成し(請求項1、段落0033、0073)、
次に、データベース化された現実の噴霧情報について、バーチャルな空間で再現するために必要なバーチャルの噴霧情報を算出することで、バーチャルの噴霧情報のデータベースを作成する(請求項1、段落0042、0073)、方法であって、
作成されたバーチャルの噴霧情報のデータベースは、スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する塗装シミュレーションに用いられる(請求項3、段落0025、0028、0043)、
方法。」
イ.甲第2号証
甲2の記載によれば、甲2には、次の(ア)、(イ)の発明(以下、それぞれ「甲2a発明」、「甲2b発明」という。)が記載されていると認められる。
(ア)甲2a発明
「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡を設定する塗装軌跡設定手段と(請求項5、段落0059)、
塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報が入力されるデータ入力手段と(請求項5、段落0067)、
塗装軌跡設定手段によって設定された塗装軌跡と、データ入力手段に入力された各種情報とに基づいて、塗装に関する各種制御変数を設定する制御変数設定手段と(請求項5、段落0067ないし0084)、
制御変数設定手段によって設定された各種制御変数に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行い、該シミュレーション結果に基づいて塗装ロボットの適切な塗装動作プログラムを設定する塗装ロボットシミュレーション手段と(請求項5、段落0060、0061)、
塗装ロボットシミュレーション手段によって設定された塗装動作プログラムに従って塗装ロボットの塗装動作を制御するロボット制御手段とが設けられ(請求項5)、
制御変数設定手段が、塗料の塗着効率を算出した上で、該塗着効率に基づいて所定の塗装面の塗料膜厚を検出するようになっていて(請求項6、段落0065ないし0086)、
塗料ロボットシミュレーション手段が、制御変数設定手段によって検出された塗料膜厚と、上記所定の塗装面の傾きとに基づいて、垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行うようになっている(請求項6、段落0060ないし0062、0100)、
塗装制御装置。」
(イ)甲2b発明
「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡を設定し(請求項5、段落0059)、
塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報を入力し(請求項5、段落0067)、
上記設定された塗装軌跡と、上記入力された各種情報とに基づいて、塗装に関する各種制御変数を設定し(請求項5、段落0067ないし0084)、
上記設定された各種制御変数に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行い、該シミュレーション結果に基づいて塗装ロボットの適切な塗装動作プログラムを設定し(請求項5、段落0060、0061)、
上記設定された塗装動作プログラムに従って塗装ロボットの塗装動作を制御する方法であって(請求項5)、
塗装に関する各種制御変数を設定においては、塗料の塗着効率を算出した上で、該塗着効率に基づいて所定の塗装面の塗料膜厚を検出するようになっていて(請求項6、段落0065ないし0086)、
上記検出された塗料膜厚と、上記所定の塗装面の傾きとに基づいて、垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う(請求項6、段落0060ないし0062、0100)、
方法。」
ウ.甲第3号証
甲3の記載によれば、甲3には、次の(ア)、(イ)の発明(以下、それぞれ「甲3a発明」、「甲3b発明」という。)が記載されていると認められる。
(ア)甲3a発明
「霧化される塗料粒子の平均粒子径、粒子速度、及び塗着粘度などの特性値と、仕上り肌のパラメ-タとの間の関係式を作成し(段落0011)、
仕上り肌のパラメ-タは、塗膜面の品質(特に塗膜の平滑性)を評価する計測器によって測定・算出される値であり(段落0008)、
塗料条件・塗装条件(これらをまとめて「変動塗装条件」と言うことがある)や塗装環境条件と上記特性値との間の関係式を作成し(段落0011)、
塗装環境条件が変動した際、塗装ブ-ス雰囲気の温湿度を検出するセンサ-からのフィ-ドバック信号と、他の塗装条件を入力し(段落0013)、
この変動時の仕上り肌パラメ-タ値を、塗装環境条件が変動する前の標準の仕上り肌パラメ-タ値に近づけるよう塗装条件を調整し、その結果に基づく塗装条件に制御する(段落0013)、
シミュレーション装置(段落0013)。」
(イ)甲3b発明
「霧化される塗料粒子の平均粒子径、粒子速度、及び塗着粘度などの特性値と、仕上り肌のパラメ-タとの間の関係式を作成し(段落0011)、
仕上り肌のパラメ-タは、塗膜面の品質(特に塗膜の平滑性)を評価する計測器によって測定・算出される値であり(段落0008)、
塗料条件・塗装条件(これらをまとめて「変動塗装条件」と言うことがある)や塗装環境条件と上記特性値との間の関係式を作成する(段落0011)、
方法。」
エ.甲第4号証
甲4の記載によれば、甲4には、次の(ア)、(イ)の発明(以下、それぞれ「甲4a発明」、「甲4b発明」という。)が記載されていると認められる。
(ア)甲4a発明
「塗料などの化学混合物の色でない特性を予測するシステムであって(請求項10、段落0001)、
a)2種類以上の成分を含有する化学混合物配合を入れるための入力装置と(請求項10)、
b)混合成分量の変化と、任意の環境およびプロセス変数とに対する前記化学混合物の前記測定された特性応答を予測するために予め学習されたニューラルネットワークと(請求項10)、
c)前記入力を用いて前記ネットワークへ入れられた前記新たな混合物配合の前記予測された特性を表示する出力装置と(請求項10)、を含み、
前記ニューラルネットワークは、入力および出力層の少なくとも2層の処理要素を含み、入力の変化に対する化学混合物の応答をシミュレートするように予め学習させられており(段落0013)、
処理要素間の結合重み付けは、化学混合物(入力)の成分と、混合物の測定された特性(出力)との間の関係に関する情報を含むものであり、この情報は、混合物成分の変化に対する化学混合物の最終特性を予測するのに用いるものであり(段落0013)、
化学混合物の特性は、粘度や、オレンジピールを含む(段落0033)、
ことを特徴とするシステム。」
(イ)甲4b発明
「入力および出力層の少なくとも2層の処理要素を含むニューラルネットワークにおいて(段落0013)、
塗料などの化学混合物の混合成分量の変化と、任意の環境およびプロセス変数とに対する前記化学混合物の前記測定された特性応答を予測するように学習する方法であって(請求項10、段落0001、0013)、
処理要素間の結合重み付けは、化学混合物(入力)の成分と、混合物の測定された特性(出力)との間の関係に関する情報を含むものであり、この情報は、混合物成分の変化に対する化学混合物の最終特性を予測するのに用いるものであり(段落0013)、
化学混合物の特性は、粘度や、オレンジピールを含む(段落0033)、
ことを特徴とする方法。」
オ.甲第5号証
甲5の記載によれば、甲5には、次の(ア)、(イ)の発明(以下、それぞれ「甲5a発明」、「甲5b発明」という。)が記載されていると認められる。
(ア)甲5a発明
「階層的ネットワークモデルを利用して新規塗装色のための「塗料組成と塗装条件」の組合せを算出する塗料組成/塗装条件算出システムであって(段落0018ないし0020)、
上記階層的ネットワークモデルは、塗装色/塗料組成/塗装条件データベースを基にして構築したものであり(段落0042)、「塗料組成と塗装条件」のデータを入力し、出力層において、塗装色の各要素(色相、彩度、・・・肌、ムラ)の値が出力され(段落0042)、
上記「肌」は、塗装表面の平滑性の程度を定義する(段落0019)、
塗料組成/塗装条件算出システム。」
(イ)甲5b発明
「新規塗装色のための「塗料組成と塗装条件」の組合せを算出する塗料組成/塗装条件算出システムに用いられる階層的ネットワークモデルを(段落0018ないし0020)、
塗装色/塗料組成/塗装条件データベースを基にして(段落0042)、
「塗料組成と塗装条件」のデータを入力し、出力層において、塗装色の各要素(色相、彩度、・・・肌、ムラ)の値が出力されるように(段落0042)、構築する方法であって、
上記「肌」は、塗装表面の平滑性の程度を定義する(段落0019)、
方法。」
カ.甲第6号証
甲6の記載によれば、甲6には、次の事項が記載されていると認められる。
「塗装面の平滑度が大きい程塗装面の凹凸の度合いが小さくて、良好な塗装面となる。また、塗装面の品質を阻害するものとして、塗料の“ダレ”がある。このダレは、重力を受けることによって塗布された塗料が下方に流動することにより生じ、1回に塗布する塗料の膜厚が大きい程“ダレ”を生じやすくなる。この“ダレ”の原因は、つまるところ重力の影響であるため、被塗物のうち上下方向に伸びる、すなわちいわゆる縦面において生じやすいものとなる。」(第1頁右欄第13行ないし第2頁左上欄第7行)
キ.甲第7号証
甲7の記載によれば、甲7には、次の事項が記載されていると認められる。
「垂直状態の塗装面において、各種の溶剤を用いる塗料または溶剤を含まない粉体塗料を噴霧塗装などによって被塗物に塗料を付着させた場合、塗料が所定の硬さの塗装膜に硬化するまでは、溶剤によりまたは低分子量の塗料用樹脂の軟化により常に下方へ塗料成分が流れ落ちようとする。そして、従来、塗装膜を硬化させる方法は熱風による加熱や、赤外線による加熱などを用いているために、硬化にかなりの時間を必要としているため、塗料成分の微視的な下方流れにより、塗膜表面に無数の波打ち(凹凸、ゆず肌)が生じ、所定の硬さの塗装膜に硬化したときに、それらの波打ちが残った状態の塗装膜となる。そのため、たとえば、自動車用車体などの塗装は通常、ドア、フェンダーなどの垂直面は塗面の平滑性が、フード、ルーフなどの水平面の平滑性に比べて劣るのが一般的である。」(第1頁右欄第10行ないし第2頁左上欄第7行)
ク.甲第8号証
甲8の記載によれば、甲8には、次の事項が記載されていると認められる。
「自動車塗膜における理想的な塗膜表面は、いわゆる「鏡面」であるところ、鏡面の塗膜を大成するために許も簡便な方法としては、塗料粘度を低くして小さい粒径で塗装することが考えられる。ところが、自動車の外板形状は、大きく分けて水平面1と垂直面2とから構成されていることから、前述したように低粘度の塗料を塗布すると垂直面2で塗料の流れ、いわゆる「タレ」が生じてしまう。そのため、粘度を水平面1の平滑性が向上するように低粘度とすれば、垂直面2に「タレ」が発生する虞れがあり、これとは逆に、垂直面2の「タレ」を考慮した粘度に調整すれば、水平方面1の平滑性が低下するという問題点があった。」(第2頁左上欄第8行ないし同左下欄第10行)
ケ.甲第9号証
甲9の記載によれば、甲9には、次の事項が記載されていると認められる。
「乗用車ボデーの面の粗度は、上塗りスプレの吹付角、吹付距離、塗装濃度、エア圧の影響が大きい。」(第709頁、第710頁)
コ.甲第10号証、甲第11号証
甲10の記載及び甲11の記載によれば、甲10及び甲11には、それぞれに次の事項が記載されていると認められる。
「自動車の塗装において、塗料として、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を含むものを用いること、及び、自動車用塗料により形成された塗膜を、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むものとすること。」(甲10請求項1、同段落0001、甲11第71頁)
サ.甲第12号証
甲12の記載によれば、甲12には、次の事項が記載されていると認められる。
「塗装表面の凹凸波形の長波長領域に対応したパワースペクトルと、塗装表面の凹凸波形の中波長領域に対応したパワースペクトルと、塗装表面の凹凸波形の短波長領域に対応したパワースペクトルを含むパワースペクトルを用い、塗膜の微粒化度を評価すること(塗装品質解析を行うこと)。」(請求項6、段落0014)
シ.甲第13号証
甲13の記載によれば、甲13には、次の事項が記載されていると認められる。
「塗膜の仕上がり性を数値評価する手法の一つとして塗膜表面の凹凸を波長解析して評価する方法があること、塗膜表面の凹凸を様々な波長を有する合成波で表現した場合、長波長成分が肌感に、短波長成分がツヤ感に、そして中間波長成分がムラ感やウジ感に相当すること、例えば、自動車用クリヤー塗膜の仕上がり性を定量的に評価するのにはBYK Gardner社製のWave Scanという装置が各波長領域における凹凸の振幅(高さ)に相当する数値を算出できるため、仕上がり性評価手法として非常に有効な装置であること。」(第3頁左欄)
ス.甲第14号証
甲14の記載によれば、甲14には、次の事項が記載されていると認められる。
「生産部門でのロット品の補正調色」を塗装品について行うことが記載されている。ロット品の補正調色は、同一の塗料・塗装条件であっても、ロット内/ロット間で発生する塗色のばらつきを修正するために行う作業であること。」(段落0018、0071)
セ.甲第15号証
甲15の記載によれば、甲15には、次の事項が記載されていると認められる。
「色ムラ検出ステップにおいて、検査パターンのLab色分布情報から、検査パターンの色ムラに関連するパラメータとして、検査パターンの所定方向における色差のばらつきを検出すること。」(請求項1ないし請求項4、段落0034ないし0036)
ソ.甲第16号証
甲16の記載によれば、甲16には、次の事項が記載されていると認められる。
「塗料に関する情報として、塗料の見本色に関する情報が含まれること」(請求項1、段落0002)
(2)新規性・進歩性欠如について
申立人は、特許異議申立書において、甲1、甲2のそれぞれに基づく新規性欠如(上記第2.1(1)理由1)、及び、甲1ないし甲5のそれぞれに基づく進歩性欠如(第6.1(2)理由2)を主張しているところ、以下、本件特許発明1ないし10について、甲1ないし甲5のそれぞれに基づく新規性及び/又は進歩性の有無について検討する。
ア.甲第1号証に基づく新規性・進歩性について
(ア)本件特許発明1
a.対比
甲1a発明の「スプレーガンの種類、塗料の吐出量、塗料を霧化するための霧化エアーの圧力、噴霧された塗料を所定のパターンにするためのパターンエアーの圧力、噴霧する塗料の種類、塗料の色、塗料の粘度、スプレーガンとワークとの距離等をスプレー条件」は、塗料の特性及び当該塗料をスプレーを用いて塗装する際の条件であるといえるから、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
甲1a発明の「塗装シミュレーション方法を実施するためのシステム」は、「スプレー条件を設定し、設定したスプレー条件に対応したバーチャルの噴霧情報」を用いて、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」という、塗装品質を予測するシステムであるといえる。そうすると甲1a発明と本件特許発明1とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装品質を予測する「塗装品質予測装置」で共通する。
以上によると、本件特許発明1と甲1a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装品質を予測する塗装品質予測装置」
【相違点】
・相違点(甲1)1-1
本件特許発明1における塗装品質の予測では、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ものであるのに対して、甲1a発明では、「設定したスプレー条件に対応したバーチャルの噴霧情報」に基づいて、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」するものである点。
・相違点(甲1)1-2
本件特許発明1の「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ことにおいて、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」のに対して、甲1a発明の「スプレー条件」には、当該事項が特定されていない点。
b.判断
(a)相違点(甲1)1-1について
i.本件特許発明1における「学習済みモデル」とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」を入力とし、「その条件で塗装された塗膜の表面の平滑性」を出力として、両者の関係を学習したモデルであるといえる。
ここで、本件特許出願時の技術常識によると、「学習済みモデル」とは、入力データと出力データとの関係を直接的に学習したモデルであって、入力データと出力データとの因果関係に基づく解析を行うことなく、入力データから出力データを得ることができるものであるといえることからすると、本件特許発明1における「学習済みモデル」は、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」との間の因果関係に基づく解析を行うことなく、入力データである上記「…塗装時の条件」から出力データである「…塗膜の表面の平滑性」を得ることができるものであると解するのが相当である。
これに対して甲2、甲3、甲6ないし甲16には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて「塗膜の表面の平滑性を算出する」ことについては、記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲1)1-1は、形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲1)1-1に係る構成は、甲1a発明、及び、甲2、甲3、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ii.甲4、5には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ことが記載されているといえるところ、甲4、5に記載された上記事項は、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」ことに関するものではなく、甲1a発明の「塗装品質を予測する」ことに係る構成である「設定したスプレー条件に対応したバーチャルの噴霧情報」を用いて、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」との構成に代えて、甲4、5に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲1)1-1は形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲1)1-1に係る構成は、甲1a発明、及び、甲4ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
iii.以上のとおりであるから、本件特許発明1の相違点(甲1)1-1に係る構成は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲1)1-2について
甲2ないし16には、「塗膜の表面の平滑性を算出する」ための「塗料の塗装時の条件」が「被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」ことは記載されておらず、当該事項は、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
仮に、甲2ないし甲16のいずれかにおいて、上記事項が記載されているとしても、甲1a発明、及び、当該記載事項に基づいて、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」際に、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲1)1-2は形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲1)1-2に係る構成は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、相違点(甲1)1-1、相違点(甲1)1-2は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
そして、上記bで説示したとおり、本件特許発明1は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2
a.対比
本件特許発明2と甲1a発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装品質を予測する塗装品質予測装置」
【相違点】
・相違点(甲1)2-1
本件特許発明2と甲1a発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲1)1-1と同様の事項で相違する。
・相違点(甲1)2-2
本件特許発明2における塗装品質の予測では、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」のに対して、甲1a発明は、当該事項が特定されていない点。
b.判断
(a)相違点(甲1)2-1について
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明2の相違点(甲1)2-1に係る構成は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲1)2-2について
甲10、甲11には、「自動車の塗装において、塗料として、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を含むものを用いること、及び、自動車用塗料により形成された塗膜を、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むものとすること。」が記載されているところ、塗装品質の予測において当該事項を用いることについては記載されていない。また、他の甲号証には、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」ことは記載されておらず、塗装品質の予測において当該事項を用いることは、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
したがって、本件特許発明2の上記相違点(甲1)2-2に係る構成は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明2は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件特許発明3、4
本件特許発明3、4は、本件特許発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明3、4は、上記(ア)または(イ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明3、4は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件特許発明5
a.対比
甲1a発明の「スプレーガンの種類、塗料の吐出量、塗料を霧化するための霧化エアーの圧力、噴霧された塗料を所定のパターンにするためのパターンエアーの圧力、噴霧する塗料の種類、塗料の色、塗料の粘度、スプレーガンとワークとの距離等をスプレー条件」は、塗料に関する情報及び当該塗料をスプレーを用いて塗装する際の条件であるといえるから、本件特許発明5の「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
甲1a発明の「塗装シミュレーション方法を実施するためのシステム」は、「スプレー条件を設定し、設定したスプレー条件に対応したバーチャルの噴霧情報」を用いて、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」という、塗装品質を予測するシステムであるといえる。そうすると甲1a発明と本件特許発明5とは、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装品質を予測する「塗装品質予測装置」で共通する。
以上によると、本件特許発明5と甲1a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装品質を予測する塗装品質予測装置」
【相違点】
・相違点(甲1)5-1
本件特許発明5における塗装品質の予測では、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ものであるのに対して、甲1a発明では、「設定したスプレー条件に対応したバーチャルの噴霧情報」を用いて、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」ものである点。
b.判断
上記相違点(甲1)5-1について検討する。
i.甲2ないし16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ことは記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。したがって、本件特許発明5の上記相違点(甲1)5-1に係る構成は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲2ないし甲16のいずれかにおいて、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ことが記載されているとしても、当該事項は、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」に関するものではなく、甲1a発明の「塗装品質を予測する」ことに係る構成である「設定したスプレー条件に対応したバーチャルの噴霧情報」を用いて、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」との構成に代えて、当該事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明5の上記相違点(甲1)5-1に係る構成は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明5は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)本件特許発明6、7
本件特許発明6、7は、本件特許発明5を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明6、7は、上記(エ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明6、7は、甲1a発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)本件特許発明8
a.対比
甲1b発明の「スプレーガンの種類、塗料の吐出量、塗料を霧化するための霧化エアーの圧力、噴霧された塗料を所定のパターンにするためのパターンエアーの圧力、噴霧する塗料の種類、塗料の色、塗料の粘度、スプレーガンとワークとの距離等をスプレー条件」は、塗料の特性及び当該塗料をスプレーを用いて塗装する際の条件であるといえるから、本件特許発明8の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲1b発明の「バーチャルの噴霧情報のデータベース」は、スプレー条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報であるといえるところ、本件特許発明8と甲1b発明とは、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件」に基づいた塗装に係る予測を行うための情報を生成する方法である点で共通する。
以上によると、本件特許発明8と甲1b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報の生成方法」
【相違点】
・相違点(甲1)8-1
本件特許発明8は、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」であるのに対して、甲1b発明では、当該事項が特定されていない点。
・相違点(甲1)8-2
本件特許発明8と甲1b発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲1)1-2と同様の事項で相違する。
b.判断
(a)相違点(甲1)8-1について
i.本件特許発明8における「学習済みモデル」とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」を入力とし、「その条件で塗装された塗膜の表面の平滑性」を出力として、両者の関係を学習したモデルであるといえる。
ここで、本件特許出願時の技術常識によると、「学習済みモデル」とは、入力データと出力データとの関係を直接的に学習したモデルであって、入力データと出力データとの因果関係に基づく解析を行うことなく、入力データから出力データを得ることができるものであるといえることからすると、本件特許発明8における「学習済みモデル」は、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」との間の因果関係に基づく解析を行うことなく、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」を得ることができるものであると解するのが相当である。
これに対して甲2、甲3、甲6ないし甲16には、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」については、記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明8の上記相違点(甲1)8-1に係る構成は、甲1b発明、及び、甲2、甲3、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ii.甲4、5には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」が記載されているといえるところ、甲4、5に記載された上記事項は、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」ことに関するものではなく、甲1b発明の「塗装に係る予測を行う」ことに係る構成である「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」ために用いられる「バーチャルの噴霧情報のデータベース」に代えて、甲4、5に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明8の上記相違点(甲1)8-1に係る構成は、甲1b発明、及び、甲4ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
iii.以上のとおりであるから、本件特許発明8の上記相違点(甲1)8-1は、形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲1)8-1に係る構成は、本件特許発明8に係る相違点(甲1)8-1の構成は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲1)8-2について
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明8の相違点(甲1)8-2に係る構成は、形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲1)8-2に係る構成は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、相違点(甲1)8-1、相違点(甲1)8-2は、実質的な相違点であるから、本件特許発明8は、甲1に記載された発明ではない。
そして、上記bで説示したとおり、本件特許発明8は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(キ)本件特許発明9
a.対比
本件特許発明9と甲1b発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報の生成方法」
【相違点】
・相違点(甲1)9-1
本件特許発明9と甲1b発明とは、上記(カ)で説示した相違点(甲1)8-1と同様の事項で相違する。
・相違点(甲1)9-2
本件特許発明9と甲1b発明とは、上記(イ)で説示した相違点(甲1)2-2と同様の事項で相違する。
b.判断
(a)相違点(甲1)9-1について
上記(カ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲1)9-1に係る構成は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(a)相違点(甲1)9-2について
上記(イ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲1)9-2に係る構成は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、本件特許発明9は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件特許発明10
a.対比
甲1b発明の「スプレーガンの種類、塗料の吐出量、塗料を霧化するための霧化エアーの圧力、噴霧された塗料を所定のパターンにするためのパターンエアーの圧力、噴霧する塗料の種類、塗料の色、塗料の粘度、スプレーガンとワークとの距離等をスプレー条件」は、塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件であるといえるから、本件特許発明10の「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件」に相当する。
甲1b発明の「バーチャルの噴霧情報のデータベース」は、スプレー条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報であるといえるところ、本件特許発明10と甲1b発明とは、「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件」に基づいた塗装に係る予測を行うための情報を生成する方法である点で共通する。
以上によると、本件特許発明10と甲1b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報の生成方法」
【相違点】
・相違点(甲1)10-1
本件特許発明10は、「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとを含む教師データを取得するステップ」と、「前記教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」であるのに対して、甲1b発明は、当該事項が特定されていない点。
b.判断
i.甲2ないし16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」については記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。したがって、本件特許発明10の上記相違点(甲1)10-1に係る構成は、は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲2ないし甲16のいずれかにおいて、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」が記載されているとしても、当該事項は、「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」に関するものではなく、甲1b発明の「塗装に係る予測」を行うことに係る構成である「スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を表示部に再現する」ために用いられる「バーチャルの噴霧情報のデータベース」に代えて、甲2ないし16に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明10の上記相違点(甲1)10-1に係る構成は、は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明10は、甲1b発明、及び、甲2ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.甲第2号証に基づく新規性・進歩性について
(ア)本件特許発明1
a.対比
甲2a発明の「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」は、塗料の特性及び塗装ロボットが当該塗料を塗装する際の条件であるといえるから、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲2a発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」を算出し、当該「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」とに基づいて「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」ようになっている、塗装状態の予測を行う「塗装制御装置」であるといえる。
よって、甲2a発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」塗装状態予測装置であるといえるところ、甲2a発明と本件特許発明1とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装状態を予測する「塗装状態予測装置」で共通する。
以上によると、本件特許発明1と甲2a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装状態を予測する塗装状態予測装置」
【相違点】
・相違点(甲2)1-1
本件特許発明1における塗装状態の予測では、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ものであるのに対して、甲2a発明では、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」ものである点。
・相違点(甲2)1-2
本件特許発明1の「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ことにおいて、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」のに対して、甲2a発明の「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」には、当該事項が特定されていない点。
b.判断
(a)相違点(甲2)1-1について
i.本件特許発明1における「学習済みモデル」とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」を入力とし、「その条件で塗装された塗膜の表面の平滑性」を出力として、両者の関係を学習したモデルであるといえる。
ここで、本件特許出願時の技術常識によると、「学習済みモデル」とは、入力データと出力データとの関係を直接的に学習したモデルであって、入力データと出力データとの因果関係に基づく解析を行うことなく、入力データから出力データを得ることができるものであるといえることからすると、本件特許発明1における「学習済みモデル」は、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」との間の因果関係に基づく解析を行うことなく、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」を得ることができるものであると解するのが相当である。
これに対して甲1、甲3、甲6ないし16には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて「塗膜の表面の平滑性を算出する」ことについては、記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲2)1-1は、形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲2)1-1に係る構成は、甲2a発明、及び、甲1、甲3、甲6ないし16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ii.甲4、5には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ことが記載されているといえるところ、甲4、5に記載された上記事項は、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」ことに関するものではなく、甲2a発明の「塗装状態を予測する」構成である「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」構成として、甲4、5に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲2)1-1は形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲2)1-1に係る構成は、甲2a発明、及び、甲4ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
iii.以上のとおりであるから、本件特許発明1の相違点(甲2)1-1に係る構成は、形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲2)1-1に係る構成は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲2)1-2について
甲1、甲3ないし16には、「塗膜の表面の平滑性を算出する」ための「塗料の塗装時の条件」が「被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」ことは記載されておらず、当該事項は、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
仮に、甲1、甲3ないし甲16のいずれかにおいて、上記事項が記載されているとしても、甲2a発明、及び、当該記載事項に基づいて、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」際に、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲2)1-2は形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲2)1-2に係る構成は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、相違点(甲2)1-1、相違点(甲2)1-2は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではない。
そして、本件特許発明2は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2
a.対比
本件特許発明2と甲2a発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装状態を予測する塗装状態予測装置」
【相違点】
・相違点(甲2)2-1
本件特許発明2と甲2a発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲2)1-1と同様の事項で相違する。
・相違点(甲2)2-2
本件特許発明2における塗装品質の予測では、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」のに対して、甲2a発明は、当該事項が特定されていない点。
b.判断
(a)相違点(甲2)2-1について
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明2の相違点(甲2)2-1に係る構成は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲2)2-2について
甲10、甲11には、「自動車の塗装において、塗料として、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を含むものを用いること、及び、自動車用塗料により形成された塗膜を、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むものとすること。」が記載されているところ、塗装品質の予測において当該事項を用いることについては記載されていない。また、また、他の甲号証には、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」ことは記載されておらず、塗装品質の予測において当該事項を用いることは、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
したがって、本件特許発明2の上記相違点(甲2)2-2に係る構成は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、本件特許発明2は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件特許発明3、4
本件特許発明3、4は、本件特許発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明3、4は、上記(ア)または(イ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明3、4は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件特許発明5
a.対比
甲2a発明の「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」は、本件特許発明5の「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲2a発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」を算出し、当該「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」とに基づいて「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」ようになっている、塗装状態の予測を行う「塗装制御装置」であるといえる。
よって、甲2a発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」塗装状態予測装置であるといえるところ、甲2a発明と本件特許発明5とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装状態を予測する「塗装状態予測装置」で共通する。
以上によると、本件特許発明5と甲2a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装状態を予測する塗装状態予測装置」
【相違点】
・相違点(甲2)5-1
本件特許発明5における塗装品質の予測では、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ものであるのに対して、甲2a発明では、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」ものである点。
b.判断
上記相違点(甲2)5-1について検討する。
i.甲1、甲3ないし16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ことは記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明5の上記相違点(甲2)5-1に係る構成は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲1、甲3ないし甲16のいずれかにおいて、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ことが記載されているとしても、当該事項は、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」ことに関するものではなく、甲2a発明の「塗装状態を予測する」ことに係る構成である「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」との構成に代えて、当該事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明5の上記相違点(甲2)5-1に係る構成は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明5は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)本件特許発明6、7
本件特許発明6、7は、本件特許発明5を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明6、7は、上記(エ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明6、7は、甲2a発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)本件特許発明8
a.対比
甲2b発明の「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」は、塗料の特性及び塗装ロボットが当該塗料を塗装する際の条件であるといえるから、本件特許発明8の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲2b発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」を算出し、当該「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」とに基づいて「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」方法であるといえる。
よって、甲2b発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」塗装状態予測方法であるといえるところ、甲2b発明と本件特許発明8とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装状態を予測することに係る方法で共通する。
以上によると、本件特許発明8と甲2b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うことに係る方法」
【相違点】
・相違点(甲2)8-1
本件特許発明8は、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」であるのに対して、甲2b発明では、当該事項が特定されていない点。
・相違点(甲2)8-2
本件特許発明8と甲2b発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲2)1-2と同様の事項で相違する。
b.判断
(a)相違点(甲2)8-1について
甲2、甲3、甲6ないし甲16には、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」を備えた「学習済みモデルの生成方法」については、記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明8の上記相違点(甲2)8-1に係る構成は、甲2b発明、及び、甲1、甲3、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ii.甲4、5には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」が記載されているといえるところ、甲2b発明の「塗装に係る予測を行うことに係る方法」において、甲4、5に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明8の上記相違点(甲2)8-1に係る構成は、甲2b発明、及び、甲4ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
iii.以上のとおりであるから、本件特許発明8の上記相違点(甲2)8-1は、形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲2)8-1に係る構成は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲2)8-2について
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明8の相違点(甲2)8-2に係る構成は、形式的なものではなく実質的なものであって、かつ、当該相違点(甲2)8-2に係る構成は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、相違点(甲2)8-1、相違点(甲2)8-2は、実質的な相違点であるから、本件特許発明8は、甲1に記載された発明ではない。
そして、上記bで説示したとおり、本件特許発明8は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(キ)本件特許発明9
a.対比
本件特許発明9と甲2b発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うことに係る方法」
【相違点】
・相違点(甲2)9-1
本件特許発明9と甲2b発明とは、上記(カ)で説示した相違点(甲2)8-1と同様の事項で相違する。
・相違点(甲2)9-2
本件特許発明9と甲2b発明とは、上記(イ)で説示した相違点(甲2)2-2と同様の事項で相違する。
b.判断
(a)相違点(甲2)9-1について
上記(カ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲2)9-1に係る構成は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(a)相違点(甲2)9-2について
上記(イ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲2)9-2に係る構成は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、本件特許発明9は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件特許発明10
a.対比
甲2b発明の「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」は、本件特許発明10の「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲2b発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」を算出し、当該「塗料膜厚」と「所定の塗装面の傾き」とに基づいて「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」方法であるといえる。
よって、甲2b発明は、「塗装ロボットのワークに対する塗装軌跡」及び「塗装ロボットによる塗装に関する既知の各種情報」に基づいて、「垂直面での塗装タレ限界を基準にしてタレが生ずるか否かを評価し、該評価に基づいて塗装ロボットの塗装動作のシミュレーションを行う」塗装状態予測方法であるといえるところ、甲2b発明と本件特許発明10とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装状態を予測することに係る方法で共通する。
以上によると、本件特許発明10と甲2b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うことに係る方法」
【相違点】
・相違点(甲2)10-1
本件特許発明10は、「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとを含む教師データを取得するステップ」と、「前記教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」であるのに対して、甲2b発明では、当該事項が特定されていない点。
b.判断
i.甲1、甲3ないし16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」については記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。したがって、本件特許発明10の上記相違点(甲2)10-1に係る構成は、は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲1、甲3ないし16のいずれかにおいて、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」が記載されているとしても、甲2b発明の「塗装に係る予測を行うことに係る方法」において、当該事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明10は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明10は、甲2b発明、及び、甲1、甲3ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.甲第3号証に基づく進歩性について
(ア)本件特許発明1
a.対比
甲3a発明の「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」は、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲3a発明の「シミュレーション装置」は、「塗装環境条件が変動する前の標準の仕上り肌パラメ-タ値に近づけるよう塗装条件を調整」するために、「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」を用いて、塗装品質に係る「仕上り肌のパラメ-タ値」を算出するものであるといえる。
そうすると甲3a発明と本件特許発明1とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装品質を予測する「塗装品質予測装置」で共通する。
以上によると、本件特許発明1と甲3a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装品質を予測する塗装品質予測装置」
【相違点】
・相違点(甲3)1-1
本件特許発明1における塗装品質の予測では、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ものであるのに対して、甲3a発明では、「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」を用いて、塗装品質に係る「仕上り肌のパラメ-タ値」を算出するものである点。
・相違点(甲3)1-2
本件特許発明1の「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ことにおいて、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」のに対して、甲1a発明の「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」には、当該事項が特定されていない点。
b.判断
(a)相違点(甲3)1-1について
i.本件特許発明1における「学習済みモデル」とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」を入力とし、「その条件で塗装された塗膜の表面の平滑性」を出力として、両者の関係を学習したモデルであるといえる。
ここで、本件特許出願時の技術常識によると、「学習済みモデル」とは、入力データと出力データとの関係を直接的に学習したモデルであって、入力データと出力データとの因果関係に基づく解析を行うことなく、入力データから出力データを得ることができるものであるといえることからすると、本件特許発明1における「学習済みモデル」は、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」との間の因果関係に基づく解析を行うことなく、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」を得ることができるものであると解するのが相当である。
これに対して甲1、甲2、甲6ないし甲16には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて「塗膜の表面の平滑性を算出する」ことについては、記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲3)1-1に係る構成は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ii.甲4、5には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ことが記載されているといえるところ、甲4、5に記載された上記事項は、「塗装環境条件が変動する前の標準の仕上り肌パラメ-タ値に近づけるよう塗装条件を調整」することに関するものではなく、甲3a発明に、甲4、5に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲3)1-1に係る構成は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲3)1-2について
甲1、甲2、甲4ないし甲16には、「塗膜の表面の平滑性を算出する」ための「塗料の塗装時の条件」が「被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」ことは記載されておらず、当該事項は、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
仮に、甲1、甲2、甲4ないし甲16のいずれかにおいて、上記事項が記載されているとしても、甲3a発明、及び、当該記載事項に基づいて、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」際に、「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、本件特許発明1の上記相違点(甲3)1-2に係る構成は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明1は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2
a.対比
本件特許発明2と甲3a発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装状態を予測する塗装状態予測装置」
【相違点】
・相違点(甲3)2-1
本件特許発明2と甲1a発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲3)1-1と同様の事項で相違する。
・相違点(甲3)2-2
本件特許発明2における塗装品質の予測では、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」のに対して、甲3a発明は、当該事項が特定されていない点。
b.判断
(a)相違点(甲3)2-1について
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明2の相違点(甲3)2-1に係る構成は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲3)2-2について
甲10、甲11には、「自動車の塗装において、塗料として、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を含むものを用いること、及び、自動車用塗料により形成された塗膜を、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むものとすること。」が記載されているところ、塗装品質の予測において当該事項を用いることについては記載されていない。また、他の甲号証には、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」ことは記載されておらず、塗装品質の予測において当該事項を用いることは、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
したがって、上記相違点(甲3)2-2に係る構成は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、本件特許発明2は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件特許発明3、4
本件特許発明3、4は、本件特許発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明3、4は、上記(ア)または(イ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明3、4は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件特許発明5
a.対比
甲3a発明の「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」は、本件特許発明5の「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲3a発明の「シミュレーション装置」は、「塗装環境条件が変動する前の標準の仕上り肌パラメ-タ値に近づけるよう塗装条件を調整」するために、「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」を用いて、塗装品質に係る「仕上り肌のパラメ-タ値」を算出するものであるといえる。
そうすると甲3a発明と本件特許発明5とは、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、塗装品質を予測する「塗装品質予測装置」で共通する。
以上によると、本件特許発明5と甲3a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件に基づいて、塗装品質を予測する塗装品質予測装置」
【相違点】
・相違点(甲3)5-1
本件特許発明5における塗装品質の予測では、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ものであるのに対して、甲3a発明では、「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」を用いて、塗装品質に係る「仕上り肌のパラメ-タ値」を算出するものである点。
b.判断
上記相違点(甲3)5-1について検討する。
i.甲1、甲2、甲4ないし甲16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ことは記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。したがって、本件特許発明5の上記相違点(甲3)5-1に係る構成は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲1、甲2、甲4ないし甲16いずれかにおいて、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて、「塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ことが記載されているとしても、当該事項は、「塗装環境条件が変動する前の標準の仕上り肌パラメ-タ値に近づけるよう塗装条件を調整」することに関するものではなく、甲3a発明に、甲4、5に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、上記相違点(甲3)5-1に係る構成は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、上記bで説示したとおり、本件特許発明5は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)本件特許発明6、7
本件特許発明6、7は、本件特許発明5を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明6、7は、上記(エ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明6、7は、甲3a発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)本件特許発明8
a.対比
甲3b発明の「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」は、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲3b発明の「霧化される塗料粒子の平均粒子径、粒子速度、及び塗着粘度などの特性値と、仕上り肌のパラメ-タとの間の関係式」及び「塗料条件・塗装条件や塗装環境条件と上記特性値との間の関係式」を作成することは、「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」に基づいた塗装に係る予測を行うための情報であるといえるところ、本件特許発明8と甲3b発明とは、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件」に基づいた塗装に係る予測を行うための情報を生成する方法である点で共通する。
以上によると、本件特許発明8と甲3b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報の生成方法」
【相違点】
・相違点(甲3)8-1
本件特許発明8は、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」であるのに対して、甲3b発明では、当該事項が特定されていない点。
・相違点(甲3)8-2
本件特許発明8と甲3b発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲3)1-2と同様の事項で相違する。
b.判断
(a)相違点(甲3)8-1について
i.本件特許発明8における「学習済みモデル」とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」を入力とし、「その条件で塗装された塗膜の表面の平滑性」を出力として、両者の関係を学習したモデルであるといえる。
ここで、本件特許出願時の技術常識によると、「学習済みモデル」とは、入力データと出力データとの関係を直接的に学習したモデルであって、入力データと出力データとの因果関係に基づく解析を行うことなく、入力データから出力データを得ることができるものであるといえることからすると、本件特許発明8における「学習済みモデル」は、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」との間の因果関係に基づく解析を行うことなく、上記「…塗装時の条件」と「…塗膜の表面の平滑性」を得ることができるものであると解するのが相当である。
これに対して甲1、甲2、甲4ないし甲16には、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」については、記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、本件特許発明8の上記相違点(甲3)8-1に係る構成は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ii.甲4、5には、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」が記載されているといえるところ、甲4、5に記載された上記事項は、「塗装環境条件が変動する前の標準の仕上り肌パラメ-タ値に近づけるよう塗装条件を調整」することに関するものではなく、甲3b発明に、甲4、5に記載された上記事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、本件特許発明8の上記相違点(甲3)8-1に係る構成は、甲3b発明、及び、甲4ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
iii.以上のとおりであるから、上記相違点(甲3)8-1に係る構成は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲3)8-2について
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明8の相違点(甲3)8-2に係る構成は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明8は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(キ)本件特許発明9
a.対比
本件特許発明9と甲3b発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報の生成方法」
【相違点】
・相違点(甲3)9-1
本件特許発明9と甲3b発明とは、上記(カ)で説示した相違点(甲3)8-1と同様の事項で相違する。
・相違点(甲3)9-2
本件特許発明9と甲3b発明とは、上記(イ)で説示した相違点(甲3)2-2と同様の事項で相違する。
b.判断
(a)相違点(甲3)9-1について
上記(カ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲3)9-1に係る構成は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
(b)相違点(甲3)9-2について
上記(イ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲3)9-2に係る構成は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、本件特許発明9は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件特許発明10
a.対比
甲3b発明の「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」は、本件特許発明10の「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲3b発明の「霧化される塗料粒子の平均粒子径、粒子速度、及び塗着粘度などの特性値と、仕上り肌のパラメ-タとの間の関係式」及び「塗料条件・塗装条件や塗装環境条件と上記特性値との間の関係式」を作成することは、「塗料条件・塗装条件」及び「塗装環境条件」に基づいた塗装に係る予測を行うための情報であるといえるところ、本件特許発明10と甲3b発明とは、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件」に基づいた塗装に係る予測を行うための情報を生成する方法である点で共通する。
以上によると、本件特許発明10と甲3b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件に基づいた塗装に係る予測を行うための情報の生成方法」
【相違点】
・相違点(甲3)10-1
本件特許発明10は、「塗料に関する情報と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとを含む教師データを取得するステップ」と、「前記教師データを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件が入力された場合に塗色のばらつきを出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えた「学習済みモデルの生成方法」であるのに対して、甲3b発明では、当該事項が特定されていない点。
b.判断
i.甲1、甲2、甲4ないし甲16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」については記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、上記相違点(甲3)10-1に係る構成は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲1、甲2、甲4ないし甲16のいずれかにおいて、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」が記載されているとしても、甲3b発明において、当該事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、上記相違点(甲3)10-1に係る構成は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明10は、甲3b発明、及び、甲1、甲2、甲4ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.甲第4号証に基づく進歩性について
(ア)本件特許発明1
a.対比
甲4a発明の「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」は、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲4a発明は、「前記化学混合物の前記測定された特性応答を予測するために予め学習されたニューラルネットワーク」を用い、「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」に基づいて、「オレンジピール」を含む「化学混合物の最終特性を予測する」ものといえるところ、甲4a発明の上記「ニューラルネットワーク」と「オレンジピール」は、それぞれ本件特許発明1の「学習済みモデル」と「塗膜の表面の平滑性」に相当する。
そうすると甲4a発明と本件特許発明1とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備え」る塗装品質予測装置で共通する。
以上によると、本件特許発明1と甲4a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備える、
塗装品質予測装置。」
【相違点】
・相違点(甲4)1-1
本件特許発明1の「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」のに対して、甲4a発明の「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」には、当該事項が特定されていない点。
b.判断
甲1ないし甲3、甲5ないし甲16には、「塗膜の表面の平滑性を算出する」ための「塗料の塗装時の条件」が「被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」ことは記載されておらず、当該事項は、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
仮に、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16のいずれかにおいて、上記事項が記載されているとしても、甲4a発明において、当該事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、上記相違点(甲4)1-1に係る構成は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明1は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2
a.対比
本件特許発明2と甲4a発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備える、塗装品質予測装置。」
【相違点】
・相違点(甲4)2-1
本件特許発明2における塗装品質の予測では、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」のに対して、甲4a発明は、当該事項が特定されていない点。
b.判断
甲10、甲11には、「自動車の塗装において、塗料として、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を含むものを用いること、及び、自動車用塗料により形成された塗膜を、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むものとすること。」が記載されているところ、塗装品質の予測において当該事項を用いることについては記載されていない。また、他の甲号証には、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」ことは記載されておらず、塗装品質の予測において当該事項を用いることは、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
したがって、上記相違点(甲4)2-1に係る構成は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
本件特許発明2は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件特許発明3、4
本件特許発明3、4は、本件特許発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明3、4は、上記(ア)または(イ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明3、4は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件特許発明5
a.対比
甲4a発明の「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」は、本件特許発明5の「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲4a発明は、「混合成分量の変化と、任意の環境およびプロセス変数とに対する前記化学混合物の前記測定された特性応答を予測するために予め学習されたニューラルネットワーク」を用い、「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」に基づいて、「オレンジピール」を含む「化学混合物の最終特性を予測する」ものといえるところ、甲4a発明の上記「ニューラルネットワーク」は、本件特許発明5の「学習済みモデル」に相当する。
また、甲4a発明の「オレンジピール」を含む「化学混合物の最終特性」と、本件特許発明5の「複数の被塗装物における塗色のばらつき」とは、「被塗装物の塗装状態」で共通する。
そうすると甲4a発明と本件特許発明5とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から被塗装物の塗装状態を算出する算出部とを備え」る塗装品質予測装置で共通する。
以上によると、本件特許発明5と甲4a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から被塗装物の塗装状態を算出する算出部とを備える、塗装品質予測装置。」
【相違点】
・相違点(甲4)5-1
本件特許発明5において算出される被塗装物の塗装状態は、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」であるのに対して、甲4a発明において算出される被塗装物の塗装状態は、「化学混合物の最終特性」である点。
b.判断
上記相違点(甲4)5-1について検討する。
i.甲1ないし甲3、甲5ないし甲16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」を算出することについて記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、上記相違点(甲4)5-1に係る構成は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲1ないし甲3、甲5ないし甲16のいずれかにおいて「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」を算出することが記載されているとしても、甲4a発明の「化学混合物の最終特性」として、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、上記相違点(甲4)5-1に係る構成は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明5は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)本件特許発明6、7
本件特許発明6、7は、本件特許発明5を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明6、7は、上記(エ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明6、7は、甲4a発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)本件特許発明8
a.対比
甲4b発明の「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」は、本件特許発明8の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲4b発明は、「入力および出力層の少なくとも2層の処理要素を含むニューラルネットワーク」において、「オレンジピール」を含む「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」に対する「オレンジピール」を含む「混合物の測定された特性(出力)」を予測するように学習するものといえるところ、甲4b発明の上記「ニューラルネットワーク」と「オレンジピール」とは、本件特許発明8の「学習済みモデル」と「塗膜の表面の平滑性」に相当する。
そうすると、甲4b発明は、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えているといえる。
以上によると、本件特許発明8と甲4b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備える、
学習済みモデルの生成方法。」
【相違点】
・相違点(甲4)8-1
本件特許発明8と甲4b発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲4)1-1と同様の事項で相違する。
b.判断
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明8の相違点(甲4)8-1に係る構成は、甲4b発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明8は、甲4b発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(キ)本件特許発明9
a.対比
本件特許発明9と甲4b発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「 塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備えた、
学習済みモデルの生成方法」
【相違点】
・相違点(甲4)9-1
本件特許発明9と甲4b発明とは、上記(イ)で説示した相違点(甲4)2-2と同様の事項で相違する。
b.判断
上記(イ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲4)9-1に係る構成は、甲4b発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、相違点(甲4)9-1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明9は、甲4に記載された発明ではない。
そして、本件特許発明9は、甲4b発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件特許発明10
a.対比
甲4b発明の「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」は、本件特許発明10の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲4b発明は、「入力および出力層の少なくとも2層の処理要素を含むニューラルネットワーク」において、「化学混合物(入力)の成分」及び「任意の環境およびプロセス変数」に対する「オレンジピール」を含む「混合物の測定された特性(出力)」を予測するように学習するものといえるところ、甲4b発明の上記「ニューラルネットワーク」は、本件特許発明10の「学習済みモデル」と「塗膜の表面の平滑性」に相当する。
また、甲4b発明の「オレンジピール」を含む「化学混合物の最終特性」と、本件特許発明10の「複数の被塗装物における塗色のばらつき」とは、「被塗装物の塗装状態」で共通する。
そうすると、甲4b発明は、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に被塗装物の塗装状態を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えているといえる。
以上によると、本件特許発明10と甲4b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「 塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に被塗装物の塗装状態を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備えた、
学習済みモデルの生成方法」
【相違点】
・相違点(甲4)10-1
本件特許発明10と甲4b発明とは、上記(エ)で説示した相違点(甲4)5-1と同様の事項で相違する。
b.判断
上記(エ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明10の相違点(甲4)10-1に係る構成は、甲4b発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明10は、甲4b発明、及び、甲1ないし甲3、甲5ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ.甲第5号証に基づく進歩性について
(ア)本件特許発明1
a.対比
甲5a発明の「塗料組成と塗装条件」は、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲5a発明の「階層的ネットワークモデル」は、「塗料組成と塗装条件」のデータを入力し、出力層において、塗装色の各要素(色相、彩度、・・・肌、ムラ)の値が出力されるものであるといえるところ、甲5a発明の上記「階層的ネットワークモデル」と、塗装色の要素である「肌」の値とは、本件特許発明1の「学習済みモデル」と、「塗膜の表面の平滑性」に相当する。
そうすると甲5a発明と本件特許発明1とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備え」る塗装品質予測装置で共通する。
以上によると、本件特許発明1と甲5a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備える、
塗装品質予測装置。」
【相違点】
・相違点(甲5)1-1
本件特許発明1の「塗料の塗装時の条件は、被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」のに対して、甲5a発明の「塗料組成と塗装条件」には、当該事項が特定されていない点。
b.判断
甲1ないし甲4、甲6ないし甲16には、「塗膜の表面の平滑性を算出する」ための「塗料の塗装時の条件」が「被塗装物の面の向きを含み、当該塗料の塗装時の条件は、鉛直方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのか、水平方向と直交するように配置された面に対して塗装する場合の当該面の向きであるのかのいずれかである」ことは記載されておらず、当該事項は、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
仮に、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16のいずれかにおいて、上記事項が記載されているとしても、甲5a発明において、当該事項を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、上記相違点(甲5)1-1に係る構成は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明1は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2
a.対比
本件特許発明2と甲5a発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する算出部とを備える、塗装品質予測装置。」
【相違点】
・相違点(甲5)2-1
本件特許発明2における塗装品質の予測では、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」のに対して、甲5a発明は、当該事項が特定されていない点。
b.判断
甲10、甲11には、「自動車の塗装において、塗料として、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を含むものを用いること、及び、自動車用塗料により形成された塗膜を、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含むものとすること。」が記載されているところ、塗装品質の予測において当該事項を用いることについては記載されていない。また、他の甲号証には、「前記塗料は、中塗り塗料と、ベース塗料と、クリア塗料とを含み、前記塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」ことは記載されておらず、塗装品質の予測において当該事項を用いることは、本件特許出願時の技術常識であるともいえない。
したがって、上記相違点(甲5)2-1に係る構成は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明2は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件特許発明3、4
本件特許発明3、4は、本件特許発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明3、4は、上記(ア)または(イ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明3、4は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件特許発明5
a.対比
甲5a発明の「塗料組成と塗装条件」は、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲5a発明の「階層的ネットワークモデル」は、「塗料組成と塗装条件」のデータを入力し、出力層において、塗装色の各要素(色相、彩度、・・・肌、ムラ)の値が出力されるものであるといえるところ、甲5a発明の上記「階層的ネットワークモデル」は、本件特許発明5の「学習済みモデル」に相当する。
また、甲5a発明の塗装色の要素である「肌」又は「ムラ」の値と、本件特許発明5の「複数の被塗装物における塗色のばらつき」とは、「被塗装物の塗装状態」で共通する。
そうすると甲5a発明と本件特許発明5とは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から被塗装物の塗装状態を算出する算出部とを備え」る塗装品質予測装置で共通する。
以上によると、本件特許発明5と甲5a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態との関係が学習された学習済みモデルと、
前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から被塗装物の塗装状態を算出する算出部とを備える、塗装品質予測装置。」
【相違点】
・相違点(甲5)5-1
本件特許発明5において算出される被塗装物の塗装状態は、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」であるのに対して、甲5a発明において算出される被塗装物の塗装状態は、塗装色の要素である「肌」又は「ムラ」の値である点。
b.判断
上記相違点(甲5)5-1について検討する。
i.甲1ないし甲4、甲6ないし甲16には、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」を算出することについて記載されているとはいえず、また、当該事項は、本件特許出願時における技術常識ともいえない。
したがって、上記相違点(甲5)5-1に係る構成は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ii.仮に甲1ないし甲4、甲6ないし甲16のいずれかにおいて「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」に基づいて、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」を算出することが記載されているとしても、甲5a発明の塗装色の要素である「肌」又は「ムラ」の値に代えて、「複数の被塗装物における塗色のばらつき」を採用すべき動機付けは認められない。
したがって、上記相違点(甲5)5-1に係る構成は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明5は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)本件特許発明6、7
本件特許発明6、7は、本件特許発明5を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明6、7は、上記(エ)で説示した相違点に係る構成を備えている。
したがって、本件特許発明6、7は、甲5a発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)本件特許発明8
a.対比
甲5b発明の「塗料組成と塗装条件」は、本件特許発明8の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲5b発明は、「階層的ネットワークモデル」を、「「塗料組成と塗装条件」のデータを入力し、出力層において、塗装色の各要素(色相、彩度、・・・肌、ムラ)の値が出力される」ように学習する方法といえるところ、甲5b発明の上記「階層的ネットワークモデル」と塗装色の要素である「肌」の値とは、本件特許発明8の「学習済みモデル」と、「塗膜の表面の平滑性」に相当する。
そうすると、甲5b発明は、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えているといえる。
以上によると、本件特許発明8と甲5b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備える、
学習済みモデルの生成方法。」
【相違点】
・相違点(甲5)8-1
本件特許発明8と甲5b発明とは、上記(ア)で説示した相違点(甲5)1-1と同様の事項で相違する。
b.判断
上記(ア)bで説示したとおりであるから、本件特許発明8の相違点(甲5)8-1に係る構成は、甲5b発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明8は、甲5b発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(キ)本件特許発明9
a.対比
本件特許発明9と甲5発明を対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「 塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に塗膜の表面の平滑性を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備えた、
学習済みモデルの生成方法」
【相違点】
・相違点(甲5)9-1
本件特許発明9と甲5b発明とは、上記(イ)で説示した相違点(甲5)2-2と同様の事項で相違する。
b.判断
上記(イ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明9の相違点(甲5)9-1に係る構成は、甲5b発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
以上のとおり、本件特許発明9は、甲5b発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ク)本件特許発明10
a.対比
甲5b発明の「塗料組成と塗装条件」は、本件特許発明1の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」に相当する。
そして、甲5b発明は、「階層的ネットワークモデル」を、「「塗料組成と塗装条件」のデータを入力し、出力層において、塗装色の各要素(色相、彩度、・・・肌、ムラ)の値が出力される」ように学習する方法といえるところ、甲5b発明の上記「階層的ネットワークモデル」は、本件特許発明10の「学習済みモデル」に相当する。
また、甲5b発明の塗装色の要素である「肌」又は「ムラ」の値と、本件特許発明5の「複数の被塗装物における塗色のばらつき」とは、「被塗装物の塗装状態」で共通する。
そうすると、甲5b発明は、「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態とを含む教師データを取得するステップ」と「前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に被塗装物の塗装状態を出力する学習済みモデルを生成するステップ」とを備えているといえる。
以上によると、本件特許発明10と甲5b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「塗料の特性と、その塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された被塗装物の塗装状態とを含む教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて、塗料の特性および塗装時の条件が入力された場合に被塗装物の塗装状態を出力する学習済みモデルを生成するステップとを備えた、
学習済みモデルの生成方法」
【相違点】
・相違点(甲5)10-1
本件特許発明10と甲5b発明とは、上記(エ)で説示した相違点(甲5)5-1と同様の事項で相違する。
b.判断
上記(エ)bで説示したとおりであるから、本件特許発明10の相違点(甲5)10-1に係る構成は、甲5b発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
c.小括
上記bで説示したとおり、本件特許発明10は、甲5b発明、及び、甲1ないし甲4、甲6ないし甲16に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1、8に係る発明は、甲1あるいは甲2に記載された発明ではない。
そして、本件特許発明1ないし10に係る発明は、甲1ないし甲5に記載されたそれぞれの発明を主引用発明とし、当該主引用発明及び甲1ないし甲16に記載され事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、上記第2.1(1)及び(2)の特許異議申立ての理由1、2には理由がない。
3.特許異議申立ての理由3について
(1)「学習済みモデル」について
本件特許発明1ないし4、8,9の「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」と「塗膜の表面の平滑性」との関係が学習された「学習済みモデル」について、所定の入力データに対する出力を学習したモデルを生成し、当該モデルを用いて入力データに対する出力を算出することは、本件特許出願時の技術常識といえるところ、「塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」は、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件」と「塗膜の表面の平滑性」との関係を、任意の学習プログラム・計算手法・アルゴリズムに基づいて学習したものである解されることからすると、不明確であるとはいえない。
また、上記技術常識を踏まえれば、上記本件特許発明の「前記学習済みモデルを用いて、塗料の特性および塗装時の条件から塗膜の表面の平滑性を算出する」ことは、不明確であるとはいえない。
そして、同様の理由により、本件特許発明5ないし7、10の「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件」と「複数の被塗装物における塗色のばらつき」との関係が学習された「学習済みモデル」、及び、「前記学習済みモデルを用いて、塗料に関する情報および塗装時の条件から塗色のばらつきを算出する」ことは、不明確であるとはいえない。
(2)「塗膜の表面の平滑性」について
本件特許発明2ないし4、9の「塗膜」は、「中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成されるベース塗膜と、前記ベース塗膜上に形成されるクリア塗膜とを含む」ものであることからすると、塗膜の表面は「クリア塗膜」によって形成されるものであると解される。
しがたって、本件特許発明2ないし4、9における「その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性」及び「塗膜の表面の平滑性」は、不明確であるとはいえない。
(3)「被塗装物の面の向き」について
請求項1、4、8の「被塗装物の面の向き」については、上記1で説示したとおりであるから、不明確であるとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし10は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって、上記第2.1(3)の特許異議申立ての理由3には理由がない。
4.特許異議申立ての理由4について
(1)「塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」について
本件特許明細書の段落0005、0006の記載によると、発明が解決しようとする課題は、「被塗装物に対して塗装が行われる前に塗装品質を予測すること」を可能とすることであり、また、同段落0007ないし0010、0017、0019等の記載によると、当該課題を解決するための手段は、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて「塗膜の表面の平滑性」を算出すること、あるいは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を生成することであると認められる。
そして、本件特許発明1ないし4、8、9では、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を用いて「塗膜の表面の平滑性」を算出すること、あるいは、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係が学習された学習済みモデル」を生成することが特定されているところ、上記本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された上記課題解決手段が反映されたものであるから、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものである。
(2)「塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」について
上記(1)において説示したとおり、本件特許明細書に記載された発明が解決しようとする課題は、「被塗装物に対して塗装が行われる前に塗装品質を予測すること」を可能とすることであるところ、同段落0011ないし0015、0018、0019等の記載によると、当該課題を解決するための手段は、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて「塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつき」を算出すること、あるいは、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を生成することであると認められる。
そして、本件特許発明5ないし7、10では、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を用いて「塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつき」を算出すること、あるいは、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係が学習された学習済みモデル」を生成することが特定されているところ、上記本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された上記課題解決手段が反映されたものであるから、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものである。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された上記課題解決手段が反映されたものであり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、上記第2.1(4)の特許異議申立ての理由4には理由がない。
5.特許異議申立ての理由5について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落0045ないし0053において、「塗料の特性およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された塗膜の表面の平滑性との関係」を学習することについて、具体的な技術内容が記載されており、また、段落0081ないし0089において、「塗料に関する情報およびその塗料の塗装時の条件と、その塗料がその条件で塗装された複数の被塗装物における塗色のばらつきとの関係」を学習することについて、具体的な技術内容が記載されている。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、当該発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし10を実施することができる程度の記載があるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
よって、上記第2.1(5)の特許異議申立ての理由5には理由がない。
第7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立の理由によっては、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700346