特許異議申立
2023-700754
酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法
- 審判番号
- 2023-700754
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-043923
- 登録番号
- 7210628
- 請求日
- 2023年07月21日
- 審決日
- 2024年03月29日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】キユーピー株式会社
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】小島 一真
- 【異議申立人】佐藤 徹
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7210628号発明「酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7210628号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第7210628号の請求項1~6、8、9に係る特許を維持する。
特許第7210628号の請求項7に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7210628号の請求項1~9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年11月29日に出願した特願2011-260094号(以下、「親出願」という。)の一部を平成28年4月28日に新たな特許出願とした特願2016-90097号(以下、「子出願」という。)について、その一部を平成31年3月22日に新たな特許出願とした特願2019-55533号(以下、「孫出願」という。)について、さらに、その一部を令和3年3月17日に新たな特許出願としたものであって、令和5年1月13日にその特許権の設定登録がなされ、同年1月23日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、令和5年7月21日に特許異議申立人佐藤徹(以下、「申立人」という。)より請求項1~9(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、同年10月27日付けで取消理由が通知され、これに対して、令和6年1月4日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、実質的に請求項の削除のみであり、新たな特許異議申立の対象が存在しないから、申立人に対して意見書を提出する機会を与えなかった(特許法第120条の5第5項ただし書)。
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第7210628号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。
(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正請求に係る訂正前の「pH3.0~4.6である胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」を「pH3.0~4.6であって、粘度が0.2~800Pa・sである胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~6、8、9も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項7を削除する。
(3)訂正事項3
請求項8について、本件訂正前の「請求項1~7のいずれか」を「請求項1~6のいずれか」と訂正する。
請求項8を引用する請求項9も同様に訂正する。
2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項7の記載を根拠として、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」について、「粘度が0.2~800Pa・sである」ことを特定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項7を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2により請求項7が削除されたことに伴い、引用する請求項8から請求項7の引用を省いたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
2-2 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~9は請求項1を引用するものであり、上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~9は一群の請求項であり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~9〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
4 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和6年1月4日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、及び、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~9〕についての訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質を0.5~5%、果糖(但し、みりん風調味料由来のものを除く)を2~35%、脂質を1~75%含有し、かつ酢酸を含有しpH3.0~4.6であって、粘度が0.2~800Pa・sである胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法において、
少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、卵黄由来の蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程と、
前記水相に油脂を添加して、乳化処理を行う工程と
を含む、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法(但し、胡麻を油相中で粉砕した後、他の原料と混合する工程を含むものを除く)。
【請求項2】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が種皮付きホール胡麻を2~15%含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が醤油を3~40%含有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が蛋白質を2~5%含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が脂質を10~45%含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料のpHが3.7~4.6である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
<削除>
【請求項8】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料がソルビン酸を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
酢酸とソルビン酸との含有量の比率が、1:0.005~1:1である、請求項8に記載の製造方法。」
第4 特許異議申立理由
1 申立人の主張する特許異議申立理由及び証拠方法
申立人は、証拠方法として次の甲第1~11号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲11」という。)を提出し、以下の申立理由1~4により、請求項1~9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2013-111014号公報
甲第2号証:特開2009-11206号公報
甲第3号証:Mintel GNPD[online:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/581359/from_search/XvafeOKNqi/?page=1],2006年8月掲載
甲第4号証:Mintel GNPD[online:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/662964/from_search/dB1mCBE2y6/?page=1],2007年2月掲載
甲第5号証:Mintel GNPD[online:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/799713/from_search/9Q5RTqCkxj/?page=1],2007年11月掲載
甲第6号証:Mintel GNPD[online:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1614215/from_search/TSHDz81ell/?page=1],2011年9月掲載
甲第7号証:Mintel GNPD[online:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1672784/from_search/nGiv10l6l5/?page=1],2011年11月掲載
甲第8号証:国際公開第2011/065364号
甲第9号証:T.Leth et al.,Estimated intake of benzoic and sorbic acids in Denmark.,Food Addit. and Contam.,2010年6月,Vol.27 No.6,pages 783-792
甲第10号証:香川芳子監修、四訂食品成分表2000、女子栄養大学出版部発行、平成12年1月、第96~97頁、第192~193頁、第296~297頁
甲第11号証:香川芳子監修、七訂食品成分表2016資料編、女子栄養大学出版部発行、2016年4月1日、第334頁
(1)申立理由1(分割要件違反による出願日不遡及に基づく、甲1を主たる引用例とした新規性・進歩性)
子出願は適法な分割出願ではないため、本件出願の出願日は子出願の出願日までしか遡及しないから、親出願に係る公開公報である甲1は、本件出願の出願日における公知文献である。
そうすると本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、または、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に採用)。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許は、次のア~カの理由により特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料におけるぶどう糖や蔗糖の含有量が特定されていないから、本件訂正前の発明の課題を解決し得るとはいえない(取消理由に不採用)。
イ 本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料における粘度が特定されていないから、本件訂正前の発明の課題を解決し得るとはいえない(取消理由に採用)。
ウ 本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料における「種皮付きホール胡麻」、「醤油」、「蛋白質」、「果糖」及び「脂質」の含有量が、本件出願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)に記載された実施例よりも極めて広範囲に特定されているから、本件訂正前の発明の解決しようとする課題を解決し得ない発明を包含するものである(取消理由に不採用)。
エ 本件訂正前の請求項9に係る発明は、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料における「酢酸とソルビン酸との含有量の比率」が、本件明細書に記載された実施例よりも極めて広範囲に特定されているから、本件訂正前の発明の解決しようとする課題を解決し得ない発明を包含するものである(取消理由に不採用)。
オ 本件明細書に記載された実施例における官能評価は、具体的にどのように実施されているかが不明であるから、本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、本件訂正前の発明の課題を解決し得るとはいえない(取消理由に不採用、審尋で採用)
カ 本件訂正前の請求項1に係る発明の「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、卵黄由来の蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程」は、実施例1と具体的な工程が異なるから、本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、本件訂正前の発明の解決しようとする課題を解決し得るかが不明である(取消理由に不採用)。
(3)申立理由3(明確性要件)
本件訂正前の請求項1に係る発明の「卵黄由来の蛋白質」は何を特定しているのかが不明であるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
(4)申立理由4(甲2を主たる引用例とした進歩性)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものあるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
2 特許権者による証拠方法
(1)特許権者は、証拠方法として次の乙第1、2号証を提出した。
(証拠方法)
乙第1号証:相島鐵郎訳,「食品ラボにおける官能評価(2)」,日本食品科学工学会誌,2001年5月,第48巻,第5号,第58~72頁
乙第2号証:「適切な方法で分析しよう!食品の官能評価の種類」,[online],株式会社えだまめ,インターネット
<https://frozen-lab.eda-mame.jp/basics/method-sensory-test3>
第5 令和5年10月27日付けの取消理由通知書で通知した取消理由
令和5年10月27日付けの取消理由通知書により、上記第4の特許異議申立理由のうち、次の取消理由を通知した。なお、当該取消理由通知書において、上記第4の申立理由2の(オ)に関連する審尋を行った。
1 取消理由1(分割要件違反による出願日不遡及に基づく、甲1を主たる引用例とした新規性・進歩性)
子出願は適法な分割出願ではないため、本件出願の出願日は子出願の出願日までしか遡及しないから、親出願に係る公開公報である甲1は、本件出願の出願日における公知文献である。
そうすると本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、または、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法同条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(サポート要件)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料における粘度が特定されていないため、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
当審では、次に示すとおり、上記第4の特許異議申立理由及び上記第5の取消理由によっては、本件特許の請求項1~6、8、9に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 分割要件について
(1)本件出願は、上記第1のとおり、平成23年11月29日に出願した親出願の一部を平成28年4月28日に新たな特許出願とした子出願について、その一部を平成31年3月22日に新たな特許出願とした孫出願について、さらに、その一部を令和3年3月17日に新たな特許出願としたものである。
(2)ここで、親出願の一部を平成28年4月28日に新たな特許出願とした、子出願の分割要件について検討する。
(3)親出願の出願当初及び子出願の分割出願時における、親出願の明細書には、次のとおり記載されている。
なお、親出願は、明細書が補正されていないので、親出願の子出願分割時の明細書は、親出願の出願当初の明細書と同一の記載である(以下、これらをまとめて「親出願明細書」という。)。
「【0026】
本発明の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料は、ぶどう糖、果糖、蔗糖から選ばれる少なくとも1種以上の糖を合計量で2~35%含有する。前記糖の合計含有量は、5~35%が好ましく、5~30%がより好ましい。前記糖の合計含有量を前記範囲とすることで、蛋白質と糖質によるメイラード反応等の各原料の相互作用により、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られる。前記糖の合計含有量が前記範囲より多いと、糖の甘味が強くなり過ぎ、胡麻の芳香を損ねてしまう場合がある。また、前記糖の組合せは、ぶどう糖及び果糖を含有することが好ましい。」
(4)上記(3)より、親出願明細書【0026】には、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料について、ぶどう糖、果糖、蔗糖から選ばれる少なくとも1種以上の糖を合計量で2~35%含有することで、蛋白質と糖質によるメイラード反応等の各原料の相互作用により、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られ、また、ぶどう糖、果糖、蔗糖から選ばれる少なくとも1種以上の糖の合計量が35%より多いと、糖の甘味が強くなり過ぎ、胡麻の芳香を損ねてしまう場合があることが記載されているといえる。
(5)一方、子出願の出願当初の明細書(以下、「子出願明細書」という。)には、次のとおり記載されており、その後、子出願において、次の記載について補正はなされていない。
「【0026】
本発明の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料は、果糖を2~35%含有する。前記糖の含有量は、5~35%が好ましく、5~30%がより好ましい。前記糖の含有量を前記範囲とすることで、蛋白質と糖質によるメイラード反応等の各原料の相互作用により、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られる。前記糖の合計含有量が前記範囲より多いと、糖の甘味が強くなり過ぎ、胡麻の芳香を損ねてしまう場合がある。」
(6)上記(5)より、子出願明細書【0026】には、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料において、果糖を2~35%含有することで、蛋白質と糖質によるメイラード反応等の各原料の相互作用により、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られ、また、果糖の合計含有量が35%より多いと、糖の甘味が強くなり過ぎ、胡麻の芳香を損ねてしまう場合があることが記載されているといえる。
(7)すなわち、「蛋白質と糖質によるメイラード反応等の各原料の相互作用により、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られ」るのは、親出願明細書では、上記(4)より、「ぶどう糖、果糖、蔗糖から選ばれる少なくとも1種以上の糖を合計量で2~35%含有する」場合であったのに対し、子出願明細書では、上記(6)より、「果糖を2~35%含有する」場合、すなわち、果糖2~35%に加えて、ぶどう糖及び蔗糖がさらに含まれ得る場合となっており、一見、ぶどう糖、果糖、蔗糖を合計量で35%以上含有する場合においても、「保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果」を奏することに記載内容が変更されているといえる。
(8)一方、子出願明細書には、次の記載もある。
「【0037】
なお、本発明の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料には、上述した酢酸、種皮付きホール胡麻、醤油、果糖、脂質、増粘多糖類以外に、本発明の効果を損なわない範囲で酸性乳化液状調味料に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、燐酸、塩酸、レモン果汁、リンゴ果汁、オレンジ果汁、乳酸発酵乳等の酸材、切り胡麻やすり胡麻等の破砕した胡麻、澱粉分解物、デキストリンアルコール、オリゴ糖、オリゴ糖アルコール等の糖類、グルタミン酸ナトリウム、食塩、動植物のエキス類等の各種調味料、からし粉、胡椒等の香辛料、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化材、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、静菌剤等が挙げられる。」
(9)上記(8)より、子出願明細書【0037】には、「本発明の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料には、上述した酢酸、種皮付きホール胡麻、醤油、果糖、脂質、増粘多糖類以外に、本発明の効果を損なわない範囲で酸性乳化液状調味料に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、・・・(略)・・・オリゴ糖、オリゴ糖アルコール等の糖類・・・(略)・・・等が挙げられる」と記載されている。
(10)また、特許権者は、令和6年1月4日付けの意見書において、次の主張をしている。
本件明細書「【0029】の記載(当審注:上記(5)に摘記した子出願明細書【0026】と同一内容。)は、糖の甘味が強くなり過ぎて胡麻の芳香を損ねないような配合を想定していると理解できるところ、仮に果糖の配合量が2~35%の範囲内であっても、ぶどう糖や庶糖など果糖と同様の甘味成分をさらに配合し、それらの他の糖が、果糖との合計で上記の上限値である35%を上回るほどに配合されてしまえば、糖の甘味が強くなり過ぎ、胡麻の芳香を損ねてしまう虞があり、そのことは本件発明の趣旨に反することを、当業者であれば容易に理解することができます。従いまして、上記の「果糖を2~35%含有する。前記糖の含有量は、5~35%が好ましく、5~30%がより好ましい」という記載は、ぶどう糖や庶糖のような果糖と同様の甘味成分を他にいくら加えても良いという趣旨とは到底解釈できず、加えるとしてもその合計値が、せいぜい(上述した果糖の上限値として記載されている)35%を超えない程度に留めるという趣旨と理解するのが、当業者の合理的な解釈と言えます。」
(11)上記(9)より、本件明細書には、酢酸、種皮付きホール胡麻、醤油、果糖、脂質、増粘多糖類以外に糖類を含有させてもよいが、それは本件発明の効果を損なわない範囲であると記載されている。
(12)また、上記(10)のように、本件発明において、ぶどう糖や庶糖など果糖と同様の甘味成分をさらに配合し、それらの他の糖が、果糖との合計で上記の上限値である35%を上回るほどに配合されてしまえば、本件発明の趣旨に反することを、当業者であれば容易に理解することができるといえる。
(13)そうすると、本件発明1の「胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」は、「果糖(但し、みりん風調味料由来のものを除く)を2~35%」「含有」するとの事項を含むものであるが、上記(11)及び(12)の検討からすると、ぶどう糖や庶糖など果糖と同様の甘味成分をさらに配合し、それらの他の糖が、果糖との合計で上記の上限値である35%を上回ることがないものであると解される。
(14)したがって、上記(7)のように、子出願明細書は、一見、ぶどう糖、果糖、蔗糖を合計量で35%以上含有する場合においても、「保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果」を奏することに記載内容が変更されているようにみえるものの、上記(13)のように、ぶどう糖や庶糖など果糖と同様の甘味成分をさらに配合し、それらの他の糖が、果糖との合計で上記の上限値である35%を上回ることがないと解されるから、結局、子出願明細書は、ぶどう糖、果糖、蔗糖を合計量で35%以下含有する場合に、「保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果」を奏することが記載されているといえる。
(15)よって、子出願明細書の記載は、上記(5)の記載及びそれ以外の記載を含め、親出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲、図面の記載の範囲内のものであり、かつ、親出願の子出願分割時の明細書、特許請求の範囲、図面の記載の範囲内のものであるから、子出願は、親出願に対して、形式的要件を含め、分割要件を満たしている、すなわち、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願としたものである。
また、孫出願は、子出願に対して分割要件を満たしており、かつ、親出願に対して分割要件のうちの実体的要件を満たしている。さらに、本件出願は、孫出願に対して分割要件を満たしており、かつ、親出願及び子出願に対して分割要件のうちの実体的要件を満たしている。
以上によれば、本件出願の出願日は、親出願の出願日である平成23年11月29日まで遡及する。
2 分割要件違反による出願日不遡及に基づく、甲1を主たる引用例とした新規性・進歩性(申立理由1、取消理由1)について
(1)上記1で検討したように、本件出願の出願日は平成23年11月29日まで遡及するから、甲1は、本件出願の出願日(遡及日)以降である平成25年6月10日に公開されたものであり、本件出願の出願日における公知文献とはいえない。
(2)そうすると、甲1は、特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものとはいえないから、甲1に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号に規定するものとはいえず、本件発明1~6、8、9について、甲1に基づいて新規性及び進歩性が欠如するとはいえない。
(3)よって、申立理由1、取消理由1は理由がない。
3 サポート要件について
(1)胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の粘度について(申立理由2の(イ)、取消理由2)
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、「保管後においても胡麻特有の芳香を十分に保持できる、酢酸を用いた胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料を提供する」(【0006】)ことである。
イ そして、本件明細書には、次の記載がある。
「【0011】
そこで、本発明者が、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酢酸を用いた胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料において、胡麻種子を種皮の付いたホール状で含有し、かつ、醤油等の蛋白質、ぶどう糖、果糖、蔗糖等の糖、脂質、粘度を特定の条件に調整することで、意外にも胡麻特有の芳香保持に非常に有効であることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。」
ウ また、本件明細書の実施例1~3(【0042】、【0046】、【0047】)において、実施例1では「酢酸1.2%」含有し、実施例2では「酢酸1.19%」含有し、実施例3では、酢酸が含有されているもののその含有量は不明であり(以下の当審注参照。)、さらに、「種皮付きホール胡麻2%」、「醤油30%」、「蛋白質は3%」、「果糖25%」、「脂質は10%」、「粘度は0.5Pa・s」とした「胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」を、「蓋付きPET容器に充填密封し、室温35℃で1ヵ月間保管した後」の「官能評価」において、少なくとも、保管後における胡麻特有の芳香を保持しており好ましかったことが記載されている。
当審注:本件明細書の「酢酸0.4%を酢酸0.3%及びソルビン酸0.1%に置換えた以外は、実施例1の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料に準じて、本発明の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料を調製した」(【0047】)との記載は、実施例1の酢酸の含有量が、「0.4%」ではなく「1.2%」(【0042】)であるから、その酢酸の含有量に誤記があると考えられる。よって、実施例3では、「胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」に、酢酸が含有されていると考えられるがその含有量は不明である。
エ さらに、本件発明1は、上記第3で摘記したとおりのものであり、「種皮付きホール胡麻を1~20%」、「醤油を1~40%」、「蛋白質を0.5~5%」、「果糖(但し、みりん風調味料由来のものを除く)を2~35%」、「脂質を1~75%」を含有し、かつ「酢酸を含有し」「粘度が0.2~800Pa・sである」ものであるから、上記アの課題を解決し得るものといえる。
オ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2~9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
カ なお、申立理由2の(イ)、取消理由2では、本件訂正前の請求項1~9に係る発明について、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料における粘度が特定されていない点が指摘されたが、本件訂正によって、本件発明1~6、8、9において粘度が特定された。
(2)ぶどう糖、蔗糖の含有量について(申立理由2の(ア))
ア 本件発明1~9は、上記(1)で検討したとおり、サポート要件を満たすものである。
イ なお、申立人は特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、本件明細書【0011】、【0022】、【0042】の記載より、本件発明1は、ぶどう糖、蔗糖等の含有量を特定条件にすることが、本件発明の課題解決するために必須の要件であるから、サポート要件を満たすものではないと主張している(申立書第30頁第6~17行)。
ウ ここで、本件明細書【0011】には、「ぶどう糖、果糖、蔗糖等の糖・・・(略)・・・を特定の条件に調整する」と記載され、同【0022】には、「種皮付きホール胡麻、醤油等の蛋白質、ぶどう糖、果糖、蔗糖等の糖による、アミノカルボニル反応やメイラード反応等の各原料の相互作用が進行し、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られる」と記載され、これらの記載によれば、本件明細書には、「ぶどう糖、果糖、蔗糖等の糖」の調整をすることが記載されているといえる。また、本件明細書【0042】には、単に「ぶどう糖5%、果糖25%」を含有させることが記載されている。
エ そして、上記1で検討したとおり、本件発明1の「胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」は、「果糖(但し、みりん風調味料由来のものを除く)を2~35%」「含有」する」ことが特定されており、また、ぶどう糖や庶糖など果糖と同様の甘味成分をさらに配合し、それらの他の糖が、果糖との合計で上記の上限値である35%を上回ることがないものと解される。
オ そうすると、本件発明1は、実質的に、果糖の含有量のみならず、ぶどう糖や庶糖の含有量も特定されているといえるから、サポート要件を満たしてないとはいえない。
カ よって、申立人の主張は採用できない。
(3)種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、果糖、脂質の含有量について(申立理由2の(ウ))
ア 本件発明1~9は、上記(1)で検討したとおり、サポート要件を満たすものである。
イ なお、申立人は申立書において、本件発明1は、課題を解決し得るメカニズムが不明である上に、「種皮付きホール胡麻」、「醤油」、「蛋白質」、「果糖」、「脂質」の含有量が、実施例で評価を行っているのが各1点のみであるにもかかわらず、広範囲に規定しており、サポート要件を満たしていないと主張している(申立書第32頁第15行~第33頁最終行)。
ウ しかしながら、本件明細書の【0012】~【0016】の記載、「種皮付きホール胡麻」(【0023】)、「醤油」(【0026】)、「蛋白質」(【0027】)、「果糖」(【0029】)及び「脂質」(【0033】)についての記載、及び、実施例の記載(【0042】~【0047】)から、「種皮付きホール胡麻」、「醤油」、「蛋白質」、「果糖」、「脂質」の含有量が、本件発明1に特定された範囲で本件発明の課題を解決し得ることが理解できる。
エ よって、申立人の主張は採用できない。
(4)酢酸とソルビン酸との含有量の比率について(申立理由2の(エ))
ア 本件発明1~9は、上記(1)で検討したとおり、サポート要件を満たすものである。
イ なお、申立人は申立書において、本件発明9の「酢酸とソルビン酸との含有量の比率」は、実施例で評価を行っているのが各1点のみであるにもかかわらず、広範囲に規定しており、サポート要件を満たしていないと主張している(申立書第34頁第1~10行)が、上記(1)で検討したとおり、本件発明1は、上記(1)のアの課題を解決し得るものであり、本件発明9は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、同様にサポート要件を満たすものである。
ウ よって、申立人の主張は採用できない。
(5)官能評価について(申立理由2の(オ))
ア 申立人は申立書において、次の主張をしている(申立書第34頁第17~25行)。
本件特許の官能評価は、「評価基準、評価者の人数や経験値などが不明であるから、保管後における胡麻特有の芳香の保持具合を客観的に正確に評価したものと捉えることは困難であるので、上記官能評価をもって、本件特許の請求項1の数値範囲がサポートされているとはいえない。」
イ 一方、本件特許の官能評価について、特許権者は、令和6年1月4日付けの意見書において、次の主張をしている。
「本件明細書に記載の官能評価試験(以下、「本件官能評価」といいます)の条件に関し、評価者(評価者の人数及び経験値)としては、十分に訓練された少人数のパネルを用いて行っております。また、試験方法としては、それぞれのサンプル(実施例1~3、比較例1~3)について、評価者がどのサンプルがどの処方に該当するか分からないブラインドの形で行われており、特に標準サンプルは定めておりませんが、・・・(略)・・・実質的に実施例1のサンプルが、本件発明の目的である胡麻特有の芳香の保持ができ、かつ他のサンプルと比較できる標準サンプルとしての機能を果たしているものと考えます。
これらの評価方法ないし評価者などの条件は、官能評価・・・(略)・・・において極めて一般的な手法であり敢えてその詳細を本件明細書に記載しておりませんが、官能評価に関する技術常識を踏まえれば、これによる客観性は十分に担保されており、本件発明の作用効果の裏付けとして十分であると考えます。」
ウ 上記イの主張を参酌すると、本件特許の官能評価は一般的な手法で行われ、かつ、客観性は十分に担保されていると考えられる。
エ よって、申立人の主張は採用できない。
オ なお、本件発明1~9がサポート要件を満たすものであることは、上記(1)で検討したとおりである。
(6)混合・調製工程について(申立理由2の(カ))
ア 本件発明1~9は、上記(1)で検討したとおり、サポート要件を満たすものである。
イ なお、申立人は申立書において、次の主張をしている。
「本件明細書の段落【0011】、【0022】、【0035】、【0040】等の記載より、実施例1において酢酸、キサンタンガム(増粘多糖類)及びぶどう糖を一緒に混合して水相を調製しない(当審注:下線は当審で付した。以下、同じ。)場合に本件特許発明の課題を解決できるかは不明である。」(申立書第35頁第7~10行)
ウ しかしながら、本件発明1は、「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、卵黄由来の蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程」「を含む」ものであるから、「酢酸、キサンタンガム(増粘多糖類)及びぶどう糖を一緒に混合して水相を調製しない場合に」本件特許発明の課題を解決できなくてもサポート要件違反とはいえない。
エ 仮に、上記イの主張が、実施例1において酢酸、キサンタンガム(増粘多糖類)及びぶどう糖を一緒に混合しないで水相を調製する場合に本件特許発明の課題を解決できるかは不明であるというものであった場合について、念のため以下検討する。
オ 本件明細書【0011】には、「酢酸を用いた胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料において、胡麻種子を種皮の付いたホール状で含有し、かつ、醤油等の蛋白質、ぶどう糖、果糖、蔗糖等の糖、脂質、粘度を特定の条件に調整することで、意外にも胡麻特有の芳香保持に非常に有効であることを見出し」たと記載されている。なお、この記載における「ぶどう糖、果糖、蔗糖等の糖」とは、「ぶどう糖、果糖、蔗糖等」の何らかの「糖」であると解される。
カ そうすると、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料に「酢酸、キサンタンガム(増粘多糖類)及びぶどう糖」を混合しなかったとしても、胡麻特有の芳香保持という上記(1)のアの課題を解決し得るといえる。
キ よって、申立人の主張は採用できない。
(7)よって、申立理由2、取消理由2は理由がない。
4 明確性要件について(申立理由3)
(1)「卵黄由来の蛋白質」について
ア 本件発明1は、「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、卵黄由来の蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程」「を含む」ものである。
イ そして、上記アの「卵黄由来の蛋白質」は、その文言からみて、卵黄から得られる蛋白質そのものを意味していることは明らかである。
ウ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(2)よって、申立理由3は理由がない。
5 甲2を主たる引用例とした進歩性(申立理由4)
(1)甲2に記載された発明
ア 甲2の実施例8の液体調味料の製造方法に注目すると、甲2(特に、【0057】、表1、2参照。)には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「水16.65質量部、キサンタンガム0.05質量部、液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)1質量部、食酢(酸度15%)5質量部、砂糖11質量部、グルタミン酸ナトリウム0.3質量部、醤油15質量部、食塩1.5質量部、10%加塩卵黄1.5質量部の配合に従って水相調味液成分を混合し、TKホモディスパーで均一に分散し、これに別途白胡麻の洗い胡麻30gをフライパンに入れ、ガス流量5L/minの火力にて2分間加熱焙煎し、焙煎粒胡麻としたものを加え、85℃にて10分攪拌しながら加熱殺菌後冷却し、水相を得て、当該水相である前記水相調味液52質量部及び前記焙煎粒胡麻8質量部と、油相であるDAG(ジアシルグリセロール高含有油脂)40質量部及びフレーバーオイル0.1質量部を混合し、85℃にて10分攪拌しながら加熱殺菌し、これをミクロカッターを用い、回転数3600rpm、リングカッタースリット幅を3.0mmとし、2パスすることで乳化物を得る、
乳化後の液体調味料中の粒胡麻残存率が91.2%である、
液体調味料の製造方法。」
(2)請求項1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
なお、甲2発明は、「水相を得て、当該水相である前記水相調味液52質量部及び前記焙煎粒胡麻8質量部と、油相であるDAG(ジアシルグリセロール高含有油脂)40質量部及びフレーバーオイル0.1質量部を混合」するものであるところ、これらの材料を合計すると52質量部+8質量部+40質量部+0.1質量部=100.1質量部となり100質量部とはならないが、ほぼ100質量部であるから、各材料は上記(1)のアに記載した含有量をそのまま用いて、以下検討を行う。
ア 甲2発明の「焙煎粒胡麻8質量部」は、「白胡麻の洗い胡麻30gをフライパンに入れ、ガス流量5L/minの火力にて2分間加熱焙煎し」たものであって、技術常識に照らして、種皮付きのものと解され、「乳化後の液体調味料中の粒胡麻残存率が91.2%である」から、液体調味料は、粒胡麻が7.296質量部含まれたものである。また、本件明細書には、「本発明において「%」は「質量%」を・・・(略)・・・意味する」(【0017】)と記載されている。
そうすると、甲2発明の「焙煎粒胡麻8質量部」は、本件発明1の「種皮付きホール胡麻1~20%」に相当する。
イ 甲2発明の「醤油15質量部」は、本件発明1の「醤油を1~40%」に相当する。
ウ 甲2発明の「液体調味料」は、「焙煎粒胡麻8質量部」、「醤油15質量部」、「グルタミン酸ナトリウム0.3質量部」、「10%加塩卵黄1.5質量部」を含むものであり、甲10によれば、いりごまの蛋白質は20.3%(第96頁)、こいくち醤油の蛋白質は7.5%(第296頁)、生卵黄の蛋白質は15.3%(第192頁)である。また、グルタミン酸及びグルタミン酸ナトリウムのモル質量は、それぞれ147.13、169.11である。
そうすると、甲2発明の「液体調味料」には、次のとおり3.22%の蛋白質が含まれていると認められる。
焙煎粒胡麻:8%×20.3%=1.62%
醤油:15%×7.5%=1.13%
グルタミン酸ナトリウム:0.3%×147.13/169.11=0.26%
10%加塩卵黄:(1.5%×0.9)×15.3=0.21%
合計:1.62%+1.13%+0.26%+0.21%=3.22%
したがって、甲2発明の「液体調味料」は、本件発明1の「蛋白質を0.5~5%」「含有」する事項を含むものである。
エ 甲2発明の「液体調味料」は、「焙煎粒胡麻8質量部」、「DAG(ジアシルグリセロール高含有油脂)40質量部」、「フレーバーオイル0.1質量部」、「10%加塩卵黄1.5質量部」を含むものであり、甲10によれば、いりごまの脂質は54.2%(第96頁)、生卵黄の脂質は31.2%(第192頁)である。
そうすると、甲2発明の「液体調味料」には、次のとおり44.86%の脂質が含まれていると認められる。
焙煎粒胡麻:8%×54.2%=4.34%
DAG(ジアシルグリセロール高含有油脂):40%
フレーバーオイル:0.1%
10%加塩卵黄:(1.5%×0.9)×31.2=0.42%
合計:4.34%+40%+0.1%+0.42%=44.86%
したがって、甲2発明の「液体調味料」は、本件発明1の「脂質を1~75%」「含有」する事項を含むものである。
オ 甲2発明の「液体調味料」は、「食酢(酸度15%)5質量部」を含むものであるから、本件発明1の「酢酸を含有」する事項を含むものである。
カ 甲2発明は、「水16.65質量部、キサンタンガム0.05質量部、液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)1質量部、食酢(酸度15%)5質量部、砂糖11質量部、グルタミン酸ナトリウム0.3質量部、醤油15質量部、食塩1.5質量部、10%加塩卵黄1.5質量部の配合に従って水相調味液成分を混合し、TKホモディスパーで均一に分散し、これに別途白胡麻の洗い胡麻30gをフライパンに入れ、ガス流量5L/minの火力にて2分間加熱焙煎し、焙煎粒胡麻としたものを加え、85℃にて10分攪拌しながら加熱殺菌後冷却し、水相を得」るものであるから、本件発明1の「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、卵黄由来の蛋白質」を「混合して、水相を調製する工程」「を含む」ものである。
キ 甲2発明は、「水相である前記水相調味液52質量部及び前記焙煎粒胡麻8質量部と、油相であるDAG(ジアシルグリセロール高含有油脂)40質量部及びフレーバーオイル0.1質量部を混合し、85℃にて10分攪拌しながら加熱殺菌し、これをミクロカッターを用い、回転数3600rpm、リングカッタースリット幅を3.0mmとし、2パスすることで乳化物を得る」ものであるから、本件発明1の「水相に油脂を添加して、乳化処理を行う工程」「を含む」ものである。
ク 甲2発明の「液体調味料」は、「焙煎粒胡麻8質量部」を含むものであり、また、「水相」と「油相」を「混合し、85℃にて10分攪拌しながら加熱殺菌し」たものであるから、本件発明1の「胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」と「胡麻含有」「乳化液状調味料」で共通する。
ケ 上記ア~クより、本件発明1と甲2発明とは、
「種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質を0.5~5%、脂質を1~75%含有し、かつ酢酸を含有し、胡麻含有乳化液状調味料の製造方法において、
少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、及び、卵黄由来の蛋白質を混合して、水相を調製する工程と、
前記水相に油脂を添加して、乳化処理を行う工程と
を含む、胡麻含有乳化液状調味料の製造方法(但し、胡麻を油相中で粉砕した後、他の原料と混合する工程を含むものを除く)。」で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
「胡麻含有乳化液状調味料」について、本件発明1は、「果糖(但し、みりん風調味料由来のものを除く)を2~35%」「含有」するものであり、水相を調製する際に「果糖」を混合するのに対し、甲2発明は、「液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)1質量部」及び「砂糖11質量部」を含むものであり、水相を得る際に「液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)」と「砂糖」を混合する点。
(相違点2)
「胡麻含有乳化液状調味料」について、本件発明1は、「酸性」であって「pH3.0~4.6であ」るのに対し、甲2発明は、酸性であるか否か、pHが不明である点。
(相違点3)
「胡麻含有乳化液状調味料」について、本件発明1は、「粘度が0.2~800Pa・sである」のに対し、甲2発明は、粘度が不明である点。
(相違点4)
「胡麻含有乳化液状調味料」について、本件発明1は、「水中油型」であるのに対し、甲2発明は、水中油型であるか否かが不明である点。
コ 上記相違点1について検討する。
サ 甲2には、本発明の液体調味料の製造方法において、乳化物を構成する水相は水が主成分であり、その他の成分として、その一例として「糖」が記載(【0019】)されているが、「糖」を含有させる技術的意義が不明である。
シ 一方、甲3~甲7に記載されているように、ゴマフレーバーのドレッシングに果糖を含有させることは、周知技術であるものの、その技術的意義は不明である。
ス そうすると、上記サより、甲2発明は、「液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)」や「砂糖」を配合する技術的意義が不明であり、また、上記シの周知技術も技術的意義が不明であるから、甲2発明において、「液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)」や「砂糖」に代えてまたはその一部に代えて、もしくはこれらに加えて、「果糖」を含有させる動機がない。
セ 仮に、含有させる動機があったとしても、上記シの周知技術は「果糖」の含有量が不明であるから、甲2発明において、「果糖」の含有量を「2~35%」とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
ソ したがって、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
タ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)請求項2~6、8、9について
ア 請求項2~6、8、9は、請求項1を引用するものであり本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲2発明と少なくとも上記相違点1で相違する。
イ そして、上記(2)で検討したとおり、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、同様の理由により、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明2~9の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない
ウ よって、本件発明2~6、8、9は、甲2発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(4)よって、申立理由4は理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~6、8、9に係る特許は、令和5年10月27日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件特許の請求項1~6、8、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項7は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項7に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700754