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特許異議申立

2024-700223

キッチンナイフ

審判番号
2024-700223
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-018267
登録番号
7341365
請求日
2024年03月08日
審決日
2024年05月28日
公報発行日
2024年06月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】セブ ソシエテ アノニム
  • 【権利者代理人】弁理士法人谷・阿部特許事務所
  • 【異議申立人】佐藤 徹
審判長/審判官
  • 審判長 刈間 宏信
  • 審判官 大山 健
  • 審判官 菊地 牧子
分類
P1652.121-Y (B26B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7341365号発明「キッチンナイフ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7341365号の請求項1、2、5、6、9~12、14、15に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7341365号(以下「本件特許」という。)の請求項1、2、5、6、9~12、14、15(全請求項は請求項1~15)に係る特許についての出願は、令和5年2月9日(パリ条約による優先権主張 2022年12月14日、フランス共和国(FR))に出願されたものであって、令和5年8月31日にその特許権の設定登録がされ、令和5年9月8日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許に対し、令和6年3月8日に特許異議申立人 佐藤 徹(以下「申立人」という。)により請求項1、2、5、6、9~12、14、15に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。 なお、この申立てに係る特許異議申立書は、令和6年4月1日に提出された手続補正書により方式上の不備が補正されたところ、補正された特許異議申立書を、以下「申立書」という。 第2 本件発明 本件特許の請求項1、2、5、6、9~12、14、15の特許に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。また、総合して、「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、2、5、6、9~12、14、15に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、申立書6~9ページにおける構成要件の符号(1A~15A)に合わせて分説すると、次のとおりである。 「【請求項1】 1A ナイフであって、 1B 背(11)及び前記背(11)の反対側の切断エッジ(12)を有する刃(1)であって、前記刃(1)が末端部(13)と基端部(14)との間で長手方向(L)に沿って長手方向平面内で延びている、刃(1)、 1C 前記刃(1)の前記基端部(14)から前記長手方向(L)に沿って延びる柄(2)であって、前記柄(2)は前記刃(1)の前記基端部(14)に接続されており、及び 1D 前記長手方向平面において前記背(11)の実質的に延長部上に延びている上柄部分(21)、 1E 前記長手方向平面に延びていて前記上柄部分(21)の反対側の下柄部分(22)、 1F 前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられ前記上柄部分(21)と前記下柄部分(22)との間に延びる2つの柄脇部(23)、を有する、柄を備え、 1G 前記柄(2)が、前記柄脇部(23)の少なくとも一方に配置された複数の溝(400)を備え、前記溝(400)は互いに分離されており、前記刃(1)の最も近くに位置付けられた基準溝(410)と、前記基準溝(410)から前記刃(1)の反対側の前記柄(2)の自由端部の方向に前記柄(2)に沿って並んで配置された他の溝(400)とを有し、各溝(400)は延長部の平均方向(410)を有していてその長手方向平面における射影が長手方向(L)と溝角度γを形成しており、 1H 前記基準溝(410)は、0°~10°で構成される基準溝角度γRに従って配向され、前記複数の溝(400)のうちの後続の各溝(400)は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有し、2つの隣接する溝(400)のそれぞれの溝角度γが異なっている、ナイフ。 【請求項2】 2A 前記基準溝(410)から前記柄(2)の前記自由端部に向かう方向において、前記複数の溝(400)のうちの各溝(400)が、先行する溝(400)の前記溝角度γよりも大きな溝角度γを有する、請求項1に記載のナイフ。」 「【請求項5】 5A 前記複数の溝(400)の全部又は一部は、曲線に沿って延びている、請求項1に記載のナイフ。 【請求項6】 6A 前記複数の溝(400)のうちの1部分の溝(400)は、前記上柄部分(21)の側部上で配向された凹みで湾曲されており、前記複数の溝(400)のうちの他の部分の溝(400)は、前記下柄部分(22)の側部上で配向された凹みで湾曲されている、請求項1に記載のナイフ。」 「【請求項9】 9A 各溝(400)は、矩形形状、又は円弧形状或いは楕円弧形状の横断部分を有する、請求項1に記載のナイフ。 【請求項10】 10A 各柄脇部(23)が、前記上柄部分(21)に接続された上柄脇部分(231)と、前記下柄部分(22)に接続された下柄脇部分(232)とで形成され、前記上柄脇部分(231)が、横断方向に突出して前記長手方向平面に対して横断方向に前記柄脇部の最も外側の領域を構成する柄把持稜線部(233)により前記下柄脇部分(232)に接続されており、及び 10B 前記複数の溝(400)が、対応する前記柄脇部(23)の前記上柄脇部分(231)に配置されている、請求項1に記載のナイフ。 【請求項11】 11A 前記柄把持稜線部(233)が、前記上柄部分(21)よりも前記下柄部分(22)に近い、請求項10に記載のナイフ。 【請求項12】 12A 前記柄(2)が、前記刃(1)の前記基端部(14)に接続された接合部部分(100)と、前記接合部部分(100)から延びる主把持部分(200)とを有し、前記主把持部分(200)が、 12B 前記長手方向平面において前記背(11)の実質的に延長部上に延びる上部分(221)、 12C 前記長手方向平面内で延びていて前記上部分(221)の反対側の下部分(222)、 12D 前記長手方向平面の各側部で、それぞれ前記上部分(221)と前記下部分(222)との間に延びる2つの脇部(231)、を有し、 12E 各脇部は、前記上部分(221)に接続された上脇部分(2231)と、前記下部分(222)に接続された下脇部分(2232)とで形成され、前記上脇部分(2231)は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する把持稜線部(2233)により前記下脇部分(2232)に接続されており、 12F 前記柄(2)の前記主把持部分(200)は、長手方向平面において前記接合部部分(100)から延びていて前記下部分(222)と前記上部分(221)との間に形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有しており、前記長手方向の広がり角度αは、3°~8°で構成される固定値を有しており、及び 12G 溝(400)が、対応する前記脇部の前記上脇部分(2231)に配置されており、 12H 前記上部分(221)と前記下部分(222)がそれぞれ直線に沿って延びている、請求項1に記載のナイフ。」 「【請求項14】 14A 各柄脇部(23)は複数の溝(400)を備え、前記柄脇部(23)の一方の前記溝(400)は、前記長手方向平面に対して前記柄脇部(23)の他方の溝(400)と対称である、請求項1に記載のナイフ。 【請求項15】 15A それが1ピースナイフであることを特徴とする、請求項1に記載のナイフ。」 (以下、分説した構成要件を「構成1A」などという。) 第3 申立理由の概要 申立人による特許異議申立理由の概要及び申立人が提出した証拠方法(以下、申立人が提出した甲各号証を「甲1」などという。)は以下のとおりである。 1 申立の理由の概要 申立人は、請求項1、2、5、6、9~12、14、15に係る特許は、以下の申立理由1により取り消されるべきものである旨を申立している。 【申立理由1】(本件発明1、2、5、6、9~12、14、15についての進歩性欠如) 本件発明1、2、5、6、9~12、14、15は、下記甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、5、6、9~12、14、15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 申立人が提出した証拠方法 甲1:意匠登録第1602183号公報 甲2:意匠登録第1202128号公報 甲3:米国意匠特許発明第552430号明細書 甲4:国際公開第2020/240306号 甲5:意匠登録第1696570号公報 甲6:意匠登録第1233660号公報 甲7:特開2000-176184号公報 甲8:特開2000-189682号公報 甲9:特開2003-320179号公報 甲10:登録実用新案第3103210号公報 第4 甲号証に記載された事項及び発明等について 1 甲1について (1)甲1の記載事項 「【意匠に係る物品】包丁」 「【意匠の説明】斜視図に表れる途切れた線は、立体表面の形状を表すためのものである。背面図は正面図と対称に表れるため、省略する。部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で、それ以外の部分を破線で表している。一点鎖線は、部分意匠として登録を受けようとする部分とそれ以外の部分の境界のみを表している。」 「【正面図】 [図:0001411369000001.jpg] 」 「【A-A拡大断面図】 [図:0001411369000002.jpg] 」 (2)甲1の図面に文字等を付加して、申立人が申立書に記載した図面 「図A(甲1の【正面図】に、申立人が文字及び引き出し線等を付加したもの。) [図:0001411369000003.jpg] 」(申立書13ページ) (3)上記(1)、(2)から理解できる事項 上記(1)(2)から、甲1の包丁について、以下の事項が理解できる。 なお、甲1の図面には包丁の各部位の名称などは示されていないが、対比の便宜上、同一部位を指すと認められる場合には、甲1の包丁の各部位について本件発明で使用されている用語を用いる(甲2、3についても同様。)。 また、理解のため、本件発明1の構成1A~1Hに対応させて、甲1から理解できる事項及び甲1発明を分説して、それぞれの構成に1a~1hの符号を付した。以下「構成1a」などという。 さらに、意匠登録公報の図面は、意匠法施行規則第3条に、様式第6により作成すべきことが規定されており、甲1の「正面図」等の表示(様式第6の備考24)及び図面の記載内容からみて、甲1における各図面は、正投影図法により作成され、また、部分拡大図等の拡大した図面を除く各図面は、同一縮尺で作成されたものと推認できる。そして、甲1の包丁の柄の長手方向と複数の溝(「基準溝」、「基準溝と略平行な複数の溝」及び「それぞれ略平行な複数の他の溝」)の延長部の平均方向の長手方向平面における射影との間の角度(溝角度γ)は、正投影図法により作成した図面から認定できる。 ア 甲1の正面図及び図Aから理解できる事項 (ア)甲1の包丁(構成1a)は、刃が、背と、背の反対側の切断エッジとを有し、該刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている(構成1b。申立人が図Aで「長手方向」と特定した「直線」を「長手方向」とする。)。 (イ)甲1の包丁は、刃の基端部から長手方向に沿って延びる柄を備え、該柄は、刃の基端部に接続されている(構成1c)。 イ 甲1のA-A拡大断面図から理解できる事項 甲1の包丁の柄は、長手方向平面において背の実質的に延長部上に延びている上柄部分(構成1d)と、長手方向平面に延びていて上柄部分の反対側の下柄部分(構成1e)と、長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられ上柄部分と下柄部分との間に延びる2つの柄脇部(構成1f)とを有する。 ウ 甲1の正面図、A-A拡大断面図及び図Aから理解できる事項 (ア)甲1の包丁の柄は、柄脇部の少なくとも一方に配置された複数の溝を備え、複数の溝は互いに分離されている(構成1g)。 (イ)甲1の包丁の柄は、刃の最も近くに位置付けられた基準溝を有する(構成1g。申立人が図Aで「溝(基準溝)」と引き出し線で特定した実線の溝を「基準溝」とする。)。 (ウ)甲1の包丁の柄は、基端部側に、基準溝から刃の反対側の柄の自由端部の方向に柄に沿って並んで配置された基準溝と略平行な複数の溝(以下「基準溝と略平行な複数の溝」という。)と、自由端部側に、基準溝から刃の反対側の柄の自由端部の方向に柄に沿って並んで配置されたそれぞれ略平行な複数の他の溝(以下「それぞれ略平行な複数の他の溝」という。)とを有する(構成1g。図Aで「基準溝」の右に並んで配置されている2本の実線の溝が「基準溝と略平行な複数の溝」であり、図Aで「基準溝」及び「基準溝と略平行な複数の溝」のさらに右に基準溝とは異なる角度で並んで配置されている3本の実線の溝が「それぞれ略平行な複数の他の溝」である。)。 (エ)甲1の包丁の柄の各溝(「基準溝」、「基準溝と略平行な複数の溝」及び「それぞれ略平行な複数の他の溝」)は、それぞれ延長部の平均方向(なお、「延長部の平均方向」の定義については、本件特許の明細書の段落【0130】を参照。)を有していてその長手方向平面における射影(申立人が図Aで特定した、溝に沿った「直線」が、それぞれ「基準溝」及び「他の溝」の「延長部の平均方向の長手方向平面における射影」である。)が長手方向と溝角度γR、γを形成しており(構成1g)、基準溝は、7°で構成される基準溝角度γRに従って配向されている(構成1h)。 (オ)甲1の包丁の柄において、「それぞれ略平行な複数の他の溝」の延長部の平均方向の長手方向平面における射影は長手方向と溝角度γを形成し、当該溝角度γは30°(図Aの溝角度γ=150°の補角)であり、基準溝角度γR(7°)よりも大きい(構成1h。なお、溝角度γ(直線と直線が交わる角度)の算出については、下記第5の1(3)イも参照されたい。)。 (4)甲1発明 上記(1)~(3)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> 「1a 包丁であって、 1b 背及び前記背の反対側の切断エッジを有する刃であって、前記刃が末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内で延びている、刃、 1c 前記刃の前記基端部から前記長手方向に沿って延びる柄であって、前記柄は前記刃の前記基端部に接続されており、及び 1d 前記長手方向平面において前記背の実質的に延長部上に延びている上柄部分、 1e 前記長手方向平面に延びていて前記上柄部分の反対側の下柄部分、 1f 前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられ前記上柄部分と前記下柄部分との間に延びる2つの柄脇部、を有する、柄を備え、 1g 前記柄が、前記柄脇部の少なくとも一方に配置された複数の溝を備え、前記溝は互いに分離されており、前記刃の最も近くに位置付けられた基準溝と、前記基準溝から前記刃の反対側の前記柄の自由端部の方向に前記柄に沿って並んで配置された基準溝と略平行な複数の溝及びそれぞれ略平行な複数の他の溝とを有し、各溝は延長部の平均方向を有していてその長手方向平面における射影が長手方向と溝角度を形成しており、 1h 前記基準溝は、7°で構成される基準溝角度γRに従って配向され、前記複数の溝は、基準溝角度γRと略同じ溝角度γを有し、前記複数の他の溝は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有して、2つの隣接する溝のそれぞれの溝角度γが略同じである、包丁。」 2 甲2について (1)甲2の記載事項 「【意匠に係る物品】包丁」 「【意匠の説明】実線で表わした部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は、部分意匠として意匠を受けようとする部分とその他の部分との境界を示す線である。背面図は正面図と対称に表れる。」 「【正面図】 [図:0001411369000004.jpg] 」 「【A-A部分拡大図】 [図:0001411369000005.jpg] 」 「【E-E拡大端面図】 [図:0001411369000006.jpg] 」 「【F-F拡大端面図】 [図:0001411369000007.jpg] 」 「【G-G拡大端面図】 [図:0001411369000008.jpg] 」 (2)甲2の図面に文字等を付加して、申立人が申立書に記載した図面 「図B(甲2の【A-A部分拡大図】に、申立人が文字等を付加したもの。) [図:0001411369000009.jpg] 」(申立書17、18ページ) (3)上記(1)、(2)から理解できる事項 ア 包丁の柄は、柄脇部の少なくとも一方に配置された5本の溝を備える。 イ 柄の長手方向(図Bにおいて、「長手方向」と特定された「直線」を参照。)と、各溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影(図Bにおいて、5本の溝にそれぞれ沿った5本の「直線」を参照。)との溝角度γが、刃の最も近くに位置付けられた溝から柄の自由端部の方向に、それぞれ44°(図Bの基準溝角度γR=136°の補角。以下同様。)、35°、29°、20°、8°である(なお、甲2における、溝角度γ(直線と直線が交わる角度)の算出については、下記第5の1(3)イも参照されたい。甲3についても同様。)。 (4)甲2に記載の技術的事項 上記(1)~(3)から、甲2には、以下の技術的事項(以下「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「包丁の柄が、柄脇部の少なくとも一方に配置された5本の溝を備え、柄の長手方向と、各溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影との溝角度γが、刃の最も近くに位置付けられた溝から柄の自由端部の方向に、それぞれ44°、35°、29°、20°、8°であること。」 3 甲3について (1)甲3の記載事項 「KNIFE」 「FIG.2 [図:0001411369000010.jpg] 」 (2)甲3の図面に文字等を付加して、申立人が申立書に記載した図面 「図C(甲3のFIG.2に、申立人が文字等を付加したもの。) [図:0001411369000011.jpg] 」(申立書18ページ) (3)上記(1)、(2)から理解できる事項 上記(1)、(2)から、甲3には、以下の技術的事項(以下「甲3に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 ア ナイフの柄は、柄脇部の少なくとも一方に配置された複数の溝を備える。 イ 柄の長手方向(図Cにおいて、「長手方向」と特定された「直線」を参照。)と、各溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影(図Cにおいて、刃の最も近くに位置付けられた溝及び柄の自由端部付近の3本の溝について、それぞれ特定された4本の「直線」を参照。)との溝角度γが、刃の最も近くに位置付けられた溝では60°(図Cの基準溝角度γR=120°の補角。以下同様。)であり、柄の自由端部付近の3本の溝では、柄の自由端部の方向にそれぞれ39°、37°、34°である。 (4)甲3に記載の技術的事項 上記(1)~(3)から、甲3には、以下の技術的事項(以下「甲3に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「ナイフの柄が、柄脇部の少なくとも一方に配置された複数の溝を備え、柄の長手方向と、各溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影との溝角度γが、刃の最も近くに位置付けられた溝では60°であり、柄の自由端部付近の3本の溝では、柄の自由端部の方向にそれぞれ39°、37°、34°であること。」 第5 当審の判断 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と、甲1発明とを対比する。 甲1発明の構成1aの「包丁」は本件発明1の構成1Aの「ナイフ」に相当する。 また、甲1発明の構成1gの「前記基準溝から前記刃の反対側の前記柄の自由端部の方向に前記柄に沿って並んで配置された基準溝と略平行な複数の溝及びそれぞれ略平行な複数の他の溝」は、本件発明1の構成1Gの「前記基準溝から前記刃の反対側の前記柄の自由端部の方向に前記柄に沿って並んで配置された他の溝」に包含される。 そして、甲1発明の構成1a~1gは、本件発明1の構成1A~1Gにそれぞれ相当する。 さらに、甲1発明の構成1hの「7°で構成される基準溝角度γR」は、「7°」が「0°~10°」の範囲内であるから、本件発明1の構成1Hの「0°~10°で構成される基準溝角度γR」に包含されるところ、甲1発明の構成1hと本件発明1の構成1Hとは、 「前記基準溝は、0°~10°で構成される基準溝角度γRに従って配向され、前記複数の溝のうちの後続の各溝は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有」する限りで共通する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> ナイフであって、 背及び前記背の反対側の切断エッジを有する刃であって、前記刃が末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内で延びている、刃、 前記刃の前記基端部から前記長手方向に沿って延びる柄であって、前記柄は前記刃の前記基端部に接続されており、及び 前記長手方向平面において前記背の実質的に延長部上に延びている上柄部分、 前記長手方向平面に延びていて前記上柄部分の反対側の下柄部分、 前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられ前記上柄部分と前記下柄部分との間に延びる2つの柄脇部、を有する、柄を備え、 前記柄が、前記柄脇部の少なくとも一方に配置された複数の溝を備え、前記溝は互いに分離されており、前記刃の最も近くに位置付けられた基準溝と、前記基準溝から前記刃の反対側の前記柄の自由端部の方向に前記柄に沿って並んで配置された他の溝とを有し、各溝は延長部の平均方向を有していてその長手方向平面における射影が長手方向と溝角度γを形成しており、 前記基準溝は、0°~10°で構成される基準溝角度γRに従って配向され、前記複数の溝のうちの後続の各溝は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有する、ナイフ。 <相違点> ナイフの柄において、刃の最も近くに位置付けられた基準溝は、0°~10°で構成される基準溝角度γRに従って配向されている(構成1H)ところ、柄の自由端部の方向に柄に沿って並んで配置された後続の各溝について、本件発明1は、「前記複数の溝のうちの後続の各溝は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有し、2つの隣接する溝のそれぞれの溝角度γが異なっている」(構成1H)のに対し、甲1発明では、後続の各溝のうち、「前記複数の溝」は、基準溝角度γRと略同じ溝角度γを有し、「前記複数の他の溝」は、2つの隣接する溝のそれぞれの溝角度γが略同じである点。 (2)判断 ア 設計変更について (ア)甲1発明を設計変更して、相違点に係る本件発明1とすることが当業者にとって容易になし得たか、検討する。 (イ)まず、甲1は、意匠登録公報であるところ、包丁の柄の柄脇部に配置された「複数の溝」の位置や配向の技術的な意義について、具体的な記載や示唆はないから、甲1から、甲1発明を設計変更することの動機付けは認められない。 (ウ)さらに、本件特許の明細書には、包丁の柄における溝の位置や配向について、 「【0138】 提案された特定の形状、配向及び配置を有する溝400の使用は、使用者の手のナイフへの接着を強化することができるため、特に有利であり、一方では把持を容易にし、他方では、特に手が柄から滑るのを防ぐことによって使用者の安全を保証しながら切断を容易にする。 【0139】 溝400の形状及び配向は、特に手が柄の外形によくフィットすることを可能にし、手の表面との接触面を増やす。 【0140】 溝400の特定の配向はまた、食品を切断するときに使用者が手で与える移動に抵抗する領域を生成するという特別な利点を有する。 【0141】 具体的には、柄2の前方側部、すなわち刃の側部に配置された溝400は、長手方向Lと実質的に平行な、又は長手方向Lに対してわずかに傾斜された配向を有する。したがって、これらの溝400は、刃の長手方向Lと実質的に垂直な方向における使用者による食品の切断の促進を可能にする。このような切断は、柄の前部から、すなわち、接合部部分に向けて全体として付与されることに留意すべきである。 【0142】 刃1から離れるにつれて、溝400は真っ直ぐになって長手方向Lに対してより顕著な傾斜、例えば25°以上のオーダーの角度を有するようになる傾向があり、これは対応する溝400にさらなる利点、すなわち、刃の長手方向Lに実質的に垂直な方向であるが長手方向Lに沿った並進の方向にも、使用者による食品の切断を促進することを与える。」と記載されている(なお、下線部は当審で付した。以下同様。)。 すなわち、本件特許の明細書の記載からは、包丁の柄において、複数の溝(基準溝及び後続の各溝)の位置や配向が本件発明1のように設計されることにより、全体として、使用者の手のナイフへの接着を強化し、把持を容易にし、手が柄から滑るのを防ぐことによって使用者の安全を保証しながら切断を容易にし、手が柄の外形によくフィットすることを可能にし、手の表面との接触面を増やし、食品を切断するときに使用者が手で与える移動に抵抗する領域を生成し、垂直な方向にも並進の方向にも使用者による食品の切断を促進する、との作用効果を奏すると理解できる。 (エ)このように、相違点に係る本件発明1の構成により、全体として、上記の作用効果を奏するものであるから、包丁の柄における複数の溝の位置や配向を、本件発明1のように設計することは単なる設計的事項であるとはいえないし、甲1発明における複数の溝のうちの一部の溝の位置や配向を変更して上記作用効果を奏するように設計する動機付けも見当たらないから、当業者にとって容易であるともいえない。 イ その他の甲号証の適用について (ア)申立人は、申立書17~19ページにおいて、「前記複数の溝のうちの後続の各溝は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有し、2つの隣接する溝のそれぞれの溝角度γが異なっている」ことは甲2~4に開示されている周知技術であり、本件発明1は甲1発明に当該周知技術を適用して容易になし得る旨を主張しているから、甲1発明に甲2~4の技術的事項を適用して、本件発明1とすることが当業者にとって容易であるか、以下に検討する。 (イ)まず、甲2に「包丁の柄が、柄脇部の少なくとも一方に配置された5本の溝を備え、柄の長手方向と、各溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影との溝角度γが、刃の最も近くに位置付けられた溝から柄の自由端部の方向に、それぞれ44°、35°、29°、20°、8°であること。」との技術的事項(上記第4の2(4))、及び甲3に「ナイフの柄が、柄脇部の少なくとも一方に配置された複数の溝を備え、柄の長手方向と、各溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影との溝角度γが、刃の最も近くに位置付けられた溝では60°であり、柄の自由端部付近の3本の溝では、柄の自由端部の方向にそれぞれ39°、37°、34°であること。」との技術的事項(上記第4の3(4))が、それぞれ記載されていると認めることはできる。 しかしながら、甲1発明の包丁と、甲2及び甲3に記載の技術的事項の包丁及びナイフとは、それぞれの柄に設けられた複数の溝の位置や配向が大きく異なるところ、甲2及び甲3も、甲1と同様に意匠登録公報であって、包丁の柄の複数の溝の位置や配向の技術的意義が明記されていないから、それぞれの複数の溝の全体的な位置や配向を捨象して、一部の溝の配向のみに着目して、甲2及び甲3に記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえない。 また、仮に甲1発明の包丁に甲2及び甲3に記載の技術的事項を適用しても、甲1発明の包丁の柄において、後続の各溝(「基準溝と略平行な複数の溝」及び「それぞれ略平行な複数の他の溝」)を基準溝角度γRよりも小さくするように、後続の各溝が配向されるものとなるから、相違点に係る「前記複数の溝のうちの後続の各溝は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有し、2つの隣接する溝のそれぞれの溝角度γが異なっている」とする構成には至らない。 (ウ)続いて、甲4について、申立人は申立書19ページにおいて、甲4のFig.1に文字等を付加した下記図Dを記載し、甲4では、基準溝の基準溝角度γR=29°、他の溝の溝角度γは34°、42゜等となっており、隣接する溝の溝角度γが異なっている旨の主張をしている。 「図D [図:0001411369000012.jpg] 」 しかしながら、特許出願の図面は、出願に係る発明の特徴を最もよく表すように記載されるもの(特許法施行規則第25条に係る様式第30の備考5)であって、必ずしも正確な設計図が記載されているとは限らず、模式図も許容されるところ、甲4に係る出願の発明は、溝の位置や配向を特徴とするものではないから、甲4のFig.1のみを根拠として、甲4に、基準溝の基準溝角度γRが29°、他の溝の溝角度γが34°、42゜であり、隣接する溝の溝角度γが異なっているとの技術的事項が記載されていると認めることはできない。また、甲4は折り畳みナイフに関するものであり、甲1発明の包丁とは柄の構造が大きく異なる上に、甲4の明細書にはハンドル20上の溝についての説明もないことから、甲1発明に甲4に記載の技術的事項を適用することが容易であるともいえない。 (エ)以上から、甲1発明に甲2~4に記載の技術的事項を適用しても、相違点に係る本件発明1の構成には至らない。 (オ)さらに、甲5~10にも、ナイフの柄において、刃の最も近くに位置付けられた基準溝を、0°~10°で構成される基準溝角度γRに従って配向した上で、「前記複数の溝のうちの後続の各溝は、前記基準溝角度γRよりも大きい溝角度γを有し、2つの隣接する溝のそれぞれの溝角度γが異なっている」構成とすることは記載も示唆もされていない。 (カ)したがって、甲1発明、甲2~4に記載の技術的事項、及び甲5~10に記載の技術的事項を適用して、本件発明1とすることは当業者が容易になし得たものではない。 (3)本件発明1の進歩性についての申立人の主張 ア 申立人は、申立書17ページにおいて、甲1発明の包丁において、溝の数を任意に変更可能であるから、甲1発明の包丁において、図Aで示した1つの基準溝と、1つの他の溝だけを有する構成にし得る旨を主張している。 しかしながら、本件発明1は、「前記基準溝(410)から前記刃(1)の反対側の前記柄(2)の自由端部の方向に前記柄(2)に沿って並んで配置された他の溝(400)」(構成1G)、及び、「前記複数の溝(400)のうちの後続の各溝(400)は、・・・2つの隣接する溝(400)のそれぞれの溝角度γが異なっている」(構成1H)ことを発明特定事項に含むものであり、基準溝に後続する各溝が隣接するように複数並んで配置されていることが特定されているといえるから、申立人が図Aで示した1つの基準溝と、1つの他の溝だけを有する構成にすることができたとしても、本件発明1には至らない。 また、甲1発明を設計変更して、本件発明1とすることが容易になし得たことではないことは、上記(2)アに説示したとおりである。 イ 申立人は、甲2について、申立書17~18ページにおいて、図B(上記第4の2(2)を参照。)を記載し、長手方向の直線と、複数の各溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影の直線とが交わる大きい方の角が「基準溝角度γR」又は「溝角度γ」である旨を示し、甲2において、基準溝の基準溝角度γRは136°、他の溝の溝角度γは、基準溝に近接する溝から順に145°、151°、160°、172゜となっている旨を主張し、同様に甲3について、図C(上記第4の3(2)を参照。)を記載し、基準溝の基準溝角度γR=l20°、他の溝の溝角度γは141°、143°、146゜等となっている旨を主張している。 しかしながら、2直線のなす角度は一般的に小さい方の角度で特定されるものであるところ、本件発明1の溝角度γ(及び基準溝角度γR)も小さい方の角度で特定されている(本件特許の明細書の段落【0130】~【0142】、図16、21等を参照。)上に、申立人は、図Aの基準溝γRを小さい方の角度で計測しているから、甲2及び甲3においても、複数の溝の溝角度γは、直線と直線(柄の長手方向の直線と、複数の溝の延長部の平均方向の長手方向平面における射影の直線)が交わる小さい方の角度(すなわち、申立人が図B及び図Cで説明する基準溝角度γRや溝角度γの補角の角度)で統一して計測すべきものである。 したがって、上記申立人の主張は採用できない。また、本件特許の明細書全体を参酌しても、溝角度γ(及び基準溝角度γR)を直線と直線が交わる大きい方の角度で特定すべき特段の事情も見当たらない。 さらに、申立人は、申立書13ページにおいて、甲1における、他の溝の溝角度γが150°である旨も主張しているが、同様の理由により採用できない。 ウ 以上から、申立人の主張を参酌しても、相違点に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易になし得たということはできない。 2 本件発明2、5、6、9~12、14、15について 本件発明2、5、6、9~12、14、15は請求項1を引用するものであり、本件発明2、5、6、9~12、14、15と、甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点(上記1(1))では相違するから、本件発明2、5、6、9~12、14、15は、同様の理由により、甲1発明、甲2~4に記載の技術的事項、及び甲5~10に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たとはいえない。 3 小括 以上から、本件発明1、2、5、6、9~12、14、15は、甲1発明、甲2~4に記載の技術的事項、及び甲5~10に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、請求項1、2、5、6、9~12、14、15に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとする申立理由1により、取り消すことはできない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1、2、5、6、9~12、14、15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2、5、6、9~12、14、15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700223

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