特許異議申立
2024-700270
キッチンナイフ
- 審判番号
- 2024-700270
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-018271
- 登録番号
- 7350201
- 請求日
- 2024年03月25日
- 審決日
- 2024年12月12日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】セブ ソシエテ アノニム
- 【権利者代理人】弁理士法人谷・阿部特許事務所
- 【異議申立人】佐藤 徹
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 本庄 亮太郎
- 審判官 大山 健
- 分類
- P1652.113-YAA(B26B) / P1652.121-YAA(B26B) / P1652.537-YAA(B26B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7350201号発明「キッチンナイフ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7350201号の特許請求の範囲を令和6年8月28日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔9~15〕について訂正することを認める。
特許第7350201号の請求項1、2、5、8、9、12及び15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7350201号(以下「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許(2022年(令和4年)12月14日 優先日(優先権主張国 フランス共和国(FR)))についての主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年2月9日 出願
令和5年9月14日 特許権の設定登録
令和5年9月25日 特許掲載公報の発行
令和6年3月25日 特許異議申立人 佐藤徹(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1、2、5、8、9、12及び15に係る特許についての特許異議の申立て(以下「申立て」ともいい、提出された特許異議申立書を「申立書」という。)
令和6年5月30日付け 取消理由通知
令和6年8月28日 特許権者セブ ソシエテ アノニム(以下「特許権者」という。)による、訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、当該訂正を「本件訂正」という。)、意見書の提出
(なお、本件訂正請求に係る訂正請求書の請求人の欄の記載及び意見書の特許権者の欄の記載は、それぞれ、令和6年9月20日の手続補正により、前記の特許権者の名称に補正がされた。)
令和6年9月26日付け 訂正請求があった旨の申立人への通知
(通知で指定した期間内に、申立人からの意見書の提出はなかった。)
第2 本件訂正の適否
1 訂正事項1
(1)訂正の内容
特許請求の範囲の請求項9に
「前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、前記柄(2)は、前記主把持部分(200)に接続されていてそこから延びる端部部分(300)を更に備え、」
と記載されているのを
「前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、前記上部分(221)及び前記下部分(222)は、それぞれ直線に沿って延びており、各把持稜線部(2233)は直線に沿って延びており、前記柄(2)は、前記主把持部分(200)に接続されていてそこから延びる端部部分(300)を更に備え、」
と訂正する(下線は訂正箇所を示し、第2において以下同様。請求項9を引用する請求項10~15も同様に訂正する)。
(2)訂正の目的、新規事項、及び特許請求の範囲の拡張・変更
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の柄の主把持部分について、前記(1)の下線部の構成を追加して限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。
イ 新規事項
本件特許に係る明細書【0018】に「-上部分(221)及び下部分(222)はそれぞれ直線に沿って延びていて、各把持稜線部(2233)は直線に沿って延びている。」と記載されていることからみて、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるから新規事項ではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
前記アのとおり、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
2 訂正事項2
(1)訂正の内容
特許請求の範囲の請求項9に
「前記下端部偏向量(FiE)と前記端部高さ(HE)との間の比が、前記端部部分(300)の自由端部から開始して前記長手方向(L)に沿って前記主把持部分(200)の方向に増加している、ナイフ。」
と記載されているのを
「前記下端部偏向量(FiE)と前記端部高さ(HE)との間の比が、前記端部部分(300)の自由端部から開始して前記長手方向(L)に沿って前記主把持部分(200)の方向に減少している、ナイフ。」
と訂正する(請求項9を引用する請求項10~15も同様に訂正する)。
(2)訂正の目的、新規事項、及び特許請求の範囲の拡張・変更
ア 訂正の目的
下端部偏向量(FiE)と端部高さ(HE)との間の比について、訂正前の請求項9には、「前記端部部分(300)の自由端部から開始して前記長手方向(L)に沿って前記主把持部分(200)の方向に増加」すると記載されていたところ、明細書等の【0109】には、「下端部偏向量FiEと端部高さHEの比が端部部分300の自由端部から主把持部分200の方向に始まり長手方向Lに沿って減少するように、特に形成されている。」と記載されており、訂正前の請求項9の記載と矛盾していた。
また、明細書等の図2を参照すると、端部部分300における、FiEとHEは、いずれも、自由端部から長手方向Lに沿って増加しているが、HEの増加量に比べて、FiEの増加量が小さいと認められるから、FiE/HEは、自由端部から開始して主把持部分200の方向に減少するものとして示されており、明細書等の【0109】の記載と合わせて考慮すると、訂正前の請求項9の上記の「増加」の記載が「減少」の誤記であることは明らかである。
そうすると、訂正事項2は、「増加」は誤記であるとして「減少」に訂正するものであるから、訂正事項2は特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)のうちの明細書【0109】には、「下端部偏向量FiEと端部高さHEの比が端部部分300の自由端部から主把持部分200の方向に始まり長手方向Lに沿って減少するように、特に形成されている。」(当審注:ここの下線は当審付与。)と記載されているから、訂正事項2は当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであって新規事項に該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、前記アで示したとおり、誤記の訂正を目的とするものである。そして、請求項中の記載が、設定登録時の明細書及び図面の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるとき(上記ア参照。)において、その誤りを正しい記載にする訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから(審判便覧第20版38-03訂正要件の3(3)を参照。)、訂正事項2は特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する訂正である。
3 一群の請求項
訂正前の請求項9~15は、その請求項10~15が本件訂正請求の対象である請求項9を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、請求項9~15を訂正することを求める本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
4 独立特許要件
訂正後の一群の請求項9~15のうち、請求項10~11、及び13~14については特許異議の申立てがされていないため、これらの請求項に係る発明について特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項の規定に適合するか検討する。
訂正後の請求項10~11、及び13~14は、いずれも、訂正後の請求項9を直接的又は間接的に引用する関係にあるところ、訂正後の請求項9に係る発明は、以下の第6の1に説示するとおり、甲第1号証に記載されたものであるとはいえず、また、以下の第6の2に説示するとおり、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証~甲第11号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、訂正後の請求項10~11、及び13~14に係る発明も同様に、甲第1号証に記載されたものであるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証~甲第11号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、訂正後の請求項10~11、及び13~14の記載について不備は見当たらないし、他に請求項10~11、及び13~14に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も見当たらない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項~7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔9~15〕について訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項9~15に係る発明、及び訂正のない請求項1、2、5及び8に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、総合して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、5及び8~15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
ナイフであって、
- 背(11)と、前記背(11)とは反対側の切断エッジ(12)とを有する刃(1)であって、前記刃(1)は、末端部(13)と基端部(14)との間で長手方向(L)に沿って長手方向平面内に延びている、刃(1)、
- 前記長手方向(L)に沿って前記刃(1)の前記基端部(14)から延びる柄(2)であって、前記柄(2)は、前記刃(1)の前記基端部(14)に接続された接合部部分(100)と、前記接合部部分(100)から延びる主把持部分(200)とを有し、前記主把持部分(200)は、
前記長手方向平面において前記背(11)の延長部上に実質的に延びる上部分(221)、
前記長手方向平面内に延びていて前記上部分(221)とは反対側の下部分(222)、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分(221)と前記下部分(222)との間に延びる2つの脇部(23)、を有し、
各脇部(23)は、前記上部分(221)に接続された上脇部分(2231)と、前記下部分(222)に接続された下脇部分(2232)とで形成され、前記上脇部分(2231)は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する把持稜線部(2233)によって前記下脇部分(2232)に接続されている、柄、を備え
前記柄(2)の前記主把持部分(200)は、前記接合部部分(100)から長手方向平面内に延びていて前記下部分(222)と前記上部分(221)との間に形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、
前記上部分(221)及び前記下部分(222)は、それぞれ直線に沿って延びており、各把持稜線部(2233)は直線に沿って延びており、
前記接合部部分(100)は、
前記長手方向平面において前記背(11)の延長部上に実質的に延びる上接合部部分(121)であって、前記上接合部部分(121)は、前記背(11)を前記主把持部分(200)の前記上部分(221)に接続している、上接合部部分(121)、
前記長手方向平面内に延びていて前記上接合部部分(121)とは反対側の下接合部部分(122)であって、前記下接合部部分(122)は、刃(1)の基端部(14)を主把持部分(200)の下部分(222)に接続している、下接合部部分(122)、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上接合部部分(121)と前記下接合部部分(122)との間に延びる2つの接合部脇部(123)、であって、各接合部脇部(123)は、前記上接合部部分(121)に接続された上接合部脇部分(1231)と、前記下接合部部分(122)に接続された下接合部脇部分(1232)とで形成され、前記上接合部脇部分(1231)は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記接合部脇部の最も外側の領域を構成する接合部把持稜線部(1233)によって前記下接合部脇部分(1232)に接続されている、2つの接合部脇部(123)、を備え、
前記長手方向(L)に沿った所与の位置における前記下接合部部分(122)と前記上接合部部分(121)との間の前記長手方向平面における距離が、接合部高さ(HJ)を規定し、前記長手方向(L)に沿った所与の位置における前記下接合部部分(122)と前記接合部把持稜線部(1233)の前記長手方向平面における射影との間の距離が、下接合部偏向量(FiJ)を規定し、前記下接合部偏向量(FiJ)と前記接合部高さ(HJ)との間の比が、前記刃(1)から開始して前記主把持部分(200)の方向に前記長手方向(L)に沿って減少している、ナイフ。
【請求項2】
前記長手方向の広がり角度αは、3.5°~5.5°で構成される固定値を有する、請求項1に記載のナイフ。
【請求項5】
前記接合部部分(100)との接続部のレベルにおける前記主把持部分(200)の柄高さ(H)は、17mm~22mmで構成される値、好ましくは18mm~21mmで構成される値を有し、より好ましくは20mmのオーダーである、請求項1に記載のナイフ。
【請求項8】
前記接合部部分(100)の前記接合部高さ(HJ)が、14mm~18mmで構成される、好ましくは15mm~16mmで構成される最小値を有する、請求項1に記載のナイフ。
【請求項9】
ナイフであって、
- 背(11)と、前記背(11)とは反対側の切断エッジ(12)とを有する刃(1)であって、前記刃(1)は、末端部(13)と基端部(14)との間で長手方向(L)に沿って長手方向平面内に延びている、刃(1)、
- 前記長手方向(L)に沿って前記刃(1)の前記基端部(14)から延びる柄(2)であって、前記柄(2)は、前記刃(1)の前記基端部(14)に接続された接合部部分(100)と、前記接合部部分(100)から延びる主把持部分(200)とを有し、前記主把持部分(200)は、
前記長手方向平面において前記背(11)の延長部上に実質的に延びる上部分(221)、
前記長手方向平面内に延びていて前記上部分(221)とは反対側の下部分(222)、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分(221)と前記下部分(222)との間に延びる2つの脇部(23)、を有し、
各脇部(23)は、前記上部分(221)に接続された上脇部分(2231)と、前記下部分(222)に接続された下脇部分(2232)とで形成され、前記上脇部分(2231)は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する把持稜線部(2233)によって前記下脇部分(2232)に接続されている、柄、を備え
前記柄(2)の前記主把持部分(200)は、前記接合部部分(100)から長手方向平面内に延びていて前記下部分(222)と前記上部分(221)との間に形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、
前記上部分(221)及び前記下部分(222)は、それぞれ直線に沿って延びており、各把持稜線部(2233)は直線に沿って延びており、
前記柄(2)は、前記主把持部分(200)に接続されていてそこから延びる端部部分(300)を更に備え、前記端部部分(300)は、
前記長手方向平面において前記背(11)の延長部上に実質的に延びる上端部部分(321)であって、前記上端部部分(321)は、前記主把持部分(200)の前記上部分(221)に接続されている、上端部部分(321)、
前記長手方向平面内に延びていて前記上端部部分の反対側の下端部部分(322)であって、前記下端部部分(322)は、前記主把持部分(200)の前記下部分(222)に接続されている、下端部部分(322)、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられ前記上端部部分(321)と前記下端部部分(322)との間に延びる2つの端部脇部(323)、を備え、
各端部脇部(323)は、前記上端部部分(321)に接続された上端部脇部分(3231)と、下端部部分(322)に接続された下端部脇部分(3232)とで形成され、前記上端部脇部分(3231)は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記端部脇部の最も外側の領域を構成する端部把持稜線部(3233)によって前記下端部脇部分(3232)に接続されており、
前記長手方向(L)に沿った所与の位置における前記下端部部分(322)と前記上端部部分(321)との間の前記長手方向平面における距離が、端部高さ(HE)を規定し、前記下端部部分(322)と前記長手方向(L)に沿った所与の位置における前記端部把持稜線部(3233)の前記長手方向平面における射影との間の前記長手方向平面における距離が、下端部偏向量(FiE)を規定し、前記下端部偏向量(FiE)と前記端部高さ(HE)との間の比が、前記端部部分(300)の自由端部から開始して前記長手方向(L)に沿って前記主把持部分(200)の方向に減少している、ナイフ。
【請求項10】
各端部把持稜線部(3233)は、湾曲されていて変曲点を有さない、請求項9に記載のナイフ。
【請求項11】
上端部部分(321)が直線に沿って延びていて、下端部部分(322)が変曲点のない曲線に沿って延びている、請求項9に記載のナイフ。
【請求項12】
前記長手方向の広がり角度αは、3.5°~5.5°で構成される固定値を有する、請求項9に記載のナイフ。
【請求項13】
前記柄(2)の前記主把持部分(200)は、前記接合部部分(100)から延びていて前記柄(2)の前記主把持部分(200)の前記脇部(23)の2つの前記把持稜線部の間に形成される横断方向の広がり角度βによって規定される横断方向の広がりを呈する形状を有し、前記横断方向の広がり角度βは1°~5°で構成される固定値を有する、請求項9に記載のナイフ。
【請求項14】
前記横断方向の広がり角度βは、1.5°~4°で構成される固定値、好ましくは2°~3°、で構成される固定値を有する、請求項13に記載のナイフ。
【請求項15】
それが1ピースナイフであることを特徴とする、請求項1又は9に記載のナイフ。
第4 申立人による申立ての概要
1 申立ての理由
申立ての理由は、以下のとおり整理することができる。
(1)理由1:特許法29条1項3号(特許法113条2号)
請求項1及び9、甲第1号証
(2)理由2:特許法29条2項(特許法113条2号)
講求項1、2、5、8、9、12及び15、甲第1号証~甲第11号証
(3)理由3:特許法36条6項1号(特許法113条4号)
請求項9
2 申立人による証拠方法
甲第1号証 意匠登録第1696570号公報
甲第2号証 意匠登録第461535号公報
甲第3号証 意匠登録第541208号公報
甲第4号証 意匠登録第1402525号公報
甲第5号証 意匠登録第1710826号公報
甲第6号証 意匠登録第1642878号公報
甲第7号証 意匠登録第1633073号公報
甲第8号証 特開2000-176184号公報
甲第9号証 特開2000-189682号公報
甲第10号証 特開2003-320179号公報
甲第11号証 登録実用新案第3103210号公報(当審注:申立書では実用新案登録第3103210号公報とされているが、甲第11号証として提出された証拠は、平成6年1月1日施行の実用新案法に基づく公報なので、上記のとおりに記載した。また、各甲号証を以下「甲1」などという。)
第5 取消理由通知に記載した取消理由
1 取消理由の概要
訂正前の請求項9、12及び15に係る特許(以下、これらをまとめて「訂正前の本件特許」という。)に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(サポート要件)訂正前の本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)(明確性)訂正前の本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
なお、サポート要件の取消理由は、申立人による申立ての理由3(特許法36条6項1号)と同趣旨のものである。
2 判断
(1)サポート要件
訂正前の請求項9における「増加」が、前記第2の2の訂正事項2によって「減少」と訂正されたので、請求項9の記載が発明の詳細な説明の記載内容と整合したから、サポート要件の不備は解消された。請求項9を引用する請求項12、15についても同様である。
(2)明確性
訂正前の請求項9に記載の「広がり角度α」が「3°~8°で構成される固定値を有」するとはどのような構造を特定するものなのかについて、前記第2の1の訂正事項1のうち「前記上部分(221)及び前記下部分(222)は、それぞれ直線に沿って延びており、」という訂正によって上部分(221)と下部分(222)とがそれぞれ直線であることが明確になり、2つの直線の間に形成された角度は固定値となるから、上部分(221)と下部分(222)との間に形成された長手方向の広がり角度α(明細書【0054】、図5等参照)も固定値を有するといえるものになった。
したがって、請求項9の記載についての明確性の不備は解消された。請求項9を引用する請求項12、15についても同様である。
3 小括
以上のとおりであるから、訂正後の請求項9、12及び15に係る特許は、取消理由通知において示したいずれの取消理由によっても取り消すことができない。
第6 取消理由通知において採用しなかった申立ての理由
申立人による申立ての理由1~3(前記第4の1(1)~(3))のうち、前記第5にて検討したもの以外の、申立ての理由1及び2について、以下に検討する。
1 理由1(特許法29条1項3号)
(1)甲1の記載事項
「【意匠に係る物品】包丁」
「【意匠の説明】実線で表された部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。背面図は正面図と対称に表れるため省略する。一点鎖線は意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」
「【正面図】
[図:0001421350000001.jpg]
」
「【右側面図】
[図:0001421350000002.jpg]
」
「【左側面図】
[図:0001421350000003.jpg]
」
(2)甲1の図面に申立人が文字及び引出線を付加したもの
図A(甲1正面図に文字等を付加。申立書15ページ)
「
[図:0001421350000004.jpg]
」
図B(甲1左側面図に文字等を付加。申立書17ページ)
「
[図:0001421350000005.jpg]
」
図C(甲1正面図に対し申立人が拡大し文字等を付加した部分拡大図。申立書19ページ)
「
[図:0001421350000006.jpg]
」
図D(甲1右側面図に文字等を付加。申立書20ページ)
「
[図:0001421350000007.jpg]
」
(3)前記(1)及び(2)から理解できる事項
甲1の図面には包丁の各部位の名称が示されていないので、本件発明と同様の部位を指すと認められる場合、対比の便宜上、甲1の包丁の各部位について本件発明で使用されている名称を用いる(以下、各甲号証についても同様)。
また、意匠登録公報の図面は、意匠法施行規則3条に、様式第6により作成すべきことが規定されている。そして、甲1の「正面図」等の表示(様式第6の備考24)及び各図面の記載内容からみて、甲1における各図面は正投影図法によって作成されたものと認められるので、部分拡大図等の拡大した図面を除く各図面は、同一縮尺で作成されたものと認められる。そうすると、本件発明に関する角度や比について対応するものがあれば、甲1の正投影図法によって作成した図面に基づいて認定することができる。
そのうえで、甲1の包丁について、前記(1)及び(2)から以下の事項が理解できる。
ア 前記(1)正面図及び前記(2)図Aには、「背」、「切断エッジ」、「刃」、「末端部」、「基端部」、「長手方向」、「柄」、「接合部部分」、「主把持部分」、「上部分」及び「下部分」に相当するものが示されている。
イ 前記(1)正面図、左側面図、右側面図及び前記(2)図A、B及びDには、「2つの脇部」に相当するものが示されている。
ウ 前記(1)左側面図及び右側面図をみると、以下の参考図1で示すものが「上脇部分」及び「下脇部分」に相当するといえる。なお、本件発明1の上脇部分及び下脇部分は、それぞれ上部分及び下部分に接続されるものであるのに対し、申立人が前記(2)図C及びDにおいて上脇部分として上部分と同じ部位を示し、下脇部分として下部分と同じ部位を示しているので、これらの上脇部分及び下脇部分はそれぞれ上部分及び下部分に接続されたものであるとはいえない。
参考図1(左側面図及び右側面図を順に並べ、文字及び引出線を当審で付与。)
「
[図:0001421350000008.jpg]
」
エ 前記参考図1において「脇部面」として示した部位は、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に脇部の最も外側の領域を構成する面であるとはいえるものの、その形状からみて、この脇部面を「稜線」とまではいえない。したがって、甲1には、把持稜線部が示されているとはいえず、前記「脇部面」といえるものが示されている。
オ 前記(1)正面図及び前記(2)図Aには「広がり角度α」に相当するものが示されている。また、この角度αについては、申立書18ページ1~2行の「図面により計測される広がり角度αは3°である。」という認定を当審でも採用する。
カ 前記(1)正面図、前記(2)図A及び前記参考図1からは、上部分及び下部分はそれぞれ直線に沿って延びており、各脇部面はその面に沿って延びていることが示されている。
キ 前記(1)正面図及び前記(2)図Cには、「上接合部部分」及び「下接合部部分」に相当するものが示されている。
ク 前記(1)正面図及び右側面図をみると、以下の参考図2で示す部位が「上接合部脇部分」及び「下接合部脇部分」に相当するといえる。なお、本件発明1の上接合部脇部分は、上接合部部分に接続されたものであるのに対し、申立人が前記(2)図Cにおいて上接合部脇部分とした部位(参考図2でいう接合部脇部面の部位)は、上接合部部分に接続されたものであるとはいえない。
参考図2(当審による正面図の部分拡大図。文字及び引出線を当審で付与。)
「
[図:0001421350000009.jpg]
」
ケ 前記参考図2において「接合部脇部面」として示した部位は、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に接合部脇部の最も外側の領域を構成する面であるとはいえるものの、その形状からみて、この接合部脇部面を「稜線」とまではいえない。したがって、甲1には、接合部把持稜線部が示されているとはいえず、前記「接合部脇部面」といえるものが示されている。
コ 前記(1)正面図及び前記(2)図Cには、「接合部高さ(HJ)」に相当するものが示されている。
サ 前記(1)正面図及び左側面図をみると、以下の参考図3で示すものが「端部部分」に相当するといえる。
なお、本件発明9の端部部分は、キッチンナイフの長手方向に沿って切断が行われる場合に、使用者の手が滑らないように抵抗を生じさせるという技術的な意義が認められる(明細書等の【0115】)ところ、申立人が前記(2)図Cで端部部分であると示す部位は、柄の末端であって使用者による包丁の把持に関係のない部分であるから、前記(2)図Cで示すものを端部部分ということはできない。
参考図3(当審による正面図の部分拡大図。文字及び矢印を当審で付与)
「
[図:0001421350000010.jpg]
」
シ 前記サで認定した「端部部分」について、前記(1)正面図には、「上端部部分」及び「下端部部分」に相当するものが示されている。
ス 前記(1)右側面図及び左側面図からみて、前記参考図3の端部部分における上から1番目と2番目の横線の間に形成される部分が「上端部脇部分」といえ、上から3番目と4番目の横線の間に形成される部分が「下端部脇部分」といえる。
一方、上から2番目と3番目の横線との間に形成される面は、その面自体が、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に端部脇部の最も外側の領域を構成するものではあるものの、面であって「稜線」とまではいえない。したがって、甲1には、端部把持稜線部が示されているとまではいえず、「端部脇部面」といえるものが示されている。
セ 前記(1)正面図及び前記(2)図Cには、「端部高さ(HE)」に相当するものが示されている。
(4)甲1発明
ア 前記(3)ア~コによると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されている。
「包丁であって、
- 背と、前記背とは反対側の切断エッジとを有する刃であって、前記刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている、刃、
- 前記長手方向に沿って前記刃の前記基端部から延びる柄であって、前記柄は、前記刃の前記基端部に接続された接合部部分と、前記接合部部分から延びる主把持部分とを有し、前記主把持部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上部分とは反対側の下部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分と前記下部分との間に延びる2つの脇部、を有し、
各脇部は、前記上部分に接続された上脇部分と、前記下部分に接続された下脇部分と、上脇部分と下脇部分の間の脇部面とで形成され、前記上脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する前記脇部面によって前記下脇部分に接続されている、柄、を備え
前記柄の前記主把持部分は、前記接合部部分から長手方向平面内に延びていて前記下部分と前記上部分との間に形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°で構成される固定値を有し、
前記上部分及び前記下部分は、それぞれ直線に沿って延びており、各脇部面はその面に沿って延びており、
前記接合部部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上接合部部分であって、前記上接合部部分は、前記背を前記主把持部分の前記上部分に接続している、上接合部部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上接合部部分とは反対側の下接合部部分であって、前記下接合部部分は、刃の基端部を主把持部分の下部分に接続している、下接合部部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上接合部部分と前記下接合部部分との間に延びる2つの接合部脇部、であって、各接合部脇部は、前記上接合部部分に接続された上接合部脇部分と、前記下接合部部分に接続された下接合部脇部分と、上接合部脇部分と下接合部脇部分の間の接合部脇部面とで形成され、前記上接合部脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記接合部脇部の最も外側の領域を構成する前記接合部脇部面によって前記下接合部脇部分に接続されている、2つの接合部脇部、を備え、
前記長手方向に沿った所与の位置における前記下接合部部分と前記上接合部部分との間の前記長手方向平面における距離が、接合部高さ(HJ)を規定している、包丁。」(下線は当審で付与。以下同じ。)
イ 前記(3)ア~カ及びサ~セによると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されている。
「包丁であって、
- 背と、前記背とは反対側の切断エッジとを有する刃であって、前記刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている、刃、
- 前記長手方向に沿って前記刃の前記基端部から延びる柄であって、前記柄は、前記刃の前記基端部に接続された接合部部分と、前記接合部部分から延びる主把持部分とを有し、前記主把持部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上部分とは反対側の下部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分と前記下部分との間に延びる2つの脇部、を有し、
各脇部は、前記上部分に接続された上脇部分と、前記下部分に接続された下脇部分と、上脇部分と下脇部分の間の脇部面とで形成され、前記上脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する前記脇部面によって前記下脇部分に接続されている、柄、を備え
前記柄の前記主把持部分は、前記接合部部分から長手方向平面内に延びていて前記下部分と前記上部分との間に形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°で構成される固定値を有し、
前記上部分及び前記下部分は、それぞれ直線に沿って延びており、各脇部面はその面に沿って延びており、
前記柄は、前記主把持部分に接続されていてそこから延びる端部部分を更に備え、前記端部部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上端部部分であって、前記上端部部分は、前記主把持部分の前記上部分に接続されている、上端部部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上端部部分の反対側の下端部部分であって、前記下端部部分は、前記主把持部分の前記下部分に接続されている、下端部部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられ前記上端部部分と前記下端部部分との間に延びる2つの端部脇部、を備え、
各端部脇部は、前記上端部部分に接続された上端部脇部分と、下端部部分に接続された下端部脇部分と、上端部脇部分と下端部脇部分の間の端部脇部面とで形成され、前記上端部脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記端部脇部の最も外側の領域を構成する前記端部脇部面によって前記下端部脇部分に接続されており、
前記長手方向に沿った所与の位置における前記下端部部分と前記上端部部分との間の前記長手方向平面における距離が、端部高さを規定している、包丁。」
(5)対比
ア 本件発明1と甲1発明Aとの対比
本件発明1と甲1発明Aを対比すると、甲1発明Aの「包丁」は本件発明1の「ナイフ」に相当する。
また、甲1発明Aの「脇部面」と本件発明1の「把持稜線部」とは、いずれも上脇部分と下脇部分とを接続する部位であって、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に脇部の最も外側の領域を構成するものであるから、「脇部外側部位」という概念で共通する。
さらに、広がり角度αについて、甲1発明Aの「3°」は、本件発明1の「3°~8°」に含まれる値である。
加えて、甲1発明Aの脇部面が「その面」に沿って延びることと、本件発明1の把持稜線部が「直線」に沿って延びることは、脇部外側部位が「所定基準」に沿って延びるという概念で共通する。
最後に、甲1発明Aの「接合部脇部面」と本件発明1の「接合部把持稜線部」とは、いずれも上脇部分と下脇部分とを接続する部位であって、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に接合部脇部の最も外側の領域を構成するものであるから、「接合部外側部位」という概念で共通する。
イ 本件発明1と甲1発明Aとの一致点、相違点
前記アを踏まえると、本件発明1と甲1発明Aとは、
「ナイフであって、
- 背と、前記背とは反対側の切断エッジとを有する刃であって、前記刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている、刃、
- 前記長手方向に沿って前記刃の前記基端部から延びる柄であって、前記柄は、前記刃の前記基端部に接続された接合部部分と、前記接合部部分から延びる主把持部分とを有し、前記主把持部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上部分とは反対側の下部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分と前記下部分との間に延びる2つの脇部、を有し、
各脇部は、前記上部分に接続された上脇部分と、前記下部分に接続された下脇部分とで形成され、前記上脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する脇部外側部位によって前記下脇部分に接続されている、柄、を備え
前記柄の前記主把持部分は、前記接合部部分から長手方向平面内に延びていて前記下部分と前記上部分との間に形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、
前記上部分及び前記下部分は、それぞれ直線に沿って延びており、各脇部外側部位は所定基準に沿って延びており、
前記接合部部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上接合部部分であって、前記上接合部部分は、前記背を前記主把持部分の前記上部分に接続している、上接合部部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上接合部部分とは反対側の下接合部部分であって、前記下接合部部分は、刃の基端部を主把持部分の下部分に接続している、下接合部部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上接合部部分と前記下接合部部分との間に延びる2つの接合部脇部、であって、各接合部脇部は、前記上接合部部分に接続された上接合部脇部分と、前記下接合部部分に接続された下接合部脇部分とで形成され、前記上接合部脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記接合部脇部の最も外側の領域を構成する接合部外側部位によって前記下接合部脇部分に接続されている、2つの接合部脇部、を備え、
前記長手方向に沿った所与の位置における前記下接合部部分と前記上接合部部分との間の前記長手方向平面における距離が、接合部高さ(HJ)を規定している、ナイフ。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
脇部が、本件発明1では「上脇部分」及び「下脇部分」のみで形成されているのに対して、甲1発明Aでは「上脇部分」、「下脇部分」及び「脇部面」で形成され、また、脇部外側部位が、本件発明1では「把持稜線部(2233)」であるのに対し、甲1発明Aでは「脇部面」である点。
相違点2
所定基準が、本件発明1では「直線」であるのに対し、甲1発明Aでは「その面」である点。
相違点3
接合部脇部が、本件発明1では「上接合部脇部分」及び「下接合部脇部分」のみで形成されているのに対して、甲1発明Aでは「上接合部脇部分」、「下接合部脇部分」及び「接合部脇部面」で形成され、また、接合部外側部位が、本件発明1では「接合部把持稜線部(1233)」であるのに対し、甲1発明Aでは「接合部脇部面」である点。
相違点4
接合部に関し、本件発明1では「長手方向(L)に沿った所与の位置における下接合部部分(122)と接合部把持稜線部(1233)の前記長手方向平面における射影との間の距離が、下接合部偏向量(FiJ)を規定し、前記下接合部偏向量(FiJ)と接合部高さ(HJ)との間の比が、刃(1)から開始して主把持部分(200)の方向に前記長手方向(L)に沿って減少している」のに対し、甲1発明Aには接合部把持稜線部がないため下接合部偏向量(FiJ)を規定できず、それに伴って該当する「比」についても特定できない点。
ウ 本件発明9と甲1発明Bとの対比
本件発明9と甲1発明Bを対比すると、甲1発明Bの「包丁」は本件発明9の「ナイフ」に相当する。
また、甲1発明Bの「脇部面」と本件発明9の「把持稜線部」とは、いずれも上脇部分と下脇部分とを接続する部位であって、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に脇部の最も外側の領域を構成するものであるから、「脇部外側部位」という概念で共通する。
さらに、広がり角度αについて、甲1発明Bの「3°」は、本件発明9の「3°~8°」に含まれる値である。
加えて、甲1発明Bの脇部面が「その面」に沿って延びることと、本件発明9の把持稜線部が「直線」に沿って延びることは、脇部外側部位が「所定基準」に沿って延びるという概念で共通する。
最後に、甲1発明Bの「端部脇部面」と本件発明9の「端部把持稜線部」とは、いずれも上脇部分と下脇部分とを接続する部位であって、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に端部脇部の最も外側の領域を構成するものであるから、「端部外側部位」という概念で共通する。
エ 本件発明9と甲1発明Bとの一致点、相違点
前記ウを踏まえると、本件発明9と甲1発明Bとは、
「ナイフであって、
- 背と、前記背とは反対側の切断エッジとを有する刃であって、前記刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている、刃、
- 前記長手方向に沿って前記刃の前記基端部から延びる柄であって、前記柄は、前記刃の前記基端部に接続された接合部部分と、前記接合部部分から延びる主把持部分とを有し、前記主把持部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上部分とは反対側の下部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分と前記下部分との間に延びる2つの脇部、を有し、
各脇部は、前記上部分に接続された上脇部分と、前記下部分に接続された下脇部分とで形成され、前記上脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する脇部外側部位によって前記下脇部分に接続されている、柄、を備え
前記柄の前記主把持部分は、前記接合部部分から長手方向平面内に延びていて前記下部分と前記上部分との間に形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、
前記上部分及び前記下部分は、それぞれ直線に沿って延びており、各脇部外側部位は所定基準に沿って延びており、
前記柄は、前記主把持部分に接続されていてそこから延びる端部部分を更に備え、前記端部部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上端部部分であって、前記上端部部分は、前記主把持部分の前記上部分に接続されている、上端部部分、
前記長手方向平面内に延びていて前記上端部部分の反対側の下端部部分であって、前記下端部部分は、前記主把持部分の前記下部分に接続されている、下端部部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられ前記上端部部分と前記下端部部分との間に延びる2つの端部脇部、を備え、
各端部脇部は、前記上端部部分に接続された上端部脇部分と、下端部部分に接続された下端部脇部分とで形成され、前記上端部脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記端部脇部の最も外側の領域を構成する端部外側部位によって前記下端部脇部分に接続されており、
前記長手方向に沿った所与の位置における前記下端部部分と前記上端部部分との間の前記長手方向平面における距離が、端部高さを規定している、ナイフ。」
という点で一致し、前記イにおける相違点1~2のほか、以下の点で相違する。
相違点5
端部脇部が、本件発明1では「上端部脇部分」及び「下端部脇部分」のみで形成されているのに対して、甲1発明Aでは「上端部脇部分」、「下端部脇部分」及び「端部脇部面」で形成され、また、端部外側部位が、本件発明9では「端部把持稜線部(3233)」であるのに対し、甲1発明Bでは「端部脇部面」である点。
相違点6
端部に関し、本件発明9では「下端部部分(322)と長手方向(L)に沿った所与の位置における端部把持稜線部(3233)の前記長手方向平面における射影との間の前記長手方向平面における距離が、下端部偏向量(FiE)を規定し、前記下端部偏向量(FiE)と端部高さ(HE)との間の比が、端部部分(300)の自由端部から開始して前記長手方向(L)に沿って主把持部分(200)の方向に減少している」のに対し、甲1発明Bには端部把持稜線部がないため下端部偏向量(FiE)を規定できず、それに伴って該当する「比」についても何ら特定できない点。
(6)判断
ア 本件発明1
前記(5)イのとおり、本件発明1と甲1発明Aとには前記相違点1~4があるから、本件発明1は甲1に記載されたものであるとはいえない。
イ 本件発明9
前記(5)エのとおり、本件発明9と甲1発明Bとには前記相違点1~2及び5~6があるから、本件発明9は甲1に記載されたものであるとはいえない。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件発明1及び9は、甲1に記載されたものであるとはいえない。
2 理由2(特許法29条2項)
(1)甲2~甲7の記載事項、及び甲2~甲7の図面に申立人が文字及び引出線を付加したもの
ア 甲2
「意匠に係る物品 果物ナイフ」
「背面図
[図:0001421350000011.jpg]
」
図E(甲2背面図に対し申立人が拡大し文字等を付加した部分拡大図。申立書24ページ)
「
[図:0001421350000012.jpg]
」
イ 甲3
「意匠に係る物品 調理用ナイフ」
「正面図
[図:0001421350000013.jpg]
」
図F(甲3正面図に対し申立人が向きを変えて拡大し文字等を付加した部分拡大図。申立書25ページ)
「
[図:0001421350000014.jpg]
」
ウ 甲4
「【意匠に係る物品】包丁」
「【正面図】
[図:0001421350000015.jpg]
図G(甲4正面図に対し申立人が拡大し文字等を付加した部分拡大図。申立書26ページ)
「
[図:0001421350000016.jpg]
」
エ 甲5
「【意匠に係る物品】包丁」
「【正面図】
[図:0001421350000017.jpg]
」
図I(甲5正面図に対し申立人が拡大し文字等を付加した部分拡大図。申立書30ページ)
「
[図:0001421350000018.jpg]
」
オ 甲6
「【意匠に係る物品】包丁」
「【正面図】
[図:0001421350000019.jpg]
」
図J(甲6正面図に対し申立人が拡大し文字等を付加した部分拡大図。申立書30ページ)
「
[図:0001421350000020.jpg]
」
カ 甲7
「【意匠に係る物品】パン切りナイフ」
「【正面図】
[図:0001421350000021.jpg]
」
図K(甲7正面図に対し申立人が拡大し文字等を付加した部分拡大図。申立書31ページ)
「
[図:0001421350000022.jpg]
」
(2)判断
ア 本件発明1
申立人は甲1に記載された発明に甲2~甲4に開示される、下接合部偏向量(FiJ)と接合部高さ(HJ)との間の比が、刃から開始して主把持部分の方向に長手方向に沿って減少しているとの周知技術を適用することで本件発明1は容易想到である旨を主張する(申立書24~26ページ)。
しかしながら、前記1(5)イの相違点1~2及び3~4はそれぞれ甲1に把持稜線部及び接合部把持稜線部に相当するものが示されていないことに起因しており、しかも、甲1~甲4はいずれも意匠登録公報であって、接合部部分における下接合部偏向量(FiJ)と接合部高さ(HJ)との間の比はもとより、その前提となる把持稜線部及び接合部把持稜線部の技術的意義について記載も示唆もされていないから、甲2~甲4に開示されていると主張する周知技術を前記1(4)アの甲1発明Aに適用して、ナイフの主把持部分及び接合部部分の形状を改変する動機がない。
また、甲2~甲4のものはそれぞれの正面図や背面図に示されるとおり柄の下端部が直線状であるとはいえないから、柄の全体形状からして甲1の柄とは異なっており、こうした異なる形状の柄における接合部部分の、しかもその下接合部偏向量(FiJ)と接合部高さ(HJ)との間の比を意図的に抽出して、前記甲1発明Aに適用する動機もない。
したがって、甲1発明Aに甲2~甲4に開示される周知技術を適用して、本件発明1とすることは当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
イ 本件発明2、5及び8
本件発明1を引用する本件発明2、5及び8は、少なくとも前記相違点1~4を含むものであるから、前記アと同様の理由により、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
ウ 本件発明9
申立人は甲1に記載された発明に甲5~甲7に開示される、下端部偏向量(FiE)と端部高さ(HE)との間の比が、端部部分(300)の自由端部から開始して長手方向(L)に沿って主把持部分(200)の方向に増加又は減少しているとの周知技術を適用することで容易想到であると主張する(申立書29~32ページ)。
しかしながら、前記1(5)イ及びエの相違点1~2及び5~6はそれぞれ甲1に把持稜線部及び端部把持稜線部に相当するものが示されていないことに起因しており、しかも、甲5~甲7のいずれにも前記相違点1~2及び5~6に係る本件発明9の構成は示されておらず、さらに甲1及び甲5~甲7はいずれも意匠登録公報であって、前記相違点1~2及び5~6に関する把持稜線部及び端部把持稜線部についての技術的意義が記載も示唆もされていないから、甲5~甲7に開示されていると主張する周知技術を前記1(4)イの甲1発明Bに適用して、包丁の端部部分の形状を改変する動機がそもそもない。
また、甲5~甲7のものはそれぞれの正面図に示されるとおり柄の下端部が直線状であるとはいえないから、柄の全体形状からして甲1の柄とは異なっており、こうした異なる形状の柄における端部部分の、しかもその下端部偏向量(FiE)と端部高さ(HE)との間の比を意図的に抽出して、前記甲1発明Bに適用する動機もない。
したがって、甲1発明Bに甲5~甲7に開示される周知技術を適用して、本件発明9とすることは当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
エ 本件発明12
本件発明9を引用する本件発明12は、少なくとも前記相違点1~2及び5~6を含むものであるから、前記ウと同様の理由により、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
オ 本件発明15
申立人は甲1に記載された発明に甲2~甲7に開示される周知技術を適用し、持ち手と刃とを同じ材料にするという設計変更を加えるか、又は、甲8~甲11に開示される、持ち手を刃と同じ材料にするという周知技術を適用することで容易想到であると主張する(申立書32~34ページ)。
しかしながら、当該設計変更ができたとしても、又は甲8~甲11開示の周知技術があったとしても、前記相違点1~6は設計変更でも甲8~甲11に記載や示唆がされているわけでもないから、本件発明1又は9を引用する本件発明15は、少なくとも相違点1~6について、前記ア又はウと同様の理由により当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、2、5、8、9、12及び15は甲1発明A及びB並びに周知技術(甲2~甲11)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 小括
以上のとおり、本件発明1及び9は甲1に記載されたものであるとはいえないし、また、本件発明1、2、5、8、9、12及び15は甲1発明A及びB並びに周知技術(甲2~甲11)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、請求項1及び9に係る特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものではなく、また、請求項1、2、5、8、9、12及び15に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものでもないから、申立ての理由1~2によって取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、並びに、申立書に記載した申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1、2、5、8、9、12及び15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700270