特許異議申立
2024-700193
キッチンナイフ
- 審判番号
- 2024-700193
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-018269
- 登録番号
- 7337296
- 請求日
- 2024年03月01日
- 審決日
- 2024年05月22日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セブ ソシエテ アノニム
- 【権利者代理人】弁理士法人谷・阿部特許事務所
- 【異議申立人】佐藤 徹
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 大山 健
- 審判官 菊地 牧子
- 分類
- P1652.121-Y (B26B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7337296号発明「キッチンナイフ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7337296号の請求項1~6、13、19に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7337296号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6、13、19(全請求項は請求項1~19)に係る特許についての出願は、令和5年2月9日(パリ条約による優先権主張 令和4年12月14日、フランス共和国(FR))に出願されたものであって、令和5年8月24日にその特許権の設定登録がされ、令和5年9月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和6年3月1日に特許異議申立人 佐藤 徹(以下「申立人」という。)により請求項1~6、13、19に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。
なお、この申立てに係る特許異議申立書は、令和6年4月1日に提出された手続補正書により方式上の不備が補正されたところ、補正された特許異議申立書を、以下「申立書」という。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6、13、19の特許に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。また、総合して、「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~6、13、19に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、申立書5~7ページにおける構成要件の符号(1A~19B)に合わせて分説すると、次のとおりである。
「【請求項1】
1A ナイフであって、
1B 背(11)と、前記背(11)の反対側の切断エッジ(12)とを有する刃(1)であって、前記刃(1)は、末端部(13)と基端部(14)との間で長手方向(L)に沿って長手方向平面内に延びている、刃(1)、
1C 前記刃(1)の前記基端部(14)から前記長手方向(L)に沿って延びる柄(2)であって、前記柄(2)は、前記刃(1)の前記基端部(14)に接続された接合部部分(100)と、前記接合部部分(100)から延びる主把持部分(200)とを有し、前記主把持部分(200)は、
1D 前記長手方向平面において前記背(11)の延長部上に実質的に延びる上部分(221)、
1E 前記長手方向に延びていて前記上部分(221)の反対側の下部分(222)、
1F 前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分(221)と前記下部分(222)との間に延びる2つの脇部(231)、を有し、
1G 各脇部(231)は、前記上部分(221)に接続された上脇部分(2231)と、前記下部分(222)に接続された下脇部分(2232)とで形成され、前記上脇部分(2231)は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する把持稜線部(2233)によって前記下脇部分(2232)に接続されている、柄、を備え、
1H 前記柄(2)の前記主把持部分(200)は、前記接合部部分(100)から前記長手方向平面内に延びていて前記下部分(222)と前記上部分(221)との間で形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、及び
1I 前記長手方向(L)に沿った所与の位置における前記下部分(222)と前記上部分(221)との間の前記長手方向平面における距離が、柄高さ(H)を規定し、前記長手方向(L)に沿った所与の位置における下部分(222)と前記把持稜線部(2233)の前記長手方向平面における射影との間の前記長手方向平面における距離が、下偏向量(Fi)を規定し、前記下偏向量(Fi)と前記柄高さ(H)との間の比は、前記長手方向(L)に沿った前記柄(2)の前記主把持部分(200)の任意の点において実質的に一定であって13%~20%で構成される固定値を有し、
1J 前記上部分(221)及び前記下部分(222)はそれぞれ直線に沿って延びている、
1K ナイフ。
【請求項2】
2A 前記長手方向の広がり角度αは、3.5°~5.5°で構成される固定値を有する、
2B 請求項1に記載のナイフ。
【請求項3】
3A 前記下偏向量(Fi)と前記柄高さ(H)との間の比は、15%~18%で構成される固定値、好ましくは17%のオーダーの値を有する、
3B 請求項1に記載のナイフ。
【請求項4】
4A 各把持稜線部(2233)は直線に沿って延びている、
4B 請求項1に記載のナイフ。
【請求項5】
5A 前記把持稜線部(2233)は前記脇部(231)に対して突出しており、前記上脇部分(2231)と前記下脇部分(2232)との間に形成される内部角度が、好ましくは160°未満、より好ましくは120°~150°で構成され、より好ましくは135°~145°で構成される把持稜線部角度θを規定する、
5B 請求項1に記載のナイフ。
【請求項6】
6A 前記接合部部分(100)との接続部のレベルにおける前記主把持部分(200)の前記柄高さ(H)は、17mm~22mmで構成される値を有し、好ましくは18mm~21mmで構成される値を有し、より好ましくは20mmのオーダーである、
6B 請求項1に記載のナイフ。」
「【請求項13】
13A 前記接合部部分(100)の前記接合部高さ(HJ)は、14mm~18mmで構成される、好ましくは15mm~16mmで構成される最小値を有する、
13B 請求項6に記載のナイフ。」
「【請求項19】
19A それが1ピースナイフであることを特徴とする、
19B 請求項1に記載のナイフ。」
(以下、分説した構成要件を「構成1A」などという。)
第3 申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由の概要及び申立人が提出した証拠方法(以下、申立人が提出した甲各号証を「甲1」などという。)は以下のとおりである。
1 申立の理由の概要
申立人は、請求項1~6、13、19に係る特許は、以下の申立理由1により取り消されるべきものである旨を申立している。
【申立理由1】(本件発明1~6、13、19についての進歩性欠如)
本件発明1~6、13、19は、下記甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6、13、19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立人が提出した証拠方法
甲1:意匠登録第1696570号公報
甲2:意匠登録第1233660号公報
甲3:登録実用新案第3170636号公報
甲4:特開2000-176184号公報
甲5:特開2000-189682号公報
甲6:特開2003-320179号公報
甲7:登録実用新案第3103210号公報
第4 甲号証に記載された事項及び発明等について
1 甲1について
(1)甲1の記載事項
「【意匠に係る物品】包丁」
「【意匠の説明】実線で表された部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。背面図は正面図と対称に表れるため省略する。一点鎖線は意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」
「【正面図】
[図:0001411366000001.jpg]
」
「【左側面図】
[図:0001411366000002.jpg]
」
(2)甲1の図面に文字等を付加して、申立人が申立書に記載した図面
「図A(甲1の【正面図】に、申立人が文字及び引き出し線等を付加したもの。)
[図:0001411366000003.jpg]
」(申立書10ページ)
「図B(甲1の【左側面図】に、申立人が文字及び引き出し線等を付加したもの。)
[図:0001411366000004.jpg]
」(申立書12ページ)
(3)上記(1)、(2)から理解できる事項
上記(1)(2)から、甲1の包丁について、以下の事項が理解できる。
なお、甲1の図面には包丁の各部位の名称などは示されていないが、対比の便宜上、同一部位を指すと認められる場合には、甲1の包丁の各部位について本件発明で使用されている用語を用いる(甲2についても同様。)。
また、理解のため、本件発明1の構成1A~1Kに対応させて、甲1から理解できる事項及び甲1発明を分説して、それぞれの構成に1a~1kの符号を付した。以下「構成1a」などという。
さらに、意匠登録公報の図面は、意匠法施行規則第3条に、様式第6により作成すべきことが規定されており、甲1の「正面図」、「左側面図」等の表示(様式第6の備考24)及び図面の記載内容からみて、甲1における各図面は、正投影図法により同一縮尺で作成されたものと推認できる。そして、甲1の包丁の柄の主把持部分における、長手方向の広がり角度α、及び下偏向量Fiと柄高さHとの間の比は、正投影図法により作成した図面から認定できる。
ア 甲1の正面図及び図Aから理解できる事項
(ア)甲1の包丁(構成1a、1k)は、刃が、背と、背の反対側の切断エッジとを有し、該刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている(構成1b)。
(イ)甲1の包丁は、刃の基端部から長手方向に沿って延びる柄を備え、該柄は、刃の基端部に接続された接合部部分と、接合部部分から延びる主把持部分とを有する(構成1c)。
(ウ)甲1の包丁の柄の主把持部分は、長手方向平面において背の延長部上に実質的に延びる上部分(構成1d)、長手方向に延びていて上部分の反対側の下部分(構成1e)、を有する。
(エ)甲1の包丁の柄の主把持部分は、接合部部分から長手方向平面内に延びていて下部分と上部分との間で形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、長手方向の広がり角度αは3°で構成される固定値を有する(構成1h)。
(オ)甲1の包丁の柄の主把持部分は、上部分及び下部分がそれぞれ直線に沿って延びている(構成1j)。
イ 甲1の左側面図及び図Bから理解できる事項
(ア)甲1の包丁の柄の主把持部分は、長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて上部分と下部分との間に延びる2つの脇部(構成1f)を有する。
(イ)甲1の包丁の柄の主把持部分の2つの脇部は、それぞれ上部分に接続された上脇部分と、下部分に接続された下脇部分とで形成され、上脇部分は、横断方向に突出していて長手方向平面に対して横断方向に脇部の最も外側の領域を構成する把持稜線部によって下脇部分に接続されている(構成1g。なお、「把持稜線部」の位置については、図Bを参照。)。
ウ 甲1の正面図、左側面図、図A及び図Bから理解できる事項
甲1の包丁の柄の主把持部分は、長手方向に沿った所与の位置における下部分と上部分との間の長手方向平面における距離が、柄高さを規定し、長手方向に沿った所与の位置における下部分と把持稜線部の長手方向平面における射影との間の長手方向平面における距離が、下偏向量を規定し、下偏向量と柄高さとの間の比は、長手方向に沿った柄の主把持部分の任意の点において実質的に一定であって約24.0%で構成される固定値を有する(構成1i)。
(4)甲1発明
上記(1)~(3)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「1a 包丁であって、
1b 背と、前記背の反対側の切断エッジとを有する刃であって、前記刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている、刃、
1c 前記刃の前記基端部から前記長手方向に沿って延びる柄であって、前記柄は、前記刃の前記基端部に接続された接合部部分と、前記接合部部分から延びる主把持部分とを有し、前記主把持部分は、
1d 前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上部分、
1e 前記長手方向に延びていて前記上部分の反対側の下部分、
1f 前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分と前記下部分との間に延びる2つの脇部、を有し、
1g 各脇部は、前記上部分に接続された上脇部分と、前記下部分に接続された下脇部分とで形成され、前記上脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する把持稜線部によって前記下脇部分に接続されている、柄、を備え、
1h 前記柄の前記主把持部分は、前記接合部部分から前記長手方向平面内に延びていて前記下部分と前記上部分との間で形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°で構成される固定値を有し、及び
1i 前記長手方向に沿った所与の位置における前記下部分と前記上部分との間の前記長手方向平面における距離が、柄高さを規定し、前記長手方向に沿った所与の位置における下部分と前記把持稜線部の前記長手方向平面における射影との間の前記長手方向平面における距離が、下偏向量を規定し、前記下偏向量と前記柄高さとの間の比は、前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって約24.0%で構成される固定値を有し、
1j 前記上部分及び前記下部分はそれぞれ直線に沿って延びている、
1k 包丁。」
2 甲2について
(1)甲2の記載事項
「【意匠に係る物品】調理用ナイフ」
「【意匠に係る物品の説明】この意匠に係る物品は調理用ナイフである。本物品は、使用状態を示す参考図1、2に示すように、ナイフスタンドに立てた状態で収納することもできるものである。なお本物品においては、柄の付け根部分(刃側の端部)が正面視円弧状に形成されている。そのため、ナイフスタンドに立てた際に、柄とナイフスタンドとの境界部が滑らかな曲線状に表われ、収納時における美観も向上している。」
「【意匠の説明】背面図は正面図と対称に表われるため、省略する。部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で、それ以外の部分を破線で表している。」
「【正面・平面・左側面側からの斜視図】
[図:0001411366000005.jpg]
」
「【正面図】
[図:0001411366000006.jpg]
」
「【A-A拡大断面図】
[図:0001411366000007.jpg]
」
「【B-B拡大断面図】
[図:0001411366000008.jpg]
」
「【C-C拡大断面図】
[図:0001411366000009.jpg]
」
「【D-D拡大断面図】
[図:0001411366000010.jpg]
」
(2)甲2の図面に文字等を付加して、申立人が申立書に記載した図面
「図C(甲2の【正面・平面・左側面側からの斜視図】に、申立人が文字及び引き出し線等を付加したもの。)
[図:0001411366000011.jpg]
」(申立書15ページ)
「図E(甲2の【C-C拡大断面図】に、申立人が文字及び引き出し線等を付加したもの。)
[図:0001411366000012.jpg]
」(申立書16ページ)
「図F(甲2の【D-D拡大断面図】に、申立人が文字及び引き出し線等を付加したもの。)
[図:0001411366000013.jpg]
」(申立書16ページ)
(3)上記(1)、(2)から理解できる事項
ア 甲2の【A-A拡大断面図】、【B-B拡大断面図】、【C-C拡大断面図】は、調理用ナイフの柄における主把持部分の断面図であると認められ、【D-D拡大断面図】は、調理用ナイフの柄における接合部部分の断面図であると認められる。
イ 甲2の【A-A拡大断面図】、【B-B拡大断面図】、【C-C拡大断面図】における変曲点が、それぞれ、調理用ナイフの柄における、「把持稜線部」の位置であるところ、下偏向量と柄高さとの比を算出すると、A-A断面では約42.0%、B-B断面では約26.5%、C-C断面では19.4%であることが理解できる。
(4)甲2に記載の技術的事項
上記(1)~(3)から、甲2には、以下の技術的事項(以下「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「調理用ナイフの柄の主把持部分における、下偏向量と柄高さとの間の比を、A-A断面では約42.0%、B-B断面では約26.5%、C-C断面では19.4%とすること。」
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の構成1aの「包丁」は本件発明1の構成1Aの「ナイフ」に相当する。
また、甲1発明の構成1hの「広がり角度αは3°」は、「3°」が「3°~8°」の範囲内であるから、本件発明1の構成1Hの「広がり角度αは3°~8°」に包含される。
そして、甲1発明の構成1a~1h、1j、1kは、本件発明1の構成1A~1H、1J、1Kにそれぞれ相当する。
さらに、甲1発明の構成1iと本件発明1の構成1Iとは、
「前記長手方向に沿った所与の位置における前記下部分と前記上部分との間の前記長手方向平面における距離が、柄高さを規定し、前記長手方向に沿った所与の位置における下部分と前記把持稜線部の前記長手方向平面における射影との間の前記長手方向平面における距離が、下偏向量を規定し、前記下偏向量と前記柄高さとの間の比は、前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって所定値で構成される固定値を有」する限りで共通する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「ナイフであって、
背と、前記背の反対側の切断エッジとを有する刃であって、前記刃は、末端部と基端部との間で長手方向に沿って長手方向平面内に延びている、刃、
前記刃の前記基端部から前記長手方向に沿って延びる柄であって、前記柄は、前記刃の前記基端部に接続された接合部部分と、前記接合部部分から延びる主把持部分とを有し、前記主把持部分は、
前記長手方向平面において前記背の延長部上に実質的に延びる上部分、
前記長手方向に延びていて前記上部分の反対側の下部分、
前記長手方向平面の各側部にそれぞれ設けられていて前記上部分と前記下部分との間に延びる2つの脇部、を有し、
各脇部は、前記上部分に接続された上脇部分と、前記下部分に接続された下脇部分とで形成され、前記上脇部分は、横断方向に突出していて前記長手方向平面に対して横断方向に前記脇部の最も外側の領域を構成する把持稜線部によって前記下脇部分に接続されている、柄、を備え、
前記柄の前記主把持部分は、前記接合部部分から前記長手方向平面内に延びていて前記下部分と前記上部分との間で形成される長手方向の広がり角度αによって規定される長手方向の広がりを呈する形状を有し、前記長手方向の広がり角度αは3°~8°で構成される固定値を有し、及び
前記長手方向に沿った所与の位置における前記下部分と前記上部分との間の前記長手方向平面における距離が、柄高さを規定し、前記長手方向に沿った所与の位置における下部分と前記把持稜線部の前記長手方向平面における射影との間の前記長手方向平面における距離が、下偏向量を規定し、前記下偏向量と前記柄高さとの間の比は、前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって所定値で構成される固定値を有し、
前記上部分及び前記下部分はそれぞれ直線に沿って延びている、
ナイフ。」
<相違点>
「下偏向量と柄高さとの間の比」が、本件発明1においては、「前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって13%~20%で構成される固定値を有」(構成1I)するのに対し、甲1発明では、長手方向に沿った柄の主把持部分の任意の点において実質的に一定であって約24.0%で構成される固定値を有するといえる点。
(2)判断
ア 設計変更について
(ア)甲1発明を設計変更して、相違点に係る本件発明1とすることが当業者にとって容易になし得たか、検討する。
(イ)まず、甲1は、意匠登録公報であるところ、包丁の柄の主把持部分における「把持稜線部」の位置を設計変更することについて記載も示唆もないから、甲1から、甲1発明を設計変更することの動機付けは認められない。
(ウ)さらに、本件特許の明細書には、包丁の柄の把持稜線部の位置、及び下偏向量と柄高さとの間の比について、
「【0043】
把持稜線部2233は、使用者の手がナイフの柄に完全にフィットするように、その指節間線に収容されるように特別に位置付けられることが好ましい。
・・・
【0047】
好ましくは、主把持部分200において、下偏向量と柄高さとの間の比は、13%~20%で構成される固定値を有する。・・・
【0048】
柄2の主把持部分200におけるそのような把持稜線部2233の特定の位置付けはまた、刃の長手方向Lに実質的に垂直な方向における使用者による食品の切断を促進することを可能にする。実際、そのような把持稜線部2233は、使用者の手がナイフを上から下へ動かす動作を行う際に、その手に抵抗する突出線を形成する。柄の上で手によって加えられた労力が刃によく伝達されるだけでなく、この労力の伝達は、把持稜線部2233のおかげでより容易である。
【0049】
そのため、使用者は柄にかかる圧力を弱めることができ、ナイフが手によく保持されるようになっている。
【0050】
更に、この把持稜線部2233はナイフがその長手方向軸の周りに手の中で回転するのを防ぐことを可能にするため、ナイフの取り扱いは安全である。
【0051】
好ましくは、把持稜線部2233は、使用者がナイフを把持したときに、指節間のしわ(fold)に良好に挿入されるように十分に突出している。・・・」と記載されている(なお、下線部は当審で付した。)。
すなわち、本件特許の明細書の記載からは、下偏向量と柄高さとの間の比が、長手方向に沿った柄の主把持部分の任意の点において実質的に一定であって13%~20%で構成される固定値を有するように、本件発明1において把持稜線部の位置が設計されることにより、把持稜線部が、使用者の手がナイフの柄に完全にフィットするようにその指節間線に収容されること、使用者の手がナイフを上から下へ動かす動作を行う際に、その手に抵抗する突出線を形成し、柄の上で手によって加えられた労力を刃によく伝達し、使用者は柄にかかる圧力を弱めることができ、ナイフが手によく保持されるようになること、及びナイフが手の中で回転するのを防ぎナイフの取り扱いは安全であること、との作用効果を奏することが理解できる。
(エ)以上から、相違点に係る本件発明1の構成1Iにより、本件発明1は甲1発明に比して有利な作用効果を有するものであるから、「下偏向量と柄高さとの間の比」を「前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって13%~20%で構成される固定値を有」するものとすることが単なる設計的事項であるとはいえず、甲1発明をこのような有利な効果を奏するように設計変更することが、当業者にとって容易になし得たということはできない。
イ その他の甲号証の適用について
(ア)申立人は、申立書15~17ページにおいて、下偏向量と柄高さとの比は、甲2発明では15.3%~19.4%、甲3発明では12.9%~15.1%となっており、本件発明1の構成1Iに記載された13%~20%とすることは周知技術であり、本件発明1は甲1発明に当該周知技術を適用して容易になし得る旨を主張しているから、甲1発明に甲2、甲3の技術的事項を適用して、本件発明1とすることが容易であるか、以下に検討する。
(イ)まず、甲2に、「調理用ナイフの柄の主把持部分における、下偏向量と柄高さとの間の比を、A-A断面では約42.0%、B-B断面では約26.5%、C-C断面では19.4%とすること。」との技術的事項(上記第4の2(4))が記載されていると認めることはできる。
しかしながら、甲1発明の包丁と甲2に記載の技術的事項の調理用ナイフとは、それぞれの柄の形状が大きく異なるところ、甲2の柄の形状を捨象して、下偏向量と柄高さとの比のみに着目して、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえない。また、仮に甲1発明の包丁に甲2に記載の技術的事項を適用しても、包丁の柄の主把持部分において、長手方向に沿った任意の点における下偏向量と柄高さとの間の比が19.4~約42.0%の間で一定でない値を有するように、把持稜線部が位置付けられるものとなるから、相違点に係る「前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって13%~20%で構成される固定値を有」する構成には至らない。
(ウ)続いて、甲3について、申立人は申立書17ページにおいて、甲3の図1に文字等を付加した下記図Gを記載し、甲3では、下偏向量と柄高さとの比が、Y1の位置で12.9%、Y2の位置で15.1%となっている旨の主張をしている。
「図G
[図:0001411366000014.jpg]
」
しかしながら、実用新案登録出願の図面は、出願に係る考案の特徴を最もよく表すように記載されるもの(実用新案法施行規則第5条に係る様式第4の備考5)であって、必ずしも正確な設計図が記載されているとは限らず、模式図も許容されるところ、甲3に係る出願の考案は、下偏向量と柄高さとの比を特徴とするものではないから、甲3の図1のみを根拠として、甲3に、下偏向量と柄高さとの比を13%~20%とするとの技術的事項が記載されていると認めることはできない。また、甲3には、柄の断面形状を八角形にすることや、六角形にすることの記載(段落【0008】、【0009】、図1、図2)はあるものの、包丁の柄の主把持部分を、「前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって13%~20%で構成される固定値を有」するものとすることは記載も示唆もない。
(エ)以上から、甲1発明に甲2、甲3に記載の技術的事項を適用しても、相違点に係る本件発明1の構成には至らない。
(オ)さらに、甲4~甲7にも、ナイフの柄の主把持部分を、「前記長手方向に沿った前記柄の前記主把持部分の任意の点において実質的に一定であって13%~20%で構成される固定値を有」するようにすることは記載も示唆もされていない。
(カ)したがって、甲1発明に、甲2及び甲3に記載の技術的事項並びに甲4~甲7に記載の技術的事項を適用して、本件発明1とすることは当業者が容易になし得たものではない。
2 本件発明2~6、13、19について
本件発明2~6、13、19は請求項1を引用するものであり、本件発明2~6、13、19と、甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点(上記1(1))では相違するから、本件発明2~6、13、19は、同様の理由により、甲1発明、甲2及び甲3に記載の技術的事項並びに甲4~甲7に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たとはいえない。
3 小括
以上から、本件発明1~6、13、19は、甲1発明、甲2及び甲3に記載の技術的事項並びに甲4~甲7に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、請求項1~6、13、19に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとする申立理由1により、取り消すことはできない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1~6、13、19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6、13、19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700193