特許異議申立
2023-700724
レーザー加工方法及び装置
- 審判番号
- 2023-700724
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-210352
- 登録番号
- 7210871
- 請求日
- 2023年07月12日
- 審決日
- 2024年04月15日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社東京精密
- 【権利者代理人】松浦 憲三
- 【権利者代理人】大原 一樹
- 【権利者代理人】松村 潔
- 【権利者代理人】松浦 憲政
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 審判長/審判官
- 審判長 瀧内 健夫
- 審判官 松永 稔
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.55 -ZB (H01L) / P1651.841-ZB (H01L) / P1651.851-ZB (H01L) / P1651.852-ZB (H01L) / P1651.853-ZB (H01L) / P1651.857-ZB (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法113条1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第17条の2第3項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7210871号発明「レーザー加工方法及び装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7210871号の請求項1~6に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7210871号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(以下「本件出願」という。)は、平成30年11月8日に出願され、令和5年1月16日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年7月12日に、その請求項1~6に係る特許について、特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年9月20日付けで取消理由を通知し、それに対し、特許権者は、その指定期間内である同年11月7日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。(以下、令和5年11月7日付けの訂正請求を「本件訂正請求」という。)
そして、当審は、本件訂正請求について令和5年11月29日付けで訂正拒絶理由を通知し、それに対し、特許権者は、同年12月27日に意見書を提出した。(以下、令和5年12月27日に提出された意見書を「意見書(2)」という。)
その後、当審は、令和6年1月15日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出し、訂正請求を行う機会を与えたが、それに対し、特許権者は、その指定期間内に応答しなかった。
第2 訂正請求の適否について
本件訂正請求について検討する。
1 訂正の内容
(1) 請求項〔1~4〕についての訂正事項A
特許請求の範囲の請求項1に「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂検出工程における前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」と記載されているのを、「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂検出工程における前記亀裂の検出結果とに基づいて、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する)。(下線は、令和5年11月7日提出の訂正請求書(以下「訂正請求書」という。)の記載どおり。以下、同様。)
(2) 請求項〔5~6〕についての訂正事項B
特許請求の範囲の請求項5に「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」と記載されているのを、「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果とに基づいて、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。
(3) 一群の請求項、及び独立特許要件について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項Aによって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項5~6について、請求項6は、請求項5を引用しているものであって、訂正事項Bによって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項5~6に対応する訂正後の請求項5~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1~6が特許異議の申立ての対象とされているので、訂正前の請求項1~6に係る訂正事項A、及び訂正事項Bに関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項Bについて
事案に鑑み訂正事項Bについて先に検討する。
ア 新規事項の有無について
(ア) 本件明細書等の記載
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)には次の記載がある。
「【請求項5】
被加工物が載置されたステージを、レーザー加工を行うための加工位置に配置して、前記レーザー加工により前記被加工物の内部に改質領域を形成するレーザー加工機と、
前記ステージを、亀裂の検出及び測定を行うための測定位置に配置して、前記測定位置において、前記改質領域から伸展した亀裂を検出する亀裂測定器と、
前記レーザー加工機のレーザー加工用光学系及び前記亀裂測定器の測定用光学系と、前記ステージとを相対的に移動させる駆動部と、
前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして、前記レーザー加工の加工条件のうち、前記レーザー加工におけるレーザー光の強度、照射時間及び前記被加工物の深さ方向における集光点の数のうちの少なくとも1つを変更するフィードバック手段と、
を備えるレーザー加工装置。」
「【0041】
亀裂測定器制御部500は、被加工物Wの内部に形成された亀裂を検出する。亀裂測定器制御部500は、亀裂の検出結果を解析して、被加工物Wの内部における亀裂の形成状態(伸展長さ及び位置等)を判定する(図11から図14参照)。この亀裂の解析結果は、亀裂測定器制御部500からレーザー加工機制御部20に送信される。
【0042】
レーザー加工機制御部20(フィードバック手段)は、亀裂の解析結果に基づいて、亀裂の伸展が十分であるか否かを判定する。そして、レーザー加工機制御部20は、亀裂の伸展が不十分であると判定した場合、亀裂の解析結果をレーザー加工の加工条件にフィードバックして、レーザー加工の加工条件を変更する。すなわち、レーザー加工機制御部20は、亀裂の解析結果に基づいて、レーザー加工におけるレーザーの強度及び照射時間等の加工条件について最適な条件を求めて、次の被加工物Wのレーザー加工に適用する。レーザー加工機制御部20は、被加工物Wの材質及び厚さごとに、レーザー光の強度及び照射時間と、亀裂の形成状態(伸展長さ及び位置等)との関係を示す加工条件データを記憶している。レーザー加工機制御部20は、操作部22から入力された被加工物Wの材質及び厚さと、亀裂の解析結果に基づいて、レーザー光の強度及び照射時間と、亀裂の形成状態との関係を変更することにより、この加工条件データを最適化する。具体的には、亀裂の伸展が不十分な場合には、レーザー加工機制御部20は、例えば、レーザー光の強度を強くしたり、照射時間を長くしたり、又は被加工物Wの深さ方向のレーザーの集光点の数(図12及び図14参照)を増加させる。一方、亀裂の伸展が過剰な場合(例えば、被加工物Wが割断前に割れている場合)には、レーザー加工機制御部20は、例えば、レーザー光の強度を弱くしたり、照射時間を短縮したり、又は被加工物Wの深さ方向のレーザーの集光点の数を減少させる。」
(イ) 当審の判断
「基づいて」とは「基礎にする。よりどころにする。「事実に―・いて結論を出す」」(広辞苑第六版)ことを意味する。
そうすると、訂正事項Bにより訂正された請求項5のフィードバック手段は、「前記被加工物の材質及び厚さと前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果と」を基礎、又は、よりどころにして、レーザー加工の加工条件にフィードバックすることを特定するものと理解できるが、何をフィードバックするのか、すなわち、フィードバックの対象を具体的に特定していないから、本件明細書等においてフィードバックの対象として特定されていた「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果」(請求項5)、又は「亀裂の解析結果」(段落0042)以外のものをフィードバックの対象とし得る。
したがって、訂正事項Bによる訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものといえ、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正とはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
(ウ) 特許権者の主張
特許権者は、訂正事項Bについて、本件明細書等に「「被加工物の材質及び厚さ」と「亀裂検出工程における前記亀裂の検出結果」とに基づいてレーザー加工の加工条件にフィードバックすることが記載されている」(訂正請求書8ページ9~11行)、「明細書の段落【0041】及び【0042】の記載から導き出される「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂検出工程における前記亀裂の検出結果とに基づいて、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」という正しい記載に訂正するものである」(訂正請求書9ページ最下行~10ページ3行)と主張する。
しかしながら、上記(イ)のとおり、訂正事項Bにより訂正された請求項5のフィードバック手段は、フィードバックの対象を具体的に特定しておらず、本件明細書等においてフィードバックの対象として特定されていた「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果」(請求項5)、又は「亀裂の解析結果」(段落0042)以外のものをフィードバックの対象とし得るから、訂正事項Bによる訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正とはいえない。
特許権者は、さらに「(ア)まず、新規事項の有無について、訂正拒絶理由通知書では「レーザー加工の加工条件にフィードバックすることを特定するものと理解できるが、何をフィードバックするのか、すなわち、フィードバックの対象を具体的に特定していない」と指摘されているが、本件明細書の段落[0042]にはフィードバックの対象が「亀裂の検出結果」(亀裂の解析結果)であることが記載されており、訂正後の請求項5においてフィードバックの対象について具体的な記載がなくとも「亀裂の検出結果」であることは自明のことであり、また、「亀裂の検出結果」以外のものをフィードバックの対象としないことは、本件明細書の記載から明らかであり当然のことといえる。」(意見書(2)3ページ15~23行)と主張する。
しかしながら、訂正後の請求項5は、「亀裂の検出結果」のみをフィードバック手段のフィードバックの対象として特定するものではないから、特許権者の主張は採用できない。
イ 訂正の目的
(ア) 誤記の訂正
特許権者は、「訂正前の請求項5の「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」は誤記であって、正しくは、「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果とに基づいて、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」であることは明らかである。」(訂正請求書8ページ15~19行)、「手続補正前後の経緯を踏まえれば、本件補正が錯誤によりされたものであり、錯誤によりされた補正を、当該主張に沿った記載にすることを目的とする訂正事項Bは、誤記の訂正として許されるべきものである。」(訂正請求書8ページ最下行~9ページ3行)、「(イ)また、訂正の目的について、上記のとおり、訂正事項Bは、本件明細書等に記載した事項内の訂正であり、本来の意味を明らかにする訂正であることから、誤記の訂正を目的とするものであることは明らかである。」(意見書(2)4ページ1~3行)と、訂正事項Bが、誤記の訂正を目的とするものであると主張する。
しかしながら、上記アのとおり、訂正事項Bは、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すものとはいえないから、訂正事項Bは特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的としたものとはいえない。
(イ) 特許請求の範囲の減縮
訂正事項Bは、訂正前の請求項5の「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして、前記レーザー加工の加工条件のうち、前記レーザー加工におけるレーザー光の強度、照射時間及び前記被加工物の深さ方向における集光点の数のうちの少なくとも1つを変更するフィードバック手段」との記載から、フィードバック手段のフィードバック対象を特定する「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を」との記載を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものとはいえない。
(ウ) 明瞭でない記載の釈明
フィードバック手段のフィードバック対象を明瞭に特定する「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を」との記載を削除する訂正事項Bは、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的としたものとはいえない。
(エ) 請求項間の引用関係の解消
訂正事項Bが、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる請求項間の引用関係の解消を目的としたものでないことは明らかである。
(オ) 小括
以上のとおり、訂正事項Bは、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号のいずれに掲げる事項を目的としたものでない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
特許権者は、「しかし、訂正事項Bは、実質的に本件特許請求の範囲の記載を、審査段階において審査官も実質的に認めた記載に正すべく、誤記を目的とした訂正であり、かつ当該訂正は特許請求の範囲の解釈に影響を及ぼすものではないから、第三者に不利益は生じない。他方、このような訂正を認めることは、権利内容の一部に瑕疵があったことにより、特許全体が無効にされることを回避するという訂正制度の趣旨に合致するものである。よって、訂正事項Bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないものとして許されるべきものである。」(訂正請求書9ページ16~23行)、「(ウ)さらに、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について、上記訂正請求書にて主張したとおり、訂正事項Bは、実質的に本件特許請求の範囲の記載を、審査段階において審査官も実質的に認めた記載に正すべく、誤記を目的とした訂正であるから、特許請求の範囲の解釈に影響を及ぼすものではなく、第三者に不測の不利益を与えるものではないので、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとはいえないものである。むしろ、このような訂正を認めないことは、権利内容の一部に瑕疵があったことにより、特許全体が無効にされることを回避するという訂正制度の趣旨に反するものである。」(意見書(2)4ページ6~13行)と主張する。
しかしながら、訂正事項Bは、訂正前の請求項5の「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして、前記レーザー加工の加工条件のうち、前記レーザー加工におけるレーザー光の強度、照射時間及び前記被加工物の深さ方向における集光点の数のうちの少なくとも1つを変更するフィードバック手段」との記載から、フィードバック手段のフィードバック対象を特定する「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を」との記載を削除する訂正であり、訂正後のフィードバック手段は、フィードバック対象を特定しないものとなり、特許請求の範囲の解釈に影響を及ぼすことになるから、訂正事項Bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものといえ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合しない。
エ 訂正事項Bについてのまとめ
上記のとおり、訂正事項Bによる訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号のいずれに掲げる事項を目的としたものでなく、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合しないから、訂正事項Bによる訂正は認められない。
(2) 訂正事項Aについて
特許権者は「(オ)また、訂正事項Aについても、訂正事項Bと同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的としたものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものであるから、訂正事項Aによる訂正は認められるべきものである。」(意見書(2)4ページ20~23行)と主張する。
しかしながら、訂正事項Aは、方法のカテゴリーである請求項1に係る発明の「フィードバック工程」について、物のカテゴリーである請求項5に係る発明の「フィードバック手段」についての訂正事項Bと同様の訂正を行うものである。
そうすると、訂正事項Aについても、訂正事項Bと同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号のいずれに掲げる事項を目的としたものでなく、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合しないから、訂正事項Aによる訂正は認められない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項A、訂正事項Bによる訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号のいずれに掲げる事項を目的とするものではなく、また、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合しない。
したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~6〕について訂正することは認められない。
第3 取消理由について
上記のとおり、本件訂正請求は認められないから、本件特許の請求項1~6に係る発明は、令和4年11月15日付け手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
そして、取消理由は、当審が令和5年9月20日付けで特許権者に通知した次のとおりのものである。
取消理由(新規事項) 本件特許は、本件補正が下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
1 本件補正
本件補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の記載を、次のとおり補正するものである。(下線は手続補正書の記載どおり。)
「 【請求項1】
被加工物が載置されたステージを、レーザー加工を行うための加工位置に配置して、前記レーザー加工により前記被加工物の内部に改質領域を形成するレーザー加工工程と、
前記ステージを、亀裂の検出及び測定を行うための測定位置に配置して、前記測定位置において、前記改質領域から伸展した亀裂を検出する亀裂検出工程と、
前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂検出工程における前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして、前記レーザー加工の加工条件のうち、前記レーザー加工におけるレーザー光の強度、照射時間及び前記被加工物の深さ方向における集光点の数のうちの少なくとも1つを変更するフィードバック工程と、
を備えるレーザー加工方法。
【請求項2】~【請求項4】(省略)
【請求項5】
被加工物が載置されたステージを、レーザー加工を行うための加工位置に配置して、前記レーザー加工により前記被加工物の内部に改質領域を形成するレーザー加工機と、
前記ステージを、亀裂の検出及び測定を行うための測定位置に配置して、前記測定位置において、前記改質領域から伸展した亀裂を検出する亀裂測定器と、
前記レーザー加工機のレーザー加工用光学系及び前記亀裂測定器の測定用光学系と、前記ステージとを相対的に移動させる駆動部と、
前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして、前記レーザー加工の加工条件のうち、前記レーザー加工におけるレーザー光の強度、照射時間及び前記被加工物の深さ方向における集光点の数のうちの少なくとも1つを変更するフィードバック手段と、
を備えるレーザー加工装置。
【請求項6】 (省略)」
2 当初明細書等
(1) 特許請求の範囲
当初明細書等の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
被加工物が載置されたステージを、レーザー加工を行うための加工位置に配置して、前記レーザー加工により前記被加工物の内部に改質領域を形成するレーザー加工工程と、
前記ステージを、亀裂の検出及び測定を行うための測定位置に配置して、前記測定位置において、前記改質領域から伸展した亀裂を検出する亀裂検出工程と、
前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして、前記レーザー加工の加工条件を変更するフィードバック工程と、
を備えるレーザー加工方法。
【請求項2】(省略)
【請求項3】
前記フィードバック工程において、前記亀裂の解析結果に応じて、前記加工条件のうち、前記レーザー加工におけるレーザー光の強度、照射時間及び前記被加工物の深さ方向における集光点の数のうちの少なくとも1つを変更する、請求項1又は2記載のレーザー加工方法。
【請求項4】、【請求項5】(省略)
【請求項6】
被加工物が載置されたステージを、レーザー加工を行うための加工位置に配置して、前記レーザー加工により前記被加工物の内部に改質領域を形成するレーザー加工機と、
前記ステージを、亀裂の検出及び測定を行うための測定位置に配置して、前記測定位置において、前記改質領域から伸展した亀裂を検出する亀裂測定器と、
前記レーザー加工機のレーザー加工用光学系及び前記亀裂測定器の測定用光学系と、前記ステージとを相対的に移動させる駆動部と、
前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして、前記レーザー加工の加工条件を変更するフィードバック手段と、
を備えるレーザー加工装置。
【請求項7】(省略)」
(2) 明細書
当初明細書等の明細書の段落0041及び段落0042の記載は次のとおりである。
「 【0041】
亀裂測定器制御部500は、被加工物Wの内部に形成された亀裂を検出する。亀裂測定器制御部500は、亀裂の検出結果を解析して、被加工物Wの内部における亀裂の形成状態(伸展長さ及び位置等)を判定する(図11から図14参照)。この亀裂の解析結果は、亀裂測定器制御部500からレーザー加工機制御部20に送信される。
【0042】
レーザー加工機制御部20(フィードバック手段)は、亀裂の解析結果に基づいて、亀裂の伸展が十分であるか否かを判定する。そして、レーザー加工機制御部20は、亀裂の伸展が不十分であると判定した場合、亀裂の解析結果をレーザー加工の加工条件にフィードバックして、レーザー加工の加工条件を変更する。すなわち、レーザー加工機制御部20は、亀裂の解析結果に基づいて、レーザー加工におけるレーザーの強度及び照射時間等の加工条件について最適な条件を求めて、次の被加工物Wのレーザー加工に適用する。レーザー加工機制御部20は、被加工物Wの材質及び厚さごとに、レーザー光の強度及び照射時間と、亀裂の形成状態(伸展長さ及び位置等)との関係を示す加工条件データを記憶している。レーザー加工機制御部20は、操作部22から入力された被加工物Wの材質及び厚さと、亀裂の解析結果に基づいて、レーザー光の強度及び照射時間と、亀裂の形成状態との関係を変更することにより、この加工条件データを最適化する。具体的には、亀裂の伸展が不十分な場合には、レーザー加工機制御部20は、例えば、レーザー光の強度を強くしたり、照射時間を長くしたり、又は被加工物Wの深さ方向のレーザーの集光点の数(図12及び図14参照)を増加させる。一方、亀裂の伸展が過剰な場合(例えば、被加工物Wが割断前に割れている場合)には、レーザー加工機制御部20は、例えば、レーザー光の強度を弱くしたり、照射時間を短縮したり、又は被加工物Wの深さ方向のレーザーの集光点の数を減少させる。」
(3) 図面
当初明細書等の図面の図2は次のとおりである。
「【図2】
[図:0001412294000001.jpg]
」
3 当審の判断
(1) 当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項
上記2によると、当初明細書等には「被加工物Wの材質及び厚さ」 が「操作部22から入力され」るものであって、レーザー加工機制御部20(フィードバック手段)は、「被加工物Wの材質及び厚さごとに、レーザー光の強度及び照射時間と、亀裂の形成状態(伸展長さ及び位置等)との関係を示す加工条件データを記憶し」、亀裂測定器制御部500から送信される被加工物Wの内部における亀裂の形成状態(伸展長さ及び位置等)に基づいて、レーザー加工におけるレーザーの強度及び照射時間等の加工条件について最適な条件を求めて、次の被加工物Wのレーザー加工に適用するという技術的事項が開示されている。
(2) 本件補正について
本件補正後の請求項1、5についての「前記被加工物の材質及び厚さと、前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果を、前記レーザー加工の加工条件にフィードバックして」との補正事項について検討する。
ここで「と」は、並列助詞で、上記補正事項において「前記被加工物の材質及び厚さ」と「前記亀裂測定器による前記亀裂の検出結果」とは並列の関係である。
そして、「フィードバック」が、「電気回路で出力の一部が入力側にもどり、それによって出力が増大または減少すること。また一般に、結果に含まれる情報を原因に反映させ、調節をはかること。帰還。饋還きかん。」(広辞苑第六版)であることを踏まえると、上記補正事項は、「被加工物の材質及び厚さ」についても、結果に含まれる情報として原因に反映させ、調節をはかることを意味すると理解できる。
しかしながら、上記(1)のとおり、当初明細書等において、「被加工物の材質及び厚さ」は、「操作部22から入力され」るものであって、結果に含まれる情報として原因に反映させ、調節をはかる対象とはいえない。
また、上記2以外に、当初明細書等には、「被加工物の材質及び厚さ」についての記載はなく、また、レーザー加工の技術分野において「被加工物の材質及び厚さ」についてフィードバックすることが技術常識であるともいえない。
そうすると、上記補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項といえる。
したがって、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
(3) 特許権者の主張について
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められないところ、特許権者が令和5年11月7日に提出した意見書は、本件訂正請求による訂正に基づくものであるから採用できない。
第4 むすび
上記第2のとおり、本件訂正請求を認めることはできない。
本件特許は、本件補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号に該当するから、請求項1~6に係る本件特許は取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700724