特許異議申立
2023-700688
生分解性の立体網状構造体
- 審判番号
- 2023-700688
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-538462
- 登録番号
- 7207614
- 請求日
- 2023年07月04日
- 審決日
- 2024年02月20日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋紡エムシー株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
- 【異議申立人】永井 睦男
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 金丸 治之
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.121-YAA(D04H) / P1651.537-YAA(D04H) / P1651.536-YAA(D04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7207614号発明「生分解性の立体網状構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7207614号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7207614号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7207614号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和4年3月17日(優先権主張 令和3年3月30日)を国際出願日とする出願であって、令和5年1月10日にその特許権の設定登録がされ、令和5年1月18日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 7月 4日 :特許異議申立人永井睦男(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 9月20日付け:取消理由通知書
令和5年11月14日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
なお、当審から令和5年11月22日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたが、指定期間内に申立人からは応答がなかった。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7207614号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「見かけ密度が0.005g/cm3~0.30g/cm3」と記載されているのを、「見かけ密度が0.03g/cm3~0.20g/cm3」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mm」と記載されているのを、「線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.3mm~1.7mm」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6は、請求項2~6が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~6〕について請求されたものである。
3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「見かけ密度」の数値範囲を減縮したものである。すなわち、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0010】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに減縮するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1における線状繊維の繊維径の数値範囲を減縮したものである。すなわち、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は、本件特許の明細書の【0014】の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに減縮するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~6を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~6の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
見かけ密度が0.03g/cm3~0.20g/cm3であり、
厚みが10mm~100mmであり、
線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.3mm~1.7mmであり、
結晶融解エンタルピーが16J/g以上、30J/g以下であり、重量平均分子量が35000以上、150000以下のポリブチレンアジペートテレフタレートを、前記線状繊維100質量%中、98質量%以上の含有量で含み、
前記ポリブチレンアジペートテレフタレートは、全成分100モル%中、アジピン酸成分、テレフタル酸成分、及びブタンジオール成分を合計99モル%以上の量で含むことを特徴とする生分解性の立体網状構造体。
【請求項2】
前記線状繊維は、三次元ランダムループ構造を形成している請求項1に記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項3】
クッションに用いられるものである請求項1または2に記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項4】
前記線状繊維は、融点が100℃以上、120℃以下である請求項1~3のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項5】
前記線状繊維は、中空断面形状を有している請求項1~4のいずれかに記載の生分解性の立体網状構造体。
【請求項6】
前記線状繊維の中空率は、1%以上、30%以下である請求項5に記載の生分解性の立体網状構造体。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1には、「見かけ密度が0.005g/cm3~0.30g/cm3であり、
厚みが10mm~100mmであり、
線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mmであり、」と記載されているが、当該記載は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、本件特許の請求項1には、「結晶融解エンタルピーが16J/g以上、30J/g以下であり、重量平均分子量が35000以上、150000以下のポリブチレンアジペートテレフタレートを、前記線状繊維100質量%中、98質量%以上の含有量で含み、」と記載されているが、当該記載は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
したがって、本件特許の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
以下、甲第1号証~甲第8号証を「甲1」等という。
甲1:特開平7-238457号公報
甲2:堤主計,他4名,“環境適応型分解性ポリエステル共重合体の酵素分解におけるpHの影響” ,新居浜工業高等専門学校紀要,新居浜工業高等専門学校図書委員会,平成25年(2013)1月20日発行,第49巻,p.29-34
甲3:特開2017-132076号公報
甲4:特開2000-328422号公報
甲6:特開2006-115987号公報
甲7:特開2010-156073号公報
甲8:特開2003-301096号公報
2 当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件)
ア サポート要件についての判断
本件発明は、上記第3に記載したとおりのものである。そして本件特許の明細書の記載から、本件発明の、発明の解決しようとする課題は「圧縮耐久性と、加熱圧縮後の圧縮回復性に優れた生分解性の立体網状構造体を提供すること」(段落【0004】)である。
ここで、【0017】には、立体網状構造体を構成する線状繊維の結晶融解エンタルピーを特定することにより、立体網状構造体の圧縮耐久性、加熱圧縮後の圧縮回復性を向上することができることが説明されている。また、【0025】には、立体網状構造体を構成する線状繊維としてのポリブチレンアジペートテレフタレートの重量平均分子量見かけ密度を特定することにより、立体網状構造体の加熱圧縮後の圧縮回復性を向上することができることが説明されている。
そして、【0079】の【表1】では、本件発明の各構成を有する実施例1~7の立体網状構造体が、当該発明が解決しようとする課題との関係で好適な例であり、本件発明の各構成のうち一部の構成を有しない比較例1~3の立体網状構造体が好適な例でない旨説明されている。
すなわち、本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであると認める。
以上により、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
イ 当審が特許権者に通知した取消理由1について
(ア) 当審は取消理由通知書で、訂正前の本件特許の請求項1には、
「見かけ密度が0.005g/cm3~0.30g/cm3であり、
厚みが10mm~100mmであり、
線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~2.0mmであり、」と記載されているが、当該記載は発明の詳細な説明に記載されたものではない旨、指摘した。
これに対し特許権者は、本件訂正請求により、見かけ密度については「0.03g/cm3~0.20g/cm3」と、線状繊維の繊維径については「0.3mm~2.0mm」と、それぞれ訂正した。見かけ密度については本件特許の明細書の【0010】に記載があり、線状繊維の繊維径については本件特許の明細書の【0014】に記載があるものであり、【0079】の【表1】では当該数値範囲とする立体網状構造体が好適である旨把握することができる。
(イ) また、当審は取消理由通知書で、本件特許の請求項1には、「結晶融解エンタルピーが16J/g以上、30J/g以下であり、重量平均分子量が35000以上、150000以下のポリブチレンアジペートテレフタレートを、前記線状繊維100質量%中、98質量%以上の含有量で含み、」と記載されているが、当該記載は発明の詳細な説明に記載されたものではない旨指摘した。
これに関し、【0017】には、線状繊維の結晶融解エンタルピーについて説明がなされており、請求項1の「ポリブチレンアジペートテレフタレートを、前記線状繊維100質量%中、98質量%以上の含有量で含み」という記載から、線状繊維の大部分の成分はポリブチレンアジペートテレフタレートからなるから、その結晶融解エンタルピーは、線状繊維の上記値と同程度と認識できるものである。また【0025】には、ポリブチレンアジペートテレフタレートの重量平均分子量について記載されている。
したがって、本件発明については、サポート要件に係る取消理由は有しない。
(2)取消理由2(進歩性)
ア 甲号証の記載及び引用発明
(ア) 甲1について
甲1には以下の記載がある。
「【請求項1】 100~100000デニールの連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状体で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる見掛け密度が0.005~0.20/cm3の三次元ランダムループ接合構造体であり、上記連続線状体自体が、2種類の熱可塑性弾性樹脂で複合構造化されていることを特徴とするクッション用網状構造体。」
「【0012】本発明の複合網状構造体は、繊度が100デニール以上100000デニール以下の少なくとも2種類の熱可塑性弾性樹脂からなる複合構造化された線条を、曲がりくねらせ互いに接触させて該接触部の大部分を融着せしめて3次元網状構造を形成した見掛け密度が0.005g/cm3以上0.20g/cm3以下の複合網状構造体である。少なくとも2種類の熱可塑性弾性樹脂からなる複合構造化された線条を、曲がりくねらせ互いに接触させて該接触部の大部分を融着せしめて3次元網状構造を形成させることで、非常に大きい応力で、大変形を与えても、融着一体化した3次元網状構造全体が変形して応力を吸収し、応力が解除されると弾性樹脂のゴム弾性が発現して、構造体は元の形態に回復することができる。融着していない場合は、構造体が一体で変形しないため、応力集中による疲労現象が起こり耐久性が劣ると同時に、形態が変形して形態保持が出来ず好ましくない。本発明のより好ましい融着の程度は、線条が接触している部分の大半が融着した状態であり、もっとも好ましくは接触部分が全て融着した状態である。公知の非弾性樹脂からなる線条で構成したクッション材では、著しい反発力を示し床つき感が大きくなり、圧縮変形による塑性変形も生じて回復性が不充分となり耐熱耐久性も劣る。なお、線状が連続していない場合は、接着点が応力の伝達点と成るため接着点に著しい応力集中が起こり構造破壊を生じ前記従来技術にも例示した特開昭60-11352号公報、特開昭61-137732号公報、WO91-19032号公報NO如く耐熱耐久性が劣り好ましくない。なお、本発明の構造体を形成する線状の繊度は100デニール以下では抗圧縮強力が低くなり反発力が低下するので好ましくない。100000デニール以上では線状体の個々の抗圧縮性は大きいが構成本数が少なくなり力の分散が悪くなり100kg/cm3以上の著しく大きい圧縮力を受けた場合応力集中によるへたりが発生するので使用部分が制限される場合がある。好ましくは300~50000デニール、より好ましくは500~30000デニールである。なお、本発明においては繊度の異なる線状を見掛け密度との組合せで最適な構成とする方法も好ましい構成として選択できる。本発明複合網状構造体の平均の見掛け密度はクッション材としての機能が発現できる0.005g/cm3~0.20g/cm3以下である。0.005g/cm3未満では反発力が失われるのでクッション材には不適当であり、0.20g/cm3を越えると反発力が高すぎて座り心地が悪くなり好ましくない。本発明の好ましい見掛け密度は0.01g/cm3~0.10g/cm3、より好ましくは0.03g/cm3~0.06g/cm3である。しかして、本発明網状構造体は、繊度の異なる線条からなる各層の見掛け密度を変え好ましい特性を付与することができる。例えば、繊度の細い表面層と繊度の太い基本層からなる場合は、表面層の密度はやや高くして構成本数を多くし線条の一本が受ける応力を少なくして応力の分散を良くし、且つ臀部を支えるクッション性も向上させることで座り心地を向上させることもできる。基本層は繊度を太くして少し硬くし、振動吸収と体型保持を受け持つ層、座席フレームが接する面はより緻密な層とするため、やや繊度の細い線条で、且つ高密度とすることによりフレーム面から受ける振動や反発応力をクッション層に均一に伝達し、クッション層で一体化した全体が変形してエンルギー変換できるようにし、座り心地を良くすると共にクッションの耐久性も向上させることもできる。又、座席のサイドの厚みと張りを付与させるために部分的に繊度をやや細くして高密度化することもできる。このように各層はその目的に応じ好ましい密度と繊度を任意に選択できる。なお、網状構造体の各層の厚みは、特に限定されないが、クッション体としての機能が発現されやすい3mm以上とするのが好ましく5mm以上とするのが特に好ましい。」
ここで、繊度が100~100000デニールは、熱可塑性弾性樹脂として、たとえばPET樹脂の比重(1.39)で計算すると繊維径は0.1mm~3.2mmとなる。
以上より、甲1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「見かけ密度が0.005g/cm3~0.20g/cm3であり、
厚みが5mm以上であり、
線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.1mm~3.2mmである、
立体網状構造体。」
(イ)甲2について
甲2には以下の記載がある。
「本実験では、現在市販されている環境適応型分解性ポリエステルのうち、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートラクテート(PBSL)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリエチレンサクシネート(PES)を分解試験に用いた。」(30ページ左欄23~28行)
「PBAT(B/A/T比:50/26/24)」(30ページ右欄上段)
また、30ページのTable.1によると、
PBATのMnが4.4×104、Mw/Mnが2.33 -ΔHmが28.2(J/g)であることが記載されている。
以上より、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「結晶融解エンタルピー28.2(J/g)、重量平均分子量102520、全成分100モル%中のアジピン酸成分、テレフタル酸成分、及びブタンジオール成分の含有量が100モル%のポリブチレンアジペートテレフタレート。」
(ウ) 甲3について
甲3には以下の記載がある。
「【0001】
この発明は、立体を造形する溶融積層型3Dプリンタ用造形材の改良技術に関し、特にポリ乳酸(PLA)系重合体からなる溶融積層型3Dプリンタ用光沢性フィラメントに関するものである。」
「【0018】
この発明は、ポリ-L-乳酸(PLLA)に、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を特定の質量比の範囲で配合した樹脂組成物を所定径の線状に成形したので、PLLA系のフィラメントが、溶融積層型3Dプリンタに用いられた際に、良好な質感と共に表面に美しい光沢のある造形物になるという利点があり、かつフィラメントは3Dプリンタ内で折れ難くて製造された造形物も丈夫で割れ難いものになるという利点もある。」
「【0022】
この発明に用いるポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)は、1,4-ブタンジオール、アジピン酸、テレフタル酸を共重合成分とする周知なポリエステル樹脂またはこれを主要構成成分とするポリエステル樹脂であり、市販のPBATとして、韓国サムソンファインケミカル社製のEnpol PBG7070-OAや下記化1に示されるポリブチレンアジペート-ブチレンテレフタレート共重合体を主要構成成分とするBASF社製のエコフレックス(登録商標Ecoflex)などを用いることができる。」
「【0030】
【表1】
[図:0001411321000001.jpg]
」
「【0031】
【表2】
[図:0001411321000002.jpg]
」
以上より、甲3には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
「結晶融解エンタルピー2.4~12.2J/gのポリブチレンアジペートテレフタレート。」
(エ) 甲4について
甲4には以下の記載がある。
「【請求項1】 繊度が300~100000デニールで、熱可塑性ポリ乳酸樹脂を主体としてなる線条が、繰返し屈曲して接触部の大部分で接合した三次元構造体であって、見掛密度が0.005~0.2g/ccであり、前記ポリ乳酸樹脂中にそのオリゴマー成分を0.01~10重量%含有することを特徴とした抗菌防黴性ポリ乳酸構造体。」
「【0024】本発明のPLA構造体は、上記の如きPLAを主体としてなり、繊度が300~100000デニールの線条が、繰返し屈曲して接触部の大部分で接合した三次元構造体であって、見掛密度が0.005~0.2g/ccのものである。本発明の抗菌防黴性PLA構造体の主要な用途は生活資材、クッション材、農業資材、土木資材などが例示でき、個々にはこれら用途に適合する特性を付与することが望ましい。」
「【0026】好ましい繊度は各用途に応じて異なるため、用途毎の好ましい範囲を示すと次のようになる。生活資材ではソフトなタッチが所望される場合は300デニールから5000デニール、より好ましくは500デニールから2000デニールであり、ハードなタッチが所望される場合は2000デニールから50000デニール、より好ましくは3000デニールから20000デニールである。クッション材としては500デニールから20000デニール、より好ましくは1000デニールから5000デニールである。農業資材や土木資材としてドレン材用途として土中に埋設する場合は2000デニールから100000デニール、より好ましくは5000デニールから50000デニールである。水耕栽培用途の水路として極端な圧縮応力が掛からない場合は500デニールから5000デニールであり、より好ましくは1000デニールから3000デニールである。法面保護用途として植物の苗を育成保持する場合は2000デニールから20000デニールであり、より好ましくは3000デニールから10000デニールである。」
「【0061】得られたPLA構造体は、接合状態は良好で、見掛密度0.040g/cc、厚み35mmで、線条は中空率42%の三角おむすび型の中空断面で繊度が3000デニールであった。又、構造体を構成するPLAの特性は分子量280000、融点が176℃、オリゴマー含有量が2.8重量%で2量体の乳酸含有量が1.4重量%、ラクチド含有量が1.4重量%であった。構造体のその他の評価結果を表1に示す。本発明の構造体は優れた抗菌防黴性を示し、弾力性、取り扱い性にも優れた構造体である。本構造体をお風呂の敷きマットとして3ヶ月間着用試験した結果では黴の育成が認められなかった。」
ここで、繊度が300~100000デニールは、ポリ乳酸の比重(1.27)で計算すると繊維径は0.2mm~3.3mmとなる。
以上より甲4には以下の発明(以下「甲4発明」が記載されている。)
「見かけ密度が0.005g/cm3~0.2g/cm3であり、
厚みが35mmであり、
線状繊維を含み、前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~3.3mmである、
立体網状構造体。」
(オ) 甲6について
甲6には以下の記載がある。
「【0020】
本発明によれば、風合いに富み、軽量で、保温特性に優れ、体に沿いやすく、嵩高性に優れ、回復率の高く、抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭、あるいは防臭性能を有する敷き布団、掛け布団、枕、クッション等の寝装寝具、ダウンジャケットなどの衣類、ナプキン、おむつなどの衛生基材に好適に用いられる詰め綿が得られる。」
「【0038】
また、詰め綿を構成する繊維、すなわち細短繊維Aと中空太短繊維Bと中空極太短繊維Cのうち、少なくとも1種の繊維が生分解性のポリマからなることが好ましい。詰め綿が生分解されることで、堆肥などに利用することができ、環境への負担が小さくなる。
【0039】
生分解性のポリマとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、コポリエステルまたはこれらの共重合体などが挙げられる。さらに、前記脂肪族エステルと脂肪族ポリアミドとの共縮重合体ポリマであるポリエステルアミド系共重合体ポリマであり、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6,6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4,6)、ポリウンデカナミド(ナイロン1,1)、ポリラウロラクタミアミド(ナイロン12)または、これらの共重合体が挙げられる。また、芳香族を有するポリエステルでも生分解性を有するものでも良く、さらに共重合体でも良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネートの共重合体である。本発明においては、先述したポリマ以外であっても、それが生分解性を有していれば用いることができる。」
「【0060】
本発明の詰め綿は、風合いに富み、軽量で、保温性に優れ、体に沿いやすく、嵩高性に優れ、圧縮後の嵩高性の回復率が高く、特に抗菌、防かび、抗ウイルス、消臭、あるいは防臭性能を有する敷き布団、掛け布団、枕、クッション等の寝装寝具、ダウンジャケットなどの衣類、ナプキン、おむつ、ワイピングクロスなどの衛生基材等に広く用いられ、有用である。」
以上より甲6には、クッションを構成する細短繊維、中空太短繊維及び中空極太短繊維のすべてがポリブチレンアジペートテレフタレートからなることが例示されている。
(カ) 甲7について
甲7には以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、良好な集束性と開繊性を有する繊維束に関する。更に詳しくは、高速度の開繊性に優れ、開繊後のウェブが均一で風合いに優れた不織布に加工できる繊維束に関する。本発明の繊維束は、それ単独で、または他の部材例えば、不織布や、フィルム、パルプ等と積層、混合等をし、各種包装材、傷当て材、包帯、ハップ材、クッション材、断熱材等に使用される。」
「【0010】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明の繊維束は長繊維が一方向に配列してなる繊維束である。繊維束を構成する長繊維は、特に限定されるものではなく、天然繊維であっても、半合成繊維であっても、合成繊維であっても何ら問題ないが、開繊後のウェブにヒートシールなどの熱接着性を付与できるという点からは、合成繊維のうち熱可塑性樹脂を含む熱可塑性繊維であることが好ましい。該熱可塑性繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンを主体とする他のαオレフィンとの2~4元共重合体、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン類、ナイロン-6、ナイロン-66などに代表されるポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、酸成分としてイソフタル酸等を共重合した低融点ポリエステル、ポリエステルエラストマーなどに代表されるポリエステル類、フッ素系樹脂、等々を溶融紡糸したものである。また、環境負荷を抑制する点から、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の生分解性樹脂を溶融紡糸した熱可塑性繊維も好適に使用される。また、繊維束を開繊して得られるウェブの風合いが向上する点から、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体に代表されるスチレン系エラストマーやオレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等のエラストマー樹脂も好適に使用される。」
以上より、甲7には、クッション材に使用される繊維束を構成する長繊維の材料としてポリブチレンアジペートテレフタレートが例示されている。
(キ) 甲8について
甲8には以下の記載がある。
「【0010】従って、本発明の目的は、可塑剤移行の問題がなく、生分解性と優れた柔軟性、クッション性、耐衝撃性等とを有し、蓋材として特に必要な材料強度を有する樹脂組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、キャップや中栓等を射出成形により成形する際の離型性に優れた樹脂組成物を提供することにある。」
「【0021】[軟質系生分解性ポリエステル樹脂]本発明に用いる軟質系生分解性ポリエステル樹脂は、30~50℃における貯蔵弾性率(E’)が1.20×109 Pa以下であるものである。この軟質系生分解性ポリエステル樹脂は、酸成分として芳香族カルボン酸成分と脂肪族カルボン酸成分とを含有するポリエステル系エラストマーであることが好ましい。このポリエステル系エラストマーにおいては、既に指摘したとおり、重合体鎖中に、芳香族カルボン酸エステルからなる硬いセグメントと脂肪族カルボン酸エステルからなる柔らかいセグメントとが存在することによって、適度な結晶性と適度な粘弾性が発現している。」
「【0025】ポリエステル系エラストマーにおいて、芳香族エステル単位と脂肪族エステル単位とは所謂ブロック共重合鎖の形で存在するのが一般的であるが、勿論ランダム共重合鎖の形で存在しても差し支えない。適当な共重合組成の例は、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレン-2,6-ナフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケート、或いはこれらの2種以上のブレンド物である。」
以上より、甲8には、クッション性を有する樹脂組成物に使用される軟質系生分解性ポリエステル樹脂としてのポリエステル系エラストマーとして、ポリブチレンアジペートテレフタレートが例示されている。
イ 甲1を主引用例とする理由
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、以下の点で相違しその余の点で一致する。
<相違点1>
本件発明1では、「見かけ密度が0.03g/cm3~0.20g/cm3であり、厚みが10mm~100mmであり、」さらに「前記線状繊維は、繊維径が0.3mm~1.7mmであり、」と規定しているのに対して、引用発明1では、「見かけ密度が0.005g/cm3~0.20g/cm3であり、厚みが5mm以上であり、」そして「前記線状繊維は、繊維径が0.1mm~3.2mmである、」点。
<相違点2>
本件発明1では、「結晶融解エンタルピーが16J/g以上、30J/g以下であり、重量平均分子量が35000以上、150000以下のポリブチレンアジペートテレフタレートを、前記線状繊維100質量%中、98質量%以上の含有量で含み、前記ポリブチレンアジペートテレフタレートは、全成分100モル%中、アジピン酸成分、テレフタル酸成分、及びブタンジオール成分を合計99モル%以上の量で含む」のに対して、引用発明1では、当該構成を有しない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2から検討を行う。
<相違点2について>
立体網状構造体(クッション体)をポリブチレンアジペートテレフタレートから作成することは甲6、甲7及び甲8に例示されるように周知の技術である(以下「周知技術」)という。
しかしながら、本件発明1では、立体網状構造体において、ポリブチレンアジペートテレフタレートの結晶融解エンタルピー及び重量平均分子量さらには全成分100モル%中のアジピン酸成分、テレフタル酸成分、及びブタンジオール成分の含有量について好適な構成を特定しているものであり、たとえ立体網状構造体(クッション体)をポリブチレンアジペートテレフタレートから作成することが周知技術であったとしても、当業者にとって容易に想到できるものでもない。
また、甲2には、結晶融解エンタルピー、重量平均分子量及び全成分中のアジピン酸成分、テレフタル酸成分、及びブタンジオール成分の含有量が特定されたポリブチレンアジペートテレフタレートが記載されており、甲3には、結晶融解エンタルピーが特定されたポリブチレンアジペートテレフタレートが記載されているものであるが、甲2及び甲3に記載のポリブチレンアジペートテレフタレートは、立体網状構造体に適用するものとは特定していないものである。
以上より、引用発明1において、甲2及び3の記載、並びに上記周知技術を参酌したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)小括
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2~6は、直接あるいは間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明であるから、上記に示したことと同様に、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 甲4を主引用例とする理由
(ア)対比
本件発明1と、甲4発明とを対比すると、以下の点で相違しその余の点で一致する。
<相違点3>
本件発明1では、「見かけ密度が0.03g/cm3~0.20g/cm3であり、厚みが10mm~100mmであり、」さらに「前記線状繊維は、繊維径が0.3mm~1.7mmであり、」と規定しているのに対して、甲4発明では、「見かけ密度が0.005g/cm3~0.2g/cm3であり、厚みが35mmであり、」そして「前記線状繊維は、繊維径が0.2mm~3.3mmである、」点。
<相違点4>
本件発明1では、「結晶融解エンタルピーが16J/g以上、30J/g以下であり、重量平均分子量が35000以上、150000以下のポリブチレンアジペートテレフタレートを、前記線状繊維100質量%中、98質量%以上の含有量で含み、前記ポリブチレンアジペートテレフタレートは、全成分100モル%中、アジピン酸成分、テレフタル酸成分、及びブタンジオール成分を合計99モル%以上の量で含む」のに対して、甲4発明では、当該構成を有しない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、相違点4から検討を行う。
<相違点4について>
上記イ(イ)と同様に、甲4発明において、甲2及び3の記載、並びに上記周知技術を参酌したとしても、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)小括
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2~6は、直接あるいは間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明であるから、上記に示したことと同様に、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(第37頁~第39頁)において、次の点を主張する。
ア 原料投入時(溶融紡糸前)のポリブチレンアジペートテレフタレート(以下「PBAT」という。)の特性は開示されていないので、当業者は本件発明を実施できない。
イ 線状繊維(PBAT混合物)中のPBATそのものの含有量についての測定法の記載がないので、その含有量について確認することができず、当業者は本件発明を実施できない。
(2)当審の判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題(【0004】)、当該課題を解決するための手段(【0005】~【0006】)、本件発明の効果(【0007】)、本件発明を実施するための形態(【0009】~【0054】)、本件発明の実施例(【0055】~【0082】)が記載されており、これら記載を参照することで、本件発明を実施、すなわち、「立体網状構造体」を生産し使用することが可能である。
そして、上記(1)のア及びイに係る事項が記載されていないことをもって、実施に際して過度の試行錯誤を要することとなるとはいえず、本件発明を実施することができないとすることはできない。
よって、申立人の上記主張は採用することはできない。
2 明確性違反(特許法第36条第6項第2項)
(1) 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(第39頁~第40頁)において、次の点を主張する。
ア 原料投入時(溶融紡糸前)のPBATの重量平均分子量や結晶融解エンタルピーの範囲について記載されておらず、本件特許は明確でない。
イ PBATの合成法について記載されておらず、本件特許は明確でない。
(2)当審の判断
本件特許の請求項1~6には、原料投入時(溶融紡糸前)のPBATの重量平均分子量や結晶融解エンタルピーの範囲について記載はなされていないが、本件発明の立体網状構造体を特定できる程度に記載がなされているものである。また、本件特許の請求項1~6には、PBATの合成法について記載はなされていないが、本件発明の立体網状構造体を特定できる程度に記載がなされているものである。すなわち、ある具体的な物や方法が本件発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていると認められ、請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~6に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700688