特許異議申立
2023-700777
混綿中綿
- 審判番号
- 2023-700777
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-245143
- 登録番号
- 7220020
- 請求日
- 2023年07月26日
- 審決日
- 2024年04月17日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】モリリン株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ブナ国際特許事務所
- 【権利者代理人】深井 敏和
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 西堀 宏之
- 分類
- P1651.121-YAA(D04H) / P1651.113-YAA(D04H) / P1651.55 -YAA(D04H) / P1651.536-YAA(D04H) / P1651.537-YAA(D04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7220020号発明「混綿中綿」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7220020号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7220020号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7220020号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成29年12月21日(優先権主張 平成29年1月6日)に出願され、令和5年2月1日にその特許権の設定登録がされ、令和5年2月9日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 7月26日 :特許異議申立人弁理士法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
令和5年 9月26日 :申立人による上申書の提出
令和5年11月28日付け:取消理由通知書
令和6年 1月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 3月14日 :申立人による意見書の提出
第2 本件訂正請求
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7220020号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
本件訂正前の請求項1に記載された
「開繊した主繊維と機能繊維とを送風機により撹拌混合して得られる混綿中綿であって、前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であり、任意に前記混綿中綿の6箇所から2gをそれぞれ採取し、解じょ法(JIS L 1030)にて混率を調べたとき、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記2種以上の繊維の混率のばらつきが5質量%以内である混綿中綿。」を、
「開繊した主繊維と機能繊維とを貯綿庫内に収容し、送風機により撹拌混合して得られる混綿中綿であって、前記主繊維と前記機能繊維とが互いに異種の繊維であり、かつ前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であり、任意に前記混綿中綿の6箇所から2gをそれぞれ採取し、解じょ法(JIS L 1030)にて混率を調べたとき、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記主繊維と前記機能繊維との混率のばらつきが5質量%以内である混綿中綿。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~7も同様に訂正する)。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~7〕について請求されている。
3 訂正の適否
本件訂正は、本件訂正前の請求項1の「開繊した主繊維と機能繊維」について、「貯綿庫内に収容」したものである点、「互いに異種の繊維であ」る点を限定し、「混率のばらつき」について、「前記2種以上の繊維」を「前記主繊維と前記機能繊維」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
本件訂正は、本件特許の明細書の【0013】、【0018】、【0020】、【図1】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
本件訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 本件訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~7を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~7の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
開繊した主繊維と機能繊維とを貯綿庫内に収容し、送風機により撹拌混合して得られる混綿中綿であって、前記主繊維と前記機能繊維とが互いに異種の繊維であり、かつ前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であり、任意に前記混綿中綿の6箇所から2gをそれぞれ採取し、解じょ法(JIS L 1030)にて混率を調べたとき、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記主繊維と前記機能繊維との混率のばらつきが5質量%以内である混綿中綿。
【請求項2】
前記機能繊維が、抗菌、消臭、制電、吸湿、透湿、断熱、発熱、蓄熱、光発熱および保温のいずれかの機能を有する1種または2種以上の繊維である請求項1に記載の混綿中綿。
【請求項3】
前記主繊維が、ポリエステル繊維である請求項1または2に記載の混綿中綿。
【請求項4】
粒綿、不織布シートおよびウェブ状のシートから選ばれた形態を有する請求項1~3のいずれかに記載の混綿中綿。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の混綿中綿を含む衣料品用または寝装品用の中綿素材。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の混綿中綿を内部に充填した衣料品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の混綿中綿を内部に充填した寝装品。
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1~7に係る発明は、下記甲第7号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:中国特許出願公開第102505338号明細書
甲第2号証:欧州特許出願公開第0522308号明細書
甲第3号証:特開平8-134760号公報
甲第7号証:特開2000-245580号公報
甲第10号証:“Weighing the benefits of automatic blending”、TEXTILE MONTH、BRITISH TEXTILE MACHINERY、1996年5月、25、26、31ページ
引用文献1:「JISハンドブック 31 繊維」、2013年(平成25年)6月21日、財団法人日本規格協会、705~712ページ
(以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。)
2 当審の判断
(1)引用文献の記載、引用発明
ア 甲7
甲7(【0011】)には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されている。
「繊維表面に薬剤を付与した青色の抗菌防臭効果を有するポリエステル繊維(繊度6デニール、繊維長64mm)である青色繊維と、通常のポリエステル繊維原綿(短繊維繊度6デニール、繊維長64mm)である白色繊維とを、重量比で30:70の割合の混合綿を、まず混綿機に3回通して両者の混合状態がある程度均一になったことを確認した後、この混合綿を製綿機に投入することによって青色原綿と白色原綿とが均一に混合された混合布団綿。」
イ 甲10
(ア)甲10の記載
甲10には、次の記載がある(翻訳は当審で作成した。)。
「図3のグラフは、1つの成分がブレンドの25%未満を形成する糸の場合、ブレンド比率の変化に対する許容範囲は、比較的緩いブレンドの+/-1.5%から、より厳しい色の+/-0.5%まで変化したことを示している。」(26ページ右欄21~33行)
「
[図:0001412297000001.jpg]
」(26ページ 図3)
図中の記載
「図3:異なる色に対する許容範囲図 シャーリー研究所に謝辞」(図3の表題)
「組成の許容範囲(%)」(図3の縦軸)
「少ないほうの組成の割合(%)」(図3の横軸)
「A=黒/白
B=黒/黄、黒/赤、白/赤、白/青、赤/緑、赤/青、青/黄
C=黒/青、黒/黄、黄/赤、黄/緑、緑/青」(図3の凡例)
(イ)甲10の記載から認められる事項
上記(ア)によると、甲10の図3には、少ないほうの成分の含有量に対する成分の許容範囲について記載されており、甲10の図3に当審で補助線を引いた下記<甲10参考図>によると、青/白で少ないほうの成分が30%の場合の許容範囲は約1.1%程度であることが認められる。
<甲10参考図>
[図:0001412297000002.jpg]
ウ 引用文献1
引用文献1には、次の記載がある。
「5.6 試料の採取
繊維種類の異なる糸で組織し、編成し又は構成している繊維製品から,意匠の1単位を構成する全ての糸を含み,かつ,1g以上の試料を採取する。」(709ページ下から3行~末行)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲7発明を対比する。
甲7発明の「抗菌防臭効果を有するポリエステル繊維」である「青色繊維」は本件発明1の「機能繊維」に相当する。
甲7発明において「青色繊維」と「白色繊維」とが「重量比で30:70の割合」で混合されているので、甲7発明の「白色繊維」は本件発明1の「主繊維」に相当する。
甲7発明の「混合布団綿」は本件発明1の「混綿中綿」に相当する。
甲7発明において「混綿機に3回通し」たことと、本件発明1の「送風機により攪拌混合」することとは、「混合」する限りで一致する。
以上のことから、本件発明1と甲7発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「主繊維と機能繊維とを混合して得られる混綿中綿。」
[相違点1]
本件発明1の「主繊維と機能繊維」は、「開繊」され、「貯綿庫内に収容」されたものであるのに対して、甲7発明の「青色繊維」と「白色繊維」は、開繊され、貯綿庫内に収容されたものであるか不明である点。
[相違点2]
「混合」することに関して、本件発明1は、「送風機により攪拌混合」するのに対して、甲7発明は、「混綿機に3回通し」た点。
[相違点3]
本件発明1は、「前記主繊維と前記機能繊維とが互いに異種の繊維であり、かつ前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であ」るのに対して、甲7発明は、「青色繊維」と「白色繊維」が同種の繊維である「ポリエステル繊維」であって、「青色繊維」と「白色繊維」の比重が不明である点。
[相違点4]
本件発明1は「任意に前記混綿中綿の6箇所から2gをそれぞれ採取し、解じょ法(JIS L 1030)にて混率を調べたとき、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記主繊維と前記機能繊維との混率のばらつきが5質量%以内である」のに対して、甲7発明はそのようなものであるか不明である点。
イ 判断
事案に鑑み相違点3について検討する。
主繊維と機能繊維とを攪拌混合して得られる混綿中綿において、主繊維と機能繊維とが互いに異種の繊維であり、かつ主繊維の比重に対して機能繊維の比重が±10%の範囲内とすることについて、甲7及び他の証拠には記載も示唆もされておらず、また本件出願前において周知技術であるともいえない。
そうすると、甲7発明における「青色繊維」と「白色繊維」を、互いに異種の繊維とし、かつ主繊維の比重に対して機能繊維の比重が±10%の範囲内とする構成に想到し得ない。
したがって、甲7発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
ウ 申立人の主張について
相違点3に関して、申立人は、甲7には、「上記で理解されるように、本発明においては、布団綿として使用する原綿繊維が結果として他と色差を有する関係となっておればよいものであり、その原料繊維の種類は従来布団綿として用いられている全ての繊維を使用することができる。」(【0009】)、「以下本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、この実施例は一例であり、本発明はこの実施例に限られるものではない。」(【0011】)と記載され、甲7発明は、原綿繊維の組み合わせに関して、ポリエステル繊維とポリエステル繊維との組み合わせには限定されていないことが明らかであること、甲1~甲3に記載の繊維の組み合わせは、その比重が±10%の範囲内であり、繊維の組み合わせも異種の繊維に該当すること、また、甲3には、比重が近い方が分散しやすいことは従来より知られており、その程度を±10%以内とする程度のことは、当業者により適宜行われる程度の設計事項にすぎないことを述べている。
しかしながら、第5の2~3で示すように、甲1~甲3に記載の繊維の組み合わせは、その比重が±10%の範囲内とはいえず、また、甲7の前記【0009】及び【0011】の記載により、直ちに互いに異種の繊維とすることを想起できるものでもないから、甲7発明における「青色繊維」と「白色繊維」を、互いに異種の繊維とし、かつ主繊維の比重に対して機能繊維の比重が±10%の範囲内とすることが従来より知られていることであるとか、当業者により適宜行われるものということはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
(3)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性、進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲2に基づく新規性、進歩性)
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲3に基づく新規性、進歩性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(新規事項)
令和4年12月2日付け手続補正書により、請求項1の混綿中綿を「開繊した主繊維と機能繊維とを送風機により攪拌混合して得られる」ものと補正した点は、新たな技術事項を導入するものであり、新規事項の追加に該当する。
(5)申立理由5(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1は、「どのような開繊をしたか、どのような送風機を用いるか、どの程度攪拌混合したか」等について特定されていない結果、請求項1の「開繊した主繊維と機能繊維とを送風機により攪拌混合して得られる混綿中綿であって」の記載は、境界が明確でなく、発明全体が不明確である。
(6)申立理由6(サポート要件、実施可能要件)
本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が次の点で不備であり、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
図1、図2(あるいは実施例1、2)に示された方法から拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に開示された範囲を超えているし、発明の詳細な説明に基づいて実施可能でない。
2 申立理由1(甲1に基づく新規性、進歩性)について
甲1(請求項1、[0007]~[0009]、[0019]~[0023])には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「低融点繊維と竹炭素繊維からなり、完全に混合されたふわふわの繊維が空気流によって均一に分散されて形成されたウェブ構造。」
本件発明1と甲1発明とは、少なくとも、本件発明1は、「前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であ」るのに対して、甲1発明の「低融点繊維」の比重に対する「竹炭素繊維」の比重が不明である点で相違する。
当該相違点について検討するに、当該相違点は実質的な相違点である。
また、甲1には、「低融点繊維」の比重に対する「竹炭素繊維」の比重に着目した記載はなく、甲1発明において、「低融点繊維」の比重に対して「竹炭素繊維」の比重を±10%の範囲内とすることは容易に想到し得ない。
したがって、甲1発明において、当該相違点に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
なお、申立人は、特許異議申立書(28ページ下から7行~30ページ10行)において、「低融点繊維」の比重に対する「竹炭素繊維」の比重を計算しているが、当該計算において、「竹炭素繊維」の比重については当該竹炭素繊維のベースであるレーヨンの比重として算出され、含有されているとされる竹炭素の影響が考慮されていないものであり、その計算結果を採用することはできない。
3 申立理由2(甲2に基づく新規性、進歩性)について
甲2(1欄3~8行、11欄下から18行~下から12行、11欄下から4行~13欄21行)には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「断熱繊維である綿繊維と、バインダー繊維であるダクロンD-262ポリエステル繊維とが選択され、ブレンドされ、ウェブが形成され、混合繊維が空気流によって混合され、装置によって開繊され、形成される低密度断熱バット。」
本件発明1と甲2発明とは、少なくとも、本件発明1は、「前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であ」るのに対して、甲2発明の「バインダー繊維であるダクロンD-262ポリエステル繊維」の比重に対する「断熱繊維である綿繊維」の比重が不明である点で相違する。
当該相違点について検討するに、当該相違点は実質的な相違点である。
また、甲2には、「バインダー繊維であるダクロンD-262ポリエステル繊維」の比重に対する「断熱繊維である綿繊維」の比重に着目した記載はなく、甲2発明において、「バインダー繊維であるダクロンD-262ポリエステル繊維」の比重に対して「断熱繊維である綿繊維」の比重を±10%の範囲内とすることは容易に想到し得ない。
したがって、甲2発明において、当該相違点に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、甲2発明と同一ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2、4は甲2発明と同一ではなく、また、本件発明2~4は甲2発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
なお、申立人は特許異議申立書(34ページ下から4行~36ページ7行)において、「バインダー繊維であるダクロンD-262ポリエステル繊維」の比重に対する「断熱繊維である綿繊維」の比重を計算して、「約10」と計算して「±10%以内」としている。しかしながら、36ページ1行の計算結果は「約10.389」であり、「±10%の範囲内」ではない。
4 申立理由3(甲3に基づく新規性、進歩性)について
甲3(請求項1、【0006】、【0010】、【0021】)には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「ポリエステル繊維と、炭素繊維等の複数種の繊維群が、空気を噴出することによって均一に分散するよう混合されて形成された繊維ウェブ。」
本件発明1と甲3発明とは、少なくとも、本件発明1は、「前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であ」るのに対して、甲3発明の「ポリエステル繊維」の比重に対する「炭素繊維等」の比重が不明である点で相違する。
当該相違点について検討するに、当該相違点は実質的な相違点である。
また、甲3には、「ポリエステル繊維」の比重に対する「炭素繊維等」の比重の比重に着目した記載はなく、甲3発明において、「ポリエステル繊維」の比重に対して「炭素繊維等」の比重を±10%の範囲内とすることは容易に想到し得ない。
したがって、甲3発明において、当該相違点に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
本件発明4は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
なお、申立人は特許異議申立書(38ページ16行~39ページ6行)において、「パルプを主繊維とすると、比率は」「約10」であり、「±10%以内である」としている。しかしながら、38ページ末行の計算結果は「約10.389」であり、「±10%の範囲内」ではない。
5 申立理由4(新規事項)について
請求項1における「開繊した主繊維と機能繊維とを」「送風機により攪拌混合して得られる」の記載について、本件特許の願書に最初に添付した明細書の【0018】、【0019】には、次の記載がある。
「(イ)混綿工程(図1(b))
まず、予め開繊し計量した所定量の主繊維と機能繊維とをそれぞれフィードラチス11から送綿手段31(ブロワー等)にて貯綿庫5に送る。貯綿庫5内では、図示しない送風機により主繊維と機能繊維とは撹拌混合される。これにより主繊維と機能繊維とは均一に混ざり合った混綿が得られ、混率のばらつきが低減される。混綿は、貯綿庫5から横方向に吸引排出される。すなわち、貯綿庫5の側面には、吸引口8が設けられており、吸引口8は貯綿庫5の底部から上部にかけて広がった開口を有している。そのため、貯綿庫5の側面から均一に繊維綿を吸引することができる。
貯綿庫5からの吸引された綿は、図示しない送綿手段により混綿保管庫9に送られ、一時的に保管される。
(ウ)粒綿作製工程(図1(c))
混綿保管庫9から取り出した綿をフィードラチス12上に敷き、送綿手段32(ブロワー等)にてボール機20に送り、ボール機20にて粒綿を作製し、得られた混綿中綿を保管庫21に送り収容する。」
そうすると、請求項1における「開繊した主繊維と機能繊維とを」「送風機により攪拌混合して得られる」の記載は、本件特許の願書に最初に添付した明細書に記載された事項である。
したがって、令和4年12月2日付け手続補正書により、請求項1の混綿中綿を「開繊した主繊維と機能繊維とを送風機により攪拌混合して得られる」ものと補正した点は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものである。
6 申立理由5(明確性)について
請求項1の「開繊した主繊維と機能繊維とを送風機により攪拌混合して得られる混綿中綿であって」の記載について、「開繊」、「送風機」、「攪拌」、「混合」のいずれもその意味が明らかであり、請求項の上記記載はそれ自体で明確である。
また、「どのような開繊をしたか、どのような送風機を用いるか、どの程度攪拌混合したか」等について特定されていないとしても、本件発明は「開繊した主繊維と機能繊維とを送風機により攪拌混合して得られる混綿中綿」であることに加え、「任意に前記混綿中綿の6箇所から2gをそれぞれ採取し、解じょ法(JIS L 1030)にて混率を調べたとき、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記主繊維と前記機能繊維との混率のばらつきが5質量%以内」であることが特定されているから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
よって、本件発明1~7は明確である。
7 申立理由6(サポート要件、実施可能要件)について
(1)サポート要件について
ア 本件発明が解決しようとする課題
本件特許の発明の詳細な説明の記載によると、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「2種以上の繊維からなる均質な混綿中綿を提供すること」(【0005】)である。
イ 本件課題を解決するための手段
本件課題に関して発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)2種以上の繊維からなる混綿中綿であって、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記2種以上の繊維の混率のばらつきが10質量%以内である混綿中綿。
・・・」
「【0020】
得られる混綿粒綿は、直径が1~10mm、好ましくは5~8mm程度であるのがよい。また、混綿粒綿を構成する主繊維と機能繊維との混率(混用率)のばらつきは、10質量%以内、好ましくは5質量%以内である。混率のばらつきは、式:最大混率値-最小混率値から求めることができる。
これに対して、主繊維と機能繊維との混率のばらつきが10質量%を超える場合は、機能繊維の機能を十分に発現できなくなる。また、多くの機能繊維は高価であるので、少ない混率で十分な効果を出すために、ばらつきの少ない均一な混率とするのが好ましい。
最大混率値および最小混率値は、任意にサンプリングした複数の混綿中綿について、それぞれの混率を求め、そのうちの最大値と最小値を求めることによって決定される。
ここで、混率は、例えば、後述する実施例に記載の解じょ法または溶解法(JIS L1030)にて求めることができる。
混率のばらつきが10質量%の範囲内に収まるのは、主として前記した製造工程に起因する。これに対して、数種類の繊維からなる開繊綿を混ぜ合わせて混綿し、これを粒綿とするだけでは、均一な混率の粒綿を得ることができない。
なお、原料繊維が2種ではなく、3種以上の繊維を用いる場合も、同様にして、得られた混綿中綿における各繊維の最大混率値と最小混率値を求め、その差から混率のばらつきを決定すればよい。」
ウ 判断
発明の詳細な説明の上記イの記載を参照すると、本件課題の解決は、2種以上の繊維からなる混綿中綿であって、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記2種以上の繊維の混率のばらつきが10質量%以内であることによるものと理解できる。
そうすると、本件発明1は、「任意に前記混綿中綿の6箇所から2gをそれぞれ採取し、解じょ法(JIS L 1030)にて混率を調べたとき、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記主繊維と前記機能繊維との混率のばらつきが5質量%以内である」との構成を有しており、当該構成により、2種以上の繊維からなる均質な混綿中綿となると認識できる。
したがって、本件発明1、及び本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2~7は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決することができると認識できる範囲のものである。
よって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
(2)実施可能要件について
発明の詳細な説明には、本件発明について、「混綿中綿」が「開繊した主繊維と機能繊維とを貯綿庫内に収容し、送風機により撹拌混合して得られる」ことに関する記載(【0016】~【0018】)があり、「前記主繊維と前記機能繊維とが互いに異種の繊維であ」ることに関する記載(【0013】)、「前記主繊維の比重に対して前記機能繊維の比重が±10%の範囲内であ」ることに関する記載(【0012】)、「任意に前記混綿中綿の6箇所から2gをそれぞれ採取し、解じょ法(JIS L 1030)にて混率を調べたとき、式:最大混率値-最小混率値から求められる前記主繊維と前記機能繊維との混率のばらつきが5質量%以内である」ことに関する記載(【0020】)があり、当該記載に基づいて、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく本件発明の混綿中綿を製造することができる。
よって、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
(3)小括
よって、本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700777