特許異議申立
2023-700037
再生セルロース系繊維不織布、薬液含浸シート、及びフェイスマスク
- 審判番号
- 2023-700037
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-518408
- 登録番号
- 7101879
- 請求日
- 2023年01月13日
- 審決日
- 2023年04月11日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【権利者代理人】三間 俊介
- 【異議申立人】柏木 里実
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 森本 哲也
- 分類
- P1651.121-Y (D04H) / P1651.536-Y (D04H) / P1651.537-Y (D04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7101879号発明「再生セルロース系繊維不織布、薬液含浸シート、及びフェイスマスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7101879号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7101879号の請求項1~6に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)5月8日(優先権主張令和1年5月9日)を国際出願日とする出願であって、令和4年7月7日にその特許権の設定登録がされ、令和4年7月15日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~6に係る特許に対し、令和5年1月13日に特許異議申立人柏木里実(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
繊維径0.5μm以上10.0μm以下の再生セルロース系繊維から構成される不織布であって、該不織布の、乾燥状態の表面粗さが100μm以下であり、乾燥状態における地合指数が250以下であり、かつ、湿潤時の不織布のヨコ方向の初期抗張力が0.25N/50mm以上0.75N/50mm以下であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
目付が10g/m2以上80g/m2以下であり、かつ、厚みが0.05mm以上0.50mm以下である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記セルロース系繊維は連続長繊維である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
嵩密度が、0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布を含む薬液含浸シート。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布を含むフェイスマスク。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証~甲第12号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由1~4を申立てている。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~6は、下記の甲1に記載された発明及び甲2~甲12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1~6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件明細書には、表面粗さが30~97μm及び地合指数が119~244の実施例しか記載がなく、どのようにすれば、表面粗さが30μm未満及び地合指数が119未満の不織布が得られるか不明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~6のその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~6に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件明細書には、目付が10.4~79.7g/m2の範囲における、表面粗さが30~97μm及び地合指数が119~244の実施例しか記載がなく、目付が10.4~79.7g/m2の範囲を超える場合や、表面粗さが30μm未満及び地合指数が119未満の不織布が本件特許発明の課題を解決できるか不明であるから、本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~6に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
4 申立理由4(明確性)
本件発明1~6は、表面粗さ及び地合指数の下限値が特定されておらず、本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~6に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲1:特開2017-150110号公報
甲2:特開2018-153632号公報
甲3:特開2018-127744号公報
甲4:特開2012-16518号公報
甲5:特開2014-226281号公報
甲6:特開2016-188443号公報
甲7:特開2016-123833号公報
甲8:特開2015-89977号公報
甲9:特開2007-9356号公報
甲10:特開2016-98464号公報
甲11:再公表特許第2013/187404号
甲12:特開2005-139594号公報
第4 各甲号証
1 甲1に記載された発明
甲1の【0001】、【0021】、【0032】~【0033】、【0042】の表1の記載事項を総合し、特に実施例6について着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「市販のリヨセル短繊維0.9dtex×35mmの綿を用いて、スパンレース製造設備を用いて45g/m2のカードウエブを作製し、得られたカードウエブをコンベアーネット上にて2MPaの低圧水流によって2回水流交絡処理を行って得られたシートをウエブの進行方向と直角に4.4mm往復運動させた6MPaの純水高圧水流にて1回水流交絡させた後、100℃の熱風で乾燥を行うことで得た、目付が43.1g/m2、厚みが0.35mmであって、密度が0.123g/cm3、乾燥時の地合指数が238、湿潤時の透明度が62.6%である、Sinカーブ模様を有したフェイスマスク用再生セルロース短繊維不織布。」
2 甲6、甲7に記載された事項
(1)甲6について
甲6の【請求項8】、【0054】~【0056】の記載事項を総合すると、甲6には以下の事項(以下「甲6記載事項」という。)が記載されている。
「液体(特に化粧料)含浸皮膚被覆シートにも用いられる不織布の表面粗さの平均偏差(SMD)を3.6μm以下とすることで、前記不織布の表面触感を滑らかにすること。」
(2)甲7について
甲7の【請求項1】、【0001】~【0002】、【0009】、【0013】、【0015】の記載事項を総合すると、甲7には以下の事項(以下「甲7記載事項」という。)が記載されている。
「化粧水を含浸させて使用する化粧パッドに用いられる不織布において、表面粗さの平均偏差(SMD)を1.20μm以下、平均表面摩擦係数(MIU)を0.35以上とすることで、拭き取り性を高くすること。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「リヨセル短繊維」は再生セルロース繊維であるから、本件発明1の「再生セルロース系繊維」に相当する。
甲1発明の、「目付が43.1g/m2、厚みが0.35mmであって、密度が0.123g/cm3、乾燥時の地合指数が238である、フェイスマスク用再生セルロース短繊維不織布」は、「乾燥状態における地合指数が250以下」である「不織布」という限りにおいて、本件発明1の「乾燥状態の表面粗さが100μm以下であり、乾燥状態における地合指数が250以下であり、かつ、湿潤時の不織布のヨコ方向の初期抗張力が0.25N/50mm以上0.75N/50mm以下である」「不織布」に相当する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「再生セルロース系繊維から構成される不織布であって、該不織布の、乾燥状態における地合指数が250以下である不織布。」
<相違点1>
再生セルロース系繊維の繊維径が、本件発明1では「繊維径0.5μm以上10.0μm以下」であるのに対し、甲1発明では「リヨセル短繊維0.9dtex×35mm」であるものの繊維径は不明である点。
<相違点2>
不織布の乾燥状態の表面粗さが、本件発明1では「100μm以下」であるのに対し、甲1発明では不明である点。
<相違点3>
不織布の湿潤時のヨコ方向の初期抗張力が、本件発明1では「0.25N/50mm以上0.75N/50mm以下」であるのに対し、甲1発明では不明である点。
イ 判断
事案に鑑み<相違点2>について検討する。
本件明細書の「乾燥状態の表面粗さが100μmより大きいと、皮膚への物理的刺激性が高まり、肌触り性が低下する。また、肌との隙間が多く生じてしまい、肌への追従性が劣り、肌への密着性が低下する。」(【0014】)との記載を踏まえると、本件発明1の相違点2に係る構成は、不織布の肌触り性及び肌への密着性を向上するためのものである。
一方、甲1発明は、「肌との密着性が高く、薬液を均一に肌へ移行することに優れ、浸透感を実感することができるフェイスマスク用不織布を提供すること」(【0005】)をその課題とするものであり、甲1には、前記課題と課題を解決するための手段との関係について、「密着性(着用感)は、Sinカーブ模様、素材、連続長繊維を選択することにより、薬液移行性(薬液量や均一性)は、不織布の均一性、地合指数、密着性の高さ(Sinカーブ模様)を選択することにより、そして浸透する感覚は、透明度を選択することにより、達成されうる」(【0013】)と記載されているものの、不織布の肌触り及び肌への密着性と表面粗さを関連付ける記載は甲1からは確認できない。
そうすると、甲1には、不織布の肌触りについては記載も示唆もされておらず、甲1発明において、肌触りのために表面粗さを調整する動機付けはない。
さらに、上記第4の2において、甲6記載事項及び甲7記載事項として示したように、甲6及び甲7には、相違点2に係る本件発明1の構成と同様の表面粗さとすることは記載されているが、甲6記載事項は表面質感を滑らかにすることであり、甲7記載事項は拭き取り性を高くすることであり、それぞれ甲1発明とはその課題が異なるから、甲1発明に甲6記載事項又は甲7記載事項を適用する動機付けはない。
さらに、相違点2に係る本件発明1の構成は、その他の甲号証にも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、相違点1及び3について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~甲12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~6は、甲1発明及び甲2~甲12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
本件明細書の段落【0037】~【0052】には、本件発明の各実施例が記載されており、これらの記載を参照し技術常識を踏まえれば、本件発明に係る「不織布」を生産し、使用することができるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものといえる。
3 申立理由3(サポート要件)について
本件発明が解決しようとする課題について、本件明細書には、「低目付時でも湿潤時の取扱い性に優れ、密着性が高く、かつ、肌触りに優れた不織布、及びこれを用いた製品、例えば、薬液含浸シートを提供することにある。」(【0005】)と記載されている。
他方、この課題の解決手段について、本件明細書には、「乾燥状態の表面粗さが100μmより大きいと、皮膚への物理的刺激性が高まり、肌触り性が低下する。また、肌との隙間が多く生じてしまい、肌への追従性が劣り、肌への密着性が低下する。」(【0014】)、「薬液含浸用不織布の乾燥状態における地合指数が250より大きいと、不織布が不均一であるため肌との隙間が多く生じてしまい、肌への追従性が劣り、密着性が低下する。」(【0015】)と記載されており、当業者であれば、これらの表面粗さと地合係数の数値範囲を満たすことにより本件発明の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件発明1には、これらの事項が特定されており、本件発明1は、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものといえる。
よって、本件発明1~6は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
4 申立理由4(明確性)について
本件発明1の「表面粗さが100μm以下」、「地合指数が250以下」の意味は理解でき、それらの記載は明確である。
申立人は、上記記載に下限値が特定されていないから明確でない旨主張するが、表面粗さと地合係数の下限値は、不織布を製造し、フェイスマスクとして用いる以上、それらのとり得る下限値は技術常識から明らかであり、下限値が特定されていないことをもって明確でないとすることはできない。
よって、本件発明1~6は明確である。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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