特許異議申立
2023-700681
耐火部材
- 審判番号
- 2023-700681
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-557232
- 登録番号
- 7216010
- 請求日
- 2023年06月30日
- 審決日
- 2024年08月29日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社クラレ
- 【権利者代理人】杉本 修司
- 【権利者代理人】堤 健郎
- 【権利者代理人】小林 由佳
- 【権利者代理人】中田 健一
- 【権利者代理人】中尾 真二
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7216010号発明「耐火部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7216010号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
特許第7216010号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7216010号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)11月27日(優先権主張 平成29年11月28日)を国際出願日とする出願であって、令和5年1月23日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和5年6月30日に特許異議申立人 弁理士法人朝日奈特許事務所(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年11月2日付けで取消理由が通知され、同年12月25日に特許権者 株式会社クラレ(以下「特許権者」という。)から意見書が提出され、令和6年2月8日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年4月10日に特許権者より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月25日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年6月10日に特許異議申立人より意見書が提出され、同年同月27日に特許権者より上申書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正請求における訂正の趣旨は、「特許第7216010号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維と難燃性熱可塑性樹脂とで少なくとも構成された耐火部材であって、前記非連続強化繊維が耐火部材中で分散し、
前記耐火部材の最大膨張後の空隙率が、60%以上であり、最大膨張後の厚みが2~30mmであり、最大膨張率が250%以上である、耐火部材。」
との記載を、
「熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維と難燃性熱可塑性樹脂とで少なくとも構成された耐火部材であって、熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成するための耐火部材であり、前記非連続強化繊維が耐火部材中で分散し、前記難燃性熱可塑性樹脂の限界酸素指数が30以上であり、
前記耐火部材の最大膨張後の空隙率が、60%以上であり、最大膨張後の厚みが2~30mmであり、最大膨張率が250%以上であり、前記最大膨張率は、前記難燃性熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であれば、ガラス転移点より100℃高い温度、結晶性樹脂であれば融点より30℃高い温度で、厚み変化が無くなるまで加熱した後の耐火部材において、下記の計算式より算出する、耐火部材。
最大膨張率(%)=膨張後厚み(mm)/膨張前厚み(mm)×100」
に訂正する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし12についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5の
「前記難燃性熱可塑性樹脂の限界酸素指数が30以上である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の耐火部材。」
との記載を、
「前記難燃性熱可塑性樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、およびポリアリレート系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種で構成される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の耐火部材。」
に訂正する。
請求項5の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項6ないし12についても同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11の
「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成するための耐火部材である、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の耐火部材。」
との記載を、
「さらにバインダー成分を含み、前記難燃性熱可塑性樹脂とバインダー成分との割合(重量比)が99.9/0.1~80/20である、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の耐火部材。」
に訂正する。
請求項11の記載を引用して特定する請求項12についても同様に訂正する。
(4) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし12について、請求項2ないし12は請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるので、訂正前の請求項1ないし12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、耐火部材が「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成するため」のものであること、耐火部材を構成する難燃性熱可塑性樹脂の「限界酸素指数が30以上」であることをそれぞれ特定するとともに、耐火部材の最大膨張率に関し、その算出法を明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の特許請求の範囲の請求項5、請求項11、明細書の【0026】、【0039】、【0055】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし12についても同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項5の訂正は、難燃性熱可塑性樹脂を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項5の訂正は、本件特許の明細書の【0028】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項5の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項6ないし12についても同様である。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項11の訂正は、耐火部材における難燃性熱可塑性樹脂とバインダー成分との割合を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項11の訂正は、本件特許の明細書の【0025】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項5の記載を引用して特定する請求項12についても同様である。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」という。)は、令和6年4月10日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維と難燃性熱可塑性樹脂とで少なくとも構成された耐火部材であって、熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成するための耐火部材であり、前記非連続強化繊維が耐火部材中で分散し、前記難燃性熱可塑性樹脂の限界酸素指数が30以上であり、
前記耐火部材の最大膨張後の空隙率が、60%以上であり、最大膨張後の厚みが2~30mmであり、最大膨張率が250%以上であり、前記最大膨張率は、前記難燃性熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であれば、ガラス転移点より100℃高い温度、結晶性樹脂であれば融点より30℃高い温度で、厚み変化が無くなるまで加熱した後の耐火部材において、下記の計算式より算出する、耐火部材。
最大膨張率(%)=膨張後厚み(mm)/膨張前厚み(mm)×100
【請求項2】
前記耐火部材の前記膨張後の熱伝導率が、0.15W/(m・K)以下である、請求項1に記載の耐火部材。
【請求項3】
前記耐火部材において、前記膨張後の耐火部材の熱抵抗が0.05m2・K/W以上である、請求項1または2に記載の耐火部材。
【請求項4】
前記耐火部材の曲げ弾性率が3GPa以上および曲げ強度が50MPa以上である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項5】
前記難燃性熱可塑性樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、およびポリアリレート系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種で構成される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項6】
前記耐火部材において、難燃性熱可塑性樹脂を含む樹脂マトリックスと非連続強化繊維との総量に対する非連続強化繊維比率が15~80重量%である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項7】
前記非連続強化繊維の平均繊維長が2~50mmである、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項8】
前記非連続強化繊維が、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、セラミックファイバー、玄武岩繊維、および金属繊維からなる群から選択された少なくとも一種で構成される、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項9】
前記難燃性熱可塑性樹脂が、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、およびポリエーテルエーテルケトン系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種で構成される、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項10】
前記非連続強化繊維が屈曲した状態で前記難燃性熱可塑性樹脂によって拘束されている、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項11】
さらにバインダー成分を含み、前記難燃性熱可塑性樹脂とバインダー成分との割合(重量比)が99.9/0.1~80/20である、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の耐火部材。
【請求項12】
粉粒状または繊維状の難燃性熱可塑性樹脂と、熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維とで少なくとも構成される混合不織布を一枚ないしは多数枚積層して、前記熱可塑性樹脂の流動開始温度以上の温度で加圧しながら加熱し、次いで、加圧しながら冷却する、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の耐火部材の製造方法。」
第4 特許異議申立理由の概要
令和5年6月30日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4、6ないし8及び10ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2017-88807号公報
甲第2号証:特開2015-110791号公報
甲第3号証:和志武洋祐,抄紙技術を利用した熱可塑性コンポジットの創製,機能紙研究会誌,平成25(2013)年10月,No.52,第43~47頁
甲第4号証:株式会社クラレ 繊維カンパニー生産技術統括本部 遠藤了慶,耐熱難燃性繊維“クラキス”のご紹介,日本ポリイミド・芳香族系高分子会議,「ポリイミド・芳香族系高分子 最近の進歩 2016」,第16~23頁
甲第5号証:東邦テナックス株式会社 営業部門 インダストリービジネスグループ長 種市伸彦,PAN系炭素繊維の現状と将来,25th Composite Material Seminar,2012年2月17日,第1~7頁
甲第6号証:三菱江戸川化学KK 上野昭一,ポリカーボネート樹脂 -現状・性質・用途-,生産と技術,1964-4号,第22~26頁
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 令和6年2月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
令和6年2月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。なお、申立理由1及び2は、取消理由1及び2に包含される。
1 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし8及び10ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、以下のとおり、取消理由1及び2の理由では、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 取消理由1(甲1を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「耐火材料及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機繊維からなる耐火層を有する耐火材料であって、熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移温度が300℃以下であり、無機繊維が短繊維であることを特徴とする耐火材料。
【請求項2】
無機繊維が交絡している請求項1記載の耐火材料。」
・「【0009】
本発明の耐火材料は、熱可塑性樹脂と無機繊維とからなる耐火層を有している。さらにはこの耐火層が多層構造である耐火材料であることが好ましい。
本発明の耐火材料を構成する耐火層に用いられる無機繊維は、耐火試験中に形状を保持する役割を有し、試験中に熱によって溶融しないことが必要である。中でも無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、岩石繊維、セラミック繊維の中から選択されることが好ましい。また、無機繊維は2種以上の混合物であることも好ましい。通常の高耐熱性の繊維としては有機合成繊維も使用されてはいるものの、一般的に可燃性であり、800℃以上の火炎を接炎した際には容易に燃焼する恐れがある。それに対し、炭素繊維、ガラス繊維、岩石繊維、セラミック繊維などの無機繊維は、800℃以上の火炎に30分以上接炎しても燃焼せず、例え一部が燃焼することがあっても、耐火材料としての形状は保つことが可能である。もっとも一部に有機合成繊維を含むことは本発明の好ましい形態の一つである。」
・「【0012】
熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂である場合には、融点を有し、本発明ではその融点が300℃以下であることが必要であり、さらには280℃以下、特には100℃~250℃の範囲であることが好ましい。熱可塑性樹脂が非晶性熱可塑性樹脂である場合には融点が不明確であるため、ガラス転移温度(二次転移温度)が300℃以下であることが、さらには200℃以下、特には50℃~150℃の範囲にあることが好ましい。
このように無機繊維に対して、融点やガラス転移温度などの形状が変形する温度が低い熱可塑性樹脂を用いることにより、本発明の耐火材料は従来の発泡材料よりもより低温の段階においてその体積を増加させ、熱伝導性を低く保つことが可能となったのである。
【0013】
より具体的には本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリプロプピレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂などであることが好ましい。また2種以上の複数の熱可塑性樹脂を含有するものであることも好ましい態様である。さらに好ましい熱可塑性樹脂の条件としては、メルトボリュームフローレイトが12~60cm3/10分の範囲であることが好ましい。ここでメルトボリュームフローレイトは、ISO1133に準拠して300℃、荷重1.2kgにて測定して得た値である。さらにはメルトボリュームフローレイトとしては、12~60cm3/10分、より好ましくは16~40cm3/10分、特には16~30cm3/10分の範囲であることが好ましい。このような溶融特性を有することにより、製造しやすくかつ熱成形が行いやすい耐火層とすることが可能となる。
【0014】
そのほかに本発明の耐火材料には、火炎を接炎した際に熱分解し吸熱反応を起こす無機化合物を含有することも好ましい。このような無機化合物としては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。また、火炎を接炎した際に熱分解し、発泡する化合物なども、さらに断熱性を向上させる点から添加することが可能である。例えば、アゾジカルボンアミドやヒドラゾジカルボンアミドなどが挙げられる。
本発明の耐火材料は、このような無機繊維と熱可塑性樹脂からなる耐火層から構成されるのであるが、さらにこの耐火層中にて無機繊維は物理的に形状を保つよう、織編物を構成していたり、交絡したものであることが好ましい。
【0015】
さらに本発明の耐火層にて用いられる無機繊維は、特には繊維が相互に交絡していることが、より具体的には不織布形状(ランダムマット)を形成していることが好ましい。交絡したり、ランダムマットを形成するなどして物理的に形態を保持することにより、例えば800℃以上の火炎を接炎した際の燃え止め性能が十分に向上することになる。耐火層中にて無機繊維が物理的に形態を保持していることにより、耐火材料全体の燃焼が進行しても、無機繊維は脱落せずに層構造を長期にわたり保持することが可能となるからである。さらには、無機繊維が燃え止め性能をより発現するためには、規則正しく繊維が並ぶ織編物よりも、繊維方向が等方的である不織布形状(ランダムマット)であることが好ましい。規則正しい配置の場合には、個々の繊維の強度は発揮されやすいものの、熱が他の一定部分に伝達されやすいなどの欠点部分もまた、強調されるからである。」
・「【0017】
本発明の耐火材料においては、各耐火層は熱によって熱可塑性樹脂が柔軟化し、さらには溶融することによって、無機繊維のスプリングバックが発生し、厚みが増大し、熱伝導率を下げ耐熱性能が向上する。
そこで無機繊維と熱可塑性樹脂からなる耐火層から構成される本発明の耐火材料は、無機繊維の体積比率が20%以上であることが、さらには20%~90%の範囲にあることが好ましい。特には40%~70%の範囲にあることが好ましい。無機繊維の体積比率が大きくなりすぎると、耐火材料自体を成形することが困難になる傾向にある。逆に無機繊維の体積比率が少なすぎる場合には、特に燃え止め性能を発現することが困難になる傾向にある。」
・「【0020】
このような本発明の耐火材料全体の厚さとしては0.1~100mmの範囲であることが好ましい。さらには2~50mmの厚さであることが、特には5~25mmであることが好ましい。本発明の耐火材料は耐熱性や燃え止め性が高い性能を発揮することにより、このように薄く、軽量なシート状物であってもその効果は十分に発揮される。
【0021】
さらに本発明の耐火材料は、無機繊維に高強力繊維を使用することによって、耐火性能ばかりでなく、構造体としても高い強度を発揮することが可能となる。本発明の耐火材料の曲げ強度が100~500MPaであることや、曲げヤング率が7~50GPaの範囲であることが好ましい。さらには曲げ強度が200~350MPaであることや、曲げヤング率が10~30GPaの範囲であることが好ましい。
このような本発明の耐火材料は、もう一つの本発明である融点が300℃以下の熱可塑性樹脂と、無機繊維とから構成されるシートを、加熱加圧する製造方法によって得ることが可能である。」
・「【0023】
本発明に用いる無機繊維の形状としては、その単糸径が3μm以上15μm以下であることが好ましく、さらには5μm以上10μm以下であることが最適である。また無機繊維としては短繊維であることが好ましく、その繊維長としては1mm以上80mm以下であることが、さらには25mm以上60mm以下であることが好ましい。
【0024】
さらに本発明で無機繊維とともに用いられる熱可塑性樹脂は、加熱加圧される前には粒子形状または繊維形状であることが好ましい。ここで繊維形状である場合には、先に述べた無機繊維と同じ形状であることが好ましい。本発明の製造方法では、固体状態で無機繊維と混合し、成形することにより、最終製品の耐火試験時のスプリングバック性に優れた耐火材料となる。これは耐火材料中に無機繊維と熱可塑性樹脂が均一に分散しながら、かつ微小な空隙が残存するためであると考えられる。中でも本発明では熱可塑性樹脂を繊維形状として、無機繊維と混合し、加熱加圧することが好ましい。このような繊維形状の熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂を原料として一般的な溶融紡糸法により紡糸することにより得ることが可能である。繊維形状の大きさとしては、無機繊維の径や長さが同等の範囲であることが好ましい。
【0025】
また、加熱加圧処理する前の、熱可塑性樹脂と無機繊維とから構成されるシートにおいても、無機繊維が交絡していることが好ましく、特には両者が繊維形状であってランダムマットを形成していることが特に好ましい。このようなランダムマットの調製方法としては、乾式不織布法、湿式不織布法のいずれもが使用可能である。またランダムマットを調整する際には、無機繊維のみから形成することも可能であるが、無機繊維と熱可塑性樹脂の両者を含有するランダムマットであることが好ましい。
ランダムマットへの熱可塑性樹脂の添加方法としては、粉状のポリマーを添加してもよいが、均一性の観点から無機繊維と同様にマトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂も繊維形状にして、ランダムマットを形成することが好ましい。」
・「【0027】
さらに本発明の耐火材料の製造方法では、シートが多層構造であることが好ましい。無機繊維と熱可塑性樹脂から成る複数のシート、さらに好ましくは複数のランダムマットを積層し、加熱加圧することにより、多層構造の耐火材料を得ることが可能となる。耐火層を構成する多層の層の数としては2~100層であることが、さらには5~50層、特には10~25層の多層であることが好ましい。」
・「【0029】
また耐火材料の成型方法としては、加熱加圧する方法であれば、プレス成型などの一般的な熱圧成型法を適用することが可能である。マトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂をその融点または軟化点以上の温度で加圧処理を行うことで、本発明の耐火材料を成形することが可能となる。
【0030】
また本発明の耐火材料の製造方法としては、無機繊維と熱可塑性樹脂から成るシートを予備加熱し、その後シートを構成する熱可塑性樹脂の融点より低い温度の金型にて加熱加圧(プレス)処理する、いわゆるコールドスタンパブル法が、本発明の効果を顕著に発揮する方法として特に好ましい。このようなコールドスタンパブル法を採用することにより、無機繊維に無理な力がかかり、よりスプリングバックが発生しやすく、より高い耐熱性やより高い燃え止め性能を発揮することが可能となる。
このような本発明の耐火材料は、薄い場合にはフレキシブルなシート状物となり、また厚い場合には剛直な板状形状として形状を保持することが容易となる。
【0031】
また本発明の耐火材料は、その20℃雰囲気下における厚さ方向の熱伝導率が0.05W/m・K以上0.50W/m・K以下であることが好ましい。このような本発明の耐火材料は、800℃以上の火炎を接炎した際にも、30分以上背面への炎の燃え抜けがない優れた耐火材料となる。また本発明の耐火材料は、離炎後には無機繊維のスプリングバックにより、材料の厚さを1.5倍以上、好ましくは2から20倍に増加するものであることが好ましい。このように厚さを増加させることにより、耐熱材料の厚さ方向の熱伝導率を減少させることができる。さらには離炎後の耐火材料の20℃雰囲気下における厚さ方向の熱伝導率としては、0.02W/m・K以上0.20W/m・K以下であることが好ましい。離炎前後の熱伝導率の低下の程度としては、離炎前の熱伝導率の50%以下に低下するものであることが好ましい。
このような本発明の耐火材料は、実際に接炎時の耐熱性に高く、建築用として特に有用に用いられる。」
・「【実施例】
【0038】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また耐火性能は下記の方法により測定した。
【0039】
(燃え止め性能の評価方法)
150mm×150mmの金枠にサンプルを水平に置き、サンプル下面をガスバーナーにて燃焼加熱した。ガスバーナーによる加熱面付近の温度は800~950℃とし、加熱時間は30分間とした。加熱時間内のサンプル背面に燃え抜けた炎について目視観察した。
【0040】
(耐火性能の測定方法)
150mm×150mmの金枠にサンプルを水平に置き、サンプル下面をガスバーナーにて燃焼加熱した。サンプル上に厚さ25mmのスギ板を載せ、サンプル背面とスギ板の間の温度を熱電対により測定した。ガスバーナーによる加熱面付近の温度は800~950℃であり、加熱時間は60分間とした。サンプルには荷重をかけず、評価時の雰囲気は常温・常圧とした。耐火性能は60分後のサンプル背面温度で評価した。
【0041】
(断熱性能の評価方法)
耐火性能評価前後のサンプル厚さを比較した。また、評価後のサンプルを用いて、厚さ方向の熱伝導率を測定した。測定温度は20℃とし、測定機器は英弘精機社製HC-074を用いた。
【0042】
[実施例1]
35mmにカットした単糸径8μmの無機繊維(東邦テナックス株式会社製「テナックス(登録商標)」炭素繊維)と、ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標」)を溶融紡糸して得た単糸径33μmの繊維を51mmにカットした熱可塑性繊維とを、体積比で40:60に混合し、開繊機にて混合した後、カード工程を通過させることにより、繊維の引き揃え性を向上させたウェブを作成した。このようにして得られた繊維ウェブをニードルパンチ機により38番針にて針深度10mm、打ち込み密度を500本/cm2として目付200g/m2のランダムマットを得た。
該基材を33枚積層したものを予め離型処理を施したステンレス板で挟み、ホットプレス熱盤上にセットした後、同じく予め離型処理を施した鋼製スペーサーを使用して、成型圧力35kgf/cm2、成型温度が250℃にて4mm厚の耐火材料を作成した。
この背面に厚さ5mmのエアロジェルシート断熱材を接着した。接着剤はレゾルシノール系接着剤を用いて接着した。用いたエアロジェルシートは95%がシリカおよびガラス無機材料であり、空隙率は95%であり、熱伝導率は0.02W/m・Kであった。
得られた耐火材料の評価結果を表1に示す。さらに建築材料である木材のまわりに断熱材を有する耐火材料を接着し、耐火材料がその最表面に位置する建築用構造体とした。耐火性能の測定と同条件にて処理したが、木材自体には損傷は見られなかった。
【0043】
[実施例2]
実施例1において、無機繊維と熱可塑性樹脂の繊維とから成るランダムマットを33枚積層する際に、各層間に水酸化マグネシウムを添加し、無機繊維、熱可塑性樹脂(繊維)、水酸化マグネシウムの体積比を25:35:40としたこと以外は請求項1と同様に耐火材料を成型し、15mm厚の耐火材料を作成した。さらにその背面に実施例1にて用いた断熱材を接着した。
得られた耐火材料の評価結果を表1に示す。さらに建築材料である木材のまわりに断熱材を有する耐火材料を接着し、耐火材料がその最表面に位置する建築用構造体とした。耐火性能の測定と同条件にて処理したが、木材自体には損傷は見られなかった。」
・「【0046】
【表1】
[図:0001417610000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「35mmにカットした単糸径8μmの無機繊維(東邦テナックス株式会社製「テナックス(登録商標)」炭素繊維)と、ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標」)を溶融紡糸して得た単糸径33μmの繊維を51mmにカットした熱可塑性繊維とを、体積比で40:60に混合し、開繊機にて混合した後、カード工程を通過させることにより、繊維の引き揃え性を向上させたウェブを作成し、得られた繊維ウェブをニードルパンチ機により38番針にて針深度10mm、打ち込み密度を500本/cm2として目付200g/m2のランダムマットを得、該基材を33枚積層したものを予め離型処理を施したステンレス板で挟み、ホットプレス熱盤上にセットした後、同じく予め離型処理を施した鋼製スペーサーを使用して、成型圧力35kgf/cm2、成型温度が250℃にて作成した4mm厚の耐火材料であって、サンプル下面をガスバーナーにて加熱面付近の温度は800~950℃、加熱時間は60分間として燃焼加熱した後の厚さ変化が5倍、熱伝導率が0.036W/m・Kである、耐火材料。」
<甲1製法発明>
「甲1発明の製造方法。」
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「35mmにカットした単糸径8μmの無機繊維(東邦テナックス株式会社製「テナックス(登録商標)」炭素繊維)」は、本件明細書【0021】において非連続強化繊維として例示された炭素繊維であるから、本件特許発明1における「熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維」に相当する。
甲1発明における「ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標」)を溶融紡糸して得た単糸径33μmの繊維を51mmにカットした熱可塑性繊維」は、本件明細書【0028】において難燃性熱可塑性樹脂として例示されたポリカーボネート樹脂であるから、本件特許発明1における「難燃性熱可塑性樹脂」に相当する。
甲1発明における「耐火材料」は、「35mmにカットした単糸径8μmの無機繊維(東邦テナックス株式会社製「テナックス(登録商標)」炭素繊維)」と「ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標」)を溶融紡糸して得た単糸径33μmの繊維を51mmにカットした熱可塑性繊維」とを混合し、ランダムマットを得、33枚積層したものを成型して作成されたものであるから、本件特許発明1における「非連続強化繊維が耐火部材中で分散し」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維と難燃性熱可塑性樹脂とで少なくとも構成された耐火部材であって、前記非連続強化繊維が耐火部材中で分散したものである、
耐火部材。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-1>
耐火部材について、本件特許発明1は「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成するため」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
<相違点1-2>
難燃性熱可塑性樹脂の限界酸素指数について、本件特許発明1は「30以上」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
<相違点1-3>
耐火部材について、本件特許発明1は「前記耐火部材の最大膨張後の空隙率が、60%以上であり、最大膨張後の厚みが2~30mmであり、最大膨張率が250%以上であり、前記最大膨張率は、前記難燃性熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であれば、ガラス転移点より100℃高い温度、結晶性樹脂であれば融点より30℃高い温度で、厚み変化が無くなるまで加熱した後の耐火部材において、下記の計算式より算出する、耐火部材。
最大膨張率(%)=膨張後厚み(mm)/膨張前厚み(mm)×100」と特定されているのに対して、甲1発明においてはそのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点1-2について検討する。
甲1発明において「ポリカーボネート樹脂」が用いられているものの、ポリカーボネート樹脂の酸素指数(発火限界酸素指数)は24.9(要すれば、乙4号証:白石振作、[高分子物質の難燃化]、生産研究、第32巻第3号、1980年3月、第58ないし62頁、特に第60頁の表3を参照のこと)であることが知られていることからすると、相違点1-2は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
また、甲1及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、限界酸素指数に着目し、その指数が30以上である材料を選択し、ポリカーボネート樹脂をこれに換える、すなわち、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けがない。
この点について、特許異議申立人は、令和6年6月10日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、限界酸素指数の閾値を「30」とすることの臨界的意義が明らかではないことから、甲1発明における熱可塑性樹脂として限界酸素指数が30以上の樹脂を選択することは、当業者にとって何ら困難性はない旨主張する(意見書第8頁)。
しかしながら、甲1の全ての記載を見ても、「限界酸素指数」に着目する旨の記載はないし、甲1において用いられている材料においても、限界酸素指数として30を超えるものが例示されているわけでもない。
してみると、甲1発明において、「ポリカーボネート樹脂」にかえて、限界酸素指数が30以上の樹脂材料を選択する動機付けそのものがあるとは言えないから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし11について
本件特許発明2ないし11は、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2ないし8、10及び11は甲1発明ではなく、また、本件特許発明2ないし11は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明12について
本件特許発明12と甲1製法発明を対比すると、上記アと同様の相当関係がとれることから、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点1-4>
難燃性熱可塑性樹脂の限界酸素指数について、本件特許発明12は「30以上」と特定するのに対し、甲1製法発明にはそのような特定がない点。
上記相違点について検討するに、相違点1-4は相違点1-2と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明12は甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1の理由では、本件特許発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「繊維強化プラスチック成形用複合材及び繊維強化プラスチック成形体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の無機繊維よりなる強化繊維成分と、限界酸素指数が25以上であり、繊維径が30μm以下で且つ前記強化繊維の繊維径の4倍以下である熱可塑性スーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分とを含有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形用複合材。」
・「【請求項3】
前記スーパーエンプラ繊維と前記強化繊維が共にチョップドストランドであり、乾式不織布法又は湿式不織布法によって不織布シートとされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材。」
・「【請求項15】
前記請求項1~10のいずれか1項に記載されている繊維強化プラスチック成形用複合材を、前記スーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分が溶融する条件下で加圧加熱成形することにより形成されている、繊維強化プラスチック成形体。」
・「【請求項25】
ASTM E662に準拠した有炎法における20分燃焼後の発煙濃度が、43DS以下である、請求項24に記載の繊維強化プラスチック成形体。」
・「【0016】
上記「スーパーエンプラ」と称される熱可塑性樹脂は、強度が優れるだけでなく、難燃性が非常に高いことが特徴のひとつであり、限界酸素指数が樹脂ブロックの状態で30以上であるものが多い。特に、ポリエーテルイミド(以下PEIとする)は、限界酸素指数が47と高く、更に燃焼時の発煙が著しく少ないという特徴を有する。このようなスーパーエンプラを使用した複合材の検討は、これまでにも様々に試行されているが、下記のような問題がある。」
・「【0062】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材に使用される強化繊維は、金属繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維等、一般的な無機繊維を広く使用することができる。これらの無機繊維は難燃性・低発煙性という点でいずれも好ましく、これらのうち一種を使用することも、複数種を混合して使用することも可能である。一般的には、繊維強度や重量、或いは熱可塑性樹脂との接着性等の観点から、炭素繊維とガラス繊維が好ましい。
【0063】
これらの強化繊維をクロス(布)状に編んだシートを使用することも、一方向に並べたものを使用することも、或いは短繊維化して空気中に分散させてからネット等に捕捉してシート化したものを使用することも、溶媒中に分散させた後、分散媒を除去してシート化したものを使用することもできる。
【0064】
強化繊維の太さとしては、特に限定されるものではないが、3μm~18μmが好ましい。強化繊維の繊維径がこれよりも細いと、製造工程或いは使用中に人体に取り込まれた場合に発ガン性を有する場合があるため好ましくない。また、強化繊維の繊維径がこれよりも太いとスーパーエンプラ繊維との混合物の均一性が悪くなり、強度の点で好ましくない。また、強化繊維の繊維長は、好ましくは3mm~30mm程度である。これより長いと、繊維が均一に分散せず、シートの均一性や強化繊維との混合比の均一性が低下する。また、これより短いと、成形体強度が低下する。繊維径及び繊維長は単一であってもよく、また異なる繊維径、繊維長のものをブレンドして使用してもよい。
【0065】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材に使用する熱可塑性樹脂繊維は、いわゆるスーパーエンプラと呼ばれる、耐熱性で難燃性の熱可塑性樹脂を繊維化したものである。このような熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等が例示されるが、これに限定されるものではない。」
・「【0136】
製造例16~21
製造例10~15におけるPPS樹脂繊維を、繊維径15μmのPEI樹脂繊維(Fiber InnovationTechnology社製、ガラス転移温度220℃、繊維長13mm、限界酸素指数41)に代える以外は、製造例10~15のそれぞれに対応する製造例16~21の繊維強化プラスチック成形用複合材を作製した。」
・「【0143】
【表4】
[図:0001417610000002.jpg]
」
・「【0147】
実施例1
繊維径7μm、繊維長13mmのPAN系炭素繊維と、繊維径15μmのPEI樹脂繊維(繊維長13mm)を、質量比がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維40に対しPEI樹脂繊維60となるように計量し、水中に投入した。投入した水の量は、PAN系炭素繊維とPEI樹脂繊維の合計質量に対し200倍とした(すなわち、繊維スラリー濃度として0.5%)。
【0148】
このスラリーに分散剤として「エマノーン3199」(花王株式会社、商品名)を繊維(PAN系炭素繊維とPEI繊維の合計)100質量部に対し1質量部となるよう添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを作製した。
【0149】
この繊維スラリーから湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、濃度5%のエマルジョン液バインダー(メチルメタクリレート共重合体、日本触媒製 EMN-188E)をスプレー法によって付与した後、バインダーの固形分添加量が表5に示すとおりとなるように、ウエブ水分をサクションによって適宜脱水し、180℃で加熱乾燥することにより目付けが550g/m2である繊維強化プラスチック成形用複合材を得た。」
・「【0160】
以上の各実施例及び各比較例の方法で得られた各繊維強化プラスチック成形用複合材を、6枚積層し、310℃に予熱したホットプレスに挿入して60秒加熱加圧した後、180℃に冷却して繊維強化プラスチック体を得た。」
・「【0165】
得られた繊維強化プラスチックの有炎法による発煙濃度(ASTM E-662に準拠、20分加熱後)及び限界酸素指数を表5及び表6に示す。
【0166】
【表5】
[図:0001417610000003.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2発明」、「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「繊維径7μm、繊維長13mmのPAN系炭素繊維と、繊維径15μmのPEI樹脂繊維(繊維長13mm)を、質量比がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維40に対しPEI樹脂繊維60となるように計量し、水中に投入し、分散剤として「エマノーン3199」(花王株式会社、商品名)を添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを作製し、この繊維スラリーから湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、適宜脱水し、180℃で加熱乾燥することにより目付けが550g/m2である繊維強化プラスチック成形用複合材を得、得られた各繊維強化プラスチック成形用複合材を、6枚積層し、310℃に予熱したホットプレスに挿入して60秒加熱加圧した後、180℃に冷却して得た繊維強化プラスチック。」
<甲2製法発明>
「甲2発明の製造方法。」
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「繊維径7μm、繊維長13mmのPAN系炭素繊維」は、本件明細書【0021】において非連続強化繊維として例示された炭素繊維であるから、本件特許発明1における「熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維」に相当する。
甲2発明における「繊維径15μmのPEI樹脂繊維(繊維長13mm)」は、本件明細書【0028】において難燃性熱可塑性樹脂として例示されたポリエーテルイミド樹脂であるから、本件特許発明1における「難燃性熱可塑性樹脂」に相当する。
甲2発明における「繊維強化プラスチック」は、「繊維径7μm、繊維長13mmのPAN系炭素繊維」と「繊維径15μmのPEI樹脂繊維(繊維長13mm)」を水中に均一に分散させた繊維スラリーを作製し、6枚積層して加熱加圧して得たものであるから、本件特許発明1における「非連続強化繊維が耐火部材中で分散し」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導率が4W/(m・K)以上の非連続強化繊維と難燃性熱可塑性樹脂とで少なくとも構成された耐火部材であって、前記非連続強化繊維が耐火部材中で分散した、耐火部材。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-1>
耐火部材について、本件特許発明1は「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成するため」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
<相違点2-2>
難燃性熱可塑性樹脂の限界酸素指数について、本件特許発明1は「30以上」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
<相違点2-3>
耐火部材について、本件特許発明1は「前記耐火部材の最大膨張後の空隙率が、60%以上であり、最大膨張後の厚みが2~30mmであり、最大膨張率が250%以上であり、前記最大膨張率は、前記難燃性熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であれば、ガラス転移点より100℃高い温度、結晶性樹脂であれば融点より30℃高い温度で、厚み変化が無くなるまで加熱した後の耐火部材において、下記の計算式より算出する、耐火部材。
最大膨張率(%)=膨張後厚み(mm)/膨張前厚み(mm)×100」と特定されているのに対して、甲2発明においてはそのような特定がない点。
相違点2-1について検討する。
甲2発明は、「耐熱性と難燃性が高い熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した高強度・高耐熱性、優れた難燃性を有する繊維強化樹脂成形体が得られる繊維強化プラスチック成形用複合材において、ごく短時間の加熱加圧成形時間であってもボイド等が発生せずに十分な強度が得られ、複合材自体の生産性も高く、加工工程におけるハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形用複合材を、安価に提供することを目的とする」(【0026】)ことを課題とするものであって、「優れた難燃性」や「ごく短時間の加熱加圧成形時間であってもボイド等が発生せずに十分な強度が得られ」との記載はあるものの、本件特許発明1のように、ガスバーナーの火を近づけ、あるいは接炎するような「熱源接近時または接炎時」を想定するものではなく、ましてや、「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成する」ものでもない。
そして、甲2及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明の「繊維強化プラスチック」を、特に「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成する」ものとする、すなわち、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けがない。
よって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
この点について、特許異議申立人は意見書において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、いわゆる用途限定をなすものではなく、本件特許発明1を限定する意味をなさないものであること(意見書第9頁)、繊維強化プラスチック成形体は、そもそも主として構造部材として利用されるところ、構造部材であるからにはある程度の耐火性能は要求されることが普通であるし、甲2でもあげられている航空機用材料等では特に、あらゆる構造部材において耐火性能が要求されることは技術常識であること(意見書第9頁ないし第10頁)をあげ、本件特許発明1は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、上記検討のとおり、甲2発明とは、ガスバーナーの火を近づけ、あるいは接炎するような「熱源接近時または接炎時」を想定するものではない点で異なるし、また、本件特許発明1においては「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成する」ものであるのに対して、甲2発明は「ごく短時間の加熱加圧成形時間であってもボイド等が発生せず」と、加熱された際の挙動や作用の点でも異なるものであるといえる。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし11について
本件特許発明2ないし11は、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし11は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明12について
本件特許発明12と甲2製法発明を対比すると、上記アと同様の相当関係がとれることから、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点2-4>
耐火部材について、本件特許発明12は「熱源接近時または接炎時に膨張して断熱層を形成するため」と特定するのに対し、甲2製法発明にはそのような特定がない点。
上記相違点について検討するに、相違点2-4は相違点2-1と同旨であり、上記アと同様に判断される。
したがって、本件特許発明12は、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 取消理由2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由2の理由では、本件特許発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700681