特許異議申立
2023-700638
耐熱性を有する乳化組成物
- 審判番号
- 2023-700638
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-049691
- 登録番号
- 7196346
- 請求日
- 2023年06月16日
- 審決日
- 2024年04月22日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ハウスウェルネスフーズ株式会社
- 【権利者代理人】大木 信人
- 【異議申立人】森 力
- 【異議申立人】八木 峰子
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.113-YAA(A23D) / P1651.121-YAA(A23D) / P1651.537-YAA(A23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7196346号発明「耐熱性を有する乳化組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7196346号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~5〕について訂正することを認める。
特許第7196346号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7196346号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2022-49691号。以下、「本願」という。)は、令和 4年 3月25日の出願であって、同年12月16日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~4に係る特許について、令和 5年 6月16日に特許異議申立人である森力(以下、「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、その請求項1~5(全請求項)に係る特許について、令和 5年 6月23日に特許異議申立人である八木峰子(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 5年 6月16日提出 特許異議申立書(申立人1)
6月23日提出 特許異議申立書(申立人2)
10月10日付け 取消理由通知書
12月11日受付 意見書、訂正請求書
令和 6年 2月14日提出 意見書(申立人1)
2月16日提出 意見書(申立人2)
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和 5年12月11日受付の訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正請求と訂正をそれぞれ「本件訂正請求」、「本件訂正」という。)によって特許権者が行った訂正請求の趣旨は、特許第7196346号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める、というものである。
2 訂正事項
本件訂正は以下の訂正事項を含む。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、本件訂正前の
「水溶性有機溶媒を含む、」を
「水溶性有機溶媒を含み、水溶性有機溶媒が、エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノールであり、」
と訂正し(以下、「訂正事項1-1」という。)、本件訂正前の
「酸性乳化組成物。」を
「ポリオキシエチレングリコールを含まない、酸性乳化組成物。」
と訂正する(以下、「訂正事項1-2」という。)。
請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3について、本件訂正前の
「水溶性有機溶媒を混合し、酸性乳化組成物を形成する工程を含む、」を
「水溶性有機溶媒を混合し、酸性乳化組成物を形成する工程を含み、水溶性有機溶媒が、エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノールであり、」
と訂正し(以下、「訂正事項2-1」という。)、本件訂正前の
「酸性乳化組成物の製造方法。」を
「ポリオキシエチレングリコールを含めない、酸性乳化組成物の製造方法。」
と訂正する(以下、「訂正事項2-2」という。)。
請求項3を引用する請求項4~5も同様に訂正する。
3 本件訂正についての当審の判断
(1)訂正の目的、及び、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「水溶性有機溶媒」を「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項1-2は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「酸性乳化組成物」を「ポリオキシエチレングリコールを含まない」ものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2-1は、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「水溶性有機溶媒」を「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項2-2は、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「酸性乳化組成物」を「ポリオキシエチレングリコールを含めない」ものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 小括
以上のとおり、訂正事項1~2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)新規事項追加の有無について
ア 訂正事項1について
(ア) 訂正事項1-1に係る、「水溶性有機溶媒」が「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノールであ」ることを特定する訂正は、本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0051】の【表3】に、実施例1、10、11、12の水溶性有機溶媒として「エタノール、アセトン、アセトニトリル、メタノール」が記載されていることを根拠とするものである。
(イ) 訂正事項1-2に係る、「酸性乳化組成物」を「ポリオキシエチレングリコールを含まない」ものに特定する訂正は、本件明細書の段落【0038】に「本発明の乳化組成物は、上記各成分の配合により高い乳化安定性を得ることができるため、これらに加えて、従来乳化組成物において乳化剤として一般的に利用されている、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールを実質的に含まないものとしてもよい。好ましくは、本発明の乳化組成物は、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールを実質的に含まない。本発明において「合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールを実質的に含まない」とは、本発明の乳化組成物において、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールが乳化作用を発揮する態様で含まれないことを意味し、合成界面活性剤及び/又はポリオキシエチレングリコールが一切含まれないことを意図するものではない。」(当審注:下線は当審で付した。)と記載されていることを根拠とするものである。
そうすると、訂正事項1-1及び訂正事項1-2に係る訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
イ 訂正事項2について
(ア) 訂正事項2-1に係る、「水溶性有機溶媒」が「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノールであ」ることを特定する訂正は、上記ア(ア)と同様に、本件明細書の段落【0051】の【表3】の記載を根拠とするものである。
(イ) 訂正事項2-2に係る、「酸性乳化組成物」を「ポリオキシエチレングリコールを含めない」ものに特定する訂正は、上記ア(イ)と同様に、本件明細書の段落【0038】の記載を根拠とするものである。
そうすると、訂正事項2-1及び訂正事項2-2に係る訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
ウ 小括
以上のとおり、訂正事項1~2はいずれも、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~2は一群の請求項であり、また、本件訂正前の請求項4~5は、請求項3を引用するものであって、請求項3の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項3~5も一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~2〕及び〔3~5〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(4)独立特許要件について
本件は、申立人2によって、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、本件訂正には、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明5」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
水、油脂、サイクロデキストリン、水溶性ゲル化剤、及び、水溶性有機溶媒を含み、
水溶性有機溶媒が、エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノールであり、
ポリオキシエチレングリコールを含まない、酸性乳化組成物。
【請求項2】
さらに、酸性物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
水、油脂、サイクロデキストリン、水溶性ゲル化剤、及び、水溶性有機溶媒を混合し、酸性乳化組成物を形成する工程を含み、
水溶性有機溶媒が、エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノールであり、
ポリオキシエチレングリコールを含めない、酸性乳化組成物の製造方法。
【請求項4】
酸性物質をさらに混合することを含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記酸性乳化組成物を乾燥処理に付す工程を含む、請求項3又は4に記載の製造方法。」
第4 申立理由の概要
1 申立人1は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に公知となった、後記する甲第1号証~甲第4号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~4に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1-1(新規性、取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(進歩性、取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-3(新規性、取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証の記載を参照すると、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由1-4(進歩性、取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証及び甲第4号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2002-80373号公報
甲第2号証:特開平9-124437号公報
甲第3号証:特開2006-28028号公報
甲第4号証:特開2021-169433号公報
(以下、申立人1による上記甲第1号証~甲第4号証を、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)
2 申立人2は、証拠方法として、甲第4号証以外はいずれも本願の出願前に公知となった、後記する甲第1号証~甲第5号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~5に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由2-1(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第5号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由2-3(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由2-4(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第5号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由2-5(新規性、取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由2-6(進歩性、取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と甲第5号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由2-7(サポート要件、取消理由として不採用)
本件特許発明が解決しようとする課題は、高温条件に付されたとしても乳化破壊を生じることのない、耐熱性の高い、優れた乳化安定性を有する、油脂、水、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含んでなる乳化組成物を提供することであるところ(【0010】)、本件特許発明の乳化組成物は乳化剤を含み得るものであるが、本件明細書に実施例として記載されたいずれの乳化組成物にも乳化剤は含まれておらず、乳化剤を含むものまでが上記課題を解決できるか不明である。したがって、本件訂正前の請求項1~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特表2021-507915号公報
甲第2号証:特表2022-510655号公報
甲第3号証:特開2002-80373号公報
甲第4号証:実験成績証明書
甲第5号証:特表2002-501729号公報
(以下、申立人2による上記甲第1~5号証を、それぞれ「甲21」~「甲25」という。なお、甲23は甲1と同一の文献であるから、以下甲23と甲1のいずれも甲1という。)
第5 取消理由の概要
上記第3の申立理由1-1~1-4と申立理由2-5~2-6の一部を採用して、令和 5年10月10日付けで、以下の取消理由1、2が通知された。
1 取消理由1(甲1を主たる引用文献とする新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正前の請求項1~4に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(甲2を主たる引用文献とする新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第3、4号証の記載を参照すると、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正前の請求項1~4に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
1 甲号証の記載
(1)甲1(甲23)の記載、及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「皮脂の除去のためのある含有量のシクロデキストリンを含む化粧用および皮膚科用製剤」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「【0001】
【発明の属する技術的分野】本発明は、皮膚からの皮脂の除去、とりわけ面皰の除去および浄化、面皰形成の回避、軽度の形態のざ瘡の予防および治療、ならびに脂漏症の予防および抑制のための局所製剤への使用に関する。」
(1イ)「【0020】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、今まで使用されている既知の組成物の欠点を有しない、皮脂溶解作用、油脂調節作用および保護作用を同時に有し、既に存在する面皰を刺激を伴わずに除去し、皮膚の脱脂および乾燥を効果的に予防し、面皰の形成および化粧品ざ瘡の発生を予防しかつ存在するざ瘡を改善し、ならびに均衡のとれた様式で皮膚を保護する製剤を利用可能にすることである。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明に従えば、本目的は、皮脂の産生を低下させるための製剤の製造のためのシクロデキストリンの使用、もしくは皮脂の除去のための製剤の製造のためのシクロデキストリンの使用により達成される。」
(1ウ)「【0031】シクロヘプタアミロース(β-シクロデキストリン)は構造
【0032】
[図:0001413308000001.jpg]
【0033】を特徴とする。」
(1エ)「【0053】本発明により使用される有効成分は、多様な形態であってよい通例の化粧用および皮膚科用製剤に有利に組み込むことができる。従って、それらは、例えば、溶液、油中水(W/O)型もしくは水中油(O/W)型のエマルジョン、または、例えば水中油中水(W/O/W)型もしくは油中水中油(O/W/O)型の多重エマルジョン、水分散物もしくは脂質分散物、ゲル、固形棒状物あるいはエアゾルであってよい。
【0054】例えば、クリーム、ローションもしくは化粧用乳液の形態の本発明の乳剤が本発明の目的上有利であり、かつ、例えば、脂肪、油、蝋および/もしくは他の脂肪物質、ならびに水、ならびにこの型の製剤に通例に使用されるような1種もしくはそれ以上の乳化剤を含んで成る。」
(1オ)「【0071】油相は、分枝状および非分枝状炭化水素および炭化水素蝋、シリコーン油、ジアルキルエーテルの群、飽和もしくは不飽和、分枝状もしくは非分枝状アルコールの群、ならびに脂肪酸トリグリセリド、すなわち8から24個までの炭素原子、とりわけ12~18個の炭素原子の鎖長を有する飽和および/もしくは不飽和、分枝状および/もしくは非分枝状のアルカンカルボン酸のトリグリセロールエステルからもまた有利に選ぶことができる。脂肪酸トリグリセリドは、例えば、合成、半合成、および天然の油、例えばオリーブ油、ヒマワリ油、ダイズ油、ラッカセイ油、ナタネ油、アーモンド油、パーム油、ココナッツ油、パーム種子油などの群から有利に選ぶことができる。
…
【0073】油相は、2-エチルヘキシルイソステアレート、オクチルドデカノール、イソトリデシルイソノナノエート、イソエイコサン、2-エチルヘキシルココエート、C12-15アルキルベンゾエート、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、ジカプリリルエーテルより成る群からとりわけ好ましく選ばれる。
…
【0075】炭化水素のなかで、パラフィン油、スクアランおよびスクアレンが、本発明の目的上有利に使用されるはずである。
…
【0079】本発明の製剤の水相は、場合によっては、-低炭素数のアルコール、二価アルコールもしくは多価アルコール、およびそれらのエーテル、好ましくはエタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルもしくはモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチル、モノエチルもしくはモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテルおよび類似の生成物、ならびにまた低炭素数のアルコール、例えばエタノール、イソプロパノール、1,2-プロパンジオールもしくはグリセロール、ならびにとりわけ各場合において別個にもしくは組み合わせで、有利には二酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、多糖およびそれらの誘導体、例えばヒアルロン酸、キサンタンガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースより成る群、とりわけ有利にはポリアクリレート、好ましくはカルボポール(Carbopol)、例えばカルボポール(Carbopol)等級980、981、1382、2984および5984の群からのポリアクリレートの群から選ぶことができる1種もしくはそれ以上の増粘剤を有利に含んで成る。」
(1カ)「【0088】
【実施例】
…
実施例2(O/Wクリーム):
重量%
グリセリルステアレートシトレート 3.00
セチルステアリルアルコール 3.00
パラフィン油 2.00
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 4.00
ジカプリリルエーテル 3.00
キサンタンガム 0.10
クエン酸 0.10
クエン酸ナトリウム 0.20
β-シクロデキストリン 5.00
グリセロール 3.00
保存剤 適量
香料 適量
水 100.00まで
pH 5.5に調節される」
イ 甲1に記載された発明
(ア) 上記(1イ)によれば、甲1に記載された発明は、皮脂の産生を低下させるためもしくは皮脂の除去のための製剤の製造にシクロデキストリンを使用するものであり、上記(1カ)に記載された、実施例2のO/Wクリームに注目すると、次の発明が記載されているものと認められる。
「パラフィン油、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、ジカプリリルエーテル、キサンタンガム、クエン酸、β-シクロデキストリン、グリセロール及び水を含み、pH5.5に調節されている、O/Wクリーム。」(以下、「甲1発明」という。)
(イ) また、甲1には、実施例2のO/Wクリームの具体的な製造方法については記載されていないが、甲1発明に含有される各成分から上記O/Wクリームが製造されていることは明らかであるから、次の製造方法の発明が記載されているものと認められる。
「パラフィン油、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、ジカプリリルエーテル、キサンタンガム、クエン酸、β-シクロデキストリン、グリセロール及び水を含み、pH5.5に調節されている、O/Wクリームの製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
(2)甲2の記載、及び甲2に記載された発明
ア 甲2には、「乳化組成物及び皮膚外用剤」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(2ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 α-サイクロデキストリン、ポリオキシエチレングリコール及び油性成分を含有することを特徴とする乳化組成物。」
(2イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、α-サイクロデキストリン、ポリオキシエチレングリコール(PEG)及び油性成分を含有することを特徴とする乳化組成物及び皮膚外用剤に関する。更に詳しくは、界面活性剤を含有することなく、系がO/W型乳化を呈し、その乳化安定性・安全性に優れ、更にその系を使用後の塗膜がO/W型乳化であるにもかかわらず撥水性を示し、耐水性に優れた乳化組成物及び皮膚外用剤に関する。
…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、現在、既存の界面活性剤は、安全性や界面活性剤自身の安定性等の問題より、皮膚外用剤への配合が懸念されてきている傾向にある。
…
【0012】このように、実際に界面活性剤を系に配合するもしくは多く配合することなく、安定性に優れ、なおかつ安全性に優れた乳液状もしくはクリーム状の処方系は殆ど存在しないのが現状であった。
【0013】本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究した結果、α-サイクロデキストリン、ポリオキシエチレングリコール及び油性成分を含有することを特徴とする乳化組成物及び皮膚外用剤が上記問題点を回避出来ることを見出し、本発明を完成するに到った。」
(2ウ)「【0018】本発明に使用するポリオキシエチレングリコール(PEG)の分子量は、300以上であり、望ましくは、400以上である。PEGの分子量が2000以上のとき、系は、クリーム状になる。また、PEGの分子量が小さい方が系が系の平衡に達しやすく、系の調整がし易い。
…
【0020】一般に、ポリオキシエチレングリコールを加えずにα-サイクロデキストリンだけでも系は乳化はするが、経時安定性及び使用感に問題があり、PEGとα-サイクロデキストリンあわせて配合すると、系の安定性が飛躍的に向上し、使用感もきしみ感やべとつき感がなく、しっとりとしてコクのある使用感になる。」
(2エ)「【0021】本発明に使用する油性成分としては、例えば、固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、ワセリン、流動パラフィン、スクワラン、オゾケナイト等の炭化水素、ステアリルアルコール、カプリルアルコール、2-オクタデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、イソステアリルアルコール、フィトステロール等の高級アルコール、コレステロール等のステロール類、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、ラノリン酸、リノール酸、リノレン酸等の高級脂肪酸、モノステアリン酸グリセリル、モノベヘニン酸グリセリル、モノパルミチン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノラノリン酸グリセリル、モノリノ-ル酸グリセリル、モノリノレン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル等のモノ脂肪酸グリセリル、イソプロピルミリステート、グリセロールトリ-2-ヘプチルウンデカノエート、トリイソステアリン酸グリセリン、グリセロールトリ-2-エチルヘキサノエート、2-ヘプチルウンデシルパルミテート、ジ-2-ヘプチルウンデシルアジペート、セチルイソオクタノエート、トリメチロールプロパン-2-トリメチロールヘプチルウンデカノエート、プロパン-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトール-2-ヘプチルウンデカノエート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、コレステロールイソステアレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等の合成エステル油、マカデミアンナッツ油、落花生油、ラノリン、トウモロコシ油、アボガド油、カカオ油、アーモンド油、胡麻油、綿実油、オリーブ油、ナタネ油、月見草油、ヒマシ油、ヒマワリ油、茶実油、コメヌカ油、ホホバ油、カカオ脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、スクワレン、牛脂、豚油等の油脂類、モクロウ、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナバロウ、鯨ロウ等のロウ類、シリコーン油類等が挙げられるが、油性成分であれば、これに限らない。」
(2オ)「【0029】本発明に係る乳化組成物を用いた本発明の皮膚外用剤の剤型は任意であり、安全性に優れるので、その用途も、乳液、クレンジングクリーム、アフターシェービングクリーム、コールドクリーム、シェービングクリーム、バニシングクリーム、ハンドクリーム、日焼けクリーム、日焼け止めクリーム等のクリーム類、パックなどの基礎化粧品、クリーム状ファンデーション、液状ファンデーション、固型ファンデーション等のファンデーション類、クリームおしろいなどのおしろい類、アイシャドウ、チークなどのメーキャップ化粧品、ヘアーパック、トリートメント、ムース、ジェルなどの頭髪化粧品などの化粧料、バスオイル、バスソルト等の浴用化粧品類、練り香水等の香水類、あるいは医薬部外品、医薬品などの多岐にわたる。」
(2カ)「【0035】
「比較例1」 乳化組成物
(1)α-サイクロデキストリン 7.0%
(2)2-エチルヘキサン酸セチル 20.0
(3)水 残 余
上記の配合比で(1)(3)を混合した水相を70℃に加熱し、(2)を加え、冷却して乳化系を調製し、乳化組成物を得た。
【0036】
「比較例2」 乳化組成物
(1)α-サイクロデキストリン 8.0%
(2)シリコーン油 20.0
(3)水 残 余
上記の配合比で(1)(3)を混合した水相を70℃に加熱し、(2)を加え、冷却して乳化系を調製し、乳化組成物を得た。
【0037】上記の実施例1~3及び比較例1、2について下記の試験を行った。
【0038】[乳化能試験]実施例1、2、3及び比較例1、2の乳化組成物の乳化系の様子を、肉眼及び顕微鏡観察し、その乳化能を評価した。
(評価基準)
○:乳化が均一に行われ良好なもの。
△:乳化能はあるが均一性に欠けるもの。
×:乳化能がほとんど認められないもの。
【0039】[安定性試験]実施例1、2、3及び比較例1、2の乳化組成物を0℃、37℃、50℃の条件下に1ヵ月保存し、その外観を肉眼で判定した。
(評価基準)
○:安定性良好 各温度条件下で分離、凝集、沈殿が認められないもの。
△:安定性やや不良 各温度条件下で分離、凝集、沈殿がやや認められるもの。
×:安定性不良 分離、凝集、沈殿が認められるもの。
【0040】[接触角測定]実施例1、2、3及び比較例1、2の乳化組成物の塗膜の撥水性を水との接触角を測定することにより、評価した。接触角は、以下に示す方法により、測定した。ナイロン板に35℃にて乳化組成物を塗布(およそ0.5g/15cm2)した後、自動接触角計CA-Z型(協和界面科学社製)を用いて約25℃での接触角を測定した。
【0041】それぞれの結果を表1に示す。
【表1】
[図:0001413308000002.jpg]
」
(2キ)「【0050】「実施例8」 ヘアトリートメント
次の処方に従い、常法により、ヘアトリートメントを製造した。
(1)脱水ラノリン 3.0%
(2)流動パラフィン 3.0
(3)グリセリン 5.0
(4)ジプロピレングリコール 5.0
(5)イソプロピルミリステート 10.0
(6)α-サイクロデキストリン 7.0
(7)ポリオキシエチレングリコール(分子量 2000) 5.0
(8)ステアリン酸 5.0
(9)香料、色剤 適 量
(10)イオン交換水 残 余
本処方で製造したヘアトリートメントは、系の安定性に優れ、髪の仕上がりがしっとりとしていた。」
イ 甲2に記載された発明
上記(2ア)によれば、甲2に記載された発明は、界面活性剤を含有することなく、系がO/W型乳化を呈し、その乳化安定性・安全性に優れた乳化組成物に関するものであり、上記(2オ)によれば、上記乳化組成物の用途として、トリートメントなどの頭髪化粧品があげられている。そして、甲2の乳化組成物を適用したヘアトリートメントである上記(2キ)の実施例8に注目すると、次の発明が記載されているものと認められる。
「流動パラフィン、グリセリン、ジプロピレングリコール、α-サイクロデキストリン、ポリオキシエチレングリコール(分子量 2000)、ステアリン酸及びイオン交換水を含むヘアトリートメント。」(以下「甲2発明」という。)
また、上記(2キ)には、実施例8のヘアトリートメントを常法により製造したと記載されているから、次の製造方法の発明が記載されているものと認められる。
「流動パラフィン、グリセリン、ジプロピレングリコール、α-サイクロデキストリン、ポリオキシエチレングリコール(分子量 2000)、ステアリン酸及びイオン交換水を含むヘアトリートメントの製造方法。」(以下「甲2製法発明」という。)
(3)甲3の記載
甲3には、「経口医薬組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0020】
本発明の組成物は、前記任意成分のうち増粘剤を含むことが好ましい。増粘剤としては、例えばローカストビーンガム、アラビアゴム、トラガント、デキストリン、デキストラン、アラビノガラクタン、プルラン、カルメロースナトリウム、ヒドロプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コポリドン、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、マクロゴールなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」
(4)甲4の記載
甲4には、「皮膚外用剤」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0060】
増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸ナトリウムのようなビニル系増粘剤;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースのようなセルロース系増粘剤;グァーガム、スクレロチウムガム、タマリンドガム、キサンタンガム、ジェランガム、デキストラン、ペクチン、プルラン、ローカストビーンガム、カラギーナン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、フコゲルのような多糖類;ゼラチン、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、ベントナイト、デキストリン脂肪酸エステル、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリエチレングリコール、マクロゴール、ポリアクリルアミド、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/ビニルピロリドン)コポリマー、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25)クロスポリマー、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーなどが挙げられる。」
(5)甲21の記載
ア 甲21には、「O/W型ピッカリングエマルジョン組成物を製造するための乳化用組成物及び方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(21ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、即時使用可能且つ直接コールドで利用可能な、とりわけ化粧品分野に適用される植物由来の乳化用組成物に関する。この組成物は、それ自体で十分であり共乳化剤の添加を必要とすることなくエマルジョンの直接安定化を可能にする。より特定的には、この乳化用組成物は、皮膚との適合性が高いうえにエマルジョンの脂肪相含有率が高い場合でさえもドライ且つフレッシュでシルキーな非ベタツキ感を呈するさまざまな触感の極微細O/W型エマルジョンの容易な製造を可能にする。」
(21イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的の1つは、水の存在下に配置したときに、コールドプロセスに従うときでさえも、油又は脂肪物質の添加により安定なエマルジョンを形成する能力を有する組成物を提供することである。それは石油由来で非分解性の従来の界面活性剤に頼るのを止め、とりわけグリコール誘導体及びエトキシル化誘導体の不使用を可能にする。この観点から、本発明の組成物はまた、ピッカリングエマルジョンの製造を可能にする。このタイプのエマルジョンは、界面活性剤を排除し、且つ連続相と分散相との界面に位置するコロイド粒子たとえば典型的にはシリカにより安定化される。本発明との関連では、こうしたコロイド粒子は、少なくとも1種のシクロデキストリンと少なくとも1種の脂肪分子との包接複合体からなる有機粒子である。こうした粒子は、皮膚又は毛髪との非常に有利な適合性を有し、且つ動物細胞膜を損傷しない。
【0007】
この結果がいっそう注目に値するのは、先行技術では、シクロデキストリンを含有する化粧品用途の乳化系の製造は、コールド条件下で容易に且つ直接エマルジョンを製造しないことが示されており、従来の界面活性剤に頼る必要があったという事実からである。これはとりわけ、水と、脂肪物質と、修飾多糖と、シクロデキストリンと、を含有するO/W型エマルジョンが記載されている欧州特許第2091502B1号明細書の教示であり、このO/W型エマルジョンの本質的特徴は、5000g/mol未満の分子量を有する界面活性剤を2重量%未満の量で含有することである。したがって、通常の界面活性剤に頼ることなく極微細で極安定なエマルジョンを製造するシクロデキストリンを含有する乳化系の製造は、公知でも自明でもなかった。」
(21ウ)「【0047】
液状脂肪相は、有利には、皮膚に皮膚軟化効果を付与する1種以上の不揮発性油を含む。挙げられ得るのは、脂肪酸エステル、たとえば、セテアリルイソノナノエート、イソトリデシルイソノナノエート、イソステアリルイソステアレート、イソプロピルイソステアレート、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、ヘキシルラウレート、イソノニルイソノナノエート、2-エチルヘキシルパルミテート、2-ヘキシルデシルラウレート、2-オクチルデシルパルミテート、2-オクチルドデシルミリステート又はラクテート、2-ジエチルヘキシルスクシネート、ジイソステアリルマレート、トリアセチン、トリカプリン、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、グリセロールトリイソステアレート、トコフェロールアセテート、高級脂肪酸、たとえば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、又はイソステアリン酸、高級脂肪アルコール、たとえば、オレイルアルコール、植物油、たとえば、アボカド油、カメリア油、ヘーゼルナッツ油、ツバキ油、カシューナッツ油、アルガン油、ダイズ油、ブドウ種子油、ゴマ油、トウモロコシ油、コムギ胚芽油、セイヨウアブラナ油、ヒマワリ油、綿油、ホホバ油、ピーナッツ油、オリーブ油、及びそれらの混合物、植物バター、たとえば、カリテバター及びカメリアバターである。」
(21エ)「【実施例】
【0063】
実施例1
限定されるものではないが以下に記載の実施例を利用し且つ添付の図面を調べることにより、本発明の理解が深まるであろう。
【0064】
次のプロトコルを用いて本発明に従ってO/W型エマルジョン形態の6つの組成物を作製する。これらの6つの組成物の組成を表1に示す。
【0065】
はじめに、1000回転/分で脱フロキュレート化ブレードを用いて撹拌しながら、ゲル化剤を水中に分散させる。水の温度は、ゲル化剤がキサンタンである場合には40℃に、ゲル化剤がヒドロキシエチルセルロースである場合には70℃に設定される。
【0066】
次いで、β-シクロデキストリンをグリセロールで湿潤させ、1000回転/分で撹拌しながらβ-シクロデキストリン/グリセロール混合物を水/ゲル化剤混合物に添加して水相を得る。
【0067】
β-シクロデキストリンの量は、場合によって組成物の2質量%又は5質量%に設定される。
【0068】
それとは別に、40℃で磁気撹拌しながらポリグリセロール-3ジイソステアレートをヒマワリ油又はイソプロピルパルミテートに添加して油相を得る。
【0069】
次いで、1500回転/分で撹拌しながら40℃で油相を水相中に15分間乳化する。
【0070】
保存剤を添加する(ベンジルアルコールとデヒドロ酢酸とをベースとする混合物)。
【0071】
【表1】
[図:0001413308000003.jpg]
」
イ 甲21に記載された発明
(ア)上記(21ア)、(21イ)によれば、甲21の発明が解決しようとする課題は、化粧品分野に適用される植物由来の乳化用組成物に関し、石油由来で非分解性の従来の界面活性剤に頼ることなく、コールドプロセスに従うときでさえも、油又は脂肪物質の添加により安定なエマルジョンを形成する能力を有する組成物を提供することと認められる。
(イ)上記課題を解決し得る発明として、上記(21エ)には、O/W型エマルジョン形態の組成物である実施例1が記載されており、当該組成物は以下に記載する、成分3の水相と成分4の油相を乳化したものに成分5を添加したものである。
成分1:ゲル化剤であるキサンタン又はヒドロキシエチルセルロースを分散した水
成分2:β-シクロデキストリンとグリセロールの混合物
成分3:成分1に成分2を添加した水相
成分4:ポリグリセロール-3ジイソステアレートをヒマワリ油又はイソプロピルパルミテートに添加した油相
成分5:ベンジルアルコールとデヒドロ酢酸とをベースとする混合物からなる保存剤
(ウ)したがって、上記実施例1の組成物とその製造方法に注目すると甲21には次の発明が記載されているものと認められる。
「ゲル化剤であるキサンタン又はヒドロキシエチルセルロースを分散した水に、β-シクロデキストリンとグリセロールの混合物を添加した水相と、
ポリグリセロール-3ジイソステアレートをヒマワリ油又はイソプロピルパルミテートに添加した油相と、
を乳化した組成物であって、
ベンジルアルコールとデヒドロ酢酸とをベースとする混合物からなる保存剤が添加された、
O/W型エマルジョン形態の組成物。」(以下「甲21発明」という。)
「ゲル化剤であるキサンタン又はヒドロキシエチルセルロースを分散した水に、β-シクロデキストリンとグリセロールの混合物を添加した水相と、
ポリグリセロール-3ジイソステアレートをヒマワリ油又はイソプロピルパルミテートに添加した油相と、を乳化し、
ベンジルアルコールとデヒドロ酢酸とをベースとする混合物からなる保存剤を添加する、
O/W型エマルジョン形態の組成物の製造方法。」(以下「甲21製法発明」という。)
(6)甲22の記載
ア 甲22には、「油中水型乳化剤と選択された粒径のシクロデキストリンとを含む改善された感覚効果を有する水中油エマルションを提供することが可能な化粧用途のための乳化組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(22ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、特に化粧品分野における用途を有する、使用準備済みであり、コールドで直接的に使用するための、植物由来の乳化組成物に関する。この組成物は、固体粒子の形態の少なくとも1種のシクロデキストリンであって、この粒子が、レーザー式粒度分析により測定したときに20μm以下である体積平均粒径d(4.3)を有する、シクロデキストリンと、少なくとも1種の天然由来の乳化剤とを含む。本発明による乳化組成物は、エマルションの実施及び安定化を可能にするために、化粧用組成物それ自体として、又はプレミックスとして使用することができる。この乳化組成物は、特に、皮膚と適合性のある様々なテクスチャを有する、非常に微細な液体の水中油(O/W)型エマルションの実施を容易にする。得られる組成物は、エマルション中の脂肪相が多く含まれている場合であっても、柔らかく滑らかな感触を提示し、ピリングなく容易に広がる。」
(22イ)「【0011】
したがって、本発明は、特に、滑らかな効果、広げやすさ、柔らかい感触、塗布時のきしみ感、組成物の浸透及びピリングに関して、仏国特許第1762841号の乳化組成物と比較して改善された感覚特性を付与する、化粧用途のための、改善された乳化組成物を提供するという課題を解決する。」
(22ウ)「【0068】
液体脂肪相は、有利には、皮膚に皮膚軟化効果をもたらす1種以上の不揮発性油を含む。このような油としては、脂肪酸、例えばイソノナン酸セテアリル、イソノナン酸イソトリデシル、イソステアリン酸イソステアリル、イソステアリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、イソノナン酸イソノニル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ラウリン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-オクチルデシル、ミリスチン酸又は乳酸2-オクチルドデシル、コハク酸2-ジエチルヘキシル、マレイン酸ジイソステアリル、トラセチン、トリクプリン、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、トリイソステアリン酸グリセリン、酢酸トコフェリル、高級脂肪酸、例えばミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸又はイソステアリン酸、高級脂肪アルコール、例えばオレインアルコール、植物油、例えばアボカド油、ツバキ油(camellia oil)、ヘーゼルナッツ油、ツバキ油(tsubaki oil)、カシューナッツ油、アルガン油、ダイズ油、ブドウ種子油、ゴマ油、「mals」油、小麦胚芽油、キャノーラ油、ヒマワリ油、綿油、ホホバ油、ピーナッツ油、オリーブ油、及びこれらの混合物、植物バター、例えばシアバター、ツバキバターが挙げられる。」
(22エ)「【0105】
実施例2:日焼け止め剤
以下の操作手順に従って、平均径が200μmのβ-シクロデキストリン(実施例1のBeaute by Roquette(登録商標)CD102)、又は11.43μmの体積平均径を有するβ-シクロデキストリン(実施例1の超微細β-シクロデキストリン)を用い、日焼け止め製剤の感覚プロファイルを作成した。
【0106】
まず、表4の組成に従って相A1を調製する。Sunsphere powderを水及びCetiol C5に分散し、次いで、それをローターステーターを用いて2000rpmで15分間撹拌しながら55℃まで加熱する。
【0107】
【表4】
[図:0001413308000004.jpg]
【0108】
個別に、全ての成分をカップ内に秤量して相A2を調製し、次いで、ローターステーターを用いて2000rpmで15分間、撹拌しながら相A1に添加する。相A1+A2を、撹拌しながら70℃で保存する。
【0109】
【表5】
[図:0001413308000005.jpg]
【0110】
次いで、表6の組成により、10分間磁気撹拌しながら、70℃まで加熱して相B1を調製する。
【0111】
【表6】
[図:0001413308000006.jpg]
【0112】
相B1を撹拌しながら70℃で保管し、相B2を添加し、別々に調製し、表7の組成に従って構成し、撹拌しながら10分間保持し、その後、相B1+相B2を相Aで乳化する。
【0113】
【表7】
[図:0001413308000007.jpg]
【0114】
相A中で相B1+相B2を乳化させるために、相B1+相B2の全部を、ローターステーターを用いて2500rpmで撹拌しながら55℃で相Aに注ぎ、次いで55℃で5分間維持し、冷水浴下で10分間維持する。速度を1200rpmに下げ、エマルションが冷水浴下で室温になるまで撹拌を継続する。
【0115】
次いで、相Cを添加し、次いで、それを相Dで着色する。
【0116】
【表8】
[図:0001413308000008.jpg]
【0117】
色付けされ、賦香されたクリームがこのようにして得られる。このクリームを皮膚上に塗布すると、クリームのピリング性については快適であるが、広げるときに、きしむ効果が認められる。
次いで、日焼け止め剤を、実施例1の「超微細」β-シクロデキストリンのための「Beaute by Roquette(登録商標)CD102」に置き換えることにより、先のプロトコルに従って調製する。クリームを皮膚に塗布したところ、ピリングはなく、クリームはより快適である。わずかなきしむ効果がクリームの浸透の終了時にも残るものの、これは、β-シクロデキストリン「Beaute by Roquette(登録商標)CD102」を含む参照製剤を使用した場合よりも有意に少ない。」
イ 甲22に記載された発明
(ア)上記(22ア)、(22イ)によれば、甲22の発明が解決しようとする課題は、化粧品分野における用途を有する、使用準備済みであり、コールドで直接的に使用するための、植物由来の乳化組成物に関し、滑らかな効果、広げやすさ、柔らかい感触、塗布時のきしみ感、組成物の浸透及びピリングに関して、改善された感覚特性を付与する、乳化組成物を提供することと認められる。
(イ)上記課題を解決し得る発明として、上記(22エ)には、日焼け止め剤として使用される乳化組成物である実施例2が記載されており、当該組成物は以下記載する、相A1に相A2を添加したものを相A(以下、「水相A」という。)とし、相B1に相B2を添加したものを相B(以下、「油相B」という。)とし、相A中で相Bを乳化したものに相Cを添加し、相Dで着色したものである。
相A1:水(Aqua)及びココ-カプリル酸を含む撹拌物
相A2:キサンタンガム及びグリセリンを含む撹拌物
相B1:ココーカプリル酸、並びに、ヤシ油脂肪酸ブチレングリコール及びヒマワリ種子油を含む撹拌物
相B2:シクロデキストリン(Beaute by Roquette(登録商標)CD102)及びソルビトールを含む撹拌物
相C:香料
相D:キサンタンガムを含む撹拌物
(ウ)上記(イ)によって得られるクリーム状の組成物(比較例)は、皮膚上に塗布するときしむ効果が認められるものであるが、相B2に含まれるシクロデキストリンとして、Beaute by Roquette(登録商標)CD102に代えて、実施例1の「超微細」β-シクロデキストリンとした組成物は、きしむ効果が減少したものとなる(【0117】)。
(エ)したがって、上記実施例2の組成物において、相B2に含まれるシクロデキストリンとして、Beaute by Roquette(登録商標)CD102に代えて、実施例1の「超微細」β-シクロデキストリンを採用した組成物とその製造方法に注目すると、甲21には次の発明が記載されているものと認められる。
「水及びココ-カプリル酸を含む撹拌物に、キサンタンガム及びグリセリンを含む撹拌物を添加した水相Aと、
ココーカプリル酸、並びに、ヤシ油脂肪酸ブチレングリコール及びヒマワリ種子油を含む撹拌物に、「超微細」β-シクロデキストリン及びソルビトールを含む撹拌物を添加した油相Bと、
を乳化したものに、
香料からなる相Cを添加し、キサンタンガムを含む撹拌物を含む相Dによって着色した、
クリーム状の乳化組成物。」(以下「甲22発明」という。)
「水及びココーカプリル酸を含む撹拌物に、キサンタンガム及びグリセリンを含む撹拌物を添加した水相A中で、
ココーカプリル酸、並びに、ヤシ油脂肪酸ブチレングリコール及びヒマワリ種子油を含む撹拌物に、「超微細」β-シクロデキストリン及びソルビトールを含む撹拌物を添加した油相Bを乳化し、
香料からなる相Cを添加し、
キサンタンガムを含む撹拌物を含む相Dによって着色する、
クリーム状の乳化組成物の製造方法。」(以下「甲22製法発明」という。)
(7)甲25の記載
ア 甲25には、「乾燥エマルジョン形態の食品組成物、その製造方法及び利用」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(25ア)「 【0001】
本発明の主題は、乾燥エマルジョン、その製造方法及び食用組成物製造のためのその利用方法である。
【0002】
それは、特に、有利には、顆粒形態の、水中油エマルジョンの形態で水に分散性の、及び少なくとも一種の控え目に水溶性の食べられる物質{活性物質(AS)とも呼ばれる}を含む乾燥エマルジョンに関係する。」
(25イ)「 【0014】
本発明の目的の一つは、水性媒質中で完全に又は殆ど完全に再分散可能で且つ高濃度の控えめに水溶性の活性物質を含む(特に、疎水性液体の形態で)新規な乾燥エマルジョンを提供することである。」
(25ウ)「 【0060】
この発明の他の主題は、下記のステップを含む、2ステップで乾燥エマルジョンを製造する方法よりなる:
i)第1のステップは、少なくとも一種の疎水性活性物質(AS)、少なくとも一種の乳化剤(E)及び少なくとも一種の充填剤(IF)を含む水中又は水相中の分散を製造することにあり;
ii)第2のステップは、該分散を乾燥エマルジョンが形成されるまで乾燥させることにある。」
2 取消理由1と申立理由1-1、1-2、2-5、2-6(甲1を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明の対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「水」、「β-シクロデキストリン」、「キサンタンガム」は、それぞれ本件特許発明1の「水」、「サイクロデキストリン」、「水溶性ゲル化剤」に相当し、甲1発明の「パラフィン油」、「カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド」、「ジカプリリルエーテル」は、甲1の【0071】、【0073】、【0075】を参照すると、いずれも本件特許発明1の「油脂」に相当する。
イ 甲1発明の「グリセロール」は、上記(1オ)の【0079】に記載のとおり多価アルコール(当審注:3価アルコールに該当する。)であって、製剤の水相に含まれるものであるから、本件特許発明1の「水溶性有機溶媒」に相当する。
ウ 甲1発明の「O/Wクリーム」は、上記(1エ)の記載によれば「O/W」が水中油型のエマルジョンを意味しており、当該エマルジョンがクリームの形態で使用されていることを意味しているから、本件特許発明1の「乳化組成物」に相当する。
エ 甲1発明の「O/Wクリーム」に「クエン酸」が含まれており「pH5.5に調節されている」ことは、本件特許発明1の「乳化組成物」が「酸性」であることに相当する。
オ 甲1の【0088】の実施例2のO/Wクリームの成分からすると、甲1発明に「ポリオキシエチレングリコール」が含まれていないことは明らかである。
カ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水、油脂、サイクロデキストリン、水溶性ゲル化剤、及び、水溶性有機溶媒を含み、
ポリオキシエチレングリコールを含まない、酸性乳化組成物。」の点。
<相違点1>
「水溶性有機溶媒」が、本件特許発明1では「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」であるのに対して、甲1発明では「グリセロール」である点。
(2)相違点についての検討
ア 相違点1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
イ 次に、甲1発明において、水溶性有機溶媒であるグリセロールに代えて、「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」のいずれかとすることが当業者にとって容易になし得たことであるかについて検討する。
ウ 甲1の上記(1オ)の段落【0079】には、水相に含まれる好ましい多価アルコールとして、グリセロールの他にエタノールが挙げられているから、甲1発明において、グリセロールに代えてエタノールを採用する動機付けは認められる。
エ しかしながら、甲1には、甲1発明のO/Wクリームに使用されるアルコールとしてエタノールを採用した場合に、高温条件に付された後においても乳化状体を維持できるという、本件特許発明の効果を奏する点については何ら記載も示唆もされていない。甲1発明のO/Wクリームは、そもそも、室温で使用される化粧用又は皮膚科用製剤に利用されるものであり(【0053】)、高温における使用も、高温における乳化状体の維持についても、甲1では全く想定されていないものといえる。
オ 一方、本件特許発明における、水性有機溶媒の種類と高温で乳化状体を維持する効果と関係について本件明細書の記載を確認すると、本件特許発明の乳化組成物が含む水性有機溶媒として、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、アルカンジオール類、アミン類、アミド類、ケトン類、ニトリル類、含窒素溶媒、含硫黄溶媒等の多数のものが利用可能であるが(【0022】~【0033】)、これらの中でもより好ましいものが「低級アルコール類(メタノール、エタノール、プロピルアルコール等)、アセトン、アセトニトリル」であり(【0033】)、特に、本件特許発明1に水性有機溶媒として特定されている「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」のいずれかを含む場合には、100℃で1分間加熱した後においても乳化が維持されるという優れた効果を奏することが実験によって確認されている(下記【表3】及び【0047】参照)。
「【0051】
【表3】
[図:0001413308000009.jpg]
」
「【0047】
II.乳化安定性の評価方法
得られた乳化組成物(10mL)を、それぞれ100mLのビーカーに入れて、電子レンジで100℃(品温)にて1分間加熱処理した。加熱処理後、室温にて30分間静置した後、各乳化組成物における乳化破壊状態(又は、乳化安定性)を以下の基準にしたがって目視で評価した。
<評価基準>
◎:変化なし。乳化が維持されている。
〇:乳化破壊は生じていないが、若干の油浮き又は離水が認められる。
×:油層と水層の分離が確認される。乳化破壊を生じている。」
カ したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された事項からは予測することのできない優れた効果を奏するものであるから、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2についても、上記(2)と同様の理由によって、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明3、4と甲1製法発明の対比・判断
ア 本件特許発明3、4と甲1製法発明を対比すると、上記(1)のア~カと同様の理由によって、少なくとも上記相違点1と同様の点(以下、「相違点1’」という。)で相違している。
イ そして、相違点1’は実質的な相違点であるから、本件特許発明3、4は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、上記(2)のイ~オと同様の理由により、本件特許発明3、4は、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)小括
以上のとおり、本件特許発明1~4は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでであるともいえない。
したがって、取消理由1(新規性、進歩性)と申立理由1-1、1-2、2-5、2-6(新規性、進歩性)のいずれの理由によっても、本件訂正後の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由2と申立理由1-3、1-4(甲2を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲2発明の対比
ア 甲2発明の「イオン交換水」、「流動パラフィン」、「α-サイクロデキストリン」は、それぞれ本件特許発明1の「水」、「油脂」、「サイクロデキストリン」に相当する。
イ 甲2発明の「ポリオキシエチレングリコール(分子量 2000)」について、上記(2ウ)には、ポリオキシエチレングリコール(PEG)の分子量が2000以上のとき系はクリーム状になること(【0018】)、また、α-サイクロデキストリンとPEGをあわせて配合すると、系の安定性が飛躍的に向上し、使用感もきしみ感やべとつき感がなく、しっとりとしてコクのある使用感になること(【0020】)が記載されているが、PEGが水溶性ゲル化剤、すなわち、増粘剤として機能している(本件明細書の段落【0020】参照。)ものか不明であるので、この点について検討する。
ウ 上記1(3)、(4)に摘記したように、甲3の段落【0020】、甲4の段落【0060】には、マクロゴールがメチルセルロースやキサンタンガム等と同様の増粘剤であることが記載されており、マクロゴールについてその製造会社である「三洋化成」のHP(https://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/archives/279。下記図3、表1~3を参照。)を参照すると、
(ア)マクロゴールは、医薬品・医薬品添加剤用に用いられるポリエチレングリコール(PEG)を意味すること、
(イ)マクロゴールは、平均分子量が大きくなるにしたがって液状→ペースト状→フレーク状→粉末状と外観が変化すること(図3)、
(ウ)マクロゴール1500の平均分子量は550でペースト状であり、マクロゴール4000の平均分子量は3100で粉末状であること(図3、表1)、
(エ)マクロゴール1500の動粘度は16[mm2/s(210°F)]であり、マクロゴール4000の動粘度は80[mm2/s(210°F)]であること(表2)、
(オ)マクロゴール1500の水に対する溶解性がA(溶媒100mLに100g以上溶解する)であり、マクロゴール4000の水に対する溶解性がB(溶媒100mLに50g以上100g未満溶解する)であること(表3)、
が理解される。
「
[図:0001413308000010.jpg]
[図:0001413308000011.jpg]
[図:0001413308000012.jpg]
[図:0001413308000013.jpg]
」
エ ポリオキシエチレングリコールとポリエチレングリコールが同じ化合物であることは技術常識である。
オ 「三洋化成」の上記HPには、平均分子量2000のマクロゴールについては記載されていないが、甲2発明の「ポリオキシエチレングリコール(分子量 2000)」は、分子量550のポリエチレングリコールである「マクロゴール1500」と分子量3100のポリエチレングリコールである「マクロゴール4000」の中間の物性を備えているものと考えられ、したがって、その形態はペースト状乃至フレーク状であるが、水によく溶け(溶解性はA~B)、適度な動粘度を有するものといえるから、甲3、甲4の上記記載も参照すると、増粘剤として機能するものと認められる。
カ 上記ウ~オの検討を踏まえると、甲2発明の「ポリオキシエチレングリコール(分子量 2000)」は、本件特許発明1の「水溶性ゲル化剤」に相当する。
キ 甲2発明の「グリセリン」及び「ジプロピレングリコール」は、いずれも、本件明細書の段落【0024】に「水溶性有機溶媒」である「多価アルコール類」の一つとして記載されていることから理解されるように、本件特許発明1の「水溶性有機溶媒」に相当する。
ク 甲2発明の「ヘアトリートメント」は、上記1(2)イに記載したように、系がO/W型乳化を呈し、乳化安定性・安全性に優れた乳化組成物の用途の一つとして挙げられたものであるから、甲2発明の「ヘアトリートメント」は、油脂である流動パラフィンとイオン交換水が乳化されたO/W型乳化組成物が基質となってその他の成分を含有しているものであるといえる。したがって、甲2発明の「ヘアトリートメント」は本件特許発明1の「乳化組成物」に相当する。
ケ 甲2発明には酸性物質である「ステアリン酸」が含有されているから、甲2発明の「ヘアトリートメント」は酸性になっているものと認められる。したがって、甲2発明の「ヘアトリートメント」が「ステアリン酸」を含有していることは、本件特許発明1の「乳化組成物」が「酸性」であることに相当する。
コ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲2発明との一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水、油脂、サイクロデキストリン、水溶性ゲル化剤、及び、水溶性有機溶媒を含む、
酸性乳化組成物。」の点。
<相違点2>
「水溶性有機溶媒」が、本件特許発明1では「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」であるのに対して、甲2発明では「グリセリン」である点。
<相違点3>
本件特許発明1では「ポリオキシエチレングリコールを含まない」のに対して、甲2発明では「ポリオキシエチレングリコール(分子量 2000)」を含む点。
(2)相違点についての検討
ア 相違点2、3はいずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲2に記載された発明であるとはいえない。
イ 次に、事案に鑑み、相違点3について、すなわち、甲2発明において、ポリオキシエチレングリコールを含まないものとすることが当業者にとって容易になし得たことであるかについて検討する。
ウ 甲2の上記(2イ)によれば、甲2の発明が解決しようとする課題は、界面活性剤を系に配合するもしくは多く配合することなく、安定性に優れ、なおかつ安全性に優れた乳液状もしくはクリーム状の処方系(組成物)を提供することであると認められるところ(【0012】)、α-サイクロデキストリン、ポリオキシエチレングリコール及び油性成分を含有することを特徴とする乳化組成物が、上記課題を解決することができるものである(【請求項1】、【0013】)。
エ そうすると、ポリオキシエチレングリコールは、上記課題を解決する乳化組成物において必須の成分であり、甲2発明からポリオキシエチレングリコールを含まないようにすると、上記課題を解決することができないものとなる。このことは、上記(2カ)において、ポリオキシエチレングリコールを含まない比較例1及び比較例2を試験すると、いずれも、乳化能が△(乳化能はあるが均一性に欠けるもの)であり、安定性が×(安定性不良 分離、凝集、沈殿が認められるもの)になることからも確認できる。
オ したがって、甲2発明において、ポリオキシエチレングリコールを含まないものとすることには、阻害要因があるといえるから、甲2発明において、ポリオキシエチレングリコールを含まないものとすること、すなわち、相違点3に係る本件特許発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1が、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2についても、上記(2)と同様の理由によって、甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明3、4と甲2製法発明の対比・判断
ア 本件特許発明3、4と甲2製法発明を対比すると、上記(1)のア~ケと同様の理由によって、少なくとも上記相違点2、3と同様の点(以下、「相違点2’、3’」という。)で相違している。
イ そして、相違点2’、3’は実質的な相違点であるから、本件特許発明3、4は、甲2に記載されたものであるとはいえない。また、上記(2)のイ~オと同様の理由により、本件特許発明3、4は、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)小括
以上のとおり、本件特許発明1~4は、甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、取消理由2(新規性、進歩性)と申立理由1-3、1-4(新規性、進歩性)のいずれの理由によっても、本件訂正後の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
4 取消理由として採用されなかった申立理由2-1、2-2(甲21を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲21発明の対比
ア 甲21発明の「水」、「β-シクロデキストリン」、「キサンタン又はヒドロキシエチルセルロース」は、それぞれ本件特許発明1の「水」、「サイクロデキストリン」、「水溶性ゲル化剤」に相当し、甲21発明の「ヒマワリ油又はイソプロピルパルミテート」は、甲21の【0047】を参照すると、いずれも本件特許発明1の「油脂」に相当する。
イ 甲21発明の「グリセロール」は、上記甲1の(1オ)の【0079】に記載のとおり多価アルコールであって、しかも、水相に含まれるものであるから、本件特許発明1の「水溶性有機溶媒」に相当する。
ウ 甲21発明の「O/W型エマルジョン形態の組成物」は、本件特許発明1の「乳化組成物」に相当する。
エ 甲21発明に「ポリオキシエチレングリコール」が含まれていないことは明らかである。
オ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲21発明との一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水、油脂、サイクロデキストリン、水溶性ゲル化剤、及び、水溶性有機溶媒を含み、
ポリオキシエチレングリコールを含まない、乳化組成物。」の点。
<相違点4>
「水溶性有機溶媒」が、本件特許発明1では「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」であるのに対して、甲21発明では「グリセロール」である点。
<相違点5>
「乳化組成物」が、本件特許発明1では「酸性」であるのに対して、甲21発明では、「デヒドロ酢酸」を含む保存剤が添加されているものの、「酸性」であるか不明である点。
(2)相違点についての検討
ア 相違点4、5はいずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲21に記載された発明であるとはいえない。
イ 次に、事案に鑑み、相違点5について、すなわち、甲21発明において、乳化組成物を酸性とすることが当業者にとって容易になし得たことであるかについて検討する。
ウ 申立人2は、甲24の実験成績証明書に基づいて、甲21の実施例1の製造方法の記載に基づいて6つの乳化組成物を作成してそのpHを測定すると、いずれの組成物においてもpHは7より小さいこと、すなわち酸性になっていると主張している。
エ しかしながら、特許異議申立書の第38頁の第3~4行において、申立人2(八木峰子)が上記6つの乳化組成物を作成し、pHを測定したと記載している一方で、甲24の実験成績証明書の実験者名の欄には「ソフィー ピオ」と記載されているため、特許異議申立書の説明と上記実験成績証明書とで実験者が一致しておらず、また、上記実験成績証明書には実験者の署名もなされていないため、上記実験成績証明書は真正に成立した書証であるとは認められないから、上記ウの主張を採用することができない。
オ また、仮に、上記実験成績証明書が真正に成立した書証であると認められたとしても、甲21には実施例1の組成物の製造方法について、各成分の含有量が記載されておらず、甲24の実験成績証明書において各成分をどのような配合量として製造したかも不明であるため、甲24の実験成績証明書において製造された乳化組成物のpHが、実施例1の組成物のpHを正しく表しているか確認することができないから、甲21発明の組成物が酸性であるか不明である。
カ したがって、甲24の実験成績証明書及び甲24に基づく申立人2の上記ウの主張にかかわらず、相違点5が実質的な相違点であるとの判断は変更されない。
キ そして、甲21発明の組成物において、当該組成物を酸性にする動機付けを見出すことはできないし、仮に、甲21発明の組成物を酸性とすることが当業者にとって容易になし得たことであるとしても、本件特許発明1の乳化組成物は、酸性とすることにより、高い乳化安定性を付与することができ、特に、高温条件に付されたとしても乳化破壊を生じることのない、耐熱性の高い、優れた乳化安定性を付与することができるという優れた効果を奏するものであり(本件明細書の【0037】参照。)、このような優れた効果は、甲21の記載に基づいて当業者が予測可能であるとはいえない。
ク したがって、本件特許発明1は、甲21に記載された事項からは予測することのできない優れた効果を奏するものであるから、甲21発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2についても、上記(2)と同様の理由によって、甲21に記載された発明であるとはいえず、甲21発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明3、4と甲21製法発明の対比・判断
ア 本件特許発明3、4と甲21製法発明を対比すると、上記(1)のア~エと同様の理由によって、少なくとも上記相違点4、5と同様の点(以下、「相違点4’、5’」という。)で相違している。
イ そして、相違点4’、5’はいずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明3、4は、甲21に記載されたものであるとはいえない。
また、上記(2)のイ~キと同様の理由により、本件特許発明3、4は、甲21製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明3を引用することによって、本件特許発明3の全ての特定事項を備えた本件特許発明5についても、上記(4)と同様の理由によって、甲21製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1~4は、甲21に記載された発明であるとはいえず、本件特許発明1~5は、甲21に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、申立理由2-1、2-2(新規性、進歩性)のいずれの理由によっても、本件訂正後の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由として採用されなかった申立理由2-3、2-4(甲22を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲22発明の対比・判断
ア 甲22発明の「水」、「β-シクロデキストリン」、「キサンタンガム」は、それぞれ本件特許発明1の「水」、「サイクロデキストリン」、「水溶性ゲル化剤」に相当し、甲22発明の「ヤシ油脂肪酸ブチレングリコール及びヒマワリ種子油」は、甲22の【0066】を参照すると、いずれも本件特許発明1の「油脂」に相当する。
イ 甲22発明の「グリセリン」は、「グリセロール」と同じ化合物であるから、上記甲1の(1オ)の【0079】に記載のとおり多価アルコールであって、しかも、水相Aに含まれるものであるから、本件特許発明1の「水溶性有機溶媒」に相当する。
ウ 甲22発明の「クリーム状の乳化組成物」は、本件特許発明1の「乳化組成物」に相当する。
エ 甲22発明に「ポリオキシエチレングリコール」が含まれていないことは、甲22の表4~表8に記載された甲1発明に使用されている全ての原料を確認することによって、明らかである。
オ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲22発明との一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水、油脂、サイクロデキストリン、水溶性ゲル化剤、及び、水溶性有機溶媒を含み、
ポリオキシエチレングリコールを含まない、乳化組成物。」の点。
<相違点6>
「水溶性有機溶媒」が、本件特許発明1では「エタノール、アセトン、アセトニトリル、又はメタノール」であるのに対して、甲22発明では「グリセリン」である点。
<相違点7>
「乳化組成物」が、本件特許発明1では「酸性」であるのに対して、甲22発明では、「デヒドロ酢酸」を含む保存剤が添加されているものの、「酸性」であるか不明である点。
(2)相違点についての検討
ア 相違点6、7はいずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲22に記載された発明であるとはいえない。
イ ここで、事案に鑑み、相違点7について、すなわち、甲22発明において、乳化組成物を酸性とすることが当業者にとって容易になし得たことであるかについて検討する。
ウ 申立人2は、甲24の実験成績証明書に基づいて、甲22の実施例2の製造方法の記載に基づいて日焼け止め剤を作成してそのpHを測定すると、当該組成物のpHは7より小さいこと、すなわち酸性になっていると主張している。
エ しかしながら、上記4(2)エと同じ理由によって、上記実験成績証明書は真正に成立した書証であるとは認められないから、上記ウの主張を採用することができない。
オ したがって、甲24の実験成績証明書及び甲24に基づく申立人2の上記ウの主張にかかわらず、相違点4が実質的な相違点であるとの判断は変更されない。
カ そして、甲22発明の組成物において、当該組成物を酸性にする動機付けを見出すことはできないし、仮に、甲22発明の組成物を酸性とすることが当業者にとって容易になし得たことであるとしても、本件特許発明1の乳化組成物は、酸性とすることにより、高い乳化安定性を付与することができ、特に、高温条件に付されたとしても乳化破壊を生じることのない、耐熱性の高い、優れた乳化安定性を付与することができるという優れた効果を奏するものであり(本件明細書の【0037】、【表1】参照。)、このような優れた効果は、甲22の記載に基づいて当業者が予測可能であるとはいえない。
キ したがって、本件特許発明1は、甲22に記載された事項からは予測することのできない優れた効果を奏するものであるから、甲22発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2についても、上記(2)と同様の理由によって、甲22に記載された発明であるとはいえず、甲22発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明3、4と甲22製法発明の対比・判断
ア 本件特許発明3、4と甲22製法発明を対比すると、上記(1)のア~エと同様の理由によって、少なくとも上記相違点6、7と同様の点(以下、「相違点6’、7’」という。)で相違している。
イ そして、相違点6’、7’はいずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明3、4は、甲22に記載されたものであるとはいえない。
また、上記(2)のイ~キと同様の理由により、本件特許発明3、4は、甲22製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明3を引用することによって、本件特許発明3の全ての特定事項を備えた本件特許発明5についても、上記(3)と同様の理由によって、甲22発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1~4は、甲22に記載された発明であるとはいえないし、本件特許発明1~5は、甲22に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、申立理由2-3、2-4(新規性、進歩性)のいずれの理由によっても、本件訂正後の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
6 取消理由として採用されなかった申立理由2-7(サポート要件)について
(1)本件特許発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0010】によれば、高温条件に付されたとしても乳化破壊を生じることのない、耐熱性の高い、優れた乳化安定性を有する、油脂、水、サイクロデキストリン、及び水溶性ゲル化剤を含んでなる乳化組成物を提供することであると認められる。
(2)そして、本件明細書の段落【0011】~【0012】の記載を参照すると、上記課題は、本件特許発明によって解決し得ることが理解できるし、同段落【0046】~【0055】に記載された実施例の乳化組成物によって実際に上記課題を解決し得ることが確認されている。
(3)申立人2は、この点に関して、本件特許発明の乳化組成物は、乳化剤を含有することが排除されていないため、乳化剤を含み得るものであるが、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたいずれの実施例においても、乳化剤を含むものが記載されていないため、乳化剤を含む本件特許発明の乳化組成物が上記課題を解決し得るものであることが実験によって確認されてはいないと主張している。
(4)しかしながら、乳化剤は、乳化組成物に添加されることにより、当該乳化組成物の乳化状態を安定化させる効果を有するものであることは技術常識であり、仮に、本件特許発明1の乳化組成物に乳化剤が添加されたとしても、高温条件において乳化状体がより安定化することがあっても乳化破壊が生じることは想定されないから、上記課題が解決されなくなるとはいえない。また、申立人2は、本件特許発明の乳化組成物に乳化剤を添加すると乳化破壊が生じることの具体的な根拠を示しているわけでもない。
(5)したがって、本件特許発明は、乳化剤を含んだときに課題を解決しないものであるということはできないから、申立理由2-7によって、本件訂正後の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 まとめ
以上のとおり、令和 5年10月10日付け取消理由通知書に記載した取消理由並びに、申立人1が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び申立人2が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700638