特許異議申立
2023-700598
メタクリル樹脂組成物、成形体およびフィルム
- 審判番号
- 2023-700598
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-560561
- 登録番号
- 7187482
- 請求日
- 2023年06月07日
- 審決日
- 2024年05月20日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社クラレ
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】西郷 新
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 岡谷 祐哉
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7187482号発明「メタクリル樹脂組成物、成形体およびフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7187482号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第7187482号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7187482号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年12月20日に出願(優先日 平成29年12月21日)された特願2019-560561号であって、令和4年12月2日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年6月7日に西郷 新(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされたものである。
その後の手続は以下のとおり。
令和5年10月23日付け 取消理由通知
同年12月22日 訂正請求書、意見書の提出
令和6年 1月19日 訂正請求書を補正対象とする手続補正書の提出
同年 1月25日付け 訂正請求があった旨の通知
令和6年 2月26日 意見書(申立人)の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年12月22日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(3)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記紫外線吸収剤[B]が、ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する分子量が200以上の化合物であり、」と記載されているのを、
「前記紫外線吸収剤[B]が、ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する分子量が500以上の化合物であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記重合体[C]が、フッ素系重合体またはスチレン系重合体ブロック-水添ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体である、」と記載されているのを、
「前記重合体[C]が、フッ素系重合体またはスチレン系重合体ブロック-水添ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、前記重合体[C]の重量平均分子量が60000~300000である、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「メタクリル樹脂組成物」と記載されているのを、
「全光線透過率が90%以上のフィルムを製造するためのメタクリル樹脂組成物」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1ないし3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1ないし3による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、紫外線吸収剤[B]の分子量について、「200以上」から「500以上」と下限の範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
そして、当該事項については、本件特許明細書の段落【0034】に記載されている。
そうすると、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様である。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による請求項1についての訂正は、前記重合体[C]について、「重量平均分子量が60000~300000である」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
そして、当該事項については、本件特許明細書の段落【0042】に記載されている。
そうすると、訂正事項2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様である。
(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3による請求項1についての訂正は、メタクリル樹脂組成物について、「全光線透過率が90%以上のフィルムを製造するための」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
そして、当該事項については、本件特許明細書の段落【0007】に記載されている。
そうすると、訂正事項3による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様である。
4 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
5 むすび
以上のとおり、請求項1ないし4についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし4を総称して「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
メタクリル樹脂[A]75~99.8質量%と、紫外線吸収剤[B]0.1~15質量%と、Fedors法によって算出したSP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2である重合体[C]0.1~10質量%とを含有してなり、
前記メタクリル樹脂[A]が、架橋ゴム成分を含み、前記架橋ゴム成分がアクリル系多層構造重合体であり、
前記紫外線吸収剤[B]が、ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する分子量が500以上の化合物であり、
前記重合体[C]が、フッ素系重合体またはスチレン系重合体ブロック-水添ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、前記重合体[C]の重量平均分子量が60000~300000である、全光線透過率が90%以上のフィルムを製造するためのメタクリル樹脂組成物(但し、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤を含むものを除く。)。
【請求項2】
請求項1に記載のメタクリル樹脂組成物からなる成形体。
【請求項3】
全光線透過率が90%以上のフィルムである請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
請求項1に記載のメタクリル樹脂組成物を溶融押出して成形体を得る工程を含む、請求項2または3に記載の成形体の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由
申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という 。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
(1)申立人による証拠方法
申立人は、申立書に添付して、以下の証拠を提出している。
甲第1号証:特許第4480834号
甲第2号証:国際公開第2016/010013号
甲第3号証:特開2008-231307号
甲第4号証:「膜分離における高分子膜の化学構造とアルコール透過性との相関性」 高分子論文集,Vol. 41, No. 8, pp. 429-435 (1984年8月)
甲第5号証:ポリマー添加剤製品カタログ BASFジャパン株式会社(2015年9月)
甲第6号証:機能性添加剤製品カタログ BASFジャパン株式会社(2017年12月)
甲第7号証:クレハKFポリマー○R(当審注:丸囲みのRを表す。)カタログ (2014年)
甲第8号証:特開昭59-127755号
甲第9号証:特開2012-50941号
甲第10号証:特開平6-145615号
甲第11号証:特開平10-34838号
甲第12号証:特公昭62-19309号
甲第13号証:特公昭63-20459号
甲第14号証:特開昭63-77963号
また、申立人は、令和6年2月26日付けの意見書に添付して、以下の証拠を提出している。
甲第15号証:特開2014-61705号
甲第16号証:特許第6219555号
甲第17号証:特開2017-200758号
甲第18号証:「導電性複合材料におけるPTC特性の定量的解析」,高分子論文集,vol.70, No.9, p.477 (Sep.,2013)
以下、「甲第1号証」等を、順に「甲1」等という。
(2)特許権者による証拠方法
特許権者は、令和5年12月22日付けの意見書に添付して、以下の証拠を提出している。
乙第1号証:国際公開第2016/104743号
乙第2号証:異議2023-700598に関する実験成績証明書
以下、「乙第1号証」等を、順に「乙1」等という。
3 取消理由の概要
令和5年10月23日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲2を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由、及び申立書に記載された申立理由によっては本件特許発明1ないし4に係る特許は取り消すことはできない。
1 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)及び申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)について
申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)は、甲1を主引用文献とする理由であるから、取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性・進歩性)と併せて検討する。
(1)証拠に記載された記載事項等
ア 甲1に記載された発明の認定
甲1の実施例3の裏面層の樹脂組成物に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。
「フッ化ビニリデン系樹脂であるKF-#1300(呉羽化学工業)10重量部、メタクリル酸エステル系樹脂であるアクリペットVH(三菱レイヨン)30重量部及びハイペットHBS(三菱レイヨン)60重量部、紫外線吸収剤であるチヌビンP(チバガイギー)2重量部からなる裏面層用樹脂をタンブラーにてブレンドし、φ45mm2軸押出機によって混練して得られた裏面層用コンパウンド。」(以下、「甲1発明A」という。)
「KF-#1300 95重量部、アクリペットVH 5重量部及び架橋アクリル樹脂であるテクポリマーMBX5(積水化成品工業)10重量部からなる表面層用樹脂をタンブラーにてブレンドし、φ45mm2軸押出機によって混練して得られた表面層用コンパウンドと、甲1発明Aに係る裏面層用コンパウンドとを2台のφ50mm単軸押出機を用いたフィードブロック法により製膜した膜厚15μmの表面層と膜厚35μmの裏面層からなる薄膜フィルム。」(以下、「甲1発明B」という。)
「KF-#1300 95重量部、アクリペットVH 5重量部及び架橋アクリル樹脂であるテクポリマーMBX5(積水化成品工業)10重量部からなる表面層用樹脂をタンブラーにてブレンドし、φ45mm2軸押出機によって混練して得られた表面層用コンパウンドと、甲1発明Aに係る裏面層用コンパウンドとを2台のφ50mm単軸押出機を用いたフィードブロック法により製膜した膜厚15μmの表面層と膜厚35μmの裏面層からなる薄膜フィルムを製造する方法。」(以下、「甲1発明C」という。)
イ 甲5に記載された事項
[図:0001413305000001.jpg]
ウ 乙1に記載された事項
「[0109] 〈実施例1〉
フッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)36重量%とγ-ブチロラクトン64重量%を150℃で溶解した。・・・」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明Aとを対比する。
ア)甲1発明Aの「メタクリル酸エステル系樹脂」である「アクリペットVH(三菱レイヨン)」及び「ハイペットHBS(三菱レイヨン)」は、本件特許発明1の「メタクリル樹脂[A]」に相当する。
イ)甲1発明Aの「紫外線吸収剤」である「チヌビンP(チバガイギー)」は、甲5の第24ページに、「Tinuvin P」(チヌビンP)が、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」であり、分子量が「225」であることが記載されていることから、本件特許発明1の「ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する」「化合物」である「紫外線吸収剤[B]」である限りにおいて相当する。
ウ)甲1発明Aの「フッ化ビニリデン系樹脂」である「KF-#1300(呉羽化学工業)」について、乙1によると、フッ化ビニリデンホモポリマーである「株式会社クレハ製KF1300」の重量平均分子量が「41.7万」であることが記載されている。「株式会社クレハ」は、「呉羽化学工業株式会社」から名称変更したものであって、実体上同一の企業と認められる。そのため、甲1発明Aの「KF-#1300(呉羽化学工業)」と乙1に記載される「株式会社クレハ製KF1300」とは同一のものと解するのが相当であるから、甲1発明Aの「KF-#1300(呉羽化学工業)」の重量平均分子量は「41.7万」となる。
そうすると、甲1発明Aの「フッ化ビニリデン系樹脂」である「KF-#1300(呉羽化学工業)」は、本件特許発明1の「フッ素系重合体」である「重合体[C]」である限りにおいて相当する。
エ)また、甲1発明Aの「コンパウンド」は、「メタクリル酸エステル系樹脂」を含有するものであり、「アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤」を含んでいるものではないから、本件特許発明1の「メタクリル樹脂組成物(但し、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤を含むものを除く。)」に相当する。
オ)そして、甲1発明Aの各成分を質量%に換算すると、「メタクリル酸エステル系樹脂」である「アクリペットVH(三菱レイヨン)」及び「ハイペットHBS(三菱レイヨン)」88.2質量%、「紫外線吸収剤」である「チヌビンP(チバガイギー)」2.0質量%、「フッ化ビニリデン系樹脂であるKF-#1300(呉羽化学工業)」は9.8質量%であることから、甲1発明Aは、本件特許発明1の「メタクリル樹脂[A]75~99.8質量%と、紫外線吸収剤[B]0.1~15質量%と、重合体[C]0.1~10質量%」の組成と重複一致する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
メタクリル樹脂[A]75~99.8質量%と、紫外線吸収剤[B]0.1~15質量%と、重合体[C]0.1~10質量%とを含有してなり、
前記紫外線吸収剤[B]が、ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する化合物であり、
前記重合体[C]が、フッ素系重合体である、メタクリル樹脂組成物(但し、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤を含むものを除く。)。
<相違点1-1-1>
メタクリル樹脂[A]が、本件特許発明1は「架橋ゴム成分を含み、前記架橋ゴム成分がアクリル系多層構造重合体」であるのに対し、甲1発明Aはそのようなものであるか不明である点
<相違点1-1-2>
紫外線吸収剤[B]であるベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する化合物の分子量が、本件特許発明1は「500以上」であるのに対し、甲1発明Aは「225」である点
<相違点1-1-3>
重合体[C]のFedors法によって算出したSP値が、本件特許発明1は「6.0~9.7(cal/cm3)1/2」であるのに対し、甲1発明Aは不明である点
<相違点1-1-4>
重合体[C]の重量平均分子量が、本件特許発明1は「60000~300000」であるのに対し、甲1発明Aは「41.7万」である点
<相違点1-1-5>
メタクリル樹脂組成物が、本件特許発明1は「全光線透過率が90%以上のフィルムを製造するための」と特定されているのに対し、甲1発明Aはそのような特定がされていない点
(イ)判断
a 新規性について
<相違点1-1-2>、<相違点1-1-4>及び<相違点1-1-5>は実質的に相違する点である。
よって、本件特許発明1は、甲1発明A、すなわち甲1に記載された発明ではなく、新規性を有するものである。
b 進歩性について
事案に鑑み、<相違点1-1-5>の容易想到性について検討する。
甲1に記載される発明は、「フツ素系樹脂フィルムの特徴である耐候性、耐汚染性、耐溶剤性を保持し、フッ素系樹脂フィルムの欠点である他の基材との接着性を保持した上、量産性に優れ二次加工を施すことなく、艶消し調の低光沢表面を有し、かつ熱ラミネート時の艶戻りや艶斑を抑制するとともに、機械的強度が低下しにくいことを特徴とする艶消し調の表面を有するフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを提供する」こと(甲1の段落【0006】)を課題とするもので、本件特許発明1のように、「金型汚れなどを抑制しつつ溶融成形することができ、且つ紫外線吸収剤等のブリードアウトが生じ難い成形体を与えるのに適したメタクリル樹脂組成物」(本件特許明細書の段落【0005】)を提供することを課題とするものではない。
また、甲1には、フィルムの「全光線透過率を90%以上」とすること、及びそのようにするための具体的な手段については記載も示唆もされていない。
ところで、甲2の段落[0031] には、「本発明のポリフッ化ビニリデン系樹脂粘着フィルムの曇り度は、5cm角のポリフッ化ビニリデン系樹脂粘着フィルム(樹脂層厚み45μm、アクリル系粘着剤層厚み50μm)を測定サンプルとし、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH-1001DP型)を用いて測定した値で0~30%であり、屋外で使用されるアクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂等のプラスチックや、ガラス等、透明な基材に対して適用しても基材の透明性を損なう事が無い。更に、傷ついた透明基材表面の凹凸への追従が良好であり、透明基材表面の傷に由来する透明性低下が改善される事から、透明基材の補修用粘着フィルムとして好適である。なおヘーズは0~20%であれば更に好ましく、また30%以下とすることにより、被着体である傷ついた透明基材(プラスチック、ガラス)の透明性を向上することができる。」と、フィルムの「ヘーズを0~30%」とすることは記載されているものの、フィルムの「全光線透過率を90%以上」とすること、及びそのようにするための具体的な手段については記載も示唆もされていない。
そして、甲1発明Aは、「艶消し調の低光沢表面」を有するフィルムを提供するものであるところ、一般に艶消し調で光沢度が低下するにつれてヘーズの値は大きくなるものである。そうすると、「艶消し調の低光沢表面」を有するフィルム、すなわちヘーズ値が大きいフィルムを提供することを課題とする甲1発明Aにおいて、あえてヘーズ値を小さくする甲2に記載される事項を採用する動機付けはない。
さらに、申立人の提出した甲3ないし甲16のいずれにも、「全光線透過率」を「90%以上」とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明Aにおいて、<相違点1-1-5>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件特許発明1は、「透明性が良好」であると共に、「金型汚れなどを抑制しつつ溶融成形することができ」、さら成形体とした際に「紫外線吸収剤のブリードアウトが生じ難い」(段落【0008】、【0092】、【実施例】)という効果を奏するものである。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。そして、甲1発明Bも甲1発明Aを引用するものである。
また、本件特許発明4は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。そして、甲1発明Cも甲1発明Aを引用するものである。
そこで、本件特許発明2及び3と甲1発明B、本件特許発明4と甲1発明Cとを対比すると、少なくとも上記ア(ア)で示した<相違点1-1-1>ないし<相違点1-1-5>で相違する。
そうすると、上記ア(イ)で示したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし4は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和6年2月26日付けの意見書において、以下の主張を行っている。
「甲1及び甲2に係る発明はともにフッ化ビニリデン系フィルムに関するものであり、技術分野が共通している。そうすると、甲1に係る発明において、甲2に基づき、透明性を高めるべくヘーズを0%に近づけて全光線透過率を90%以上とすることは当業者であれば容易に相当(当審注:「想到」の誤記と想される。)し得ることである。」(第8ページ)
しかしながら、上記(2)ア(イ)で説示したように、甲2には、フィルムの「全光線透過率を90%以上」とすること、及びそのようにするための具体的な手段については記載も示唆もされていないし、ヘーズ値が大きいフィルムを提供することを課題とする甲1発明Aにおいて、あえてヘーズ値を小さくする甲2に記載される事項を採用する積極的な動機付けはない。
よって、申立人の主張は首肯できない。
(4)小括
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし4は、同法第同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲2を主引用文献とする進歩性)及び申立理由2(甲2を主引用文献とする新規性・進歩性)について
申立理由2(甲2を主引用文献とする新規性・進歩性)は、甲2を主引用文献とする理由であるから、取消理由2(甲2を主引用文献とする進歩性)と併せて検討する。
(1)証拠に記載された記載事項等
ア 甲2に記載された発明の認定
甲2の実施例9のB層の樹脂組成物に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。
「ポリフッ化ビニリデン系樹脂であるアルケマ社製、商品名カイナ-720(以下、「K-720」と略称する。)20質量%とポリメタクリル酸エステル系樹脂である三菱レイヨン(株)社製、商品名ハイペットHBS(アクリル系ゴムを含むポリメタクリル酸メチル系樹脂。以下、「HBS」と略称する。)80質量%(両者の合計を100%とする)を含有し更にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を樹脂成分に対し1.0質量%含有する樹脂組成物」(以下、「甲2発明A」という。)
「甲2発明Aに係るB層用の樹脂組成物とK-720 80質量%HBS 20質量%からなるA層用の樹脂組成物を、40mmφ押出機2台と幅300mm、 スリット0.5mmのマルチマニホールドダイを使用して2層共押出成形を行って得られた、A層・B層が積層したポリフッ化ビニリデン系樹脂フィルム。」(以下、「甲2発明B」という。)
「甲2発明Aに係るB層用の樹脂組成物とK-720 80質量%HBS 20質量%からなるA層用の樹脂組成物を40mmφ押出機2台と幅300mm、スリット0.5mmのマルチマニホールドダイを使用して2層共押出成形を行って、A層・B層を積層するポリフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法。」(以下、「甲2発明C」という。)
イ 甲18に記載された事項
「2 実験
2.1 材料
導電性複合材料のベースポリマーとしてPVDFにはARKEMA製のKYNAR K720(融点=169℃、重量平均分子量=95000、メルトフローレート=17.1g/10min)を用いた。」(第477ページ左欄第6~10行)
ウ 乙2に記載された事項
「
[図:0001413305000002.jpg]
[図:0001413305000003.jpg]
[図:0001413305000004.jpg]
」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明Aとを対比する。
ア)甲2発明Aの「メタクリル酸エステル系樹脂」である「HBS」は、本件特許発明1の「メタクリル樹脂[A]」に相当する。
イ)甲2発明Aの「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」は、本件特許発明1の「ベンゾトリアゾール骨格を有する」「紫外線吸収剤[B]」である限りにおいて相当する。
ウ)甲2発明Aの「ポリフッ化ビニリデン系樹脂」である「K-720」は、甲18によると、重量平均分子量が「95000」であるから、本件特許発明1の「フッ素系重合体」である「重量平均分子量が60000~300000」である「重合体[C]」に相当する。
エ)また、甲2発明Aの「樹脂組成物」は、「メタクリル酸エステル系樹脂」を含有するものであり、「アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤」を含んでいるものではないから、本件特許発明1の「メタクリル樹脂組成物(但し、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤を含むものを除く。)」に相当する。
オ)そして、甲2発明Aの各成分を質量%に換算すると、メタクリル酸エステル系樹脂であるHBS「79.2質量%」、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤「1.0質量%」、ポリフッ化ビニリデン系樹脂であるK-720は「19.8質量%」である。
そうすると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で一応相違する。
<一致点>
メタクリル樹脂[A]と、紫外線吸収剤[B]と、重合体[C]とを含有してなり、
前記紫外線吸収剤[B]が、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物であり、
前記重合体[C]が、フッ素系重合体であり、前記重合体[C]の重量平均分子量が60000~300000である、メタクリル樹脂組成物(但し、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーとの相溶化剤を含むものを除く。)。
<相違点2-1-1>
メタクリル樹脂[A]が、本件特許発明1は「架橋ゴム成分を含み、前記架橋ゴム成分がアクリル系多層構造重合体」であるのに対し、甲2発明Aはそのようなものであるか不明である点
<相違点2-1-2>
紫外線吸収剤[B]であるベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有する化合物の分子量が、本件特許発明1は「500以上」であるのに対し、甲2発明Aは不明である点
<相違点2-1-3>
重合体[C]の「Fedors法によって算出したSP値が、本件特許発明1は「6.0~9.7(cal/cm3)1/2」であるのに対し、甲2発明Aは不明である点
<相違点2-1-4>
メタクリル樹脂組成物の組成割合が、本件特許発明1は、「メタクリル樹脂[A]75~99.8質量%と、紫外線吸収剤[B]0.1~15質量%と、重合体[C]0.1~10質量%とを含有」するものであるのに対し、甲2発明Aは、メタクリル酸エステル系樹脂であるHBS「79.2質量%」、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤「1.0質量%」、ポリフッ化ビニリデン系樹脂であるK-720「19.8質量%」である点
<相違点2-1-5>
メタクリル樹脂組成物が、本件特許発明1は「全光線透過率が90%以上のフィルムを製造するための」と特定されているのに対し、甲2発明Aはそのような特定がされていない点
(イ)判断
a 新規性について
<相違点2-1-2>、<相違点2-1-4>及び<相違点2-1-5>は実質的に相違する点である。
よって、本件特許発明1は、甲2発明A、すなわち甲2に記載された発明ではなく、新規性を有するものである。
b 進歩性について
(a)まず、本件特許発明1の進歩性を検討するにあたり、本件特許発明1の技術的意義について見てみる。
本件特許明細書の段落【0040】に、「本発明に用いられる重合体[C]は、Fedors法にて算出したSP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2であり、好ましくは6.1~9.6(cal/cm3)1/2であり、より好ましくは6.2~9.5(cal/cm3)1/2である。重合体[C]のSP値が上記範囲内であることによって、メタクリル樹脂[A]と重合体[C]との相溶性が良好となり、メタクリル樹脂[A]内部での紫外線吸収剤[B]の移動性を低下させ、紫外線吸収剤などのブリードアウトが抑制されると考えられる。また、透明性に優れた成形体を得ることも可能となる。」と記載され、段落【0047】に「本発明のメタクリル樹脂組成物は、上記SP値が6.0~9.7(cal/cm3)1/2である重合体[C]を0.1~10質量%含む。重合体[C]の含有量は、好ましくは0.3~8質量%であり、より好ましくは0.5~6質量%である。上記範囲で重合体[C]を含むと、紫外線吸収剤等のブリードアウトや蒸散などが抑制され、メタクリル樹脂組成物の耐熱性を維持しつつ、耐光性および耐候性を発揮できる。」ことが記載されている。
そして、本件特許明細書の実施例・比較例を対比してみるに、同じ種類のメタクリル樹脂[A]、紫外線吸収剤[B]、重合体[C]を用いたもので比較すると、本件特許発明1の発明特定事項を満たす実施例2(重合体[C]の含有量が1質量%)は、全光線透過率が「92%」、ロール汚れ時間が「16分」であるのに対し、本件特許発明1の発明特定事項を満たさない比較例10(重合体[C]の含有量が20質量%)は、全光線透過率が「45%」と実施例2に比べて透明性が悪化し、ロール汚れ時間が「13分」と短く、実施例2に比べて金型汚れなどが抑制できていない結果となっている。
ここで、実験成績証明書である乙2について見てみる。
乙2には、「本願明細書の記載に準じて、実験を行い、結果を評価した。
下記の表1に示す組成としたこと以外は、明細書段落[0081]と同様の方法でメタクリル樹脂組成物の板状成形体(#2、#3及び#4)を得た。なお、#1は、実施例2のメタクリル樹脂組成物の板状成形体の組成である(明細書段落[0083])。
そして板状成形体#2~#4の全光線透過率を明細書段落[0075]に記載の方法で測定した。」ことが記載されている。
そこで、本件特許明細書の実施例・比較例、さらに乙2で示される追加の実験例を対比してみる。
本件特許明細書に記載の実施例2の全光線透過率が「92%」であるところ、乙2の表1によると、「#1」の全光線透過率(3.2mm厚)の値が「91.6%」と実施例2と同じ値となっている。そうすると、乙2の実験は、本願明細書の記載に準じて追試したことが理解できる。
乙2の追加の実験例「#2」は、実施例2に相当する「#1」において、重合体[C]の含有量を「1質量%」から、本件特許発明1の上限値である「10質量%」に変更したものである。そして、乙2の表1には、本件特許発明1の発明特定事項を満たす追加の実験例「#2」も、全光線透過率が「91%」と、透明性が実施例2と同等であることが示されている。
そうすると、本件特許発明1に係るメタクリル樹脂組成物は、本件特許発明1の発明特定事項を有することにより、「金型汚れなどを抑制しつつ溶融成形することができ、且つ紫外線吸収剤等のブリードアウトが生じ難く、透明性に優れた成形体」を得ることが可能となるものと解することができる。
(b)ついで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点2-1-4>及び<相違点2-1-5>の容易想到性を併せて検討する。
甲2発明Aの「ポリフッ化ビニリデン系樹脂」である「K-720」は、「19.8質量%」である。そして、上記(a)で述べたように、重合体[C]の含有量が「20質量%」である、本件特許明細書の比較例10は、全光線透過率が「45%」と実施例2(重合体[C]の含有量が1質量%)に比べて透明性が悪化し、ロール汚れ時間が「13分」と短く、実施例2に比べて金型汚れなどが抑制できていない結果となっている。
すなわち、甲2発明Aの「ポリフッ化ビニリデン系樹脂」の含有量は、本件特許明細書の比較例10に相当するものといえるから、製造されたフィルムの「全光線透過率が90%以上」となるということはできない。
ところで、甲2の段落[0013] には、「B層のポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の混合比は0~50/100~50質量%であり、好ましくは5~48/95~52質量%、更に好ましくは15~45/85~55質量%である。ポリメタクリル酸メチルが50質量%以上であると粘着剤層との密着性を向上させることができる。」と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂ポリメタクリル酸エステル系樹脂の混合比が、粘着剤層との密着性に関係することは記載されている。また、甲2の段落[0031] には、フィルムの「ヘーズを0~30%」とすることは記載されている。しかしながら、甲2には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の混合比が、製造されたフィルムの全光線透過率に関係すること、さらには、フィルムを製造した際に、「全光線透過率が90%以上」となるようにすることについては記載も示唆もされていない。
さらに、申立人の提出した甲3ないし甲16のいずれにも、「全光線透過率」を「90%以上」とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明Aにおいて、全光線透過率が90%以上のフィルムを製造するために、ポリフッ化ビニリデン系樹脂であるK-720の含有量を「19.8質量%」から「0.1~10質量%」に変更する動機付けがあるとはいえない。
よって、甲2発明Aにおいて、<相違点2-1-4>及び<相違点2-1-5>に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件特許発明1は、「透明性が良好」であると共に、「金型汚れなどを抑制しつつ溶融成形することができ」、さら成形体とした際に「紫外線吸収剤のブリードアウトが生じ難い」(段落【0008】、【0092】、【実施例】)という効果を奏するものである。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。そして、甲2発明Bも甲2発明Aを引用するものである。
また、本件特許発明4は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。そして、甲2発明Cも甲2発明Aを引用するものである。
そこで、本件特許発明2及び3と甲2発明B、本件特許発明4と甲2発明Cとを対比すると、少なくとも上記ア(ア)で示した<相違点2-1-1>ないし<相違点2-1-5>で相違する。
そうすると、上記ア(イ)で示したのと同様の理由により、本件特許発明2ないし4は、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和6年2月26日付けの意見書において、以下の主張を行っている。
「甲2発明Bにおいて、透明性を高めるべく、ヘーズを0%に近づけて、全光線透過率を90%以上とすることは当業者が容易に相当(当審注:「想到」の誤記と想される。)し得たことである。」(第9ページ)
しかしながら、上記(2)ア(イ)b(b)で説示したように、甲2には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリメタクリル酸エステル系樹脂の混合比が、製造されたフィルムの全光線透過率に関係すること、さらには、フィルムを製造した際に、「全光線透過率が90%以上」となるようにすることについては記載も示唆もされていない。
よって、申立人の主張は首肯できない。
(4)小括
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし4は、同法同条第2項の規定により特許受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由2及び申立理由2によっては取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、当審が通知した取消理由及び申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700598