特許異議申立
2022-700457
発酵麦芽飲料の製造方法
- 審判番号
- 2022-700457
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-089834
- 登録番号
- 6969893
- 請求日
- 2022年05月24日
- 審決日
- 2022年09月30日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】志賀 正武
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【異議申立人】下河 あい
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C12G) / P1651.121-Y (C12G) / P1651.161-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6969893号発明「発酵麦芽飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6969893号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6969893号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成29年4月28日を出願日とする特願2017-89834号に係るものであって、令和3年11月1日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年5月24日に特許異議申立人 下河 あい(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、これらを総称して「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
麦芽を含む発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
イソアミルアルコールを原料として用い、
ホルダチンとイソアミルアルコールを含有し、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1)
式(1): Y≧12.5X+50
を満たし、ホルダチンの濃度Xが0.5ppm以上である発酵麦芽飲料を製造することを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法。
【請求項2】
前記発酵麦芽飲料のホルダチンの濃度Xが10ppm以下である、請求項1に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。
【請求項3】
前記発酵原料に占める麦芽の使用比率が100質量%未満である、請求項1又は2に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。
【請求項4】
発酵麦芽飲料の渋味を改善するために、飲料中のホルダチン及びイソアミルアルコールの含有量を、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1)
式(1): Y≧12.5X+50
と、ホルダチンの濃度Xが0.5ppm以上とを満たすように調整することを特徴とする、発酵麦芽飲料の渋味を改善する方法。
【請求項5】
前記発酵麦芽飲料のホルダチンの濃度Xを、0.5ppm以上10ppm以下に調整する、請求項4に記載の発酵麦芽飲料の渋味を改善する方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年5月24日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項4及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由2-2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由2-3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由2-4(甲第5号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 申立理由3(甲第9号証に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本願の出願の日前の特許出願であって、本願出願後に出願公開がされた甲第9号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願の日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本願の出願の時にその出願人と上記特許出願の出願人とが同一でもないから、同発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
7 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・ホンダチン及びイソアミルアルコールを添加して調整する方法以外で、クレームのパラメータを満足させる方法は記載されていない。
8 証拠方法
甲第1号証:特開2013-118846号公報
甲第2号証:特開2015-123036号公報
甲第3号証:特開2015-123026号公報
甲第4号証:Pihlava et al.,Total hordatine content in different types of beers,J. Inst. Brew.,2016,vol.122,p.212-217
甲第5号証:特開2003-102458号公報
甲第6号証:Renger et al.,THE FORMATION OF ESTERS AND HIGHER ALCOHOLS DURING BREWERY FERMENTATION;THE EFFECT OF CARBON DIOXIDE PRESSURE,J.Inst.Brew.,November-December,1992,Vol.98,pp.509-513
甲第7号証:イソアミルアルコール、[令和4年5月23日検索],インターネット<URL:https://www.jffma-jp.org/profile/infomation/data2012/a-8.iaa.pdf>
甲第8号証:“Perfect Sugar-Free Beer”、記録番号:4139811、掲載時期:2016年7月、ミンテルGNPD(世界新商品情報データベース)、[令和4年5月23日検索],<インターネット URL:http://www.gnpd.com>第1~4頁
甲第9号証:特開2018-126079号公報(特願2017-20326号)
甲第10号証:生物工学会誌 94巻9号、2016年9月、562頁、インターネット、[令和4年5月24日検索]<URL:http://www.sbj.or.jp/sbj/sbj_vol94_no09.html及び
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9409/9409_biomedia_4.pdf>
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
以下に記載するように、特許異議申立人の申立理由はいずれも理由がないと判断する。
1 申立理由1及び申立理由2-1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ビールテイスト飲料及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物原料として、目幅が0.125mmである篩で篩い分けした場合の前記篩の篩上残量が50質量%以上である小麦粉を使用することを特徴とする、ビールテイスト飲料の製造方法。」
・「【0021】
ホルダチンAやポリフェノール等の渋味や雑味の原因成分は、主に麦類の殻皮に含まれている。本発明の製造方法においては、殻皮のない小麦粉Aを用いることによって、渋味や雑味が少ないビールテイスト飲料を、工業的に量産することができる。
【0022】
本発明の製造方法においては、穀物原料が全て小麦由来物であってもよい。小麦由来物とは、具体的には、小麦粉、小麦麦芽、及び小麦デンプンが挙げられる。小麦由来物としては、小麦粉Aのみを用いてもよく、小麦粉Aと小麦麦芽の組み合わせや小麦粉Aと小麦粉A以外の小麦粉の組み合わせ等のように、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。殻皮のある大麦や大麦麦芽を用いず、小麦由来物のみを穀物原料として用いることにより、渋味や雑味が非常に少ないビールテイスト飲料を製造することができる。
【0023】
本発明の製造方法においては、穀物原料以外にも、発酵原料(澱粉質)として、イモ類や、液糖や砂糖等の糖質原料を用いてもよい。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。
【0024】
本発明の製造方法は、穀物原料として小麦粉Aを用いる以外は、ビールや発泡酒等のビールテイスト飲料を製造するための一般的な方法を採用することができる。具体的には、ビールテイスト飲料は、一般的に、仕込、発酵、貯酒、濾過、充填の工程で製造される。
【0025】
本発明の製造方法において用いられるホップ、穀物原料以外の原料以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、酵素、色素等の原料は、特に限定されるものではなく、通常ビールテイスト飲料を製造する場合に用いられるものを、通常用いられる量で用いることができる。
【0026】
まず、仕込工程として、穀物原料を含む発酵原料から麦汁を調製する。具体的には、まず、小麦粉A、麦芽若しくはその破砕物、その他の発酵原料、及び原料水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。当該マイシェには、その他、スパイスやハーブ類、果物等を添加してもよい。マイシェの調製は、マイシェを35~70℃で20~90分間保持する等、常法により行うことができる。その後、当該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な麦汁を得る。
【0027】
前記マイシェには、必要に応じて、糖化処理のための各種酵素を添加してもよい。当該酵素としては、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ、β-グルカナーゼ等の糖化酵素、プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素、リパーゼ等の脂質分解酵素等が挙げられる。穀物原料に占める小麦粉Aの使用比率が高くなるほど、α-アミラーゼやプロテアーゼ等の酵素剤の重要性が増す。穀物原料として麦芽を使用しない場合には、酵素の添加は必須である。各種酵素剤の添加量は、添加する酵素剤の組み合わせや、穀物原料の組成や量等を考慮して適宜調整することができる。例えば、各種酵素剤のマイシェへの添加量は、それぞれ穀物原料に対して0.1~20質量%とすることができる。
【0028】
本発明の製造方法においては、α-アミラーゼ剤、プロテアーゼ剤、β-グルカナーゼ剤及びリパーゼ剤からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、少なくともβ-グルカナーゼ剤及びリパーゼ剤からなる群より選択される1種以上を用いることがより好ましく、α-アミラーゼ剤とβ-グルカナーゼ剤とリパーゼ剤の組み合わせ、プロテアーゼ剤とβ-グルカナーゼ剤とリパーゼ剤の組み合わせ、α-アミラーゼ剤とプロテアーゼ剤とβ-グルカナーゼ剤の組み合わせ、又はα-アミラーゼ剤とプロテアーゼ剤とβ-グルカナーゼ剤とリパーゼ剤の組み合わせを用いることがさらに好ましく、α-アミラーゼ剤とプロテアーゼ剤とβ-グルカナーゼ剤とリパーゼ剤の組み合わせを用いることが特に好ましい。
【0029】
その他、穀物原料の一部と温水を仕込釜に加えて混合して調製したマイシェを、糖化処理した後、前述の仕込槽で糖化させたマイシェと混合したものを、麦汁濾過槽にて濾過することにより麦汁を得てもよい。
【0030】
得られた麦汁は煮沸される。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。煮沸処理前又は煮沸処理中に、ハーブや香料等を適宜添加することにより、所望の香味を有するビールテイスト飲料を製造することができる。
【0031】
本発明の製造方法においては、煮沸処理前又は煮沸処理中に、ホップを添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気を煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0032】
煮沸した麦汁を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去しておくことが好ましい。その後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。該発酵温度は、通常8~15℃である。
【0033】
次いで発酵工程として、冷却した麦汁に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行う。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0034】
また、発酵工程におけるアルコール発酵を抑制することにより、発酵により生成されるアルコール量がより低減されるため、アルコール濃度が1容量%未満のノンアルコールビールを含めて、アルコール濃度が4容量%以下のビールテイスト飲料をより容易に製造することができる。
【0035】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、目的のビールテイスト飲料を得ることができる。また、酵母による発酵工程以降の工程において、例えばスピリッツと混和することにより、酒税法におけるリキュール類であるビールテイスト飲料を製造することができる。得られたビールテイスト飲料は、通常、充填工程により瓶詰めされて、製品として出荷される。
【0036】
その他、発酵工程以降の工程に代えて、仕込工程により得られた濾過後の透明な麦汁に、直接炭酸ガスを圧入することによって、ノンアルコールのビールテイスト飲料を製造することもできる。得られたビールテイスト飲料は、発酵工程を経たものと同様に、充填工程により瓶詰めされて、製品として出荷される。」
・「【0051】
[試験例1]
4種類の小麦粉を用いて仕込工程を行い、調製されたマイシェの濾過適性を調べた。
まず、5gの小麦粉(薄力粉、強力粉、全粒薄力粉、又は全粒強力粉)及び45gの大麦(穀物原料の小麦粉の使用比率:10%)を200mLの水に混合し、さらに80μgのα-アミラーゼ剤(穀物原料比:0.16%)、25μgのプロテアーゼ剤(穀物原料比:0.05%)、58μgのβ-グルカナーゼ剤A(穀物原料比:0.116%)、及び10μgのリパーゼ剤(穀物原料比:0.02%)を添加した。当該混合物を、50℃で30分間、次いで64℃で50分間、次いで78℃で10分間という温度条件で加温し、マイシェを調製した。得られたマイシェを、ガラスフィルターを敷いたブフナー漏斗を用いて濾過し、濾過開始からの経過時間(以下、濾過時間)(分)ごとの総濾過量(g)を測定した。ガラスフィルターは、アドバンテック社のGA-55(直径90mm)を用いた。ブフナー漏斗は、外径108mm、全長158mm、足径22mm、容量300mLのものを用いた。測定結果を表6に示す。」
・「【0099】
[試験例15]
最終製品たるビールテイスト飲料の味に対する、穀物原料の組成の影響を調べた。
まず、200L水に、40kgの穀物原料を添加した。酵素剤として、64~800gのα-アミラーゼ剤(穀物原料比:0.16~0.2%)、28~200gのプロテアーゼ剤(穀物原料比:0.07~0.5%)、80~120gのβ-グルカナーゼ剤A(穀物原料比:0.2~0.3%)、及び12~32gのリパーゼ剤(穀物原料比:0.03~0.08%)を穀物原料の使用比率に応じて適宜調整して添加した。穀物原料は、使用比率が表22に示す値になるように配合したものをそれぞれ用いた。
当該混合物を、試験例1と同じ温度条件で加温し、マイシェを調製した。得られたマイシェに60gのホップを加えて、100℃で60分間煮沸した。煮沸完了後(加熱終了後)濾過を行い、透明な麦汁(濾液)を得た。濾過はいずれも問題なく実施できた。得られた麦汁に、液汁1mLあたり25×106個の泥状酵母を接種し、10℃で168時間発酵を行った。得られた発酵液を、-1℃で7日間熟成(後発酵)させた。得られた発酵液を、キャンドルフィルターを用いて珪藻土濾過を行い、酵母及びタンパク等を除去し、ビールテイスト飲料を得た。
【0100】
試験例10と同様にして、得られたビールテイスト飲料のホルダチンA含有量及びポリフェノール含有量を測定した。また、これらのビールテイスト飲料について、10名の専門パネルにより、渋味及び雑味についての官能検査を行った。評価は、1~5の5段階(渋味・雑味をほとんど感じない場合を1とし、非常に強く感じる場合を5とした。)で行った。測定結果及び評価結果を表22に示す。
【0101】
【表22】
[図:0001392058000001.jpg]
【0102】
この結果、大麦の使用比率が高くなるほど、ホルダチンA含有量及びポリフェノール含有量が高くなり、渋味及び雑味が強くなることが確認された。特に、小麦由来物(小麦粉及び小麦麦芽)の使用比率が75%以上の場合には、ホルダチンA含有量が4ppm以下、かつポリフェノール含有量が100ppm以下となり、渋味、雑味評点が低かった。」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、上記アから、試験例15に記載されている大麦麦芽を25%又は50%含む穀物原料を使用して得られた発酵麦芽飲料の製造方法として、以下の発明が記載されているといえる。
<甲1発明A>
「200L水に、大麦麦芽50%と小麦粉50%からなる40kgの穀物原料を添加し、酵素剤として、64~800gのα-アミラーゼ剤(穀物原料比:0.16~0.2%)、28~200gのプロテアーゼ剤(穀物原料比:0.07~0.5%)、80~120gのβ-グルカナーゼ剤A(穀物原料比:0.2~0.3%)、及び12~32gのリパーゼ剤(穀物原料比:0.03~0.08%)を穀物原料の使用比率に応じて適宜調整して添加し、当該混合物を、50℃で30分間、次いで64℃で50分間、次いで78℃で10分間という温度条件で加温し、マイシェを調製し、得られたマイシェに60gのホップを加えて、100℃で60分間煮沸し、煮沸完了後(加熱終了後)濾過を行い、透明な麦汁(濾液)を得、得られた麦汁に、液汁1mLあたり25×106個の泥状酵母を接種し、10℃で168時間発酵を行い得られた発酵液を、-1℃で7日間熟成(後発酵)させ、得られた発酵液を、キャンドルフィルターを用いて珪藻土濾過を行い、酵母及びタンパク等を除去して得られたビールテイスト飲料であって、そのホンダチンAの含有量が5.8ppmであり、ポリフェノール含有量が120ppmである、ビールテイスト飲料の製造方法。」
<甲1発明B>
「200L水に、大麦麦芽25%と小麦粉75%からなる40kgの穀物原料を添加し、酵素剤として、64~800gのα-アミラーゼ剤(穀物原料比:0.16~0.2%)、28~200gのプロテアーゼ剤(穀物原料比:0.07~0.5%)、80~120gのβ-グルカナーゼ剤A(穀物原料比:0.2~0.3%)、及び12~32gのリパーゼ剤(穀物原料比:0.03~0.08%)を穀物原料の使用比率に応じて適宜調整して添加し、当該混合物を、50℃で30分間、次いで64℃で50分間、次いで78℃で10分間という温度条件で加温し、マイシェを調製し、得られたマイシェに60gのホップを加えて、100℃で60分間煮沸し、煮沸完了後(加熱終了後)濾過を行い、透明な麦汁(濾液)を得、得られた麦汁に、液汁1mLあたり25×106個の泥状酵母を接種し、10℃で168時間発酵を行い得られた発酵液を、-1℃で7日間熟成(後発酵)させ、得られた発酵液を、キャンドルフィルターを用いて珪藻土濾過を行い、酵母及びタンパク等を除去して得られたビールテイスト飲料であって、そのホンダチンAの含有量が3.2ppmであり、ポリフェノール含有量が95ppmである、ビールテイスト飲料の製造方法。」
(2)甲5に記載された事項
甲5には、「麦芽発酵飲料の製造法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 麦汁に酵母を添加して発酵させる発酵麦芽飲料の製造において、発酵タンクへ酵母を添加した直後の発酵時に、一定時間通気を行うことを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ビールや発泡酒等の発酵麦芽飲料の製造方法、詳しくは、ビールや発泡酒等の発酵麦芽飲料の製造に際して、発酵タンクで酵母を添加した後の発酵に、一定時間の通気を用いることにより、発酵の促進を図ると共に、香味の優れた発酵麦芽飲料を製造する方法に関する。」
・「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、ビールや発泡酒等の発酵麦芽飲料の製造に際して、香味の優れた発酵麦芽飲料を製造すると共に、発酵を促進して比較的短い期間で発酵麦芽飲料の製造が可能な方法を提供すること、特に発酵麦芽飲料の製造における発酵工程の短縮を図ると共に、発酵麦芽飲料の香味のバランスがとれた香味豊かな発酵麦芽飲料を製造する方法を提供することにある。特に、通常のビール(アルコール度5%前後)に比べ、高いアルコール度数を有するいわゆる「高アルコールビール」のような高アルコール発酵麦芽飲料の製造に際しては、アルコールによって発酵が抑制されることから、発酵を促進し、かつ香味バランスのとれた発酵麦芽飲料を製造することが特に重要となる。本発明の課題は、このような高アルコール発酵麦芽飲料の製造にも好適に適用できる発酵方法を提供することにもある。」
・「【0011】
【実施例】以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例
高アルコールビールの発酵条件を用いて、ビールの発酵を行った。麦汁(オリジナルエキス濃度(O.E.)22°P)を1リットルの発酵容器に入れ、圧搾酵母9.5gを添加し、12℃で発酵を行った。酵母を添加後、0.2~2vvmの空気をそれぞれ所定時間通気し、以下の調査を行った。」
・「【0016】5.通気時間とイソアミルアルコール濃度
上記実施例により、通気時間と発酵液中のイソアミルアルコール濃度の関係について調査した。アミルアルコールは、8時間以上の通気で最大値に達し、その後一定となった(第5図)。」
・「【0018】上記の通気時間と発酵液の諸分析の結果から、酵母を添加した直後の発酵液に、8~14時間の通気を行うことにより、発酵性が改善され、発酵の促進が図られると共に、アルデヒド等のオフフレーバーも低減され、香味のバランスのとれた発酵麦芽飲料が製造できることが判明した。」
・「【図5】本発明の実施例における、通気時間と発酵液中のイソアミルアルコールの関係を示す図である。」
・「
[図:0001392058000002.jpg]
」
(3)本件発明4についての対比・判断
ア 甲1発明Aとの対比・判断
本件発明4と甲1発明Aを対比する。
甲1発明Aの「ビールテイスト飲料」は、大麦麦芽50%を原料として用い発酵して得られたものであるから、本件発明4の「発酵麦芽飲料」に相当する。
甲1発明Aのビールテイスト飲料には「ホンダチンA」が5.8ppm含有されているから、本件発明4の「ホンダチンの濃度Xが0.5ppm以上を満たすように調整する」を満たしている。
そうすると、本件発明4と甲1発明Aとは
「発酵麦芽飲料において、ホルダチンの濃度Xが0.5ppm以上を満たすように調整する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
「方法」に関し、本件発明4では「発酵麦芽飲料の渋味を改善するため」の方法であって、「飲料中のホルダチン及びイソアミルアルコールの含有量を、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1) 式(1): Y≧12.5X+50を満たし」と特定するのに対し、甲1発明Aではそのような特定がない点
以下、相違点1-1について検討する。
まず、新規性から検討する。
甲1発明Aにおいて「イソアミルアルコール」は記載がなく、甲1には「イソアミルアルコール」についての言及もない。
「イソアミルアルコール」の含有量について、仮に、甲6から種々のラガービールにはイソアミルアルコールが25~123ppm含まれ得るとしても、甲1発明Aにおいて式(1)を満たすには、イソアミルアルコールは、90ppm以上でなければならない。してみると、甲1発明Aが式(1)を満たしているとはいえない。
また、甲1発明Aの渋・雑味評点が「3.6」であるが、当該結果は、段落【0102】にあるように、「大麦の使用比率が高くなるほど、ホルダチンA含有量が高くなり、渋味・雑味が高くなることが確認された」ものにすぎず、ホンダチンとイソアミルアルコールの濃度が式(1)を満たすことで発酵麦芽飲料の渋味を改善することを意味するものではない。
そうすると、相違点1-1は、実質上の相違点であるから、本件発明4は、甲1発明Aでない。
次に、進歩性について検討する。
甲5には、香味の優れた発酵麦芽飲料を製造する方法に関し、酵母を添加した直後の発酵液に、8~14時間の通気を行うことにより、発酵が促進され、オフフレーバーも低減され、香味のバランスのとれた発酵麦芽飲料が製造できることが判明したことが記載され、図5から、8~14時間の通気を行うと、イソアミルアルコールは170~180ppmとなっている事例が記載されているが、ホンダチンとイソアミルアルコールとの関係が記載されているものではないし、イソアミルアルコールを利用することの効果に関する記載は一切ない。
そして、特許異議申立人が提出したいずれの証拠にも、式(1)を満たすことで発酵麦芽飲料の渋味を改善することに関するものはなく、当業者において、当該事項が技術常識であるともいえない。
そうすると、甲1発明Aにおいて、相違点1-1に係る発明特定事項とすることは容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明4は、甲1発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 甲1発明Bとの対比・判断
本件発明4と甲1発明Bとを対比すると、上記アと同様の相当関係が成り立ち、対比すれば、上記アと同様の一致点及び相違点があり、その判断も上記アのとおりである。
よって、本件発明4は、甲1発明Bでないし、甲1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(4)本件発明5についての対比・判断
本件発明5は、請求項4を直接引用するものであって、請求項4に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明4と同様に、甲1発明A又は甲1発明Bでないし、甲1発明A又は甲1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。
(5)本件発明1についての対比・判断
本件発明1と甲1発明A又はBとを対比すると、上記(3)アと同様の相当関係が成り立つ。
また、甲1発明A又はBの「200L水に、大麦麦芽50%と小麦粉50%からなる40kgの穀物原料を添加し、酵素剤として、64~800gのα-アミラーゼ剤(穀物原料比:0.16~0.2%)、28~200gのプロテアーゼ剤(穀物原料比:0.07~0.5%)、80~120gのβ-グルカナーゼ剤A(穀物原料比:0.2~0.3%)、及び12~32gのリパーゼ剤(穀物原料比:0.03~0.08%)を穀物原料の使用比率に応じて適宜調整して添加し、当該混合物を、50℃で30分間、次いで64℃で50分間、次いで78℃で10分間という温度条件で加温し、マイシェを調製し得られたマイシェに60gのホップを加えて、100℃で60分間煮沸し、煮沸完了後(加熱終了後)濾過を行い、透明な麦汁(濾液)を得」る工程部分は、本件発明1の「麦芽を含む発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程」に相当する。
さらに、甲1発明A又はBの「得られた麦汁に、液汁1mLあたり25×106個の泥状酵母を接種し、10℃で168時間発酵を行」う工程部分が、本件発明1の「得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明A又はBは
「麦芽を含む発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調製する仕込工程と、
得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
ホルダチンの濃度Xが0.5ppm以上である発酵麦芽飲料を製造する、発酵麦芽飲料の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-2>
本件発明1は、「イソアミルアルコールを原料として用い、ホルダチンとイソアミルアルコールを含有し、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1) 式(1): Y≧12.5X+50を満たし」と特定するのに対し、甲1発明A又はBは、そのような特定がない点
以下、相違点1-2について検討する。
甲1発明A又はBは、イソアミルアルコールを原料として用いておらず、甲1には、イソアミルアルコールについての言及もない。
そして、特許異議申立人が提出した他の証拠にも、式(1)を満たすことで発酵麦芽飲料の渋味を改善することに関するものはなく、また、式(1)を満たすことにより発酵麦芽飲料の渋味が改善されるということが、当業者において技術常識であるともいえない。
そうすると、甲1発明A又はBにおいて、イソアミルアルコールをさらに添加する動機はなく、相違点1-2に係る発明特定事項を満たすものとすることは当業者においても容易になし得たこととはいえない。
そして、本件発明1は、式(1)を満たすことにより、渋味が低減されるとの格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明A又はBに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)本件発明2及び3についての対比・判断
本件発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明A又は甲1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることできたものでもない。
(7)まとめ
よって、申立理由1及び申立理由2-1には理由がない。
2 申立理由2-2及び申立理由2-3(甲2又は甲3に基づく進歩性)について
(1)甲2又は甲3に記載された発明
甲2の請求項1及び段落【0033】、及び、甲3の請求項1及び段落【0033】の記載から、甲2又は甲3には、以下の発明が記載されていると認める。
<甲2発明>
「麦芽比率が50質量%未満であり、ホンダチン類の含有量が8~10ppmであり、リナロール含有量が0.5~3ppbである、麦芽を含む発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調整し、得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵を行って得られる発酵麦芽飲料の製造方法。」
<甲3発明>
「麦芽比率が25質量%未満であり、ホンダチン類の含有量が7~9ppmであり、リナロール含有量が4~8ppbである、麦芽を含む発酵原料と水とを含む混合物を糖化処理し、得られた糖化液を煮沸処理して発酵原料液を調整し、得られた発酵原料液に酵母を接種して発酵を行って得られる発酵麦芽飲料の製造方法。」
(2)本件発明1ないし3についての対比・判断
本件発明1と甲2発明又は甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点>
本件発明1は、「イソアミルアルコールを原料として用い、ホルダチンとイソアミルアルコールを含有し、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1) 式(1): Y≧12.5X+50を満たし」と特定するのに対し、甲2発明又は甲3発明は、そのような特定がない点
上記相違点について検討するに、甲2発明又は甲3発明は、イソアミルアルコールを原料として用いておらず、甲2又は甲3には、イソアミルアルコールについての言及もない。
さらに、特許異議申立人が提出した他の証拠を加味しても、上記1(5)と同様に判断される。
よって、本件発明1は、甲2発明又甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明2及び3も同様である。
(3)まとめ
よって、申立理由2-2及び申立理由2-3には理由がない。
3 申立理由2-4(甲5に基づく進歩性)について
(1)甲5に記載された発明
甲5には、上記1(2)の記載から、以下の発明が記載されていると認める。
<甲5発明>
「高アルコールビールの発酵条件を用いて、麦汁(オリジナルエキス濃度(O.E.)22°P)を1リットルの発酵容器に入れ、圧搾酵母9.5gを添加し、12℃で発酵を行い、酵母を添加後、0.2~2vvmの空気を8~15時間通気して得られたビールであり、そのイソアミルアルコールの濃度が160ppm以上であるビールの製造方法。」
(2)本件発明1ないし3についての対比・判断
本件発明1と甲5発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点5-1>
本件発明1は、「イソアミルアルコールを原料として用い、ホルダチンとイソアミルアルコールを含有し、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1) 式(1): Y≧12.5X+50を満たし」と特定するのに対し、甲5発明は、そのような特定がない点
上記相違点5-1について検討するに、甲5発明は、イソアミルアルコールを原料として用いておらず、甲5には、イソアミルアルコールについての言及もない。
さらに、特許異議申立人が提出した他の証拠を加味しても、上記1(5)と同様に判断される。
よって、本件発明1は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明2及び3についても同様である。
(4)まとめ
よって、申立理由2-4には理由がない。
3 申立理由3(甲9に基づく拡大先願)について
(1)甲9の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された発明
甲9の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「先願明細書等」という。)には、実施例A4として、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認める。
<先願発明>
「粉砕した麦芽5kgを、52℃で温水20Lを保持した煮沸釜に投入し、よく撹拌しながら30分保持し、続いて65℃で10分、100℃で10分保持し、また、粉砕した麦芽7.5kgを使用し、52℃で温水30Lを保持した仕込槽に投入したものを65分保持し、煮沸釜のマイシェを仕込槽に合併し、全体のマイシェの温度を70℃、76℃と段階的に保持したものを濾過して麦芽粕を除去し麦汁を得た、液糖(糖化スターチ、加藤化学株式会社製)11.8kgを添加し麦汁を煮沸してから冷却した後、ビール酵母を添加して約1週間発酵させ、酵母を除去し、瓶詰めした後65℃10分間加熱して得たサンプル飲料に、マンネンロウ抽出物を200μL/100mLの濃度となるように添加し、さらに香気成分としてイソアミルアルコールを100(質量ppm)となるように添加して製造したビールテイスト飲料の製造方法。」
(2)本件発明4及び5について
本件発明4と先願発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で一応相違する。
<相違点9-1>
「方法」に関し、本件発明4では「発酵麦芽飲料の渋味を改善するため」の方法であって、「飲料中のホルダチン及びイソアミルアルコールの含有量を、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1) 式(1): Y≧12.5X+50を満たし」と特定するのに対し、先願発明ではそのような特定がない点
以下、相違点9-1について検討する。
先願発明は麦芽を利用して発酵させて得られていることから、当業者の技術常識から、ある程度のホンダチンを含有するものとはいえるが、その濃度は、甲6の種々のラガービールにはホンダチンが25~123mg/L(ppm)含まれるとの記載を参酌しても、必ず式(1)を満たすものということはできず、先願発明のホンダチンの濃度は不明であるから、先願発明の製造方法において、式(1)を満足しているということはできない。
また、先願発明は、「新しい原材料を見出し、当該原材料に由来する不快な香りがマスキングされた飲料」(当初明細書等の段落【0007】)を提供することを目的となされた先願の特許請求の範囲に記載された発明の実施例として記載されているものであり、新しい原料である「マンネンロウ」の不快な香りを「イソアミルアルコール」でマスキングするものであるから、「発酵麦芽飲料の渋味を改善するため」の方法でない。
そうすると、相違点9-1は実質的な相違点である。
また、当該相違点9-1が、課題解決のための微差といえる根拠もない。
よって、本件発明4は、先願発明でない。
本件発明5についても同様である。
(3)本件発明1ないし3について
本件発明1と先願発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点9-2>
本件発明1は、「ホルダチンとイソアミルアルコールを含有し、ホルダチンの濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1) 式(1): Y≧12.5X+50を満たし」と特定するのに対し、先願発明は、そのような特定がない点
上記相違点9-2について検討する。
先願発明は、ホンダチンについては記載がなく、先願明細書等にもホンダチンについての記載はない。
確かに、先願発明は麦芽を利用して発酵させて得ていることから、当業者の技術常識から、ある程度のホンダチンを含有するものとはいえるが、その濃度は、甲6の記載を参酌しても、必ず式(1)を満たすものということはできず、先願発明のホンダチンの濃度は不明であるから、先願発明の製造方法において、式(1)を満足しているということはできない。
そして、特許異議申立人が提出したその他の証拠にも、式(1)を満たすことで発酵麦芽飲料の渋味を改善することに関するものはなく、当業者において、当該事項が技術常識であるともいえない。
そうすると、相違点9-2は実質的な相違点である。
また、当該相違点9-2が、課題解決のための微差といえる根拠もない。
よって、本件発明1は、先願発明でない。
本件発明2及び3についても同様である。
(4)まとめ
よって、申立理由3には理由がない。
4 申立理由4(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0005】によると、本件発明1ないし5が解決しようとする課題は、「主にホルダチン類に由来する渋味の抑えられた発酵麦芽飲料及びその製造方法、並びに発酵麦芽飲料において、ホルダチン類に由来する渋味を抑制し香味を改善する方法を提供すること」である。
他方、本件特許の発明の詳細な説明の【0006】、【0012】ないし【0014】には、「発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、発酵麦芽飲料において、飲料中のイソアミルアルコール含有量をホルダチン類含有量に対して特定の量以上となるように調整することによって、ホルダチン類に由来する渋味を抑えられることを見出し、本発明を完成させた。」、「本発明に係る発酵麦芽飲料は、ホルダチン類とイソアミルアルコールを含有し、ホルダチン類の濃度Xとイソアミルアルコールの濃度Yが下記式(1)を満たすことを特徴とする。ホルダチン類とイソアミルアルコールの含有量を、式(1)を満たすように調整することによって、イソアミルアルコールが、ホルダチン類に由来する渋味をマスキングするため、発酵麦芽飲料の渋味を改善することができる。」、「式(1): Y≧12.5X+50」、「麦芽、特に大麦麦芽にはホルダチン類が比較的多く含まれているため、麦芽使用量の多い発酵麦芽飲料ではホルダチン類含有量が多くなり、渋味が強くなる傾向にある。しかし、発酵麦芽飲料に式(1)を満たすようにイソアミルアルコールを含有させることにより、麦芽使用量を必要以上に低下させることなく、渋味が抑えられ、雑味の少ない発酵麦芽飲料を製造することができる。このため、本発明により、ビールらしい飲み応えを有しつつ、渋味が少なく嗜好性の高い発酵麦芽飲料を製造することができる。」との記載がある。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0043】~【0058】において、ホンダチンが配合された発酵麦芽飲料において、ホンダチンとイソアミルアルコールが式(1)を満たしているものは、渋みが抑制されているのに対し、式(1)を満たさないものは、渋みが改善されないことが確認されている。
そうすると、当業者は、ホンダチンとイソアミルアルコールを含有する発酵麦芽飲料において、それぞれの含有量が式(1)を満たすものは発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明1及び4は、前記条件を満足しているものである。
したがって、本件発明1及び4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件発明2及び3並びに5についても、本件発明1又は4と同様である。
特許異議申立人は、「ホンダチン及びイソアミルアルコールを添加して調整する方法以外で、クレームのパラメータを満足させる方法は記載されていない」と主張するが、上記サポート要件の判断を左右するものではない。
よって、申立理由4は理由がない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700457