特許異議申立
2023-700587
包装体
- 審判番号
- 2023-700587
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-558246
- 登録番号
- 7186181
- 請求日
- 2023年06月05日
- 審決日
- 2024年03月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】藤森工業株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者代理人】貞廣 知行
- 【異議申立人】松本 征二
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 正章
- 審判官 安井 寿儀
- 審判官 後藤 泰輔
- 分類
- P1651.121-YAA(A61J) / P1651.537-YAA(A61J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7186181号発明「包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7186181号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
特許第7186181号の請求項1~3、5、8~11に係る特許を維持する。
特許第7186181号の請求項4、6~7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7186181号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月 5日(優先権主張 平成29年12月 8日)を国際出願日とする出願であって、令和 4年11月30日にその特許権の設定登録がされ、令和 4年12月 8日に特許掲載公報が発行された。その後、令和 5年 6月 5日に特許異議申立人 松本 征二(以下「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
特許異議の申立て以降の手続きの経緯は、以下のとおりである。
令和 5年 6月 5日提出 特許異議申立書
同年 9月20日付け 取消理由通知書
同年11月21日提出 意見書(特許権者)・訂正請求書
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和 5年11月21日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記包装体の前記袋本体は、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料とし、前記シーラント層を内側とし対向する前記シーラント層同士を貼り合わせることで袋状をなすものであり、」とあるのを、
「前記包装体の前記袋本体は、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料とし、
前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレンであり、前記水蒸気バリア層の厚みが5μm以上50μm以下であり、前記シーラント層が環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含み、前記シーラント層の厚みが20μm以上80μm以下であり、
前記シーラント層を内側とし対向する前記シーラント層同士を貼り合わせることで袋状をなすものであり、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2、3、5、8~11も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「前記包装体の水蒸気透過率は0.02%以上、0.19%以下である、」とあるのを、
「前記包装体の、第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求められた水蒸気透過率は0.02%以上、0.19%以下である、」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項5、8~11も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4、6、7を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から4のいずれか1項に記載の包装体。」とあるのを、
「請求項1から3のいずれか1項に記載の包装体。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれか1項に記載の包装体。」とあるのを、
「請求項1から3及び5のいずれか1項に記載の包装体。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1から8のいずれか1項に記載の包装体。」とあるのを、
「請求項1から3、5及び8のいずれか1項に記載の包装体。」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正は、一群の請求項である請求項〔1~11〕について請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載において、形成材料に関し、「前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレンであり、前記水蒸気バリア層の厚みが5μm以上50μm以下であり、前記シーラント層が環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含み、前記シーラント層の厚みが20μm以上80μm以下であり、」と限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1のうち、「前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレン」であることは、本件特許の特許請求の範囲の請求項6及び本件明細書の段落【0035】の「フッ素系樹脂としては、・・・中でも水蒸気バリア性が高く、柔軟性に優れる、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)が好ましい。」との記載に基づくものである。
また、訂正事項1のうち、「前記水蒸気バリア層の厚みが5μm以上50μm以下」であることは、本件特許の特許請求の範囲の請求項4及び本件明細書の段落【0039】の「フッ素系樹脂を形成材料とする層の厚みは、5μm以上50μm以下が好ましく、」との記載に基づくものである。
さらに、訂正事項1のうち、「前記シーラント層が環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含み、」であることは、本件特許の特許請求の範囲の請求項7の記載に基づくものである。
さらにまた、訂正事項1のうち、「前記シーラント層の厚みが20μm以上80μm以下」であることは、本件明細書の段落【0054】の「シーラント層43の厚みは、20μm以上が好ましく、・・・80μm以下が好ましく、」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3の記載において、水蒸気透過率の測定方法が明確でなかったことに関し、「前記包装体の、第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求められた」水蒸気透過率と明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アのとおりであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2の「前記包装体の、第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求められた水蒸気透過率」は、本件明細書の段落【0077】の「包装体の水蒸気透過率は、第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求めた。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4、6、7を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4、6、7を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(4)訂正事項4~6について
ア 訂正の目的
訂正事項4~6は、訂正前の請求項5、8、9が、請求項4、6、7の記載を引用する記載であったものを、訂正事項3において、請求項4、6、7が削除されたため、訂正後の請求項5、8、9について請求項4、6、7を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4~6は、訂正後の請求項5、8、9について、請求項4、6、7を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4~6は、訂正後の請求項5、8、9について、請求項4、6、7を引用しないものとするのであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
4 独立特許要件について
請求項1~11について特許異議の申立てがされているので、訂正後の請求項1~3、5、8~11に係る訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明11」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
袋本体と、前記袋本体に接合された少なくとも一つの口部部材と、前記袋本体に収容された内容物とを有し、前記内容物が液体のみである包装体であって、
前記包装体の前記袋本体は、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料とし、
前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレンであり、前記水蒸気バリア層の厚みが5μm以上50μm以下であり、前記シーラント層が環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含み、前記シーラント層の厚みが20μm以上80μm以下であり、
前記シーラント層を内側とし対向する前記シーラント層同士を貼り合わせることで袋状をなすものであり、
前記口部部材は、対向する前記シーラント層同士に挟持されて接合されてなり、
前記袋本体内に収容された前記内容物の体積∨は0.1から20(cm3)であり、
前記袋本体が前記袋本体内に収容された前記内容物と接液する面積S(cm2)と、前記体積∨(cm3)からなる関係性が、下記(式I)を満たすことを特徴とする包装体。
(式I) 0.05 ≦ ∨/S ≦ 0.25
【請求項2】
前記包装体に収容された前記内容物は、前記包装体の前記口部部材を通じて排出され、
前記内容物の排出に応じて前記袋本体の容積が減少することを特徴とする、請求項1に記載の包装体。
【請求項3】
前記包装体の、第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求められた水蒸気透過率は0.02%以上、0.19%以下である、請求項1又は2に記載の包装体。
【請求項4】
(削 除)
【請求項5】
前記積層体の総厚みが、15μm以上200μm以下の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項6】
(削 除)
【請求項7】
(削 除)
【請求項8】
前記口部部材が、形成材料として環状オレフィン系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1から3及び5のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項9】
前記内容物が医薬品であることを特徴とする、請求項1から3、5及び8のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項10】
前記医薬品が、注射剤であることを特徴とする、請求項9に記載の包装体。
【請求項11】
前記注射剤が、ホルモン剤、医療用麻薬、局所麻酔薬、鎮痛薬、抗がん剤、抗生物質から選択される1種以上を成分として含んでなることを特徴とする、請求項10に記載の包装体。」
第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1~11に係る特許に対して、当審が令和 5年 9月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
1 理由1について
本件特許の請求項1、2、4~11に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の事項(引用文献2~6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
<引用文献一覧>
1.特開2014-57723号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)
2.特開昭57-59553号公報(同甲第2号証)
3.国際公開第03/068135号(同甲第3号証)
4.特表2004-501799号公報(同甲第4号証)
5.米国特許出願公開第2004/0001655号明細書(同甲第5号証)
6.国際公開第99/39679号(同甲第6号証)
2 理由2について
本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0015に記載されるように、ポンプ機器のリザーバが複雑な構造や材質を有することなく、小型・軽量で携帯可能であり、かつ内容物の品質変化が生じにくく、投与後の内容物の残留が僅少な包装体を提供することであると把握できる。
そして、請求項1には、「内容物が液体のみである包装体」であって、「前記包装体の袋本体は、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料とし」、「内容物の体積Vは0.1から20(cm3)であり」、「(式I)を満たす」、「(式I) 0.05 ≦ V/S ≦ 0.25」であることが記載されているが、当該記載を含む請求項1の記載は、以下のとおり上記課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている。
(1)発明の詳細な説明において、表3に示される試験例6~8は、請求項1の上記特定事項を含むものであるが、試験結果が「不適」と判定されている。また、試験例6~8が上記課題を解決できることが発明の詳細な説明には記載も示唆もされていない。
(2)発明の詳細な説明には、実施例として、種々の積層体(試験例)を用いて製造された包装体に対し、蒸留水を圧力計が25kPa(±2kPa)を示すまで充填したものに対し、排出液量及び残留液量並びに水蒸気透過率を求めることで「適」又は「不適」を判定することが記載されている。
ここで、水蒸気バリア層及びシーラント層の材料や厚さ、液体の充填圧力が異なれば、充填される液量(体積)Vや接液面積Sが異なることは自明であり、また、水蒸気透過率や液体の排出しやすさにも影響があることは自明である。実施例で記載された以外の水蒸気バリア層及びシーラント層の材料や厚さ及び液体の充填圧力を用いた請求項1の全ての「包装体」が、上記課題を解決できることが技術常識であるともいえない。
(3)以上のとおりであるので、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。また、請求項1を引用する請求項2~11に係る発明についても同様である。
3 理由3について
(1)請求項3には、「水蒸気透過率は、0.02%以上、0.19%以下」と記載されている。
しかしながら、「水蒸気透過率」について、発明の詳細な説明(段落0077)には、第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求めたことが記載されているが、請求項3は、上記第十七改正日本薬局方で定められた方法で算出される水蒸気透過率に特定されていないから、水蒸気透過率を一義的に定める方法が明確でなく、「水蒸気透過率」を明確に把握することができない。
(2)また、請求項3を引用する請求項4~11に係る発明についても同様である。
第5 当審の判断
1 理由1について
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
(ア)段落【0021】~【0022】、【0028】及び【0029】の記載並びに図1及び3の図示内容から、引用文献1には、バッグ2と、前記バッグ2に溶着された1つ以上のポート3と、前記バッグ2に収容された内容液とを有し、前記内容液が医療用の液体であるポート付容器1が記載されている。
(イ)段落【0028】~【0030】及び【0042】~【0044】の記載並びに図1、3及び4の図示内容から、バッグ2は、シーラント13より外側にその他の(樹脂)層14が積層され、二枚のシート12,12のシーラント13,13同士を重ねて、周囲を溶着して外周シール15を形成し、袋状のバッグ2を形成するものである。
(ウ)段落【0029】~【0030】には、シーラント13がCOP樹脂からなることが記載されており、段落【0026】には、「環状ポリオレフィン系樹脂(COP樹脂)」との記載があることから、シーラント13は環状ポリオレフィン系樹脂からなる。また、段落【0030】には、シーラント13の厚みは、15~150μmであることが記載されている。
(エ)図4から、ポート3は、対向するシーラント13,13同士に挟持されて溶着されることが看て取れる。
イ 引用発明
上記アの事項を踏まえると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「バッグ2と、前記バッグ2に溶着された1つ以上のポート3と、前記バッグ2に収容された内容液とを有し、前記内容液が医療用の液体であるポート付容器1であって、
前記ポート付容器1の前記バッグ2は、シーラント13より外側にその他の(樹脂)層14が積層され、前記シーラント13は環状ポリオレフィン系樹脂からなり、前記シーラント13の厚みは、15~150μmであり、
二枚のシート12,12のシーラント13,13同士を重ねて、周囲を溶着して外周シール15を形成し、袋状のバッグ2を形成するものであり、
前記ポート3は、対向するシーラント13,13同士に挟持されて溶着されるポート付容器1。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「バッグ2」は本件発明1の「袋本体」に相当し、以下同様に、「溶着」は「接合」に、「1つ以上のポート3」は「少なくとも一つの口部部材」に、「内容液」は「内容物」に、「ポート付容器1」は「包装体」に、それぞれ相当する。
(イ)引用発明の「前記内容液が医療用の液体である」ことと、本件発明1の「前記内容物が液体のみである」こととは、「前記内容物が液体である」ことの限りで一致する。
(ウ)引用発明の「シーラント13」は本件発明1の「シーラント層」に相当し、このことから、引用発明の「前記バッグ2は、シーラント13より外側にその他の(樹脂)層14が積層され」ることと、本件発明1の「前記袋本体は、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料と」することとは、「前記袋本体は、樹脂層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料と」する限りで一致する。
(エ)引用発明の「前記シーラント13は環状ポリオレフィン系樹脂からな」ることは、本件発明1の「前記シーラント層が環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含」むことに相当する。
(オ)引用発明の「二枚のシート12,12のシーラント13,13同士を重ねて、周囲を溶着して外周シール15を形成する」ことは、本件発明1の「前記シーラント層を内側とし対向する前記シーラント層同士を貼り合わせることで袋状をなす」ことに相当する。
(カ)引用発明の「前記ポート3は、対向するシーラント13,13同士に挟持されて溶着され」ることは、本件発明1の「前記口部部材は、対向する前記シーラント層同士に挟持されて接合されてな」ることに相当する。
(キ)してみると、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「袋本体と、前記袋本体に接合された少なくとも一つの口部部材と、前記袋本体に収容された内容物とを有し、前記内容物が液体である包装体であって、
前記包装体の前記袋本体は、樹脂層と、シーラント層とを有する積層体を形成材料とし、
前記シーラント層が環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含み、
前記シーラント層を内側とし対向する前記シーラント層同士を貼り合わせることで袋状をなすものであり、
前記口部部材は、対向する前記シーラント層同士に挟持されて接合されてなる
包装体。」
<相違点1>
内容物が液体であることに関し、本件発明1は、液体「のみ」であるのに対し、引用発明は、液体であるものの、液体のみかどうか明らかでない点。
<相違点2>
袋本体に関し、本件発明1は、「少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気バリア層」と、シーラント層とを有する積層体であり、「前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレンであり、前記水蒸気バリア層の厚みが5μm以上50μm以下であり」、シーラント層の厚みが「20μm以上80μm以下であ」るのに対し、引用発明は、その他の(樹脂)層14とシーラント13とを積層したものであり、シーラント13の厚みは、15~150μmである点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記袋本体内に収容された前記内容物の体積∨は0.1から20(cm3)であり、前記袋本体が前記袋本体内に収容された前記内容物と接液する面積S(cm2)と、前記体積∨(cm3)からなる関係性が、下記(式I)を満たす」ものであって、「(式I) 0.05 ≦ ∨/S ≦ 0.25」であるのに対し、引用発明は、内容液の体積等が明らかでなく、(式I)を満たすかどうか明らかでない点。
イ 判断
上記各相違点について以下検討する。
<相違点1について>
医薬品等の液体を収容する包装体において、包装体に液体のみを収容することは従来周知である(必要であれば、引用文献2の第2ページ左下欄第2~3行、引用文献3の第5ページ第12~14行を参照。)ことを踏まえれば、引用発明において、バッグ2に液体のみを収容することは当業者であれば容易になし得たことである。
<相違点2について>
引用文献1の段落【0026】には、バッグ2のシート12に、水蒸気の透過を防止(水蒸気バリア)する機能性層を積層すること、及び、該機能性層をフッ素系樹脂で構成することが記載されていること、また、包装体の分野において、水蒸気バリア層とシーラント層とを有する積層体から形成したシートを用いて包装体を構成することが従来周知である(例えば、引用文献4の段落【0025】、引用文献5の段落[0019]~[0022]を参照。)ことに鑑みれば、引用発明において、その他の(樹脂)層14に変えて又は加えて、少なくともフッ素系樹脂からなる水蒸気の透過を防止(水蒸気バリア)する機能性層を設けることは、当業者であれば容易になし得ることである。その際、フッ素系樹脂としてどのような材料を用いるか、並びに、厚みをどの程度にするかは、当業者が適宜決定し得る設計的事項にすぎず、フッ素系樹脂としてポリクロロ三フッ化エチレンが周知であること(必要であれば、引用文献4の段落【0003】、引用文献5の段落[0022]を参照。)、及び、水蒸気バリア層の厚さが本件発明1で特定される範囲内に含まれるものが周知であること(例えば、引用文献4の段落【0025】を参照。)に鑑みれば、水蒸気の透過を防止(水蒸気バリア)する機能性層の材料が、ポリクロロ三フッ化エチレンであり、厚みが5μm50μm以下とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。加えて、シーラント13の厚みを、当該シーラント13の厚みの範囲内である20μm以上80μmとすることも当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
<相違点3について>
内容物の体積(V)が4ml(cm3)であり、容器内に収容された内容液と接液する面積(S)(cm2)と前記体積Vとの関係性V/Sが、0.05≦V/S≦0.25の範囲内となる医療用容器が周知である(例えば、引用文献6の第15ページ第7~10行の記載及び実施例3におけるNo.4及びNo.5を参照。)ことに鑑みれば、引用発明において、ポート付容器1内に収容された内容液の体積Vが0.1から20(cm3)であり、ポート付容器1が前記ポート付容器1内に収容された内容液と接液する面積S(cm2)と、前記体積V(cm3)からなる関係性が、0.05≦V/S≦0.25を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
ウ 効果について
本件発明1は、特に上記相違点2に係る構成を有する積層体からなる袋本体において、上記相違点3に係る構成である(式I)を満たすことで、「口部部材をポンプ機器に接続し、マイクロポンプを動作させた場合に、リザーバ内部が陰圧になるのに応じて袋本体が変形し、マイクロポンプに過大な負荷を与えることなく安定して内容物の排出がなされる。また、包装体が有する高い水蒸気バリア性により、水分の蒸発が生じにくく、投与開始前の長期間の保存においても、薬液の濃度が一定に保たれる。さらには投与完了後の内容物の残留が極めて少なく、・・・廃棄ロスが低減され、容器の製造や内容物の充填といった面でも簡便で取り扱いやすい」(本件明細書の段落【0023】を参照。)という効果を奏するものである。すなわち、当該効果は、上記相違点2に係る構成と上記相違点3に係る構成とを総合してなる構成によって奏されるものである。
上記イで検討したとおり、上記相違点2及び上記相違点3をそれぞれに係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとしても、上記相違点2に係る構成を有する積層体において、上記相違点3に係る構成である(式I)を満たすことは引用文献1~6に記載されていない。また、上記効果についても、引用文献1~6に記載されておらず、各引用文献の記載から当業者が予測し得るものともいえない。
してみると、上記効果は、引用発明及び周知の事項に基づいて想到し得た範囲のものでなく、上記相違点2に係る構成と上記相違点3に係る構成とを総合してなる構成とすることを、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~3、5、8~11について
本件発明2~3、5、8~11は、本件発明1の全ての発明特定事項を有し、さらに技術的事項を追加したものである。よって、上記(2)に示した理由と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 理由2について
本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は、「前記フッ素系樹脂がポリクロロ三フッ化エチレンであり、前記水蒸気バリア層の厚みが5μm以上50μm以下であり、前記シーラント層が環状オレフィン系樹脂を主成分として形成される層を含み、前記シーラント層の厚みが20μm以上80μm以下であ」ることが特定された。
(1)本件訂正により、請求項1において、水蒸気バリア層の厚みは「5μm以上50μm以下」となり、発明の詳細な説明において「不適」と判断された試験例6~8を含まないものとなった。
(2)本件訂正により、請求項1の水蒸気バリア層及びシーラント層について、発明の詳細な説明における実施例で「適」と判断された試験例の材料及び厚さ範囲で特定するものとなった。
(3)以上のことから、本件訂正後の請求項1の記載は、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるものとなっており、上記理由2は解消した。
3 理由3について
本件訂正により、特許請求の範囲の請求項3における「水蒸気透過率」は、「第十七改正日本薬局方、<7.02>プラスチック製医薬品容器試験法における水蒸気透過性試験に準じて求められた」水蒸気透過率であると特定された。
してみると、請求項3において、水蒸気透過率を一義的に定める方法が明確となったため、本件訂正により、上記理由3は解消した。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人が申立てた申立理由のうち、採用しなかった理由は、取消理由3(特許法第36条第6項第2号)の理由1及び理由3である。
1 取消理由3の理由1について
(1)申立理由の概要(特許異議申立書第42ページ)
特許請求の範囲の記載が明確であるためには、少なくとも「前記袋本体内に収容された前記内容物の体積V」の数値の測定方法(求め方)が一義的に確定されることが必須である。
明細書の発明の詳細な説明では、「重量」に基づいて体積Vの数値を算出しているが、1gの蒸留水の体積は1cm3であるとしても、本件明1~11では、内容物が液体であるとしか特定されていない。すなわち、蒸留水以外の場合について、体積Vを一義的に定める方法が明確ではないから、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足しないというべきである。
(2)当審の判断
液体の体積は、測定方法に関わらず一義的に決まることが技術常識であるので、本件の各請求項に記載される「前記袋本体内に収容された前記内容物の体積V」は明確である。
したがって、異議申立人の取消理由3の理由1に係る主張を採用することはできない。
2 取消理由3の理由3について
(1)申立理由の概要(特許異議申立書第43ページ)
本件発明3における水蒸気透過率が、第十七改正日本薬局方で測定されるものを示しているとしても、本件明細書においては、水蒸気透過率を一義的に定める方法が明確ではない。
水蒸気透過率の測定方法について、実験1(明細書段落【0077】)では、「(充填液量)-0.1cm3」を充填している(つまり、0.1cm3の分だけ減算した量を実験1では充填している)のに対して、実験2、3(明細書の段落【0081】、【0083】)では、「-0.1cm3」していないものを充填している(つまり、0.1cm3の分だけ減算していない量を実験2、3では充填している)。水蒸気透過率の測定方法について、-0.1cm3を考慮すべきか否かが統一されておらず、水蒸気透過率を一義的に定める方法が明確ではない。
(2)当審の判断
実験2について、本件明細書の段落【0081】には、「実験1と同様の手法により、水蒸気透過率とV/S値を求め」と記載され、実験3について、同段落【0083】には、「実験1および実験2と同様の手法により、水蒸気透過率とV/S値を求め」と記載されていることから、各試験例の包装体への液体充填に関して、実験2及び3においても、実験1と同様に「-0.1cm3」を考慮していると理解できる。
したがって、異議申立人の取消理由3の理由3に係る主張を採用することはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1~3、5、8~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3、5、8~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項4、6~7に係る特許については、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項4、6~7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700587