特許異議申立
2023-700575
セラミック焼結板、及びセラミック焼結板の製造方法
- 審判番号
- 2023-700575
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-535196
- 登録番号
- 7186930
- 請求日
- 2023年06月02日
- 審決日
- 2024年03月12日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【権利者代理人】佐々木 善紀
- 【異議申立人】青木 眞理
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / P1651.536-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7186930号発明「セラミック焼結板、及びセラミック焼結板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7186930号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7186930号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)2月8日(優先権主張 令和3年3月26日)を国際出願日とする出願であって、令和4年12月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~2に係る特許に対して、令和5年6月2日に特許異議申立人青木眞理(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。その後の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 5年 8月25日付け :取消理由通知
同年10月24日 :意見書の提出(特許権者)
同年11月29日付け :審尋
同年12月27日 :回答書の提出(申立人)
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
窒化ケイ素で構成され、密度が3.24~3.35g/cm3であり、
主面における表面粗さRaが0.28μm以下であり、
800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失ε”の最大値が1×10-2以下である、セラミック焼結板。
【請求項2】
窒化ケイ素、焼結助剤、バインダ及び分散剤を含むグリーンシートの積層体を加熱して脱脂する脱脂工程と、
脱脂された前記積層体を所定の焼成温度で加熱して加熱処理物を得る焼成工程と、
前記加熱処理物を前記焼成温度から室温まで冷却してセラミック焼結体を得る降温工程と、を有し、
前記焼成工程は、
1600℃以上1800℃未満の温度で加熱処理を行う第一焼成工程と、
1800℃以上2000℃以下の温度で3~7時間、加熱処理を行う第二焼成工程と、を含み、
前記降温工程は、
900~1200℃の温度で0.5~2.0時間保持する第一工程と、
1400~1600℃の温度で1.5~4.0時間保持する第二工程と、
を含む、セラミック焼結板の製造方法。」
第3 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和5年8月25日付けの取消理由は、概略、以下のとおりである。
1 取消理由1(本件発明1に対するサポート要件違反1)
本件発明1は、「抗折強度に優れる焼結体を提供すること」を課題とするものである。ここで、本件発明1では、密度が「3.24~3.35g/cm3」であることが特定されているが、本件の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)に、実際に作成されたことが記載されているのは、密度が「3.25~3.26g/cm3」という、「3.24~3.35g/cm3」の範囲の下限近くのごく限られた範囲のもののみであり、また、本件明細書には、3.25~3.26g/cm3の密度を有する実施例のセラミック焼結体の密度を3.26超~3.35g/cm3まで増加させる方法も記載されていない。そうすると、「3.26超~3.35g/cm3」という高い密度を有し、そして、抗折強度に優れる焼結体が記載されているとはいえず、本件発明1は、課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えているものである。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由2(本件発明1に対するサポート要件違反2)
本件発明1では、焼結体の表面粗さRaが0.28μm以下であることが特定されているが、焼結体の表面を研磨したものかどうかは特定されていない。そして、本件明細書には、降温工程に第一保持工程、第二保持工程を設けることによって表層の欠陥を修復し、平滑度を向上させ、抗折強度を向上させることが記載されており(【0044】)、表面を研磨せずに表面粗さRaを0.28μm以下としている。そうすると、研磨を施して表面粗さRaが0.28μm以下とされた焼結体が本件明細書に記載されているとはいえないため、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されていない範囲を包含している。
よって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由3(本件発明2に対するサポート要件違反)
本件発明2は、上記1で述べたとおり、「抗折強度に優れる焼結体を製造する方法を提供すること」を課題とするものである。そして、本件発明2は、「1600℃以上1800℃未満の温度で加熱処理を行う第一焼成工程」を含む。一方、本件明細書の実施例では、第一焼成工程として「1500℃」での加熱処理を行っており、その結果、焼結体の抗折強度、誘電損失、密度、表面粗さRaが所望の値となったことが示されている。
一般に、セラミック焼結体の特性は焼結温度によって左右されるところ、第一焼成温度を、実施例の「1500℃」から本件発明2で特定される「1600℃以上1800℃未満」に上げても、抗折強度、誘電損失、密度、表面粗さRaが所望の値となるものとはいえないため、本件発明2は課題を解決できるとはいえない。
よって、本件発明2は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、本件発明2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 取消理由についての判断
1 本件明細書の記載
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0005】
本開示は、抗折強度に優れるセラミック焼結体を提供することを目的とする。本開示はまた、上述のようなセラミック焼結体を製造する方法を提供することを目的とする。」
(2)「【0006】
セラミック焼結体中に、ボイド、欠陥、又は組織の不均一な部分等が存在する場合、セラミック焼結体の抗折強度に影響すると考えられるが、本発明者らは検討によって、上述のボイド等が存在する場合、セラミック焼結体に高周波で交流電圧を印加するとわずかに放電を起こし、誘電損失ε”が大きくなること、さらには、特定の周波数帯域における誘電損失が抗折強度とよく対応することを見出した。本開示は、上述の知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本開示の一側面は、800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら、1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失ε”の最大値が1×10-2以下である、セラミック焼結体を提供する。
【0008】
上記セラミック焼結体は、交流電圧を印加した際に、特定の周波数帯域における誘電損失が上記範囲内となっており、優れた抗折強度を発揮し得る。」
(3)「【0010】
本開示の一側面は、セラミック、焼結助剤、バインダ及び分散剤を含むグリーンシートの積層体を加熱して脱脂する脱脂工程と、脱脂された上記積層体を所定の焼成温度で加熱して加熱処理物を得る焼成工程と、上記加熱処理物を上記焼成温度から室温まで冷却してセラミック焼結体を得る降温工程と、を有し、上記降温工程は、900~1200℃の温度で0.5~2.0時間保持する第一工程と、1400~1600℃の温度で1.5~4.0時間保持する第二工程と、を含む、セラミック焼結体の製造方法を提供する。
【0011】
上記セラミック焼結体の製造方法は、上述のような降温工程を有することから、抗折強度に優れるセラミック焼結体を製造することができる。」
(4)「【0016】
セラミック焼結体の一実施形態は、800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失ε”の最大値が1×10-2以下である。高周波数帯域における誘電損失が上記範囲内となるセラミック焼結体は、空隙等の欠陥が少なく、優れた抗折強度を発揮し得る。」
(5)「【0036】
焼成工程は、加熱温度の異なる複数の工程を含んでもよい。このような複数の工程で加熱処理を行うことによって、セラミック焼結体の組織をより一層均質化することができる。上記焼成工程は、例えば、1600℃以上1800℃未満の温度で加熱処理を行う第一焼成工程と、1800℃以上2000℃以下(好ましくは1800℃以上1850℃以下、より好ましくは1800℃以上1830℃以下)の温度で加熱処理を行う第二焼成工程と、を含んでよい。
【0037】
焼成工程における加熱時間のうち、1600℃以上1800℃未満の温度で加熱処理する時間(例えば第一焼成工程における加熱処理する時間)を長め(例えば、数時間)に確保することが望ましい。そこで、炉内温度を1600℃以上1800℃未満に保持する時間は、例えば、4時間以上、5時間以上、6時間以上、7時間以上、8時間以上、又は9時間以上であってよく、15時間以下、又は12時間以下であってよい。炉内温度を1600℃以上1800℃未満に保持する時間は、例えば、4~15時間、又は5~8時間であってよい。1600℃以上1800℃未満の温度域では、焼結助剤が液相を形成するため、この温度で保持する時間を十分に確保することによってセラミックを粒成長させる環境をより均質化でき、結果としてセラミック焼結体の抗折強度をより向上できる。
【0038】
また1800℃以上の温度で加熱処理する時間を長めに確保することが好ましく、炉内温度を1800~2000℃の温度に保持する時間(例えば第二焼成工程における加熱処理する時間)は、例えば、3時間以上、又は4時間以上であってよく、7時間以下、又は6時間であってよい。炉内温度を1800~2000℃の温度に保持する時間は、例えば、3~7時間、又は4~6時間であってよい。1800~2000℃の温度域では、焼結助剤に由来する液相にセラミック粉末が溶解し、熱力学的により安定な結晶相の成長が促進されるため、この温度で保持する時間を確保することでセラミックの粒成長を促進させ、得られるセラミック焼結体の熱伝導率を向上させることができる。また1800~2000℃の温度に保持する時間を上記範囲内とすることで、セラミック及び焼結助剤の分解を抑制し、セラミック焼結体の緻密化が阻害されることをより十分に抑制できる。
【0039】
焼成工程は、より具体的には例えば、1600℃以上1800℃未満の温度で1~2時間、加熱処理を行う第一焼成工程と、1800℃以上2000℃以下(好ましくは1800℃以上1850℃以下、より好ましくは1800℃以上1830℃以下)の温度で4~5時間、加熱処理を行う第二焼成工程を含む工程であってよい。」
(6)「【0040】
降温工程は、上記焼成温度より低く、900~1200℃の温度で0.5~2.0時間保持する第一工程(以下、第一保持工程ともいう)と、1400~1600℃の温度で1.5~4.0時間保持する第二工程(以下、第二保持工程ともいう)と、を含む。第二保持工程は、第一保持工程以降の工程であり、好ましくは第一保持工程の直後に実施される工程である。降温工程として温度の異なる少なくとも2段階の保持工程を設け、焼成体を室温まで冷却することによって、焼成工程において焼結助剤が分解され、焼成体の表層から抜けていくことで、セラミック焼結体の表層に欠陥等が生じることを抑制することができる。
【0041】
第一保持工程において焼成体を保持する温度(第一温度)は、例えば、1200℃以下、又は1100℃以下であってよい。第一温度を上記範囲内にすることによって、焼結助剤の固化を促進することができ、焼結助剤が表層から抜けることをより一層抑制することができる。第一温度の下限値は特に限定されるものではないが、例えば、900℃以上、又は1000℃以上であってよい。第一温度の下限値を上記範囲内にすることによって、セラミック焼結体の生産性をより向上できる。第一温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、900~1200℃、又は1000~1200℃であってよい。
【0042】
第一保持工程において、第一温度に保持する時間(保持時間)は、例えば、0.5~2.0時間であってよい。第一保持工程の上記保持時間は、例えば、0.8時間以上、0.9時間以上、又は1.0時間以上であってよい。第一保持工程の上記保持時間は、例えば、1.8時間以下、又は1.6時間以下であってよい。
【0043】
降温工程では、上記焼成温度から室温まで上記加熱処理物を冷却してセラミック焼結体を得る。焼成温度付近では、セラミック焼結体表層における焼結助剤が分解され、助剤濃度が低下する傾向にあるため、焼成工程の直後から急冷を開始する場合、セラミック焼結体の表層に欠陥が生じ得る。焼成工程の直後から急冷を開始する場合はまた、セラミック焼結体の表層と内部とで焼結助剤に由来する結晶相又はガラス相に分布ができ、その分布の広がりによって抗折強度がより低下し得る。さらに、焼結助剤によって固化する温度が異なることから、複数の焼結助剤を併用する場合には、焼結助剤ごとに結晶相又はガラス相を形成し、粒界の形成を促進することから、抗折強度がより低下し得る。そこで、降温工程における降温速度を調整することが望ましい。降温速度を緩やかにすることによって、上述のような焼結助剤の抜けによるセラミック焼結体の表層における欠陥の発生をさらに抑制し、またセラミック焼結体の表層と内部とにおける結晶相及びガラス相の分布、並びに結晶相及びガラス相における粒界の形成を抑制し得、これによって抗折強度により優れるセラミック焼結体を製造できる。焼成温度から第一温度への降温速度は、例えば、8℃/分以下、7℃/分以下、又は6℃/分以下であってよい。
【0044】
第二保持工程において焼成体を保持する温度(第二温度)は第一温度よりも高く設定される。第二温度が第一温度よりも高い温度に設定されることで、第一保持工程において焼結助剤の抜けを抑制し、その後僅かに加熱することで焼成体中に保持された焼結助剤を再び溶融液相化させることによって、表層の欠陥を修復し、より平滑度を向上させ、抗折強度を更に向上し得る。
」
(7)「【実施例】
【0049】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
<セラミック板の作製>
窒化ケイ素粉末と、焼結助剤として、酸化イットリウム粉末、酸化マグネシウム粉末及び二酸化珪素を準備した。これらを、Si3N4:Y2O3:MgO:SiO2=91:5:2:2(質量比)で配合して原料粉末を得た。この原料粉末に、バインダ、分散剤、及び分散媒を加えて、原料スラリーを調製した。次に、離型フィルム上にドクターブレード法によって、上述の原料スラリーを塗布し、塗布厚が0.4mmとなるように調整し、グリーンシートを作製した。
【0051】
作製したセラミックグリーンシートを縦:250mm×横:180mmとなるように切断し、70枚積層させることで積層体を調製した。上記積層体を、カーボンヒータを備える電気炉中に配置し、空気中、500℃で20時間加熱して脱脂し、脱脂体を得た。
【0052】
次に、焼成炉内を100Pa以下に減圧させ、温度を上昇させ900℃まで真空下で上記脱脂体を加熱処理した。その後、焼成炉内に窒素ガスを導入し、約0.9MPaの加圧下で1500℃まで昇温し、上記脱脂体を加熱し、均熱を図るため1500℃で4時間保持した(第一焼成工程)。保持後、1830℃で3.5時間かけて昇温し、上記脱脂体を加熱し、1830℃で5.5時間保持することによって焼成体を得た(第二焼成工程)。
【0053】
上述の焼成体を、以下の降温工程によって最終的に冷却し、セラミック焼結体を調製した。すなわち、降温工程における焼成炉の温度に関し、1830℃から1100℃まで120分かけて冷却し、1100℃の温度(第一温度)で2時間保持した。その後、1500℃まで240分かけて加熱し、1500℃(第二温度)で2時間保持した。さらに1100℃まで80分かけて冷却し、その後、焼成炉のヒーター電源を切り、自然冷却させた。
【0054】
(実施例2)
第二温度を1600℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック板を得た。
【0055】
(実施例3)
第一温度を1200℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック板を得た。
【0056】
(実施例4)
セラミックグリーンシートの厚みを23%薄く調整したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック板を得た。得られたセラミック板の厚さは0.25mmであった。
【0057】
(実施例5)
焼結助剤の配合量を表1に記載した様に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック板を得た。
【0058】
(比較例1)
焼成工程における1830℃での加熱時間を10.0時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック板を得た。
【0059】
(比較例2)
降温工程を自然冷却に変更し、第一保持工程及び第二保持工程を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、セラミック板を得た。
【0060】
(比較例3)
降温工程を1500℃まで6℃/分で冷却した後に1500℃で2時間保持し、その後自然冷却した(降温工程における保持工程を一段階に変更した)こと以外は、実施例1と同様にして、セラミック板を得た。
・・・
【0067】
【表1】
[図:0001409119000001.jpg]
」
2 乙号証について
特許権者は、令和5年10月24日提出の意見書に、以下の乙号証を添付している。
(1)乙第1号証
堀田禎ら、“焼結体密度に及ぼすプロセス操作条件の定量的評価”、Journal of the Ceramic Society of Japan、1995年、103[6]、616~621頁
上記乙第1号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「また成形に関しては,噴霧造粒体のバインダーの種類,添加量及び湿度が成形体密度に及ぼす影響4)~8),焼成に関しては,焼結助剤9)~11)及び焼成条件11),12)が焼結体の緻密化及び微構造に及ぼす影響などについて報告されている.これらの研究において,個々のプロセス操作の因子の影響はかなり検討されている.」(616頁右欄8~14行)
イ 「3.2 as-received原料粉体を用いて作製した試料の成形体密度と焼結体密度の関係
as-received原料粉体を用いて作製した試料の成形体密度と焼結体密度の関係を見いだすため,種々の線図を作成した結果,図2に示すような線図により,焼結体相対密度と成形体相対密度が直線で表されることが分かった.
・・・
[図:0001409119000002.jpg]
Fig 2. Relationship between sintered density and green density for as-received powders
図2で,as-received原料粉体を用いて作製した場合の,粉体特性が成形体密度と焼結体密度に及ぼす影響について見てみる.微細な一次粒子が固く凝集して空隙を含んだ凝集体を形成しているη/θアルミナ原料粉体1の成形体密度は最も低い.αアルミナの場合,一次粒子形状がデンドライト状の原料粉体2,4の成形体密度は低く,一次粒子形状が塊状の原料粉体3の成形体密度は高く,原料粉体の一次粒子形状が成形体密度に大きく影響している.次に焼結体密度について検討してみる.凝集体が認められた原料粉体1,2の焼結体密度は低く,凝集体が認められない原料粉体3,4の焼結体密度は高くなっており,原料粉体の凝集体の有無が焼結体密度に影響している.」
ウ 「3.3 原料粉体別のプロセス操作と添加物の影響評価
(1)式に基づく線図を用いて,プロセス操作及び添加物が,成形体密度,焼結体密度に及ぼす影響を原料粉体ごとに見てみる.
まずαアルミナについて検討してみる.図3に,凝集体が認められ一次粒子形状がデンドライト状の原料粉体2の場合を示した.図中の表は,実施したプロセス操作及び添加物の有無を示している.例えば, A(◎)はas-received原料粉体に蒸留水のみを添加し作製した焼結体を, B(△)は混合・バインダー添加・噴霧造粒し作製した焼結体を示しており以下同様である.図よりプロセス操作を施した試料及び添加物を添加した試料についても(1)式が成立する.as-received原料粉体に蒸留水を添加した(A)に比べて,すべての場合において成形体密度が向上しており,特に粉砕操作及びCIP操作により高い成形体密度が得られる.造粒操作を行った(B)及び粉砕操作を行った(C)は, (A)の直線上にあることから,焼結体密度の向上は,成形体密度の向上によるものである.焼結助剤を添加した操作(D)は, (A) (B) (C)の直線よりも上にあることから,焼結助剤添加が焼結体密度向上に効果的である.
・・・
凝集体が認められず,一次粒子形状が塊状の原料粉体3の場合を図5に示した. as-received原料粉体に蒸留水を添加した(A)の成形体密度が高く,CIP操作以外の操作は成形体密度を低下させる.しかし,焼結体密度は,粉砕操作及び焼結助剤添加により向上している.
微細な一次粒子が固く凝集して空隙を含んだ凝集体を形成しているη/θアルミナ原料粉体1の場合を図6に示した.as-received原料粉体に蒸留水を添加し作製した(A)の成形体密度が低く,焼結体密度も低い.図から明らかなように,成形体密度の向上には,CIP操作が効果的であり,他の操作及び焼結助剤の添加は効果が少ない.一方焼結体密度の向上には,粉砕操作,焼結助剤添加が効果的である.」
エ 「3.4 プロセス操作及び添加物の添加が成形体密度,焼結体密度に及ぼす影響
噴霧造粒,粉砕及びCIPの各プロセス操作及び焼結助剤の添加が成形体密度及び焼結体密度に及ぼす影響を見てみる.
まず噴霧造粒操作の効果を図7で見てみる.微細な一次粒子が固く凝集しているη/θアルミナ原料粉体1と柔らかく凝集しているαアルミナ原料粉体のうち,一次粒子形状がデンドライト状の原料粉体2,4では,この操作により成形体密度が向上しており,焼成条件が適当でなかった原料粉体4を除いて焼結体密度も向上している.しかし,一次粒子形状が塊状でもともと充填性がよい原料粉体3では,成形体密度及び焼結体密度が低下しており,噴霧造粒操作が悪影響を及ぼす場合もある.
つぎに,粉砕操作の効果を図8で見てみる.微細な一次粒子が固く凝集しているη/θアルミナ原料粉体1は,粉砕が不十分で成形体密度の向上は少ない.柔らかく凝集しているαアルミナ原料粉体のうち,一次粒子形状がデンドライト状の原料粉体2,4は,粉砕操作が成形体密度向上に効果的である.一次粒子形状が塊状でもともと充填性のよい原料粉体3では,粉砕操作により成形体密度が低くなっている.しかし,焼成条件が適当でなかった原料粉体4を除いて,粉砕操作は,焼結体密度を向上させるのに効果的である.
原料粉体4以外の焼成条件が適当であった原料粉体で,焼結助剤添加の効果を見てみる. BaeとBaikは,異常粒成長防止には原料粉体中のカルシウム不純物含有量以上の酸化マグネシウム添加が必要であることを報告している14).本研究で使用した各原料粉体の純度は99.99mass%,焼結助剤添加量は酸化マグネシウム換算で0.03mass%で,焼結体に異常粒成長は認められず, BaeとBaikの実験結果と一致した.図9より,焼結助剤添加により成形体密度はほとんど変わらないが,焼結体密度が向上しており,焼結助剤は焼結体密度向上に効果があることが分かる.次に,助剤の添加方法の違いを図10で見てみる.蒸留水に溶けやすい硝酸塩で添加した場合と蒸留水に溶けない酸化物で添加した場合の比較を行った.成形体密度は変わらないが,蒸留水に溶けやすい硝酸塩で添加した方が焼結体密度は高くなっている.
CIP操作の効果を図11で見てみる. CIP操作は,いずれの原料粉体においても成形体密度を向上させ,焼結体密度も向上させる.充填性の悪い原料粉体には,効果的な操作であることが分かる.
以上のことから,プロセス操作が成形体密度,焼結体密度に及ぼす効果は,主に原料粉体の凝集状態と一次粒子形状により大きく影響されることが分かった.」
(2)乙第2号証
広崎尚登、“酸化物助剤添加量が窒化ケイ素の焼結および焼結体の高温特性に及ぼす影響”材料、1992年、Vol.41、207~211頁
上記乙第2号証には、以下の事項が記載されている。
「2 実験方法
窒化ケイ素出発原料はStarck社製H1グレード,また焼結助剤としては信越化学社製純度99.9%のY2O3とNd2O3を用いた.・・・配合組成をTable IIに示す.・・・
[図:0001409119000003.jpg]
3 結果と考察
3・1 焼結
Fig.1に助剤添加量と焼結体密度との関係を示す.従来研究が行われていた高助剤量(6~10mol%)の領域の他に低助剤量(約1mol%)の領域においても緻密な焼結体が得られることが見いだされた.SN10では理論密度の97%まで緻密化したが,助剤添加量の低減により密度は低下し,SN2で91.7%まで密度が低下した.ところがSN1では97.4%の高密度の焼結体が得られた.さらに助剤添加量を低減させたSN05では78.8%までしか緻密化しなかった.5回以上の焼結実験を繰返し行い同様の現象を確認した.」
3 当審の判断
(1)取消理由1及び2について
ア 本件発明1の課題は、上記1(1)で摘記したとおり、「抗折強度に優れる焼結体を提供すること」である。
それに対し、上記1(2)の【0006】~【0008】及び同(4)の【0016】によれば、セラミック焼結体中に、ボイド、欠陥、又は組織の不均一な部分等が存在する場合、セラミック焼結体に高周波で交流電圧を印加するとわずかに放電を起こし、誘電損失ε”が大きくなること、800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら、1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失ε”の最大値が1×10-2以下であるセラミック焼結体は、空隙等の欠陥が少なく、優れた抗折強度を発揮し得ることが記載されている。
また、上記1(7)で摘記した実施例及び比較例の結果を示す表1を参照すると、実施例では、上記誘電損失ε”の最大値が0.0032~0.0081の値において抗折強度が820~920MPaとなっているのに対し、比較例では、上記誘電損失ε”の最大値が0.0153~0.0391の値において抗折強度が670~750MPaとなっている。
そうすると、「窒化ケイ素で構成され」る「セラミック焼結板」において、「800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失ε”の最大値が1×10-2以下である」(以下、「本件誘電損失要件」という。)ことにより、上記抗折強度に優れるセラミック焼結体を得ていることから、本件発明1は、上記本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
イ 密度について
上記1(7)の【0067】の表1によれば、実施例1~4で「3.26g/cm3」、実施例5で「3.25g/cm3」の密度を有する窒化ケイ素からなるセラミック焼結体が作成されており、それらは820MPa以上の優れた抗折強度を有している。してみれば、「3.24~3.35g/cm3」の密度範囲のうち下限近くの「3.25g/cm3」、「3.26g/cm3」の密度を有する場合であっても、セラミック焼結体は抗折強度が優れたものとなっていることから、それよりも密度が高い「3.26超~3.35g/cm3」の範囲の密度を有する場合にも、「本件誘電損失要件」を満たすとの前提のうえで、ボイド等が存在し密度が低いセラミック焼結体よりも緻密で密度が高いセラミック焼結体の方が抗折強度に優れているという一般事実を踏まえると、セラミック焼結体は抗折強度が優れたものとなっているといえ、本件発明1の課題が解決されているものである。
したがって、「窒化ケイ素で構成され」る「セラミック焼結板」において本件誘電損失要件を満たすことに加え、「密度が3.24~3.35g/cm3」の範囲において、本件発明1の課題は解決されるといえる。
なお、申立人は、当審が令和5年11月24日付けで通知した、「セラミック焼結体の密度が高くなっても、抗折強度が低下する例があれば併せてご呈示ください。」という審尋に対して、上記例を示した文献などを提示してこなかったことから、当審では、上記「ボイド等が存在し密度が低いセラミック焼結体よりも緻密で密度が高いセラミック焼結体の方が抗折強度に優れている」ことを一般事実としている。
そして、乙第1号証には、上記2(1)アによれば、焼結助剤及び焼成条件が焼結体の緻密化に及ぼす影響について研究が行われていることが記載されており、同イによれば、成形体密度が増加すれば焼結体密度が増加することや、原料粉体中の凝集体の有無が焼結体密度に影響を及ぼすことが記載されており、同ウによれば、原料粉体の粉砕操作やCIP処理、焼結助剤添加により焼結体密度が増加することが、同エによれば、原料粉体の噴霧造粒や粉砕操作、焼結助剤添加、CIP処理により焼結体密度が向上することが記載されているし、乙第2号証には、上記2(2)によれば、焼結助剤の添加により焼結体密度が向上することが記載されている。
そうすると、焼結助剤の添加条件、焼成条件、成形体密度、原料粉体中の凝集体の有無、原料粉体の粉砕操作、CIP処理、原料粉体の造粒などを調整することによって焼結体の密度を調整することができることが知られているといえる。
したがって、これらの条件を調整することによって焼結体密度を調整し、密度が高い焼結体を作成できることが知られているといえ、密度が「3.24~3.35g/cm3」である、抗折強度に優れる焼結体を作成することができるといえる。
してみれば、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているといえるし、本件発明1の課題を解決できるものである。
ウ 表面粗さRaについて
上記1(7)で摘記した実施例及び比較例の結果を示す表1を参照すると、実施例では表面粗さRaが0.24~0.27μmの値において抗折強度が820~920MPaとなっているのに対し、比較例では、表面粗さRaが0.30~0.34μmの値において抗折強度が670~750MPaとなっている。ここで、これらの実施例及び比較例の表面粗さRaは、研磨せずに得られたものであるが、仮に、研磨して上記表面粗さRaのものを得たとしても、上記表1で記載されている表面粗さRa、誘電損失、及び抗折強度の値は、変化しないものといえる。
そうすると、「窒化ケイ素で構成され」る「セラミック焼結板」において「主面における表面粗さRaが0.28以下であり」、「800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失ε”の最大値が1×10-2である」本件発明1は、上記本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
エ 申立人の主張
(ア)申立人は令和5年12月27日に提出した回答書(以下、「回答書」という)において、取消理由1及び2について、以下の主張をしている。
a 特許権者が令和5年10月24日に提出した意見書(以下、「意見書」という。)では、本件発明1が、抗折強度を高める観点で、より不利な3.25g/cm3未満の領域を含む理由が説明されていないし、本件明細書に3.24g/cm3、3.35g/cm3の臨界的意義は記載されていないため、本件明細書に開示された内容を、密度が3.24~3.35g/cm3である本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化することはできない。
b 本件明細書の実施例1~5に係るセラミック焼結板の密度は、理論密度に近いものを示しているにすぎず、新規の密度からなるセラミック焼結板を開示しているものではない。
c 意見書の、「セラミック原料の粒度調整、焼結助剤量の調整、・・・の調整などによって、セラミックス焼結体の密度を調整できることは知られており、当業者であれば、セラミック焼結体の密度を向上させ、3.26超から3.35g/cm3とすることができると思量します」との主張について、それらの条件をどのように調整したら、本件発明1に係る、密度が3.27~3.35g/cm3であるセラミック板を製造することができるのか、併せて乙第1号証を参照してみても不明である。
d 本件発明1の「誘電損失」を得るためのセラミック焼結板の製造方法は発明の詳細な説明に記載されていないため、本件発明1の「誘電損失」を課題解決手段とすることはできない。
(イ)申立人の主張に対する当審の判断
a 本件明細書の実施例1~5、比較例1~3の密度と抗折強度を検討すると、密度が高い順に、実施例1~4は、密度3.26g/cm3で抗折強度820~920MPa、実施例5は、密度3.25g/cm3で抗折強度820MPa、比較例1、3は、密度3.23g/cm3で抗折強度680MPa、750MPa、比較例2は、密度3.22g/cm3で抗折強度670MPaとなっており、実施例、比較例の結果をとおして、密度が高いほど抗折強度が高くなることが理解できる。そうすると、密度3.24g/cm3の例は記載されていないものの、密度3.23g/cm3以下である比較例1~3よりも抗折強度が高いものとなることも理解できる。そうすると、密度3.24g/cm3の場合においても、十分に抗折強度の優れたものとなるといえるため、密度が3.25g/cm3未満、すなわち、3.24~3.25g/cm3未満の場合にも本件発明1の課題は解決されていることが理解される。
また、本件発明1がサポート要件を満たすといえるためには、密度が3.24~3.35g/cm3において本件発明1の課題を解決することは必要であるが、密度の下限「3.24g/cm3の臨界的意義」、上限「3.35g/cm3の臨界的意義」の有無は、本件発明におけるサポート要件の判断を左右するものではないから、この主張は、前提において誤りがある。
b 実施例において、新規の密度からなるセラミック焼結板が開示されているか否かは、サポート要件の判断を左右するものではないから、この主張も前提において誤りがある。
なお、実施例5において、理論密度3.24g/cm3に対して実測値が3.25g/cm3となっており、理論密度より大きな実測値となっているが、原料の混合比は、小数点2桁目は四捨五入されているため(例えば、94.5%と表記されているSi3N4の添加量は94.45~94.54%の範囲を取り得るため)、実際に測定される比重が、複数の原料に基づく計算値から0.01g/cm3程度ずれることはあり得るものである。
c 上記イで述べたとおり、焼結助剤の添加条件、焼成条件、成形体密度、原料粉体中の凝集体の有無、原料粉体の粉砕操作、CIP処理、原料粉体の造粒などを調整することで密度を調整できるのであるから、それらの条件を適宜調整すれば、密度が「3.24~3.35g/cm3」である、抗折強度に優れた焼結体を作成することができるため、この主張は採用できない。
d 下記(2)で説明するとおり、発明の詳細な説明には本件発明1の誘電損失を得るためのセラミック焼結体の製造方法が記載されているため、この主張は採用できない。
したがって、これらの申立人の主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、取消理由1及び2は理由がない。
(2)取消理由3について
ア 本件発明2の課題は、上記第4の1(1)の【0005】の記載によれば、「抗折強度に優れる焼結体」「を製造する方法を提供すること」である。
そして、同(3)の【0010】~【0011】の記載から、本件発明2は、「前記加熱処理物を前記焼成温度から室温まで冷却してセラミック焼結体を得る降温工程」が、「900~1200℃の温度で0.5~2.0時間保持する第一工程と、1400~1600℃の温度で1.5~4.0時間保持する第二工程」を有することによって、「抗折強度に優れる焼結体を製造する方法を提供する」という課題を解決するものであるといえる。
また、同(6)の【0040】~【0045】には、上記2段階の保持工程によって、焼成工程において焼結助剤が分解され、焼成体の表層から抜けていくことで、セラミック焼結体の表層に欠陥等が生じることを抑制し、第一保持工程の温度を1200℃以下にすることによって、焼結助剤の固化を促進することで、焼結助剤が表層から抜けることをより一層抑制することができること、第二温度を第一温度よりも高い温度に設定することで、第一保持工程において焼結助剤の抜けを抑制し、その後僅かに加熱することで焼成体中に保持された焼結助剤を再び溶融液相化させることによって、表層の欠陥を修復し、より平滑度を向上させ、抗折強度を更に向上し得ること、第二温度を1600℃以下とすることによって、焼結助剤の更なる分解を十分に抑制することができ、例えば、1400℃以上とすることによって、焼結助剤の溶融による液相形成を促進すると共に当該液相の分散性を向上させることができ、セラミック焼結体の主面における平滑性をより高めることができること、すなわち、本件発明2の降温工程における第一工程、第二工程によって、焼結助剤が表層から抜けて欠陥が生じることを抑制し、欠陥を修復し、セラミック焼結体の主面の平滑性を高め、抗折強度を向上させていることが記載されているといえる。
他方、焼成工程については同(5)の【0036】~【0039】に、焼成工程が加熱温度の異なる複数の工程を含むことで、セラミック焼結体の組織をより一層均質化することができること、第一焼成工程の温度である1600℃以上1800℃未満では、焼結助剤が液相を形成するため、この温度で保持する時間を十分に確保することによってセラミックを粒成長させる環境をより均質化でき、結果としてセラミック焼結体の抗折強度をより向上できることが記載されている。
そうすると、第一焼成工程の役割は、焼結助剤が液相を形成し、セラミックを粒成長させる環境をより均質化し、結果としてセラミック焼結体の抗折強度をより向上することであるといえる。ここで、本件明細書の実施例1~5では第一焼成温度が1500℃とされ、抗折強度の向上したセラミック焼結体が得られている。そうすると、第一焼成温度として1500℃を採用した場合に焼結助剤が液相を形成し、セラミックを粒成長させる環境をより均質化し、結果としてセラミック焼結体の抗折強度をより向上したのであるから、温度を1600℃以上1800℃未満に上げた場合にも、焼結助剤が液相を形成し、セラミックを粒成長させる環境をより均質化し、結果としてセラミック焼結体の抗折強度をより向上させるであろうことが当業者に理解できる。
してみれば、本件発明2で特定される焼成工程並びに本件発明2で特定される第一工程及び第二工程を有する降温工程を含む本件発明2の方法は、発明の詳細な説明に記載されたものであるし、「抗折強度に優れる焼結体を製造する方法を提供すること」という課題を解決するものである。
イ 申立人の主張
申立人は、回答書において、本件明細書の【0052】に記載されている第一焼成工程の温度は1500℃であり、出願時の技術常識を鑑みても、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明2の「第一焼成工程」の温度にまで拡張ないし一般化することはできないし、【0037】の「1600℃以上1800℃未満の温度域では、・・・向上できる」との記載は【0052】の記載と矛盾しており、本件発明2の第一焼成工程の温度がどちらの段落の記載の基づいているものであるか特定できないため、本件発明2は発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。
しかし、上記アで述べたとおり、第一焼成工程において1500℃で「焼結助剤が液相を形成し、セラミックを粒成長させる環境をより均質化する」ことができるのであれば1600℃以上1800℃未満でも同様のことが起こると理解されるため、本件発明2の温度域は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、取消理由3は理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
1 進歩性の欠如について
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明2は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立人は、甲第1~3号証に加え、以下の甲第4及び5号証も提示している。
甲第1号証:国際公開第2018/194052号
甲第2号証:特開2000-34172号公報
甲第3号証:国際公開第2015/060274号
甲第4号証:特開2003-192445号公報
甲第5号証:特開昭64-61359号公報
なお、主たる証拠は甲第1、3号証であり、甲第2号証は、窒化けい素焼結体へのMgOの添加と表面粗さRaの関係を示すもの、甲第4号証は表面粗さRaが0.28μm以下の窒化けい素焼結板が知られていることを示すものであり、甲第5号証はSi3N4及びMgOの理論密度が示されたものである。
2 明確性要件違反について
申立理由3(本件発明1に対する明確性要件違反)
本件発明1は、「表面粗さRaが0.28μm以下」であるものであるが、研磨加工していないセラミック焼結板の表面粗さRaを意味しているのか、研磨加工した後のセラミック焼結基板の表面粗さRaを意味しているのか不明確である。よって、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第6 甲号証について
1 甲第1号証について
(1)甲第1号証に記載の事項
甲第1号証には、下記の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下、同様。)。
ア 「[0007] 本発明が解決しようとする課題は、交流電圧の周波数が変化する場合であっても優れた絶縁性を示す焼結体を提供することである。」
イ 「[0014] 焼結体1に交流電圧を印加しながら交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて焼結体1の誘電損失を測定するとき、800kHzないし1MHzの周波数帯域での誘電損失の平均値εAと100Hzないし200Hzの周波数帯域での誘電損失の平均値εBは、式:|εA-εB|≦0.1を満たす。
[0015] 誘電損失は、下記の測定方法により測定される。表面粗さRaが1μm以下の焼結体1の基板(例えば窒化珪素基板)を用意する。Raが1μmを超える場合は、サンドブラストなどにより基板表面を平坦化する。次に、常温でLCRメータ(ヒューレットパッカード社製HP16451LCRメータまたはそれと同等の性能を有する装置)にて実効値1Vの交流電圧を基板に印加する。誘電損失は、リング状電極を用いて測定される。基板はリング状電極内に配置される。交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまでをスイープし、誘電率とtanδ値を測定し、誘電損失を算出する。得られた誘電損失から、平均値εA、平均値εBを求める。」
ウ 「[0019] 焼結体1が式:|εA-εB|≦0.1を満たすことは、周波数が変化しても誘電損失の変化が小さいことを示す。焼結体1は、式:0≦|εA-εB|≦0.05を満たすことが好ましい。平均値εAおよび平均値εBのそれぞれは、0.1以下であることが好ましい。平均値εAは0.1以下、0.09以下、さらには0.06以下であることが好ましい。平均値εBは0.02以下、さらには0.01以下であることが好ましい。|εA-εB|の値が小さくても、平均値εAおよび平均値εBが大きな値であった場合、絶縁性が低下する(導電性として大きく発現する)おそれがある。このため、平均値εAおよび平均値εBはそれぞれ0.1以下であることが好ましい。」
エ 「[0059] (実施例1~6、比較例1)
表1に示す、窒化珪素粉末、表面改質剤、高分子バインダ、界面活性剤、可塑剤、溶媒、の組み合わせを用意して、溶媒中で混合することにより、混合溶液(試料1~4)を調製した。
・・・
[0062] 次に、混合溶液試料1~4に焼結助剤を添加して、実施例1~6、比較例1~2となる窒化珪素焼結体の原料溶液を調製した。焼結助剤の添加量は、窒化珪素粉末との合計量が100質量%となるように示した。その割合を表2に示す。
・・・
[0064] 上記実施例および比較例からなる原料溶液を脱泡処理してスラリー化を行った。脱泡処理は、原料溶液を攪拌しながら真空脱泡処理を行った。得られたスラリーをドクターブレード法により成形してシートを調製した。それぞれ、所定のサイズに加工し、脱脂工程、焼結工程を行った。脱脂工程は、600℃以上800℃以下の温度、窒素雰囲気中で行った。
・・・
[0073] 次に、実施例および比較例にかかる窒化珪素基板の絶縁性を調べた。絶縁性は、絶縁破壊電圧を調べた。誘電損失の周波数依存性を調べた。
[0074] 絶縁破壊電圧(絶縁耐力)は、JIS-C-2141に準じて2端子法にて測定した。測定端子は先端が直径20mmの円柱状電極を使用した。絶縁耐力の測定はフロリナート中で行った。交流電圧の周波数を50Hzとした。
[0075] 誘電損失の周波数依存性は、常温でLCRメータ(ヒューレットパッカード社製HP16451)にて実効値1Vの交流電圧を印加して行った。交流電圧(1V)を印加しながら交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて誘電損失を測定し、|εA-εB|を求めた。誘電損失はリング状電極を用いて測定した。周波数を50Hzから1MHzまでをスイープし、誘電率とtanδ値を測定し、誘電損失を算出した。その結果を表6に示す。
[0076] [表6]
[図:0001409119000004.jpg]
」
オ「[請求項1] 窒化珪素を含む結晶粒子と、粒界相と、を具備する焼結体であって、
前記焼結体に交流電圧を印加しながら前記交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて前記焼結体の誘電損失を測定するとき、800kHzないし1MHzの周波数帯域での前記誘電損失の平均値εAと、100Hzないし200Hzの周波数帯域での前記誘電損失の平均値εBは、式:|εA-εB|≦0.1を満たす、焼結体。」
(2)甲第1号証に記載の発明
上記(1)イによれば、甲第1号証には、εAは、焼結体に交流電圧を印加しながら交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて焼結体の誘電損失を測定するときの、800kHzないし1MHzの周波数帯域での誘電損失の平均値を表しており、印加されるのは1Vの交流電圧であることが記載されている。
同エの実施例1~6に着目すると、甲第1号証には、交流電圧を印加しながら交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて誘電損失を測定するときの800kHzないし1MHzの周波数帯域での誘電損失の平均値εAが0.042~0.092(表6参照)である、窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板が記載されている。
そうすると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「1Vの交流電圧を印加しながら交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて焼結体の誘電損失を測定するときの800kHzないし1MHzの周波数帯域での誘電損失の平均値εAが0.042~0.092である窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板。」
2 甲第2号証について
甲第2号証には、下記の事項が記載されている。
(1)「【0039】また本発明において添加成分として使用するマグネシウム(Mg)の酸化物(MgO)は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を促進し低温での緻密化を可能にすると共に、結晶組織において粒成長を制御する機能を果し、Si3N4焼結体の機械的強度を向上させるものである。また、焼結時にα-Si3N4原料からβ-Si3N4へ変化する転移温度を低下させ、焼結上がり面の表面粗さを小さくし、さらに焼結体表面に存在する気孔サイズも低減させ、また焼結上がり面の強度も増加させる効果を発揮するものである。このMgの添加量が酸化物換算で0.3重量%未満の場合においては添加効果が不充分である一方、3.0重量%を超える過量となる場合には熱伝導率の低下が起こるため、添加量は0.3~3.0重量%の範囲とする。特に0.5~2重量%とすることが望ましい。」
(2)「【0055】実施例1~3
酸素を1.3重量%、不純物陽イオン元素としてAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.10重量%含有し、α相型窒化けい素97%を含む平均粒径0.40μmの窒化けい素原料粉末に対して、焼結助剤として平均粒径0.7μmのY2O3(酸化イットリウム)粉末5重量%,平均粒径0.5μmのMgO(酸化マグネシウム)粉末1.5重量%を添加し、エチルアルコール中で72時間湿式混合した後に乾燥して原料粉末混合体を調製した。
・・・それぞれ実施例1~3に係る窒化けい素セラミックス焼結体を調製した。
・・・
【0060】こうして得た実施例1~3および比較例1~3に係る窒化けい素焼結体について気孔率、熱伝導率(25℃)、室温での三点曲げ強度の平均値を測定した。なお、三点曲げ強度は下記の2通りの場合について測定した。すなわち、焼結上がり面を、そのまま三点曲げ強度試験における引張り面にした場合と、焼結上がり面をダイヤモンド砥石で研削し、その表面粗さを0.8S(約0.15μmRa)にした研削加工面を引張り面にした場合とにおいて測定した。さらに、各焼結体をX線回折法によって粒界相に占める結晶相の割合(面積比)を測定し、下記表1に示す結果を得た。
【0061】
【表1】
[図:0001409119000005.jpg]
」
3 甲第3号証について
(1)甲第3号証に記載の事項
甲第3号証には、下記の事項が記載されている。
ア 「[0060] 次に、実施形態に係る窒化珪素基板の製造方法について説明する。実施形態に係る窒化珪素基板は前述の構成を有している限り、製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく製造するための方法として次のものが挙げられる。
[0061] まず、原料粉末として、窒化珪素粉末、焼結助剤粉末を用意する。
・・・
[0064] 次に、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末を所定量混合し、さらに有機バインダを添加して原料混合体を調製する。
[0065] 次に、原料混合体を成形する成形工程を行う。原料混合体の成形法としては、汎用の金型プレス法、冷間静水圧プレス(CIP)法、あるいはドクターブレード法、ロール成形法のようなシート成形法などが適用できる。また、必要に応じ、原料混合体を、トルエン、エタノール、ブタノールなどの溶媒と混合するものとする。
[0066] 次に上記成形工程の後、成形体の脱脂工程を行う。脱脂工程は、非酸化性雰囲気中、温度500~800 ℃で1~4時間加熱して、予め添加していた大部分の有機バインダの脱脂を行うものとする。非酸化性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中などが挙げられる。
・・・
[0069] 次に脱脂処理された成形体は、焼成容器内に収容され焼成炉内において非酸化性雰囲気中で温度1400~1650℃に加熱され、1~8時間保持される熱処理工程が実施される。この処理により、焼結助剤粉末の液相反応が促進される。液相反応の促進により、液相成分が窒化珪素結晶粒子の粒界への拡散が促進され、気孔が低減される。
[0070] 保持温度が1400℃未満では液相反応が起き難く、保持温度が1650℃を超えて高いと、窒化珪素結晶粒子の粒成長が進んでしまうために、液相成分の拡散による気孔低減効果が十分得られなくなる。また、非酸化性雰囲気としては、窒素ガス(N2)やアルゴンガス(Ar)などが挙げられる。また、成形体を多段に積層して量産性を向上させることも有効である。また、多段にすることにより、炉内の温度が均一になり、液相反応が均一にすることができる。
[0071] 次に、焼結工程を行う。焼結工程は、非酸化性雰囲気中で成形体を温度1800~1950℃に8~18時間加熱して実施されるものとする。非酸化性雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、または窒素ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成炉内圧力は加圧雰囲気であることが好ましい。
[0072] 焼結温度が1800℃未満と低温状態で焼成すると、窒化珪素結晶粒子の粒成長が十分でなく、緻密な焼結体が得難い。一方、焼結温度が1950℃より高温度で焼成すると、炉内雰囲気圧力が低い場合にはSiとN2に分解するおそれがあるため、焼結温度は上記範囲に制御することが好ましい。
[0073] 前述のように成形体を多段にした場合、炉内の圧力ばらつきが生じるおそれがあるため焼結温度は1950℃以下が好ましい。また、焼結温度が1950℃より高いと窒化珪素結晶粒子が必要以上に粒成長してしまい目的とする比(T2/T1)が得られなくなるおそれがある。
[0074] また、焼結工程後における焼結体の冷却速度を100℃/h以下にすることが好ましい。冷却速度を100℃/h以下、さらには50℃/h以下とゆっくり冷却することにより、粒界相を結晶化することができる。粒界相中の結晶化合物の割合を大きくすることができる。前記熱処理工程により、粒界相の液相反応を促進している。」
イ 「[0082] (実施例)
(実施例1~20および比較例1)
窒化珪素粉末として、平均粒径が1.0μmであり、不純物酸素含有量が1質量%であり、α化率が98%のものを用意した。また焼結助剤粉末として表1および表2に示したものを用意した。なお、焼結助剤粉末は平均粒径が0.8~1.6 μmのものを用意した。
[0083] 窒化珪素粉末と焼結助剤粉末とを混合し、原料混合体を調製した。また、原料混合体に、分散剤、有機溶媒を混合してボールミル混合を行った。次に、原料混合粉100質量部に対し、有機バインダとしてのブチルメタクリレートを10質量部と、可塑剤としてジブチルフタレートを4質量部、混合し、有機溶媒を追加添加し、さらにボールミル混合を十分に実施してスラリー状の原料混合体を調製した。スラリーの粘度を5000~15000cpsに調整した後に、シート成形法(ドクターブレード法)によりシート成形して乾燥し、成形体(グリーンシート)を調製した。
[0084] 成形体に対し、窒素ガス雰囲気中で温度500~800 ℃で1~4時間加熱して脱脂工程を行った。
[0085] 次に脱脂処理した成形体に対し、表1および表2に示した熱処理工程および焼結工程を実施した。この工程を実施した後、表1および表2に示した条件で実施例および比較例の窒化珪素基板を作製した。また、熱処理工程および焼結工程は多段(10段重ね)にして実施した。
[表1]
[図:0001409119000006.jpg]
[0086]
[表2]
[図:0001409119000007.jpg]
」
(2)甲第3号証に記載された発明
上記(1)アによれば、窒化珪素粉末、焼結助剤粉末、有機バインダを添加して原料混合体を調製し([0061]、[0064])、ドクターブレード法、ロール成形法のようなシート成形法で成形し([0065])、成形体を加熱する脱脂工程を行い([0066])、1400~1650℃に加熱されて1~8時間保持される熱処理工程が実施され([0069])、1800~1950℃に8~18時間加熱して実施される焼結工程が実施され([0071])、冷却速度100℃/h以下で冷却すること([0074])が記載されている。また同イによれば、原料混合体に分散剤を混合すること([0083])も記載されている。
そうすると、甲第3号証には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲3発明」という。)
「窒化珪素粉末、焼結助剤粉末、有機バインダ、分散剤を添加した原料混合体を調製し、ドクターブレード法、ロール成形法のようなシート成形法で成形し、成形体を加熱する脱脂工程を行い、
1400~1650℃で保持される熱処理工程を実施し、
1800~1950℃に8~18時間加熱して実施される焼結工程を実施し、
冷却速度100℃/h以下で冷却する、
窒化珪素基板の製造方法。」
3 甲第4号証について
甲第4号証には、以下のことが記載されている
「【0103】こうして得られた実施例1~7および比較例1に係る各窒化けい素基板について、表面粗さ、粒界相の最大径、気孔率、気孔の有無およびリーク電流値を測定して表1に示す結果を得た。
・・・・
【表1】
[図:0001409119000008.jpg]
」
4 甲第5号証について
甲第5号証には以下のことが記載されている
「理論密度は、Si3N4の密度を3.18g/cm3、La2O3の密度を6.57g/cm3、MgOの密度を3.58g/cm3として配合組成から計算で求めた。」(第3頁右上欄)
第7 進歩性の欠如(申立理由1、2)についての判断
1 申立理由1について(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
(1)本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板」は、本件発明1の「窒化ケイ素で構成され」た「セラミック焼結板」に相当する。
そうすると両者は、以下の一致点と相違点を有する。
(一致点)
「窒化ケイ素で構成されるセラミック焼結板」
(相違点1)
セラミック焼結板が、本件発明1では、密度が3.24~3.35g/cm3であるのに対し、甲1発明では、密度が不明な点。
(相違点2)
セラミック焼結板が、本件発明1では、主面における表面粗さRaが0.28μm以下であるのに対し、甲1発明では、表面粗さRaが不明な点。
(相違点3)
セラミック焼結板が、本件発明1では、「800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失ε”の最大値が1×10-2以下」であるのに対し、甲1発明では、「1Vの交流電圧を印加しながら交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて焼結体の誘電損失を測定するときの800kHzないし1MHzの周波数帯域での誘電損失の平均値εAが0.042~0.092」である点。
(2)相違点の検討
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1発明の、「1Vの交流電圧を印加しながら交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて焼結体の誘電損失を測定するときの800kHzないし1MHzの周波数帯域での誘電損失」は、本件発明1の、「800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら1Vの交流電圧を印加したときに生じる誘電損失」(以下、「本件誘電損失」という。)に相当する。そうすると、本件発明1では本件誘電損失の最大値が1×10-2以下であるのに対し、甲1発明では本件誘電損失の平均値が0.042~0.092である。そして、本件誘電損失の平均値が0.042~0.092ということは、その最大値は、最低でも0.042であり、1×10-2以下にはなり得ないため、甲1発明は、本件誘電損失の最大値が1×10-2以下という条件を満たし得ない。したがって、相違点3は実質的な相違点である。
次に、相違点3の容易想到性について検討する。
本件発明1は、800Hz~1MHzの間で周波数を連続的に変化させながら1Vの交流電圧を印可したときに生じる誘電損失ε”の「最大値が1×10-2以下」とすることにより、上記第4の1(2)の【0006】及び同(4)の【0016】、さらにはその同(7)の実施例に記載されているとおり、抗折強度に優れたものにする。
一方、甲1発明においては、上記第6の1(1)アの[0007]に記載されているとおり、交流電圧の周波数が変化する場合であっても優れた絶縁性を示す焼結体を提供することを課題としており、同エの実施例を参照するに、本件誘電損失の平均値が0.042~0.092との値で絶縁耐力(kV/mm)の値が16~25であり、十分に優れた絶縁性を示している。さらに、甲1発明の窒化ケイ素基板は、同オの請求項1に記載されている「焼結体に交流電圧を印加しながら前記交流電圧の周波数を50Hzから1MHzまで連続的に変化させて前記焼結体の誘電損失を測定するとき、800kHzないし1MHzの周波数帯域での前記誘電損失の平均値εAと、100Hzないし200Hzの周波数帯域での前記誘電損失の平均値εBは、式:|εA-εB|≦0.1を満たす、焼結体」であるから、本件誘電損失の平均値を下げればいいというものでもない。
そうすると、甲1発明において、優れた抗折強度のセラミック焼結板とするために、本件誘電損失の「最大値が1×10-2以下」とする動機はない。
仮に、本件誘電損失の最大値が1×10-2とすることが記載されていて、動機付けもあったとしても、本件発明1で得られた「抗折強度に優れる」という効果は予測しえないものである。
そして、甲第2号証、さらには、甲第3~5号証にも、本件誘電損失に関する記載はない。
したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
2 申立理由2について(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
(1)本件発明2と甲3発明の対比
ア 甲3発明の「窒化珪素粉末、焼結助剤粉末、有機バインダ」は、本件発明2の「窒化ケイ素、焼結助剤、バインダ」に相当する。
イ 甲3発明の「ドクターブレード法、ロール成形法のようなシート成形法で成形」することは、本件発明2の「グリーンシート」を成形することに相当し、甲3発明の「ドクターブレード法、ロール成形法のようなシート成形法で成形し」た「成形体」は、本件発明2の「グリーンシートの積層体」とは「成形体」である点で共通する。
ウ 甲3発明の「1400~1650℃で保持される熱処理工程」は、本件発明2の「所定の焼成温度で加熱して加熱処理物を得る焼成工程」であって「1600℃以上1800℃未満の温度で加熱処理を行う第一焼成工程」に相当する。
エ 甲3発明の「1800~1950℃に」「加熱して実施される焼結工程」は、本件発明2の「所定の焼成温度で加熱して加熱処理物を得る焼成工程」であって「1800℃以上2000℃以下の温度で加熱処理を行う第二焼成工程」に相当する。
オ 甲3発明の「冷却する」ことは、本件発明2の「加熱処理物」を「焼成温度から室温まで冷却」する「降温工程」を「有する」ことに相当する。
カ 甲3発明の「窒化珪素基板の製造方法」は、本件発明2の「セラミック焼結板の製造方法」に相当する。
そうすると、甲3発明と本件発明2とは以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「窒化ケイ素、焼結助剤、バインダ及び分散剤を含むグリーンシートの成形体を加熱して脱脂する脱脂工程と、
脱脂された成形体を所定の焼成温度で加熱して加熱処理物を得る焼成工程と
前記加熱処理物を前記焼成温度から室温まで冷却してセラミック焼結体を得る降温工程と、を有し、
前記焼成工程は、
1600℃以上1800℃未満の温度で加熱処理を行う第一焼成工程と、
1800℃以上2000℃以下の温度で、加熱処理を行う第二焼成工程と、
を含む、セラミック焼結板の製造方法」
(相違点4)
グリーンシートの成形体が、本件発明2では、グリーンシートの「積層体」であるのに対し、甲3発明は積層体かどうか不明な点。
(相違点5)
「降温工程」が、本件発明2では、「900~1200℃の温度で0.5~2.0時間保持する第一工程と、1400~1600℃の温度で1.5~4.0時間保持する第二工程」を含むものであるのに対し、甲3発明は、「冷却速度100℃/h以下で冷却する」ものである点。
(2)相違点の検討
事案に鑑み、相違点5の容易想到性について検討する。
本件発明2は、上記第4の1(6)の実施例と比較例の記載を参照すると、比較例2及び3では「自然冷却」されているのに対し、実施例1では、「
降温工程における焼成炉の温度に関し、1830℃から1100℃まで120分かけて冷却し、1100℃の温度(第一温度)で2時間保持した。その後、1500℃まで240分かけて加熱し、1500℃(第二温度)で2時間保持した」とされ、実施例2では、「第二温度を1600℃に変更したこと以外は、実施例1と同様」にしたとされ、実施例3では、「第一温度を1200℃に変更したこと以外は、実施例1と同様」にしたとされ、実施例4では、「実施例1と同様にした」とされている。そして、表1を参照すると、前者では本件誘電損失の最大値が0.0153~0.0391で、抗折強度が670~750MPaであるのに対し、後者では本件誘電損失の最大値が0.0032~0.0064で、抗折強度が820~920MPaである。そうすると、本件発明2では「降温工程は、900~1200℃の温度で0.5~2.0時間保持する第一工程と、1400~1600℃の温度で1.5~4.0時間保持する第二工程と、を含む」ことにより、本件誘電損失の「最大値が1×10-2以下」となり、優れた抗折強度を得ているといえる。
一方、甲3発明では、冷却速度を特定するのみで、上記2段階の降温工程とするものでもなく、その他の甲第1、2、4及び5号証の記載を参照しても、900~1200℃の温度で0.5~2.0時間保持する第一工程と1400~1600℃の温度で1.5~4.0時間保持する第二工程とを含む降温工程とすることにより、優れた抗折強度を得ることについては、記載されていない。
さらに、第4の1(6)に記載された事項によれば、本件発明2では、降温工程において、第一保持工程、第一保持工程より高い温度での第二保持工程という少なくとも2段階の保持工程を設けることによって、セラミック焼結体の表層の欠陥等が生じることを抑制し、表層の欠陥を修復し、より平滑度を向上させ、抗折強度をさらに向上させているものであるといえ、このような効果は甲3発明から予測しうるものではない。
したがって、甲3発明において、相違点5に係る本件発明2の構成を採用することは当業者が容易に想到しうるものではないし、仮に採用したとしてもその効果は予測しうるものではない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。
第8 明確性要件違反(申立理由3)についての判断
本件発明1の「表面粗さRaが0.28μm以下」は、研磨工程の有無について何ら特定していないため、研磨工程を行ったものも、行っていないものも含むと理解するのが相当である。そして、本件明細書には「表面粗さRaが0.28μm以下」が、研磨工程によって得られたものであることを妨げるような記載もない。
してみれば、「表面粗さRaが0.28μm以下」は、研磨工程によるものも、研磨工程によらないものも含んでおり、この点において明確である。
したがって、申立理由3に理由はない。
なお、異議申立書において、申立人は、審査過程の令和4年9月26日に提出された意見書に、「本願においては、セラミック焼結板を製造する際の降温過程において再加熱することによって、焼成体中に保持された焼結助剤を再び溶融液相化させることによって、表層の欠陥を修復し、より平滑度を向上させ、得られるセラミック焼結板の主面における表面粗さを低下させております」と記載されており、本件発明の主面が、令和4年7月26日付けの拒絶理由通知で引用された引用文献1に記載の研磨面とは異なる旨の主張を行っているため、本件発明は研磨加工せずに表面粗さRaが0.28μm以下であるものである旨の主張をしている。
しかし、上記意見書では「本件の請求項1に係る発明においては、主面における表面粗さRaが0.28μm以下に特定されているのに対して、引用文献1に記載の発明ではそのような特定がない」と主張がされているものである。
上記意見書には、「本願においては、セラミック焼結板を製造する際の降温工程において再加熱することによって、焼成体中に保持された焼結助剤を再び熔融液相化させることによって、表面の欠陥を修復し、より平滑度を向上させ、得られるセラミック焼結板の主面における表面粗さを低下させております」とも記載されているが、これは、本件発明において、上記方法によってRaを0.28μm以下とすることができることを述べているにとどまり、研磨工程を排除するものではない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700575