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特許異議申立

2022-700839

窒化アルミニウム焼結体、及び基板

審判番号
2022-700839
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-502207
登録番号
7043689
請求日
2022年08月26日
審決日
2023年04月27日
公報発行日
2023年08月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】デンカ株式会社
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】清水 義憲
  • 【権利者代理人】吉住 和之
  • 【権利者代理人】中塚 岳
  • 【権利者代理人】石坂 泰紀
  • 【異議申立人】青木 眞理
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 立木 林
分類
P1651.113-YAA(H05K) / P1651.121-YAA(H05K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7043689号発明「窒化アルミニウム焼結体、及び基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7043689号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第7043689号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7043689号の請求項1~6に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)6月21日(優先権主張 令和2年6月22日)を国際出願日とする出願であって、令和4年3月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行されたものである。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 8月26日 :特許異議申立人 青木眞理(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て 同年11月 8日付け:取消理由通知書 令和5年 1月10日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 2月17日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「である、」と記載されているのを、「であり、体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上である、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6についても同様に訂正する。)。なお、下線は訂正箇所を示す。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無 (1)目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、窒化アルミニウム焼結体を「体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上である」窒化アルミニウム焼結体に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、窒化アルミニウム焼結体を「体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上である」ものに限定する訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)新規事項の有無 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0027】には「窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率は、5.0×1011Ω・cm以上であってよく、1.0×1012Ω・cm以上であってよく、2.0×1012Ω・cm以上であってもよい。」と記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 3 一群の請求項について 訂正前の請求項2~6は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~6は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1は、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。 4 訂正の適否についてのまとめ 上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 主成分として窒化アルミニウムと、構成元素としてイットリウム及びアルミニウムを有する酸化物と、を含み、 前記酸化物は、3Y2O3・5Al2O3とY2O3・Al2O2を含有し、Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の質量比が0.2以上であり、体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上である、窒化アルミニウム焼結体。 【請求項2】 前記酸化物全体に対する3Y2O3・5Al2O3の含有量が、20質量%以上である、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。 【請求項3】 前記酸化物全体に対するY2O3・Al2O3の含有量が、80質量%以下である、請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム焼結体。 【請求項4】 前記酸化物全体の含有量が、0.5~8質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム焼結体。 【請求項5】 前記酸化物の粒子の粒径は15μm未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム焼結体。 【請求項6】 請求項1~5のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム焼結体で構成されるセラミック板と、前記セラミック板に取り付けられる金属部と、を備える基板。」 第4 取消理由の概要 令和4年11月8日付け取消理由通知書で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 取消理由1 (新規性)本件特許の訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 取消理由2 (進歩性)本件特許の訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて、本件特許出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <甲号証一覧> 甲第1号証:特開平9-71469号公報 甲第2号証:高山透、外1名、「XRD-リ-トベルト法による焼結鉱中の鉱物相の定量解析」、新日鉄住金技報、第408号、2017年、pp.67-75 甲第3号証:特開平6-219844号公報 甲第4号証:特開2001-354479号公報 (以下、甲第○号証は「甲○」という。) 第5 甲号証の記載 1 甲1について (1)記載事項について 甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。 (甲1ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、窒化アルミニウム焼結体に関し、特に高い熱伝導性とともに高い強度を有する窒化アルミニウム焼結体に関するものである。」 (甲1イ)「【0009】そこで、この発明の目的は、高い熱伝導率を維持するとともに高い抗折強度を有する窒化アルミニウム焼結体を提供することである。 【0010】特に、この発明の目的は、窒化アルミニウム焼結体の抗折強度を改善することであり、窒化アルミニウム焼結体を電子部品(IC用基板等)として使用する際に生ずる、熱応力による部品の損傷・破壊を防止することである。」 (甲1ウ)「【0012】好ましくは、上記のXは、イットリウム(Y)である。Xがイットリウム(Y)の場合、AはY2O3・Al2O3(YALと称する)であり、Bは3Y2O3・5Al2O3(YAGと称する)である。 【0013】本発明は、窒化アルミニウム焼結体中の複合酸化物の組成を制御することにより、高い熱伝導率を維持するとともに、抗折強度を大幅に向上させた窒化アルミニウム焼結体を得ようとするものである。 【0014】このような複合酸化物のほとんどは、窒化アルミニウム結晶組織の粒界相部分に存在する。窒化アルミニウム焼結体の破壊は主としてこの粒界相部分で起こる。そのため、複合酸化物が破壊現象に大きな影響を与える。 【0015】そこで、本願発明者らは、鋭意研究した結果、上記のYAL/YAGの存在比率がX線強度比で30/70以上、95/5以下の範囲内にあるとき、窒化アルミニウム焼結体の抗折強度が大幅に向上することを見いだした。また、この範囲内では、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率も160W/m・K以上と高い値を維持しており、実用上問題とはならないことを見いだした。」 (甲1エ)「【0018】 【実施例】表1に示されるように酸素含有量を調整した13種類の窒化アルミニウム原料粉末を準備した。 【0019】 【表1】 [図:0001400467000001.jpg] 【0020】各種の窒化アルミニウム原料粉末を用いて、以下の表2に示される2つの調合組成IとIIに従って混合粉末を作製した。 【0021】 【表2】 [図:0001400467000002.jpg] 【0022】なお、表2の中で、アクリルバインダはポリアルキルメタアクリレート、滑剤はステアリン酸、有機溶剤はIPA(イソプロピルアルコール)とトルエンを1対4の体積パーセント比で混合したものを用いた。 【0023】上記の混合工程は、500mlのポリ容器に、表2に示された各組成物を99.9%アルミナ製のボール(直径が10mm)200gとともに装入して、60r.p.m.の回転数で2時間回転させることにより行なわれた。 【0024】このようにして得られた各種の混合粉末を温度80℃で180分間乾燥させた。 【0025】乾燥後、混合粉末を60メッシュの篩に通して整粒した。その後、乾式1軸プレスを用いて500kg/cm2の圧力で各種の混合粉末を4.5mm×3.4mm×40mmの大きさの棒状体に成型した。このようにして得られた成型体を1000kg/cm2の圧力で冷間静水圧成形した。 【0026】このようにして得られた成形体に温度450℃の乾燥空気中で180分間、脱脂処理を施した。 【0027】その後、成形体を1850℃の窒素雰囲気中で180分間、焼成した。以上のようにして作製された各種の窒化アルミニウム焼結体の試料を用いて抗折強度とX線回折強度と熱伝導率の測定を行なった。 【0028】抗折強度は、東京試験機株式会社製の引張・圧縮強度試験器(SENSTAR ESC-05TD)を用いて、測定した。試料の寸法は、JIS R1601に規定される寸法(3mm×4mm×36mm)を採用した。試験方法としては支点間距離を30mmとし、クロスヘッドスピードを0.5mm/min.として3点曲げ試験を行なった。 【0029】X線回折強度は、株式会社リガク製の粉末X線回折装置(RAD-Bシステム)を用いて測定した。試料としては、上記のようにして得られた焼結体を陶磁器製およびメノウ製の乳鉢で粉砕したものを用いた。回折条件は、対陰極としてCu(Kα)を用いて、40KV×30mAの負荷で回折角度(2θ)を20~45°とした。X線強度比の計算は、回折角度範囲に含まれるYAM(2Y2O3・Al2O3)、YAL(Y2O3・Al2O3)、YAG(3Y2O3・5Al2O3)のすべての回折線の観測強度と、標準回折強度とから、最小自乗法により回折強度比を求めた。これは、上記のX線回折装置に付属された解析プログラムに従った。 【0030】熱伝導率は、株式会社リガク製のレーザーフラッシュ熱特性測定装置(LF/TCM-FA8510B)を用いて測定した。測定対象としての試料の大きさは、直径が10mm、厚みが2.0mmであった。 【0031】以上のようにして測定された各試料のX線強度比によるYAGとYALの存在比率(%)と抗折強度(kgf/mm2)と熱伝導率(W/m・K)は表3と表4に示される。表3は、表2で示された調合組成Iに従った混合粉末を用いた場合の試料についての結果を示しており、表4は、表2で示された調合組成IIに従った混合粉末を用いた試料についての結果を示している。 【0032】 【表3】 [図:0001400467000003.jpg] 【0033】 【表4】 [図:0001400467000004.jpg] 」 (2)甲1発明について 上記(甲1ウ)に記載されているとおり、YAL、YAGとは、順にY2O3・Al2O3、3Y2O3・5Al2O3のことであり、また、上記(甲1イ)に記載されているとおり窒化アルミニウム焼結体は「電子部品(IC用基板等)として使用する」ものである。そして、実施例である(甲1エ)の表4の試料No.6に基づいて、甲1に記載されている発明(以下「甲1発明」という。)を認定すると、以下のとおりである。 「電子部品(IC用基板等)として使用する窒化アルミニウム焼結体であって、X線強度比による以下の各相の存在比率が、AlNが92.4、3Y2O3・5Al2O3が6.7、Y2O3・Al2O3が0.9である窒化アルミニウム焼結体。」 2 甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 「リートベルト法は結晶構造モデルを用いてXRDパターン全体をシミュレートして,実験で得られるXRDパターンと比較し,実験と計算XRDパターンの残差が最小になるように結晶構造モデルの結晶格子定数,原子座標などの結晶構造因子や重量分率を最小二乗法で最適化する解析手法である。この手法は,回折ピ-クが重複するような複数相を有する材料でも,各鉱物相の定量を高精度に決定できる特徴を有する。」(67頁右欄最下行~68頁左欄7行) 3 甲3について 甲3には、以下の事項が記載されている。 (甲3ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】粒界相を含有するAlN焼結体において、該焼結体切断面における粒界相の (a)平均周長が0.1~15μmで、 (b)平均最小径と平均最大径の比率が0.5~1.0で、 (c)平均粒径とAlN粒の平均粒径の比率が0.5以下であり、かつ該粒界相組成が3Y2O3・5Al2O3およびY2O3・Al2O3からなることを特徴とするAlN焼結体。」 (甲3イ)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】上記のように最近開示されたAlN焼結体は優れた熱伝導性を有するが、高出力化、高集積化による発熱量が増大すると、耐熱サイクル特性等の耐熱疲労特性が難点となり、基板等の薄板に亀裂が発生し、基板回路に支障をきたすという問題も出てくる。そのため、耐熱サイクル特性を向上させる必要があり、本発明はその特性を向上させることを目的とする。」 4 甲4について 甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】窒化アルミニウム結晶組織にYAG,YAMおよびYALの少なくとも一種を含む粒界相が形成され、粒界相の最大径が1μm以下であり、かつ熱伝導率が188W/m・K以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。」 (甲4イ)「【0012】本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、高強度で熱伝導率が高く放熱特性が優れた窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。」 第6 当審の判断 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「3Y2O3・5Al2O3」及び「Y2O3・Al2O3」は、本件発明1の「構成元素としてイットリウム及びアルミニウムを有する酸化物と、を含み、前記酸化物は、3Y2O3・5Al2O3とY2O3・Al2O3を含有」することに相当し、また、甲1発明の「AlN」を含む「窒化アルミニウム焼結体」は、本件発明1の「主成分としてAlN」「を含」む「窒化アルミニウム焼結体」に相当する。 イ 各相の「質量比」とは、質量という物理量のもとでの各相の「存在比」を表すことから、甲1発明の「X線強度比による」「存在比率」と、本件発明1の「質量比」とは、ある物理量の上位概念としての「存在比」で共通するといえる。 そして、甲1発明の「Y2O3・Al2O3」に対する「3Y2O3・5Al2O3」の「X線強度比による」「存在比率」として「6.7」/「0.9」、すなわち7.4は、数値として「0.2以上」を満たすものである。 そうすると、甲1発明の「Y2O3・Al2O3」に対する「3Y2O3・5Al2O3」の「X線強度比による」「存在比率」として「6.7」/「0.9」と、本件発明1の「Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の質量比が0.2以上」とは、「Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の存在比が0.2以上」であることで共通するといえる。 ウ ゆえに、本件発明1と甲1発明とは、 (一致点) 「主成分として窒化アルミニウムと、構成元素としてイットリウム及びアルミニウムを有する酸化物と、を含み、 前記酸化物は、3Y2O3・5Al2O3とY2O3・Al2O3を含有し、Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の存在比が0.2以上である、窒化アルミニウム焼結体。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の存在比が、本件発明1では、「質量比」であるのに対し、甲1発明では、「X線強度比による」点。 (相違点2) 窒化アルミニウム焼結体が、本件発明1では、「体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上」であるのに対し、甲1発明では、体積抵抗率の値が不明である点。 (2)相違点の判断 ア 相違点1について (ア)本件発明1における「Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の質量比」は、本件明細書に、 「【0021】 本開示における酸化物の組成は、窒化アルミニウム焼結体から、主成分である窒化アルミニウムを加水分解反応によって溶解除去し、残存する酸化物のX線回折を行うことによって求めることができる。加水分解反応は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いてよい。主成分である窒化アルミニウムを加水分解反応で溶解除去することによって、粒子状の酸化物の凝集状態も把握することができる。X線回折には、例えば、株式会社リガク製のMiniFlex(装置名)を用いることができる。」 「【0044】 図3は、残存した粒状の副成分のSEM写真である。図3に示すとおり、粒状の副成分は凝集しておらず、粒径は15μm未満であった。次に、図3の副成分の粉末X線回折を行った。分析には、株式会社リガク製のMiniFlex(商品名)を用いた。その結果、副成分は、3Y2O3・5Al2O3(YAG)とY2O3・Al2O3(YAP)を含有することが確認された。これらの成分の他に、Al(OH)3が検出された。このAl(OH)3は、加水分解反応の際に生じたものと考えられる。一方、副成分における酸化アルミニウム、酸化イットリウム及び2Y2O3・Al2O3(YAM)の含有量は検出限界以下であった。つまり、YAP及びYAG以外の酸化物は検出されなかった。酸化物全体に対するYAGとYAPの含有量、及び、YAPに対するYAGの質量比は表1に示すとおりであった。」 と記載されているとおり、株式会社リガク製のMiniFlex(装置名)を用いて粉末X線回折によって求めたものである(なお、当審の調査によると、株式会社リガク製のMiniFlexは、粉末X線回折の結果からリートベルト解析(例えば、甲2参照)により各相の質量%を求めている。)。 (イ)一方、甲1発明の「X線強度比による」「存在比率」は、(甲1ウ)の【0029】に「X線回折強度は、株式会社リガク製の粉末X線回折装置(RAD-Bシステム)を用いて測定した。」「X線強度比の計算は、回折角度範囲に含まれるYAM(2Y2O3・Al2O3)、YAL(Y2O3・Al2O3)、YAG(3Y2O3・5Al2O3)のすべての回折線の観測強度と、標準回折強度とから、最小自乗法により回折強度比を求めた。これは、上記のX線回折装置に付属された解析プログラムに従った。」と記載されている。 (ウ)一般に、粉末X線回折において、各相の回折強度比と質量比は比例関係にあり、本件発明1の「Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の質量比」が、株式会社リガク製のMiniFlex(装置名)を用いて粉末X線回折によって求めたものであることを踏まえると、甲1発明の「X線強度比による」「Y2O3・Al2O3」に対する「3Y2O3・5Al2O3」の「存在比率」と、本件発明1の「Y2O3・Al2O3に対する3Y2O3・5Al2O3の質量比」とは数値として実質的に相違するとはいえない。 イ 相違点2について (ア)本件明細書では、体積抵抗率について、実施例1は2.1×1012Ω・cm、実施例2は4.5×1012Ω・cm、実施例3は1.1×1012Ω・cmとすべての実施例において体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上であるのに対し、比較例1は2.0×1011Ω・cm、比較例2は1.6×1011Ω・cmとすべての比較例において5.0×1011Ω・cm未満となっており、それらの製造方法について以下のように記載されている。 「【0041】 [実施例1] (窒化アルミニウム焼結体の作製) 窒化アルミニウム粉末と、酸化イットリウム粉末と、酸化アルミニウム粉末とを、93.5:3.5:3.0の質量比で配合し、ボールミルを用いて混合して混合粉末を得た。混合粉末100質量部に対し、セルロースエーテル系バインダー(信越化学工業株式会社製、商品名:メトローズ)を6質量部、グリセリン(花王株式会社製、商品名:エキセパール)を5質量部、及びイオン交換水を10質量部添加して、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合し、成形原料を得た。この成形原料を、ドクターブレード法によって成形し、シート状の成形体(厚み:1.4mm)を作製した。 【0042】 この成形体に、離型剤として窒化ホウ素粉を塗布した後、15枚を積層し、空気中において570℃で5時間加熱して脱脂した。次に、脱脂体を、加熱炉に入れて、窒素ガス雰囲気中(大気圧)、1800℃まで昇温した。その後、1800℃で4時間保持した後、加熱炉内で放冷した。このようにして、窒化アルミニウム焼結体を得た。」 「【0046】 [実施例2] 1800℃での保持時間を3.5時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を作製した。そして、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結体に含まれる副成分の組成分析及び評価を行った。副成分の組成分析、及び窒化アルミニウム焼結体の評価の結果は表1に示すとおりであった。 【0047】 [実施例3] 1800℃での保持時間を5時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を作製した。そして、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結体に含まれる副成分の組成分析及び評価を行った。副成分の組成分析、及び窒化アルミニウム焼結体の評価の結果は表1に示すとおりであった。 【0048】 [比較例1] 1800℃での保持時間を6時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を作製した。そして、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結体に含まれる副成分の組成分析及び評価を行った。図4は、残存した粒状の副成分のSEM写真である。副成分の組成分析、及び窒化アルミニウム焼結体の評価の結果は表1に示すとおりであった。 【0049】 [比較例2] 1800℃での保持時間を8時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を作製した。そして、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結体に含まれる副成分の組成分析及び評価を行った。図5は、残存した粒状の副成分のSEM写真である。副成分の組成分析、及び窒化アルミニウム焼結体の評価の結果は表1に示すとおりであった。 【0050】 【表1】 [図:0001400467000005.jpg] 【0051】 表1に示すとおり、YAPに対するYAGの質量比が高い実施例1~3の窒化アルミニウム焼結体は、高い体積抵抗率を有していた。図3、図4及び図5のSEM写真から、図3(実施例1)の酸化物は殆ど凝集していないことが確認された。実施例1~3の窒化アルミニウム焼結体に含まれる酸化物の粒子の粒径は、15μm未満であった。一方、図4及び図5(比較例1及び比較例2)の酸化物には、15μm以上の粒径を有する凝集粒子が含まれていた。」 これら実施例及び比較例の記載を参照すると、窒化アルミニウム焼結体を製造する際に、窒化アルミニウム粉末と、酸化イットリウム粉末と、酸化アルミニウム粉末とを混合した混合粉末を成形し、脱脂した後、1800℃で、実施例では4時間(実施例1)、3.5時間(実施例2)、5時間(実施例3)保持しているのに対し、比較例では6時間(比較例1)、8時間(比較例2)保持している。 そうすると、混合する粉末として窒化アルミニウム粉末、酸化イットリウム粉末及び酸化アルミニウム粉末と用いたとしても、脱脂後に1800℃で保持する時間が5~6時間を境に、それより加熱時間が短いと酸化物が凝集せず、体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上となり、それより加熱時間が長いと酸化物が凝集して、体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm未満となるといえる。 (イ)一方、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法については、上記第5の1(1)(甲1エ)に記載されているように、表2の調合組成IIであるAlN(97重量部)とY2O3(3重量部)との混合粉末を成形し、脱脂し、「1850℃の窒素雰囲気中で180分間、焼成した。」(【0027】)と記載されている。 (ウ)上記(ア)で記載した本件発明1の窒化アルミニウム焼結体の製造方法(以下「本件製造方法」という。)と、上記(イ)で記載した甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法(以下「甲1製造方法」という。)とは、まず、混合粉末について、本件製造方法では酸化アルミニウムが混合されているのに対し、甲1製造方法では酸化アルミニウムは混合されていない。そして、本件明細書の【0032】には「焼結助剤としては、イットリウム及びアルミニウムを有する粒子状の酸化物を形成するものを用いる。例えば、酸化アルミニウム及び酸化イットリウムを用いる。両者の配合割合を変えて、窒化アルミニウム焼結体における酸化物の組成を調整してもよい。例えば、酸化イットリウムに対する酸化アルミニウムの質量比が1.0を超えてもよく、1.1を超えてもよい。これによって、窒化アルミニウム焼結体における酸化物の凝集を抑制することができる。」と記載されていることから、酸化アルミニウムが焼結助剤として添加されていない甲1製造方法では、酸化物が凝集しやすく、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率が、本件発明1の窒化アルミニウム焼結体と同等又はより高いとはいえない。 また、上記(ア)の記載を参照すると、同じ焼成温度でも焼成時間が長い、すなわち、焼成する際に付与する熱エネルギーが大きい方が、酸化物はより凝集していることから、同じ焼成時間でも焼成温度が高い方が、付与する熱エネルギーが大きくなり、酸化物はより凝集しやすいといえる。そうすると、上記甲1製造方法では、焼成温度が3時間ではあるものの、焼成温度は1850℃と本件製造方法の1800℃より高い温度であることから、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体は、本件発明1の窒化アルミニウム焼結体と比べて酸化物が凝集していないとはいえず、体積抵抗率も、本件発明1の窒化アルミニウム焼結体と同等又はより高いとはいえない。特に、本件明細書の【0034】には「窒化アルミニウム焼結体は、上述の成形体を焼成して得ることができる。焼成は、不活性ガス雰囲気中で、1760~1840℃に昇温する。1760~1840℃における保持時間は、1~5時間とする。焼成温度が高過ぎたり、保持時間が長くなり過ぎたりすると、YAPの生成が促進され、YAPに対するYAGの質量比が小さくなる傾向にある。」と記載されており、甲1製造方法における「1850℃」の焼成温度は、本件製造方法に比べて高すぎるものである。 そうすると、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体は、それを製造するための製造方法(甲1製造方法)を鑑みるに、上記混合粉末及び焼成温度の点で、本件発明1の窒化アルミニウム焼結体を製造するための製造方法(本件製造方法)と異なる。そして、それらの点は窒化アルミニウム焼結体における酸化物の凝集を抑制し、体積抵抗率を向上させる点において肝要なことであるから、酸化アルミニウムが焼結助剤として添加されておらず、焼成温度が本件製造方法に比べて高すぎる甲1製造方法で製造された甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率が、本件発明1の窒化アルミニウム焼結体と同等又はそれより高い「5.0×1011Ω・cm以上」と判断することはできない。 したがって、「体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上」(相違点2)は、実質的な相違点である。 (エ)次に、相違点2についての容易性について判断する。 甲1発明の課題は、上記第5の1(1)(甲1イ)で摘記したとおり、「高い熱伝導率を維持するとともに高い抗折強度を有する窒化アルミニウム焼結体を提供すること」で、「特に、この発明の目的は、窒化アルミニウム焼結体の抗折強度を改善することであり、窒化アルミニウム焼結体を電子部品(IC用基板等)として使用する際に生ずる、熱応力による部品の損傷・破壊を防止すること」であり、甲1には、高い熱伝導率及び高い抗折強度を保ったまま、体積抵抗率を高くすることができることを示す記載はない。 そうすると、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体は、電子部品(IC用基板等)として使用するものであるにしろ、高い熱伝導率、高い抗折強度、熱応力による損傷・破壊の防止を損なう恐れがある状況下で、体積抵抗率の値を高くしようとすることはないことから、甲1発明において、高い熱伝導率、高い抗折強度、熱応力による損傷・破壊の防止とは無関係に、体積抵抗率の値を「5.0×1011Ω・cm以上」とする動機はない。 また、上記甲2は窒化アルミニウム焼結体に関するものではなく、上記甲3及び4は窒化アルミニウム焼結体に関するものであるが、いずれも、上記第5の3及び4で摘記したとおり、体積抵抗率を高くすることを課題とするものではないことから、甲2~4に接した当業者が、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率を高くして「5.0×1011Ω・cm以上」としようとすることはない。 (3)申立人の主張について ア 申立人は、令和5年2月17日提出の意見書(以下「意見書」という。)で、以下の(ア)~(ウ)点を主張している。 (ア)参考資料1(国際公開2010/109960号)及び参考資料2(特開平10-316473号公報)を提示して、「「体積抵抗率が5.0×1011Ω・cm以上である」ことは周知技術に過ぎない。」と主張している。 (イ)甲1の【0027】、甲3の【0017】、甲4の【0037】の記載から、「窒化アルミニウム焼結体における焼結時間を短時間にすることは従来から行われている周知技術である。」と主張している。 (ウ)甲1の【0038】の記載から、「これにより、原料粉末として酸化アルミニウムを加えることが示唆されていると言える。結局のところ、甲第1号証は、窒化アルミニウム粉末中の酸素量が、本件特許明細書の原料粉末としての酸化アルミニウムの添加と同様の効果を得ている。」と主張している。 イ 申立人の主張に対する当審の判断 (ア)について a 参考資料の記載事項 (a)参考資料1(国際公開2010/109960号) 参考資料1(以下「参1」という。)には、以下の事項が記載されている。 「[0012] 本発明は、窒化アルミニウム基板中の窒化アルミニウム結晶粒の粒径を制御するとともに、焼結助剤に由来する複合酸化物結晶粒の粒径および含有量を制御する等により、窒化アルミニウム基板の抗折強度を向上させることが可能であることを見出して完成されたものである。 [0013] 本発明に係る窒化アルミニウム基板は、上記問題点を解決するものであり、複数個の窒化アルミニウム結晶粒と、この窒化アルミニウム結晶粒の粒界に存在し、希土類元素とアルミニウムとを含む複合酸化物結晶粒と、を備えた多結晶体からなり、窒化アルミニウムを主成分とする窒化アルミニウム基板であって、前記窒化アルミニウム結晶粒の最大粒径が10μm以下であり、前記複合酸化物結晶粒の最大粒径が前記窒化アルミニウム結晶粒の最大粒径よりも小さく、前記窒化アルミニウム基板を表面観察した100μm×100μmの視野中に、前記複合酸化物結晶粒の1μm以上のものが40個以上あり、焼き上がり後の研磨していない状態での抗折強度が400MPa以上であり、体積抵抗率が1012Ωm以上であることを特徴とする。 [0014] また、本発明に係る窒化アルミニウム回路基板は、上記問題点を解決するものであり、上記窒化アルミニウム基板の表面に、導体部を設けたことを特徴とする。 [0015] さらに、本発明に係る半導体装置は、上記問題点を解決するものであり、の窒化アルミニウム回路基板の導体部に半導体素子を搭載したことを特徴とする。 [0016] また、本発明に係る窒化アルミニウム基板の製造方法は、上記問題点を解決するものであり、窒化アルミニウム粉末、希土類酸化物粉末および有機バインダーを成形して得られた第1窒化アルミニウム成形体を、大気中で脱脂して第2窒化アルミニウム成形体を得る脱脂工程と、前記第2窒化アルミニウム成形体を真空中、1300℃~1500℃で焼結させて第1焼結体を得る第1焼結工程と、前記第1焼結体を不活性雰囲気中、1750℃~1820℃で焼結させて窒化アルミニウム基板を得る第2焼結工程と、を備えることを特徴とする。」 (b)参考資料2(特開平10-316473号公報) 参考資料2(以下「参2」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【0012】本発明者らは、この点について、更に検討したところ、窒化アルミニウム粉末原料の酸素含有量は1.0~1.2重量%であることが必要条件であり、また焼結はワークの周囲が還元雰囲気とならないように例えばBN容器に入れて行うことが重要であることを見いだした。 【0013】しかも、昇温時にワークの酸化を防止するため、1×10-3Torr以上の高真空下において、1700℃まではできるだけ急速に、より具体的には昇温速度は10℃/min以上で昇温することが望ましい。また、その後に続く焼成温度、焼成時間、冷却速度についてもいずれも重要であり、焼成温度と焼成時間は可能な限り低温かつ短時間、より具体的には1800~1820℃×30~60分、冷却は窒素ガス流量を50リットル/min以上、特に100リットル/min以上と多くし、10℃/min以上の速度で急冷することが望ましい。このような焼成条件は新規である。 【0014】熱量が上記焼成条件よりも少なくなる状態で焼成すると焼結不足を起こし、液相に溶け込んだAlNがそのまま残存し粒界相のN含有量は増加する。一方、熱量が上記焼成条件よりも多くなる状態で焼成すると、液相に溶け込んだAlNの再析出が活発となり粒界相のN含有量が減少するが、焼結体の微構造が乱れ、抗折強度や熱伝導率が低下する。 ・・・ 【0020】以上のようにして製造された窒化アルミニウム焼結体は、熱伝導率120W/mK以上特に140W/mK以上、抗折強度35kg/mm2以上特に40kg/mm2以上、150℃の空気中の体積抵抗率1×1013Ω・cm以上特に1×1014Ω・cm以上となる。また、粒界相のN含有量は1.5~2. 5重量%となる。」 b 甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率について 参1及び参2には、窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率が、それぞれ1012Ωm(1014Ωcm)以上、1×1013Ω・cm以上(150℃の空気中)であることが記載されているものの、上記(2)イ(ア)で摘記した本件明細書の実施例及び比較例の記載を参照するに、同じ焼成温度で焼成してもその焼成時間によって体積抵抗率は変化するものである。例えば、1800℃で3.5時間焼成したものの体積抵抗率は4.5×1012Ω・cm(実施例2)であるのに対し、8時間焼成したものでは1.6×1011Ω・cm(比較例2)である。ましてや、甲1製造方法における「1850℃の窒素雰囲気中で180分間」の焼成は、参1の「真空中、1300℃~1500℃で焼結させて第1焼結体を得る第1焼結工程と、前記第1焼結体を不活性雰囲気中、1750℃~1820℃で焼結させて窒化アルミニウム基板を得る第2焼結工程」からなる2段階の焼成工程、参2の「1×10-3Torr以上の高真空下において、1700℃までは昇温速度10℃/min以上で昇温し、1800~1820℃×30~60分、10℃/min以上の速度で急冷する」との焼成工程とは、雰囲気、焼成段階、焼成温度、焼成時間等、大きく異なるものであるから、参1又は参2を参照しても、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率を、1014Ωcm以上又は1×1013Ω・cm以上(150℃の空気中)すなわち「5.0×1011Ω・cm以上」を満たすものであるとは判断できない。 c 甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率の容易性について 次に、甲1発明の窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率を、参1又は参2を参照して、1014Ωcm以上又は1×1013Ω・cm以上(150℃の空気中)すなわち「5.0×1011Ω・cm以上」を満たすものにすることが容易であるかどうかについて検討する。 まず、甲1には、体積抵抗率を向上させるという課題は記載されていないことから、「5.0×1011Ω・cm以上」とする直接的な動機はない。しかし、甲1発明は、「電子部品(IC用基板等)として使用する」ものであり、IC用基板は電気絶縁性を必要とするものであることを考慮すると、体積抵抗率を向上させるという潜在的な技術課題があるともいえることから、念のため、体積抵抗率を向上させるという課題があるとして以下検討する。 上記(2)イ(ア)で摘記した本件明細書の実施例及び比較例の記載を参照するに、同じ焼成温度で焼成してもその焼成時間によってYAGとYAPの質量(存在)比率は変化するものであり、例えば、1800℃で8時間焼成したものはYAG/YAPが0.05である(比較例2)のに対し、3.5時間焼成したものでは0.75(実施例2)と大きく変化するものである。このように、焼成条件が異なるだけで、YAGとYAPの存在比率は大きく変化するものである。 一方、甲1発明は、上記第5の1(1)(甲1ウ)に記載されているように、YAL(YAP)とYAGの存在比率をある範囲とすることにより窒化アルミニウム焼結体の抗折強度を大幅に向上させるとともに、熱伝導率も高い値に維持するものである。焼成条件を変えるとYALとYAGの存在比率は大きく変化することを踏まえると、仮に参1又は参2の焼成条件を採用したとしても、YALとYAGの存在比率を上記のある範囲に保持し、窒化アルミニウム焼結体の抗折強度が大幅に向上し、熱伝導率も高い値に維持しておくことができるとはいえない。 そうすると、甲1発明において、体積抵抗率を向上させるという課題が仮にあるとしも、参1又は参2の焼成条件を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。 d 以上のことから、申立人が意見書で提示してきた参1及び参2を参照しても、上記(2)イで述べた相違点2に対する当審の判断が変わることはない。 (イ)について 甲1の焼成工程については、上記(2)イの(イ)及び(ウ)で述べたとおりである。また、焼成工程として、甲3には「1700~2000℃で0.1~24時間」、甲4には「焼成炉1内の温度を1815℃まで高めた状態で4時間保持」との記載があるが、甲3及び甲4の記載から、これらの焼成条件と体積抵抗率との間の関係性を理解することはできないから、甲3及び甲4の焼成条件を参照しても、この焼成条件を甲1発明における窒化アルミニウム焼結体の焼成条件として採用しようとすることはない。そうすると、上記(2)イで述べた相違点2に対する当審の判断が変わることはない。 (ウ)について 甲1の【0038】には「このような通常の窒化アルミニウム焼結体の製造工程において、窒化アルミニウムの原料粉末に含まれる酸素量、希土類酸化物の添加量、焼結条件等を調整することにより、焼結体中の複合酸化物の存在比率A/B、たとえばYAL/YAGを30/70~95/5の範囲内に制御することにより、高い熱伝導率を有し、かつ高い抗折強度を有する焼結体を得ることができる。」と記載されており、原料粉末として酸化アルミニウムを加えることは何ら示唆されておらず、また、甲1において、窒化アルミニウム粉末中の酸素量が、原料粉末としての酸化アルミニウムの添加と同様の効果を得ているともいえない。 よって、申立人の上記(ウ)の主張は、そもそも技術的根拠に欠くものであり、これによって、上記(2)イで述べた相違点2に対する当審の判断が変わることはない。 (4)小括 よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2~甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本件発明2~6について 上記第3で記載されているように、本件発明2~6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2~甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 まとめ したがって、本件発明1~6は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1発明及び甲2~甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明1~6に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではない。 よって、取消理由1及び取消理由2によって、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立書における申立理由は、本件発明1~4及び6は、甲1発明であり、また、本件発明1~6は、甲1発明及び甲2~甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由であるから、上記第4で記載した取消理由に含まれるものである。 第8 むすび 以上のとおり、本件発明1~6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によって、取り消すことはできない。 さらに、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700839

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