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特許異議申立

2023-700528

固体電解質、ガスセンサ

審判番号
2023-700528
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-059103
登録番号
7215284
請求日
2023年05月19日
審決日
2024年06月21日
公報発行日
2024年10月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社デンソー
  • 【権利者代理人】弁理士法人あいち国際特許事務所
  • 【異議申立人】馬場 資博
  • 【異議申立人】林 尚子
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 増山 淳子
  • 審判官 後藤 政博
分類
P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7215284号発明「固体電解質、ガスセンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7215284号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第7215284号の請求項1-3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7215284号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成31年3月26日に出願され、令和5年1月23日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行された。 その後、その請求項1~3に係る特許に対して、令和5年5月19日に特許異議申立人馬場資博(以下、「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、令和5年7月26日に特許異議申立人林尚子(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされた。その後の経緯の概略は以下のとおりである。 令和 5年10月13日付け:取消理由通知 同年12月14日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 令和 6年 2月12日 :手続補正書の提出(特許権者) なお、令和5年12月14日の訂正の請求に対して、申立人1、申立人2に、期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。 第2 訂正の適否についての判断 令和5年12月14日に特許権者より請求され、令和6年2月12日に提出された手続補正書により請求の理由が補正された訂正(以下、「本件訂正」といい、この訂正の請求を「本件訂正請求」という。)は、適法になされたものと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 訂正事項 本件訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲を、それぞれ、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである(下線は訂正部である。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「上記部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~8モル%であり」と記載されているのを、「上記部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~7モル%であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「上記固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)及び正方晶相(23)の少なくとも一方の結晶子径の変化率が10%以下である」と記載されているのを、「上記固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)の結晶子径の変化率が10%以下である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 明細書の【0007】の「部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~8モル%であり」、「固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)及び正方晶相(23)の少なくとも一方の結晶子径の変化率が10%以下である」をそれぞれ「部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~7モル%であり」、「固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)の結晶子径の変化率が10%以下である」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に対して、本件明細書の【0022】の「イットリア濃度が2.5~7mol%の場合には」との記載から、部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量を「4.5~7モル%」に特定することによってそのイットリアの含有量を限定するものであり、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項1に対して、「固体電解質を構成する結晶粒子(2)」であって「結晶子径の変化率が10%以下である」結晶相の選択肢のうち、「立方晶相(21)」を削除するものであるから、「固体電解質を構成する結晶粒子(2)」であって「結晶子径の変化率が10%以下である」結晶相を限定するものであり、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1を、部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量を「4.5~7モル%」とし、「上記固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)の結晶子径の変化率が10%以下である」と訂正したことに、明細書の記載をあわせるものである。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 一群の請求項について (1)特許請求の範囲に係る訂正 訂正前の請求項2、3は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~3は一群の請求項であり、訂正事項1、2は、当該一群の請求項を訂正の単位として請求されているものである。 よって、訂正事項1、2は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。 (2)明細書に係る訂正 明細書に係る訂正事項3は、(1)で記載した一群の請求項の全てについて行われるものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 4 まとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる要件を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件明細書及び特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正は、上記第2のとおり認められるので、請求項1~3に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~3に係る発明を、請求項の番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。 「【請求項1】 安定化又は部分安定化ジルコニアからなる固体電解質(1)であって、 該固体電解質は、部分安定化ジルコニアからなり、上記部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~7モル%であり、 室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、上記固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)の結晶子径の変化率が10%以下である、固体電解質。 【請求項2】 請求項1に記載の上記固体電解質を備える、ガスセンサ(5)。 【請求項3】 請求項1に記載の固体電解質の製造方法であって、 ジルコニアと安定化剤とを乾式で混合して混合粉末を得る混合工程と、 上記混合粉末を成形し、焼成して焼成物を得る焼成工程と、 上記焼成物を温度800~1150℃で加熱するアニール工程と、を有する、固体電解質の製造方法。」 第4 取消理由に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 当審が特許権者に通知した令和5年10月13日付けの取消理由の概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由1(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 設定登録時の請求項1に係る発明は、「耐熱衝撃性に優れた固体電解質及びガスセンサを提供」することを課題としている。ここで、耐熱衝撃性に優れた固体電解質は立方晶相(C相)と単斜晶相(M相)の混相、すなわち、イットリア含有量が2.5~7モル%である必要があり、かつ、冷熱サイクルでの立方晶相(C相)の結晶子径の変化率が10%以下であることが必要である。 しかし、設定登録時の請求項1に係る発明では、イットリアの含有量が4.5~8モル%とされており、2.5~7モル%の範囲外である7~8モル%を包含する範囲となっている。 また、設定登録時の請求項1に係る発明では、立方晶相及び正方晶相の少なくとも一方の結晶子径の変化率が10%以下であるとされており、立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下でない場合も包含するものとなっている。そうすると、設定登録時の請求項1に係る発明は、上記課題を解決しない範囲を包含するものである。 したがって、設定登録時の請求項1に係る発明及び設定登録時の請求項1を引用する設定登録時の請求項2、3に係る発明は、設定登録時の請求項1~3に係る発明の課題を解決するものであるとはいえない。 (2)取消理由2(明確性要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 設定登録時の請求項1の「立方晶相(21)及び正方晶相(23)の少なくとも一方の結晶子径の変化率」との記載のうち、「正方晶相(23)」の「結晶子径の変化率」はどのような計算式によって計算されるのか不明である。したがって、設定登録時の請求項1に係る発明及び設定登録時の請求項1を引用する設定登録時の請求項2、3に係る発明は明確ではない。 2 当審の判断 (1)取消理由1(サポート要件違反)について 本件訂正によって、本件発明1において、イットリア含有量は4.5~7モル%であること、立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下であることが特定された。したがって、上記取消理由1は理由がない。 (2)取消理由2(明確性要件違反)について 本件訂正によって、本件発明1において「正方晶相(23)」の「結晶子径の変化率」についての特定は削除された。したがって、上記取消理由2は理由がない。 第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立人1による特許異議申立理由の概要 申立人1は、証拠方法として甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれ「甲1-1」~「甲1-5」という。)を提出して、以下の申立理由を主張している。 (1)申立理由1-1(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 特許権者は審査過程の令和3年5月26日付け上申書及び令和4年9月27日付け意見書において、「本願では、原料粉末を混合するという粉末法が採用されてい」るため、「粒界に気孔が存在すると考えられ」、「その結果、アニール処理により」「結晶子径変化率が10%以下にな」ることを主張している。しかし、設定登録時の請求項1~3に係る発明には気孔に関する特定はなく、してみれば、固体電解質の粒界に気孔が存在しない形態を包含していることとなるが、このような形態では結晶子径変化率が10%以下となるという作用効果を示さないため、設定登録時の請求項1~3に係る発明の課題を解決しない。したがって、設定登録時の請求項1~3に係る発明は、課題を解決しない範囲を包含するものである。 (2)申立理由1-2(明確性要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 ア 設定登録時の請求項1に係る発明では「立方晶相及び正方晶相の少なくとも一方の結晶子径の変化率が10%以下である」と特定されているが、ジルコニアの結晶粒子が立方晶相と正方晶相との両方を有することを必須要件としているのか、ジルコニアの結晶粒子が立方晶相と正方晶相とのどちらか一方を有さない形態を包含しているのか不明である。 イ 本件明細書に記載されているように、ひずみに応じて結晶子径の変化率が異なることを考慮すると、冷熱サイクルを実施する際に、固体電解質が他の部材に接していない状態と、接している状態とでは、結晶子径の変化率は異なるものとなるが、設定登録時の請求項1には、固体電解質の状態についての特定はない。 そうすると、他の部材に接している状態、あるいは接していない状態のうち、どちらの状態で結晶子径の変化率を測定するのか不明である。 (3)申立理由1-3(甲1-1を主たる証拠とする進歩性欠如) 設定登録時の請求項1に係る発明は、甲1-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、設定登録時の請求項2に係る発明は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、設定登録時の請求項3に係る発明は、甲1-1に記載された発明、及び、甲1-3~甲1-5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)申立理由1-4(甲1-2を主たる証拠とする進歩性欠如) 設定登録時の請求項1、2に係る発明は、甲1-2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (5)証拠方法一覧 甲1-1:特開平9-118568号公報 甲1-2:特開平1-261267号公報 甲1-3:特開2017-105689号公報 甲1-4:特開平9-147888号公報 甲1-5:特表2006-503790号公報 2 申立人2による特許異議申立理由の概要 申立人2は、証拠方法として甲第1号証~甲第4号証(以下、それぞれ「甲2-1」~「甲2-4」という。)を提出して、以下の申立理由を主張している。 (1)申立理由2-1(甲2-1を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如) 設定登録時の請求項1に係る発明は、甲2-1に記載された発明である、又は、甲2-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、設定登録時の請求項2に係る発明は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、設定登録時の請求項3に係る発明は、甲2-3に記載の技術常識を勘案すれば甲2-1に記載された発明である、又は、甲2-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2-2(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 ア 設定登録時の請求項1~3に係る発明は「耐熱衝撃性に優れた固体電解質及びガスセンサの提供」を課題としている。ここで、設定登録時の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例と比較例を対比すると、設定登録時の請求項1~3の範囲内の実施例4と範囲外の比較例で、その耐熱衝撃性の指標とされる強度減少率が同じ値となっている。そうすると、設定登録時の請求項1~3の範囲内の試料と範囲外の試料との間に両者を明確に区別できるほどの差はなく、設定登録時の請求項1~3の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されていない。したがって、設定登録時の請求項1~3に記載された範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 イ 設定登録時の明細書の【0067】には、ガスセンサのセンサ素子の固体電解質に好適に用いるためには、初期強度が350MPa以上であることが好ましいことが記載されている。しかし、設定登録時の請求項1~3の実施例である試料No.14では初期強度が260Mpaとなっており、ガスセンサに適した初期強度とはいえないため、設定登録時の請求項1~3に係る発明の課題を解決するとはいえない。してみれば、設定登録時の請求項1~3に係る発明は、発明の課題を解決しない範囲を包含している。 (3)申立理由2-3(実施可能要件違反) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 設定登録時の明細書の【0022】の記載によれば、設定登録時の請求項1~3に係る発明においては、原料粉末の混合ばらつきによる固溶反応の不均一性を利用して 結晶子径の変化率を10%以下にしていると思われ、ジルコニア粉末とイットリア粉末とのある程度の混ざり具合の悪さが必要であるといえる。ここで、粉末の粒子径が小さすぎると混ざり具合が均一になりすぎ、固溶反応の不均一性は利用できなくなり、結晶子径の変化率が10%以下にならなくなる。しかし、混ざり具合が悪すぎたり、粒子径が大きすぎるとイットリアのジルコニアへの固溶反応が著しく不均一になり焼結性も低下する。また、甲2-3によれば、混合粉末の粒径を小さくするほど、結晶粒の粗大化により固体電解質は強度が低減しやすくなることが示されているし、甲2-4によれば粉砕機やメディアによって得られる粉末の粒径分布も異なるものとなる。したがって、粉末の粒子サイズの最適化や混ざり具合の最適化が必要であるし、そのための粉砕機やメディアの選定も必要である。しかし、設定登録時の明細書には粉砕の条件や造粒の条件などの具体的な開示や示唆はない。そうすると、固体電解質の結晶子径の変化率が10%以下であって、緻密さや強度が確保された固体電解質を製造するには、当業者に過度の試行錯誤を当業者に強いることになる。 よって、設定登録時の明細書の発明の詳細な説明は、設定登録時の請求項1~3に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 (4)証拠方法一覧 甲2-1:特開2018-73801号公報 甲2-2:伊藤誠ら,“高感度O2センサの開発”,デンソーテクニカルレビュー,2012年,vol.17,p.30~34 甲2-3:杉浦勇夫ら,“セラミックス原料粉末の設計”,塑性と加工(日本塑性加工学会誌),1991年,第32巻,第368号,p.1090~1097 甲2-4:日本コークス工業株式会社のwebページ,[2023年6月15日検索]、インターネット https://www.nc-kakouki.co.jp/products/dry-mixer/ 第6 当審の判断 1 本件明細書の記載 本件明細書には以下の記載がある(下線は当審で付与した。)。 (1)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 近年、固体電解質には、更なる高負荷での使用が求められる傾向があり、耐熱衝撃性の更なる向上が求められている。具体的には、車載用のガスセンサの搭載位置の変更等により固体電解質は更なる高温環境に晒される傾向がある。また、例えばハイブリッド車やアイドルストップ車では、エンジン及びヒータの頻繁な始動、停止に伴い、固体電解質が頻繁に冷熱サイクルに晒される傾向がある。 【0006】 本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、耐熱衝撃性に優れた固体電解質及びガスセンサを提供しようとするものである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明の一態様は、安定化又は部分安定化ジルコニアからなる固体電解質(1)であって、 該固体電解質は、部分安定化ジルコニアからなり、上記部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~7モル%であり、 室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、上記固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)の結晶子径の変化率が10%以下である、固体電解質にある。 【0008】 本発明の他の態様は、上記固体電解質を備える、ガスセンサ(5)にある。 本発明のさらに他の態様は、固体電解質の製造方法であって、 ジルコニアと安定化剤とを乾式で混合して混合粉末を得る混合工程と、 上記混合粉末を成形し、焼成して焼成物を得る焼成工程と、 上記焼成物を温度800~1150℃で加熱するアニール工程と、を有する、固体電解質の製造方法にある。」 (2)「【0015】 安定化剤としては、イットリア、カルシア、マグネシア、スカンジア、イッテルビア等が例示される。」 (3)「【0027】 図17に示されるように、例えばアニール処理により、固体電解質1の結晶が安定化し、結晶子径が大きくなる。そして、アニール処理を行わない場合に比べて、固体電解質1の冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率が小さくなる。なお、本形態では、アニール処理により内部エネルギーを低減させ、結晶子径の変化率を低下させた固体電解質1について説明しているが、アニール処理以外の方法であっても結晶子径の変化率が10%以下であれば、固体電解質1は優れた熱衝撃強度を示す。」 (4)「【0055】 <実験例1> 複数の固体電解質を作製し、その性能を比較評価する。以下に、本例における固体電解質の作製方法を説明する。固体電解質の製造では、図22に例示されるように、少なくとも混合工程S1、焼成工程S2、アニール工程S3を行うが、本例では、混合工程後、焼成工程前に、成形工程を行う。 【0056】 図22に例示されるように、まず、ジルコニア粉末にイットリア粉末を所望の割合で添加し、乾式で混合、粉砕した。これにより、混合粉末を得た。 【0057】 次いで、混合粉末と、水とを混合し、混合粉末スラリーを得た。混合粉末を構成する各原料粒子の流動性を高めて所望形状に成形し易くするために、混合粉末スラリーの造粒を行った。造粒は、例えばスプレー造粒により行う。 【0058】 次に、混合粉末を成形して成形体を得た。成形は例えば圧粉成形により行う。さらに研削を行ってもよい。本例においては、後述の評価に用いるサンプル形状に成形した。この成形工程では、例えば実施形態2における素子形状のような所望形状に成形することができる。 【0059】 次に、成形体を温度1400℃にて焼成した。このようにして焼成体を得た。次に、焼成体のアニール処理を行った。アニール処理は、焼成体を所定のアニール温度で加熱することにより行った。このようにして、固体電解質を得た。本例では、イットリア含有量、アニール温度、アニール温度での保持時間を変更し、試料2~14の13種類の固体電解質を作製した。なお、試料1は、アニール処理を行っていない固体電解質である。試料1~14の製造条件を表1に示す。試料1~14の固体電解質の結晶子径の変化率、初期強度、耐久後強度、強度減少率を以下のようにして測定した。 【0060】 (結晶子径の変化率) 試料1~14の固体電解質を、室温から1200℃まで昇温速度300℃/hにて加熱し、降温速度-300℃/hにて室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した。X線回折法(XRD)により、冷熱サイクル前後のC相21の結晶子径の変化率を評価した。評価には(株)リガク製の「UltimaIII 水平ゴニオメータ(D/teX)」を用い、2θ/θ走査の連続走査にて2θ=29~31°の範囲でサンプリング間隔を0.02°として測定した。線源にはCuKα線を使用し、加速電圧:40kV、電流:30mAとして測定した。XRDパターンの一例を図23に示す。結晶子径Dは、下記式(I)のシェラーの式より算出した。なお、結晶子径の算出には、図23に例示されるように、スムージング処理したXRDパターンにおける半価幅、回折角を用いる。スムージング処理には、(株)リガク製のソフトウェア「ピークサーチ」を用いた。処理条件は、処理:平滑化、加重平均:平滑化点数5点、BG除去のピーク幅閾値:0.1、強度閾値:0.01である。なお、本例における「C相の結晶子径の変化率」は、XRD分析の測定原理上の観点から、実際は「C相及び/又はT相の」の意味である。 【0061】 D=K×λ/(β×cosθ)・・・(I) D:結晶子径、K:定数(K=0.9)、λ:X線の波長(λ=1.5418nm)、β:半価幅、θ:回折角 【0062】 (初期強度、耐久後強度) 試料1~14の固体電解質を、幅5mm程度、長さ45mm、厚み5mmにカットして測定サンプルを作製した。この測定サンプルを、室温から1100℃まで昇温速度300℃/hにて加熱し、降温速度-300℃/hにて室温まで降温させる冷熱サイクルを1000回繰り返し実施した。冷熱サイクル未実施の測定サンプルと1000回の冷熱サイクルを実施した測定サンプルから、JIS R 1601:2008の4点曲げ試験にしたがって、強度評価サンプルを作製し、4点曲げ強度を測定した。4点曲げ強度は、各試料から10個ずつの強度評価サンプルを作製し、その算術平均結果を採用した。冷熱サイクル未実施のサンプルの4点曲げ強度を初期強度とし、1000回の冷熱サイクルを実施したサンプルの4点曲げ強度を耐久後強度とした。 【0063】 (強度減少率及び判定) 初期強度に対する耐久後強度の減少率を強度減少率とした。強度減少率が50%以上の場合を「C」と判定し、50%未満でかつ40%以上の場合を「B」と判定し、40%未満の場合を「A」と判定した。 【0064】 【表1】 [図:0001415270000001.jpg] 【0065】 表1、図24より知られるように、結晶子径の変化率が10%以下の場合には、強度減少率が低い。つまり、耐熱衝撃性が優れている。耐熱衝撃性がより向上するという観点から、結晶子径の変化率は6%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。 ・・・ 【0067】 ガスセンサのセンサ素子の固体電解質に好適になるという観点から、初期強度は350MPa以上であることが好ましい。積層型センサ素子の固体電解質に好適になるという観点から、耐久後強度は200MPa以上であることが好ましく、積層型センサ素子及びコップ型センサ素子に好適になるという観点から、耐久後強度は250MPa以上であることがより好ましい。強度減少率は、50%未満であることが好ましく、40%未満であることがより好ましく、30%以下であることが更に好ましい。」 (5)「【図3】 [図:0001415270000002.jpg] 」 2 各証拠について (1)甲1-1について ア 甲1-1に記載された事項 甲1-1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下、同様。)。 (ア)「【請求項1】 セラミックス成形体の焼成収縮を制御するに当たり、 次式 Rs(μm)=6/ρS (式中のρはセラミックス粉末の真密度(g/cm3)、Sはセラミックス粉末のBET比表面積(m2/g)を示す。)で表されるセラミックス粉末の球相当径Rsを1μm以下とする予備処理を行い、 次いで、得られたセラミックス粉末に、予め算出した処理温度による熱処理を施し、 しかる後、成形及び焼成を行うことを特徴とするセラミックス成形体の焼成収縮制御方法。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、セラミックス成形体が焼成時に収縮する割合を制御する方法に係り、更に詳細には、セラミックス粉末の原料物性を調整し、これにより、成形体から焼成体が得られる際の収縮率を制御する方法に関する。 ・・・ 【0006】更に、イオン性不純物を添加する方法では、焼成体の強度が低下するのみならず、導電率、誘電率及び誘電損失等の電気的性質が変化してしまうという課題があった。また、焼成条件を調整する方法については、焼成体が緻密化し難く、それ以外にも結晶粒の成長により焼成体強度が低下したり、焼成体特性に変動を生じ易いという課題があった。本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、焼成体に形状欠陥等を発生せず、簡易且つ精密に焼成収縮を制御でき、多層セラミックス基板方式等では得られる焼成体の形状をも意図的に制御できる、セラミックス成形体の焼成収縮を制御する方法を提供することにある。」 (ウ)「【0011】本発明において使用するセラミックス粉末は、特に限定されるものではなく種々のものを例示できるが、例えば、部分安定化ジルコニア、安定化ジルコニア、アルミナ、チタニア、ムライト、スピネル、ベリリア、窒化珪素、窒化アルミニウム等を主成分とする材料又はこれらの混合物等を挙げることができる。また、助剤として、シリカ、粘土、遷移金属酸化物等を主成分に対して30重量%以下含む材料であってもよい。部分安定化ジルコニアの安定化剤としては、イットリア、マグネシア、セリア、カルシア及びイッテルビア等を用いることができ、イットリアの添加量としては、1~8mol%とすることができる。 【0012】次に、本発明の特徴をなす熱処理について説明する。この熱処理は、セラミックス粉末の成形及び焼成前に行い、且つセラミックス粉末を所定の処理温度で一定時間保持することにより行う。この所定の処理温度は次に示すようにして算出することができる。 ○1(当審注:1を○で囲ったもの) まず、上記Rs値を満足する任意のセラミックス粉末を準備する。この場合、このセラミックス粉末の材質は実際に製造しようとするセラミックス製品(焼成体)と同一の材質、例えばアルミナ質焼成体ではアルミナ粉末、ジルコニア質焼成体ではジルコニア粉末とし、部分安定化ジルコニア等を用いる場合にはその成分組成も近似させることを要する。なお、この任意のセラミックス粉末のRs値は、実際の製造で使用するセラミックス粉末のRs値の±30%以内の範囲、望ましくは±10%以内の範囲に存在するのが、焼成収縮を精密に制御する上で好ましい。このような任意のセラミックス粉末に任意2点以上の処理温度で熱処理を施し、次いで、実際の製造で予定している成形・焼成を行い、その場合の焼成収縮率を求める。得られた焼成収縮率を次式 焼成割掛率=焼成前寸法/焼成後寸法 で規定される焼成割掛率で表し、上記任意の処理温度との相関関係を求める。ここで、上記任意の処理温度がT1及びT2のとき、焼成割掛率がそれぞれA1及びA2であれば、処理温度と焼成割掛率との相関関係は、最も簡単なケースでは図1の直線Pのように表せる。」 (エ)「【0020】次に、上述の熱処理がセラミックス粉末に与える影響について説明する。・・・参考のため、以下の表1及び表2に、部分安定化ジルコニアに熱処理を施した際の比表面積の変化と結晶子径の変化を示す。 ・・・ 【0022】 【表2】 [図:0001415270000003.jpg] 」 イ 甲1-1に記載された発明 上記ア(ウ)によれば、甲1-1には、イットリアを1~8mol%含有する部分安定化ジルコニア粉末を成形し、焼成することが記載されている。そうすると、イットリアを1~8モル%含有する部分安定化ジルコニア焼成体が記載されているといえる。同(エ)によれば、甲1-1には、部分安定化ジルコニアを1000℃で熱処理した際の結晶子径の変化率(T相)が1.08であること、T相は正方晶相であることが記載されているから、部分安定化ジルコニアを1000℃で熱処理した際の正方晶相の結晶子径の変化率が1.08であることが記載されているといえる。 そうすると、甲1-1には、 「イットリアの含有量が1~8モル%であり、1000℃で熱処理した際の正方晶相の結晶子径の変化率が1.08である部分安定化ジルコニア」の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる。 (2)甲1-2について ア 甲1-2に記載された事項 甲1-2には、以下の事項が記載されている。 (ア)「特許請求の範囲 1. 主としてZrO2とY2O3より成り、Y2O3/ZrO2のモル比が2/98~7/93の範囲であって、結晶粒子が主として正方晶または正方晶と立方晶との結晶粒子よりなり且つ平均結晶粒子径が2μ以下であって、室温から高温までの熱膨張曲線にヒステリシス現象のないことを特徴とする固体電解質。」 (イ)「一方立方晶と単斜晶よりなる部分安定化ジルコニア磁器は完全安定化ジルコニア磁器に較べると強度は大きく耐熱衝撃性もよいものであるが、200℃ないし300℃という特定温度域における強度の経時劣化が極めて大きく、該温度で長時間使用した場合、磁器表面に微細なクラックが多数発生して吸水性を示すようになり著しく強度が低下し、ついには破損するという重大な欠点を有しているものであった。 (課題を解決するための手段) これはZrO2-Y2O3系部分安定化ジルコニア磁器では約1500℃の焼成温度において正方晶である結晶粒子が約1500℃から室温への冷却中に500℃付近で単斜晶に相変態を起こし、その際生ずる体積変化により磁器中に過大な応力が加わりそのため極めて微小なクラックが結晶粒子内に多数発生し、このクラックが200℃ないし300℃の特定温度領域に長時間おかれると拡大し、やがて磁器破壊に至るものであると考えられる。 さらに、立方晶と単斜晶より成る部分安定化ジルコニア磁器は室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返すと500℃付近で起こる単斜晶と正方晶との相変態により熱膨張曲線が加熱方向と冷却方向で異なるいわゆるヒステリシス曲線となり、かつ室温にもどしたときの寸法が加熱冷却の前後で異なるので高精度の寸法が維持できない欠点があった。」(2頁左上欄6行~右上欄14行) (ウ)「すなわち、本発明は200~300℃の特定温度域における強度の経時劣化が極めて少なく、かつ室温~800℃の温度域での加熱冷却による寸法変化のないジルコニア磁器からなる固体電解質としては、Y2O3/ZrO2のモル比が2/98~7/93であり、各々の結晶粒子の結晶相が主として正方晶の結晶粒子、または正方晶の結晶粒子と立方晶の結晶粒子とより成り、かつ平均結晶粒子径が2μ以下である、すなわちY2O3/ZrO2モル比、結晶粒子の結晶相、平均結晶粒子径という3要件のいずれも満たすことが大切であることを究明し、そのためには成形体を構成する酸化ジルコニウムの結晶子径が特定粒径以下または無定形であることが最も重要であるとともに、安定化剤の量および焼成温度等が特定範囲内であることが必要であることを幾多の研究の結果究明したことにもとづくものである。」(2頁右下欄1行~下から4行) (エ)「本発明の製造法においてはまず、酸化ジルコニウムとイットリウム化合物をY2O3/ZrO2のモル比が2/98~7/93の範囲内となるように混合する。この場合酸化ジルコニウムとイットリウム化合物との混合比がY2O3/ZrO2のモル比に換算して2/98~7/93の範囲内であることが、経時劣化改善のために極めて重要である。これは2/98未満では経時劣化改善のための正方晶の結晶粒子の生成が無く、また7/93を越えても正方晶の結晶粒子がほとんど含まれなくなり立方晶の結晶粒子のジルコニア磁器となるからである。 また、イットリウム化合物としては酸化イッリウム、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、硫酸イットリウム等が好ましく、この場合イットリウム化合物としては、酸化物に換算して約30モル%以下の例えばYb2O3、Sc2O3、Nb2O3、Sm2O3、CeO2等の希土類元素酸化物あるいはCaO,MgO等で置換したものでもよい。次いで、混合物をラバープレス成形、押出成形、鋳込成形等の成形法により所定の形状に成形し、空気中で1000~1550℃の温度範囲内で焼成する。焼成は1000~1550℃の温度好ましくは1100~1450℃の温度範囲内で最高温度で1~20時間保持する。焼成時間は一般に低温焼成のときほど長くする方がよい。なお、焼成温度と磁器の結晶相との関係は、焼成温度が1000℃未満あるいは1550℃を越えると急激に単斜晶の生成が増大するので好ましくなく、1000~1550℃の温度範囲内であれば主として正方晶または正方晶と立方晶の混合相が安定的に生成する。更にY2O3/ZrO2のモル比が好ましくは4/96~7/93の範囲では主として正方晶と立方晶より成る磁器が得られ、酸素イオン導電性が高く200~300℃における経時劣化が少ない固体電解質となる。」(3頁右下欄9行~4頁右上欄3行) イ 甲1-2に記載された発明 甲1-2には、上記ア(イ)によれば、従来、立方晶と単斜晶より成る部分安定化ジルコニア磁器は室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返すと、ヒステリシス現象が起こっていたこと、同(ア)によれば、主としてZrO2とY2O3よりなり、Y2O3/ZrO2のモル比が2/98~7/93であり、結晶粒子が主として正方晶と立方晶からなり、室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返してもヒステリシス現象がない固体電解質が得られたことが記載されているといえる。 そうすると、甲1-2には、 「Y2O3/ZrO2のモル比が2/98~7/93である部分安定化ジルコニアからなり、室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返してもヒステリシス現象がない固体電解質」の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されているといえる。 (3)甲1-3について 甲1-3には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0041】 本発明のジルコニア焼結体は、ジルコニア原料、安定化剤原料及びランタン原料を混合して混合粉末を得る混合工程、得られた混合粉末を成形して成形体を得る成形工程、得られた成形体を1650℃以上の焼結温度で焼結して焼結体を得る焼結工程、及び、焼結温度から1000℃までを1℃/min超の降温速度で降温する降温工程、を含むことを特徴とする製造方法、により製造することができる。 【0042】 混合工程では、ジルコニア原料、安定化剤原料及びランタン原料を混合して混合粉末を得る。ジルコニア原料、安定化剤原料及びランタン原料が均一に混合されれば、混合方法は湿式混合又は乾式混合のいずれであってもよい。 ・・・ 【0044】 安定化剤原料は、イットリア、スカンジア、カルシア、マグネシア、及びセリアからなる群の少なくとも1種(安定化剤)の粉末又はその前駆体、更にはイットリアの粉末又はその前駆体を挙げることができる。」 イ 「【0066】 本発明の製造方法では、降温工程後の焼結体を熱処理するアニール工程を有していてもよい。焼結体をアニール工程に供することで、焼結体の透光性をより高くすることができる。アニール工程は、酸化雰囲気中、900℃以上1200℃以下、更には980℃以上1030℃以下で焼結体を処理することが挙げられる。 【発明の効果】 【0067】 本発明により、高い透光性及び高い強度を兼備したジルコニア焼結体を提供することができる。本発明の焼結体は、従来の透光性セラミックスと比べ、透光性及び機械的強度が高い。そのため、歯列矯正ブラケットなどの審美性が要求される歯科用部材として使用した場合に、その大きさを小さくすることができる。これにより、より審美性が高い歯科用部材として使用することができる。」 (4)甲1-4について 甲1-4には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、固体電解質燃料電池(以下SOFCと言う)や酸素センサー、酸素ポンプ等に用いられる緻密な固体電解質薄膜などの緻密なセラミック薄膜の形成方法に関する。特には、焼成時のクラック(焼成切れ)を防止しつつ緻密な薄膜を得ることのできるセラミック薄膜の形成方法に関する。」 イ 「【0030】 【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。 (1)スラリー調整: (1.1 )スラリー用粉末調整:ZrO2 +8mol %Y2 O3 の粉末をボールミルを用いて粉砕した後、風力分級機で粒度調整した。その粒径範囲は0.1~3μm 、平均粒径は0.8μm であった。 (1.2 )スラリー溶液:α-テルピネオール33部とエチルアルコール100部とを混合した後、バインダーとしてのエチルセルロースを1.2部、分散剤としてのポリオキシエチレンアルキルリン酸エステルを1部、消泡剤としてのソルビタンセスキオレエートを1部、添加・混合してスラリー溶液を得た。 ・・・ 【0033】(4)ディッピング:基体(材質:La0.9 Sr0.1 MnO3 、寸法:外形12×内径10×長さ100mm、気孔率:35%)の表面に、上記スラリー及びゾルをディッピングによりコートした。なお、コート層の組み合わせは(基板側から上へ)以下のとおりである。 比較例:スラリー層のみ、3回コート、厚さ25μm 実施例1:スラリー層25μm 、ゾル層1.2μm 、スラリー層16μm 実施例2:粗ゾル層2μm 、ゾル層1.2μm 、スラリー層16μm 実施例3:スラリー層25μm 、粗ゾル層1.7μm 、ゾル層1.1μm 、スラリー層14μm 実施例4:スラリー層25μm 、粗ゾル層1.7μm 、ゾル層1.1μm 、粗ゾル層1.4μm 、スラリー層11μm 【0034】(5)乾燥:室温で1hr、その後、100℃で1hr保持した。なお、1回ディップするごとにこの条件で乾燥した。 (6)焼成:1450℃で5hr焼成した。」 (5)甲1-5について 甲1-5には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は研磨材、耐摩耗材、燃料電池用の固体電解質、センサー、コーティング材などの如き機能性セラミックや機械部品、光コネクタ、入れ歯などの構造用セラミックに基本原料として使用される純ジルコニア(ZrO2:zirconia、酸化ジルコニウム)又はジルコニアの混合酸化物微粒子の製造に必要な球形のジルコニア水和物(ZrO2・nH2O:hydrated zirconia又はzirconia hydrate)ナノ粒子を含むゾルを連続的に製造する方法に関する。」 (6)甲2-1について ア 甲2-1に記載された事項 甲2-1には以下の事項が記載されている。 (ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、空気極を焼成した場合や燃料電池の作動開始後にいったん作動を停止した場合などに、空気極の温度が高温から低温に下がると、空気極の表面付近に微小クラックが発生する場合がある。この微小クラックは空気極の特性に直ちに影響を与えるものではないが、燃料電池を長時間稼動させた場合に、微小クラックを起点として空気極の特性に影響を与えうるクラックが生じるおそれがある。そのため、空気極の表面付近における微小クラックの発生を抑えたいという要望がある。このような要望に応えるべく本発明者等が鋭意検討した結果、微小クラックの発生には、空気極が含有する硫酸ストロンチウムの量が関係しているという新たな知見を得た。 【0005】 本発明は、このような新たな知見に基づくものであり、空気極におけるクラックの発生を抑制可能な燃料電池を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明に係る燃料電池は、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置される固体電解質層とを備える。空気極は、一般式ABO3で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分として含む。空気極は、固体電解質層と反対側の表面から5μm以内の表面領域と、表面領域の固体電解質層側に形成される内部領域とを有する。表面領域及び内部領域のそれぞれは、一般式ABO3で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、硫酸ストロンチウムによって構成される第二相とを含む。表面領域の断面における第二相の面積占有率は、内部領域の断面における第二相の面積占有率よりも大きい。」 (イ)「【0013】 燃料極集電層21は、ガス透過性に優れる多孔質体である。燃料極集電層21を構成する材料としては、従来SOFCの燃料極集電層に用いられてきた材料を用いることができ、例えばNiO(酸化ニッケル)-8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)やNiO‐Y2O3(イットリア)が挙げられる。 ・・・ 【0016】 固体電解質層30は、ZrO2(ジルコニア)を主成分として含んでいてもよい。固体電解質層30は、ジルコニアの他に、Y2O3(イットリア)及び/又はSc2O3(酸化スカンジウム)等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、安定化剤として機能する。固体電解質層30において、安定化剤のジルコニアに対するmol組成比(安定化剤:ジルコニア)は、3:97~20:80程度とすることができる。従って、固体電解質層30の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ、10YSZ、或いはScSZ(スカンジアで安定化されたジルコニア)などが挙げられる。」 (ウ)「【実施例】 ・・・ 【0066】 (サンプルNo.1~No.14の作製) 以下のようにして、サンプルNo.1~No.14に係る燃料電池を作製した。 【0067】 まず、NiO粉末とY2O3粉末と造孔材(PMMA)の調合粉末とIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。 【0068】 次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することで縦30mm×横30mm、厚み3mmの板を成形し、その板をCIP(成形圧:100MPa)でさらに圧密することによって燃料極集電層の成形体を作製した。 【0069】 次に、NiO‐8YSZとPMMAの調合粉末とIPAを混合したスラリーを燃料極集電層の成形体上に塗布した。 【0070】 次に、8YSZにテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質層用スラリーを作成した。次に、固体電解質層用スラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって固体電解質層の成形体を形成した。 【0071】 次に、GDCスラリーを作製し、固体電解質層の成形体上にGDCスラリーを塗布することによってバリア層の成形体を作製した。 【0072】 次に、燃料極、固体電解質層及びバリア層の成形体を焼成(1450℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層を形成した。 【0073】 次に、SrSO4粉末を表1に示すペロブスカイト型酸化物材料に添加して内部領域用材料を作成した。この際、内部領域の断面における第二相(SrSO4)の面積占有率が表1に示す値になるように、サンプルごとにSrSO4の添加量を調整した。 【0074】 次に、内部領域用材料にテルピネオールとバインダーを混合することによって内部領域用スラリーを作製した。そして、バリア層上に内部領域用スラリーを塗布することによって内部領域の成形体を作製した。 【0075】 次に、SrSO4粉末を表1に示すペロブスカイト型酸化物材料粉末に添加して表面領域用材料を作成した。この際、表面領域の断面における第二相の面積占有率が表1に示す値になるように、サンプルごとにSrSO4の添加量を調整した。 【0076】 次に、表面領域用材料にテルピネオールとバインダーを混合することによって表面領域用スラリーを作製した。そして、内部領域の成形体上に表面領域用スラリーを塗布することによって、表面領域の成形体を作製した。この際、焼成後の表面領域の厚みが5μm以下になるように塗布量を調整した。 【0077】 次に、サンプルNo.2,5,7,8,10では、表1に示す集電層用材料粉末に水とバインダーを混合して集電層用スラリーを作製した。そして、集電層用スラリーを表面領域の成形体上に塗布することによって集電層の成形体を形成した。 【0078】 次に、内部領域、表面領域及び集電層(サンプルNo.2,5,7,8,10のみ)の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極及び集電層を形成した。」 イ 甲2-1に記載された発明 上記ア(イ)によれば、ZrO2を主成分とし、Y2O3を含有する固体電解質が記載されており、そのY2O3のジルコニアに対するmol組成比(安定化剤:ジルコニア)は、3:97~20:80程度であることが記載されており、例として、8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)すなわちY2O3含有量が8mol%の安定化されたジルコニアが記載されている。 そうすると、甲2-1には 「8mol%のイットリアで安定化されたジルコニアからなる固体電解質」の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されているといえる。 (7)甲2-2について 甲2-2には以下の事項が記載されている。 ア 「O2センサは,ジルコニアを用いた酸素濃淡電池の一種であり,酸素濃度の高い気体側から低い気体側へ酸素イオンが移動し,両電極間に発生する起電力を信号として出力する.一般的なO2センサは,ジルコニアの排気極,大気極に触媒作用のあるPtの電極を配しており・・・」(30頁右欄5~10行) イ 「一般的なコップ型O2センサのアッセンブリ及びエレメント構造をFig.3に示す.検知部であるジルコニア固体電解質の両面にPt電極を付与し・・」(31頁左欄1~3行) (8)甲2-3について 甲2-3には以下の事項が記載されている。 ア 「2・1 セラミックス製造プロセス 図1に乾式加圧成形法によるセラミックス製造プロセスを示す.おもなプロセスは原料粉末の合成,粉末調製(成形前調製),成形,焼成,加工である.このうち特に原料粉末の合成と粉末調製は最終製品の特性に強い影響を及ぼす重要なプロセスである. セラミックスの原料合成は固相法,液相法,気相法の三種類に大別される.原料粉末はその合成方法によって同一物質でも粉末特性,化学特性,結晶特性が異なってくる1).また同一合成法においても原料,プロセス条件などによって異なった粉末特性を持った原料粉末が得られる.セラミックスの場合発現させる機能にもよるが,その多くはできるだけ理論密度に近い焼結体を得ることに努力が払われている.そのためには成形体の密度を高くしておく必要がある.また同時に成形体を構成している粒子が均一に充てんされた状態にあることも重要である.このため原料粉末はできるだけ細かく(図22)),その粒径の分布は狭いことが望まれており,原料粉末合成においては組成や純度はもとより,形状や粒径分布においても満足されるプロセス条件を設定する必要がある. 均一で緻密な焼結体を得るためには,必要な特性を有した原料粉末を用い適切な粉末調製を行う必要がある.乾式加圧成形における粉末調製においては粉砕・混合,乾燥・造粒がおもな操作となる.前述したように,基本的に原料粉末は微細なものが要望されている.しかし粉末が細かくなればなるほど,粒子間の相互作用が強くなり凝集しやすくなる(図33)).」(p.1090右欄2行~p.1091左欄19行) イ 「米屋ら6)は窒化アルミニウムの焼結において,原料粉末の粒径が焼結に著しく影響を与え,2μm以下でしかもより微粒なほど高い焼結性が認められるが,この焼結は粒成長を伴いながら進行し,原料粒径が小さいほど粒成長速度は大きく,その結果結晶粒の粗大化による強度低減の効果も大きくなると報告している.」(p.1092左欄下から13行~下から8行) (9)甲2-4について 甲2-4には以下の事項が記載されている。 ア 「 [図:0001415270000004.jpg] 」 (「乾式粉砕」の欄1~2行) イ「 [図:0001415270000005.jpg] 」 ウ「 [図:0001415270000006.jpg] 」 3 申立理由1-1について (1)本件発明1では、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、上記固体電解質を構成する結晶粒子(2)における立方晶相(21)の結晶子径の変化率が10%以下である」とされているため、申立人1が本件発明1に包含されているとする、固体電解質の粒界に気孔が存在せず、結晶子変化率が10%以下でないものは、本件発明1の範囲に含まれるものではない。したがって、本件発明1が、結晶子変化率が10%以下となるという作用効果を示さず、本件発明1の課題を解決しない範囲を包含しているとはいえない。 上記1(1)の【0006】によれば、本件発明1は、「耐熱衝撃性に優れた固体電解質及びガスセンサを提供」することを課題としている。 そして同(1)の【0008】には、【課題を解決するための手段】として、「ジルコニアと安定化剤とを乾式で混合して混合粉末を得る混合工程と、上記混合粉末を成形し、焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を温度800~1500℃で加熱するアニール工程と、を有する、固体電解質の製造方法」が記載されているところ、同(2)によれば、安定化剤がイットリアであることが記載されているので、これらの記載をあわせて考えれば、本件発明1の固体電解質は、ジルコニアと安定化剤であるイットリアとを乾式で混合して混合粉末を得る混合工程と、上記混合粉末を成形し、焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を温度800~1150℃で加熱するアニール工程とを有する、固体電解質の製造方法によって作成されることが記載されているといえる。 ここで、同(3)によれば、アニール処理により、アニール処理を行わない場合に比べて固体電解質の冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率が少なくなること、結晶子径の変化率が10%以下であれば、耐熱衝撃性が優れているといえることが記載されているといえる。そして同(1)によれば、冷熱サイクルとは、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる」ものである。 以上の記載によれば、アニール処理を行うことによって、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる」冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子の変化率が10%以下となり、耐熱衝撃性が優れた固体電解質が得られ、上記の発明の課題を解決できることが理解できる。 他方、本件発明1は、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下」であるものであるから、上記明細書に記載の事項に照らせば、耐熱衝撃性が優れているものであり、本件発明1の課題を解決するものであるといえる。 さらに、固体電解質が部分安定化ジルコニアからなり、部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~7モル%であること、室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際の、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下であることは、上述のように上記1(1)~(3)に記載されているといえるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。 したがって、本件発明1は本件発明の課題を解決するものであるし、発明の詳細な説明に記載されたものである。 以上のとおりであるから、申立理由1-1には理由がない。 4 申立理由1-2について (1)アについて 本件訂正によって、本件発明1は「立方晶相(21)の結晶子径の変化率が10%以下である」と訂正された。したがって、ジルコニアの結晶粒子が立方晶相を有することが必須であることは明らかである。 (2)イについて 上記1(4)によれば、本件明細書の【0064】の表1では、イットリアの含有量が8mol%である試料14のC相の結晶子径変化率が2%となっており、2%の熱膨張が可能であったことが示されている。これは、他の部材によって膨張が妨げられていないこと、すなわち、他の部材に接していない状態であったことを示しているといえる。 したがって、他の部材に接していない状態で結晶子径の変化を測定していることは明らかである。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由1-2は理由がない。 5 申立理由1-3について (1)本件発明1について ア 甲1-1発明との対比 本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、本件発明1において、「固体電解質を構成する結晶粒子」とは、「部分安定化ジルコニア」からなる「結晶粒子」であるといえるところ、甲1-1発明の部分安定化ジルコニアも、「結晶粒子」を有するものであるといえることから、両者は「結晶粒子を有する部分安定化ジルコニア」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1は固体電解質であるのに対し、甲1-1発明では固体電解質であることが特定されていない点。 <相違点2> イットリアの含有量が、本件発明1では、4.5~7モル%であるのに対し、甲1-1発明では、1~8モル%である点。 <相違点3> 本件発明1では、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における」、「部分安定化ジルコニア」である「結晶粒子」における「立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下」であるのに対し、甲1-1発明では、「1000℃で熱処理した際の」「部分安定化ジルコニア」の「結晶粒子」における「正方晶相の結晶子径の変化率が1.08」である点。 イ 相違点について 事案に鑑み、相違点3について検討する。 甲1-1発明における、「1000℃で熱処理した際の正方晶相の結晶子径の変化率」と、本件発明1の「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率」とは、結晶子径の変化率を測定するための処理条件、観測対象である結晶相において異なっている。したがって、甲1-1発明の「1000℃で熱処理した際の正方晶相の結晶子径の変化率」から、本件発明1の「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率」を換算により求めることはできない。 また、上記1(1)~(3)によれば、本件発明1は、ジルコニアと安定化剤であるイットリアとを乾式で混合して混合粉末を得る混合工程と、上記混合粉末を成形し、焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を温度800~1150℃で加熱するアニール工程とを有する、固体電解質の製造方法によって作成されること、アニール処理により、アニール処理を行わない場合に比べて固体電解質の冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率が少なくなることが記載されているといえる。 他方、甲1-1においては、上記2(1)ア(ア)、(イ)によれば、セラミック粉末の原料物性を調整すること、すなわち、セラミック粉末の球相当径を1μm以下とする予備処理を行い、次いで、あらかじめ算出した処理温度で熱処理を施した後に成形し、焼成することで焼成収縮の抑制された焼成体を得ることが記載されている。そうすると、本件発明1において、冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率が少なくなるとされているアニール処理は行っていないし、その他の製造工程も本件発明1とは異なるものである。してみれば、甲1-1発明は、本件発明1とは異なる方法によって作成されているのであるから、甲1-1発明においても、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下」となるとはいえない。 そして、上記2(1)ア(ア)、(イ)によれば、甲1-1発明は、セラミック成形体の焼成収縮を制御することを課題とし、セラミック粉末の原料物性を調整することにより上記課題を解決するものであるといえる。 してみれば、甲1-1発明は、課題や、課題の解決手段が本件発明1とは異なり、その指向するところが異なるものであるから、本件発明1と同様に、冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率を調整すべく、アニール処理を行うことや、室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下となるようにすることは、当業者が容易に想到しうる事項であるとは認められない。 したがって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲1-1発明及び甲1-2~1-5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由1-3は、理由がない。 6 申立理由1-4について (1)本件発明1について ア 甲1-2発明との対比 本件発明1と甲1-2発明を対比すると、本件発明1において、「固体電解質を構成する結晶粒子」とは、「部分安定化ジルコニア」からなる「結晶粒子」であるといえるところ、甲1-2発明の部分安定化ジルコニアも、「結晶粒子」を有するものであるといえることから、両者は、「結晶粒子を有する部分安定化ジルコニアからなる固体電解質」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点4> 本件発明1はイットリア含有量が4.5~7モル%であるのに対し、甲1-2発明ではY2O3/ZrO2のモル比が2/98~7/93である点。 <相違点5> 本件発明1では、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における」、「部分安定化ジルコニア」である「固体電解質を構成する結晶粒子」における「立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下」であるのに対し、甲1-2発明では、「室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返しても」「固体電解質」を構成する「結晶粒子」における「部分安定化ジルコニア」の「ヒステリシス現象がない」ものである点。 イ 相違点について 事案に鑑み、相違点5について検討する。 上記2(2)ア(イ)によれば、甲1-2発明における「室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返し」た際の「ヒステリシス」は、単斜晶と正方晶の相変化による熱膨張率の変化によるものであるところ、本件発明1の「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率」とは、加熱冷却の条件、観測対象である結晶相において異なっているため、甲1-2発明の「室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返してもヒステリシス現象がない」ことは、本件発明1の「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下である」ことを意味しないし、「室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返してもヒステリシス現象がない」ならば、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下である」といえる根拠も提出されていない。 また、上記1(1)及び(2)によれば、本件発明1は、ジルコニアと安定化剤であるイットリアとを乾式で混合して混合粉末を得る混合工程と、上記混合粉末を成形し、焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を温度800~1150℃で加熱するアニール工程とを有する固体電解質の製造方法によって作成されること、アニール処理により、アニール処理を行わない場合に比べて固体電解質の冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率が少なくなることが記載されているといえる。 他方、甲1-2においては、上記2(2)ア(エ)によれば、酸化ジルコニウムとイットリウム化合物をY2O3/ZrO2モル比が2/98~7/93の範囲内となるように混合し、成形し、1000~1500℃の温度範囲内で焼成することが記載されている。そうすると、甲1-2に記載された製造方法は、本件発明1において冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率を少なくするために行っているアニール処理の工程を有していない。したがって、甲1-2発明は、本件発明1とは異なる方法によって作成されているのであるから、甲1-2発明においても本件発明1と同様に「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下」となるとはいえない。 そして、上記2(2)ア(イ)によれば、甲1-2発明は、「200℃ないし300℃という特定温度域における強度の経時劣化が極めて大きく、該温度で長時間使用した場合、磁器表面に微細なクラックが多数発生して吸水性を示すようになり著しく強度が低下し、ついには破損するという重大な欠点を有しているものであった」という欠点や、「室温から約800℃の間で加熱冷却を繰り返すと500℃付近で起こる単斜晶と正方晶との相変態により熱膨張曲線が加熱方向と冷却方向で異なるいわゆるヒステリシス曲線となり、かつ室温にもどしたときの寸法が加熱冷却の前後で異なるので高精度の寸法が維持できない」という欠点の克服を目指すものであるが、同(ウ)によれば、甲1-2発明では、200~300℃の特定温度域における強度の経時劣化が極めて少なく、かつ室温~800℃の温度域での加熱冷却による寸法変化のないジルコニア磁器からなる固体電解質としては、Y2O3/ZrO2モル比、結晶粒子の結晶相、平均結晶粒子径についての3要件を満たすことによって上記課題を解決するものであるといえる。 してみれば、甲1-2発明は、課題や、課題の解決手段が本件発明1とは異なり、その指向するところが異なるものであるから、本件発明1と同様に、冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率を調整すべく、アニール処理を行うことや、室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下となるようにすることは、当業者が容易に想到しうる事項であるとは認められない。 したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1-2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由1-4は理由がない。 7 申立理由2-1について (1)本件発明1について ア 甲2-1発明との対比 本件発明1と甲2-1発明とを比較すると、本件発明1において「固体電解質を構成する結晶粒子」とは、「部分安定化ジルコニア」からなる「結晶粒子」であるといえるところ、甲2-1発明の「部分安定化ジルコニア」も「結晶粒子」を有するものであるといえるから、両者は「結晶粒子を有するジルコニアからなる固体電解質」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点6> 本件発明1は部分安定化ジルコニアからなり、部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量が4.5~7モル%であるのに対し、甲2-1発明はイットリアで安定化されたジルコニアであって、イットリアの含有量が8モル%である点。 <相違点7> 本件発明1では、「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における」、「部分安定化ジルコニア」である「固体電解質を構成する結晶粒子」における「立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下」であるのに対し、甲2-1発明には、そのような特定はない点。 イ 相違点について 事案に鑑み、相違点7について検討する。 上記1(1)及び(2)によれば、本件発明1は、ジルコニアと、安定化剤であるイットリアとを乾式で混合して混合粉末を得る混合工程と、上記混合粉末を成形し、焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を温度800~1150℃で加熱するアニール工程と、を有する、固体電解質の製造方法によって作成されること、アニール処理により、アニール処理を行わない場合に比べて固体電解質の冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率が少なくなることが記載されているといえる。 他方、甲2-1においては、上記2(6)ア(ウ)によれば、8YSZを含有するスラリーを燃料極の成形体上に塗布し、その上にGDCスラリーを塗布し、1450℃で5時間焼成することで燃料極、固体電解質層、バリア層を形成し、バリア層上に内部領域用スラリーを塗布し、1100℃で1時間焼成することが記載されている。してみれば、甲2-1発明を製造する方法は、本件発明1において冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率を少なくするために行っているアニール処理の工程を有していない。そうすると、本件発明1とは異なる方法によって作成されているのであるから、甲2-1発明においても「室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における」、「部分安定化ジルコニア」である「固体電解質を構成する結晶粒子」における「立方晶相の結晶子径の変化率」が、本件発明1と同様に10%以下となるとはいえない。 したがって、上記相違点7は実質的な相違点である。 次に、相違点7の容易想到性について検討する。 上記2(6)ア(ア)によれば、甲2-1発明では、空気極の温度が高温から低温に下がると、空気極の表面付近に微小クラックが発生する場合があるところ、そのクラックの発生を抑制可能な燃料電池を提供することを課題とするものである。ここで、表面領域及び内部領域のそれぞれは、一般式ABO3で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、硫酸ストロンチウムによって構成される第二相とを含むものであるが、微小クラックの発生には、空気極が含有する硫酸ストロンチウムの量が関係しているという新たな知見を得て、表面領域の断面における第二相の面積占有率が、内部領域の断面における第二相の面積占有率よりも大きいものとすることにより、上記課題を解決するものである。 してみれば、甲2-1発明は、課題や、課題の解決手段が本件発明1とは異なり、その指向するところが異なるものであるから、本件発明1と同様に、冷熱サイクルによる熱履歴後の結晶子径の変化率を調整すべく、アニール処理を行うことや、室温から1200℃まで加熱し、-300℃/hの降温速度で室温まで降温させる冷熱サイクルを実施した際における、固体電解質を構成する結晶粒子における立方晶相の結晶子径の変化率が10%以下となるようにすることは、当業者が容易に想到しうる事項であるとは認められない。 したがって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は甲2-1ではないし、甲2-1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲2-1発明であるといえないし、また、甲2-1発明及び甲2-2に記載された事項及び甲2-3に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由2-1に理由はない。 8 申立理由2-2について (1)アについて 本件発明は「耐熱衝撃性に優れた固体電解質及びガスセンサの提供」を課題としている。 そして、上記1(4)によれば、「表1、図24より知られるように、結晶子径の変化率が10%以下の場合には、強度減少率が低い。つまり、耐熱衝撃性が優れている。」と記載されているとおり、強度減少率が低いことは耐熱衝撃性が高いことを意味しているし、「強度減少率は、50%未満であることが好ましく」と記載されているから、強度減少率が50%未満であれば「耐熱衝撃性に優れる」といえることが理解される。 そうすると、本件発明の範囲内にある実施例においては強度減少率が50%未満であるから、強度減少率が十分に低いことを示しているといえるし、耐熱衝撃性が優れているといえるものである。したがって、本件発明の範囲内にある実施例においては、耐熱衝撃性が優れているのであるから、本件発明の課題を解決しているものである。 なお、上記1(4)によれば、本件発明の範囲外である試料No.2において、本件発明の範囲内である試料No.4と同等の強度減少率、すなわち耐熱衝撃性を有することが示されている。しかし、本件発明の範囲外にある例が、本件発明の課題を解決していたとしても、そのことによって、本件発明が本件発明の課題を解決しないとはいえない。 (2)イについて 本件訂正によって、部分安定化ジルコニアのイットリアの含有量は4.5~7モル%に訂正され、その結果、イットリアの含有量が8mol%である試料No.14は本件発明1に含まれない例となった。 そして、本件発明が課題を解決しているか否かは、本件発明1に含まれない例が本件発明の課題を解決しているか否かによって影響を受けるものではない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由2-2は理由がない。 9 申立理由2-3について 本件明細書の【0022】に記載されているのは、図3の状態図は平衡状態における理論値であるため、実際は原料粉末の混合ばらつきによる不均一性によりイットリアが統計的な濃度分布を持つ傾向があるので、M相からT相に相転移が生じる温度が理論値の温度よりも大きくなる傾向がある、ということであって、本件発明において原料粉末の混合ばらつきによる固溶反応の不均一性を利用して結晶子径の変化率を10%以下にしていることではない。 また、甲2-3で原料粒径が小さいほど強度低減の効果も大きくなることが記載されているのは、窒化アルミニウムの焼結についてであり、本件発明が対象とする部分安定化ジルコニアとは異なり、本件発明についても同様のことがいえるとはいえない。 そうすると、本件明細書の【0022】や、甲2-3に、部分安定化ジルコニアを製造する際に、原料粉末が大きすぎたり小さすぎたりしないように、粉末の粒子サイズの何らかの特別な最適化や混ざり具合の何らかの特別な最適化が必要であることが示されているとまではいえない。 してみれば、本件発明を実施するにあたっては、通常行われる程度の粒径の原料粉末を用い、通常行われる程度の混合を行えばよいといえ、特に本件発明1の固体電解質を製造するにあたり、過度の試行錯誤が必要であるとはいえない。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由2-3は理由がない。 第7 まとめ 以上で検討したとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700528

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