特許異議申立
2023-700156
多孔質焼結体
- 審判番号
- 2023-700156
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-092359
- 登録番号
- 7135419
- 請求日
- 2023年02月14日
- 審決日
- 2024年01月16日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社デンソー
- 【権利者代理人】弁理士法人あいち国際特許事務所
- 【異議申立人】馬場 資博
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7135419号発明「多孔質焼結体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7135419号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
特許第7135419号の請求項1ないし5、8ないし12に係る特許を維持する。
特許第7135419号の請求項6及び7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7135419号の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成30年5月11日に出願され、令和4年9月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 2月14日 :特許異議申立人馬場資博(以下「申立人」という。)による請求項1~12に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 8月17日付け:取消理由通知書
同年10月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年11月10日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示している。
(1)特許請求の範囲に係る訂正
ア 訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1に「を有する、多孔質焼結体(1)。」と記載されているのを、「を有しており、
上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、
上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、
上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上であり、
固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる、あるいは、固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる、多孔質焼結体(1)。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5、8~12についても同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に「請求項7に記載の多孔質焼結体。」と記載されているのを、「請求項1~5のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に「請求項7または8に記載の多孔質焼結体。」と記載されているのを、「請求項1~5、8のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「請求項7~9のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」と記載されているのを、「請求項1~5、8、9のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11に「請求項7~10のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」と記載されているのを、「請求項1~5、8~10のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」に訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12に「請求項7~11のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」と記載されているのを、「請求項1~5、8~11のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」に訂正する。
(2)明細書に係る訂正
ア 訂正事項9
願書に添付した明細書の【0007】に「本発明の一態様は、複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)と、
上記焼結起点部に接して配置されたピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)と、
を有する、多孔質焼結体(1)にある。」と記載されているのを、
「本発明の一態様は、複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)と、
上記焼結起点部に接して配置されたピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)と、
を有しており、
上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、
上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、
上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上であり、
固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる、あるいは、固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる、多孔質焼結体(1)にある。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1の「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上であ」る部分(以下「訂正事項1-1」という。)は、訂正前の「配置されたピン止め粒子(3)」について限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1の「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる、あるいは、固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる」部分(以下「訂正事項1-2」という。)は、訂正前の「多孔質焼結体(1)」の用途を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正事項1-1及び1-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項1-1について
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0027】に「図4に例示されるように、多孔質焼結体1をその厚み方向に沿う断面で見て、粒子連続体2の表面に対応して現われる表面曲線SLについて求めた粒子連続体2の表面の曲率の平均値をraveとする。このとき、多孔質焼結体1は、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子3の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子3の数以上である構成とすることができる。この構成によれば、粒子連続体2における焼結起点部22に選択的にピン止め粒子3が配置されることで、触媒粒子21の焼結抑制効果をより確実なものとすることができる。」(下線は当審において付与した。以下同様)と記載されていることから、訂正事項1-1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(イ)訂正事項1-2について
a 訂正事項1-2の「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる」ことについては、本件特許明細書等の【0012】に「多孔質焼結体1は、例えば、固体酸化物形燃料電池5のカソード51またはアノード52に適用することができる。多孔質焼結体1が固体酸化物形燃料電池5のカソード51に適用される場合には、カソード51に含まれる粒子連続体2を構成する触媒粒子21の焼結を抑制することができ、高いカソード触媒安定性を発揮することができる。一方、多孔質焼結体1が固体酸化物形燃料電池5のアノード52に適用される場合には、アノード52に含まれる粒子連続体2を構成する触媒粒子21の焼結を抑制することができ、高いアノード触媒安定性を発揮することができる。」と記載されていることから、多孔質焼結体が「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる」ことは、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
b(a)訂正事項1-2の「固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる」ことについては、本件特許明細書等の【0064】に「本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、多孔質焼結体1は、固体酸化物形燃料電池5のカソード51またはアノード52以外にも、水の電気分解で用いられる酸素発生電極や、リチウムイオン電池等の2次電池の電極材料などに適用することもできる。」との記載はあるものの、「固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる」との直接的な記載はない。
そこで、いわゆるソルダーレジスト大合議判決(知財高判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)10563号)「ソルダーレジスト」大合議判決)を参照するに、「明細書又は図面に記載された事項は、通常、当該明細書又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから、例えば、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において、付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や、その記載から自明である事項である場合には、そのような訂正は、特段の事情のない限り、新たな技術的事項を導入しないものであると認められ、『明細書又は図面に記載された範囲内において』するものであるということができる」と判示されているので、以下、この観点で検討を行う。
(b)上記【0064】に「水の電気分解」との記載があることから、本件特許明細書等に記載される固体酸化物形燃料電池に係る技術を「電気分解」にも使用できることが示唆されているといえ、固体酸化物形燃料電池に対応して電気分解を行うものが、固体酸化物形電解セルであることは技術常識である。
(c)本件特許明細書等には、以下の技術的思想に関するものが記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には次の課題がある。結晶構造や組成を均一化させることによって触媒粒子の安定性を向上させようとした場合には、材料物性による限界値がある。また、触媒粒子の結晶構造や組成を均一化させるためには、高精度のプロセス技術が必要となり、触媒粒子の合成コストが増加する。そのため、触媒粒子の結晶構造や組成の均一化によらずに、触媒粒子の焼結を抑制することが望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、触媒粒子の焼結を抑制可能な多孔質焼結体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)と、上記焼結起点部に接して配置されたピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)と、を有する、多孔質焼結体(1)にある。
【発明の効果】
【0008】
上記多孔質焼結体は、複数の触媒粒子が連なった状態で結合して構成された粒子連続体を有している。この粒子連続体は、その表面に焼結の起点となる焼結起点部を有している。しかし、この粒子連続体における焼結起点部には、焼結起点部に接するようにピン止め粒子が配置されている。そのため、ピン止め粒子により、粒子連続体を構成する触媒粒子の焼結進行が阻害される。それ故、上記多孔質焼結体によれば、触媒粒子の焼結を抑制することが可能となり、高い触媒安定性を発揮することができる。」
以上の記載によれば、本件特許発明は、触媒粒子の焼結を抑制可能な多孔質焼結体を提供することを発明の課題とし、この課題を、複数の触媒粒子が連なった状態で結合して構成され、焼結の起点となる焼結起点部を表面に備える粒子連続体の焼結起点部にピン止め粒子を配置することにより解決するものである。
ここで、本件特許明細書等では、上記多孔質焼結体として、具体的には固体酸化物形燃料電池におけるものが記載されているところ、固体酸化物形燃料電池は、カソードに酸素を、アノードに水素を供給し発電を行うものであり、固体酸化物形電解セルは、カソードにおいて供給した水から電気分解により水素が発生し、アノードから酸素が発生するものであるが、両者は、カソード、アノードにおける材料が共通し、高温下で運転されるものとして共通している。
そして、本件特許発明の課題は、焼結に係る問題に起因するものであり、焼結は高温下で起こるものであるから、高温下で運転される固体酸化物形燃料電池で生じる焼結に係る課題であれば、カソード、アノードにおける材料が共通し、同じく高温下で運転される固体酸化物形電解セルでも生じる課題であること、さらには、本件特許明細書等において、具体的に固体酸化物形燃料電池を対象として記載されている本件特許発明の課題に対する解決手段が、固体酸化物形電解セルにも同様に適用されるものであることを、当業者であれば理解することができるといえる。
(d)さらに、固体酸化物形燃料電池のカソード及びアノード、固体酸化物形電解セルのアノード及びカソードとの関係について検討するに、例えば、令和5年10月12日に特許権者が提出した意見書に添付されている乙第1号証(Manohar S. Sohal、「Degradation in Solid Oxide Cells During High Temperature Electrolysis」、Idaho National Laboratory発行、2009年5月、p.5,6,13,18,19参照)、さらには、特開2010-177187号公報(【0001】~【0007】参照)、特開2014-526127号公報(【0001】~【0007】参照)に記載されているように、固体酸化物形燃料電池におけるカソードとアノードを可逆反応させる、すなわち、カソードをアノードとして、アノードをカソードとして反応させることにより、固体酸化物形燃料電池としての構成を変えることなく固体酸化物形電解セルとして使用できることは本出願前周知であり、そして、例えば、国際公開2018/024628号(1頁参照)に記載されているように、その固体酸化物形電解セルを水の電気分解に使用することも本出願前周知である。
(e)上記(b)~(d)での検討を踏まえると、上記(a)で記載した本件特許明細書等の「例えば、多孔質焼結体1は、固体酸化物形燃料電池5のカソード51またはアノード52以外にも、水の電気分解で用いられる」との記載において、多孔質焼結体として、明記されている固体酸化物形燃料電池のカソード、アノードに加えて、固体酸化物形電解セルのアノード、カソードもその範囲に含まれていることは、当業者であれば理解することができる。
(f)よって、訂正事項1-2の「固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる」ことは、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
c 小括
以上のことから、訂正事項1-2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)訂正事項4について
訂正前の請求項8については、請求項1~6のいずれか1項を引用している請求項7を引用していたところ、訂正事項2及び3によって請求項6及び7が削除され、訂正事項1によってそれら請求項6及び7の発明特定事項が請求項1に追加されたことにともない、請求項8の「請求項7に記載」との引用形式を「請求項1~5のいずれか1項に記載」として整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、引用形式を整合させることは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(4)訂正事項5~8について
訂正事項5~8についても、訂正前の請求項9~12が、請求項1~6のいずれか1項を引用している請求項7を引用して「請求項7または8に記載」、「請求項7~9のいずれか1項に記載」、「請求項7~10のいずれか1項に記載」、「請求項7~11のいずれか1項に記載」と記載されていたことから、上記訂正事項4と同様に、「請求項1~5、8のいずれか1項に記載」、「請求項1~5、8、9のいずれか1項に記載」、「請求項1~5、8~10のいずれか1項に記載」、「請求項1~5、8~11のいずれか1項に記載」として引用形式を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、引用形式を整合させることは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(5)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項1による訂正にともない、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合をさせるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
3 一群の請求項について
(1)特許請求の範囲に係る訂正
訂正前の請求項2~12は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~12は一群の請求項であり、訂正事項1~8は、当該一群の請求項を訂正の単位として請求されているものである。
よって、訂正事項1~8は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
(2)明細書に係る訂正
明細書に係る訂正事項9は、(1)で記載した一群の請求項の全てについて行われるものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
4 訂正についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1~9に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
(1)本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1~12に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明12」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、請求項6及び7については、削除されている。
「【請求項1】
複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)と、上記焼結起点部に接して配置されたピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)と、
を有しており、
上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、
上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、
上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上であり、
固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる、あるいは、固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる、多孔質焼結体(1)。
【請求項2】
上記ピン止め粒子は、上記触媒粒子の構成材料よりも高い焼結温度を有する金属または酸化物より構成されている、請求項1に記載の多孔質焼結体。【請求項3】
上記ピン止め粒子は、上記多孔質焼結体の焼成時における焼成温度にて上記触媒粒子の構成材料と化合物を形成しない金属または酸化物より構成されている、請求項1または2に記載の多孔質焼結体。
【請求項4】
上記触媒粒子の平均径をDa、上記ピン止め粒子の平均径をDpとしたとき、
Dp≦Daを満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。
【請求項5】
上記焼結起点部は、上記触媒粒子同士の結合部分に形成されたくびれ部(221)、上記触媒粒子の表面に形成された凸部(222)、上記触媒粒子の表面に形成された凹部(223)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、
上記多孔質焼結体の厚み方向の中央部を基準(BL)とし、当該基準よりも上記固体酸化物形燃料電池が備える固体電解質層(50)側に配置される領域を電解質側領域(51e)、上記基準よりも上記固体電解質層側とは反対側の表面側に配置される領域を表面側領域(51s)としたとき、
Dps≦Dpeを満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。
但し、
上記Dpe:上記電解質側領域に含まれる上記ピン止め粒子の平均径
上記Dps:上記表面側領域に含まれる上記ピン止め粒子の平均径
【請求項9】
上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、
上記多孔質焼結体の厚み方向の中央部を基準(BL)とし、当該基準よりも上記固体酸化物形燃料電池が備える固体電解質層(50)側に配置される領域を電解質側領域(51e)、上記基準よりも上記固体電解質層側とは反対側の表面側に配置される領域を表面側領域(51s)とするとともに、
上記粒子連続体の外周部の全長をL、上記ピン止め粒子が上記粒子連続体に接する部分の全長をLpとしたとき、
(Lp/L)s≦(Lp/L)eを満たす、請求項1~5、8のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。
但し、
上記(Lp/L)e:上記電解質側領域におけるLp/L値
上記(Lp/L)s:上記表面側領域におけるLp/L値
【請求項10】
上記触媒粒子および上記ピン止め粒子は、いずれも酸素イオン伝導性を有しており、
上記ピン止め粒子の酸素イオン伝導度は、上記触媒粒子の酸素イオン伝導度よりも高い、請求項1~5、8、9のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。
【請求項11】
上記触媒粒子は、La、Sr、Co、Fe、Ni、および、Mnからなる群より選択される少なくとも2種を含む酸化物より構成される、請求項1~5、8~10のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。
【請求項12】
上記ピン止め粒子は、Gd、Sm、Y、Nd、La、および、Ceからなる群より選択される少なくとも2種を含む酸化物より構成される、請求項1~5、8~11のいずれか1項に記載の多孔質焼結体。」
(2)本件明細書について
本件の明細書は、本件訂正請求により訂正された訂正明細書であるから、以下、訂正明細書を「本件明細書」という。また、訂正された特許請求の範囲、訂正された明細書及び図面を、まとめて「本件明細書等」という。
第4 特許異議申立書における申立理由
1 新規性・進歩性について
申立人は、特許異議申立書で以下の甲第1号証~甲第11号証を提示して、以下の理由で、本件訂正前の請求項1~12(ただし、請求項6及び7は削除されている。以下同様。)に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2010-108876号公報
甲第2号証:特開2005-327637号公報
甲第3号証:特開2017-45581号公報
甲第4号証:特開2013-84529号公報
甲第5号証:特開2009-266765号公報
甲第6号証:特開2016-110830号公報
甲第7号証:特開2016-126984号公報
甲第8号証:特開2013-191570号公報
甲第9号証:特開2004-35938号公報
甲第10号証:特開2010-267631号公報
甲第11号証:特開2018-67509号公報
(以下、甲第○号証は「甲○」という。)
(1)申立理由1(甲1を主とする)
本件訂正前の請求項1~4、7、10及び11に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~4、7及び10~12に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~4、7及び10~12に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲2を主とする)
本件訂正前の請求項1~4、7及び10~12に係る発明は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~4、7及び10~12に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~4、7及び10~12に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲3を主とする)
本件訂正前の請求項1~12に係る発明は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~12に係る発明は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 明確性について
申立人は、特許異議申立書で、本件訂正前の請求項1~12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の理由で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
(1)申立理由4
訂正前の請求項1における「焼結起点部」が、本件明細書等を参照しても、以下のとおり、どのような部位を意味するのか明確でない。
焼結は温度が高いほど生じやすいところ、温度を規定しないと「焼結の起点となる」か否かは決まらない。また、訂正前の請求項1を引用する請求項5では「上記焼結起点部は、上記触媒粒子同士の結合部分に形成されたくびれ部(221)、上記触媒粒子の表面に形成された凸部(222)、上記触媒粒子の表面に形成された凹部(223)からなる群より選択される少なくとも1種である」とあるが、「焼結起点部」が、くびれ部、凸部、凹部に限定されるのか、それとも、くびれ部、凸部、凹部以外にも「焼結起点部」に該当する部位が存在し得るのか不明である。そして、図6を参照しても、どの部位が「焼結起点部」なのか不明である。
(2)申立理由5
訂正前の請求項1における「ピン止め粒子」が、本件明細書等を参照しても、以下のとおり、どのような粒子を意味するのか明確でない。
本件明細書等には、「ピン止め粒子」の定義記載が一切存在せず、どのような粒子が「ピン止め粒子」に該当するのか不明である。また、訂正前の請求項1を引用する請求項12で「上記ピン止め粒子は、Gd、Sm、Y、Nd、La、および、Ceからなる群より選択される少なくとも2種を含む酸化物より構成される」とあるが、それ以外にも「ピン止め粒子」に該当する粒子が存在し得るのか不明である。
(3)申立理由6
訂正前の請求項1を引用する請求項3、5及び6について、さらに以下の点を主張している。
ア 訂正前の請求項3は「多孔質焼結体」に係る物の発明であり、多孔質焼結体において、その焼成時(製造時)の焼成温度をどのように特定するのか不明である。
イ 訂正前の請求項5の「くびれ部」、「凸部」及び「凹部」がどの部位を意味するのか明確でない。
ウ 訂正前の請求項6の「曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上」の意味が理解できない。焼結起点部へのピン止め粒子の選択的な配置されやすさは、焼結起点部がくびれ部や凹部のような凹んだ部分と、凸部のような突出した部分とで当然に異なるところ、本件明細書等の【0028】では、焼結起点部がくびれ部や凹部であるか、それとも凸部であるかを区別することなく、同一の測定方法で粒子連続体の表面の曲率の平均値を測定するものとされている。
3 サポート要件について
申立人は、特許異議申立書で、本件訂正前の請求項1~12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の理由で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。
(1)申立理由7
申立理由7は、令和5年8月17日付け取消理由通知書(以下「取消理由通知書」という。)の取消理由2と同様であることから、下記の第5の2で記載することとする。
(2)申立理由8
申立理由8は、訂正前の請求項1では、多孔質焼結体の使用温度について何ら限定されていなことから、多孔質焼結体の使用温度が低く、多孔質焼結体に含まれる触媒粒子の焼結が生じない形態を包含しており、そのような形態では、そもそも本件発明の課題が生じないと主張するものであるが、当該主張は、取消理由通知書の取消理由1に含まれることから、下記の第5の1で記載することとする。
第5 取消理由
取消理由通知書は、以下のサポート要件について通知したものである。
1 固体酸化物形燃料電池のカソード又はアノードについて(取消理由1)
本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、固体酸化物形燃料電池のカソードやアノードに用いられる触媒粒子を含む多孔質焼結体において、触媒表面の活性向上の影響により、多孔質焼結体の使用時に触媒粒子の焼結が生じ、触媒安定性が低下することから、触媒粒子の焼結を抑制することにあるといえるところ、訂正前の請求項1に係る発明は「多孔質焼結体」とのみ記載され、固体酸化物形燃料電池のカソードやアノードに用いられることが特定されていないことから、上記解決しようとする課題の前提を欠くものである。
すなわち、固体酸化物形燃料電池は一般に高温(1000℃にも至る)で作動するものであり、このような高温に多孔質焼結体がさらされると、多孔質焼結体を構成する触媒粒子の焼結が進むことから、上記解決しようとする課題が生じるのであり、固体酸化物形燃料電池のカソードやアノードに用いられるものでなければ、そもそも高温にさらされず、触媒粒子の焼結が進むことはないから、上記解決しようとする課題の前提を欠くものといえる。 加えて、本件明細書の実施例(実験例)には、多孔質焼結体を固体酸化物形燃料電池のカソードに適用した実験例のみが記載され、「これにより、拡散層(500μm)および活性層(50μm)より構成される層状のアノード、固体電解質層(10μm)、および、中間層(10μm)がこの順に積層された焼結体を得た。次いで、上記焼結体における中間層の表面に、カソード形成用ペーストをスクリーン印刷法により均一に塗布し、80℃で乾燥させた後、電気炉にて、大気中、1050℃で30分間焼成(焼付)することにより、層状のカソードを形成した。なお、カソードは、中間層の外形よりも小さく形成した。以上により、本例のカソード、および、単セルを得た。」(【0041】~【0042】)、「ピン止め粒子の配置のされ方が異なるカソード、単セルを作製し、その電極構造の安定性を評価した。」(【0045】)と記載され、固体酸化物形燃料電池のカソードに適用した多孔質焼結体のみを製造し、評価している。
以上のことから、本件明細書には固体酸化物形燃料電池のカソードやアノード以外のものに用いられる多孔質焼結体は記載されておらず、固体酸化物形燃料電池のカソードやアノードに用いられることが特定されていない本件発明1は解決しようとする課題の前提を欠くものであるから、訂正前の請求項1に係る発明は、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
訂正前の請求項2~6及び8~12についても事情は同じであることから、訂正前の請求項2~6及び8~12に係る発明も、発明の詳細な説明に記載したものといえない。
2 ピン止め粒子の配置部分における粒子数の関係について(取消理由2)
本件明細書の実施例(実験例)の【0046】には、「各水準のカソードについて、カソードの厚み方向に沿う断面をSEMにて観察した。そして、上述した測定方法により、粒子連続体を構成する触媒粒子の平均径Daを測定した。また、粒子連続体の表面の曲率の平均値raveを測定し、SEM視野内で観察されるピン止め粒子の全数Nのうち、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数N1の比率であるN1/Nを算出した。」と記載され、そして、実験例の上記表1を参照すると、ピン止め粒子が「添加あり」でN1/Nが「0.71」である水準3の粒径増加率が「0.8%」であるのに対し、ピン止め粒子が「添加あり」でも、N1/Nが「0.23」である水準1の粒径増加率が「24.8%」であり、N1/Nが「0.41」である水準2の粒径増加率が「20%」である。一方、ピン止め粒子が「添加なし」である水準4の粒径増加率の「17.9%」であり、ピン止め粒子が「添加あり」の水準1及び2の場合よりも小さくなっている。
そうすると、ピン止め粒子を添加しただけでは触媒粒子の粒径増加を抑制することができず、ピン止め粒子を添加した場合でもN1/Nの値を「0.23」、「0.41」よりも大きくする必要があり、「0.71」になると触媒粒子の粒径増加を十分に抑制できることが理解できる。また、本件明細書の実施例(実験例)の【0050】には、「これらに対し、水準3は、粒子連続体の焼結起点部に選択的にピン止め粒子が配置されているので、粒子連続体を構成する触媒粒子の焼結進行を抑制することができ、触媒粒子の粒径増加を抑制することができた。また、水準1~水準3を比較すると、水準3のように、N1/Nが0.5以上である、すなわち、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上である場合には、粒子連続体における焼結起点部に選択的にピン止め粒子が配置されることで、触媒粒子の焼結抑制効果をより確実なものとすることができた。」と記載されていることから、N1/Nの値を「0.71」の値としないまでも、「N1/Nが0.5以上である、すなわち、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上である場合」において、触媒粒子の粒径増加を抑制することができるといえる。
したがって、水準1及び2のようにN1/Nが0.5未満の場合には、触媒粒子の粒径増加を抑制することができる、すなわち、触媒粒子の焼結を抑制するという本件発明の課題を解決できると認識できるものではないことから、「N1/Nが0.5以上である」すなわち「曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上である」ことを特定していない訂正前の請求項1に係る発明は、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
訂正前の請求項2~5及び7~12についても事情は同じであることから、訂正前の請求項2~5及び7~12に係る発明も、発明の詳細な説明に記載したものといえない。
3 小括
以上、訂正前の請求項1~12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないことから、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第6 甲号証の記載
1 甲1について
(1)記載事項について
本件特許出願前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様)。
(甲1ア)「【請求項1】
固体電解質層と、前記固体電解質層の上面に形成されその上面から燃料ガスの供給を受ける燃料極層と、前記固体電解質層の下面に形成されその下面から酸素を含むガスの供給を受ける空気極層と、が積層・焼成されてなる固体酸化物型燃料電池の薄板体であって、
前記空気極層は、酸素イオン及び電子を通す混合導電性を有する物質の多数の粒子からなる多孔質焼成体であり、前記空気極層の比表面積が1.5~9.0m2/gであり、且つ、前記空気極層が30~100nmの細孔径を有する固体酸化物型燃料電池の薄板体。」
(甲1イ)「【0007】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池の薄板体は、上述と同じ固体電解質層、燃料極層、及び空気極層が積層・焼成されてなる。本発明に係る体酸化物型燃料電池の薄板体の特徴は、前記空気極層が、酸素イオン及び電子を通す混合導電性を有する物質の多数の粒子からなる多孔質焼成体であり、前記空気極層の比表面積が1.5~9.0m2/gであり、且つ、前記空気極層が30~100nmの細孔径を有することにある。
【0008】
前記混合導電性を有する物質は、例えば、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)等である。また、前記混合導電性を有する物質の粒子の平均粒径は、0.1~5μmであることが好ましい。
【0009】
検討によれば、混合導電性を有する物質の多数の粒子からなる多孔質焼成体である空気極層において、比表面積及び細孔径分布が上記のような組み合わせの場合、SOFCの作動時間の増大に伴う空気極層の反応ロスの増大が抑制され得ることが判明した。このことは、比表面積及び細孔径分布が上記のような組み合わせの場合、空気極層を構成する前記物質の粒子の成長(シンタリング)が抑制されて空気極層の比表面積が減少し難いことを意味する。
【0010】
なお、高温保持中の微構造変化を抑制する方策として、異種材料を添加して構造を安定化させる、所謂「ピン止め効果」が考えられる。SOFCの場合、ジルコニア粒子を添加することで微細な多孔を有する電極構造の安定化を達成できることが知られている。しかしながら、ジルコニア粒子を添加すると、電子導電性が低下する。従って、高出力が要求されるSOFCの薄板体においては、ジルコニア粒子の添加は、高出力確保の観点から好ましい方策とは言えない。」
(甲1ウ)
「【0042】
(薄板体の詳細)
以下、薄板体11の詳細について説明する。薄板体11の部分側面図である図6に示すように、電解質層11aは、YSZの微細な粒子からなる緻密質層である。電解質層11aに含まれるYSZの粒子の粒子径は、本例では、0.3~3μmである。燃料極層11bは、Ni及びYSZの微細な粒子からなる多孔質層である。燃料極層11bに含まれるNi及びYSZの粒子の粒子径はそれぞれ、本例では、0.3~1.5μm、及び、0.5~2μmである。
【0043】
空気極層11cは、酸素イオンO2-及び電子e-を通す混合導電性を有するLSCFの微細な粒子からなる多孔質層である。空気極層11cに含まれるLSCFの粒子の粒子径について、本例では、平均粒径が0.1~5μmである。特に、多孔質である空気極層11cの比表面積は1.5~9.0m2/gであり、多孔質である空気極層11cの細孔径は30~100nmである。」
(2)甲1発明について
上記(甲1ア)における「酸素イオン及び電子を通す混合導電性を有する物質」とは、(甲1ウ)によれば、具体的には「LSCF」であるから、当該物質を「LSCF」とすると、甲1(特に下線部参照)には、以下の発明が記載されているといえる。
「固体電解質層と、前記固体電解質層の上面に形成されその上面から燃料ガスの供給を受ける燃料極層と、前記固体電解質層の下面に形成されその下面から酸素を含むガスの供給を受ける空気極層と、が積層・焼成されてなる固体酸化物型燃料電池の薄板体であって、
前記空気極層は、酸素イオン及び電子を通す混合導電性を有するLSCFの多数の粒子からなる多孔質焼成体であり、前記空気極層の比表面積が1.5~9.0m2/gであり、且つ、前記空気極層が30~100nmの細孔径を有する固体酸化物型燃料電池の薄板体。」(以下「甲1発明」という。)
2 甲2について
(1)記載事項について
本件特許出願前に頒布された甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)【請求項1】
燃料極基板1と、該燃料極基板1の一面に設けられた固体電解質層2と、該固体電解質層2の一面に設けられた反応防止層3と、該反応防止層3の一面に設けられた混合層4と、該混合層4の一面に設けられた空気極層5とを備える固体電解質形燃料電池において、
該混合層4は、該反応防止層3に含まれる反応防止層形成材料及び該空気極層5に含まれる空気極層形成材料を含有し、該混合層4の周縁が該空気極層5によって覆われていることを特徴とする固体電解質形燃料電池。」
(甲2イ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、固体電解質層と空気極との熱膨張率の差を小さくしても、界面における粒子の焼結状況によっては剥離を十分に抑えることができないことがある。また、固体電解質を混合した空気極は、電気抵抗が高くなり、電極としての性能が低下する傾向がある。
本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、ヒートサイクルに対する耐久性に優れ、反応防止層と空気極層との剥離が抑えられるとともに、十分な発電性能を有する燃料極支持膜式の固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
固体電解質層はジルコニア系固体電解質により形成されることが多いが、空気極層を形成するための焼成時、固体電解質層と未焼成空気極層との界面に抵抗の高い反応相が生成することがあり、これにより発電性能が低下する。この反応相の生成を抑えるため、固体電解質層と空気極層との間に反応防止層を設けることができるが、反応防止層と空気極層との熱膨張率の差等により、SOFC使用時のヒートサイクルによって空気極層が剥離することがある。そのため、本発明では、反応防止層と空気極層との間に、反応防止層形成材料と空気極層形成材料とを含有する混合層を形成し、且つこの混合層を空気極層により覆う形態の固体電解質形燃料電池とする。これにより、反応防止層と空気極層との剥離が確実に抑制されるとともに、空気極層の電極としての性能の低下も抑えられ、耐久性に優れ、十分な発電性能を有するSOFCとすることができる。」
(甲2ウ)「【0019】
上記「混合層4」には、上記の反応防止層形成材料と後記の空気極層形成材料とが含有されている。このように、混合層4に反応防止層形成材料と空気極層形成材料とが含有されているため、反応防止層3と混合層4との熱膨張率の差、及び混合層4と空気極層5との熱膨張率の差は、反応防止層3と空気極層5との熱膨張率の差より小さくなり、反応防止層3と混合層4との間、及び混合層4と空気極層5との間の各々が剥離し難くなり、耐久性に優れ、且つ十分な発電性能を有するSOFCとすることができる。」
(甲2エ)「【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例(実験例4~20)
[1]固体電解質形燃料電池の製造
以下のようにして図1の固体電解質形燃料電池101を製造した。
(1)未焼成燃料極基板の形成
酸化ニッケル(NiO)粉末60質量部(以下、「部」という。)と、8モル%のイットリアが固溶されたジルコニア(以下、「8YSZ」という。)粉末40部とを混合した。その後、造孔材として30部の人造黒鉛粉末を配合し、更に混合した。次いで、分散剤としてジエチルアミンを1部、及び有機溶媒(トルエンとメチルエチルケトンとを質量比で2:3の割合で混合した溶媒)を35部配合し、アルミナ製ポットミルを用いて24時間混合した。その後、可塑剤としてジブチルフタレートを7部、バインダとしてポリビニルアルコールを16部配合し、更に3時間混合して未焼成燃料極用スラリーを調製した。次いで、このスラリーを用いてドクターブレード法によりポリエステルフィルム上で厚さ200μmの未焼成燃料極基板用シートを7枚作製した。その後、これら7枚のシートを積層して圧着し、次いで、この積層シートから30×30mmの寸法の未焼成燃料極基板1’を切り出した。尚、7枚積層した後の合計厚さは1300μmであった。
【0043】
(2)未焼成固体電解質層の形成
8YSZ粉末100部に、バインダとしてポリビニルアルコールを13部及びブチルカルビトールを35部混合し、未焼成固体電解質層用スラリーを調製した。その後、このスラリーを、上記(1)において形成した未焼成燃料極基板1’の一面に厚さ25μmとなるようにスクリーン印刷し、未焼成固体電解質層2’を形成した。
【0044】
(3)未焼成反応防止層の形成
サマリアをドープしたセリア[Sm0.2Ce0.8O1.9(以下、「SDC」と表記する。)]を含有するスラリーを用いて、スクリーン印刷法により形成した。この未焼成反応防止層用スラリーは、所定量の酸化サマリウム粉末と酸化セリウム粉末とを使用し、エタノールを溶媒として湿式混合した後、1400℃で6時間保持して仮焼し、SDC粒状体とし、その後、エタノールを溶媒として湿式粉砕して平均粒径0.53μmのSDC粉末とし、次いで、このSDC粉末100部に、バインダとしてポリビニルアルコールを16部及びブチルカルビトールを35部混合して調製した。次いで、このスラリーを、上記(2)において形成した未焼成固体電解質層2’の一面に15×15mm、厚さ10μmとなるようにスクリーン印刷し、未焼成反応防止層3’を形成した。
【0045】
(4)一体焼成
上記(3)において作製した未焼成積層体を390℃で180分間加熱して脱脂し、次いで、大気雰囲気において1400℃で1時間保持して焼成した。この一体焼成により得られた焼成積層体の厚さは1100μmであった。
【0046】
(5)混合層及び空気極層の形成
上記(3)と同様にして調製した、焼成後、表1の平均粒径となる所定粒径のSDC粉末と、平均粒径2μmの市販のLa0.6Sr0.4(Co0.2Fe0.8)O3(以下、「LSCF」と表記する。)粉末とを、焼成後、SDCが表1の含有量となるようにボールミルにより予め2時間混合して混合粉末とし、この混合粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール13部及びブチルカルビトール35部を混合して未焼成混合層用スラリーを調製した。その後、このスラリーを上記(4)において形成した反応防止層3の一面に、縦12mm×横12mmであり、焼成後、表1の厚さとなるようにスクリーン印刷し、未焼成混合層4’を形成した。次いで、SDC粉末が含有されていない他は同様にして調整した未焼成空気極層用スラリーを用いて、未焼成混合層4’の一面及び側面並びに反応防止層3の一面に、焼成後、空気極層5と混合層4の各々の面積が表1の面積比となるように、且つ厚さが50μmとなるようにスクリーン印刷し、未焼成空気極層5’を形成した。その後、1200℃で1時間保持して焼成し、混合層4及び空気極層5を形成し、固体電解質形燃料電池101を製造した。」
(2)甲2発明について
上記(甲2エ)には、「未焼成空気極層用スラリー」について、「所定粒径のSDC粉末と、平均粒径2μmの市販のLa0.6Sr0.4(Co0.2Fe0.8)O3(以下、「LSCF」と表記する。)粉末とを、焼成後、SDCが表1の含有量となるようにボールミルにより予め2時間混合して混合粉末とし、この混合粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール13部及びブチルカルビトール35部を混合して未焼成混合層用スラリーを調製した。」、「次いで、SDC粉末が含有されていない他は同様にして調整した未焼成空気極層用スラリー」と記載されている。そうすると、甲2における「未焼成空気極層用スラリー」は、SDC粉末とLSCF粉末との混合粉末ではなく、平均粒径2μmのLSCF粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール13部及びブチルカルビトール35部を混合して調整したものといえる。
したがって、(甲2ア)における「空気極層5」は、(甲2エ)の記載を踏まえると、平均粒径2μmのLSCF粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール13部及びブチルカルビトール35部を混合して調整した未焼成空気極層用スラリーを用いて、スクリーン印刷し、未焼成空気極層5’を形成し、その後、1200℃で1時間保持して焼成したものといえる。
よって、甲2(特に下線部参照)には、以下の発明が記載されているといえる。
「燃料極基板1と、該燃料極基板1の一面に設けられた固体電解質層2と、該固体電解質層2の一面に設けられた反応防止層3と、該反応防止層3の一面に設けられた混合層4と、該混合層4の一面に設けられた空気極層5とを備える固体電解質形燃料電池において、
該混合層4は、該反応防止層3に含まれる反応防止層形成材料及び該空気極層5に含まれる空気極層形成材料を含有し、該混合層4の周縁が該空気極層5によって覆われており、
該空気極層5は、平均粒径2μmのLSCF粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール13部及びブチルカルビトール35部を混合して調整した未焼成空気極層用スラリーを用いて、スクリーン印刷し、未焼成空気極層5’を形成し、その後、1200℃で1時間保持して焼成したものである、
固体電解質形燃料電池。」(以下「甲2発明」という。)
3 甲3について
(1)記載事項について
本件特許出願前に頒布された甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「【請求項1】
アノード(2)、固体電解質層(3)、中間層(4)、接合層(5)、および、カソード(6)がこの順に積層されており、
上記接合層は、
中間層材料より構成され、3次元網目構造をなすネットワーク部(51)と、
カソード材料より構成され、上記ネットワーク部の表面を覆う被覆部(52)と、
気孔(53)とを有しており、
上記中間層材料の線熱膨張係数<上記カソード材料の線熱膨張係数の関係を満たす、燃料電池単セル(1)。」
(甲3イ)
「【0011】
上記燃料電池単セルにおいて、接合層は、中間層材料を含んでいる。そのため、接合層と中間層との界面の接合性は、当該界面において焼結した中間層材料により確保される。また、接合層は、カソード材料を含んでいる。そのため、接合層とカソードとの界面の接合性は、当該界面において焼結したカソード材料により確保される。さらに、上記燃料電池単セルが作動温度まで加熱された場合、中間層材料およびカソード材料の各線熱膨張係数に応じて、接合層内の中間層材料およびカソード材料がそれぞれ熱膨張する。この際、中間層材料の線熱膨張係数よりもカソード材料の線熱膨張係数の方が大きいため、接合層内において、中間層材料より構成されるネットワーク部は、カソード材料より構成される被覆部により圧縮方向の応力を受ける。そのため、接合層内におけるネットワーク部と被覆部との界面の密着性が向上する。」
(甲3ウ)「【0033】
燃料電池単セル1は、例えば、以下のようにして製造することができるが、これに限定されない。
【0034】
先ず、アノード2、固体電解質層3、中間層4がこの順に積層されたセラミック基板を準備する。セラミック基板は、例えば、シート成形プロセスなどを用いて準備することができる。
【0035】
次に、準備したセラミック基板における中間層4の表面に、接合層形成用ペーストを、スクリーン印刷法等によって層状に塗布し、焼成(焼付け)する。接合層形成ペーストは、例えば、中間層材料と、カソード材料と、バインダーとを含むことができる。本実施形態では、具体的には、中間層材料としてGdがドープされたセリア、カソード材料としてLaxSr1-xCoyFe1-yO3系酸化物(0≦x≦1、0≦y≦1)を選択することができる。接合層形成ペーストは、中間層材料とカソード材料とを、例えば、体積比50:50で混合した後、バインダーを添加することによってペースト状に調製することができる。また、焼成温度としては、中間層材料のネッキングが進行する温度であって、かつ、カソード材料が液相を形成する温度が選択される。これにより、中間層材料のネッキング形成により3次元網目構造をなすネットワーク部51が形成される。また同時に、ネットワーク部51の表面に液相となったカソード材料が濡れ広がり、その結果、ネットワーク部51の表面を覆う被覆部52が形成される。また、気孔53も形成される。本実施形態では、焼成温度は、具体的には、例えば、1200℃とすることができる。なお、高温焼成時からの冷却時には、中間層4と接合層5との界面、カソード6と接合層5との界面におけるクラックが有効に抑制される。
【0036】
次に、形成された接合層5の表面に、カソード形成用ペーストを、スクリーン印刷法等によって層状に塗布し、焼成(焼付け)する。本実施形態では、焼成温度は、具体的には、例えば、1000℃とすることができる。以上により、燃料電池セル1を得ることができる。」
(甲3エ)「【0052】
LSCF粉末(平均粒子径:0.6μm)と、エチルセルロース(有機材料)と、テルピネオール(溶媒)とをボールミルにて混合することにより、カソード形成用ペーストを準備した。」
(2)甲3発明について
上記(甲3ア)における「カソード(6)」は、(甲3ウ)及び(甲3エ)によれば、LaxSr1-xCoyFe1-yO3系酸化物(0≦x≦1、0≦y≦1)すなわちLSCF粉末にエチルセルロースとテルピネオールとをボールミルにて混合したカソード形成用ペーストを、スクリーン印刷法等によって層状に塗布し、焼成したものといえる。
そうすると、甲3(特に下線部参照)には、以下の発明が記載されているといえる。
「アノード(2)、固体電解質層(3)、中間層(4)、接合層(5)、および、カソード(6)がこの順に積層されており、
上記接合層は、中間層材料より構成され、3次元網目構造をなすネットワーク部(51)と、 カソード材料より構成され、上記ネットワーク部の表面を覆う被覆部(52)と、気孔(53)とを有しており、
上記中間層材料の線熱膨張係数<上記カソード材料の線熱膨張係数の関係を満たし、
上記カソード(6)は、形成された接合層(5)の表面に、LSCF粉末にエチルセルロースとテルピネオールとをボールミルにて混合したカソード形成用ペーストを、スクリーン印刷法等によって層状に塗布し、焼成したものである、
燃料電池単セル(1)。」(以下「甲3発明」という。)
4 甲4について
本件特許出願前に頒布された甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0004】
例えば、固体電解質材料であるYSZなどのジルコニア系酸化物の最低焼結温度は1350℃であるが、空気極材料であるLSMは1100℃以上の高温下では、ジルコニア系酸化物との接触界面においてランタンジルコネート(La2Zr2O7;LZO)やストロンチウムジルコネート(SrZrO3;SZO)などの反応物を生成することがわかっている。これらは電気化学的特性に劣るほか、LSMとジルコニア系酸化物との剥離の原因ともなる。」
5 甲5について
本件特許出願前に頒布された甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項8】
上記ステップdのHC-fdの電解質層に陰極層を積層する方法は、シルクスクリーン印刷法、スパッタリング法、スピンコーティング法、又はプラスマスプレーコーティング法であって、その陰極材料としてLSM、又はLSCFを用いて厚さは30~50μmとし、その焼結条件は1100℃において3時間の焼結を行い、焼結温度昇降の速度変化率は1~3℃/minであることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。」
6 甲6について
本件特許出願前に頒布された甲6には、以下の事項が記載されている。
「【0005】
しかしながら、一般にセリウム酸化物の焼結温度はペロブスカイト型酸化物と同程度かそれ以上であるため、特許文献1に記載のものにあっては、ペロブスカイト型酸化物のみのカソード形成用材料の焼結温度よりも焼結温度が上昇し、電極材料の比表面積を増大できず電池出力の向上が十分でない。」
7 甲7について
本件特許出願前に頒布された甲7には、以下の事項が記載されている。
「【0023】
上記燃料電池単セルにおいて、中間層を構成する結晶粒子は、具体的には、例えば、セリア(CeO2)、または、セリアに希土類元素がドープされたセリア系固溶体などから構成することができる。この場合には、酸素イオン導電性、電子導電性に優れた中間層が得られる。」
8 甲8について
本件特許出願前に頒布された甲8には、以下の事項が記載されている。
「【0053】
3-5.空気極
空気極14は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含む。このような複合酸化物としては、上記1.欄で説明した電極材料が好適である。具体的に、複合酸化物としては、LSCF、LSF、LSC、LNF、SSCなどが挙げられる。空気極14は、このような複合酸化物以外の成分を含んでいてもよい。例えば、空気極14は、後述する電解質層15の材料(セリアやジルコニアなど)とコンポジット化されていてもよい。」
9 甲9について
本件特許出願前に頒布された甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は遮熱コーティング材料に関し、特に発電用ガスタービンの動翼、静翼、燃焼器、及びジェットエンジン等の高温環境下で使用される機器部品に適用される遮熱コーティング材料に関する。」
(甲9イ)「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高温環境下で使用する金属製部品上に施工され、希土類安定化ジルコニアを主成分とする遮熱コーティング材料において、ジルコニアと非反応で、かつ使用環境温度よりも高い融点をもつ酸化物材料を複合化させてなることを特徴とする遮熱コーティング材料である。つまり、本発明は、遮熱コーティングを高温環境下にて長時間使用しても、初期に存在する気孔を消失させないために、希土類安定化ジルコニア中にジルコニアと反応しない酸化物材料を分散させ複合化させることを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記酸化物材料は、使用環境温度よりも高い融点を持った酸化物、望ましくはAl2O3(融点2046℃)、MgAl2O4(融点2000℃)、3Al2O3・2SiO2(融点1828℃)、ZrSiO4(融点2600℃)の少なくとも1種類からなるものとする。
【0009】
これら添加材料が気孔を持ったジルコニア組織中に一様に分散していることから、ピン止め効果によって焼結の進展を阻害し、さらには気孔の消失を抑制することが可能となる。図3はピン止め効果の概念を模式図に示す。図3において符番9はジルコニア粒、符番10は高融点酸化物粒を示す。また、上述した酸化物材料は何れも安価に入手可能であり、実用的にも適っている。」
10 甲10について
本件特許出願前に頒布された甲10には、以下の事項が記載されている。
「【0013】
本発明の第1の態様の燃料電池セルは、固体電解質の片側に反応防止層(C)を介して酸素極(A)、他側に燃料極が設けられている燃料電池セルにおいて、酸素極(A)が2層構造であって、反応防止層(C)に隣接している第1層目の酸素極(A1)が第2層目の酸素極(A2)に比して緻密で、かつイオン伝導性及び電子伝導性を有する粒子(A11)と電子伝導性を有する粒子(A12)との混合成分からなり、前記反応防止層(C)を構成する粒子と前記第1層目の酸素極(A1)の粒子(A11)が同一成分を含有するとともに、第2層目の酸素極(A2)が電子伝導性を有する粒子からなることを特徴とする燃料電池セルに関する。」
11 甲11について
本件特許出願前に頒布された甲11には、以下の事項が記載されている。
「【0078】
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末と、エチルセルロースと、テルピネオールとをボールミルにて混合することにより、空気極の内部反応層形成用ペーストを準備した。La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3のことを、以下「LSCF」という。LSCF粉末の平均粒子径は0.6μmである。」
第7 新規性・進歩性に対する当審の判断
1 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)LSCFとは、上記(甲1イ)に「ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)」と記載されているとおり、触媒活性を有するLa-Sr-Co-Fe系の酸化物のことであり、貴金属は含有されていないから、甲1発明の「LSCFの多数の粒子」は、本件発明1の「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)」に相当する。
(イ)多孔質焼結体とは、一般に、多数の粒子が焼成により連なった状態で結合して構成されている粒子連続体といえ、そして、焼結の起点となる焼結起点部は、焼成される粒子あるいは粒子連続体の内部にあることはなく、それらの表面にあるものである。
そうすると、甲1発明の「LSCFの多数の粒子からなる多孔質焼成体」は、本件発明1の「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)」「を有して」いる「多孔質焼結体(1)」に相当する。
(ウ)甲1発明の「固体電解質層と、前記固体電解質層の上面に形成されその上面から燃料ガスの供給を受ける燃料極層と、前記固体電解質層の下面に形成されその下面から酸素を含むガスの供給を受ける空気極層と、が積層・焼成されてなる固体酸化物型燃料電池の薄板体」における「空気極層」である「酸素イオン及び電子を通す混合導電性を有するLSCFの多数の粒子からなる多孔質焼成体」は、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)」「に用いられる」「多孔質焼結体(1)」に相当する。
(エ)一致点・相違点について
上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)を有しており、
固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)に用いられる、多孔質焼結体(1)。」
(相違点1)
多孔質焼結体が、本件発明1では、「ピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)」を有しており、それは「上記焼結起点部に接して配置され」、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上であ」るのに対し、甲1発明では、そもそも、「ピン止め粒子」を有していない点。
イ 相違点1の判断
甲1発明は、上記(甲1イ)に「本発明に係る体酸化物型燃料電池の薄板体の特徴は、前記空気極層が、酸素イオン及び電子を通す混合導電性を有する物質の多数の粒子からなる多孔質焼成体であり、前記空気極層の比表面積が1.5~9.0m2/gであり、且つ、前記空気極層が30~100nmの細孔径を有することにある。」「このことは、比表面積及び細孔径分布が上記のような組み合わせの場合、空気極層を構成する前記物質の粒子の成長(シンタリング)が抑制されて空気極層の比表面積が減少し難いことを意味する。」「なお、高温保持中の微構造変化を抑制する方策として、異種材料を添加して構造を安定化させる、所謂「ピン止め効果」が考えられる。SOFCの場合、ジルコニア粒子を添加することで微細な多孔を有する電極構造の安定化を達成できることが知られている。しかしながら、ジルコニア粒子を添加すると、電子導電性が低下する。従って、高出力が要求されるSOFCの薄板体においては、ジルコニア粒子の添加は、高出力確保の観点から好ましい方策とは言えない。」と記載されているとおり、ピン止め効果が考えられる異種材料の粒子を添加すると、電子導電性が低下し、高出力が要求されるSOFCの薄板体においては、高出力確保の観点から好ましい方策ではないことから、空気極層の比表面積及び細孔径分布を特定の値となるように組み合わせることにより、空気極層を構成する物質の粒子の成長(シンタリング)を抑制した発明である。
そうすると、甲1発明は、異種材料である「ピン止め粒子」を添加することに替えて、空気極層の比表面積及び細孔径分布を特定の値となるようにして、空気極層を構成する物質の粒子の成長を抑制した発明であるから、甲1発明において否定的な認識がなされている「ピン止め粒子」を有するようにすることはない。
したがって、他の甲号証の記載を参照するまでもなく、甲1発明において、上記相違点1に係る構成とすることは当業者が容易なし得たことではない。
加えて、甲2~11には、上記第6で摘記したように、多孔質焼結体において、「ピン止め粒子」を「焼結起点部に接して配置」し、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上」であることを示すものはないことから、仮に、甲2~11の記載事項を甲1発明に組み合わせたとしても、本件発明1とはならない。
ウ よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~5及び8~12について
上記第3で記載されているように、本件発明2~5及び8~12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
以上のことから、本件発明1~5及び8~12は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1~5及び8~12は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1~5及び8~12に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由1によって取り消すことはできない。
2 申立理由2について
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)LSCFとは、上記1(1)ア(ア)で述べたように、触媒活性を有するLa-Sr-Co-Fe系の酸化物のことであり、貴金属は含有されていないから、甲2発明の「LSCF粉末」は、本件発明1の「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)」に相当する。
(イ)「固体電解質形燃料電池」における「空気極層5」である以上、空気が入り込む多孔質体でなければならず、甲2発明の「空気極層5」は、「粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール13部及びブチルカルビトール35部を混合して調整した未焼成空気極層用スラリーを用いて、スクリーン印刷し、未焼成空気極層5’を形成し、その後、1200℃で1時間保持して焼成したもの」であり、焼成の際にバインダーが揮発して多孔質となるものであるから、多孔質焼結体といえる。
一般に、多孔質焼結体は、1(1)ア(イ)で述べたように、多数の粒子が焼成により連なった状態で結合して構成されている粒子連続体といえ、そして、焼結の起点となる焼結起点部は、焼成される粒子あるいは粒子連続体の内部にあることはなく、それらの表面にあるものである。
そうすると、甲2発明の「平均粒径2μmのLSCF粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール13部及びブチルカルビトール35部を混合して調整した未焼成空気極層用スラリーを用いて、スクリーン印刷し、未焼成空気極層5’を形成し、その後、1200℃で1時間保持して焼成したもの」である「空気極層5」は、本件発明1の「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)」「を有して」いる「多孔質焼結体(1)」に相当する。
(ウ)甲2発明の「燃料極基板1と、該燃料極基板1の一面に設けられた固体電解質層2と、該固体電解質層2の一面に設けられた反応防止層3と、該反応防止層3の一面に設けられた混合層4と、該混合層4の一面に設けられた空気極層5とを備える固体電解質形燃料電池」における「空気極層5」は、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)」「に用いられる」「多孔質焼結体(1)」に相当する。
(エ)一致点・相違点について
上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)を有しており、
固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)に用いられる、多孔質焼結体(1)。」
(相違点2)
多孔質焼結体が、本願発明では、「ピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)」を有しており、それは「上記焼結起点部に接して配置され」、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上であ」るのに対し、甲2発明では、そもそも、「ピン止め粒子」を有していない点。
イ 相違点2の判断
甲2発明の課題は、上記(甲2イ)に「ヒートサイクルに対する耐久性に優れ、反応防止層と空気極層との剥離が抑えられるとともに、十分な発電性能を有する燃料極支持膜式の固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。」と記載されているとおりであり、それを解決するために、上記(甲2イ)に記載されているとおり「反応防止層と空気極層との間に、反応防止層形成材料と空気極層形成材料とを含有する混合層を形成」し、その「混合層」が、上記(甲2ウ)に記載されているとおり、「「混合層4」には、上記の反応防止層形成材料と後記の空気極層形成材料とが含有されている。このように、混合層4に反応防止層形成材料と空気極層形成材料とが含有されているため、反応防止層3と混合層4との熱膨張率の差、及び混合層4と空気極層5との熱膨張率の差は、反応防止層3と空気極層5との熱膨張率の差より小さくなり、反応防止層3と混合層4との間、及び混合層4と空気極層5との間の各々が剥離し難くなり、耐久性に優れ、且つ十分な発電性能を有するSOFCとすることができる。」との機能を発揮するものである。
そうすると、甲2発明において、「空気極層5」に「LSCF粉末」以外の粉末を加えることは、空気極層5の熱膨張率が変わることになり、混合層4と空気極層5との熱膨張率の差、反応防止層3と空気極層5との熱膨張率の差の値も変わることになるから、上記甲2発明の課題を解決するとの前提において、「空気極層5」に、「LSCF粉末」以外の粉末、例えば本件発明1における「ピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)」を加えることの動機があるとはいえない。
さらに、甲1には、(甲1イ)の【0010】に「ピン止め効果」の記載はあるが、これが「ピン止め粒子」を「焼結起点部に接して配置」し、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上」であることを意味しているのかは不明であり、しかも、前記1(1)イで述べたように、甲1では「ピン止め効果」について否定的な記載がなされているのであるから、甲1に接したとしても、この技術を甲2発明に適用しようとはしない。
また、甲3~甲11には、上記第6で摘記したように、多孔質焼結体において、「ピン止め粒子」を「焼結起点部に接して配置」し、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上」であることを示すものはないことから、仮に、甲3~11の記載事項を甲2発明に組み合わせたとしても、本件発明1とはならない。
ウ よって、本件発明1は、甲2発明ではなく、甲2発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~5及び8~12について
上記第3で記載されているように、本件発明2~5及び8~12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲2発明ではなく、甲2発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
以上のことから、本件発明1~5及び8~12は、甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1~5及び8~12は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1~5及び8~12に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由2によって取り消すことはできない。
3 申立理由3について
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)LSCFとは、触媒活性を有するLaxSr1-xCoyFe1-yO3系酸化物であり、貴金属は含有されていないから、甲3発明の「LSCF粉末」は、本件発明1の「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)」に相当する。
(イ)「固体電解質」「燃料電池」における「カソード」である以上、空気が入り込む多孔質体でなければならず、甲3発明の「カソード(6)」は、「粉末にエチルセルロースとテルピネオールとをボールミルにて混合したカソード形成用ペーストを、スクリーン印刷法等によって層状に塗布し、焼成したもの」であり、焼成の際にエチルセルロースとテルピネオールが揮発して多孔質となるものであるから、多孔質焼結体といえる。
一般に、多孔質焼結体は、1(1)ア(イ)で述べたように、多数の粒子が焼成により連なった状態で結合して構成されている粒子連続体といえ、そして、焼結の起点となる焼結起点部は、焼成される粒子あるいは粒子連続体の内部にあることはなく、それらの表面にあるものである。
そうすると、甲3発明の「LSCF粉末にエチルセルロースとテルピネオールとをボールミルにて混合したカソード形成用ペーストを、スクリーン印刷法等によって層状に塗布し、焼成したものである」である「カソード(6)」は、本件発明1の「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)」「を有して」いる「多孔質焼結体(1)」に相当する。
(ウ)甲3発明の「アノード(2)、固体電解質層(3)、中間層(4)、接合層(5)、および、カソード(6)がこの順に積層されて」いる「燃料電池単セル(1)」における「カソード(6)」は、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)」「に用いられる」「多孔質焼結体(1)」に相当する。
(エ)一致点・相違点について
上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「複数の触媒粒子(21)(但し、貴金属粒子を除く。)が連なった状態で結合して構成されており、焼結の起点となる焼結起点部(22)を表面に備える粒子連続体(2)を有しており、
固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)に用いられる、多孔質焼結体(1)。」
(相違点3)
多孔質焼結体が、本願発明では、「ピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)」を有しており、それは「上記焼結起点部に接して配置され」、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上であ」るのに対し、甲3発明では、そもそも、「ピン止め粒子」を有していない点。
イ 相違点3の判断
甲3発明は、上記(甲3イ)に「上記燃料電池単セルが作動温度まで加熱された場合、中間層材料およびカソード材料の各線熱膨張係数に応じて、接合層内の中間層材料およびカソード材料がそれぞれ熱膨張する。この際、中間層材料の線熱膨張係数よりもカソード材料の線熱膨張係数の方が大きいため、接合層内において、中間層材料より構成されるネットワーク部は、カソード材料より構成される被覆部により圧縮方向の応力を受ける。そのため、接合層内におけるネットワーク部と被覆部との界面の密着性が向上する。」との技術思想のもと、「上記中間層材料の線熱膨張係数<上記カソード材料の線熱膨張係数の関係を満た」すことが特定されている。
一方、甲3発明において、「カソード(6)」に「LSCF粉末」以外の粉末を加えることは、カソード材料の線熱膨張係数が変化することになるから、「中間層材料の線熱膨張係数<カソード材料の線熱膨張係数の関係」を維持できるかどうか不明である。
そうすると、「カソード(6)」に、「LSCF粉末」以外の粉末、例えば本件発明1における「ピン止め粒子(3)(但し、中央部とその周囲に形成された表面層とを具備しかつ表面層が4価より小さい価数のCeと希土類元素との複合酸化物からなる粒子を除く。)」を加えることの動機があるとはいえない。
さらに、上記2(1)イで述べたとおり、甲1には、(甲1イ)の【0010】に「ピン止め効果」の記載はあるが、これが「ピン止め粒子」を「焼結起点部に接して配置」し、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上」であることを意味しているのかは不明であり、しかも、前記1(1)イで述べたように、甲1では「ピン止め効果」について否定的な記載がなされているのであるから、甲1に接したとしても、この技術を甲3発明に適用しようとはしない。
また、甲2及び4~11には、上記第6で摘記したように、多孔質焼結体において、「ピン止め粒子」を「焼結起点部に接して配置」し、「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置された上記ピン止め粒子の数以上」であることを示すものはないことから、仮に、甲2及び4~11の記載事項を甲3発明に組み合わせたとしても、本件発明1とはならない。
ウ よって、本件発明1は、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~5及び8~12について
上記第3で記載されているように、本件発明2~5及び8~12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
以上のことから、本件発明1~5及び8~12は、甲3発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1~5及び8~12は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1~5及び8~12に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由3によって取り消すことはできない。
第8 明確性に対する当審の判断
1 判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
2 申立理由4について
(1)本件明細書等の記載
本件発明1の「焼結起点部」について、本件明細書等の【0015】には、
「【0015】
粒子連続体2は、焼結の起点となる焼結起点部22を表面に備えている。焼結起点部22としては、具体的には、図2に例示されるように、粒子連続体2における、触媒粒子21同士の結合部分に形成されたくびれ部221、触媒粒子21の表面に形成された凸部222、触媒粒子21の表面に形成された凹部223、これらの組み合わせなどを例示することができる。これらの部位は、焼結の起点となりやすい部位であり、上記構成によれば、これらの部位からの触媒粒子21の焼結進行を抑制することが可能になる。」と記載され、図2として以下の図面が記載されている。
「【図2】
[図:0001409096000001.jpg]
」
また、本件明細書等の【0027】~【0028】には、
「【0027】
図4に例示されるように、多孔質焼結体1をその厚み方向に沿う断面で見て、粒子連続体2の表面に対応して現われる表面曲線SLについて求めた粒子連続体2の表面の曲率の平均値をraveとする。このとき、多孔質焼結体1は、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子3の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子3の数以上である構成とすることができる。この構成によれば、粒子連続体2における焼結起点部22に選択的にピン止め粒子3が配置されることで、触媒粒子21の焼結抑制効果をより確実なものとすることができる。
【0028】
上記raveの測定方法について説明する。多孔質焼結体1の厚み方向に沿う断面を、SEMにて観察し、一視野に少なくとも10個以上の触媒粒子21が観察されるSEM像を取得する。図4に例示されるように、得られたSEM像の水平方向(上記厚み方向と垂直な方向)にほぼ等間隔で10本の横線を引き、それぞれの横線が、粒子連続体2の表面に対応する表面曲線SLを横切る箇所(図4で丸印をつけた箇所)における曲率riを測定する。そして、測定された各riの値の平均値を、粒子連続体の表面の曲率raveとする。ここで、SEM視野内で観察されるピン止め粒子3の全数Nのうち、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数N1の比率を、N1/Nとする。このN1/Nが0.5以上である場合に、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子3の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子3の数以上であるということができる。」と記載され、図4として以下の図面が記載されている。
「【図4】
[図:0001409096000002.jpg]
」
(2)判断
ア 上記(1)で摘記した本件明細書等の記載を考慮すると、「焼結起点部」とは、粒子連続体2の表面の焼結の起点となりやすい部位のことであり、具体的には、図2で示されるような、触媒粒子21同士の結合部分に形成されたくびれ部221、触媒粒子21の表面に形成された凸部222、触媒粒子21の表面に形成された凹部223などであり、広義的には、多孔質焼結体1をその厚み方向に沿う断面で見て、粒子連続体2の表面に対応して現われる表面曲線SLについて求めた粒子連続体2の表面の曲率の平均値をraveとするとき、曲率がraveμm-1以上である部分といえるものである。これは、一般に、焼結における粒成長が、表面積を減少させる(表面エネルギーを減少させる)方向に働くことから、表面積の大きい部分、すなわち上記くびれ部、凸部及び凹部、さらには曲率が大きい部分が、焼結の起点となりやすい部分であるという技術常識とも整合することである。
そうすると、本件発明1の「焼結起点部」は技術的に明確であり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
イ 上記アで述べたことは焼結温度にはよらず、また、「焼結起点部」は、その字義のとおり「焼結の起点となる部位」と解釈すればよく、触媒粒子の表面に形成されたくびれ部、凸部及び凹部は「焼結起点部」の具体例であり、これに限定されない。そして、図6はSEM写真の複写物であるが、当該写真の複写物が不鮮明であるからといって、上記「焼結起点部」の定義が不明確となるものではない。したがって、申立人の主張によって、上記アの判断が覆ることはない。
ウ 小括
以上のことから、本件発明1の「焼結起点部」は明確であり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、申立理由4によって取り消すことはできない。
3 申立理由5について
(1)本件明細書等の記載
本件明細書等には、「ピン止め粒子」について、
「【0016】
ピン止め粒子3は、焼結起点部22に接して配置されている。ピン止め粒子3は、焼結起点部22からの焼結の進行を阻害する。図2では、具体的には、粒子連続体2のくびれ部221、粒子連続体2を構成する触媒粒子21の表面にある凸部222、粒子連続体2を構成する触媒粒子21の表面にある凹部223にピン止め粒子3が配置されている例が示されている。なお、ピン止め粒子3は、焼結起点部22の全てに配置されていてもよいし、焼結起点部22の一部に配置されていてもよい。ピン止め粒子3は、好ましくは、少なくともくびれ部221に配置されているとよい。くびれ部221は、粒子連続体2を構成する触媒粒子21同士が隣接しているため、隣接する触媒粒子21同士が一つになろうとしてより焼結が進行しやすいからである。
【0017】
ピン止め粒子3の構成材料としては、例えば、触媒粒子21の構成材料よりも高い焼結温度を有する金属または酸化物などを例示することができる。この構成によれば、触媒粒子21とピン止め粒子3とを含む混合物(図3(a))を焼成することにより、触媒粒子21表面の凸部222や凹部223等から部分的に溶解し、周囲のピン止め粒子3を取り込みつつ隣り合う触媒粒子21同士が結合し、くびれ部221が形成される(図3(b))。そして、冷却時には、粒子連続体2のくびれ部221や触媒粒子21の凸部222、凹部223等にピン止め粒子3が析出する(図3(c))。そのため、上記構成によれば、多孔質焼結体1の焼成時にピン止め粒子3が触媒粒子21よりも先に溶解することがない。それ故、上記構成によれば、触媒粒子21とピン止め粒子3との焼結温度差を利用して、粒子連続体2のくびれ部221や触媒粒子21の凸部222、凹部223等にピン止め粒子3が選択的に配置された構造を得やすい利点がある。
【0018】
ピン止め粒子3は、多孔質焼結体1の焼成時における焼成温度にて触媒粒子21の構成材料と化合物を形成しない金属または酸化物より構成されているとよい。この構成によれば、多孔質焼結体1の焼成時に、触媒粒子21とピン止め粒子3とが化学反応しないので、触媒粒子21に取り込まれたピン止め粒子3がくびれ部221、凸部222、凹部223等に析出しやすくなる。それ故、この構成によれば、粒子連続体2における焼結起点部22へのピン止め粒子3の配置を確実なものとすることが可能になる。なお、上記化合物を形成しないとは、多孔質焼結体1の焼成時に、触媒粒子21とピン止め粒子3とが化学反応してしまって触媒粒子21にピン止め粒子3が取り込まれたままとならないことを意味する。したがって、上記析出が生じる範囲内であれば、ピン止め粒子3は、触媒粒子21の構成材料とわずかに化合物を形成してもよい。
【0019】
ピン止め粒子3の構成材料としては、例えば、Gd、Sm、Y、Nd、La、および、Ceからなる群より選択される少なくとも2種を含む酸化物などを例示することができる。この構成によれば、焼結温度が高いので、焼結起点部22へのピン止め粒子3の配置を確実なものとすることが可能になる。また、上記酸化物は、酸素イオン伝導性と電子導電性の両方を備えるため、触媒粒子21、ピン止め粒子3、気孔4の三相界面での反応が促進され、固体酸化物形燃料電池5のカソード51に用いて良好な発電性能を発揮可能な多孔質焼結体1が得られる。上記酸化物としては、好ましくは、Ceと、Gd、Sm、Y、Nd、および、Laからなる群より選択される少なくとも1種と、を含む酸化物であるとよい。この構成によれば、上述した作用効果が得られやすい。上記酸化物としては、具体的には、例えば、CeO2にGd、Sm、Y、Nd、および、Laからなる群より選択される少なくとも1種の元素等がドープされたセリア系固溶体などを例示することができる。また、ピン止め粒子3の構成材料としては、他にも例えば、Al2O3、ZrO2、ZrO2にY、Ca、および、Scからなる群より選択される少なくとも1種の元素がドープされたジルコニア系固溶体などを例示することができる。この構成によれば、固体酸化物形燃料電池5のアノード52に用いて良好な発電性能を発揮可能な多孔質焼結体1が得られる。なお、ピン止め粒子3は、1種のピン止め粒子3より構成されていてもよし、2種以上のピン止め粒子3より構成されていてもよい。」と記載されている。
(2)判断
ア 上記(1)で摘記した本件明細書等の記載を考慮すると、「ピン止め粒子」とは、焼結起点部に接して配置され、焼結起点部からの焼結の進行を阻害するものであり、多孔質焼結体の焼成時における焼成温度にて触媒粒子の構成材料と化合物を形成しない金属または酸化物より構成され、触媒粒子の構成材料よりも高い焼結温度を有する金属または酸化物のことである。
そうすると、本件発明1の「ピン止め粒子」は技術的に明確であり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
イ 申立人は、請求項12で特定される「ピン止め粒子は、Gd、Sm、Y、Nd、La、および、Ceからなる群より選択される少なくとも2種を含む酸化物より構成される」もの以外にも「ピン止め粒子」に該当する粒子が存在し得るのか不明であることを主張しているが、上記(1)で摘記した【0019】に「ピン止め粒子3の構成材料としては、他にも例えば、Al2O3、ZrO2、ZrO2にY、Ca、および、Scからなる群より選択される少なくとも1種の元素がドープされたジルコニア系固溶体などを例示することができる。」と記載されているとおり、上記アの定義を満たす限り、請求項12で特定される以外にも存在し得るものである。
ウ 小括
以上のことから、本件発明1の「ピン止め粒子」は明確であり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、申立理由5によって取り消すことはできない。
4 申立理由6について
ア アの主張について
本件発明3は「上記ピン止め粒子は、上記多孔質焼結体の焼成時における焼成温度にて上記触媒粒子の構成材料と化合物を形成しない金属または酸化物より構成されている、請求項1または2に記載の多孔質焼結体。」であり、「ピン止め粒子」を構成する「金属または酸化物」が、「多孔質焼結体の焼成時における焼成温度にて上記触媒粒子の構成材料と化合物を形成しない」ものであることを特定したものであり、その焼成温度とは、固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルのカソードやアノードの通常の焼成温度、例えば、本件明細書等の【0042】に記載されているカソード形成用ペーストの焼成温度である1050℃である。
そうすると、本件発明3は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
イ イの主張について
上記2(1)で摘記した図2に記載されているとおり、「くびれ部」とは、粒子連続体2における触媒粒子21同士の結合部分に形成された「221」のように周辺部位と比べて両側(周囲)が細くなっている部分であり、「凸部」とは、触媒粒子21の表面に形成された「222」のように周辺部位と比べて凸の部分であり、「凹部」とは、触媒粒子21の表面に形成された223のように周辺部位と比べて凹の部分であるから、「くびれ部」、「凸部」及び「凹部」の意味する部位は明らかである。
そうすると、本件発明5は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
ウ ウの主張について
上記2(1)で摘記した【0028】に「上記raveの測定方法について説明する。多孔質焼結体1の厚み方向に沿う断面を、SEMにて観察し、一視野に少なくとも10個以上の触媒粒子21が観察されるSEM像を取得する。図4に例示されるように、得られたSEM像の水平方向(上記厚み方向と垂直な方向)にほぼ等間隔で10本の横線を引き、それぞれの横線が、粒子連続体2の表面に対応する表面曲線SLを横切る箇所(図4で丸印をつけた箇所)における曲率riを測定する。そして、測定された各riの値の平均値を、粒子連続体の表面の曲率raveとする。ここで、SEM視野内で観察されるピン止め粒子3の全数Nのうち、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数N1の比率を、N1/Nとする。このN1/Nが0.5以上である場合に、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子3の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子3の数以上であるということができる。」と記載されているとおりである。
ここで、「くびれ部」、「凸部」及び「凹部」の形状である以上、「くびれ部」、「凸部」及び「凹部」の部分の曲率が、粒子連続体2の表面における曲率の平均値以上であることは自明のことであるから、本件発明1の「曲率がraveμm-1以上である」との特定により「くびれ部」、「凸部」及び「凹部」の形状はすべて含まれるものとなっている。そして、「くびれ部」、「凸部」及び「凹部」のいずれかにかかわらず、焼結起点部をピン止めすればよいのであるから、仮に、ピン止め粒子の配置されやすさが、例えば「凸部」と「凹部」で異なるとしても、ピン止め粒子との関係において「くびれ部」、「凸部」及び「凹部」を区別して記載する必要はない。
そうすると、本件発明1は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
エ 小括
以上のことから、本件発明1、3及び5は明確であり、本件発明1、3及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、申立理由6によって取り消すことはできない。
第9 サポート要件に対する当審の判断
1 判断手法について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
2 取消理由1について
(1)上記第2の1(1)アで記載したように、本件訂正により、本件発明1は「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる、あるいは、固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる、多孔質焼結体(1)」となり、前者の「固体酸化物形燃料電池(5)のカソード(51)またはアノード(52)に用いられる」「多孔質焼結体(1)」については、上記第5の1の取消理由1は解消されるものである。
(2)次に、後者の「固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる」「多孔質焼結体(1)」について検討する。
上記第2の2(1)イ(イ)b(c)で述べたように、本件発明は、触媒粒子の焼結を抑制可能な多孔質焼結体を提供することを発明の課題とし、この課題を、複数の触媒粒子が連なった状態で結合して構成され、焼結の起点となる焼結起点部を表面に備える粒子連続体の焼結起点部にピン止め粒子を配置することにより解決するものである。ここで、本件明細書等では、上記多孔質焼結体として、具体的には固体酸化物形燃料電池におけるものが記載されているところ、固体酸化物形燃料電池は、カソードに酸素を、アノードに水素を供給し発電を行うものであり、固体酸化物形電解セルは、カソードにおいて供給した水から電気分解により水素が発生し、アノードから酸素が発生するものであるが、両者は、カソード、アノードにおける材料が共通し、高温下で運転されるものとして共通している。そして、本件発明の課題は、焼結に係る問題に起因するものであり、焼結は高温下で起こるものであるから、高温下で運転される固体酸化物形燃料電池で生じる焼結に係る課題であれば、カソード、アノードにおける材料が共通し、同じく高温下で運転される固体酸化物形電解セルでも生じる課題であること、さらには、本件明細書等において、具体的に固体酸化物形燃料電池を対象として記載されている本件発明の課題に対する解決手段が、固体酸化物形電解セルにも同様に適用されるものであることを、当業者であれば理解することができるといえる。
よって、「固体酸化物形電解セルのアノードまたはカソードに用いられる」「多孔質焼結体(1)」についても、上記第5の1の取消理由1は解消されるものである。
3 取消理由2について
上記第2の1(1)アで記載したように、本件訂正により、本件発明1は「上記多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上であ」る「多孔質焼結体(1)」となり、上記第5の2の取消理由2は解消されるものである。
4 小括
以上のことから、本件発明1~12は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、取消理由1及び2によって取り消すことはできない。
また、サポート要件についての申立理由7及び8については、第4の3(1)及び(2)で述べたとおり、申立理由7は取消理由2と同じであり、申立理由8は取消理由1に含まれるものであるから、申立理由7及び8によっても、本件発明1~12に係る特許を取り消すことはできない。
第10 申立人の意見書について
1 申立人は、令和5年11月10日に提出した意見書で、以下の主張をしている。
(1)「本件明細書の実施例(実験例)には、N1/Nが0.41超、0.71未満である水準が存在しない。そのため、N1/Nが0.5以上、0.71未満である態様において、触媒粒子の粒径増加抑制効果が得られるか(換言すれば、粒径増加率が、ピン止め粒子が「添加なし」である水準4の粒径増加率である17.9%より低くなるか)、まったく不明である。
従って、本件発明1は、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。本件発明2-12も同様である。」(6頁5~11行)
(2)「本件明細書に、触媒粒子としてLSC粒子が用いられ、かつ、ピン止め粒子としてGDC粒子が用いられた多孔質焼結体を固体酸化物形燃料電池のカソードに適用した場合においてN1/Nが特定の数値以上であると触媒粒子の粒径増加抑制効果が得られることが記載されているとしても、以下の場合においても同様に該効果が得られるとは理解できない。
ア 固体酸化物形燃料電池のカソードにおいて、触媒粒子およびピン止め粒子の材料として、上述したLSCおよびGDC以外の材料が用いられた場合
イ 多孔質焼結体を固体酸化物形燃料電池のアノードに適用した場合
ウ 多孔質焼結体を固体酸化物形電解セルの電極に適用した場合
従って、本件発明1は、課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。本件発明2-12も同様である。」(7頁19行~8頁3行、なお、ア~ウは原文では○数字の1~3である。)
2 申立人の主張に対する当審の判断
(1)について
ア 本件明細書等には、実施例の結果として、
「【0048】
【表1】
[図:0001409096000003.jpg]
【0049】
表1によれば、以下のことがわかる。水準4は、ピン止め粒子を添加しなかったため、粒子連続体を構成する触媒粒子の焼結が進行し、触媒粒子の粒径が増加した。水準1、水準2は、粒子連続体の焼結起点部に選択的にピン止め粒子が配置されていないので、水準4と同様に、粒子連続体を構成する触媒粒子の焼結が 進行し、触媒粒子の粒径が増加した。
【0050】
これらに対し、水準3は、粒子連続体の焼結起点部に選択的にピン止め粒子が配置されているので、粒子連続体を構成する触媒粒子の焼結進行を抑制することができ、触媒粒子の粒径増加を抑制することができた。また、水準1~水準3を比較すると、水準3のように、N1/Nが0.5以上である、すなわち、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上である場合には、粒子連続体における焼結起点部に選択的にピン止め粒子が配置されることで、触媒粒子の焼結抑制効果をより確実なものとすることができた。これは、焼結起点部に、触媒粒子と反応せず、熱的にも安定なピン止め粒子が配置されたことで、触媒粒子の構成材料の元素表面拡散による粒成長が抑制されたためであると考えられる。」と記載されている。
イ 上記【表1】を参照すると、ピン止め粒子について、N1/Nが「0.23」、「0.41」、「0.71」と増加するに従って、粒径増加率が「24.8%」、「20%」、「0.8%」と減少しており、「0.23」から「0.41」になる際には「24.8%」から「20%」へとその減少は比較的なだらかであるのに対し、「0.41」から「0.71」にはる際には「20%」から「0.8%」へと急激に減少している。
そうすると、N1/Nが「0.41」から「0.71」へと変化する際に、粒径増加率が急激に減少するポイントがあるといえ、それが「0.5」付近にあることは物理化学的に否定できるものではない。この点、本件明細書でも「N1/Nが0.5以上である、すなわち、曲率がraveμm-1以上である部分に配置されたピン止め粒子の数が、曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上である場合には、粒子連続体における焼結起点部に選択的にピン止め粒子が配置されることで、触媒粒子の焼結抑制効果をより確実なものとすることができた。」と記載されている。
したがって、申立人の「N1/Nが0.5以上、0.71未満である態様において、触媒粒子の粒径増加抑制効果が得られるか、まったく不明である」との主張は、根拠がなく、受け入れられない。
(2)について
まず、アについて検討するに、本件発明は、「ピン止め粒子」を「焼結起点部に接して配置」し、「多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上であ」るようにすることで、本件発明の「触媒粒子の焼結を抑制する」という課題を解決するものであるから、触媒粒子が「LSC」粒子であり、かつピン止め粒子が「GDC」粒子でなければ、触媒粒子の焼結を抑制することはできないというものではない。そうすると、アの主張は、受け入れられない。
次に、イについて、検討するに、上記第5の1で述べたように、固体酸化物形燃料電池は一般に高温(1000℃にも至る)で作動するものであり、カソードだけでなくアノードも高温にさらされるものであり、アノードについても課題の前提があるから、「ピン止め粒子」を「焼結起点部に接して配置」し、「多孔質焼結体を厚み方向に沿う断面で見て、上記粒子連続体の表面に対応して現われる表面曲線(SL)について求めた上記粒子連続体の表面の曲率の平均値をraveとしたとき、上記曲率がraveμm-1以上である部分に配置された上記ピン止め粒子の数が、上記曲率がraveμm-1未満である部分に配置されたピン止め粒子の数以上であ」るようにすることで、本件発明の「触媒粒子の焼結を抑制する」という課題を解決するものである。そうすると、イの主張は、受け入れられない。
そして、ウについては、上記第9の2(2)で述べたとおりであるから、上記イと同様に、本件発明の「触媒粒子の焼結を抑制する」という課題を解決するものである。そうすると、ウの主張は、受け入れられない。
第11 むすび
以上のとおり、本件発明1~5及び8~12に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1~5及び8~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項6及び7に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項6及び7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700156