特許異議申立
2023-700522
熱収縮性ポリエステル系フィルムロール
- 審判番号
- 2023-700522
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-096123
- 登録番号
- 7180114
- 請求日
- 2023年05月19日
- 審決日
- 2023年09月08日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡株式会社
- 【異議申立人】中井 紘子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.121-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7180114号発明「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7180114号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7180114号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、
平成30年 5月18日を出願日とする特許出願であって、
令和 4年11月21日にその特許権の設定登録(請求項の数 4)がされ、
令和 4年11月30日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 5月19日に 中井 紘子 (以下、「特許異議申立人」という。)が全請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行ったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
熱収縮性ポリエステル系フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロールであって、下記要件(1)~(4)を満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
(1)有効巻長が3000m以上30000m以下であること
(2)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で、硬さ試験機パロテスター2で測定した際の平均硬さが500以上700以下の範囲であること
(3)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で測定した際の硬さのばらつきが10%以上20%以下であること
(4)前記フィルムロールを最表層から500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率 R (%)が最表層~最表層からの巻長1000mの範囲で式1を満たし、
最表層からの巻長1000m~巻芯からの巻長1000mの範囲で式2を満たし、
巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲で式3を満たすこと
-6.0(%)≦R(%)<0(%) ・・・式1
-2.0(%)≦R(%)≦2.0(%) ・・・式2
0(%)<R(%)≦6.0(%) ・・・ 式3
【請求項2】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムを90℃の温水中に10秒間浸漬処理後のフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【請求項3】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みが8μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【請求項4】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの幅が400mm以上2000mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステルフィルムロール。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 5年 5月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開2008-195061号公報
甲第2号証:特開昭61-238639号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
当審は以下に述べるように、申立理由によっては本件特許を取り消すことはできないと判断する。以下、検討する。
1 主な証拠に記載された事項
(1)甲1に記載された事項等
甲1には「ポリエステル系熱収縮性フィルムロール」に関し、次の事項が記載されている。
「【0019】
すなわち、本発明の要旨は、有効長1000m以上のポリエステル系熱収縮性フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロールであって、前記フィルムロールの巻き出し部表面を、落球式硬さ試験機を用いて前記熱収縮性フィルムの幅方向に20mm間隔で測定した際の平均硬さが300~800の範囲であり、該平均硬さのばらつきが±200以内であり、巻き出し部からフィルムを500m単位で巻き出した後の平均硬さの増加率が0.25~5.0%の範囲であり、かつ熱収縮性フィルムを80℃温水中に10秒間浸漬した後の主収縮方向の収縮率が少なくとも20%であることを特徴とする熱収縮性フィルムロールにある。
【0020】
ここに、フィルムの「有効長」とは、巻き出し部の長さ方向端部から5mを除去し、除去したフィルムの巻き出し部側端部から、500m単位に巻き芯側に移動して、その500m毎の最後の部位が巻き芯側に少なくとも100mの長さを残している点までの長さをいうものとする。従って、有効長における硬さの測定点は、フィルムの巻き出し部の長さ方向端部から5mを除去し、この5mを除去したフィルムの巻き出し側端部を最初の測定点とする。その後フィルムの長さに応じて、最初の測定点から500mごとの位置を測定点とし、最後の(最も巻き芯側の)測定点は、巻き芯側に少なくとも100mの長さを残しておくものとする。すなわち、「有効長」は、フィルム全長から、上記巻き出し側端部5m、および巻き芯側の「少なくとも100m」を除外した長さである。」
「【0090】
<<樹脂原料>>
各実施例、比較例のフィルムロールのフィルム製造に使用される樹脂のペレット原料として以下のポリエステル系樹脂8種(PET1~8)を使用した。
【0091】
(1)ポリエステル系樹脂1(PET1)
イーストマン・ケミカル社製「EASTAR PETG Copolyester6763」を使用した。該ポリエステル樹脂について、上述の方法で組成分析を行った結果、ジカルボン酸成分がテレフタル酸(以下、「TPA」と略記する。)であり、ジオール成分は、エチレングリコール(以下、「EG」と略記する。)が全ジオールに対して68モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下、「CHDM」と略記する。)が全ジオールに対して32モル%であるポリエステル樹脂であった。また、該ポリエステル樹脂の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.78dl/gであった。
【0092】
(2)ポリエステル系樹脂2(PET2)
以下に記載する製造例1の方法にて、ポリエステル樹脂を製造した。該ポリエステル樹脂について、上述の方法で組成分析を行った結果、ジカルボン酸成分は、TPAが全ジカルボン酸に対して70モル%、イソフタル酸(以下、「IPA」と略記する。)が全ジカルボン酸に対して30モル%であり、ジオール成分がEGであるポリエステル樹脂であった。また、該ポリエステル樹脂の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.72dl/gであった。
-製造例1-
スラリー調製槽、エステル化反応槽、重縮合槽、およびペレット化装置を備えた回分式重合装置を用い、TPAとIPAの混合物(モル比4:1)とEGのエステル化反応物1トンを入れたエステル化反応槽に、あらかじめスラリー調製槽にて調製したTPA:605kg(3.64キロモル)、IPA:259kg(1.56キロモル)およびEG:388kg(5.20キロモル)(ジカルボン酸とジオールのモル比は1:1.2)のスラリーを314kg/hrの速度で連続的に添加してエステル化反応を行った。エステル化反応は、反応温度250℃、常圧の条件下、エステル化反応触媒としてポリエステル樹脂の理論収量に対して200質量ppmの三酸化アンチモンを添加し、生成する水を連続的に留出させながら、反応率95%に達するまでエステル化反応を行った。エステル化反応終了後、エステル化反応物の1トンをエステル化反応槽に残し、エステル化反応物を重縮合槽に移送した。
引き続いて、エステル化反応物が移送された重縮合槽に、安定剤として正リン酸を添加し、重合触媒として酢酸コバルトと三酸化二アンチモンを添加した(いずれもEG溶液として添加)。正リン酸、酢酸コバルト、三酸化二アンチモンの添加量はそれぞれ、ポリエステル樹脂の理論収量に対して、60質量ppm、150質量ppm、200質量ppmとした。
その後約100分かけて常圧から1.33×102Pa(1mmHg)まで減圧すると共に、内温を約250℃から約280℃まで上昇させ、EGを留出させながら溶融重縮合反応を行った。減圧開始後4時間経過したところで復圧し、重縮合反応を終了した。重縮合槽を復圧後、槽下部よりポリエステル樹脂をストランド状に水中に抜き出した後、ペレット状にカッティングした。また、ポリエステル系樹脂の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.72dl/gであった。
【0093】
(3)ポリエステル系樹脂3(PET3)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「NOVADURAN 5008」をポリエステル系樹脂3として使用した。ポリエステル系樹脂3の組成を上記方法で分析した結果、ジカルボン酸成分がTPAであり、ジオール成分が1,4-ブタンジオール(以下、「BD」と略記する。)であるポリエステル系樹脂であった。また、ポリエステル系樹脂3の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.85dl/gであった。」
「【0095】
(5)ポリエステル系樹脂5(PET5)
以下に記載する製造例3の方法にて、ポリエステル樹脂を製造した。該ポリエステル樹脂について、上述の方法で灰分分析並びに、組成分析を行った結果、ジカルボン酸成分はTPAであり、ジオール成分は、EGが全ジオールに対して68モル%、CHDMが全ジオールに対して32モル%であり、灰分分析を行った結果、有機物でない無機微粒子が10質量%含有しているポリエステル樹脂であった。また、該ポリエステル樹脂の固有粘度を上記方法で測定した結果、0.74dl/gであった。
-製造例3-
上記ポリエステル系樹脂PET1を90質量部、富士シリシア化学製の平均粒子径が2.7μmの「サイリシア320P」を10質量部配合し、同方向二軸押出機で押出後、口金部よりポリエステル樹脂をストランド状に水中に抜き出した後、ペレット状にカッティングした。」
「【0099】
<<フィルムロールの作製>>
以上の樹脂原料8種を用いて、以下の実施例1~12、比較例1~7のフィルムロールを得た。配合の一覧を表1に、フィルムの製造条件一覧を表2に示す。
【0100】
(実施例1)
原料ポリエステル樹脂PET1を54.5質量部、ポリエステル樹脂PET2を27質量部とポリエステル樹脂PET3を15質量部、ポリエステル樹脂PET4を3.5質量部配合し、270℃の同方向二軸押出機で真空ベントを引きながら溶融混練し、Tダイ口金から冷却ロール上に押出し、厚さ250μmの未延伸フィルムを得た。その後、上記フィルムを縦延伸機の低速-高速ロール間の縦延伸をかけるところは1.1倍で縦倍率をかけ、上記ロール間以外のドローは0.98倍とした。その後、テンターにて101℃で予熱し、延伸温度79℃、延伸速度3000%/分でキャスティング押出方向に対して、垂直方向の横方向に5倍延伸を行い、熱処理温度92℃で処理後、テンター弛緩率0.4%にて厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。なお、テンター熱風の吹出に関して、平均速度は10m/秒、フィルム幅方向の速度差は3m/秒であり、テンター出口のフィルム幅方向における温度幅は3℃であった。また、ワインダーにてフィルムを巻き取る張力は50N/m、フィルムをガイドするゴムロールの接圧は30N/m、巻き始めの初期値に対する巻き終わりの最終値が、張力、接圧ともに75%、200%に調整した。さらにスリッターにてフィルムを巻き取る張力は60N/m、フィルムをガイドするメタルロールの接圧は150N/m、巻き始めの初期値に対する巻き終わりの最終値が、張力、接圧ともに45%、180%に調整して、0.98m幅にスリットし、1000m巻き取り、実施例1にかかるフィルムロールを得た。
【0101】
(実施例2~実施例12、比較例1~7)
表1の配合表に従い配合した樹脂を実施例1と同様の条件で溶融押出し、250μmのフィルムを得た。なお、表1中の数値の単位は、質量部である。
上記フィルムを表2の条件にて延伸、巻き取り、スリットし、フィルムロールを得た。表2以外の条件は全て実施例1と同様に延伸、巻き取り、スリットを行った。」
「【0103】
【表1】
[図:0001402798000001.jpg]
【0104】
【表2】
[図:0001402798000002.jpg]
【0105】
<<フィルムロールの評価方法>>
以下に、フィルムロールの評価方法を説明する。評価結果は表3にまとめて示した。
(1)80℃収縮率
各実施例または比較例にて得られたフィルムを、測定延伸方向に150mm、これに対する直交方向に25mmの大きさに切り取り、試料を作成した。試料の延伸方向に100mm間隔の標線を付し、80℃の温水浴に10秒間浸漬させ、その後30秒間23℃の冷水に浸漬した後の標線間隔(A(mm))を測定し、下式(1)により収縮率を算出した。
収縮率(%)=100×(100-A)/100・・・・式(1)
【0106】
(2)半年後の印刷評価
20℃に保った保冷倉庫にフィルムロールを半年間保管し、その後6色印刷機を用いて一般的に用いられるカラーチャート版を使用し150m/分の速度で非帯電防止面に6色印刷を行った。見当ズレ監視装置の見当ズレ精度を観測し、ロール全域にわたる見当ズレの平均を見当ズレの値とした。
○: 見当ズレが0.3mm未満
△: 0.3~0.9mm
×: 見当ズレが0.9mmを超える。
見当ズレが0.3mm未満の場合には見た目にボヤケを感じられない。見当ズレが0.3~0.9mmの場合にはわずかにぼやけるものの、商品としては問題がない。見当ズレが0.9mmを超える場合にはボヤケがひどく商品価値がなくなる。
【0107】
(3)フィルムロール硬さの測定方法
スイス、プロセオ社の硬さ試験機パロテスター2を使用した。従来、フィルムや紙のコイルの硬さを現場で計るには、棒でロールを叩き、その音によりロール硬さを推定する方法が行われていた。しかし、この方法では結果に個人差が出る欠点があるため、客観性を担保すべく本試験機を使用した。その原理は、特殊なバネの力でインパクトボディーがロール表面を打撃、反発した際の、インパクト装置のコイルと、インパクトボディーに内蔵された磁石とが働き、生じた誘導電圧を速度に正比例する値として関知するものである。インパクトボディーの反発速度をVa、打撃速度をVbとすると、下記式(2)により、硬さHを算出し、記録した。
H=(Va/Vb)×1000・・・・・式(2)
【0108】
フィルムロールの硬さが硬いほど、硬さ値は大きな値を示す。具体的な測定の手順は以下の通りである。スリッターで巻き取った本発明のフィルムロールを別のスリッターにて巻き解く。この際、巻き解く前の巻き出し側端部においてまずフィルムロール硬さを測定し、最大硬さ/最小硬さ/平均硬さを求め、その後、500m毎にスリッターを停止させ、フィルムロール硬さを測定し、最大硬さ/最小硬さ/平均硬さを求めた。
具体的には、フィルムロール巻き出し部の長さ方向端部から5m除去した部分を最外部の巻外として計測し、500mずつ巻き解きながら計測し、フィルムロール巻き芯側に少なくとも100mの長さを残している点までの長さまで計測する(有効長において巻外から500mおきの計測となる。)。
【0109】
「平均硬さのバラツキ」とは、平均硬さと、該平均硬さから最も離れた硬さとの数値差により表現した値である。具体的には、「最大硬さ-平均硬さ」、「最小硬さ-平均硬さ」、のいずれかのうち、絶対値が大きい方を「平均硬さのバラツキ」とする。」
「【0113】
[図:0001402798000003.jpg]
」
「【0115】
【図1】フィルムロールの全長と有効長との関係を示す図である。
【図2】フィルムロール巻き出し部表面の硬さ測定点を示す図である。」
「【図2】
[図:0001402798000004.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1の実施例6を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「熱収縮性ポリエステルフィルムを得、ワインダーにてフィルムを巻き取り、さらにスリッターにて巻き取りながらスリットしてフィルムロールを得、別のスリッターにて巻き解いてフィルムロールの硬さの測定をしたフィルムロールであって、巻き長が4000mであり、前記フィルムロールの巻き出し部の長さ方向端部から5mを除去した巻き出し側端部の硬度を、フィルムの幅方向に20mm間隔で、硬さ試験機パロテスター2(スイス、プロセオ社製)で測定した際の平均硬度が500であり、前記フィルムロールの巻き出し側端部において、最大硬さは512であり、最小硬さは485であり、前記巻き出し部から前記フィルムを500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率が1.5%であるフィルムロール。」
(3)甲2に記載された事項
甲2には「ポリエステルフィルム巻層体」に関し、次の事項が記載されている。
「 従来フィルムをロール状に巻き上げる際は、一定の張力及び接圧を付与し、層間に巻込まれる空気層を調製して、良好な巻状態を形成しているが従来の巻条件は接圧及び張力ともに巻終りに向かつて一定もしくはそれ以下の範囲であった為、巻上げ直後は良好な巻状態であって時間の経過とともに表層部分に、筋状の盛り上りがはっせいし2次加工工場でさまざまな欠陥となる問題点が有った。」
(第1頁右下欄第3~11行)
「発明の構成
フィルム巻層体はコアに巻上げられることが普通の形態である。この巻層体の形成の過程、云い換えるとフィルムの巻取り工程において、フィルムはロール状に巻き上げられる際、フィルムは層を形成する。このフィルム層はフィルム層と隣接するフィルム層との間に僅かな空気を介在している。そして、フィルム層に介在する空気が多いとフィルムは層間で滑ることができ、この空気量の多寡によって巻層体は軟かくも硬くもなる。」
(第2頁右上欄第3~13行)
「本発明は層間の空気量を調節することによって、フィルム巻層体の経時のシワの発生を防止するものである。
本発明は、延伸配向されたポリエステルフィルムをロール条に巻上げた巻層体であって、該巻層体の表層部分の巻硬さが中層部分の巻硬さよりも高いことを特徴とするポリエステルフィルム巻層体である。」
(第2頁右上欄第19行~左下欄第7行)
「 本発明では、巻層体がコアに巻上げられてゆく過程で巻硬さを適宜調節して、表層部分の巻硬さが中層部分の巻硬さより大となるようにしたものである。即ち、巻製品を形成する過程で、本発明の巻層体は空気の層間介在量を変えて、巻終り部分の空気介在量を減少させて硬く巻上げたものである。従って巻層体の形成の過程で、巻層部分の硬さは、コア近傍で高く、中間領域では徐々に硬度を低下せしめたものであり、硬度の最小点を経て表層では徐々に高いものとなっている。」
(第2頁右下欄末行~第3頁左上欄第10行)
「 本発明のポリエステル巻層体を巻上げる方法を説明すると、巻終り近傍の巻取条件(巻硬さ)を中間領域の条件に比べ漸増処理するものであって、フィルムの幅や厚みによって条件は異なるが、巻層体の表層を硬くする手段として、
(イ)接圧漸増処理
(ロ)張力漸増処理
が挙げられる。ここに接圧漸増処理とは、前述した表層部分に相当する巻終りの100~1000mの範囲において接圧地を20~100%増加するような条件で巻上げるものである。」
(第3頁左上欄第15行~右上欄第7行)
「この様な条件で巻上げられた巻製品は表層ズレの発生が無く加えて防湿カバー等の補助手段を省くことが可能となり従来の問題点が一気に解決出来る優れた巻層体である。この効果を巻層体の硬度に着目して表示すると、第2図のとおりとなり、従来の巻条件では巻層体最内層から表層に向かって硬度はゆるやかに漸減のパターンとなるが、本発明の巻終りに向け巻条件を漸増した時は硬度も漸減の前段に遡って上昇し内層硬度レベルも少し高目になって来る。」
(第3頁右上欄第18行~左下欄第8行)
[図:0001402798000005.jpg]
(第4頁右下欄)
2 検討
(1)本件特許発明1についての対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「熱収縮性ポリエステルフィルムを得、ワインダーにてフィルムを巻き取り、さらにスリッターにて巻き取りながらスリットして」得た「フィルムロール」は、本件特許発明1における「熱収縮性ポリエステル系フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロール」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「熱収縮性ポリエステル系フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロールである、熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」
<相違点1>
本件特許発明1は「(1)有効巻長」が3000m以上30000m以下であるとの特定を有するのに対し、甲1発明においては巻き長が4000mである点。
<相違点2>
本件特許発明1においては、「(2)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で、硬さ試験機パロテスター2で測定した際の平均硬さが500以上700以下の範囲である」との特定を有するのに対して、甲1発明においては、「フィルムの幅方向に20mm間隔で、硬さ試験機パロテスター2(スイス、プロセオ社製)で測定した際の平均硬度が500」である点。
<相違点3>
本件特許発明1においては、「(3)前記フィルムロールの最表層の硬度をフィルム幅方向50mmの間隔で測定した際のばらつきが10%以上20%以下である」との特定を有するのに対して、甲1発明においては、「前記フィルムロールの巻き出し部の長さ方向端部から5mを除去した巻き出し側端部の硬度を、フィルムの幅方向に20mm間隔で、硬さ試験機パロテスター2(スイス、プロセオ社製)で測定した際の平均硬度が500、最大硬さは512であり、最小硬さは485」である点。
<相違点4>
本件特許発明1においては、「(4)前記フィルムロールの最表層から500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率R(%)が最表層~最表層からの巻長1000mの範囲で式1を満たし、最表層からの巻長1000m~巻芯からの巻長1000mで式2を満たし、巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲で式3を満たすこと
-6.0(%)≦R(%)<0(%) ・・・式1
-2.0(%)≦R(%)≦2.0(%) ・・・式2
0(%)<R(%)≦6.0(%) ・・・式3 」
との特定を有するのに対して、甲1発明においてはそのような特定を有さない点。
事案に鑑み、相違点4について検討する。
甲1発明における平均硬さの増加率とは、フィルムロール巻き出し部の長さ方向端部から5m除去した最表層の平均硬度から、500mずつ巻き解きながら平均硬さを計測し、フィルムロール巻芯側に少なくとも100mの長さを残している点までの長さまで計測したときの平均硬度の増加率であり、甲1(【請求項1】)には、この平均硬度の増加率を0.25~5.0%の範囲にすることが記載されている。すなわち、甲1発明は、フィルムロールを500mずつ巻き解きながら測定されるフィルムの平均硬度の増加率はフィルムロールの表層から巻芯に向けてプラスであり、平均硬度が上昇することを前提とする。
他方、特許異議申立人の提出した甲2には、層間の空気量を調整することによって、フィルム巻層体の経時のシワの発生を防止するべく、該巻層体の表層部分の巻硬さを中層部分の巻硬さよりも高くしたフィルム巻層体が記載されており、これは甲2の第2図に表されるように、フィルムロールを巻き解いて測定した場合の平均硬さの増加率が、表層領域から中層領域ではマイナス、すなわち、平均硬度を減少させ、中層領域から巻芯の領域ではプラス、すなわち、平均硬度は巻き解きながら測定された場合において上昇させることが記載されている。
甲1発明では、フィルムロールの表層から巻芯に向けて平均硬度を上昇させることを前提としたものであるから、甲2に記載されているように、表層から中層へ平均硬度を低下させる方法を適用するには、阻害要因があるといえる。
また、仮に甲1発明において甲2に記載されたフィルム巻層体の平均硬度の調整方法を適用したとしても、相違点4に係る「最表層~最表層からの巻長1000mの範囲で」「-6.0(%)≦R(%)」との数値範囲を設定し、かつ、「最表層からの巻長1000m~巻芯からの巻長1000mの範囲で」「-2.0(%)≦R(%)≦2.0(%)」の数値範囲を設定し、さらに、「巻芯~巻芯からの巻長1000mの範囲で」「R(%)≦6.0(%)」との数値範囲を設定することは、当業者をしても容易に想到し得た事項であるとはいえない。
そして、本件特許発明1は相違点4に係る構成を備えることにより、たるみや巻ズレがなく、製造直後および長期間保存後もフィルムロールにシワが発生せず、印刷加工性に優れたフィルムロールを提供するという顕著な効果を有するものである。
特許異議申立人は、特許異議申立書(第21頁)において、「熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの表層部と巻芯部に形成される時間の経過と共に形成されるシワを抑制するという課題の解決のために、甲第2号証の教示に従って、表層部と巻芯部において、巻硬さを表層に向けて高くすることは容易」であり「甲第2号証には、「巻硬さを表面に向けて高くして空気量を減少させてシワを抑制する」という本発明の基本的技術思想が記載されているのだから、この際、その増加率の好適値を規定することは単なる設計事項に過ぎない」旨主張するが、上記検討したとおり、本件特許発明1の相違点4に係る数値範囲の設定は単なる設計事項とはいえず、また、本件特許発明1は相違点4に係る当該数値範囲を満たすことにより顕著な効果を有するものであるから、特許異議申立人の主張は採用することができない。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書(第22頁)において、「甲第1号証の表3において、増加率が0.25~5.0%から外れるのは比較例4,5,6,7のみ」であり、「増加率だけが甲第1号証の発明と異なる」「比較例4,5の半年後の印刷評価は△で」「△は、」「商品としては問題がない」「と記載されている」程度のものであるから、「甲1発明において、平均硬度増加率を0.25よりも小なくすることに阻害因子は無い。」と主張するが、甲1発明において甲2記載の方法を適用する際の阻害要因については前記検討したとおりであると共に、阻害要因によらず甲2記載の方法を適用したとしても、本件特許発明1の相違点4に係る数値範囲を満たすものとすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないこと、相違点4に係る数値範囲を満たすものとすることにより顕著な効果を奏することも上記検討のとおりである。
よって、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし4についての対比・判断
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 申立理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第2項に該当しないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は特許法第113条第2号に該当しない。
よって、申立理由によって本件特許を取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700522