特許異議申立
2023-700188
熱収縮性ポリエステル系フィルムロール
- 審判番号
- 2023-700188
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-557157
- 登録番号
- 7127544
- 請求日
- 2023年02月17日
- 審決日
- 2023年05月12日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡株式会社
- 【異議申立人】中井 紘子
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7127544号発明「熱収縮性ポリエステル系フィルムロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7127544号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7127544号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)9月3日(優先権主張 平成29年9月27日)を国際出願日とする出願であって、令和4年8月22日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年2月17日に特許異議申立人 中井 紘子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
フィルムを構成する樹脂層が全てポリエステル樹脂層で、フィルムを構成する全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が15モル%以上で、温湯中90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上である熱収縮性ポリエステル系フィルムが巻き取られてなるフィルムロールで、該熱収縮性ポリエステルフィルム及び該フィルムロールにおいて、下記要件(1)~(6)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
(1)フィルムロール巻長が2000m以上25000m以下
(2)フィルムロール幅が800mm以上2500mm以下
(3)フィルム厚みが5μm以上40μm以下
(4)フィルムロールの表層におけるフィルム幅方向の厚みムラにおいて、厚みパターンが凹部になっている箇所を有し、厚み差の最も大きい凹部(最大凹部)において、該最大凹部における最大厚み差とフィルム平均厚みより求めた最大凹部の厚みムラが10%以下
(5)フィルムロール表層の巻硬度が400以上800以下
(6) フィルムロールの幅方向全体の厚みムラが7%以下である
【請求項2】
フィルムロールの表層から巻長1000m間隔でサンプリングした各試料のフィルムの幅方向の厚みムラにおいて、前記最大凹部における最大厚み差とフィルム平均厚みより求めた厚みムラが全ての試料で10%以下である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムからなるフィルムロール。
【請求項3】
前記最大凹部における凹部の両端のいずれかの最大厚み箇所との幅方向屈折率の差の絶対値が0.01以下である請求項1~2のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
【請求項4】
フィルムの巻外面と巻内面の静摩擦係数と動摩擦係数がいずれも0.1以上0.8以下である請求項1~3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年2月17日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)請求項1ないし4
本件発明のフィルムロール幅は、800mm以上2500mm以下である。しかしながら、実施例において、表3によれば、フィルムロール幅が2200mmでは、幅方向全体の厚みムラが7%以下のフィルムロールを製造できていない。従って、当業者は、少なくともフィルムロール幅が2200mm以上2500mm以下において、幅方向全体の厚みムラが7%以下のフィルムロールの製造方法が分らず、容易に実施できない。
(2)請求項4
本件発明4は、フィルムの巻外面と巻内面の静摩擦係数と動摩擦係数がいずれも0.1以上0.8以下であることを必須とする。しかしながら、実施例において、表3によれば、全てのフィルムロールの静摩擦係数と動摩擦係数は0.1未満である。従って、当業者は、静摩擦係数と動摩擦係数がいずれも0.1以上0.8以下であるフィルムロールの製造方法が分らず、容易に実施できない。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件発明4は、フィルムの巻外面と巻内面の静摩擦係数と動摩擦係数がいずれも0.1以上0.8以下である。しかしながら、実施例において、表3によれば、全てのフィルムロールの静摩擦係数と動摩擦係数は0.1未満である。即ち、静摩擦係数と動摩擦係数がいずれも0.1以上0.8以下であるフィルムロールは、本件特許明細書に実質的に開示されてなく、サポート要件を満たさない。
4 申立理由4(明確性)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)請求項1ないし4
本件発明における最大凹部の厚みムラは、幅方向全体の厚みムラ以下である。しかしながら、請求項1において、最大凹部の厚みムラは10%以下であり、幅方向全体の厚みムラは7%以下であり、最大凹部の厚みムラが、幅方向全体の厚みムラより大きい場合がある。これは技術的に矛盾しており、発明が不明確である。
(2)請求項3ないし4
請求項3は、幅方向屈折率の差を規定しているが、「何」と、「最大凹部における凹部の両端のいずれかの最大厚み箇所」の、幅方向屈折率の差であるか、記載されていない。
本件特許明細書段落0036によれば、最大凹部において、「凹部の両端のいずれかの最大厚み箇所(前記2つの山部のうち厚みのより大きい山部)」と「凹部の最小厚み箇所(前記谷部)」との幅方向屈折率の差である。しかしながら、本件特許明細書段落0059によれば、「最大凹部」と「最大凹部両端の厚みが高い方」の差である。ここで、「最大凹部」とは、段落0031によれば、山部-谷部-山部となる厚みパターンの部分であり、即ち、山部-谷部-山部を含む凹部全体の部分であり、谷部だけではない。即ち、段落0036の記載と異なる。
以上から、請求項3の記載は、本件特許明細書の記載を参酌しても不明瞭である。
5 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2016/152885号
甲第2号証:特開2014-73688号公報
甲第3号証:特開2008-265298号公報
甲第4号証:特開2004-255671号公報
(当審注:甲第1号証として提出されたのは「再公表WO2016/152885号公報」であるが、当審においては、甲第1号証として、公開日が本件特許の優先日前である「国際公開第2016/152885号」が提出されたものとみなした。甲第1号証の指摘箇所は国際公開第2016/152885号による。
以下、順に「甲1」のようにいう。)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由1ないし4にはいずれも理由がないと判断する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「熱収縮性ポリエステル系フィルムおよび包装体」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「[請求項1] フィルム幅方向を主収縮方向とし、以下の要件(1)~(5)を満足することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)フィルムの厚みが6μm以上27μm以下、
(2)幅800mm以上のフィルムにおいて、幅800mmを8分割して試料とし、全ての試料についてフィルムの分子配向角度を求めたときの最大値が5度以下、
(3)幅800mm以上のフィルムにおいて、幅800mmを8分割して試料とし、全ての試料について90℃でのフィルム幅方向の温湯収縮率の全ての値が40%以上85%以下、
(4)幅800mm以上のフィルムにおいて、幅800mmを8分割して試料とし、全ての試料について90℃でのフィルム幅方向の温湯収縮率を求めたときの最大値と最小値との差が2%以下、
(5)幅800mm以上のフィルムにおいて、幅800mmを4分割して試料とし、全ての試料について90℃でのフィルム幅方向の最大熱収縮応力を求めたときの最大値と最小値との差が0.3MPa未満。
[請求項2] 幅800mm以上のフィルムにおいて、幅方向800mmについて50mmピッチで吸光度比を測定し、17箇所について偏光ATR法で求めた1340cm-1と1410cm-1の吸光度比(1340cm-1/1410cm-1)の最大値と最小値との差が0.05以下である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
[請求項3] 幅800mm以上のフィルムにおいて、幅800mmに亘って厚みを測定し、厚みの平均値をTave、最大値をTmax、最小値をTminとしたとき、下記式で求められる幅方向の厚みムラが1%以上13%以下である請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
厚みムラ(%)={(Tmax-Tmin)/Tave}×100
[請求項4] 請求項1~3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたラベルで、包装対象物の少なくとも外周の一部を被覆して熱収縮させて形成されることを特徴とする包装体。」
・「発明が解決しようとする課題
[0007] 上記の従来技術は、いずれも熱収縮性フィルムに関するものではない。熱収縮性フィルムでは、分子の配向状態のばらつきが顕著に熱収縮挙動のばらつきとして現れるため、従来技術よりもさらに高度な制御が必要である。
[0008] また近年、上述のとおり、厚みを薄くした熱収縮性フィルムが増加している。厚みが薄いフィルムは、厚みが厚いフィルムに比べて生産速度が速くなるので、フィルム延伸時の延伸速度(変形速度)が速くなる。そのため、延伸時に分子の配向状態のばらつきが顕著に出やすくなる点が問題である。
[0009] そこで、本発明では、厚みが薄くても、幅方向の物性差を小さく抑制した熱収縮性ポリエステル系フィルムの提供を課題として掲げた。」
・「発明の効果
[0014] 本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、薄いフィルムでありながら、幅方向の物性差が小さく抑制されているので、熱収縮挙動の幅方向のばらつきも小さく抑制することができた。」
・「[0033] 次に、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの特性を説明する。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、厚みが6μm以上27μm以下である。本発明の目的は、熱収縮性ポリエステル系フィルムの薄肉化にあるので、この範囲でなければならない。より好ましくは、6μm以上25μm以下、さらに好ましくは6μm以上20μm以下である。
[0034] また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅方向の厚みムラが13%以下であることが好ましい。厚みムラは、幅800mm以上のフィルムを、左右均等に余剰分が出るように幅800mmをサンプリングしたフィルムを用いる(以下、本明細書において同様とする。)。そして、幅800mm、長さ40mmのサンプルを切り出し、アンリツ株式会社製「フィルムシネックス」を用いて測定圧0.15gfの荷重にて速度5m/分で厚みを測定する。厚みの平均値をTave、最大値をTmax、最小値をTminとしたとき、厚みムラは下記式で表される。
厚みムラ(%)={(Tmax-Tmin)/Tave}×100
[0035] 厚みムラが13%を超えてしまうと、幅方向の熱収縮挙動もばらついてしまうため、好ましくない。厚みムラは小さいほど好ましいが、1%より小さくすることは製造上困難であるので、1%が下限である。
[0036] 本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅800mm以上のフィルムにおいて、幅800mmを幅方向に8分割して試料とし、全ての試料についてフィルムの分子配向角度を求めたときの最大値が5度以下である。試料の大きさは長手方向×幅方向=100mm×100mmとする。以下、分子配向角度について説明する。まず、本発明における分子配向軸とは、フィルムの長手方向をX軸、フィルムの幅方向をY軸、フィルムの厚み方向をZ軸方向とした場合に、フィルムのXY平面上で見たとき最も分子配向度が大きい方向のことである。そして、分子配向角とは、上記分子配向軸を測定した場合の分子配向軸が、フィルム長手方向またはフィルム幅方向からずれてくる角度を意味する。分子配向角の測定方法としては、幅800mm以上のフィルムにおいて、左右均等に余剰分が出るように採取した幅800mmのフィルムを幅方向に8分割して長手方向×幅方向=100mm×100mmの矩形のサンプルを採取する。切り出したフィルムサンプルについて分子配向角(分子配向軸方向の角度)を王子計測機器株式会社製の分子配向角測定装置(MOA-6004)で測定する。分子配向角は、フィルムの長手方向の角度を0度とし、上記分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を求める。
[0037] 本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅方向が800mm以上であるフィルムの幅800mmを幅方向に8分割し、幅方向に沿う1辺が10cmで、幅方向に直交する方向に沿う1辺が10cmの正方形状の試料を切り出して、90℃±0.5℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬し、フィルムを直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬させた後、収縮前後の長さから、下式1により算出したフィルムの幅方向(主収縮方向)の熱収縮率(すなわち、90℃の温湯収縮率)の全ての値が、40%以上85%以下である。
温湯収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
[0038] 90℃における幅方向の温湯収縮率が40%未満であると、容器全体を覆う(いわゆるフルラベル)高収縮のフィルムに対する要求に対応できない上に、収縮量が小さいため、ラベルとして用いた場合に、熱収縮後のラベルに歪み、収縮不足、シワ、弛み等が生じてしまう。90℃の温湯収縮率は45%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。なお、90℃における幅方向の温湯収縮率が85%を超えるようなフィルムに対する要求度は低いため、温湯熱収縮率の上限を85%とした。」
・「[0056] 本発明の包装体は、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたミシン目またはノッチを有するラベルが、包装対象物の少なくとも外周の一部に被覆して熱収縮させて形成されるものである。包装対象物としては、飲料用のPETボトルを始め、各種の瓶、缶、菓子や弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を挙げることができる。なお、通常、それらの包装対象物に、熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られるラベルを熱収縮させて被覆させる場合には、当該ラベルを約5~70%程度熱収縮させて包装体に密着させる。なお、包装対象物に被覆されるラベルには、印刷が施されていても良いし、印刷が施されていなくても良い。」
・「実施例
[0058] 次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。なお、フィルムの評価方法を以下に示す。
[0059] [熱収縮率(温湯熱収縮率)]
幅方向が800mm以上であるフィルムの幅800mmを幅方向に8分割し、幅方向に沿う1辺が10cmで、幅方向に直交する方向に沿う1辺が10cmの正方形状の試料を切り出して、90℃±0.5℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬し、フィルムを直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬させた後、収縮前後の長さから、下式1により熱収縮率(すなわち、90℃の温湯収縮率)を求めた。
温湯収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
・・・(略)・・・
[0063] [フィルム厚み及び厚みムラ]
幅800mm以上のフィルムを幅800mm、長さ40mmに切り出し、アンリツ株式会社製「フィルムシネックス」を用いて測定圧0.15gfの荷重にて速度5m/分で厚みを測定した。厚みの平均値をTave、最大値をTmax、最小値をTminとし、下記式により厚みムラの値を求めた。
厚みムラ(%)={(Tmax-Tmin)/Tave}×100
[0064] [ポリエステル原料の調製]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、二塩基酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)70モル%とネオペンチルグリコール30モル%とを、グリコール成分がモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.025モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.6Pa(0.2トール)の減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gのポリエステル(A)を得た。常法により、チップ化して、チップAを得た。上記と同様な方法により、表1に示すチップB(ポリエチレンテレフタレート)、チップC(ポリブチレンテレフタレート)を合成した。なお、表中、NPGはネオペンチルグリコールである。
チップA,B,Cの固有粘度は、それぞれ、0.72dl/g,0.70dl/g,1.15dl/gであった。
[0065] 実施例、比較例で使用した原料チップの内容、実施例、比較例におけるフィルムの樹脂組成と製造条件を、それぞれ表1、表2に示す。なお、実施例6以外は、ブレンドポリマーによる1層タイプのフィルムであり、実施例6は、X/Y/Z/Y/Xの3種5層タイプのフィルムである。
[0066][表1]
[図:0001398315000001.jpg]
[0067][表2]
[図:0001398315000002.jpg]
[0068] 実施例1
上記したポリエステルA、ポリエステルBおよびポリエステルCを質量比70:20:10で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ72μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。また、未延伸フィルムのTgは67℃であった。
[0069] 得られた未延伸フィルムを、テンター(横延伸機)へ導いた。図1に横延伸機を上から見た説明図を示す。黒い四角は赤外線セラミックヒータである。予熱工程は、設定温度を95℃とした。図1のように赤外線セラミックヒータを置き(なお、この配置は一例である)、出力を60%に調整することで、フィルムの両端部を加熱しながら、横延伸温度の設定温度を75℃とし、4倍延伸した。続いて、熱処理工程を85℃で8秒、緊張状態で行った。この時、熱処理ゾーンの赤外線ヒータは使用しなかった。
[0070] その後、冷却し、両縁部を裁断除去して幅1600mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ18μmの横一軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。その後、得られたフィルムを幅800mmで2本採取できるように、中央部を境にスリットを行った。得られたスリット後の800mm幅のフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。」
・「[0072] 実施例3
ポリエステルAとポリエステルBを質量比60:40で混合し、予熱工程の設定温度を100℃にし、横延伸温度の設定温度を80℃にし、赤外線セラミックヒータの出力を90%に上げたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ18μmのフィルムを製造した。未延伸フィルムのTgは75℃であった。評価結果を表3に示す。」
・「[0088]
[表3]
[図:0001398315000003.jpg]
」
・「[図1]
[図:0001398315000004.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を主に実施例3に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「NPG30モル%共重合ポリエチレンフタレートからなるポリエステルAと、ポリエチレンフタレートからなるポリエステルBを質量比60:40で混合して押出機に投入し、この混合樹脂を溶融させてTダイから押出し、冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより未延伸フィルムを得、未延伸フィルムを延伸して得たフィルムを、ロール状に巻き取ることによって製造したフィルムロールであって、
90℃±0.5℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬したときのフィルムの幅方向の収縮率が59%であり、
フィルムロール幅が1600mmであり、
フィルム厚さが18μmであり、
フィルムロールの幅方向全体の厚みムラが3%であるフィルムロール。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「NPG30モル%共重合ポリエチレンフタレートからなるポリエステルAと、ポリエチレンフタレートからなるポリエステルBを質量比60:40で混合して得た1種1層のフィルム」は、本件発明1の「フィルムを構成する樹脂層が全てポリエステル樹脂層」との特定事項を満たす。
甲1発明の「NPG」は、本件特許の発明の詳細な説明の【0019】の記載によれば、本件発明1の「非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分」に相当する。そして、甲1発明のポリエステルにおいてNPGは30×0.6=18モル%含まれる。してみると、甲1発明は、本件発明1の「フィルムを構成する全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が15モル%以上」との特定事項を満たす。
甲1発明の「90℃±0.5℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬したときのフィルムの幅方向の収縮率が59%であり」は、本件発明1の「温湯中90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上である熱収縮性」との特定事項を満たす。
甲1発明の「NPG30モル%共重合ポリエチレンフタレートからなるポリエステルAと、ポリエチレンフタレートからなるポリエステルBを質量比60:40で混合して押出機に投入し、この混合樹脂を溶融させてTダイから押出し、冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより未延伸フィルムを得、未延伸フィルムを延伸して得たフィルムを、ロール状に巻き取ることによって製造したフィルムロール」は、本件発明1の「ポリエステル系フィルムが巻き取られてなるフィルムロール」に相当する。
甲1発明の「フィルムロール幅が1600mmであり」は、本件発明1の「(2)フィルムロール幅が800mm以上2500mm以下」との特定事項を満たす。
甲1発明の「フィルム厚さが18μmであり」は、本件発明1の「(3)フィルム厚みが5μm以上40μm以下」との発明特定事項を満たす。
甲1発明の「フィルムロールの幅方向全体の厚みムラが3%である」は、本件発明1の「(6) フィルムロールの幅方向全体の厚みムラが7%以下である」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムを構成する樹脂層が全てポリエステル樹脂層で、フィルムを構成する全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が15モル%以上で、温湯中90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上である熱収縮性ポリエステル系フィルムが巻き取られてなるフィルムロールで、該熱収縮性ポリエステルフィルム及び該フィルムロールにおいて、下記要件(2)、(3)、(6)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムロール。
(2)フィルムロール幅が800mm以上2500mm以下
(3)フィルム厚みが5μm以上40μm以下
(6) フィルムロールの幅方向全体の厚みムラが7%以下である」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は「(1)フィルムロール巻長が2000m以上25000m以下」と特定するのに対し、甲1発明においては、このような特定がない点。
<相違点2>
本件発明1は「(4)フィルムロールの表層におけるフィルム幅方向の厚みムラにおいて、厚みパターンが凹部になっている箇所を有し、厚み差の最も大きい凹部(最大凹部)において、該最大凹部における最大厚み差とフィルム平均厚みより求めた最大凹部の厚みムラが10%以下」と特定するのに対し、甲1発明においては、このような特定がない点。
<相違点3>
本件発明1は「(5)フィルムロール表層の巻硬度が400以上800以下」と特定するのに対し、甲1発明においては、このような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
甲1及び他の証拠には、甲1発明において、弛みが少ないフィルムロールを提供するためにフィルムロール表層の巻硬度を400以上800以下とする動機付けとなる記載はない。
そうすると、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たことではない。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件発明2ないし4は、本件発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断基準
本件発明1ないし4は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、発明の詳細な説明にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすということができる。
(2)実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、非晶質成分となりうるモノマー成分の記載(【0019】)、温湯中90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上であることで熱収縮した後のラベルにしわや収縮不足が生じない旨の記載、及び、90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率の測定方法の記載(【0025】ないし【0026】、【0055】)、フィルムロール巻長の記載(【0027】)、フィルムロール幅の記載(【0028】)、フィルム厚みの記載(【0029】)、最大凹部の厚みムラが10%以下であることが弛みを生じにくく好ましい旨の記載、幅方向の厚みムラに関する記載、及び、厚みムラの測定方法の記載(【0030】ないし【0035】、【0037】、【0056】ないし【0058】)、巻硬度が400以上800以下であることで弛みが生じにくく好ましい旨の記載、及び、巻硬度の測定方法の記載(【0051】、【0062】)、幅方向厚みパターンにおける最大凹部における、凹部の両端のいずれかの最大厚み箇所と最小厚み箇所の幅方向屈折率の差が低いと弛みが生じにくくなる旨の記載、及び、当該屈折率の差の測定方法の記載(【0036】、【0059】)、静摩擦係数と動摩擦係数及びその測定方法の記載(【0038】、【0060】)、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法に関する記載(【0040】ないし【0050】)との記載がある。また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の特定事項を充足する熱収縮性ポリエステルフィルムロールを生産する方法に関し、「2種以上の原料を混合すると押出し機に投入されるさいに、原料供給でバラツキ(所謂原料偏析)が生じ、それによりフィルム組成のバラツキが発生して幅方向への厚みムラ(特に最大凹部)の原因となる。それを防止するために押出し機の直上の配管やホッパーに攪拌機を設置して原料を均一に混合した後に溶融押出しをすることが望ましい。」との記載(【0041】)、及び、「また横延伸は2段延伸以上5段延伸以下で多段延伸をすることが好ましい。多段延伸によりにより、各々の延伸温度を変更することにより延伸応力を変化させることが可能となり幅方向の厚みムラ(最大凹部及び幅方向全体)を低下できるので好ましい。好ましくは3段延伸以上である。横延伸機の延伸パターンの例(3段延伸)を図2に示す。図2のように、多段延伸においては各段階での延伸終了後に定長を維持するようなパターンを設けることが好ましい。また、各段階の延伸において2℃以上の温度差をつけて1段目の延伸から最終段目の延伸にかけて温度を低下させる温度パターンとすることが好ましい。」との記載(【0047】)があり、本件発明の特定事項を充足する熱収縮性ポリエステルフィルムロールを生産した具体的な実施例等の記載もある。
してみれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし4に関し、当業者が実施できる程度に記載されているものであり、実施可能要件を満たしている。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 上記第3 2(1)の主張について
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、フィルムロール幅が2200mmのときの実施例として、幅方向全体の厚みムラが8~9%であるもののみが記載されている。しかしながら、フィルムロール幅が1200mm又は800mmのときに幅方向全体の厚みムラが7%以下であるものを製造できていることや、上記(2)で摘記した【0047】の多段延伸の記載からみて、当業者であれば、多段延伸等の製造条件を適宜変更することによって、フィルムロール幅が2200~2500mmのときであっても、幅方向全体の厚みムラが7%以下であるものを製造できると認識できる。
したがって、特許異議申立人が主張するように、フィルムロール幅が2200mmのときに幅方向全体の厚みムラが7%以下である実施例がないことを根拠として「フィルムロール幅が2200mm以上2500mm以下において、幅方向全体の厚みムラが7%以下のフィルムロールを製造できていない」とまではいえず、当該主張は採用できない。
イ 上記第3 2(2)の主張について
本件発明4の熱収縮性ポリエステル系フィルムロールの静摩擦係数と動摩擦係数に関し、甲4の【0023】に記載されるように、フィルム中に滑剤を含有させることで摩擦係数を0.70以下にすることが技術常識である。
そうすると、当該技術常識に照らせば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の実施例においてチップAに添加されている滑剤の量を調整すること等により、静摩擦係数と動摩擦係数が本件発明4の「0.1以上0.8以下」であるフィルムロールを製造できると当業者は認識できる。
したがって、特許異議申立人が主張するように、静摩擦係数と動摩擦係数が0.1未満である実施例しかないことを根拠として「静摩擦係数と動摩擦係数がいずれも0.1以上0.8以下であるフィルムロールの製造方法が分からず、容易に実施できない」とまではいえず、当該主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)サポート要件についての判断
本件発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0008】ないし【0010】の記載からみて、「フィルムの弛みが少ない熱収縮性ポリエステル系フィルムロールを提供する」ことである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、熱収縮性ポリエステル系フィルムロールに関し、温湯中90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上であることで熱収縮した後のラベルにしわや収縮不足が生じない旨の記載、及び、90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率の測定方法の記載(【0025】ないし【0026】、【0055】)、最大凹部の厚みムラが10%以下であることが弛みを生じにくく好ましい旨の記載、及び、最大凹部の厚みムラの測定方法の記載(【0030】ないし【0033】、【0056】ないし【0058】)、巻硬度が400以上800以下であることで弛みが生じにくく好ましい旨の記載、及び、巻硬度の測定方法の記載(【0051】、【0062】)、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法に関する記載(【0040】ないし【0050】)、発明の課題を解決する条件のものを製造する方法に関する記載(【0041】、【0047】)があり、具体的な実施例等の記載もある。
してみれば、これらの記載に接した当業者であれば、熱収縮性ポリエステル系フィルムロールにおいて、「温湯中90℃・10秒でのフィルム主収縮方向の収縮率が30%以上である」、「(4)フィルムロールの表層におけるフィルム幅方向の厚みムラにおいて、厚みパターンが凹部になっている箇所を有し、厚み差の最も大きい凹部(最大凹部)において、該最大凹部における最大厚み差とフィルム平均厚みより求めた最大凹部の厚みムラが10%以下」、「(5)フィルムロール表層の巻硬度が400以上800以下」との特定事項を有することにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明は、上記の発明の課題を解決できると認識できる全ての特定事項を有し、さらに限定するものであるから、当然に発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件発明に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は上記第3 3のとおり主張するが、サポート要件については上記(3)のとおりに判断されるのであって、特許異議申立人の主張は上記判断には影響しない。
(5)申立理由3についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
4 申立理由4(明確性)について
(1)明確性の判断基準について
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載自体に不明確な記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の記載とも整合する。
したがって、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば、本件発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1ないし4は明確である。
(4)特許異議申立人の主張について
ア 上記第3 4(1)の主張について
上記主張で指摘する、請求項1の「最大凹部の厚みムラが10%以下」との記載、及び、「幅方向全体の厚みムラが7%以下」との記載に接した当業者であれば、本件発明1は「最大凹部の厚みムラが10%以下」及び「幅方向全体の厚みムラが7%以下」のいずれも満たすものであると理解できるから、本件発明1の発明特定事項は明確である。
同様に、本件発明2ないし4についても、その発明特定事項は明確である。
よって、「最大凹部の厚みムラが10%以下」との記載、及び、「幅方向全体の厚みムラが7%以下」との記載が矛盾するとの上記主張は採用できない。
イ 上記第3 4(2)の主張について
請求項3の「幅方向屈折率の差」は、本件特許の明細書の【0036】の記載からみて明確であるから、本件発明3の発明特定事項は明確である。
同様に、本件発明4についても、その発明特定事項は明確である。
これに対し、上記主張は、本件特許の明細書の【0036】の記載と【0059】の記載とが異なることを根拠として、請求項3の「幅方向屈折率の差」が不明確であるとしている。
しかしながら、【0059】の「最大凹部」とは、その幅方向屈折率を測定することからみて、上記主張の【0031】の「山部-谷部-山部となる厚みパターン」のような複数の測定箇所を有する部分を意味するのではなく、【0036】に記載の「凹部の最小厚み箇所(前記谷部)」のような一カ所の測定箇所を有する部分を意味するものであると当業者であれば理解できる。
してみると、本件特許の明細書の【0036】の記載と【0059】の記載とが意味するところは同じであるといえるから、上記主張はその前提において誤っており、採用できない。
(5)申立理由4についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700188