特許異議申立
2023-700503
蓄電装置用外装材
- 審判番号
- 2023-700503
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-097705
- 登録番号
- 7172132
- 請求日
- 2023年05月16日
- 審決日
- 2023年07月24日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 小池 秀介
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7172132号発明「蓄電装置用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7172132号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7172132号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成30年5月22日に出願され、令和4年11月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月16日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし9に係る特許に対して、令和5年5月16日に特許異議申立人 松山 徳子により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許
特許第7172132号の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9にそれぞれ記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含む樹脂層を備え、
前記非相溶系成分(B)は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、化合物(B1)は、結晶性エチレンユニットから構成されるブロックとエチレン-ブチレンユニットから構成されるブロックとを有するブロック共重合体、エチレンから構成されるブロックとエチレン-1-オクテンから構成されるブロックとを有するブロック共重合体、若しくは、プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体、又は、グラフト共重合体を含み、
前記シーラント層が、周波数1.0Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδにおいて、-30~30℃に極大値を有し、且つ、-30~30℃におけるtanδの前記極大値(II)の-50℃におけるtanδの値(I)に対する比(II/I)が、2.50以上である、蓄電装置用外装材。
【請求項2】
前記シーラント層が、周波数1.0Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδにおいて、90~100℃におけるtanδの最大値(III)の前記極大値(II)に対する比(III/II)が、1.00以下である、請求項1に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項3】
前記樹脂層が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)と相溶する相溶系成分(C)を更に含む、請求項1又は2に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
前記相溶系成分(C)が、プロピレン-αオレフィン共重合体を含む、請求項3に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
前記シーラント層が、前記金属箔層側に、ポリプロピレン系樹脂(D)及び前記ポリプロピレン系樹脂(D)と非相溶である非相溶系成分(E)を含む第2の樹脂層を更に備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項6】
前記第2の樹脂層が、前記ポリプロピレン系樹脂(D)と相溶する相溶系成分(F)を更に含有し、
前記ポリプロピレン系樹脂(D)が、酸変性ポリプロピレンを含み、
前記相溶系成分(F)が、アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体を含む、請求項5に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項7】
前記腐食防止処理層が、酸化セリウムと、該酸化セリウム100質量部に対して1~100質量部のリン酸又はリン酸塩と、カチオン性ポリマーと、を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項8】
前記腐食防止処理層が、前記金属箔層に化成処理を施して形成されている、又は前記金属箔層に化成処理を施して形成されており、且つ、カチオン性ポリマーを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項9】
前記金属箔層と前記シーラント層との間に接着剤層を更に備え、
前記接着剤層が、酸変性ポリオレフィンと、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、及びカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤と、を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」
第3 申立理由の概要
1.理由A(甲第1号証を主引用例とする場合)
(1)理由A-1(新規性)
請求項1ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)理由A-2(進歩性)
請求項1ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2018-60758号公報
2.理由B(甲第2号証を主引用例とする場合)
(1)理由B-1(新規性)
請求項1ないし5、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし5、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)理由B-2(進歩性)
請求項1ないし5、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項6ないし8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものでありるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第2号証:特開2017-199514号公報
3.理由C(明確性要件)
請求項1ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備なため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
なお、特許異議申立書の15頁下から2行目と35頁22行目にそれぞれ「特許法第36条第6項第1号」と記載されているが、32頁1行~35頁7行に記載された「(ウ)理由C(請求項1~9)」についての具体的内容
からして、正しくは17頁2行目に「条文 特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)」と記載されているように、「理由C」は特許法第36条第6項第2号の明確性要件を理由とするものであると解釈する。
第4 甲第1号証、甲第2号証の記載事項
1.甲第1号証
甲第1号証(特開2018-60758号公報)には、「蓄電装置用外装材」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層が、2.0×105~1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含む、蓄電装置用外装材。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項4】
前記シーラント層が複数の層からなり、そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である、請求項1又は2に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
前記金属箔層に最も近い層が、酸変性ポリプロピレンと、アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体と、をさらに含む層である、請求項4に記載の蓄電装置用外装材。」
(2)「【0028】
本実施形態の蓄電装置用外装材は、少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及びシーラント層をこの順に備え、シーラント層が、2.0×105~1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含む。また、本実施形態の蓄電装置用外装材は、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層とシーラント層との間に接着剤層を備えていてもよい。以下、本実施形態の蓄電装置用外装材についていくつかの態様を例示しつつ説明する。」
(3)「【0125】
図2に示す蓄電装置用外装材20においては、シーラント層16は、第一のシーラント層16a及び第二のシーラント層16bから構成されている。ここで、第一のシーラント層16aは、シーラント層の最外層であり、第二のシーラント層16bは、シーラント層の最内層である。第一のシーラント層16a及び第二のシーラント層16bからなる群より選ばれる少なくとも一層は、上記超高分子量ポリオレフィンが含まれる超高分子量ポリオレフィン含有層である。
・・・・(中 略)・・・・
【0129】
第一のシーラント層16a(最外層、金属箔側層)は、例えば、第二のシーラント層16bと同様の構成成分を用いて形成してもよいが、第一のシーラント層16aにおいては、例えば、ベース樹脂組成物としての樹脂組成物αに代えて、アルミ処理と接着性を考慮し主成分となる接着性樹脂組成物と必要に応じて添加剤成分とを含む樹脂組成物(以下、場合により「樹脂組成物β」という)を用いることが好ましい。すなわち、第一のシーラント層16aは、例えば、超高分子量ポリオレフィンと樹脂組成物βとから形成されていてもよく、樹脂組成物βのみから形成されていてもよい。第一のシーラント層16aが、接着性樹脂組成物を含有すると、接着剤層を介することなく、金属箔層にシーラント層を形成し得る。第一のシーラント層16aが超高分子量ポリオレフィンと樹脂組成物βとから形成される場合、電解液による膨潤及び発泡によるシーラント層の破壊が抑制されやすくなるとともに、金属箔層近傍が露出し電解液と接触することを長期にわたり抑制できることから、絶縁性の低下をより効率的に抑制することができる。
【0130】
[樹脂組成物β(上記超高分子量ポリオレフィンは除く)]
樹脂組成物βにおける接着性樹脂組成物は、特に制限されないが、変性ポリオレフィン樹脂(a)成分とマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とを含有することが好ましい。また、添加剤成分は、アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体(c)を含むことが好ましい。以下、各成分について説明する。
・・・・(中 略)・・・・
【0142】
(マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b))
マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)は、変性ポリオレフィン樹脂(a)に対し、分散相サイズが200nmを超え、50μm以下の範囲でマクロ相分離構造を形成するものである。」
(4)「【0212】
<シーラント層>
[ベース樹脂組成物]
シーラント層形成用ベース樹脂組成物として、下記樹脂A、B、C、D、Eを準備した。
【0213】
(樹脂A):以下の材料を質量比で(AR-1):(AR-2)=75:25となるように混合した混合物。なお、この混合物は樹脂組成物βに相当する。
(AR-1):非相容系ゴムとしてエチレン-プロピレンゴムを配合した、ランダムポリプロピレン(PP)(Mw:130,000、Mw/Mn:5)ベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物。
(AR-2):アタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体。
【0214】
(樹脂B):以下の材料を質量比で(A):(B-1):(B-2)=70:20:10となるように混合した樹脂組成物。なお、この混合物は樹脂組成物αに相当する。
(A):プロピレン-エチレンランダム共重合体(ランダムPP)(Mw:150,000、Mw/Mn:6)。
(B-1):(A)成分に対して相溶性を有する融点85℃のプロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー(プロピレン-ブテン-1)。
(B-2):(A)成分に対して相溶性を有さない融点75℃のエチレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー(エチレン-ブテン-1)。
・・・・(中 略)・・・・
【0218】
[超高分子量ポリオレフィン]
F-1-1:プロピレン-エチレンランダム共重合体(ランダムPP)(Mw:500,000、Mw/Mn:9)。
F-1-2:ランダムPP(Mw:1,500,000、Mw/Mn:10)。
F-2:プロピレン-エチレンブロック共重合体(ブロックPP)(Mw:800,000、Mw/Mn:9)。
F-3:プロピレン単独重合体(ホモPP)(Mw:300,000、Mw/Mn:8)。
F-4:高密度ポリエチレン(HDPE)(Mw:900,000、Mw/Mn:8)。」
(5)「【0239】
[実施例18]
AL側層(シーラント層16a)の形成に用いた樹脂を、樹脂A(樹脂組成物β)と超高分子量ポリオレフィンF-2との混合物に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例18の外装材を製造した。なお、AL側層(シーラント層16a)中の超高分子量ポリオレフィンF-2の含有量は、AL側層(シーラント層16a)の全質量を基準として、30質量%とした。本実施例では、AL側層(シーラント層16a)が、超高分子量ポリオレフィン含有層である。」
(6)「【0250】
[図:0001400526000001.jpg]
」
(7)「【図2】
[図:0001400526000002.jpg]
」
上記(1)ないし(7)から以下のことがいえる。
・甲第1号証に記載の「蓄電装置用外装材」は、上記(1)の【請求項1】、(2)の記載、及び(7)の図2によれば、少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及びシーラント層をこの順で備え、シーラント層が超高分子量ポリオレフィンを含むものである。
・上記(1)の【請求項4】、(3)の段落【0125】の記載、及び(7)の図2によれば、シーラント層は第一のシーラント層及び第二のシーラント層の複数の層(2層)から構成され、特に上記(1)の【請求項5】、(3)の記載によれば、金属箔側層である第一のシーラント層は、超高分子量ポリオレフィンと樹脂組成物βとから形成され、樹脂組成物βは変性ポリオレフィン樹脂成分と当該変性ポリオレフィン樹脂成分に対し分散相サイズが200nmを超え50μm以下の範囲でマクロ相分離構造を形成するマクロ相分離熱可塑性エラストマー成分とを含有し、さらに添加剤成分として例えばアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体を含むものである。
そして、上記(4)、(5)、(6)の表1によれば、実施例18では、金属箔側層である第一のシーラント層は、樹脂組成物βが非相溶系ゴムとしてエチレン-プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物とアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体の混合物からなり、超高分子量ポリオレフィンがプロピレン-エチレンブロック共重合体(ブロックPP)であり、超高分子量ポリオレフィンの含有量は第一のシーラント層の全質量を基準として30質量%である。また、最内層である第二のシーラント層はプロピレン-エチレンランダム共重合体(ランダムPP)、当該ランダムPP成分に対して相溶性を有するプロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー、及び当該ランダムPP成分に対して相溶性を有さないエチレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマーの混合物からなるものである。
以上のことから、特に実施例18に係る蓄電装置用外装材に着目し、上記記載事項を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
シーラント層は金属箔側層である第一のシーラント層及び最内層である第二のシーラント層の2層から構成され、
前記第一のシーラント層は、非相溶系ゴムとしてエチレン-プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物とアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体の混合物と、超高分子量ポリオレフィンであるプロピレン-エチレンブロック共重合体(ブロックPP)とから形成され、ここで、前記非相溶系ゴムとしてのエチレン-プロピレンゴムは、前記ランダムポリプロピレンベース成分に対し分散相サイズが200nmを超え50μm以下の範囲でマクロ相分離構造を形成するマクロ相分離熱可塑性エラストマーであり、また、前記超高分子量ポリオレフィンの含有量は第一のシーラント層の全質量を基準として30質量%であり、
前記第二のシーラント層は、プロピレン-エチレンランダム共重合体(ランダムPP)、当該ランダムPP成分に対して相溶性を有するプロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー、及び当該ランダムPP成分に対して相溶性を有さないエチレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマーの混合物からなる、蓄電装置用外装材。」
2.甲第2号証
甲第2号証(特開2017-199514号公報)には、「電池外装用積層体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【0013】
[電池外装用積層体]
本発明の第一の態様の電池外装用積層体(以下、単に「積層体」ということがある。)は、少なくとも、シーラント層、第1接着剤層、金属箔からなるバリア層、及び基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体である。
(2)「【0015】
<シーラント層11>
シーラント層11は、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン及びオレフィン系エラストマーからなる層である。
【0016】
本発明において「ブロックポリプロピレン」(以下、「ブロックPP」ということがある。)とは、ポリプロピレン(ホモポリマー)と、エチレン-プロピレン共重合体とからなる混合物(Impact Copolymer)をいう。
・・・・(中、略)・・・・
【0017】
本発明においてオレフィン系エラストマーとしては、エラストマーとしての特性を備えるオレフィン系重合体であれば特に限定されるものではない。
オレフィン系重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン等の単独重合体;プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-エチレン共重合体等の共重合体が挙げられる。」
(3)「【0122】
[実施例1~10、比較例1~5]
<実施例1~8、比較例1~5>
まず、表1に示す金属箔を用意した。この金属箔の両面に腐食防止処理剤を塗布し、200℃のオーブンにて加熱乾燥し、厚さ0.1μmの第1腐食防止層及び第2腐食防止層を両面にそれぞれ形成した。腐食防止処理剤は、フッ化クロムとリン酸、ポリビニルアルコールを混合したものを用いた。
【0123】
次いで、形成された第1腐食防止層上に、第1の接着剤を塗布し、厚さ3μmの第1接着剤層を形成した。第1の接着剤は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの90質量%と、ビスフェノールA構造を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名:jER157S70、粘度=80、エポキシ当量=210)の10質量%とを、固形分量10%となるように、室温で10分間トルエンに溶融混練により撹拌溶解することにより得られたものである。
【0124】
その後、表1に示すシーラント層組成物を用いて得られたシーラントフィルムと、上記で得られた積層体における第1接着剤層とを、100℃のドライラミネートにより積層した。
【0125】
また、厚さ6μmの黒色を有する厚み25μmの二軸延伸ポリアミド(ナイロン)樹脂フィルムからなる基材層上に、ウレタン系接着剤からなる第2接着剤層(厚さ3μm)を塗布により成形した。
この第2接着剤層と、上記で得られた積層体における第2腐食防止層とを対向させ、80℃のドライラミネートにより積層し、電池外装用積層体を得た。」
(4)「【0128】
[図:0001400526000003.jpg]
【0129】
表1中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。[ ]内の数値は配合量(質量部)である。
A-1:ブロックポリプロピレン(融点162℃)
A-2:ブロックポリプロピレン(融点135℃)
B-1:ランダムポリプロピレン(融点140℃)
B-2:ランダムポリプロピレン(融点130℃)
B-3:ランダムポリプロピレン(融点120℃)
C-1:オレフィン系エラストマー(融点130℃)
C-2:オレフィン系エラストマー(融点80℃)
C-2:オレフィン系エラストマー(融点120℃)
AL:アルミニウム箔
SUS:ステンレス鋼箔」
上記(1)ないし(4)から以下のことがいえる。
・甲第2号証に記載の「電池外装用積層体」は、上記(1)の記載によれば、少なくともシーラント層、第1接着剤層、金属箔からなるバリア層、及び基材層をこの順に備えてなるものである。
・上記(2)の記載によれば、シーラント層は、ポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体とからなる混合物であるブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン及びオレフィン系エラストマーからなる層である。
・上記(3)、(4)の記載によれば、比較例4では、金属箔の両面にそれぞれ腐食防止処理層を形成してなり、シーラント層の組成物の各配合量は、ブロックポリプロピレンが40質量部、ランダムポリプロピレンが55質量部、オレフィン系エラストマーが5質量部である。
以上のことから、特に比較例4に係る電池外装用積層体に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「少なくともシーラント層、第1接着剤層、両面に腐食防止処理層を形成した金属箔からなるバリア層、及び基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、
前記シーラント層は、ポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体とからなる混合物であるブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン及びオレフィン系エラストマーからなり、これら組成物の各配合量は、前記ブロックポリプロピレンが40質量部、前記ランダムポリプロピレンが55質量部、前記オレフィン系エラストマーが5質量部である、電池外装用積層体。」
第5 当審の判断
1.理由A(理由A-1(新規性)及び理由A-2(進歩性))について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「基材層」、「腐食防止処理層」、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた「金属箔層」、「シーラント層」は、それぞれ本件発明1でいう「基材層」、「腐食防止処理層」、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた「金属箔層」、「シーラント層」に相当する。
また、甲1発明における「蓄電装置用外装材」は、基材層、金属箔層、シーラント層をこの順で備えるものであるから、本件発明1でいう「蓄電装置用外装材」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」である点で一致する。
(イ)甲1発明におけるシーラント層を構成する金属箔側層である「第一のシーラント層」は、非相溶系ゴムとしてエチレン-プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物とアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体の混合物と、超高分子量ポリオレフィンであるプロピレン-エチレンブロック共重合体(ブロックPP)とから形成されるものであるところ、このうちの「非相溶系ゴムとしてエチレン-プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物」について、「ランダムポリプロピレンベース」成分は、本件発明1でいう「ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当し、非相溶系ゴムとしての「エチレン-プロピレンゴム」はランダムポリプロピレンベース成分に対し分散相サイズが200nmを超え50μm以下の範囲でマクロ相分離構造を形成するマクロ相分離熱可塑性エラストマーであることから、本件発明1でいうポリプロピレン系樹脂(A)と非相溶である「非相溶系成分(B)」の1つに相当するものであるといえる。また、超高分子量ポリオレフィンである「プロピレン-エチレンブロック共重合体(ブロックPP)」については、本件発明1でいうポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する「化合物(B1)」である「プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体」に相当するといえ、本件発明1でいう「非相溶系成分(B)」の1つにも相当するものである。以上のことから、甲1発明における「第一のシーラント層」は、本件発明1でいう「樹脂層」に相当するということができる。
よって、本件発明1と甲1発明とは「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂(A)と非相溶である非相溶系成分(B)を含む樹脂層を備え、前記非相溶系成分(B)は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、化合物(B1)は、プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体を含」むものである点で一致するといえる。
なお、甲1発明におけるシーラント層を構成する最内層である「第二のシーラント層」についてみると、プロピレン-エチレンランダム共重合体(ランダムPP)、当該ランダムPP成分に対して相溶性を有するプロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー、及び当該ランダムPP成分に対して相溶性を有さないエチレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマーの混合物からなるものであるところ、このうちの「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ランダムPP)」は、本件発明1でいう「ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当するものの、当該ランダムPP成分に対して相溶性を有さない「エチレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー」は、本件発明1でいう「化合物(B1)」に相当する共重合体成分を含有していないから、本件発明1でいうポリプロピレン系樹脂(A)と非相溶であり、化合物(B1)を含有する「非相溶系成分(B)」に相当するとはいえず、したがって、甲1発明における「第二のシーラント層」は本件発明1でいう「樹脂層」に相当するともいえないものである。
(ウ)シーラント層について、本件発明1では「周波数1.0Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδにおいて、-30~30℃に極大値を有し、且つ、-30~30℃におけるtanδの前記極大値(II)の-50℃におけるtanδの値(I)に対する比(II/I)が、2.50以上」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂(A)と非相溶である非相溶系成分(B)を含む樹脂層を備え、
前記非相溶系成分(B)は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、化合物(B1)は、プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体を含む、蓄電装置用外装材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
シーラント層について、本件発明1では「周波数1.0Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδにおいて、-30~30℃に極大値を有し、且つ、-30~30℃におけるtanδの前記極大値(II)の-50℃におけるtanδの値(I)に対する比(II/I)が、2.50以上」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。
イ.判断
上記相違点1に関して、特許異議申立人は特許異議申立書(26頁18~26行)において、甲1発明は、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当する「樹脂A」(樹脂組成物β)が70質量%であり、本件発明1の「化合物(B1)」である「プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体」に相当する「超高分子量ポリオレフィンF-2」が30質量%であるから、甲1発明における「樹脂A」(樹脂組成物β)と「超高分子量ポリオレフィンF-2」との配合量は、本件特許明細書【0100】及び【0110】に記載のポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)の好適な範囲に含まれる。よって、甲1発明は、相違点1に係る構成を満たす蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、上記「ア.対比」の(イ)でも述べたように、甲1発明において、「樹脂A」(樹脂組成物β)である「非相溶系ゴムとしてエチレン-プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物とアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体の混合物」中の非相溶系ゴムとしての「エチレン-プロピレンゴム」も本件発明1でいう「非相溶系成分(B)」の1つに相当するといえるものである。してみると、本件発明1でいう「非相溶系成分(B)」に相当する成分の含有量は、「超高分子量ポリオレフィンF-2」の含有量だけでなく、上記「エチレン-プロピレンゴム」の含有量を加えたものということになるが、当該「エチレン-プロピレンゴム」の含有量は不明であり、本件特許明細書の段落【0110】に記載のように非相溶系成分(B)の含有量の好ましい範囲である「1~40質量%」に含まれるとは限らない。さらに、上記相違点に係る構成は、第一のシーラント層についてだけではなく、第二のシーラント層を含めた2層全体についての構成であることも踏まえると、甲1発明は相違点1に係る構成を満たす蓋然性が高いということはできない。
よって特許異議申立人の上記主張は採用できず、上記のとおり相違点があるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
そして、甲第1号証には、シーラント層について、本件発明1でいう「比(II/I)」の値に関する記載はなく、損失正接tanδを調整することの記載すらないことから、甲1発明において相違点に係る構成とすることは当業者であっても容易に想到できたものとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2ないし9について
請求項2ないし9は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2ないし9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし9は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできない。
2.理由B(理由B-1(新規性)及び理由B-2(進歩性))について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「基材層」、「腐食防止処理層」、両面に腐食防止処理層を形成した「金属箔からなるバリア層」、「シーラント層」は、それぞれ本件発明1でいう「基材層」、「腐食防止処理層」、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた「金属箔層」、「シーラント層」に相当する。
また、甲2発明における「電池外装用積層体」は、基材層側からみると、基材層、金属箔からなるバリア層、シーラント層をこの順で備えるものであるから、本件発明1でいう「蓄電装置用外装材」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」である点で一致する。
(イ)甲2発明における「シーラント層」は、ポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体とからなる混合物であるブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン及びオレフィン系エラストマーからなるものであるところ、このうちの「ランダムポリプロピレン」は、本件発明1でいう「ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当し、「ポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体とからなる混合物であるブロックポリプロピレン」は、本件発明1でいうポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する「化合物(B1)」である「プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体」に相当するといえ、本件発明1でいう「非相溶系成分(B)」にも相当するものである。したがって、甲2発明における「シーラント層」は、本件発明1でいうポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)を含む「樹脂層」に相当するということができる。
よって、本件発明1と甲2発明とは「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂(A)と非相溶である非相溶系成分(B)を含む樹脂層を備え、前記非相溶系成分(B)は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、化合物(B1)は、プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体を含」むものである点で一致するといえる。
(ウ)シーラント層について、本件発明1では「周波数1.0Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδにおいて、-30~30℃に極大値を有し、且つ、-30~30℃におけるtanδの前記極大値(II)の-50℃におけるtanδの値(I)に対する比(II/I)が、2.50以上」であることを特定するのに対し、甲2発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂(A)と非相溶である非相溶系成分(B)を含む樹脂層を備え、
前記非相溶系成分(B)は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、化合物(B1)は、プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体を含む、蓄電装置用外装材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点2]
シーラント層について、本件発明1では「周波数1.0Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδにおいて、-30~30℃に極大値を有し、且つ、-30~30℃におけるtanδの前記極大値(II)の-50℃におけるtanδの値(I)に対する比(II/I)が、2.50以上」であることを特定するのに対し、甲2発明ではそのような特定を有していない点。
イ.判断
上記相違点2に関して、特許異議申立人は特許異議申立書(29頁7~16行)において、甲2発明は、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当する「ランダムポリプロピレンB-1」が55質量%であり、本件発明1の「化合物(B1)」である「プロピレンユニットから構成されるブロックとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体」に相当する「ブロックポリプロピレンA-1」が40質量%であるから、甲2発明における「ランダムポリプロピレンB-1」と「ブロックポリプロピレンA-1」の配合量は、本件特許明細書【0100】及び【0110】に記載のポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)の好適な範囲に含まれ、よって、甲2発明は、相違点2に係る構成を満たす蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、甲2発明における「シーラント層」は、ランダムポリプロピレン(B-1)55質量部とブロックポリプロピレン(A-1)40質量部だけではなく、オレフィン系エラストマー(C-1)5質量部も含むものであるところ、当該「オレフィン系エラストマー」(C-1)がランダムポリプロピレン(B-1)に対して非相溶であるのか、あるいは相溶であるのかは不明である。なお、甲第2号証の段落【0017】には、オレフィン系エラストマーの具体例としてランダムポリプロピレンに対して非相溶であるものも相溶であるものも記載されている(上記「第4 2.(1)」を参照)。仮に、甲2発明における「シーラント層」に含まれる「オレフィン系エラストマー」(C-1)がランダムポリプロピレン(B-1)に対して非相溶である場合には、本件発明1でいう「非相溶系成分(B)」に相当する成分の含有量は、「ブロックポリプロピレン」(A-1)の含有量40質量部だけでなく、上記「オレフィン系エラストマー」(C-1)の含有量5質量部を加えた45質量部ということになり、本件特許明細書の段落【0110】に記載のように非相溶系成分(B)の含有量の好ましい範囲である「1~40質量%」に含まれないことになるから、甲2発明は相違点2に係る構成を満たす蓋然性が高いということはできない。
よって特許異議申立人の上記主張は採用できず、上記のとおり相違点があるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
そして、甲第2号証には、シーラント層について、本件発明1でいう「比(II/I)」の値に関する記載はなく、損失正接tanδを調整することの記載すらないことことに加えて、そもそも甲2発明は甲第2号証において比較例として記載されたものにすぎず、わざわざ比較例として記載された発明に着目しこれを基礎としてさらに発明をしようとは通常考えないことであることも踏まえると、甲2発明において相違点に係る構成とすることは当業者であっても容易に想到できたものとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2ないし5、9について
請求項2ないし5、9は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2ないし5、9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5、9は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明6ないし8について
甲第1号証には、シーラント層を金属箔側層である第一のシーラント層及び最内層である第二のシーラント層の2層から構成し、第一のシーラント層を超高分子量ポリオレフィンと樹脂組成物βとから形成し、樹脂組成物βは変性ポリオレフィン樹脂成分とマクロ相分離熱可塑性エラストマー成分とを含有し、さらに添加剤成分として例えばアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体を含むこと(特に甲第1号証の【請求項4】~【請求項5】、段落【0129】~【0130】を参照)や、腐食防止処理層は酸化セリウムと、該酸化セリウム100質量部に対して1~100質量部のリン酸又はリン酸塩と、カチオン性ポリマーと、を含む態様であってもよく、金属箔層に化成処理を施して形成されている態様であってもよく、金属箔層に化成処理を施して形成されており、且つ、カチオン性ポリマーを含む態様であってもよいこと(特に【請求項9】~【請求項10】、段落【0074】を参照)が記載されているものの、シーラント層について、本件発明1でいう「比(II/I)」の値に関する記載はなく、損失正接tanδを調整することの記載すらない。
そして、請求項6ないし8は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明6ないし8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明6ないし8は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし5、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできない。
3.理由C(明確性要件)について
特許異議申立人は以下のような明確性要件についての記載不備を主張している。
(1)本件特許明細書の段落【0086】の記載によれば、本件発明1のシーラント層における「比(II/I)」についての特定はデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持するために規定された構成であるが、「2.50以上」と下限値のみが規定されており、上限については規定されていない。一方で、本件特許明細書の実施例では実際に効果が示されたのは、「2.51~3.70」の範囲だけであり、上記比(II/I)がより大きな値、例えば6.00である場合にもデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持できることを当業者であっても理解できない。よって、本件請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし9に係る発明は、所定の効果を奏するか不明な範囲を含むものであるから、不明確である(特許異議申立書32頁2行~33頁2行)。
(2)本件特許明細書の段落【0087】の記載によれば、本件発明2のシーラント層における「比(III/II)」についての特定はシーラント層の耐熱ヒートシール強度をより向上させることができるようにするために規定された構成であるが、「1.00以下」と上限値のみが規定されており、下限については規定されていない。一方で、本件特許明細書の実施例では実際に効果が示されたのは、「0.69~0.91」の範囲だけであり、上記比(III/II)がより小さい値、例えば0.20である場合にもシーラント層の耐熱ヒートシール強度をより向上させることができることを当業者であっても理解できない。よって、本件請求項2に係る発明及び請求項2を引用する請求項3ないし9に係る発明は、所定の効果を奏するか不明な範囲を含むものであるから、不明確である(特許異議申立書33頁3行~34頁5行)。
(3)本件発明3では「相溶系成分(C)」を更に含むことが規定されているが、本件発明1、2では「相溶系成分(C)」を含むことが規定されておらず、また、本件発明1ないし9では「相溶系成分(C)」の添加量の範囲が規定されていない。しかしながら、本件特許明細書に記載の全ての実施例で「相溶系成分(C)」が「16.7~20.0質量%」の範囲で添加されており、当該「相溶系成分(C)」を含まない蓄電装置用外装材が所定の効果を奏するか不明である。よって、本件請求項1ないし9に係る発明は、所望の効果を奏する構成が十分に規定されておらず不明確である(特許異議申立書34頁6~19行)。
(4)本件発明1では「非相溶系成分(B)」は「ポリプロピレン系樹脂と非相溶である」と規定されているが、ポリプロピレン系樹脂に対してどの程度非相溶であれば「非相溶系成分(B)」に該当するのか明確でない。同様の理由により、本件発明3の「相溶系成分(C)」、本件発明5の「非相溶系成分(E)」、本件発明6の「相溶系成分(F)」も不明確である(特許異議申立書34頁29行~35頁7行)。
そこで、上記(1)ないし(4)の主張について検討する。
(1)について
本件特許明細書の段落【0086】には「シーラント層16における上記の比(II/I)が2.50以上であることにより、デガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる。本発明者等は、このような効果が奏される理由を、シーラント層16中に存在する海島構造の界面の密着強度が向上することによるものと考えているが、上記(I)に対する(II)の比率が大きい、すなわち、両者の差が大きいことにより上記の効果が奏される理由を、本発明者等は以下のように推察する。すなわち、比(II/I)が2.50以上であると、該界面がショックアブソーバーとしての作用を抑制することができ、結果として界面の密着強度が向上するのに対し、比(II/I)が2.50未満であると、界面がショックアブソーバーとしての作用を過度に有するため、結果として界面の密着強度が低下すると考えられる。上記のような観点から、シーラント層16における比(II/I)は、3.00以上であることが好ましく、3.50以上であることがより好ましい。一方、(II/I)の上限値は、特に制限されないが、例えば6.00以下である。」と記載されている。すなわち、比(II/I)が2.50以上であると、シーラント層16中に存在する海島構造の界面がショックアブソーバーとしての作用を抑制することができ、結果として海島構造の界面の密着強度が向上することにより、デガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができることが記載されており、これによれば、比(II/I)が2.50以上であれば所定の効果が得られるものと理解することができる。比(II/I)の上限値については、「例えば6.00以下」とあるものの、「特に制限されない」とも記載されており、そして、比(II/I)が例えば「6.00」である場合には海島構造の界面の密着強度が低下するといった技術的な事情が考えられるわけではないことを踏まえると、本件発明1において比(II/I)の上限値が特定されていないからといって、本件発明1が所定の効果を奏するか不明な範囲を含むものであり、本件発明1が不明確であるとまではいえない。
したがって、上記(1)の主張は採用できない。
(2)について
本件特許明細書の段落【0087】には「シーラント層16は、周波数1.0Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接tanδにおいて、90~100℃にtanδの最大値(III)の上記極大値(II)に対する比(III/II)が、1.00以下であることが好ましい。シーラント層16における上記の比(III/II)が1.00以下であると、シーラント層の耐熱ヒートシール強度をより向上させることができる。比(III/II)が小さい、すなわち、IIに対するIIIの値が小さいことは、樹脂の粘性の過度な向上を抑制できることを示し、これにより、シーラント層の耐熱ヒートシール強度をより向上させることができると考えられる。このような観点から、シーラント層16における上記の比(III/II)は、0.90以下であることが好ましく、0.85以下であることがより好ましい。一方、(III/II)の下限値は、特に制限されないが、例えば0.20以上である。・・」と記載されている。すなわち、比(III/II)が1.00以下であると、樹脂の粘性の過度な向上を抑制でき、シーラント層の耐熱ヒートシール強度をより向上させることができることが記載されており、これによれば、比(III/II)が1.00以下であれば所定の効果が得られるものと理解することができる。比(III/II)の下限値については、「例えば0.20以上」とあるものの、「特に制限されない」とも記載されており、そして、比(III/II)が例えば「0.20」である場合には樹脂の粘性の過度な向上を抑制できなくなり、シーラント層の耐熱ヒートシール強度が低下するといった技術的な事情が考えられるわけではないことを踏まえると、本件発明2において比(III/II)の下限値が特定されていないからといって、本件発明2が所定の効果を奏するか不明な範囲を含むものであり、本件発明2が不明確であるとまではいえない。
したがって、上記(2)の主張は採用できない。
(3)について
本件特許明細書の段落【0093】には「シーラント層16が上記(A)成分及び上記(B)成分を含む第1の樹脂層16aを備えることにより、樹脂層中に海島構造が形成されている。・・・・第1の樹脂層16aが上記(C)成分を更に含むことにより、シーラント層16に更に柔軟性を付与することができる。シーラント層16が柔軟性を有することにより、成型白化抑制等の機能を付与させることができ、機能性がより向上した外装材を提供することができる。」と記載され、段落【0111】には「第1の樹脂層16aが(C)成分を含む場合、第1の樹脂層16aにおける(C)成分の含有量は、第1の樹脂層16aの固形分全量を基準として、5~30質量%あることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。(C)成分の含有量が5質量%以上であることにより、シーラント層16の柔軟性が得られやすくなり、成型白化抑制等の機能を付与させることができ、機能性がより向上した外装材を提供することができる。一方、(C)成分の含有量を30質量%以下とすることにより、シーラント層16全体の凝集力を向上でき、シール強度及び絶縁性を向上させることができる。」と記載されている。これらの記載によれば、「相溶系成分(C)」は、解決しようとする課題である「デガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる」ようにすることとは直接関係しないものであり、シーラント層の柔軟性付与や成型白化抑制といった付加的な効果を得るために添加される任意成分であると理解することができるから、本件発明1、2において「相溶系成分(C)」を含むことが特定されておらず、また、本件発明1ないし9において「相溶系成分(C)」の添加量の範囲が規定されていないからといって、これら本件発明1ないし9が不明確であるとはいえない。
したがって、上記(3)の主張は採用できない。
(4)について
本件特許明細書の段落【0091】には「ここで、『(A)成分に対して相溶性を有さない』、『(A)成分と非相溶である』(非相溶系)とは、(A)成分を構成するポリプロピレン系樹脂中に分散相サイズ200nm以上50μm未満で分散することを意味する。また、『(A)成分と相溶する』、『(A)成分との相溶性を有する』(相溶系)とは、(A)成分を構成するポリプロピレン系樹脂中に分散相サイズ1nm以上200nm未満で分散することを意味する。」とあり、本件発明1における「非相溶系成分(B)」や、本件発明3の「相溶系成分(C)」についての定義が記載されているといえる。これらの記載を参照すれば、本件発明1における「非相溶系成分(B)」がポリプロピレン系樹脂(A)に対してどの程度の非相溶であるのか理解することはでき、また、本件発明3の「相溶系成分(C)」がポリプロピレン系樹脂(A)に対してどの程度の相溶であるのか理解することはできる。そして、本件発明5の「非相溶系成分(E)」や本件発明らの「相溶系成分(F)」についても同様に解され、これら本件発明1、3、5、6に相溶あるいは非相溶の程度が明確に特定されていないからといって、本件発明1ないし9が不明確であるとまではいえない。
したがって、上記(4)の主張は採用できない。
よって、特許異議申立人の明確性要件についての記載不備に関する上記主張はいずれも採用することはできず、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700503