特許異議申立
2019-700433
リチウム電池用外装材
- 審判番号
- 2019-700433
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-252562
- 登録番号
- 特許第6428906号(P6428906)
- 請求日
- 2019年05月27日
- 審決日
- 2020年09月30日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 史朗
- 【権利者代理人】清水 雄一郎
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 中澤 登
- 審判官 平塚 政宏
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6428906号発明「リチウム電池用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6428906号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第6428906号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6428906号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2017-252562号)は、平成26年3月6日に出願された特願2014-44167号の一部を平成29年12月27日に新たな特許出願(以下、「本件出願」という。)としたものであって、平成30年11月9日に特許権の設定登録がなされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。
令和 1年 5月27日(提出日) 特許異議申立書(全請求項に対して)
特許異議申立人 松山徳子
(以下、「申立人」という。)
甲第1~7号証を添付
同年 6月27日(提出日) 上申書(刊行物1~3を添付)
令和 1年10月 2日(発送日) 取消理由通知書
(起案日)令和1年9月27日
同年11月18日(提出日) 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年12月26日(提出日) 意見書(申立人)
(甲第8号証を添付)
令和 2年 3月 3日(発送日) 取消理由通知書(決定の予告)
(起案日)令和2年2月26日
同年 4月24日(実施日) 特許権者との面接(通信回線を利用)
同年 4月30日(提出日) 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 6月29日(提出日) 意見書(申立人)
第2 訂正請求について
令和1年11月18日(提出日)の訂正請求は、令和2年4月30日(提出日)の訂正請求が提出されたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
以下、令和2年4月30日(提出日)の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の適否について検討する。
1.訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6428906号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める、というものである。
2.訂正事項
以下の記載で、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
【請求項1】について、
訂正前に「基材層と、第一の接着剤層と、金属箔層と、腐食防止処理層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなり、第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である、リチウム電池用外装材。」とあるのを、
訂正後の「基材層と、第一の接着剤層と、金属箔層と、腐食防止処理層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、腐食防止処理層は、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含み、第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなり、第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である、リチウム電池用外装材。」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~4も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
【0011】について、
訂正前に「本発明は、以下の態様を有する。
[1] 基材層と、第一の接着剤層と、金属箔層と、腐食防止処理層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなり、第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である、リチウム電池用外装材。」
とあるのを、
訂正後の「本発明は、以下の態様を有する。
[1] 基材層と、第一の接着剤層と、金属箔層と、腐食防止処理層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、腐食防止処理層は、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含み、第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなり、第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である、リチウム電池用外装材。」と訂正する。
3.訂正事項の検討
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、請求項1において、訂正前の「腐食防止処理層」に対し、訂正後の「腐食防止処理層は、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含み、」という発明特定事項を追加するものであって、「腐食防止処理層」について、その材質を明瞭にし、また、「希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含」むものに限定することを含む。
イ 訂正事項1は、請求項1において、訂正前の「CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)」及び「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」を、それぞれ、訂正後の「1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)」及び「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」とするものであって、「CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)」について、その「赤外吸収スペクトル」の「領域に現れるピークの強度」の存在することを明瞭にし、かつその領域が「1380±10cm-1」の範囲であることを限定すると共に、「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」について、その「赤外吸収スペクトル」の「領域に現れるピークの強度」の存在することを明瞭にし、かつその領域が「1520±10cm-1」の範囲であることを限定するものである。
ウ すると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
エ そして、願書に添付した明細書及び図面の【0039】~【0041】、【0084】特に【0084】には、「また、内層側腐食防止処理層は希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含む。リン酸またはリン酸塩は、希土類元素酸化物の分散安定化だけでなく、金属箔層(特にアルミニウム箔層)の腐食に対するインヒビター効果を付与させることができる。さらに、リン酸またはリン酸塩の金属箔層(特にアルミニウム箔層)への密着性を向上させることも可能となり、耐電解液性という点で相乗的な効果を発現できる。」と記載されているので、訂正事項1の「腐食防止処理層は、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含み、」は願書に添付した明細書及び図面に記載されていたものといえる。
オ また、願書に添付した明細書及び図面の【0058】には「第二の接着剤層16は、以下の特徴を有する。すなわち、第二の接着剤層16の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である。CH3のC-H変角振動は、1380±10cm-1の領域にピーク(吸収ピーク)が現れる。このC-H変角振動は、接着剤組成物に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂中のCH3に由来する。CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)は、1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である。一方、ビューレット結合のN-H変角振動は、1520±10cm-1の領域にピーク(吸収ピーク)が現れる。このN-H変角振動は、接着剤組成物からなる第二の接着剤層16中のビューレット結合に由来する。ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)は、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である。」と記載されているので、訂正事項1の「1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)」、「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」は、願書に添付した明細書及び図面に記載されていたものといえる。
カ すると、訂正事項1は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものではない。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮または明瞭でない記載の釈明を目的とするものであることも併せて考えれば、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による訂正に伴い、願書に添付した明細書及び図面の記載を整合させるものであって明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものではなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~4について、請求項2~4はそれぞれ直接又は間接的に請求項1を引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~4は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~4〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
また、本件訂正請求は、訂正事項2と関係する請求項を含む一群の請求項の全てを請求の対象とするから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
(4)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、全ての請求項について特許異議申立の対象とされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4.訂正請求の結言
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4~6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
第3 本件発明について
以上のとおり、本件訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のものである。
【請求項1】
基材層と、第一の接着剤層と、金属箔層と、腐食防止処理層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、
腐食防止処理層は、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含み、
第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなり、第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である、リチウム電池用外装材。
【請求項2】
多官能イソシアネート化合物がイソシアヌレート構造である、請求項1に記載のリチウム電池用外装材。
【請求項3】
酸変性ポリオレフィン樹脂が、プロピレンの単独重合体またはプロピレンとエチレンとの共重合体に、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル、不飽和カルボン酸の酸無水物のエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種をグラフトさせた酸変性ポリオレフィン樹脂である、請求項1または2に記載のリチウム電池用外装材。
【請求項4】
接着剤組成物は、スズ、チタン、ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む有機金属触媒をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム電池用外装材。
第4 異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、以下の概要の申立理由を主張している。
1.申立理由1(新規性、進歩性要件違反)(申立書24~30頁)
本件出願は、分割出願の実体的要件を満足せず、その出願日は、本件出願の分割の原出願(特願2014-44167号)の出願日(平成26年3月6日)に遡及せず、実際の出願日である平成29年12月27日である。
すると、請求項1~4に係る発明は、甲第1号証(平成27年9月28日を公開日とする本件出願の分割の原出願の公開公報)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないので、又は、甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
2.申立理由2(新規性、進歩性要件違反)(申立書30~35頁)
請求項1~4に係る発明は、甲第3~5号証に記載の技術手段を参照すれば、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないので、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3~5号証に記載の技術手段に基いて容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
3.申立理由3(実施可能要件違反)(申立書35~36頁)
本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、当該発明についての特許は取り消されるべきものである。
4.申立理由4(サポート要件違反)(申立書36頁)
請求項1~4に係る発明は、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、当該発明についての特許は取り消されるべきものである。
5.申立理由5(明確性要件違反)(申立書36~37頁)
請求項1~4に係る発明は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、当該発明についての特許は取り消されるべきものである。
<甲各号証>
○甲第1号証 :特開2015-170461号公報
○甲第2号証 :特開2013-134823号公報
○甲第3号証 :特開2009-26485号公報
○甲第4号証 :特開2012-216364号公報
○甲第5号証 :旭化成(株)のURL、最終更新日2016(平成28年).4.1、令和1年5月21日印刷、http://www.akcpc.jp/duranate/ichiran.html
○甲第6号証 :プロをめざす人のための接着技術教本、日本接着学会 編著、日刊工業新聞社、2014年(平成26年)9月25日初版3刷
○甲第7号証 :赤外吸光図説総覧-有機構造化学の基礎と実際-、堀口博、2001年(平成13年)6月30日縮刷版第8刷、370~373頁
○甲第8号証 :特開2011-187386号公報
○刊行物1 :特開2010-150477号公報
○刊行物2 :特開2012-67278号公報
○刊行物3 :特開2014-14386号公報
ここで、上記の刊行物1~3は、甲第5号証に記載の技術手段が、本件出願の分割の原出願の出願日の時点ですでに他の文献に記載されていたものであり、同技術手段が同時点において既に周知技術であったことを示す。
また、甲第8号証は令和1年12月26日付け意見書(申立人)に添付して提出されたものであるが、周知技術を示すものとして扱う。
以下では、甲各号証を記載するのに、例えば「甲第1号証」を「甲1」のように記載することがある。
第5 取消理由及び予告取消理由について
当審は、令和1年9月27日(起案日)付けで、申立理由2を通知せず、他の申立理由1、3~5を、それぞれ取消理由1、3~5として通知した。
ただし、取消理由3は、申立理由3で実施可能性要件違反としていたところ、サポート要件違反として通知し、取消理由5は、申立理由5で明確性要件違反としていたところ、実施可能性要件違反も併せて通知した。
当該取消理由に対して令和1年11月18日に訂正請求書及び意見書が提出されたが、それらを斟酌しても、取消理由1及び5について、依然として取消理由が解消していないと判断して令和2年2月26日(起案日)付けで予告取消理由1及び5としてそれぞれ通知した。
これに対して、同年4月30日に訂正請求書及び意見書が提出され、上記のように当該訂正請求が認められるので、訂正後の本件発明について以下に検討する。
第6 予告取消理由の判断
1.予告取消理由1について
(1)予告取消理由1の概要
ア 予告取消理由1は、申立理由1と同旨であり、その概要は次のとおりである。
本件出願は、分割出願の実体的要件を満足せず、その出願日は、本件出願の分割の原出願(特願2014-44167号)の出願日(平成26年3月6日)に遡及せず、実際の出願日である平成29年12月27日である。
イ すると、本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証(平成27年9月28日を公開日とする本件出願の分割の原出願の公開公報)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないので、又は、甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
ア 本件出願の分割の実体的要件について検討する。形式的要件については満足しているものと認める。
イ 本件出願の分割の原出願(特願2014-44167号)(以下、「原出願」という。)は、補正されずに特許第6264953号として特許請求の範囲、発明の詳細な説明の記載が確定している。以下、原出願と本件出願とを比較する。以下の記載で、下線は当審が付与した。
ウ(ア)請求項1について、a)原出願では「腐食防止処理層は、希土類元素酸化物と、該希土類元素酸化物100質量部に対して1~100質量部のリン酸またはリン酸塩とを含み、」と記載されるのに対して、本件出願では「腐食防止処理層は、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含み、」と記載され、b)原出願では「CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」と記載されるのに対して、本件出願では「1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収X)と、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」と記載される。
ウ(イ)原出願の請求項2、3、7と、本件出願の請求項2、3、4がそれぞれ対応して同一記載であり、原出願の請求項4~6に対応する本件出願の請求項はない。
ウ(ウ)発明の詳細な説明の【0011】の記載について、原出願と本件出願とは、上記請求項1と同様の関係にあり、他の箇所の記載に両者で差違はない。
エ 上記ウ(ア)~ウ(ウ)の原出願と本件出願との対応関係について検討する。
まず、ウ(ア)a)については、「【0038】内層側腐食防止処理層15は、希土類元素酸化物と、該希土類元素酸化物100質量部に対して1~100質量部のリン酸またはリン酸塩とを含む層である。」、「【0084】また、内層側腐食防止処理層は希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含む。」と記載されるから、本件出願の請求項1の記載は原出願に記載されていたものである。
次に、ウ(ア)b)については、「【0058】・・・CH3のC-H変角振動は、1380±10cm-1の領域にピーク(吸収ピーク)が現れる。このC-H変角振動は、接着剤組成物に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂中のCH3に由来する。CH3のC-H変角振動に由来する吸収X)は、1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である。一方、ビューレット結合のN-H変角振動は、1520±10cm-1の領域にピーク(吸収ピーク)が現れる。このN-H変角振動は、接着剤組成物からなる第二の接着剤層16中のビューレット結合に由来する。ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)は、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である。」と記載されるから、本件出願の請求項1の記載は原出願に記載されていたものであるといえる。
また、ウ(イ)については、本件出願の請求項2~4は原出願に記載されていたものであるといえる。
さらに、ウ(ウ)については、発明の詳細な説明の記載【0011】は、請求項の記載と同様に、本件出願の記載は原出願に記載されていたものであるといえる。
オ そして、本件出願の請求項1に係る発明は上記ウ(ア)の点で原出願の請求項1に係る発明とは別発明であり、本件出願の請求項1に係る発明を引用する本件出願の請求項2~4に係る発明も原出願の請求項2~3、7に係る発明とはそれぞれ別発明といえる。
カ 以上から、本件出願は分割の実体的要件を満たすので、本件出願の分割は認容される。
すると、本件出願の出願日は、実際に出願された日(平成29年12月27日)から原出願の出願日(平成26年3月6日)に遡及するので、甲第1号証(平成27年9月28日を公開日とする本件出願の分割の原出願の公開公報)は公知文献ではないので、本件発明1~4は甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証から容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、予告取消理由1(申立理由1)は解消された。
2.予告取消理由5について
(1)予告取消理由5の概要
ア 予告取消理由5は、申立理由5と同旨であり、その概要は次のとおりである。
本件特許の請求項1に係る発明における「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)」を測定するのに「FT-IR(フーリエ変換型赤外分光光度計)」を用い(【0062】【0093】)、「赤外吸収スペクトル」を測定している。
イ しかし、「赤外吸収スペクトル」は、測定方法や条件により得られるスペクトルが相違するものである。
また、請求項1に係る発明の「酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物」における「酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物」との反応により、「ビューレット結合」以外に「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」等も形成される場合のあることは技術常識(甲第6号証 図4.5.18を参照)であり、「ビューレット結合のN-H変角振動は、1520±10cm-1の領域にピーク(吸収ピーク)が現れる」(【0058】)ところ、「ビューレット結合」「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」を構成する「-CO・NH-」の「N-H変角振動」に由来する吸収波数は「1530±50cm-1」(甲第7号証371頁)であるから、それらの各結合の吸収波数は重複している可能性があり、その中から「ビューレット結合のN-H変角振動」の吸収波数のみを特定して定量する手法については、「赤外線吸収スペクトルの測定」について記載する発明の詳細な説明の【0093】をみても明らかでない。
ウ すると、請求項1に係る発明における「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)」の値が正しく「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する」ものかが明らかでないから、請求項1に係る発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、その特許は取り消されるべきものである。
また、「ビューレット結合のN-H変角振動」の吸収波数のみを特定して定量する手法が不明であるので、発明の詳細な説明には、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、その特許は取り消されるべきものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4に係る特許についても同様である。
(2)当審の判断
ア たしかに、本件発明の「ビューレット結合のN-H変角振動は、1520±10cm-1の領域にピーク(吸収ピーク)が現れる」(【0058】)ところ、「ビューレット結合」「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」を構成する「-CO・NH-」の「N-H変角振動」に由来する吸収波数は「1530±50cm-1」(甲第7号証371頁)であるから、それらの各結合の吸収波数は重複している可能性がある。
イ しかしながら、各結合の吸収波数が「1520±10cm-1」の領域で重複している場合には、「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」として「1520±10cm-1」の領域で観測されるピーク強度は、単体の「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収」によるものよりも、「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」等の分だけ大きくなっていることになる。
ウ すると、「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)」は、単体の「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収」によるものよりも大きな値となることになり、「Y/X≦0.3」はその大きな値ですら満足されることになるから、各結合の吸収波数が「1520±10cm-1」の領域で重複している場合であっても、「ビューレット結合」「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」を厳密に分けることなく本件発明の効果は奏され課題は解決されることが確認できる。
エ そうであれば、「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」は、その「1520±10cm-1の領域」に他の結合が含まれているとしても、第三者に不測の不利益をもたらすといえるほどに不明確なものとはいえず、また、「ビューレット結合」と「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」を厳密に分ける必要性もないから、「ビューレット結合のN-H変角振動」の吸収波数のみを特定して定量する手法が不明であっても実施不可能とまでいえるものではない。
オ 以上から、本件発明1における「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」について、その「1520±10cm-1の領域」に他の結合が含まれている場合に、「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収」分が特定できなくても、本件発明1は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に適合し、本件発明1についての特許は取り消されるべきものでない。
また、「ビューレット結合のN-H変角振動」の吸収波数のみを特定して定量する手法が不明であっても、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合し、本件発明1についての特許は取り消されるべきものでない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4に係る特許についても同様である。
(3)令和2年6月29日(提出日)意見書(申立人)について
ア 上記意見書で、申立人は、概要、a)「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」は、「ビューレット結合のN-H変角振動」の吸収波数のみを意味し、「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」の吸収波数を含まないはずだから不明確であり、b)「強度Y」を測定する「赤外吸収スペクトル」の測定方法や条件について記載も示唆もないから実施できない、と主張する。
イ しかし、a)については、「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」は、「ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」は「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度」であり、かつ、観測される「吸収(Y)」は、「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度」であるから「アミド結合」「ウレア結合」「ウレタン結合」の吸収波数が含まれる場合があり得るものと解されるので、明確であり、b)については、「赤外吸収スペクトル」自体は周知の測定方法であり、その測定方法や条件は当業者が事案に則して適切に実施できるものといえる。
以上から、申立人の主張は採用できない。
第7 予告取消理由で通知しなかった理由の判断
1.取消理由3について
(1)取消理由3の概要
ア 取消理由3は、申立理由3と同旨であり、その概要は次のとおりである。
本件特許の願書に添付した明細書の【表1】(【0096】)の実施例1~6には、「第二の接着材層」の成分として「D-1」「D-3」を使用した場合に、「耐電解液性」を示す「ラミネート強度(N/15mm)」が優れることが記載されている。
イ そして、同【0090】から、「D-1」は「トルエンに溶解させた無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、イソシアヌレート構造のヘキサメチレンジイソシアネートを10質量部(固形分比)で配合した接着剤組成物」であり、「D-3」は同じ組成物にさらに「ジルコニウム系反応触媒(ジルコニウムテトラアセチルアセトネート)を1質量部(固形分比)添加した」組成物であることが記載されている。
ウ すると、実施例では「無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂」についての作用効果が確認されているが、「無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂」以外の「酸変性ポリオレフィン樹脂」についての作用効果は確認されていないといえる。
エ また、本件特許の願書に添付した明細書において、「長期間にわたり優れた耐電解液性を発現できるリチウム電池用外装材の提供を目的とする」(【0010】)という課題を、どのような「酸変性ポリオレフィン樹脂」であっても解決できることの作用機序を説明する記載箇所は見いだせないし、そのような技術常識も認められない。
オ しかし、請求項1には「第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなり、」と記載され、請求項1に係る発明は「酸変性ポリオレフィン樹脂」を用いることが特定されるから、これは、作用効果の確認されていない「無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂」以外の「酸変性ポリオレフィン樹脂」を含むものである。
すると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、その特許は取り消されるべきものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4に係る特許についても同様である。
(2)当審の判断
ア 本件訂正請求により訂正された願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0064】~【0068】には、本件発明において使用され得る「酸変性ポリオレフィン樹脂」について多数の物質が記載されている。そして、実験例においてそれらの一つである「無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂」が使用され、本件発明における効果が確認されたものである。
イ ここで、本件発明において「酸変性ポリオレフィン樹脂」を用いると本件発明の効果が奏されることについて、本件特許明細書中に機序が詳らかにされているものではないが、多数の物質のうちの一つとはいえ、本件発明の効果が確認されている以上、【0064】~【0068】に記載されたその他の物質では本件発明の効果が奏されないことを機序を説明するか実験する等で立証されない限り、「無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂」以外の物質では本件発明の効果が奏されないと直ちに認めることはできない。
ウ すると、当業者であれば、本件特許明細書の記載から、「無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂」以外の「酸変性ポリオレフィン樹脂」であっても、本件発明の所期の効果を奏するであろうと認識できるものと認められるので、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、本件発明1についての特許は取り消されるべきものでない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4に係る特許についても同様である。
2.取消理由4について
(1)取消理由4の概要
ア 取消理由4は、申立理由4と同旨であり、その概要は次のとおりである。
本件特許の願書に添付した明細書の【表1】(【0096】)の実施例1~6には、「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)」の値について、0.11~0.19である場合に、「耐電解液性」を示す「ラミネート強度(N/15mm)」が優れることが記載されている。
イ すると、実施例では「Y/X」の値として0.11~0.19の場合の作用効果が確認されているが、「Y/X」が0.11以下の場合、及び、0.19以上0.3以下の場合の「Y/X」の値の作用効果は確認されていないといえる。
また、本件特許の願書に添付した明細書において、「長期間にわたり優れた耐電解液性を発現できるリチウム電池用外装材の提供を目的とする」(【0010】)という課題を、「Y/Xが0.3以下」であれば、どのような値であっても解決できることの作用機序を説明する記載箇所は、「理由は定かではない」(【0060】)と記載されるように、見いだすことができないし、そのような技術常識も認められない。
ウ しかし、請求項1は「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である、」と記載され、「Y/X」が「0.3以下である」ことが特定されるから、これは作用効果が確認されていない「Y/X」が0.11以下の場合、及び、0.19以上0.3以下の場合を含むものである。
すると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、その特許は取り消されるべきものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4に係る特許についても同様である。
(2)当審の判断
ア たしかに、本件特許明細書において、「長期間にわたり優れた耐電解液性を発現できるリチウム電池用外装材の提供を目的とする」(【0010】)という課題を、「Y/Xが0.3以下」であれば、どのような値であっても解決できることの作用機序を説明する記載箇所は、「理由は定かではない」(【0060】)と記載されるように、見いだすことができないし、そのような技術常識も認められない。
イ しかしながら、本件特許明細書の【表1】(【0096】)の比較例1、2には「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)」の値について、0.38である場合に、「耐電解液性」を示す「ラミネート強度(N/15mm)」が不十分であることが記載されており、実施例の記載と併せれば、課題が達成されることが0.11≦Y/X≦0.19で確かめられており、Y/X=0.38では効果が不十分で課題が達成できないことも確かめられているものであり、逆に、「Y/X」が0.11以下の場合、及び、0.19以上0.3以下の場合に、効果が不十分で課題を達成できないことが、機序を明らかにしたり追加実験等で立証されているものでもない。
ウ すると、「Y/Xが0.3以下」であれば、ただちに上記効果を達成し得ない範囲を含むものと当業者が認識するものではないから、本件特許明細書の記載をみた当業者であれば、「Y/Xが0.3以下」であれば、上記効果を奏し得て課題が達成できるであろうことが十分に認識できるといえるので、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合し、本件発明1についての特許は取り消されるべきものでない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4に係る特許についても同様である。
3.申立理由2について
3-1.申立理由2の概要
申立理由2(取消理由として通知していない)の概要は上記「第4」で見たように、請求項1~4に係る発明は、甲2に記載された発明である、または、甲2に記載された発明及び甲3~5に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものである、ということを趣旨とする。
3-2.当審の判断
(1)甲2の記載事項
甲2には次のことが記載されている。以下で「・・・」は記載の省略を意味する。
記載事項サ
【請求項1】耐熱性樹脂フィルムからなる外層とアルミニウム箔層が積層し、該アルミニウム箔層の外層側とは異なるもう一方の面に熱可塑性樹脂フィルムからなる内層が積層した積層体において、少なくともアルミニウム箔層と内層との間に、カルボキシル基、アミノ基、及び水酸基からなる群より選ばれる、少なくとも1つの反応性官能基を有する反応性官能基含有スチレン系エラストマーと、1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物との反応物を含有してなる接着剤層が介在する電池外装用積層体。
記載事項シ
【0001】本発明は、包装用、特にリチウムイオン等の二次電池の外装に適した積層体、その積層体を用いて成形された電池ケース及びその電池ケースを用いた電池に関するものである。
記載事項ス
【発明が解決しようとする課題】【0006】本発明は、優れた耐電解液性及び耐熱性を有する電池外装用積層体、この積層体を用いて成形された電池ケース及びこの電池ケースを用いた電池を提供するものである。
記載事項セ
【0007】本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、反応性官能基含有スチレン系エラストマーとイソシアネート基を有する化合物との反応物を含有してなる接着剤層を介在させた電池外装用積層体が、優れた耐電解液性及び耐熱性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。・・・
記載事項ソ
【0046】(実施例1)前記電池ケース用包装材料構成に従って、電池ケース用包装材料を得た。内層用接着剤としては、反応性官能基含有スチレン系エラストマーであるカルボキシル基含有スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体A(スチレン単位含有量30質量%、マレイン酸変性率3.0質量%、カルボキシル基含有量2.3質量%、重量平均分子量30万)150gに対して、イソシアネート基を含有する化合物であるデュラネートTKA-100(旭化成ケミカルズ株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート基含量21.7質量%)を18.75g、溶媒はトルエン/エチルメチルケトン(質量比9/1)を1100g混合し、使用した。内層用接着剤の組成について、表1に示す。以下、同様に、実施例2~4及び比較例1~4で用いた内層用接着剤の組成についても、表1に示す。
記載事項タ
【0052】(比較例3)カルボキシル基含有スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体Aの代わりに、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂C(マレイン酸変性率1.5質量%、カルボキシル基含有量1.2質量%、重量平均分子量15万)に変更した以外は、実施例1と同様の接着剤を使用し、比較例3の電池ケース用包装材料を得た。
記載事項チ
【表】(【0061】)
(2)甲2に記載された発明
ア 記載事項シ、スから、甲2には「リチウムイオン二次電池」の「外装用積層体」に関する発明が記載されているといえることを踏まえると、記載事項サから、甲2には、「耐熱性樹脂フィルムからなる外層とアルミニウム箔層が積層し、該アルミニウム箔層の外層側とは異なるもう一方の面に熱可塑性樹脂フィルムからなる内層が積層した積層体において、少なくともアルミニウム箔層と内層との間に、カルボキシル基、アミノ基、及び水酸基からなる群より選ばれる、少なくとも1つの反応性官能基を有する反応性官能基含有スチレン系エラストマーと、1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物との反応物を含有してなる接着剤層が介在するリチウムイオン二次電池用の外装用積層体。」について記載されているといえる。
イ 上記「外装用積層体」は、記載事項セから「耐電解液性」を有するものである。
ウ 上記「外装用積層体」について実験例を考慮するに、記載事項チから「マレイン酸変成ポリプロピレン樹脂」と「TKA-100」を含む比較例3に着目すると、記載事項ソ、タから、上記「外装用積層体」の「カルボキシル基、アミノ基、及び水酸基からなる群より選ばれる、少なくとも1つの反応性官能基を有する反応性官能基含有スチレン系エラストマー」は「マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂C(マレイン酸変性率1.5質量%、カルボキシル基含有量1.2質量%、重量平均分子量15万)」が「150g」であり、「1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物との反応物」は「イソシアネート基を含有する化合物であるデュラネートTKA-100(旭化成ケミカルズ株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート基含量21.7質量%)」が「18.75g」である。
エ すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「耐熱性樹脂フィルムからなる外層とアルミニウム箔層が積層し、該アルミニウム箔層の外層側とは異なるもう一方の面に熱可塑性樹脂フィルムからなる内層が積層した積層体において、少なくともアルミニウム箔層と内層との間に、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂C(マレイン酸変性率1.5質量%、カルボキシル基含有量1.2質量%、重量平均分子量15万)150gと、イソシアネート基を含有する化合物であるデュラネートTKA-100(旭化成ケミカルズ株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート基含量21.7質量%)18.75gとの反応物を含有してなる接着剤層が介在するリチウムイオン二次電池用の外装用積層体。」
(3)本件発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「耐熱性樹脂フィルムからなる外層」、「アルミニウム箔層」、「該アルミニウム箔層の外層側とは異なるもう一方の面に熱可塑性樹脂フィルムからなる内層」は、本件発明1のそれぞれ「基材層」、「金属箔層」、「シーラント層」に相当する。
イ 甲2発明の「マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂C(マレイン酸変性率1.5質量%、カルボキシル基含有量1.2質量%、重量平均分子量15万)」「イソシアネート基を含有する化合物であるデュラネートTKA-100(旭化成ケミカルズ株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート基含量21.7質量%)」は、本件発明1のそれぞれ「酸変性ポリオレフィン樹脂」、「多官能イソシアネート化合物」に相当する。
ウ 甲2発明の上記イの二つの物質の「反応物を含有してなる接着剤層」は、本件発明1の上記イの二つの物質「を含む接着剤組成物」に相当する。
エ 甲2発明の「リチウムイオン二次電池用の外装用積層体」は、本件発明1の「リチウム電池用外装材」に相当する。
オ 以上から、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点、及び、相違点を有する。
<一致点>
「基材層と、金属箔層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなる、リチウム電池用外装材。」
<相違点1>
本件発明1は「第一の接着剤層」と、「腐食防止処理層」を有し、「腐食防止処理層は、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含」むものであるのに対して、甲2発明はそれらについて不明である点。
<相違点2>
本件発明1は「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である」のに対して、甲2発明は「マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂C(マレイン酸変性率1.5質量%、カルボキシル基含有量1.2質量%、重量平均分子量15万)以下、「マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」という。)150g」(と、「イソシアネート基を含有する化合物であるデュラネートTKA-100(旭化成ケミカルズ株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート基含量21.7質量%)(以下、「イソシアネート基含有化合物」という。)18.75g」とを含む点。
(4)相違点の検討
ア 事案に鑑み、相違点2について検討する。
イ 本件発明1は、本件特許明細書【0060】に記載されるように、「第二の接着剤層」の「多官能イソシアネート化合物」の成分が「ビューレット結合」を含む場合に、「ビューレット結合」の割合が増えると耐電解液性が低下するために、「第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下」とするものである。
ウ 一方、甲2には、「マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」「150g」と、「イソシアネート基含有化合物」「18.75g」とを含む反応物による接着剤層が記載されるが、「イソシアネート基含有化合物」が含むかもしれない「ビューレット結合」の割合が増えると耐電解液性が低下することは記載も示唆もされていないし、当該割合の評価基準が、「赤外吸収スペクトル」における「1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)」と、「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」との「比(Y/X)が3以下」であることは記載も示唆もされていない。
エ ここで、甲2発明は、「マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」と「イソシアネート基含有化合物」との質量での配合割合は理解されるが、質量での配合割合から、「赤外吸収スペクトル」での「1380±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)」と、「1520±10cm-1の領域に現れるピークの強度である、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)」との「比(Y/X)が3以下」であることがいえるということは、甲2に記載も示唆もされておらず、技術常識であるともいえない。
オ また、他の証拠(甲3~甲5)の記載からは次のようにいうことができる。
オ(ア)甲3には「【0001】本発明は、小型電子機器の電源等として用いられる非水電解質電池、並びにこの非水電解質電池を構成する部材である非水電解質電池用リード線及び非水電解質電池用封入袋に関するものである。」、「【0021】変性ポリオレフィン樹脂と硬化剤の混合割合は、NCO/OHモル比で、0.5~3.0である。0.5以下の場合は、硬化不足となり短絡の原因になる可能性があり、一方3.0以上の場合は、未反応のイソシアネートが空気中の水分と反応して、接着性が低下する可能性がある。樹脂組成物の塗布は、変性ポリオレフィン樹脂と硬化剤を溶媒に溶解して得た溶液を塗布後、その溶媒を乾燥、除去する方法により行うこともできる。」と記載されるのみである。
申立人は「未反応イソシアネートが空気中の水分と反応することにより、ビューレット体が形成される」から、上記「比(Y/X)が3以下」であることが示唆される旨主張する。(申立書32頁)
しかし、「未反応イソシアネートが空気中の水分と反応することにより、ビューレット体が形成される」ことから、上記「比(Y/X)が3以下」であることに至る論理的な説明がなく、上記主張は認められない。
オ(イ)また、甲4には「【0001】本発明は、電池用外装体とその製造方法並びにその外装体を用いた電池に関する。」、「【0033】これらの中でも、イソシアヌレート基を有する多官能イソシアネート化合物を使用することが、接着層の耐電解液性、耐漏液性、耐熱性を向上させる点で特に好ましい。」とは記載されるが、上記「比(Y/X)が3以下」であることについては記載も示唆も無い。
オ(ウ)さらに、甲5には「I.二液型用」として「イソシアヌレート」に「TKA-100」が記載されるところ、これは、甲2発明の「TKA-100」が「イソシアヌレート」であることを裏付けるにとどまる。
カ さらに、甲6~甲8、刊行物1~3をみても、上記ウ、エの点を開示するものはない。
(5)申立理由2についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明と同一発明とはいえないし、また、甲2発明及び甲3~8と刊行物1~3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
本件発明1を引用する本件発明2~4についても同様である。
第8 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700433