特許異議申立
2022-700546
シートモールディングコンパウンド及び成形品の製造方法
- 審判番号
- 2022-700546
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-534364
- 登録番号
- 6984797
- 請求日
- 2022年06月21日
- 審決日
- 2023年03月29日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】DIC株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【権利者代理人】財部 俊正
- 【権利者代理人】小川 眞治
- 【権利者代理人】岩本 明洋
- 【権利者代理人】大野 孝幸
- 【異議申立人】佐藤 文
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 祥吾
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(B29B) / P1651.121-YAA(B29B) / P1651.536-YAA(B29B) / P1651.537-YAA(B29B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6984797号発明「シートモールディングコンパウンド及び成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6984797号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6984797号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6984797号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)11月12日(優先権主張 2019年11月25日)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月29日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年12月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年6月20日に特許異議申立人 佐藤 文(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年9月22日付で取消理由が通知され、同年11月25日に特許権者 DIC株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)とともに意見書の提出がされ、同年12月9日付で特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を特許異議申立人に対して行ったところ、特許異議申立人から何ら応答がなかったものである。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第6984797号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「樹脂組成物を炭素繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、」とあるのを、「樹脂組成物を炭素繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、
前記樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・sであり、」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が3mm以上であり、」とあるのを、「含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が3mm以上であり、該炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であり、」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記樹脂組成物の25℃における粘度が800mPa・s以上である」とあるのを、「前記樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・sであり、
前記含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が16mm以上であり、
前記含浸工程における炭素繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.13以下である」と訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~4も同様に訂正する。
エ 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4はそれぞれ請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載された「樹脂組成物」を、「25℃における粘度が800~40000mPa・s」の樹脂組成物に限定し、訂正前の請求項1に記載された「含浸工程前の炭素繊維」を、「繊維束のフィラメント数が1,000~60,000」のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正が願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様である。
イ 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項2の訂正は、訂正前の請求項2に記載された「樹脂組成物の25℃における粘度」を、「800~40000mPa・s」に限定し、訂正前の請求項1に記載された「含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0」を、「16mm以上」に限定し、訂正前の請求項1に記載された「含浸工程における炭素繊維の圧縮比RC(HC/H0)」を、「0.13以下」に限定がするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正が願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3及び4についても同様である。
(3)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。また、総称として「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂組成物を炭素繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、
前記樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・sであり、
含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が3mm以上であり、該炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であり、含浸工程における炭素繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.5以下であり、シートモールディングコンパウンドの厚さが10mm以下であり、炭素繊維含有率Wcが40質量%以上であることを特徴とするシートモールディングコンパウンドの製造方法。(但し、HCは含浸工程後の炭素繊維の嵩高さ(mm)であり、H0は含浸工程前の炭素繊維の嵩高さ(mm)である。)
【請求項2】
前記樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・sであり、
前記含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が16mm以上であり、
前記含浸工程における炭素繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.13以下である請求項1記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が130℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。(但し、樹脂組成物のガラス転移温度は、示差走査型熱量計装置内に樹脂組成物を入れ、-50℃から250℃まで昇温速度10℃/分の昇温条件で昇温し、3分間保持し、その後急冷し、再度10℃/分の昇温条件で-50℃から250℃まで測定した際に観察される示差熱曲線から読み取った中間点ガラス転移温度(Tmg)である。)
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項記載の製造方法により得られたシートモールディングコンパウンドを成形して得られる成形品の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし4に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし8)は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(新規性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(新規性)
本件特許の請求項2及び4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由1-3(新規性)
本件特許の請求項3及び4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2-1(進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由2-2(進歩性)
本件特許の請求項2及び4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 申立理由2-3(進歩性)
本件特許の請求項3及び4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
7 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1について、炭素繊維含有率が57質量%の一点の実施例が記載されているのみであり、この一例をもっても、本件特許発明1が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることができず、その他、そのように認めるに足りる証拠もない以上、本件特許発明1の製造方法を使用することができるように具体的に記載されているものとはいえない。請求項1を引用して特定する本件特許発明2ないし4についても同様である。
8 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1について、炭素繊維含有率が57質量%の一点の実施例が記載されているのみであり、この一例をもって広い範囲の炭素繊維含有率を有する材料の全域にわたって、本件発明の課題を解決し目的を達成できることを裏付けているとはいえないことから、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するとはいえない。請求項1を引用して特定する本件特許発明2ないし4についても同様である。
9 証拠方法
・甲第1号証:特公平2-6616号公報
・甲第2号証:「FRPポケットブック」、社団法人強化プラスチック協会、平成9年3月31日、p.41-46
・甲第3号証:塚本貴史、「特別企画・FRP50年の歩み 成形材料 SMC」、社団法人強化プラスチック協会、平成17年9月26日、p.75-81
・甲第4号証:「だれでも使えるFRP -FRP入門-」、社団法人強化プラスチック協会、平成14年9月12日、p.66-69
・甲第5号証:特開昭56-157433号公報
・甲第6号証:特開平11-21440号公報
・甲第7号証:特開2017-203108号公報
第5 令和4年9月22日付で特許権者に通知した取消理由の概要
本件特許の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和4年9月22日付で特許権者に通知した取消理由の要旨は次の1ないし4のとおりである。なお、取消理由は、申立理由のうち、申立理由2-1及び2-2の一部を包含する。
1 取消理由1(進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由3(進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 取消理由4(進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 令和4年9月22日付で特許権者に通知した取消理由についての判断
(1)取消理由1(甲第1号証に基づく進歩性)について
ア 甲第1号証の記載事項等
(ア)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「圧縮されたシート成形コンパウンド」について、次の記載がある。
・「2 不飽和ポリエステル樹脂、該樹脂が溶解できるモノマー、及び熟成助剤類を含むシートを製造する工程;該シート中へ短いフアイバガラスフイラメント束を分散して未熟成シートモールデイングコンパウンド(SMC)を製造(SMC)を製造する工程;該SMCが確実に塑性変形可能な稠度になるまでそのSMCを熟成する工程;短かいフアイバガラスフイラメント束を含有する熟成シートモールデイングコンパウンドから圧縮成形された物品の物性を実質的に改良する熟成シートモールデイングコンパウンドの処理方法において、前記シートモールデイングコンパウンドのシートをカレンダローラ間の間隙に多段的にかつローラの後に樹脂の片寄りを生じさせることなく通過させ、該シートの厚さを、初期の厚さに対する最終の厚さの比が1:2.3以下になるまで漸次低減させることによつて該フアイバガラス束のフイラメントの大部分をばらばらに離して該コンパウンド全体へ均等に分散させる工程;該ローラがけされたSMCから適当な寸法と形の装填用材料を作成する工程;及び該装填用材料を圧縮金型中において加熱圧縮してポリエステル成分を架橋する工程を含む構造パネルの作成方法。」(特許請求の範囲の請求項2)
・「実施例1
第1表に記載のSMCコンパウンドAを使用して前記のようにしてSMCを製造した。
[図:0001399357000001.jpg]
このSMCをロール圧縮するまでにおよそ30日間室温で熟成させた。処理まえには、このシートはおよそ6.7ミリメートルの厚みであつた。このコンパウンドから125×125ミリメートルの二つの見本を切り取り、それらの保護フイルムをはぎ取つた。これらの作業片をたがいに積み重ねて厚みが13.5mmのフイード原料とした。
直径20.3cm、長さ36.8センチメートルの二つの平行、同期駆動鋼鉄製ローラをもつ実験用カレンダミルによつて予備圧縮を行つた。毎分およそ4回転のスピードでミルを運転し、毎分約255センチメートルを移行するSMCの線速度を達成した。このロール圧線は一般的に約23℃の室温において行つた。このSMCは厚みが約1/100ミリ(4ミル)のポリエチレンまたは厚みが約1/200ミリ(2ミル)のポリプロピレンのシート間でロールにかけられたが、カバーシートは主として圧縮中の揮発分のロスを防ぐのに役立つので、適当なカバーシートの厚みおよび組成のどちらも本発明にとつてクリテイカルではない。この作業片の幅の増大に適応させる必要がある時は、ロールがけ工程中にこのシートを取りかえた。
第2表は、上記の実験用カレンダロールがけ装置によつて行われた熟成SMCのシートにたいする代表的な単一方向性(unidirectional)ロール圧縮の予定表を説明するものである。より大きいローラをもつ圧縮装置の場合には、パスはより少なくてよい。
[図:0001399357000002.jpg]
[図:0001399357000003.jpg]
単一方向性(unidirectional)圧縮とは、圧縮ローラ間または他の圧縮手段へ同一側面方向(すなわち、同一方向)において作業片を複数回フイードする方法を意味する。多方向性(multidirectinal)圧縮は、少くとも若干のパスにおいて圧縮手段にたいする作業片の方向変更を伴う。平行(parallel)圧縮はSMCがそのSMC製造機を通過した方向における圧縮である。
第2表にみられるように、カレンダローラ間の距離は、パス間ではわずかだけ低減した。第4図はカレンダローラ50および52(矢印で示す方向へ同期的に回転する)間の距離をあまりにも速く低減することの逆効果を示す。SMC14はローラの後に片寄り、樹脂の主要部から離脱した羽根(wings)54を形成する。後に論じるように、第2表に表示した30回の低減工程は、望みの結果を達成するためにすべて必要とはかぎらない。大抵の場合、かなり少い圧縮工程でも充分である。
本実施例において、カレンダロール間の間隙は最初のパスではフイード原料の厚み13.4mmよりも2ミリメートル少い11.4ミリメートルに設定した。2.4ミリメートルの最終厚みの達成には全部で18のパスを行つた。ロール間隙は、最終厚みに近づくにしたがつて段々と小さな量になるように低減した。最終パスのロール間隙はフイード原料の流れている厚みよりも0.5mm小さかつた。フイード原料の最初の厚みと最終の厚みとの間の圧縮比(compaction ratio)は5.6:1であつた。」(4ページ8欄42行~6ページ11欄33行)
・「実施例 3
ロール圧縮方法を用いて、第4表に述べるSMCコンパウンドを製造した。
・・・(略)・・・
このSMC作業片の最初の厚さは2.5ミリメートルであり、50重量パーセントの高ガラス充填であつた。13回パス後、2.3:1の圧縮比においてロール圧縮を停止した。これは高充填材料では実施例1で述べた実験用ローラーミルによる処理が困難なためである。」(8ページ15欄4~27行)
・「ポリエステル成形組成物類ではフアイバグラス充填剤がもつとも普通であるが、SMCおよび他の比較的高い粘度のポリマー媒体中における他の幾何学形体の補強充填剤類の効果も本圧縮工程によつて改良されると思われる。“幾何学的充填剤(geometric filler)”とは、流動媒体中で流動させられるとき好ましい方向へ向く補強材料を意味する。適当な充填材形体は、たとえば、フアイバ類、フレーク類および小板類(platelets)を包含し、均一なガラス球を含まない。容易に入手できる幾何学的充填剤類はグラフアイトフアイバ類、天然フアイバ類、鉱物フアイバ類、グラスフレーク、金属フレーク、センイ状タルク類、および平板状タルク類を包含できる。」(9ページ18欄28~41行)
・「
[図:0001399357000004.jpg]
」
(イ)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項2の記載によると、次の発明が記載されているものと認める。
「不飽和ポリエステル樹脂、該樹脂が溶解できるモノマー、及び熟成助剤類を含むシートを製造する工程;該シート中へ短いフアイバガラスフイラメント束を分散して未熟成シートモールデイングコンパウンド(SMC)を製造(SMC)を製造する工程;該SMCが確実に塑性変形可能な稠度になるまでそのSMCを熟成する工程;短かいフアイバガラスフイラメント束を含有する熟成シートモールデイングコンパウンドから圧縮成形された物品の物性を実質的に改良する熟成シートモールデイングコンパウンドの処理方法において、前記シートモールデイングコンパウンドのシートをカレンダローラ間の間隙に多段的にかつローラの後に樹脂の片寄りを生じさせることなく通過させ、該シートの厚さを、初期の厚さに対する最終の厚さの比が1:2.3以下になるまで漸次低減させることによつて該フアイバガラス束のフイラメントの大部分をばらばらに離して該コンパウンド全体へ均等に分散させる工程を含む、熟成シートモールデイングコンパウンドの処理方法。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「不飽和ポリエステル樹脂、該樹脂が溶解できるモノマー、及び熟成助剤類を含むシートを製造する工程;該シート中へ短いフアイバガラスフイラメント束を分散して未熟成シートモールデイングコンパウンド(SMC)を製造(SMC)を製造する工程」は、本件特許発明1の「樹脂組成物を繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法」に相当する。
甲1発明の「前記シートモールデイングコンパウンドのシートをカレンダローラ間の間隙に多段的にかつローラの後に樹脂の片寄りを生じさせることなく通過させ、該シートの厚さを、初期の厚さに対する最終の厚さの比が1:2.3以下になるまで漸次低減させることによつて該フアイバガラス束のフイラメントの大部分をばらばらに離して該コンパウンド全体へ均等に分散させる工程」は、初期の厚さに対する最終の厚さの比を、圧縮比に換算すると、1/2.3以下=0.43以下であることから、本件特許発明1の「含浸工程における繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.5以下であり・・・(但し、HCは含浸工程後の炭素繊維の嵩高さ(mm)であり、H0は含浸工程前の炭素繊維の嵩高さ(mm)である。)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂組成物を繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法であって、含浸工程における繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.5以下である、シートモールディングコンパウンドの製造方法。(但し、HCは含浸工程後の炭素繊維の嵩高さ(mm)であり、H0は含浸工程前の炭素繊維の嵩高さ(mm)である。)」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
シートモールディングコンパウンドに関し、樹脂を含浸させる対象物が、本件特許発明1は、「炭素繊維」であるのに対し、甲1発明は、「フアイバガラス」である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・s以上であ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定はない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1は、「含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が3mm以上であり、該炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であり」、「炭素繊維含有率Wcが40質量%以上である」のに対し、甲1発明は、そのような特定はない点。
<相違点1-4>
本件特許発明1は、「シートモールディングコンパウンドの厚さが10mm以下であ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定はない点。
そこで、事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲第1号証には、「樹脂組成物の25℃における粘度」についての記載はなく、甲1発明の「不飽和ポリエステル樹脂、該樹脂が溶解できるモノマー、及び熟成助剤類を含むシート」における「樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・s以上であ」ることを示す証拠もない。
そうすると、相違点1-2は、実質的な相違点である。
また、甲第1号証には、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「炭素繊維含有率に依らず、炭素繊維の含浸性に優れるSMCの製造方法を提供する」(【0005】)という効果は、甲1発明並びに甲第1号証及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲第1号証及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由1についてのむすび
したがって、取消理由1によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(2)取消理由2(甲第2号証に基づく進歩性)について
ア 甲第2号証の記載事項等
(ア)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。
・「材料: SMCとはSheet Molding Compoundの略であり、その名のごとくシート状の成形材料である。不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に無機充填材、低収縮剤、硬化剤、硬化促進剤、安定剤、内部離型剤、着色剤、増粘剤等を混合した樹脂ペーストをSMC含浸機のドクターブレードに供給し、PE、PP等のフィルム(上下)に連続的に塗布して、カットされた繊維強化材(主にガラス繊維)をサンドイッチ状にした後、ロールまたは金網(デュアルメッシュ)で圧力をかけ含浸させたシート状の成形材料である。」(41ページ3~9行)
・「成形機: SMCは通常、成形温度120~150℃、成形圧力5~12MPaの条件で圧縮成形されている。」(41ページ下から3行~2行)
・「SMCの硬化性については、SMCの樹脂、硬化剤/安定剤系を検討することで、小型の成形品で厚さ3mmの場合で、加圧キープ時間1分以下は達成可能である。」(44ページ1~3行)
(イ)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に無機充填材、低収縮剤、硬化剤、硬化促進剤、安定剤、内部離型剤、着色剤、増粘剤等を混合した樹脂ペーストをSMC含浸機のドクターブレードに供給し、PE、PP等のフィルム(上下)に連続的に塗布して、カットされた繊維強化材(主にガラス繊維)をサンドイッチ状にした後、ロールまたは金網(デュアルメッシュ)で圧力をかけ含浸させたシート状の成形材料、の製造方法。」(以下、「甲2発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「樹脂ペースト」は、本件特許発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲2発明の「樹脂ペーストをSMC含浸機のドクターブレードに供給し、PE、PP等のフィルム(上下)に連続的に塗布して、カットされた繊維強化材(主にガラス繊維)をサンドイッチ状にした後、ロールまたは金網(デュアルメッシュ)で圧力をかけ含浸させ」は、本件特許発明1の「樹脂組成物を繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂組成物を繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
シートモールディングコンパウンドに関し、樹脂を含浸させる対象物が、本件特許発明1は、「炭素繊維」であるのに対し、甲2発明は、そのような特定はない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は、「樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・s以上であ」るのに対し、甲2発明は、そのような特定はない点。
<相違点2-3>
本件特許発明1は、「含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が3mm以上であり、該炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であり、含浸工程における炭素繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.5以下であり」、「炭素繊維含有率Wcが40質量%以上である」のに対し、甲2発明は、そのような特定はない点。
<相違点2-4>
本件特許発明1は、「シートモールディングコンパウンドの厚さが10mm以下であ」るのに対し、甲2発明は、そのような特定はない点。
そこで、事案に鑑み、相違点2-3について検討する。
甲第2号証には、「炭素繊維」についての記載はなく、甲2発明の「カットされた繊維強化材」について「炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であ」ることを示す証拠もない。
そうすると、相違点2-3は、実質的な相違点である。
また、甲第2号証には、甲2発明において、相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「炭素繊維含有率に依らず、炭素繊維の含浸性に優れるSMCの製造方法を提供する」という効果は、甲2発明並びに甲第2号証及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲第2号証及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし4は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由2についてのむすび
したがって、取消理由2によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(3)取消理由3(甲第4号証に基づく進歩性)について
ア 甲第4号証の記載事項等
(ア)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、次の記載がある。
・「製造方法を新規の装置により行うTMC(Thick Molding Compound)は厚さが50mmの品種でも可能であり,SMCの使用枚数を減らすことができ低圧成形や射出成形にも利用できる(図3.18),実際に複雑形状品など多くの成形品に実用化されている。」(68ページ右欄4~9行)
・「
[図:0001399357000005.jpg]
」(69ページ左欄図3.18)
・「機械的強度を向上させた高強度SMCも開発されている。ガラス繊維含有量を60~70重量%まで増加したものや.連続繊維を使用したものがある。」(69ページ左欄1~3行)
(イ)甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、図3.18の記載によると、次の発明が記載されているものと認める。
「TMC含浸機を用いて、チョップドファイバーグラスと樹脂コンパウンドを含むTMCコンパウンドを、上下に設置されたPEフィルムで挟み込み、次いで、加圧ロールの間に通して、圧力を加えて、チョップドファイバーグラスに樹脂コンパウンドを含浸させる、SMCの製造方法。」(以下、「甲4発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂組成物を繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1>
シートモールディングコンパウンドに関し、樹脂を含浸させる対象物が、本件特許発明1は、「炭素繊維」であるのに対し、甲4発明は、そのような特定はない点。
<相違点4-2>
本件特許発明1は、「樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・s以上であ」るのに対し、甲4発明は、そのような特定はない点。
<相違点4-3>
本件特許発明1は、「含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が3mm以上であり、該炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であり、含浸工程における炭素繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.5以下であり」、「炭素繊維含有率Wcが40質量%以上である」のに対し、甲4発明は、そのような特定はない点。
<相違点4-4>
本件特許発明1は、「シートモールディングコンパウンドの厚さが10mm以下であ」るのに対し、甲4発明は、そのような特定はない点。
そこで、事案に鑑み、相違点4-3について検討する。
甲第4号証には、「炭素繊維」についての記載はなく、甲4発明の「カットされた繊維強化材」について「炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であ」ることを示す証拠もない。
そうすると、相違点4-3は、実質的な相違点である。
また、甲第4号証には、甲4発明において、相違点4-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲4発明において、相違点4-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「炭素繊維含有率に依らず、炭素繊維の含浸性に優れるSMCの製造方法を提供する」という効果は、甲4発明並びに甲第4号証及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明並びに甲第4号証及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし4は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由3についてのむすび
したがって、取消理由3によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(4)取消理由4(甲第6号証に基づく進歩性)について
ア 甲第6号証の記載事項等
(ア)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、次の記載がある。
・「【0024】図2は、本発明のシートモールディングコンパウンドの製造方法の一態様を示す説明図である。混合機1において、不飽和ポリエステル樹脂を液状重合性単量体に溶解し、熱可塑性樹脂粉末及び硬化用触媒を加えて不飽和ポリエステル樹脂組成物2とする。この不飽和ポリエステル樹脂組成物をSMCマシーンのコーターバンクに移し、2枚の離型フィルム3にコーター4により一定の厚さに塗布し、一方の塗布した不飽和ポリエステル樹脂組成物の上に、繊維強化材5をチョッパー6により切断して散布する。次いで、もう1枚の不飽和ポリエステル樹脂組成物を塗布した離型フィルムを塗布面を内にして貼り合わせ、加温された圧延ロール7を有する圧延機により、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維強化材へ含浸させ、オーブン8の中を通して40~70℃に加温し、繊維強化材を含んだ混合物を増粘させ、空冷機9により35℃以下に冷却したのち、シートモールディングコンパウンドを両面を離型フィルムで被覆した状態で巻き取りロール10により巻き取る。」
・「【0025】本発明方法において(E)成分として添加する繊維強化材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、フェノール繊維、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維など、強化プラスチックの製造に慣用されているものを使用することができる。これらの繊維強化材の形態としては、例えば、チョップドストランド、チョップドストランドマット、ロービングなどを挙げることができる。」
・「【0028】本発明のシートモールディングコンパウンドは、成形時における粘度の温度依存性が高いために、加熱加圧硬化時の流動性が特に優れており、低圧で加工することが可能である。例えば、本発明のシートモールディングコンパウンドは、成形温度60~100℃で、圧縮成形では成形圧力を無圧~2kg/cm2(ゲージ圧)で成形することができる。」
・「【図2】
[図:0001399357000006.jpg]
」
(イ)甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「不飽和ポリエステル樹脂を液状重合性単量体に溶解し、熱可塑性樹脂粉末及び硬化用触媒を加えて不飽和ポリエステル樹脂組成物2とし、この不飽和ポリエステル樹脂組成物をSMCマシーンのコーターバンクに移し、2枚の離型フィルムにコーターにより一定の厚さに塗布し、一方の塗布した不飽和ポリエステル樹脂組成物の上に、繊維強化材をチョッパーにより切断して散布し、次いで、もう1枚の不飽和ポリエステル樹脂組成物を塗布した離型フィルムを塗布面を内にして貼り合わせ、加温された圧延ロール7を有する圧延機により、不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維強化材へ含浸させ、オーブン8の中を通して40~70℃に加温し、繊維強化材を含んだ混合物を増粘させ、空冷機9により35℃以下に冷却したのち、シートモールディングコンパウンドを両面を離型フィルムで被覆した状態で巻き取りロール10により巻き取る、シートモールディングコンパウンドの製造方法。」(以下、「甲6発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明とを対比すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂組成物を繊維に含浸するシートモールディングコンパウンドの製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6-1>
シートモールディングコンパウンドに関し、樹脂を含浸させる対象物が、本件特許発明1は、「炭素繊維」であるのに対し、甲6発明は、そのような特定はない点。
<相違点6-2>
本件特許発明1は、「樹脂組成物の25℃における粘度が800~40000mPa・s以上であ」るのに対し、甲6発明は、そのような特定はない点。
<相違点6-3>
本件特許発明1は、「含浸工程前の炭素繊維の嵩高さH0が3mm以上であり、該炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であり、含浸工程における炭素繊維の圧縮比RC(HC/H0)が0.5以下であり」、「炭素繊維含有率Wcが40質量%以上である」のに対し、甲6発明は、そのような特定はない点。
<相違点6-4>
本件特許発明1は、「シートモールディングコンパウンドの厚さが10mm以下であ」るのに対し、甲6発明は、そのような特定はない点。
そこで、事案に鑑み、相違点6-3について検討する。
甲第6号証には、「炭素繊維」についての記載はなく、甲6発明の「カットされた繊維強化材」について「炭素繊維として使用される繊維束のフィラメント数が1,000~60,000であ」ることを示す証拠もない。
そうすると、相違点6-3は、実質的な相違点である。
また、甲第6号証には、甲6発明において、相違点6-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲6発明において、相違点6-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「炭素繊維含有率に依らず、炭素繊維の含浸性に優れるSMCの製造方法を提供する」という効果は、甲6発明並びに甲第6号証及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明並びに甲第6号証及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし4は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由4についてのむすび
したがって、取消理由4によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
2 令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由以外の特許異議申立理由についての判断
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は次のとおりである。
・申立理由1-1(甲第1号証ないし甲第5号証を主たる証拠とする新規性)
・申立理由1-2(甲第6号証を主たる証拠とする新規性)
・申立理由1-3(甲第7号証を主たる証拠とする新規性)
・申立理由2-1(甲第3及び5号証を主たる証拠とする進歩性)
・申立理由2-3(甲第7号証を主たる証拠とする進歩性)
・申立理由3(実施可能要件)
・申立理由4(サポート要件)
以下、順に検討する。
(1)申立理由1-1のうち甲第1、2及び4号証を主たる証拠とする新規性について
ア 本件特許発明1ないし4について
本件特許発明1ないし4と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記1(1)イ(ア)の相違点1-2の点で相違し、相違点1-2は上記1(1)イ(ア)で検討したとおり、実質的な相違点である。
また、本件特許発明1ないし4と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記1(2)イ(ア)の相違点2-3の点で相違し、相違点2-3は上記1(2)イ(ア)で検討したとおり、実質的な相違点である。
さらに、本件特許発明1ないし4と甲4発明とを対比すると、少なくとも上記1(3)イ(ア)の相違点4-3の点で相違し、相違点4-3は上記1(3)イ(ア)で検討したとおり、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1ないし4は、甲1、2及び4発明ではない。
イ 申立理由1-1のうち甲第1、2及び4号証を主たる証拠とする新規性についてのむすび
したがって、申立理由1-1のうち甲第1、2及び4号証を主たる証拠とする新規性によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由1-2のうち甲第6号証を主たる証拠とする新規性について
ア 本件特許発明1ないし4について
本件特許発明1ないし4と甲6発明とを対比すると、少なくとも上記1(4)イ(ア)の相違点6-3の点で相違し、相違点6-3は上記1(4)イ(ア)で検討したとおり、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1ないし4は、甲6発明ではない。
イ 申立理由1-2のうち甲第6号証を主たる証拠とする新規性についてのむすび
したがって、申立理由1-2のうち甲第6号証を主たる証拠とする新規性によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由1-1のうち甲第3及び5号証を主たる証拠とする新規性、申立理由1-3のうち甲第7号証を主たる証拠とする新規性、申立理由2-1のうち甲第3及び5号証を主たる証拠とする進歩性、並びに申立理由2-3のうち甲第7号証を主たる証拠とする進歩性について
ア 本件特許発明1ないし4について
本件特許発明1ないし4と甲第3、5及び7号証に記載された発明とを対比すると、少なくとも上記1(2)イ(ア)の相違点2-3の点で相違しており、当該相違点2-3については上記1(2)イ(ア)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明1ないし4は、甲第3、5及び7号証に記載された発明ではないし、甲第3、5及び7号証に記載された発明、甲第3、5及び7号証並びにその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 申立理由1-1のうち甲第3及び5号証を主たる証拠とする新規性、申立理由1-3のうち甲第7号証を主たる証拠とする新規性、申立理由2-1のうち甲第3及び5号証を主たる証拠とする進歩性、並びに申立理由2-3のうち甲第7号証を主たる証拠とする進歩性についてのまとめ
上記アのとおり、申立理由1-1のうち甲第3及び5号証を主たる証拠とする新規性、申立理由1-3のうち甲第7号証を主たる証拠とする新規性、申立理由2-1のうち甲第3及び5号証を主たる証拠とする進歩性、並びに申立理由2-3のうち甲第7号証を主たる証拠とする進歩性によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由3(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明及び図面には、SMCの製造方法(【0013】ないし【0030】及び【図1】)、樹脂組成物(【0031】ないし【0040】)、炭素繊維(【0041】ないし【0044】)及び成形品の製造方法(【0046】及び【0047】)が記載されており、また、具体的な実施例(【0050】ないし【0058】)の記載もある。
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明1ないし4を実施できる程度に記載されている、すなわち、実施可能要件を満たす記載がある。
イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 7の主張について検討すると、上記アで述べたとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には実施可能要件を満たす記載があり、炭素繊維含有率によって、本件特許の製造方法が実施できないことを示す具体的な証拠も提示されていない。
したがって、特許異議申立人の上記第3 7の主張は、上記アの判断に影響しない。
ウ 申立理由3についてのむすび
したがって、申立理由3によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立理由4(サポート要件)について
特許異議申立人の上記第4 7の主張について検討すると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「炭素繊維含有率に依らず、炭素繊維の含浸性に優れるSMCの製造方法を提供すること」(【0005】)であり、「炭素繊維を特定の嵩高さ、圧縮比、含有率としたSMCの製造方法が、上記課題を解決できる」(【0006】)ことが記載されており、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、実施例1ないし6の含浸条件(【0050】ないし【0058】)で上記発明の課題を解決することを確認する記載がある。
一方、実施例1ないし6は炭素繊維含有率がいずれも57質量%であるが、炭素繊維含有率が40質量%以上において、本件特許発明1に係る嵩高さ及び圧縮比である態様が、本件特許発明1に係る嵩高さ及び圧縮比でない態様と比べて、炭素繊維の含浸性に優れない炭素繊維含有率のものが存在することを示す具体的な技術的根拠はないことから、炭素繊維含有率が57質量%である実施例しかないことのみでもって、直ちに炭素繊維含有率が40質量%以上の全域にわたって、本件発明の課題を解決し目的を達成できることが裏付けられていないとはいえない。
したがって、上記主張にはその理由がなく、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
よって、申立理由4は、その理由がない。
第7 結語
上記第6のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、当審から通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700546