特許異議申立
2023-700455
積層体、プリント基板の製造方法、プリント基板及びアンテナ
- 審判番号
- 2023-700455
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-054860
- 登録番号
- 7163840
- 請求日
- 2023年05月01日
- 審決日
- 2024年03月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】駒井 慎二
- 【異議申立人】筒井 雅人
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 西本 浩司
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.113-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7163840号発明「積層体、プリント基板の製造方法、プリント基板及びアンテナ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7163840号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12、13〕について訂正することを認める。
特許第7163840号の請求項1、2、4、9~13に係る特許を維持する。
特許第7163840号の請求項3、5~8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7163840号の請求項1~13に係る特許についての出願は、平成31年3月22日に出願され、令和4年10月24日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月1日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 5月 1日 :特許異議申立人筒井雅人(以下「申立人」という。)による請求項1~13に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 7月18日付け:取消理由通知書
令和5年 9月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、当該訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和5年11月 1日 :申立人による意見書の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された「前記第1ポリマー層の厚さが1~20μmである、」を、
「前記第1ポリマー層の厚さが1~9μmであり、前記第2ポリマー層の厚さが10~100μmであり、前記金属箔の厚さが2~30μmであり、前記第1ポリマー層の厚さに対する前記第2ポリマー層の厚さの比が、1以上である、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4、9~11も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項4に記載された「請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体」を、「請求項1又は2に記載の積層体」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~11も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項6を削除する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項7を削除する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項8を削除する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項9に記載された「請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体」を、「請求項1、2、4のいずれか1項に記載の積層体」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10、11も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項10に記載された「請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体」を、「請求項1、2、4、9のいずれか1項に記載の積層体」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11も同様に訂正する)。
(10)訂正事項10
本件訂正前の請求項11に記載された「請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体」を、「請求項1、2、4、9、10のいずれか1項に記載の積層体」に訂正する。
(11)訂正事項11
本件訂正前の請求項12に記載された「前記第1ポリマー層の厚さが1~20μmである、」を、
「前記第1ポリマー層の厚さが1~9μmであり、前記第2ポリマー層の厚さが10~100μmであり、前記伝送回路の厚さが2~30μmであり、前記第1ポリマー層の厚さに対する前記第2ポリマー層の厚さの比が、1以上である、」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する)。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~11は、請求項2~11が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあり、本件訂正前の請求項12、13は、請求項13が、本件訂正前の請求項12の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~11〕、〔12、13〕について請求されたものである。
3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「第1ポリマー層の厚さ」、「第2ポリマー層の厚さ」、「金属箔の厚さ」及び「第1のポリマー層の厚さ」に対する「第2ポリマー層の厚さ」の比について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の特許請求の範囲の【請求項3】、【請求項5】、【請求項6】、【請求項7】、【請求項8】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2、4~7について
訂正事項2、4~7は、それぞれ本件訂正前の請求項3、5~8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3、8~10について
訂正事項3、8~10は、本件訂正前の請求項4、9~11について、訂正事項2、4~7によって請求項3、5~8が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項2、4~7によって削除された請求項3、5~8を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3、8~10は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項11について
訂正事項11は、本件訂正前の請求項12の「第1ポリマー層の厚さ」、「第2ポリマー層の厚さ」、「伝送回路の厚さ」及び「第1のポリマー層の厚さ」に対する「第2ポリマー層の厚さ」の比について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項11は、本件特許の明細書の【0006】、【0010】、【0047】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項11は、本件訂正前の請求項12に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12、13〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、2、4、9~13に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4、9~13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、2、4、9~13の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
金属箔、溶融温度が260~320℃かつテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーであるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーを溶融して形成された第1ポリマー層、フッ素化ポリイミドを含む第2ポリマー層をこの順に有し、前記第1ポリマー層の厚さが1~9μmであり、前記第2ポリマー層の厚さが10~100μmであり、前記金属箔の厚さが2~30μmであり、前記第1ポリマー層の厚さに対する前記第2ポリマー層の厚さの比が、1以上である、積層体。
【請求項2】
前記第1ポリマー層の少なくとも一部と前記第2ポリマー層の少なくとも一部とが接している、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記第1ポリマー層の厚さに対する前記金属箔の厚さの比が、1以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項9】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及び官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1、2、4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記積層体の線膨張係数が、25ppm/℃以下である、請求項1、2、4、9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1、2、4、9、10のいずれか1項に記載の積層体の前記金属箔をエッチング処理し、伝送回路を形成してプリント基板を得る、プリント基板の製造方法。
【請求項12】
伝送回路、溶融温度が260~320℃かつテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーであるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーを溶融して形成された第1ポリマー層、フッ素化ポリイミドを含む第2ポリマー層をこの順に有し、前記第1ポリマー層の厚さが1~9μmであり、前記第2ポリマー層の厚さが10~100μmであり、前記伝送回路の厚さが2~30μmであり、前記第1ポリマー層の厚さに対する前記第2ポリマー層の厚さの比が、1以上である、プリント基板。
【請求項13】
請求項12に記載のプリント基板から形成された、アンテナ。
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許の請求項1~13に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:再公表特許第2010/084867号
甲第2号証:国際公開第2018/181436号
甲第3号証:国際公開第2016/104297号
甲第4号証:特開2006-59865号公報
以下「甲第1号証」を「甲1」のようにいう。他も同じ。
2 当審の判断
(1)甲1に記載された発明
甲1の【特許請求の範囲】、【0049】、【0062】~【0064】、【0070】、【0071】、実施例3等、特に【請求項1】、【請求項2】、【請求項4】、【請求項6】の記載を踏まえると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「(A)フッ素樹脂層/(B)ポリイミド樹脂層/(A)フッ素樹脂層がこの順に積層されてなる多層フッ素樹脂フィルムであって、該多層フッ素樹脂フィルムの線膨張係数が10ppm/℃~30ppm/℃であり、(A)層の厚さ比{全(A)層/多層フッ素樹脂フィルム}が60%~90%であり、かつ該(A)層がテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる熱可塑性フッ素樹脂の層であり、
(A)層が、官能基含有熱可塑性フッ素樹脂の層であり、
(A)層の厚みが1.0μm~50μmであり、かつ(B)層の厚みが1.0μm~38μmであり、
多層フッ素樹脂フィルムの少なくとも片面に銅箔が積層され、
銅箔の厚さは1.0μm~25μmである銅貼り多層フッ素樹脂フィルム。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「銅箔」は、本件発明1の「金属箔」に相当する。
甲1発明の「テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)」は、融点が300℃であるから(甲1【0064】の【表2】)、甲1発明の「テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる熱可塑性フッ素樹脂の層」である「(A)フッ素樹脂層」は、「溶融温度が260~320℃かつテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーであるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む第1ポリマー層」である限りにおいて、本件発明1の「溶融温度が260~320℃かつテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーであるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含むパウダーを溶融して形成された第1ポリマー層」に一致する。
甲1発明の「(B)ポリイミド樹脂層」は、「ポリイミドを含む第2ポリマー層」である限りにおいて、本件発明1の「フッ素化ポリイミドを含む第2ポリマー層」に一致する。
甲1発明の「(A)フッ素樹脂層/(B)ポリイミド樹脂層/(A)フッ素樹脂層がこの順に積層され」、「多層フッ素樹脂フィルムの少なくとも片面に銅箔が積層された」ことは、本件発明1の「金属箔」、「第1ポリマー層」、「第2ポリマー層をこの順に有」することに相当する。
甲1発明の「銅貼り多層フッ素樹脂フィルム」は、本件発明1の「積層体」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは以下の点で相違する。
<一致点>
「金属箔、溶融温度が260~320℃かつテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーであるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む第1ポリマー層、ポリイミドを含む第2ポリマー層をこの順に有する、積層体。」
<相違点1>
「溶融温度が260~320℃かつテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーであるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む第1ポリマー層」について、本件発明1は「パウダーを溶融して」形成されたのに対し、甲1発明はどのように形成されたか不明である点。
<相違点2>
「ポリイミドを含む第2ポリマー層」について、本件発明1は「フッ素化ポリイミド」を含む第2ポリマー層であるのに対して、甲1発明は「ポリイミド樹脂層」である点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記第1ポリマー層の厚さが1~9μmであり、前記第2ポリマー層の厚さが10~100μmであり」、「前記第1ポリマー層の厚さに対する前記第2ポリマー層の厚さの比が、1以上である」のに対して、甲1発明は「(A)層の厚みが1.0μm~50μmであり、かつ(B)層の厚みが1.0μm~38μmであ」る点。
<相違点4>
本件発明1は「前記金属箔の厚さが2~30μmであ」るのに対して、甲1発明は「銅箔の厚さは1.0μm~25μmである」点。
イ 判断
事案に鑑み相違点3について検討する。
(ア)相違点3に係る本件発明1の発明特定事項の技術的意義
本件特許の明細書には、「第1ポリマー層」、「第2ポリマー層」の厚さに関して次の記載がある(「・・・」は文章の省略を表す。下線は参考のため当審が付与した。以下同じ。)。
「【0010】
本発明の積層体は、金属箔と、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「TFE系ポリマー」とも記す。)を含む、厚さ1~20μmの第1ポリマー層とを有する樹脂付金属箔と、フッ素化ポリイミド(以下、「フッ素化PI」とも記す。)を含む第2ポリマー層とが接着した積層体とも言える。
・・・
伝送回路の直下において電界が集中する部分に、TFE系ポリマーを含む第1ポリマー層が配置されることにより、第1ポリマー層の誘電特性と第2ポリマー層の誘電特性とがバランスして発揮される。特にTFE系ポリマーを含む第1ポリマー層は、誘電正接が低いため、強い電界がかかっても誘電損失が低い。よって、プリント基板の伝送損失が低減されたと推察される。
【0011】
また、TFE系ポリマー及びフッ素化PIは、いずれもフッ素原子を含有する化合物であるため、互いに親和性が高く、第1ポリマー層と第2ポリマー層との層間の剥離強度が高められる。
第1ポリマー層は、耐熱性に優れるTFE系ポリマーを含むため、はんだリフロー工程における短時間かつ局所的な加熱の際には、断熱層としての役割を果たすとも考えられる。つまり、第2ポリマー層が断熱層とも言える第1ポリマー層に保護される形になり、加熱における第2ポリマー層の劣化が抑制され、前記層間の界面膨れが効果的に抑制できる。
さらに、本発明の積層体は、第1ポリマー層の厚さが所定の範囲にあり、剛性に優れたフッ素化PIを含む第2ポリマー層を有するため、はんだリフロー工程における加熱による、TFE系ポリマーの熱収縮性に起因する寸法変化(反り)が抑制される。その結果、加熱に起因する金属箔と第1ポリマー層との界面の剥離も効果的に抑制できる。」
「【0014】
・・・
第1ポリマー層14の厚さは、1~20μmであり、1~15μmが好ましく、1~9μmがより好ましい。第1ポリマー層14の厚さが上記下限値以上であれば、加熱による第1ポリマー層14と第2ポリマー層16との界面の膨れが抑えられる。特に、第1ポリマー層14の厚さが1μm以上であれば、第2ポリマー層16の構成(厚さ等)、種類に依存することなく、プリント基板の高周波領域における伝送損失が大幅に改善される。第1ポリマー層14の厚さが上記上限値以下であれば、加熱による積層体10の反りが抑えられ、金属箔12と第1ポリマー層14との界面の剥離が抑えられる。
第2ポリマー層16の厚さは、10~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましく、10~30μmがさらに好ましい。
【0015】
・・・
第1ポリマー層14の厚さに対する第2ポリマー層16の厚さの比は、1以上が好ましく、1~100がより好ましく、1~10がさらに好ましい。第1ポリマー層14の厚さに対する第2ポリマー層16の厚さの比が上記下限値以上であれば、加熱による積層体10の反りがさらに抑えられ、金属箔12と第1ポリマー層14との界面の剥離がさらに抑えられる。第1ポリマー層14の厚さに対する第2ポリマー層16の厚さの比が上記上限値以下であれば、加熱による第1ポリマー層14と第2ポリマー層16との界面の膨れがさらに抑えられる。また、プリント基板としての伝送特性がさらに優れる。」
以上の記載を総合すると、相違点3に係る本件発明1の構成は、剛性に優れたフッ素化PIを含む第2ポリマー層を有することにより、TFE系ポリマーの熱収縮性に起因する寸法変化(反り)を抑制しつつ、TFE系ポリマーを含む第1ポリマー層の誘電特性とフッ素化PIを含む第2ポリマー層の誘電特性とをバランスして発揮させることにより、プリント基板の伝送損失を低減するという技術的意義を有するものである。
(イ)判断
これに対し、甲1の【0015】の記載によると、甲1発明における「(A)層の厚みが1.0μm~50μmであ」ることは、電子部品の軽小化や、フッ素樹脂による電気特性の向上、吸水性の低減、接着性の向上等の表面改質効果のための構成であり、また、甲1の【0046】の記載によると、甲1発明における「(B)層の厚みが1.0μm~38μmであ」ることは、電子部品の軽小化や、吸水率や電気特性といった物性への悪影響や、搬送、製膜のための構成である。
そうすると、甲1発明において、剛性に優れたフッ素化PIを含む第2ポリマー層を有することにより、TFE系ポリマーの熱収縮性に起因する寸法変化(反り)を抑制したり、TFE系ポリマーを含む第1ポリマー層の誘電特性とフッ素化PIを含む第2ポリマー層の誘電特性とをバランスして発揮させることにより、プリント基板の伝送損失を低減したりするために、相違点3に係る本件発明1の数値範囲とする動機付けはない。また、相違点3に係る本件発明1の構成を記載ないし示唆する証拠は提出されていない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、意見書において、甲1の実施例3は、その積層体の厚みに関しては、PFAフィルム((A)層)の厚さが本件発明1の「1~9μm」という要件を満たさず、10μmである、という点でのみ相違するが、本件発明1の第1ポリマー層の厚さの臨界的意義が示されておらず、当該相違点は実質的な相違点とはいえない旨を述べている。
しかしながら、本件特許の明細書の【0014】には、第1ポリマー層の厚さについて、第2ポリマー層の構成(厚さ等)、種類に依存することなく、プリント基板の高周波領域における伝送損失が大幅に改善され、また、加熱による積層体の反りが抑えられる数値範囲のより好ましい範囲として1~9μmが挙げられている。
また、甲1には、(A)層の厚さよりも(B)層の厚さが厚いものは比較例のみであり、実施例は全て(A)層の厚さが(B)層の厚さ以上のものであるから、甲1の実施例3において(B)層の厚さを「10μm」としたまま(A)層の厚さのみ「10μm」から「9μm」に小さくすることは、甲1の記載から当業者が適宜なし得たこととはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
エ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2、4、9、10について
本件発明2、4、9、10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(4)本件発明11~13について
本件発明11~13は、本件発明1の全ての発明特定事項と同様の発明特定事項を含み、発明のカテゴリーが異なるものであるから、上記(2)と同様の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
(1)新規性
本件特許の請求項1~13に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)サポート要件
請求項1における「パウダーを溶融して形成された」の記載について、発明の詳細な説明によると、パウダー分散液を塗布し、加熱する方法によって形成することを意図したものであって、請求項1の上記記載は発明の詳細な説明に記載されていない発明も包含するものであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 新規性について
本件発明1と甲1発明との相違点1~4は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。
同様に、本件発明2、4、9、10は甲1発明ではなく、本件発明11~13は甲1に記載された発明ではない。
3 サポート要件について
請求項1における「パウダーを溶融して形成された」の記載に関して、発明の詳細な説明には「樹脂付金属箔の製造方法としては、金属箔12の表面に、TFE系ポリマーのパウダー分散液を塗布する方法が挙げられる。」(【0031】)と記載されているとおり、TFE系ポリマーのパウダー分散液を塗布する方法は例示にすぎない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、2、4、9~13に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、2、4、9~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3、5~8に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、特許異議の申立てについて、請求項3、5~8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700455