特許異議申立
2023-700449
熱硬化性剥離コーティング剤、及び剥離フィルム
- 審判番号
- 2023-700449
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-211048
- 登録番号
- 7172468
- 請求日
- 2023年04月28日
- 審決日
- 2023年09月28日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】荒川化学工業株式会社
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 塩見 篤史
- 分類
- P1651.537-Y (C09D) / P1651.536-Y (C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7172468号発明「熱硬化性剥離コーティング剤、及び剥離フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7172468号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成30年11月9日(優先権主張 平成29年11月17日(以下「本件優先日」という。) 日本国受理)にされた出願であって、令和4年11月8日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年4月28日に請求項1~9に係る特許について、特許異議申立人 浅野 幸義(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明及び明細書の記載
1 本件の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は次のとおりである。なお、補正箇所を示す下線は当審が消去した。
「【請求項1】
メラミン樹脂(A)、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物(B)、及び酸触媒(C)を含む、熱硬化性剥離コーティング剤であり、
(B)成分の含有量が、前記剥離コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~50重量%である、熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項2】
(A)成分が、メチル化メラミン及び/又はブチル化メラミン由来の構成単位を含む、請求項1に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項3】
(B)成分が、炭素数18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸の自己縮合物である、請求項1又は2に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項4】
(C)成分が、有機スルホン酸及び/又は有機リン酸である、請求項1~3のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項5】
(C)成分の含有量が、上記剥離コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~10重量%である、請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項6】
さらに、ポリオール(D)を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項7】
(A)成分及び(D)成分の重量比[(A)/(D)]が90/10~30/70である、請求項6に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤からなる硬化膜及びプラスチックフィルムを含む、剥離フィルム。
【請求項9】
上記プラスチックフィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項8に記載の剥離フィルム。」
2 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には次の記載がある。
「【0007】
本発明は塗膜外観に優れて、且つ剥離性能及び耐溶剤性に優れた硬化膜を形成し得る、新規な熱硬化性剥離コーティング剤を提供することを課題とする。」
「【0021】
(A)成分は、メラミン樹脂であれば、特に限定されず各種公知のものを用いることが出来る。例えば、下記一般式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含む樹脂が挙げられる。(A)成分の平均重合度は特に限定されないが、通常1.1~10程度である。
【化1】
[図:0001402792000001.jpg]
(式(1)中、R1~R6は互いに同一又は異なっていてよく、それぞれ水素原子、メチロール基(-CH2OH)、メトキシメチル基(-CH2OCH3)、エトキシメチル基(-CH2OCH2CH3)、n-ブトキシメチル基(-CH2OCH2CH2CH2CH3)及びイソブトキシメチル基(-CH2OCH(CH3)CH2CH3)から選択されたものを表す。)
【0022】
(A)成分は、コーティング剤の速硬化性及び後述の(B)成分との相溶性のバランスに優れる点で、メチル化メラミン及び/又はブチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂であるのが好ましい。メチル化メラミンは上記一般式(1)の置換基R1~R6の少なくとも一つがメトキシメチル基(-CH2OCH3)であるもの、ブチル化メラミンは該置換基の少なくとも一つがn-ブトキシメチル基(-CH2OCH2CH2CH2CH3)、イソブトキシメチル基(-CH2OCH(CH3)CH2CH3)のいずれかであるもの、をそれぞれ意味する。
【0023】
(A)成分は、速硬化性に優れる点から、上記R1~R6の全てがメトキシメチル基であるフルエーテル型メチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂)が好ましく、後述の(B)成分との相溶性の点から、該R1~R6の全てがn-ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基のいずれかであるフルエーテル型ブチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型ブチル化メラミン樹脂)が好ましい。また、速硬化性と後述の(B)成分との相溶性のバランスに優れる点から、該R1~R6の少なくとも一つがメトキシメチル基であって、残りがそれぞれn-ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基のいずれかであるフルエーテル型メチル化ブチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂)が好ましい。
【0024】
(A)成分は、市販品であってもよく、例えば、サイメル300、サイメル301、サイメル303LF、サイメル350、サイメル370N、サイメル771、サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、サイメル701、サイメル266、サイメル267、サイメル285、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル272、サイメル212、サイメル253、サイメル254、サイメル202、サイメル207、マイコート506(以上、オルネクスジャパン(株)製)、ニカラックMW-30M、ニカラックMW-30、ニカラックMW-30HM、ニカラックMW-390、ニカラックMW-100LM、ニカラックMX-750LM、ニカラックMW-22、ニカラックMS-21、ニカラックMS-11、ニカラックMW-24X、ニカラックMS-001、ニカラックMX-002、ニカラックMX-730、ニカラックMX-750、ニカラックMX-708、ニカラックMX-706、ニカラックMX-042、ニカラックMX-035、ニカラックMX-45、ニカラックMX-43、ニカラックMX-417、ニカラックMX-410(以上、(株)三和ケミカル製)、ユーバン20SB、ユーバン20SE60、ユーバン21R、ユーバン22R、ユーバン122、ユーバン125、ユーバン220、ユーバン225、ユーバン228、ユーバン2020(以上、三井化学(株)製)、アミディアJ-820-60、アミディアL-109-65、アミディアL-117-60、アミディアL-127-60、アミディア13-548、アミディアG-821-60、アミディアL-110-60、アミディアL-125-60、アミディアL-166-60B(以上、DIC(株)製)等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用できる。(A)成分の含有量は特に限定されないが、硬化膜の耐溶剤性が得られる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して25~98重量%程度が好ましく、30~95重量%程度がより好ましい。なお、「全固形分」とは、後述の(E)成分を除いたコーティング剤の全成分を意味する。以下、同様である。」
「【0025】
(B)成分は、剥離性を付与する成分であり、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)(以下、(b)成分)の自己縮合物であれば、特に限定されない。(B)成分が(b)成分の自己縮合物であることで、コーティング剤は透明で平滑な硬化膜を形成することができ、塗膜外観に優れる。詳細は不明だが、(b)成分の単一化合物は結晶性が高いため、該単一化合物を含む塗膜では、結晶析出による塗膜の白濁化や、塗膜中に生じた不溶成分によって塗膜表面に凸凹が形成されるためと推定される。一方で、(b)成分の自己縮合物は結晶性が低いため、該自己縮合物を含む塗膜では上記不具合が見られないと推定される。
【0026】
(b)成分は、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸であれば、各種公知のものを特に限定なく使用できる。(b)成分の炭素数は、硬化膜の軽剥離化の点から炭素数が多いものが良いが、硬化膜の軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、(b)成分の炭素数は通常12~24程度であり、14~22程度が好ましく、16~20程度がより好ましく、同様の点から炭素数は18程度が特に好ましい。(b)成分は、炭素数11以下の脂肪族ヒドロキシカルボン酸であれば硬化膜の剥離性が低くなり、炭素数25以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸であれば塗膜外観が悪化する。なお、本発明における脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、分子内に1つの水酸基を有する脂肪族モノカルボン酸を意味する。
【0027】
(b)成分の具体例としては、例えば、2-ヒドロキシラウリン酸、3-ヒドロキシラウリン酸などのヒドロキシラウリン酸、2-ヒドロキシミリスチン酸、3-ヒドロキシミリスチン酸等のヒドロキシミリスチン酸、2-ヒドロキシペンタデシル酸、3-ヒドロキシペンタデシル酸等のヒドロキシペンタデシル酸、2-ヒドロキシパルミチン酸、3-ヒドロキシパルミチン酸等のヒドロキシパルミチン酸、2-ヒドロキシステアリン酸、3-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシステアリン酸、2-ヒドロキシアラキジン酸、3-ヒドロキシアラキジン酸などのヒドロキシアラキジン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、3-ヒドロキシベヘン酸等のヒドロキシベヘン酸、2-ヒドロキシリグノセリン酸、3-ヒドロキシリグノセリン酸等のヒドロキシリグノセリン酸、リシノール酸、硬化ヒマシ油脂肪酸(主成分が12-ヒドロキシステアリン酸)、及びヒマシ油脂肪酸(主成分がリシノール酸)等が挙げられる。その中でも、軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、2-ヒドロキシステアリン酸、3-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、硬化ヒマシ油脂肪酸、及びヒマシ油脂肪酸等の炭素数18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましく、入手の容易性から12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸がより好ましい。12-ヒドロキシステアリン酸は、工業的には硬化ヒマシ油を加水分解して製造するか、リシノール酸を水素化することで得られる。リシノール酸は、ヒマシ油のけん化によって得られる。なお、上記加水分解から得られる12-ヒドロキシステアリン酸には、不純物として少量のステアリン酸やパルミチン酸が含まれるが、これらは本発明のコーティング剤に含まれていても良い。
【0028】
(B)成分は、(b)成分を各種公知の方法で自己縮合させることで得られる。その方法は特に限定されないが、例えば、不活性ガス雰囲気下において、(b)成分を温度150~250℃程度に加熱して、トルエン、キシレンの存在下で水を共沸により系外に除去しながら、脱水縮合させることにより得られる。また、チタン系化合物、p-トルエンスルホン酸、硫酸等の触媒を存在させてもよい。(B)成分の市販品の例としては、PHF-33、PCF-30(以上、伊藤製油(株)製)、K-PON306、K-PON402、K-PON404、K-PON406(以上、小倉合成工業(株)製)、HSC-32、HSC-47、HSC-60D、HSC-95(以上、豊国製油(株)製)、KF-3400、KF-4500、KF-4013,KF-4055E、KF-40E(以上、ケイエフ・トレーディング(株)製)等が挙げられる。
【0029】
(B)成分の水酸基価(JIS K0070。以下、水酸基価というときは同様。)は、特に限定されないが、軽剥離化の点から、10~50mgKOH/gが好ましく、同様の点から20~40mgKOH/gがより好ましい。また、(B)成分の数平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフ法によるポリスチレン換算値、以下、数平均分子量という場合は同様)も、特に限定されないが、硬化膜の軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、500~3,000程度が好ましく、1,000~2,000程度がより好ましい。さらに、(B)成分は、硬化膜の軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、(b)成分の2~10量体であるのが好ましく、4~8量体がより好ましい。
【0030】
(B)成分は、一分子中に水酸基及びカルボキシル基をそれぞれ1つずつ有する構造であり、該カルボキシル基はエステル化されていてもよい。(B)成分が一分子中に1つの水酸基を有することで、本発明のコーティング剤は剥離力の軽い硬化膜を形成し得る。(B)成分の構造の一例を示す。
【0031】
【化2】
[図:0001402792000002.jpg]
【0032】
(B)成分の含有量は特に限定されないが、軽剥離化と硬化膜の耐溶剤性が両立できる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~50重量%程度が好ましく、2~30重量%程度がより好ましい。」
「【0033】
(C)成分は、酸触媒であれば、各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類や有機酸類が挙げられる。該有機酸類としては、例えば、シュウ酸、酢酸、ギ酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸等の有機スルホン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等の有機リン酸;スルホニウム塩、ベンゾチアゾリウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等の熱酸発生剤等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用できる。
【0034】
(C)成分は、(A)及び(B)成分との相溶性が良好である点から、上記有機酸類が好ましい。さらに、速硬化性の点から、上記有機スルホン酸及び/又は上記有機リン酸が好ましく、同様の点から有機スルホン酸が特に好ましい。
【0035】
(C)成分の含有量は特に限定されないが、速硬化性とコーティング剤の保管安定性が両立できる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~10重量%程度が好ましく、2~8重量%程度がより好ましい。また、同様の点から、(A)及び(B)成分の合計100重量部に対して2~25重量部程度が好ましく、3~10重量部程度がより好ましい。」
「【0049】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各例中、特記しない限り、部及び%は重量基準である。
【0050】
<熱硬化性剥離コーティング剤の調製>
実施例1
(A)成分としてニカラックMX-45(フルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂 (株)三和ケミカル製)99重量部、(B)成分としてPHF-33(12-ヒドロキシステアリン酸の自己縮合物 伊藤製油(株)製)1重量部、(C)成分としてパラトルエンスルホン酸4重量部を配合し、これをトルエン333重量部、イソプロピルアルコール83重量部で希釈して固形分濃度が20%になるように調製し、熱硬化剥離コーティング剤(以下、コーティング剤ともいう)を得た。
【0051】
実施例2~13、比較例1~6
組成を表1のものに変更した以外は、実施例1と同様の手順で製造した。
【0052】
<剥離フィルムの作製>
実施例1のコーティング剤を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚50μm 東レ(株)製 「ルミラーT60」)に硬化膜1μmになるように塗工し、120℃で1分乾燥させることによって、剥離フィルムを得た。他の実施例及び比較例のコーティング剤についても、同様にして剥離フィルムを得た。
・・・
【0056】
【表1】
[図:0001402792000003.jpg]
表1の配合量の単位は重量部である。表1中の略語及び注釈は、以下の通りである。
(1)耐溶剤性が悪かったので、剥離力の評価はしなかった。
(2)塗膜外観が凸凹又は白化していたので、耐溶剤性や剥離力の評価はしなかった。
(化合物の略語及び詳細)
ニカラックMX-45:フルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂 (株)三和ケミカル製
サイメル303LF:フルエーテル型メチル化メラミン樹脂 オルネクスジャパン(株)製
PHF-33:12-ヒドロキシステアリン酸の自己縮合物(数平均分子量1,800) 伊藤製油(株)製
PCF-30:ヒマシ油脂肪酸の自己縮合物(数平均分子量1,600)伊藤製油(株)製
12-ヒドロキシステアリン酸: 伊藤製油(株)製
クラレポリオールF-3010:ポリエステルポリオール(数平均分子量3,000) (株)クラレ製
Pripol2033:水添ダイマージオール(数平均分子量540) クローダジャパン(株)製
ピーロイル1010S:長鎖アルキルペンダント型ポリマー ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製
URIC F-97:ヒマシ油系変性ポリオール 伊藤製油(株)製」
第3 申立の概要
1 申立理由の概要
申立人は、本件発明1~9について、実施可能要件またはサポート要件違背を主張する。
(1)本件発明の各成分の種類について
ア 本件発明の(A)成分である「メラミン樹脂」について、本件明細書の実施例においては、実際に効果を示しているものとしてフルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂及びフルエーテル型メチル化メラミン樹脂の2種類のみが用いられている。しかしながら、同様の効果を有するとはいえない他の種類のメラミン樹脂の広い範囲まで拡張ないし一般化されていることから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえず、本件発明の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすとはいえない。
イ 本件発明の(B)成分である「炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物(B)」について、本件明細書の実施例においては、「PHF-33」(12-ヒドロキシステアリン酸の自己縮合物)及び「PCF-30」(ヒマシ油脂肪酸の自己縮合物)の2種類のみが用いられている。しかしながら、それ以外の「炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物(B)」について炭素数が18のものと同様の効果を有するとはいえず、炭素数18以外に12~17又は19~24の範囲を含めて権利を拡張ないし一般化することはできないことから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえない。また、同様の理由により、実施例に記載の2つの例以外の「炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物(B)」を用いた場合にまで拡張ないし一般化されていることから、本件発明1、2、4~9の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすといえない。
ウ 本件発明の(C)成分である「酸触媒」について、本件明細書の実施例においては、実際に効果を示しているものとしてパラトルエンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸の2種類のみが用いられている。しかしながら、同様の効果を有するとはいえない他の種類の酸触媒の広い範囲まで拡張ないし一般化されていることから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえず、本件発明の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすとはいえない。
(2)本件発明における各成分の含有量について
ア 本件発明の(A)成分である「メラミン樹脂」について、本件発明においては、その含有量の上限も下限も特定されていない。そうすると、(A)成分をごく少量または過剰に含有する場合には本件発明の課題を達成できない範囲まで拡張ないし一般化されていることから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえず、本件発明の記載は特許法第36条第6項第1号の記載を満たさないものである。
イ 本件発明の(B)成分である「炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物」について、本件発明においては、「全固形分100重量%に対して1~50重量%」と規定されているが、本件明細書に記載された実施例1(1重量%)の剥離力3.70N/25mmに対して、同実施例2(2重量%)の剥離力0.58N/25mmと大きな差があるから、1~50重量%と規定することに臨界的な意義があるといえず、本件発明における「1~50重量%」の広い範囲まで拡張ないし一般化されていることから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえず、本件発明の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たさないものである。
ウ 本件発明の(C)成分である「酸触媒」について、本件発明においては、その含有量の上限も下限も特定されていない。そうすると、(C)成分をごく少量または過剰に含有する場合には本件発明の課題を達成できない範囲まで拡張ないし一般化されていることから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすといえず、本件発明の記載は特許法第36条第6項第1号の記載を満たさないものである。
第4 当審の判断
1 判断手法および発明の課題
(1)実施可能要件の判断手法
ア 本件発明1~7、8~9はそれぞれ「熱硬化性剥離コーティング剤」、「剥離フィルム」という物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)サポート要件の判断手法
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(3)発明の課題
本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書に記載されたすべての事項からみて、「塗膜外観に優れて、且つ剥離性能及び耐溶剤性に優れた硬化膜を形成し得る、新規な熱硬化性剥離コーティング剤を提供すること」(前記第2、2に摘記した本件明細書の【0007】参照。)と認める。
2 各成分の種類について
(1)本件発明の(A)成分について
ア 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0056】の【表1】に記載された実施例においては、申立人が指摘するように、メラミン樹脂の中で、「ニカラックMX-45:フルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂 (株)三和ケミカル製」及び「サイメル303LF:フルエーテル型メチル化メラミン樹脂 オルネクスジャパン(株)製」の2種類が用いられており、得られた硬化膜の塗膜外観、耐溶剤性、剥離力の評価を実施し、それらの効果も確認されている。
イ 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0023】には、「(A)成分は、速硬化性に優れる点から、上記R1~R6の全てがメトキシメチル基であるフルエーテル型メチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂)が好ましく、後述の(B)成分との相溶性の点から、該R1~R6の全てがn-ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基のいずれかであるフルエーテル型ブチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型ブチル化メラミン樹脂)が好ましい。」と記載されている。
ウ しかしながら、同段落【0021】には、「(A)成分は、メラミン樹脂であれば、特に限定されず各種公知のものを用いることが出来る。」と記載され、また、メラミン樹脂には、架橋することにより、高分子化することにより硬化することができることは技術常識であるから、前記イに記載されたように、(B)成分との相溶性を若干劣ったとしても、フルエーテル型ブチル化メラミン樹脂以外のメラミン樹脂を用いても、本件発明の課題を解決できることといえる。
エ (A)成分の種類を特定しないことで本件発明1がサポート要件を欠くということはできない。また、本件明細書の記載は、過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施できる程度のものであり、実施可能要件を満たさないとはいえない。
(2)本件発明の(B)成分について
ア 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0056】の【表1】に記載された実施例においては、申立人が指摘するように、(B)成分としては、「PHF-33:12-ヒドロキシステアリン酸の自己縮合物(数平均分子量1,800) 伊藤製油(株)製」及び「PCF-30:ヒマシ油脂肪酸の自己縮合物(数平均分子量1,600)伊藤製油(株)製」の2種類が用いられている。
イ 前記2、2に摘記した本件明細書の【0027】には、「(b)成分の具体例としては、例えば、2-ヒドロキシラウリン酸、3-ヒドロキシラウリン酸などのヒドロキシラウリン酸、2-ヒドロキシミリスチン酸、3-ヒドロキシミリスチン酸等のヒドロキシミリスチン酸、2-ヒドロキシペンタデシル酸、3-ヒドロキシペンタデシル酸等のヒドロキシペンタデシル酸、2-ヒドロキシパルミチン酸、3-ヒドロキシパルミチン酸等のヒドロキシパルミチン酸、2-ヒドロキシステアリン酸、3-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシステアリン酸、2-ヒドロキシアラキジン酸、3-ヒドロキシアラキジン酸などのヒドロキシアラキジン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、3-ヒドロキシベヘン酸等のヒドロキシベヘン酸、2-ヒドロキシリグノセリン酸、3-ヒドロキシリグノセリン酸等のヒドロキシリグノセリン酸、リシノール酸、硬化ヒマシ油脂肪酸(主成分が12-ヒドロキシステアリン酸)、及びヒマシ油脂肪酸(主成分がリシノール酸)等が挙げられる。その中でも、軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、2-ヒドロキシステアリン酸、3-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、硬化ヒマシ油脂肪酸、及びヒマシ油脂肪酸等の炭素数18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましく、入手の容易性から12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸がより好ましい。12-ヒドロキシステアリン酸は、工業的には硬化ヒマシ油を加水分解して製造するか、リシノール酸を水素化することで得られる。リシノール酸は、ヒマシ油のけん化によって得られる。なお、上記加水分解から得られる12-ヒドロキシステアリン酸には、不純物として少量のステアリン酸やパルミチン酸が含まれるが、これらは本発明のコーティング剤に含まれていても良い。」と記載されている。
ウ 前記イに示された(b)成分を含め、炭素数12~24脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物は、前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0030】の「(B)成分は、一分子中に水酸基及びカルボキシル基をそれぞれ1つずつ有する構造であり、該カルボキシル基はエステル化されていてもよい。(B)成分が一分子中に1つの水酸基を有することで、本発明のコーティング剤は剥離力の軽い硬化膜を形成し得る。」という共通する機能を持つと認められる。
エ したがって、前記アのとおり、実施例に炭素数18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸の開示しかないとしても、本件発明における(B)成分に本件発明の課題を解決できないものを含むとはいえない。本件発明1、2、4~9の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないといえず、また、上記(1)と同様の理由により、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないといえない。
(3)本件発明の(C)成分について
ア 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0056】の【表1】に記載された実施例においては、申立人が指摘するように、(C)成分としては、「パラトルエンスルホン酸」及び「ドデシルベンゼンスルホン酸」の2種類が用いられている。
イ 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0034】には、「(C)成分は、(A)及び(B)成分との相溶性が良好である点から、上記有機酸類が好ましい。さらに、速硬化性の点から、上記有機スルホン酸及び/又は上記有機リン酸が好ましく、同様の点から有機スルホン酸が特に好ましい。」と記載されている。
ウ 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0033】には、「(C)成分は、酸触媒であれば、各種公知のものを特に制限なく使用できる。」と記載され、多数の例が挙げられているが、これは酸触媒であれば、メラミン樹脂の硬化反応を促進することができることを示しており、前記アで言及した酸触媒以外であっても同様の機能を示すことは技術常識である。
エ したがって、本件発明における(C)成分に本件発明の課題を解決できないものを含むとはいえない。本件発明の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないといえず、また、上記(1)と同様の理由により、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないといえない。
3 各成分の含有量について
(1)本件発明の(A)成分について
ア 本件発明1においては、(A)成分であるメラミン樹脂の含有量は特定されていない。
イ 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0024】には、「(A)成分の含有量は特に限定されないが、硬化膜の耐溶剤性が得られる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して25~98重量%程度が好ましく、30~95重量%程度がより好ましい。」と記載されており、同段落【0056】【表1】には、最大99重量%(実施例1)及び最小30重量%(実施例10、11)とした実施例が記載されている。
ウ 本件発明1における(A)成分の含有量は特定がないため、申立人が主張するように、少量である場合も含まれることになるが、(A)成分が含有されない場合に比べると、少量でも存在すると、「塗膜外観に優れて、且つ剥離性能及び耐溶剤性に優れた硬化膜を形成し得る」という本件発明の課題が解決する方向に向かうことは明らかであるから、前記イに示された好ましい含有量の範囲内でなくとも、課題が解決できない範囲を含むということはできない。
エ したがって、本件発明の(A)成分の含有量が特定されていなくとしても、本件発明の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないということはできない。また、上記2(1)と同様の理由により、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないといえない。
(2)本件発明の(B)成分について
ア 本件発明1においては、本件発明の(B)成分の含有量は、「剥離コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~50重量%である」と規定されている。
イ 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0032】には、「(B)成分の含有量は特に限定されないが、軽剥離化と硬化膜の耐溶剤性が両立できる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~50重量%程度が好ましく、2~30重量%程度がより好ましい。」と記載されており、同段落【0056】【表1】には、最大50重量%(実施例5)及び最小1重量%(実施例1)とした実施例が記載されている。
ウ そうすると、本件発明の(B)成分の含有量として「1~50重量%」の範囲内において、課題が解決できることが、本件明細書から読み取りうることである。
エ したがって、本件発明の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないということはできない。また、上記2(1)と同様の理由により、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないといえない。
オ 申立人は、本件明細書の段落【0056】【表1】において、(B)成分が1重量%である実施例1の剥離力が3.70N/25mmであり、(B)成分が2重量%である実施例2の剥離力が0.68N/25mmであることから、下限値である1重量%に臨界的意義がないと主張する。しかしながら、同【表1】の比較例1は、(B)成分が0であるが、その剥離力は、7.60N/25mmであるから、実施例1の剥離力は半減していることとなる。申立人の主張は採用できない。
(3)本件発明の(C)成分について
ア 本件発明1においては、(C)成分である酸触媒の含有量は特定されていない。
イ 前記第2、2に摘記した本件明細書の段落【0035】には、「(C)成分の含有量は特に限定されないが、速硬化性とコーティング剤の保管安定性が両立できる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~10重量%程度が好ましく、2~8重量%程度がより好ましい。また、同様の点から、(A)及び(B)成分の合計100重量部に対して2~25重量部程度が好ましく、3~10重量部程度がより好ましい。」と記載され、同段落【0056】【表1】には、最大10重量%(実施例11)、最小4重量%(実施例1~10、12~13)とした実施例が記載されている。
ウ 本件発明1における(C)成分の含有量は特定がないため、申立人が主張するように、少量である場合も含まれることになるが、(C)成分が含有されない場合に比べると、少量でも存在すると、「塗膜外観に優れて、且つ剥離性能及び耐溶剤性に優れた硬化膜を形成し得る」という本件発明の課題が解決する方向に向かうことは明らかであるから、前記イに示された好ましい含有量の範囲内でなくとも、課題が解決できない範囲を含むということはできない。
エ したがって、本件発明の(C)成分の含有量が特定されていなくとしても、本件発明の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないということはできない。また、上記2(1)と同様の理由により、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないといえない。
(4)申立人の主張に対して
申立人は、特許異議申立書の12頁において「そもそも本件特許発明のような「組成物」の発明の場合、組成物中に含まれる各有効成分の配合量を独立請求項で規定することが要求される。」と主張するが、本件優先日当時に有効な法令や審査基準にそのような規定はなく、申立人の主張は採用できない。
3 小括
以上に検討したように、申立人の主張を検討しても、本件発明の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないといえず、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないといえない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~9に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により、取り消すべきものといえない。
また、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、結論のとおり決定する。
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2023-700449