特許異議申立
2022-700796
熱硬化剥離コーティング剤ならびに剥離フィルムおよびその製造方法
- 審判番号
- 2022-700796
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-118374
- 登録番号
- 7020578
- 請求日
- 2022年08月10日
- 審決日
- 2023年01月31日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】荒川化学工業株式会社
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (C09D) / P1651.536-Y (C09D) / P1651.537-Y (C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7020578号発明「熱硬化剥離コーティング剤ならびに剥離フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7020578号の請求項に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7020578号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成29年1月16日に出願された特願2017-4858号の一部を令和3年7月19日に新たな特許出願(特願2021-118374号)としたものであって、令和4年2月7日に特許権の設定登録がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月10日に特許異議申立人 浅野 幸義(以下「申立人」という。)によって請求項1~3に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明と本件明細書の記載
1 本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
一般式(1)
【化1】
[図:0001395235000001.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数12~28のアルキル基である。)
で表わされるラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、トリコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、ペンタコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、ヘプタコシル(メタ)アクリレート、及びオクタコシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位1を(A)ポリマーの重量に対して50~89重量%、一般式(2)
【化2】
[図:0001395235000002.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R3はOR3’であり、R3’は水酸基含有アルキル基である。)
で表わされる2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位2を(A)ポリマーの重量に対して11~23.5重量%及び一般式(3)
【化3】
[図:0001395235000003.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。)
で表わされるメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の短鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位3を(A)ポリマーの重量に対して0~30重量%からなる(A)ポリマーを含み、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂及び酸触媒とともに用いられる熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液。
【請求項2】
前記フルエーテル型メチル化メラミン樹脂が平均重合度1.1~10のフルエーテル型メチル化メラミン樹脂である、請求項1に記載の熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液。
【請求項3】
前記(A)ポリマーの重量に対して、前記構成単位1が50~79重量%、前記構成単位2が11~25重量%および前記構成単位3が10~30重量%からなる、請求項1又は2に記載の熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液。」
2 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の剥離剤は、その剥離性能は良好であるものの、架橋されていないため、耐溶剤性は低いという課題があった。
【0006】
本発明は、優れた剥離性能および耐溶剤性を有する熱硬化剥離コーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(A)長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル(a1)と水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー (a2)を含むモノマーから合成される、ポリマー、(B)メチル化メラミン樹脂および(C)酸触媒を含む、熱硬化剥離コーティング剤により、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。」
「【0021】
(A)ポリマーに含まれる構成単位1および2の含有率は特に限定されることなく、設定することができる。1つの実施形態において、(A)ポリマーに含まれる構成単位1の上限は、(A)ポリマーの重量に対して、89、88.2、85、80、76.5、75、70、65、60、55、51重量%であり、下限は、(A)ポリマーの重量に対して、88.2、85、80、76.5、75、70、65、60、55、51、50重量%である。また(A)ポリマーに含まれる構成単位2の上限は、(A)ポリマーの重量に対して、50、45、40、35、30、25、23.5、20、15、12、11.8重量%であり、下限は(A)ポリマーの重量に対して、45、40、35、30、25、23.5、20、15、12、11.8、11重量%である。構成単位1および2の含有率の範囲は上記上限および下限の値を適宜選択して設定することができるが、軽剥離化と耐溶剤性が両立できる観点から、(A)ポリマーの重量に対して、構成単位1を50~89重量%および構成単位2を11~50重量%含むことが好ましい。従来、構成単位2の基となるモノマー、すなわち、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー(a2)は、良好な剥離性能を得るため、(メタ)アクリル系単量体を含めた単量体全体の10重量%以下としてポリマーを重合することがよいとされていたが、本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに(メタ)アクリル系単量体を含めた単量体全体の11重量%以上用いても、すなわち、ポリマー中に構成単位2が11重量%以上含有していても良好な剥離性能が得られることが明らかになったものである。」
「【0050】
製造例1
撹拌器、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備え付けた4口フラスコにステアリルメタクリレートを76.5部、2-ヒドロキシルエチルメタクリレートを23.5部加え、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを2部、溶媒として酢酸ブチルを153部込み、80℃まで徐々に昇温し、9時間反応を行い、固形分濃度40%のポリマー溶液を得た。得られたポリマーの数平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値、以下同じ)は41、000、水酸基価は100mgKOH/gであった。
【0051】
製造例2~5
モノマー組成を表1に記載した組成に変更した以外は製造例1と同様の手順でポリマーを製造した。
【0052】
【表1】
[図:0001395235000004.jpg]
SMA:ステアリルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシルエチルメタクリレート
MMM:メチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
HEA:2-ヒドロキシルエチルアクリレート
【0053】
実施例1
(A)成分として製造例1で製造したポリマー溶液225部(固形換算で90部)、(B)成分としてサイメル303LF(フルエーテル型メチル化メラミン樹脂 固形分100%:オルネクスジャパン(株)製)10部、(C)成分としてパラトルエンスルホン酸2部を添加し、これをトルエンで希釈して固形分が10%になるように配合した。次にこの溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚75μm)に乾燥塗膜の膜厚が1μmになるように塗工し、165℃で30秒乾燥させ、剥離フィルムを得た。
【0054】
実施例2~9および比較例1~4
成分組成を表2に記載した成分組成に変更した以外は実施例1と同様の手順で剥離フィルムを得た。
【0055】
(耐溶剤性)
前記剥離フィルムの硬化皮膜をメチルエチルケトンに浸した綿棒で擦り、基材が露出するまでの回数
◎:50回以上擦っても塗膜が露出しない
○:30~49回擦った際に塗膜が露出する
△:10~29回擦った際に塗膜が露出する
×:1~9回擦った際に塗膜が露出する
【0056】
(剥離力)
作製した剥離フィルムの硬化皮膜表面に、ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製31Bテープ:25mm幅)を2kgのローラーで圧着させながら貼り合わせ、23℃で30分間保管した。ついで、このテープを180℃の角度で剥離速度0.3m/min.で引っ張り、剥離するのに要する力(N/25mm)を測定した。
【0057】
【表2】
[図:0001395235000005.jpg]
各成分の使用量については、いずれも固形分換算の値で示す。
サイメル303LF:フルエーテル型メチル化メラミン(固形分100%:オルネクスジャパン(株)製)
サイメル325:イミノ基型メチル化メラミン(固形分80%:オルネクスジャパン(株)製)
サイメル370N:メチロール基型メチル化メラミン(固形分88%:オルネクスジャパン(株)製)
PTS:パラトルエンスルホン酸(明友産業(株)製)
AP-1:メチルアシッドホスフェート(大八化学工業(株)製)
ユーバン20SE60:ブチル化メラミン樹脂(固形分60%:三井化学(株)製)」
第3 特許異議の申立ての概要
申立人は、下記2の証拠方法(以下、甲第1号証~甲第4号証を、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)により、下記1を申立ての理由とする特許異議の申立てをしている。
1 申立ての理由
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1~3は、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1~3は、甲3に記載された発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
本件発明1~3について、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件発明1~3について、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法113条4号に該当する。
2 証拠方法
甲1:特開2007-137940号公報
甲2:特開2010-106245号公報
甲3:特開2017-2190号公報
甲4:中道敏彦、「バインダー基礎講座(第XI講)」、色材、1992年、Vol.65、No.8、511~525頁
第4 甲号証の記載事項
1 甲1
甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる構成単位(1)を含有するポリ(メタ)アクリル酸エステル(A)と、液状ポリマー(B)と、架橋剤(C)とを含み、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル(A)および液状ポリマー(B)の少なくとも一方が反応性官能基を有し、
前記架橋剤(C)が該反応性官能基と反応する官能基を有する化合物であること
を特徴とする剥離剤組成物。
【化1】
[図:0001395235000006.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数12~28の長鎖アルキル基を示す。)」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離剤組成物および剥離材に関する。より詳しくは、ポリ(メタ)アクリル酸エステルおよび液状ポリマーを主剤とし、架橋剤を含有する剥離剤組成物、および基材上に該組成物からなる剥離層を有する剥離材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体デバイスなどの製造工程において粘着シートが用いられているが、通常、このような粘着シートの粘着層には、粘着層を保護するために、基材上にシリコーン化合物を含む剥離剤からなる剥離層を有する剥離材が積層されている。
【0003】
しかしながら、シリコーン化合物は一般的に転移しやすい性質を有しているため、半導体分野において、このような粘着シートを用いた場合、剥離層を構成するシリコーン化合物が粘着層に転移して、半導体デバイスなどの回路の不具合を招く原因になっていると考えられている。そのため、シリコーン化合物を含まない剥離剤からなる剥離層を有する剥離材が求められている。
【0004】
このようなシリコーン化合物を含まない剥離剤として、アルキッド樹脂系剥離剤、オレフィン樹脂系剥離剤、長鎖アルキル基を有するアクリル樹脂系剥離剤(以下「長鎖アルキル系剥離剤」ともいう。)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、アルキッド樹脂系剥離剤は、剥離力が高いことから用途が接着剤等に限定されるという問題点があり、オレフィン樹脂系剥離剤は、耐熱性に劣ることから剥離材に粘着層を形成することができないという問題点があり、長鎖アルキル系剥離剤は、耐溶剤性に劣ることから剥離材に粘着剤を塗布することができないという問題点、またフィルムなどの基材への密着性が悪いという問題点があった。
【0006】
こうした中、長鎖アルキル系剥離剤の上記問題点を解決するために、長鎖アルキル系樹脂に紫外線硬化性官能基を導入した剥離剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような剥離剤組成物を用いた場合、半導体デバイス製造装置
に紫外線硬化のための測定器や乾燥機などが必要になるという問題が生じる。
【0007】
また、長鎖アルキル系樹脂に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの架橋性官能基を導入した剥離剤組成物が提案されている(例えば、特許文献2および3参照)。しかしながら、このように主剤となる長鎖アルキル系樹脂に官能基を導入して架橋構造を形成すると、長鎖アルキル基の自由度が減少するため、剥離層の表面エネルギーが低くなりにくく、剥離力を制御することが難しいという問題が生じる。
【特許文献1】特開2003-183619号公報
【特許文献2】特開2003-147327号公報
【特許文献3】特開2000-290610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、電子部品などへの悪影響を与えることなく、耐溶剤性、耐熱性、剥離性および基材密着性に優れる剥離剤組成物、および該組成物からなる剥離層を有する剥離材を提供することにある。」
「【0027】
上記構成単位(1)となりうる単量体(以下「単量体(1)」ともいう。)としては、エステル部分が炭素数12~28の長鎖アルキル基である(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、たとえば、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記(メタ)アクリル酸エステルの中では、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0029】
<構成単位(2)>
上記ポリマー(A)は、上記構成単位(1)以外の構成単位として、たとえば、下記一般式(2)で表される構成単位(2)を、必要に応じて含有していてもよい。
【0030】
【化4】
[図:0001395235000007.jpg]
【0031】
式(2)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R3は炭素数1~11のアルキル基を示し、該アルキル基はフッ素原子、酸素原子または窒素原子を含んでいてもよい。
上記構成単位(2)となりうる単量体(以下「単量体(2)」ともいう。)としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H、1H-パーフルオロ-n-オクチル(メタ)アクリレート、
N、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記ポリマー(A)中の構成単位(1)および(2)の含有量の合計を100重量%とした場合、構成単位(1)の含有量は、10~100重量%、好ましくは30~99重量%、より好ましくは40~90重量%であり、構成単位(2)の含有量は、0~90重量%、好ましくは1~70重量%、より好ましくは10~60重量である。ポリマー(A)中に構成単位(2)を上記範囲内の量で含有させることにより、ポリマー(A)を含む剥離剤組成物からなる剥離層の剥離力を調整することができる。
【0033】
<構成単位(3)>
上記ポリマー(A)は、上記構成単位(1)および(2)以外にも、必要に応じて、反応性官能基を含有する(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構成単位(以下「構成単位(3)」ともいう。)を含有していてもよい。このような反応性官能基としては、たとえば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、クロル基、チオール基などが挙げられる。このような反応性官能基は、1種単独で含有されていてもよく、2種以上が含有されていてもよい。これらの中では、水酸基、カルボキシル基、アミノ基が好ましい。
【0034】
上記構成単位(3)となりうる単量体(以下「単量体(3)」ともいう。)としては、上記反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、たとえば、
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;
1、4-ジ(メタ)アクリロキシエチルピロメリット酸、4-(メタ)アクリロキシエチ
ルトリメリット酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレー
ト、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート、3、4-エポキシブチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;
3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、エチル-2-(クロロメチル)アクリレート、4-クロロフェニルアクリレート、メチルα-クロロアクリレート等のクロル基含有(メタ)アクリレート;
2-(メチルチオ)エチルメタクリレート等のチオール基含有(メタ)アクリレート
などが挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記ポリマー(A)中における構成単位(3)の含有量は、上記構成単位(1)100重量部に対して、通常、0~50重量部、好ましくは0.1~30重量部、より好ましくは1~20重量部である。ポリマー(A)中に構成単位(3)を上記範囲内の量で含有させることにより、上記官能基に対して架橋反応性を有する架橋剤を用いた場合に、主剤と架橋剤による架橋構造を良好に形成することができ、耐熱性、耐溶剤性、基材密着性などに優れた剥離層を形成することができる。」
「【0045】
(C)架橋剤
本発明の剥離剤組成物は架橋剤(C)を含有し、該架橋剤(C)は、上記ポリマー(A)および液状ポリマー(B)の少なくとも一方が有する反応性官能基と反応する官能基を有する化合物である。たとえば、イソシアネート化合物、アミノ化合物、エポキシ化合物、金属化合物、シラン化合物などが挙げられる。これらの中では、イソシアネート化合物、アミノ化合物、エポキシ化合物、金属化合物が好ましい。」
「【0069】
〔実施例3〕
攪拌機、窒素導入管、温度計および冷却管を備えた1Lのフラスコに、ステアリルアクリレート50g、n-ブチルアクリレート49g、ヒドロキシエチルアクリレート1g、AIBN 0.89g、トルエン100mLおよび酢酸エチル100mLを添加し、窒素気流下、70℃で12時間重合反応を行うことにより、ステアリルアクリレートとブチルアクリレートとヒドロキシアクリレートとの共重合体(以下「PSABAHEA」ともいう。)を得た。得られたPSABAHEAの重量平均分子量は170、000であった。
【0070】
得られたPSABAHEA100gに、市販の水酸基含有ポリブタジエン(出光興産(株)製「Poly bd R-45HT」、数平均分子量:2800、水酸基含有量:0.83mol/kg)100gおよびTMPアダクトHDI(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネートHL」)7.6gを添加し、固形分が1重量%となるようにトルエンで希釈して剥離剤組成物3を得た。」
2 甲2
甲2には、次の記載がある。
「【0003】
塗布液に低温での熱硬化性を付与する架橋剤として、メラミン樹脂が産業用塗料で用いられており、メラミンの架橋により樹脂塗膜の強度が向上し、耐擦傷性、耐水性、耐溶剤性が塗膜に付与されることが知られている。例えば、特許文献1では、「溶剤系塗料において、イミノ基含有量とオリゴマー量が少ないメラミン樹脂ほど架橋性に優れ、水酸基含有樹脂の硬化を低温で促進する」ことが示されており、硬化促進剤である酸触媒と併用することにより、低い硬化温度(70℃×30分)でも十分な耐溶剤性を有する塗膜の形成が可能になることが記載されている。特許文献2では、界面活性剤構造を有する溶剤可溶の導電性ポリマー微粒子をバインダー樹脂とともに溶剤中に溶解し、架橋剤としてメラミンを加えて硬化させることで、高い導電性を有する導電層を形成可能な、導電性組成物が提供されている。」
「【0017】
メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤(b)が、フルエーテル型メラミン樹脂であること
が好ましい。」
「【0038】
2.熱架橋剤(b)
本発明の組成物に含有される熱架橋剤であるメラミン樹脂誘導体は、組成物に低温での熱硬化性を付与し、塗膜外観、透明性(例えば、全光線透過率Ttおよびヘイズ値Haze)、導電性(例えば、表面抵抗率SR)、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性に優れた導電性塗膜を形成することが可能なものである。」
「【0042】
本発明の組成物に含有されるメラミン樹脂誘導体は、組成物に低温での硬化性を付与し、耐擦傷性、耐溶剤性に優れた塗膜を形成できるものであり、上記構造を有するメラミン樹脂誘導体が好ましく、中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、フルエーテル型メラミン樹脂であることが好ましい。また、メラミン樹脂の重合度に特に制限はないが、ポットライフを考慮すると低い方が好ましく、1.0~1.8であることが特に好ましい。上記のメラミン樹脂は単独で用いても、2種類以上を併用して用いてもよい。なお、本明細書において、組成物のポットライフとは、組成物(塗布液)の外観(沈殿の有無)、導電性塗膜の外観、透明性、導電性、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性などの諸性能が、組成物(塗布液)を調製して時間を経た後も十分に維持されうることを示す。」
「【0044】
3.酸発生剤(c)
本発明の組成物に含有される硬化促進剤である酸発生剤(c)は、そのままの状態では酸として機能しないが、何らかの刺激により酸を発生し、熱架橋剤(b)であるメラミン樹脂誘導体の架橋を促進するものである。このような酸発生剤には、放射線または電磁波照射により酸を発生しうる感放射線性酸発生剤または感電磁波性酸発生剤や、熱により酸を発生しうる感熱性酸発生剤が挙げられる。放射線照射、電磁波照射、または加熱を行わなければ溶液中で酸として機能しないため、組成物のポットライフが維持されうる。」
「【0116】
I.2 メラミン樹脂誘導体
メラミン樹脂誘導体として、日本カーバイド工業社製のニカラックMW-390(フルエーテル型、R9:メチル基、重合度:1.0)、ニカラックMX-500(フルエーテル型、R9:n-ブチル基、重合度:2.4)、ニカラックMX-730(イミノ型、80重量%、重合度:2.4)、および日本サイテックインダストリーズ社製のサイメル300(フルエーテル型、R9:メチル基、重合度:1.4)、サイメル303(フルエーテル型、R9:メチル基、重合度:1.7)、サイメル370(メチロール型、88重量%、R9:メチル基、重合度:2.3)を使用した(上記の名称は全て商品名である)。」
3 甲3
甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】
基材、アンカー層、熱膨張性粒子含有層および熱膨張性粒子非含有粘着剤層をこの順で積層してなる加熱剥離性粘着シートであって、
前記熱膨張性粒子非含有粘着剤層は、熱膨張性粒子を含有せず、アクリル系ポリマー(A)および架橋剤(B)を含有する粘着剤組成物を架橋した粘着剤からなり、
前記アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量は27万~200万であり、
前記アクリル系ポリマー(A)は、
炭素数4~22のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマー由来の構成単位(a1);
炭素数1~14のアルキル基を有するアルキルメタクリレートモノマー由来の構成単位(a2);および
反応性官能基を有するモノマー由来の構成単位(a3)
を有することを特徴とする加熱剥離性粘着シート。
【請求項2】
前記アルキルメタクリレートモノマー由来の構成単位(a2)の、前記アクリル系ポリマー(A)における質量割合は、1~40質量%であることを特徴とする請求項1に記載の加熱剥離性粘着シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱前には所望の粘着力を有するとともに、加熱後には粘着力が低下し被着体の剥離が容易な加熱剥離性粘着シートに関するものである。」
「【0030】
炭素数4~22のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマー由来の構成単位(a1)は、主として好ましい粘着性の発揮に寄与する構成単位である。構成単位(a1)をもたらす炭素数4~22のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーとしては、例えば、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、ミリスチルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレート等の鎖状骨格を有するアクリレート;シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、アダマンチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート等の環状骨格を有するアクリレートなどが挙げられ、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、加熱後の被着体からの剥離性に優れることから、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレートおよびステアリルアクリレートが好ましい。
【0031】
構成単位(a1)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合は、40~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることが特に好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。構成単位(a1)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合がかかる範囲にあると、得られる熱膨張性粒子非含有粘着剤層5に十分な粘着性を発揮させることができるとともに、他の構成単位の割合を十分に確保することができる。
【0032】
炭素数1~14のアルキル基を有するアルキルメタクリレートモノマー由来の構成単位(a2)は、糊残り抑制に寄与する構成単位である。すなわち、熱膨張性粒子非含有粘着剤層5に含まれるアクリル系ポリマー(A)が構成単位(a2)を有することで、熱膨張性粒子非含有粘着剤層5を形成する粘着剤の貯蔵弾性率が高い値となり、これにより熱膨張性粒子非含有粘着剤層5の被着体への糊残りを抑制することができる。
【0033】
構成単位(a2)をもたらす炭素数1~14のアルキル基を有するアルキルメタクリレートモノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-ヘプチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、n-ノニルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレートなどが挙げられ、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、加熱による熱膨張性粒子の膨張を阻害しにくく、加熱前と加熱後の粘着力のバランスに優れることから、メチルメタクリレートが好ましい。
【0034】
構成単位(a2)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合は、1~40質量%であることが好ましく、5~35質量%であることが特に好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。構成単位(a2)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合が1質量%以上であると、糊残り抑制効果を十分に発揮することができ、一方40質量%以下であると、得られる熱膨張性粒子非含有粘着剤層5に十分な粘着性を発揮させることができるとともに、他の構成単位の割合を十分に確保することができる。
【0035】
反応性官能基を有するモノマー由来の構成単位(a3)は、アクリル系ポリマー(A)において架橋剤(B)との反応点(架橋点)となり架橋構造をもたらす構成単位である。アクリル系ポリマー(A)と架橋剤(B)とが架橋構造を形成することで、熱膨張性粒子非含有粘着剤層5を形成する粘着剤の貯蔵弾性率が高い値となり、これにより熱膨張性粒子非含有粘着剤層5の被着体への糊残りを抑制することができる。
【0036】
構成単位(a3)をもたらす反応性官能基を有するモノマーとしては、分子内にヒドロキシ基を有するモノマー(ヒドロキシ基含有モノマー)、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの中でも、イソシアネート系架橋剤またはエポキシ系架橋剤との反応性に優れたヒドロキシ基含有モノマーおよびカルボキシ基含有モノマーが好ましく、ヒドロキシ基含有モノマーが特に好ましい。
【0037】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、得られるアクリル系ポリマー(A)におけるヒドロキシ基の架橋剤(B)との反応性および他の単量体との共重合性の点から2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。」
「【0040】
構成単位(a3)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合は、1~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることが特に好ましい。構成単位(a3)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合がかかる範囲にあると、後述する架橋剤(B)との架橋構造を適当な範囲に制御しやすくなり、熱膨張性粒子非含有粘着剤層5による糊残りをさらに効果的に抑制することができる。」
「【0045】
架橋剤(B)の種類としては、例えば、エポキシ系化合物、ポリイソシアネート系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物等のポリイミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、金属アルコキシド、金属塩等が挙げられる。これらの中でも、架橋反応を制御し易いことなどの理由により、ポリイソシアネート化合物またはエポキシ系化合物であることが好ましく、ポリイソシアネート化合物であることが特に好ましい。」
4 甲4
甲4には、次の記載がある。
「
[図:0001395235000008.jpg]
[図:0001395235000009.jpg]
」
(512~513頁)
第5 当審合議体の判断
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明について
甲1の実施例3に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「攪拌機、窒素導入管、温度計および冷却管を備えた1Lのフラスコに、ステアリルアクリレート50g、n-ブチルアクリレート49g、ヒドロキシエチルアクリレート1g、AIBN 0.89g、トルエン100mLおよび酢酸エチル100mLを添加し、窒素気流下、70℃で12時間重合反応を行うことにより得た、重量平均分子量は170、000であるステアリルアクリレートとブチルアクリレートとヒドロキシアクリレートとの共重合体(以下「PSABAHEA」ともいう。)100gに、市販の水酸基含有ポリブタジエン(出光興産(株)製「Poly bd R-45HT」、数平均分子量:2800、水酸基含有量:0.83mol/kg)100gおよびTMPアダクトHDI(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネートHL」)7.6gを添加し、固形分が1重量%となるようにトルエンで希釈して得た剥離剤組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ステアリルアクリレート」、「n-ブチルアクリレート」及び「ヒドロキシエチルアクリレート」は、それぞれ、本件発明1における「構成単位1」、「構成単位3」及び「構成単位2」が由来する具体例に含まれるから、それぞれを充足するものである。
また、甲1発明は、「ステアリルアクリレート50g、n-ブチルアクリレート49g、ヒドロキシエチルアクリレート1g」の共重合体を得るものであるから、共重合体の重量に対して、「ステアリルアクリレート」が50重量%、「n-ブチルアクリレート」が49重量%、「ヒドロキシエチルアクリレート」が1重量%となるものであるところ、甲1発明における「ステアリルアクリレート」が50重量%は、本件発明1の「構成単位1を(A)ポリマーの重量に対して50~89重量%」を充足する。
さらに、甲1発明における「剥離剤組成物」は、甲1の【0071】に記載のとおり、「100℃で1分間乾燥させて剥離フィルム(剥離材)」を得るものであるから、本件発明1における「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有している。
<一致点>
「一般式(1)
【化1】
[図:0001395235000010.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数12~28のアルキル基である。)
で表わされるラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、トリコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、ペンタコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、ヘプタコシル(メタ)アクリレート、及びオクタコシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位1を(A)ポリマーの重量に対して50~89重量%、一般式(2)
【化2】
[図:0001395235000011.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R3はOR3’であり、R3’は水酸基含有アルキル基である。)
で表わされる2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位2及び一般式(3)
【化3】
[図:0001395235000012.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。)
で表わされるメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の短鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位3からなる(A)ポリマーを含む熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液。」
<相違点1-1>
本件発明1は、「構成単位2を(A)ポリマーの重量に対して11~23.5重量%」であるのに対し、甲1発明は、「ヒドロキシエチルアクリレート」が1重量%である点。
<相違点1-2>
本件発明1は、「構成単位3を(A)ポリマーの重量に対して0~30重量%」であるのに対し、甲1発明は、「n-ブチルアクリレート」が49重量%である点。
<相違点1-3>
本件発明1は、「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」とともに用いられるものであるのに対し、甲1発明は、その特定がされていない点。
<相違点1-4>
本件発明1は、「酸触媒」とともに用いられるものであるのに対し、甲1発明は、その特定がされていない点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点1-1について
甲1発明における「ヒドロキシエチルアクリレート」は、甲1の【0033】及び【0034】において、「反応性官能基を含有する(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構成単位(以下「構成単位(3)」ともいう。)」として例示されているものである。そして、同【0035】には、「ポリマー(A)中における構成単位(3)の含有量は、上記構成単位(1)100重量部に対して、通常、0~50重量部、好ましくは0.1~30重量部、より好ましくは1~20重量部である。」と記載されているところ、ポリマー(A)中の構成単位(1)の含有量は「10~100重量%、好ましくは30~99重量%、より好ましくは40~90重量%」であることから(同【0032】)、ポリマー(A)中における構成単位(3)の含有量は、通常、最小で0重量%、最大は33.3重量%(=50/(100+50)×100)であり、いずれもより好ましい場合でも、最小で2.4重量%(=1/(40+1)×100)、最大は18.2重量%(=20/(90+20)×100)である。
ここで、本件発明1における構成単位2の含有量(11~23.5重量%)が、甲1の構成単位(3)の含有量(0~33.3重量%または2.4~18.2重量%)に包含されるか、または一部重複する範囲があるからといって、甲1発明における「ヒドロキシエチルアクリレート」の含有量を「11~23.5重量%」の範囲に限定する動機付けがあるとは認められない。
そして、本件発明1は、本件明細書の【0021】に記載のように、軽剥離化と耐溶剤性が両立できる観点から、構成単位1と構成単位2の含有量を定めたものであって、「従来、構成単位2の基となるモノマー、すなわち、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー(a2)は、良好な剥離性能を得るため、(メタ)アクリル系単量体を含めた単量体全体の10重量%以下としてポリマーを重合することがよいとされていたが、本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに(メタ)アクリル系単量体を含めた単量体全体の11重量%以上用いても、すなわち、ポリマー中に構成単位2が11重量%以上含有していても良好な剥離性能が得られることが明らかになったものである。」として、軽剥離化と耐溶剤性の両立という顕著な効果を奏するものである。
(イ)相違点1-3について
甲2の【0003】に「塗布液に低温での熱硬化性を付与する架橋剤として、メラミン樹脂が産業用塗料で用いられており、メラミンの架橋により樹脂塗膜の強度が向上し、耐擦傷性、耐水性、耐溶剤性が塗膜に付与されることが知られている。」と記載され、同【0017】に「メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤(b)が、フルエーテル型メラミン樹脂であることが好ましい。」と記載されている。
しかしながら、甲2の【0001】に記載のように、甲2の記載は「導電性コーティング用組成物」に係るものであって、「各種フィルムやシートに、帯電防止機能および/または透明電極機能を付与するために用いる」ものであることから、甲1の【0045】において、架橋剤として、メラミン樹脂が相当する「アミノ化合物」が例示されているとしても、剥離材に用いられるものである甲1発明に対して、導電性コーティング用組成物である甲2に記載された事項を適用する動機付けは認められない。
ウ 小括
よって、相違点1-2及び相違点1-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接または間接的に引用するものであって、本件発明1が容易想到でないことは上記(2)のとおりであるから、本件発明2及び3も同様に、甲1発明と甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~3は、甲1発明と甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 申立理由2(進歩性欠如)について
(1)甲3に記載された発明について
甲3の実施例19に着目すると(【0078】、【0082】、【0083】及び【0091】の【表1】)、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲3発明>
「LA:ラウリルアクリレート80質量部、MMA:メチルメタクリレート10質量部、およびHEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート10質量部を共重合させ、アクリル系ポリマー(A)を調製し、得られたアクリル系ポリマー(A)100質量部(固形分換算値;以下同様に表記)と、架橋剤(B)としてのイソシアネート系架橋剤(トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物)(東ソー社製、製品名「コロネートL」)0.94質量部とを、トルエンを溶媒として十分に撹拌・混合して得た、熱膨張性粒子非含有粘着剤層を形成するための塗工用組成物」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「LA:ラウリルアクリレート」、「MMA:メチルメタクリレート」及び「HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート」は、それぞれ、本件発明1における「構成単位1」、「構成単位3」及び「構成単位2」が由来する具体例に含まれるから、それぞれを充足するものである。
また、甲3発明は、「LA:ラウリルアクリレート80質量部、MMA:メチルメタクリレート10質量部、およびHEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート10質量部を共重合させ」るものであり、質量部は重量部と等しいものであるから、共重合体の重量に対して、「LA:ラウリルアクリレート」が80重量%、「MMA:メチルメタクリレート」が10重量%、「HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート」が10重量%となるものであるところ、甲3発明における「LA:ラウリルアクリレート」が80重量%及び「MMA:メチルメタクリレート」が10重量%は、それぞれ、本件発明1の「構成単位1を(A)ポリマーの重量に対して50~89重量%」及び「構成単位3を(A)ポリマーの重量に対して0~30重量%」を充足する。
さらに、甲3発明における「塗工用組成物」は、甲3の【0078】に記載のとおり、「かかる塗工用組成物を、剥離シート(リンテック社製、製品名「SP-PET381130」)の剥離処理面に塗布し乾燥させることにより、熱膨張性粒子非含有粘着剤層(厚さ5μm)を剥離シートに積層された状態で得た」とするものであるから、本件発明1における「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」に相当する。
してみると、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点及び相違点を有している。
<一致点>
「一般式(1)
【化1】
[図:0001395235000013.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数12~28のアルキル基である。)
で表わされるラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、トリコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、ペンタコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、ヘプタコシル(メタ)アクリレート、及びオクタコシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位1を(A)ポリマーの重量に対して50~89重量%、一般式(2)
【化2】
[図:0001395235000014.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R3はOR3’であり、R3’は水酸基含有アルキル基である。)
で表わされる2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位2及び一般式(3)
【化3】
[図:0001395235000015.jpg]
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。)
で表わされるメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の短鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位3を(A)ポリマーの重量に対して0~30重量%からなる(A)ポリマーを含む熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液。」
<相違点3-1>
本件発明1は、「構成単位2を(A)ポリマーの重量に対して11~23.5重量%」であるのに対し、甲3発明は、「HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート」が10重量%である点。
<相違点3-2>
本件発明1は、「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」とともに用いられるものであるのに対し、甲3発明は、その特定がされていない点。
<相違点3-3>
本件発明1は、「酸触媒」とともに用いられるものであるのに対し、甲3発明は、その特定がされていない点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点3-1について
甲3発明における「HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート」は、甲3の【0036】及び【0037】において、「構成単位(a3)をもたらす反応性官能基を有するモノマー」として例示されているものであって、同【0040】には、「構成単位(a3)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合は、1~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることが特に好ましい。構成単位(a3)のアクリル系ポリマー(A)における質量割合がかかる範囲にあると、後述する架橋剤(B)との架橋構造を適当な範囲に制御しやすくなり、熱膨張性粒子非含有粘着剤層5による糊残りをさらに効果的に抑制することができる。」と記載されている。
ここで、本件発明1における構成単位2の含有量(11~23.5重量%)が、甲3の構成単位(a3)の含有量(1~30質量%または5~25質量%)に包含される範囲があるからといって、甲3発明における「ヒドロキシエチルアクリレート」の含有量を「11~23.5重量%」の範囲に限定する動機付けがあるとは認められない。
そして、本件発明1は、本件明細書の【0021】に記載のように、軽剥離化と耐溶剤性が両立できる観点から、構成単位1と構成単位2の含有量を定めたものであって、「従来、構成単位2の基となるモノマー、すなわち、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー(a2)は、良好な剥離性能を得るため、(メタ)アクリル系単量体を含めた単量体全体の10重量%以下としてポリマーを重合することがよいとされていたが、本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに(メタ)アクリル系単量体を含めた単量体全体の11重量%以上用いても、すなわち、ポリマー中に構成単位2が11重量%以上含有していても良好な剥離性能が得られることが明らかになったものである。」として、軽剥離化と耐溶剤性の両立という顕著な効果を奏するものである。
(イ)相違点3-2について
甲4の512~513頁において、構造式が示された「(2)完全アルキル化メラミン樹脂」のRがメチル基であるヘキサメトキシメチルメラミンが本件発明の「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」に相当し、ハイソリッド型塗料の硬化剤として代表的なものであって、反応性が大きいことが記載されているといえる。
しかしながら、甲3発明における架橋剤は「イソシアネート系架橋剤」であって、当該架橋剤を「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」に換える動機付けがあると認めることはできない。
そして、本件発明1は、軽剥離化と耐溶剤性の両立という顕著な効果を奏するものである
ウ 小括
よって、相違点3-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接または間接的に引用するものであって、本件発明1が容易想到でないことは上記(2)のとおりであるから、本件発明2及び3も同様に、甲3発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~3は、甲3発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)判断の考え方について
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
さらに、ここにいう「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要するというべきである。
(2)本件への当てはめ
ア 上記(1)の考え方を本件発明についてみると、本願発明は、前記第2の1に記載のとおりの「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」であるから、本件発明は物の発明であり、本件発明が実施可能であるというためには、本件明細書の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明に係る「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を作ることができ、かつ、当該「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。
イ 「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を作ることができるかについて
(ア)まず、当業者において、本件明細書の記載に基づいて、本件発明に係る「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を作ることができるかどうかを検討する。
(イ)本件明細書の【0050】~【0052】には、製造例1~4として、「長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位1」であるSMA:ステアリルメタクリレート、「水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位2」であるHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート及び「短鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位3」を含むモノマーからなる「(A)ポリマー」が、各モノマーの「(A)ポリマー」に対する含有量とその製造工程とともに具体的に記載されている。そして、同【0053】、【0054】及び【0056】には、実施例1~7として、製造例1~4の「(A)ポリマー」、「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」であるサイメル303LF及び「酸触媒」であるPTS:パラトルエンスルホン酸又はAP-1:メチルアシッドホスフェートとともに用いられた「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」が、「(A)ポリマー」、「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」及び「酸触媒」それぞれの使用量とその製造工程とともに具体的に記載されている。
(ウ)これらの記載に接した当業者であれば、実施例に記載された製造方法に従って、本件発明の「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を製造することができるというべきである。
ウ「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を使用できるかについて
(ア)本件明細書の【0053】には、本件発明の「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」をフィルムに塗工して剥離フィルムの形態とすることが記載されているから、「本件発明の「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を使用できるといえる。
(イ)そして、同【0057】の【表2】には、実施例1~7のものが、耐溶剤性及び優れた剥離性能を有することが示されているから、本件発明の「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を技術上の意義のある態様で使用することができるということができる。
(3)申立人の主張について
ア 配合量の規定について
申立人は、「本件特許の請求項1~3の発明は、ポリマー(A)、(架橋剤としての)「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」(B)、及び酸触媒(C)の三成分を含有するポリマー溶液であり、「組成物」の発明である。「組成物」の発明の場合、組成物中に含まれる各有効成分の配合量を独立請求項で規定することが要求される。有効成分がその意図され効果を奏するためには、組成物中に特定の量で含まれていることが当然必要であり、たとえ有効成分が含まれていても、その配合量が少なすぎる場合には、意図される効果を奏することができず、発明の目的を達成することができない。従って、組成物中に含まれる各有効成分の配合量を規定しなければ、発明の目的を達成することができないものまでもが権利範囲に含まれることになる。それ故、本件特許の請求項1~3の発明は、組成物(ポリマー溶液)中に含まれるポリマー(A)、(架橋剤としての)「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」(B)、及び酸触媒(C)の三成分の配合量を何ら規定していない点で、実施可能要件」「を満たしていない。」旨主張している(特許異議申立書3頁の「(1-2)申立ての理由の要約」(理由2)(その1))。
しかしながら、上記(2)のとおり、本件明細書の記載により、本件発明の「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を作ることができ、かつ、その物を使用できるといえるし、申立人は、当該三成分の配合量を規定していないものが実施可能でないとする技術的根拠や具体的な実験結果を示しているものでもないから、申立人の上記主張を採用することはできない。
イ 酸触媒の種類について
申立人は、「本件特許の請求項1~3の発明のポリマー溶液は、「酸触媒(C)」を含有する。本件特許明細書の【0033】によれば、この「酸触媒(C)」の具体的な種類は、架橋剤(B)の種類によって決まるものであり、架橋剤(B)が「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」である場合は、「酸触媒(C)」はスルホン酸などの「強酸」である。しかしながら、本件特許の請求項1~3の発明では、架橋剤(B)が「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」に限定されているにも関わらず、「酸触媒(C)」の種類は何ら規定されていない。それ故、本件特許の請求項1~3の発明は、「酸触媒(C)」の種類を規定していない点で、実施可能要件」「を満たしていない。」旨主張している(特許異議申立書3頁の「(1-2)申立ての理由の要約」(理由2)(その2))。
しかしながら、上記(2)のとおり、本件明細書の記載により、本件発明の「熱硬化剥離コーティング剤用ポリマー溶液」を作ることができ、かつ、その物を使用できるといえるし、申立人は、酸触媒(C)の種類を規定していないものが実施可能でないとする技術的根拠や具体的な実験結果を示しているものでもないから、申立人の上記主張を採用することはできない。
(4)小括
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載が、明細書の実施可能要件に適合しないということはできない。
4 申立理由4(サポート要件違反)について
(1)判断の考え方について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件への当てはめ
上記(1)の考え方を本件に当てはめると、以下のとおりである。
ア 本件発明が課題しようとする課題について
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0006】の記載から、「優れた剥離性能および耐溶剤性を有する熱硬化剥離コーティング剤を提供すること」であると認められる。
イ 発明の詳細な説明に記載された発明について
(ア)上記課題を解決できると認識できるものとして発明の詳細な説明に記載された発明について検討する。
本件明細書の【0007】には、【課題を解決するための手段】として、「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(A)長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル(a1)と水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー(a2)を含むモノマーから合成される、ポリマー、(B)メチル化メラミン樹脂および(C)酸触媒を含む、熱硬化剥離コーティング剤により、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。」と記載されている。
(イ)ここで、まず、耐溶剤性についてみると、「(B)メチル化メラミン樹脂」は架橋剤であり、「(C)酸触媒」は架橋反応を促進するものとして通常知られた技術常識であるところ、本件明細書の【0005】に「特許文献1に記載の剥離剤は、その剥離性能は良好であるものの、架橋されていないため、耐溶剤性は低いという課題があった。」と記載されていることからも、「(B)メチル化メラミン樹脂」及び「(C)酸触媒」を含むことで架橋がなされ、耐溶剤性を有することになると認められる。
このことは、「(B)メチル化メラミン樹脂」及び「(C)酸触媒」の両方を含んでいない比較例1、2及び4の耐溶剤性の評価は「×」である一方、「(B)メチル化メラミン樹脂」及び「(C)酸触媒」の両方を含む実施例1~9の耐溶剤性の評価は、「◎」、「○」又は「△」であることからも確認できる。
(ウ)次に、剥離性能についてみると、本件明細書【0052】の【表1】の製造例1~4は、「(A)ポリマー」が「長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル(a1)」であるSMA:ステアリルメタクリレート及び「水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー (a2)」であるHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレートを含むモノマーから得られるものであって、「長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル(a1)」を含まないモノマーから得られる製造例5のポリマーを用いた剥離フィルムである比較例3の剥離力が8.3N/25mmとして剥離性能に劣る一方で、製造例1~4のポリマーを用いた剥離フィルムである実施例1~9の剥離力が0.4~4.5N/25mmとして優れた剥離性能を有するものと認められる。
さらに、製造例1のポリマーを用いた剥離フィルムである比較例1、2及び4は、「(B)メチル化メラミン樹脂」及び「(C)酸触媒」のどちらか一方又は両方を含まない場合の例であるが、このような場合であっても、剥離力は0.8~1.8N/25mmとして優れた剥離性能を有していることから、剥離性能は、ポリマー(A)によって定まるものと認められる。
(エ)以上のことから、「(A)長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル(a1)と水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー(a2)を含むモノマーから合成される、ポリマー、(B)メチル化メラミン樹脂および(C)酸触媒を含む、熱硬化剥離コーティング剤」が、上記課題を解決できると認識できるものとして発明の詳細な説明に記載された発明であると理解できる。
そうすると、本件発明は、上記課題を解決できると認識できるものとして発明の詳細な説明に記載された発明を超えるものではない。
(3)申立人の主張について
ア 配合量の規定について
申立人は、「本件特許の請求項1~3の発明は、ポリマー(A)、(架橋剤としての)「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」(B)、及び酸触媒(C)の三成分を含有するポリマー溶液であり、「組成物」の発明である。「組成物」の発明の場合、組成物中に含まれる各有効成分の配合量を独立請求項で規定することが要求される。有効成分がその意図され効果を奏するためには、組成物中に特定の量で含まれていることが当然必要であり、たとえ有効成分が含まれていても、その配合量が少なすぎる場合には、意図される効果を奏することができず、発明の目的を達成することができない。従って、組成物中に含まれる各有効成分の配合量を規定しなければ、発明の目的を達成することができないものまでもが権利範囲に含まれることになる。それ故、本件特許の請求項1~3の発明は、組成物(ポリマー溶液)中に含まれるポリマー(A)、(架橋剤としての)「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」(B)、及び酸触媒(C)の三成分の配合量を何ら規定していない点で、」「サポート性を満たしていない。」旨主張している(特許異議申立書3頁の「(1-2)申立ての理由の要約」(理由2)(その1))。
しかしながら、上記(2)イのとおり、ポリマー(A)、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂(B)及び酸触媒(C)の三成分の配合量を規定しなくても、「(A)長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル(a1)と水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー(a2)を含むモノマーから合成される、ポリマー、(B)メチル化メラミン樹脂および(C)酸触媒を含む、熱硬化剥離コーティング剤」が、本件発明の課題を解決できると理解できるし、申立人は、当該三成分の配合量を規定していないものが本件発明の課題を解決できないとする技術的根拠や具体的な実験結果を示しているものでもないから、申立人の上記主張を採用することはできない。
イ 酸触媒の種類について
申立人は、「本件特許の請求項1~3の発明のポリマー溶液は、「酸触媒(C)」を含有する。本件特許明細書の【0033】によれば、この「酸触媒(C)」の具体的な種類は、架橋剤(B)の種類によって決まるものであり、架橋剤(B)が「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」である場合は、「酸触媒(C)」はスルホン酸などの「強酸」である。しかしながら、本件特許の請求項1~3の発明では、架橋剤(B)が「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」に限定されているにも関わらず、「酸触媒(C)」の種類は何ら規定されていない。それ故、本件特許の請求項1~3の発明は、「酸触媒(C)」の種類を規定していない点で、」「サポート性を満たしていない。」旨主張している(特許異議申立書3頁の「(1-2)申立ての理由の要約」(理由2)(その2))。
しかしながら、上記(2)イのとおり、酸触媒(C)の種類を規定しなくても、「(A)長鎖アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル(a1)と水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー(a2)を含むモノマーから合成される、ポリマー、(B)メチル化メラミン樹脂および(C)酸触媒を含む、熱硬化剥離コーティング剤」が、本件発明の課題を解決できると理解できるし、申立人は、酸触媒(C)の種類を規定していないものが本件発明の課題を解決できないとする技術的根拠や具体的な実験結果を示しているものでもないから、申立人の上記主張を採用することはできない。
(4)小括
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合しないということはできない。
第6 むすび
以上のとおり、申立人の主張する理由によっては、本件発明1~3に係る特許を取り消すべきものということはできない。
また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700796