特許異議申立
2023-700412
窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受
- 審判番号
- 2023-700412
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-060258
- 登録番号
- 7164658
- 請求日
- 2023年04月21日
- 審決日
- 2024年01月30日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】NTN株式会社
- 【権利者代理人】和気 光
- 【権利者代理人】和気 操
- 【権利者代理人】寺本 諭史
- 【異議申立人】青木 眞理
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 立木 林
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7164658号発明「窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7164658号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
特許第7164658号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7164658号の請求項1~12に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年3月31日(優先権主張令和2年9月3日)に出願され、令和4年10月24日にその特許権の設定登録がされ、同年11月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対して、特許異議申立人 青木 眞理(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。
令和 5年 4月21日 特許異議の申立て(申立人)
同年 8月23日付け 取消理由通知
同年10月16日 特許権者との面接
同年10月25日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年12月13日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年10月25日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~12を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1) 訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「窒化ケイ素焼結体。」と記載されているのを、「窒化ケイ素焼結体(ただし、W、Moのうち少なくとも1つの金属元素を含む窒化ケイ素焼結体を除く)。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~12も同様に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての判断
訂正事項は、「窒化ケイ素焼結体」から「W、Moのうち少なくとも1つの金属元素を含む窒化ケイ素焼結体」を除外し、「窒化ケイ素焼結体」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、訂正事項は、いわゆる「除くクレーム」として「W、Moのうち少なくとも1つの金属元素を含む窒化ケイ素焼結体」を除外するものであって、新たな技術的事項を導入するものでないから、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
1 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体であって、
前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、
前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、
前記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に介在物(I)を有し、前記表層部の総断面積に対する前記介在物(I)の総断面積の割合が0.05%以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体(ただし、W、Moのうち少なくとも1つの金属元素を含む窒化ケイ素焼結体を除く)。
【請求項2】
前記希土類元素が、Y、Ce、NdおよびEuからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項3】
前記希土類元素がCeを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項4】
前記介在物(I)が、遷移金属元素を含む介在物(It)を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項5】
前記介在物(It)が遷移金属元素のケイ化物であることを特徴とする請求項4記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項6】
前記遷移金属元素が、Ti、Cr、およびMnからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項4または請求項5記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項7】
前記遷移金属元素がCrを含むことを特徴とする請求項4から請求項6までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項8】
前記介在物(I)の最大径が50μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項9】
前記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径が50μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体を用いたことを特徴とする転動体。
【請求項11】
請求項10記載の転動体を用いたことを特徴とする軸受。
【請求項12】
前記軸受は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載され、前記駆動部における回転軸を支持する軸受であることを特徴とする請求項11記載の軸受。」
第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由及び取消理由の概要
(1) 各甲号証及び引用文献の一覧
申立人が提出した証拠方法及び職権調査により採用した証拠は、次のものである。
甲第1号証:国際公開第2005/019133号
甲第2号証:特開昭61-53167号公報
甲第3号証:国際公開第2008/111307号
甲第4号証:特開2011-72113号公報
引用文献1:米国特許第2011/0301784号明細書
以下、甲第1号証等を、それぞれ番号に合わせて「甲1」等という。
(2) 異議申立理由の概要
ア 申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性欠如)
設定登録時の請求項1~2、4~8、10~11に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同請求項1~2、4~8、10~11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由2(甲1を主たる証拠として進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~12に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 取消理由の概要
令和5年8月23日付け取消理由通知書に記載した取消理由は、概略、以下のとおりである。
ア 設定登録時の請求項1~2、4~11に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、又は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものである。
設定登録時の請求項3~12に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 当審の判断
事案に鑑み、申立理由1、2及び取消理由をまとめて検討する。
(1) 甲1に記載された事項及び発明
ア 甲1の記載事項
甲1は「窒化珪素質焼結体およびその製造方法、並びにそれを用いた耐溶融金属用部材、耐摩耗用部材」(発明の名称)に関するものであって、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(ア) 「請求の範囲
[1]窒化珪素の結晶と、以下の第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つを含む粒界層とを有した窒化珪素質焼結体であって、
前記粒界層は第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つが互いに接する隣接相を有することを特徴とする窒化珪素質焼結体。
第1金属珪化物:Fe、Cr、MnおよびCuから成る群から選択された少なくとも1つの第1の金属元素からなる金属珪化物
第2金属珪化物:W、Moのうち少なくとも1つの第2の金属元素からなる金属珪化物
第3金属珪化物:第1の金属元素と第2の金属元素を含む複数金属成分からなる金属珪化物」
(イ) [0014] 本発明者らが鋭意検討の結果、第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つが互いに接する隣接相を存在させることにより、単独の金属珪化物に機械的応力や熱応力が集中するのを抑制し、これにより、窒化珪素質焼結体の機械的特性、耐熱衝撃性を向上させることができるのを初めて見出した。・・・」
(ウ) 「実施例1
[0081] 第1の金属元素の化合物からなる粉末(P1)、第2の金属元素の化合物からなる粉末(P2)を水を用いて湿式混合し、得られたスラリーを100℃で乾燥して予備混合粉末(P12)を作製した。この予備混合粉末(P12)と、窒化珪素(Si3N4)粉末(平均粒径1μm、α化率90%、Fe不純物含有量500ppm)と、Si粉末(平均粒径3μm、Fe不純物含有量800ppm)とからなる原料粉末に、さらに焼結助剤粉末を表1に示す割合で秤量、混合した。ここで、原料粉末と焼結助剤粉末の含有量は、両者の合計を100質量%となるようにしている。また、表1の粉末(P1)、粉末(P2)の含有量は、それぞれ第1、第2の金属元素の含有量に換算したものである。
・・・
[0083] 次いで、混合した粉末と、エタノールと、窒化珪素質粉砕用メディアとをバレルミルに投入して混合した。その後、得られたスラリーに、有機結合材としてポリビニルアルコール(PVA)を添加混合し、さらにスプレードライヤーで造粒後した。得られた造粒粉体を金型を用いた粉末プレス成形法により成形圧80MPaで成形し、外径60mm、厚み30mmの円柱型成形体を複数作製した。
[0084] 得られた成形体中に含まれる有機結合材(PVA)を、表2に示す脱脂雰囲気中、600℃で3時間保持することにより脱脂し、脱脂体を作製した。
[0085] 次に、表面が窒化珪素質から成るカーボン製のこう鉢中に脱脂体を載置し、表2に示す実質的に窒素からなる窒素分圧中、1100℃で20時間、1200℃で10時間、1260℃で5時間の各ステップ(各ステップ間は昇温速度50℃/時間で昇温)で順次保持することによりSiをα化率90%以上のSi3N4に窒化し、さらに昇温して窒化工程と同じ窒素分圧中1770℃で10時間保持して焼成し、β型窒化珪素質焼結体からなる本発明の試料を作製した。
・・・
[0093] ・・・
[表1]
[図:0001410202000001.jpg]
[表2]
[図:0001410202000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明(甲1発明)
上記ア(ウ)の記載を、甲1における試料No.2の窒化珪素質焼結体に着目して整理すると、甲1には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「 Cr2O3とWO3とを湿式混合、乾燥して予備混合粉末を作製し、当該予備混合粉末、Si3N4粉末及びSi粉末とからなる原料粉末に、さらに焼結助剤粉末としてY2O313質量%及びAl2O36質量%を混合した後、ポリビニルアルコール(PVA)を添加混合して、円柱型成形体とし、
この成形体を脱脂、窒化し、焼成したβ型窒化珪素質焼結体であって、
隣接相の含有量が0.5体積%である、窒化珪素質焼結体。」
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1が「W、Moのうちの少なくとも1つの金属元素を含む窒化ケイ素焼結体を除く」ものであるのに対し、甲1発明は「WO3」を混合して製造した窒化珪素質焼結体である点。
イ 相違点の検討
甲1発明において、原料粉末に混合されたWO3中のW元素は、窒化珪素質焼結体中に残存していると解されるから、上記相違点1は実質的なものである。
また、上記(1)ア(ア)及び(イ)によれば、甲1に記載された発明において、第2の金属元素(W、Moのうち少なくとも1つ)は、窒化珪素質焼結体の機械的特性、耐熱衝撃性を向上させるのに必要なものと解されるから、甲1発明においてWを除くことは、甲2~4及び引用文献1の記載に関わらず、当業者にとって容易想到の事項とはいえない。
ウ 小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明でなく、また、甲1発明並びに甲2~4及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3) 本件発明2~12について
本件発明1に係る請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~12についても、上記(2)と事情は同じであるから、本件発明2~12は、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明並びに甲2~4及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得るものであったということはできない。
(4) 申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
申立人は、令和5年12月13日提出の意見書において、概略、以下の点を主張している。
(ア) 申立人意見1
甲1には、試料No.17としてWO3もMoO3も添加せずに作製する窒化ケイ素焼結体が示されているから、本件発明1~12は、特許法第29条第1項又は第2項に規定する要件を満たしていない。
(イ) 申立人意見2
本件特許明細書には、実施例にて、「Cr2O3、MnO、Fe2O3、TiO2」の4種類しか挙げられていないから、W、Moだけを除外するような特定の元素を除外するのであれば、実施例に記載の「Cr2O3、MnO、Fe2O3、TiO2」に限定すべきであり、本件発明1の「W,Moだけを除外する」範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 申立人の主張の検討
(ア) 申立人意見1について
甲1の試料No.17は、Al2O3添加量が4wt%であり、本件発明1(Al2O3が「6質量%以上13質量%以下」)と実質的に相違する。
また、甲1の試料No.17は比較例として示された組成であって、当該比較例を基礎として組成を調整することが、当業者にとって容易想到の事項であったということもできない。
したがって、申立人意見1は採用できない。
(イ) 申立人意見2について
請求項1の「窒化ケイ素焼結体」から、「W、Moのうち少なくとも1つの金属元素を含む窒化ケイ素焼結体」を除外することで、サポート要件違反に係る新たな理由が生じるものでないし、また、実施例でCr2O3、MnO、Fe2O3、TiO2の4種類しか挙げられていないことのみでサポート要件に違反している具体的な理由を申立人は何ら説明していないから、申立人意見2も採用できない。
(5) 申立理由及び取消理由についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1、2及び取消理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~12に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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