特許異議申立
2023-700407
酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法
- 審判番号
- 2023-700407
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-055533
- 登録番号
- 7159092
- 請求日
- 2023年04月21日
- 審決日
- 2023年07月24日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キユーピー株式会社
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】小島 一真
- 【異議申立人】伊藤 夏香
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7159092号発明「酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7159092号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7159092号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成23年11月29日に出願された特願2011-260094号(以下「原原出願」という。)の一部を新たな特許出願として平成28年4月28日に出願された特願2016-90097号(以下「原出願」という。)の一部を、さらに新たな特許出願として平成31年3月22日に出願され、令和4年10月14日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年4月21日に特許異議申立人 伊藤 夏香(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされ、同年6月2日に特許異議申立人から上申書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質を0.5~5%、果糖を5~30%、脂質を1~75%含有し、かつ酢酸を含有しpH3.0~4.6である胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法において、
少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程と、
前記水相に油脂を添加して、乳化処理を行う工程と
を含む、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法(但し、胡麻を油相中で粉砕した後、他の原料と混合する工程を含むものを除く)。
【請求項2】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が種皮付きホール胡麻を2~15%含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が醤油を3~40%含有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が蛋白質を2~5%含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料が脂質を10~45%含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料のpHが3.7~4.6である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の粘度が0.2~800Pa・sである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料がソルビン酸を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
酢酸とソルビン酸との含有量の比率が、1:0.005~1:1である、請求項8に記載の製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年4月21日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。
1 申立理由1(分割不適法及び甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
原出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「原出願当初明細書等」という。)は、原原出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「原原出願当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内であるとはいえないから、原出願の出願日の遡及は認められず、原出願の出願日は、原出願の現実の出願日である平成28年4月28日である。一方、原出願の分割出願である本件特許発明1ないし9は、原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内といえるものであるから、本件特許に係る特許出願の出願日の原原出願の出願日への遡及は原出願と同様に認められず、本件特許に係る特許出願は、原出願の出願日である平成28年4月28日にされたものとして取り扱われる。
そして、本件特許発明1ないし9は、本件特許に係る特許出願の出願日である平成28年4月28日より前に公開された、原原出願の公開公報である下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願の出願日である平成28年4月28日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許の請求項1に係る発明は、ぶどう糖や庶糖等の含有量及び粘度(又は増粘多糖類等の種類や含有量)を何ら規定していないが、本件特許の発明の詳細な説明の記載より、ぶどう糖や庶糖等の含有量及び粘度(又は増粘多糖類等の種類や含有量)を特定の条件にすることが発明の課題を解決するために必須と考えられるところ、発明の詳細な説明の記載より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆が無くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
本件特許の請求項1を引用する請求項2ないし9に係る発明についても同様である。
(2)本件特許の請求項1に係る発明は、含有量として、「種皮付きホール胡麻を1~20%」、「醤油を1~40%」、「蛋白質を0.5~5%」、「果糖を5~30%」、「脂質を1~75%」とそれぞれ極めて広範囲を規定しているが、実施例で評価しているのは、「種皮付きホール胡麻を2%」、「醤油を30%」、「蛋白質を3%」、「果糖を25%」、「脂質を10%」の各1点のみである。ここで、本件特許の発明の詳細な説明には、「この現象のメカニズムは定かではないが、・・・種皮付きホール胡麻、醤油等の蛋白質、ぶどう糖、果糖、庶糖等の糖による、アミノカルボニル反応やメイラード反応等の各原料の相互作用が進行し、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られるものと考えられる」と記載されている。このように、メカニズムが不明な場合(アミノカルボニル反応やメイラード反応等の各原料の相互作用が進行することで保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られることは実証されていない)、数値範囲のうちの臨界値(最低値と最高値)及び中間値の少なくとも計3点の実施例により課題解決できることを立証しなければ、発明の詳細な説明の記載より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆が無くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
本件特許の請求項1を引用する請求項2ないし9に係る発明についても同様である。
なお、本件特許の発明の詳細な説明には、「官能評価を行った。その結果、保管後における胡麻特有の芳香を保持しており好ましかった。」及び「実施例1と同様の方法で官能評価を行った結果、実施例1の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料と比べ、更に保管後における胡麻特有の芳香に優れており好ましかった。」との記載しかなく、評価基準、評価者の人数や経験値などが不明であるから、保管後における胡麻特有の芳香の保持具合を客観的に正確に評価したものと捉えることは困難であるので、上記官能評価の記載をもって、本件特許の請求項1の数値範囲がサポートされているとはいえない。
(3)本件特許の請求項1に係る発明は、「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程」を規定しているが、本件特許の発明の詳細な説明に記載があるのは「清水、酢酸、種皮付きホール胡麻、醤油、生卵黄(脂質及び蛋白質を含有する原料)、グルタミン酸ナトリウム(蛋白質を含有する原料)、キサンタンガム(増粘多糖類)、ぶどう糖及び果糖を混合して、水相を調製する工程」(実施例1)のみである。本件特許の発明の詳細な説明の記載より、実施例1において酢酸、キサンタンガム(増粘多糖類)及びぶどう糖を一緒に混合して水相を調製しない場合に本件特許発明の課題を解決できるかは不明であるところ、これらを規定していない本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆が無くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
本件特許の請求項1を引用する請求項2ないし9に係る発明についても同様である。
3 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の請求項1に係る発明は、「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程」を規定しているが、「蛋白質」が「蛋白質を含有する原料」、「蛋白質そのもの」、「蛋白質を含有する原料及び蛋白質そのものの両方」のいずれを意味しているのか不明であり、発明が不明確である。また、この発明特定事項は混合材料を列挙しているものと解されるが、混合材料(混合対象)としての「蛋白質」と「種皮付きホール胡麻及び醤油(いずれも蛋白質を含有する原料)」との関係性も不明である。更に、本件特許の発明の詳細な説明には、「本発明における蛋白質とは、高分子化合物に加え、アミノ酸、ペプチド等を含む。」と定義されているが、実施例1におけるグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸塩)も「蛋白質」の定義に包含されるのか、あるいは「蛋白質を含有する原料」であるのか、あるいは「いずれでもない」のかが不明である。
本件特許の請求項1を引用する請求項2ないし9に係る発明についても同様である。
4 申立理由4(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、原原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 証拠方法
甲第1号証:特開2013-111014号公報
甲第2号証:特開2009-11206号公報
甲第3号証:Mintel GNPD[online: https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/581359/from_search/XvafeOKNqi/?page=1]、2006年8月
甲第4号証:Mintel GNPD[online: https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/662964/from_search/dBlmCBE2y6/?page=1]、2007年2月
甲第5号証:Mintel GNPD[online: https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/799713/from_search/9Q5RTqCkxj/?page=1]、2007年11月
甲第6号証:Mintel GNPD[online: https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1614215/from_search/TSHDz81ell/?page=1]、2011年9月
甲第7号証:国際公開第2011/065364号
甲第8号証:Leth, T. et al., Estimated intake of benzoic and sorbic acids in Denmark., Food Addit. and Contam., 2010年3月26日,Vol.27 No.6, pages 783-792, Taylor & Francis Group
甲第9号証:四訂 食品成分表 2000、香川芳子監修、96~97,192~193,296~297頁、2000年1月、女子栄養大学出版部
甲第10号証:七訂 食品成分表 2016、香川芳子監修、334頁、2016年4月1日、女子栄養大学出版部
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由1ないし4にはいずれも理由がないと判断する。
1 申立理由1(分割不適法及び甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)原出願の分割要件について
原出願当初明細書等の記載は、原原出願当初明細書等における「ぶどう糖、果糖、蔗糖から選ばれる少なくとも1種以上の糖を合計量で2~35%」を「果糖を2~35%」とし、また、「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程」を規定するものである。
そして、「果糖を2~35%」とすること、及び、「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程」を有するものとすることは、原原出願当初明細書等の実施例1等に記載されている事項であり、また、当該事項を特定することにより、新たな技術的事項を導入するものでもない。
してみると、原出願は、分割要件を満たしていないとはいえない。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書3(4)イ(ア)(特許異議申立書第14-19頁)のとおり、原出願当初明細書等の記載は原原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であるとはいえない旨主張するが、当該主張は上記判断に影響しない。
(2)本件特許に係る特許出願の出願日について
原原出願と原出願は上記(1)のとおり判断され、また、本件特許の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲は、原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、本件特許に係る特許出願も分割要件を満たしている。
したがって、本件特許に係る特許出願の出願日は、原原出願の出願日である平成23年11月29日である。
(3)甲1に基づく新規性・進歩性について
上記(2)のとおり、本件特許に係る特許出願の出願日は、原原出願の出願日である平成23年11月29日である。
そして、甲1は、原原出願の出願より後に公開された原原出願の公開公報であり、本件特許に係る特許出願の出願日より前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献ではないから、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の文献として引用することはできない。
(4)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを踏まえ、以下検討する。
(2)判断
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「詳細な説明」という。)の【0006】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「保管後においても胡麻特有の芳香を十分に保持できる、酢酸を用いた胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料」を製造することである。
また、詳細な説明の【0020】には、「胡麻が種皮付きのホール状である場合、芳香成分を多く含む油滴群からなる子葉部分が外気に触れることが無いため、胡麻特有の芳香がほとんど感じられない。しかしながら、種皮付きホール胡麻を特定の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料に含有し、長期間保管した場合は、胡麻特有の芳香が感じられ十分に保持できる。この現象のメカニズムは定かではないが、酢酸を含有しpH3~4.6の酸性条件において、種皮付きホール胡麻、醤油等の蛋白質、ぶどう糖、果糖、蔗糖等の糖による、アミノカルボニル反応やメイラード反応等の各原料の相互作用が進行し、保管中に経時的に薄らいでしまう胡麻の芳香成分を増強する効果が得られるものと考えられる。」と記載され、「種皮付きホール胡麻を1~20%」(【0021】)、「醤油を1~40%」(【0024】)、「蛋白質を0.5~5%」(【0025】)、「果糖を2~35%」(【0027】)、「脂質を1~75%」(【0031】)及び「pH3.0~4.6」(【0032】)の各構成が保管後における胡麻特有の芳香の保持に関与する旨の記載もある。
してみると、保管後における胡麻特有の芳香を保持するとの作用は、「種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質を0.5~5%、果糖を2~35%、脂質を1~75%含有し、かつ酢酸を含有しpH3.0~4.6である」とすることにより定性的に発揮されるものといえる。
そうすると、当業者は、「種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質を0.5~5%、果糖を2~35%、脂質を1~75%含有し、かつ酢酸を含有しpH3.0~4.6である」とすることで発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明は、「種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質を0.5~5%、果糖を2~35%、脂質を1~75%含有し、かつ酢酸を含有しpH3.0~4.6である」との特定事項を有し、かつ、さらに特定するものである。
したがって、本件特許発明は、詳細な説明に記載された発明で、詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、上記第3 2(1)ないし(3)に記載のとおり主張する。
しかしながら、サポート要件については上記(2)のとおり判断される。 また、特許異議申立人の主張は、いずれも、「種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質を0.5~5%、果糖を2~35%、脂質を1~75%含有し、かつ酢酸を含有しpH3.0~4.6である」との条件を満たしても課題を解決できないとする具体的な証拠を提示するものではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
3 申立理由3(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし9の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 3において、「蛋白質」が「蛋白質を含有する原料」、「蛋白質そのもの」、「蛋白質を含有する原料及び蛋白質そのものの両方」のいずれを意味しているのか不明であること、「蛋白質」と「種皮付きホール胡麻及び醤油(いずれも蛋白質を含有する原料)」との関係性も不明であること、及び、実施例1におけるグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸塩)も「蛋白質」の定義に包含されるのか、あるいは「蛋白質を含有する原料」であるのか、あるいは「いずれでもない」のかが不明であることを主張している。
上記主張について検討する。
本件特許発明において特定される「蛋白質」が、「蛋白質を含有する原料及び蛋白質そのものの両方」を意味するものであり、「蛋白質」には「種皮付きホール胡麻及び醤油(いずれも蛋白質を含有する原料)」、及び、実施例1におけるグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸塩)が包含されることは、本件特許の請求項1の記載自体から当業者に明らかである。また、そう理解することは、本件特許の発明の詳細な説明の【0025】の「本発明の胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料は、胡麻及び醤油等の蛋白質原料を含有しており、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料に対して蛋白質を0.5~5%含有する。蛋白質を含有する原料は、胡麻及び醤油以外に、例えば、卵黄等があり、その合計量が0.5~5%となっている。」(下線は説明のため付した。)との記載、及び、【0026】の「本発明における蛋白質とは、高分子化合物に加え、アミノ酸、ペプチド等を含む。」との記載とも整合する。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
4 申立理由4(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「液体調味料の製造方法」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
胡麻、水相及び油相を含む水中油型乳化物を含有する液体調味料の製造方法であって、胡麻、水相及び油相を混合後に乳化を行う際、乳化前に液体調味料原料中に存在する粒径1mm以上の胡麻が、乳化後に40質量%以上残存するように乳化を行う液体調味料の製造方法。」
・「【0007】
従って、本発明の目的は、ドレッシング等の液体調味料において、長期間保存後においても劣化臭を発生させず、焙煎胡麻の擂り立ての軽い香りを維持し、かつ乳化を安定化させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について検討を行ったところ、胡麻を含有する乳化型の液体調味料の製造法においては、乳化する前に胡麻を混合し、かつ乳化の際には胡麻が粉砕される度合いをある程度抑えることにより、製造後の液体調味料の風味と乳化安定性の両立を図ることが可能であることを見出した。」
・「【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により製造された液体調味料は、長期間保存後においても劣化臭を発生させず、焙煎胡麻の擂り立ての軽い香りを維持し、かつ乳化安定性を良好なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法における液体調味料は、水中油型乳化物を含有するものである。乳化物は油相と水相から構成され、油相は食用油脂が主成分である。食用油脂としては、動物性、植物性のいずれでも良く、例えば、動物油としては牛脂、豚脂、魚油等、植物油としては大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油、胡麻油、オリーブ油等が挙げられるが、風味、実用性の点から、大豆油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、胡麻油等の植物油を用いることが好ましい。また、これら食用油脂の硬化油、分別油、エステル交換油等を使用することもできる。」
・「【0019】
本発明の液体調味料の製造方法において、乳化物を構成する水相は水が主成分であり、その他の成分として食酢、塩、醤油、味噌、香辛料、糖、蛋白質素材、有機酸、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、動植物エキス、発酵調味料、酒類、デンプン、増粘剤、安定剤、乳化剤、着色料等の各種添加剤等を適宜含有させることができる。特に、乳化物を安定化させるためには、増粘剤、安定剤、乳化剤を含有させることが好ましい。増粘剤の具体例としては、特に限定されるものではないが、キサンタンガム、カラギーナン、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、モナトウガム、アラビアガム、アルギン酸塩類、トラガントガム、ポリデキストロース、セルロース類、加工澱粉類、プルラン、カードラン、卵黄、ペクチン、ゼラチン、寒天、大豆多糖類等の天然物やカルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等の化学合成品のガム類等が挙げられる。安定剤の具体例としては、ラクトアルブミン等の乳蛋白、澱粉類等が挙げられる。乳化剤の具体例としては、卵黄液、カゼイン、ゼラチンの他、モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等、一般に食品に使用可能な乳化剤が挙げられる。
【0020】
また、水相のpHは5.5以下であることが保存性の点から好ましく、更に4.7~3、特に4.5~3.5、殊更4.2~3.7の範囲が好ましい。この範囲にpHを低下させるためには、食酢、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、レモン果汁等の酸味料を使用することができるが、保存性を良くする点、加工直後の具材の風味成分を維持する点から食酢を用いることが好ましい。食酢は穀物酢、りんご酢、ビネガー類など様々な種類を用いることができ、その配合量は、液体調味料中に3~20%、更に5~15%、特に6~10%が好ましい。」
・「【0057】
実施例8
〔乳化物の調製法2〕
表1に示す配合に従って水相調味液成分を混合し、TKホモディスパーで均一に分散し、これに別途白胡麻の洗い胡麻30gをフライパンに入れ、ガス流量5L/minの火力にて2分間加熱焙煎し、焙煎粒胡麻としたものを加え、85℃にて10分攪拌しながら加熱殺菌後冷却し、水相を得た。当該水相と油相を表2に示す配合に従って混合し、その一部を採取して下記に記す胡麻の粒径の測定法に基づき粒径を測定した後、85℃にて10分攪拌しながら加熱殺菌した。これをミクロカッターを用い、回転数3600rpm、リングカッタースリット幅を3.0mmとし、2パスすることで乳化物を得た。乳化後の液体調味料中の胡麻の粒径を、同様に下記測定法に基づき測定した。結果を表2に示す。」
・「【0062】
【表1】
[図:0001400512000001.jpg]
【0063】
【表2】
[図:0001400512000002.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を特に請求項1及び実施例8に関して整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
<甲2発明>
「水16.65質量部、キサンタンガム0.05質量部、液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)1質量部、食酢(酸度15%)5質量部、砂糖11質量部、グルタミン酸ナトリウム0.3質量部、醤油15質量部、食塩1.5質量部、10%加塩卵黄1.5質量部を水相調味液成分として混合し、TKホモディスパーで均一に分散し、これに別途白ごまの洗い胡麻30gを焙煎し焙煎粒胡麻としたものを8質量部加え、加熱殺菌後冷却して得た水相と、DAG40質量部、フレーバーオイル0.1質量部を含む油相を混合後、加熱殺菌して乳化する、水中油型乳化物を含有する液体調味料の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明は水相及び油相を計100.1質量部含むものであるから、甲2発明の「白ごまの洗い胡麻30gを焙煎し焙煎粒胡麻としたものを8質量部」は、本件特許発明1の「種皮付きホール胡麻を1~20%」と、「胡麻を1~20%」との限りにおいて一致する。
甲2発明は水相及び油相を計100.1質量部含むものであるから、甲2発明の「醤油15質量部」は、本件特許発明1の「醤油を1~40%」との特定事項を満たす。
甲2発明は、水相及び油相計100.1質量部中に「液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)1質量部」及び「砂糖11質量部」を含むものであるから、甲2発明は、本件特許発明1の「果糖を5~30%」との特定事項を、「糖を5~30%」との限りにおいて満たす。
甲2発明の「グルタミン酸ナトリウム」、「醤油」、「10%加塩卵黄」、「白ごまの洗い胡麻30gを焙煎し焙煎粒胡麻としたもの」は蛋白質を含むから、甲2発明は、本件特許発明1の「蛋白質を0.5~5%」「含有」するとの特定事項を、「蛋白質を含有」との限りにおいて満たす。
甲2発明の「DAG」及び「フレーバーオイル」は脂質であり、「白ごまの洗い胡麻30gを焙煎し焙煎粒胡麻としたもの」は脂質を含むから、甲2発明は、本件特許発明1の「脂質を1~75%含有し」との特定事項を、「脂質を含有し」との限りにおいて満たす。
甲2発明は「食酢」を含有するから、本件特許発明1の「酢酸を含有し」との特定事項を満たすものであり、甲2発明の「液体調味料」が「酸性」を呈することは明らかである。
甲2発明は、胡麻を含み、かつ、「水中油型乳化物を含有する液体調味料」である。そうすると、甲2発明は、本件特許発明1の「胡麻含有」「水中油型乳化液状調味料」との特定事項を満たす。
甲2発明の「水16.65質量部、キサンタンガム0.05質量部、液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)1質量部、食酢(酸度15%)5質量部、砂糖11質量部、グルタミン酸ナトリウム0.3質量部、醤油15質量部、食塩1.5質量部、10%加塩卵黄1.5質量部を水相調味液成分として混合し、TKホモディスパーで均一に分散し、これに別途白ごまの洗い胡麻30gを焙煎し焙煎粒胡麻としたものを8質量部加え、加熱殺菌後冷却して得た水相と、DAG40質量部、フレーバーオイル0.1質量部を含む油相を混合後、加熱殺菌して乳化する」は、本件特許発明1の「少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程と、前記水相に油脂を添加して、乳化処理を行う工程とを含む」との特定事項を満たす。
甲2発明は、甲2の表2の記載からみて、胡麻を油相中に加えるものではないから、本件特許発明1の「但し、胡麻を油相中で粉砕した後、他の原料と混合する工程を含むものを除く」との特定事項を満たすことも明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「種皮付きホール胡麻を1~20%、醤油を1~40%、蛋白質、糖を5~30%、脂質を含有し、かつ酢酸を含有する胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法において、
少なくとも、清水、種皮付きホール胡麻、醤油、蛋白質、及び果糖を混合して、水相を調製する工程と、
前記水相に油脂を添加して、乳化処理を行う工程と
を含む、胡麻含有酸性水中油型乳化液状調味料の製造方法(但し、胡麻を油相中で粉砕した後、他の原料と混合する工程を含むものを除く)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「胡麻」に関し、本件特許発明1は「種皮付きホール胡麻」と特定されているのに対し、甲2発明においては、「白ごまの洗い胡麻30gを焙煎し焙煎粒胡麻としたもの」である点。
<相違点2>
「蛋白質」の含有量に関し、本件特許発明1は「0.5~5%」と特定されているのに対し、甲2発明においては含有量が不明である点。
<相違点3>
「糖」に関し、本件特許発明1は「果糖を5~30%」と特定されているのに対し、甲2発明においては「液糖(サンエイ糖化(株)、ダイヤトールK)1質量部」及び「砂糖11質量部」である点。
<相違点4>
「脂質」の含有量に関し、本件特許発明1は「1~75%」と特定されているのに対し、甲2発明においては含有量が不明である点。
<相違点5>
本件特許発明1が「pH3.0~4.6である」と特定されるのに対し、甲2発明のpHが不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲2及び他の証拠には、甲2発明において、保管後においても胡麻特有の芳香を十分に保持するために、糖として果糖を5~30%用いることの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲2発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。 したがって、本件特許発明2ないし9は、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由4についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700407