特許異議申立
2023-700384
繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-700384
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-105603
- 登録番号
- 7179495
- 請求日
- 2023年04月14日
- 審決日
- 2024年05月02日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大王製紙株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人永井国際特許事務所
- 【異議申立人】川▲崎▼ 義孝
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.537-YAA(C08J) / P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法113条2号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7179495号発明「繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7179495号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3ないし5〕について訂正することを認める。
特許第7179495号の請求項1、2、4及び5に係る特許を維持する。
特許第7179495号の請求項3に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7179495号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年5月31日の出願であって、令和4年11月18日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年4月14日に特許異議申立人 川▲崎▼ 義孝(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年5月24日に特許異議申立人から上申書が提出され、同年8月10日付けで取消理由が通知され、同年10月13日に特許権者 大王製紙株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年11月24日付けで手続補正指令(方式)が通知され、同年12月27日に特許権者から手続補正書(方式)が提出され、令和6年1月18日に特許権者から手続補正書(方式)が提出され、同年2月9日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対して特許異議申立人から何ら応答がなかったものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年12月27日に提出された手続補正書(方式)及び令和6年1月18日に提出された手続補正書(方式)により補正された令和5年10月13日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。また、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「前記変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する、
請求項3に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【化1】
[図:0001413298000001.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。」と記載されているのを、「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ、
前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
◎【化1】
[図:0001413298000002.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「前記多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する、
請求項3又は請求項4に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【化2】
[図:0001413298000003.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。また、構造式(5)において、n,m,bは自然数であり(n=m×b、nは2以上)、αは有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。」と記載されているのを、「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ、
前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
◎【化2】
[図:0001413298000004.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。また、構造式(5)において、n,m,bは自然数であり(n=m×b、nは2以上)、αは有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許明細書の【0011】を削除する。
(5)訂正事項5
本件特許明細書の【0012】を削除する。
(6)訂正事項6
本件特許明細書【0013】の「(請求項4に記載の手段)
前記変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する、
請求項3に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【化1】
[図:0001413298000005.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。」との記載を、「(請求項4に記載の手段)
木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ、
前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
◎【化1】
[図:0001413298000006.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。」に訂正する。
(7)訂正事項7
本件特許明細書【0014】の「(請求項5に記載の手段)
前記多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する、
請求項3又は請求項4に記載の繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」との記載を「(請求項5に記載の手段)
木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ、
前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項3についての訂正について
訂正事項1による請求項3についての訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項4についての訂正について
訂正事項2による請求項4についての訂正は、訂正前の請求項4が請求項3を引用していたのを、請求項3の記載を引用しない独立形式に書き下すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項5についての訂正について
訂正事項3による請求項5についての訂正は、訂正前の請求項5が請求項3又は4を引用していたのを、請求項4を引用するものを削除し、請求項3を引用するものについて請求項3の記載を引用しない独立形式に書き下すものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)本件特許明細書の【0011】及び【0012】についての訂正について
訂正事項4による本件特許明細書の【0011】及び訂正事項5による同【0012】についての訂正は、訂正事項3による訂正により請求項3を削除したことに伴い、発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載との整合をとるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4による本件特許明細書の【0011】及び訂正事項5による同【0012】についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)本件特許明細書の【0013】についての訂正について
訂正事項6による本件特許明細書の【0013】についての訂正は、訂正事項2による訂正により請求項4を訂正したことに伴い、発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載との整合をとるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項6による本件特許明細書の【0013】についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)本件特許明細書の【0014】についての訂正について
訂正事項7による本件特許明細書の【0014】についての訂正は、訂正事項3による訂正により請求項5を訂正したことに伴い、発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載との整合をとるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項6による本件特許明細書の【0014】についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし3による請求項3ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項4ないし7による明細書についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。
さらに、訂正事項1ないし7による請求項3ないし5及び明細書についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項3ないし5は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1ないし3による請求項3ないし5についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項4ないし7による明細書についての訂正は、当該訂正に係る一群の請求項3ないし5の全てについて本件訂正は請求されているので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3ないし5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
木材パルプ由来の繊維状セルロースの粉末及び樹脂の混練物であり、
前記繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上のマイクロ繊維セルロースで、かつヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂。
◎【化1】
[図:0001413298000007.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。
【請求項2】
前記繊維状セルロースは、粉末状で、かつ水分率50%以下である、
請求項1に記載の繊維状セルロース複合樹脂。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ、
前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
◎【化1】
[図:0001413298000008.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。
【請求項5】
木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ、
前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
◎【化2】
[図:0001413298000009.jpg]
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。また、構造式(5)において、n,m,bは自然数であり(n=m×b、nは2以上)、αは有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和5年4月14日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、マイクロ繊維セルロースの配合割合がいかなる場合であっても、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法が提供されることは理解できない。したがって、「マイクロ繊維セルロース及び樹脂の配合割合」が規定されていない本件特許発明1及び3並びにこれを引用する本件特許発明2、4及び5はサポート要件を満足するとはいえない。
(2)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、繊維状セルロースの平均繊維幅を「1~15μm」とすることで、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法が提供されることは理解できない。したがって、繊維状セルロースの平均繊維幅が「1~15μm」という範囲を包含する本件特許発明1及び3並びにこれを引用する本件特許発明2、4及び5はサポート要件を満足するとはいえない。
(3)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、繊維状セルロースのアスペクト比を「2~1000」とすることで、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法が提供されることは理解できない。したがって、繊維状セルロースのアスペクト比が「2~1000」という広い範囲を包含する本件特許発明1及び3並びにこれを引用する本件特許発明2、4及び5はサポート要件を満足するとはいえない。
(4)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、混練に際して、マイクロ繊維セルロースを「無水フタル酸」、「フタル酸」、並びに請求項5に記載の構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類以外の「他の多塩基酸類」で変性させる場合に、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂の製造方法が提供されることは理解できない。したがって、「多塩基酸類」の種類やその構造式が規定されていない本件特許発明3及びこれを引用する本件特許発明4及び5はサポート要件を満足するとはいえない。
(5)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、そもそも、マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部が、請求項1及び4に記載の構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されているかどうか不明であるだけでなく、構造式(1)及び又は構造式(2)に含まれるすべての官能基で置換されている場合に、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法が提供されることは理解できない。したがって、上記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基という極めて広い範囲を包含する本件特許発明1及び4並びにこれを引用する本件特許発明2及び5はサポート要件を満足するとはいえない。
(6)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、請求項5に記載の構造式(4)及び構造式(5)で示す多塩基酸類を使用する場合だけでなく、請求項5に記載の構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)に含まれるすべての多塩基酸類を使用する場合に、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂の製造方法が提供されることは理解できない。したがって、「構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する」という極めて広い範囲を包含する本件特許発明5はサポート要件を満足するとはいえない。
(7)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、繊維状セルロースの水分率がいかなる場合であっても、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法が提供されることは理解できない。したがって、「繊維状セルロースの水分率」が規定されていない本件特許発明1及び3並びにこれを引用する本件特許発明2、4及び5はサポート要件を満足するとはいえない。
(8)本件特許出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の本文及び実施例の記載からは、マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基が官能基で置換される程度(置換度)がいかなる場合であっても、強度の高い繊維状セルロース複合樹脂及びその製造方法が提供されることは理解できない。したがって、「置換度」が規定されていない本件特許発明1及び3並びにこれを引用する本件特許発明2、4及び5はサポート要件を満足するとはいえない。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第5号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(甲第6号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 証拠方法
甲第1号証:特開2012―201852号公報
甲第2号証:A. Sato et al./Composites: Part A 83 (2016) 72-79, Surface modification of cellulose nanofibers with alkenyl succinic anhydride for high-density polyethylene reinforcement, Available online 10 November 2015(http://dx.doi.org/10.1016/j.compositesa.2015.11.009)
甲第3号証:特開2012―236906号公報
甲第4号証:「NPファイバー」のインターネットサイト、日本製紙グループのホームページ (https://www.nipponpapergroup.com/products/chemical/functional_cellulose/kcflock.html)
甲第5号証:特開2014―193959号公報
甲第6号証:特開2010―106251号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和5年8月10日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由は申立理由1(4)のうちの請求項3に対する理由とおおむね同旨である。
(サポート要件)
本件特許の請求項3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・当業者は、「マイクロ繊維セルロース及び樹脂の混練物であり、マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部が構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている、繊維状セルロース複合樹脂。」及び該「繊維状セルロース複合樹脂」の「製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
しかし、本件特許発明3は、「前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させる」と特定されているのみであり、ここで、「多塩基酸(類)」とは、酸1分子が2個以上のH+を供与できる酸のことを意味するから、「多塩基酸(類)」には、カルボン酸だけでなく、リン酸(H3PO4)、二リン酸(H4P2O7)及び硫酸(H2SO4)等も含まれる。
そうすると、本件特許発明3は、本件特許発明4のように「マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する」、すなわち、カルボン酸エステル化することが特定されている訳ではないし、本件特許発明5のように「マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する」と考えられる「構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類」を使用することが特定されている訳ではないから、本件特許発明3の「多塩基酸類で変性させ」て生産された「繊維状セルロース複合樹脂」中の「マイクロ繊維セルロース」には、「そのヒドロキシル基の一部又は全部が構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されているもの」以外のものも包含される。
したがって、本件特許発明3は、上記発明の課題を解決できると認識できる「繊維状セルロース複合樹脂」の「製造方法」であるとはいえない。
よって、本件特許発明3に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものであるとはいえない。
第6 取消理由についての当審の判断
本件訂正により、取消理由の対象である請求項3は削除された。
したがって、取消理由は解消した。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由についての当審の判断
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は次のとおりである。
・申立理由1(サポート要件)(1)ないし(3)、(4)のうちの請求項4及び5に対する理由並びに(5)ないし(8)
・申立理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)
・申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)
・申立理由4(甲5に基づく進歩性)
・申立理由5(甲6に基づく進歩性)
以下、順に検討する。
1 申立理由1(サポート要件)(1)ないし(3)、(4)のうちの請求項4及び5に対する理由並びに(5)ないし(8)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題は「強度の高い繊維状セルロース複合樹脂を提供すること」であり、本件特許発明4及び5の解決しようとする課題は「強度の高い繊維状セルロース複合樹脂の製造方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
発明の詳細な説明の【0003】には「樹脂の補強材としてセルロースナノファイバーを使用する場合、当該セルロースナノファイバーが多糖類の水酸基に由来する分子間水素結合により不可逆的に凝集する。したがって、セルロースナノファイバーを補強材として使用しても、樹脂中におけるセルロースナノファイバーの分散性が悪いことを原因として樹脂の補強効果が十分に発揮されないとの問題がある。」と記載され、同【0004】には「この点に関連して、例えば、特許文献1は、溶剤中に分散しやすいセルロースナノファイバーの製造方法として、カルボキシル基が分子内で脱水縮合し環状構造を形成した環状無水多塩基酸構造を分子内に有する樹脂をセルロースに反応させて変性し、この変性セルロースを微細化して変性セルロースナノファイバーを製造する方法を提案する。しかしながら、本発明者等が知見するところによると、同提案の方法によっても樹脂中におけるセルロースナノファイバーの分散性が十分なものとはならない。また、同提案の方法は、セルロースを変性するのに有機溶媒の使用を提案しているが、この提案には経済性及び溶媒処理の問題が存在する。」と記載され、同【0008】には「本発明者らは、上記課題を解決するためにセルロースナノファイバー(セルロース微細繊維)に様々な処理を施し、またセルロースナノファイバーと樹脂との混練方法を模索した。つまり、セルロースナノファイバーの使用を前提として様々な研究を行った。しかしながら、セルロースナノファイバーを樹脂に複合する際、疎水変性を施しても樹脂中での分散性が十分でなく、樹脂中で十分な三次元ネットワークを形成することが困難で、十分な補強効果が得られなかった。しかるに、その研究の過程において、原料繊維を疎水変性する場合においては、原料繊維がセルロースナノファイバーであるよりもマイクロ繊維セルロースである方が、樹脂中での分散性が良好であり、樹脂中において十分な三次元ネットワークを形成させることが可能であり、良好な補強効果が得られることを見出し、上記課題を解決するうえで好ましいことを知見し、本発明を想到するに至った。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0009】ないし【0015】には、本件特許発明1、2、4及び5に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0041】には「微細化(解繊)処理は、マイクロ繊維セルロースの数平均繊維径(繊維幅。単繊維の直径平均。)が1μm以上となる範囲で行うのが好ましく、1~15μmとなる範囲で行うのがより好ましく、1~9μmとなる範囲で行うのが特に好ましい。数平均繊維径(幅)が1μm以上となる範囲で行うことで、繊維状セルロース複合樹脂の強度が向上する。」と記載され、同【0042】には「具体的には、平均繊維径を1μm未満にすると、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、補強効果(特に曲げ弾性率)が十分に得られなくなる。また、微細化処理の時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になり、製造コストの増加につながる。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0084】ないし【0095】には、「多塩基酸類」に関して記載されている。
発明の詳細な説明の【0129】ないし【0136】には、「マイクロ繊維セルロース」と「樹脂」との混練に際して、「多塩基酸類」として「無水フタル酸」又は「フタル酸」を使用し、「マイクロ繊維セルロース」のヒドロキシル基の一部又は全部がカルボン酸エステル化されていると考えられる実施例が、そうでない比較例よりも曲げ試験の評価が高いことを確認する記載がある。
以上を踏まえると、当業者は、「マイクロ繊維セルロース及び樹脂の混練物であり、マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部が構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている、繊維状セルロース複合樹脂」(当審注:「構造式(1)」及び「構造式(2)」については、上記第3の【請求項1】及び【請求項4】参照。以下、同様。)及び「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
また、「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用」(当審注:「構造式(3)」、「構造式(4)」及び「構造式(5)」については、上記第3の【請求項5】参照。以下、同様。)すれば、「マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部が構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換」されることは、当業者であれば予測できるから、当業者は、「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する、繊維維状セルロース複合樹脂の製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1及び2は発明の課題を解決できると認識できる上記「繊維状セルロース複合樹脂」をさらに限定したものであり、本件特許発明4及び5は発明の課題を解決できると認識できる上記「繊維状セルロース複合樹脂」の「製造方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1、2、4及び5に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)申立理由1のうちの個々の理由について
ア 申立理由1(1)について
上記(2)のとおり、「マイクロ繊維セルロース」の配合割合は発明の課題を解決できる範囲の認定とは関係がない。
また、「マイクロ繊維セルロース」の配合割合によっては、発明の課題を解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由1(1)の理由は採用できない。
イ 申立理由1(2)について
上記(2)のとおり、「マイクロ繊維セルロース」の長さの上限値は発明の課題を解決できる範囲の認定とは関係がない。
また、「マイクロ繊維セルロース」の長さが「1~15μm」の範囲内でも発明の課題を解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由1(2)の理由は採用できない。
ウ 申立理由1(3)について
上記(2)のとおり、「マイクロ繊維セルロース」のアスペクト比は発明の課題を解決できる範囲の認定とは関係がない。
また、「マイクロ繊維セルロース」のアスペクト比が「2~1000」の範囲内でも発明の課題を解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由1(3)の理由は採用できない。
エ 申立理由1(4)のうちの請求項4及び5に対する理由について
上記(2)のとおり、本件特許発明4及び5は、発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものである。
また、本件特許発明4及び5において特定される発明特定事項を全て有する製造方法でも発明の課題を解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由1(4)のうちの請求項4及び5に対する理由は採用できない。
オ 申立理由1(5)について
発明の詳細な説明に記載された実施例1ないし6は、無水フタル酸又はフタル酸を添加後に混練するものであるが、無水フタル酸を混練後に添加する比較例3と比べて、曲げ試験の評価結果が優れていることから、当業者であれば、比較例3は「下記構造式(1)又は(2)に示す官能基」で置換されておらず、実施例1ないし6は「下記構造式(1)又は(2)に示す官能基」で置換されていると理解する。
また、実施例1ないし6が「下記構造式(1)又は(2)に示す官能基」で置換されていないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、発明の詳細な説明の記載から、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記(2)のとおりである。
よって、申立理由1(5)の理由は採用できない。
カ 申立理由1(6)について
上記(2)のとおり、「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用」すれば、「マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部が構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換」されることは、当業者であれば予測できる。
また、「多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用」して「前記マイクロ繊維セルロース」を変性させても、「マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部が構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換」されず、その結果、発明の課題が解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由1(6)の理由は採用できない。
キ 申立理由1(7)について
上記(2)のとおり、「繊維状セルロース」の含水率は発明の課題を解決できる範囲の認定とは関係がない。
また、「繊維状セルロース」の含水率によっては発明の課題を解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由1(7)の理由は採用できない。
ク 申立理由1(8)について
上記(2)のとおり、「構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基」の置換率は発明の課題を解決できる範囲の認定とは関係がない。
また、「構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基」の置換率によっては発明の課題を解決できない場合があることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、申立理由1(8)の理由は採用できない。
(4)申立理由1(1)ないし(3)、(4)のうちの請求項4及び5に対する理由並びに(5)ないし(8)についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由1(1)ないし(3)、(4)のうちの請求項4及び5に対する理由並びに(5)ないし(8)によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「セルロース配合フィルム及びセルロース配合フィルムの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0032】
(実施例1)
広葉樹の晒クラフトパルプ(L-BKP)のパルプシート(温度を80℃に設定した乾燥器に24時間保持して水分を乾燥させたもの)を用意し、粉砕機((株)ホーライ製、商品名:BO-2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、解繊機(ターボ工業(株)製、商品名:ターボミルT-250)に粗粉砕物を投入して該パルプシートを解繊し、解繊された繊維状セルロースを得た。なお、該セルロースの水分含有率は5質量%であった。得られたセルロース繊維をジェットミル(STJ-750、(株)セイシン企業製)にて微粉砕化し、平均繊維長が18μmでアスペクト比(繊維径/繊維長)が1.0のセルロース粉末(名称:A-1)を得た。セルロース粉末の平均繊維長と繊維径は、繊維長測定機(FiberQuality Analyzer、(株)OpTest Equipment製)を用いて測定し、繊維長は長さ加重平均繊維長により規定し、繊維径は数平均繊維径により規定した。なお、該セルロース粉末の含水率は、5質量%であった。
【0033】
セルロース粉末(A)(名称:A-1)15質量部(以下、絶乾質量に換算した値を記す)、オレフィン系樹脂(B)(株)プライムポリマー製、商品名:ネオゼックス(登録商標)0144N、弾性率:220MPa)83.8質量部、酸無水物構造を有する化合物(C)(マレイン酸無水物変性ポリエチレン樹脂、(株)三井化学製、商品名:ハイワックス1105A)1.2質量部を予備混合した後に、混練装置として二軸押出機(型式:KZW25TWIN、(株)TECHNOVEL製、スクリュー径25mm、L/D=30、ベントポート1箇所(水蒸気解放機構、大気圧へ水蒸気を解放するタイプ))を用いて、シリンダー温度170℃、スクリュー回転数100回転にて混練し、セルロース配合熱可塑性樹脂組成物を得た。なお、該セルロース配合熱可塑性樹脂組成物の含水率は0.01質量%であった。」
・「【0045】
(実施例12)
酸無水物構造を有する化合物(C)を、スチレン無水マレイン酸(ノバ ケミカルズ製、商品名:ダイラーク(登録商標)D332)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ピンホールのないセルロース配合フィルム(膜厚:42μm)を得た。
【0046】
(実施例13)
酸無水物構造を有する化合物(C)を、コハク酸無水物(新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)SA)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ピンホールのないセルロース配合フィルム(膜厚:38μm)を得た。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例12及び13に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1樹脂発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1樹脂発明>
「広葉樹の晒クラフトパルプ(L-BKP)(温度を80℃に設定した乾燥器に24時間保持して水分を乾燥させたもの)から得た平均繊維長が18μmでアスペクト比(繊維長/繊維径)が1.0のセルロース粉末(A)15質量部、オレフィン系樹脂(B)((株)プライムポリマー製、商品名:ネオゼックス(登録商標)0144N、弾性率:220MPa)83.8質量部、スチレン無水マレイン酸(ノバ ケミカルズ製、商品名:ダイラーク(登録商標)D332)又はコハク酸無水物(新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)SA)1.2質量部を予備混合した後に、混練装置として二軸押出機(型式:KZW25TWIN、(株)TECHNOVEL製、スクリュー径25mm、L/D=30、ベントポート1箇所(水蒸気解放機構、大気圧へ水蒸気を解放するタイプ))を用いて、シリンダー温度170℃、スクリュー回転数100回転にて混練し、得たセルロース配合熱可塑性樹脂組成物。」
<甲1製法発明>
「広葉樹の晒クラフトパルプ(L-BKP)(温度を80℃に設定した乾燥器に24時間保持して水分を乾燥させたもの)から得た平均繊維長が18μmでアスペクト比(繊維長/繊維径)が1.0のセルロース粉末(A)15質量部、オレフィン系樹脂(B)((株)プライムポリマー製、商品名:ネオゼックス(登録商標)0144N、弾性率:220MPa)83.8質量部、スチレン無水マレイン酸(ノバ ケミカルズ製、商品名:ダイラーク(登録商標)D332)又はコハク酸無水物(新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)SA)1.2質量部を予備混合した後に、混練装置として二軸押出機(型式:KZW25TWIN、(株)TECHNOVEL製、スクリュー径25mm、L/D=30、ベントポート1箇所(水蒸気解放機構、大気圧へ水蒸気を解放するタイプ))を用いて、シリンダー温度170℃、スクリュー回転数100回転にて混練する、セルロース配合熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1樹脂発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の繊維状セルロースの粉末及び樹脂の混練物である繊維状セルロース複合樹脂。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1a>
本件特許発明1においては、「前記繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上のマイクロ繊維セルロース」と特定されているのに対し、甲1樹脂発明においては、「平均繊維長が18μmでアスペクト比(繊維径/繊維長)が1.0のセルロース粉末(A)」と特定されている点。
<相違点1-1b>
本件特許発明1においては、「前記繊維状セルロース」は「ヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている」と特定されているのに対し、甲1樹脂発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点1-1aについて検討する。
甲1樹脂発明においては、「アスペクト比(繊維径/繊維長)」は「1.0」であるから、「2~1000」の範囲外であり、「セルロース粉末(A)」の「平均繊維長」は「18μm」で「アスペクト比(繊維径/繊維長)」が「1.0」であるから、その「平均繊維幅」は「18μm」と計算され、「1~15μm」の範囲外である。
そうすると、相違点1-1aは実質的な相違点である。
また、甲1樹脂発明において、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲1及び他の証拠にもないから、甲1樹脂発明において相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、「構成要件Bに関し、仮に相違点があったとしても、甲1発明において、構成要件Bを満たすセルロース粉末(A)を備える構成とする程度のことは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎない。また、甲1発明において、セルロース粉末(A)として、複数の市販品の公知材料(広葉樹パルプ乾式粉砕物、実施例2~6)を使用しているところ、それに代えて、より好ましい平均繊維長:「6~30μm」、繊維径:「2.0~30μm」、アスペクト比(繊維長/繊維径):「1.0~3.0」である市販品の公知材料として、甲3記載の「平均繊維長(L)30μm、平均繊維径(D):10μm、アスペクト比(L/D):3」である「W-10MG2」を適用することは、当業者が適宜なし得る公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない。」(特許異議申立書第44及び45ページ)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
甲1樹脂発明において、本件特許発明1で特定されるアスペクト比及び平均繊維幅の数値範囲を満たしていないことが明らかな「セルロース粉末(A)」のアスペクト比及び平均繊維幅を、相違点1に係るアスペクト比及び平均繊維幅を満たすものとすることについて、甲1及び他のいずれの証拠をみてもその動機となる記載はない以上、これを相違点1に係るアスペクト比及び平均繊維幅の数値範囲内とすることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎないとはいえず、また、甲3記載の「W-10MG2」の適用が、当業者が適宜なし得る公知材料の中からの最適材料の選択にすぎないものであるともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、相違点1-1bについて検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1樹脂発明であるとはいえないし、甲1樹脂発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1樹脂発明であるとはいえないし、甲1樹脂発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とする、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-4a>
本件特許発明4においては、「前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、「平均繊維長が18μmでアスペクト比(繊維径/繊維長)が1.0」の「セルロース粉末(A)」を「得る」と特定されている点。
<相違点1-4b>
本件特許発明4においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点1-4aについて検討する。
相違点1-4aは、相違点1-1aと同様に、実質的な相違点である。
また、甲1製法発明において、相違点1-4aに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲1及び他の証拠にもないから、甲1製法発明において相違点1-4aに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、相違点1-4bについて検討するまでもなく、本件特許発明4は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とする、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-5a>
本件特許発明5においては、「前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめ」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、「平均繊維長が18μmでアスペクト比(繊維径/繊維長)が1.0」の「セルロース粉末(A)」を「得る」と特定されている点。
<相違点1-5b>
本件特許発明5においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点1-5aについて検討する。
相違点1-5aは、相違点1-1aと同様に、実質的な相違点である。
また、甲1製法発明において、相違点1-5aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲1及び他の証拠にもないから、甲1製法発明において相違点1-5aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、相違点1-5bについて検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「樹脂組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0072】
実施例および比較例で使用した材料は、以下の通りである。
【0073】
・成分(a)熱可塑性樹脂
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、J139)。溶融温度170℃。」
・「【0076】
(b-2)日本製紙ケミカル株式会社製、NPファイバー(登録商標) W-10MG2、平均繊維長(L)30μm、平均繊維径(D):10μm、アスペクト比(L/D):3。」
・「【0084】
【表3】
[図:0001413298000010.jpg]
」
・「【0085】
(実施例1)
成分(c-1)ポリビニルアルコールの水溶液 3kg(濃度:5質量%)を、30Lヘンシェルミキサーの中に入れ、攪拌しながら、成分(b-1)セルロース繊維の水スラリー 15kg(濃度:5質量%)を5分かけて入れた。さらに、1500rpm以下で10分間攪拌子、成分(c-1)、成分(b-1)、および水を含む混合物を18kg得た。この混合物全量を、スプレードライヤーを用いて水分を除去し、成分(c-1)および成分(b-1)を含む乾燥混合物を得た。この乾燥混合物中の水分量は、5質量%であった。
【0086】
上記で得られた乾燥混合物をヘンシェルミキサーに入れ、30分間粉砕処理を行い、粉末状の乾燥混合物を得た。二軸押出機を用いて、ホッパーより成分(a-1)ポリプロピレンと成分(d-1)変性オレフィン樹脂とを供給した。さらに、サイドフィードにより、上記粉末状の乾燥混合物を目的の濃度になるように計量しながら供給し、溶融混練を行い、目的とする樹脂組成物のペレットを製造した。」
・「【0089】
(実施例2~22、比較例1~7)
下記表7~9に示す配合比で、成分(a)~(d)、ならびに必要に応じて成分(e)を二軸押出機に投入し、溶融混練し、組成物をペレット化した。その後、ペレットを120トンの射出成形機で、上記表4に示す条件で8.5mm×5mm×厚さ3mmのシートに成形した。」
・「【0099】
【表9】
[図:0001413298000011.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に実施例21に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、順に「甲3樹脂発明」及び「甲3製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3樹脂発明>
「成分(a)(ポリプロピレン)55.8部、成分(b-2)(日本製紙ケミカル株式会社製、NPファイバー(登録商標) W-10MG2、平均繊維長(L)30μm、平均繊維径(D):10μm、アスペクト比(L/D):3。)30.2部、成分(c-1)(ポリビニルアルコール)10部、成分(d-1)(変性オレフィン樹脂)4部及び(e-4)金属石鹸(日東化成工業株式会社製、Ca-St(ステアリン酸カルシウム)0.5部を二軸押出機に投入し、溶融混練し、ペレット化した組成物。」
<甲3製法発明>
「成分(a)(ポリプロピレン)55.8部、成分(b-2)(日本製紙ケミカル株式会社製、NPファイバー(登録商標) W-10MG2、平均繊維長(L)30μm、平均繊維径(D):10μm、アスペクト比(L/D):3。)30.2部、成分(c-1)(ポリビニルアルコール)10部、成分(d-1)(変性オレフィン樹脂)4部及び(e-4)金属石鹸(日東化成工業株式会社製、Ca-St(ステアリン酸カルシウム)0.5部を二軸押出機に投入し、溶融混練し、ペレット化する組成物の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3樹脂発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の繊維状セルロースの粉末及び樹脂の混練物であり、
前記繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上のマイクロ繊維セルロースである、繊維状セルロース複合樹脂。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、「前記繊維状セルロース」は「ヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている」と特定されているのに対し、甲3樹脂発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点3-1について検討する。
甲3樹脂発明において用いられる「Ca-St(ステアリン酸カルシウム)」は、融点が高く(例えば、特開平6-192526号公報の【0016】及び特開2017-179491号公報の【0032】参照。)、非常に安定な化合物であり、「Ca-St」から「Ca」は外れないので、単に繊維に付着している(例えば、甲6の【0066】参照。)だけで、繊維を変性させるとは考えられない。すなわち、甲3樹脂発明において、「成分(b-2)(日本製紙ケミカル株式会社製、NPファイバー(登録商標) W-10MG2、平均繊維長(L)30μm、平均繊維径(D):10μm、アスペクト比(L/D):3。)」が「ヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている」とは考えられない。
そうすると、相違点3-1は実質的な相違点である。
また、甲3樹脂発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲3及び他の証拠にもないから、甲3樹脂発明において相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は甲3樹脂発明であるとはいえないし、甲3樹脂発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3樹脂発明であるとはいえないし、甲3樹脂発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲3製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするとするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめる、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-4>
本件特許発明4においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する」と特定されているのに対し、甲3製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点3-4について検討する。
相違点3-4は、相違点3-1と同様に、実質的な相違点である。
また、甲3製法発明において、相違点3-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲3及び他の証拠にもないから、甲3製法発明において相違点3-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件特許発明4は甲3製法発明であるとはいえないし、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲3製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするとするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめる、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-5>
本件特許発明5においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する」と特定されているのに対し、甲3製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点3-5について検討する。
相違点3-5は、相違点3-1と同様に、実質的な相違点である。
また、甲3製法発明において、相違点3-5に係る本件特許発明5の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲3及び他の証拠にもないから、甲3製法発明において相違点3-5に係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件特許発明5は甲3製法発明であるとはいえないし、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲5に基づく進歩性)について
(1)甲5に記載された事項等
ア 甲5に記載された事項
甲5には、「植物繊維含有樹脂組成物及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【実施例】
【0089】
以下において、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明し、好適な各実施例のデータ及び各実施例と各比較例の対照により、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。
【0090】
(植物繊維組成物繊維の製造)
[繊維スラリー]
針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、JIS P8121に従って測定されるカナダ標準濾水度(CSF)550ml)を、熊谷理化工業製ダブルディスクリファイナーを用い叩解した。繊維水スラリーに含まれる繊維の平均繊維長は0.66mm、平均繊維幅は300nmであった。」
・「【0092】
[植物繊維組成物(B-1)の製造]
上記、繊維スラリー70部(固形分換算)と、上記、樹脂エマルション30部(固形分換算)と混合した。
この混合スラリーを攪拌しながらカチオン性高分子歩留剤ND-200C(ハイモ社製)46ppmを添加し、更にアニオン性高分子歩留剤FA-230(ハイモ社製)46ppmを添加した。
次いで、その混合分散液を、日本フィルコン社製の二重織りのプラスチックワイヤー上で吸引脱水することにより抄紙して、微細繊維状セルロースと樹脂エマルションとで構成された含水ウェブを得た。その含水ウェブを、シリンダーロールを用いて乾燥して、坪量30.8g/m2のシート状の植物繊維含有組成物(B-1)を得た。
【0093】
(実施例1)植物繊維含有樹脂組成物(D-1)の製造
線状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名:F30HG、表中では「LLDPE」と表記する。)5.0kg、植物繊維組成物(B-1)365g、無水マレイン酸(日油株式会社製、商品名:SY-A)12.5gをヘンシェルミキサーで十分混合後、50mm単軸押出機を用い、設定温度160℃、回転速度80回/分で混練し、ダイスから吐出されたストランドをペレット形状に加工した。得られたペレットを、ラボプラストミルのミキサー(株式会社東洋精機製作所製、ローラミキサR60)を用い、設定温度160℃、回転速度75回転/分、で10分間混練した。混練後、ミキサーから混練物を回収し、植物繊維含有樹脂組成物(D-1)を得た。」
イ 甲5に記載された発明
甲5に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲5には次の発明(以下、順に「甲5樹脂発明」及び「甲5製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲5樹脂発明>
「線状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名:F30HG)5.0kg、針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、JIS P8121に従って測定されるカナダ標準濾水度(CSF)550ml)を叩解して得た平均繊維長0.66mm、平均繊維幅300nmの繊維を含む植物繊維組成物(B-1)365g、無水マレイン酸(日油株式会社製、商品名:SY-A)12.5gを混合、混練して得た植物繊維含有樹脂組成物(D-1)。」
<甲5製法発明>
「線状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名:F30HG)5.0kg、針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、JIS P8121に従って測定されるカナダ標準濾水度(CSF)550ml)を叩解して得た平均繊維長0.66mm、平均繊維幅300nmの繊維を含む植物繊維組成物(B-1)365g、無水マレイン酸(日油株式会社製、商品名:SY-A)12.5gを混合、混練する植物繊維含有樹脂組成物(D-1)の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5樹脂発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の繊維状セルロースの粉末及び樹脂の混練物である、
繊維状セルロース複合樹脂。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-1a>
本件特許発明1においては、「前記繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上のマイクロ繊維セルロースである」と特定されているのに対し、甲5樹脂発明においては、「平均繊維長0.66mm、平均繊維幅300nmの繊維を含む植物繊維組成物(B-1)」と特定されている点。
<相違点5-1b>
本件特許発明1においては、「前記繊維状セルロース」は「ヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている」と特定されているのに対し、甲5樹脂発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点5-1aについて検討する。
甲5樹脂発明において、相違点5-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲5及び他の証拠にもないから、甲5樹脂発明において相違点5-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、「・甲5発明の・・・(略)・・・本件特許発明1の構成要件Bの各数値範囲と一部重なるから、甲5発明において、構成要件Bを満たす「B)植物繊維組成物中の植物繊維」を備える構成とする程度のことは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎない。
・また、甲5発明において、・・・(略)・・・甲1記載の「セルロース粉末」又は甲3記載の「成分(b)セルロース繊維」を適用することは、当業者が適宜なし得る公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない。」(特許異議申立書第58及び59ページ)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
甲5樹脂発明において、本件特許発明1で特定されるアスペクト比(甲5樹脂発明のアスペクト比は2200と計算される。)及び平均繊維幅の範囲外であることが明らかな繊維を含む植物繊維組成物(B-1)を、動機付けとなる記載がいずれの証拠にもない以上、本件特許発明1で特定されるアスペクト比及び平均繊維幅の範囲内のものにすることが、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎないとはいえないし、甲1記載の「セルロース粉末」又は甲3記載の「成分(b)セルロース繊維を適用することが当業者が適宜なし得る公知材料の中からの最適材料の選択にすぎないともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、相違点5―1bについて検討するまでもなく、本件特許発明1は甲5樹脂発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲5樹脂発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲5製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とする、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-4a>
本件特許発明4においては、「前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめる」と特定されているのに対し、甲5製法発明においては、「平均繊維長0.66mm、平均繊維幅300nmの繊維を含む植物繊維組成物(B-1)」と特定されている点。
<相違点5-4b>
本件特許発明4においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する」と特定されているのに対し、甲5製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点5-4aについて検討する。
甲5製法発明において、相違点5-4aに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲5及び他の証拠にもないから、甲5製法発明において相違点5-4aに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、相違点5―4bについて検討するまでもなく、本件特許発明4は甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲5製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするとするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめる、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-5a>
本件特許発明5においては、「前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000、繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめる」と特定されているのに対し、甲5製法発明においては、「平均繊維長0.66mm、平均繊維幅300nmの繊維を含む植物繊維組成物(B-1)」と特定されている点。
<相違点5-5b>
本件特許発明5においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する」と特定されているのに対し、甲5製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点5-5aについて検討する。
甲5製法発明において、相違点5-5aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲5及び他の証拠にもないから、甲5製法発明において相違点5-5aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、相違点5―5bについて検討するまでもなく、本件特許発明5は甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
5 申立理由5(甲6に基づく進歩性)について
(1)甲6に記載された事項等
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「疎水化されたセルロース系繊維を含む樹脂組成物及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0129】
実施例1
市販のクラフトパルプ(平均繊維長3mm、平均繊維径12μm)100gに、水20Lを加え、よく撹拌した。得られた分散液を均質化装置(GAULIN(ゴーリン)(株)製、15M-8TA、高圧ホモジナイザー)に常温で仕込み、50MPaの圧力で15回通過させてスラリー状懸濁液を得た。このスラリー状懸濁液にアルキルケテンダイマー(荒川化学工業(株)製、商品名「サイズパイン 903-20」)を固形分で0.01g添加し、均一に撹拌した後、スラリーの固形分が20重量%になるまで脱液を行い、疎水化MFC(ミクロフィブリル化セルロース)を得た。
【0130】
さらに、ヒーターミキサー(日本コークス工業(株)製、商品名「ヘンシェルミキサーFM20C/I」、上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用タイプ、ヒーター及び温度計付き、容量20L)を140℃に加温し、得られた疎水化MFCを投入し、平均周速50m/秒で撹拌した。疎水化MFCの投入完了後、直ちに、疎水化MFC(乾燥重量)の割合が40重量%となる割合で、ポリプロピレン(J139)を投入した後、平均周速50m/秒で撹拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。約10分経過時点において、動力が上昇し始めた。1分後に、動力は4kWに上昇したため、周速を25m/秒の低速に落とした。低速の撹拌を継続すると、動力が再度上昇し始めた。低速回転開始1分30秒後、電流値は5kWに達したため、ミキサーの排出口を開き、接続する冷却ミキサーに排出した。
【0131】
冷却ミキサー(日本コークス工業(株)製、商品名「クーラーミキサーFD20C/K」、回転羽根:冷却用標準羽根、水冷手段(20℃)及び温度計付き、容量45L)を平均周速10m/秒の低速で撹拌を開始し、ミキサー内の温度が80℃になった時点で撹拌を終了した。低速撹拌工程の処理により、疎水化MFCとポリプロピレンとの混合物は固化して、直径が数mmから2cm程度の造粒物(ペレット)が得られた。
【0132】
得られた造粒物を用いて、二軸押出機(日鋼(株)製、商品名「TEX30α」)を用いてシリンダー温度は190℃で押出成形して、疎水化MFCを含有する樹脂成形体を得た。」
イ 甲6に記載された発明
甲6に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲6には次の発明(以下、順に「甲6樹脂発明」及び「甲6製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲6樹脂発明>
「市販のクラフトパルプ(平均繊維長3mm、平均繊維径12μm)100gに、水200Lを加え、よく撹拌し、スラリー状懸濁液を得、このスラリー状懸濁液にアルキルケテンダイマー(荒川化学工業(株)製、商品名「サイズパイン 903-20」)を固形分で0.01g添加し、均一に撹拌した後、脱液を行い、疎水化MFC(ミクロフィブリル化セルロース)を得、得られた疎水化MFCを投入し、投入完了後、直ちに、ポリプロピレン(J139)を投入した後、撹拌を続け、得た疎水化MFCとポリプロピレンとの混合物。」
<甲6製法発明>
「市販のクラフトパルプ(平均繊維長3mm、平均繊維径12μm)100gに、水200Lを加え、よく撹拌し、スラリー状懸濁液を得、このスラリー状懸濁液にアルキルケテンダイマー(荒川化学工業(株)製、商品名「サイズパイン 903-20」)を固形分で0.01g添加し、均一に撹拌した後、脱液を行い、疎水化MFC(ミクロフィブリル化セルロース)を得、得られた疎水化MFCを投入し、投入完了後、直ちに、ポリプロピレン(J139)を投入した後、撹拌を続ける、疎水化MFCとポリプロピレンとの混合物の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6樹脂発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の繊維状セルロースの粉末及び樹脂の混練物であり、
前記繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000のマイクロ繊維セルロースである、
繊維状セルロース複合樹脂。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6-1a>
本件特許発明1においては、「前記繊維状セルロース」は「繊維長0.2mm以下の割合が12%以上のマイクロ繊維セルロースである」と特定されているのに対し、甲6樹脂発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点6-1b>
本件特許発明1においては、「前記繊維状セルロース」は「ヒドロキシル基の一部又は全部が下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換されている」と特定されているのに対し、甲6樹脂発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点6-1aについて検討する。
甲6樹脂発明において、相違点6-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲6及び他の証拠にもないから、甲6樹脂発明において相違点6-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、「・甲6発明の「セルロース系繊維(A)」は、・・・(略)・・・本件特許発明1の構成要件Bの各数値範囲と一部重なるから、甲6発明において、構成要件Bを満たす「セルロース系繊維(A)」を備える構成とする程度のことは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎない。
・また、甲6発明において、「セルロース系繊維」として、本件特許発明1の構成要件(B)を満たす、甲1記載の「セルロース粉末(A)」又は甲3記載の「成分(b)セルロース繊維」を適用することは、当業者が適宜なし得る公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない。」(特許異議申立書第65ページ)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
甲6樹脂発明において、本件特許発明1で特定される「繊維長0.2mm以下の割合が12%以上」という発明特定事項を採用する動機付けが、いずれの証拠にもない以上、上記発明特定事項を採用することが、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎないとはいえないし、甲3記載の「成分(b)セルロース繊維」を適用することが当業者が適宜なし得る公知材料の中からの最適材料の選択にすぎないともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、相違点6―1bについて検討するまでもなく、本件特許発明1は甲6樹脂発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6樹脂発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲6製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000となる範囲にとどめる、
繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6-4a>
本件特許発明4においては、「前記解繊」は「マイクロ繊維セルロース」の「繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめる」と特定されているのに対し、甲6製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点6-4b>
本件特許発明4においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この変性によって前記マイクロ繊維セルロースのヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する」と特定されているのに対し、甲6製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点6-4aについて検討する。
甲6製法発明において、相違点6-4aに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲6及び他の証拠にもないから、甲6製法発明において相違点6-4aに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、相違点6―4bについて検討するまでもなく、本件特許発明4は甲6製法発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲6製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「木材パルプ由来の原料繊維を解繊してマイクロ繊維セルロースとし、このマイクロ繊維セルロースの粉末又は分散液、と樹脂とを混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記解繊は、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1~15μm、アスペクト比が2~1000となる範囲にとどめる、
繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6-5a>
本件特許発明5においては、「前記解繊」は「マイクロ繊維セルロース」の「繊維長0.2mm以下の割合が12%以上となる範囲にとどめる」と特定されているのに対し、甲6製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点6-5b>
本件特許発明5においては、「前記混練に際して、前記マイクロ繊維セルロースを多塩基酸類で変性させ、この多塩基酸類として下記構造式(3)、構造式(4)及び構造式(5)のいずれか1つを示す多塩基酸類を使用する」と特定されているのに対し、甲6製法発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点6-5aについて検討する。
甲6製法発明において、相違点6-5aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲6及び他の証拠にもないから、甲6製法発明において相違点6-5aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、相違点6―5bについて検討するまでもなく、本件特許発明5は甲6製法発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4及び5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許発明1、2、4及び5に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700384