審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2023-700311

液状食品の塩味増強方法

審判番号
2023-700311
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-537624
登録番号
7160039
請求日
2023年03月24日
審決日
2023年06月29日
公報発行日
2023年08月25日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】味の素株式会社
  • 【権利者代理人】高島 一
  • 【権利者代理人】鎌田 光宜
  • 【異議申立人】滝澤 榮夫
審判長/審判官
  • 審判長 平塚 政宏
  • 審判官 磯貝 香苗
  • 審判官 中村 和正
分類
P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条第4号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7160039号発明「液状食品の塩味増強方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7160039号の請求項1ないし24に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7160039号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし24に係る特許についての出願は、 2018年(平成30年) 8月20日(優先権主張 平成29年 8月21日)を国際出願日とする特許出願であって、 令和 4年10月17日にその特許権の設定登録(請求項の数 24)がされ、 令和 4年10月25日に特許掲載公報が発行され、 その後、当該特許に対し、 令和 5年 3月24日に 滝澤 榮夫(以下、「特許異議申立人」という。)が全請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行ったものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし24に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、X0が10~1000の範囲内であり、かつ、X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する液状食品の塩味を増強する方法であって、 塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み、 前記化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる、方法。 Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I) Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III) 【請求項2】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1記載の方法。 【請求項3】 Y1が10~1000の範囲内である、請求項1又は2記載の方法。 【請求項4】 Y0とY1の比(Y1/Y0)が、1.01~5.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 Z0とZ1の比(Z1/Z0)が、1.1~10である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。 【請求項9】 塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を含有する、液状食品用の塩味増強剤(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて含有するものを除く)であって、 前記液状食品は、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、X0が10~1000の範囲内であり、かつ、X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足し、 塩味増強剤添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように添加される、塩味増強剤。 Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I) Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III) 【請求項10】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項9記載の剤。 【請求項11】 Y1が10~1000の範囲内である、請求項9又は10記載の剤。 【請求項12】 Y0とY1の比(Y1/Y0)が、1.01~5.0である、請求項9~11のいずれか一項に記載の剤。 【請求項13】 Z0とZ1の比(Z1/Z0)が、1.1~10である、請求項9~12のいずれか一項に記載の剤。 【請求項14】 塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、請求項9及び11~13のいずれか一項に記載の剤。 【請求項15】 塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、請求項9~14のいずれか一項に記載の剤。 【請求項16】 塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含有する、請求項9~15のいずれか一項に記載の剤。 【請求項17】 ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足する液状食品であって、 ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、X0が10~1000の範囲内であり、かつ、X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する液状食品に、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)が添加されてなる、液状食品(但し、メチオノールが前記化合物とあわせて添加されてなるものを除く)。 Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I) Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III) 【請求項18】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項17記載の液状食品。 【請求項19】 ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、X0が10~1000の範囲内であり、かつ、X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する液状食品に、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み、 前記化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる、液状食品の製造方法。 Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I) Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III) 【請求項20】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項19記載の製造方法。 【請求項21】 塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を含有する、液状食品用組成物(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて含有するものを除く)であって、 前記組成物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように添加され、 前記液状食品が、つゆ及びスープからなる群より選択される、組成物。 Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III) 【請求項22】 前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項21記載の組成物。 【請求項23】 液状食品用組成物が、液状食品の塩味増強用組成物である、請求項21又は22記載の組成物。 【請求項24】 液状食品が、減塩食品である、請求項21~23のいずれか一項に記載の組成物。 第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について 令和 5年 3月24日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3、9ないし11、17ないし24に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし24に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、下記の(1)ないし(4)の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)添加する化合物について 請求項1においては「塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み」と記載されている。 請求項1は、「X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する液状食品」が、「前記化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3とした」ようになることを規定している。 このことから、請求項1は、少なくともナトリウムイオン濃度が、X0からX1に変わるような工程が請求項1に含まれていると理解する他ない。 しかしながら、「塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み」に塩化ナトリウムは含まれていない。請求項1は、ナトリウムイオン濃度がX0からX1に変わることを参酌すると、「塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み」の中に、塩化ナトリウムをはじめとして、ここに示されていないあらゆる化合物を添加することを許容していると理解される。 そうすると、本件特許発明1ないし24においては、結局、どのようなものを添加するのか不明確である。 (2)プロダクトバイプロセスクレームについて 本件特許の請求項9ないし16に係る発明は塩味増強剤に係る発明、本件特許の請求項17ないし18に係る発明は液体食品に係る発明(当審注:特許異議申立書第12頁第10行、「液状食品に係る発明」の誤り)、本件特許の請求項21ないし24に係る発明は組成物に係る発明であり、いずれも物のカテゴリーに属する発明である。 いずれの発明も、「充足されるように添加されて」というプロセスを含んでおり、かつ、添加される前のX0、Y0、Z0を要件として含み、プロダクトバイプロセス形式による特定がなされている。 本件特許の請求項9ないし16、17ないし18、21ないし24は、最高裁判例に照らし不明確である。 (3)化合物添加前の塩味増強剤、組成物の発明に対して、化合物添加後の状態を特定することについて 本件請求項9ないし16に係る塩味増強剤の発明、本件請求項21ないし24に係る組成物の発明は、特定事項から観て、添加前の塩味増強剤、添加前の組成物の発明であると理解される。 しかしながら、添加前の液状食品のX0、Y0、Z0の濃度は様々であり、塩味増強剤や組成物の添加量や成分割合は、添加前の液状食品のX0、Y0、Z0の濃度によって変化する。 そして、添加後にしか、式(II)及び式(III)を満たすか否かを判断することができず、特許請求の範囲が不明確である。 (4)式(I)~(III)の関係の充足性について 本件特許の請求項1ないし24に係る発明は、「式(I)の関係を充足する液体食品」(当審注:特許異議申立書第12頁第30行、「式(I)の関係を充足する液状食品」の誤り)が特許請求の範囲に含まれている。 しかしながら、調理の工程は材料が様々な段階で投入され、また、具材や後に取り除かれる出汁材料などから成分が液体に溶け出し、成分は常に変化している。そうすると、いつの時点で式(I)を充足するのか規定がなく、明確でない。 また、どの時点で式(II)及び式(III)が充足すると判断するのかも不明である。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、下記(1)ないし(6)の点で特許法第36条第6項第1及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)塩化ナトリウムの添加について 本件特許発明の解決しようとする課題は、「本発明は、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を増強させ得る方法の提供」(本件特許明細書【0006】)である。 請求項1においては、ナトリウム濃度について、X0、X1を使い分けているから、請求項1において、塩化ナトリウムを添加することを排除していない。 請求項1の式(I)~(III)は、比の限定であり、添加量を一切制限するものではないから、添加されるナトリウム量によっては、「ナトリウム摂取量の増加を抑えて」という課題が解決できるとはいえない。 したがって、本件特許発明1及び本件特許発明2ないし24は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。 (2)化合物の添加量の限定について 本件特許発明1ないし24は、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの濃度比による規定と共に塩味を増強する前のナトリウムイオン濃度「X0が10~1000の範囲」とされている。 ナトリウムのモル濃度10~1000mol/m3のとき、ナトリウムが全て塩化ナトリウム(分子量58.44)として添加されていると考えると、塩化ナトリウムの上限は5.8g/100mlに換算できる。 甲第10号証によると、「基本味と呼ばれる5つの味の閾値は、・・・(中略)・・・塩味(塩化ナトリウム)0.25%」(第48頁)である。 本件特許発明1のナトリウム濃度の下限値は、塩化ナトリウムに換算すると0.058g/100ml(0.058換算%)であるから、塩味の味覚限界以下といえる。他方、本件特許発明1のナトリウム濃度の上限値は、塩化ナトリウムに換算すると5.8g/100ml(5.8換算%)であり、海水の塩分濃度が3.4%であることに照らすと、塩蔵食品のレベルである。 請求項1の式(I)~(III)は、比の限定であり、添加量を一切限定するものではないから、塩化物やカリウムの添加量はどんなに少なくてもよく、また、著しく大量でもよいことになる。本件特許発明の特定事項に、化合物の添加量の限定がないことで課題が解決されないことがあることは明白である。 したがって、本件特許発明1ないし24は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。 (3)比較例の数が少なく、式の臨界的な技術的意義を認識できないことについて 本件特許明細書【0069】では、実施例1(50%減塩めんつゆ)と比較例1(50%減塩コーンクリームスープ)を比較しており、味が異なるものなので比較にならない。 実施例2ないし5は、いずれも化合物添加前のコントロールと添加後を比較するものであり、添加前より化合物添加後の評価が高くなることは当然のことである。 実施例6ないし11では比較例2が1つだけ、実施例12ないし23では比較例3が1つだけである。 式(I)~(III)が新たな発見であるなら、比較例も多数必要であり、わずかな比較例から、式の臨界的な技術的意義を認識することは困難である。 (4)実施例6ないし23のパネラー数について 実施例6ないし11は「2名の専門パネル」(本件特許明細書【0099】)であり、実施例12ないし23は「2名の専門パネル」(本件特許明細書【0108】)であり、評価は、×、△、○、◎(本件特許明細書【0108】、【0101】)である。 味覚評価のパネル試験では、パネラーにより評価が分かれることはよくあることである。しかしながら、実施例6ないし23のすべてで、一致した評価になっている。 本件特許明細書には、たった2名しかいないパネラーの評価が分かれたとき、どのような処理をするのか全く記載がない。 試験結果が一致していること自体が、試験の信頼性がないことを示している。 実施例6ないし11及び実施例12ないし23の試験結果は信頼性に欠け、本件特許発明1ないし24はサポート要件を満たしていない。 (5)Z1の扱いを誤ったことで生じたY1の計算ミスについて 実施例で提示されたすべてのY1の計算に根本的な計算ミスがあり、実施例の「Y1/(X1+Z1)」値が誤りである。 本件特許明細書【表6】実施例11の添加後塩化物イオンY1は、本件特許明細書【表7】によると215mol/m3と記載されているが、【表6】の化合物添加量から計算すると、204.952mol/m3である。 これは、Y1の計算において、添加した塩化カリウム(26.823mol/m3)ではなく、誤って、添加後の塩化カリウム(Z1、36.00mol/m3)を用いたことによる計算ミスである。 本件特許明細書【表6】の化合物添加量から計算した各濃度(比較例2、実施例6ないし11)は、正しくは、特許異議申立書第20頁の表Aのとおりである。 本件特許明細書【0103】ないし【0119】の実施例12ないし23の各濃度は、正しくは、特許異議申立書別紙1の表Bのとおりである。 そして、表A及び表Bから、比較例2及び3は実施例になるべき例であり、実施例6及び17は比較例になるべき例である。 したがって、本件特許明細書の記載からは、式(I)~(III)を満たせば発明の課題を解決できたとは認識できない。 (6)技術常識では塩化物イオンに塩酸塩は含まれないことについて 甲第12号証第1頁によると、塩化物イオンの定義は、塩化物イオン(Cl-)の形態で存在している塩素のことである。 リジン塩酸塩、アルギニン塩酸塩等の塩酸塩は、Cl-のイオンの形態で水溶液中に存在せず、当該塩化物に含まれるHClはリジンなどにそのまま結合した状態で存在するから、塩化物イオンには含まれない。 請求項1の「塩化物イオン」の「喫食濃度」は、塩化物イオンではないリジン塩酸塩やアルギニン塩酸塩は含まない。 しかしながら、本件特許明細書【0012】には「塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群、より好ましくは、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される化合物(本明細書中、便宜上「Cl塩化合物」と称する場合がある)」として、塩化物イオンとならないリジン塩酸塩を「Cl塩化合物」に含めている。 そして、本件特許明細書【0029】には「本発明において、X1、Y1及びZ1(すなわち、Cl塩化合物添加後の液状食品におけるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度)は、ぞれぞれ、上述の方法により測定したCl塩化合物添加前の液状食品におけるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度(X0、Y0及びZ0)と、Cl塩化合物の添加量から算出される。」と記載されている。 したがって、請求項1から技術的に把握される塩化物イオン(塩酸塩は含まれない)と本件特許明細書から把握される塩化物イオン(塩酸塩が含まれる)の内容がずれており、よって本件特許発明1ないし24は本件特許明細書に記載されたものではない。 4 証拠方法 甲第1号証:特許第5812864号公報 甲第2号証:食品成分表2015本表編、女子栄養大学出版部、初版第1刷、2015年2月10日発行、第232~233頁 甲第3号証:特許第5265142号公報 甲第4号証:特許第4630042号公報 甲第5号証:特許第4340581号公報 甲第6号証:特開2003-135020号公報 甲第7号証:特開平6-343417号公報 甲第8号証:特開2015-181419号公報 甲第9号証:特公昭61-62号公報 甲第10号証:「年代別に見る味覚感度と食習慣について」、帝塚山学院大学人間科学部研究年報、平成27年、17号、第47~54頁 甲第11号証:平成29年(行ケ)第10146号 審決取消請求事件判決、平成30年5月22日判決言渡 甲第12号証:「水知識 塩化物イオン(浄水器用語)」、https://www.aquas5.com/knowledge/37/000474.ph p#:~:text=%E5%A 1%A9%E5%8C%96%E7%89%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3(Cl%EF%BC%8D),%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。 以下、順に「甲1」等という。 第4 当審の判断 当審は以下に述べるように、申立理由1ないし3のいずれによっても本件特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)主な証拠に記載された事項 ア 甲1に記載された事項等 (ア)甲1に記載された事項 甲1には「呈味が改善された液体調味料」に関し、次の事項が記載されている。 「【実施例1】 【0016】 〔本発明の液体調味料の製造〕 [当社特許文献(日本国特開2006-087328号公報)を参照]蒸煮変性した脱脂大豆と炒熬割砕した小麦とを略等量混合し、これに種麹を接種し、42時間通風製麹して醤油麹を得、これを高濃度食塩水に仕込み、25~30℃で、適宜攪拌しながら150日間常法通りの諸味管理を行い、発酵熟成させた後、圧搾濾過して食塩約18%(w/v)、全窒素量約1.7%(w/v)の生醤油を得た。 この生醤油を80℃で3時間火入れした後、清澄濾過した。電気透析装置にて脱塩処理し、食塩0.5%(w/v)、全窒素量約1.6%(w/v)、アンモニウムイオン0.03%(w/v)、pH5.0の脱塩醤油を得た。 この脱塩醤油に、塩化ナトリウムを、1.5%(w/v)、3.5%(w/v)、4.5%(w/v)、5.5%(w/v)、6.5%(w/v)、7.5%(w/v)、11.5%(w/v)、15.5%(w/v)を添加溶解し、食塩濃度2%(w/v)、4%(w/v)、5%(w/v)、6%(w/v)、7%(w/v)、8%(w/v)、12%(w/v)、16%(w/v)である醤油(塩化ナトリウム無添加のものも含め、以下ベース醤油という)を得た。 【0017】 各種食塩濃度のベース醤油にそれぞれ塩化アンモニウムをアンモニウムイオン換算で0.5%(w/v)添加、攪拌して、塩化アンモニウム添加調味料(試験品1~9)を得た。(参考:塩化アンモニウムのMW=53.5) 同様に、食塩濃度4%(w/v)のベース醤油に塩化アンモニウムをアンモニウムイオン濃度換算で0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.3%(w/v)、0.4%(w/v)、1%(w/v)、2%(w/v)、3%(w/v)、4%(w/v)、5%(w/v)、7%(w/v)添加、攪拌して、塩化アンモニウム添加調味料(試験品10~19)を得た。 また、食塩濃度4%(w/v)のベース醤油にリン酸二水素アンモニウムをアンモニウムイオン換算で0.5%(w/v)添加し、アンモニウム塩添加調味料(試験品31)を得た。(参考:リン酸二水素アンモニウムのMW=115.03) 同様に、食塩濃度4%(w/v)のベース醤油に塩化アンモニウムをアンモニウムイオン換算で0.5%(w/v)添加した塩化アンモニウム添加サンプル(試験品3、pH=5.0)について、pHを塩酸、水酸化ナトリウムで3.6~7.0に調整し、pH調整塩化アンモニウム添加調味料(試験品20~30)を作製した。 【0018】 〔醤油中成分の測定法〕 食塩濃度は、ナトリウム濃度を原子吸光光度計AA6300(島津製作所社製)により測定し、これを食塩濃度に換算することにより求めた。全窒素量は、ケルダール法により求めた。アンモニウムイオン濃度はアミノ酸分析計L-8500(日立製作所製)を用いてアンモニア濃度として測定し、換算することにより求めた。pHはpHメーターHM-25R(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。」 「【実施例3】 【0022】 〔異なるアンモニウムイオン濃度における効果〕 食塩濃度4%(w/v)のベース醤油に塩化アンモニウムをアンモニウムイオン換算で0.1~7%(w/v)添加した塩化アンモニウム添加サンプル(試験品3、10~19)を作製し、パネリスト7名により、塩味、醤油らしさ、異味、嗜好について2対比較法により官能評価を実施し、表2の結果が得られた。 【0023】 【表2】 [図:0001400503000001.jpg] 【0024】 アンモニウムイオン濃度が0.2%(w/v)以上になると7名中4名から塩味が強くなったと評価されるようになった。醤油らしさはアンモニウムイオン濃度0.2~4%(w/v)で強くなったと評価された。異味については5%以上になると7名中6名以上で強くなったと判断されたが、酸味、刺激味が強くなるといったコメントや、塩味、塩辛さと刺激味が区別できないといったコメントが多かった。嗜好は5%(w/v)以上になると好ましいと判断されなくなった。」 (イ)甲1に記載された発明 上記(ア)の実施例3(試験品10ないし19)を中心にまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」等という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> 「食塩約18%(w/v)、全窒素量約1.7%(w/v)の生醤油を80℃で3時間火入れした後、清澄濾過し、電気透析装置にて脱塩処理したものを、ナトリウム濃度を原子吸光光度計AA6300(島津製作所社製)により測定し、これを食塩濃度に換算したときの食塩0.5%(w/v)、全窒素量約1.6%(w/v)、アンモニウムイオン0.03%(w/v)、pH5.0の脱塩醤油を得、この脱塩醤油に、塩化ナトリウムを3.5%(w/v)添加溶解し、食塩濃度4%(w/v)のベース醤油を得、ベース醤油に塩化アンモニウムを塩化アンモニウムイオン濃度換算で0.1%~7%(w/v)添加、攪拌して塩化アンモニウム添加調味料とする、塩味を強くする方法。」 <甲1剤発明> 「甲1発明において使用される塩化アンモニウムからなる剤。」 <甲1食品発明> 「甲1発明における塩化アンモニウム添加調味料。」 <甲1製法発明> 「甲1発明における塩化アンモニウム添加調味料の製造方法。」 <甲1組成物発明> 「甲1発明において使用される塩化アンモニウムからなる組成物。」 (2)検討 ア 本件特許発明1についての対比・検討 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「塩化アンモニウム添加調味料」は、本件特許発明1における「液状食品」に相当する。 甲1発明における「塩味を強くする方法」は、本件特許発明1における「塩味を増強する方法」に相当する。 甲1発明における「食塩濃度4%(w/v)のベース醤油」は、「食塩約18%(w/v)、全窒素量約1.7%(w/v)の生醤油を80℃で3時間火入れした後、清澄濾過し、電気透析装置にて脱塩処理したものを、ナトリウム濃度を原子吸光光度計AA6300(島津製作所社製)により測定し、これを食塩濃度に換算したときの食塩0.5%(w/v)、全窒素量約1.6%(w/v)、アンモニウムイオン0.03%(w/v)、pH5.0の脱塩醤油を得、この脱塩醤油に、塩化ナトリウムを3.5%(w/v)添加溶解し」て得たものであり、「食塩濃度4%(w/v)」、すなわち、塩化ナトリウム濃度(分子量58.44)が4%(w/v)であるから、モル濃度換算すると、ナトリウム濃度は約684.46mol/m3である。 したがって、甲1発明は、本件特許発明1における「ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、X0が10~1000の範囲内」との特定事項を満たす。 甲1発明における「ベース醤油に塩化アンモニウムを塩化アンモニウムイオン濃度換算で0.1%~7%(w/v)添加」することは、本件特許発明1における「塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、X0が10~1000の範囲内である液状食品の塩味を増強する方法であって、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含む方法。」 <相違点1> 本件特許発明1においては、 ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、 「X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I)」 との特定を有するのに対して、甲1発明においてはそのような特定を有さない点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、 「化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III)」 との特定を有するのに対して、甲1発明においてはそのような特定を有さない点。 上記相違点1及び相違点2について検討する。 甲1発明においては、生醤油を電気透析装置にて脱塩処理して調製した脱塩醤油に塩化ナトリウムを添加溶解したベース醤油を使用しており、生醤油を電気透析装置の脱塩処理によって成分調整しているため、化合物添加前のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度である「X0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3」のうち、実際に原子吸光法光度計で測定されているナトリウム濃度X0mol/m3以外の塩化物イオン濃度Y0mol/m3及びカリウムイオン濃度Z0mol/m3を、食品成分表の製品分析データを参酌して求めることはできない。 そして、甲1発明において添加されている化合物は塩化アンモニウムのみであるが、化合物添加前の塩化物イオン濃度Y0mol/m3及びカリウムイオン濃度Z0mol/m3が不明であるため、化合物添加後の塩化物イオン濃度Y1mol/m3及びカリウムイオン濃度Z1mol/m3についても同様に求めることができない。 したがって、相違点1及び相違点2は共に実質的な相違点である。 よって、本件特許発明1は甲1発明ではない。 相違点2についてさらに検討する。 甲1において、化合物添加前及び化合物添加後の塩化物イオン、カリウムイオンの喫食濃度については何ら言及されておらず、化合物添加後のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度が式(II)及び式(III)の関係を充足するようにする動機となる記載はない。 そして、その他の証拠においても、甲1発明において、化合物添加後のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度が式(II)及び式(III)の関係を充足するように調製する動機となる記載はない。 甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 よって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2ないし8についての対比・検討 本件特許発明2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。 よって、本件特許発明2及び3は甲1発明ではなく、また、本件特許発明2ないし8は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明9についての対比・検討 本件特許発明9と甲1剤発明とを対比する。 甲1剤発明における「塩化アンモニウムからなる剤」は、「添加」することによって「塩味を強くする」ものであるから、本件特許発明9における「液状食品用の塩味増強剤」に相当する。 その余の発明特定事項については、本件特許発明9と甲1剤発明とは、上記アにおいて対比・検討したとおりの相当関係を有する。 そうすると、本件特許発明9と甲1剤発明との相違点は次のとおりである。 <相違点3> 本件特許発明9においては、 ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、 「X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I)」 との特定を有するのに対して、甲1剤発明においてはそのような特定を有さない点。 <相違点4> 本件特許発明9においては、 「化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III)」 との特定を有するのに対して、甲1剤発明においてはそのような特定を有さない点。 相違点3、相違点4は、それぞれ、上記アにて検討した相違点1、相違点2と同旨であるから、同様に判断される。 よって、本件特許発明9は甲1剤発明ではなく、甲1剤発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 本件特許発明10ないし16についての対比・検討 本件特許発明10ないし16は、請求項9を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項9に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明9と同様に判断される。 よって、本件特許発明10及び11は甲1剤発明ではなく、また、本件特許発明10ないし16は、甲1剤発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 オ 本件特許発明17についての対比・検討 本件特許発明17と甲1食品発明とを対比する。 甲1食品発明における「塩化アンモニウム添加調味料」は、本件特許発明17における「液状食品」に相当する。 その余の発明特定事項については、本件特許発明17と甲1食品発明とは、上記アにおいて対比・検討したとおりの相当関係を有する。 そうすると、本件特許発明17と甲1食品発明との相違点は次のとおりである。 <相違点5> 本件特許発明17においては、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、 「X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I)」 との特定を有するのに対して、甲1食品発明においてはそのような特定を有さない点。 <相違点6> 本件特許発明17においては、「化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III)」 との特定を有するのに対して、甲1食品発明においてはそのような特定を有さない点。 相違点5、相違点6は、それぞれ、上記アにて検討した相違点1、相違点2と同旨であるから、同様に判断される。 よって、本件特許発明17は甲1食品発明ではなく、甲1食品発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 カ 本件特許発明18についての対比・検討 本件特許発明18は、請求項17を引用して特定するものであって、請求項17に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明17と同様に判断される。 よって、本件特許発明18は甲1食品発明ではなく、甲1食品発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 キ 本件特許発明19についての対比・検討 本件特許発明19と甲1製法発明とを対比する。 甲1製法発明における「塩化アンモニウム添加調味料の製造方法」は、本件特許発明19における「液状食品の製造方法」に相当する。 その余の発明特定事項については、本件特許発明19と甲1製法発明とは、上記アにおいて対比・検討したとおりの相当関係を有する。 そうすると、本件特許発明19と甲1製法発明との相違点は次のとおりである。 <相違点7> 本件特許発明19においては、 ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、 「X0、Y0及びZ0が下式(I)の関係を充足する Y0/(X0+Z0)≦1 ・・・(I)」 との特定を有するのに対して、甲1製法発明においてはそのような特定を有さない点。 <相違点8> 本件特許発明19においては、 「化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III)」 との特定を有するのに対して、甲1製法発明においてはそのような特定を有さない点。 相違点7、相違点8は、それぞれ、上記アにて検討した相違点1、相違点2と同旨であるから、同様に判断される。 よって、本件特許発明19は甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ク 本件特許発明20についての対比・検討 本件特許発明20は、請求項19を引用して特定するものであって、請求項19に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明19と同様に判断される。 よって、本件特許発明20は甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ケ 本件特許発明21についての対比・検討 本件特許発明21と甲1組成物発明とを対比する。 甲1組成物発明における「塩化アンモニウムからなる組成物」は、本件特許発明21における「液状食品用組成物」に相当する。 その余の発明特定事項については、本件特許発明21と甲1組成物発明とは、上記アにおいて対比・検討したとおりの相当関係を有する。 そうすると、本件特許発明21と甲1組成物発明との相違点は次のとおりである。 <相違点9> 本件特許発明21においては、 「化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる Y1/(X1+Z1)>1 ・・・(II) 1.35>Y1/(X1+Z1) ・・・(III)」 との特定を有するのに対して、甲1組成物発明においてはそのような特定を有さない点。 <相違点10> 本件特許発明21においては、液状食品が、つゆ及びスープからなる群より選択されるとの特定を有するのに対して、甲1組成物発明においてはそのような特定を有さない点。 相違点9は、上記アにて検討した相違点2と同旨であるから、同様に判断される。 よって、相違点10について検討するまでもなく、本件特許発明21は甲1組成物発明ではなく、甲1組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 コ 本件特許発明22ないし24についての対比・検討 本件特許発明22ないし24は、請求項21を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項21に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明21と同様に判断される。 よって、本件特許発明22ないし24は、甲1組成物発明ではなく、甲1組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)申立理由1についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3、9ないし11、17ないし24に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件特許の請求項1ないし24に係る発明は、特許法第29条第2項に該当しないから、本件特許の請求項1ないし24に係る発明は特許法第113条第2号に該当しない。 したがって、申立理由1によって本件特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。 (3)明確性要件の判断 本件特許の請求項1ないし24の記載は、それ自体に不明瞭な記載はなく、願書に添付した明細書の記載とも整合する。 したがって、本件特許発明1ないし24に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の第3 2の各主張について検討する。 ア 添加する化合物について 請求項1の「塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み」との記載は、これらの化合物群から選択される少なくとも一つの化合物を含む(但し、所定の場合は除く)ことを特定事項とし、明確である。 特許異議申立人の主張は、請求項1にはナトリウムイオン濃度がX0からX1に変わるような工程が含まれていることを前提としたものであるが、請求項1は、X0とX1とが同じである場合を排除するものではなく、また、ナトリウム含有化合物を添加せずとも溶媒量の変化や他の化合物の添加によって、X1がX0とは異なる濃度になることもあり得る。 したがって、請求項1ないし24における「塩化カリウム、塩化アンモニウム、・・・(以下略)」で特定される化合物群にナトリウム含有化合物が含まれていないことを以て、本件特許発明1ないし24が不明確であるとする特許異議申立人の主張は採用し得ない。 イ プロダクトバイプロセスクレームについて 請求人は、請求項9ないし18及び21ないし24において、「式(II)及び(III)の関係を充足するように添加される」との特定は、物の発明についての特許の特許請求の範囲に、その物の製造方法が記載され、いわゆるプロダクトバイプロセスで表現されているものといえるから、物としての構成が不明瞭である旨の主張をしている。 しかしながら、請求項9ないし18及び21ないし24における「式(II)及び(III)の関係を充足するように添加される」との特定は、その前の「式(I)の関係を充足する液状食品に、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムである場合を除く)が添加されてなる、液状食品(但し、メチオノールが前記化合物とあわせて添加されてなるものを除く)。」の「X1mol/m3、Y1mol/m3、Z1mol/m3」で表される「ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度」の状態を規定したものであって、製造方法により物の構成を特定するもの、すなわち、プロダクトバイプロセスには該当しない。 よって特許異議申立人の主張は採用し得ない。 ウ 化合物添加前の塩味増強剤、組成物の発明に対して、化合物添加後の状態を特定することについて 特許異議申立人の主張は、概要、「化合物添加後」の時点が不明確である旨を前提とするが、本件特許発明9ないし16の「塩味増強剤」及び本件特許発明21ないし24の「組成物」はいずれも、液状食品における濃度X0、Y0及びZ0並びに塩味増強剤ないし組成物添加後の液状食品における濃度X1、Y1及びZ1の各濃度を用いた式(I)ないし(III)によって明確に特定されており、特許を受けようとする発明は明確である。 よって特許異議申立人の主張は採用し得ない。 エ 式(I)~(III)の関係の充足性について 本件特許発明1ないし24において、式(I)の関係の充足性は、「塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムである場合を除く)が添加され」る(予定の)「液状食品」が式(I)の関係を充足すればよく、式(I)の関係を充足する時点は、「添加され」る前であればよい。そして、式(I)の関係を充足する時点の、さらに細かい特定がないことは、本件特許発明1ないし24の明確性の判断に影響しない。 また、本件特許発明1ないし24において、式(II)及び式(III)の関係の充足性は、「「塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムである場合を除く)が添加され」た「液状食品」において、式(II)及び式(III)の関係を充足すればよく、式(II)及び式(III)の関係を充足する時点は、「添加され」た後であればよい。式(I)の判断と同様に、式(II)及び式(III)の関係を充足する時点の、さらに細かい特定がないことは、本件特許発明1ないし24の明確性の判断に影響しない。 よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。 (5)申立理由2についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし24に係る特許についての出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすから、本件特許は特許法第113条第4号に該当しない。 したがって、申立理由2によって本件特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明の【0006】には、「本発明は、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を増強させ得る方法の提供を目的とする」と記載されている。 本件特許の発明の詳細な説明の【0007】には、課題を解決するための手段として、「塩化物イオン(Cl-)が食品の塩味に寄与し得、また塩化物イオンが塩味に寄与する程度は、塩化物イオンの由来する化合物の種類によって差異があることを見出した。また、本発明者らは、更に検討を進めた結果、液状食品におけるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度が特定の関係を充足するように、当該液状食品に、塩化物イオンを含む特定の化合物を添加することにより、当該液状食品の塩味を増強させ得ることを見出した。」と記載され、【0008】には、本件特許発明の各特定事項に対応する事項が記載されている。 さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】ないし【0018】には塩味増強方法において用いられるCl塩化合物について記載され、【0020】には液状食品について、【0023】にはCl塩化合物添加前の液状食品における喫食濃度について、【0024】にはCl塩化合物添加前の液状食品におけるナトリウムイオンの喫食濃度について、【0025】にはCl塩化合物添加前の液状食品における塩化物イオンの喫食濃度について、【0026】にはCl塩化合物添加前の液状食品におけるカリウムイオンの喫食濃度について、【0027】ないし【0029】にはCl塩化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン、カリウムイオンの喫食濃度について、【0038】ないし【0052】には塩味増強剤について、【0053】ないし【0062】には液状食品について、それぞれ記載されている。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0064】ないし【0119】には、50%減塩めんつゆ、50%減塩丸鶏がらスープ、50%減塩コーンクリームスープにおいて、式(I)の関係を充足する液状食品に対し、式(II)を満たすように、所定の化合物群から選択されるすくなくとも一つの化合物を添加することにより、塩味が増強されることを検証している。 (4)サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0006】から、本件特許発明1ないし24の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を増強させ得る方法を提供することである。 本件特許の発明の詳細な説明の【0007】ないし【0008】には、当該発明の課題を解決するための手段として、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX0mol/m3、Y0mol/m3及びZ0mol/m3としたとき、X0が10~1000の範囲内であり、かつ、X0、Y0及びZ0が式(I)の関係を充足する液状食品に対し、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物を添加し、化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれX1mol/m3、Y1mol/m3及びZ1mol/m3としたとき、X1、Y1及びZ1が式(II)の関係を充足させることにより、塩味が増強されることが記載されている。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0064】ないし【0119】には、実施例及び比較例の対比により、式(I)を満たす液状食品において、式(II)を満たすように塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物を添加することで塩味が増強されることを確認している。 そうすると、当業者は、式(I)を満たす液状食品において、式(II)を満たすように塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物を添加することにより、発明の課題を解決することができると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし24は、上記発明の課題を解決することができる発明特定事項としての式(I)及び式(II)を含み、さらに式(III)により特定するものであるから、当然発明の課題を解決できるものである。 したがって、本件特許発明1ないし24は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許の発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件特許発明1ないし24に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。 (5)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の第3 3の各主張について検討する。 ア 塩化ナトリウムの添加について 本件特許発明1ないし24は、式(I)の関係を充足する液状食品に対し、化合物群から選択される少なくとも一つの化合物を添加した液状食品が式(II)及び式(III)の関係を充足すること、を特定事項としており、塩化ナトリウムの添加に関する特定は有さない。 そして、上記(4)において検討したとおり、本件特許発明1ないし24に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。すなわち、式(I)の関係を充足する液状食品に対し、化合物群から選択される少なくとも一つの化合物を添加した液状食品が式(II)及び式(III)の関係を充足することで、塩味が増強され、ナトリウム摂取量の増加を抑えられることが当業者に理解される。 そうすると、塩化ナトリウムの添加の有無に関する特定がないとしても、本件特許発明1ないし24におけるこれらの発明特定事項を満たすことにより、満たさないときと比べ、塩味が増強され、ナトリウムの摂取量の増加が抑えられて、発明の課題を解決できると判断される。 したがって、塩化ナトリウムの添加の有無については、サポート要件の判断に影響を及ぼさない。よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。 イ 化合物の添加量の限定、比較例の数、パネラーの数、塩化物イオンに塩酸塩は含まれないこと、について 化合物の添加量の限定については、本件特許発明が液状食品に関するものである以上、食品に想定される添加量にて実施されることは明らかであり、化合物の添加量の上下限値が定められていないから本件特許発明がサポートされていないということはない。 また、比較例の数、パネラーの数については、当該事情により本件特許発明がサポートされていないことの具体的根拠が示されておらず、単に、比較例の数が少ないとか、怪しい旨を主張するのみである。比較例の数、パネラーの数が少ないから本件特許発明がサポートされていないということはない。 さらに、塩化物イオンに塩酸塩は含まれていないことについては、本件特許発明は甲12によらず、本件特許明細書によって理解される。すなわち、本件特許明細書【0011】ないし【0017】に、塩化物イオンを含む特定の化合物として塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択されることが記載されており、本件特許明細書【0064】ないし【0119】においては、リジン塩酸塩および/またはアルギニン塩酸塩を使用した具体的製造例と塩味を増強することについての検証も記載されている。 よって、上記の事項に関する特許異議申立人の主張はいずれも採用し得ない。 ウ 「Z1の扱いを誤ったことで生じたY1の計算ミス」について 特許異議申立人の主張する「Z1の扱いを誤ったことで生じたY1の計算ミス」について検討したが、本件特許の発明の詳細な説明において特許異議申立人の主張するような計算の誤りはない。 一例として、比較例2と実施例6は次のとおりの数値であり、比較例2、比較例3、実施例6、実施例17のいずれにも、本件特許明細書において記載されている計算結果に誤りはない。したがって、実施例6、17が実施例として、比較例2、3が比較例として記載されている本件特許明細書の記載事項に誤りはない。 [図:0001400503000002.jpg] よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。 (6)申立理由3についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし24に係る特許についての出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすから、特許法第113条第4号に該当しない。 よって、申立理由3によって本件特許を取り消すことはできない。 第4 結語 上記第3のとおり、本件特許の請求項1ないし24に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700311

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決194件(味の素株式会社、滝澤 榮夫)
  • 2025-700906異議申立 / 2026-05-15 / 請求成立(取消)包装材料及び包装製品
    同じ当事者: 滝澤 榮夫
  • 2025-700829異議申立 / 2025-10-29 / 維持水中油型乳化調味料及びその製造方法
    同じ当事者: 味の素株式会社
  • 2025-700220異議申立 / 2025-08-20 / 維持相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドの製造方法
    同じ当事者: 味の素株式会社
  • 2024-700921異議申立 / 2025-08-08 / 訂正認容開閉装置用ガイドレールの固定構造
    同じ当事者: 滝澤 榮夫
  • 2024-700932異議申立 / 2025-07-30 / 訂正認容魚介風味増強剤
    同じ当事者: 味の素株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,158件(113・A23L、121・A23L、537・A23L)
  • 2026-700149異議申立 / 2026-06-29 / 維持野菜含有調味料、及び野菜含有調味料の製造方法
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L
  • 2025-700852異議申立 / 2026-05-13 / 訂正認容冷凍牡蠣集合体、冷凍牡蠣集合体の切断物、牡蠣フライ食品、および牡蠣フライ食品の製…
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L
  • 2024-700938異議申立 / 2026-05-08 / 訂正認容果汁含有飲料
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L
  • 2025-700697異議申立 / 2026-04-06 / 訂正認容調味組成物
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L
  • 2022-701125異議申立 / 2026-03-23 / 訂正認容果皮エキスおよびその製造方法
    共通の審決分類: 113・A23L、121・A23L、537・A23L

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存