特許異議申立
2023-700274
糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料
- 審判番号
- 2023-700274
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-127801
- 登録番号
- 7136852
- 請求日
- 2023年03月13日
- 審決日
- 2023年05月22日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7136852号発明「糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7136852号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7136852号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、令和2年7月28日を出願日とする特許出願であって、令和4年9月5日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年3月13日に特許異議申立人 松山 徳子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
麦芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上であり、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽使用比率が50%以上である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
風味が改善された、麦芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLに調整することを含んでなる製造方法。
【請求項4】
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程において、麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程並びに/或いはイソマルトースおよび/またはパノースを添加する工程を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
麦芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLに調整することを含んでなる方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年3月13日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3及び5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件特許明細書の実施例2は実施可能に記載されておらず、本件特許発明1及び2の飲料を得るための具体的な方法として、分子量800~1500Daのペプチド並びにイソマルトース及びパノースを添加する方法しか記載されていない。このため本件特許発明1ないし5は実施可能要件を満たさない。
・本件特許明細書の実施例1において、本件特許発明1及び2の飲料を得るために使用する市販のビールテイスト飲料が不明なので本件特許発明1ないし5は実施可能要件を満たさない。
・「分子量が800~1500Daのペプチド」には、苦味等の様々な呈味を有するペプチドが含まれる。そのため、「分子量が800~1500Daのペプチド」の濃度を本件特許発明1で規定する範囲に調整したとしても、本件特許発明の課題を解決する飲料が得られるとは限らず、本件特許発明1ないし5は実施可能要件を満たさない。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件特許明細書の実施例2は実施可能に記載されておらず、本件特許発明1及び2の飲料を得るための具体的な方法として、分子量800~1500Daのペプチド並びにイソマルトース及びパノースを添加する方法しか記載されていない。このため本件特許発明1ないし5はサポート要件を満たさない。
・「分子量が800~1500Daのペプチド」には、苦味等の様々な呈味を有するペプチドが含まれる。そのため、「分子量が800~1500Daのペプチド」の濃度を本件特許発明1で規定する範囲に調整したとしても、本件特許発明の課題を解決する飲料が得られるとは限らず、本件特許発明1ないし5はサポート要件を満たさない。
・本件特許発明1においては、分子量が800~1500Daのペプチド濃度の上限が規定されていないが、本件特許明細書には、上記ペプチドが高濃度の場合に本件特許発明の課題を解決できることは示されていない。ペプチド濃度がどのような範囲でも、イソマルトース及びパノースが本件特許発明1で規定する範囲であることで、ペプチドの雑味を低減できるとは理解できない。このため、本件特許発明1はサポート要件を満たさない。本件特許発明2ないし5も同様にサポート要件を満たさない。
6 申立理由6(明確性)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件特許発明1における構成要件「前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する」の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」が、本件特許発明1の対象物であるビールテイスト発酵アルコール飲料そのものを指すのか、本件特許発明1の対象物とは別のビールテイスト発酵アルコール飲料を指すのかが、特許請求の範囲の記載からは明確ではないので、本件特許発明1は明確でない。本件特許発明2ないし5も同様に明確性要件を満たさない。
・本件特許発明1では、分子量800~1500Daのペプチド濃度の上限値がないため、範囲が不明確であり、明確性要件を満たさない。本件特許発明2ないし5も同様に明確性要件を満たさない。
7 証拠方法
(1)甲第1号証:国際公開第2014/196265号
(2)甲第2号証:特開2012-147780号公報
(3)甲第3号証:特開2019-154438号公報
(4)甲第4号証:特開2020-96548号公報
(5)甲第5号証:ビールの基本技術,ビール酒造組合 国際技術委員会(BCOJ) 編,財団法人日本醸造協会,2010年,34-37頁
(6)甲第6号証:日本醸造協會雑誌 1976年,第71巻第9号,682-688頁 「第3章 含窒素化合物」
(7)甲第7号証:岡井秀雄ら、化学と生物 Vol.20,No.11,1982年,709-716頁
(8)甲第8号証:西村敏英、化学と生物 Vol.39,No.3,2001年,177-183頁
(9)甲第9号証:第一アルコール株式会社の商品「酒類原料アルコール」が掲載されたウェブサイト,[online],[令和5年3月3日検索],インターネット<URL: https://www.kirinholdings.com/jp/profile/organization/mercian/group/daiichi-alc/products/>
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由1ないし6にはいずれも理由がないと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、発酵麦芽飲料及びその製造方法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「[請求項1] 麦芽を原料として用い、
仕込工程及び発酵工程の少なくとも一方において、グルコアミラーゼを添加し、
発酵工程において、トランスグルコシダーゼを添加することを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法。」
・「[0001] 本発明は、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が充分に低減された発酵麦芽飲料を製造する方法、及び当該方法により製造された発酵麦芽飲料に関する。」
・「[0006] トランスグルコシダーゼは、加水分解反応によりグルコースを生成するが、基質濃度が高い場合には、糖転移反応を行う。そこで、例えば、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造されるビールテイスト飲料において、仕込工程における熱処理前にトランスグルコシダーゼを添加することにより、製品中にイソマルトース、パノース等のイソマルトオリゴ糖を高濃度に含有させることができ、この結果、コク味が増強される(例えば、特許文献2参照)。」
・「発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明は、発酵原料に占める麦芽使用比率にかかわらず、糖質含有量が顕著に低い発酵麦芽飲料、及び当該発酵麦芽飲料を製造する方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0010] 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、発酵麦芽飲料の製造において、仕込工程及び発酵工程の少なくとも一方においてグルコアミラーゼを添加し、発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加することにより、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が顕著に低減された発酵麦芽飲料を製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。」
・「[0041][実施例1]
200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、試験サンプルには、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)を冷麦汁に対して80U/mL添加したが、対照サンプルには何も添加しなかった。両サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)を得た。」
・「[0044][実施例2]
発酵開始時点から発酵終了まで1日おきの発酵液中、及び熟成終了後のビールテイスト飲料中の2~4糖類の含有量を測定した以外は、実施例1と同様にして、ビールテイスト飲料を得た。対照サンプルの測定結果を表2に、試験サンプルの測定結果を表3にそれぞれ示す。表2及び3中、「麦汁」は酵母接種前のエキス9.4質量%に調整した冷麦汁を示す。また、トレハロースからセロビオースまでが二糖類であり、メレチトースからマルトトリオースまでが三糖類であり、マルトテトラオースが四糖類である。
[0045][表2]
[図:0001398327000001.jpg]
」
・「[0047] 対照サンプルでは、表2に示す糖類のうち、マルトースのみ発酵3日目に含有量が5mg/L未満にまで低下したが、その他の含有量は発酵・熟成において大きな変化はなかった。これに対し試験サンプルでは、イソマルトースの含有量は発酵1日目に増加したものの、その後急速に低減し、発酵5日目には対照サンプルと同様に5mg/L未満にまで低下していた。さらに、マルトース、ネオトレハロース、マルトトリオース及びマルトテトラオースは発酵2日目までには5mg/L未満にまで低下しており、セロビオース及びメレチトースは熟成終了までには5mg/L未満にまで低下していた。また、ゲンチオビオースも、発酵6日目から低下し始め、発酵終了後熟成期間中にも含有量が低下していた。この結果、表2に示す糖類の合計値は、対照サンプルが100mg/100mLであったのに対して、試験サンプルはわずか7mg/100mLであった。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、実施例2の熟成終了後の対照サンプルに関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1発明>
「仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸し、次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却し、当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整し、発酵液を発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させて得た発酵麦芽飲料飲料であって、
イソマルトース495mg/L、パノース68mg/Lを含有し、2~4糖類の含有量の合計値が1079mg/Lである、発酵麦芽飲料。」
<甲1製法発明>
「仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸し、次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却し、当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整し、発酵液を発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させる、
イソマルトース495mg/L、パノース68mg/Lを含有し、2~4糖類の含有量の合計値が1079mg/Lである、発酵麦芽飲料の製造方法。」
なお、甲1からは、「風味改善方法」に対応する発明を認定することができない。
(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、低糖質発酵麦芽飲料およびその製造方法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
発酵麦芽飲料の製造方法であって、糖化工程中で麦汁濾過を行うことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
第一の糖化工程と第二の糖化工程との間で麦汁濾過を行うことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
少なくとも第一の糖化工程において、グルコアミラーゼが用いられ、かつ、第一の糖化工程が、50~70℃で行われる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法で製造された発酵麦芽飲料。
【請求項5】
発酵麦芽飲料中の2糖および3糖の非資化性糖の合計含量が、0.16g/100ml以下である、請求項4に記載の発酵麦芽飲料。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、麦芽を原料として用いることによりビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減された発酵麦芽飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、発酵麦芽飲料の製造において、通常、糖化工程終了後に行っている麦汁濾過を糖化工程中に行うことにより製造された発酵麦芽飲料が、ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減されることを見出した。」
・「【0049】
実施例2:糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果の確認(1)
北米産二条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整した。実験区は、仕込み液に、表2に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて糖化を行った。その後、同温度にて、濾紙濾過法を使用して麦汁濾過を行った後、麦芽原料:水=1:6(麦汁濾過前の麦芽原料の重量に基づいて算出)となるよう同温度の湯で濾過麦汁の希釈を行った。さらに同温度にて糖化を継続し、合計で2または5時間糖化を行った。対照区は、表2に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて2または5時間糖化を行った後に、同温度で麦汁濾過したものとした。なお、プルラナーゼはいずれの試験区も麦下ろし時のみ2.0g/kg原料で添加した。このようにして得られた糖化液(実験区および対照区)を10分間煮沸し、7℃に冷却して、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させた。発酵前後で糖度を測定し、AALを算出した。
【表2】
[図:0001398327000002.jpg]
」
・「【0052】
実施例5:発酵後の非資化性糖の分析
実施例2における酵母発酵液について、ダイオネクス社製のイオンクロマト装置(カラム:CarboPac PA1 4×250mm)を用いて、2糖および3糖の非資化性糖の分析を行った。α1,6結合を持つ非資化性糖の標準品としてイソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、ニゲロースを用いた。分析値は、発酵前の糖度として12.0重量%の場合に換算して求めた。
【表5】
[図:0001398327000003.jpg]
その結果、実験区においては、糖化工程中に麦汁濾過を行わない対照区と比較して、2糖および3糖の非資化性糖の合計含量が低くなっていることが確認された(表5、図5)。また、非資化性糖の合計含量とAAL値との間に強い負の相関が示されることが確認された(表5、図6)。従って、糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果は、非資化性糖の合計含量の低下によるものであることが示唆された。」
・「【図5】
[図:0001398327000004.jpg]
【図6】
[図:0001398327000005.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、実施例2の対象区Iの記載に関して整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
<甲2発明>
「北米産二条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整し、グルコアミラーゼを添加し、64℃にて2または2時間糖化を行った後に、同温度で麦汁濾過し、プルラナーゼは麦下ろし時のみ2.0g/kg原料で添加し、このようにして得られた糖化液(対照区)を10分間煮沸し、7℃に冷却して、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させて得た低糖質発酵麦芽飲料であって、
12°P換算濃度でのイソマルトース濃度が0.085g/100mL、パノース濃度が0.046g/100mLである、低糖質発酵麦芽飲料。」
<甲2製法発明>
「北米産二条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整し、グルコアミラーゼを添加し、64℃にて2または2時間糖化を行った後に、同温度で麦汁濾過し、プルラナーゼは麦下ろし時のみ2.0g/kg原料で添加し、このようにして得られた糖化液(対照区)を10分間煮沸し、7℃に冷却して、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させる、
12°P換算濃度でのイソマルトース濃度が0.085g/100mL、パノース濃度が0.046g/100mLである、低糖質発酵麦芽飲料の製造方法。」
なお、甲2からは、「風味改善方法」に対応する発明を認定することができない。
(3)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が17~45%である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
前記ペプチドの質量の比率が18~25%である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
麦芽使用比率が50%以上である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項4】
風味が改善された、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を17~45%に調整することを含んでなる方法。
【請求項5】
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程において、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤。
【請求項7】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を17~45%に調整することを含んでなる方法。」
・「【0005】
糖質が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料のうち糖質濃度が0.5mg/100mL未満のいわゆる「糖質ゼロ」のビールテイスト発酵アルコール飲料は、かなりの量の糖質が削減されているため、特に、水っぽい、薄い香味印象となってしまう。従って、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料において味の厚みが実現できれば、糖質ゼロでありながら、飲み応えのあるビールテイスト発酵アルコール飲料を提供できる。
【0006】
すなわち、本発明は、味の厚みが実現された糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、糖質濃度が0.5mg/100mL未満まで低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量800~1500Daのペプチドの比率を特定範囲内にすることで、当該ビールテイスト発酵アルコール飲料において味の厚みを実現できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。」
・「【0024】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテアーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤等をそれぞれ用いることができ、あるいはこれらの混合製剤を用いることもできる。
【0025】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造の一態様においては、糖化工程または発酵工程において、エンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテアーゼ活性を保有する酵素製剤をタンパク分解のために使用することができる。このような工程を実施することによりビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの比率を増加させて、所定値の範囲内に調整することができ、ひいては糖質ゼロでありながら、味の厚みが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば糖化工程または発酵工程においてエンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテアーゼを含む酵素製剤を使用することを含んでなる、ビールテイスト飲料の製造方法が提供される。上記の麦芽や酵素製剤の酵素活性の特徴は、エンド型プロテアーゼ活性に基づいて特定することができる。
【0026】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、麦芽および未発芽の麦類のいずれかまたは両方を原料の少なくとも一部とするものであり、好ましくは、麦芽または麦芽および未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものである。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料においては、麦芽として大麦麦芽を原料の一部として使用することができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料においてはまた、未発芽の麦類として、未発芽大麦(エキス化したものを含む)や、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を原料として使用することができる。
【0027】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽および未発芽の麦類以外に、米、とうもろこし、大豆、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実(例えば、果汁、濃縮果汁)、コリアンダーまたはその種、香辛料またはその原料(例えば、こしょう、シナモン、さんしょう)、ハーブ(例えば、カモミール、セージ、バジル)、野菜(例えば、かんしょ、かぼちゃ)、そばまたはごま、含糖質物(例えば、ハチミツ、黒糖)、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(茶、コーヒーおよびココアはその調製品を含む)、海産物(例えば、牡蠣、こんぶ、わかめ、かつお節)等の副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。
【0028】
本発明においては、穀物類(例えば、麦芽および/または未発芽の麦類や大豆)から分子量800~1500Daのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質ゼロのビールテイスト飲料に添加することによって、分子量800~1500Daのペプチドの比率を所定値の範囲内に調整することができ、ひいては糖質ゼロでありながら、味の厚みが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば、穀物類から分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することを含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分のビールテイスト発酵アルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、発酵液への調合工程)において行うことができる。なお、穀物類由来の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドは、例えば、穀物類をペプチダーゼ等のタンパク分解酵素で加水分解処理することにより調製することができ、大豆タンパク加水分解物のような穀物類のタンパク加水分解物から得てもよい。
【0029】
本発明においてはまた、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、該飲料から分子量800~1500Daのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質ゼロのビールテイスト飲料に添加することによって、分子量800~1500Daのペプチドの比率を所定値の範囲内に調整することができ、ひいては糖質ゼロでありながら、味の厚みが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、次いで、前記飲料から分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することを含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分のビールテイスト発酵アルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、発酵液への調合工程)において行うことができる。
【0030】
また、本発明によれば、穀物類あるいは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量800~1500Daの1種または2種以上のペプチドが配合されてなるビールテイスト発酵アルコール飲料が提供され、該飲料は本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の一部である。該ペプチドが配合されてなる飲料はビールテイスト発酵アルコール飲料としての風味が改善あるいは向上されており、具体的には、味の厚みが増強された飲料である。
【0031】
ビールテイスト発酵アルコール飲料における糖質の低減は公知の方法に従って行うことができ、例えば、糖化工程中にグルコアミラーゼを添加する方法、発酵工程中にグルコアミラーゼを添加する方法(酵素利用技術大系 基礎・解析から改変・高度機能化・産業利用まで(小宮山 眞 監修、株式会社エヌ・ティー・エス、2010年)など参照)、酵母に資化される糖質を多く含む液糖を使用して酵母による資化性を高めることにより糖質を低減する方法(特開2009-131202号公報参照)、糖化工程中に麦汁濾過を行う方法(特開2012-147780号公報参照)により飲料中の糖質濃度を所定値にすることができる。」
・「【0039】
参考例1:ビールテイスト飲料に好ましい香味を付与するペプチド画分の特定
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
大麦麦芽、ホップ、酵素製剤を用いて、インフュージョン法にてビールテイスト発酵アルコール飲料を製造した。具体的には、65℃の湯300mLに大麦麦芽100gを入れ、60分保持し、さらに78℃に昇温して5分保持後、濾過して麦汁を得た。続いて、ホップを0.8g/L投入して100℃で90分煮沸したのち、濾過して発酵前液を得た。
【0040】
その後、常法に従ってビール酵母により発酵を行い、発酵液の香味確認を行った。その結果、得られた発酵液は、雑味が抑制され、ビールらしく柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあることが確認された。
【0041】
(2)ゲル濾過分画
上記(1)で得られた発酵液を0.45μmフィルターで濾過し、濾過済み発酵液を計量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0042】
<ゲル濾過分画条件>
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:5mL
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1mL(フラクション0)、その後0.35cvから5mLずつ分画(フラクション1~51)
【0043】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、表1のようにフラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。また、各画分の香味特徴は5名の訓練されたパネラーのディスカッションにより決定した。
【0044】
【表1】
[図:0001398327000006.jpg]
【0045】
(3)ペプチド画分の精製
上記(2)で得られた画分CおよびDは、固相抽出カラム(Bond Elute C18、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行い、脱塩水で洗浄した後、50%エタノール水溶液にて溶出して、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした。これをペプチド画分とした。
【0046】
(4)ローリー法によるタンパク定量
上記(2)のゲル濾過分画と上記(3)のペプチド画分の精製によって得られたペプチド画分のタンパク定量は、市販のキット(DCプロテインアッセイ、Bio-Rad社製)を用いたLowry法で行った。まず、上記分画液を適切な範囲になるように濃度調整した。濃度調整したサンプル5μLに対し、A液を50μL加えて撹拌し、続いてB液を400μL加えて攪拌した。室温で15分発色反応を行った後、96ウェルプレートに350μL移して750nmの吸光度を測定した。得られた吸光度と予め作成した検量線に基づき、ペプチド濃度(mg/mL)を算出した。なお、検量線はBSA(ウシ血清アルブミン)を用いて作成した。
【0047】
(5)結果
ペプチド分画物は、Superdex 75 10/300カラムにて分析を行い、分子量を推定したところ、画分CおよびDのペプチドが分子量約800~1500Daに分布していた。
【0048】
以上の結果より、ビールテイスト発酵アルコール飲料から分画・精製した分子量約800~1500Daのペプチド画分CおよびDは、飲み応え(すなわち、味の厚み)の付与に有効であることが示唆された。
【0049】
実施例1:糖質ゼロビールテイスト発酵アルコール飲料の製造並びに該飲料へのペプチド添加が味の厚みに与える影響の分析
(1)糖質ゼロビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
本実施例のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造においては、主原料として、大麦麦芽を使用した。糖化に際しては酵素製剤を用い、糖化の温度、時間を調整し、濾過することで、麦汁を得た。具体的には、50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽10質量部、βグルカナーゼ酵素製剤およびグルコアミラーゼを主体とする酵素製剤を投入して30分保持後、64℃に昇温して70分保持した。その後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0050】
上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップおよび資化性糖を主体とした液糖を9.5質量部投入して100℃で90分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加し、常法に従って主発酵および後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料を得た。
【0051】
(2)ペプチド画分の調製
市販のビールテイスト飲料をガス抜きした上で計量して凍結乾燥した。凍結乾燥物を100mM NaCl溶液に溶解して5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした。参考例1(2)の記載に従ってゲル濾過分画を実施し、得られた画分C(フラクション番号:F25~29)を、参考例1(3)の記載に従って精製した。この際、精製での回収率向上に向け、固相抽出カラムの素通り画分を合成吸着材(セパビーズSP207、三菱ケミカル社製)による回収も行った。タンパク定量は参考例1(4)に記載のローリー法により行った。
【0052】
(3)HPLC分析用ゲル濾過画分の調製
試醸品に関しては、上記(1)で得られた試醸品をガス抜きした上で計量して凍結乾燥した。各凍結乾燥物を50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0、150mM NaCl含む)で溶解して2.5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした。ペプチド画分に関しては、10倍濃縮液相当になるよう上記の緩衝液で溶解し、ゲル濾過分画用サンプルとした。分画サンプルについて、それぞれ、以下の条件にてゲル濾過分画を行い、分画フラクション(フラクション1~10)を得た。
【0053】
HPLC分析用ゲル濾過法の条件は以下の通りであった。
<HPLC分析用ゲル濾過法分析条件>
カラム:Superdex 75 10/300(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:100μL
溶離液組成:50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、20%(v/v)アセトニトリル、150mM NaCl
流速:0.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
【0054】
分画液のタンパク定量は参考例1(4)に記載のローリー法により行った。
【0055】
(4)HPLC分析用ゲル濾過法による分子量の測定
ア HPLC分析用ゲル濾過のサンプル調製
上記(3)で得られた分画フラクション(フラクション1~10)をサンプルとして使用した。
【0056】
イ 分子量の検量線作成
上記HPLC分析用ゲル濾過条件記載のカラム、溶離液、流速、検出波長において、分子量既知のペプチドを0.1~5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入してHPLC分析を行い、保持時間を確認した(表2)。その保持時間、分子量から検量線(図1)を作成した。
【0057】
【表2】
[図:0001398327000007.jpg]
【0058】
ウ 分子量の算出
分子量測定の結果、フラクション1~10のうちフラクション7に含まれるペプチドは分子量800~1500Daの範囲であることが確認された。
【0059】
(5)分子量800~1500Daのペプチド比率の算出
分子量800~1500Daのペプチド比率は各分画フラクションにおける製品相当のペプチド濃度を用いて以下の算出式にて求めた。
【数1】
[図:0001398327000008.jpg]
【0060】
試醸品ペプチド比率は表3に示される通りであった。
【0061】
(6)糖質濃度およびオリジナルエキス濃度の分析
試醸品の糖質濃度の測定は前記の通り栄養表示基準に基づいて行った。結果は表3に示される通りであった。また、試醸品のオリジナルエキス濃度(OE濃度)はBCОJビール分析法(ビール酒造組合(2013年)、8.3.6、8.4.3および8.5に準じて測定した。測定はアルコライザー(アントンパール社製)を用いて行った。
【0062】
(7)官能評価
上記(1)で製造したビールテイスト発酵アルコール飲料(麦芽使用比率50%)に上記(2)で得られたペプチド画分を添加しない試験区(試醸品)と添加する試験区(添加品1~9)を設け、800~1500Daのペプチド濃度が表3のように調整されたサンプル飲料(サンプル番号1~10)を調製した。
【0063】
官能評価は5名の訓練されたパネラーにより実施した。具体的には、「味の厚み」および「雑味」について1~9点の0.5点刻みによる17段階で評価を行い、パネラー5名の評価スコアの平均値を計算した。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感付与等により認識される香味感覚をいう。「味の厚み」についてはサンプル番号1のサンプル飲料を1点(味の厚みがない)、サンプル番号6のサンプル飲料を5点(味の厚みがある)とし、1.5点以上を味の厚みが向上したと判断した。また、「雑味」とは、渋味・エグ味・収斂味をいう。「雑味」についてはサンプル番号1のサンプル飲料を1点(雑味なし)、サンプル番号6のサンプル飲料を3点(多少の渋味)とし、4.0点以上を渋味が向上したと判断した。
【0064】
「味の厚み」と「雑味の有無」についての官能評価結果に基づいて、以下の基準で総合評価を行った。
◎:味の厚みが向上し(2.5点以上)、雑味が少ないもの(4.0点未満)
○:味の厚みがやや向上し(1.5点以上)、雑味が少ないもの(4.0点未満)または味の厚みが向上するものの(2.5点以上)、雑味があるもの(4.0点以上)
×:味の厚みが向上していないもの(1.5点未満)
【0065】
官能評価の結果は表3および4と図2に示される通りであった。
【表3】
[図:0001398327000009.jpg]
【0066】
【表4】
[図:0001398327000010.jpg]
【0067】
表3の結果から、糖質濃度が0.5g/100mL未満の糖質ゼロビールテイスト発酵アルコール飲料(麦芽使用比率50%)であっても、800~1500Daのペプチド比率を高めることにより「味の厚み」が向上することが確認された。」
・「【図1】
[図:0001398327000011.jpg]
【図2】
[図:0001398327000012.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特許請求の範囲の記載及び実施例1の表3のサンプル1ないし10の記載に関して整理すると、甲3には次の発明が記載されていると認める。
<甲3発明>
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.4g/100mLのビールテイスト発酵アルコール飲料であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.139~0.769mg/mLである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
<甲3製法発明>
「甲3発明の製造方法。」
<甲3方法発明>
「甲3発明を製造することによる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法。」
2 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は「麦芽の粉砕物」を原料とするものであるから、本件特許発明1の「麦芽を原料の少なくとも一部とする」との特定事項を満たす。
甲1発明は「イソマルトース495mg/L、パノース68mg/Lを含有」するものであり、イソマルトースおよびパノースの合計濃度は、495+68=563mg/L=0.0563g/100mLと計算される。したがって、甲1発明は、本件特許発明1の「イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである」との特定事項を満たす。
甲1発明の「発酵麦芽飲料」は、麦汁にホップを添加し、かつ、ビール酵母を接種し発酵させたものであるから、本件特許発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
してみると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「麦芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点1-1>
糖質濃度に関し、本件特許発明1は「0.5g/100mL未満」であるのに対し、甲1発明の糖質濃度が不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は「飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上であり、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。
甲1には、甲1発明が相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点1-2は実質的な相違点である。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下の(ア)、(イ)を主張している。
(ア)甲6には、ビールには一般的に分子量2600Da以下のペプチドが1.36mg/mL程度含まれるとの記載があるため、分子量800~1500Daのペプチド濃度が0.136mg/mL以上であることは通常のビールにおいて一般的にあり得る範囲であること、及び、本件特許明細書の実施例1で使用された市販の糖質ゼロビール(希釈前)が分子量800~1500Daのペプチドを0.136mg/mL以上含むものであることからみて、甲1発明においても分子量800~1500Daのペプチドが0.136mg/mL以上含まれている蓋然性が極めて高い。
(イ)甲1は「糖質含有量が充分に低減された発酵麦芽飲料」の製造に関する発明であるため、甲1の実施例の糖化の「常法」は、低糖質ビール飲料の製造における「常法」と解するのが自然である。そして、甲2ないし甲4の糖質濃度が低いビールテイスト発酵アルコール飲料の製造において、糖化時間をある程度長くすることが「常法」であるから、甲1の実施例においても、「常法」に従えば、低糖質のビールテイスト飲料を得るために充分な時間糖化を行っているはずであり、その結果、甲3の実施例1と同様に、分子量800~1500Daのペプチドも0.136mg/mL以上生成している蓋然性が極めて高い。
上記主張について検討する。
まず、(ア)について検討する。
甲6の「ビールには一般的に分子量2600Da以下のペプチドが1.36mg/mL程度含まれる」との記載から、直ちに「ビールには一般的に分子量800~1500Daのペプチドが0.136mg/mL以上含まれている」とまではいえない。また、本件特許明細書の実施例1で使用された市販の糖質ゼロビール(希釈前)は、「麦芽使用比率25%未満、使用原料:麦芽、ホップ、大麦、糖類等」であり、その製造方法が不明であるから、麦芽のみを原料とする甲1発明とは原料が異なるし、甲1発明と糖化工程や発酵工程の条件が同一であるともいえない。そうすると、本件特許明細書の実施例1で使用された市販の糖質ゼロビール(希釈前)と甲1発明とで、分子量800~1500Daのペプチドの含量が同程度であると推認することはできない。
次に、(イ)について検討する。
甲1の実施例には、糖化液の製造について「常法に従って」との記載があるだけで、当該「常法」が、特許異議申立人が主張するような、甲2ないし甲4に記載の低糖質ビール飲料の製造における「常法」であることは記載されていないから、甲1の実施例の対照サンプルである甲1発明が、甲2ないし甲4に記載の低糖質ビール飲料の製造と同様に充分な時間糖化が行われたとまではいえない。また、仮に、甲1発明において甲2ないし甲4に記載の低糖質ビール飲料の製造と同様に充分な時間糖化が行われたとしても、甲1発明の製造方法は、甲2ないし甲4に記載の製造方法とは、糖化工程における原料中の麦芽使用量、麦汁濃度、酵素製剤等が異なり、さらには発酵工程の条件も異なるものであるから、甲1発明において、甲3の実施例1と同様に分子量800~1500Daのペプチドが0.136mg/mL以上生成している蓋然性が極めて高いとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。
また、甲1及び他の証拠には、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1-2と同様の相違点があり、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明3は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
甲1の記載からは、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法に係る発明は認定できないから、本件特許発明5は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。
3 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明は「北米産二条大麦麦芽」を原料とするものであるから、本件特許発明1の「麦芽を原料の少なくとも一部とする」との特定事項を満たす。
甲2発明の「発酵麦芽飲料」は、麦汁にビール醸造用酵母を加え発酵させたものであるから、本件特許発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
してみると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「麦芽を原料の少なくとも一部とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点2-1>
糖質濃度に関し、本件特許発明1は「0.5g/100mL未満」であるのに対し、甲2発明の糖質濃度が不明である点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は「飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上であり、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
<相違点2-3>
イソマルトースおよびパノースの濃度に関し、本件特許発明1は「0.02~0.15g/100mL」であるのに対し、甲2発明のイソマルトースおよびパノースの濃度は「12°P換算濃度でのイソマルトース濃度が0.085g/100mL、パノース濃度が0.046g/100mLである」であり、「0.02~0.15g/100mL」との特定事項を満たすかが不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点2-2について検討する。
甲2には、甲2発明が相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲2及び他の全ての証拠をみても、甲2発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点2-2は実質的な相違点である。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下の(ア)、(イ)を主張している。
(ア)甲6には、ビールには一般的に分子量2600Da以下のペプチドが1.36mg/mL程度含まれるとの記載があるため、分子量800~1500Daのペプチド濃度が0.136mg/mL以上であることは通常のビールにおいて一般的にあり得る範囲である。したがって、甲2発明においても分子量800~1500Daのペプチドが0.136mg/mL以上含まれている蓋然性が極めて高い。
(イ)甲3の実施例1の記載からみて、グルコアミラーゼを使用し、64℃で70分と同程度又はそれ以上の糖化を行えば、得られるビールテイスト発酵アルコール飲料において分子量800~1500Daのペプチドの含量が0.139mg/mLに増加する蓋然性が極めて高い。そうすると、甲2の実施例2では、甲3の実施例1よりも長時間糖化を行っているため、分子量800~1500Daのペプチドがそれより多い濃度0.136mg/mL以上生成している蓋然性が極めて高い。
上記主張について検討する。
まず、(ア)について検討する。
甲6の「ビールには一般的に分子量2600Da以下のペプチドが1.36mg/mL程度含まれる」との記載から、直ちに「ビールには一般的に分子量800~1500Daのペプチドが0.136mg/mL以上含まれている」とまではいえない。したがって、甲6の記載に基づいて、甲2発明において分子量800~1500Daのペプチドが0.136mg/mL以上含まれている蓋然性が極めて高いということはできない。
次に、(イ)について検討する。
甲2発明は、甲3の実施例1とは、糖化工程における原料中の麦芽使用量、麦汁濃度、酵素製剤等が異なり、さらには発酵工程の条件も異なるものである。そうすると、甲2発明において、分子量800~1500Daのペプチドが0.136mg/mL以上生成している蓋然性が極めて高いとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。
また、甲2及び他の証拠には、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2-2と同様の相違点があり、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明3は甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明5について
甲2の記載からは、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法に係る発明は認定できないから、本件特許発明5は、甲2に記載された発明とはいえないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5)申立理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
4 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「麦芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上であり、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1は「イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである」のに対し、甲3発明においては、そのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点3について検討する。
甲3及び他の証拠には、甲3発明において、ペプチドに起因する雑味を低減しつつ、味の厚みを実現するために、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLとすることの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の記載の【0007】及び【0061】ないし【0069】の記載からみて、本件特許発明1は、「イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである」とすることで、「ペプチドに起因する雑味を抑えつつ、味の厚みを付与できる」という効果を奏するものであるが、該効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲3製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点3と同様の相違点があり、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明3は、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明4は、本件特許発明3と同様に、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲3方法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点3と同様の相違点があり、該相違点については上記(1)イと同様に判断されるから、本件特許発明5は、甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由3についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断基準
本件特許発明1及び2は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、本件特許の明細書の詳細な説明及び図面(以下、「明細書等」という。)にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、本件特許発明3及び4は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、本件特許発明5は、上記第2のとおり、「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明が「糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料に関」することであって(【0001】)、「味の厚みが実現され、かつ、雑味が低減された糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することを目的とする」こと(【0006】)、「糖質濃度が0.5g/100mL未満まで低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量800~1500Daのペプチド濃度および非資化性糖濃度を特定範囲内に調整することで、当該ビールテイスト発酵アルコール飲料において前記ペプチドに起因する雑味を低減しつつ、味の厚みを実現できることを見出した」こと(【0007】)が記載され、「【発明の具体的説明】」として、ビールテイスト発酵アルコール飲料の定義(【0012】)、麦芽を用いること及びその割合(【0013】)、糖質濃度の測定法(【0015】)、分子量800~1500Daのペプチドの比率の算出法(【0017】)及びHPLC分析用ゲル濾過法による分子量の測定やペプチドの定量方法(【0020】)、イソマルトースおよびパノースの濃度の測定法(【0022】)、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法(【0025】ないし【0031】)、分子量800~1500Daのペプチドの比率の調整法(【0027】ないし【0028】及び【0032】ないし【0033】)、イソマルトースおよびパノースの濃度の調整法(【0029】及び【0032】ないし【0033】)、ビールテイスト発酵アルコール飲料における糖質の低減法(【0035】)が記載され、これらの製造方法により、「風味が改善された、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料」が得られること(【0038】)、風味改善方法が提供されること(【0039】)の記載もある。
これらの記載によれば、本件特許発明1ないし5に関し、明細書の発明の詳細な説明には過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施できる程度に記載されているものといえ、実施可能要件を満たす。
よって、本件特許発明1ないし5に関する明細書の発明の詳細な説明に記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記「第3 4」に記載のとおり、実施例2が実施可能に記載されていないこと、実施例1における「市販のビールテイスト飲料」が不明であること、「分子量が800~1500Daのペプチド」には呈味に様々な影響を及ぼすものが存在することを挙げ、本件特許発明1ないし5に関する本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、実施可能要件の判断は上記(1)の基準にしたがって判断されるものであり、特許異議申立人の主張は何れも、上記(2)における検討に何ら影響するものではない。
(4)申立理由4についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。
6 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件についての判断
本件特許発明における発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「味の厚みが実現され、かつ、雑味が低減された糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料を提供すること」(【0006】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「糖質濃度が0.5g/100mL未満まで低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量800~1500Daのペプチド濃度および非資化性糖濃度を特定範囲内に調整することで、当該ビールテイスト発酵アルコール飲料において前記ペプチドに起因する雑味を低減しつつ、味の厚みを実現できることを見出した」こと(【0007】)が記載され、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が低減された糖質ゼロの飲料であり、具体的には、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度は、0.5g/100mL未満である」(【0014】)こと、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では、飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度の下限値(以上または超える)を0.136mg/mL・・・とすることができ」ること(【0016】)、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、飲料中のイソマルトースおよびパノースの合計濃度・・・の下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲料中のイソマルトースおよびパノースの合計濃度を・・・0.02~0.15g/100mL・・・とすることができる」こと(【0021】)、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、飲料中の糖質濃度が所定の範囲内に低減され、かつ、飲料中の800~1500Daのペプチド濃度とイソマルトースおよびパノースの合計濃度がそれぞれ所定の範囲内に調整される限り、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる」(【0025】)こと、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、麦芽および未発芽の麦類のいずれかまたは両方を原料の少なくとも一部とするものであり、好ましくは、麦芽または麦芽および未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものである」こと(【0030】)が記載され、具体的な実施例等の記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料において、麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量800~1500Daのペプチド濃度を0.136mg/mL以上に、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLにすることにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし5は何れも、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料において、麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量800~1500Daのペプチド濃度を0.136mg/mL以上に、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLにする、との特定事項を全て有し、かつ、さらに特定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1ないし5はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 5のとおり、分子量800~1500Daのペプチド並びにイソマルトース及びパノースを添加する方法しか実施可能に記載されていないこと、「分子量が800~1500Daのペプチド」には呈味に様々な影響を及ぼすものが存在すること、分子量が800~1500Daのペプチド濃度の上限が規定されていないことを挙げ、本件特許発明1ないし5はサポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、上記(2)で検討したとおり、本件特許発明1ないし5の発明の課題は、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料において、麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量800~1500Daのペプチド濃度を0.136mg/mL以上に、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLにすることで解決できると認識できるものであり、「麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量800~1500Daのペプチド」を得る手法を問うものではない。
また、特許異議申立人は、「分子量が800~1500Daのペプチド」には呈味に様々な影響を及ぼすものが存在する旨主張するが、本件特許発明は、「麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する」ものと特定されるものであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。
さらに、特許異議申立人は、「分子量800~1500Daのペプチド」を得る手法の違いや、ペプチド濃度が非常に高濃度であることにより、発明の課題を解決し得ない旨主張するが、具体的に解決し得ないことを示す証拠を提示するものではないから、当該主張も採用できない。
(4)申立理由5についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由5は、その理由がない。
7 申立理由6(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断される
べきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の請求項1には、「麦芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上であり、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。」と記載されており、当該記載からは、「ビールテイスト発酵アルコール飲料」であって、「前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上」であること、「前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来」すること、「イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである」ことが明確に理解できる。
よって、本件特許発明1に関する請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
本件特許発明2ないし5の記載について検討しても、その記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1ないし5に関する請求項1ないし5の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合する。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記「第3 6」において、ペプチドの由来が明確ではないこと、ペプチド濃度の上限値がないことを挙げ、本件特許発明1ないし5は明確ではない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1ないし5において、ペプチドが「麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する」ものであることは明らかであり、どの「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に由来するものかを区別しているものではないことは明らかである。
また、ペプチド濃度の上限値が特定されていないとしても、ペプチド濃度が本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3、5で特定される下限値(「0.136mg/mL」)以上であれば、本件特許発明1、3、5に含まれることは明らかであるから、本件特許発明は明確である。
(4)申立理由6についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由6は、その理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700274