特許異議申立
2022-701212
ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-701212
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-109692
- 登録番号
- 7081905
- 請求日
- 2022年12月06日
- 審決日
- 2023年03月23日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】横田 修孝
- 【権利者代理人】榎 保孝
- 【権利者代理人】大森 未知子
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 三上 晶子
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7081905号発明「ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7081905号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7081905号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年6月2日(優先権主張 平成28年6月3日)に出願された特願2017-109692号に係るものであって、令和4年5月30日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年6月7日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月6日に特許異議申立人 松山 徳子(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし9)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料であって、該飲料が、大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり、飲料中の全タンパク量に対する前記ペプチド画分に含まれるペプチド量の比率が4.8%より大きく8.0%以下であり、かつ、飲料中の重合度5~10のα-グルカンの濃度が7.1mg/mL以上16.0mg/mL以下である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽使用比率が50%以上である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を配合する工程と、重合度5~10のα-グルカンを配合する工程とを含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、前記ペプチド画分に含まれるペプチドを飲料中の全タンパク量に対して4.8%より大きく8.0%以下の比率となるように配合し、かつ、前記α-グルカンを飲料中において7.1mg/mL以上16.0mg/mL以下の濃度となるように配合する、製造方法。
【請求項4】
前記ペプチドを含む原料から該ペプチドを調製する工程をさらに含んでなる、請求項3に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
限外濾過法および硫安沈殿法により前記ペプチドを調製する、請求項4に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
前記ペプチドを含む原料が、大麦麦芽あるいはその加工品である、請求項4または5に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
前記ペプチドを含む原料が、大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料である、請求項4~6のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分および重合度5~10のα-グルカンを有効成分として含んでなるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤であって、前記ペプチド画分に含まれるペプチドを飲料中の全タンパク量に対して4.8%より大きく8.0%以下の比率となるように使用し、前記α-グルカンを飲料中の濃度で7.1mg/mL以上16.0mg/mL以下となるように使用し、かつ、前記ペプチド画分および前記α-グルカンが大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する、風味改善剤。
【請求項9】
分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分および重合度5~10のα-グルカンを添加する工程を含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、前記ペプチド画分に含まれるペプチドを飲料中の全タンパク量に対して4.8%より大きく8.0%以下の比率となるように添加し、前記α-グルカンを飲料中の濃度が7.1mg/mL以上16.0mg/mL以下となるように添加し、かつ、前記ペプチド画分および前記α-グルカンが大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する、風味改善方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第3号証を根拠とする新規性)
本件特許の請求項1~2に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第4号証を根拠とする進歩性)
本件特許の請求項1~2に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
・酵素製剤が不明なので実施可能要件を満たさない。
本件特許発明は、「ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、味の持続性が認められる、新しい香味を有するビールテイスト発酵アルコール飲料とその製造方法を提供すること」(段落【0005】)を課題とし、10~20kDaペプチド比率が4.8%以下である市販品(サンプル番号1~3)に対して、10~20kDaペプチド比率を高くすることにより、課題を解決したものといえる。
そして、10~20kDaペプチド比率を高くした飲料を得るための方法として、明細書の段落【0022】の記載から、飲料中に含まれるタンパクのうち高分子側に属する10~20kDaのペプチドの比率を高くするために、タンパク分解を抑制する条件となるように、飲料の製造条件を調整することにより本件特許発明の飲料を得ているものと推察される。
ここで、本件特許発明を実施するための条件の一例となる、明細書の試験醸造のビール4~8の製造条件についての段落【0062】~【0066】の記載から、上記サンプル番号4~8の試験条件と、10~20kDaぺプチド比率の関係を確認するための表をまとめたので下記に示す。
[図:0001396317000001.jpg]
第2段階の条件は同じであるので、工程の違いは第1段階の条件のみである。湯温が高く保持時間が長い試験醸造4の条件が、最も強い条件での処理といえそうだが、10~20kDaペプチド比率はこれらの条件のうち中間の値である。そのため、湯温及び保持時間の条件と、10~20kDaペプチド比率に相関があるようには読み取れない。
また、試験醸造6~8の工程の違いは本件明細書には示されていないので、同じ条件で3つの異なるロットの醸造品を得たと読み取れる。このことから、全く同じ製造条件であっても10~20kDaペプチド比率は4.9~5.7%の範囲でばらつくものと考えられる。
この表(サンプル番号4~8の試験条件)から読み取れることは、糖化条件として、酵素製剤を投入して湯温62~65℃での処理を行い、78℃での処理を行うと、10~20kDaペプチド比率を4.9~5.7%の範囲にすることができる、ということである。
65℃での処理を行うサンプル番号4、5のペプチド比率は、62℃での処理を行うサンプル番号6~8の誤差範囲に含まれている。すなわち、3℃の差には工程上の有意差はない。
本件明細書には、従来公知の醸造品を製造する際の糖化条件は記載されていないので、この条件が従来の条件と異なるのか、従来の条件と比べてタンパク質分解を抑制する条件になっているのかは不明である。
上述したサンプル番号4~8において酵素製剤を使用して糖化を行う際の温度、時間を調整することで10~20kDaペプチド比率を特定の範囲に調整した醸造品を得ているが、この工程で使用する酵素製剤が不明である。
酵素製剤がどの程度作用するかが、タンパク分解の抑制の程度に重要な影響を及ぼすことが本件明細書【0022】及びサンプル番号4~8の試験結果から読み取れるところ、同じ糖化条件であっても酵素製剤の種類によってタンパク分解の抑制の程度が異なることは明らかであるので、当業者が本件特許発明を実施することができないのは明らかである。
そして、酵素製剤の種類によって、その活性が高くなる温度や処理条件が異なることは言うまでもない。本件の実施例で使用した酵素製剤と異なる酵素製剤を使用した場合には、湯温や処理条件を同じにしたとしても、10~20kDaペプチド比率が4.8%以下となる可能性や8.0%を超える可能性がある。
全く同じ糖化条件で実施したと思われる試験醸造6~8の結果ではペプチド比率が4.9~5.7%の範囲でばらつくことから、タンパク分解の抑制の程度が多少大きくなる酵素製剤を使用した場合は、同じ処理条件であっても10~20kDaペプチド比率が4.9%以下となることはあり得る。
そのため、酵素製剤が特定されていない本件明細書に記載された条件に基づき、当業者が本件特許発明を実施することができないのは明らかである。
・測定精度からみての実施可能要件違反
実施例の表8(本件明細書の【0081】)を参照すると、10~20kDaペプチド比率が4.8%である市販品1に対して、4.9%であるサンプル番号7において官能評価スコアが高いことから、本件特許発明は課題を解決できたとされている。
すなわち、本件特許発明が成立するためには、10~20kDaペプチド比率を0.1%という細かい精度で測定できることが前提となるが、10~20kDaペプチド比率を0.1%の精度で測定することができないので、当業者は本件特許発明を実施することができない。
甲第1号証は、発明の効果を裏付けるために、小数点第一位までという細かい数値を規定することが必要な場合は、その細かい数値を有意なものとして求められる程度に、測定方法が記載されていなければならない、ということを示している。
ここで、本件での10~20kDaペプチド比率の測定方法は、本件明細書の【0073】~【0079】に記載された方法で求められる。
本件明細書の【0112】には、ゲル慮過画分(画分A1~A2)中のタンパク質として、non-specific lipid-transfer protein 1(以下、「LTP1」と呼ぶ)が含まれることが開示されている。
本件明細書の【0057】には「画分A1のペプチドが分子量約10~20kDaに分布し、SDS-PAGE電気泳励上でも、画分A1~A2において、同様の分子量約10~20kDaのペプチドが分布している」と記載されていることから、LPT1は分子量約10~20kDaに含まれているタンパク質として認識されていると推定される。
また、図8には、LPT1のバンド12、13が示されている。図8の左側には分子量マーカーが示されており、これを基準とすると、バンド12、13は分子量10kDaと15kDaの中間よりもやや15kDaの側(13kDa付近)に位置している。
[本件特許明細書の図8]
[図:0001396317000002.jpg]
ここで、甲第2号証の第20頁第5~8行には、LPT1の分子量が9.7kDaであることが示されており、LPT1は分子量既知のペプチドである。
LPT1の分子量は実際には9.7kDaであるので本来であれば分子量10~20kDaの範囲には含まれるべきではない物質である。しかしながら、LPT1は分子量10~20kDaの範囲に含まれるタンパク質として、13kDa付近に測定されている。
この事実は、本件明細書に記載の方法では、正確に分子量10~20kDaの範囲のペプチドの量が計測できていないことを示している。
そして、本件明細書に記載された方法で測定された分子量10~20kDaのペプチドの量は、分子量10~20kDaの範囲外にあるペプチドの量を含むことがあることを意味している。
9.7kDaのペプチドであるLPT1が13kDa付近に測定されるのであれば、分子量の測定誤差が少なくとも(13/9.7)×100-100≒約34%あるものと考えられる。
本件では、10~20kDaペプチド比率の4.8%と4.9%の0.1%の差を有意なものとして測定できるかが間題となる。しかし、10~20kDaのペプチド量を測定する前提となる分子量の測定誤差が約34%もあるのであれば、その誤差は10~20kDaペプチド比率の測定にもそのまま影響する。
そのため、10~20kDaペプチド比率が4.8%と測定された場合の、34%の誤差を考慮した実際の値は4.8×0.66~4.8×1.34、すなわち3.2%~6.4%となる。従って10~20kDaペプチド比率が4.8%である場合と4.9%である場合は区別できない。そして、10~20kDaペプチド比率0.1%の差を有意なものとして測定することができない。この状況は、甲第1号証として示した裁判例の状況と同様である。
仮に、LPT1という分子量9.7kDaのタンパク質が10~20kDaのタンパク質として13kDa付近に測定されるという、大きな誤差を含み得る測定条件によりペプチドの分子量が測定されているにもかかわらず、本件明細書に記載された測定方法により、10~20kDaペプチド比率について正確に4.8%と4.9%の0.1%の差を有意なものとして測定できるということであれば、そのことが理解できる程度に、測定方法の詳細が明細書に記載されるべきであるが、本件明細書にはそのような説明は記載されていない。
従って、10~20kDaペプチド比率を0.1%の精度で測定することができず、当業者は本件特許発明を実施することができない。
なお、本件明細書【0112】の記載から、ゲル濾過画分においても分子量が9.7kDaのLPT1が10~20kDaのタンパク質に分類されていることから、ゲル濾過による分子量の測定法でも測定誤差があり、SDS-PAGE電気泳動による分子量の測定方法と同様に分子量の測定精度が低い。そのため、ゲル濾過による分子量測定と電気泳動による分子量測定の違いを考慮したとしても、依然としてペプチド比率0.1%の差を有意なものとして測定することはできない。
・「タンパク分解を抑制する条件」が不明
本件明細書には、酵素製剤を使用して糖化を行う際の温度、時間を調整することで10~20kDaペプチド比率を特定の範囲に調整することが記載されている。そして、上記の参考表1で示したように、試験醸造6~8からは、同じ製造条件であっても10~20kDaペプチド比率は4.9~5.7%の範囲でばらつくことが理解できる。
このように、製造時のばらつきが大きいことから、酵素製剤を使用して糖化を行う際の温度、時間を調整したとしても、当業者は10~20kDaペプチド比率を0.1%単位で調整して、10~20kDaペプチド比率が4.8%である飲料と4.9%である飲料を作り分けることができない。
本件明細書に記載された飲料の製造方法により、10~20kDaペプチド比率について正確に4.8%と4.9%の0.1%の差を有意なものとして飲料を作り分けられるということであれば、そのことが理解できる程度に、飲料の製造方法の詳細が明細書に記載されるべきであるが、本件明細書にはそのような説明は記載されていない。
従って、10~20kDaペプチド比率を0.1%の精度で制御して飲料を製造することはできず、当業者は本件特許発明を実施することができない。
また、本件明細書【0022】には、「タンパク分解を抑制する条件」を採用することにより10~20kDaのペプチドの比率を高くすることが記載されているが、本件明細書中には「タンパク分解を抑制する条件」がどのような条件であるのかが記載されていない。
ここで、申立理由1の「新規性」の項目で対比する甲第3号証の実施例1に記載されている糖化条件と本件明細書に記載されたサンプル番号4~8の試験条件は酷似しており、甲第3号証の実施例1で得られた発酵前液と、本件実施例のサンプル番号4で得られた麦汁は、第1段階での保持時間が20分異なり、第2段階での保持時間が2分異なり、温度が3℃異なる他は同様の条件で得られている。
すなわち、本件明細書に記載された糖化条件は、従来公知の条件と実質的に同一であるといわざるを得ないが、それでも本件特許発明が新規性を有する(甲3の実施例1で得られた発酵前液の10~20kDaペプチド比率が4.8%以下になるということ)のであれば、本件の実施例のサンプル番号4~8の試験では本件明細書に記載されていない何らかの「タンパク分解を抑制する処理」が行われているために、差異が生じていると考えざるを得ない。
そのような「何らかの「タンパク分解を抑制する処理」」の詳細は本件明細書に記載されていないことから、当業者は本件特許発明を実施することはできない。
4 証拠方法
・甲第1号証:東京高裁平成13年(行ケ)第209号 審決取消請求事件の判決文
・甲第2号証:特表平9-505997号公報
・甲第3号証:国際公開第2011/052483号
・甲第4号証:醸造物の成分,p191,財団法人日本醸造協会,1999
・甲第5号証:特開2014-158502号公報
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立人の特許異議申立書における記載にしたがった。以下、「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、特許異議申立人が申し立てる申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。
1 申立理由1(甲3に基づく新規性)について
(1) 甲3の記載事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には以下の記載がある。下線については当審において付与した。以下同じ。
「請求の範囲
[請求項1] 疎水性ポリペプチドを1.1g/L以上含有する
ことを特徴とする発泡性飲料。
・・・
[請求項4] 前記疎水性ポリペプチドは、分子量が10~25kDaのポリペプチドを含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された発泡性飲料。
[請求項5] 前記疎水性ポリペプチドは、大麦から得られたポリペプチドであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された発泡性飲料。」
「[0031] 疎水性ポリペプチドは、例えば、分子量が10~25kDaのポリペプチドを含むことができる。すなわち、この場合、本飲料は、分子量が10~25kDaの疎水性ポリペプチドを含むこととなる。
[0032] 疎水性ポリペプチドの分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定される。すなわち、分子量が10~25kDaの疎水性ポリペプチドは、例えば、分子篩として機能する多孔性の固定相を備えたカラムを使用したゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、分子量10~25kDaに相当する保持時間で検出されるポリペプチドである。
[0033] また、疎水性ポリペプチドは、例えば、分子量が10~15kDaのポリペプチドを含むことができる。より具体的に、疎水性ポリペプチドは、例えば、分子量が約10kDaのポリペプチドを含むことができる。」
「実施例1
[0132][発泡性アルコール飲料の製造]
大麦及び大麦麦芽からなる大麦原料、ホップ及びプロテアーゼを含む原料を使用して、インフュージョン法により発泡性アルコール飲料を製造した。
[0133] プロテアーゼとしては、7種類のプロテアーゼ(以下、「プロテアーゼP1~P7」という。)のうちいずれか1種を使用した。すなわち、プロテアーゼP1(オリエンターゼ10NL、エイチビィアイ株式会社製)、プロテアーゼP2(プロチンSD-PC10F、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP3(ウマミザイムG、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP4(Trypsin4.0T、株式会社樋口商会製)、プロテアーゼP5(スミチームLP50D、新日本化学工業株式会社製)、プロテアーゼP6(スミチームSP、新日本化学工業株式会社製)又はプロテアーゼP7(スミチームACP-G、新日本化学工業株式会社製)を使用した。
[0134] なお、これら7種類のプロテアーゼは、16種類のプロテアーゼを使用した予備試験において、発泡性アルコール飲料の泡特性の向上に寄与し得る好ましいプロテアーゼとして選択されたものであった。
[0135] すなわち、この予備試験におけるスクリーニングの結果、16種類のプロテアーゼのうち、次の9種類;オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ株式会社製)、オリエンターゼ10NL(エイチビィアイ株式会社製)、スミチーム焼酎(新日本化学工業株式会社製)、スミチームP(新日本化学工業株式会社製)、スミチームRPII(新日本化学工業株式会社製)、ビオプラーゼOP(ナガセケムテックス株式会社製)、アロアーゼXA-10(ヤクルト薬品工業株式会社製)、パンチダーゼP(ヤクルト薬品工業株式会社製)、Neutrase0.8L(novozymes社製);は、発泡性アルコール飲料の泡持ち特性の向上に寄与しないとの理由により採用されなかった。
[0136] まず、50℃の湯に、ホップを除く、大麦830g(大麦原料の77重量%)、大麦麦芽250g(大麦原料の23重量%)及びプロテアーゼ1.08g(大麦原料に対して0.1重量%)を含む原料を投入し、原料液を調製した。そして、この原料液を50℃で30分間保持することにより、大麦をプロテアーゼで処理するとともに、タンパク休止を行った。
[0137] その後、原料液を65℃で60分間保持することにより、糖化を行った。次いで、原料液を75℃で3分間保持した後、当該原料液をろ過し、発酵前液を得た。さらに、この発酵前液を100℃まで加熱し、ホップ7gを添加して煮沸した。煮沸後の発酵前液をろ過した後、冷却した。
[0138] 冷却された発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調製した。この発酵液を10~13℃の温度で所定期間維持することにより前発酵を行った。さらに、前発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯酒を行った。貯酒後の発酵液をろ過して、発泡性アルコール飲料を得た。
[0139] また、比較の対照として、プロテアーゼを使用しない以外は同様にして、発泡性アルコール飲料を製造した。こうして、8種類の発泡性アルコール飲料を製造した。」
イ 甲3に記載された発明
甲3の実施例1の比較の対象として、プロテアーゼを使用しない以外は実施例1と同様にして製造された発酵アルコール飲料として、甲3には、以下の発明が記載されていると認める。
<甲3発明>
「大麦及び大麦麦芽からなる大麦原料、ホップを含む原料を使用して、インフュージョン法により製造した発泡性アルコール飲料であって、
まず、50℃の湯に、ホップを除く、大麦830g(大麦原料の77重量%)、大麦麦芽250g(大麦原料の23重量%)を含む原料を投入し、原料液を調製し、その後、原料液を65℃で60分間保持することにより、糖化を行い、次いで、原料液を75℃で3分間保持した後、当該原料液をろ過し、発酵前液を得、さらに、この発酵前液を100℃まで加熱し、ホップ7gを添加して煮沸し、煮沸後の発酵前液をろ過した後、冷却し、冷却された発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調製し、この発酵液を10~13℃の温度で所定期間維持することにより前発酵を行い、さらに、前発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯酒を行い、貯酒後の発酵液をろ過して得られた、発泡性アルコール飲料。」
(2) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「大麦及び大麦麦芽からなる大麦原料、ホップを含む原料を使用して、インフュージョン法により発泡性アルコール飲料を製造した発泡性アルコール飲料」は、発酵酵母を添加して発酵させているから、本件特許発明1の「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
してみると、両者は、
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3-1>
「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に関し、本件特許発明1は「大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり、飲料中の全タンパク量に対する前記ペプチド画分に含まれるペプチド量の比率が4.8%より大きく8.0%以下であり、かつ、飲料中の重合度5~10のα-グルカンの濃度が7.1mg/mL以上16.0mg/mL以下である」と特定するのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点
そして、相違点3-1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲3発明ではない。
なお、特許異議申立人は、本件特許明細書のサンプルと甲3発明とで糖化条件が酷似しているから、得られる物が同じである蓋然性が高いと主張するが、甲3発明は、大麦麦芽と大麦が原料で、糖化時に酵素製剤が添加されておらず、本件特許明細書のサンプルでは、大麦麦芽のみが原料で酵素製剤が添加されている点で少なくとも異なっており、大麦麦芽や大麦には糖化酵素やプロテアーゼ(ペプチド分解酵素)が含まれるため、原料が「大麦麦芽と大麦」と「大麦麦芽」のみとでは、系中に含まれる酵素が異なり、得られるペプチドも異なると考えられるから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲3における実施例1に記載されている発明を引用発明としているようにも見受けられるが、そのように甲3発明を認定すると、本件特許明細書のサンプルの製造方法と、糖化前にプロテアーゼ処理を行う点もさらに相違することになり、さらなる相違点も、よりタンパク含量に影響するから、当該引用発明を認定したとしても、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものである。
そして、上記(2)で検討のとおり、本件特許発明1は、甲3発明ではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2も同様に、甲3発明ではない。
2 申立理由2(甲4に基づく進歩性)について
(1) 甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には以下の記載がある。
「第1表
[図:0001396317000003.jpg]
」(p191 左欄)
イ 甲4に記載された発明
上記アの記載から、甲4には、以下の発明が記載されていると認める。
<甲4発明>
「DP6-10のα-グルカンを4200-12000mg/l含むビール。」
(2) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「ビール」は、当業者の技術常識を参酌すれば、本件特許発明1の「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
してみると、両者は、
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点4-1>
「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に関し、本件特許発明1は「大麦麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を含んでなり、飲料中の全タンパク量に対する前記ペプチド画分に含まれるペプチド量の比率が4.8%より大きく8.0%以下であり、」と特定するとともに、そのグルカン濃度に関し、「飲料中の重合度5~10のα-グルカンの濃度が7.1mg/mL以上16.0mg/mL以下である」と特定するのに対し、甲4発明には、そのようなペプチド画分についての特定がなく、重合度6~10のα-グルカンの濃度が4200~12000mg/lである点
以下、相違点4-1について検討する。
甲4発明において、相違点4-1に係る「分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチド量」という発明特定事項に着目し、「飲料中の全タンパク質量に対する前記ペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率」として調整し、その「比率が4.8%より大きく8.0%以下」とすること、当該ペプチド画分として、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料由来する」ものとすること、さらには、「飲料中の重合度5~10のα-グルカンの濃度が7.1mg/mL以上16.0mg/mL以下である」ものとすることは、甲4及び他の全ての証拠の記載をみても導くことができない。
そして、本件特許発明1は、当該特定事項を満たすことにより、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料において、「ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、味の持続性が認められる」との格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものである。
そして、上記(2)で検討のとおり、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2も同様に、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1、2及び8は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、本件特許の明細書の詳細な説明及び図面(以下、「明細書等」という。)にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、本件特許発明3ないし7は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、本件特許発明9は、上記第2のとおり、「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) 明細書等の記載
本件特許の明細書等には以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト発酵アルコール飲料にコクや味の厚みを付与する技術としては、カルボキシメチルリジンを含むペプチドをコク付与物質として用いる技術(特許文献1)が知られている。しかし、ビールテイスト発酵アルコール飲料の香味の実現には依然として改善の余地があった。また、柔らかくスムーズなテクスチャーの付与や、味の持続性の実現、余韻の付与などの観点から、ビールの香味の改良を試みた例は発明者らが知る限り報告されていない。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビールは、発泡酒や新ジャンルと比べて柔らかくスムーズなテクスチャーを有し、ボディ感が強いなどの好ましい味の特徴がある。本発明者らは、この違いに基づき、ビールの特徴をさらに強化する技術開発が実現すれば、これまでにない香味特徴のあるビールの製造を実現できると考えた。
【0005】
本発明は、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、味の持続性が認められる、新しい香味を有するビールテイスト発酵アルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤と風味改善方法を提供することも目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ビールテイスト発酵アルコール飲料において、特定分子量のペプチドと特定重合度のα-グルカンがビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーの付与や味の持続性に寄与することを見出した。本発明者らはまた、特定分子量のペプチドの比率や特定重合度のα-グルカンの含有量を特定範囲内にすることで、よりビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーや味の持続性が実現できることを見出した。本発明者らはさらに、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定した。本発明はこれらの知見に基づくものである。」
「【0013】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では、全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率(ペプチド比率)(好ましくは、ビールテイスト発酵アルコール飲料の原料に由来する分子量10~20kDaのペプチド比率)が特定値以上であることを特徴とする。ここで、ペプチド比率の算出に当たっては、飲料中のタンパク濃度(mg/mL)を全タンパク量とし、飲料中の分子量10~20kDaのペプチド濃度(mg/mL)を分子量10~20kDaのペプチド量とすることができる。また、本明細書において「ペプチド比率」の算出の元になるペプチド量は10~20kDaの分子量を有する1種または2種以上のペプチドの含有量を合計して算出されるものである。また本明細書においてペプチドの「分子量」はHPLCゲル濾過法により測定されるものであり、測定の具体例は後記実施例1に示される通りである。ペプチドおよびタンパクの定量はローリー法(Lowry法)により実施することができる。
【0014】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、新しい香味を有すること、すなわち、味のスムーズさと味の持続性が増強されたことを特徴とする。ここで、「味のスムーズさ」とは、舌で味を感じる時の口当たりの柔らかさの度合いを意味する。また、「味の持続性」とは、溜飲後に持続する味の余韻の度合いを意味する。
【0015】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では、全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率を4.8%より大きい比率にすることができ、好ましくは4.9%以上、より好ましくは5.1%以上、さらに好ましくは5.2%以上、特に好ましくは5.4%以上、最も好ましくは5.7%以上である。該比率は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、8.0%を上限とすることができる。
【0016】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、重合度5~10のα-グルカンの濃度が特定値以上であることを特徴とする。本明細書において「α-グルカン濃度」は重合度5~10の1種または2種以上のα-グルカンの含有量を合計して算出されるものである。また本明細書において「α-グルカン」とは複数のグルコース分子がα-1,4-グルコシド結合により結合して構成された直鎖状または分岐状のグルカン(例えば、α-1,4-グルコシド結合およびα-1,6グルコシド結合で構成された分岐状のグルカン)を意味する。さらに、本明細書においてα-グルカンの「重合度」はグルカンを構成するグルコース残基の個数を意味し、直鎖状グルカンを構成するグルコース残基の個数のみならず、分岐構造を構成するグルコース残基の個数を含む。α-グルカンの重合度と含有量の測定は、例えば、コロナCAD検出器を用いたHPLC分析により実施することができ、測定の具体例は後記実施例1に示される通りである。なお、本明細書および図面において重合度は単に「G」と表記されることがある。
【0017】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では重合度5~10のα-グルカン濃度を7.1mg/mL以上の濃度にすることができ、好ましくは7.1mg/mLより大きい濃度であり、より好ましくは11.1mg/mL以上である。該α-グルカン濃度は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、16.0mg/mLを上限とすることができる。
【0018】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料において味のスムーズさと味の持続性をより増強する観点から、分子量10~20kDaのペプチド比率に加えて重合度5~10のα-グルカン濃度を所定値とすることが好ましい。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が50%以上のもの)において分子量10~20kDaのペプチドを所定の比率にするとともに重合度5~10のα-グルカン濃度を所定の濃度に調整することにより味のスムーズさと味の持続性がより一層増強される。すなわち、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が50%以上のもの)では、全タンパク量に対する分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド量の比率を4.8%より大きい比率(好ましくは4.9%以上、より好ましくは5.1%以上、さらに好ましくは5.2%以上、特に好ましくは5.4%以上、最も好ましくは5.7%以上)にするとともに、重合度5~10のα-グルカンの濃度を7.1mg/mL以上の濃度(好ましくは7.1mg/mLより大きい濃度、より好ましくは11.1mg/mL以上の濃度)にすることができる。ペプチド比率およびα-グルカン濃度はいずれも前記のような上限を設けることができる。
【0019】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は分子量10~20kDaのペプチド比率および/または重合度5~10のα-グルカン濃度が所定値の範囲内に調整される限り、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。例えば、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、発酵液を醸成させて、発酵麦芽飲料を製造することができる。得られたビールテイストの発酵アルコール飲料は、低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することができる。なお、ビールテイスト発酵アルコール飲料のうちオールモルトビールは、麦芽、ホップ、水から製造できることはいうまでもない。」
「【0022】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の分子量10~20kDaのペプチド比率を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込み・糖化工程におけるタンパク分解を抑制することや、原料である麦芽の製麦工程におけるタンパク分解度を抑制することなどにより、調整することができる。なお、タンパク分解としては、麦芽や未発芽の麦類に内在するプロテアーゼ、あるいは外から添加するプロテアーゼ製剤によるものが挙げられる。分解の抑制は、プロテアーゼ製剤の添加量を減じる、タンパク分解の作用温度における処理時間を減じる、作用pHを至適条件から変更するなどにより行うことができる。
【0023】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の重合度5~10のα-グルカン濃度を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込みや糖化工程におけるα-グルカン分解を抑制すること、原料である麦芽の製麦工程におけるα-グルカン分解を抑制すること、あるいはα-グルカンの分解度が抑制された液糖を用いることなどにより、調整することができる。なお、α-グルカン分解としては、麦芽や未発芽の麦類に内在するαアミラーゼやβアミラーゼ等、あるいは外から添加するαアミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等によるものが挙げられる。分解の抑制は、αアミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等の添加量を減じる、α-グルカン分解の作用温度における処理時間を減じる、作用pHを至適条件から変更するなどにより行うことができる。
【0024】
本発明においてはまた、分子量10~20kDaのペプチドを含む原料や、重合度5~10のα-グルカンを含む原料から、該ペプチドを含む画分や、該α-グルカンを含む画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10~20kDaのペプチド比率や、重合度5~10のα-グルカン濃度がそれぞれ所定値の範囲内に調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。典型的には、ビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、該飲料から実施例1に記載された手順に従って分子量10~20kDaのペプチドが含まれる画分や重合度5~10のα-グルカンが含まれる画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10~20kDaのペプチド比率や、重合度5~10のα-グルカン濃度がそれぞれ所定値の範囲内に調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。」
「【0027】
分子量10~20kDaの1種または2種以上のペプチド(特に、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDaの1種または2種以上のペプチド)の例としては、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、トリプシンインヒビター、α-アミラーゼ・インヒビター(BDAI-1)、非特異的脂質転移タンパク1(non-specific lipid-transfer protein 1)およびアベニン・ライクa1が挙げられ、好ましくは、これらのタンパク質およびペプチドは大麦由来、一部は小麦由来のものである。α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、トリプシンインヒビター、α-アミラーゼ・インヒビター(BDAI-1)、非特異的脂質転移タンパク1あるいはアベニン・ライクa1をビールテイスト発酵アルコール飲料に配合するときは、これらのペプチドあるいはタンパク質は麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料から調製したもの以外のペプチドあるいはタンパク質であってもよい。」
「【0030】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料において味のスムーズさと味の持続性をより増強する観点から、分子量10~20kDaのペプチドに加えて重合度5~10のα-グルカンを配合することが好ましい。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が50%以上のもの)において分子量10~20kDaのペプチドを所定の比率にするとともに重合度5~10のα-グルカン濃度を所定の濃度に調整することにより味のスムーズさと味の持続性がより一層増強される。すなわち、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が50%以上のもの)では、全タンパク量に対する分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド量の比率が4.8%より大きく(好ましくは4.9%以上、より好ましくは5.1%以上、さらに好ましくは5.2%以上、特に好ましくは5.4%以上、最も好ましくは5.7%以上)なるように該ペプチドを配合するとともに、重合度5~10のα-グルカンの濃度が7.1mg/mL以上(好ましくは7.1mg/mLより大きく、より好ましくは11.1mg/mL以上)なるように該グルカンを配合することができる。ペプチド比率およびα-グルカン濃度はいずれも前記のような上限を設けることができる。
【0031】
ビールテイスト発酵アルコール飲料に配合される分子量10~20kDaの1種または2種以上のペプチドおよび重合度5~10のα-グルカンは、該ペプチドを含む原料や、該α-グルカンを含む原料から調製することができる。分子量10~20kDaの1種または2種以上のペプチドを含む原料としては、麦芽および/または未発芽の麦類並びにその加工品、穀物タンパク分解物(例えば、大豆タンパク分解物、コーンタンパク分解物)が挙げられる。麦芽および/または未発芽の麦類の加工品としては、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする麦汁、未発芽麦類のエキス、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料が挙げられ、好ましくは、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料、より好ましくは麦芽を麦由来の原料の一部または全部とするビールテイスト発酵アルコール飲料である。原料からの分子量10~20kDaの1種または2種以上のペプチドの調製手段としては、限外濾過法および硫安沈殿法の組み合わせや、ゲル濾過分画および固相抽出カラムの組み合わせが挙げられ、工業的生産の観点からは限外濾過法および硫安沈殿法の組み合わせが好ましい。なお、限外濾過法および硫安沈殿法の組み合わせにより分子量10~20kDaの1種または2種以上のペプチドを調製するときには、限外濾過法を実施し、次いで、硫安沈殿法を実施することができる。重合度5~10のα-グルカンを含む原料としては、麦芽および/または未発芽の麦類並びにその加工品や、米、とうもろこし、馬鈴薯、糖類が挙げられる。麦芽および/または未発芽の麦類の加工品としては、上記のものが挙げられる。原料からの重合度5~10のα-グルカンの調製手段としては、ゲル濾過分画および固相抽出カラムの組み合わせや、限外濾過、クロマト分離などの分離手段が挙げられ、これらの調製手段をイオン交換樹脂や活性炭を用いた不純物除去手段と組み合わせて実施してもよい。
【0032】
ビールテイスト発酵アルコール飲料に配合される分子量10~20kDaの1種または2種以上のペプチドおよび重合度5~10のα-グルカンは、好ましくは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料(より好ましくは麦由来の原料として少なくとも麦芽を使用するビールテイスト発酵アルコール飲料、特に好ましくはオールモルトビール)から調製することができる。例えば、ビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、ゲル濾過分画や固相抽出カラムを用いて該飲料から分子量10~20kDaのペプチドが含まれる画分や重合度5~10のα-グルカンが含まれる画分を調製することができる。分子量10~20kDaのペプチドや重合度5~10のα-グルカンは必ずしも単離・精製されている必要はなく、ビールテイスト発酵アルコール飲料から分画処理されて得られたペプチド画分やα-グルカン画分をビールテイスト発酵アルコール飲料へ配合することができる。
【0033】
ビールテイスト発酵アルコール飲料への分子量10~20kDaのペプチドや重合度5~10のα-グルカンの配合は、発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液への添加により行うことができる。例えば、ビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、該飲料から分子量10~20kDaのペプチドが含まれる画分や重合度5~10のα-グルカンが含まれる画分を調製し、該画分を発酵後のビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10~20kDaのペプチドや重合度5~10のα-グルカンが配合されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0034】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は分子量10~20kDaのペプチドが所定の比率となるよう配合され、場合によってはさらに重合度5~10のα-グルカン濃度が所定値となるよう配合されること以外は、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。例えば、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、発酵麦芽飲料を醸成させることができる。得られたビールテイストの発酵アルコール飲料は、低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することができる。」
「【0037】
本発明の別の面によれば、分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)の1種または2種以上のペプチドおよび/または重合度5~10のα-グルカンを有効成分として含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤が提供される。本発明のさらに別の面によれば、分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)の1種または2種以上のペプチドおよび/または重合度5~10のα-グルカンを添加する工程を含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法が提供される。本明細書において「ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善」とは、味のスムーズさと味の持続性が増強されることを意味するものとする。また、分子量10~20kDa(HPLCゲル濾過法)の1種または2種以上のペプチドおよび重合度5~10のα-グルカンは、好ましくは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するものである。本発明の風味改善剤と風味改善方法は本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料および該飲料の製造方法についての記載に従って実施することができる。」
「【実施例】
【0038】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の例において割合(%)は特に断りがない限り質量%を表す。
【0039】
参考例1:ビールテイスト飲料に好ましい香味を付与するペプチド画分とα-グルカン画分の特定
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
大麦麦芽、ホップ、酵素製剤を用いて、インフュージョン法にてビールテイスト発酵アルコール飲料を製造した。
【0040】
試験区1は、50℃の湯300mLに大麦麦芽100gを入れ、酵素製剤を添加して60分保持後、65℃に昇温して60分保持し、さらに78℃に昇温して5分保持後、濾過して麦汁を得た。試験区2は、50℃工程を行わず、酵素製剤を添加しない以外は同様に麦汁を得た。続いて、ホップを0.8g/L投入して100℃で90分煮沸したのち、濾過して発酵前液を得た。
【0041】
その後、常法に従ってビール酵母により発酵を行い、発酵液の香味確認を行った。8名のパネルにより、「味の柔らかさ」、すなわち雑味が抑制され、ビールらしく柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあることを指標に、最低は1点、最高は5点として五段階で官能評価を行い、平均点を算出した。結果は表1に示される通りであった。
【0042】
【表1】
[図:0001396317000004.jpg]
【0043】
表1の通り、試験区1よりも試験区2の方が官能評価のスコア(味の柔らかさ)が良好であり、香味の印象も好ましかった
【0044】
(2)ゲル濾過分画
上記(1)で得られた発酵液を0.45μmフィルターで濾過し、濾過済み発酵液を計量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0045】
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:5mL
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1mL(フラクション0)、その後0.35cvから5mLずつ分画(フラクション1~51)
【0046】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、表2のようにフラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。
【0047】
【表2】
[図:0001396317000005.jpg]
【0048】
(3)ペプチド画分とα-グルカン画分の精製
上記(2)で得られた各画分は、固相抽出カラム(画分A1、A2、Bは、Bond Elute C18 EWP、画分C、D、E、F、GはBond Elute C18を使用、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行い、脱塩水で洗浄した後、50%エタノール水溶液にて溶出して、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした。これをペプチド画分とした。また、固相抽出カラムの素通り画分は、さらにアニオン・カチオン・イオン交換樹脂(アンバーライトIR120HおよびアンバーライトXE583、オルガノ社製)にて脱塩後、少量の活性炭にて脱臭処理し、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした。これをα-グルカン画分とした。
【0049】
(4)ローリー法によるタンパク定量
上記(3)のゲル濾過分画によって得られたペプチド画分のタンパク定量は市販のキット(DCプロテインアッセイ、Bio-Rad社製)を用いたLowry法で行った。まず、上記分画液を50μL採って遠心減圧濃縮乾固し、超純水10μLを加えて再溶解して分析サンプルとした。そこにA液を50μL加えて撹拌し、続いてB液を400μL加えて攪拌した。室温で15分発色反応を行った後、96ウェルプレートに350μL移して750nmの吸光度を測定した。得られた吸光度と予め作成した検量線に基づき、ペプチド量を算出した。なお、検量線はBSA(ウシ血清アルブミン)を用いて作成した。
【0050】
(5)α-グルカンの定量
上記(3)で得られたα-グルカン画分中に含まれるα-グルカンの定量は、グルコアミラーゼと緩衝液(最終濃度10U/mL、100mM酢酸Na pH4.5)を添加して40℃一晩反応させた後、市販のグルコースC-IIテストワコー(和光純薬製)にてグルコースとして測定した。また、含まれるα-グルカンの鎖長分布状況は、グルコアミラーゼ処理を行わず、MCI-gel CK02ASカラム(20×250mm)およびコロナCAD検出器(コロナ荷電化粒子検出器)により、評価した。具体的には、以下の条件のようにして重合度(鎖長)を分析した。移動度の標準品として、G1~G7マルトオリゴ糖およびアミロースDP17を用いた。
【0051】
カラム:MCI-gel CK02ASカラム(20×250mm、三菱化学社製)
移動相:MQ水
流速:1.0mL/分
カラム温度:85℃
検出器:コロナCAD検出器
【0052】
(6)官能評価
これらの分画・精製サンプルを、大麦と大麦麦芽を使用した市販の麦芽使用比率49%未満のビール系アルコール飲料に、その飲料に含まれる各画分量の50%上乗せとなるよう添加し(図1および図2参照)、5名のパネルにより官能評価を行った。
【0053】
官能評価の指標は、「旨み、甘味、厚み、ボディ、およびオフフレーバーとしての渋み・味の不調和」の総合評価として、1~5点の五段階スコアで評価した。無添加のコントロールをスコア2.5とした。官能評価スコアの平均値は図3に、官能評価コメントは表3に示される通りであった。
【0054】
【表3】
[図:0001396317000006.jpg]
【0055】
ペプチド分画物は、プレ画分からDにかけて、試験区2の官能評価スコア(図3)が高く、分画前の発酵液の官能評価結果と一致した。また、試験区2の画分A1およびA2において、スコアが高く、柔らかさ、雑味低下との官能評価コメントだった(表3)。試験区2のプレ画分では、スコアは同等に高いが、柔らかいが味自体は少ないとの官能評価コメントだった。画分B~Dは、スコアは同等に高いが、官能評価コメントでは厚み、ボディ、旨味の寄与がより強いと評価された。すなわち、プレ画分、A1、A2、B、C、Dで、試験区2の評価は高いが、それぞれ味質が異なっており、画分A1、A2は、ビールらしい柔らかさ、雑味低下等の効果があることがわかった。
【0056】
α-グルカン画分では、画分BおよびCを添加した場合、官能評価スコア(図3)が高くなり、官能評価コメント(表3)では、甘味、まろやか、スムーズさと表現されることがわかった。画分A1、A2由来のα-グルカンは、明確な香味が感じられなかった。
【0057】
ペプチド分画物は、実施例1に記載の、Superdex 75 10/300カラムにて分析を行い、分子量を推定したところ、画分A1のペプチドが分子量約10~20kDaに分布し、SDS-PAGE電気泳動上でも、画分A1~A2において、同様の分子量約10~20kDaのペプチドが分布していることが確認された(データ示さず)。また、香味上優れていた試験区2では、そのペプチド量が多くなっていることが確認された(図1)。
【0058】
また、α-グルカン分画物の重合度分布を確認したところ表4の通りであった。
【0059】
【表4】
[図:0001396317000007.jpg]
【0060】
表4に示される通り、明確な香味が感じられた画分B、Cの主要な成分は、重合度(DP)が2~10の範囲が含まれることが確認された。また、香味上優れていた試験区2では、その画分のα-グルカン量が多くなっていることが確認された。画分A1、A2由来のα-グルカンは、主要な成分の鎖長がそれよりも長く(8~約40)、明確な香味が感じられなかった。
【0061】
以上の結果より、分画・精製した分子量約10~20kDaのペプチド画分A1およびA2並びにグルコースの重合度が2~10のα-グルカン画分BおよびCは、雑味が抑制され調和のとれたビールらしい味わいをビール系飲料に付与できることが明らかとなった。
【0062】
実施例1:ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造と官能評価
A:ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造においては、主原料として大麦麦芽を使用した。糖化に際しては酵素製剤を用い、糖化の温度、時間を調整し、濾過することで、異なる組成の麦汁を得た。すなわち、糖化の温度帯は62℃、64℃、65℃あるいは68℃など、62~68℃の中で選択した。糖化の時間は、それぞれの温度工程において、5分~40分の間で調整した。また、原料の熱処理温度は70℃~100℃の間で選択した。具体的には以下のようにして麦汁を得た。
【0063】
(ア)サンプル番号4の糖化条件
65℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽40質量部、酵素製剤を投入して40分保持後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0064】
(イ)サンプル番号5の糖化条件
65℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽33.4質量部、酵素製剤を投入して30分保持後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。
【0065】
(ウ)サンプル番号6~8の糖化条件
62℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽40質量部、酵素製剤を投入して40分保持後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。62℃保持中に、一部の醪を別の釜に移送し、熱処理した後に元の釜に返送した。
【0066】
上記の麦汁調製工程(ア)~(ウ)に続いて、得られたそれぞれの麦汁にホップを投入して100℃で90分間煮沸した後、麦汁静置を行ない、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加し、常法に従って主発酵および後発酵を行なった。続いて、後発酵後の発酵液をより低温で保持することにより貯蔵を行ない、濾過して、清澄なビールテイスト発酵アルコール飲料(サンプル番号4~8)を得た。
【0067】
B:市販ビール
麦芽使用比率67%以上の市販ビール(サンプル番号1~3)(市販品)を、それぞれ分析試験に供した。
【0068】
C:ビールテイスト発酵アルコール飲料のα-グルカン量の定量
(ア)HPLC分析用のサンプル調製
サンプル番号1~3(市販品)およびサンプル番号4~8(試醸品)は、固相抽出カラムを用いて分離し、分画用サンプルを得た。具体的には、製品液を固相抽出カラム(Bond Elute C18、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行って素通り画分を回収し、回収液をさらにBond Elute C18 EWP(Agilent technologies社製)に吸着させ、素通り画分を回収した。回収した素通り画分は、さらにイオン交換樹脂Sep Pak QMAおよびSep PakCM(いずれもWaters社)で順に処理した。得られた液を遠心濃縮させ、乾燥物を復水して分画用サンプルとした。
【0069】
(イ)HPLCによる糖分析
MCI-gel CK02ASカラム(20×250mm)およびコロナCAD検出器により、サンプルに含まれるα-グルカンの鎖長分布状況を評価した。具体的には、以下の条件のようにして重合度(鎖長)を分析した。G5~G10マルトオリゴ糖を標準品とした検量線で濃度を分析した。G5はマルトペンタオース(Maltopentaose)、G6はマルトヘキサオース(Maltohexaose)、G7はマルトヘプタオース(Maltoheptaose)、G8はマルトオクタオース(Maltooctaose)、G9はマルトノナオース(Maltononaose)、G10はマルトデカオース(Maltodecaose)である。マルトペンタオース(Maltopentaose)、マルトヘキサオース(Maltohexaose)およびマルトヘプタオース(Maltoheptaose)については東京化成社より標準品を購入し、マルトオクタオース(Maltooctaose)、マルトノナオース(Maltononaose)およびマルトデカオース(Maltodecaose)についてはElicityl SA社より標準品を購入し、質量分析器条件を設定した。
【0070】
<HPLC分析条件>
カラム:MCI-gel CK02ASカラム(20×250mm、三菱化学社製)
移動相:MQ水
流速:1.0mL/分
カラム温度:85℃
検出器:コロナCAD検出器
【0071】
上記(イ)で設定した分析条件のもとでサンプル番号1~8の分析を行った結果は表5に示される通りである。
【0072】
【表5】
[図:0001396317000008.jpg]
【0073】
D:タンパク定量
(ア)ゲル濾過分画用のサンプル調製
サンプル番号1~3(市販品)およびサンプル番号4~8(試醸品)は、計量して凍結乾燥した。乾燥物を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0 150mM NaCl含む)で溶解して2.5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。
【0074】
(イ)HPLCゲル濾過法
HPLCゲル濾過法の条件は以下の通りであった。
<HPLCゲル濾過法分析条件>
カラム:Superdex 75 10/300(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:100μL
溶離液組成:50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、20%(v/v)アセトニトリル、150mM NaCl
流速:0.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分画プログラム:
【0075】
【表6】
[図:0001396317000009.jpg]
【0076】
(ウ)分画範囲の設定
上記(イ)のHPLCゲル濾過法条件記載のカラム、溶離液、流速、検出波長において、分子量既知のペプチドを0.1~5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入してHPLC分析を行い、保持時間を確認した(表7)。その保持時間、分子量から検量線(図4)を作成し、分子量範囲と分画範囲を決定した。
【0077】
【表7】
[図:0001396317000010.jpg]
【0078】
(エ)分画液のLowry法によるタンパク定量
タンパク定量は、参考例1に記載のLowry法により行った。なお、得られた吸光度とBSA濃度から検量線を作成し、分画液のペプチド量(BSA換算)を計算し、分画液量、濃縮倍率から、当該画分の製品相当ペプチド濃度(mg/mL)を算出した。
【0079】
(オ)10~20kDaペプチドの定量
10~20kDaペプチド濃度は、上記HPLCゲル濾過法における、検量線から決定した分子量10~20kDaの範囲である画分3に含まれるタンパク濃度を、製品相当ペプチド濃度(mg/mL)に換算して求めた。また、10~20kDaペプチド量が全タンパク量の中に占める比率、すなわち10~20kDaのペプチド比率は、以下の算出式にて求めた。
【数1】
[図:0001396317000011.jpg]
【0080】
E:官能評価
サンプル番号1~3(市販品)およびサンプル番号4~8(試醸品)に関して、7名の訓練されたパネラーによって官能評価を実施した。評価項目の指標は、「味のスムーズさ」、「味の持続性」の2項目とし、それぞれ、1(弱い)~9(強い)点の9段階スコアで評価した。各サンプルの分析結果と官能評価結果は表8に示される通りであった。また、後述の実施例3の結果と合わせて図5および図6に図示した。
【0081】
【表8】
[図:0001396317000012.jpg]
【0082】
表8並びに図5および図6に示される通り、10~20kDaのペプチド比率を4.8%より高くし、重合度5~10のα-グルカンの量を7.1mg/mLより高くした試験醸造品において、「味のスムーズさ」と「味の持続性」が向上した。
【0083】
なお、上記結果は、実施例1に記載した方法で分析した時の結果、すなわち、コロナCAD検出器(コロナ荷電化粒子検出器)を用いて得られた分析値である。本検出器は、物質の化学構造に依存せず、同一の分析条件下で、一貫した物質重量依存の応答性が得られる特徴がある(Thermofisher scientific社による)。
【0084】
実施例2:α-グルカンおよびペプチドと官能評価の関係評価
市販のビール、発泡酒、新ジャンル飲料など、ビールテイスト発泡性アルコール飲料について、重合度が5~10のα-グルカン濃度および10~20kDaのペプチド濃度と、官能評価との相関係数(R2乗)を評価した。10~20kDaのペプチド濃度の分析方法は実施例1に記載された手順に従って実施した。二つの成分の両方を加味した数値は、重合度が5~10のα-グルカン濃度(mg/mL)と10~20kDaのペプチド濃度(mg/mL)を乗じたものとして計算した。官能評価は、10名の訓練されたパネラーによって、「味の調和」、すなわちビールらしさに関わる味の調和を指標として、0~10の11段階の幅で、0を全く感じない、10を評価者の認識の中でこれ以上感じたことがない、として評価した。
【0085】
重合度5~10のα-グルカン濃度は、以下のとおり分析した。
(ア)糖類分析用サンプルの調製
ビール製品、試験醸造設備で製造した製品サンプルを計量し、30%(v/v)アセトニトリル/70%(v/v)水溶液で50倍に希釈した物を定量用サンプルとした。
【0086】
(イ)LC/MS/MSによる糖類定量
HPLC条件は下記の通りであった。
使用機器:1200 Series (Agilent technologies社製)
カラム:ACQUITY UPLC BEH Amide 2.1mm×50mm(粒径1.7μm)(Waters社製)
移動相A:95%(v/v)アセトニトリル水+0.1%(v/v)ギ酸+10mMギ酸アンモニウム
移動相B:水+0.1%(v/v)ギ酸+10mMギ酸アンモニウム
注入量:5μL
カラム温度:55℃
サンプル温度:20℃
グラジェント条件・流速:表9に示すとおりとした。
【0087】
【表9】
[図:0001396317000013.jpg]
【0088】
(ウ)質量分析器条件の設定
実施例1.C.(イ)と同様にG5~G10マルトオリゴ糖を標準品とした検量線で濃度を分析した。購入した標準品は50%(v/v)アセトニトリル/50%(v/v)水/0.1%(v/v)ギ酸/10mMギ酸アンモニウム溶液を用いて100ppmに調整し、ABSciex社製3200Qtrapに直接導入法にて注入し、各種パラメータの最適化を行った。
【0089】
10~20kDaのペプチド濃度分析は、実施例1.Dの記載に従って行なった。
【0090】
重合度5~10のα-グルカン濃度および10~20kDaのペプチド濃度と官能評価結果は表10に示される通りであった。また、濃度と官能評価結果の関係は図7に示される通りであった。
【0091】
【表10】
[図:0001396317000014.jpg]
【0092】
表10および図7に示される通り、重合度5~10のα-グルカン濃度、10~20kDaのペプチド濃度のそれぞれ単独で、官能評価結果との相関係数を求めたもの(それぞれ、R2=0.29、0.46)よりも、二つの成分(2成分の濃度を乗じた値)との相関係数の方が高くなる(R2=0.58)ことが明らかとなった。この結果から、重合度5~10のα-グルカン、10~20kDaのペプチドそれぞれ単独ではなく、二つの成分を指標とすることの有効性が確認された。
【0093】
実施例3:α-グルカン、ペプチドのビールテイスト発酵アルコール飲料への添加と官能評価
A:ペプチド画分の調製
(A-1)ゲル濾過分画
サンプル番号3(市販品)(オールモルトビール)をガス抜きしたうえで凍結乾燥した。乾燥物を100mMNaCl溶液に溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとしたサンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0094】
<ゲル濾過分画条件>
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社)
サンプル注入量:5mL
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29CV(カラム・ボリューム)から19.1mL(フラクション0)、その後0.35CVから5mLずつ画分(フラクション1~51)
【0095】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、前記表2のようにフラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。
【0096】
(A-2)ペプチド画分の精製
上記(A-1)で得られた画分のうち、A1画分(フラクション番号:F1~12)について固相抽出カラム(Bond Elute C18 EWP)にて吸着処理を行い、脱塩水で洗浄した後、50%エタノール水溶液にて抽出して、濃縮乾固させて脱塩水で復水し、濃縮液とした。これをペプチド画分とした。
【0097】
(A-3)Lowry法によるタンパク定量
上記(A-2)のゲル濾過分画によって得られたペプチド画分のタンパク定量は市販キット(DCプロテインアッセイ、Bio-Rad社)を用いたLowry法で行った。まず、上記ペプチド画分溶液を対製品で10倍希釈および40倍希釈となるように濃度調整し、サンプル5μLに対し、A液25μLを加えて撹拌し、続けてB液200μLを加えて撹拌した。室温で15分間発色反応を行った後、750nmの吸光度を測定した。得られた吸光度と予め作成した検量線に基づき、ペプチド量を算出した。なお、検量線はBSA(ウシ血清アルブミン)を用いて作成した。
【0098】
B:α-グルカン画分の調製
(B-1)α-グルカン画分の調製
サンプル番号1(市販品)(オールモルトビール)の糖組成に近づくよう市販マルトオリゴ糖から透析により低分子糖を除去してα-グルカン画分を調製した。透析膜はFloat-A-Lyzer G2(Spectrum Laboratories社)を使用し、オリゴ糖と透析膜のポアサイズは以下の通りであった。
【0099】
【表11】
[図:0001396317000015.jpg]
【0100】
各マルトオリゴ糖1gをイオン交換水で10mLになるようにメスアップして溶解し、30時間透析を実施してα-グルカン画分とした。
【0101】
(B-2)α-グルカンの定量
上記(B-1)で調製したα-グルカン画分中に含まれるα-グルカンの定量は、実施例1.C.(イ)に記載の方法に従って高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により実施した。
【0102】
(B-3)α-グルカン画分の糖組成分析
実施例1.C.(イ)に記載の方法に従ってHPLCによりα-グルカン画分の糖組成の分析を行なった。結果は下記表12に示される通りである。
【0103】
【表12】
[図:0001396317000016.jpg]
【0104】
C:試飲サンプルの調製
サンプル番号1(市販品)(オールモルトビール)に上記Aで得られたペプチド画分および上記Bで得られたα-グルカン画分を添加し、サンプル番号9~13(添加品)を調製した。具体的には、10~20kDaのペプチド量が0.25mg/mLおよび0.30mg/mLとなるようにペプチド画分を添加した。同様に、重合度5~10のα-グルカン量が11.1mg/mLおよび13.1mg/mLとなるように、α-グルカン画分を添加した。試飲サンプルと、ペプチドの量および比率並びにグルカンの量の対応関係は表13に記載した。
【0105】
D:官能評価
無添加のサンプル番号1(市販品)と、前記Cで得られたサンプル番号9~13(添加品)について、7名の訓練されたパネラーによって官能評価を実施した。評価項目の指標は、「味のスムーズさ」、「味の持続性」の2項目とし、評価は実施例1.Eに記載の方法に準じて実施した。各サンプルの官能評価結果は表13に示される通りであった。また、先述の実施例1.Eの結果と合わせて、図5および図6に図示した。
【0106】
【表13】
[図:0001396317000017.jpg]
【0107】
表13並びに図5および図6に示される通り、10~20kDaのペプチド比率を4.8%より高くし、重合度5~10のα-グルカンの量を7.1mg/mLより高くすることにより、「味のスムーズさ」および「味の持続性」の評価が市販品1に対していずれも向上した。」
「
[図:0001396317000018.jpg]
」(図1)
「
[図:0001396317000019.jpg]
」(図2)
「
[図:0001396317000020.jpg]
」(図3)
「
[図:0001396317000021.jpg]
」(図4)
「
[図:0001396317000022.jpg]
」(図5)
「
[図:0001396317000023.jpg]
」(図6)
「
[図:0001396317000024.jpg]
」(図7)
「【図8】
[図:0001396317000025.jpg]
」(図8)
(3) 実施可能要件についての判断
明細書等には、「本発明者らは、ビールテイスト発酵アルコール飲料において、特定分子量のペプチドと特定重合度のα-グルカンがビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーの付与や味の持続性に寄与することを見出した。本発明者らはまた、特定分子量のペプチドの比率や特定重合度のα-グルカンの含有量を特定範囲内にすることで、よりビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーや味の持続性が実現できることを見出した。本発明者らはさらに、ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定した」(【0006】)ものであって、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では、全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率(ペプチド比率)(好ましくは、ビールテイスト発酵アルコール飲料の原料に由来する分子量10~20kDaのペプチド比率)が特定値以上であることを特徴とする」(【0013】)もので、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、重合度5~10のα-グルカンの濃度が特定値以上であることを特徴とする」(【0016】)ものであり、「ペプチド比率の算出に当たっては、飲料中のタンパク濃度(mg/mL)を全タンパク量とし、飲料中の分子量10~20kDaのペプチド濃度(mg/mL)を分子量10~20kDaのペプチド量とすることができる。また、本明細書において「ペプチド比率」の算出の元になるペプチド量は10~20kDaの分子量を有する1種または2種以上のペプチドの含有量を合計して算出されるものである。また本明細書においてペプチドの「分子量」はHPLCゲル濾過法により測定されるもの」(【0013】)であること、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が50%以上のもの)において分子量10~20kDaのペプチドを所定の比率にするとともに重合度5~10のα-グルカン濃度を所定の濃度に調整することにより味のスムーズさと味の持続性がより一層増強される」(【0018】)こと、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は分子量10~20kDaのペプチド比率および/または重合度5~10のα-グルカン濃度が所定値の範囲内に調整される限り、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる」(【0019】)こと、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の分子量10~20kDaのペプチド比率を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込み・糖化工程におけるタンパク分解を抑制することや、原料である麦芽の製麦工程におけるタンパク分解度を抑制することなどにより、調整することができる」(【0022】)こと、及び、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の重合度5~10のα-グルカン濃度を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込みや糖化工程におけるα-グルカン分解を抑制すること、原料である麦芽の製麦工程におけるα-グルカン分解を抑制すること、あるいはα-グルカンの分解度が抑制された液糖を用いることなどにより、調整することができる。」(【0023】)こと、また、「本発明においてはまた、分子量10~20kDaのペプチドを含む原料や、重合度5~10のα-グルカンを含む原料から、該ペプチドを含む画分や、該α-グルカンを含む画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10~20kDaのペプチド比率や、重合度5~10のα-グルカン濃度がそれぞれ所定値の範囲内に調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる」(【0024】)ことが記載され、具体的な参考例や実施例1~3の記載もある。
してみれば、本件特許発明1、2及び8、本件特許発明9、本件特許発明3ないし7は、上記(1)に掲げる実施可能要件における判断基準を充足するものといえる。
(4) 特許異議申立人の主張について
ア 酵素製剤が不明なので実施可能要件を満たさないとの主張について
実施例で利用される「酵素製剤」は「糖化」に利用する酵素製剤であるから、当業者は、主成分は澱粉分解酵素と理解でき、周知の酵素製剤から適宜選択して実施できる。そして、澱粉分解酵素の存在自体はペプチド画分の製造に大きな影響があるとの証拠は示されておらず、通常は大きな影響はないと考えられるから、特許異議申立人の主張は採用できない。
イ 測定精度からみての実施可能要件違反であるとの主張について
(ア) 甲1について
甲1の事案は、Mw/Mnの測定精度に関するものであり、本件特許発明の発明特定事項であるペプチドの分子量、含量割合、濃度について適用できるとまではいえない。
(イ) 甲2及び明細書等の図8の記載に基づく主張について
甲2の「LTP1の分子量が9.7kDaである」の測定方法が不明であり、その値のみを、本件特許発明の「HPLCゲル濾過法」の測定に基づく数値と比較することはできない。
また、甲2の分子量を、明細書等の図8の2D-PAGEにおける分子量と比較することは、「HPLCゲル濾過法」の測定に基づく数値との比較ではないため、かかる比較には、本件特許発明の「HPLCゲル濾過法」の測定精度との直接の関連性はない。
よって、図8での2D-PAGEの分析における分子量と、甲2の、測定方法不明の分子量との値にずれがあることをもって、本件特許発明の「HPLCゲル濾過法」に34%もの測定誤差があるとする特許異議申立人の主張は、採用し難い。
さらに、実施例4の2D-PAGEの分子量やタンパク質同定の記載に多少疑いの余地があったとしても、それは、本件特許発明の、HPLCのゲル濾過法で分子量10~20kDaと測定されたペプチド画分の製造や使用には直接は関係が無い。
そして、実施可能要件の判断は、上記(2)のとおりであり、実施例4の記載内容及び他の技術常識が、実施例1-3の記載事項(特に、実施例1-3におけるHPLCゲル濾過法の測定精度)の信頼性を否定するに足るといえないから、本件は記載要件を満たすこととなる。
ウ 「タンパク分解を抑制する条件」が不明であるとの主張について
該主張は、
・「試験醸造6~8からは、同じ製造条件であっても10~20kDaペプチド比率は4.9~5.7%の範囲でばらつく」こと
・「本件明細書に記載のされた糖化条件は、従来公知の条件とは実質的に同一」とすること
を根拠とするものである。
以下、該主張について検討する。
(ア) 「試験醸造6~8からは、同じ製造条件であっても10~20kDaペプチド比率は4.9~5.7%の範囲でばらつく」ことを根拠とする主張について
試験醸造6~8で「10~20kDaペプチド濃度」は0.26と同じ値であるため、全タンパク量の測定値のばらつきが原因と考えられ、このばらつきに基づき計算すると、試験醸造6~8の全タンパク量の測定値は4.56mg/ml~5.30mg/ml程度となる。
これはLowry法測定とあるが、Lowry法は「測定範囲は0.2-2mg/mLの測定範囲に適している方法」<https://www.chem-station.com/blog/2022/10/pq3.html>であり、その測定範囲は上記の全タンパク量の測定値より低い。
かかるLowry法の測定範囲、及び、明細書等の【0049】の記載からみて、各分画のタンパク量をそれぞれ測定し、得られた測定値を合算して全タンパク量を算出したと考えるのが自然であり、とすれば、誤差ありの値を複数足すとそれなりのばらつきが出ると考えられるので、「4.56mg/ml~5.30mg/ml」は、通常の測定誤差の範囲内であり、実施可能性に影響するほどのものでないといえる。
(イ) 「本件明細書に記載された糖化条件は、従来公知の条件と実質的に同一」とすることを根拠とする主張について
上記1(2)のとおり、甲3と明細書等の製造方法は、原料及び糖化時の酵素添加の有無の点で異なるから、この主張は、その前提となる判断において誤っているから、採用できない。
(5) 申立理由3についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701212