特許異議申立
2023-700008
ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2023-700008
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-020758
- 登録番号
- 7097397
- 請求日
- 2023年01月06日
- 審決日
- 2023年03月16日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 平塚 政宏
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7097397号発明「ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7097397号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7097397号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成27年1月8日に出願された特願2015-2699号の一部を令和2年2月10日に新たな特許出願(特願2020-20758号)として出願したものであって、令和4年6月29日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年7月7日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年1月6日に特許異議申立人 松山 徳子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とし、かつ、麦芽使用比率が3分の2未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、
該飲料が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを含んでなり、
前記ペプチドの飲料中の濃度が0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下であり、
飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が4.3%以上8.0%以下であり、
該飲料が麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを含んでなり、
前記α-グルカンの飲料中の濃度が3.3mg/ml以上13.0mg/ml以下であり、
前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり、
前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドの飲料中の濃度が0.19mg/ml以上である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドと、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンとが配合されてなる、麦芽使用比率が3分の2未満であるビールテイストアルコール飲料であって、
前記ペプチドが、飲料中の濃度が0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下となり、かつ、該ペプチドの量(mg/mL)が飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対して4.3%以上8.0%以下の比率となるように配合されてなり、
前記α-グルカンが、飲料中の濃度が3.3mg/ml以上13.0mg/ml以下となるよう配合されてなり、
前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり、
前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む、ビールテイストアルコール飲料。
【請求項4】
分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドが、飲料中の濃度が0.19mg/ml以上となるよう配合されてなる、請求項3に記載のビールテイストアルコール飲料。
【請求項5】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液または発酵後の発酵液に配合する工程と、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液に配合する工程とを含んでなる、ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、
前記ペプチドを飲料中の濃度が0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下となり、かつ、全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が4.3%以上8.0%以下となるように配合し、
前記α-グルカンを飲料中の濃度が3.3mg/ml以上13.0mg/ml以下となるように配合し、
前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり、前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む、製造方法。
【請求項6】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドと、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンとを有効成分として含んでなる、ビールテイストアルコール飲料の風味改善剤であって、前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり、前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む、風味改善剤。
【請求項7】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液に添加する工程と、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液に添加する工程とを含んでなる、ビールテイストアルコール飲料の風味改善方法であって、
前記ペプチドを飲料中の濃度が0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下となり、かつ、全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が4.3%以上8.0%以下となるように添加し、
前記α-グルカンを飲料中の濃度が3.3mg/ml以上13.0mg/ml以下となるように添加し、
前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり、前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む、風味改善方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年1月6日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第7ないし9号証のいずれかに基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7ないし9号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第7ないし9号証のいずれかに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許の試験醸造品は、市販のビールに対して、「タンパク分解を抑制する」ことにより、10-20kDaペプチド濃度を向上させ、10-20kDaペプチド比率を向上させたものといえる。タンパク分解を抑制するための具体的な手法として、本件特許明細書の【0021】には下記の(ア)~(ウ)の方法が挙げられている。
(ア)プロテアーゼ製剤の添加量を減じる
(イ)タンパク分解の作用温度における処理時間を減じる
(ウ)作用pHを至適条件から変更する
(ア)について、本件特許明細書の実施例にはプロテアーゼ製剤の種類及び添加量に関する記載はない。従って、(ア)の方法によりタンパク分解を抑制する方法は、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえず、(ア)の方法により本件特許発明1を実施する方法については実施可能要件を満たさない。
(ウ)について、本件特許明細書の実施例には作用pH及び至適条件に関する記載はない。従って、(ウ)の方法によりタンパク分解を抑制する方法は、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえず、(ウ)の方法により本件特許発明1を実施する方法については実施可能要件を満たさない。
(イ)については、本件特許明細書の実施例に糖化工程における作用温度及び処理時間が記載されている。しかしながら、本件特許明細書の実施例で使用された酵素製剤の種類が不明である。酵素製剤がどの程度作用するかが、タンパク分解の抑制の程度に重要な影響を及ぼすことが本件特許明細書【0021】から読み取れるところ、同じ糖化条件であっても酵素製剤の種類によってタンパク分解の抑制の程度が異なる可能性がある。酵素製剤の種類によって、その活性が高くなる温度や処理条件が異なることについては、甲第6号証のp35の第6表に示したとおりである。本件の実施例で使用した酵素製剤と異なる酵素製剤を使用した場合には、糖化工程における作用温度及び処理時間を本件特許の試験醸造品と同じ条件にしたとしても10-20kDaペプチド濃度(比率)が異なる可能性があるので、当業者が本件特許発明1を実施したつもりであっても本件特許発明1の実施とならない(10-20kDaペプチド濃度(比率)が本件特許発明1の構成要件を満たさない)場合がある。逆に、糖化工程における作用温度及び処理時間を本件特許の試験醸造品と異なる条件にすることで、本件特許発明1の実施を避けようと試みたとしても、本件特許発明1を意図せず実施してしまう可能性がある。すなわち、本件特許発明1の実施について当業者に過度な実験、試行錯誤を要求するものであるので、(イ)の方法により本件特許発明1を実施する方法についても実施可能要件を満たさない。
(2)本件特許発明1が実施可能要件を満たさないのであれば、本件特許発明2も実施可能要件を満たさない。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・原出願(特願2015-2699号)と本件分割出願(特願2020-20758号)では、明細書は同じであるので発明の効果が発揮されることが示されている実験の内容は同じである。
従って、原出願の拒絶査定において審査官から指摘されたとおり、発明の効果が発揮されることが示されているのは「ペプチド画分」、「α-グルカン画分」を添加した場合のみである。
しかしながら、本件特許発明1においてはこのような特定がされていないので、甲第11号証の拒絶査定で指摘された理由と同じ、サポート要件違反の拒絶理由が存在している。
本件特許発明3、5、6及び7においても同様の拒絶理由が存在しており、本件特許発明1又は3にそれぞれ従属する本件特許発明2又は4についても、同様の拒絶理由が存在している。
従って、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、1999、p.191
甲第2号証:宮地秀夫、ビール醸造技術、株式会社食品産業新聞社、1999、p.379-401
甲第3号証:特表平9-505997号公報
甲第4号証:光永俊郎、「食料としての植物種子の成分特性について」、近畿大学農学部紀要、35号、近畿大学農学部発行、2002、p.71-87
甲第5号証:澤田小百合ら、「豆類のα-アミラーゼインヒビターに関する研究」、Bull. Mukogawa Women's Univ. Nat. Sci, 43, 17-23(1995) 武庫川女子大紀要(自然科学)
甲第6号証:ビール酒造組合、ビールの基本技術、財団法人日本醸造協会、2010、p.34-37
甲第7号証:国際公開第02/055652号
甲第8号証:国際公開第2011/052483号
甲第9号証:特開2000-189146号公報
甲第10号証:特開2014-158502号公報
甲第11号証:特願2015-002699号の拒絶査定、起案日令和1年11月5日
甲第12号証:特願2015-002699号の手続補正書、提出日令和2年2月10日
甲第13号証:特願2015-002699号の審判請求書、提出日令和2年2月10日
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲7に記載された事項等
ア 甲7に記載された事項
甲7には、「発酵麦芽飲料の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・「技術分野
本発明は、ビールや発泡酒などの発酵麦芽飲料の製造方法に関する。詳しくは、 本発明の第1の局面は、 製造過程でα-グルコシダーゼを添加することにより、コク味やボディ感が増強される発酵麦芽飲料の製造方法に関し、本発明の第2の局面は、発酵を促進させ酢酸生成量を低減させる高濃度醸造におけるビールの製造方法及び麦汁エキス濃度に左右されず低力ロリ一ビールを製造できるビールの製造方法に関する。また、ビールの高濃度醸造又は低カロリービールの製造において、ビール酵母以外の醸造用酵母を使用するビールの製造方法に関する。」
・「(本発明の第1の局面)
[実施例1] α-グルコシダーゼの添加量と麦汁の糖組成
マッシュの糖化は以下のとおりに行った。粉碎麦芽とα-グルコシダーゼ「アマノ」をあらかじめ46℃に保温した仕込み水に添加する。α-グルコシダーゼ「アマノ」の添加量は粉砕麦芽重量の1/10,000~1/500とした。マッシュを攪拌しながら、 46℃、30分保温後、毎分1℃での割合で65℃まで昇温する。65℃、80分保温後、毎分1℃の割合で76℃まで昇温し、76度で10分間保温し、糖化を終了する。糖化したマッシュをろ紙(No.2)でろ過し、ろ液を煮沸した後、生じた沈殿をろ紙ろ過することにより除去し、麦汁エキス濃度として12重量%の麦汁を調製した。」(第14ページ第13ないし22行)
・「[実施例5] α-グルコシダーゼを利用した発泡酒の製造
麦芽25重量%及び大麦75重量%からなる原料を使用して副原料使用ビールを製造した。原料重量に対し1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して糖化し、 エキス分を約13重量%に調製した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させた。発酵前の麦汁の糖組成を図6に示す。
実施例2における100%麦芽ビール同様、製品中にイソマルトース、パノースなどのイソマルトオリゴ糖が残存し、こく味のある発泡酒の製造が可能であった。」(第16ページ第10ないし17行)
イ 甲7に記載された発明
甲7に記載された事項を、特に実施例5に関して整理すると、甲7には次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。
<甲7発明>
「麦芽25重量%及び大麦75重量%からなる原料に対し、1/1,000量のα-グルコシダーゼ「アマノ」を添加して、攪拌しながら、46℃、30分保温後、毎分1℃での割合で65℃まで昇温し、65℃、80分保温後、毎分1℃の割合で76℃まで昇温し、76度で10分間保温し、糖化を終了し、ろ紙(No.2)でろ過し、ろ液を煮沸した後、生じた沈殿をろ紙ろ過することにより除去し、麦汁エキス濃度を約13重量%に調整した麦汁にビール酵母を添加し約2週間発酵させて製造した発泡麦芽飲料。」
(2)甲8に記載された事項等
ア 甲8に記載された事項
甲8には、「発酵性飲料及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「発明が解決しようとする課題
[0005] 上記特許文献1に記載の技術においては、発泡性アルコール飲料の泡特性を向上させることができるものの、泡特性を向上させる目的に特化した起泡・泡持ち向上物質を使用する必要があった。
[0006] また、上記特許文献2に記載の技術においては、プロテアーゼの使用による起泡タンパク質の分解を抑制することが記載されているが、泡持ちの向上については何ら記載されていない。
[0007] 本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、泡特性が効果的に向上した発泡性飲料及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。」
・「実施例1
[0132][発泡性アルコール飲料の製造]
大麦及び大麦麦芽からなる大麦原料、ホップ及びプロテアーゼを含む原料を使用して、インフュージョン法により発泡性アルコール飲料を製造した。
[0133] プロテアーゼとしては、7種類のプロテアーゼ(以下、「プロテアーゼP1~P7」という。)のうちいずれか1種を使用した。すなわち、プロテアーゼP1(オリエンターゼ10NL、エイチビィアイ株式会社製)、プロテアーゼP2(プロチンSD-PC10F、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP3(ウマミザイムG、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP4(Trypsin4.0T、株式会社樋口商会製)、プロテアーゼP5(スミチームLP50D、新日本化学工業株式会社製)、プロテアーゼP6(スミチームSP、新日本化学工業株式会社製)又はプロテアーゼP7(スミチームACP-G、新日本化学工業株式会社製)を使用した。
[0134] なお、これら7種類のプロテアーゼは、16種類のプロテアーゼを使用した予備試験において、発泡性アルコール飲料の泡特性の向上に寄与し得る好ましいプロテアーゼとして選択されたものであった。
[0135] すなわち、この予備試験におけるスクリーニングの結果、16種類のプロテアーゼのうち、次の9種類;オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ株式会社製)、オリエンターゼ10NL(エイチビィアイ株式会社製)、スミチーム焼酎(新日本化学工業株式会社製)、スミチームP(新日本化学工業株式会社製)、スミチームRPII(新日本化学工業株式会社製)、ビオプラーゼOP(ナガセケムテックス株式会社製)、アロアーゼXA-10(ヤクルト薬品工業株式会社製)、パンチダーゼP(ヤクルト薬品工業株式会社製)、Neutrase0.8L(novozymes社製);は、発泡性アルコール飲料の泡持ち特性の向上に寄与しないとの理由により採用されなかった。
[0136] まず、50℃の湯に、ホップを除く、大麦830g(大麦原料の77重量%)、大麦麦芽250g(大麦原料の23重量%)及びプロテアーゼ1.08g(大麦原料に対して0.1重量%)を含む原料を投入し、原料液を調製した。そして、この原料液を50℃で30分間保持することにより、大麦をプロテアーゼで処理するとともに、タンパク休止を行った。
[0137] その後、原料液を65℃で60分間保持することにより、糖化を行った。次いで、原料液を75℃で3分間保持した後、当該原料液をろ過し、発酵前液を得た。さらに、この発酵前液を100℃まで加熱し、ホップ7gを添加して煮沸した。煮沸後の発酵前液をろ過した後、冷却した。
[0138] 冷却された発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調製した。この発酵液を10~13℃の温度で所定期間維持することにより前発酵を行った。さらに、前発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯酒を行った。貯酒後の発酵液をろ過して、発泡性アルコール飲料を得た。」
・「[0172][ゲルろ過クロマトグラフィー]
8種類の発泡性アルコール飲料のうち、プロテアーゼP1、P5又はP7を使用して製造された発泡性アルコール飲料、及びプロテアーゼを使用することなく製造された発泡性アルコール飲料をゲルろ過クロマトグラフィーで分析した。
[0173] すなわち、ゲルろ過カラム(Superdex75 10/300GL、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を使用して、発泡性アルコール飲料100μLを分析した。流速は0.5mL/分とした。展開液として、50mMリン酸緩衝液(pH7.0、150mM NaCl)を使用した。そして、波長215nmの吸光度を測定した。
[0174] 図6A及び図6Bには、得られたクロマトグラムの一例を示す。図6Bには、図6Aに示すクロマトグラムの一部を拡大して示す。図6A及び図6Bにおいて、実線(図中の「プロテアーゼなし」)はプロテアーゼで処理しない大麦を使用して製造された発泡性アルコール飲料、二点破線(図中の「P1」)はプロテアーゼP1により処理された大麦を使用して製造された発泡性アルコール飲料、長破線(図中の「P5」)はプロテアーゼP5により処理された大麦を使用して製造された発泡性アルコール飲料、点線(図中の「P7」)はプロテアーゼP7により処理された大麦を使用して製造された発泡性アルコール飲料を分析した結果を示す。
[0175] 図6A及び図6Bに示すように、プロテアーゼで処理した大麦を使用することにより(図中の「P1」、「P5」、「P7」)、プロテアーゼで処理していない大麦を使用する場合(図中の「プロテアーゼなし」)に比べて、分子量10~25kDaに相当する保持時間26~30分の範囲に検出されるピークの高さが増加した。この分子量10~25kDaのポリペプチドのピークの高さは、特に、プロテアーゼP5又はP7を使用した場合に顕著に増加した。」
・「
[図:0001396336000001.jpg]
」
イ 甲8に記載された発明
甲8に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。
<甲8発明>
「50℃の湯に、ホップを除く、大麦830g(大麦原料の77重量%)、大麦麦芽250g(大麦原料の23重量%)及びプロテアーゼP1(オリエンターゼ10NL、エイチビィアイ株式会社製)、プロテアーゼP2(プロチンSD-PC10F、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP3(ウマミザイムG、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP4(Trypsin4.0T、株式会社樋口商会製)、プロテアーゼP5(スミチームLP50D、新日本化学工業株式会社製)、プロテアーゼP6(スミチームSP、新日本化学工業株式会社製)又はプロテアーゼP7(スミチームACP-G、新日本化学工業株式会社製)であるプロテアーゼ1.08g(大麦原料に対して0.1重量%)を含む原料を投入し、原料液を調製し、この原料液を50℃で30分間保持することにより、大麦をプロテアーゼで処理するとともに、タンパク休止を行い、その後、原料液を65℃で60分間保持することにより、糖化を行い、次いで、原料液を75℃で3分間保持した後、当該原料液をろ過し、発酵前液を得、さらに、この発酵前液を100℃まで加熱し、ホップ7gを添加して煮沸し、煮沸後の発酵前液をろ過した後、冷却し、冷却された発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調製し、この発酵液を10~13℃の温度で所定期間維持することにより前発酵を行い、さらに、前発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯酒を行い、貯酒後の発酵液をろ過して、得た発泡性アルコール飲料。」
(3)甲9に記載された事項
ア 甲9に記載された事項
甲9には、「麦芽アルコール飲料の製造法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、発泡酒、とりわけ前記の・又は・の区分に属する麦芽使用量が50%未満の発泡酒の製造においては、原料中の麦芽が量的に少ないため、マイシェ濃度やpH、それに伴う蛋白分解、糖化等の条件を調整するのが困難であった。さらに、こうした麦芽使用比率が少ない麦汁では、酵母に必要な窒素源の不足に起因する有機酸の増加、香気成分のアンバランス等により通常のビールとは異なる香味を持つものが得られることがあった。また、その製造工程、とりわけ仕込工程において仕込釜、仕込槽などにおけるマイシェ量およびマイシェ濃度のアンバランス、ろ過における渋滞、麦汁濁度の上昇等が起こり、これらの対策のため、工程が煩雑になる等の不都合が経験されている。
【0006】本発明の目的は、上記した課題を解消した麦芽アルコール飲料、とりわけ発泡酒の製造法を開発することであり、特に麦芽使用比率の少ない発泡酒の製造においても通常のビール製造の場合と同様の仕込工程を採用でき、かつ原料の粉砕、糖化、麦汁ろ過などの工程を省略ないし簡略化することが可能で、しかも香味の改善された発泡酒等の麦芽アルコール飲料の製造方法を確立することである。」
・「【0014】
【実施例】以下に、本発明を実施例により詳しく説明する。
実施例1
仕込槽に麦芽56kgと温水200Lを加えて良く混合し、液温を約40℃として約40分間保持してマイシェを作った後、これを徐々に昇温し、液温を65℃とした。マイシェをこの温度に約20分間保持したのち、15分かけて75℃に昇温し、約3分間保持した。
【0015】糖化終了後、ろ過を行なって透明な麦汁を得た。次に、この麦汁(第1液)を煮沸釜に移し、ホップを加えて約100℃で80分間程煮沸した後、沈殿槽に移して静置することにより沈殿物を分離、除去した。なお、煮沸の際に添加するホップの使用量は、発酵工程での糖液等添加による希釈分を勘案した量としなければならない。その後、該麦汁250Lを約9℃まで冷却した。この冷麦汁に通気した後、発酵槽に添加して主発酵を開始した。なお、ビール酵母は濃度が1.5×107個/mLとなるように添加した。
【0016】この発酵液を11℃に2日間保った後、糖類として主にマルトースを含む溶液(第2液)を、元の麦汁(第1液)と等量添加し発酵を継続した。第2液は、殺菌のため、煮沸釜において約100℃で15分間程煮沸した後、約9℃まで冷却して調製し、酵母添加量は3.0×107個/mLとした。なお、第2液の発酵槽への添加の際には通気は行なわなかった。さらに2日経過した後、糖類として主にマルトースを含む溶液(第3液)を第1液および第2液の合計量と等量添加し、この後さらに4日間発酵を継続した。なお、第3液についても第2液同様に調製したものを用い、酵母添加量は3.0×107個/mLの濃度とし、かつ発酵槽添加時の通気も行なわなかった。主発酵終了後、発酵液を貯酒工程(後発酵工程)に移し、11℃で7日間、次いで0℃で14日間保持した。その後、常法によるろ過工程、製品化工程を経て最終製品を得た。発酵工程の概要を図1に、冷麦汁および最終製品の分析結果を第1表に、発酵工程での酵母数の推移を図2に、発酵工程でのエキス分の推移を図3に示す。また、製品中に含まれる低沸点化合物のガスクロ分析値をビールの標準分析値と比較したレーダーチャートを図4に示す。」
・「【0021】実施例4
仕込槽に麦芽16kgと糖類として主にマルトースを含む溶液50kgを添加し、さらに温水110Lを加えて良く混合した後、液温を約40℃として約40分間保持してマイシェを作った。これを徐々に昇温して液温を65℃とした。マイシェをこの温度に約20分間保持したのち、15分かけて75℃に昇温し、約3分間保持した。
【0022】糖化終了後、ろ過を行なって透明な麦汁を得た。次に、この麦汁(第1液)を煮沸釜に移し、ホップを加えて約100℃で80分間程煮沸した後、沈殿槽に移して静置することにより沈殿物を分離、除去した。その後、該麦汁250Lを約9℃まで冷却した。この冷麦汁にビール酵母を濃度が3.0×107個/mLとなるように添加した。なお、発酵槽への麦汁添加の際に通気をしなかったこと以外は実施例1と同様にして主発酵を行ない、さらに貯酒工程(後発酵工程)、ろ過工程、製品化工程を同様に実施して最終製品を得た。発酵工程の概要を図1に、冷麦汁および最終製品の分析結果を第1表に、発酵工程での酵母数の推移を図2に、発酵工程でのエキス分の推移を図3に示す。また、製品中に含まれる低沸点化合物のガスクロ分析値をビールの標準分析値と比較したレーダーチャートを図4に示す。」
イ 甲9に記載された発明
甲9に記載された事項を、特に実施例4に関して整理すると、甲9には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。
<甲9発明>
「仕込槽に麦芽16kgと糖類として主にマルトースを含む溶液50kgを添加し、さらに温水110Lを加えて良く混合した後、液温を約40℃として約40分間保持してマイシェを作り、これを徐々に昇温して液温を65℃とし、マイシェをこの温度に約20分間保持したのち、15分かけて75℃に昇温し、約3分間保持し、糖化終了後、ろ過を行なって透明な麦汁を得、次に、この麦汁(第1液)を煮沸釜に移し、ホップを加えて約100℃で80分間程煮沸した後、沈殿槽に移して静置することにより沈殿物を分離、除去し、その後、該麦汁250Lを約9℃まで冷却し、この冷麦汁にビール酵母を濃度が3.0×107個/mLとなるように添加し、主発酵を行ない、さらに貯酒工程(後発酵工程)、ろ過工程、製品化工程を実施して得た麦芽アルコール飲料。」
2 申立理由1(甲7ないし9のいずれかに基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲7発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲7発明を対比する。
甲7発明は、「麦芽25重量%及び大麦75重量%からなる原料」を使用するものであるから、本件特許発明1における「麦芽使用比率が3分の2未満である」という条件を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とし、かつ、麦芽使用比率が3分の2未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点7-1>
本件特許発明1においては、「該飲料が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを含んでなり、
前記ペプチドの飲料中の濃度が0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下であり、
飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が4.3%以上8.0%以下であり」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-2>
本件特許発明1においては、「該飲料が麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを含んでなり、
前記α-グルカンの飲料中の濃度が3.3mg/ml以上13.0mg/ml以下であり、」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-3>
本件特許発明1においては、「前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-4>
本件特許発明1においては、「前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。
(イ)判断
相違点7-1について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の【表10】及び甲8([0172]ないし[0175]、図6A及び図6B)の記載から、麦芽及び大麦を使用して製造された発泡アルコール飲料には、10~25kDaのペプチドが多少は含まれているといえるから、甲7発明が、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」を含んでいる蓋然性が高いとはいえる。
しかし、甲7には、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」が「0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下」であること及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」が「4.3%以上8.0%以下」であることは記載されていないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、相違点7-1は実質的な相違点である。
そして、甲7及び他の証拠には、甲7発明において、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」を「0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下」とすること及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」を「4.3%以上8.0%以下」とすることの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲7発明において、相違点7-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「雑味が抑制され、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあるビールテイストアルコール飲料を提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0008】)という効果は、甲7発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲7発明における「タンパク分解」の作用条件は「46℃」で「30分」であり、本件特許の発明の詳細な説明のサンプルNo.7(以下、「サンプルNo.7」という。)における「タンパク分解」の作用条件は「50℃」で「70分」であり、同サンプルNo.14(以下、「サンプルNo.14」という。)の「タンパク分解」の作用条件は「50℃」で「60分」であり、甲7発明の方が、「タンパク分解」の作用時間が短くなっているから、甲7発明における「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」は、本件特許発明1の条件を充足する旨主張する(特許異議申立書第37ないし41ページ)。
そこで、検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の【0021】の「タンパク分解としては、麦芽や未発芽に内在するプロテアーゼ、あるいは外から添加するプロテアーゼ製剤によるものが挙げられる。」という記載によると、麦芽にはタンパク分解のための酵素が内在するといえるところ、サンプルNo.7及びサンプルNo.14と甲7発明とは、麦芽と大麦の比率が異なることから、麦芽に内在する酵素の量が異なるといえるし、また、使用する酵素製剤が同じかどうか及びその使用量が同じかどうかも不明であるから、甲7発明における「タンパク分解」の作用時間がサンプルNo.7及びサンプルNo.14における「タンパク分解」の作用時間より短いからといって、甲7発明における「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」が、本件特許発明1の条件を充足するとは直ちにはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(エ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7発明であるとはいえないし、甲7発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 甲8発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲8発明を対比する。
甲8発明は、「大麦830g(大麦原料の77重量%)、大麦麦芽250g(大麦原料の23重量%)及びプロテアーゼP1(オリエンターゼ10NL、エイチビィアイ株式会社製)、プロテアーゼP2(プロチンSD-PC10F、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP3(ウマミザイムG、天野エンザイム株式会社製)、プロテアーゼP4(Trypsin4.0T、株式会社樋口商会製)、プロテアーゼP5(スミチームLP50D、新日本化学工業株式会社製)、プロテアーゼP6(スミチームSP、新日本化学工業株式会社製)又はプロテアーゼP7(スミチームACP-G、新日本化学工業株式会社製)であるプロテアーゼ1.08g(大麦原料に対して0.1重量%)を含む原料」及び「ホップ7g」を使用するものであるから、本件特許発明1における「麦芽使用比率が3分の2未満である」という条件を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とし、かつ、麦芽使用比率が3分の2未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点8-1>
本件特許発明1においては、「該飲料が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを含んでなり、
前記ペプチドの飲料中の濃度が0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下であり、
飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が4.3%以上8.0%以下であり」と特定されているのに対し、甲8発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点8-2>
本件特許発明1においては、「該飲料が麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを含んでなり、
前記α-グルカンの飲料中の濃度が3.3mg/ml以上13.0mg/ml以下であり、」と特定されているのに対し、甲8発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点8-3>
本件特許発明1においては、「前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり」と特定されているのに対し、甲8発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点8-4>
本件特許発明1においては、「前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む」と特定されているのに対し、甲8発明においては、そのようには特定されていない点。
(イ)判断
相違点8-1について検討する。
甲7発明と同様に、甲8発明が、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」を含んでいる蓋然性が高いとはいえる。
しかし、甲8には、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」が「0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下」であること及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」が「4.3%以上8.0%以下」であることは記載されていないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、相違点8-1は実質的な相違点である。
そして、甲8及び他の証拠には、甲8発明において、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」を「0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下」とすること及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」を「4.3%以上8.0%以下」とすることの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲8及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲8発明において、相違点8-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「雑味が抑制され、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあるビールテイストアルコール飲料を提供することができる。」という効果は、甲8発明並びに甲8及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲8発明における「タンパク分解」の作用条件は「50℃」で「30分」であり、サンプルNo.17における「タンパク分解」の作用条件は「50℃」で「70分」であり、サンプルNo.14の「タンパク分解」の作用条件は「50℃」で「60分」であり、甲8発明の方が、「タンパク分解」の作用時間が短くなっているから、甲8発明における「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」は、本件特許発明1の条件を充足する旨主張する(特許異議申立書第37ないし41ページ)。
そこで、検討する。
上記主張は上記ア(ウ)の主張と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、甲8発明における「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」が、本件特許発明1の条件を充足するとは直ちにはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(エ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲8発明であるとはいえないし、甲8発明並びに甲8及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 甲9発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲9発明を対比する。
甲9発明は、「麦芽16kgと糖類として主にマルトースを含む溶液50kg」及び「ホップ」を使用するものであるから、本件特許発明1における「麦芽使用比率が3分の2未満である」という条件を満たす蓋然性が高い。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とし、かつ、麦芽使用比率が3分の2未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点9-1>
本件特許発明1においては、「該飲料が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを含んでなり、
前記ペプチドの飲料中の濃度が0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下であり、
飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が4.3%以上8.0%以下であり」と特定されているのに対し、甲9発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点9-2>
本件特許発明1においては、「該飲料が麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを含んでなり、
前記α-グルカンの飲料中の濃度が3.3mg/ml以上13.0mg/ml以下であり、」と特定されているのに対し、甲9発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点9-3>
本件特許発明1においては、「前記ペプチドが、大麦由来のα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター、大麦由来のセルピン-Z4および大麦由来の非特異的脂質転移タンパク1を少なくとも含む、大麦由来のペプチドであり」と特定されているのに対し、甲9発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点9-4>
本件特許発明1においては、「前記α-グルカンが、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオースおよびマルトデカオースを少なくとも含む」と特定されているのに対し、甲9発明においては、そのようには特定されていない点。
(イ)判断
相違点9-1について検討する。
甲7発明と同様に、甲9発明が、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」を含んでいる蓋然性が高いとはいえる。
しかし、甲9には、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」が「0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下」であること及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」が「4.3%以上8.0%以下」であることは記載されていないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、相違点9-1は実質的な相違点である。
そして、甲9及び他の証拠には、甲9発明において、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」を「0.15mg/ml以上0.31mg/ml以下」とすること及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」を「4.3%以上8.0%以下」とすることの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲9及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲9発明において、相違点9-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「雑味が抑制され、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあるビールテイストアルコール飲料を提供することができる。」という効果は、甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲9発明における「タンパク分解」の作用条件は「40°」で「30分」であり、本件特許の発明の詳細な説明のサンプルNo.7における「タンパク分解」の作用条件は「50℃」で「70分」であり、同サンプルNo.14の「タンパク分解」の作用条件は「50℃」で「60分」であり、甲9発明の方が、「タンパク分解」の作用時間が短くなっているから、甲9発明における「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」は、本件特許発明1の条件を充足する旨主張する(特許異議申立書第37ないし41ページ)。
そこで、検討する。
上記主張は上記ア(ウ)の主張と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、甲9発明における「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」の「飲料中の濃度」及び「飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率」が、本件特許発明1の条件を充足するとは直ちにはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(エ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲9発明であるとはいえないし、甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲7発明ないし甲9発明のいずれかであるとはいえないし、甲7発明ないし甲9発明のいずれか並びに甲7ないし9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)むすび
したがって、本件特許発明1及び2は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
3 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1及び2は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には、「ビールテイストの発酵アルコール飲料」について、同【0012】には「麦芽使用比率」を「3分の2未満とすること」について、同【0013】及び【0014】には「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチド」、該「ペプチド」の「濃度」及び「全タンパク量」に対する該「ペプチド」の「比率」について、同【0015】及び【0016】には、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカン」と該「α-グルカン」の「濃度」について、具体的に記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0021】には、該「ペプチド」の「濃度」の調整方法が具体的に記載され、同【0022】には、該「α-グルカン」の「濃度」の調整方法が具体的に記載され、同【0025】には、該「ペプチド」の例が具体的に記載され、同【0027】には、該「α-グルカン」の例が具体的に記載され、同【0038】ないし【0108】には、実施例についてその製造方法を含め具体的に記載されている。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1及び2の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されているといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1及び2を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1及び2に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 2(1)の主張について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の【0021】には、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の分子量10~20kDaのペプチド濃度を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込み・糖化工程におけるタンパク分解を抑制することや、原料である麦芽の製麦工程におけるタンパク分解度を抑制することなどにより、調整することができる。なお、タンパク分解としては、麦芽や未発芽に内在するプロテアーゼ、あるいは外から添加するプロテアーゼ製剤によるものが挙げられる。分解の抑制は、プロテアーゼ製剤の添加量を減じる、タンパク分解の作用温度における処理時間を減じる、作用pHを至適条件から変更するなどにより行うことができる。」と記載されている。
そうすると、「プロテアーゼ製剤の添加量を減じる」方法によりタンパク分解を抑制する方法について、発明の詳細な説明に、プロテアーゼ製剤の種類及び添加量に関する記載はないとしても、当業者であれば、プロテアーゼ製剤として市販されている通常のプロテアーゼ製剤を用いて、添加量は、タンパク分解によって生成されるペプチドの量に応じて、適宜調整することによって、過度の試行錯誤を要することなく、実施可能であるといえる。
また、「作用pHを至適条件から変更する」方法によりタンパク分解を抑制する方法について、発明の詳細な説明に、作用pH及び至適条件に関する記載はないとしても、麦芽や未発芽に内在するプロテアーゼや市販されているプロテアーゼ製剤の作用pHや至適条件は、当業者に明らかであるから、過度の試行錯誤を要することなく、実施可能であるといえる。
さらに、本件の実施例で使用した酵素製剤と異なる酵素製剤を使用した場合に、本件特許の発明の詳細な説明に記載された試験醸造品と同じ条件で本件特許発明1の条件を満たさない場合は、当業者は、本件特許発明1の条件を満たすように、添加量、作用温度、処理時間及び作用pH等を調整するものであるから、過度の試行錯誤を要することなく、実施可能であるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記第3 2(1)の主張は採用できない。
特許異議申立人の上記第3 2(2)の主張も、同様に採用できない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0005】によると、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題は「雑味が抑制され、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあるビールテイスト発泡アルコール飲料を提供すること」であり、本件特許発明3及び4の解決しようとする課題は「雑味が抑制され、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあるビールテイストアルコール飲料を提供すること」であり、本件特許発明5の解決しようとする課題は「雑味が抑制され、ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあるビールテイストアルコール飲料の製造方法を提供すること」であり、本件特許発明6の解決しようとする課題は「ビールテイストアルコール飲料の風味改善剤を提供すること」であり、本件特許発明7の解決しようとする課題は「ビールテイストアルコール飲料の風味改善方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0006】には、「本発明者らは、ビールテイストアルコール飲料において、特定分子量のペプチドと特定重合度のα-グルカンがビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーの付与や雑味の低減に寄与することを見出した。本発明者らはまた、特定分子量のペプチドの濃度を特定の濃度範囲内にすることで、よりビールらしい調和感のある味わいが実現できることを見出した。本発明者らはさらに、特定分子量のペプチドに加えて特定重合度のα-グルカンの濃度を特定の濃度範囲内にすることで上記効果がより一層発揮されることを見出した。本発明者らはさらに、ビールテイストアルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定した。」と記載され、同【0007】には、本件特許発明1ないし7に対応する事項が記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0014】には、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では分子量10~20kDaのペプチド濃度を0.15mg/ml以上とすることができ、好ましくは0.19mg/ml以上、より好ましくは0.20mg/ml以上である。該ペプチド濃度は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、0.45mg/mlを上限とすることができる。また、全タンパク量に対する分子量10~20kDaのペプチド量の比率を3.6%よりも大きくすることができ、好ましくは3.7%以上、より好ましくは4.0%以上である。該比率は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、8.0%を上限とすることができる。後記実施例2および4に示されるように分子量10~20kDaのペプチドの濃度や比率を特定値以上に設定することによって、ビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が50%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料)の雑味を抑制するとともに、該飲料をビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがある飲料とすることができる。」と記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0016】には、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では重合度5~10のα-グルカン濃度を2.1mg/ml以上とすることができ、好ましくは3.3mg/ml以上、より好ましくは3.9mg/ml以上である。該α-グルカン濃度は味の調和の観点から上限を設けることができ、例えば、13.0mg/mlを上限とすることができる。後記実施例2および4に示されるように重合度5~10のα-グルカン濃度を特定値以上に設定することによって、ビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、麦芽使用比率が50%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料)の雑味を抑制するとともに、該飲料をビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがある飲料とすることができる。」と記載されている。」
本件特許の発明の詳細な説明の【0038】ないし【0060】に記載された実施例1において、分子量10~20kDaのペプチドが分布している画分A1及びA2並びにグルコースの重合度が2~10のα-グルカンが分布している画分B及びCは、雑味が抑制され調和のとれたビールらしい味わいをビール系飲料に付与できることを確認している。
本件特許の発明の詳細な説明の【0061】ないし【0091】に記載された実施例2において、麦芽比率50%未満、および麦芽比率25%未満の場合において、10~20kDaのペプチド濃度が0.19mg/mL以上であり、10~20kDaのペプチド比率が3.7%以上であり、かつ、重合度が5~10のα-グルカンの濃度が3.3mg/ml以上の場合に、ビールらしい味わいが5.2~6.6と高めとなり、口内に残るざらつきが3.8~5.1と低めとなり、しかもビールのスコアに近くなる傾向が認められることを確認している。
そうすると、当業者は、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とし、かつ、麦芽使用比率が3分の2未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、該飲料が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを含んでなり、前記ペプチドの飲料中の濃度が0.15mg/ml以上であり、飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が3.6%以上であり、該飲料が麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを含んでなり、前記α-グルカンの飲料中の濃度が3.3mg/ml以上である、ビールテイスト発酵アルコール飲料」、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドと、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンとが配合されてなる、麦芽使用比率が3分の2未満であるビールテイストアルコール飲料であって、前記ペプチドが、飲料中の濃度が0.15mg/ml以上となり、かつ、該ペプチドの量(mg/mL)が飲料中の全タンパク量(mg/mL)に対して3.6%以上の比率となるように配合されてなり、前記α-グルカンが、飲料中の濃度が3.3mg/ml以上となるよう配合されてなる、ビールテイストアルコール飲料」、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液または発酵後の発酵液に配合する工程と、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液に配合する工程とを含んでなる、ビールテイストアルコール飲料の製造方法であって、前記ペプチドを飲料中の濃度が0.15mg/ml以上となり、かつ、全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が3.6%以上となるように配合し、前記α-グルカンを飲料中の濃度が3.3mg/ml以上となるように配合する、製造方法」、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドと、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンとを有効成分として含んでなる、ビールテイストアルコール飲料の風味改善剤」及び「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量10~20kDa(ゲル濾過法)のペプチドを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液に添加する工程と、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する重合度5~10のα-グルカンを発酵前の発酵前液、発酵中の発酵液、あるいは発酵後の発酵液に添加する工程とを含んでなる、ビールテイストアルコール飲料の風味改善方法であって、
前記ペプチドを飲料中の濃度が0.15mg/ml以上となり、かつ、全タンパク量(mg/mL)に対する前記ペプチドの量(mg/mL)の比率が3.6%以上となるように添加し、前記α-グルカンを飲料中の濃度が3.3mg/ml以上となるように添加する、風味改善方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3の主張について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の【0038】ないし【0103】において、本件特許発明の効果が確認されているのは、「分子量約10~20kDaのペプチド画分」及び「重合度が2~10のα-グルカン画分」を添加した場合であるが、「分子量約10~20kDaのペプチド画分」の大部分は「分子量10~20kDaのペプチド」であり、「重合度が2~10のα-グルカン画分」の大部分は「重合度が2~10のα-グルカン」であることは、当業者に明らかである。
また、本件特許発明の効果を奏するものが、「分子量10~20kDaのペプチド」以外の「分子量約10~20kDaのペプチド画分」中の「ペプチド」であること又は、本件特許発明の効果を奏するものが、「重合度が2~10のα-グルカン」以外の「重合度が2~10のα-グルカン画分」中の「α-グルカン」であることが、当業者の技術常識であるという訳ではないし、そうであることを示す具体的な証拠がある訳でもない。
そうすると、当業者は、「分子量10~20kDaのペプチド」及び「重合度が2~10のα-グルカン」を添加することによって、本件特許発明の効果が奏され、本件特許発明の課題を解決できると理解する。
したがって、本件特許発明1において、「分子量約10~20kDaのペプチド画分」及び「重合度が2~10のα-グルカン画分」であることが特定されていないとしても、サポート要件に違反しているとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(5)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700008