特許異議申立
2023-700256
コアセルベートを含む、乳成分非含有チーズ代替品
- 審判番号
- 2023-700256
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-040654
- 登録番号
- 7136724
- 請求日
- 2023年03月08日
- 審決日
- 2023年05月19日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】インポッシブル フーズ インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】大森 規雄
- 【権利者代理人】末広 尚也
- 【異議申立人】笹井 栄治
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 平塚 政宏
- 分類
- P1652.113-Y (A23C) / P1652.121-Y (A23C) / P1652.536-Y (A23C) / P1652.537-Y (A23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7136724号発明「コアセルベートを含む、乳成分非含有チーズ代替品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7136724号の請求項1、4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7136724号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし23に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)1月13日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2013年1月11日、米国)を国際出願日とする特願2015-552870号の一部を平成31年3月6日に新たな出願としたものであって、令和4年9月5日にその特許権の設定登録(請求項の数23)がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年3月8日に特許異議申立人 笹井 栄治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1及び4)がされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1及び4に係る発明(以下、順に「本件発明1」及び「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法であって、前記乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液は豆乳またはダイズを含んでおらず、
前記1または複数の微生物は、以下:乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLL)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLC)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種(市販の培養物であるMD88として使用されることが多いLLBD)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)クレモリス(cremoris)(LM)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)(市販の培養物であるTA61として使用されることが多いST)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)(SX)、およびブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)(市販の培養物であるLRとして使用されることが多い)から選択され、
フレーバー産生は、糖、アミノ酸、有機酸、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、キサンチン、ピリドキサミン、ピリドキシン、D-ソルビトール、クエン酸、乳酸、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸、オロト酸、シュウ酸、アスコルビン酸、コハク酸、p-アミノ安息香酸、DL-リンゴ酸、Asp、Cys、グルタミン、グルタミン酸、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、リボフラビン、チアミン、リポ酸、ニコチン酸、CoA水和物、プロパン酸、C4:0酪酸、C6:0カプロン酸、C8:0カプリル酸、C10:0カプリン酸、C12:0ラウリン酸、C14:0ミリスチン酸、C16:0パルミチン酸、C18:0ステアリン酸、C16:1パルミトレイン酸、ココナッツ油、ヒマシ油、パーム油、パームフルーツ油、ホホバ油、ヒマワリ油、マンゴーバター、Ala、Arg、Asn、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加物を用いてモジュレートされ、
前記微生物は、バタリー、クリーミー、デアリー、またはチージーなフレーバーを創出する、
前記方法。
【請求項4】
前記微生物は、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年3月8日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1及び4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されている、「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法」に関するものである。
そして、発明の詳細な説明においては、上記フレーバリング方法に関する具体的な例として、ココナッツミルク、グルコースなどを添加したエンドウマメビシリンタンパク質をSX培養物、TA61培養物、およびMD88培養物と接触させることによるチーズフレーバーの発生(実施例30(【0333】)、実施例32(【0339】)について開示されている。
また、本件発明の課題は、乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させることを含む、乳成分非含有製品のフレーバリング方法の提供であると解される。
してみると、タンパク質源と微生物の組み合わせ、さらには添加物の種類によって、創出されるフレーバーや揮発性化合物が無数に異なることは技術常識であることを鑑みれば、本件発明1、4に係る乳成分非含有タンパク質と列挙された微生物、添加剤等による広範な組み合わせから、具体的に本願特許発明の課題が解決し得ると認識することはできない。本件特許明細書の記載に接した当業者が本件発明の課題を解決していると具体的に理解し得るのは、実施例30及び32として上記で説明した範囲のものに限られる。
したがって、本件発明1、4は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載されているものではない。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1及び4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・上記3で検討した理由と同じ理由により、出願時の技術常識に鑑みれば、実施例や発明の詳細な説明の他の記載から把握される特定のタンパク質源と微生物、添加剤を用いる場合以外の態様について、本件発明に係るフレーバーを創出することは当業者にとって過度の試行錯誤を要するものである。
したがって、この出願の発明の詳細な説明の記載は当業者が本件発明1及び4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
5 証拠方法
甲第1号証:特表2004-520070号公報
甲第2号証:特開2007-267736号公報
甲第3号証:Yuliana et al., "Manufacture of fermented coco milk-drink containing lactic acid bacteria cultures", African Journal of Food Science Vol. 4(9), pp.558-562, September 2010
<URL:https://academicjournals.org/journal/AJFS/article-full-text-pdf/BF5C19B25901>
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由1ないし4にはいずれも理由がないと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、タンパク質の発酵による味のよい風味を付けられた製品の製造方法に関し、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。他の文献についても同様。
・「【請求項1】
タンパク質源から味のよい風味を付けられた製品を製造する方法であって、
該タンパク質源を、マクロコッカス(Macrococcus)、ミクロコッカス(Micrococcus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、スタフィロッカス(Staphyloccus)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、アントロバクター(Anthrobactor)およびコリネバクテリウム(Corynebacterium)からなる群より選択される少なくとも1種の第1の食品用菌株ならびに、少なくとも1種の第2の食品用乳酸菌株を含む生理学的に許容される水性培地中で、20~42℃の温度で、該培地の等電点より上に維持したpHで発酵させること、
該味のよいフレーバーが達成されるように十分な程度の加水分解に到達するまで該発酵を続けること、ならびに、そのようにして製造された製品を回収すること
を含み、ただし、分離したカゼインまたはその誘導体は、唯一のタンパク質源ではない方法。
【請求項2】
該第1の株がマクロコッカス(Macrococcus)株である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該マクロコッカス(Macrococcus)株が、マクロコッカス カセオリティカス(Macrococcus caseolyticus)の株である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該マクロコッカス カセオリティカス(Maicrococcus caseolyticus)の株が、アメリカン タイプカルチャー コレクションにATCC#51834又はATCC#51835の下に寄託されている株のどちらかである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
該第2の株が、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ラクトコッカス(Lactococcus)株、ペディオコッカス(Pediococcus)株およびロイコノストク(Leuconostoc)菌株からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
該第2の株が、L.ヘルベチカス(helveticus)株、L.デルブルエッキ(delbrueckii)亜種ブルガリカス(bulgaricus)の株、L.デルブルエッキ(delbrueckii)亜種ラクチス(lactis)の株、L.ブレビス(brevis)株、L.パラカセイイ(paracaseii)株、L.ラムノサス(rhamnosus)株およびL.フェルメンタム(fermentum)株からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
該第2の株がラクトバチルス ヘルベチカス (Lactobacillus helveticus)株である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
該十分な程度の加水分解が2~32%である、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
該十分な程度の加水分解が4~32%である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該十分な程度の加水分解が7~32%である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
生理学的に許容される塩基または緩衝液の添加によって、該pHがそのように維持される、請求項1~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
該タンパク質源が乳および/または乳誘導体である、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
該乳が、全乳、均質化全乳、脱脂乳、再構成脱脂乳粉末および再構成全乳粉末からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
該乳誘導体が、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ホエータンパク質濃縮物(WPC)、カルシウム涸渇乳誘導体、バターミルク、ホエーおよび限外ろ過浸透物からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
該タンパク質源が植物タンパク質または穀物タンパク質である、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
該植物タンパク質が大豆タンパク質である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
該穀物タンパク質が、米もしくは小麦のタンパク質である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
該生理学的に許容される培地が、添加もしくは天然の炭水化物を含む、請求項1~17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
該炭水化物がラクトースである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
該炭水化物が、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、オリゴ糖およびデンプンまたはその任意の2種以上のブレンドからなる群より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項21】
該培地がクリーム、クリーム粉末または乳脂肪を含む、請求項1~20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
該培地が非乳業の脂肪を含む、請求項1~20のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
該非乳業の脂肪がココナツ油である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
該非乳業の脂肪が多不飽和脂肪酸源である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
該多不飽和脂肪酸源が、オリーブ油、カノーラ油およびサフラワー油からなる群より選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
該発酵が4.0~8.0のpHで行なわれる、請求項1~25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
該pHが5.5~6.5である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
該発酵が、pH安定条件で行なわれる、請求項1~27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
該発酵が15~45℃の温度で行なわれる、請求項1~28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
該温度が30~40℃である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
該第1および第2の菌株が一緒に該培地に添加される、請求項1~30のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
該第1および第2の菌株が異なるときに添加され、発酵が行なわれる温度およびpHは、該第2の株または次の株が添加された後に任意的に変えることができる、請求項1~30のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
該発酵が12~96時間続けられる、請求項1~32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
該発酵が約40~60時間行なわれる、請求項33記載の方法。
【請求項35】
該発酵が、酸生成段階およびフレーバー発生段階に分けられる、請求項1~34のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
フレーバー発生段階中にpHが変えられる、請求項35記載の方法。
【請求項37】
フレーバー発生段階中に温度が変えられる、請求項35または36記載の方法。
【請求項38】
該菌株の細胞が破裂されて、細胞内酵素を放出してフレーバー発生段階を開始する、請求項35~37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
該フレーバー発生段階に加水分解酵素が添加される、請求項35~37のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
該加水分解酵素がリパーゼまたはプロテアーゼである、請求項39記載の方法。
【請求項41】
該味のよい風味を付けられた製品が回収される前に、該発酵を終了する、請求項1~40のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
該第1および第2の菌株が採取され、次のフレーバー発生発酵のための新たな培地に再接種される、請求項1~41のいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
該菌株から生成された酵素が回収され、次のフレーバー発生のための新たな培地に添加される、請求項1~41のいずれか1項記載の方法。
【請求項44】
該菌株により生成されたかまたはフレーバー発生のために添加された酵素が、製品の回収前に不活化される、請求項1~43のいずれか1項記載の方法。
【請求項45】
少なくとも72℃の温度に少なくとも15分間加熱することによって、酵素が不活化される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
該風味付けされた製品が濃縮される、請求項1~45のいずれか1項記載の方法。
【請求項47】
該発酵製品が熱処理されて、所望のフレーバーを発生する、請求項1~46のいずれか1項記載の方法。
【請求項48】
該発酵製品が一部脱塩される、請求項1~47のいずれか1項記載の方法。
【請求項49】
該発酵製品が他の成分とブレンドされて、最終製品を生成する、請求項1~48のいずれか1項記載の方法。
【請求項50】
該方法から回収された製品をチーズ製造プロセスに添加して、それによって製造されるチーズにフレーバーを提供する追加の段階を含む、請求項1~49のいずれか1項記載の方法。」
・「【0013】
好ましくは、該第2の株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ラクトコッカス(Lactococcus)株、ペディオコッカス(Pediococcus)株およびロイコノストク(Leuconostoc)菌株からなる群より選択される。
【0014】
より好ましくは、該第2の株は、L.ヘルベチカス(helveticus)株、L.デルブルエッキ(delbrueckii)亜種ブルガリカス(bulgaricus)の株、L.デルブルエッキ(delbrueckii)亜種ラクチス(lactis)の株、L.ブレビス(brevis)株、L.パラカセイイ(paracaseii)株、L.ラムノサス(rhamnosus)株およびL.フェルメンタム(fermentum)株からなる群より選択される。
【0015】
最も好ましくは、該第2の株は、ラクトバチルス ヘルベチカス (Lactobacillus helveticus)株である。」
・「【0036】
実施例1:全乳からの味のよいフレーバー
ラクトバチルス ヘルベチカス (Lactobacillus helveticus)およびマクロコッカス カセオリティカス(Macrococcus caseolyticus)を、乳に基づく培地中で水酸化アンモニウムの中和で6.1にpH制御下で、イースト グルコース ミルク(Yeast Glucore Milk)の2つの別々の発酵器中で、10Lにて1晩増殖させた。2Lの低温殺菌した再構成全乳粉末を水で10%全固形分量にし、37℃にてそれぞれ3mLの109cfu/mLのラクトバチルス ヘルベチカス (Lactobacillus helveticus)およびマクロコッカス カセオリティカス(Macrococcus caseolyticus)の純培養物を接種した。pHを6.6から6.0に下げた後、10%KOH溶液の添加により6.0に維持した。培地を48時間発酵させて、18%の加水分解の程度にした(H.フリスター(Frister)らにより、Fresenius Zeitschrift Analytik Chimie, 330: 631-633, 1988に記載されている方法)。pHを調整して6.6に戻した後、60℃に加熱し、30分間保持することによって発酵を終了した。生成物を凍結乾燥によって濃縮した。オリーブオイルでコーティングした米と水のクラッカーおよび溶融バターに凍結乾燥製品を振りかけ、粉末に焦げ目がつくまで100℃で焼いた。
【0037】
経験のあるチーズの味見人のパネルが召集されて、この実施例で記載された方法によって製造された濃縮前の製品について、フレーバー記述子を考案した。これは別個に最初に行なわれ、その後、記述子の最終的リストおよびその相対的強度が議論および一致により同意された。同意された主なフレーバー記述子は、味がよい、こってりした(meaty)、焦げた、だしが出た(brothy)、キノコのような、および塩からいであった。次の実施例からの製品を、この対照実施例製品と比べた。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、請求項1、5、15、18ないし20、22、23、及び50に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1発明>
「タンパク質源を、微生物を含む水性培地中で発酵させる、風味を付けられた製品の製造方法であって、
タンパク質源は植物タンパク質または穀物タンパク質であり、
前記微生物としては、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)等から選択される第1の食品用菌株と、ラクトコッカス(Lactococcus)株、ロイコノストク(Leuconostoc)菌株等から選択される第2の食品用乳酸菌株を含み、
該培地は、非乳業の脂肪(ココナツ油)、ラクトース、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、オリゴ糖、デンプンから選ばれる添加物を含み、
回収された製品によりチーズにフレーバーを提供する、
タンパク質源から風味を付けられた製品の製造方法。」
(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、生物によって産生される風味の急速生成および使用のための方法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
風味成分を調製するための方法であって、
約1から約8パーセントのタンパク質、約25から約70パーセントの脂肪、約0.01から約2パーセントの含硫黄基質、約2から約15パーセントの塩、およびバクテリオシン源を含む第1混合物を調製するステップであって、前記第1混合物は約5から約9のpHを有するステップと、
前記第1混合物を殺菌するのに有効な温度および時間で、前記第1混合物を加熱するステップと、
前記加熱した第1混合物を約20から約30℃に冷却するステップと、
前記冷却した第1混合物をバクテリオシン耐性の培養物で処理して、第2混合物を形成するステップであって、これにより、前記バクテリオシン耐性の培養物は、前記含硫黄基質を含硫黄風味化合物に変換するのに有効であるステップと、
前記第2混合物中の前記培養物を不活化させるのに十分な温度で、前記第2混合物を処理して、前記風味成分を形成するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記脂肪は、濃縮乳脂肪、無水乳脂肪、バター、クリーム、スイートクリーム、植物油、カノーラ油、またはこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質は、乳タンパク質濃縮物、分画乳タンパク質、濃縮乳脂肪、ホエータンパク質濃縮物、乾燥ホエー、脱脂粉乳、乳タンパク質単離物、ホエータンパク質単離物、大豆タンパク質、トウモロコシタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、またはこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バクテリオシン源は、ナイシンA、ナイシンZ、ペディオシン、ラクトシン、ラクタシン、カルノシン、エンテロシン、プランタリシン、サブチリン、エピデルミン、シンナマイシン、デュラマイシン、およびアンコベニンからなる群から、単独でまたはこれらの任意の組合せで選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バクテリオシン源は、約100から約500IU/gの量のナイシンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バクテリオシン源は、約140から約160IU/gの量のナイシンであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記含硫黄基質は、L-メチオニン、L-グルタチオン、およびL-システイン、またはこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
風味成分を処理して風味粉末を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記風味成分を処理して風味ペーストを形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記バクテリオシン耐性の培養物は、バクテリオシン耐性のブレビバクテリウムリネンス培養物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記バクテリオシン耐性のブレビバクテリウムリネンス培養物は、ブレビバクテリウムリネンスATCC No.9174由来であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1混合物は、約6から約10パーセントの塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。」
・「【請求項42】
培養されたチーズ濃縮物を使用して風味のあるチーズを調製するための方法であって、
(1)チーズまたは乳製品ベースを調製するステップと、
(2)約0.1から約50パーセントの培養されたチーズ濃縮物をチーズまたは乳製品ベースに取り入れて、風味のあるチーズを形成するステップと
を含み、
前記培養されたチーズ濃縮物は、0.1から約10パーセントの風味成分を含み、
前記風味成分は、
約1から約8パーセントのタンパク質、約25から約70パーセントの脂肪、約0.01から約2パーセントの含硫黄基質、約2から約15パーセントの塩、およびバクテリオシン源を含む第1混合物を調製するステップであって、前記第1混合物は約5から約9のpHを有するステップと、
前記第1混合物を殺菌するのに有効な温度および時間で、前記第1混合物を加熱するステップと、
前記加熱した第1混合物を約20から約30℃に冷却するステップと、
前記冷却した第1混合物を、バクテリオシン耐性の培養物で処理して、第2混合物を形成するステップであって、これにより、前記バクテリオシン耐性の培養物は、前記含硫黄基質を含硫黄風味化合物に変換するのに有効であるステップと、
前記第2混合物中の前記培養物を不活化させるのに十分な温度で、前記第2混合物を処理して、前記風味成分を形成するステップと
を含む
方法によって調製されることを特徴とする方法。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、伝統的なスタイルのチーズの風味特性を有する食品を調製するために使用することができる、安定した、天然の、生物によって産生されるチェダー風味成分に関する。より具体的には、本発明は、内部の腐敗微生物または病原微生物の増殖に対して安定化されたチーズ風味成分の発生を促進することに関する。安定したチーズ風味成分は、風味の発生に必要な発酵時間の少なくとも一部を促進する発酵工程の一環として、さらなる微生物バリアと組み合わせてバクテリオシン源を追加することによって得られる。したがって、本発明による風味成分に関して、風味を損失することなく、製造時間を著しく削減でき、同時に微生物の安定性を向上させることができる。該風味成分は、プロセスチーズ、プロセスチーズタイプの製品、または他のチーズにおいて使用されることができる。該風味成分は、他の食品における天然の風味システムとしても使用されることができる。また、チーズ製品などの食品における該風味成分の製造方法および使用方法を提供する。」
・「【実施例1】
【0061】
本実施例は、風味濃縮物として急速に生成されるチェダータイプの成分の調製について説明する。脂肪42パーセントのスイートクリーム(配合の90パーセント、主要な脂質およびタンパク質源)、脱脂粉乳(配合の2パーセント)、塩化ナトリウム(配合の8パーセント)、L-メチオニン(配合の0.2パーセント)、およびDaniscoからのNISAPLIN(登録商標)(配合の0.015パーセント)を混合することによって、第1混合物を調製する。得られた第1混合物は、水分48パーセント、脂肪39パーセント、タンパク質2.5パーセントであり、6.0のpHを有する。次いで、得られた第1混合物を、直接蒸気噴射によって、122℃で30秒間、高温加熱処理し、次いで25℃に冷却する。得られた中間生成物を使用して、単一段階発酵手順を使用して、これらの実施例の特定の風味成分を調製する。
【0062】
ブレビバクテリウムリネンスATCC No.9174をアメリカンタイプカルチャーコレクションから得る。この菌株を、より高濃度のナイシンを含有するトリプシン大豆培地(TSB)で引き続き培養することによって、ナイシン耐性にした。350Uナイシン/mlに耐性のある培養物を得、使用するまでTSBおよびグリセロール中で凍結保存した。
【0063】
ブレビバクテリウム培養物を、発酵槽中、メチオニン0.1パーセントおよび350Uナイシン/ml(DaniscoからのNISAPLIN(登録商標))を含有するDaniscoからのBL培地で、25℃にて48時間、通気しながら培養する。この培養物を遠心分離によって凝集させ、脱脂粉乳およびグリセロールと1:0.4:2.4の比率で混合する。培養物を使用するまで液体窒素中で凍結保存する。ブレビバクテリウムリネンス培養物(0.1パーセントおよび/または1x108cfu/ml)を発酵容器に加えて、発酵工程を開始する。次いで、発酵混合物を25℃の温度で合計40時間にわたって通気する。発酵終了時の発酵混合物のpHは6.0である。結果として得られる急速に生成されたチェダー風味成分を74℃に16秒間にわたって加熱し、培養物を不活化させ、生成物の貯蔵寿命を延長させる。熱不活化後、急速に生成されたチェダータイプの成分は、固形分52パーセント、水分48パーセントの組成を有する。また、それは、メタンチオール6.0ppm、ジメチルジスルフィド(DMDS)0.5ppm、およびジメチルトリスルフィド0.2ppmを有する。この急速に生成されたチェダー風味成分を、水を除去することにより乾燥または濃縮して、風味ペーストまたは風味粉末を形成することができる。スイートクリームベースを使用し、塩およびNISAPLIN(登録商標)を加えると、引用文献2の実施例1に従って製造したチェダー成分に少なくとも匹敵する風味特性を有する風味プロフィールが与えられることを見い出した(特許文献2参照)。
【0064】
L-グルタチオンまたはL-システインなどの還元剤を、発酵前または発酵後に0.01から0.3パーセントで加えて、生成される揮発性硫黄化合物を安定させることができる。
【実施例2】
【0065】
図2に示すように、実施例1に従って調製される風味成分を使用して、プロセスチーズを調製する。チェダーチーズ25ポンド(11kg)、水49ポンド(22kg)、天然に生物によって産生されるチーズ風味18ポンド(8.2kg)(例えば、特許文献2に記載され、本明細書に組み込まれるようなもの。特許文献2参照)、酵素変性フレッシュチーズ2ポンド(0.9kg)(例えば、特許文献12に記載され、本明細書に組み込まれるようなもの。特許文献2参照)、乳脂肪18ポンド(8.2kg)、チーズ色素0.1ポンド(45g)、乳タンパク質濃縮物42ポンド(19kg)、ホエータンパク質濃縮物13ポンド(5.9kg)、およびリン酸カルシウム3ポンド(1.4kg)を含有する混合物を混合して、予備混合物を形成する。約47ポンド(21kg)の予備混合物、ソルビン酸0.1ポンド(45g)、乳化塩2ポンド(0.9kg)、塩化ナトリウム1ポンド(0.45kg)、およびアルギン酸ナトリウム0.1ポンド(45g)を、攪拌下で蒸気噴射プロセッサに加える。次に、実施例1の風味成分を1ポンド(0.45kg)加える。生成物を74℃に加熱し、60秒間にわたって維持する。次いで、水7ポンド(3.2kg)、乾燥ホエー1ポンド(0.45kg)、乳タンパク質濃縮物2ポンド(0.9kg)およびホエータンパク質濃縮物4ポンド(1.8kg)を該プロセッサに加えて、この混合物を78℃に加熱する。乳酸を0.3ポンド(0.14kg)加える。最後に、このプロセスチーズを78℃で90秒間にわたって維持し、次いで包装する。」
・「
[図:0001398325000001.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、請求項1、3、7及び10、及び【0001】の記載に関して整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
<甲2発明>
「タンパク質を含む混合物をバクテリオシン耐性の培養物で処理するステップを含む、風味成分を調製するための方法で、
前記タンパク質はトウモロコシタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質から選択され、
前記バクテリオシン耐性の培養物は、バクテリオシン耐性のブレビバクテリウムリネンス培養物であり、
植物油(脂肪)、L-メチオニン、L-システインから選択される含硫黄基質の添加物を含み、
チーズ風味成分を発生する、方法。」
2 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「タンパク質源」は、「植物タンパク質または穀物タンパク質」である。そうすると、甲1発明の「タンパク質源」は、本件発明1の「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液」に相当し、甲1発明は、本件発明1の「前記乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液は豆乳またはダイズを含んでおらず」との特定事項を満たす場合を包含する。
甲1発明の「タンパク質源を、微生物を含む水性培地中で発酵させる、風味を付けられた製品の製造方法」は、本件発明1の「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法」に相当する。
甲1発明の「非乳業の脂肪(ココナツ油)、ラクトース、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、オリゴ糖、デンプンから選ばれる添加物を含み」は、本件発明1の「フレーバー産生は、糖、アミノ酸、有機酸、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、キサンチン、ピリドキサミン、ピリドキシン、D-ソルビトール、クエン酸、乳酸、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸、オロト酸、シュウ酸、アスコルビン酸、コハク酸、p-アミノ安息香酸、DL-リンゴ酸、Asp、Cys、グルタミン、グルタミン酸、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、リボフラビン、チアミン、リポ酸、ニコチン酸、CoA水和物、プロパン酸、C4:0酪酸、C6:0カプロン酸、C8:0カプリル酸、C10:0カプリン酸、C12:0ラウリン酸、C14:0ミリスチン酸、C16:0パルミチン酸、C18:0ステアリン酸、C16:1パルミトレイン酸、ココナッツ油、ヒマシ油、パーム油、パームフルーツ油、ホホバ油、ヒマワリ油、マンゴーバター、Ala、Arg、Asn、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加物を用いてモジュレートされ」との特定事項を満たす。
甲1発明の「回収された製品によりチーズにフレーバーを提供する」は、本件発明1の「バタリー、クリーミー、デアリー、またはチージーなフレーバーを創出する」と、「フレーバーを創出する」という限りにおいて一致する。
してみると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法であって、前記乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液は豆乳またはダイズを含んでおらず、
フレーバー産生は、糖、アミノ酸、有機酸、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、キサンチン、ピリドキサミン、ピリドキシン、D-ソルビトール、クエン酸、乳酸、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸、オロト酸、シュウ酸、アスコルビン酸、コハク酸、p-アミノ安息香酸、DL-リンゴ酸、Asp、Cys、グルタミン、グルタミン酸、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、リボフラビン、チアミン、リポ酸、ニコチン酸、CoA水和物、プロパン酸、C4:0酪酸、C6:0カプロン酸、C8:0カプリル酸、C10:0カプリン酸、C12:0ラウリン酸、C14:0ミリスチン酸、C16:0パルミチン酸、C18:0ステアリン酸、C16:1パルミトレイン酸、ココナッツ油、ヒマシ油、パーム油、パームフルーツ油、ホホバ油、ヒマワリ油、マンゴーバター、Ala、Arg、Asn、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加物を用いてモジュレートされ、
前記微生物は、フレーバーを創出する、
前記方法。」
そして、両者は、次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1は「前記1または複数の微生物は、以下:乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLL)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLC)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種(市販の培養物であるMD88として使用されることが多いLLBD)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)クレモリス(cremoris)(LM)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)(市販の培養物であるTA61として使用されることが多いST)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)(SX)、およびブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)(市販の培養物であるLRとして使用されることが多い)から選択され」るのに対し、甲1発明は当該事項を充足するかが不明である点。
<相違点1-2>
フレーバーに関し、本件発明1は「バタリー、クリーミー、デアリー、またはチージーなフレーバー」と特定するのに対し、甲1発明においては、このような特定がない点。
イ 判断
上記相違点1-1について検討する。
甲1には、甲1発明が相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1発明の微生物は、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)等から選択される第1の食品用菌株と、ラクトコッカス(Lactococcus)株、ロイコノストク(Leuconostoc)菌株等から選択される第2の食品用乳酸菌株を含むものであるから、甲1発明が相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を有する旨主張する。
しかしながら、甲1発明の「スタフィロコッカス(Staphylococcus)」、「ブレビバクテリウム(Brevibacterium)」、「ラクトコッカス(Lactococcus)」、「ロイコノストク(Leuconostoc)」といった属名のみの記載には多数の種及び亜種及び次亜種の菌が含まれるため、かかる属名のみの記載が相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項の特定の種及び亜種及び次亜種の菌を意味するとはいえないから、当該主張は採用できない。
また、甲1及び他の証拠には、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項の特定の種及び亜種及び次亜種の菌を採用することの動機付けとなる記載はない。
よって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件発明4について
本件発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件発明4は、本件発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。
3 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「タンパク質を含む混合物をバクテリオシン耐性の培養物で処理するステップを含む、風味成分を調製するための方法」及び「前記タンパク質はトウモロコシタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質から選択され」は、本件発明1の「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法であって、前記乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液は豆乳またはダイズを含んでおらず」と、「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させる方法であって、前記乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液は豆乳またはダイズを含んでおらず」という限りにおいて一致する。
甲2発明の「前記バクテリオシン耐性の培養物は、バクテリオシン耐性のブレビバクテリウムリネンス培養物であり」は、本件発明1の「前記1または複数の微生物は、以下:乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLL)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLC)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種(市販の培養物であるMD88として使用されることが多いLLBD)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)クレモリス(cremoris)(LM)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)(市販の培養物であるTA61として使用されることが多いST)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)(SX)、およびブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)(市販の培養物であるLRとして使用されることが多い)から選択され」との特定事項を満たす。
甲2発明の「植物油(脂肪)、L-メチオニン、L-システインから選択される含硫黄基質の添加物を含み」は、本件発明1の「フレーバー産生は、糖、アミノ酸、有機酸、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、キサンチン、ピリドキサミン、ピリドキシン、D-ソルビトール、クエン酸、乳酸、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸、オロト酸、シュウ酸、アスコルビン酸、コハク酸、p-アミノ安息香酸、DL-リンゴ酸、Asp、Cys、グルタミン、グルタミン酸、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、リボフラビン、チアミン、リポ酸、ニコチン酸、CoA水和物、プロパン酸、C4:0酪酸、C6:0カプロン酸、C8:0カプリル酸、C10:0カプリン酸、C12:0ラウリン酸、C14:0ミリスチン酸、C16:0パルミチン酸、C18:0ステアリン酸、C16:1パルミトレイン酸、ココナッツ油、ヒマシ油、パーム油、パームフルーツ油、ホホバ油、ヒマワリ油、マンゴーバター、Ala、Arg、Asn、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加物を用いてモジュレートされ」との特定事項を満たす。
甲2発明の「チーズ風味成分を発生する」は、本件発明1の「バタリー、クリーミー、デアリー、またはチージーなフレーバーを創出する」と、「フレーバーを創出する」という限りにおいて一致する。
してみると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させる方法であって、前記乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液は豆乳またはダイズを含んでおらず、
前記1または複数の微生物は、以下:乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLL)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLC)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種(市販の培養物であるMD88として使用されることが多いLLBD)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)クレモリス(cremoris)(LM)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)(市販の培養物であるTA61として使用されることが多いST)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)(SX)、およびブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)(市販の培養物であるLRとして使用されることが多い)から選択され、
フレーバー産生は、糖、アミノ酸、有機酸、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、キサンチン、ピリドキサミン、ピリドキシン、D-ソルビトール、クエン酸、乳酸、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸、オロト酸、シュウ酸、アスコルビン酸、コハク酸、p-アミノ安息香酸、DL-リンゴ酸、Asp、Cys、グルタミン、グルタミン酸、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、リボフラビン、チアミン、リポ酸、ニコチン酸、CoA水和物、プロパン酸、C4:0酪酸、C6:0カプロン酸、C8:0カプリル酸、C10:0カプリン酸、C12:0ラウリン酸、C14:0ミリスチン酸、C16:0パルミチン酸、C18:0ステアリン酸、C16:1パルミトレイン酸、ココナッツ油、ヒマシ油、パーム油、パームフルーツ油、ホホバ油、ヒマワリ油、マンゴーバター、Ala、Arg、Asn、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加物を用いてモジュレートされ、
前記微生物は、フレーバーを創出する、
前記方法。」
そして、両者は、次の相違点2-1及び相違点2-2の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1は「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法」であるのに対し、甲2発明は「風味成分を調製するための方法」である点。
<相違点2-2>
フレーバーに関し、本件発明1は「バタリー、クリーミー、デアリー、またはチージーなフレーバー」と特定するのに対し、甲2発明においては、「チーズ風味」である点。
イ 判断
上記相違点2-1について検討する。
甲2発明は、「ブレビバクテリウムリネンス培養物で処理」することで乳成分非含有製品を培養し調製する工程を含まない。
したがって、甲2発明は、微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法ではない。
よって、相違点2-1は実質的な相違点である。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲2発明における「風味成分を調製するための方法」は、本件発明1における「フレーバリング方法」に他ならないから、相違点2-1は実質的な相違点ではない旨主張する。
しかしながら、甲2発明は、上記のとおり、微生物と接触させて乳成分非含有製品を培養し調製し、培養された乳成分非含有製品をフレーバリングする方法ではないから、上記主張は採用できない。
また、甲2には、製品として乳成分非含有製品を調製することは記載されていない。さらに、甲2の請求項42及び実施例2の記載からみて、甲2において製品を調製し、調製した製品をフレーバリングするためには、甲2発明である風味成分の調製工程とは別の工程でチーズまたは乳製品ベースを調製し、得られた製品に、上記風味成分の調製工程で得たチェダータイプの風味成分を添加するものであって、製品を風味成分の調製工程において調製するものではない。
してみると、甲2及び他の証拠には、甲2発明においてバクテリオシン耐性の培養物で処理する際に、乳成分非含有製品の原料を添加し、バクテリオシン耐性の培養物と接触させて培養して乳成分非含有製品を調製する動機付けとなる記載はない。
よって、甲2発明において、上記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件発明4について
本件発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件発明4は、本件発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)申立理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件についての判断
本件発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、明細書の発明の詳細な説明の【0010】及び【0045】の記載からみて、「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させることを含む、乳成分非含有製品のフレーバリング方法」を提供することである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、【0098】ないし【0123】に「フレーバリング成分/フレーバリング法」に関する記載があり、特に、【0112】ないし【0120】には、糖、アミノ酸、【0113】の表Aに記載の成分を培地に添加することで、微生物の代謝経路を方向づけたり、成長条件をモジュレートしたりし、それによって微生物による特定のフレーバー化合物の産生を制御する旨の定性的な記載がある。また、糖や脂肪等の特定の添加剤の存在下で微生物を培養してフレーバリングすることに関し、【0134】ないし【0140】には、バタリー、クリーミー、チージーなフレーバー化合物を産生することでバタリー、クリーミー、チージーなフレーバーを創出する旨の定性的な記載があり、【0149】ないし【0150】には、望ましくないフレーバーの産生を低減させてデアリーなフレーバーを創出する旨の定性的な記載がある。さらに、かかるフレーバーの産生または産生低減の定性的な記載と関連して、実施例5、25ないし31には、糖類、アミノ酸類、有機酸類、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、核酸塩基、キサンチン、ピリドキシン類、リボフラビン、チアミン、CoA水和物、脂肪酸類、油脂類、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加剤の存在下で、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)クレモリス(cremoris)(LM)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)(SX)、およびブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)から選択される微生物を培養することにより、フレーバー化合物の産生または望ましくないフレーバーの産生低減を具体的に確認した記載もある。
してみれば、これらの記載に接した当業者であれば、「乳成分非含有ミルクまたはタンパク質溶液を1または複数の微生物と接触させ、そこから、培養された乳成分非含有製品を調製することを含む、培養された乳成分非含有製品のフレーバリング方法」、「前記1または複数の微生物は、以下:乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLL)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種(単独で、または市販のミックスであるMA11の成分として使用されるLLC)、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種(市販の培養物であるMD88として使用されることが多いLLBD)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)クレモリス(cremoris)(LM)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)(市販の培養物であるTA61として使用されることが多いST)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)(SX)、およびブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)(市販の培養物であるLRとして使用されることが多い)から選択され」、「フレーバー産生は、糖、アミノ酸、有機酸、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、アデニン、グアニン、イノシン、ウラシル、キサンチン、ピリドキサミン、ピリドキシン、D-ソルビトール、クエン酸、乳酸、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸、オロト酸、シュウ酸、アスコルビン酸、コハク酸、p-アミノ安息香酸、DL-リンゴ酸、Asp、Cys、グルタミン、グルタミン酸、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、リボフラビン、チアミン、リポ酸、ニコチン酸、CoA水和物、プロパン酸、C4:0酪酸、C6:0カプロン酸、C8:0カプリル酸、C10:0カプリン酸、C12:0ラウリン酸、C14:0ミリスチン酸、C16:0パルミチン酸、C18:0ステアリン酸、C16:1パルミトレイン酸、ココナッツ油、ヒマシ油、パーム油、パームフルーツ油、ホホバ油、ヒマワリ油、マンゴーバター、Ala、Arg、Asn、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加物を用いてモジュレートされ」との特定事項を有することにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明は、上記の発明の課題を解決できると認識できる全ての特定事項を有し、さらに限定するものである。
したがって、本件発明は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 3のとおり、タンパク質源と微生物の組み合わせ、さらには添加物の種類によって、創出されるフレーバーや揮発性化合物が無数に異なることが技術常識であることを鑑みれば、発明の課題を解決し得るのは、実施例30及び実施例32の特定のタンパク質源と微生物と添加物の組み合わせである旨主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり、当業者であれば、本件発明の特定の微生物を、本件発明の特定の添加物を用いてモジュレートすれば、タンパク質源が異なったとしてもある程度は課題を解決できると認識できる。また、特許異議申立人の上記主張は、本件発明の特定の微生物を、本件発明の特定の添加物を用いてモジュレートしても発明の課題を解決できないとする証拠を挙げるものではない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(5)申立理由3についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件についての判断基準
本件発明1及び4は、上記第2のとおり、「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、【0098】ないし【0123】にフレーバリング成分/フレーバリング法」に関する記載があり、特に、【0112】ないし【0120】には、糖、アミノ酸、【0113】の表Aに記載の成分を培地に添加することで、微生物の代謝経路を方向づけたり、成長条件をモジュレートしたりし、それによって微生物による特定のフレーバー化合物の産生を制御する旨の定性的な記載がある。また、糖や脂肪等の特定の添加剤の存在下で微生物を培養してフレーバリングすることに関し、【0134】ないし【0140】には、バタリー、クリーミー、チージーなフレーバー化合物を産生することでバタリー、クリーミー、チージーなフレーバーを創出する旨の定性的な記載があり、【0149】ないし【0150】には、望ましくないフレーバーの産生を低減させてデアリーなフレーバーを創出する旨の定性的な記載がある。さらに、かかるフレーバーの産生または産生低減の定性的な記載と関連して、実施例5、25ないし31には、糖類、アミノ酸類、有機酸類、Fe2+、Mg2+、FeCl2、MgCl2、CaCl2、MnSO4、CoCl2、CuSO4、ZnSO4、核酸塩基、キサンチン、ピリドキシン類、リボフラビン、チアミン、CoA水和物、脂肪酸類、油脂類、FAD、NAD、ビオチン、パントテン酸、B12、および葉酸から選ばれる添加剤の存在下で、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ラクティス(lactis)亜種、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜種、乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)ジアセチラクティス(diacetylactis)次亜種、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)クレモリス(cremoris)(LM)、高温性連鎖球菌(Streptococcus thermophilus)、スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)(SX)、およびブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)から選択される微生物を培養することで、実際にフレーバーの産生または産生低減が起きたことを確認した実施例の記載もある。
してみれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件発明を使用することができることの具体的な記載があるといえるから、実施可能要件を満たしている。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 4のとおり、タンパク質源と微生物の組み合わせ、さらには添加物の種類によって、創出されるフレーバーや揮発性化合物が無数に異なることが技術常識であることを鑑みれば、実施例や発明の詳細な説明の他の記載から把握される特定のタンパク質源と微生物、添加剤を用いる場合以外の態様について、本件発明に係るフレーバーを創出することは当業者にとって過度の試行錯誤を要するものである旨主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり、本件発明の特定の微生物を、特定の添加物を用いてモジュレートすれば、特定のフレーバー産生ができ、それにより本件発明のフレーバリング方法を実施できると当業者は認識できる。また、特許異議申立人の上記主張は、本件発明の特定の微生物を、本件発明の特定の添加物を用いてモジュレートしても本件発明のフレーバリング方法を実施できないとする証拠を挙げるものではない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由4についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700256