特許異議申立
2023-700252
建設機械
- 審判番号
- 2023-700252
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-058403
- 登録番号
- 7166307
- 請求日
- 2023年03月06日
- 審決日
- 2023年12月07日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日立建機ティエラ
- 【権利者代理人】弁理士法人広和特許事務所
- 【異議申立人】IPセイル 合同会社
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 澤田 真治
- 審判官 太田 恒明
- 分類
- P1651.121-YAA(E02F) / P1651.537-YAA(E02F) / P1651.851-YAA(E02F) / P1651.853-YAA(E02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7166307号発明「建設機械」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7166307号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第7166307号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7166307号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和2年3月27日の出願であって、令和4年10月27日にその特許権の設定登録がされ、同年11月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、令和5年3月6日に、特許異議申立人 IPセイル合同会社(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1及び2に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和 5年 7月27日付け 取消理由通知書
同年 9月27日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年11月 1日 申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年9月27日になされた訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許第7166307号の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記センサ側ハーネスは、前記トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続された内部ハーネスと、前記トラックフレームの外部に配策され、一端が前記姿勢検出センサに接続された外部ハーネスと、前記内部ハーネスの他端と前記外部ハーネスの他端とを着脱可能に接続するコネクタとにより構成されている」
と記載されているのを、
「前記センサ側ハーネスは、前記トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続された内部ハーネスと、前記トラックフレームの外部に配策され、一端が前記姿勢検出センサに接続された外部ハーネスと、前記内部ハーネスの他端と前記外部ハーネスの他端とを着脱可能に接続するコネクタとにより構成され、前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され、前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定されている」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記トラックフレームは、前記旋回装置の旋回輪を支持している上面板と、前記上面板の下側に間隔をもって配置され前記上面板との間に前記センタジョイントが収まる収容空間を形成している下面板と、前記上面板と前記下面板との間に前記収容空間を取囲んで設けられ前記排土装置側に前記センサ側ハーネスが挿通される開口部を有している周壁板とを含んで構成され、」
と記載されているのを、
「前記トラックフレームは、前記旋回装置の旋回輪を支持している上面板と、前記上面板の下側に間隔をもって配置され前記上面板との間に前記センタジョイントが収まる収容空間を形成している下面板と、前記上面板と前記下面板との間に前記収容空間を取囲んで設けられ前記排土装置側に前記開口部を有している周壁板とを含んで構成され、」
に訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0010】に、
「前記センサ側ハーネスは、前記トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続された内部ハーネスと、前記トラックフレームの外部に配策され、一端が前記姿勢検出センサに接続された外部ハーネスと、前記内部ハーネスの他端と前記外部ハーネスの他端とを着脱可能に接続するコネクタとにより構成されている。」
と記載されているのを、
「前記センサ側ハーネスは、前記トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続された内部ハーネスと、前記トラックフレームの外部に配策され、一端が前記姿勢検出センサに接続された外部ハーネスと、前記内部ハーネスの他端と前記外部ハーネスの他端とを着脱可能に接続するコネクタとにより構成され、前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され、前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定されている。」
に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1及び請求項2に対応する訂正後の請求項1及び請求項2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、及び独立特許要件について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「前記トレックフレーム」及び「前記コネクタ」を特定するための事項として、「前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され、前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定され」るという事項を、直列的に付加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
本件特許明細書の【0015】~【0017】には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【0015】
下部走行体2は、トラックフレーム6と後述の走行装置9とを備えている。トラックフレーム6は、センタフレーム7と、センタフレーム7の左右両側に位置して前後方向に延びた一対のサイドフレーム8とを含んで構成されている。
【0016】
図2に示すように、センタフレーム7は、旋回装置3の旋回輪10を支持している上面板7Aと、上面板7Aの下側に間隔をもって配置され、上面板7Aとの間に後述のセンタジョイント18が収まる収容空間7Bを形成している下面板7Cと、上面板7Aと下面板7Cとの間に収容空間7Bを取囲んで設けられた周壁板7Dとを含んで構成されている。上面板7Aと下面板7Cは、旋回中心に対応する位置が開口しており、この開口内の旋回中心にセンタジョイント18が配置されている。
【0017】
また、周壁板7Dのうち、排土装置19側となる前面位置には、開口部7Eが形成されている。この開口部7Eには、後述する各油圧ホース20やハーネス装置24のセンサ側ハーネス26が挿通される。さらに、センタフレーム7の下面板7Cには、センタジョイント18を下側から覆うようにメンテナンスカバー7Fが着脱可能に設けられている。」
これらの記載から、本件特許明細書には、「前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され」ることが記載されているといえる。
また、本件特許明細書の【0034】~【0037】には、次の記載がある。
「【0034】
内部ハーネス27は、トラックフレーム6の内部、即ち、センタフレーム7の収容空間7Bに配策されている。内部ハーネス27の長さ方向の一端となる第1端27Aは、センタジョイント18の筒形ボディ18Aの底部から上側に延びてスリップリング18Cに接続されている。一方、内部ハーネス27の長さ方向の他端となる第2端27Bは、センタフレーム7の周壁板7Dに形成された開口部7Eを通って外部に突出し、コネクタ29に接続されている。
【0035】
これにより、内部ハーネス27は、殆どがセンタフレーム7の収容空間7Bに配置されている。しかも、センタフレーム7の外部に位置する第2端27Bは、センタフレーム7の上面板7Aの下側に配置されている。従って、内部ハーネス27には、外的要因、例えば岩石や土砂が衝突することがないから、衝突による損傷によって交換する可能性は極めて低い。
【0036】
外部ハーネス28は、トラックフレーム6と姿勢検出センサ21との間に配策されている。図3に示すように、外部ハーネス28は、昇降アーム19Aに沿って前側に延び、その長さ方向の一端となる第1端28Aは、姿勢検出センサ21に接続されている。一方、外部ハーネス28の長さ方向の他端となる第2端28Bは、コネクタ29に接続されている。そして、外部ハーネス28は、下部走行体2の側方や排土装置19の前方から手を伸ばすことにより、コネクタ29に対する接続部分と姿勢検出センサ21に対する接続部分の両方に手が届くから、簡単な作業で取外したり、取付けたりすることができる。
【0037】
コネクタ29は、内部ハーネス27の第2端27Bと外部ハーネス28の第2端28Bとを着脱可能(接続、分割可能)に接続する中継点(分割点)となっている。コネクタ29は、センタフレーム7の周壁板7Dに形成された開口部7Eの近くに、コネクタブラケット29Aを介して固定されている。この開口部7Eの近くの位置は、センタフレーム7の上面板7Aの下側に位置しており、岩石や土砂の衝突から保護された場所となっている。」
これらの記載から、本件特許明細書には「前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定され」ていることが記載されているといえる。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書の【0015】~【0017】及び【0034】~【0037】の記載に基づくものであって、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、「トレックフレーム」及び「コネクタ」をさらに特定するものであって、発明特定事項を直列的に付加するものであり、発明のカテゴリーを変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
請求項1を引用する訂正前の請求項2には、「前記上面板と前記下面板との間に前記収容空間を取囲んで設けられ前記排土装置側に前記センサ側ハーネスが挿通される開口部を有している周壁板とを含んで構成され、」と記載されていた。
これに対し、訂正後の請求項1では、「前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され」と記載されており、開口部を特定する事項として「センサ側ハーネスが挿通される」ことが重複している。
そこで、訂正後の請求項2では、訂正後の請求項1と整合させるために、訂正後の請求項1と重複した記載を削除して、「前記上面板と前記下面板との間に前記収容空間を取囲んで設けられ前記排土装置側に前記開口部を有している周壁板とを含んで構成され、」と記載した。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正後の請求項2に記載された「前記開口部」は、訂正後の請求項1に記載された「前記センサ側ハーネスが挿通される開口部」である。
よって、訂正事項2は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記アで検討したとおり、訂正事項2は、請求項1の訂正に伴って、請求項2の記載を整合させたものであり、訂正後の請求項2に記載された「前記開口部」は、訂正後の請求項1に記載された「前記センサ側ハーネスが挿通される開口部」である。
よって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正により、本件特許明細書の段落【0010】の記載が請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正により、本件特許明細書の段落【0010】の記載が請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正するものであるから、訂正事項1と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正により、本件特許明細書の段落【0010】の記載が請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正するものであるから、訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4)独立特許要件
本件においては、訂正前のすべての請求項について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(5)申立人の意見書における主張について
申立人は、令和5年11月1日提出の意見書において、本件訂正の適否について、特に意見を述べていない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は全て認められたので、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、各々を「本件発明1」等という。)は、令和5年9月27日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の、請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
トラックフレームを備えた自走可能な下部走行体と、
前記トラックフレーム上に旋回装置を介して旋回可能に搭載された上部旋回体と、
前記上部旋回体の旋回中心に配置され、前記下部走行体と前記上部旋回体との間で通電状態を保持するスリップリングを有しているセンタジョイントと、
基端側が前記トラックフレームに上下方向に回動可能に取付けられ、先端側にブレードが設けられた排土装置と、
前記ブレードに設けられ、前記ブレードの姿勢を検出する姿勢検出センサと、
前記上部旋回体に設けられ、前記姿勢検出センサが検出した前記ブレードの姿勢に基づいて前記排土装置の動作を制御するコントローラと、
前記コントローラに前記姿勢検出センサを接続するハーネス装置と、を備えてなる建設機械において、
前記ハーネス装置は、前記センタジョイントの前記スリップリングを介して前記姿勢検出センサと前記コントローラとを接続しており、
前記ハーネス装置は、
前記コントローラと前記センタジョイントの前記スリップリングとの間を接続して設けられたコントローラ側ハーネスと、
前記センタジョイントの前記スリップリングと前記姿勢検出センサとの間を接続して設けられたセンサ側ハーネスとを備え、
前記センサ側ハーネスは、前記トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続された内部ハーネスと、前記トラックフレームの外部に配策され、一端が前記姿勢検出センサに接続された外部ハーネスと、前記内部ハーネスの他端と前記外部ハーネスの他端とを着脱可能に接続するコネクタとにより構成され、
前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され、
前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定されていることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記トラックフレームは、前記旋回装置の旋回輪を支持している上面板と、前記上面板の下側に間隔をもって配置され前記上面板との間に前記センタジョイントが収まる収容空間を形成している下面板と、前記上面板と前記下面板との間に前記収容空間を取囲んで設けられ前記排土装置側に前記開口部を有している周壁板とを含んで構成され、
前記コネクタは、前記周壁板の前記開口部の位置で前記トラックフレームに取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審において、令和5年7月27日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(サポート要件)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)当審の判断
ア 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
ウ 発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は当審で付した。)
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、油圧ショベルは、土砂の掘削作業や整地作業を行うから、外部に露出したセンサ側ハーネスは、外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することがある。そして、センサ側ハーネスが損傷した場合には、センサ側ハーネスの交換作業が行われる。しかし、センサ側ハーネスの交換作業は、センタジョイントの下側を覆っているトラックフレームのメンテナンスカバーを取外す必要が有り、交換作業に手間と時間を要してしまうという問題がある。
【0009】
本発明の一実施形態の目的は、損傷したハーネスの交換作業を容易に行うことができるようにした建設機械を提供することにある。
・・・
【0015】
下部走行体2は、トラックフレーム6と後述の走行装置9とを備えている。トラックフレーム6は、センタフレーム7と、センタフレーム7の左右両側に位置して前後方向に延びた一対のサイドフレーム8とを含んで構成されている。
【0016】
図2に示すように、センタフレーム7は、旋回装置3の旋回輪10を支持している上面板7Aと、上面板7Aの下側に間隔をもって配置され、上面板7Aとの間に後述のセンタジョイント18が収まる収容空間7Bを形成している下面板7Cと、上面板7Aと下面板7Cとの間に収容空間7Bを取囲んで設けられた周壁板7Dとを含んで構成されている。上面板7Aと下面板7Cは、旋回中心に対応する位置が開口しており、この開口内の旋回中心にセンタジョイント18が配置されている。
【0017】
また、周壁板7Dのうち、排土装置19側となる前面位置には、開口部7Eが形成されている。この開口部7Eには、後述する各油圧ホース20やハーネス装置24のセンサ側ハーネス26が挿通される。さらに、センタフレーム7の下面板7Cには、センタジョイント18を下側から覆うようにメンテナンスカバー7Fが着脱可能に設けられている。
・・・
【0022】
センタジョイント18は、旋回装置3の旋回中心に配置され、トラックフレーム6のセンタフレーム7を形成する下面板7Cに設けられている。センタジョイント18は、下部走行体2と上部旋回体4との間で作動油や電気を流通させるための装置である。センタジョイント18は、トラックフレーム6に取付けられた筒形ボディ18Aと、筒形ボディ18A内に回転可能に設けられ、旋回フレーム12と一緒に回転するスピンドル18Bと、スピンドル18Bの上部に設けられたスリップリング18Cとを備えている。
・・・
【0024】
具体的には、スリップリング18Cには、コントローラ側ハーネス25とセンサ側ハーネス26とが接続されている。この場合、センサ側ハーネス26は、内部ハーネス27の第1端27Aが筒形ボディ18Aの底部から上側に延びる管路内を通ってスリップリング18Cに接続されている。
・・・
【0028】
姿勢検出センサ21は、排土装置19のブレード19Bに設けられたセンサ取付台19F上に取付けられている。姿勢検出センサ21は、ブレード19Bの姿勢を検出する。この場合のブレード19Bの姿勢とは、排土装置19を用いた整地作業時におけるブレード19Bのチルト角度、即ち、ブレード19Bの両端の上下方向への傾き角度である。そして、姿勢検出センサ21は、ブレード19Bの傾き角度(チルト角度)を検出し、この角度を後述のコントローラ23に出力する。姿勢検出センサ21には、後述するセンサ側ハーネス26を構成する外部ハーネス28の第1端28Aが接続されている。これにより、姿勢検出センサ21は、ハーネス装置24を介してコントローラ23に電気的に接続されている。
【0032】
ハーネス装置24は、コントローラ23に姿勢検出センサ21を接続している。ハーネス装置24は、センタジョイント18のスリップリング18Cを介して姿勢検出センサ21とコントローラ23とを接続している。ハーネス装置24は、コントローラ23とセンタジョイント18のスリップリング18Cとの間を接続して設けられたコントローラ側ハーネス25と、センタジョイント18のスリップリング18Cと姿勢検出センサ21との間を接続して設けられたセンサ側ハーネス26とを備えている。
【0033】
ここで、センサ側ハーネス26は、センタジョイント18寄りの部分がトラックフレーム6を構成するセンタフレーム7の収容空間7Bに配置されている。一方、姿勢検出センサ21寄りの部分がセンタフレーム7の外部に露出している。この上で、センサ側ハーネス26は、内部ハーネス27、外部ハーネス28およびコネクタ29により構成されている。
【0034】
内部ハーネス27は、トラックフレーム6の内部、即ち、センタフレーム7の収容空間7Bに配策されている。内部ハーネス27の長さ方向の一端となる第1端27Aは、センタジョイント18の筒形ボディ18Aの底部から上側に延びてスリップリング18Cに接続されている。一方、内部ハーネス27の長さ方向の他端となる第2端27Bは、センタフレーム7の周壁板7Dに形成された開口部7Eを通って外部に突出し、コネクタ29に接続されている。
【0035】
これにより、内部ハーネス27は、殆どがセンタフレーム7の収容空間7Bに配置されている。しかも、センタフレーム7の外部に位置する第2端27Bは、センタフレーム7の上面板7Aの下側に配置されている。従って、内部ハーネス27には、外的要因、例えば岩石や土砂が衝突することがないから、衝突による損傷によって交換する可能性は極めて低い。
【0036】
外部ハーネス28は、トラックフレーム6と姿勢検出センサ21との間に配策されている。図3に示すように、外部ハーネス28は、昇降アーム19Aに沿って前側に延び、その長さ方向の一端となる第1端28Aは、姿勢検出センサ21に接続されている。一方、外部ハーネス28の長さ方向の他端となる第2端28Bは、コネクタ29に接続されている。そして、外部ハーネス28は、下部走行体2の側方や排土装置19の前方から手を伸ばすことにより、コネクタ29に対する接続部分と姿勢検出センサ21に対する接続部分の両方に手が届くから、簡単な作業で取外したり、取付けたりすることができる。
【0037】
コネクタ29は、内部ハーネス27の第2端27Bと外部ハーネス28の第2端28Bとを着脱可能(接続、分割可能)に接続する中継点(分割点)となっている。コネクタ29は、センタフレーム7の周壁板7Dに形成された開口部7Eの近くに、コネクタブラケット29Aを介して固定されている。この開口部7Eの近くの位置は、センタフレーム7の上面板7Aの下側に位置しており、岩石や土砂の衝突から保護された場所となっている。
【0038】
このように構成されたハーネス装置24は、コントローラ側ハーネス25を用いることで、コントローラ23とセンタジョイント18のスリップリング18Cとの間を電気的に接続することができる。また、ハーネス装置24は、センサ側ハーネス26を用いることで、センタジョイント18のスリップリング18Cと姿勢検出センサ21との間を電気的に接続することができる。」
エ 判断基準に基づく判断
(ア)本件発明1及び2における課題
上記ウで摘記した、【0008】及び【0009】の記載より、本件発明1及び2の課題は、「外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することがある」「外部に露出したセンサ側ハーネス」について、「交換作業に手間と時間を要」することなく、「損傷したハーネスの交換作業を容易に行うことができるように」することであると理解される。
(イ)課題を解決できると認識できる範囲かについて
a 本件発明1について
請求項1において、
「センサ側ハーネス」は、発明の詳細な説明における「センサ側ハーネス26」
に、以下同様に、
「トラックフレーム」は、「トラックフレーム6」に、
「内部ハーネス」は、「内部ハーネス27」に、
「スリップリング」は、「スリップリング18C」に、
「姿勢検出センサ」は、「姿勢検出センサ21」に、
「外部ハーネス」は、「外部ハーネス28」に、
「コネクタ」は、「コネクタ29」に、
「開口部」は、「開口部7E」にそれぞれ対応している。
本件発明1の「内部ハーネス」と「外部ハーネス」は、「前記トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続された内部ハーネスと、前記トラックフレームの外部に配策され、一端が前記姿勢検出センサに接続された外部ハーネスと、前記内部ハーネスの他端と前記外部ハーネスの他端とを着脱可能に接続するコネクタとにより構成され」とあり、さらに、「前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され、前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定されている」ことが特定されている。
そうすると、「前記トラックフレームの内部に配策され」「た内部ハーネス」は、「前記トラックフレームに」「形成され」た「前記開口部の近くに固定され」た「前記コネクタ」に「他端」が「着脱可能に接続する」こととなるから、「内部ハーネス」の大部分は「トラックフレームの内部に配策され」ており、「開口部」から「開口部の近くに固定され」た「コネクタ」までの部分は「トラックフレーム」の外部に位置するものと理解される。
ここで、「外部ハーネス」は、「前記開口部の近くに固定され」た「前記コネクタ」に「他端」が「着脱可能に接続する」ことから、外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷した場合に、損傷したハーネスの交換作業を容易に行うことができるようにするという課題を解決していることが理解できる。
また、「内部ハーネス」については、「トラックフレーム」の「開口部」から「コネクタ」までの部分については、外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷する可能性がないとはいえないものの、「コネクタ」は「開口部の近くに固定され」ていることから、外的要因によって損傷する可能性を相当低くすることができることが理解できるし、上記ウで摘記した【0037】には、「開口部7Eの近くの位置」は、「センタフレーム7の上面板7Aの下側に位置しており、岩石や土砂の衝突から保護された場所となっている」と記載されていることから、発明の詳細な説明では、コネクタは岩石や土砂の衝突といった外的要因から保護される場所に固定されることが把握でき、主に外的要因により損傷することがあるハーネスは「外部ハーネス」であることが理解できる。
以上により、本件発明1は、「外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することがある」「外部に露出したセンサ側ハーネス」について、「交換作業に手間と時間を要」することなく、「損傷したハーネスの交換作業を容易に行うことができるように」するという課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
b 本件発明2について
請求項2において、
「旋回装置の旋回輪」は、発明の詳細な説明の「旋回装置3の旋回輪10」に、
以下同様に、
「上面板」は、「上面板7A」に、
「収容空間」は、「収容空間7B」に、
「下面板」は、「下面板7C」に、
「排土装置」は、「排土装置19」に、
「開口部」は、「開口部7E」に、それぞれ対応している。
そして、上記aのとおり、本件発明1は、上記(ア)で認定した課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記aと同様の理由により、「外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することがある」「外部に露出したセンサ側ハーネス」について、「交換作業に手間と時間を要」することなく、「損傷したハーネスの交換作業を容易に行うことができるように」するという課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和5年11月1日提出の意見書において、次の主張をしている。なお、申立人は本件発明1及び2のそれぞれを訂正発明1及び2としている。
「(2)理由2:サポート要件
(ア)訂正発明1について
本件特許明細書の段落0008及び0009の記載より、訂正発明1の課題は、「外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することがある」「外部に露出したセンサ側ハーネス」について、「交換作業に手間と時間を要」することなく、「損傷したハーネスの交換作業を容易に行うことができるように」することであると理解される。
・・・「内部ハーネス」のうちトラックフレームの内部に配策されている一部以外の部分(他端を含む部位)は、外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することがあるものとなる。そして、「内部ハーネス」は「トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続され」るものであるので、「内部ハーネス」については、損傷した場合の交換を容易に行うことができるようにするという課題を解決することができる範囲を超えていることは明らかである。
さらに言えば、・・・「内部ハーネス」のうちトラックフレームの内部に配策されている一部以外の部分(他端を含む部位)、つまりトラックフレームの外部に配策されている部分について、外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することを回避できるとは言えず、課題を解決することができる範囲を超えていると言わざるを得ない。
したがって、訂正発明1は、「内部ハーネス」と「外部ハーネス」とが、トラックフレームの外部に位置するコネクタで接続されているという点で、上記課題を解決できると認識される範囲を超えて、拡張されている。
さらに、訂正発明1では、「センサ側ハーネスが挿入される開口部」がトレックフレームの何処に形成されてもよいかのような記載であるため、例えば、周壁板の排土装置とは反対側、上面板、又は下面板に開口部が形成されるものも含んでいる。
一方、発明の詳細な説明においては、「周壁板7Dのうち、排土装置19側となる前面位置には、開口部7Eが形成されている」(段落0017)とあるように、トラックフレームのうちの周壁板の排土装置側となる前面位置に「開口部」を形成することしか記載されていないのであって、それ以外の「開口部」の配置については言及されていないため、訂正発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、訂正発明1は、サポート要件を満たさない。」(意見書2頁15行~3頁13行)
しかしながら、上記(2)エ(イ)aで説示したとおり、本件発明1は、「外的要因、例えば岩石、土砂等の衝突によって損傷することがある」「外部に露出したセンサ側ハーネス」について、「交換作業に手間と時間を要」することなく、「損傷したハーネスの交換作業を容易に行うことができるように」するという課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、申立人が主張するとおり、本件発明1では、開口部はトラックフレームに形成されることが特定され、その具体的な位置は特定されておらず、上記(2)ウで摘記した【0017】には、「周壁板7Dのうち、排土装置19側となる前面位置には、開口部7Eが形成されている」と記載されている。
しかしながら、開口部は、トラックフレームの内部に配策された内部ハーネスを開口部の近くに固定されたコネクタに接続するためのものであって、その具体的位置によらず、上記(2)エ(ア)の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)取消理由通知に記載した取消理由のまとめ
以上のことから、本件発明1及び2は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないとまではいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が、申立書において主張する、申立理由2は取消理由通知に記載した取消理由に包含されることから、取消理由通知において採用しなかった申立理由1(明確性)及び申立理由3(進歩性)について、以下に検討する。
1 申立理由1(明確性)について
(1)申立理由1(明確性)の概要
請求項1は、「トラックフレームの内部」及び「トラックフレームの外部」がそれぞれ具体的にどの範囲を特定しているのか不明であるため、発明が不明確である。請求項1を引用する請求項2についても同様に、発明が不明確である。
したがって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
ア 判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 本件発明1及び2について
本件発明1及び2についての記載は上記第3のとおりであって、それ自体に不明確な記載は見当たらないし、願書に添付した明細書の記載や図面とも整合することを踏まえると、請求項1及び2の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
ウ 申立人の主張
申立人は申立書において、次の主張をしている。
「しかしながら、本件特許明細書等を参酌しても、「トラックフレームの内部」、及び「トラックフレームの外部」がそれぞれ具体的にどの範囲を特定しているのか不明である。すなわち、「内部」とは「内の部分。うちがわ。」(広辞苑第7版)を意味するものであって、「外部」はその対義語であるところ、「トラックフレーム」という、その形状が何ら特定されていない部材についての「内部」、「外部」がそれぞれどこからどこまでを指すのか、全くもって不明である。
・・・
してみれば、本件特許発明1における構成Kの内部ハーネスが「トラックフレームの内部」に配策されるとの記載と、内部ハーネス27の第2端27Bを含む部分はセンターフレーム7の収容空間7B(参考図1の斜線領域)の外部に配置されているとする発明の詳細な説明の記載とは矛盾する。さらに言えば、発明の詳細な説明によれば、内部ハーネス27は、着目する部分によって収容空間7Bの内部に配策されているとも、(第2端27Bを含む部分のように)収容空間7Bの外部に配策されているともとれるのであって、このような内部ハーネスが「トラックフレームの内部」に配策されているとする本件特許発明1における「トラックフレームの内部」とは、一体どこを指し示すのか不明である。
また、もし仮に、発明の詳細な説明にあるような、少なくとも一部でも「トラックフレームの内部」(収容空間7Bの内部)に配置されているものを「トラックフレームの内部に配策」されている、とするのであれば、内部ハーネスのうちの一体どの程度の部分が「トラックフレームの内部」(収容空間7Bの内部)に配置されているものを含むのかが不確定であるため、やはり本件特許発明1の範囲は著しく不明確である。
同様の理由で、本件特許発明1の構成Lの「トラックフレームの外部」についても、一体どこを指し示すのか不明であり、また、少なくとも一部でも「トラックフレームの外部」に配置されているものを「トラックフレームの外部に配策」されているというのであれば、内部ハーネスのうちの一体どの程度の部分が「トラックフレームの外部」に配置されているものを含むのかが不確定であるため、本件特許発明1の範囲は著しく不明確である
よって、本件特許発明1において、「トラックフレームの内部」、及び「トラックフレームの外部」がそれぞれ具体的にどの範囲を特定しているのか不明であって、本件特許発明1は不明確である。
また、請求項1を引用する請求項2に係る発明(本件特許発明2)についても同様である。」(申立書10頁3行~12頁22行)
しかしながら、トラックフレームの一般的な概念からみて、トラックフレームには、その内と外があることは技術常識であるから、形状が何ら特定されていない部材の「内部」、「外部」がそれぞれどこからどこまでを指すのか、全くもって不明であるとはいえない。
また、「内部ハーネス」の全てが「トラックフレームの内部に配策され」るとも特定されていないため、発明の詳細な説明の記載と矛盾しているともいえない。
よって、本件発明1は明確であり、本件発明1を引用する本件発明2も同様に明確である。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。
(3) 小括
以上のことから、本件発明1及び2は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではない。
2 申立理由3(進歩性)について
(1)申立理由3(進歩性)の概要
(進歩性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
したがって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開平6-228989号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2012-225048号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2020-12255号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2017-200804号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2018-127133号公報(以下「甲5」という。)
(2)各甲号証について
ア 甲1について
甲1(特開平6-228989号公報)には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている(なお、根拠段落を併記した。以下同様。)。
(甲1発明)
「トラックフレーム42を備えた下部走行体であるクローラ式走行装置11を備え(【0009】、【0014】)、
クローラ式走行装置11のトラックフレーム42上にボルト43にて固設されたスイベルプレート41a上に円筒状のスイベルボス41bがボルト44にて固設され、該スイベルボス41b内にスイベルシャフト41cがその中心を旋回中心Oに合わせて回転自在に挿入され、該スイベルシャフト41cはその上部で上部フレーム13に固定され(【0014】)、下部走行体であるクローラ式走行装置11上に旋回台12を介して上部旋回体の上部フレーム13を載置し(【0009】)、
上部旋回体の上部フレーム13がクローラ式走行装置11に対してどのくらい旋回しているかを検知するために、上部旋回体と下部走行体の間に設けるスイベルジョイント41上に角度センサ40を設け(【0014】)、
トラックフレームより後方にはブレード(排土板)14が突出して設けられ、油圧シリンダー20にて昇降回動可能として土押しや均平作業等をできるようにし(【0009】)、
該ブレード14の回動角はブレード14基部に設けた角度センサ19にて検知され(【0009】)、
ブーム15やバケット17等の角度を検出する角度センサや傾倒を検知する傾斜センサ64や作業機の負荷を検出する検出センサ65等が接続され、これらの信号を演算して、制御バルブVのソレノイドを作動して切り換え、油圧シリンダーや油圧モーター等を制御するコントローラCを備えた(【0020】)建設機械(【0008】)において、
ブレード14の回動角を検知する角度センサ19や下部走行体の電装品の配線48は下方よりボス47の貫通孔、センサパイプ45の中心部、ボス46の貫通孔の中及びカップリングプレート53の中央の開口部を通して、その端部をスリップリング55の導体55c・55c・・・にそれぞれ接続し(【0023】)、
前記導体55c・55c・・・の端部側面は「V」字状の凹部を形成し、該導体55c・55c・・・の凹部にロータリブラシ60・60・・・をそれぞれ当接させ、該ロータリブラシ60の基部はブラケット62に固定されて配線61と接続され、該配線61は下部走行体の電装品の配線63と共にセンサボックス54より延出され、コントローラCと接続される(【0020】)
建設機械(【0008】)。」
イ 甲2について
甲2(特開2012-225048号公報)には、次の技術事項(以下「甲2記載の技術事項」という。)が記載されている。
(甲2記載の技術事項)
「トラックフレーム3の丸胴9上には、旋回フレーム16が旋回輪20を介して旋回可能に搭載されており、旋回モータが、この丸胴9を駆動し、旋回モータが旋回フレーム16を回転駆動すると、上部旋回体15は、旋回動作する(【0023】)建設機械(【0016】)において、
上部旋回体15に設けられており、一端側は、制御装置23を介して電動機22に接続されている上側給電配線31と、集電装置30部からトラックフレーム3のセンタフレーム4および接続部7を経てサイドフレーム5の内部のコネクタに延び、電源側ケーブル1を介して外部電源に接続される下側給電配線32と(【0033】)を備える建設機械(【0016】)。」
ウ 甲3について
甲3(特開2020-12255号公報)には、次の技術事項(以下「甲3記載の技術事項」という。)が記載されている。
(甲3記載の技術事項)
「前,後方向に自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4とを備えている建設機械(【0013】)において、
下部走行体2に排土装置18が設けられ(【0026】)、
排土装置18を用いた整地作業時におけるブレード18Cのチルト角度、即ち、ブレード18Cの両端の上,下方向への揺動角度を検出し、このチルト角度をコントローラ22に出力する傾斜センサ20(【0032】)を備え、
その一端24Aが傾斜センサ20に着脱可能に接続されているブレード側ケーブル24(【0037】)と、
その一端25Aがコントローラ22に接続され、他端25Bには、中継部材としての中継コネクタ26が一体的に固定されている旋回体側ケーブル25(【0038】)と、を備え、
中継コネクタ26は、ブラケット30を介して手摺り14に固定されており(【0038】)、
ブラケット30は、手摺り14の左,右方向の一側に配置された左縦棒14Aに取付けられた支持基板31と、支持基板31に対して中継コネクタ26を固定する下ブロック33と、支持基板31に対して他の中継コネクタ29を固定する上ブロック34とにより構成されており(【0042】)、
中継コネクタ26のプラグ26Aは、下ブロック33から左側に突出し、このプラグ26Aに対し、ブレード側ケーブル24の他端24Bに設けられたソケット24Cを容易に取付け、取外しすることができる構成となっている(【0044】)
建設機械(【0013】)。」
エ 甲4について
甲4(特開2017-200804号公報)には、次の技術事項(以下「甲4記載の技術事項」という。)が記載されている。
(甲4記載の技術事項)
「前後に延びる左右一対のサイドフレーム2、3と、サイドフレーム2、3間に掛け渡して設けられた複数のクロスフレーム4とを備えたトラックのシャシフレーム1(【0012】)において、
サイドフレーム2、3には、ブラケット等を取り付けたり、ケーブル類を挿通させるための貫通穴Hが予め多数形成され(【0012】)、右サイドフレーム2に形成された多数の貫通穴Hのうち、シャシ側ハーネス11を挿通させる第1貫通穴H1及び第2貫通穴H2には、グロメット21が設けられており(【0017】)、シャシ側ハーネス11と機器側ハーネス35を貫通穴H1、H2より上方で接続させるためのコネクタ保持部材23を備える(【0027】)トラックのシャシフレーム1(【0012】)。」
オ 甲5について
甲5(特開2018-127133号公報)には、次の技術事項(以下「甲5記載の技術事項」という。)が記載されている。
(甲5記載の技術事項)
「第1のハーネス4と、第1のハーネス4の一端部に固定される第1のコネクタ5と、第2のハーネス6と、第2のハーネス6の一端側に固定されて第1のコネクタ5と接続可能な第2のコネクタ7とを備え(【0013】)、第1のコネクタ5と第2のコネクタ7とがコネクタ挿通孔10を介して接続可能な位置に第1のコネクタ5を保持する(【0015】)ハーネス取付構造(【0013】)。」
(3)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲1発明の「トラックフレーム42」及び「下部走行体であるクローラ式走行装置11」は、本件発明1の「トラックフレーム」及び「自走可能な下部走行体」に相当する。
b 甲1発明の「該スイベルボス41b内にスイベルシャフト41cがその中心を旋回中心Oに合わせて回転自在」であること及び「上部旋回体」は、本件発明1の「旋回装置を介して旋回可能」であること及び「上部旋回体」に相当する。
c 甲1発明の「スリップリング55」は、本件発明1の「スリップリング」に相当する。
また、甲1発明では「クローラ式走行装置11のトラックフレーム42上にボルト43にて固設されたスイベルプレート41a上に円筒状のスイベルボス41bがボルト44にて固設され、該スイベルボス41b内にスイベルシャフト41cがその中心を旋回中心Oに合わせて回転自在に挿入され」ており、「上部旋回体の上部フレーム13がクローラ式走行装置11に対してどのくらい旋回しているかを検知するために、上部旋回体と下部走行体の間に設けるスイベルジョイント41上に角度センサ40を設け」ていることから、「スイベルジョイント41」(本件発明1の「センタジョイント」に相当)は、「上部旋回体」の「旋回中心O」に配置(本件発明1の「前記上部旋回体の旋回中心に配置」に相当)されているといえる。
d 甲1発明の「ブレード14」は、本件発明1の「排土装置」に相当する。
また、甲1発明では、「トラックフレームより後方にはブレード(排土板)14が突出して設けられ、油圧シリンダー20にて昇降回動可能として土押しや均平業等をできるようにし」ており、「該ブレード14の回動角はブレード14基部に設けた角度センサ19にて検知され」ることから、ブレード14のうちトラックフレームとは反対側に設けられた排土板(本件発明1の「ブレード」に相当)が先端側に設けられており、ブレード14基部(本件発明1の「基端側」に相当)で回動できるように取り付けられていること(本件発明1の「回動可能に取付けられ」ていることに相当)は明らかである。
e 甲1発明の「角度センサ19」は、本件発明1の「姿勢検出センサ」に相当する。
ここで、甲1発明では「ブレード14基部に設けた角度センサ19にて」「該ブレード14の回動角」が「検知され」ていることから、本件発明1と甲1発明は「前記ブレードの姿勢を検出する姿勢検出センサ」を備えている点で共通する。
f 甲1発明の「該ブレード14」(ブレード14のうち排土板も同様)「の回動角」、「油圧シリンダー20にて昇降回動」すること及び「コントローラC」は、本件発明1の「前記ブレードの姿勢」、「動作を制御する」こと及び「コントローラ」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「前記姿勢検出センサが検出した前記ブレードの姿勢に基づいて前記排土装置の動作を制御するコントローラ」を備えている点で共通する。
g 甲1発明の「配線48」及び「配線61」は、本件発明1の「ハーネス装置」に相当する。
h 甲1発明の「建設機械」は、本件発明1の「建設機械」に相当する。
i 甲1発明では「配線48は、・・・ボス46の貫通孔の中及びカップリングプレート53の中央の開口部を通して、その端部をスリップリング55の導体55c・55c・・・にそれぞれ接続」することは、本件発明1の「前記ハーネス装置は、前記センタジョイントの前記スリップリングを介して」「接続」することに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点で一致し、少なくとも以下の相違点1を有するものといえる。
<一致点>
トラックフレームを備えた自走可能な下部走行体と、
前記トラックフレーム上に旋回装置を介して旋回可能に搭載された上部旋回体と、
前記上部旋回体の旋回中心に配置され、前記下部走行体と前記上部旋回体との間で通電状態を保持するスリップリングを有しているセンタジョイントと、
基端側が前記トラックフレームに上下方向に回動可能に取付けられ、先端側にブレードが設けられた排土装置と、
前記ブレードの姿勢を検出する姿勢検出センサと、
前記姿勢検出センサが検出した前記ブレードの姿勢に基づいて前記排土装置の動作を制御するコントローラと、
前記コントローラに前記姿勢検出センサを接続するハーネス装置と、を備えてなる建設機械において、
前記ハーネス装置は、前記センタジョイントの前記スリップリングを介して前記姿勢検出センサと前記コントローラとを接続している
建設機械。
<相違点1>
「ハーネス装置」に関して、
本件発明1では、「前記コントローラと前記センタジョイントの前記スリップリングとの間を接続して設けられたコントローラ側ハーネスと、
前記センタジョイントの前記スリップリングと前記姿勢検出センサとの間を接続して設けられたセンサ側ハーネスとを備え、
前記センサ側ハーネスは、前記トラックフレームの内部に配策され、一端が前記スリップリングに接続された内部ハーネスと、前記トラックフレームの外部に配策され、一端が前記姿勢検出センサに接続された外部ハーネスと、前記内部ハーネスの他端と前記外部ハーネスの他端とを着脱可能に接続するコネクタとにより構成され、
前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され、
前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定され」ているのに対して、
甲1発明では、「ブレード14の回動角を検知する角度センサ19や下部走行体の電装品の配線48は下方よりボス47の貫通孔、センサパイプ45の中心部、ボス46の貫通孔の中及びカップリングプレート53の中央の開口部を通して、その端部をスリップリング55の導体55c・55c・・・にそれぞれ接続」されており、配線48をコネクタにより着脱可能に接続するようにしておらず、それに伴い、コネクタを近くに固定した開口部を備えていない点。
(イ)判断
上記甲2記載の技術事項では、「上側給電配線31」と、「下側給電配線32」とを「コネクタ」により接続しているものの、甲1発明では、配線48を下方よりボス47の貫通孔等を通してスリップリング55に接続しており、配線48の途中をコネクタにより接続することは記載も示唆もされておらず、配線48は、作業性が良い場所に配線されてもいないことから、甲1発明に甲2記載の技術事項を採用する動機付けがない。
さらに、甲2記載の技術事項では、「トラックフレーム3」に開口部を設けて、トラックフレーム3の外部であって、開口部の近くにコネクタを固定しておらず、甲2には、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
また、上記甲3~甲5記載の技術事項においても、相違点1に係る本件発明1の構成を有しておらず、甲3~甲5には、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術事項から相違点1に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件発明1は相違点1に係る構成により、「損傷した外部ハーネス28の交換作業を容易に行うことができる。」(本件特許明細書の【0045】)との効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記アと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明2は、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
上記アの相違点1のうち、「前記トラックフレームには、前記センサ側ハーネスが挿通される開口部が形成され、前記コネクタは、前記トラックフレームの外部に位置し、前記開口部の近くに固定され」ている点は、本件訂正により追加されたものであって、令和5年11月1日提出の意見書において、申立理由3(進歩性)について、申立人は、特に意見を述べていない。
エ 小括
本件発明1及び2は、甲1~甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700252