特許異議申立
2023-700243
防汚層付き光学フィルム
- 審判番号
- 2023-700243
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-536372
- 登録番号
- 7130893
- 請求日
- 2023年03月03日
- 審決日
- 2023年09月27日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】岡本 寛之
- 【権利者代理人】宇田 新一
- 【異議申立人】山本 新
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 西本 浩司
- 分類
- P1651.113-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7130893号発明「防汚層付き光学フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7130893号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7130893号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和3年7月13日(優先権主張 令和2年7月13日、同年8月31日、同年10月1日)を国際出願日とする出願であって、令和4年8月26日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行:令和4年9月5日)がされ、その後、その特許について、令和5年3月3日に特許異議申立人山本新(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、各発明を「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
基材層と、無機層からなる光学機能層と、防汚層とを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記基材層が、基材と、ハードコート層とを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記防汚層の表面粗さRaが、5.01nm以下であり、
前記ハードコート層の厚み方向一方面の表面粗さRaが、1.2nm以上5.0nm以下であり、
前記防汚層の厚み方向一方面の水接触角が、110°以上であり、
第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角が、83°以上である、防汚層付き光学フィルム。
第1耐久性試験:防汚層について、以下の条件に基づき、第1消しゴム摺動試験を実施する。第1消しゴム摺動試験を実施した後、防汚層の純水に対する水接触角を測定する。
<第1消しゴム摺動試験>
Minoan社製の消しゴム(Φ6mm)
摺動距離:片道100mm
摺動速度:100mm/秒
荷重:1kg/6mmΦ
摺動回数:3000回
【請求項2】
第2耐久性試験により求められる防汚層の水接触角の変化量が、5°以下である、請求項1に記載の防汚層付き光学フィルム。
第2耐久性試験:防汚層の純水に対する第1水接触角を測定する。次いで、防汚層について、以下の条件に基づき、第2消しゴム摺動試験を実施する。第2消しゴム摺動試験を実施した後、防汚層の純水に対する第2水接触角を測定する。次いで、下記式(1)に基づき、水接触角の変化量を算出する。
水接触角の変化量=第1水接触角-第2水接触角 (1)
<第2消しゴム摺動試験>
Minoan社製の消しゴム(Φ6mm)
摺動距離:片道100mm
摺動速度:100mm/秒
荷重:1kg/6mmΦ
摺動回数:10回
【請求項3】
前記光学機能層が反射防止層である、請求項1または2に記載の防汚層付き光学フィルム。
【請求項4】
前記反射防止層が、相対的に屈折率が大きな高屈折率層と、相対的に屈折率が小さな低屈折率層とを交互に有する、請求項3に記載の防汚層付き光学フィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層が、金属酸化物微粒子を含む、請求項4に記載の防汚層付き光学フィルム。
【請求項6】
前記金属酸化物微粒子が、ナノシリカ粒子である、請求項5に記載の防汚層付き光学フィルム。」
第3 特許異議の申立てについて
1.特許異議の申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証~甲第5号証(以下「甲1」~「甲5」という。)を提出して、以下の理由を申立てている。
甲1:特開2020-60657号公報
甲2:特開2020-52221号公報
甲3:特開2017-227898号公報
甲4:国際公開第2019/208786号
甲5:国際公開第2014/129333号
(1)新規性、進歩性に係る申立理由
本件発明1~6は、以下ア、イに示す理由により、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反し、それらの特許は特許法第113条第2号に該当する。
ア 本件発明1~4は、甲1に記載された発明である。
イ 本件発明1~6は、甲3に記載された発明並びに甲4又は甲5の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)サポート要件に係る申立理由
本件発明は、以下に示す理由により、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの特許は特許法第113条第4号に該当する。
本件発明1においては、防汚層付き光学フィルムの層構成、防汚層の表面粗さ、防汚層の水接触角、及び第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角が規定されているものの、これらは防汚層の構成成分に大きく依存する。しかしながら、本件発明1においては、防汚層の構成成分は、何ら規定されていない。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~6は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
2.サポート要件に係る申立理由についての判断
事案に鑑み、サポート要件に係る申立理由より検討する。
本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、
「防汚層に付着した汚れを拭き取った後でも、防汚層の防汚性の低下を抑制できる防汚層付き光学フィルムを提供すること」(段落【0006】)である。
この課題の解決に関し、発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0083】
また、防汚層5の水接触角(後述する第1水接触角と同義)は、110°以上、好ましくは、114°以上、より好ましくは、117°以上、さらに好ましくは、119°以上、また、例えば、130°以下である。
【0084】
防汚層5の水接触角が、上記下限以上であれば、防汚層5の防汚性を向上できる。」
「【0089】
また、防汚層5の摺動後の水接触角は、83°以上、好ましくは、90°以上、より好ましくは、95°以上、さらに好ましくは、100°以上である。
【0090】
摺動後の水接触角は、第1耐久性試験により求められる。第1耐久性試験では、防汚層5について、所定の条件に基づき、第1消しゴム摺動試験を実施する。第1消しゴム摺動試験を実施した後、防汚層5の純水に対する摺動後の水接触角を測定する。なお、第1耐久性試験については、より詳しくは、後述する実施例で説明する。
【0091】
表面粗さRa、および、摺動後の水接触角が、上記した所定の範囲であれば、防汚層5に付着した汚れを拭き取った後でも、防汚層5の防汚性の低下を抑制できる(防汚耐久性に優れる。)。」
そして、防汚層の材料と形成方法を変えた実施例と比較例により、
「【0164】
摺動後の水接触角が、83°以上であり、防汚層の厚み方向一方面の水接触角(第1接触角)が、110°以上である実施例1、比較例3、実施例3、比較例4および実施例5は、摺動後の水接触角が、80°であり、防汚層の厚み方向一方面の水接触角(第1接触角)が、109.4°である比較例2に比べて、防汚性に優れる。このことから、防汚層の摺動後の水接触角が、83°以上、かつ、防汚層の厚み方向一方面の水接触角(第1接触角)が、110°以上であれば、防汚層に付着した汚れを拭き取った後でも、防汚層の防汚性の低下を抑制できるとわかる。具体的には、数千回程度の拭き取り(摺動)に対して、実用レベルの防汚性を維持できる実用性を確保することができるとわかる。」との効果の確認もされている。
そうすると、本件発明は、「防汚層の厚み方向一方面の水接触角が、110°以上であり」、「第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角が、83°以上である」防汚層付き光学フィルムを備えることにより、「防汚層に付着した汚れを拭き取った後でも、防汚層の防汚性の低下を抑制できる防汚層付き光学フィルムを提供する」という課題を解決することができ、本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
よって、申立人のサポート要件に係る申立理由には理由がない。
3.新規性、進歩性に係る申立理由についての判断
(1)引用例の記載事項、引用発明
ア 甲1の記載事項、甲1発明
「【0091】
比較例2
ハードコート層(HC層、厚み6μm)付きトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム、厚み80μm)を用意した。このTACフィルムをロールトゥロール方式のスパッタ製膜装置に導入し、TACフィルムを走行させながら、ハードコート層にボンバード処理(Arガスによるプラズマ処理)を実施した。その後、密着層として3.5nmのSi層をハードコート層の上面に形成し、続いて、表1に示すようにNb2O5層とSiO2層とを交互に形成した。次いで、実施例1と同様にして、反射防止層の上面に防汚層を形成した。これにより、比較例2の反射防止フィルムを製造した。」
「【0097】
[図:0001402784000001.jpg]
」
特に甲1の比較例2の記載に着目すると、甲1には、次の「甲1発明」が記載されている。
「ハードコート層付きトリアセチルセルロースフィルムの上に、密着層として3.5nmのSi層をハードコート層の上面に形成し、続いて、Nb2O5層とSiO2層とを交互に形成した反射防止層、表面粗さRaが1.26nmである防汚層を順に備える、反射防止フィルム。」
イ 甲2の記載事項
「【0017】
[反射防止フィルム]
反射防止フィルム10は、フィルム基材1の第一主面上に、最表面層として防汚層4を備え、フィルム基材1と防汚層4の間に反射防止層3を備える。フィルム基材1の第一主面上にはハードコート層2が設けられていてもよい。」
「【0042】
反射防止層3および防汚層4は厚みが小さいため、防汚層4の表面には、ハードコート層2の表面形状を反映した凹凸形状が形成されやすい。そのため、防汚層4の表面の算術平均粗さを上記範囲とするためには、ハードコート層2に粒子を含有させて表面凹凸を形成することが好ましい。また、ハードコート層2に真空プラズマ処理等の表面処理を施すことにより表面形状を調整してもよい。」
ウ 甲3の記載事項、甲3発明
「【0016】
図1の反射防止フィルム100は、透明フィルム基材1上に、密着性向上層3を介して反射防止層5が設けられている。反射防止層は、2層以上の薄膜の積層体であり、図1では、4層の薄膜51,52,53,54の積層体からなる反射防止層5が図示されている。
【0017】
<透明フィルム基材>
透明フィルム基材1は、可撓性の透明フィルム10を含む。透明フィルム10の反射防止層5形成面側には、ハードコート層11が設けられていることが好ましい。」
「【0030】
透明フィルム基材1の反射防止層5形成面側の表面の算術平均粗さRaは、1.5nm以下が好ましく、1.0nm以下がより好ましい。透明フィルム10上にハードコート層11が形成されている場合は、ハードコート層11の算術平均粗さが、透明フィルム10の反射防止層5形成面側の表面の算術平均粗さとなる。算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた1μm四方の観察像から求められる。」
「【0036】
反射防止層は、低屈折率層と高屈折率層との交互積層体であることが好ましい。空気界面での反射を低減するために、反射防止層の最表面層(透明フィルム基材1と反対側の面)として設けられる薄膜54は、低屈折率層であることが好ましい。低屈折率層および高屈折率層の材料としては、上記のように酸化物が好ましい。中でも、反射防止層5は、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO2)薄膜52,54と、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜51,53との交互積層体であることが好ましい。」
「【0057】
外部環境からの汚染防止や、付着した汚染物質の除去を容易とするために、反射防止層5の表面には防汚層7が設けられることが好ましい。汚染防止性および汚染物質の除去性を高めるために、防汚層7の純水接触角は、100°以上が好ましく、102°以上がより好ましく、105°以上がさらに好ましい。純水接触角は、汚染防止層の表面に直径2mm以下の水滴を形成してその接触角を測定することにより求められる。」
「【0060】
反射防止層5が有する耐擦傷性等の機械強度を維持するために、防汚層7も、反射防止層5と同様、表面の算術平均粗さRaが小さいことが好ましい。防汚層7表面の算術平均粗さ(すなわち反射防止フィルム表面の算術平均粗さ)は、3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましく、1.8nm以下がさらに好ましく、1.5nm以下が特に好ましく、1.3nm以下が最も好ましい。反射防止フィルム表面の算術平均粗さが1.5nm以下であれば、指紋拭き取り性が向上する傾向がある。」
「【図1】
[図:0001402784000002.jpg]
」
甲3には、特に図1の形態について次の「甲3発明」が記載されている。
「透明フィルム、ハードコート層、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO2)薄膜と高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜の交互積層体である反射防止層、防汚層の順に形成され、
前記ハードコート層の算術平均粗さRaは、1.5nm以下が好ましく、1.0nm以下がより好ましく、
前記防汚層の純水接触角は、100°以上が好ましく、102°以上がより好ましく、105°以上がさらに好ましく、
前記防汚層表面の算術平均粗さRaは、3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましく、1.8nm以下がさらに好ましく、1.5nm以下が特に好ましく、1.3nm以下が最も好ましい、
反射防止フィルム。」
エ 甲4の記載事項
「[0026]<<<光学フィルム>>>
図1に示される光学フィルム10は、光透過性を有するものであり、樹脂基材11と、樹脂基材11の一方の面である第1の面11A側に設けられた機能層12とを備えている。本明細書における「機能層」とは、光学フィルムにおいて、何らかの機能を発揮することを意図された層である。具体的には、機能層としては、例えば、ハードコート機能、防汚機能、および/または滑り機能を発揮するための層が挙げられる。機能層は、単層構造のみならず、2層以上の多層構造であってもよい。図1に示される機能層12は、第1の機能層13および第2の機能層14からなる多層構造となっている。光学フィルム10の表面10Aは、機能層12の表面12Aとなっている。」
「[0033] 上記消しゴム試験(500g×4000往復)は、以下のようにして行うものとする。まず、消しゴム試験に用いる消しゴムを用意する。消しゴムとしては、直径が6.0mmであり、長さが160mm以下であり、デュロメータ硬さ(タイプAデュロメータ、タイプA(円柱状圧子)、JIS K6253:1997/ISO7619(Rubber))が60以上90以下であり、材質がゴムであるものを用いるものとする。このような消しゴムとしては、三菱鉛筆株式会社製の消しゴム付き鉛筆(製品名「事務用鉛筆9852(消しゴム付)」)やMinoan Inc.社製のRUBBER STICKが挙げられる。・・・(「・・・」は文章の省略を表す。以下同じ。)」
「[0055] また、消しゴム試験(1000g×5000往復)を行った場合に、消しゴム試験前の光学フィルム10の表面10Aにおける水に対する接触角に対する消しゴム試験(1000g×5000往復)後の光学フィルム10の表面10Aにおける水に対する接触角の割合である接触角維持率が80%以上であることがより好ましい。接触角維持率が80%以上であれば、光学フィルム10は、より優れた耐摩耗性を有すると判断できるとともに、より優れた防汚性を得ることができる。」
「[図1]
[図:0001402784000003.jpg]
」
オ 甲5の記載事項
「[0014] 本実施形態の光学部品は、透明基体と、前記透明基体上に積層された低反射膜と、前記低反射膜上に積層された防汚膜と、を有しており、前記防汚膜の表面粗さRaが3nm以下であることを特徴とする。
[0015] 本実施形態の光学部品について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の光学部品10の断面図を模式的に示したものであり、透明基体11上に低反射膜12と、該低反射膜12上に防汚膜13が積層された構成を有している。・・・」
「[0082]・・・
以下の実験例において防汚膜を形成した後の試料について、該試料の防汚膜について擦り耐久性試験を以下の手順により行った。
[0083] まず、各実験例の防汚膜について以下の手順により擦り試験を行った。
[0084] 底面が10mm×10mmである平面金属圧子の表面に、スチールウール#0000を装着して、サンプルを擦る摩擦子とした。
[0085] 次に、上記摩擦子を用い、平面摩耗試験機3連式(大栄科学精器社製、型式:PA-300A)にて擦り試験を行った。具体的には、まず上記摩擦子の底面がサンプルの防汚膜面に接触するよう摩耗試験機に取り付け、摩擦子への加重が1000gとなるように重りを載せ、平均速さ6400mm/min、片道40mmで往復摺動した。往復1回で擦り回数1回として、擦り回数が2000回となるように擦り試験を行った。」
「[図1]
[図:0001402784000004.jpg]
」
ガラス基材、低反射膜及び防汚層からなる光学部品に対する実験例の結果をまとめた[表1]によると、例3の光学部品は、防汚層の表面粗さRaが0.3nm、擦り耐久性試験後の防汚膜の水接触角が110°である。
(2)甲1を主引用例とする理由
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ハードコート層付きトリアセチルセルロースフィルム」の「ハードコート層」は本件発明1の「ハードコート層」に相当し、同じく「トリアセチルセルロースフィルム」は本件発明1の「基材」に相当する。
同様に、甲1発明の「Nb2O5層とSiO2層とを交互に形成した反射防止層」は本件発明1の「無機層からなる光学機能層」に、甲1発明の「防汚層」は本件発明1の「防汚層」に、甲1発明の「反射防止フィルム」は本件発明1の「防汚層付き光学フィルム」に、それぞれ相当する。
甲1発明のハードコート層付きトリアセチルセルロースフィルムの「ハードコート層」は、「トリアセチルセルロースフィルム」と「Nb2O5層とSiO2層とを交互に形成した反射防止層」の間に配置されるから、甲1発明の「ハードコート層付きトリアセチルセルロースフィルムの上に、密着層として3.5nmのSi層をハードコート層の上面に形成し、続いて、Nb2O5層とSiO2層とを交互に形成した反射防止層、表面粗さRaが1.26nmである防汚層を順に備える」ことは、本件発明1の「基材層と、無機層からなる光学機能層と、防汚層とを厚み方向一方側に向かって順に備え、前記基材層が、基材と、ハードコート層とを厚み方向一方側に向かって順に備え」ることに相当する。
そうすると、両者は、
「基材層と、無機層からなる光学機能層と、防汚層とを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記基材層が、基材と、ハードコート層とを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記防汚層の表面粗さRaが、5.01nm以下である、
防汚層付き光学フィルム。」で一致し、次の点で相違する。
《相違点1-1》
本件発明1の「前記ハードコート層の厚み方向一方面の表面粗さRaが、1.2nm以上5.0nm以下であ」るのに対し、
甲1発明のハードコート層の表面粗さRaは特定されていない点。
《相違点1-2》
本件発明1の「前記防汚層の厚み方向一方面の水接触角が、110°以上であり、
第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角が、83°以上」
「第1耐久性試験:防汚層について、以下の条件に基づき、第1消しゴム摺動試験を実施する。第1消しゴム摺動試験を実施した後、防汚層の純水に対する水接触角を測定する。
<第1消しゴム摺動試験>
Minoan社製の消しゴム(Φ6mm)
摺動距離:片道100mm
摺動速度:100mm/秒
荷重:1kg/6mmΦ
摺動回数:3000回」であるのに対し、
甲1発明の防汚層の水接触角は特定されておらず、第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角も特定されていない点。
(イ)上記相違点1-1を検討する。
甲1には、ハードコート層の表面粗さRaについて記載はなく、「表面粗さRaが、1.2nm以上5.0nm以下」である証拠はない。
申立人は、甲2に、防汚層の表面はハードコート層の表面形状を反映した凹凸形状が形成されやすいことが記載されており、甲1発明において、防汚層の表面粗さRaが1.26nmであるので、ハードコート層の表面粗さRaも1.26nmである蓋然性が高い旨(特許異議申立書30頁下から2行~31頁9行)主張するが、防汚層の表面粗さRaが1.26nmであるからといって、その下層のハードコート層の表面粗さRaも1.26nmになるとは限らず、そのような技術常識もなく、申立人の主張は採用できない。
よって、上記相違点1-1は実質的な相違点である。
(ウ)次に、上記相違点1-2を検討する。
甲1発明の防汚層が、本件発明1の「第1耐久性試験」を行ったときに、防汚層の水接触角が83°以上となることを示す証拠はない。
申立人は、防汚層の表面粗さが小さければ、防汚層の表面に存在する凹凸が小さくなるため、防汚層について第1消しゴム摺動試験を行った場合に、消しゴムで削り取られる防汚層の成分が少なくなるので、防汚層表面の水接触角の低下を抑制できることは技術常識である旨(特許異議申立書31頁18~22行)主張するが、第1消しゴム摺動試験を行った後でも「83°以上」であることまでは技術常識からいえず、この主張は採用できない。
よって、上記相違点1-2も実質的な相違点である。
(エ)以上より、本件発明1は、甲1発明ではない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるところ、上記イで述べたように、本件発明1は甲1発明ではないから、本件発明2~4も甲1発明ではない。
(3)甲3を主引用例とする理由
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「透明フィルム」は本件発明1の「基材層」に相当し、同様に甲3発明の「低屈折率層としての酸化シリコン(SiO2)薄膜と高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜の交互積層体である反射防止層」は本件発明1の「無機層からなる光学機能層」に、甲3発明の「防汚層」は本件発明1の「防汚層」に、甲3発明の「反射防止フィルム」は本件発明1の「防汚層付き光学フィルム」に、それぞれ相当する。
そうすると、両者は、
「基材層と、無機層からなる光学機能層と、防汚層とを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記基材層が、基材と、ハードコート層とを厚み方向一方側に向かって順に備える、防汚層付き光学フィルム。」で一致し、次の点で相違する。
《相違点2-1》
本件発明1が「前記ハードコート層の厚み方向一方面の表面粗さRaが、1.2nm以上5.0nm以下であ」るのに対し、
甲3発明のハードコート層の算術平均粗さRaは、「1.5nm以下が好ましく、1.0nm以下がより好まし」いとされる点。
《相違点2-2》
本件発明1の「前記防汚層の表面粗さRaが、5.01nm以下であり」
「前記防汚層の厚み方向一方面の水接触角が、110°以上であり、
第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角が、83°以上」
「第1耐久性試験:防汚層について、以下の条件に基づき、第1消しゴム摺動試験を実施する。第1消しゴム摺動試験を実施した後、防汚層の純水に対する水接触角を測定する。
<第1消しゴム摺動試験>
Minoan社製の消しゴム(Φ6mm)
摺動距離:片道100mm
摺動速度:100mm/秒
荷重:1kg/6mmΦ
摺動回数:3000回」であるのに対し、
甲3発明の防汚層の算術平均粗さRaは「3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましく、1.8nm以下がさらに好ましく、1.5nm以下が特に好ましく、1.3nm以下が最も好ましい」とされ、甲3発明の防汚層の純水接触角は「100°以上が好ましく、102°以上がより好ましく、105°以上がさらに好まし」いとされるが、第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角は特定されていない点。
(イ)上記相違点2-1を検討する。
甲3発明のハードコート層の算術平均粗さRaは、「1.0nm以下がより好まし」いとされているから、敢えて本件発明1の「1.2nm以上5.0nm以下」に換える動機付けはない。
よって、本件発明1の上記相違点2-1に係る構成は、甲3発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)次に、上記相違点2-2を検討する。
甲4には、直径6.0mmの消しゴムを用いて荷重1000gで光学フィルムの表面を5000往復擦る消しゴム試験を行ったとき、消しゴム試験前後の光学フィルムの表面における水に対する接触角維持率が80%以上が好ましいことが、甲5には、底面が10mm×10mmの平面金属圧子の表面にスチールウール♯0000を装着した摩擦子を用いて荷重1000gで2000往復擦る試験を行ったとき、試験後の防汚膜表面における純水に対する接触角が110°である実験例(例3)が記載されている。
しかし、甲4及び甲5のいずれにも、第1耐久性試験前の「防汚層の厚み方向一方面の水接触角が、110°以上」、かつ、「第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角が、83°以上」である防汚層を備えることは記載されておらず、甲3発明に、甲4あるいは甲5記載の技術的事項を適用しても、本件発明1の上記相違点2-1に係る構成を容易に想到することができたとはいえない。
申立人は、甲3発明に甲5記載の技術的事項を適用して、防汚層の水接触角を110°以上とすること何ら困難性はなく、甲3発明に甲4記載の技術的事項を適用して、消しゴム試験(1000g×5000往復)の防汚層の表面における水接触角を84°以上とすることは何ら困難性はないから、本件発明1は、甲3発明と、甲4及び甲5記載の技術的事項から容易に想到できる旨(特許異議申立書40頁11行~41頁22行)主張する。
しかし、「防汚層の厚み方向一方面の水接触角が、110°以上」と「第1耐久性試験により求められる防汚層の水接触角が、83°以上」は、同じ防汚層が満たすべき性能であるから、申立人が主張するような、一方の性能を満たすために甲4の防汚層、他方の性能を満たすために甲5の防汚層を、それぞれ別に採用するということはできない。
よって、本件発明1の上記相違点2-2に係る構成は、甲3発明並びに甲4又は甲5の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(エ)以上より、本件発明1は、甲3発明並びに甲4又は甲5の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるところ、上記アで述べたように、甲3発明並びに甲4又は甲5の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~6も、甲3発明並びに甲4又は甲5の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第4 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700243