特許異議申立
2022-701227
光学フィルム、偏光板、および画像表示装置
- 審判番号
- 2022-701227
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-512439
- 登録番号
- 7083340
- 請求日
- 2022年12月12日
- 審決日
- 2023年11月07日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】籾井 孝文
- 【異議申立人】山本 新
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 河原 正
- 審判官 大▲瀬▼ 裕久
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7083340号発明「光学フィルム、偏光板、および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7083340号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7083340号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7083340号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2019-512439号)は、2018年(平成30年)4月2日(先の出願に基づく優先権主張2017年(平成29年)4月10日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月2日にその特許権の設定の登録がされ、令和4年6月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和4年12月12日に、請求項1~7に係る特許に対し、特許異議申立人山本 新(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立」という。また、特許異議申立人が証拠として提出した甲第1号証を「甲1」と略し、甲第2号証等についても同様とする。)がされた。
その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和5年3月27日付け:取消理由通知書
令和5年5月26日:訂正請求書の提出
令和5年5月26日:特許権者による意見書の提出
令和5年7月21日:特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年5月26日付け訂正請求書でなされた訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~7〕についてなされたものである。
(1) 訂正事項1
請求項1に、
「前記光学フィルム中の基材フィルムは、10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率が-2.0%~0%であり、」とあるのを、
「前記光学フィルム中の基材フィルムは、10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において、-2.0%~0%であり、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
請求項1に、
「前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層である、光学フィルム。」とあるのを、
「前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層であり、
前記アクリル系樹脂が、グルタルイミド単位を含み、
前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である、光学フィルム。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
請求項4に、
「前記アクリル系樹脂が、グルタルイミド単位、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、マレイミド単位および無水グルタル酸単位からなる群から選択される少なくとも1つを有する、請求項1から3のいずれかに記載の光学フィルム。」とあるのを、
「前記アクリル系樹脂が、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、マレイミド単位および無水グルタル酸単位からなる群から選択される少なくとも1つをさらに有する、請求項1から3のいずれかに記載の光学フィルム。」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5~7についても同様に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による請求項1の訂正は、「10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率」が、「基材フィルム」のどの方向において「-2.0%~0%」であるのかに関して限定がなく、不明であったところ、当該「寸法変化率」が、「基材フィルム」の「長手方向および前記長手方向と直交する方向において」、「-2.0%~0%」であることを明確にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0080】及び【0102】の記載によれば、上記アで述べた、当該「寸法変化率」が、「基材フィルム」の「長手方向および前記長手方向と直交する方向において」「-2.0%~0%」を意味することは、本件明細書に明示的に記載された事項であるか少なくとも本件明細書の記載から自明な事項である。
そうすると、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1による請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項2~7についても同様である。
オ 小括
よって、訂正事項1による訂正は、訂正要件を満たす。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による請求項1の訂正は、「アクリル系樹脂」が、「グルタルイミド単位を含み」、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」ものに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件特許明細書の【0030】、【0036】及び実施例1(【0082】)の記載によれば、「アクリル系樹脂」が、「グルタルイミド単位を含み」、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」ものは、本件明細書の記載から自明な事項である。
そうすると、訂正事項2に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2による請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項2~7についても同様である。
オ 小括
よって、訂正事項2による訂正は、訂正要件を満たす。
(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による請求項4の訂正は、訂正事項2による訂正により本件件訂正後の請求項1において、「アクリル系樹脂」が「グルタルイミド単位を含」むものに限定されたため、本件訂正前の請求項4に択一的に記載されていた「グルタルイミド単位」が重複しないよう削除して、請求項4の記載を整理するとともに、「アクリル系樹脂」が、「ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、マレイミド単位および無水グルタル酸単位からなる群から選択される少なくとも1つ」を「さらに」含有するものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号及び第1号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件特許明細書の【0010】、【0023】の記載によれば、「アクリル系樹脂」が、「グルタルイミド単位」の他に、「ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、マレイミド単位および無水グルタル酸単位からなる群から選択される少なくとも1つ」を「さらに」含有することは、本件特許明細書の記載から自明な事項である。
そうすると、訂正事項3に係る請求項4の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項3による請求項4の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項5~7についても同様である。
オ 小括
よって、訂正事項3による訂正は、訂正要件を満たす。
3 まとめ
本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~請求項7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明7」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~請求項7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層と、を含む光学フィルムであり、
前記光学フィルム中の基材フィルムは、10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において、-2.0%~0%であり、
前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層であり、
前記アクリル系樹脂が、グルタルイミド単位を含み、
前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である、光学フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムが、前記アクリル系樹脂と、該アクリル系樹脂に分散されたコアシェル型粒子と、を含む、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムが、前記アクリル系樹脂100重量部に対して、前記コアシェル型粒子を5重量部~50重量部含有する、請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂が、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、マレイミド単位および無水グルタル酸単位からなる群から選択される少なくとも1つをさらに有する、諸求項1から3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記表面処理層が、ハードコート層、防眩層および反射防止層からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
偏光子と、該偏光子の片側に配置された保護層と、を含み、
前記保護層が請求項1から5のいずれかに記載の光学フィルムである、偏光板。
【請求項7】
請求項6に記載の偏光板を備える、画像表示装置。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当審において、令和5年3月27日付けで特許権者に通知された取消理由(以下、単に「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知」という。)の概略は、次のとおりである。
●理由1(新規性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、優先権主張の基礎とされた先の出願の出願前(以下、単に「先の出願前」という。)に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
●理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法29条条2項の規定に違反してされたものである。
●理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1~7に係る特許は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
(引用例等一覧)
甲1:国際公開第2016/185722号
甲2:特開2010-65109号公報
引例1:国際公開第2009/41298号
第5 取消理由についての当審の判断
1 甲1を主引用例とした場合の新規性(特許法第29条第1項第3号)、進歩性(特許法第29条第2項)について
(1) 甲1に記載された事項
甲1には以下の記載がある(下線は合議体が付した。以下同様。)。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、樹脂組成物と、当該樹脂組成物から構成されるフィルムとに関する。より具体的に本発明は、例えば、液晶表示装置および有機電界発光表示装置といった画像表示装置に用いられる保護フィルム、反射防止フィルム、導電性フィルムおよび偏光フィルムなどの光学フィルムを溝成しうる光学フィルム用樹脂組成物と、当該光学フィルムとに関する。
・・・略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
・・・略・・・
[0011] 本発明の目的の一つは、アクリル樹脂が有する優れた光学的透明性を享受するとともに、高い耐熱性、より具体的には高いTg、が達成されながらも、機械的特性の低下が抑制され、複数の樹脂がブレンドされた樹脂組成物であるが故に期待される特性をより確実に確保できる、光学フィルムをはじめとする各種用途に使用可能な樹脂組成物の提供である。
課題を解決する手段
[0012] 本発明の樹脂組成物は、正の固有複屈折を有するアクリル樹脂(A)と、負の固有複屈折を有し、N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位を有する樹脂(B)と、を含む。本発明の樹脂組成物における前記N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率は1重量%以上10重量%以下である。本発明の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は130℃以上である。
[0013] 本発明のフィルムは、上記本発明の樹脂組成物からなる。
・・・略・・・
発明を実施するための形態
・・・略・・・
[0028] [樹脂組成物(C)]
本発明の樹脂組成物(C)は、正の固有複屈折を有するアクリル樹脂(A)と、負の固有複屈折を有し、N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位Sを有する樹脂(B)と、を含む。樹脂組成物(C)における構成単位Sの含有率は1重量%以上10重量%以下であり、樹脂組成物のTgは130℃以上である。
[0029] 樹脂(B)が有する構成単位Sは、当該樹脂に含まれる重合体の主鎖に位置する環構造の1種であるN-置換マレイミド構造に対応する。すなわち、構成単位Sの存在により、樹脂(B)および樹脂(B)を含む樹脂組成物(C)の耐熱性が向上し、より具体的にはTgが高くなる。そして、構成単位S(N-置換マレイミド構造)は、重合体の主鎖に位置する環構造のなかでも、当該重合体のTgを高くする効果が特に強い。このため、一つの特徴として樹脂組成物(C)では、従来より少ない環構造の含有率によって、Tg≧130℃の高い耐熱性が達成される。そして別の一つの特徴として、高い耐熱性を達成するための従来より少ない環構造の含有によって、樹脂組成物(C)の特性、例えば機械的特性、の低下が抑制される。
[0030] これとは異なる別の特徴は、樹脂(B)について、構成単位Sが当該単位を有する重合体に正の固有複屈折を与える作用を有しながらも、樹脂(B)自体の固有複屈折が負であるということにある。すなわち、負の固有複屈折を有しているものの、樹脂(B)自体が示す応力光学係数Crの絶対値は、構成単位Sの存在により小さくなる。換言すれば、構成単位Sは、樹脂(B)および樹脂(B)を含む樹脂組成物(C)のTgを向上させるとともに、負の固有複屈折を有する樹脂(B)の応力光学係数Crの絶対値を低下させる作用を有する。このことは、例えば、複数の樹脂がブレンドされた樹脂組成物であるが故に期待される、より具体的には樹脂(A)との組み合わせに基づいて期待される、特性をより確実に確保できることを意味する。換言すれば、樹脂組成物(C)における特性の制御の自由度が向上する。特性は、例えば機械的特性および光学的特性であり、より具体的な例は、低い複屈折性、低い光弾性係数、低いヘイズ、フィルムとしたときの高い機械的特性(例えば可撓性)、低い寸法変化率、および複屈折の低い波長分散性である。なお、応力光学係数Crの絶対値は、樹脂または樹脂組成物に対して一方向に応力を加えたときに当該樹脂または樹脂組成物が示す複屈折の大きさに対応する数値であり、Crの絶対値が大きいほど、樹脂および樹脂組成物の複屈折発現性は高い。
[0031] 樹脂組成物の低い複屈折性は、正の固有複屈折を有する樹脂と、負の固有複屈折を有する樹脂との間の固有複屈折の打ち消し合いにより達成される。樹脂(B)のCrの絶対値を小さくできると、これと組み合わせる樹脂(A)としてCrの絶対値が小さい樹脂を採用しながらも樹脂組成物(C)としての低い複屈折性を達成できる。このことは、樹脂組成物(C)における低い複屈折性の達成がより確実となりながら、さらに例えば、樹脂成形体、典型的には延伸フィルム、としたときの当該低い複屈折性の安定性を向上させる。樹脂組成物に含まれる樹脂のCrの絶対値が高い場合、低い複屈折性を発現させるための樹脂組成物(C)の延伸条件がシビアとなる。また、樹脂組成物に含まれる樹脂のCrの絶対値が高い場合、樹脂成形体の長期の使用により、また、樹脂成形体への熱の印加により、樹脂間で固有複屈折が打ち消し合う効果が薄れ、当該絶対値の高さに応じた複屈折性が復元する可能性があるためである。また、後述のように樹脂(A)が環構造を含む場合、より具体的な例として樹脂(A)が主鎖に環構造を有する重合体を含む場合、環構造の含有率の低い樹脂(A)を採用できる。このことは、樹脂組成物(C)としての低い光弾性係数、低いヘイズ、高い可撓性、寸法変化率の小ささなどに寄与する。また、樹脂(B)の構成単位間において、および樹脂組成物(C)の樹脂間において、正および負の固有複屈折が打ち消しあっていることは、その組成によっては、複屈折の低い波長分散性が達成されることを意味する。そして、これらの有利な特徴の前提として、樹脂組成物(C)では130℃以上の高いTgが達成されている。
[0032] 環構造の含有によりTgが向上した樹脂と、他の樹脂とを混合して2種以上の樹脂を含む樹脂組成物とすることによる従来の効果は、樹脂組成物の光学的特性および/または機械的特性の調整に限られる一方で、Tgは、樹脂組成物とすることにより低下していた。これに対して樹脂組成物(C)では、130℃以上の高いTgを確保しながら、さらに機械的特性の低下が抑制され、光学的特性および/または機械的特性の制御の自由度の向上までも視野に入れることができる。アクリル樹脂が、元来、他の熱可塑性樹脂よりも硬くて脆い特性を有しており、重合体の主鎖に位置する環構造がこの特性をより強くすることから判断しても、樹脂組成物(C)により達成されるこれらの効果は非常に有利かつ顕著である。
・・・略・・・
[0034] [正の固有複屈折を有するアクリル樹脂(A)]
・・・略・・・
[0035] 樹脂(A)は、アクリル重合体(D)を含むアクリル樹脂である。
・・・略・・・
[0036] アクリル重合体(D)は、例えば、正の固有複屈折を有する。
を有していてもよい。
・・・略・・・
[0040] アクリル重合体(D)は、主鎖に環構造を有しうる。この場合、樹脂組成物(C)により達成される上述した効果がより確実となる。アクリル重合体(D)が主鎖に環構造を有する場合、すなわち樹脂(A)が当該環構造を有する場合、樹脂組成物(C)は、樹脂(B)と合わせて、環構造を有する樹脂を少なくとも2種以上含むことになる。環構造の存在により樹脂組成物(C)のTgは130℃以上の高い値となるが、この場合、樹脂(B)だけではなく樹脂(A)も樹脂組成物(C)のTgを高くする作用を有する。このため、Tgを130℃以上に保持した状態で、樹脂(A)における環構造の種類および双方の樹脂(A),(B)における環構造の含有率のさらなる制御が可能となることから、TgおよびTg以外の他の特性の制御の自由度がより増すことになる。これに加えて、樹脂(A),(B)の双方が環構造を有することにより、樹脂(A)と樹脂(B)との間のTgの差を小さくすることができる。このことは、樹脂組成物(C)における低い複屈折性の達成がより確実となりながら、さらに例えば、樹脂成形体、典型的には延伸フィルム、としたときの当該低い複屈折性の安定性を向上させる。樹脂組成物に含まれる樹脂の間でTgの差が大きい場合、樹脂成形体の長期の使用により、また、樹脂成形体への熱の印加により、双方の樹脂の状態(例えば延伸状態)が不均等に変化することがあるためである。また、樹脂組成物(C)を延伸して樹脂成形体とする場合、双方の樹脂(A),(B)間のTgの差が小さいほど、延伸条件、特に延伸温度、の調整の自由度が増す。延伸温度と樹脂のTgとの温度差によって、樹脂の延伸状態が大きく変化するためである。
[0041] アクリル重合体(D)が主鎖に有しうる環構造は、例えば、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、無水マレイン酸構造、およびN-置換マレイミド構造から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造は、アクリル重合体(D)および重合体(D)を含む樹脂(A)に、正の固有複屈折を与える作用を有する。
[0042] 以下の式(1)に、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。式(1)に示す構造は、当該構造を主鎖に有するアクリル重合体(D)の構成単位でもありうる。
[0043][化1]
[図:0001406689000001.jpg]
・・・略・・・
[0048] 以下の式(2)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。式(2)に示す構造は、前駆重合体の分子内環化反応により形成される環構造である。
・・・略・・・
[0049][化2]
[図:0001406689000002.jpg]
・・・略・・・
[0051] X2が窒素原子のとき、式(2)に示される環構造はグルタルイミド構造である。グルタルイミド構造を主鎖に有するアクリル重合体は、例えば、PMMAなど、未環化のアクリル重合体である前駆重合体をメチルアミンなどのイミド化剤により分子内環化して(イミド化して)形成できる。このとき、前駆重合体における隣り合う2つの構成単位間、より具体的には、隣り合う2つの(メタ)アクリル酸エステル単位間の環化反応により、グルタルイミド構造が形成される。
・・・略・・・
[0053] 以下の式(3)に、ラクトン環構造の一例を示す。式(3)に示す構造は、前駆重合体の分子内環化反応により形成される環構造である。
・・・略・・・
[0059] 上述した環構造のうち、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、およびラクトン環構造は、前駆重合体における隣り合う2つの構成単位間の分子内環化反応により形成される環構造である。このような環構造は、当該環構造の主鎖の炭素原子にメチレン基が結合した状態でアクリル重合体(D)の構成単位となる。このため、アクリル重合体(D)がこのような環構造を主鎖に有する場合、環構造による立体障害がメチレン基により緩和され、樹脂(A)および樹脂組成物(C)の機械的特性の低下をより抑制できる。また、この場合、重合体の主鎖の方向と環構造の共役電子の分極方向とがほぼ平行となり、重合体に対して正の固有複屈折を与える当該環構造の作用がより強くなることから、光学的特性の確保の観点から見た、重合体(D)および樹脂(A)における環構造の含有率を低減できる。このことも、樹脂(A)および樹脂組成物(C)の機械的特性の低下を抑制できることに寄与する。
・・・略・・・
[0062] アクリル重合体(D)が主鎖に環構造を有する場合、重合体(D)における当該環構造の含有率は、例えば、2重量%以上50重量%以下である。この範囲において、樹脂(A)の固有複屈折を正としながら、樹脂組成物(C)の耐熱性をバランスよく向上できるとともに、樹脂組成物(C)の機械的特性の低下をより抑制できる。アクリル重合体(D)における環構造の含有率の下限は、3重量%、4重量%以上、5重量%以上、6重量%以上の順に、より好ましい。アクリル重合体(D)における環構造の含有率の上限は、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下の順に、より好ましい。樹脂(A)における環構造の含有率についても同様である。
・・・略・・・
[0069] [負の固有複屈折を有し、N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位を有する樹脂(B)]
・・・略・・・
[0070] 樹脂(B)は、負の固有複屈折を有し、N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位であるN-置換マレイミド構造を有する。樹脂(B)は、例えば、主鎖にN-置換マレイミド構造を有する重合体(E)を含む。重合体(E)は、負の固有複屈折を有する。
・・・略・・・
[0072] 上述のようにN-置換マレイミド構造は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、およびラクトン構造といった、前駆重合体に対する分子内環化反応により導入された主鎖の環構造に比べて、重合体に対してその固有複屈折を正にする作用が低い。このため、重合体(E)および樹脂(B)へのN-置換マレイミド構造の導入量を増加させても、樹脂(B)は負の固有複屈折を維持しやすい。また、N-置換マレイミド構造を主鎖に有する重合体では、N-置換マレイミド構造に隣接して必ずしもメチレン基が存在するわけではない。このため、環構造の立体障害の影響により、N-置換マレイミド構造は重合体の耐熱性、典型的にはTg、を向上させる高い効果を有する。
[0073] マレイミド系重合体である重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率は、例えば、5重量%以上50重量%以下である。重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率が過度に小さくなると、樹脂(B)および樹脂組成物(C)の耐熱性を向上させる効果が十分に得られない。一方、重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率が過度に大きくなると、樹脂(B)が硬く脆くなって、樹脂組成物(C)の機械的特性の低下を抑制する効果が得難くなる。重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率の下限は、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上の順に、より好ましい。重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率の上限は、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下の順に、より好ましい。
・・・略・・・
[0078] 重合体(E)が、アクリロニトリル単量体に由来する構成単位を有する場合、重合体(E)における当該構成単位の含有率の下限は、例えば3重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上である。一方、当該含有率の上限は、例えば40重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
・・・略・・・
[0082] [樹脂組成物(C)]
・・・略・・・
[0083] 樹脂組成物(C)のTgは130℃以上である。・・・略・・・130℃以上200℃以下の範囲において樹脂組成物(C)の成形性が高くなる。
・・・略・・・
[0085] 樹脂組成物(C)におけるN-置換マレイミド構造の含有率は、1重量%以上10重量%以下である。当該含有率が1重量%未満の場合、樹脂組成物の高い耐熱性が達成されない。一方、当該含有率が10重量%を超えると、樹脂組成物の機械的特性が大きく低下したり、複数の樹脂がブレンドされた樹脂組成物であるが故に期待される特性の確保が難しくなる。樹脂組成物(C)におけるN-置換マレイミド構造の含有率は、好ましくは2重量%以上8重量%以下、より好ましくは3重量%以上6重量%以下、である。樹脂組成物(C)におけるN-置換マレイミド構造の含有率の上限は、5重量%以下でありうる。なお、樹脂(A)がN-置換マレイミド構造を含む場合、より具体的な例として、樹脂(A)に含まれるアクリル重合体(D)がN-置換マレイミド構造を主鎖に有する場合、樹脂組成物(C)のN-置換マレイミド構造は、樹脂(A)および樹脂(B)の双方に由来する。
[0086] 樹脂(A)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を含む場合、より具体的な例として、樹脂(A)に含まれるアクリル重合体(D)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を主鎖に有する場合、樹脂組成物(C)は、N-置換マレイミド構造以外に当該環構造を含む。この場合は、樹脂組成物(C)が含む環構造が、樹脂(A)および樹脂(B)のいずれか一方の樹脂に集められているのではなく、樹脂(A)と樹脂(B)とに、その種類に応じて振り分けられている状態でもある。そしてこの場合、上述した本発明の効果がより顕著となる。より具体的に、高い耐熱性が達成されながらも、機械的特性の低下がさらに抑制され、樹脂組成物であるが故に期待される特性をさらに確実に確保できる。
[0087] 樹脂組成物(C)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を含む場合、樹脂組成物(C)における、N-置換マレイミド構造を含む全環構造の含有率の下限は、例えば10重量%であり、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上の順に、より好ましい。一方、当該含有率の上限は、樹脂組成物の機械的特性の低下をより確実に抑制するために、例えば、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下の順に、より好ましい。
[0088] 樹脂(A)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を含む場合であって、当該環構造が、前駆重合体における隣り合う2つの構成単位間の分子内環化反応により形成された環構造である場合、樹脂組成物(C)における当該環構造の含有率は、30重量%以下でありうる。例えば、このような環構造のみにより樹脂組成物のTgを130℃以上にしようとすると、樹脂組成物における当該環構造の含有率をより大きく、例えば35重量%以上とする必要があった。しかし、このような樹脂組成物では、高いTgを達成できるものの、その機械的特性の低下が強くなる。一方、樹脂(A)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を含む樹脂組成物(C)では、樹脂組成物の耐熱性を向上させる作用が強いN-置換マレイミド構造の含有、および樹脂(A),(B)間の環構造の振り分けにより、上記含有率を30重量%以下とすることができ、高い耐熱性が達成されながらも、樹脂組成物の機械的特性の低下をより抑制できる。
[0089] 樹脂組成物(C)がN-置換マレイミド構造以外の環構造をさらに含む場合、樹脂組成物(C)におけるN-置換マレイミド構造の含有率T1に対するN-置換マレイミド構造以外の環構造の含有率T2の比T2/T1の下限は、例えば1以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、当該比の上限は、例えば20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。N-置換マレイミド構造以外の環構造は、例えば、前駆重合体における隣り合う2つの構成単位間の分子内環化反応により形成された環構造であり、具体的な例は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種であり、より具体的な例は、ラクトン環構造である。
[0090] 樹脂組成物(C)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、好ましくは、50重量%以上70重量%以下である。この範囲において、樹脂組成物(C)における環構造の含有率、および樹脂(B)が芳香族ビニル単量体単位を有する場合には、さらに当該単位の含有率を、より適切な範囲とすることができ、本発明の効果をより確実に得ることができる。
[0091] 樹脂(B)が芳香族ビニル単量体単位を有する場合、樹脂組成物(C)における当該単位の含有率の上限は、好ましくは15重量%以下である。樹脂組成物(C)における当該単位の含有率が過度に大きくなると、例えば、樹脂組成物(C)の複屈折性が負に大きくなって小さい複屈折が達成できなくなり、すなわち、樹脂組成物(C)における特性の制御の自由度が低下する。
[0092] 樹脂組成物(C)における樹脂(A)と樹脂(B)の混合比(重量比)は、樹脂組成物(C)におけるN-置換マレイミド構造の含有率が1重量%以上10重量%以下であり、樹脂(A)および樹脂(B)間の相溶性が確保されるともに本発明の効果が得られる限り、特に限定されない。混合比は、具体的な樹脂(A),(B)の構成によっても異なるが、一例として、樹脂(A):樹脂(B)=99:1~1:99であり、好ましくは95:5~5:95、より好ましくは90:10~10:90である。本発明の効果をより確実に得るためには、混合比は、樹脂(A):樹脂(B)=99:1~50:50が好ましく、より好ましくは96:4~60:40、さらに好ましくは93:7~70:30である。
[0093] 樹脂組成物(C)は、アクリル樹脂組成物でありうる。
・・・略・・・
[0096]・・・略・・・樹脂組成物(C)は、樹脂(A)および/または樹脂(B)と相溶しない重合体および/または樹脂を含むことができる。これら重合体および樹脂の一例は、ゴム質重合体などのエラストマー(G)である。樹脂組成物は、2種以上のエラストマー(G)を含むことができる。
・・・略・・・
[0098] エラストマー(G)の構成および形状は限定されず、その例は、架橋構造を有する有機微粒子・・・略・・・である。
[0099]・・・略・・・この有機微粒子は、架橋構造を有するコア部分に基づく架橋弾性を示す。有機微粒子はコア・シェル構造を有することが好ましく、この場合、当該有機微粒子の樹脂組成物(C)中への分散性が向上する。・・・略・・・分散性の向上は、樹脂組成物(C)における有機微粒子の分散状態をより均一にする。これにより、例えば、樹脂組成物(C)から構成されるフィルムの可撓性(例えば、耐折り曲げ性)をさらに向上できる。
・・・略・・・
[0130] [フィルム]
用途の一例として、樹脂組成物(C)から構成されるフィルム(樹脂フィルム);(F)を説明する。
[0131] フィルム(F)は、樹脂組成物(C)に由来する特性を有する。フィルム(F)は、例えば、アクリル樹脂が有する優れた光学的透明性を享受するとともに、高い耐熱性、より具体的には130℃以上の高いTg、を達成しながら、機械的特性の低下が抑制され、樹脂組成物から構成されるが故に期待される特性がより確実に確保されたフィルムである。具体的に期待される特性については、上述したとおりである。
[0132] このような特性に基づきフィルム(F)は、例えば、光学フィルムなどの光学部材;・・・略・・・;に使用できる。
[0133] フィルム(F)の厚さは、例えば、1~400μmである。
・・・略・・・
[0138] フィルム(F)は延伸フィルムでありうる。より具体的に、フィルム(F)は、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムでありうる。フィルム(F)が二軸延伸フィルムである場合、その延伸方向は、フィルム面内における任意の方向と、フィルム面内における当該方向とは垂直な方向であることが好ましい。フィルム(F)が帯状である場合、任意の方向は、例えばその長手方向(流れ方向;MD)であり、垂直な方向は、例えばその幅方向(TD)である。フィルム(F)が二軸延伸フィルムである場合、任意の方向および垂直な方向の双方の方向におけるフィルムの機械的特性、例えば可撓性、が向上する。
[0139] 延伸フィルムであるフィルム(F)は、樹脂組成物(C)の未延伸フィルムを延伸して形成できる。延伸温度の下限は、例えばTg以上であり、Tg+5℃以上、Tg+10℃以上、Tg+15℃以上の順に、より好ましい。延伸温度の上限は、例えばTg+40℃以下であり、Tg+35℃以下、Tg+30℃以下、Tg+25℃以下の順に、より好ましい。延伸温度が高くなると、樹脂組成物に含まれる重合体の分子鎖の配向に基づく強度向上の効果が低くなるが、高温でのフィルムの寸法変化率が低く抑制される傾向が得られる。一方、延伸温度が低くなると、上記強度向上の効果が高くなるが、高温での寸法変化率が大きくなる傾向がある。
[0140] 二軸延伸における上記任意の方向、例えばMD方向、の延伸倍率は、例えば1.3~1.9倍であり、好ましくは1.4~1.9倍である。延伸倍率が過度に小さくなると、延伸フィルムにおける分子鎖の配向を十分に確保できず、例えば、フィルムの可撓性、より具体的にはMD方向の可撓性が、延伸により期待される程度には達成されなくなる。可撓性が低いフィルムには、例えば、折り曲げによって白化が生じることがある。
[0141] 二軸延伸における上記垂直な方向、例えばTD方向、の延伸倍率は、例えば1.8~4.0倍であり、好ましくは2.0~3.8倍である。延伸倍率が過度に小さくなると、延伸フィルムにおける分子鎖の配向を十分に確保できず、例えば、フィルムの可撓性、より具体的にはTD方向の可撓性が、延伸により期待される程度には達成されなくなる。可撓性が低いフィルムには、例えば、折り曲げによって白化が生じることがある。
[0142] 延伸速度は、一方向の延伸につき、好ましくは10~20,000%/分、より好ましく100~10,000%/分である。これらの場合、フィルム延伸時の破断を防ぎながら、延伸フィルムをより効率よく形成できる。
・・・略・・・
[0144] フィルム(F)は、延伸フィルム、より具体的な例は二軸延伸フィルム、であって、110℃の高温乾燥状態における120時間の乾熱耐久試験において、試験前後の寸法変化率が-1.5%以上0.5%以下のフィルムでありうる。・・・略・・・このようなフィルムは、高温での加工に耐えうる耐熱性を有するとともに、高温での使用における耐久性に優れる。
・・・略・・・
[0145] フィルム(F)は、延伸フィルム、より具体的な例は二軸延伸フィルム、であって、85℃および相対湿度95%RHの高温湿潤状態における120時間の湿熱耐久試験において、試験前後の寸法変化率が-1.5%以上0.5%以下のフィルムでありうる。・・・略・・・このようなフィルムは、高温高湿度での加工に耐えうる耐熱性を有するとともに、高温高湿度での使用における耐久性に優れる。
[0146] フィルム(F)は、必要に応じて、・・・略・・・防眩(ノングレア)層、・・・略・・・反射防止層、ハードコート層、・・・略・・・光拡散層、・・・略・・・といった種々の機能性層をさらに有していてもよい。これらの機能性層は、フィルム(F)の表面に塗布されたフィルム(F)のコーティング層であってもよい・・・略・・・。
・・・略・・・
[0147] フィルム(F)の用途は限定されず、例えば、光学部材としての使用(光学用途)である。光学部材は、例えば、偏光板に用いる偏光子保護フィルム・・・略・・・である。」
イ 「実施例
[0149]
・・・略・・・
[0151] MMA:メタクリル酸メチル
MHMA:2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル
PMI:N-フェニルマレイミド
AN:アクリロニトリル
St:スチレン
・・・略・・・
[0163] [耐久性試験(寸法変化率)]
フィルムの耐久性(寸法変化率)は、以下のように評価した。最初に、フィルムを切り出して、80mm×80mmの正方形の測定試料3枚を作製した。次に、切り出した試料の四辺の長さ(La1、La2、La3、La4)をデジタルノギスで測定した。次に、試料を、110℃に設定した恒温槽、または85℃、相対湿度(RH)95%に設定した恒温槽で120時間保管し、保管後の試料の四片の長さ(Lb1、Lb2、Lb3、Lb4)を再度測定した。
[0164] 次に、保管前後における試料の各辺の寸法変化率を式:寸法変化率=|(Lb-La)/La|×100(%)により求め、3つのサンプルおよび4辺の総平均を、フィルムの寸法変化率とした。上記式のLaは、保管前のフィルムの一辺の長さ、Lbは、保管後のフィルムの一片の長さである。
[0165] [樹脂組成物におけるN-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率]
樹脂組成物におけるN-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率は、以下のようにして求めた。N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位を有する樹脂(本実施例では、負の固有複屈折を有する樹脂)における当該構成単位の含有率を、NMR測定装置(Varian製、UnityPlus400)を用いて、当該樹脂の1H-NMRスペクトルを測定することによって求めた。より具体的に、評価対象の樹脂(重量a)、および内標として1,1,2,2-テトラクロロエタン(分子量167.85、重量b)を重クロロホルムに溶解させ、測定したスペクトルにおける内標(化学シフト5.9ppm、4プロトン分)のピーク面積Xと、上記構成単位の基R1およびR2のプロトンに由来するピーク面積Y)との面積比(X/Y)から、評価対象の樹脂における上記構成単位の含有率を求めた。例えば、上記構成単位の基R1およびR2がいずれも水素原子であり、R3がフェニル基である場合、樹脂における上記構成単位の含有率は、2/4×173.17/167.85×b/a×(Y/X)×100(重量%)となる。次に、得られた含有率と、樹脂組成物における当該樹脂および他の樹脂(本実施例では、正の固有複屈折を有する樹脂)との重量比から、樹脂組成物における上記構成単位の含有率を算出した。
[0166] [脱アルコール反応率(ラクトン環化率)]
ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂における当該環構造の含有率は、以下のように評価した。
[0167]本実施例では、前駆重合体における分子内環化縮合反応(MMA単位とMHMA単位との間の脱アルコール環化縮合反応)によりラクトン環構造を形成した。前駆重合体に含まれる全ての水酸基(MHMA単位に由来する水酸基)がメタノールとして脱アルコールしたと仮定したときの重合体の重量減少率を基準とし、実際に作製した樹脂を加熱して当該樹脂に残留していた水酸基がメタノールとして脱アルコールすることによる重量減少率を測定して上記基準と比較することにより、ラクトン環含有率を求めた。
[0168] 具体的に、作製した樹脂(ここでは、主鎖にラクトン環構造を有する重合体)に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃までの間の当該樹脂の重量減少率(実測重量減少率P)を測定した。150℃は、樹脂に残留した水酸基が脱アルコール反応を開始する温度に、300℃は当該樹脂が分解を始める温度に対応する。これとは別に、前駆重合体の組成から、当該前駆重合体に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与した、すなわち脱アルコールした、と仮定したときの理論重量減少率Qを計算した。理論重量減少率Qは、より具体的に、前駆重合体における脱アルコール反応に関与する構成単位(水酸基を有する構成単位)の含有率から算出した。次に、実測重量減少率Pおよび理論重量減少率Qから、式:{1-(実測重量減少率P/ 理論重量減少率Q)}×100(%)により、評価対象の樹脂の脱アルコール既反応率(%)を求めた。脱アルコール既反応率は、前駆重合体から、評価対象である主鎖にラクトン環構造を有する重合体を作製する間に環化反応した構成単位の量に対応する。そして、求めた脱アルコール既反応率の分だけ、樹脂作製時にラクトン環化反応が進行したとして、式:B×A×MR/Mmにより、樹脂におけるラクトン環構造の含有率を求めた。Bは、前駆重合体(ラクトン環化反応が進行する前の重合体)における、ラクトン環化反応に関与する構成単位(水酸基を有する構成単位)の含有率であり、MRは、環化反応により形成されるラクトン環構造の式量であり、Mmは、上記構成単位の分子量であり、Aは、脱アルコール反応率である。
[0169] (実施例1:樹脂組成物P1の作製)
(正の固有複屈折を有するアクリル樹脂A1の作製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、8000gのMMA、2000gのMHMA、および重合溶媒として10000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温した。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として10.0gのt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570、以下同じ)を添加した。続いて、20.0gのt-アミルパーオキシイソノナノエートと、100gのトルエンとからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、約105~110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間かけて熟成を行った。
[0170] 次に、このようにして得た重合溶液に、環化触媒として10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、PhoslexA-18)を加え、約90~120℃の還流下で5時間、ラクトン環構造が生成する環化縮合反応を進行させた。これに続いて、240℃の熱媒を用いたオートクレーブにより重合溶液を加熱および加圧して、さらに1.5時間、環化縮合反応を進行させた。オートクレーブの圧力は、ゲージ圧にして最高約2MPaとした。
[0171] 次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、および減圧度13.3~400hPa(10~300mmHg)に設定し、1つのリアベントおよび4つのフォアベントを備えるベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=30mm、L/D=40)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入することにより、押出機内でさらなる環化縮合反応の進行と脱揮とを実施し、さらにその先端より押出して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂A1の透明なペレットを得た。樹脂A1の重量平均分子量Mwは14.8万、ガラス転移温度Tgは130℃、固有複屈折は正、ラクトン環含有率は29.2%、応力光学係数Crは4.2×10-10Pa-1であった。
[0172] (負の固有複屈折を有する樹脂B1の作製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、3200gのPMI、1400gのAN、5400gのSt、および重合溶媒として10000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温した。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として6.0gのt-アミルパーオキシイソノナノエートを添加して、約105~110℃の還流下で溶液重合を進行させた。
[0173] 次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、および減圧度13.3~400hPa(10~300mmHg)に設定し、1つのリアベントおよび4つのフォアベントを備えるベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=30mm、L/D=40)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入することにより脱揮を実施し、さらにその先端より押出して、主鎖にN-置換マレイミド構造(PMI構造)を有する樹脂B1の透明なペレットを得た。樹脂B1の重量平均分子量Mwは15.3万、ガラス転移温度Tgは146℃、固有複屈折は負、応力光学係数Crは-24.8×10-10Pa-1であった。また、樹脂B1におけるN-置換マレイミド構造の含有率(N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率)は31.6%であった。
・・・略・・・
[0175] (実施例2)
(樹脂組成物P2の作製)
上記のように作製した樹脂A1および樹脂B1を、A1/B1=87.4/12.6の重量比となるように二軸押出機(φ=30mm、L/D=40)を用いて260℃で混練して、ペレット状の樹脂組成物P2を得た。樹脂組成物P2におけるN-置換マレイミド構造の含有率は4.0%、ラクトン環構造の含有率は25.5重量%であった。
・・・略・・・樹脂組成物P2のTgは1点のみが測定され、すなわち、樹脂組成物P2において樹脂A1および樹脂B1は相溶していることが確認された。
[0182] (実施例4)
実施例2で作製した樹脂組成物P2を、単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)を用いてコートハンガータイプTダイ(幅150mm、Tダイ温度260℃)から溶融押出成形し、これをロール温度130℃の冷却ロール上に吐出して、厚さ160μmの未延伸フィルムを作製した。
[0183] 次に、得られた未延伸フィルムを96mm×96mmに切り出した後、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所製、X-6S)を用いて、延伸温度147℃(=Tg+15℃)、240mm/分の延伸速度で縦方向および横方向(MD方向およびTD方向)の順に、それぞれ延伸倍率2倍で逐次二軸延伸を行った。延伸後、試験装置からフィルムを速やかに取り出して冷却し、厚さ40μmの二軸延伸フィルムF1を得た。得られたフィルムF1の評価結果を、以下の表2にまとめる。
[0184] (実施例5)
延伸温度を152℃(=Tg+20℃)に変更した以外は、実施例4と同様にして、厚さ40μmの二軸延伸フィルムF2を得た。得られたフィルムF2の評価結果を、以下の表2にまとめる。
・・・略・・・
[0188] (実施例6)
(ゴム質重合体G1の作製)
冷却器および攪拌機を備えた重合容器に、脱イオン水710部およびラウリル硫酸ナトリウム1.5部を投入して溶解させ、内温を70℃に昇温した。次に、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.93部、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.003部、および脱イオン水20部の混合溶液を重合容器に一括してさらに投入した後、重合容器内を窒素ガスで十分に置換した。次に、アクリル酸ブチル(BA)7.1部、St2.9部、ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール(BDMA)0.02部およびメタクリル酸アリル(AMA)0.02部のモノマー混合液M-1と、t-ブチルハイドロパーオキサイド(PBH)0.13部および脱イオン水10.0部の重合開始剤溶液とを、重合容器に一括してさらに添加して、60分間の重合反応を進行させた。次に、BA63.9部、St25.2部およびAMA0.9部のモノマー混合液M2と、PBH0.246部および脱イオン水20.0部の重合開始剤溶液とを、別々に90分間かけて重合容器に連続滴下しながら、さらなる重合反応を進行させ、これらの滴下終了後もさらに60分間重合反応を継続させた。この一連の反応により、ゴム質重合体のコア・シェル構造のコアとなる部分を得た。
[0189] 次に、St73.0部およびアクリロニトリル(AN)27.0部のモノマー混合液M3と、PBH0.27部および脱イオン水20.0部の重合開始剤溶液とを、別々に100分間かけて連続滴下しながらさらなる重合反応を進行させ、これらの滴下終了後も、重合容器の内温を80℃に昇温して120分間重合反応を継続させた。次に、重合容器の内温が40℃になるまで冷却した後、内容物を300メッシュの金網を通過させて、コア・シェル構造を有するゴム質重合体の乳化重合液を得た。次に、得られた乳化重合液を塩化カルシウムで塩析および凝固した後、固形物を水洗および乾燥して、粉体状のゴム質重合体G1(平均粒子径0.105μm)を得た。
[0190] (樹脂組成物P6の作製)
上記のようにして作製した樹脂A1および樹脂B1、ならびにゴム質重合体G1を、A1/B1/G1=85/10/5の重量比となるように二軸押出機(φ=30mm、L/D=40)を用いて260℃で混練して、ペレット状の樹脂組成物P6を得た。樹脂組成物P6におけるN-置換マレイミド構造の含有率は3.2%、ラクトン環構造の含有率は23.4%であった。・・・略・・・樹脂組成物P6のTgは1点のみが測定され、すなわち、樹脂組成物P6において樹脂A1および樹脂B1は相溶していることが確認された。
[0191] (実施例7)
(樹脂組成物P7の作製)
上記のようにして作製した樹脂A1および樹脂B1、ならびにゴム質重合体G1を、A1/B1/G1=80.5/12/7.5の重量比となるように二軸押出機(φ=30mm、L/D=40)を用いて260℃で混練して、ペレット状の樹脂組成物P7を得た。樹脂組成物P7におけるN-置換マレイミド構造の含有率は3.8%、ラクトン環構造の含有率は23.5%であった。
・・・略・・・
[0192] (実施例8)
樹脂組成物P2の代わりに実施例6で作製した樹脂組成物P6を用いるとともに、延伸温度を149℃(=Tg+18℃)に変更した以外は、実施例4と同様にして、厚さ40μmの二軸延伸フィルムF5を得た。
・・・略・・・
[0193] (実施例9)
樹脂組成物P2の代わりに実施例7で作製した樹脂組成物P7を用いるとともに、延伸温度を149℃(=Tg+18℃)に変更した以外は、実施例4と同様にして、厚さ40μmの二軸延伸フィルムF6を得た。
・・・略・・・
[0194]
[表1]
[図:0001406689000003.jpg]
[0195][表2]
[図:0001406689000004.jpg]
(当合議体注:[表1]及び[表2]については、便宜上90度回転した。)」
(2) 甲1発明
上記(1)より、甲1には、実施例4に係る以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。参考のため、認定の根拠となった箇所をかっこ内に示す。
「以下のように作製した樹脂A1、および樹脂B1を、A1/B1=87.4/12.6の重量比となるように二軸押出機(φ=30mm、L/D=40)を用いて260℃で混練して、ペレット状の樹脂組成物P2を得て(なお、樹脂組成物P2におけるN-置換マレイミド構造の含有率は4.0%、ラクトン環構造の含有率は25.5重量%であった。)、([0175])
樹脂組成物P2を、単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)を用いてコートハンガータイプTダイ(幅150mm、Tダイ温度260℃)から溶融押出成形し、これをロール温度130℃の冷却ロール上に吐出して、厚さ160μmの未延伸フィルムを作製し、([0182])
次に、得られた未延伸フィルムを96mm×96mmに切り出した後、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所製、X-6S)を用いて、延伸温度147℃(=Tg+15℃)、240mm/分の延伸速度で縦方向および横方向(MD方向およびTD方向)の順に、それぞれ延伸倍率2倍で逐次二軸延伸を行い、延伸後、試験装置からフィルムを速やかに取り出して冷却して得た、厚さ40μmの二軸延伸フィルムF1であって、([0183])
以下のように測定したフィルムの寸法変化率が-0.7%である、二軸延伸フィルムF1。([0195])
・樹脂A1の作製方法
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、8000gのMMA、2000gのMHMA、および重合溶媒として10000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温した。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として10.0gのt-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570、以下同じ)を添加した。続いて、20.0gのt-アミルパーオキシイソノナノエートと、100gのトルエンとからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、約105~110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間かけて熟成を行った。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化触媒として10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、PhoslexA-18)を加え、約90~120℃の還流下で5時間、ラクトン環構造が生成する環化縮合反応を進行させた。これに続いて、240℃の熱媒を用いたオートクレーブにより重合溶液を加熱および加圧して、さらに1.5時間、環化縮合反応を進行させた。オートクレーブの圧力は、ゲージ圧にして最高約2MPaとした。
次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、および減圧度13.3~400hPa(10~300mmHg)に設定し、1つのリアベントおよび4つのフォアベントを備えるベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=30mm、L/D=40)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入することにより、押出機内でさらなる環化縮合反応の進行と脱揮とを実施し、さらにその先端より押出して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂A1の透明なペレットを得た。樹脂A1のラクトン環含有率は29.2%であった。([0169]~[0171])
・樹脂B1の作製方法
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、3200gのPMI、1400gのAN、5400gのSt、および重合溶媒として10000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温した。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として6.0gのt-アミルパーオキシイソノナノエートを添加して、約105~110℃の還流下で溶液重合を進行させた。
次に、このようにして得た重合溶液を、バレル温度260℃、回転速度100rpm、および減圧度13.3~400hPa(10~300mmHg)に設定し、1つのリアベントおよび4つのフォアベントを備えるベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=30mm、L/D=40)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入することにより脱揮を実施し、さらにその先端より押出して、主鎖にN-置換マレイミド構造(PMI構造)を有する樹脂B1の透明なペレットを得た。樹脂B1の重量平均分子量Mwは15.3万、ガラス転移温度Tgは146℃、固有複屈折は負、応力光学係数Crは-24.8×10-10Pa-1であった。また、樹脂B1におけるN-置換マレイミド構造の含有率(N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率)は31.6%であった。([0172]~[0173])
・フィルムの寸法変化率の測定方法
最初に、フィルムを切り出して、80mm×80mmの正方形の測定試料3枚を作製した。次に、切り出した試料の四辺の長さ(La1、La2、La3、La4)をデジタルノギスで測定した。次に、試料を、110℃に設定した恒温槽、または85℃、相対湿度(RH)95%に設定した恒温槽で120時間保管し、保管後の試料の四片の長さ(Lb1、Lb2、Lb3、Lb4)を再度測定した。
次に、保管前後における試料の各辺の寸法変化率を式:寸法変化率=|(Lb-La)/La|×100(%)により求め、3つのサンプルおよび4辺の総平均を、フィルムの寸法変化率とした。上記式のLaは、保管前のフィルムの一辺の長さ、Lbは、保管後のフィルムの一片の長さである。([0163]、[0164])」
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア) 甲1発明の「二軸延伸フィルムF1」を構成する「樹脂A1」は、「MMA」(メタクリル酸メチル)や「MHMA」(2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル)([0151])を原料とする、「主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂」であるから、本件特許発明1の「アクリル系樹脂」に相当する。
(イ) 甲1発明の「二軸延伸フィルムF1」は、「延伸フィルム」である。
そうすると、上記(ア)より、甲1発明の「二軸延伸フィルムF1」は、本件特許発明1の、「アクリル系樹脂を含有する」とされる、「延伸フィルム」に相当する。
(ウ) 甲1には、「フィルム(F)は、必要に応じて、・・・略・・・防眩(ノングレア)層、・・・略・・・反射防止層、ハードコート層、・・・略・・・光拡散層、・・・略・・・といった種々の機能性層をさらに有していてもよい。」([0146])と記載されていることから、甲1発明の「二軸延伸フィルムF1」は、反射防止層、ハードコート層、光拡散層などの機能性層を設けるための「基材フィルム」であるとともに、これを含む「光学フィルム」に相当するといえる。
(エ) 甲1発明の「二軸延伸フィルムF1」は、「寸法変化率が-0.7%である」。
そうすると、甲1発明と、本件特許発明1は、「前記光学フィルム中の基材フィルムは」、「寸法変化率が」「-2.0%~0%であり」との構成を具備する。
(オ) 上記(ア)~(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明は、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムを含む光学フィルムであり、前記光学フィルム中の基材フィルムは、寸法変化率が-2.0%~0%である、光学フィルム」である点で一致し、以下の点で相違、あるいは一応相違する。
(相違点1-1)
本件特許発明1の「基材フィルム」の「寸法変化率」は、「10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際」の「前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向」におけるものであるのに対して、甲1発明の「基材フィルム」の「寸法変化率」は、「80mm×80mm」に「切り出し」て、「110℃に設定した恒温槽」で「120時間保管」し、「寸法変化率=|(Lb-La)/La|×100(%)により求め、3つのサンプルおよび4辺の総平均を、フィルムの寸法変化率とした」(「上記式のLaは、保管前のフィルムの一辺の長さ、Lbは、保管後のフィルムの一片の長さ」を表す)」ものである点。
(相違点1-2)
本件特許発明1に係る「光学フィルム」は、「基材フィルムの片側に形成された表面処理層」を有し、「当該表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層」であるのに対し、甲1発明に係る「光学フィルム」は、「基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層である」「表面処理層」を有しない点。
(相違点1-3)
本件特許発明1に係る「アクリル系樹脂」が、「グルタルイミド単位を含み」、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」のに対して、甲1発明に係る「樹脂A1」(「アクリル系樹脂」)は、「グルタルイミド単位を含」むのか不明であり、また、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」のかも不明である点。
イ 判断
(ア) 新規性について
甲1発明の「主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂A1」は、その製造工程において、メチルアミン等のイミド化剤(甲1の[0051]参照)を使用していないから、グルタルイミド単位を含んでいない。
そうすると、相違点1-3は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。
(イ) 進歩性について
相違点1-3について検討する。
a 甲1発明は、「フィルム」の「樹脂組成物」を、「正の固有複屈折を有するアクリル樹脂(A)と、負の固有複屈折を有し、N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位を有する樹脂(B)と、を含」み、「樹脂組成物における前記N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率」を「1重量%以上10重量%以下」とし、「樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)」を「130℃以上」とすることにより(甲1の[0012]~[0013])、「アクリル樹脂が有する優れた光学的透明性を享受するとともに、高い耐熱性、より具体的には高いTgが達成されながらも、機械的特性の低下が抑制され、複数の樹脂がブレンドされた樹脂組成物であるが故に期待される特性をより確実に確保できる、光学フィルムをはじめとする各種用途に使用可能な樹脂組成物」を提供するとの課題([0011])を解決したものである。
b 甲1発明においては、「樹脂組成物P2におけるN-置換マレイミド構造の含有率は4.0%、ラクトン環構造の含有率は25.5重量%」、「樹脂A1のラクトン環含有率は29.2%」、「樹脂B1におけるN-置換マレイミド構造の含有率(N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率)は31.6%」であるところ、甲1には、
「アクリル樹脂(A)」、「アクリル樹脂(A)」が含む「アクリル重合体(D)」、「樹脂(B)」及び「樹脂組成物(C)」について、
(A1)「アクリル重合体(D)が主鎖に有しうる環構造は、例えば、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、無水マレイン酸構造、およびN-置換マレイミド構造から選ばれる少なくとも1種である」(同[0041])、
(A2)「アクリル重合体(D)が主鎖に環構造を有する場合、重合体(D)における当該環構造の含有率は、例えば、2重量%以上50重量%以下である」、「この範囲において、樹脂(A)の固有複屈折を正としながら、樹脂組成物(C)の耐熱性をバランスよく向上できるとともに、樹脂組成物(C)の機械的特性の低下をより抑制できる」([0062])、
「樹脂(B)」及び「樹脂(B)」が含む「重合体(E)」について、
(B1) 「マレイミド系重合体である重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率は、例えば、5重量%以上50重量%以下である」、「重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率が過度に小さくなると、樹脂(B)および樹脂組成物(C)の耐熱性を向上させる効果が十分に得られない」、「重合体(E)におけるN-置換マレイミド構造の含有率が過度に大きくなると、樹脂(B)が硬く脆くなって、樹脂組成物(C)の機械的特性の低下を抑制する効果が得難くなる」([0073])、
「樹脂組成物(C)」について、
(C1) 「N-置換マレイミド構造の含有率は、1重量%以上10重量%以下である」、「当該含有率が1重量%未満の場合、樹脂組成物の高い耐熱性が達成されない」、「当該含有率が10重量%を超えると、樹脂組成物の機械的特性が大きく低下したり、複数の樹脂がブレンドされた樹脂組成物であるが故に期待される特性の確保が難しくなる」、
(C2)「樹脂組成物(C)は、N-置換マレイミド構造以外に当該環構造を含む」、「この場合は、樹脂組成物(C)が含む環構造が、樹脂(A)および樹脂(B)のいずれか一方の樹脂に集められているのではなく、樹脂(A)と樹脂(B)とに、その種類に応じて振り分けられている状態でもある」、「そしてこの場合、上述した本発明の効果がより顕著となる。より具体的に、高い耐熱性が達成されながらも、機械的特性の低下がさらに抑制され、樹脂組成物であるが故に期待される特性をさらに確実に確保できる」([0086])、
(C3)「樹脂組成物(C)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を含む場合、樹脂組成物(C)における、N-置換マレイミド構造を含む全環構造の含有率の下限は、例えば10重量%であり、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上の順に、より好ましい」、「当該含有率の上限は、樹脂組成物の機械的特性の低下をより確実に抑制するために、例えば、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下の順に、より好ましい」([0087])、
(C4)「樹脂(A)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を含む場合であって、当該環構造が、前駆重合体における隣り合う2つの構成単位間の分子内環化反応により形成された環構造である場合、樹脂組成物(C)における当該環構造の含有率は、30重量%以下でありうる」、「樹脂(A)がN-置換マレイミド構造以外の環構造を含む樹脂組成物(C)では、樹脂組成物の耐熱性を向上させる作用が強いN-置換マレイミド構造の含有、および樹脂(A),(B)間の環構造の振り分けにより、上記含有率を30重量%以下とすることができ、高い耐熱性が達成されながらも、樹脂組成物の機械的特性の低下をより抑制できる」([0088])、
(C5)「樹脂組成物(C)における樹脂(A)と樹脂(B)の混合比(重量比)は、樹脂組成物(C)におけるN-置換マレイミド構造の含有率が1重量%以上10重量%以下であり、樹脂(A)および樹脂(B)間の相溶性が確保されるともに本発明の効果が得られる限り、特に限定されない。」([0092])と記載されている。
さらに、甲1には、フィルムの特性、「寸法変化率」等のフィルムの機械的特性について、
(D1) 「特性は、例えば機械的特性および光学的特性であり、より具体的な例は、低い複屈折性、低い光弾性係数、低いヘイズ、フィルムとしたときの高い機械的特性(例えば可撓性)、低い寸法変化率、および複屈折の低い波長分散性である」([0030])、
(D2)「樹脂(A)が環構造を含む場合、より具体的な例として樹脂(A)が主鎖に環構造を有する重合体を含む場合、環構造の含有率の低い樹脂(A)を採用できる」、「このことは、樹脂組成物(C)としての低い光弾性係数、低いヘイズ、高い可撓性、寸法変化率の小ささなどに寄与する」([0031])、
(D3)「延伸温度が高くなると、樹脂組成物に含まれる重合体の分子鎖の配向に基づく強度向上の効果が低くなるが、高温でのフィルムの寸法変化率が低く抑制される傾向が得られる」([0139])、
(D4)「フィルム(F)は、延伸フィルム、より具体的な例は二軸延伸フィルム、であって、110℃の高温乾燥状態における120時間の乾熱耐久試験において、試験前後の寸法変化率が-1.5%以上0.5%以下のフィルムでありうる」、「このようなフィルムは、高温での加工に耐えうる耐熱性を有するとともに、高温での使用における耐久性に優れる。」([0144])と記載されている。
c 上記bの甲1の各記載に接した当業者であれば、上記aで示した技術思想を前提として、甲1発明を出発点として設計変更を行うに際し、
(I)上記bの(A1)に基づき、樹脂A1のラクトン環構造に替えて、グルタルイミド環構造を含む構成とすること、
(II)(A2)、(C3)、(C4)及び(C5)等に基づき、「樹脂A1」における「環構造の含有率」が「2重量%以上50重量%以下」の範囲内、「樹脂組成物(C)」における「N-置換マレイミド構造を含む全環構造の含有率」が10重量%以上、40重量%以下の範囲内、「樹脂組成物(C)」における(前駆重合体における隣り合う2つの構成単位間の分子内環化反応により形成される)環構造の含有率が30重量%以下の範囲内で、
「樹脂組成物における前記N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位の含有率」を「1重量%以上10重量%以下」、「樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)」「130℃以上」の構成を前提としつつ、
樹脂A1の固有複屈折を正としながら、樹脂組成物P2の耐熱性をバランスよく向上しつつ、樹脂組成物P2の機械的特性の低下をより抑制できるように、樹脂A1における環構造(グルタルイミド環構造)の含有率(重量%)、樹脂B1におけるN-置換マレイミド構造の含有率(重量%)及び樹脂A1と樹脂B1の混合比(重量比)を調整すること、
(III)(D1)~(D4)等に基づき、寸法安定性、可撓性、強度等の機械的特性に関し、樹脂組成物として高い可撓性、小さい寸法変化率(-1.5%以上0.5%以下)が得られるように、低い環構造の含有率とするように調整すること、分子鎖の配向に基づく強度向上及び寸法変化率の抑制の観点から(Tg以上の)延伸温度を調整すること、
ができるとまではいえる。
d しかしながら、甲1には、
ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂Aにおける環構造の含有率について、[0166]~[0168]に、脱アルコール反応率(ラクトン環化率)を利用して求める方法が記載され、
N-置換マレイミド単量体に由来する構成単位を有する樹脂Bにおける当該構成単位の含有率について、[0165]~[0166]に、NMR測定装置(Varian製、UnityPlus400)を用いて、当該樹脂の1H-NMRスペクトルを測定することによって求める方法が記載されているものの、グルタルイミド環構造を主鎖に有する樹脂Aにおける当該環構造の含有率について、どのように求めるのかについてその定義、方法は記載されていない。
そして、本件特許発明1における「イミド化率」は、本件特許明細書の【0036】によれば、「1HNMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の1H-NMR測定により」、「3.5から3.8ppm付近のアルキル(メタ)アクリレートのO-CH3プロトン由来のピーク面積をAとし、3.0から3.3ppm付近のグルタルイミドのN-CH3プロトン由来のピークの面積をBとして」、「イミド化率Im(%)={B/(A+B)}×100」により求めたものと解されるところ、たとえ甲1に、主鎖にグルタルイミド環構造を含む樹脂A1について、上記cで述べたような調整について記載、示唆されているとしても、甲1発明において、本件特許発明1の、アクリル系樹脂におけるイミド化率(本件特許明細書の【0036】)が2.5%~20.0%である構成には至らない。
また、アクリル系樹脂におけるイミド化率を上記の定義のものとすること、また、アクリル系樹脂の上記の定義によるイミド化率を2.5%~20.0%の範囲とすることは、技術常識でもなく、特許異議申立人が提出した甲2、甲3~甲5、令和5年3月27日付け取消理由通知書において引用した引例1にも記載も示唆もされていない。
e 令和5年7月21日提出の意見書における特許異議申立人の主張について
同意見書2頁6~11行及び2頁22行~3頁8行において、本件特許発明1と甲1との新たな相違点として、「本件特許発明1は、「前記アクリル系樹脂が、グルタルイミド単位を含み」ということが明示されていない点(相違点4)」、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」ということが明示されていない点(相違点5))を抽出し、相違点4については、甲1の[0041]の記載に基づき、アクリル樹脂として、グルタルイミド構造を含む物とすることに何ら困難性はない、相違点5については、アクリル系樹脂のイミド化率を調整することは、当業者が適宜なし得ることであるから、相違点5は、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎず、設計事項である、また、本件特許明細書の実施例においては、イミド化率が5.0%のアクリル系樹脂しか記載されていないので、イミド化率が20.0%を超えたアクリル樹脂を用いた場合と比較したイミド化率が5.0%のアクリル樹脂を用いることによる優位性は示されていない、と主張する。
しかしながら、上記dで述べたとおりであるから、同意見書における特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
f 以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点1-3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5、引例1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5、引例1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備する発明であるから、上記(3)イで述べた理由と同様の理由により、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲5、引例1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5) 本件特許発明1~7について
上記(1)~(4)においては、実施例4に係る二軸延伸フィルムF1に基づいて、甲1発明を認定し、対比・判断を行ったが、これに替えて、実施例5に係る二軸延伸フィルムF2の発明、実施例8に係る二軸延伸フィルムF5の発明、あるいは実施例9に係る二軸延伸フィルムF9の発明に基づいて、本件特許発明1との対比を行っても、それぞれ上記(3)アで述べたのと同じ一致点、相違点が抽出され、相違点1-3についての判断も、上記イで延べたのと同様である。本件特許発明2~7についても同様である。
2 甲2を主引用例とした場合の新規性(特許法第29条第1項第3号)、進歩性(特許法第29条第2項)について
(1) 甲2に記載された事項
ア 「【0001】
本発明は、耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物とそれを用いたフィルムに関する。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの化合物は主鎖に環構造を有するアクリル樹脂との相溶性に課題が残る。高温での成型時における発泡、ブリードアウトの発生の抑制も必ずしも十分であるといえない。また、アクリル樹脂と紫外線吸収剤とを含む樹脂組成物から成形材を形成する際に、得られた成形材の外観上の欠点を減らすことを目的として、ポリマーフィルターによる樹脂組成物の濾過を行うことがあるが、この場合、樹脂組成物の成形温度をさらに高くする必要がある。成形温度が高くなると、発泡やブリードアウトが発生しやすくなるとともに、紫外線吸収剤の蒸散に伴う紫外線吸収能の低下や、成形装置の汚染といった問題が生じやすくなる。
【0009】
本発明は、アクリル樹脂、紫外線吸収剤およびゴム質重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、ガラス転移温度の高さに基づく、優れた耐熱性を有しながら、高温での成形時においても、発泡、ブリードアウトなどの発生が抑制され、紫外線吸収剤の蒸散による問題の発生を低減できる機械的強度に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性アクリル樹脂(アクリル樹脂(A))と、分子量が700以上の紫外線吸収剤(B)およびゴム質重合体(C)とを含み、110℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する。
・・・略・・・
【0012】
本発明の偏光子保護フィルムは本発明のフィルムの1種であり、上記本発明の樹脂組成物からなる。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂組成物は、110℃以上という高いTgに基づく優れた耐熱性を示すとともに、高温での成型時においても発泡、ブリードアウトの発生が抑制され、紫外線吸収剤の蒸散による問題の発生が少ない。
【0016】
このような樹脂組成物からなる本発明のフィルムはTgの高さに基づく優れた耐熱性を有するとともに、紫外線吸収剤に基づく高い紫外線吸収能、アクリル樹脂に基づく高い透明性および優れた光学特性ならびにゴム質重合体に基づく優れた機械的強度および成形加工性とを示す。また、本発明のフィルムは発泡やブリードアウトによる外観上の欠点あるいは光学的な欠点が少なく、この効果は、本発明のフィルムが偏光子保護フィルムなどの光学部材として用いられる場合に、より顕著となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
・・・略・・・
【0018】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物について詳細に説明する。
【0019】
[アクリル樹脂(A)]
アクリル樹脂(A)は熱可塑性アクリル樹脂である限り特に限定されない。ただし、アクリル樹脂(A)は樹脂組成物としてのTgが110℃以上となるアクリル樹脂である必要がある。
・・・略・・・
【0023】
アクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位としてこれらの構成単位を2種類以上有していてもよい。
・・・略・・・
【0024】
アクリル樹脂(A)のTgは、紫外線吸収剤(B)およびゴム質重合体(C)を含む樹脂組成物としてのTgが110℃以上であることから、通常110℃以上である。
・・・略・・・
【0025】
アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有していてもよい。この場合、アクリル樹脂(A)および樹脂組成物のTgが高くなり、当該組成物から得た樹脂成形品の耐熱性が向上する。このように主鎖に環構造を有するアクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物から得た樹脂成形品、例えばフィルムは画像表示装置における光源などの発熱部近傍への配置が容易になるなど光学部材としての用途に好適である。
【0026】
アクリル樹脂(A)が環構造を有することにより、樹脂組成物のTgが高くなると、当該組成物の成形温度を高くする必要がある。成形温度が高くなると、成型時に発泡や紫外線吸収剤のブリードアウトが生じやすく、紫外線吸収剤の蒸散も強くなりやすい。しかし、本発明の樹脂組成物では、このような場合においても、発泡やブリードアウトの発生が少なく、紫外線吸収剤の蒸散による問題の発生を抑制できる。
【0027】
環構造の種類は特に限定されないが、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
以下の一般式(2)に無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造を示す。
【0029】
【化1】
[図:0001406689000005.jpg]
・・・略・・・
【0031】
・・・略・・・無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0032】
・・・略・・・グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0033】
以下の一般式(3)に、無水マレイン酸構造およびN-置換マレイミド構造を示す。
【0034】
【化2】
[図:0001406689000006.jpg]
・・・略・・・
【0036】
・・・略・・・無水マレイン酸構造は、例えば、無水マレイン酸と( メタ) アクリル酸エステルとを共重合体して形成できる。
【0037】
・・・略・・・N-置換マレイミド構造は、例えば、フェニルマレイミドなどのN-置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを重合体して形成できる。
【0038】
なお、一般式(2)、(3)の説明において例示した環構造を形成する各方法では、各々の環構造を形成に用いる重合体が全て(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単として有するため、当該方法により得た樹脂はアクリル樹脂となる。
・・・略・・・
【0043】
アクリル樹脂(A)におけるラクトン環構造を除く上記環構造の含有率は特に限定されないが、例えば5~90%であり、好ましくは10~70%であり、よりこの好ましくは10~60%であり、さらに好ましくは10~50%である。
【0044】
アクリル樹脂(A)が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該樹脂におけるラクトン環構造の含有率は特に限定はされないが、例えば5~90%であり、好ましくは10~80%であり、より好ましくは10~70%であり、さらに好ましくは20~60%である。
【0045】
アクリル樹脂(A)における環構造の含有率が過渡に小さくなると、樹脂組成物ならびに当該組成物から得られるフィルムなどの成形品における耐熱性の低下や、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがある。一方、上記含有率が過渡に大きくなると、樹脂組成物の成形性、ハンドリング性が低下する。
・・・略・・・
【0062】
[紫外線吸収剤(B)]
紫外線吸収剤(B)の分子量は700以上である。
・・・略・・・
【0080】
[ゴム質重合体(C)]
ゴム質重合体(C)は、本発明の樹脂組成物をフィルムとした場合の可とう性の改善および位相差を低下させる効果を有するものである。
【0081】
樹脂組成物をフィルムとした場合の位相差を小さくするため、上記ゴム質重合体(C)は、シアン化ビニル系単量体の構造単位と芳香族ビニル系単量体の構造単位とを含むことがより好ましい。上記構成によれば、上記構造単位を有するゴム質重合体(C)は、アクリル樹脂(A)との相溶性に優れるため、上記ゴム質重合体(C)はアクリル樹脂(A)中でより均一に分散することができる。このため、フィルムとした場合の耐折曲げ性(可とう性)をより改善することができる。
・・・略・・・
【0118】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は上記アクリル樹脂(A)と上記紫外線吸収剤(B)および上記ゴム質重合体(C)を含む樹脂組成物であって、・・・略・・・。
・・・略・・・
【0120】
本発明の樹脂組成物におけるゴム質重合体(C)の含有量は、好ましくは5~40%の範囲であり、より好ましくは5%~30%の範囲である。上記ゴム質重合体(C)の含有量が5%未満である場合、本発明の樹脂組成物を成形して得られたフィルムが十分な可とう性を得られない傾向がある。
【0121】
本発明の樹脂組成物の主成分はアクリル樹脂(A)である。具体的には、本発明の樹脂組成物に占めるアクリル樹脂(A)の割合は、通常60%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。換言すれば、本発明の樹脂組成物は、アクリル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、当該組成物に占める割合にして40%未満の範囲で含んでいてもよい。
・・・略・・・
【0151】
[フィルム]
本発明のフィルムは、上記本発明の樹脂組成物からなる。本発明のフィルムは、上記本発明の樹脂組成物が有する特性に基づく、各種の特性を有する。例えば、本発明のフィルムは、高い紫外線吸収能、耐熱性および透明性を有する。また例えば、本発明のフィルムは、発泡やブリードアウトなどの欠点が少ない。また例えば、本発明のフィルムは可とう性に優る。
【0152】
これらの特徴により、本発明のフィルムは光学部材として好適に用いることができる。また、高い耐熱性により、光源などの発熱部に近接した配置が可能となる。
【0153】
本発明のフィルムの厚さは、例えば、1μm以上1000μm未満であり、好ましくは10μm以上350μm未満である。厚さが1μm未満になると、樹脂フィルムとしての強度が不十分となる場合があり、延伸などの後加工を行う際に、破断などが生じやすい。
【0154】
本発明のフィルムは高いTgを有し、例えば、その値が110℃以上である樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の組成によっては、Tgは115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。
・・・略・・・
【0164】
上記アクリル系フィルムは高い紫外線吸収能と優れた光学性能および高い可とう性とを併せ持つ。
【0165】
本発明のフィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、・・・略・・・防眩(ノングレア)層、・・・略・・・反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層・・・略・・・などである。
・・・略・・・
【0166】
本発明のフィルムの用途は特に限定されないが、その高い透明性、耐熱性および紫外線吸収能により、光学部材として好適に用いることができる。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム、・・・略・・・液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。
・・・略・・・
【0186】
[樹脂成形品の製造方法]
上記ように、本発明の樹脂成形品の製造方法は特に限定されないが、以下、樹脂成形品として樹脂フィルムの製造方法の一例を示す。
【0187】
本発明の樹脂組成物から樹脂フィルムを製造する方法として、押出成形法がある。
・・・略・・・
【0203】
押出成形によって得られた樹脂フィルムは、必要に応じて延伸してもよい。延伸の種類は特に限定されず、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよい。延伸により、樹脂フィルムの機械的強度を向上でき、場合によっては、樹脂フィルムに複屈折性を賦与することも可能である。・・・略・・・延伸温度は特に限定されず、樹脂組成物のTg近傍の温度が好ましい。延伸倍率および延伸速度も特に限定されない。」
イ 「【実施例】
【0205】
・・・略・・・
尚、実施例において便宜上、下記略称を用いて説明する。
MMA:メタクリル酸メチル
BzMA:メタクリル酸ベンジル
MAA:メタクリル酸
RHMA:2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル
EA:アクリル酸エチル
BA:アクリル酸n-ブチル
St:スチレン
AN:アクリロニトリル
BDMA:ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール
AMA:メタクリル酸アリル
SFS:ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート
EDTA:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
PBH:t-ブチルハイドロパーオキサイド
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
・・・略・・・
【0215】
<イミド化率>
グルタルイミド単位量は、得られたアクリル樹脂ペレットを、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製赤外分光光度計NEXUS670を用いて、室温にてIRスペクトルを測定することで算出した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度の比からイミド化率を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
・・・略・・・
【0229】
(製造例2)アクリル樹脂(A-2)の製造
攪拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた30L反応釜にMMA48部、EA2部、トルエン50部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させ、還流したところで、開始剤とt-アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を0.05部添加すると同時に、0.10部のt-アミルパーオキシイソノナノエートを2時間かけて滴下しながら、還流下(約105~110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0230】
上記で得られた重合体溶液を、バレル温度240℃、回転数120rpm、減圧度13.3~400hPa、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=30mm、L/D=42)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、イミド化および脱揮を行った。そのとき、別途準備しておいたイミド化剤溶液を、第1ベントの後から高圧ポンプを用いて0.3kg/時間の投入速度で注入した。また、第2ベントの後より別途準備しておいた酸化防止剤・紫外線吸収剤混合溶液を0.05kg/時間の投入速度で注入した。更に第3ベントの後から高圧ポンプを用いてイオン交換水を0.01kg/時間の投入速度で注入した。
【0231】
イミド化剤溶液はメチルアミンの40質量%メタノール溶液50部をトルエン50部で希釈して調製した。酸化防止剤・紫外線吸収剤混合溶液は、イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ製)5部、チヌビン477(B-1)(チバスペシャリティケミカルズ社製有効成分80%)37.5部をトルエン7.5部に溶解して調製した。
【0232】
上記脱揮操作により、分子量700以上の紫外線吸収剤(B-1)を有する熱可塑性アクリル樹脂組成物(A-2)のペレットを得た。樹脂部の重量平均分子量は140000、ガラス転移温度は132℃であった。イミド化率は22%であった。
・・・略・・・
【0247】
(製造例6)ゴム質重合体(C-1)の製造
攪拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた重合容器に、脱イオン水710部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5部を投入して溶解し、内温を70℃に昇温した。そして、SFS0.93部、硫酸第一鉄0.001部、EDTA0.003部、脱イオン水20部の混合液を上記重合容器中に一括投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
【0248】
モノマー混合液(M-1)(BA99部、BDMA0.02部、AMA1.0部)と重合開始剤溶液(過硫酸カリウム0.3部、脱イオン水10.0部)とを上記重合容器の中に別々に90分間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後さらに60分間重合を継続させた。
【0249】
続いて、モノマー混合液(M-2)(St73.0部、AN27.0部)と重合開始剤溶液(PBH0.27部、脱イオン水20.0部)とを別々に100分間かけて連続滴下しながら重合を行い、滴下終了後内温を80℃に昇温して120分間重合を継続させた。次に内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュ金網を通過させてゴム質重合体の乳化重合液を得た。
【0250】
得られたゴム質重合体の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状のゴム質重合体微粒子(C-1、平均粒子径96nm)を得た。
・・・略・・・
【0258】
(製造例9)ゴム質重合体組成物(C-4)の製造
製造例6で得られたゴム質重合体C-1とAS樹脂(旭化成ケミカルズ製、商品名:スタイラックAS783L)をC-1/AS樹脂=2/1の質量比となるように、フィーダーを用いてフィードしながら二軸押出機(φ=30mm、L/D=30)を用いて260℃の温度で混練して、ゴム質重合体組成物(C-4)ペレットを得た。
・・・略・・・
【0304】
(実施例6)樹脂組成物(D-6)の製造
攪拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた1000L反応釜に、MMA40部、RHMA10部、トルエン50部、アデカスタブ2112(ADEKA製)0.025部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させ、還流したところで、開始剤とt-アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を0.05部添加すると同時に、0.10部のt-アミルパーオキシイソノナノエートを2時間かけて滴下しながら、還流下(約105~110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0305】
上記重合体溶液に、リン酸ステアリル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A-18)を0.05部加え、還流下(約90~110℃)において2時間環化縮合反応を進行させた。
【0306】
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、240℃に加熱した多管式熱交換器を通して環化縮合反応を完結させた後、バレル温度240℃、回転数120rpm、減圧度13.3~400hPa、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)第3ベントと第4ベントの間にサイドフィーダーを有するの(当合議体中:「有するの」は「有する」の誤記と認められる。)ベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=44mm、L/D=52.5)に、樹脂量換算で20kg/時間の処理速度で導入し、脱揮を行った。そのとき、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を、第1ベントの後から高圧ポンプを用いて0.3kg/時間の投入速度で注入した。また、第2ベントの後より別途準備しておいた紫外線吸収剤混合溶液を0.5kg/時間の投入速度で注入した。更にサイドフィーダーの後から高圧ポンプを用いてイオン交換水を0.33kg/時間の投入速度で注入した。
【0307】
また、サイドフィーダーからは製造例9のゴム質重合体組成物C-4を3.5kg/時間の供給速度で添加した。
【0308】
さらに、溶融混練した樹脂をリーフディスク型のポリマーフィルター(長瀬産業製、濾過精度5μm)でろ過した。
【0309】
酸化防止剤・失活剤混合溶液はイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ製)50部、アデカスタブAO-412S(ADEKA製)50部、オクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)40部をトルエン160部に溶解して調製した。紫外線吸収剤溶液は、チヌビン477(B-1)(チバスペシャリティケミカルズ製 有効成分80%)37.5部をトルエン12.5部に溶解して調製した。
【0310】
上記脱揮操作により、分子量700以上の紫外線吸収剤(B-1)を有する熱可塑性アクリル樹脂組成物(D-6)のペレットを得た。樹脂部の重量平均分子量は142000、ガラス転移温度は125℃であった。
・・・略・・・
【0322】
(実施例8)延伸フィルム(F-2)の製造
実施例2で得られたD-2ペレットを単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)を用いて、265℃でコートハンガータイプTダイ(幅150mm)から溶融押出を行い、温度110℃の冷却ロール上に吐出して、厚さ165μmのフィルム(E-2)を作製した。
【0323】
得られたE-2フィルムを96mm×96mmに切り出した後、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所製、X-6S)を用いて、154℃、800mm/分の速度で縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ2.0倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ42μmの延伸フィルム(F-2)を得た。
・・・略・・・
【0330】
(実施例12)延伸フィルム(F-6)の製造
実施例6で得られたD-6ペレットを単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)を用いて、265℃でコートハンガータイプTダイ(幅150mm)から溶融押出を行い、温度110℃の冷却ロール上に吐出して、厚さ160μmのフィルム(E-6)を作製した。
【0331】
得られたE-6フィルムを96mm×96mmに切り出した後、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所製、X-6S)を用いて、150℃、800mm/分の速度で縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ2.0倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ40μmの延伸フィルム(F-6)を得た。
・・・略・・・
【0339】
(実施例21)防眩フィルムの製造
ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学製)21.3部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学製)8.6部、イルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ製)1.96部、イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ製)0.33質量部、ポリメチルメタクリレート(住友化学製)3.0部、アクリル樹脂ビーズ(日本触媒製、粒径3.5μm)6.6部、トルエンを46.4部、及び、シクロヘキサノンを11.6部を十分混合して塗布液として調整した。この塗布液を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して防眩層用組成物を調製した。
【0340】
上記組成物を実施例12で製造した延伸フィルム上にバーコーターを用いて塗布し、70℃のオーブン中で1分間加熱乾燥し、溶剤分を蒸発させた後、窒素雰囲気下で紫外線を照射線量が110mJになるよう照射して塗膜を硬化させ、膜厚が6μmの防眩性積層体を得た。」
(2) 甲2発明
上記(1)より、甲2には、実施例21に係る以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。参考のため、認定の根拠となった箇所をかっこ内に示す。
(甲2発明)
「下記の方法で調整される防眩層用組成物を、下記の実施例12で製造した延伸フィルム(F-6)上にバーコーターを用いて塗布し、70℃のオーブン中で1分間加熱乾燥し、溶剤分を蒸発させた後、窒素雰囲気下で紫外線を照射線量が110mJになるよう照射して塗膜を硬化させた、膜厚が6μmの防眩性積層体。(【0340】)
・防眩層用組成物の調整方法
ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学製)21.3部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学製)8.6部、イルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ製)1.96部、イルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ製)0.33質量部、ポリメチルメタクリレート(住友化学製)3.0部、アクリル樹脂ビーズ(日本触媒製、粒径3.5μm)6.6部、トルエンを46.4部、及び、シクロヘキサノンを11.6部を十分混合して塗布液として調整した。この塗布液を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して防眩層用組成物を調製した。(【0339】)
・実施例12の延伸フィルム(F-6)の製造方法
攪拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた1000L反応釜に、MMA40部、RHMA10部、トルエン50部、アデカスタブ2112(ADEKA製)0.025部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させ、還流したところで、開始剤とt-アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を0.05部添加すると同時に、0.10部のt-アミルパーオキシイソノナノエートを2時間かけて滴下しながら、還流下(約105~110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
上記重合体溶液に、リン酸ステアリル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A-18)を0.05部加え、還流下(約90~110℃)において2時間環化縮合反応を進行させた。
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、240℃に加熱した多管式熱交換器を通して環化縮合反応を完結させた後、バレル温度240℃、回転数120rpm、減圧度13.3~400hPa、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)第3ベントと第4ベントの間にサイドフィーダーを有するベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=44mm、L/D=52.5)に、樹脂量換算で20kg/時間の処理速度で導入し、脱揮を行った。そのとき、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を、第1ベントの後から高圧ポンプを用いて0.3kg/時間の投入速度で注入した。また、第2ベントの後より別途準備しておいた紫外線吸収剤混合溶液を0.5kg/時間の投入速度で注入した。更にサイドフィーダーの後から高圧ポンプを用いてイオン交換水を0.33kg/時間の投入速度で注入した。
また、サイドフィーダーからは以下の製造方法による製造例9のゴム質重合体組成物C-4を3.5kg/時間の供給速度で添加した。
さらに、溶融混練した樹脂をリーフディスク型のポリマーフィルター(長瀬産業製、濾過精度5μm)でろ過した。
酸化防止剤・失活剤混合溶液はイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ製)50部、アデカスタブAO-412S(ADEKA製)50部、オクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)40部をトルエン160部に溶解して調製した。紫外線吸収剤溶液は、チヌビン477(B-1)(チバスペシャリティケミカルズ製 有効成分80%)37.5部をトルエン12.5部に溶解して調製した。
上記脱揮操作により、分子量700以上の紫外線吸収剤(B-1)を有する熱可塑性アクリル樹脂組成物(D-6)のペレットを得た。樹脂部の重量平均分子量は142000、ガラス転移温度は125℃であった。(【0304】~【0310】)
得られたD-6ペレットを、単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)を用いて、265℃で溶融押出を行い、温度110℃の冷却ロール上に吐出して、厚さ160μmのフィルム(E-6)を作製した。
得られたE-6フィルムを96mm×96mmに切り出した後、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所製、X-6S)を用いて、150℃、800mm/分の速度で縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ2.0倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ40μmの延伸フィルム(F-6)を得た。(【0330】~【0331】)
・製造例9のゴム質重合体組成物C-4の製造方法
攪拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた重合容器に、脱イオン水710部、ラウリル硫酸ナトリウム1.5部を投入して溶解し、内温を70℃に昇温した。そして、SFS0.93部、硫酸第一鉄0.001部、EDTA0.003部、脱イオン水20部の混合液を上記重合容器中に一括投入し、重合容器内を窒素ガスで十分置換した。
モノマー混合液(M-1)(BA99部、BDMA0.02部、AMA1.0部)と重合開始剤溶液(過硫酸カリウム0.3部、脱イオン水10.0部)とを上記重合容器の中に別々に90分間かけて連続滴下しながら重合を行った。滴下終了後さらに60分間重合を継続させた。
続いて、モノマー混合液(M-2)(St73.0部、AN27.0部)と重合開始剤溶液(PBH0.27部、脱イオン水20.0部)とを別々に100分間かけて連続滴下しながら重合を行い、滴下終了後内温を80℃に昇温して120分間重合を継続させた。次に内温が40℃になるまで冷却した後に300メッシュ金網を通過させてゴム質重合体の乳化重合液を得た。
得られたゴム質重合体の乳化重合液を塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して、粉体状のゴム質重合体微粒子(C-1、平均粒子径96nm)を得た。(【0247】~【0250】)
得られたゴム質重合体C-1とAS樹脂(旭化成ケミカルズ製、商品名:スタイラックAS783L)をC-1/AS樹脂=2/1の質量比となるように、フィーダーを用いてフィードしながら二軸押出機(φ=30mm、L/D=30)を用いて260℃の温度で混練して、ゴム質重合体組成物(C-4)ペレットを得た。(【0258】)」
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
(ア) 甲2発明の「延伸フィルム(F-6)」の製造方法からみて、「延伸フィルム(F-6)」を構成する「脱揮操作により、分子量700以上の紫外線吸収剤(B-1)を有する熱可塑性アクリル樹脂組成物(D-6)」から、「紫外線吸収剤(B-1)」及び「ゴム質重合体組成物C-4」(「ゴム質重合体C-1」と「AS樹脂」)を除いた残りの「樹脂組成物」部分は、MMA(メタクリル酸メチル)やRHMA(2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル)を原料に使用して、溶液重合、環化縮合反応を進行させ、次いで、環化縮合反応を完結させたものであるから、当該残りの「樹脂組成物」部分は、本件特許発明1の「アクリル系樹脂」に相当する。
また、甲2発明の「延伸フィルム(F-6)」は、「防眩層」を形成するための基材フィルムといえる。そうすると、本件特許発明1の「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルム」に相当する。
(イ) 甲2発明の「延伸フィルム(F-6)上に」、「防眩層用組成物」の「塗膜を硬化させた」層は、本件特許発明1の「基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層である」、「基材フィルムの片側に形成された表面処理層」に相当する。
(ウ) 上記(ア)と(イ)より、甲2発明の「防眩性積層体」は、本件特許発明1の「光学フィルム」に相当し、甲2発明の「防眩性積層体」は、本件特許発明1の「光学フィルム」の、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層と、を含む」との構成を具備する。
(エ) 上記(ア)~(ウ)によれば、本件特許発明1と甲2発明は、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層と、を含む光学フィルムであり、前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層である、光学フィルム。」である点で一致し、以下の点で相違、あるいは一応相違する。
(相違点2-1)
本件特許発明1の「基材フィルム」は、「10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状能で100℃/1208時間静置した際の寸法変化率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において、―2.0%~0%」であるのに対して、甲2発明では、基材フィルムの「寸法変化率」が測定されておらず、不明な点。
(相違点2-2)
本件特許発明1に係る「アクリル系樹脂」が、「グルタルイミド単位を含み」、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」のに対して、甲2発明の「アクリル系樹脂」は、「グルタルイミド単位を含」むのか不明であり、また、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」のかも不明である点。
イ 判断
(ア) 新規性について
事案に鑑み、相違点2-2について、まず検討する。
相違点2-2について検討すると、甲2発明は、その製造工程からみて、「熱可塑性アクリル樹脂組成物(D-6)」から、「紫外線吸収剤(B-1)」及び「ゴム質重合体組成物C-4」を除く「樹脂組成物」部分の製造に際しては、メチルアミンなどのイミド化剤(甲2の【0032】)を使用していない。そうすると、甲2発明の当該「樹脂組成物」部分(「アクリル系樹脂」)は、グルタルイミド単位を含まない。
そうすると、相違点2-2は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるということはできない。
(イ) 進歩性について
a 相違点2-2について
(a) 甲2には、環構造について、アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有していてもよいこと(【0025】)、環構造の種類は特に限定されず、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種であること(【0027】)、アクリル樹脂(A)におけるラクトン環構造を除く上記環構造の含有率は特に限定されないが、例えば5~90%であり、好ましくは10~70%であり、より好ましくは10~60%であり、さらに好ましくは10~50%であること(【0043】)、アクリル樹脂(A)における環構造の含有率が過渡に小さくなると、樹脂組成物ならびに当該組成物から得られるフィルムなどの成形品における耐熱性の低下や、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがあり、一方、上記含有率が過渡に大きくなると、樹脂組成物の成形性、ハンドリング性が低下すること(【0045】)などが記載され、
【0215】には、「イミド化率」の定義が、「グルタルイミド単位量は、得られたアクリル樹脂ペレットを、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製赤外分光光度計NEXUS670を用いて、室温にてIRスペクトルを測定することで算出した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度の比からイミド化率を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。」であること、
【0232】には、イミド化剤を使用した製造例2の「アクリル樹脂(A-2)」について、「イミド化率は22%」であることが記載されている。
(b) 一方、本件特許発明1における「イミド化率」は、本件特許明細書の【0036】によれば、「1HNMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の1H-NMR測定により」、「3.5から3.8ppm付近のアルキル(メタ)アクリレートのO-CH3プロトン由来のピーク面積をAとし、3.0から3.3ppm付近のグルタルイミドのN-CH3プロトン由来のピークの面積をBとして」、「イミド化率Im(%)={B/(A+B)}×100」により求められたものと理解される。
(c) 上記(a)及び上記(b)によれば、本件特許明細書の【0036】の定義による本件特許発明1のイミド化率と、甲2の【0215】に記載されたイミド化率は、その定義において全く異なる。また、同じ樹脂材料のイミド化率を測定した際に、両方法で測定されたイミド化率に、どの程度の対応関係、相関関係があるのかも不明である。
そうすると、たとえ上記(a)で述べたような、甲2発明のアクリル系樹脂をグルタルイミド単位を含むものとすること、そのイミド化率を5~90%、好ましい10~70%、より好ましい10~60%、さらに好ましい10~50%(甲2の【0043】)、あるいは22%(【0232】の製造例2)とする記載、示唆があったとしても、甲2に、本件特許明細書の【0036】の記載された定義によるイミド化率が記載されていない以上、甲2発明において、本件特許発明1の、アクリル系樹脂におけるイミド化率(本件特許明細書の【0036】)が2.5%~20.0%であるとの構成には至らない。
また、アクリル系樹脂におけるイミド化率を上記の定義のものとすること、また、アクリル系樹脂の上記の定義によるイミド化率を2.5%~20.0%の範囲とすることは、技術常識でもなく、甲1、甲3~甲5及び引例1にも記載も示唆もされていない。
(d) 以上のとおりであるから、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
b 相違点2-1について
(a) 甲2発明の「ゴム質重合体C-1」は、「ゴム質重合体微粒子(C-1、平均粒子径96nm)」であって「微粒子」であるところ、その製造法は、「モノマー混合液(M-1)(BA99部、BDMA0.02部、AMA1.0部)」の重合を行った後に、「モノマー混合液(M-2)(St73.0部、AN27.0部)」の重合を行っているので、甲2の【0091】~【0117】等の記載も併せ考慮すると、本件特許発明1を含む本件特許発明2、3でいうところの「コアシェル型粒子」に該当する。
そして、ゴム質重合体組成物(C-4)ペレットの添加量は「MMA40部、RHMA10部」の重合体である「アクリル樹脂」に対して17.5wt%(3.5/20×100)となるため、コアシェル型粒子の添加量は当該「アクリル樹脂」に対して17.5×2/3=11.67wt%となる。
また、甲2発明の厚さ160μmのフィルム(E-6)の延伸温度は150℃(Tg+25℃)、延伸倍率は縦・横方向ともに2倍の逐次二軸延伸である。さらに、延伸速度は800mm/分、フィルム幅が96mmなので、約13.9%/秒となる。
(b) ここで、本件特許明細書等の寸法変化率に関する記載に関し、
【0062】には「延伸温度は、好ましくはTg~Tg+50℃、さらに好ましくはTg+15℃~Tg+50℃、最も好ましくはTg+35℃~Tg+50℃である。」、「延伸温度がこのような範囲であれば、延伸倍率および延伸速度を適切に調整することにより、シェル型粒子の配合量が適切に調整されたフィルムを適切な延伸条件で延伸することにより、得られる基材フィルムの寸法変化率が低減され得る。その結果、表面処理層を形成した状態での収縮が抑制され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。」、
【0063】には「二軸延伸を採用する場合、幅方向(TD)の延伸倍率と長さ方向(MD)の延伸倍率との比(TD/MD)は、好ましくは1.0~1.5であり、より好ましくは1.0~1.4であり、さらに好ましくは1.0~1.3である。また、二軸延伸を採用する場合の面倍率(長さ方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率との積)は、好ましくは2.0~6.0であり、より好ましくは3.0~5.5であり、さらに好ましくは3.5~5.2である。」、「延伸倍率がこのような範囲であれば、延伸温度および延伸速度を適切に調整することにより、得られる基材フィルムの寸法変化率が低減され得る。その結果、表面処理層を形成した状態での収縮が抑制され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。」、
【0064】には「延伸速度は、好ましくは3%/秒~20%/秒であり、より好ましくは3%/秒~15%/秒であり、さらに好ましくは3%/秒~10%/秒である。」、「延伸速度がこのような範囲であれば、延伸温度および延伸倍率を適切に調整することにより、得られる基材フィルムの寸法変化率が低減され得る。その結果、表面処理層を形成した状態での収縮が抑制され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。」
【0051】には「上記基材フィルムにおいて、コアシェル型粒子は、アクリル系樹脂100重量部に対して、好ましくは5重量部~50重量部、より好ましくは5重量部~40重量部配合される。これにより、基材フィルムの寸法変化率が低減され得る。その結果、表面処理層を形成した状態での収縮が抑制され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。」と記載されている。
そうすると、上記(a)より、甲2発明は、延伸温度、延伸倍率、延伸速度、コアシェル型粒子の含有量がいずれも本件特許明細書に記載の好適な範囲に入ることまでは理解することができる。
(c) しかしながら、甲2発明の延伸条件が、本件特許明細書の【0062】~【0064】に記載された、延伸温度、延伸倍率の比(TD/MD)、面倍率及び延伸速度それぞれの好ましい範囲のものであるからといって、本件特許発明1に係る「基材フィルム」の「寸法変化率」として「-2.0%~0%」が直ちに得られるわけではなく、基材フィルムの寸法変化率を低減するためには、各パラメータの適切な調整を行うことが必要である(【0062】~【0064】)。
また、延伸フィルムの寸法変化率は、アクリル系樹脂の材料・組成やコアシェル型粒子の配合量などにも依存することは技術常識であるところ、甲2発明と、本件特許明細書に記載の実施例1~14とでは、延伸フィルムを構成する樹脂の組成や、コアシェル型粒子の含有量において異なる。
加えて、甲2発明は、寸法変化率に着目し、延伸条件によりこれを調整して小さくしようとする発明ではなく、甲2には、延伸条件についても、【0203】に、「延伸により、樹脂フィルムの機械的強度を向上でき、場合によっては、樹脂フィルムに複屈折性を賦与することも可能である」、「延伸温度は特に限定されず、樹脂組成物のTg近傍の温度が好ましい」、「延伸倍率および延伸速度も特に限定されない」と記載されるにとどまる。
そうしてみると、甲2発明の基材フィルムは、「10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率」を測定すれば、-2.0%~0%になる蓋然性が高いとはいえない。
また、甲2には、甲2発明において、「10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率」に着目して、これを「-2.0%~0%」とする動機付けはない。
そして、このことは、甲1、甲3~5及び引例1を検討しても同様である。
(d) 以上のとおりであるから、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
c 令和5年7月21日提出の意見書における特許異議申立人の主張について
(a) 同意見書3頁14行~4頁20行において、特許異議申立人は、本件特許発明1と甲2発明(実施例21)との新たな相違点として、甲2発明は、「前記アクリル系樹脂が、グルタルイミド単位を含み」ということが明示されていない点(相違点6)及び「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%であるということが明示されていない点(相違点7)を抽出し、相違点6について、甲2の【0025】には、「アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有していてもよい」こと、【0027】には、「環構造の種類は特に限定されないが、例えば、ラクトン環構造・・・略・・・グルタルイミド構造・・・略・・・から選ばれる少なくとも1種である」ことが記載されているから、甲2発明にグルタルイミド構造を含むアクリル樹脂を採用することに何ら困難性はない、相違点7について、アクリル系樹脂のイミド化率を調整することは、当業者が適宜なし得ることであり、従って、相違点7は、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎず、設計事項であり、また、イミド化率が20.0を超えたアクリル樹脂を用いた場合と比較したイミド化率が5.0%のアクリル樹脂を用いることによる優位性は示されていない、と主張する。
しかしながら、相違点7については、上記aで述べたとおりであり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(b) また、同意見書4頁21行~12頁17行において、特許異議申立人は、【0032】、【0215】、【0229】~【0232】((製造例2)アクリル樹脂(A-2)の製造)、【0251】~【0255】((製造例7)ゴム質重合体(C-2)の製造)、【0289】~【0290】((実施例2)樹脂組成物(D-2)の製造)、【0322】~【0323】((実施例8)延伸フィルム(F-2)の製造)、【0165】の記載から、甲2には、「(甲2’発明)アクリル樹脂を含有する二軸延伸フィルムと、二軸延伸フィルムの片側に形成された機能性コーティング層と、を含む機能性コーティング層付き二軸延伸フィルムであり、 前記機能性コーティング層が、前記二軸延伸フィルム上に塗布されたコーティング層であり、 アクリル樹脂が、グルタルイミド単位を含み、 アクリル樹脂におけるイミド化率が、22%である、機能性コーティング層付き二軸延伸フィルム。」が記載され、本件特許発明1と甲2’発明は、「(相違点8):本件特許発明1においては、「前記光学フィルム中の基材フィルムは、10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において、-2.0%~0%である」のに対し、甲2’発明においては、これを明示していない点。」、「(相違点10):本件特許発明1においては、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5%~20.0%である」のに対し、甲2’発明においては、アクリル樹脂におけるイミド化率が、22%である点。」で相違し、相違点8について、甲2’発明に係る延伸フィルムの製造条件は、本件特許明細書の【0051】、【0062】~【0064】に記載されているコアシェル型粒子の添加量、延伸温度、延伸倍率、延伸速度の条件を満たしているから、甲2’発明の延伸フィルムは、寸法変化率が、延伸フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において、-2.0%~0%である蓋然性が高く、相違点8は実質的な相違点とはならない、相違点10について、甲2’発明のアクリル樹脂におけるイミド化率が22%であり、またアクリル系樹脂のイミド化率を調整することは、当業者が適宜なし得ることであるから、相違点10については、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎないので、設計事項であり、また、上記したように、イミド化率が20.0%を超えたアクリル樹脂を用いた場合と比較したイミド化率が5.0%のアクリル樹脂を用いることによる優位性は示されていない、とも主張する。
しかしながら、実施例8に基づき引用発明を認定したとしても、上記aで述べたとおり、本件特許発明1のイミド化率(本件特許明細書の【0036】)と、甲2発明のイミド化率(甲2の【0215】)は定義が異なり、両方法で測定されたイミド化率に、どの程度の対応関係、相関関係があるのかも不明であるから、甲2発明において、本件特許発明1の、アクリル系樹脂におけるイミド化率(本件特許明細書の【0036】)が2.5%~20.0%である構成には至らない。相違点8についても、上記bで述べたとおりである。
してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~5、引例1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備する発明であるから、上記(3)イ(ア)及び(イ)で述べた理由と同様の理由により、甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~5、引例1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 本件特許発明
上記第3で述べたとおりである。
(3) 本件特許発明が解決しようとする課題について
本件特許明細書の【0005】の記載から、本件特許発明が解決しようとする課題は、「基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルム、そのような光学フィルムを備えた偏光板、および、そのような偏光板を備えた画像表示装置を提供すること」であると認められる。
(4) 本件特許明細書の記載から理解される課題解決手段に関する事項及び判断
基材フィルム10を、10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の所定方向に沿った寸法変化率が-2.0%~0%とすることによって、基材フィルムと表面処理層との密着性を実現し得ることについての、【0010】、【0060】、【0062】~【0064】、【0069】、実施例1~14、比較例1~5及びそれらの対比結果(【0080】~【0102】)の各記載に接した当業者は、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層と、を含む光学フィルム」において、「基材フィルム」の「10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において、-2.0%~0%」とすることにより、表面処理層を形成した状態での収縮が抑制されて、基材フィルム10と表面処理層20との密着性が向上し得ることを認識できる。
そうすると、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(3)の課題を解決できると認識できる範囲のものである。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7に係る発明についても同様である。
(5) 令和5年7月21日提出の意見書における特許異議申立人の主張について
同意見書12頁下から5行~13頁4行において、特許異議申立人は、「本件の請求項1には、「前記アクリル系樹脂におけるイミド化率が、2.5~20.0%である」ことが規定されている。」、「しかしながら、本件特許明細書の実施例においては、イミド化率が5.0%のアクリル系樹脂しか記載されていない。」と主張する。
しかしながら、上記(4)で述べたとおり、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層と、を含む光学フィルム」において、上記「寸法変化率」が、「前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において、-2.0%~0%」であれば、上記(3)の課題を解決できると認識できるから、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(6) 小括
本件特許の請求項1~7に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許の請求項1~7の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するから、特許異議申立書に記載したサポート要件に係る取消しの理由を採用することはできない。
第6 令和5年7月21日提出の意見書で追加された明確性(特許法第36条第6項第2号)に係る取消理由についての当審の判断
1 明確性に係る取消理由の概要
令和5年5月26日付けの訂正請求書による訂正により請求項1に追加された「前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向において」における「前記長手方向に直交する方向」という文言は、基材フィルムの長手方向と直交する方向であれば、全ての方向を含むものであり、基材フィルムの短手方向のみならず、例えば、基材フィルムの法線方向(厚み方向)も含むものであるから、本件特許の請求項1に記載の「長手方向と直交する方向」という文言は、方向が一義的に定まらず、明確ではない(同意見書13頁5~15行)。
2 判断
「基材フィルムの長手方向」が、基材フィルムの長尺である長手方向を意味することは明らかであり、また、当該「基材フィルムの長手方向」に直交する「基材フィルム」の「短手方向」(幅方向)が存在することも明らかなことである。
そして、「基材フィルム」の「10cm×10cmに裁断して粘着材を介してガラス板に貼り合わせた状態で100℃/120時間静置した際の寸法変化率」を測定する際の「基材フィルムの長手方向」「に直交する方向」が、「基材フィルム」の「短手方向」(幅方向)を意味することは、当業者の技術常識の範疇といえる。
したがって、本件特許発明1は明確である。また、本件特許発明2~7も明確である。
第7 むすび
本件特許発明1~7は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由、意見書において追加主張された理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-701227