特許異議申立
2022-701226
光学フィルム、偏光板、および画像表示装置
- 審判番号
- 2022-701226
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-512438
- 登録番号
- 7083339
- 請求日
- 2022年12月12日
- 審決日
- 2023年10月31日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】籾井 孝文
- 【異議申立人】山本 新
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 河原 正
- 審判官 大▲瀬▼ 裕久
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7083339号発明「光学フィルム、偏光板、および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7083339号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7083339号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7083339号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2019-512438号)は、2018年(平成30年)4月2日(先の出願に基づく優先権主張 2017年(平成29年)4月10日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月2日にその特許権の設定の登録がされ、令和4年6月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和4年12月12日に、請求項1~7に係る特許に対し、特許異議申立人 山本 新(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立」という。また、特許異議申立人が証拠として提出した甲第1号証を「甲1」と略し、甲第2号証等についても同様とする。)がされた。
その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和5年 3月31日付け:取消理由通知書
令和5年 6月 2日 :特許権者による訂正請求書の提出
令和5年 6月 2日 :特許権者による意見書の提出
令和5年 7月21日 :特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年6月2日付け訂正請求書でなされた訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~7〕についてなされたものである。
(1) 訂正事項1
請求項1に、
「前記光学フィルム中の基材フィルムは、98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定において、軟化点に至るまでの最大伸び率が0.40%以上であり、」とあるのを、
「前記光学フィルム中の基材フィルムは、98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定における、軟化点に至るまでの最大伸び率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方において、0.40%以上であり、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
請求項1に、
「前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層である、光学フィルム。」とあるのを、
「前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層であり、前記基材フィルムは、単層構造を有している、光学フィルム。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による請求項1の訂正は、「98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定」による「軟化点に至るまでの最大伸び率」が、「基材フィルム」のどの方向において「0.40%以上」であるかに関して限定がなく、不明であったところ、当該「最大伸び率」が、「基材フィルム」の「長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方」において「0.40%以上」であることを明確にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0080】及び【0102】の記載によれば、上記アで述べた、当該「最大伸び率」が、「基材フィルム」の「長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方」において「0.40%以上」を意味することは、本件特許明細書に明示的に記載された事項であるか少なくとも記載から自明な事項である。
そうすると、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1による請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項2~7についても同様である。
オ 小括
よって、訂正事項1による訂正は、訂正要件を満たす。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による請求項1の訂正は、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルム」について、「単層構造を有している」ものに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
本件特許明細書の【0010】、図1及び実施例1~14(【0082】等)の記載によれば、「単層構造」を有する「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルム」は、本件特許明細書の記載から自明な事項である。
そうすると、訂正事項2に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2による請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
エ 請求項2~7についても同様である。
オ 小括
よって、訂正事項2による訂正は、訂正要件を満たす。
3 まとめ
本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~請求項7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明7」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~請求項7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層とを含む光学フィルムであり、
前記光学フィルム中の基材フィルムは、98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定における、軟化点に至るまでの最大伸び率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方において、0.40%以上であり、
前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層であり、
前記基材フィルムは、単層構造を有している、光学フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムが、前記アクリル系樹脂と、該アクリル系樹脂に分散されたコアシェル型粒子と、を含む、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムが、前記アクリル系樹脂100重量部に対して、前記コアシェル型粒子を5重量部~50重量部含有する、請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂が、グルタルイミド単位、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、マレイミド単位および無水グルタル酸単位からなる群から選択される少なくとも1つを有する、請求項1から3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記表面処理層が、ハードコート層、防眩層および反射防止層からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
偏光子と、該偏光子の片側に配置された保護層と、を含み、
前記保護層が請求項1から5のいずれかに記載の光学フィルムである、偏光板。
【請求項7】
請求項6に記載の偏光板を備える、画像表示装置。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当審において、令和5年3月31日付けで特許権者に通知された取消理由(以下、単に「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知」という。)の要旨は、次のとおりである。
●理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、優先権主張の基礎とされた先の出願の出願前(以下、単に「先の出願前」という。)に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(引用例等一覧)
甲2:特開2013-216016号公報
●理由2(明確性要件)
本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1~7に係る特許は、特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 取消理由についての当審の判断
1 甲2を主引用例とする進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)甲2に記載された事項
甲2には以下の記載がある(下線は合議体が付した。以下同様。)。
ア 「【請求項1】
ポリ乳酸を含む層と高分子からなる層とを積層した多層フィルムであって、少なくとも一方の表面にポリ乳酸を含む層が配され、且つ下記(1)~(4)の要件を同時に満足することを特徴とする、多層フィルム。
(1)ポリ乳酸を含む層において、ポリ乳酸が該層を構成する全成分を基準として、50重量%以上を占めること。
(2)ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸が、ポリ乳酸を構成するL-乳酸単位とD-乳酸単位とのモル比(L/D)が95/5~5/95の範囲にあること。
(3)フィルムの80℃における引張弾性率が100MPa以上3000MPa以下であること。
(4)フィルムの80℃24時間熱処理前後による寸法変化率の絶対値がMD方向、TD方向のいずれも3%以下であること。」
イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂組成物を含む多層フィルムに関し、更に詳しくは、光学特性、機械特性に優れ、光学フィルム、とりわけ偏光子保護フィルムとして好適に用いることのできる多層フィルムに関する。
・・・略・・・
【0002】
・・・略・・・
このポリ乳酸を光学用途等高機能フィルム、特に、偏光子を偏光子保護フィルムで挟持した偏光板において、偏光子保護フィルムに用いることも提案されている・・・略・・・。しかしながら、これら提案の技術では、偏光板としての実用上の機械特性を満足できず、また、偏光子との接着において接着手段が限られるという問題もあり、未だポリ乳酸の光学用途への展開はなされていないのが実情であった。
・・・略・・・
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術では達成していなかった、光学特性、機械特性に優れ、光学フィルム、とりわけ偏光子保護フィルムとして好適に用いることのできる多層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ポリ乳酸の光学純度を特定の範囲に制御することで、上記課題を解決することが出来うることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明の目的は、
1.ポリ乳酸を含む層と高分子からなる層とを積層した多層フィルムであって、少なくとも一方の表面にポリ乳酸を含む層が配され、且つ下記(1)~(4)の要件を同時に満足することを特徴とする、多層フィルムによって達成される。
(1)ポリ乳酸を含む層において、ポリ乳酸が該層を構成する全成分を基準として、50重量%以上を占めること。
(2)ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸が、ポリ乳酸を構成するL-乳酸単位とD-乳酸単位とのモル比(L/D)が95/5~5/95の範囲にあること。
(3)フィルムの80℃における引張弾性率が100MPa以上3000MPa以下であること。
(4)フィルムの80℃24時間熱処理前後による寸法変化率の絶対値がMD方向、TD方向のいずれも3%以下であること。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学特性、機械特性に優れ、光学フィルム、とりわけ偏光子保護フィルムとして好適に用いることのできる多層フィルムならびに、これを用いた偏光板を提供することができる。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
<ポリ乳酸を含む層>
本発明の多層フィルムはポリ乳酸を含む層を有する・・・略・・・。
・・・略・・・
本発明においては、ポリ乳酸としてL乳酸単位とD乳酸単位とのモル比(L/D)が95/5~5/95の範囲にあることを特徴とするものである。このように、L/Dが特定の範囲を満足するポリ乳酸を用いることによって、得られるポリ乳酸は、偏光板の偏光子との接着が向上し、更に、偏光解消による輝度低下を抑えることができる。
【0010】
・・・略・・・ポリ乳酸を含む層を構成する全成分としてポリ乳酸が50重量%以上であることが必要である。50重量%未満であると、偏光板の偏光子との接着が悪くなるおそれがある。なお、ポリ乳酸を含む層と偏光子とは接着剤を介して接着されるが、その接着原理としてはポリ乳酸を含む層の表面が接着剤のモノマー成分により溶解されることによるアンカリングにより接着すると推定され、ポリ乳酸比率が50重量%未満ではアンカリングが弱くなり接着力が発現しない。
・・・略・・・
【0043】
<高分子からなる層>
本発明において、高分子からなる層を構成する樹脂としては、特に限定されるものではなく、具体的には、アクリル系樹脂、・・・略・・・などを挙げることができる。・・・略・・・本発明の高分子には、本発明の効果を奏する限り、ポリ乳酸を含有する層に用いるポリ乳酸がブレンドされていてもよく、・・・略・・・。
・・・略・・・
【0045】
また、最終的に得られる多層フィルムの80℃における弾性率を達成する、という観点において、高分子の80℃における弾性率は、100MPa以上であることが好ましく、・・・略・・・。上限としては3000MPaの弾性率であれば十分であり、それより弾性率の高い材料は一般的に脆く、ハンドリングが困難である可能性が高い。
上記の観点から、高分子からなる層は、主としてアクリル系樹脂からなる層、・・・略・・・とすることが好ましい。
・・・略・・・
【0046】
また、特に限定されないが、アクリル系耐衝撃剤として、・・・コアシェル型アクリル系化合物・・・等が添加されていてもよい。
中でも、アクリル系樹脂と同等の屈折率となるように成分調整を行なったコアシェル型アクリル系化合物を使用した場合には、多層フィルムの光学特性を低下させずにアクリル系樹脂の脆性を改善することができるので好ましい。
・・・略・・・
【0053】
<多層フィルム>
本発明の多層フィルムは好適に偏光板保護フィルムとして用いられるが、偏光子の保護フィルムの重要な要求特性として、光学特性、耐熱性および耐湿性がある。
・・・略・・・
【0054】
また、耐熱性については偏光子である延伸されたポリビニルアルコールの収縮を抑える必要があるという観点から剛性が求められる。高温領域におけるフィルムの剛性が低いと偏光子の収縮に伴う偏光度の低下、偏光板のカールの発生が生じてしまう。・・・略・・・偏光板として80℃での機械特性や80℃24時間程度の耐久性が必要とされる。偏光子保護フィルムとして求められる機能として偏光子の収縮を抑えることが重要であるが、その指標としてフィルムには80℃の引張弾性率と80℃24時間熱処理した場合の寸法変化率により簡易的に表すことができる。
【0055】
80℃における引張弾性率としては100~3000MPaである必要がある。100MPaより低い場合には、偏光子の収縮に伴う偏光度の低下、偏光板のカールの発生が生じてしまう。・・・略・・・一方、80℃において3000MPaの弾性率であれば十分であり、そのような弾性率の高い材料は一般的に脆く、ハンドリングが困難である可能性が高い。
・・・略・・・
【0057】
80℃24時間熱処理した場合の寸法変化率の絶対値が、MD方向(機械方向)、TD方向(幅方向)のいずれかが3%より大きい場合は偏光度の低下、カールの発生が生じてしまう。
・・・略・・・
【0063】
また、偏光子保護フィルムとして使用される際に、ポリ乳酸を含む層が接着剤を介して偏光子と接着される・・・略・・・・。
・・・略・・・
【0064】
<多層フィルムの製造方法>
本発明の多層フィルムを製造する方法としては、特に限定されるものではないが、生産性や厚み精度に優れる点からも、ダイを用いた溶融押出成形法が好ましい。具体的にはそれぞれの層を構成する樹脂を、それぞれ別の押出機にて溶融し、溶融状態で積層した後に、ダイからシート状に押し出し、シートを冷却ロールで引き取ることで、多層フィルムを作製することができる。
・・・略・・・
【0068】
・・・略・・・
得られたフィルムは必要に応じて延伸することが可能であり、公知の延伸方法が用いられうる。例えば、MD方向にロール延伸、TD方向にテンター延伸することができ、またロール延伸とテンター延伸の逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法などが挙げられる。もちろん、光学的、機械的特性を満足する範囲であれば延伸温度、延伸倍率、延伸速度などの延伸条件は特に限定されるものではない。
【0069】
また、該多層フィルムは適正な温度範囲(通常Tg以上Tg+150℃以下)で熱セット処理を行ってもよい。熱セット処理は延伸処理後に実施されるのが好ましい。延伸フィルムの配向が、熱セット処理されることによって緩和されるため熱寸法安定性が向上する。熱寸法安定性を向上させるためにトーイン、トーアウトなどの横方向弛緩や縦方向弛緩を行なうことができる。更に、熱寸法安定性を向上させるためにロールの状態で適切な温度でエージングする方法も可能である。
フィルム全体の厚みとしては特に限定はされないが樹脂コスト、ハンドリング性の観点から10~100μmであることが好ましい。
また、フィルムの表面に防眩層、ハードコート層、易滑層、反射防止層、位相差層などの公知の機能層を設けることも可能である。
【0070】
<多層フィルムの用途>
本発明の多層フィルムは偏光板の保護フィルムとして好適に用いられる。本発明の多層フィルムのポリ乳酸を含む層の面に接着剤を介して偏光子を積層することにより、本発明の偏光板が得られる。
・・・略・・・
【実施例】
【0073】
・・・略・・・なお、各種特性は以下の方法で求めた。
【0074】
(1)ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸の光学純度L/D比:
ポリ乳酸樹脂の光学純度は、「ポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主基準 第3版改訂版 2004年6月追補 第3部 衛生試験法 P12-13」記載のD体含有量の測定方法に従い、ポリ乳酸0.1gに5モル/リットル濃度の水酸化ナトリウム水溶液1.0mL/メタノール1.0mLを加え、65℃に設定した水浴振とう器にセットして、ポリ乳酸が均一溶液になるまで加水分解を行い、さらに加水分解が完了した溶液に0.5モル/リットルの塩酸を加え中和し、その分解溶液を純水にて定溶した後、一定容量をメスフラスコに分液して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)移動相溶液により希釈し、pHが3~7の範囲になるように調整してメスフラスコを定量、メンブレンフィルター(0.45μm)によりろ過した。この調整溶液をHPLCにてD-乳酸、L-乳酸を定量することによってポリ乳酸の光学純度を求めた。
HPLCの測定は以下の条件とした。
<HPLC測定条件>
カラム:キラルカラム
住化分析センター社製「スミキラル(登録商標)」OA-5000(4.6mmφ×150mm)、
移動相:1.0ミリモル/リットルの硫酸銅水溶液
移動相流量:1.0ミリリットル/分
検出器:UV検出器(波長254nm)
注入量:20マイクロリットル
【0075】
(2)80℃における引張弾性率:
フィルムを試料幅10mm、長さ80mmに切り出し、雰囲気温度80℃の条件で5分間保持し引きつづきチャック間50mm、引っ張り速度5mm/minで引っ張った。そして得られた荷重-伸び曲線から引張弾性率を求めた。
・・・略・・・
【0076】
(3)80℃24時間熱処理前後による寸法変化率の絶対値:
フィルムのMD方向およびTD方向に、120mm、幅10mmのサンプルを切り出し、そのサンプルの両端近傍に100mmの間隔の標点を付け、80℃の温度に調整されたオーブン中に24時間放置した。これを取り出して室温(23℃)に放冷した後に標点間距離(mm)を測定し(この長さをSとする)、下記式にて寸法変化率の絶対値を求めた。
[式1]
寸法変化率(%)の絶対値=|((S-100)/100)×100|
・・・略・・・
【0084】
(11)接着性の評価:
フィルム表面(ポリ乳酸を含有する層側)にUV硬化型エポキシ接着剤である(株)ADEKA社製「アデカオプトマー」KR-508をワイヤーバーコーターにて1~2μmの厚みとなるように塗布し、300nm以下の紫外線をカットするカットフィルターが設置された低圧水銀ランプを有する紫外線硬化装置中に導入し、空気雰囲気下で積算光量12.5J/cm2の光を照射した後、50℃、20時間のエージング処理を実施した。その後塗布面にセロテープ(登録商標)を貼り合せ、1分後に垂直方向に素早く剥離する。その時に、接着剤の剥離が認められないものを○と評価、一部でも剥離が認められたものを×と評価した。
・・・略・・・
【0086】
[参考例1]環状カルボジイミド化合物の製造:
・・・略・・・
【0087】
・・・略・・・下記構造を有する環状カルボジイミド化合物(CC1:Mw=516)を得た。
・・・略・・・
【0088】
【化1】
[図:0001406688000001.jpg]
【0089】
[参考例2]ポリ乳酸を含有する層の材料の製造:
・・・略・・・
【0091】
[参考例4]ポリ乳酸を含有する層の材料の製造:
真空配管、および窒素ガス配管、触媒、ラクチド溶液添加配管、アルコール開始剤添加配管、碇型掻揚げ翼を具備した縦型攪拌槽にて、系内を窒素置換後、L-ラクチド(ピューラック社製「PURALACT(登録商標)」L polymer grade)175Kg,D-ラクチド(ピューラック社製「PURALACT(登録商標)」D polymer grade)75Kg、ステアリルアルコール0.25kgを仕込み、窒素圧106.4kPa、130℃に昇温した。内容物が溶融した時点で、オクチル酸スズ12.5gを投入し、攪拌を開始、内温をさらに200℃に昇温し、重合を行なった。2時間反応を行い、ペレットを得た。得られたペレットは50℃にて、除湿乾燥を行なった後、ペレットと参考例1の操作で製造した環状カルボジイミド化合物(CC1)を同時に添加し、CC1はペレットに対して0.5重量%添加した。2軸押出機にて2kPa以下の真空下で残存ラクチドを除去した後、チップカッターに押し出しペレットを得た。
このペレットを50℃にて除湿乾燥を行なったものと90℃にて熱風乾燥したアクリル系樹脂(三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)」VH000)を重量比で8/2にてチップブレンドを行い、2軸押出機へ投入した。真空下にて、残存ラクチドを除去した後、サイドフィーダーより、CC1を0.7重量%添加して、ポリ乳酸を得た。
・・・略・・・
【0097】
[参考例10]高分子からなる層の材料の製造:
三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)」MD001と「アクリペット(登録商標)」IRS404を重量比5/5にてチップブレンドしたものを、80℃にて熱風乾燥した後、2軸押出機に投入しコンパウンドを行なった。
・・・略・・・
【0100】
[実施例1]
参考例2で作製した樹脂と参考例10で作製した樹脂をそれぞれ50℃、80℃で6時間、除湿乾燥した後、240℃に加熱された2台の押出機に供給し、ドラム面(D面)側層/芯層/エア面(A面)側層=参考例2で作製した樹脂/参考例10で作製した樹脂/参考例2で作製した樹脂となるような2種3層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままダイスよりシート状に成形し、55℃の冷却ドラム表面に密着、固化させた後、剥離することにより多層フィルムを得た。得られたフィルムの物性は表1に示すとおりであった。
さらに、偏光子の製造例に記載の操作で得た偏光子の両面に、ワイヤーバーコーターを装着したコーターを用いて、(株)ADEKA社製「アデカオプトマー」KR-508を接着剤として1~2μmの厚みとなるように均一に塗布し、上記の操作で得た多層フィルム2枚で、いずれもエア面(A面)側を接着面として、偏光子を挟み込む形となるようにラミネーターを用いて貼り合わせた。その貼合されたフィルムを、300nm以下の紫外線をカットするカットフィルターが設置された低圧水銀ランプを有する紫外線硬化装置中に導入し、空気雰囲気下で積算光量1.5J/cm2の光を照射した後、50℃、20時間のエージング処理を実施し偏光板を得た。得られた偏光板は強固に接着しており、剥離することができなかった。
得られた偏光板を粘着剤を介してガラスに貼り合わせた状態で80℃のオーブンに100時間放置した後に確認したが、顕著な光学特性の低下や外観不良は認められなかった。また接着性も良好だった。
・・・略・・・
【0102】
[実施例3]
参考例4で作製した樹脂と参考例10で作製した樹脂と三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)」MD001をそれぞれ50℃、80℃、80℃で6時間、除湿乾燥した後、240℃に加熱された3台の押出機に供給し、ドラム面(D面)側層/芯層/エア面(A面)側層=参考例2で作製した樹脂/参考例10で作製した樹脂/「アクリペット(登録商標)」MD001となるような3種3層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままダイスよりシート状に成形し、95℃の冷却ドラム表面に密着、固化させた後、剥離することにより多層フィルムを得た。得られたフィルムの物性は表1に示すとおりであった。
・・・略・・・
【0107】
[実施例8]
実施例3で得られたフィルムをロール延伸機により120℃で縦1.02倍に延伸した後、テンター延伸機により120℃で横1.02倍に逐次延伸を実施し、多層フィルムを得た。得られたフィルムの物性は表1に示すとおりであった。
さらに、実施例1と同様の操作により偏光板を得た。得られた偏光板は強固に接着しており、剥離することができなかった。
・・・略・・・
【0113】
【表1】
[図:0001406688000002.jpg]
」
(2)甲2発明
ア 【0010】、【0063】及び【0084】等の記載によれば、甲2に記載の多層フィルムにおいては、ポリ乳酸を含む層が接着剤を介して偏光子に接着されることが理解できる。
ここで、【0107】の「実施例8」について、「実施例1と同様の操作により偏光板を得た」と記載されるところ、当該「実施例1」(【0100】)においては、「ポリ乳酸を含有する層の材料」を製造する「参考例2で作製した樹脂」(【0089】)と「高分子からなる層の材料」を製造する「参考例10で作製した樹脂」(【0097】)により、「ドラム面(D面)側層/芯層/エア面(A面)側層=参考例2で作製した樹脂/参考例10で作製した樹脂/参考例2で作製した樹脂」となる2種3層フィードブロック装置を使用して多層フィルムを得て、多層フィルムの「エア面(A面)側」(「参考例2で作製した樹脂」側)、すなわち、ポリ乳酸を含有する層側を接着面として偏光子に貼り合わせている。
イ 【0113】【表1】によれば、多層フィルムの「A面材料」(「エア面」側の材料)、「芯層材料」及び「D面材料」(「ドラム面」側の材料)は、「実施例1」では、それぞれ「参考例2」、「参考例10」及び「参考例2」であり、「実施例3」(及び「実施例8」)では、「参考例4」、「参考例10」及び「MD001」であることが理解できる。
ウ 上記イ及び【0102】2行目の「参考例4で作製した樹脂」との記載によれば、同段落4行目の「3層」構造における「参考例2」は、「参考例4」の誤記であることがまず理解できる。そして、上記ア及びイによれば、同段落4~6行の「ドラム面(D面)側層/芯層/エア面(A面)側層=参考例2で作製した樹脂/参考例10で作製した樹脂/「アクリペット(登録商標)」MD001」は、正しくは、「ドラム面(D面)側層/芯層/エア面(A面)側層=「アクリペット(登録商標)」MD001/参考例10で作製した樹脂/参考例4で作製した樹脂」であることが理解できる。
エ また、【0113】【表1】によれば、「実施例8」で得られた「延伸」後の「多層フィルム」について、「エア面(A面)側層」、「芯層」及び「ドラム面(D面)側層」の厚みは、それぞれ「9.4μm」、「43.9μm」及び「8.8μm」であり、【0075】の定義による、「80℃における引張弾性率」は「733MPa」であり、【0076】の定義による、「MD方向及びTD方向」の「80℃24時間熱処理前後による寸法変化率(%)の絶対値」は、それぞれ「0.17%」及び「0.28%」であること、「ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸の比率」は「80%」であり、【0074】の定義による、「ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸の光学純度L/D比」(「ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸のL-乳酸とD-乳酸のモル比」)は、「70/30」であることが理解できる。
オ 上記(1)と上記ウ及びエより、甲2には、「実施例8」に係る以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。参考のため、認定の根拠となった箇所を括弧「()」内に示す。
「以下のような参考例4で作製した樹脂と、以下のような参考例10で作製した樹脂と、三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)」MD001をそれぞれ50℃、80℃、80℃で6時間、除湿乾燥した後、240℃に加熱された3台の押出機に供給し、ドラム面(D面)側層/芯層/エア面(A面)側層=「アクリペット(登録商標)」MD001/参考例10で作製した樹脂/参考例4で作製した樹脂となるような3種3層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままダイスよりシート状に成形し、95℃の冷却ドラム表面に密着、固化させた後、剥離することにより多層フィルムを得て(【0102】、【0113】【表1】)、次に得られたフィルムをロール延伸機により120℃で縦1.02倍に延伸した後、テンター延伸機により120℃で横1.02倍に逐次延伸を実施することで得られた多層フィルムであって(【0107】)、
当該多層フィルムのエア面(A面)側層、芯層及びドラム面(D面)側層の厚みは、それぞれ9.4μm、43.9μm及び8.8μmであり、
ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸の比率は80%であり、
ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸の光学純度L/D比は70/30であり、
当該多層フィルムの80℃における引張弾性率は733MPaであり、
当該多層フィルムのMD方向及びTD方向の80℃24時間熱処理前後による寸法変化率(%)の絶対値は、それぞれ0.17%及び0.28%である(【0113】【表1】)、
多層フィルム。
(参考例4の樹脂の製造方法)
真空配管、および窒素ガス配管、触媒、ラクチド溶液添加配管、アルコール開始剤添加配管、碇型掻揚げ翼を具備した縦型攪拌槽にて、系内を窒素置換後、L-ラクチド(ピューラック社製「PURALACT(登録商標)」L polymer grade)175Kg、D-ラクチド(ピューラック社製「PURALACT(登録商標)」D polymer grade)75Kg、ステアリルアルコール0.25kgを仕込み、窒素圧106.4kPa、130℃に昇温した。内容物が溶融した時点で、オクチル酸スズ12.5gを投入し、攪拌を開始、内温をさらに200℃に昇温し、重合を行なった。2時間反応を行い、ペレットを得た。得られたペレットは50℃にて、除湿乾燥を行なった後、ペレットと環状カルボジイミド化合物(CC1)を同時に添加し、CC1はペレットに対して0.5重量%添加した。2軸押出機にて2kPa以下の真空下で残存ラクチドを除去した後、チップカッターに押し出しペレットを得た。
このペレットを50℃にて除湿乾燥を行なったものと90℃にて熱風乾燥したアクリル系樹脂(三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)」VH000)を重量比で8/2にてチップブレンドを行い、2軸押出機へ投入した。真空下にて、残存ラクチドを除去した後、サイドフィーダーより、CC1を0.7重量%添加して、ポリ乳酸を得た(【0091】)。
(参考例10の樹脂の製造方法)
三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)」MD001と「アクリペット(登録商標)」IRS404を重量比5/5にてチップブレンドしたものを、80℃にて熱風乾燥した後、2軸押出機に投入しコンパウンドを行なった(【0097】)。」
(3) 対比及び判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「多層フィルム」は、「参考例4で作製した樹脂と、」「参考例10で作製した樹脂と、」「三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)」MD001を」「3台の押出機に供給し」、「得られたフィルムをロール延伸機により120℃で縦1.02倍に延伸した後、テンター延伸機により120℃で横1.02倍に逐次延伸を実施することで得られた」ものであって、上記「樹脂」及び「アクリペット(登録商標)」は、いずれもアクリル系樹脂を含有する。
b また、甲2には、「多層フィルム」について、「フィルムの表面に防眩層、ハードコート層、易滑層、反射防止層、位相差層などの公知の機能層を設けることも可能である。」(【0069】)と記載されていることから、甲2発明の「多層フィルム」は、「公知の機能層」を設けるための「基材フィルム」であるとともに、これを含む光学フィルムに相当するといえる。
c 上記a及びbによれば、本件特許発明1と甲2発明は、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムを含む光学フィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1においては、「光学フィルム」は、「基材フィルムの片側に形成された表面処理層」を有し、「当該表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層」であるのに対し、甲2発明においては、「基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層である」「表面処理層」を有しない点。
(相違点2)
本件特許発明1においては、「前記光学フィルム中の基材フィルム」は、「98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定における、軟化点に至るまでの最大伸び率が、前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方において、0.40%以上」であるのに対して、甲2発明においては、「多層フィルム」の当該「最大伸び率」が、「前記基材フィルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方において、0.40%以上」であるかどうか不明である点。
(相違点3)
「基材フィルム」が、本件特許発明1においては、「単層構造を有している」のに対して、甲2発明においては、多層フィルムである点。
(イ) 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
a 相違点3について
(a)甲2発明は、ポリ乳酸系樹脂組成物を含む多層フィルム、更に詳しくは、光学特性、機械特性に優れ、光学フィルム、とりわけ偏光子保護フィルムとして好適に用いることのできる多層フィルムに関する(【0001】参照)ものであって、ポリ乳酸を光学用途等高機能フィルム、特に偏光子を偏光子保護フィルムで挟持した偏光板の偏光子保護フィルムに用いる従来技術においては、偏光板としての実用上の機械特性を満足できず、また、偏光子との接着において接着手段が限られるという問題もあったところ、従来技術では達成していなかった、光学特性、機械特性に優れ、光学フィルム、とりわけ偏光子保護フィルムとして好適に用いることのできる多層フィルムを提供することを発明が解決する課題(【0004】参照)として、ポリ乳酸の光学純度を特定の範囲に制御することで、上記課題を解決することが出来ることを見出し(【0005】参照)、ポリ乳酸を含む層と高分子からなる層とを積層した多層フィルムであって、少なくとも一方の表面にポリ乳酸を含む層が配され、且つ、次の
(1)ポリ乳酸を含む層において、ポリ乳酸が該層を構成する全成分を基準として、50重量%以上を占めること、
(2)ポリ乳酸を含む層におけるポリ乳酸が、ポリ乳酸を構成するL-乳酸単位とD-乳酸単位とのモル比(L/D)が95/5~5/95の範囲にあること、
(3)フィルムの80℃における引張弾性率が100MPa以上3000MPa以下であること、
(4)フィルムの80℃24時間熱処理前後による寸法変化率の絶対値がMD方向、TD方向のいずれも3%以下であること、の要件を同時に満足する多層フィルムの構成(【0006】)として、
ポリ乳酸を含む層に係る要件(1)により、(ポリ乳酸を含む層の表面が接着剤のモノマー成分により溶解されることによる)アンカリング効果により接着性を向上させ(【0010】)、
ポリ乳酸を含む層に係る要件(2)により、得られるポリ乳酸の偏光子との接着性を向上し、更に、偏光解消による輝度低下を抑え(【0009】)、
多層フィルムに係る要件(3)及び(4)により、多層フィルムの剛性を高め、偏光子の収縮に伴う偏光度の低下、偏光板のカールの発生を抑制し、多層フィルムを脆くないものとし、ハンドリングを容易とする(【0054】、【0055】、【0057】)ことにより、上記課題を解決したものである(【0006】、【0008】及び【請求項1】等参照)。
(b) 上記(a)より、上記の(1)~(4)の要件を満足する甲2発明にとって、「3層」の「多層フィルム」からなる構成は、上記課題を解決するための必須の構成といえるから、甲2発明の「多層フィルム」(基材フィルム)を、単層構造のフィルムとすることには阻害要因がある。
なお、特許異議申立人が提出した甲1、甲3及び甲4~甲6の記載や、令和5年7月21日提出の意見書において新たに提出した甲7~甲8の記載を考慮しても、上記のとおり、甲2発明において、相違点3に係る本件特許発明1の構成(「基材フィルムは、単層構造を有している」との構成)を採用すること自体に阻害要因がある以上、当該構成を採用する動機は見いだせない。
したがって、甲2発明において、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
b 令和5年7月21日提出の意見書における特許異議申立人の主張について
(a) 同意見書2頁18行~3頁11行において、特許異議申立人は、甲2発明の多層フィルムにおいては、いずれの層もアクリル系樹脂を使用しているから、甲2発明において、多層フィルムを単にアクリル系樹脂の単層構造とすることに何ら困難性はない、と主張する。
(b) しかしながら、上記aで述べた理由により、上記主張を採用することはできない。
c 小括
相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記ア(イ)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明2~7は、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
2 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
(1) 本件訂正により、本件特許発明の「基材フィルム」について、「98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定における」「軟化点に至るまでの最大伸び率」が「0.40%以上」である方向が、「基材フィルムの長手方向」及び「前記長手方向と直交する方向」の少なくとも一方であることが特定された。
(2) ここで、「基材フィルムの長手方向」が、基材フィルムの長尺である長手方向を意味することは明らかであり、また、当該「基材フィルムの長手方向」に直交する「短手方向」(「幅方向」)が存在することは明らかなことである。
そして、「98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定」による「伸び率」の測定は、基材フィルムから長方形状のサンプルを裁断し、当該サンプルの長手方向両端部をクランプして引張荷重を加えつつ各温度での当該サンプルの長手方向の伸びを測定することは技術常識である。さらにいえば、TMA測定において、基材フィルム(薄い膜)から、その厚み方向が長方形状のサンプルの長手方向となるようにサンプルを裁断、取得して、当該サンプルの長手方向両端をクランプして、基材フィルムの厚み方向の(最大)伸び率を求めるようなことは通常行わないのであって、「最大伸び率」のTMA測定における「基材フィルムの長手方向」「と直交する方向」が「基材フィルム」の「短手方向」を意味することは技術常識の範疇といえる。
したがって、本件特許発明1は明確である。
また、本件特許発明2~7も明確である。
(3) 令和5年7月21日提出の意見書の主張
特許異議申立人は、「前記長手方向と直交する方向」という文言は、基材フィルムの長手方向と直交する方向であれば、全ての方向を含むものであり、基材フィルムの短手方向のみならず、例えば、基材フィルムの法線方向(厚み方向)も含むものであるから、請求項1に記載の「長手方向と直交する方向」という文言は、方向が一義的に定まらず、明確ではない(9頁7~17行)、と主張する。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、当業者は、TMA測定において最大伸び率を測定する際の「基材フィルムの長手方向」「と直交する方向」は、基材フィルムの「短手方向」を意味すると理解することはあっても、「基材フィルム」の厚さ方向と理解することはない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
(4) してみると、本件特許発明1~7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないということはできない。
第6 令和5年7月21日提出の意見書で追加されたサポート要件(特許法第36条第6項第1号)に係る取消理由についての当審の判断
1 取消理由の概要
本件特許発明1は、例えば、基材フィルムの長手方向の最大伸び率が0.40%以上であり、かつ長手方向と直交する方向の最大伸び率が0%であるもの、または、基材フィルムの長手方向と直交する方向の最大伸び率が0.40%以上であり、かつ長手方向の最大伸び率が0%であるものも含むことから、本件特許発明はサポート要件を満たしていない発明の詳細な説明に記載されたものではない(同意見書9頁下から9行~10頁14行)。
2 判断
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
これを本件特許発明についてみると以下のとおりとなる。
(2) 本件特許発明、発明が解決しようとする課題及び課題解決手段に係る記載から理解される事項
ア 本件特許発明
上記第3で述べたとおりである。
イ 本件特許明細書から理解される発明が解決しようとする課題
本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、従来の光学フィルムは、樹脂組成物を乾燥させる工程において、基材フィルムに熱収縮によるシワが生じ、外観不良の原因となる場合があり、このような熱収縮による不具合を防止するために樹脂組成物を低温で乾燥させた場合、基材フィルムと表面処理層との密着性が不十分になるという問題があったところ、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルム、そのような光学フィルムを備えた偏光板及びそのような偏光板を備えた画像表示装置を提供すること(【0004】、【0005】)であると認められる。
ウ 課題解決手段に関する本件特許明細書の記載
本件特許発明1の、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層とを含む光学フィルム」において、「前記光学フィルム中の基材フィルムは、98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定における、軟化点に至るまでの最大伸び率が、前記基材フルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方において、0.40%以上であり」(ここで、上記「第5」2(2)で述べたとおり、「前記長手方向と直交する方向」とは、「短手方向」を意味する。)、「前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層であり」、及び、「前記基材フィルムは、単層構造を有している」との各事項と、上記イの発明が解決しようとする課題との関係について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
(ア) 「【0010】
A.光学フィルムの全体構成
・・・略・・・光学フィルム100は、基材フィルム10と、基材フィルム10の片側に形成された表面処理層20と、を含む。基材フィルム10はアクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである。基材フィルム10は、所定方向に98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定において、軟化点に至るまでの最大伸び率が0.40%以上である。・・・略・・・基材フィルムが長尺状または長方形状である場合、上記所定方向は、代表的には基材フィルムの長手方向および短手方向(長手方向に直交する方向)の少なくともいずれか一方である。・・・略・・・上記光学フィルムによれば、表面処理層20を形成する組成物の基材フィルム10への浸透が促進され得る。その結果、アンカリング効果(アンカー効果)によって、基材フィルム10と表面処理層20との密着性が向上し得る。特に、基材フィルム10上に樹脂組成物を塗布し、樹脂組成物を乾燥および硬化させることにより表面処理層20を形成する場合に、上記樹脂組成物を低温乾燥させた場合であっても基材フィルム10と表面処理層20との十分な密着性を実現し得る。したがって、樹脂組成物を乾燥する際の熱によって基材フィルムにシワが発生することを抑制し得る。」
(イ) 「【0022】
B-2.アクリル系樹脂
B-2-1.アクリル系樹脂の構成
アクリル系樹脂としては、任意の適切なアクリル系樹脂が採用され得る。
・・・略・・・
【0051】
B-3.コアシェル型粒子
上記基材フィルムにおいて、コアシェル型粒子は、アクリル系樹脂100重量部に対して、好ましくは5重量部~50重量部、より好ましくは5重量部~40重量部配合される。これにより、基材フィルム上に表面処理層を形成した場合に、表面処理層を形成する組成物の基材フィルムへの浸透がさらに促進され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。」
(ウ) 「【0057】
B-4.基材フィルムの形成
本発明の実施形態による基材フィルムは、代表的には、上記アクリル系樹脂(その他の樹脂を併用する場合には、当該その他の樹脂とのブレンド)およびコアシェル型粒子を含む組成物をフィルム形成することを含む方法により形成され得る。さらに、基材フィルムを形成する方法は、上記フィルムを延伸することを含み得る。
・・・略・・・
【0060】
延伸方法としては、任意の適切な延伸方法、延伸条件(例えば、延伸温度、延伸倍率、延伸速度、延伸方向)が採用され得る。延伸方法の具体例としては、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、同時に用いてもよく、逐次に用いてもよい。アクリル系樹脂に対するコアシェル型粒子の配合量が適切に調整されたフィルムを適切な延伸条件で延伸することにより、得られる基材フィルム上に表面処理層を形成した場合に、表面処理層を形成する組成物の基材フィルムへの浸透がさらに促進され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。
・・・略・・・
【0062】
延伸温度は、基材フィルムに所望される光学的特性、機械的特性および厚み、使用される樹脂の種類、使用されるフィルムの厚み、延伸方法(一軸延伸または二軸延伸)、延伸倍率、延伸速度等に応じて変化し得る。具体的には、延伸温度は、好ましくはTg~Tg+50℃、さらに好ましくはTg+15℃~Tg+50℃、最も好ましくはTg+35℃~Tg+50℃である。このような温度で延伸することにより、適切な特性を有する基材フィルムが得られ得る。具体的な延伸温度は、例えば110℃~200℃であり、好ましくは120℃~190℃であり、さらに好ましくは150℃~190℃である。延伸温度がこのような範囲であれば、延伸倍率および延伸速度を適切に調整することにより、得られる基材フィルム上に表面処理層を形成した場合に、表面処理層を形成する組成物の基材フィルムへの浸透がさらに促進され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。
【0063】
延伸倍率もまた、延伸温度と同様に、光学的特性、機械的特性および厚み、使用される樹脂の種類、使用されるフィルムの厚み、延伸方法(一軸延伸または二軸延伸)、延伸温度、延伸速度等に応じて変化し得る。二軸延伸を採用する場合、幅方向(TD)の延伸倍率と長さ方向(MD)の延伸倍率との比(TD/MD)は、好ましくは1.0~1.5であり、より好ましくは1.0~1.4であり、さらに好ましくは1.0~1.3である。また、二軸延伸を採用する場合の面倍率・・・略・・・は、好ましくは2.0~6.0であり、より好ましくは3.0~5.5であり、さらに好ましくは3.5~5.2である。延伸倍率がこのような範囲であれば、延伸温度および延伸速度を適切に調整することにより、得られる基材フィルム上に表面処理層を形成した場合に、表面処理層を形成する組成物の基材フィルムへの浸透がさらに促進され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。
【0064】
延伸速度もまた、延伸温度と同様に、光学的特性、機械的特性および厚み、使用される樹脂の種類、使用されるフィルムの厚み、延伸方法(一軸延伸または二軸延伸)、延伸温度、延伸倍率等に応じて変化し得る。延伸速度は、好ましくは3%/秒~20%/秒であり、より好ましくは3%/秒~15%/秒であり、さらに好ましくは3%/秒~10%/秒である。二軸延伸を採用する場合、1つの方向の延伸速度ともう1つの方向の延伸速度とは、同一であってもよく異なっていてもよい。延伸速度がこのような範囲であれば、延伸温度および延伸倍率を適切に調整することにより、得られる基材フィルム上に表面処理層を形成した場合に、表面処理層を形成する組成物の基材フィルムへの浸透がさらに促進され得、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得る。」
(エ) 「【0066】
C.表面処理層
表面処理層は、光学フィルムに求められる機能に応じて基材フィルムの片側に形成された任意の適切な機能層である。
・・・略・・・
【0067】
表面処理層は、代表的には、基材フィルム上に形成された樹脂組成物の硬化層である。表面処理層を形成する工程は、基材フィルム上に表面処理層形成用の樹脂組成物を塗布して塗布層を形成することと、上記塗布層を乾燥および硬化して表面処理層とすることを含み得る。
・・・略・・・
【0069】
・・・略・・・塗布層の加熱温度は、例えば、50℃~140℃であり、好ましくは60℃~100℃である。このような加熱温度で加熱することにより、基材フィルムと表面処理層との密着性に優れた光学フィルムが得られ得る。」
(オ) 「【実施例】
【0080】
・・・略・・・各特性の測定方法は以下の通りである。
・・・略・・・
(1)基材フィルムの最大伸び率(TMA測定)
基材フィルムを幅4mm×長さ20mmのサイズに裁断して、初期長さが20mmの測定サンプルとした。なお、基材フィルムの長手方向が長さ方向となるように裁断して得られる測定サンプルAと、基材フィルムの長手方向に直交する方向が長さ方向となるように裁断して得られる測定サンプルBとを用意した。
測定サンプルAおよび測定サンプルBのそれぞれについて、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番「TMA7100」)を用いて、測定サンプルを測定冶具に取り付け、測定サンプルの長さ方向に98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温したときの、軟化点に至るまでの最大伸び率を測定した。
なお、最大伸び率は以下の式を用いて算出した。
最大伸び率(%)=(最大伸び時のサンプル長-初期サンプル長)/初期サンプル長×100
測定サンプルAの最大伸び率は、基材フィルムの長手方向の最大伸び率に対応し、測定サンプルBの最大伸び率は、基材フィルムの短手方向(長手方向に直交する方向)の最大伸び率に対応する。
(2)密着性評価
表面処理層の基材フィルムに対する密着性を、JIS K-5400の碁盤目剥離試験(碁盤目数:100個)に準じて評価し、以下の指標により判定した。
〇:碁盤目剥離数が0個
×:碁盤目剥離数が1個以上
・・・略・・・
【0082】
<実施例1>
1.基材フィルムの作製
MS樹脂(MS-200;メタクリル酸メチル/スチレン(モル比)=80/20の共重合体,新日鐵化学(株)製)をモノメチルアミンでイミド化(イミド化率:5%)した。得られたイミド化MS樹脂は、・・・略・・・グルタルイミド単位・・・略・・・、・・・(メタ)アクリル酸エステル単位・・・略・・・、およびスチレン単位を有していた。
・・・略・・・
上記で得られたイミド化MS樹脂100重量部とコアシェル型粒子10重量部とを単軸押出機に投入して溶融混合し、Tダイを通してフィルム形成することにより押出フィルムを得た。得られた押出フィルムを、延伸温度160℃で長さ方向および幅方向にそれぞれ2倍に同時二軸延伸した。延伸速度は、長さ方向および幅方向ともに10%/秒であった。
このようにして、基材フィルムAを作製した。得られた基材フィルムAの厚みは30μmであった。基材フィルムAの長手方向の最大伸び率および短手方向の最大伸び率を測定した。結果を表1に示す。
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムAの片側に、硬化後の厚みが6μmとなるように組成物Aを塗布して塗布層を形成した。次いで、上記塗布層を、70℃で乾燥させるとともにUV硬化させることにより、基材フィルムAの片側にハードコート層が形成された光学フィルム1を得た。上記光学フィルム1を密着性評価に供した。結果を表1に示す。
【0083】
<実施例2>
上記基材フィルムAの片側に、組成物Bを塗布して乾燥および硬化させることによりハードコート層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、・・・光学フィルム2を得た。
・・・略・・・
【0084】
<実施例3>
上記基材フィルムAの片側に、組成物Cを塗布して硬化させることにより防眩層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、光学フィルム3を得た。
・・・略・・・
【0085】
<実施例4>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子の配合量を15重量部としたこと、および押出フィルムの延伸温度を152℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムBを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムBを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム4を得た。
・・・略・・・
【0086】
<実施例5>
1.基材フィルムの作製
上記で得られたイミド化MS樹脂100重量部とコアシェル型粒子10重量部とを単軸押出機に投入して溶融混合し、Tダイを通してフィルム形成することにより押出フィルムを得た。得られた押出フィルムを、延伸温度160℃で長さ方向および幅方向にそれぞれ2倍に同時二軸延伸した。延伸速度は、長さ方向および幅方向ともに10%/秒であった。
このようにして、基材フィルムCを作製した。得られた基材フィルムCの厚みは40μmであった。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムCを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム5を得た。
・・・略・・・
【0087】
<実施例6>
1.基材フィルムの作製
上記で得られたイミド化MS樹脂100重量部とコアシェル型粒子10重量部とを単軸押出機に投入して溶融混合し、Tダイを通してフィルム形成することにより押出フィルムを得た。得られた押出フィルムを、延伸温度160℃で長さ方向および幅方向にそれぞれ2倍に同時二軸延伸した。延伸速度は、長さ方向および幅方向ともに10%/秒であった。
このようにして、基材フィルムDを作製した。得られた基材フィルムDの厚みは35μmであった。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムDを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム6を得た。
・・・略・・・
【0088】
<実施例7>
1.基材フィルムの作製
押出フィルムの延伸温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムEを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムEを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム7を得た。
・・・略・・・
【0089】
<実施例8>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子の配合量を23重量部としたこと、および押出フィルムの延伸温度を152℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムFを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムFを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム8を得た。
・・・略・・・
【0090】
<実施例9>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムGを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムGを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム9を得た。
・・・略・・・
【0091】
<実施例10>
1.基材フィルムの作製
押出フィルムの延伸温度を140℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムHを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムHを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・光学フィルム10を得た。
・・・略・・・
【0092】
<実施例11>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子の配合量を23重量部としたこと、および押出フィルムの延伸温度を137℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムIを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムIを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム11を得た。
・・・略・・・
【0093】
<実施例12>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子を配合しなかったこと、および押出フィルムの延伸温度を155℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムJを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムJを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム12を得た。
・・・略・・・
【0094】
<実施例13>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子の配合量を5重量部としたこと、および押出フィルムの延伸温度を140℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムKを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムKを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム13を得た。
・・・略・・・
【0095】
<実施例14>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子を配合しなかったこと、および押出フィルムの延伸温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムLを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムLを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム14を得た。
・・・略・・・
【0096】
<比較例1>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子の配合量を3重量部としたこと、および押出フィルムの延伸温度を140℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムMを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムMを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム15を得た。
・・・略・・・
【0097】
<比較例2>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子を配合しなかったこと、および押出フィルムの延伸温度を140℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムNを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムNを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム16を得た。
・・・略・・・
【0098】
<比較例3>
上記基材フィルムNの片側に、組成物Bを塗布して乾燥および硬化させることによりハードコート層を形成したこと以外は比較例2と同様にして、・・・略・・・光学フィルム17を得た。
・・・略・・・
【0099】
<比較例4>
上記基材フィルムNの片側に、組成物Cを塗布して乾燥および硬化させることにより防眩層を形成したこと以外は比較例2と同様にして、・・・略・・・光学フィルム18を得た。
・・・略・・・
【0100】
<比較例5>
1.基材フィルムの作製
コアシェル型粒子を配合しなかったこと、および押出フィルムの延伸温度を130℃としたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルムOを作製した。
・・・略・・・
2.光学フィルムの作製
上記基材フィルムOを用いたこと以外は実施例1と同様にして、・・・略・・・光学フィルム19を得た。
・・・略・・・
【0101】
【表1】
[図:0001406688000003.jpg]
【0102】
表1から明らかなように、長手方向の最大伸び率および短手方向の最大伸び率のうち少なくとも一方が0.40%以上である基材フィルムを用いた実施例1~14の光学フィルムは、表面処理層の基材フィルムに対する密着性が高かった。」
エ 本件特許明細書の記載から理解される課題解決手段に関する事項
上記ウ(ア)~(エ)の記載によれば、本件特許明細書には、課題解決手段に関して、次の事項が開示されていると認められる。
(A)アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムの、「所定方向」に98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定において、軟化点に至るまでの「最大伸び率」を0.40%以上とすることより、基材フィルム上に樹脂組成物を塗布し、樹脂組成物を乾燥および硬化させることにより表面処理層を形成する場合、表面処理層を形成する組成物の基材フィルムへの浸透が促進される結果、「アンカリング効果」により、基材フィルムと表面処理層との「密着性」を向上できること、
(B)基材フィルムが長尺状または長方形状である場合、上記「所定方向」は、代表的には基材フィルムの長手方向および短手方向(長手方向に直交する方向)の少なくともいずれか一方であること、
(C)アクリル系樹脂に対するコアシェル型粒子の配合量が適切に調整されたフィルムを適切な延伸条件(延伸方法(縦延伸、横延伸、一軸延伸、二軸延伸、同時延伸、逐次延伸)、延伸倍率・面倍率、縦横延伸比、延伸温度、延伸速度等)で延伸することにより、得られる基材フィルム上に表面処理層を形成した場合に、基材フィルムと表面処理層との密着性が高い光学フィルムが得られ得ること、
(D)長手方向の最大伸び率及び短手方向の最大伸び率のうち少なくとも一方が0.40%以上である基材フィルムを用いた実施例1~14の光学フィルムは密着性が高く(○)、一方、長手方向の最大伸び率および短手方向の最大伸び率が0.40%未満である基材フィルムを用いた比較例1~5の光学フィルムは密着性が悪い(×)こと(【0101】【表1】及び【0102】)。
オ 判断
上記エ(A)~(D)によれば、「アクリル系樹脂を含有する延伸フィルムである基材フィルムと、該基材フィルムの片側に形成された表面処理層とを含む光学フィルム」であって、「前記光学フィルム中の基材フィルムは、・・・略・・・最大伸び率が、前記基材フルムの長手方向および前記長手方向と直交する方向の少なくとも一方において、0.40%以上であり」、「前記表面処理層が、前記基材フィルム上に塗布された樹脂組成物の硬化層であり」及び「前記基材フィルムは、単層構造を有している」との発明特定事項を備える、本件特許発明1の「光学フィルム」が、上記イで示した本件特許発明の課題を解決できるものと当業者が認識できる範囲のものであることは明らかである。
また、本件特許発明2~7についても同様である。
カ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、基材フィルムの長手方向の最大伸び率が0.40%以上であり、かつ長手方向と直交する方向の最大伸び率が0%であるもの、または、基材フィルムの長手方向と直交する方向の最大伸び率が0.40%以上であり、かつ長手方向の最大伸び率が0%であるものにおいても、本件特許発明の効果が得られることまでは裏付けられていない旨主張する(上記1参照)が、基材フィルムの長手方向の最大伸び率及び長手方向と直交する(短手)方向の最大伸び率の一方が0.40%以上であり、他方が0%であるといった、最大伸び率の方向依存性が極端なものは実際には想定し難く、このような極端な態様の光フィルムにまでサポート要件を充足することが求められるものではない。
してみると、令和5年7月21日提出の意見書における特許異議申立人のサポート要件に係る主張を採用することはできない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立書に記載された取消理由について
1 申立の理由の概要
特許異議申立人は、特許異議申立理由の「理由1:特許法第29条第1項第3号」及び「理由2:特許法第29条第2項」として、
(I)甲1(特開2014-225015号公報)の【0150】~【0151】の「一般式(1)」の記載、【0165】の[フィルム14の作製]の記載、【0166】の[フィルム15の作製]の記載、【0219】の〔ハードコート層の作製〕の記載、【0208】の[引張弾性率の測定]の記載、【0216】【表1】の「フィルム14」(あるいは「フィルム15」)の「MD」方向の「引張弾性率[×109N/m2]」の記載に基づき、甲1発明として、ハードコート層付きフィルム14、15を認定し(特許異議申立書8頁下から4行~13頁14行)、
(II)本件特許発明1と甲1発明との対比として、「フィルム14、15は、延伸フィルムであることは明示されていないが」、甲1【0、091】には、「光学フィルムは、延伸フィルムであることが好ましいことが記載されているので、延伸フィルムであることは相違点とならない」とし、本件特許発明1と甲1発明との形式的な相違点として、「(相違点):本件特許発明1においては、「B:前記光学フィルム中の基材フィルムは、98mN/minの引張荷重を加えながら24℃から150℃まで5℃/minで昇温するTMA測定において、軟化点に至るまでの最大伸び率が0.40%以上である」のに対し、甲1発明においては、これを明示していない点。」を抽出し(同29頁6行~30頁1行)、
(III)相違点について、甲1【0219】に定義された、25℃相対湿度60%の環境に48時間放置後、延伸速度10mm/分でチャック間隔が広がるように加重を加えたフィルムの厚み、力及び伸び量から算出された、フィルム14、15のMD方向の引張弾性率(×109N/m2)「1.6」を前提とし、厚み40μmのフィルム14、15を、幅4mm×長さ20mmのサイズに切断したフィルム(本件特許明細書【0080】)について計算したフィルム14、15の「最大伸び率」がそれぞれ0.62%、0.58%となることから、甲1発明のフィルム14、15」は、上記(相違点)に係る構成、すなわち、軟化点に至るまでの最大伸び率が0.40%以上である蓋然性が高い旨主張する(主張1)。
さらに、特許異議申立人は、上記(II)において、甲1【0091】には、「光学フィルムは、延伸フィルムであることが好ましいことが記載されているので、延伸フィルムであることは相違点とならない」と主張している(主張2)。
2 判断
上記主張1及び2について検討する。
甲1発明のフィルム14、15は、そもそも、アクリル系樹脂のペレットあるいはイミド化樹脂を「二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして」「得」られた「厚さ40μmの長尺状のフィルム」(甲1【0165】、【0166】)である。当該製造工程からみて、フィルム14、15は、いわゆる、延伸フィルムではない。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、上記(相違点)に加えて、「(相違点2):本件特許発明1においては、「基材フィルム」が「延伸フィルム」であるのに対して、甲1発明においては、「延伸フィルム」でない点。」においても相違し(相違点の看過)、この(相違点2)は実質的な相違点である。
したがって、上記(相違点)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。
また、甲1発明のフィルム14、15が延伸フィルムでないことは上述したとおりであるところ、フィルムを延伸すると、延伸方法(一軸、二軸等)及び延伸条件(延伸方向、延伸倍率、延伸温度等)に依存して、延伸後のフィルムの厚さや、引張弾性率、伸び率、収縮率等の機械的特性が変化することは技術常識である。
ここで、甲1発明において、(相違点2)に係る構成を採用しようとすれば、すなわち、フィルム14、15を延伸フィルムに変更しようとすれば、フィルム14、15の引張弾性率(甲1【0219】)も変化してしまうことは上記技術常識に照らして明らかであるから、上記主張1における前提条件(上記下線部)はもはや成立しない。
したがって、主張1は、その前提に誤りがあるから採用できない。
よって、主張1及び2は採用できない。
3 特許異議申立人は、令和5年7月21日提出の意見書4頁下から10行~8頁1行において、本件特許発明1に対して、上記1(I)~(III)と同様な主張を繰り返しているが、上記2で述べたとおりであるから、同意見書の主張を採用することはできない。
第8 むすび
本件特許発明1~7は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由、意見書において追加主張された理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701226