特許異議申立
2020-700906
植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋
- 審判番号
- 2020-700906
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-218100
- 登録番号
- 6699710
- 請求日
- 2020年11月26日
- 審決日
- 2023年06月23日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】結田 純次
- 【権利者代理人】竹林 則幸
- 【異議申立人】土田 裕介
- 【異議申立人代理人】長谷川 芳樹
- 【異議申立人代理人】黒木 義樹
- 【異議申立人代理人】吉住 和之
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.55 -YAA(B65D) / P1651.113-YAA(B65D) / P1651.121-YAA(B65D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第44条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6699710号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6699710号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~5〕について訂正することを認める。
特許第6699710号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第6699710号の請求項2~5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1.出願分割の経緯
特許第6699710号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る出願は、平成30年11月21日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、平成23年2月14日に出願した特願2011-28784号を最先の出願とする、いわゆる第3世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
最先の出願:特願2011-28784号(平成23年2月14日)
第1次分割:特願2015-77248号(平成27年4月3日)
第2次分割:特願2016-248759号(平成28年12月22日)
本願:特願2018-218100号(平成30年11月21日)
2.本件特許異議の申立てに係る手続の経緯
本件特許は、令和2年5月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月27日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年11月26日 :特許異議申立人土田裕介(以下「申立人」という。)による本件特許の請求項1~5に対する特許異議の申立て
令和3年 2月24日付け:取消理由通知
令和3年 4月26日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出
令和3年 7月13日付け:訂正拒絶理由通知
令和3年 8月 4日 :特許権者による意見書の提出
令和3年12月16日 :申立人による意見書の提出
令和4年 3月30日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和4年 6月 7日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出
令和4年 7月27日 :申立人による意見書の提出
令和4年 9月27日付け:訂正拒絶理由通知
令和4年10月26日 :特許権者による意見書、手続補正書の提出
令和5年 1月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和5年 3月 9日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出
令和5年 4月25日 :申立人による意見書の提出
なお、令和3年4月26日及び令和4年6月7日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
令和5年3月9日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6699710号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1の
「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムを用いてなる包装袋であって、
該ヒートシール性フィルムは、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5~90重量%と、石油由来のポリエチレン系樹脂を10~95重量%とを混合した樹脂による単層構成のフィルムからなり、」を、
「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムを用いてなる包装袋であって、
該ヒートシール性フィルムは、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を50~90重量%と、石油由来のポリエチレン系樹脂を10~50重量%とを混合した樹脂による単層構成のフィルムからなり、」に訂正する。
(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1の
「該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定
14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装袋。」を、
「該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910~0.920g/cm3、メルトフローレートが0.7~1.3g/10分の物性を有し、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定
14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装袋。」に訂正する。
(3)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(5)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(6)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(7)一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、請求項3~5が、訂正の対象である請求項2の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔2~5〕について請求されたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1-1の「植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」及び「石油由来のポリエチレン系樹脂」を、それぞれ「50~90重量%」、「10~50重量%」とする訂正は、それそれの樹脂の混合割合の組み合わせの範囲を狭める訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0053】には、「スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(樹脂組成物1)であるブラスケム社C4LL-LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)を50重量%と、石油由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂2である宇部丸善ポリエチレンLDPE-F120N(d=0.920、MFR=1.2g/10分)50重量%を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。」と記載されているから、「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」の混合割合の下限値を「50重量%」とすること、及び「石油由来のポリエチレン系樹脂」の混合割合の上限値を「50重量%」とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項1-1は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項1-2について
訂正事項1-2の「該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910~0.920g/cm3、メルトフローレートが0.7~1.3g/10分の物性を有し、」は、「植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」の物性を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0033】には、「本願発明の樹脂組成物1は、コモノマー種がブテン-1、密度が0.910~0.920g/cm3,メルトフローレートが0.70~1.30g/10分のエチレン-α-オレフィン共重合体であるので、石油由来のポリエチレン系樹脂と物性的に違いがないため、既存のフィルム製造工程を用いることができ、包材の加工適性を損ねることなく原料を切替えることができる。」と記載されており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項1-2は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項2~5について
訂正事項2~5は、本件訂正前の請求項2~5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2~5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1-1~5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、令和5年3月9日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載の、次のとおりのものである。
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムを用いてなる包装袋であって、
該ヒートシール性フィルムは、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を50~90重量%と、石油由来のポリエチレン系樹脂を10~50重量%とを混合した樹脂による単層構成のフィルムからなり、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910~0.920g/cm3、メルトフローレートが0.7~1.3g/10分の物性を有し、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定
14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装袋。
第4 令和5年1月6日付け取消理由(決定の予告)について
1.取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和5年1月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《引用文献一覧》
引用文献1:特開平9-150489号公報(申立人提出の甲第2号証)
引用文献2:杉山英路ほか、「地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号 63~67頁(申立人提出の甲第3号証)
引用文献3:杉山英路、「新しいバイオマスプラスチックスの可能性~「サトウキビ由来ポリエチレン」の製品化から~」、Polyfile、株式会社大成社、2009年12月10日、第46巻、第12号、28~30頁(申立人提出の甲第4号証)
引用文献4:特開2010-162748号公報(当審が発見した文献)
引用文献5:特開2009-91694号公報(当審が発見した文献)
引用文献6:特開2006-176620号公報(当審が発見した文献)
引用文献7:特開2005-14461号公報(当審が発見した文献)
引用文献8:特許第3003996号公報(当審が発見した文献)
2.当審の判断
(1)引用文献8の記載事項
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は積層フィルムに関する。特に、加工性が改良され、低温ヒートシール性、ヒートシール強度及びホットタック性が従来の成形材料に比べて著しく優れている積層フィルムに関するものである。」
イ「【0006】
【発明の実施の形態】
[1] ヒートシール層の構成
本発明の積層フィルムを構成する1つの層はヒートシール層である。該ヒートシール層はエチレン・α-オレフィン共重合体及びエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成されるものである。
(1)エチレン・α-オレフィン共重合体(成分A)
・・・・
【0013】(b) エチレン・α-オレフィン共重合体の製造
このような線状低密度ポリエチレンの製造法は、・・・・メタロセン触媒、特にメタロセン・アルモキサン触媒、または、例えば、国際公開公報WO92/01723号等に開示されているようなメタロセン化合物と以下に述べるメタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる化合物からなる触媒を使用して、主成分のエチレンと従成分のα-オレフィンとを共重合させる方法である。・・・・
・・・・
【0018】共重合
重合方法としては、気相法、スラリー法、溶液法、高圧イオン重合法等を挙げることができる。これらの中では溶液法、高圧イオン重合法が好ましく、特に高圧イオン重合法で製造することが好ましい。・・・・
【0019】(2)エチレン重合体(成分B))
(a) 性状
本発明の樹脂組成物を構成する成分Bのエチレン重合体、好ましくは、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)である。・・・・」
・・・・
【0026】[II] 量比
これら成分Aのエチレン・α-オレフィン共重合体と成分Bのエチレン重合体との配合割合は、成分Aが50~99重量%で成分Bが1~50重量%、好ましくは成分Aが55~95重量%で成分Bが5~45重量%、特に好ましくは成分Aが60~85重量%で成分Bが15~40重量%である。上記成分Bの配合割合が上記範囲よりも少なすぎると加工性改良効果が不十分となる。また、上記成分Aの配合割合が上記範囲よりも少なすぎるとヒートシール性、ホットタック性等が不良となる。
【0027】[III] 樹脂組成物の製造
(1) 配合
本発明の樹脂組成物は、通常の樹脂組成物の製造方法と同様の方法で成分Aのエチレン・α-オレフィン共重合体と成分Bのエチレン重合体とを配合することによって製造することができる。具体的には、成分Aと成分Bとを押出機、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー等を用いて溶融、混練し、樹脂組成物が得られる。該樹脂組成物は通常に行なわれている方法、例えば、押出機によりペレット状とするのが普通である。
・・・・
【0030】[IV] 積層フィルム
上記の樹脂組成物を用いて成形加工して積層フィルムを製造することができる。積層フィルムの製造方法は、ドライラミネート法、押出ラミネート法、サンドイッチラミネート法、共押出法等により、各種基層に押出コーティング或いは基層と共押出することによって、ラミネートされた積層フィルムを得ることができる。特に、押出ラミネート法により基層にラミネートして、積層フィルムとすることが好ましい。また、各種基層とシーラント基層とのサンドイッチラミネート基層として使用することもできる。
【0031】本発明の積層フィルムを構成するもう一方の層である基層としては、紙、アルミニウム箔、セロファン、織布、不織布、フィルムとすることができる高分子重合体、例えば、高密度ポリエチレン、中、低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、・・・・等を挙げることができる。」
ウ「【0041】[II] 実験例
実施例1
エチレン・α-オレフィン共重合体(成分A)の製造
触媒の調製は、特開昭61-130314号公報に記載された方法で実施した。すなわち、錯体エチレン-ビス(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド2.0ミリモルに、東洋ストファー社製メチルアルモキサンを上記錯体に対し1,000モル倍加え、トルエンで10リットルに希釈して触媒溶液を調製し、以下の方法で重合を行なった。内容積1.5リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器にエチレンと1-ヘキセンとの混合物を1-ヘキセンの組成が80重量%となるように供給し、反応器内の圧力を1,600kg/cm2に保ち、160℃で反応を行なった。反応終了後、MFRが18g/10分、密度が0.898g/cm3、Q値が1.9、TREF溶出曲線のピークが1つであり、そのピーク温度が50℃、該ピーク温度のH/Wが1.5のエチレン・α-オレフィン共重合体(1-ヘキセン含量22重量%)を得た。
【0042】エチレン重合体(成分B)の製造
反応温度260℃、反応圧力1,500kg/cm2で、オートクレーブ法にて製造した。MFRが4g/10分、密度が0.92g/cm3、MEが2.4、Q値が10の高圧法低密度ポリエチレンを得た。
【0043】樹脂組成物の製造
表1に記載される通り、上記の線状低密度ポリエチレン(成分A)と高圧法低密度ポリエチレン(成分B)とを、成分A:成分B=75:25重量%の割合で配合し、40mmφ単軸押出機で160℃の成形温度にて造粒して、該成分Aと成分Bとからなるペレット状の樹脂組成物を得た。
【0044】評価
このペレット状の樹脂組成物を、40mmφ単軸押出機を用いて280℃の成形温度で肉厚30μmのフィルム状に押し出し、これを幅360mmのTダイより、予め肉厚30μmのLDPEと厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルムとがラミネートされた積層体のLDPE側上に、押出ラミネートコーティングした。このラミネート三層フィルムを用いて、ヒートシール強度、3kg荷重ヒートシール温度、ホットタック性を測定した。また、同様の方法で、基層に二軸延伸ナイロンフィルムの代わりにクラフト紙を用い、肉厚20μmにて押出ラミネートコーティングしたラミネートフィルムのネックインの測定及びサージング評価を行なった。得られた評価結果を表1に示す。」
エ「【0059】
【発明の効果】
このような本発明の積層フィルムは、従来のものよりも加工性が改良され、かつ従来の成形材料に比べて低温ヒートシール性、ヒートシール強度、ホットタック性に著しく優れるといった効果が奏されるために、スナック、インスタントラーメン等の乾燥食品、味噌、漬物、スープ、ジュース等の水物食品、冷凍食品、畜肉、ハム等の食品包装・充填用フィルムや醤油、ソース等のミニパック;バッグインボックス、輸液バッグ等の医薬品包装・充填用フィルム;シャンプー、化粧品等のミニパック;カセットテープ等の雑貨品の包装・充填用フィルム;各種蓋材など、広範囲な用途における各種包装用又は充填用フィルムとして極めて有用なものである。」
(2)引用文献8に記載された発明
ア 引用文献8の上記記載事項から、以下の事項が把握できる。
段落【0006】より、「積層フィルムを構成する1つの層はヒートシール層」であり、「該ヒートシール層はエチレン・α-オレフィン共重合体及びエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成されるもの」である。
実施例1において、このヒートシール層の「エチレン・α-オレフィン共重合体」は、段落【0041】より「MFRが18g/10分、密度が0.898g/cm3」であり、「エチレン重合体」は、段落【0042】より「高圧法低密度ポリエチレン」である。また、段落【0043】より、「エチレン・α-オレフィン共重合体」と「エチレン重合体」を混合した樹脂組成物の配合割合は「75:25重量%」である。
段落【0059】より、積層フィルムは、スナック、インスタントラーメン等の食品を包装する包材として用いられ、このような包材は、包装袋に形成される得ることが明らかである。
イ 引用文献8には、実施例1の積層フィルムを用いた包装袋について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
《引用発明》
「積層フィルムを構成する1つの層はヒートシール層であり、
該ヒートシール層はエチレン・α-オレフィン共重合体及びエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成されるものであり、
前記エチレン・α-オレフィン共重合体は、MFRが18g/10分、密度が0.898g/cm3であり、
前記エチレン重合体は高圧法低密度ポリエチレンであり、
エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体の配合割合は75:25重量%である、
この積層フィルムを用いた包装袋。」
(3)対比
本件発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「エチレン・α-オレフィン共重合体及びエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成される」「ヒートシール層」と、本件発明の「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルム」とは、「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール部材」という限りで一致し、引用発明の「包装袋」は本件発明の「包装袋」に相当する。
イ 引用発明の「エチレン・α-オレフィン共重合体」は、引用文献8の段落【0041】、【0043】によれば「エチレン」と「1ーヘキセン」からなる「線状低密度ポリエチレン」(直鎖状低密度ポリエチレン)であるから、引用発明の「MFRが18g/10分、密度が0.898g/cm3」である「エチレン・α-オレフィン共重合体」と、本件発明の「密度が0.910~0.920g/cm3、メルトフローレートが0.7~1.3g/10分の物性を有」する「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」とは、「エチレンとα-オレフィンが共重合されたエチレン-α-オレフィンである直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」という限りで一致する。
ウ 引用発明の「高圧法低密度ポリエチレンであ」る「エチレン重合体」と、本件発明の「石油由来のポリエチレン系樹脂」とは、「ポリエチレン系樹脂」という限りで一致する。
エ 引用発明の「エチレン・α-オレフィン共重合体及びエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成され」、「エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体の配合割合は75:25重量%である」「ヒートシール層」と、本件発明の「植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を50~90重量%と、石油由来のポリエチレン系樹脂を10~50重量%とを混合した樹脂による単層構成のフィルムからな」る「ヒートシール性フィルム」とは、「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂材料を混合した樹脂による単層構成」の「ヒートシール部材」という限りで一致する。
オ 本件発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点1~4で相違する。
《一致点》
ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性部材を用いてなる包装袋であって、
該ヒートシール性部材は、エチレンとα-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において共重合されたエチレン-α-オレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂材料とを混合した樹脂による単層構成である、包装袋。
《相違点1》
「エチレンとα-オレフィンが共重合されたエチレン-α-オレフィンである直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」に関して、
本件発明が「密度が0.910~0.920g/cm3、メルトフローレートが0.7~1.3g/10分の物性を有」する「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」であるのに対し、
引用発明は「MFRが18g/10分、密度が0.898g/cm3」である「エチレン・α-オレフィン共重合体」である点。
《相違点2》
「ポリエチレン系樹脂」に関して、
本件発明が「石油由来のポリエチレン系樹脂」であるのに対し、
引用発明は「高圧法低密度ポリエチレンであ」る「エチレン重合体」である点。
《相違点3》
「直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂材料を混合した樹脂による単層構成」の「ヒートシール部材」に関して
本件発明が「植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を50~90重量%と、石油由来のポリエチレン系樹脂を10~50重量%とを混合した樹脂による単層構成のフィルムからな」る「ヒートシール性フィルム」であるのに対し、
引用発明は「エチレン・α-オレフィン共重合体及びエチレン重合体を含有する樹脂組成物から形成され」、「エチレン・α-オレフィン共重合体とエチレン重合体の配合割合は75:25重量%である」「ヒートシール層」である点。
《相違点4》
本件発明が「該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体である」のに対し、
引用発明のエチレン・α-オレフィン共重合体は、そうではない点。
(4)判断
ア 相違点1について
引用文献8の【0007】には、ヒートシール層のエチレン・α-オレフィン共重合体について、「MFR(メルトフローレート:Melt Flow rate :溶融流量)が2~30g/10分、好ましくは5~25g/10分、特に好ましくは10~22g/10分、最も好ましくは13~20g/10分の物性を示すものである。該MFRが上記範囲より大であると成膜が不安定となる。また、MFRが上記範囲より小さすぎると成形時に膜切れが起こる。」と記載されており、実施例2~24のMFRは7~19g/10分である。
そうすると、引用発明の「エチレン・α-オレフィン共重合体」のMFR(メルトフローレート)を、「18g/10分」から本件発明の「0.7~1.3g/10分」に換える動機付けはない。
むしろ、「18g/10分」から「0.7~1.3g/10分」に換えることには、引用文献8で「MFRが上記範囲より小さすぎると成形時に膜切れが起こる」と記載しているように、阻害事由を有するものといえる。
そして、申立人が提出した証拠及び引用文献4~7に、引用発明の「エチレン・α-オレフィン共重合体」のメルトフローレートを、「18g/10分」から「0.7~1.3g/10分」に換える動機付けを記載するものはない。
よって、本件発明の相違点1に係る構成は、引用発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
イ まとめ
上記のとおりであるから、上記相違点2~4を検討するまでもなく、本件発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 令和5年1月6日付け取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1.申立理由
申立人は、引用文献1~3(甲第2号証~甲第4号証)の他、甲第1号証、甲第5号証~甲第11号証を提出して、次の理由を申し立てている。
(1)証拠方法
甲第1号証:特開2009-149013号公報
甲第5号証:特開2004-284126号公報
甲第6号証:豊田通商株式会社、「Braskemポリエチレン 植物度(%)」、2010年12月6日(作成日)
甲第7号証:神谷達之、「特集 パッケージに見る材料技術と成形技術 包材用メタロセン樹脂」、プラスチックスエージ、平成18年3月1日発行、第52巻、第631号 73~79頁
甲第8号証:特開2007-245612号公報
甲第9号証:藤本省三外3名、「L-LDPEのフィルム加工について」、東洋曹達研究報告、東洋曹達工業株式会社研究本部、昭和58年7月1日、第27巻、第2号、通巻54号、87~98頁
甲第10号証:特開2017-71449号公報
甲第11号証:斉藤純、「甲第6号証に記載された日付が作成日であることを証明する書面」、2020年11月25日
(2)理由
ア 特許法第17条の2第3項について
本件特許は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである。
イ 特許法第29条第1項第3号について
請求項1~5はいずれも甲第10号証に記載された発明である。
ウ 特許法第29条第2項について
請求項1は、甲第1号証ないし甲第6号証に基いて容易想到である。
請求項2~5は、いずれも甲第2号証ないし甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第9号証に基いて容易想到である。
2.判断
(1)特許法第17条の2第3項について
申立人は、平成31年2月15日提出の手続補正書により加えられた請求項2は、新規事項を追加するものであるとの理由を申立てているが、本件訂正により請求項2は削除されたため、上記申立理由は解消した。
(2)特許法第29条第1項第3号について
申立人の主張は、上記1.(2)アの理由により、分割出願に係る本件の出願日は、最先の出願の出願日である平成23年2月14日まで遡及せず、実際の出願日である「平成30年11月21日」であるため、請求項1~5はいずれも甲第10号証に記載された発明であるとするものである。
しかし、上記(1)で述べたように、本件訂正により請求項2は削除され、上記1.(2)アの申立理由は解消したことから、この分割要件に基づく甲第10号証の新規性の申立理由も解消した。
(3)特許法第29条第2項について
ア 甲第1号証には、申立人が主張する、次の「甲1発明」が記載されている。
「積層体の樹脂層同士を重ね合わせてヒートシールして作製される包装体であって、
積層体が、
基材と、基材の片面に設けられたヒートシール性の樹脂層とを備える二重構造の積層体であって、
樹脂層が、ポリ乳酸系樹脂とLDPEの混練物からなる樹脂組成物であり、質量基準でポリ乳酸系樹脂:LDPE=50~90:50~10である積層体である、包装体。」
イ 本件発明と甲1発明を対比すると、
ヒートシール性の樹脂層について、
本件発明が「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとがメタロセン触媒の存在下において気相重合法により共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を50~90重量%と、石油由来のポリエチレン系樹脂を10~50重量%とを混合した樹脂による単層構成のフィルムからなり、該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、密度が0.910~0.920g/cm3、メルトフローレートが0.7~1.3g/10分の物性を有」するのに対し、
甲1発明は、ポリ乳酸系樹脂とLDPEの混練物からなる樹脂組成物である点で、少なくとも相違する。
ウ この相違点について、甲1発明において、「ポリ乳酸系樹脂」を「密度が0.910~0.920g/cm3、メルトフローレートが0.7~1.3g/10分の物性を有」する「植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」に換える動機付けはなく、このことを示す証拠も、他に提出されていない。
エ また、本件訂正により請求項2~5は削除されたため、請求項2~5に係る進歩性の申立理由は解消した。
オ よって、申立人の進歩性に係る上記申立理由は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る特許は、令和5年1月6日付け取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正により、請求項2から5に係る特許は削除されたため、請求項2~5に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700906