特許異議申立
2023-700204
樹脂組成物および成形品
- 審判番号
- 2023-700204
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-027588
- 登録番号
- 7129790
- 請求日
- 2023年02月21日
- 審決日
- 2023年09月28日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 藤原 浩子
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7129790号発明「樹脂組成物および成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7129790号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7129790号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成30年2月20日に出願され、令和4年8月25日にその特許権の設定登録がされ、同年9月2日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1~8に係る特許について、令和5年2月21日に特許異議申立人である浅野幸義(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年6月22日付けで取消理由及び審尋を通知した。
それに対し、特許権者は、同年8月23日に意見書及び回答書を提出した。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
ポリアミド樹脂と、ガラス繊維と、無機結晶核剤と、離型剤を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物に含まれるガラス繊維の割合が58~70質量%であり、
前記離型剤が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩であり、
前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する、無機結晶核剤の割合が、0.1~0.4質量%である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の割合が25~42質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物に含まれる無機結晶核剤の割合が0.01~0.3質量%である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物に含まれる離型剤の割合が0.1~1.0質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、着色剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の30モル%以上がメタキシリレンジアミンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を金型を用いて成形することを含む、成形品の製造方法。」
第3 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由についての概要
当審において、請求項1~8に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
<甲号証等一覧>
甲1:特開2012-132027号公報
甲2:特開2010-84007号公報
技術常識を示す文献1:国際公開第2010/087192号
技術文献を示す文献2:特開平7-53862号公報
2 当審の判断
(1)甲1に記載された発明
甲1の実施例2、3、4、6、7、8(【表1】)に着目し、【請求項1】の記載にならって整理すると、次の発明が記載されていると認められる(以下、実施例の番号を用いて、「甲1-2発明」~「甲1-8発明」という。)。
「以下の組成を有する、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(A)ポリアミド樹脂であるポリアミドMXD6(38重量%)及びポリアミド66(3.5重量%)
(B)リン系難燃剤であるエチルメチルホスフィン酸アルミニウム(7重量%)
(C)非円形断面ガラス繊維(50重量%)
相溶化剤である変性PPE(1重量%)
離型剤であるモンタン酸カルシウム(0.3重量%)
結晶核剤であるタルク(0.2重量%)」
(以下「甲1-2発明」という。)
「以下の組成を有する、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(A)ポリアミド樹脂であるポリアミドMXD6(39重量%)及びポリアミド66(3.5重量%)
(B)リン系難燃剤であるエチルメチルホスフィン酸アルミニウム(7重量%)
(C)非円形断面ガラス繊維(50重量%)
離型剤であるモンタン酸カルシウム(0.3重量%)
結晶核剤であるタルク(0.2重量%)」
(以下「甲1-3発明」という。)
「以下の組成を有する、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(A)ポリアミド樹脂であるポリアミドMXD6(38重量%)及びポリアミド66(3.5重量%)
(B)リン系難燃剤であるポリリン酸メラミン(2重量%)及びエチルメチルホスフィン酸アルミニウム(5重量%)
(C)非円形断面ガラス繊維(50重量%)
相溶化剤である変性PPE(1重量%)
離型剤であるモンタン酸カルシウム(0.3重量%)
結晶核剤であるタルク(0.2重量%) 」
(以下「甲1-4発明」という。)
「以下の組成を有する、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(A)ポリアミド樹脂であるポリアミドMXD6(29.8重量%)及びポリアミド66(2.7重量%)
(B)リン系難燃剤であるポリリン酸メラミン(8重量%)及びエチルメチルホスフィン酸アルミニウム(8重量%)
(C)非円形断面ガラス繊維(50重量%)
相溶化剤である変性PPE(1重量%)
離型剤であるモンタン酸カルシウム(0.3重量%)
結晶核剤であるタルク(0.2重量%) 」
(以下「甲1-6発明」という。)
「以下の組成を有する、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(A)ポリアミド樹脂であるポリアミドMXD6(38重量%)及びポリアミド66(3.5重量%)
(B)リン系難燃剤であるポリリン酸メラミン(7重量%)
(C)非円形断面ガラス繊維(50重量%)
相溶化剤である変性PPE(1重量%)
離型剤であるモンタン酸カルシウム(0.3重量%)
結晶核剤であるタルク(0.2重量%) 」
(以下「甲1-7発明」という。)
「以下の組成を有する、難燃性ポリアミド樹脂組成物。
(A)ポリミド樹脂であるポリアミドMXD6(38重量%)及びポリアミド66(3.5重量%)
(B)リン系難燃剤であるフェノキシフォスファゼン化合物(2重量%)
(C)非円形断面ガラス繊維(50重量%)
難燃助剤である硼酸亜鉛(4重量%)
相溶化剤である変性PPE(2重量%)
離型剤であるモンタン酸カルシウム(0.3重量%)
結晶核剤であるタルク(0.2重量%) 」
(以下「甲1-8発明」という。)
(2)甲1-2発明に基づく進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1-2発明とを対比する(なお、「重量%」と「質量%」は同じ数値として取り扱う。)。
甲1-2発明の「モンタン酸カルシウム」(当審注:炭素鎖数22)、「タルク」、「非円形断面ガラス繊維」は、それぞれ、本件発明1の「離型剤が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩」、「無機結晶核剤」、「ガラス繊維」に相当する。
甲1-2発明は、組成物100重量%中に、ポリアミド樹脂を41.5重量%(38+3.5)、ポリアミド樹脂以外の全成分を58.5重量%含む。甲1-2発明におけるポリアミド樹脂以外の全成分(58.5重量%)に対するタルク(0.2重量%)の割合は、「0.34重量%」((0.2÷58.5)×100)であるから、本件発明1の「樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分に対する無機結晶核剤の割合が、0.1~0.4質量%」に相当する。
また、本件発明1は、請求項1に特定されたもの以外の成分も含み得るものであるから、甲1-2発明が、難燃剤であるエチルメチルホスフィン酸アルミニウムと相溶化剤である変性PPEを含むことは、相違点とはならない。
そうすると、本件発明1と甲1-2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ポリアミド樹脂と、ガラス繊維と、無機結晶核剤と、離型剤を含む樹脂組成物であって、
前記離型剤が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩であり、
前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する、無機結晶核剤の割合が、0.1~0.4質量%である、樹脂組成物。」
<相違点1>
樹脂組成物に含まれるガラス繊維の割合が、本件発明1では、「58~70質量%」であるのに対し、甲1-2発明では「50重量%」である点
(イ)判断
a 本件発明1と甲1-2発明について
特許請求の範囲、【0004】【0007】【0008】の記載によれば、本件発明1は、機械的強度を高めるために無機強化繊維を高充填した(ガラス繊維の割合が58~70質量%)組成物においては、結晶化速度を速くし離型性を高めるために添加する無機結晶核剤の配合量が多いと、機械的強度が劣ってしまうという問題点を見いだしたことから、機械的強度が高く、かつ、金型からの離型性に優れた樹脂組成物を提供することを解決しようとする課題とするものであり、その課題の解決手段として、ガラス繊維の割合が58~70質量%であるポリアミド樹脂組成物において、樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する無機結晶核剤の割合を0.1~0.4質量%とし、かつ、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩を用いることとしたものである。
また、本件明細書の比較例7と8、比較例9と10とを比べると、ガラス繊維の割合が30~45質量%のように少ない場合には、無機結晶核剤の割合が0.2質量%(比較例7、9)と1.0質量%(比較例8、10)とでは、曲げ強さに大きな差異はない(比較例7と8の差及び比較9と比較例10の差は1MPa程度)ものの、実施例4と比較例6とを比べると、ガラス繊維の割合が60重量%のように多い場合には、無機結晶核剤の割合が0.2質量%と1.0質量%とでは、曲げ強さに影響を与える(実施例4と比較例6の差は15MPa程度)ことが示されており、ガラス繊維の割合が58~70質量%のように多い場合には、少ない場合と比較して、無機結晶核剤の割合を厳密に制御する必要があることが示されている。
他方、甲1には、難燃性と機械的特性及び電気的特性に総合的に優れ、燃焼時に腐食性の高いハロゲン化水素ガスの発生がなく成形加工性に優れた難燃性ポリアミド樹脂組成物を提供するという解決しようとする課題を(【0010】)、ポリアミド樹脂15~78重量%、リン系難燃剤2~20重量、長手方向の中央がくびれた形状であるまゆ形断面を有するガラス繊維20~65重量%である難燃性ポリアミド樹脂組成物とすることで解決したことが記載され(【請求項1】【0011】【0012】)、その解決手段の具体例の一つが、実施例として記載された甲1-2発明である。
また、甲1には、ガラス繊維の割合を20重量%以上とすると燃焼時間を効率的に短縮でき、65重量%未満とすることにより成形加工性が容易になることが記載されている(【0056】)。
さらに、甲1には、結晶化速度を上げ成形性を改良するため、結晶核剤としてタルクなどの無機結晶核剤や有機系の結晶核剤を配合してもよく、結晶核剤の割合は組成物中の0.1~1.0重量%が好ましいこと(【0057】【0058】)、及び、成形時の離型性を向上させるため、離型剤であるカルボン酸アミド系ワックスや長鎖脂肪酸金属塩などを、組成物中に0.005~0.7重量%とすることが好ましいこと(【0059】~【0064】)、などが記載されている。
b 技術分野の共通性
そうすると、本件発明1と甲1-2発明とは、いずれも、ポリアミド樹脂組成物に関するものであり、技術分野において共通する。
c 相違点1に至る動機付けがないこと
しかしながら、本件発明1は、ガラス繊維の割合が58~70質量%のように多い場合に生じる問題点を見いだし、ガラス繊維の割合が58~70質量%であるポリアミド樹脂組成物において、上記課題を解決しようとするものであるのに対し、甲1-2発明は、ガラス繊維の割合は50重量%であって、本件発明1のそれよりも少なく、甲1には20~65重量%と幅広いガラス繊維の割合が記載されており、特段、58~70質量%のように多い場合に生じる問題点に着目することは記載されていない。
そうすると、本件発明1と甲1-2発明とは、その解決しようとする課題が異なるといえる。
甲1には、ポリアミド樹脂組成物中のガラス繊維の割合を20~65重量%とすることが記載されているから、甲1-2発明において、剛性や靱性などの機械的物性を向上させることが技術常識となっていたガラス繊維の割合を、甲1に記載された範囲内の58~65重量%とすることは、当業者が甲1-2発明を改変する場合の選択肢の一つである。
しかしながら、甲1には、ポリアミド樹脂組成物中の成分の割合については、ガラス繊維の割合以外に、ポリアミド樹脂を15~78重量%、リン系難燃剤を2~20重量%(【請求項1】)、結晶核剤を0.1~1.0重量%(より好ましくは0.2~0.5重量%)(【0059】)とすることなどが記載されていることから、甲1-2発明において、当業者が、特にガラス繊維の割合を多くする積極的な動機付けがあるとはいえないし、また、結晶核剤であるタルクの割合を、組成物中における割合ではなく、ポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する割合(又はポリアミド樹脂に対する割合)として特定するという技術思想は記載も示唆もない。
仮に、甲1-2発明において、当業者が、ガラス繊維の割合を組成物中の58~65重量%とする動機付けがあるとしても、それに伴い組成物中におけるガラス繊維以外の他の成分(例えばポリアミド樹脂など)の割合も変化するから、ガラス繊維の割合を組成物中の58~65重量%とした場合に、必ず、ポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する無機結晶核剤の割合が0.1~0.4質量%の範囲となるとはいえない。
そうすると、甲1-2発明において、相違点1に係る本件発明1の構成に至ることが容易であったとまではいえない。
そして、甲2には、実施例1~4において、ガラス繊維を約60重量%含むポリアミド樹脂組成物が記載されていること、及び、本件出願当時、ポリアミド樹脂にガラス繊維を添加することにより、剛性、靱性、加重たわみ性、耐衝撃性等の機械的物性を向上させる効果を有することが技術常識となっていたこと(技術常識を示す文献1:【0002】、技術常識を示す文献2:【0002】を参照)を考慮しても、上記の判断は左右されない。
d したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~8も、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲1-3発明~甲1-8発明に基づく進歩性について
本件発明1と甲1-3発明~甲1-8発明とを、それぞれ対比した場合の一致点及び相違点は、上記(2)アに説示した本件発明1と甲1-2発明とを対比した場合の一致点及び相違点と同じである。
したがって、上記(2)ア及びイに説示したものと同様の理由により、甲1-3発明~甲1-8発明を、それぞれ出発点としても、本件発明1~8は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
申立人は、結晶核剤の含有量は、少なすぎると核剤効果が得られず、多すぎると異物効果となって機械的強度や耐衝撃値が低下する傾向にあることは技術常識であるから(甲2【0061】)、甲1に記載された発明において、無機結晶核剤の本来の効果(ポリアミド樹脂の結晶化速度の向上)を奏させつつ、機械的強度を低下させない範囲で、無機結晶核剤の上限値を設定することは、当業者にとって極めて容易なことであり、それによる効果も当業者の予測の範囲内であるから、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する(特許異議申立書20頁)。
しかしながら、上記(2)ア(イ)aに説示したように、本件発明1は、ガラス繊維の割合が58~70質量%のように多い場合に生じる問題点を見いだしたものであって、実施例及び比較例において、ガラス繊維が58~70質量%のように多い場合には、少ない場合と比較して、無機結晶核剤の割合を厳密に制御する必要があることが示されている。
そして、ガラス繊維の割合が58~70質量%のように多い場合と、それより少ない場合とで、無機結晶核剤の含有量が機械的強度に与える影響の程度が異なることは、本件出願日当時には技術常識とはなっていなかった。
そうすると、結晶核剤の含有量は、少なすぎると核剤効果が得られず、多すぎると異物効果となって機械的強度や耐衝撃値が低下する傾向にあることは技術常識であった(甲2【0061】)としても、ガラス繊維の割合が58~70質量%のように多い場合の無機結晶核剤の割合を、組成物中における割合ではなく、ポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する割合として0.1~0.4質量%という狭い範囲に特定することは、当業者が容易であったとまではいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第4 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立書に記載された特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。
(申立理由1:新規性)
請求項1~8に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~8に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである(同法第113条第2号)。
(申立理由2:進歩性)
請求項1~8に係る発明は、甲1に記載された発明、又は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(同法第113条第2号)。
(申立理由3:明確性要件)
請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(同法第113条第4号)。
(申立理由4:実施可能要件及びサポート要件)
請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(同法第113条第4号)。
2 申立理由1(新規性)について
(1)当審の判断
上記第3において判断したとおり、本件発明1~8と甲1-2発明~甲1-8発明との間には、実質的な相違点が存在するから、本件発明1~8は、甲1に記載された発明ではない。
(2)申立人の主張について
申立人は、甲1の請求項1には、「(A)ポリアミド樹脂15~78重量%、(B)リン系難燃剤2~20重量%、(C)まゆ形断面を有するガラス繊維20~65重量%と結晶核剤を含有する難燃性ポリアミド樹脂組成物」の発明がされ、本件発明1と、ガラス繊維の割合は重複しており実質的な相違点ではなく、また、ポリアミド樹脂が60重量%、それ以外の全成分の合計が40重量%だとすると、甲1に記載された組成物中における結晶核剤の好ましい範囲の0.1~1.0重量%(【0058】)は、ポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する無機結晶核剤の割合は約0.17~1.7重量%に相当し、本件発明1の0.1~0.4質量と共通一致しているから、本件発明1は甲1に記載された発明である旨を主張する。(特許異議申立書16~19頁)。
しかしながら、本件発明1は、ガラス繊維の割合が58~70質量%という多い場合において、無機結晶核剤の割合を、ポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対して0.1~0.4質量%とした点に特徴を有し、各成分の割合の数値に臨界的意義を有するものである。
したがって、甲1の請求項1に記載された発明において、各成分の幅広い割合の一部が、本件発明1と重複し得るというだけでは、本件発明1と甲1の請求項1に記載された発明が同一であるとすることはできず、申立人の上記主張は採用できない。
3 申立理由2(進歩性)について
申立理由2は、上記第3において判断した取消理由と同じものであるから、上記第3において説示したとおり、本件発明1~8は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立理由3(明確性要件)について
(1)申立人は、本件発明1における無機結晶核剤の含有目的を考慮すると、無機結晶核剤の割合は、ポリアミド樹脂の割合に対して規定しなければ、その技術的意義を当業者は理解できないにもかかわらず、本件発明1においては、「前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計量に対する、無機結晶核剤の割合」と規定されており、無機結晶核剤の割合の規定の技術的意味が不明確である旨を主張する。
(2)しかしながら、本件発明1における「前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計量に対する、無機結晶核剤の割合」との記載自体の意味は、明確である。
また、無機結晶核剤は、ポリアミド樹脂の結晶化速度を上げるために使用するものであるが、無機結晶核剤の割合をポリアミド樹脂以外の全成分の合計量に対する割合で特定したからといって、無機結晶核剤の上記の使用目的や作用が異なるものとなるわけではないことは明らかである。
さらに、本件発明1に係る樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、ポリアミド樹脂以外の全成分とからなるものであるから、無機結晶核剤の割合を、ポリアミド樹脂以外の全成分の合計量に対する割合で特定することは、実質的に、ポリアミド樹脂に対する割合で特定することにもなっている。
そうすると、本件発明1における「前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計量に対する、無機結晶核剤の割合」との記載は明確であり、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2~8は、明確である。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たすものである。
5 申立理由4(実施可能要件及びサポート要件)について
(1)申立人は、実施例で実際に効果を実証しているのは、離型剤である炭素数28の脂肪酸金属塩としてモンタン酸カルシウムのみ、無機結晶核剤としてタルクのみであるから、本件発明1~8は、離型剤と無機結晶核剤の種類を実施例で効果を実証したものに限定していない以上、実施可能要件及びサポート要件を満たしていない旨を主張する。
(2)サポート要件について
ア 本件発明1~8が解決しようとする課題は、機械的強度が強く、かつ、金型からの離型性に優れた樹脂組成物及び成形品を提供することである(【0004】)。
イ 本件明細書には、実施例として、無機結晶核剤としてタルク、炭素数20以上の脂肪酸金属塩としてモンタン酸カルシウムを用い、ガラス繊維の割合と無機結晶核剤の含有量が本件発明1~8の範囲内である樹脂組成物(実施例1~5)は、機械的強度に優れ、かつ、離型時の変形を効果的に抑制でき、上記課題が解決できることが示されているのに対し、比較例として、離型剤として、炭素数18の脂肪酸金属塩であるステアリン酸バリウム又は脂肪酸金属塩ではないケトンワックス(カオワックスT1)を用いた場合(比較例4、5)には、離型性又は曲げ強度に劣り、上記課題が解決できないことが示されている。
そうすると、比較例で用いられたステアリン酸バリウム(炭素数18)よりも炭素数が大きく、実施例で用いられたモンタン酸カルシウムの炭素数22を含む、炭素数20以上の脂肪酸金属塩を離型剤として用いれば、上記課題が解決できることを当業者が認識できる。
また、本件明細書には、「無機結晶核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されないが、中でもタルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。」(【0026】)と記載されていることから、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものを用いれば足り、タルク以外の無機結晶核剤を用いた場合においても、実施例1~5と同様に、上記課題が解決できることを当業者が認識できる。
ウ そして、申立人は、実施例のモンタン酸カルシウムとタルク以外の、離型剤と無機結晶核剤を用いた場合に上記課題が解決できないとする、具体的な根拠を提示していない。
エ したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすものである。
(3)実施可能要件について
本件明細書の発明の詳細な説明には、樹脂組成物において使用される各成分の説明(【0009】~【0032】)や樹脂組成物と成形品の製造方法(【0034】【0035】)が記載され、実施例において、本件発明1~8に包含される樹脂組成物及び成形品を製造したことが記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明1~8に係る樹脂組成物、成形品及びその製造方法を、当業者は過度な試行錯誤を要することなく、実施することができるといえる。
そして、申立人は、モンタン酸カルシウム以外の離型剤とタルク以外の無機結晶核剤を用いた場合には、本件発明1~8を実施できないとする、具体的な根拠を提示していない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たすものである。
第5 むすび
以上によれば、請求項1~8に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、その他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700204