特許異議申立
2023-700187
光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
- 審判番号
- 2023-700187
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-094999
- 登録番号
- 7126379
- 請求日
- 2023年02月17日
- 審決日
- 2023年05月18日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社オハラ
- 【権利者代理人】右田 俊介
- 【権利者代理人】高橋 政治
- 【権利者代理人】水野 基樹
- 【異議申立人】越阪部 倫子
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-Y (C03C) / P1651.121-Y (C03C) / P1651.161-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第184条の13、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7126379号発明「光学ガラス、プリフォーム及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7126379号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7126379号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成30年5月17日(優先権主張 平成29年10月2日)に出願され、令和4年8月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1~6に係る特許に対して、令和5年2月17日に特許異議申立人越阪部倫子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件特許発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件特許発明1」などという。)。
【請求項1】
質量%で、
SiO2成分 20.0~45.0%
Nb2O5成分
35.5~60.0%
TiO2成分 0~5.0%
K2O成分 0%超、
Ta2O5成分 1.0%未満、
質量比(Li2O/Na2O+K2O)を0.40~1.00、
含有し、
屈折率(nd)が1.76以上1.80以下、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、
(-0.00162×νd+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.657)の関係を満たし、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内にある光学ガラス。
【請求項2】
質量比(Rn2O/Nb2O5)が0.50以下であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)。
【請求項3】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(-0.01×νd+2.03)≦nd≦(-0.01×νd+2.13)の関係を満たす請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子を備える光学機器。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 国際公開第2018/021221号
(国際出願番号:PCT/JP2017/026639号)
甲第2号証 国際公開第2017/090645号
甲第3号証 特開2011-37660号公報
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如(本件特許の優先権主張が認められない場合))
本件特許発明1~6は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とした拡大先願要件違反(本件特許の優先権主張が認められた場合))
本件特許発明1~6は、本件特許出願の優先日前の他の特許出願であって、その優先日後に国際公開がされた甲第1号証に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「先願明細書」などといい、まとめて「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が上記日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の優先日当時において、本件特許出願の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
(3) 申立理由3(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
本件特許発明1~6は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件特許発明1~6は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 当審の判断
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如(本件特許の優先権主張が認められない場合))について
ア 本件特許の優先権主張について
本件特許発明1~6が、本件の優先権主張の基礎となる特願2017-192731号(平成29年10月2日出願。以下、「優先権基礎出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「優先権基礎出願明細書」などといい、まとめて「優先権基礎出願明細書等」という。)に記載されているか否かについて検討する。
(ア) 優先権基礎出願特許請求の範囲には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様である。)。
「【請求項1】
質量%で、
SiO2成分 20.0~45.0%
Nb2O5成分 25.0~60.0%
TiO2成分 0~5.0%
質量比(Li2O/Na2O+K2O)を0.40~1.00、
含有し、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、
(-0.00162×νd+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.657)の関係を満たし、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内にある光学ガラス。
【請求項2】
質量比(Rn2O/Nb2O5)が0.50以下であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)。
【請求項3】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(-0.01×νd+2.03)≦nd≦(-0.01×νd+2.13)の関係を満たす請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子を備える光学機器。」
(イ) 優先権基礎出願明細書には、技術分野(【0001】)、技術背景(【0002】~【0009】)、発明が解決しようとする課題(【0011】~【0012】)、課題を解決するための手段(【0013】~【0020】)、図面の簡単な説明(【0021】)、発明を実施するための形態(【0022】~【0072】)、実施例(【0073】~【0088】)について記載されており、特に、次の事項が記載されている。
「【0025】
<必須成分、任意成分について>
SiO2成分は、安定なガラス形成を促し、液相温度を下げることができるため、光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)を低減する必須成分である。
特に、SiO2成分の含有量を20.0%以上にすることで、部分分散比を大幅に高めることなく、耐失透性に優れたガラスを得られる。・・・
他方で、SiO2成分の含有量を45.0%以下にすることで、屈折率が低下し難くなることで所望の高屈折率を得易くでき、且つ、部分分散比の上昇を抑えられる。・・・
【0026】
Nb2O5成分は、屈折率を高め、アッベ数及び部分分散比を低くでき、且つ耐失透性を高められる必須成分である。
特に、Nb2O5成分の含有量を25.0%以上にすることで、目的の光学恒数まで屈折率を高くして本発明の範囲の成分内で調整することで異常分散性を小さくすることができる。従って、Nb2O5成分の含有量は、・・・さらに好ましくは35.5%以上を下限とする。
他方で、Nb2O5成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減できる。・・・
【0027】
TiO2成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、アッベ数を低くし、且つ耐失透性を高める任意成分である。一方で、多量に含有すると部分分散比が大きくなる。
従って、TiO2成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減でき、内部透過率を高められる。・・・
【0028】
K2O成分は、0%超含有する場合に、熱膨張係数を大きくし、相対屈折率の温度係数を小さくする任意成分である。
従って、K2O成分の含有量は、好ましくは0%超・・・を下限とする。・・・」
「【0040】
Ta2O5成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、アッベ数及び部分分散比を下げ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、Ta2O5成分の含有量を10.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa2O5成分の使用量が減り、且つガラスがより低温で熔解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減できる。また、これによりTa2O5成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、Ta2O5成分の含有量は、・・・さらに好ましくは1.0%未満を上限とする。・・・」
「【0050】
Na2OとK2Oの質量和に対するLi2Oの比は、1.00以下であることが好ましい。これにより、失透性の悪化を抑えることができる。・・・
一方で、質量比Li2O/(Na2O+K2O)は、0.40以上とする場合に、部分分散比が小さいガラスを得ることができる。・・・」
「【0052】
Nb2O5に対するRn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の比は、0.50以下が好ましい。これにより、所望の屈折率を有し、部分分散比が小さくなる。・・・」
「【0064】
<物性>
本発明の光学ガラスは、高い屈折率と所定の範囲のアッベ数を有する。
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.70以上、より好ましくは1.72以上、さらに好ましくは1.75以上を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは1.90以下、より好ましくは1.88以下、より好ましくは1.85以下、さらに好ましくは1.83以下とする。
本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、・・・
【0065】
ここで、本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(-0.01×νd+2.03)≦nd≦(-0.01×νd+2.13)の関係を満たすことが好ましい。・・・
【0066】
本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。
より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(νd)との間で、(-0.00162×νd+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.657)の関係を満たすことが好ましい。・・・」
「【0068】
なお本発明の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数(dn/dT)が低い値をとる。
より具体的には、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは+6.0×10-6℃-1・・・を上限値とし、この上限値又はそれよりも低い(マイナス側)の値をとりうる。
他方で、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは-2.0×10-6℃-1・・・を下限値とし、この下限値又はそれよりも高い(プラス側)の値をとりうる。・・・」
(ウ) 優先権基礎出願明細書等の前記(ア)及び(イ)の記載事項に照らせば、本件特許発明1~6は、優先権基礎出願明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許発明1~6について優先権主張の利益を享受できると解するのが相当である。
イ 申立理由1についての判断
前記アで述べたように、本件特許発明1~6について優先権主張の利益を享受できるところ、甲第1号証(2018年(平成30年)2月1日公開)は、本件特許出願の優先日(平成29年10月2日)前に頒布された刊行物ではないから、甲第1号証に記載された発明により、本件特許発明1~6の新規性及び進歩性を否定することはできない。
ウ 申立理由1についての結論
以上の検討のとおり、申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とした拡大先願要件違反(本件特許の優先権主張が認められた場合))について
ア 先願明細書等に記載された発明(先願発明)
申立人は、甲第1号証の実施例欄(明細書[0067]~[0086])の実施例1、2、4、24、26、27及び60の記載等に基づき、先願明細書等に記載された発明を特定して申立理由2を主張しているので、当該実施例欄の記載を実施例1の「光学ガラス」に注目して改めて整理すると、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸化物基準の質量%表示で、SiO2が33.8%、B2O3が3.4%、Li2Oが4.9%、Na2Oが5.4%、K2Oが1.0%、Nb2O5が47.5%、ZrO2が4.0%からなる化学組成を有し、屈折率(nd)が1.78、アッベ数(νd)が31である、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 先願発明との対比
本件特許発明1と先願発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1は、「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内にある」のに対して、先願発明は、「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)」が明らかでない点。
(イ) 相違点1の検討
光学ガラスが「酸化物基準の質量%表示で、SiO2が33.8%、B2O3が3.4%、Li2Oが4.9%、Na2Oが5.4%、K2Oが1.0%、Nb2O5が47.5%、ZrO2が4.0%からなる化学組成」を有することにより、当該光学ガラスの「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)」が「+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内」となっていることを示す証拠はない。
また、先願明細書には、「高屈折率かつ低密度であるとともに、製造特性が良好な光学ガラスを提供することを目的」とし、「本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.68~1.85、密度が4.0g/cm3以下かつガラスの粘性がlogη=2となる温度T2が950~1200℃であることを特徴とする」こと([0008]、[0009])が記載されているが、光学ガラスの相対屈折率の温度係数を調整する技術思想は記載されていない。
これらの事項を併せ考えれば、相違点1は実質的なものであるし、具体化する際の微差程度の事項であるともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、(i)先願発明の化学組成が、本件特許発明1のガラス組成の範囲に含まれていることから、先願発明は、本件特許発明1と同様の物性を示すことが推認できること、及び、(ii)甲第1号証の実施例1の光学ガラスの部分分散比(θg、F)、及び、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)を測定した結果、それぞれ、0.5996、+5.9×10-6(℃-1)となったことを主張している(特許異議申立書第4頁第1~12行、第18~22行)。
しかしながら、本件特許発明1は、ガラス成分の含有量や質量比の数値範囲を示したガラス組成を特定しつつ、当該ガラス組成の範囲内において、屈折率等の物性を満たす光学ガラスを特定するものであるから、先願発明の化学組成が、本件特許発明1のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、本件特許発明1の物性を満足しているということはできない。
また、甲第1号証の実施例1の光学ガラスの部分分散比(θg、F)が0.5996、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+5.9×10-6(℃-1)であることを裏付ける証拠は提出されていない。
したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(エ) 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一の発明であるといえない。
なお、先願明細書の実施例2、4、24、26、27、60の「光学ガラス」に注目して、先願明細書等に記載された発明を認定しても、いずれの場合も先願発明と同様に判断される。
ウ 本件特許発明2~6について
本件特許発明2~6は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2~6は、先願明細書等に記載された発明と同一の発明であるといえない。
エ 申立理由2についての結論
以上の検討のとおり、申立理由2に理由はない。
(3) 申立理由3(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
申立人は、甲第2号証の実施例欄(明細書[0070]~[0088])の実施例42、43、44、48の記載等に基づき、甲第2号証に記載された発明を特定して申立理由2を主張しているので、当該実施例欄の記載を実施例42の「光学ガラス」に注目して改めて整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸化物基準の質量%表示で、Nb2O5が48.0%、SiO2が32.6%、ZrO2が3.9%、Li2Oが4.8%、Na2Oが5.3%、K2Oが1.0%、BaOが2.2%、Al2O3が2.2%からなる化学組成を有し、屈折率(nd)が1.777である、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 甲2発明との対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点2)
本件特許発明1は、「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内にある」のに対して、甲2発明は、「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)」が明らかでない点。
(イ) 相違点2の検討
光学ガラスが「酸化物基準の質量%表示で、Nb2O5が48.0%、SiO2が32.6%、ZrO2が3.9%、Li2Oが4.8%、Na2Oが5.3%、K2Oが1.0%、BaOが2.2%、Al2O3が2.2%からなる化学組成」を有することにより、当該光学ガラスの「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)」が「+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内」となっていることを示す証拠はない。
また、甲第2号証には、「高屈折率かつ高強度で、耐クラック性に優れるとともに、成形性が良好な光学ガラスを提供することを目的」とし、「本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.70~2.10、ガラス転移点(Tg)が500℃~630℃、失透温度が1300℃以下、比重が4.0g/cm3以下、クラックイニシエーションロード(CIL)が20gf以上、かつJIS R1607に準拠して圧子圧入法により測定した破壊靱性値(Kc)が0.60MPa・m1/2以上である」こと([0009]、[0010])が記載されているが、光学ガラスの相対屈折率の温度係数を調整する技術思想は記載されておらず、当該温度係数を調整する動機付けとなる記載は見当たらない。
これらの事項を併せ考えれば、相違点2は実質的なものであるといえるし、また、甲2発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、(i)甲2発明の化学組成が、本件特許発明1のガラス組成の範囲に含まれていることから、甲2発明は、本件特許発明1と同様の物性を示すことが推認できること、及び、(ii)当業者であれば、同一組成を有する光学ガラスであれば、同一の物性を有することに容易に想到することができることを主張している(特許異議申立書第4頁第1~17行)。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)で検討したのと同様に、甲2発明の化学組成が、本件特許発明1のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、本件特許発明1の物性を満足しているということはできない。
また、前記(イ)で検討したとおり、甲第2号証には、光学ガラスの相対屈折率の温度係数を調整する動機付けとなる記載は見当たらないから、甲2発明において、相対屈折率の温度係数が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内となるガラス組成に調整することは、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(エ) 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
なお、甲第2号証の明細書の実施例43、44、48の「光学ガラス」に注目して、甲第2号証に記載された発明を認定しても、いずれの場合も甲2発明と同様に判断される。
ウ 本件特許発明2~6について
本件特許発明2~6は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2~6は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 申立理由3についての結論
以上の検討のとおり、申立理由3に理由はない。
(4) 申立理由4(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
申立人は、甲第3号証の実施例欄(【0081】~【0101】)の実施例6の記載等から、甲第3号証に記載された発明を特定して申立理由4を主張しているので、当該実施例6の「光学ガラス」に注目して、甲第3号証の明細書の【0033】及び実施例欄(【0081】~【0101】)の記載を改めて整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「質量%で、SiO2が33.00%、TiO2が5.00%、ZrO2が4.00%、Nb2O5が40.00%、BaOが2.00%、Li2Oが11.00%、Na2Oが1.70%、Bi2O3が3.00%、Sb2O3が0.30%からなる酸化物換算組成を有し、屈折率(nd)が1.798、アッベ数(νd)が30.0、部分分散比(θg,F)が0.6040である、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 甲3発明との対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点3)
本件特許発明1は、「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内にある」のに対して、甲3発明は、「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)」が明らかでない点。
(イ) 相違点3の検討
光学ガラスが「質量%で、SiO2が33.00%、TiO2が5.00%、ZrO2が4.00%、Nb2O5が40.00%、BaOが2.00%、Li2Oが11.00%、Na2Oが1.70%、Bi2O3が3.00%、Sb2O3が0.30%からなる酸化物換算組成」を有することにより、当該光学ガラスの「相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)」が「+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内」となっていることを示す証拠はない。
また、甲第3号証には、「屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、低い温度で軟化し易く、且つプレス成形時におけるガラスの失透や着色が低減された光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を得ること」を目的とすること(【0008】)が記載されているが、光学ガラスの相対屈折率の温度係数を調整する技術思想は記載されておらず、当該温度係数を調整する動機付けとなる記載は見当たらない。
これらの事項を併せ考えれば、相違点3は実質的なものであるといえるし、また、甲3発明において、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、当業者であれば、同一の組成に調整された光学ガラスであれば、同一の温度係数のパラメータを有することに容易に想到することができることを主張している(特許異議申立書第6頁第20~22行)。
しかしながら、前記(イ)で検討したとおり、甲第3号証には、光学ガラスの相対屈折率の温度係数を調整する動機付けとなる記載は見当たらないから、甲3発明において、ガラス組成を調整して、相対屈折率の温度係数が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内にすることは、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(エ) 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件特許発明2~6について
本件特許発明2~6は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2~6は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 申立理由4についての結論
以上の検討のとおり、申立理由4に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に当該請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700187