特許異議申立
2016-700551
化学強化ガラスの製造方法
- 審判番号
- 2016-700551
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-247766
- 登録番号
- 特許第5834793号(P5834793)
- 請求日
- 2016年06月20日
- 審決日
- 2017年02月20日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭硝子株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人栄光特許事務所
- 【異議申立人】井関 和子
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 山本 雄一
- 分類
- P1651.113-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C) / P1651.161-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第184条の3、特許法第184条の4第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5834793号発明「化学強化ガラスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5834793号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第5834793号の請求項1、3~5、9、10及び12~14に係る特許を維持する。
特許第5834793号の請求項2、6~8及び11についての申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5834793号の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成23年11月11日(優先権主張 平成22年12月24日 平成23年5月23日)に特許出願され、平成27年11月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人井関和子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月25日に意見書及び訂正請求書の提出があり、同年12月2日付けで申立人に、上記取消理由通知の写し、訂正請求書及びこれに添付された訂正した明細書、特許請求の範囲の副本、取消理由通知に対応する特許権者の意見書副本を送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは何らの応答もなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア 特許請求の範囲について
(ア)訂正事項1
請求項1の「Al2O3を7~18%」を「Al2O3を7~9%(9を除く)」に訂正する。
(イ)訂正事項2
請求項1の「CaOを0~5%」を「CaOを0~0.5%」に訂正する。
(ウ)訂正事項3
請求項1の「Na2Oを8~18%」を「Na2Oを12~18%」に訂正する。
(エ)訂正事項4
請求項1の「K2Oを0~1.9%」を「K2Oを0~1%」に訂正する。
(オ)訂正事項5
請求項2を削除する。
(カ)訂正事項6
請求項3の「請求項1または2の化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1の化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(キ)訂正事項7
請求項4の「CaOを0~5%」を「CaOを0~0.5%」に訂正する。
(ク)訂正事項8
請求項4の「K2Oを0~6%」を「K2Oを0~1%」に訂正する。
(ケ)訂正事項9
請求項4の「B2O3、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、」を「B2O3、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B2O3の含有量が5%以下、」に訂正する。
(コ)訂正事項10
請求項6を削除する。
(サ)訂正事項11
請求項7を削除する。
(シ)訂正事項12
請求項8を削除する。
(ス)訂正事項13
請求項9の「CaOを0~3%」を「CaOを0~0.5%」に訂正する。
(セ)訂正事項14
請求項9の「請求項1~8のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1および3~5のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(ソ)訂正事項15
請求項10の「請求項1~9のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3~5および9のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(タ)訂正事項16
請求項11を削除する
(チ)訂正事項17
請求項12の「請求項1~11のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3~5、9および10のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(ツ)訂正事項18
請求項13の「請求項1~12のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3~5、9、10および12のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
(テ)訂正事項19
請求項14の「請求項1~13のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」を「請求項1、3~5、9、10、12および13のいずれかの化学強化ガラスの製造方法」に訂正する。
イ 明細書について
(ア)訂正事項20
段落【0010】の「Al2O3を7~18%」を「Al2O3を7~9%(9を除く)」に、「CaOを0~5%」を「CaOを0~0.5%」に、「Na2Oを8~18%」を「Na2Oを12~18%」に、「K2Oを0~1.9%」を「K2Oを0~1%」に訂正する。
(イ)訂正事項21
段落【0011】の「CaOを0~5%」を「CaOを0~0.5%」に、「K2Oを0~6%」を「K2Oを0~1%」に、「B2O3、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、」を「B2O3、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B2O3の含有量が5%以下、」に訂正する。
(ウ)訂正事項22
段落【0014】の「CaOを0~3%」を「CaOを0~0.5%」に訂正する。
(エ)訂正事項23
段落【0064】の「例6~10、13~15、17、19~24、26~28、47、66、67、69、70、72、73、79、80、84、85は本発明の実施例である。」を「例17、47、73、79、80、85は本発明の実施例である。」に訂正する。
(オ)訂正事項24
段落【0064】の「例3~5、11、12、16、18、25、29、30、32~36、49~55、81は参考例である。」を「例3~30、32~36、49~55、66、67、69、70、72、81、84は参考例である。」に訂正する。
(カ)訂正事項25
段落【0012】を削除する。
(キ)訂正事項26
段落【0013】の「また、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を62~77%、Al2O3を7~18%、MgOを3~15%、CaOを0~5%、ZrO2を0~4%、Na2Oを8~18%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が65~85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3~15%であり、Li2OおよびK2Oを含有しないものである化学強化ガラスの製造方法(以下、第4の発明ということがある。)を提供する。」の記載を削除する。
(ク)訂正事項27
段落【0013】の「なお、Li2OおよびK2Oを含有しないこのガラスを本発明の第4のガラスといい、本発明の第1、第2、第3および第4のガラスを本発明のガラスと総称する。」を「なお、本発明の第1および第2のガラスを本発明のガラスと総称する。」
(ケ)訂正事項28
段落【0014】の「また、Al2O3が9%以上かつCaOが0~2%である前記化学強化ガラスの製造方法を提供する。」の記載を削除する。
(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1~4、7~9、13について
これらの訂正事項は、各成分範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 訂正事項5、10~12、16にいて
これらの訂正事項は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
ウ 訂正事項6、14、15、17~19について
これらの訂正事項は、引用する請求項を減らすものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
エ 訂正事項20~22、25~28について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
オ 訂正事項23、24について
これらに訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項に合わせて、本発明の実施例、参考例を整理し直したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(3)新規事項の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、Al2O3の上限を「9%(9を除く)」とするものであるが、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の【0038】にAl2O3について「特に好ましくは9%以下」と記載されており、「9%(9を除く)」すなわち「9%未満」とすることは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
イ 訂正事項2、7、13について
訂正事項2、7及び13は、CaOの上限を「0.5%」とするものであるが、特許明細書等の【0040】にCaOについて「最も好ましくは0.5%以下」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、Na2Oの下限を「12」とするものであるが、特許明細書等の【0042】にNa2Oについて「特に好ましくは12%以上である」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
エ 訂正事項4、8について
訂正事項4及び8は、K2Oの上限を「1%」とするものであるが、特許明細書等の【0043】にK2Oについて「特に好ましくは1%以下」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
オ 訂正事項9について
訂正事項9は、「B2O3の含有量が5%以下」とするものであるが、特許明細書等の【0051】に「B2O3は溶融性向上のために5%以下であることが好ましい」と記載されているから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
カ 訂正事項5、10~12、16について
これらの訂正事項は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
キ 訂正事項6、14、15、17~19について
これらの訂正事項は、引用する請求項を減らすものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ク 訂正事項20~22、25~28について
これらの訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項と整合を図るものであり、上記ア~キで説示したとおり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ケ 訂正事項23、24について
これらに訂正事項は、特許請求の範囲についての訂正事項に合わせて、本発明の実施例、参考例を整理し直したものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
特許請求の範囲についての訂正事項1~19及び明細書ついての訂正事項20~28は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(5)一群の請求項について
訂正事項1~19に係る訂正前の請求項1~14は、互いに引用、被引用の関係にあるから一群の請求項であり、これらの訂正は、特許法120条の5第4項に適合する。また、明細書についての訂正事項20~28は、当該一群の請求項の全てに対する訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正を認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3~5、9、10及び12~14に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1、3~5、9、10及び12~14」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1、3~5、9、10及び12~14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、
ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を61~77%、Al2O3を9(9を除く)~18%、MgOを3~15%、CaOを0~0.5%、ZrO2を0~4%、Na2Oを12~18%、K2Oを0~1%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が65~85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3~15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるRが0.66以上である化学強化ガラスの製造方法。
R=0.029×SiO2+0.021×Al2O3+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO2+0.029×Na2O+0×K2O-2.002
【請求項3】
SiO2、Al2O3、MgO、CaO、ZrO2、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が98.5%以上である請求項1の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を61~77%、Al2O3を9.1~18%、MgOを3~15%、CaOを0~0.5%、ZrO2を0~4%、Na2Oを8~18%、K2Oを0~1%ならびにB2O3、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を含有し、B2O3の含有量が5%以下、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が65~85%、MgOおよびCaOの含有量の合計が3~15%であり、かつ、各成分の含有量を用いて下記式により算出されるR’が0.66以上であるものである化学強化ガラスの製造方法。
R’=0.029×SiO2+0.021×Al2O3+0.016×MgO-0.004×CaO+0.016×ZrO2+0.029×Na2O+0×K2O+0.028×B2O3+0.012×SrO+0.026×BaO-2.002
【請求項5】
SiO2、Al2O3、MgO、CaO、ZrO2、Na2O、K2O、B2O3、SrOおよびBaOの含有量の合計が98.5%以上である請求項4の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
SiO2が63%以上、Al2O3が12%以下、MgOが12%以下、CaOが0~0.5%である請求項1および3~5のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
ZrO2が2.5%以下かつNa2Oが10%以上である請求項1、3~5および9のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
化学強化ガラスの表面に形成された圧縮応力層の厚みが10μm以上、表面圧縮応力が200MPa以上である請求項1、3~5、9および10のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
化学強化ガラスが厚み1.5mm以下のガラス板である請求項1、3~5、9、10および12のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。
【請求項14】
化学強化ガラスがカバーガラスである請求項1、3~5、9、10、12および13のいずれかの化学強化ガラスの製造方法。」
なお、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の【請求項4】には「・・・化学強化ガラスの製造方法を提供する。」と記載されているが、訂正前の【請求項4】には「・・・化学強化ガラスの製造方法。」と記載されており、訂正請求書にこれを「・・・化学強化ガラスの製造方法を提供する。」とする訂正事項は記載されていない。
したがって、「を提供する」部分は明らかな誤記と認め、職権にて当該記載は削除した。
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、訂正前の請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1~14」という。)は、優先権を主張している特願2010-288255号及び特願2011-114783号についての優先権の利益を享受しておらず、特許性の判断基準日は、本件特許の特願2011-247766号の出願日である平成23年11月11日になることを主張したうえで、証拠として以下の甲第1号証及び甲第2号証(以下「甲1」及び「甲2」という。)を提示し、本件発明1~14は、甲1又は甲2に記載されている発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、甲1又は甲2に記載されている発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものであるとしている。
さらに、「その他」として、「甲第1、2号証は、本件特許が特願2010-288255号の優先権の利益を享受すると仮定した場合でも、特許法第29条の2違反の引用適格を有している。」とも主張している。
甲1:国際公開第2011/022639号
甲2:国際公開第2011/011667号
第5 取消理由について
当審から、平成28年9月23日付けで以下の取消理由を通知している。
1 優先権主張の効果について
本件特許に係る出願は平成23年11月11日に出願されたものであって、平成22年12月24日(以下「優先日1」という。)を出願日とする特願2010-288255号(以下「P1」という。)、平成23年5月23日(以下「優先日2」という。)を出願日とする特願2011-114783号(以下「P2」という。)を基礎とする国内優先権を主張するものである。
(1)本件発明1は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量、及び各成分の含有量を用いて上記式Rにより算出される値によって特定される発明であるが、P1の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「P1明細書等」という。)には、本件発明1で特定される成分とその含有量及び式Rが記載されており、各成分の含有量を用いて算出されるRの値が0.66以上であることも記載されている。
そして、本件発明1を引用する本件発明2、3、9及び10で特定される成分とそれら成分量についてもP1明細書等に記載されており、本件発明1を引用する本件発明12及び13で特定される特性及び形態、本件発明1を引用する本件発明14で特定される用途についてもP1明細書等に記載されている。
してみれば、本件発明1及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、9、10、12~14は、P1を基礎とする国内優先権の主張の効果が認められることになる。
(2)本件発明4は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量、及び各成分の含有量を用いて上記式R’により算出される値によって特定される発明であるが、式R’はP1明細書等には記載されておらず、P2の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「P2明細書等」という。)に上記本件発明4で特定される成分とその含有量と共に記載されているものであり、P2明細書等には各成分の含有量を用いて算出されるR’の値が0.66以上であることも記載されている。
そして、本件発明4を引用する本件発明5、9及び10で特定される成分とそれら成分量についていもP2明細書等に記載されており、本件発明4を引用する本件発明12及び13で特定される特性及び形態、本件発明4を引用する本件発明14で特定される用途についてもP2明細書等に記載されている。
してみれば、本件発明4及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明5、9、10、12~14は、P1を基礎とする国内優先権の主張の効果はが認められないが、P2を基礎とする国内優先権の主張の効果が認められることになる。
(3)本件発明6は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量、及び各成分の含有量を用いて上記式R”により算出される値によって特定される発明であるが、式R”はP1明細書等にも、P2明細書等にも記載されていないことから、本件発明6及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明7、9~14については、P1を基礎とする国内優先権の主張も、P2を基礎とする国内優先権の主張の効果も認められない。
(4)本件発明8は、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法であって、ガラスが、上記成分とその含有量で特定される発明であるが、P1明細書等には、本件発明8で特定される成分とその含有量が記載されている。
そして、本件発明8を引用する本件発明9~11で特定される成分とそれら成分量についてもP1明細書等に記載されており、本件発明8を引用する本件発明12及び13で特定される特性及び形態、本件発明8を引用する本件発明14で特定される用途についてもP1明細書等に記載されている。
してみれば、本件発明8及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明9~14は、P1を基礎とする国内優先権の主張の効果が認められることになる。
(5)まとめ
以上、本件発明1~14に対する新規性(特許法第29条第1項)、進歩性(特許法第29条第1項)、拡大先願(特許法第29条の2本文)の適用にあたり、本件発明1及び8並びにそれらを直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、9~14については優先日1が、本件発明4及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明5、9、10、12~14については優先日2が、本件発明6及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明7、9~14については本件の出願日が基準日となる。
2 特許法第29条第1項第3号について
甲1及び甲2は、いずれも優先日1と優先日2との間で国際公開されたものであるから、本件発明1及び8並びにそれらを直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、9~14については、甲1及び甲2に基づく新規性、進歩性の判断はできない
(1)本件発明4及びそれを引用する本件発明5、9、10、12~14について
ア 甲1及び甲2の記載事項
(ア)甲1について
a 甲1のTable1又はTable2に記載されているSample8、11、40、101、103、104のガラスは、以下のとおりである。
b そして、甲1の[0040] には「In one embodiment, the metal ions are monovalent alkali metal ions (e.g., Na +, K+, Rb+, and the like), and ion exchange is accomplished by immersing the glass in a bath comprising at least one molten salt of the larger metal ion that is to replace the smaller metal ion in the glass. Alternatively, other monovalent ions such as Ag+, Tl+, Cu+, and the like may be exchanged for monovalent ions.The ion exchange process or processes that are used to strengthen the glass can include, but are not limited to, immersion in a single bath or multiple baths of like or different compositions with washing and/or annealing steps between immersions. 」(訳:1つの実施の形態では、金属イオンは一価のアルカリ金属イオン(例えば、Na+、K+、Rb+など)であり、イオン交換は、ガラス中の小さい金属イオンと交換されるべき大きい金属イオンの少なくとも1種類の溶融塩を含む浴にガラスを浸漬することによって達成される。あるいは、Ag+、Tl+、Cu+などの他の一価イオンが一価のイオンと交換されてもよい。ガラスを強化するのに用いられるイオン交換工程または複数のイオン交換工程には、限定はしないが、単一浴への浸漬、または、浸漬と次の浸漬の間に洗浄および/またはアニーリングの工程を有する、同様または異なる組成の複数の浴への浸漬が挙げられる。)と記載され、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法が示されており、そのガラスとして上記Sampleのガラスが用いられるものである。
(イ)甲2について
a 甲2のTable6又はTable10に記載されているExample24、47、50、51、52のガラスは、以下のとおりである。
b そして、甲2の [0071] には「According to one embodiment, the glass is ion exchanged in a salt bath comprising one or more salts of alkali ions. The glass can be ion exchanged to change its mechanical properties. For example, smaller alkali ions, such as lithium or sodium, can be ion-exchanged in a molten salt containing one or more larger alkali ions, such as sodium, potassium, rubidium or cesium.」(訳:ある実施の形態によれば、ガラスは、アルカリイオンの1つ以上の塩を含む塩浴中でイオン交換される。ガラスは、機械的特性を変えるためにイオン交換されてもよい。例えば、リチウムまたはナトリウムのようなより小さいアルカリイオンを、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウムのような1つ以上のより大きいアルカリイオンを含有する溶融塩中でイオン交換してもよい。)と記載され、上記甲1の記載など技術常識を参酌するに、溶融塩にガラスを浸漬して化学強化ガラスとするイオン交換処理を繰り返す化学強化ガラスの製造方法が示されているといえ、そのガラスとして上記Exampleのガラスが用いられるものである
イ 以上から、本件発明4並びに本件発明4を直接又は間接的に引用する本件発明5、9、10及び12~14は、甲1又は甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。
(2)本件発明6及びそれを引用する本件発明7、9~14について
ア 上記(1)ア(ア)bの記載と共に、甲1のTable1又はTable2に記載されているSample14、15、17、18、19、20、22、24、28、31、39、40、42、57、58、59、60、61、62、101、104、111、112、113、114のガラスは、以下のとおりである。
また、上記(1)ア(イ)bの記載と共に、甲2のTable6、Table8~10に記載されているExample20、22、23、24、25、37、42、46、47、50、51、52のガラスは、以下のとおりである。
イ 以上から、本件発明6並びに本件発明6を直接又は間接的に引用する本件発明7及び9~14は、甲1又は甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。
3 特許法第29条第2項について
本件発明4又は6及びそれを直接的又は間接的に引用する本件発明5、7、9~14は、上記2で説示したとおり、いずれも甲1又は甲2に記載された発明であるが、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明ともいえることから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもある。
4 特許法第29条の2について
甲1は平成22年8月20日を国際出願日とする国際出願PCT/US2010/046153の国際公開、甲2は平成22年7月23日を国際出願日とする国際出願PCT/US2010/043027の国際公開であり、それらの国際出願は、指定国に日本を含む特許法184条の3で規定される外国語特許出願で、前者は特願2012-525727号(以下「先願甲1」という。)、後者は特願2012-521823号(以下「先願甲2」という。)である。
そして、先願甲1及び先願甲2とも、特許法184条の4第3項の規定により取り下げられたものではなく、本件特許に係る出願に係る発明者は、先願甲1に係る発明の発明者でも先願甲2に係る発明の発明者でもなく、本件特許に係る出願の出願人は、この出願の時において、先願甲1の出願人でも先願甲2の出願人でもない。
(1)本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3、9、10、12~14について
ア 上記(1)ア(ア)bの記載と共に、先願甲1のTable1又はTable2に記載されているSample14、15、17、18、19、20、22、24、28、31、57、58、59、60、61、62、111、112、113、114のガラスは、以下のとおりである。
また、上記(1)ア(イ)bの記載と共に、先願甲2のTable6、Table8~10に記載されているExample20、22、23、24、25、37、42、46、47、52のガラスは、以下のとおりである。
イ 以上から、本件発明1並びに本件発明1を直接又は間接的に引用する2、3、9、10及び12~14は、その優先日1前の先願甲1又は先願甲2であって、その優先日1後に国際公開がされた先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものでもある。
(2)本件発明8及びそれを引用する本件発明9~14についてについて
ア 上記(1)ア(ア)bの記載と共に、先願甲1のTable1又はTable2に記載されているSample31、58、60、61、62、104のガラスは、以下のとおりである。
また、上記(1)ア(イ)bの記載と共に、先願甲2のTable 6、Table 8~10に記載されているExample22、23、25、37、42、46、47、50、51、52のガラスは、以下のとおりである。
イ 以上から、本件発明8並びに本件発明8を直接又は間接的に引用する9~14は、その優先日1前の先願甲1又は先願甲2であって、その優先日1後に国際公開がされた先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものでもある。
第6 取消理由についての判断
1 特許法第29条第1項第3号について
(1)本件訂正発明4について
甲1のTable1又はTable2に記載されているSample8、11、40、101、103、104のガラスにおいて、もはや、本件訂正発明4で特定される成分とその含有量を満たすものはない。また、甲2のTable6又はTable10に記載されているExample24、47、50、51、52のガラスにおいても、もはや、本件訂正発明4で特定される成分とその含有量を満たすものはない。
してみれば、本件訂正発明4は、甲1又は甲2に記載されている発明とはいえない。
(2)本件訂正発明4を引用する本件訂正発明5、9、10、12~14について
本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12~14は、本件訂正発明4をより限定した発明であるから、甲1又は甲2に記載されている発明とはいえない。
(3)まとめ
本件訂正発明4並びに本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12~14は、特許法第29条第1項第3号に該当しないことから、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。
2 特許法第29条第2項について
(1)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件特許明細書の【0008】~【0009】に記載されている、
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に述べたような用途などにおいては通常、化学強化のためのイオン交換処理はナトリウム(Na)を含有するガラスを溶融カリウム塩に浸漬して行われ、当該カリウム塩としては硝酸カリウムまたは硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩が使用される。
イオン交換処理ではガラス中のNaと溶融塩中のカリウム(K)のイオン交換が行われるので、同じ溶融塩を使用し続けながらイオン交換処理を繰り返すと溶融塩中のNa濃度が上昇する。
【0009】
溶融塩中のNa濃度が高くなると化学強化されたガラスの表面圧縮応力Sが低下するので、化学強化ガラスのSが所望の値を下回らないように溶融塩中のNa濃度を厳しく管理し、また溶融塩の交換を頻繁に行う必要があるという問題があった。
このような溶融塩の交換の頻度は少しでも減らすことが求められており、本発明はこのような問題を解決できる化学強化ガラスの製造方法の提供を目的とする。」を課題とする発明であり、その効果として【0028】に記載されている、
「【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、溶融塩中のNa濃度上昇による化学強化ガラスの表面圧縮応力Sの低下割合を小さくできるので、溶融塩中のNa濃度の管理を緩やかにし、溶融塩の交換頻度を低減することができる。
また、最初のイオン交換処理で得られた化学強化ガラスのSに対する溶融塩交換直前での化学強化ガラスのSの低下割合が小さくなり、Sのロット間ばらつきを小さくできる。」との効果が得られるものである。
一方、甲1は、「最もイオン交換し易いガラスはジルコンと反応し、ジルコンを分解してガラスに溶解するシリカと、溶融ガラス内への流れによって取り込まれ、最終的には最終製品に含まれる固形包有物を形成するジルコニアとを生じる。溶融ガラスによるジルコンの攻撃は長時間継続し、ガラス中のジルコニア包有物のレベルまたは濃度が増大する。これらの包有物は溶融ライン上で濃縮されることから、それらはイオン交換後の最大中心張力点に位置し、イオン交換したガラス部品の強度を危うくする可能性がある。」(【0004】)との技術課題を解決する発明であり、甲2は、「ディスプレイ用途に設計されたガラスの使用により、必要な高歪み点が提供されるが、これらのガラスの熱膨張係数(CTE)はしばしば低過ぎて、光電池膜とのCTEのミスマッチにより、大きい光電池パネルを確実に構築することができない。さらに、ディスプレイ用途に設計された多くのガラスは、意図的にアルカリを含まず、ガラスからのナトリウム拡散を所望とする薄膜光電池用途に有用でなくなる。」(【0005】)との技術課題を解決する発明であり、両者は上記本件特許発明4の技術課題とは異なり、両者とも、本件特許発明4の技術思想とは全く異なるものである。
してみれば、上記技術課題のもと、甲1又は甲2記載のガラス組成を本件訂正発明4のガラス組成を満たすように調整することはなく、そして、本件訂正発明4の上記効果が得られることは当業者において到底予期できないことである。
よって、本件訂正発明4は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。
(2)本件訂正発明4を引用する本件訂正発明5、9、10、12~14について
本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12~14は、本件訂正発明4をより限定した発明であるから、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。
(3)まとめ
本件訂正発明4並びに本件訂正発明4を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5、9、10及び12~14は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでないことから、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。
3 特許法第29条の2について
(1)本件訂正発明1について
先願甲1のTable1又はTable2に記載されているSample14、15、17、18、19、20、22、24、28、31、57、58、59、60、61、62、111、112、113、114のガラスにおいて、もはや、本件訂正発明1で特定される成分とその含有量を満たすものはない。また、先願甲2のTable6、Table8~10に記載されているExample20、22、23、24、25、37、42、46、47、52のガラスにおいても、もはや、本件訂正発明1で特定される成分とその含有量を満たすものはない。
してみれば、本件訂正発明1は、先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一とはいえない。
(2)本件訂正発明1を引用する本件発明3、9、10、12~14について
本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明3、9、10及び12~14は、本件訂正発明1をより限定した発明であるから、先願甲1明細書等又は先願甲2明細書等に記載された発明と同一とはいえない。
(3)まとめ
本件訂正発明1並びに本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明3、9、10及び12~14は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものではないことから、特許法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はなく、上記第4の「特許異議申立理由の概要」で記載したように、申立人が「その他」として主張している特許法第29条の2違反についても取消理由として通知した。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3~5、9、10及び12~14に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、3~5、9、10及び12~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項2、6~8及び11に係る特許に対してなされた特許異議申立については、訂正により申立の対象となる請求項が存在しないものとなった。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700551