特許異議申立
2023-700170
フィルム、樹脂組成物およびポリアミドイミド樹脂の製造方法
- 審判番号
- 2023-700170
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-007523
- 登録番号
- 7118651
- 請求日
- 2023年02月16日
- 審決日
- 2024年04月26日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】森住 憲一
- 【権利者代理人】岩木 郁子
- 【権利者代理人】梶田 真理奈
- 【異議申立人】石川 照子
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 小出 直也
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7118651号発明「フィルム、樹脂組成物およびポリアミドイミド樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7118651号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6、13〕、〔7-12〕について訂正することを認める。
特許第7118651号の請求項1、3ないし7及び9ないし13に係る特許を維持する。
特許第7118651号の請求項2及び8に係る特許に対する申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7118651号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)1月19日を出願日(優先権主張 2017年(平成29年)1月20日)とする特願2018-7523号に係るものであって、令和4年8月5日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、令和5年2月16日に特許異議申立人 石川 照子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされた。
特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 5月25日付け取消理由通知書
同年 7月25日 面接記録
同年 7月28日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 8月 3日 応対記録
同年 8月 4日付け通知書(申立人宛)
同年 9月14日 意見書(申立人)
同年12月14日付け取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 2月 9日 応対記録
同年 2月16日 意見書(特許権者)
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第7118651号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は当審が付した。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「樹脂組成物から形成されてなる、」とあるのを、「樹脂組成物から形成されてなり、前記ポリアミドイミド樹脂Aおよびポリアミドイミド樹脂Bは、それぞれ、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含み、」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「フィルム」とあるのを、「前記イミド化率が、それぞれ、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、βは、ポリアミドイミド樹脂Aまたはポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000001.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環は、イミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である〕
から求められる、フィルム」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3において、「請求項1または2に記載のフィルム」とあるのを、「請求項1に記載のフィルム」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1~3のいずれかに記載のフィルム」とあるのを、「請求項1または3に記載のフィルム」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5において、「請求項1~4のいずれかに記載のフィルム」とあるのを、「請求項1、3および4のいずれかに記載のフィルム」に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6において、「請求項1~5のいずれかに記載のフィルム」とあるのを、「請求項1および3~5のいずれかに記載のフィルム」に訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項13において、「請求項1~6のいずれかに記載のフィルム」とあるのを、「請求項1および3~6のいずれかに記載のフィルム」に訂正する。
ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7に、
「溶剤を少なくとも含む、」とあるのを、「溶剤を少なくとも含み、前記ポリアミドイミド樹脂Bは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含み、」に訂正する。
コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7に、
「樹脂組成物」とあるのを、「前記イミド化率が、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、Bは、ポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000002.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環は、イミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である〕から求められる、樹脂組成物」に訂正する。
サ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
シ 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項9において、「請求項7または8に記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項7に記載の樹脂組成物」に訂正する。
ス 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項10において、「請求項7~9のいずれかに記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項7または9に記載の樹脂組成物」に訂正する。
セ 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項11において、「請求項7~10のいずれかに記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項7、9および10のいずれかに記載の樹脂組成物」に訂正する。
ソ 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項12において、「請求項7~10のいずれかに記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項7、9および10のいずれかに記載の樹脂組成物」に訂正する。
タ 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6及び13について、請求項2ないし6及び13はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし6及び13に対応する訂正後の請求項1ないし6及び13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項7ないし12について、請求項8ないし12はそれぞれ請求項7を引用しているものであって、訂正事項9及び10によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項7ないし12に対応する訂正後の請求項7ないし12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「ポリアミドイミド樹脂A」および「ポリアミドイミド樹脂B」が2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を有することを特定することにより、「ポリアミドイミド樹脂A」および「ポリアミドイミド樹脂B」をさらに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正は、本件特許明細書の段落【0035】、【0036】及び【0093】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲が減縮されていることから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、下記の取消理由1を解消するために、訂正前の請求項1に記載されていた「ポリアミドイミド樹脂A」および「ポリアミドイミド樹脂B」のイミド化率が、相関式(NMR-3)から求められることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、本件特許明細書の段落【0035】、【0036】、【0093】及び【0136】ないし【0139】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項2を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4ないし8について
訂正事項4ないし8は、訂正事項3により訂正前の請求項2を削除することに伴い、訂正前の請求項3ないし6及び13において、引用先の請求項のうち請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項7に記載されていた「ポリアミドイミド樹脂B」が2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を有することを特定することにより、「ポリアミドイミド樹脂B」をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正は、本件特許明細書の段落【0035】、【0036】及び【0093】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲が減縮されていることから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項7に記載されていた「ポリアミドイミド樹脂B」のイミド化率が、相関式(NMR-3)から求められることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、本件特許明細書の段落【0035】、【0036】、【0093】及び【0136】ないし【0139】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 訂正事項11について
訂正事項11は、請求項8を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク 訂正事項12ないし15について
訂正事項12ないし15は、訂正事項11により訂正前の請求項8を削除することに伴い、訂正前の請求項9ないし12において、引用先の請求項のうち請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし13に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6、13〕、〔7-12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を少なくとも有し、フッ素原子を含み、2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂Aを含むフィルムであって、
ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を有し、フッ素原子を含み、2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B、および、溶剤を少なくとも含む樹脂組成物から形成されてなり、
前記ポリアミドイミド樹脂Aおよびポリアミドイミド樹脂Bは、それぞれ、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含み、
前記イミド化率が、それぞれ、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、βは、ポリアミドイミド樹脂Aまたはポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000003.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環は、イミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である〕から求められる、フィルム。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ジカルボン酸は、式(2):
【化1】
[図:0001413294000004.jpg]
[式(2)中、Zは式(2a)または式(2b)
【化2】
[図:0001413294000005.jpg]
〔式(2a)および式(2b)中、U1は、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-Ar-、-SO2-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH2-Ar-、-Ar-C(CH3)2-Ar-または-Ar-SO2-Ar-を表し、Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、*は結合手を表す〕で表される基を表し、B1およびB2は、それぞれ独立して、OHまたはハロゲン原子を表す]
で表される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
テトラカルボン酸二無水物は、式(4):
【化3】
[図:0001413294000006.jpg]
[式(4)中、Yは、式(4g):
【化4】
[図:0001413294000007.jpg]
〔式(4g)中、W1は、単結合、-C(CH3)2-または-C(CF3)2-を表し、*は結合手を表す〕
を表す]
で表される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1または3に記載のフィルム。
【請求項5】
3以下のYIを有する、請求項1、3および4のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
4,000ルクスの照度条件下でASTM D 3363に従い測定して3B以上の鉛筆硬度を有する、請求項1および3~5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】
ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を有し、フッ素原子を含み、2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B、および、溶剤を少なくとも含み、
前記ポリアミドイミド樹脂Bは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含み、
前記イミド化率が、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、βは、ポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000008.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環はイミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である〕
から求められる、樹脂組成物。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
ジカルボン酸は、式(2):
【化5】
[図:0001413294000009.jpg]
[式(2)中、Zは式(2a)または式(2b):
【化6】
[図:0001413294000010.jpg]
〔式(2a)および式(2b)中、U1は、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-Ar-、-SO2-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH2-Ar-、-Ar-C(CH3)2-Ar-または-Ar-SO2-Ar-を表し、Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、*は結合手を表す〕
で表される基を表し、B1およびB2は、それぞれ独立して、OHまたはハロゲン原子を表す]
で表される少なくとも1種の化合物を含む、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
テトラカルボン酸二無水物は、式(4):
【化7】
[図:0001413294000011.jpg]
[式(4)中、Yは、式(4g):
【化8】
[図:0001413294000012.jpg]
〔式(4g)中、W1は、単結合、-C(CH3)2-または-C(CF3)2-を表し、*は結合手を表す〕
を表す]
で表される少なくとも1種の化合物を含む、請求項7または9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項7、9および10のいずれかに記載の樹脂組成物の塗膜を乾燥させてなるフィルム。
【請求項12】
請求項7、9および10のいずれかに記載の樹脂組成物の塗膜を乾燥させる工程を少なくとも含む、フィルムの製造方法。
【請求項13】
画像表示装置の前面板用のフィルムである、請求項1および3~6のいずれかに記載のフィルム。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年2月16日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件発明1には、「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂Aを含む」、及び、「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」という構成要件があり、本件特許明細書の段落0136~139には、イミド化率の算出方法が記載されている。
イミド化率は「式(10)に示した部分構造に由来するシグナルを用いて算出した。」と記載されているが、本件発明の実施例においてはテトラカルボン酸二無水物由来の構造として式(10)に示した部分構造の6FDA由来の構造だけでなく、BPDA由来の構造やOPDA由来の構造も含まれる。本件特許明細書のイミド化率の求め方においては、BPDA由来の構造やOPDA由来の構造をどのように考慮してイミド化率を求めたのか、不明確である。
また、「複数のポリイミド樹脂について、式(NMR-2)によるβ値および式(NMR-1)によるイミド化率(%)を求め、この結果から以下の相関式(NMR-3)を得た。
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)」
と記載されているが、「複数のポリイミド樹脂」が何であるか不明確である上、どのように相関式(NMR-3)が得られたか、不明確である。そのため、相関式(NMR-3)から求められるポリアミドイミド樹脂のイミド化率(%)の技術的意義が不明確である。ポリアミドイミド樹脂の2次元NMRの測定値によるイミド化率(%)の意義が明確でないから、発明の範囲も明確でない。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件発明1には、「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂Aを含む」、及び、「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」という構成要件があり、本件特許明細書の段落0136~139には、イミド化率の算出方法が記載されている。
しかしながら、式(NMR-2)によりβ値を求め、このβ値を上記の相関式(NMR-3)へ代入することにより、イミド化率が求められるポリアミドイミド樹脂は、少なくともジアミン成分の100%が式(10)に示した2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)由来であるポリアミドイミド樹脂に限定されると認められる。式(10)に示したTFMB由来の構成単位を含まないポリアミドイミド樹脂は、式(NMR-2)によりβ値を求めることができない。式(10)に示したTFMB由来の構成単位の他に、TFMB以外のジアミン成分由来の構成単位を含むポリアミドイミド樹脂の場合に、ジアミン成分の一部のTFMB由来の構成単位から求められるβ値を上記の相関式(NMR-3)へ代入しても、ジアミン成分の100%がTFMBである場合の精度でイミド化率が求められるとは推認できない。
また、相関式(NMR-3)を具体的にどのように導出したか不明確であり、2次元NMRによるイミド化率の測定方法が標準的でもないから、ジアミン成分の100%がTFMB由来であり、且つ、式(10)に示した部分構造を有するポリアミドイミド樹脂以外の、本件特許発明1で特定する広範なモノマーを用いたポリアミドイミド樹脂において、2次元NMRによりどのようにイミド化率を算出すれば良いのかを当業者であっても理解することができない。
3 申立理由3(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
・甲第1号証:特開2016-125063号公報
・甲第2号証:日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編、「新訂 最新ポリイミド -基礎と応用-」、2010年8月25日、p.6-10
・甲第3号証:特開2015-218179号公報
・甲第4号証:米国特許第3502625号公報とその抄訳
・甲第5号証:特開2015-93966号公報
・甲第6号証:特開2007-204518号公報
・甲第7号証:国際公開第2016/190105号
・甲第8号証:「No.0257ポリイミド膜の硬化挙動の解析(残存溶媒量、硬化度)」、[online], 2015年7月23日、株式会社東レリサーチセンター、[2023年2月13日検索]、インターネット <URL:
http://cs2.toray.co.jp/news/trc/news_rd01.nsf/0/CF4C69CEA91DA9C749257E8B001EC24F?open>
・甲第9号証:国際公開第2015/053237号
・甲第10号証:特開2015-101729号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむねしたがった。以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。
(2)特許権者が提出した証拠方法
ア 令和5年7月28日付け意見書に添付した証拠方法
・乙第1号証:福士 江里著、「よくある質問 NMRスペクトルの読み方」、講談社、2009年2月20日第1刷発行、第7及び9頁
・乙第2号証:安藤喬志、宗宮創著、「これならわかるNMR【そのコンセプトと使い方】」、化学同人、2004年7月20日第10刷発行、第24頁
・乙第3号証:竹内敬人、加藤敏代著、「よくある質問 NMRの基本」、講談社、2012年4月20日第1刷発行、第52頁
イ 令和6年2月6日付け意見書に添付した証拠方法
・乙第4号証:実験成績証明書1
・乙第5号証:JIS Z 9125:2023
・乙第6号証:JIS Z 9110:2010
証拠の表記は、意見書の記載におおむねしたがった。以下、「乙第1号証」等を「乙1」等という。
第5 取消理由通知(決定の予告)の概要
令和5年12月14日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)の概要は次のとおりである。
取消理由3-1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、3ないし6、11及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3ないし6、11及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、特許異議申立書に記載した理由及び当審が通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1、3ないし7及び9ないし13に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
また、上記第2に示したとおり、請求項が削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったので、本件特許の請求項2及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
1 取消理由3-1及び申立理由3について、
申立理由3は、甲1に基づく新規性・進歩性をいうものであるから、取消理由3-1と併せて検討する。
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「表示装置用ウィンドウフィルムおよびこれを含む表示装置」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0005】
本発明は、高い硬度と優れた光学的物性とを有するプラスチック基材の表示装置ウィンドウフィルムを提供することを目的とする。」
・「【0019】
したがって、一実施形態による表示装置用ウィンドウフィルムにおいて、プラスチック基材(好ましくは100μm以下の厚さを有する)は、ASTM D3363に従って角度90°の荷重1kgで測定される表面鉛筆硬度が3H以上であり、かつASTM E313に従って測定される黄色度(YI)が3以下である。プラスチック基材がこのような物性を有する場合、最終的に得られるウィンドウフィルムは、優れた耐スクラッチ性と透明性とを有することができる。」
・「【0064】
[実施例1]
窒素雰囲気下で、反応器に84000gのジメチルアセトアミドを入れ、ピリジン15.614モルを投入した。前記反応器に2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ビフェニルジアミン(TFDB)15.614モルを添加し溶解して、TFDB溶液を製造した。前記TFDB溶液にテレフタロイルクロリド(TPCL)7.807モルを添加し、30℃で120分間攪拌して、ポリアミドを含むTFDB溶液を得た。前記ポリアミドを含むTFDB溶液に、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)2.3421モル、および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)5.4649モルを添加して、30℃で36時間反応を行って、ポリアミド-アミド酸共重合体を得た。
【0065】
得られたポリアミド-アミド酸共重合体溶液に、化学的イミド化触媒として無水酢酸11.7105モルを投入し、30分間攪拌した後、同じモル数のピリジンを添加して、30℃で36時間攪拌した。化学的イミド化を終えた溶液は、沈澱過程を通してパウダー形態に精製した。得られたパウダーを、120℃で24時間真空乾燥し、ジメチルアセトアミドにさらに溶解して、ポリアミドイミド共重合体溶液を製造した。
【0066】
製造した溶液を、ガラス板にドクターブレードを使用して塗布し、フィルム状に塗布した。その後、80℃のホットプレートで1時間プリベーク(pre-baking)した後、焼成炉(furnace)で1分当り3℃で昇温させ250℃まで加熱して、フィルムの乾燥および熱的イミド化を行い、厚さ50μmのフィルムを製造した。
【0067】
[実施例2]
TFDB、TPCL、6FDA、およびBPDAを表1に示したモル比で使用することを除いては、実施例1と同様の方法で、ポリアミドイミド共重合体を含むフィルムを得た。
【0068】
[実施例3]
TFDB、TPCL、6FDA、およびBPDAを表1に示したモル比で使用すること、および厚さ40μmのフィルムを製造することを除いては、実施例1と同様の方法で、ポリアミドイミド共重合体を含むフィルムを得た。
【0069】
[実施例4]
TFDB、TPCL、6FDA、およびBPDAを表1に示したモル比で使用することを除いては、実施例1と同様の方法で、ポリアミドイミド共重合体を含むフィルムを得た。
【0070】
[実施例5]
TFDB、TPCL、6FDA、およびBPDAを表1に示したモル比で使用することを除いては、実施例1と同様の方法で、ポリアミドイミド共重合体を含むフィルムを得た。
【0071】
[実施例6]
TPCLの代わりにBPCL(4,4’-Biphenyldicarbonyl chloride)を使用して、TFDB、BPCL、6FDA、およびBPDAを表1に示したモル比で使用することを除いては、実施例1と同様の方法で、ポリアミドイミド共重合体を含むフィルムを得た。」
・「【0077】
[2]表面鉛筆硬度
鉛筆硬度測定器および三菱鉛筆株式会社製のユニを用いて、ASTM D3363に従って表面鉛筆硬度を測定した。具体的に、厚さ2mmのガラス板の上にフィルムを固定した後、角度90°の荷重1kg鉛筆速度を60mm/minにして、10mmずつ5回測定した後、キズがない最も高い硬度を表面鉛筆硬度とした。
【0078】
[3]黄色度(YI)
UV分光計(Spectrophotometer、コニカミノルタ株式会社製、cm-3600d)を用いて、ASTM E313の規格で測定した。
・・・
【0081】
各種物性の評価結果を、下記表1に示す。なお、TPCL、BPCL、BPDA、および6FDAの欄の数値は、TFDBを100モルとしたときの各原料のモル比を表す。
【0082】
【表1】
[図:0001413294000013.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、【0005】及び実施例1について整理すると、以下の発明が記載されていると認める。
「窒素雰囲気下で、反応器に84000gのジメチルアセトアミドを入れ、ピリジン15.614モルを投入し、前記反応器に2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ビフェニルジアミン(TFDB)15.614モルを添加し溶解して、TFDB溶液を製造し、前記TFDB溶液にテレフタロイルクロリド(TPCL)7.807モルを添加し、30℃で120分間攪拌して、ポリアミドを含むTFDB溶液を得、前記ポリアミドを含むTFDB溶液に、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)2.3421モル、および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)5.4649モルを添加して、30℃で36時間反応を行って、ポリアミド-アミド酸共重合体を得、得られたポリアミド-アミド酸共重合体溶液に、化学的イミド化触媒として無水酢酸11.7105モルを投入し、30分間攪拌した後、同じモル数のピリジンを添加して、30℃で36時間攪拌し、化学的イミド化を終えた溶液を、沈澱過程を通してパウダー形態に精製し、得られたパウダーを、120℃で24時間真空乾燥し、ジメチルアセトアミドにさらに溶解して、製造したポリアミドイミド共重合体溶液。」(以下、「甲1溶液発明」という。)
「甲1溶液発明を、ガラス板にドクターブレードを使用して塗布し、フィルム状に塗布し、その後、80℃のホットプレートで1時間プリベークした後、焼成炉で1分当り3℃で昇温させ250℃まで加熱して、フィルムの乾燥および熱的イミド化を行い、製造した表面鉛筆硬度4H、YIが2.3、厚さ50μmのフィルム。」(以下、「甲1フィルム発明」という。)
(2)乙4に記載された事項
令和6年2月6日付け意見書に特許権者から提出された意見書に添付された乙4には、次の事項が記載されている。
「
[図:0001413294000014.jpg]
」(1頁)
「
[図:0001413294000015.jpg]
」(2頁)
(3)本件発明1について
ア 対比・判断
本件発明1と甲1フィルム発明とを対比する。
甲1フィルム発明の「ポリアミドイミド共重合体」は、「2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ビフェニルジアミン(TFDB)」、「テレフタロイルクロリド(TPCL)」、「4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)」及び「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)」を原料として用いたものであるから、本件発明1の「ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を有し、フッ素原子を含」む「ポリアミドイミド樹脂B」に相当する。
甲1フィルム発明の「ジメチルアセトアミド」は、本件発明1の「溶剤」に相当し、甲1フィルム発明の「ポリアミドイミド共重合体溶液」は、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲1フィルム発明の「ポリアミドイミド共重合体溶液」を、「ガラス板にドクターブレードを使用して塗布し、フィルム状に塗布し、その後、80℃のホットプレートで1時間プリベークした後、焼成炉で1分当り3℃で昇温させ250℃まで加熱して、フィルムの乾燥および熱的イミド化を行」った後の「ポリアミドイミド共重合体」は、本件発明1の「ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を有し、フッ素原子を含」む「ポリアミドイミド樹脂A」に相当する。
甲1フィルム発明の「2,2’-ビストリフルオロメチル-4,4’-ビフェニルジアミン(TFDB)」は、本件発明1の「2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン」に相当し、甲1フィルム発明は、TFDB以外のジアミンを原料として用いていないことから、本件発明1の「前記ポリアミドイミド樹脂Aおよびポリアミドイミド樹脂Bは、それぞれ、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含み」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を少なくとも有し、フッ素原子を含」む、「ポリアミドイミド樹脂Aを含むフィルムであって、
ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を有し、フッ素原子を含」む、「ポリアミドイミド樹脂B、および、溶剤を少なくとも含む樹脂組成物から形成されてなり、
前記ポリアミドイミド樹脂Aおよびポリアミドイミド樹脂Bは、それぞれ、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含」
む「フィルム。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1>
本件発明1は、ポリアミドイミド樹脂Aに関して、「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有」し、「前記イミド化率が、それぞれ、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、βは、ポリアミドイミド樹脂Aまたはポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000016.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環は、イミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である]から求められる」のに対し、甲1フィルム発明は、そのような特定がない点。
<相違点2>
本件発明1は、ポリアミドイミド樹脂Bに関して、「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有」し、「前記イミド化率が、それぞれ、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、βは、ポリアミドイミド樹脂Aまたはポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000017.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環は、イミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である]から求められる」のに対し、甲1フィルム発明は、そのような特定がない点。
上記相違点1について検討する。
甲1には、ポリアミドイミド共重合体について「2次元NMRにより測定」してイミド化率を求めることについての記載はなく、甲1フィルム発明を構成する「ポリアミドイミド共重合体」が「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有」することを示す具体的な証拠もない。
そして、乙4には、甲1フィルム発明において、ポリアミドイミドフィルムを構成するポリアミドイミド樹脂のイミド化率は「92%」であったことが記載され、本件明細書の【0142】に記載されている表面硬度の測定方法により測定した表面硬度が「4B」であることが確認されたことが記載されていることから、甲1フィルム発明を構成する「ポリアミドイミド共重合体」が「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有」する蓋然性が高いともいえない。
そうすると、相違点1は、実質的な相違点である。
また、甲1の【0008】には、「本発明によれば、高い硬度と優れた光学的物性とを有するプラスチック基材の表示装置用ウィンドウフィルムが提供される。」ことが記載され、同【0016】には、「ウィンドウフィルムが高い硬度および優れた光学的物性を有するのかどうかを判断する基準として、表面鉛筆硬度と黄色度に対する評価とを考慮することができる。」ことが記載され、同【0056】には、「化学的イミド化および熱的イミド化を併用するためには、ポリアミド-アミド酸共重合体を化学的イミド化させ、得られた部分イミド化生成物を熱処理して、所望のイミド化度を有するポリアミドイミド共重合体を得ることができる。」ことが記載されているが、甲1には、フィルムの表面鉛筆硬度を高めるために、フィルムを構成するポリアミドイミド共重合体のイミド化率を「2次元NMRにより測定して95%以上」とすることについては記載されていない。
そうすると、甲1には、甲1フィルム発明において、表面鉛筆硬度をさらに高めるために相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、甲2ないし甲10にもそのような記載はない。
したがって、甲1フィルム発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件発明1の奏する「高いイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂を含み、画像表示装置等における前面板等として好ましく使用される、高い表面硬度を有するフィルムが得られる。」(本件明細書の【0012】)という効果は、甲1フィルム発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1フィルム発明ではないし、甲1フィルム発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、「甲1発明の実施例1~6のポリアミドイミド共重合体を含むフィルムは、本件特許発明の実施例と同様のモノマーを同様の比率で用いてポリアミド-アミド酸共重合体溶液を調製し、当該ポリアミド-アミド酸共重合体溶液を、本件特許発明の実施例と同様の化学的イミド化触媒を用いて、30℃で36時間(2160分)攪拌して十分に化学的イミド化を行ってポリアミドイミド共重合体溶液を製造し、当該ポリアミドイミド共重合体を用いて塗膜形成後に本件特許発明の実施例と同様にフィルムの乾燥および熱的イミド化を行うことにより得られている。・・・化学的イミド化で得られたポリアミドイミド共重合体は、十分に化学的イミド化が行われており、高いイミド化率を有する薔然性が高い。」こと、「甲1発明の実施例1~6のフィルムの表面鉛筆硬度は4,000ルクスの照度条件下で測定されたと記載されていないものの、ASTM D3363に従って、荷重1kg鉛筆速度を60mm/minにして測定された表面鉛筆硬度が4H又は3Hであるから、本件特許発明の荷重100g、走査速度60mm/分にて測定を行い、4,000ルクスと明るい条件下で評価した場合に、3B未満のような低い表面硬度になるとは認められず、十分に高い表面硬度を有していると認められる。」こと、「高い表面硬度を有し、十分に化学的イミド化が行われたポリアミドイミド共重合体を用いて本件特許発明と同様にさらに乾燥および熱的イミド化を行うことにより製造された甲1発明の実施例1~6のポリアミドイミド共重合体を含むフィルムは、フィルムに含まれるポリアミドイミド樹脂が「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有する」蓋然性が極めて高い。」ことを根拠とし、上記相違点1が実質的な相違点ではない旨の主張をしている(26頁1~27行)。
しかしながら、上記アで述べたとおり、乙4の実験成績証明書の結果から、甲1フィルム発明を構成する「ポリアミドイミド共重合体」が「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有」する蓋然性が高いとはいえないことから、当該主張は、上記アの判断に影響するものではない。
したがって、上記主張は採用することができない。
(4)本件発明3ないし6及び13について
本件発明3ないし6及び13は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(3)で検討したとおり、本件発明1は、甲1フィルム発明ではないし、甲1フィルム発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である本件発明3ないし6及び13は、甲1フィルム発明ではないし、甲1フィルム発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)本件発明7について
ア 対比・判断
本件発明7と甲1溶液発明とを対比すると、上記(3)と同様の関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ジアミンに由来する構成単位、ジカルボン酸に由来する構成単位、および、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を少なくとも有し、フッ素原子を含」む、「ポリアミドイミド樹脂B、および、溶剤を少なくとも含み、
前記ポリアミドイミド樹脂Bは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含」
む「樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点3>
本件発明7は、ポリアミドイミド樹脂Bに関して、「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有」し、「前記イミド化率が、それぞれ、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、βは、ポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000018.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環は、イミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である]から求められる」のに対し、甲1溶液発明は、そのような特定がない点。
上記相違点3について検討する。
甲1には、ポリアミドイミド共重合体について「2次元NMRにより測定」してイミド化率を求めることについての記載はなく、甲1溶液発明の成分である「ポリアミドイミド共重合体」が「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有」することを示す具体的な証拠もない。
そして、乙4には、甲1溶液発明において、反応及び精製により得られたポリアミドイミド樹脂のイミド化率は「26%」であったことが記載されていることから、甲1溶液発明の成分である「ポリアミドイミド共重合体」が「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有」する蓋然性が高いともいえない。
そうすると、相違点3は、実質的な相違点である。
また、甲1には、フィルムの表面鉛筆硬度を高めるために、フィルムとする前のポリアミドイミド共重合体のイミド化率を「2次元NMRにより測定して60%以上」とすることについては記載されていない。
そうすると、甲1には、甲1溶液発明において、相違点3に係る本件発明7の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、甲2ないし甲10にもそのような記載はない。
したがって、甲1溶液発明において、相違点3に係る本件発明7の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件発明7の奏する「高いイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂を含み、画像表示装置等における前面板等として好ましく使用される、高い表面硬度を有するフィルムが得られる。」という効果は、甲1溶液発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。
よって、本件発明7は、甲1溶液発明ではないし、甲1溶液発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人は特許異議申立書において、「上記(4-3-1)の相違点2で検討したように、甲1発明のポリアミドイミド共重合体溶液に含まれるポリアミドイミド共重合体は、満たしている蓋然性が極めて高」いこと、すなわち、「甲1発明の実施例1~6のポリアミドイミド共重合体を含むフィルムは、荷重1kg鉛筆速度を60mm/minにして測定された表面鉛筆硬度が4H又は3Hであるから、本件特許発明の荷重100g、走査速度60mm/分にて測定を行い、4,000ルクスと明るい条件下で評価した場合に、3B未満のような低い表面硬度になるとは認められず、十分に高い表面硬度を有していると認められる。この点からしても、甲1発明の実施例1~6において、塗膜を形成する際に用いられる樹脂組成物に含まれるポリアミドイミド樹脂のイミド化率は60%である蓋然性が高い。」こと、及び「十分に化学的イミド化を行ったポリアミドイミド樹脂と溶媒を含む樹脂組成物を用いて形成され、高い表面硬度を有する甲1発明の実施例1~6のポリアミドイミド共重合体を含むフィルムは、フィルムの形成時に用いられるポリアミドイミド樹脂Bが「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有する」蓋然性が極めて高い。」ことを根拠とし、上記相違点3が実質的な相違点ではない旨の主張をするとともに(27頁36行~28頁12行)、令和5年9月14日提出の意見書(以下、「申立人意見書」という。)においても、同様の主張をしている(12頁21~29行)。
しかしながら、上記アで述べたとおり、乙4の実験成績証明書の結果から、甲1溶液発明の成分である「ポリアミドイミド共重合体」が「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有」する蓋然性が高いとはいえないことから、当該主張は、上記アの判断に影響するものではない。
(イ)申立人は申立人意見書において、「仮に計算上、テトラカルボン酸二無水物由来の2モル分のイミド化をするために無水酢酸が0.5モル当量足りず、0.5モル当量分イミド化せずにアミック酸として残ったとしても、アミック酸部分25%、イミド結合部分が75%になる。これに基づき本件特許明細書の段落0139の(NMR-1)の式によるイミド化率を求めても、
イミド化率=100×(1-25/75)=67%
となり、甲1溶液発明は少なくとも60%以上のイミド化率を有する。」(12頁6~12行)と主張している。
しかしながら、当該主張は、式(NMR-1)により求められるイミド化率に基づくものであり、本件発明に係る相関式(NMR-3)から求められるイミド化率に基づくものではないから、甲1溶液発明の「ポリアミドイミド共重合体溶液」の成分である「ポリアミドイミド共重合体」が「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有」することを示す根拠となるものではない。
よって、申立人の上記(ア)及び(イ)の主張はいずれも採用できない。
(6)本件発明9ないし12について
本件発明9ないし12は、請求項7を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明7の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(5)で検討したとおり、本件発明7は、甲1溶液発明ではないし、甲1溶液発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明7の特定事項を全て含む発明である本件発明9ないし12は、甲1溶液発明ではないし、甲1溶液発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(7)取消理由3-1及び申立理由3についてのむすび
上記(1)ないし(6)のとおりであるから、取消理由3-1及び申立理由3はその理由がない。
2 申立理由1(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1には、「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂A」及び「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」と記載され、「イミド化率が、それぞれ、2次元NMRスペクトルに基づき、相関式(NMR-3):
イミド化率(%)=-115.9×β+100 (NMR-3)
〔式中、βは、ポリアミドイミド樹脂Aまたはポリアミドイミド樹脂Bが有する式(3e”):
[図:0001413294000019.jpg]
(式(3e”)中、*は結合手を表し、位置Cを有するベンゼン環は、イミド結合を形成している窒素原子と結合しており、位置D及び位置Eを有するベンゼン環は、アミック酸を形成している窒素原子と結合している)
で示される構成単位中の位置Cのプロトン(C)に由来するシグナルの積分値IntCに対する、位置Dのプロトン(D)および位置Eのプロトン(E)に由来するシグナルの積分値の平均値IntDEの値(IntDE/IntC)である]から求められる」ことも記載されており、ポリアミドイミド樹脂A及びポリアミドイミド樹脂Bの2次元NMRによるイミド化率の測定方法が明確に定義されている。
そして、請求項1には、「ポリアミドイミド樹脂Aおよびポリアミドイミド樹脂Bは、それぞれ、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含」むことが記載され、ポリアミドイミド樹脂A及びポリアミドイミド樹脂Bが、式(3e”)中のプロトン(C)、プロトン(D)及びプロトン(E)を有することは明らかであるから、ポリアミドイミド樹脂A及びポリアミドイミド樹脂Bからβ値を求めることができることも明らかである。
そうすると、ポリアミドイミド樹脂A及びポリアミドイミド樹脂Bからβ値を求めることができ、β値からイミド化率を求める方法も請求項1に明確に定義されているから、請求項1における「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂A」及び「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」は明確である。
また、本件特許の請求項7における「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」についても、上述のとおり、明確である。
さらに、上記で述べた発明特定事項以外の本件特許の請求項1、3ないし7及び9ないし13の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、明細書の記載とも整合する。
よって、本件発明1、3ないし7及び9ないし13に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は申立人意見書において、「訂正後の請求項1において、・・・「前記ポリアミドイミド樹脂Aおよびポリアミドイミド樹脂Bは、それぞれ、 2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含み」と限定されただけであって、広範なポリアミドイミド樹脂AおよびBを包含していることにより、依然として、第三者の不利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。訂正後の請求項7においても前記と同様にイミド化率が特定され、「前記ポリアミドイミド樹脂Bは、それぞれ、 2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する構成単位を、前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて50モル%以上含み」と限定されただけであって、広範なポリアミドイミド樹脂Bを包含していることにより、依然として、第三者の不利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。」(2頁12行~3頁11行)と主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、上記限定されたポリアミドイミド樹脂A及びポリアミドイミド樹脂Bの範囲であっても、請求項1における「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂A」及び「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」は明確であるから、当該主張はその理由がない。
イ 申立人は申立人意見書において、「相関式(NMR-3)の傾き「-115.9」が変われば、得られるイミド化率の値は変化する。特に、臨界的意義を有するイミド化率60%程度の場合は、相対的に大きいβとなるから、相関式の傾き「-115.9」の変動の影響を大きく受ける。
上記のように多種のポリイミド樹脂においてイミド化率を大きく変化させても「-115.9×β+100」という相関式に当てはまるか検証されていない相関式(NMR-3)を用いて、広範なポリアミドイミド樹脂に適用すると、本来訂正後の請求項1及び7の範囲外とされるべきポリアミドイミド樹脂が、訂正後の請求項1及び7の範囲内に包含され得ることになる。例えば、テトラカルボン酸二無水物が6FDAとは構造が異なるポリアミドイミド樹脂について、2次元NMRのHSQCを測定してβを算出し、「-115.9×β+100」という相関式に代入してイミド化率が60%と算出されたとしても、真のイミド化率は60%未満であるポリアミドイミド樹脂が包含され得ることになる。このように、本件訂正発明と同様の作用効果を有しないポリアミドイミド樹脂や2次元NMRが測定されていないだけの従来のポリアミドイミド樹脂など、本来訂正後の請求項1及び7の範囲外とされるべきポリアミドイミド樹脂が、訂正後の請求項1及び7の範囲内に包含され得ることになる。」(5頁13行~6頁2行)と主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、「2次元NMRにより測定して95%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂A」及び「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」におけるイミド化率は、相関式(NMR-3)から求められたものである点で明確である。
したがって、相関式(NMR-3)から求められたイミド化率の範囲が、本件訂正発明と同様の作用効果を有しないポリアミドイミド樹脂や2次元NMRが測定されていないだけの従来のポリアミドイミド樹脂など、本来訂正後の請求項1及び7の範囲外とされるべきポリアミドイミド樹脂が包含されるかどうかが、上記(2)の判断に影響するものではない。
ウ 申立人は申立人意見書において、「訂正後の請求項1及び7においては、TFMBに由来する構成単位のイミド化率しか算出しておらず、TFMBとは異なるジアミンに由来する構成単位のイミド化率を求めないことが明らかにされた。・・・しかしながら、TFMBとは異なるジアミンに由来する構成単位を50モル%含む場合にイミド化率が算出されても、ジアミンに由来する構成単位全体に対してはイミド化率の半分が求められているに過ぎない。よって、TFMBとは異なるジアミンに由来する構成単位を50モル%含むポリアミドイミド樹脂Bの場合に、βと前記相関式からイミド化率が60%と算出されたとき、訂正後の請求項1及び7の範囲内に包含されることになる。しかしながら、当該ポリアミドイミド樹脂の全体のイミド化率は60%×1/2の少なくとも30%は存在することが求められただけで、当該ポリアミドイミド樹脂の全体のイミド化率が60%以上であるとは限らない。このようにTFMBとは異なるジアミンに由来する構成単位を含む場合には、「-115.9×β+100」という相関式からイミド化率が算出されるとしても、ジアミンに由来する構成単位全体のイミド化率が求められているわけではなく、イミド化率の技術的意味は、TFMB由来する構成単位をジアミンに由来する構成単位全体に基づいて100モル%である場合とは異なる。訂正後の請求項1及び7において、「-115.9×β+100」という相関式からイミド化率が算出されるとしても、そのイミド化率の技術的意味は一義的ではなく外縁が不明確であるから、訂正後の請求項1及び7の技術的範囲が不明確になる。」(6頁3行~7頁4行)と主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、TFMBとは異なるジアミンに由来する構成単位を50モル%含むポリアミドイミド樹脂Bの場合であっても、β値を求めることができ、β値からイミド化率を求める方法も請求項1に明確に定義されているから、請求項1における「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」は明確である。
なお、上記場合、ジカルボン酸とテトラカルボン酸二無水物を反応させてポリアミドイミド樹脂を得る際に、TFMBとは異なるジアミンのイミド化反応は、TFMBのイミド化反応と同様に進行していると通常は考えられ、TFMB由来する構成単位に基づくイミド化率と、TFMBとは異なるジアミンに由来する構成単位に基づくイミド化率とは差異はないと解するのが相当である。また、申立人により、モノマーの違いによりイミド化率に差異が生じることを示す具体的な証拠もない。
そうすると、「イミド化率の技術的意味は、TFMB由来する構成単位をジアミンに由来する構成単位全体に基づいて100モル%である場合とは異なる。」とは直ちにいうことはできない。
よって、当該主張はその理由がない。
エ 申立人は申立人意見書において、「TFMBにジカルボン酸に由来する構成単位が結合した部分構造は、例えば下記式(100)のような部分構造になり、下記式(10’)で示されるアミック酸結合に隣接するTFMB由来のベンゼン環から3原子以内は同じ原子となる。従って、特許権者の上記説明によれば、TFMBにジカルボン酸に由来する構成単位が結合した部分構造は、アミック酸結合の場合と同じになることになる。・・・
しかしながら、TFMBにアミック酸が結合した式(10’)におけるTFMB由来のベンゼン環上のプロトン(D)および(E)と、TFMBにジカルボン酸が結合した式(100)におけるTFMB由来のベンゼン環上のプロトン(D)および(E)とは区別できるという前提で、本件特許発明の技術的意義を主張しているのであろうから、上記特許権者の説明には矛盾があり、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位の構造上の違いによる影響(該部分構造による置換基効果)やジカルボン酸に由来する構成単位の影響(ジカルボン酸に由来する構成単位による置換基効果)はあるはずである。従って、6FDA以外のテトラカルボン酸二無水物がどのような構造を有していてもよい訳ではなく、TFMBにアミック酸が結合した式(10’)におけるTFMB由来のベンゼン環上のプロトン(D)および(E)と、TFMBにジカルボン酸が結合した式(100)おけるTFMB由来のベンゼン環上のプロトン(D)および(E)とをどのように区別しているのかも、疑問が生じる。」(8頁7行~9頁9行)と主張している。
しかしながら、式(100)におけるプロトン(D)および(E)と式(10’)におけるプロトン(D)および(E)とが区別できるかどうかにかかわらず、上記(2)で述べたとおり、6FDA以外のテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位であるポリアミドイミド樹脂の場合であっても、β値を求めることができ、β値からイミド化率を求める方法も請求項1に明確に定義されており、請求項1における「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」は明確であるから、当該主張は上記(2)の判断に影響しない。
(4)申立理由1についてのむすび
上記(1)ないし(3)のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。
3 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件発明1、3ないし7、9ないし11及び13は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。また、本件発明12は物を生産する方法であるところ、物を生産する方法の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1、3ないし7、9ないし11及び13の物について、ポリアミドイミド樹脂A及びポリアミドイミド樹脂Bの構成単位が具体的に記載され(【0023】ないし【0068】、【0093】ないし【0101】)、2次元NMRにより測定されるイミド化率について記載され(【0015】、【0085】ないし【0090】)、当該イミド化率の測定方法が具体的に記載され(【0136】ないし【0139】)、ポリアミドイミド樹脂A及びポリアミドイミド樹脂Bの製造方法が具体的に記載されている(【0103】ないし【0114】)。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明12の物を生産する方法について、フィルムの製造方法が具体的に記載されている(【0115】ないし【0130】)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例である実施例1ないし11についても、その製造方法を含め具体的に記載されている(【0133】ないし【0167】)。
したがって、本件発明1、3ないし7、9ないし11及び13について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえるし、本件発明12について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があるといえる。
よって、本件発明1、3ないし7及び9ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は申立人意見書において、「TFMB:6FDA:BPDA(3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物):TPC(テレフタロイルクロリド)=50:20:10:20(モル比)であるポリアミドイミド樹脂とは異なる、広範な範囲のポリアミドイミド樹脂Bを含む場合において、相関式(NMR-3)から求められるイミド化率が60%以上のポリアミドイミド樹脂Bは得られたとしても、真に課題を解決できるポリアミドイミド樹脂Bをどのように製造すれば良いのかを当業者が理解することができず、訂正後の請求項1と7及びその従属項に係る発明は、発明の詳細な説明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」(11頁2~10行)と主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、当業者であれば、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、相関式(NMR-3)から求められるイミド化率が60%以上のポリアミドイミド樹脂Bが得られるものと理解できる。
そして、上記主張における「真に課題を解決できるポリアミドイミド樹脂B」についての実施可能要件は、本件の実施可能要件と何ら関係しない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのむすび
上記(1)ないし(3)のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。
4 申立人意見書における申立人の主張について
申立人は、申立人意見書において、「訂正後の請求項1と7における特定の方法から求められるイミド化率は、ポリアミドイミド樹脂のイミド化率ではなく、特定の構造に対するイミド化率に変化したことが明らかにされた。訂正後の請求項1と7における特定の方法から求められるイミド化率が算出されたとしても、訂正後の請求項1と7におけるポリアミドイミド樹脂Bの実際のイミド化率に一致するとは限らない。TFMBとは異なるジアミンを含むポリアミドイミド樹脂の場合には、特定の方法から求められるイミド化率によって高いイミド化率が算出されたとしても、「高いイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂を含む」という課題を解決できるとは限らないことが明らかにされた。
また、前述のように、多種のポリイミド樹脂においてイミド化率を大きく変化させても「-115.9×β+100」という相関式に当てはまるか検証されていない相関式(NMR-3)を用いて、広範なポリアミドイミド樹脂に適用すると、本来訂正後の請求項1と7の範囲外とされるべきポリアミドイミド樹脂が、訂正後の請求項1と7の範囲内に包含され得ることになる。
さらに、訂正後の請求項1と7における相関式(NMR-3)から求められるイミド化率が60%以上のポリアミドイミド樹脂Bおよび溶剤を少なくとも含む樹脂組成物から形成されてなる、相関式(NMR-3)から求められるイミド化率が95%以上のポリアミドイミド樹脂Aを含むフィルムによって、訂正発明の課題を解決できると認識できるのは、結局、ポリアミドイミド樹脂Bのイミド化率が60%であっても訂正発明の課題を解決できることを示している、本件特許明細書の実施例1及び2に用いられた、TFMBに由来する構成単位を前記ジアミンに由来する構成単位全体に基づいて100モル%含み、TFMB:6FDA:BPDA(3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物):TPC(テレフタロイルクロリド)=50:20:10:20(モル比)である、ポリアミドイミド樹脂だけである。当該ポリアミドイミド樹脂とは異なるジカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン又は異なる割合を用いる本件特許明細書の実施例3~11のポリアミドイミド樹脂Bの相関式(NMR-3)から求められるイミド化率はいずれも96%以上である。相関式(NMR-3)から求められるイミド化率が60%以上のポリアミドイミド樹脂Bを含む訂正後の請求項1と7は、TFMB:6FDA:BPDA(3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物):TPC(テレフタロイルクロリド)=50:20:10:20(モル比)であるポリアミドイミド樹脂とは異なる、広範な範囲のポリアミドイミド樹脂Bを含む訂正後の請求項1と7の全てに及ぶまで、上記課題を解決できるとは認められず、発明の詳細な説明に記載された事項を訂正後の請求項1と7の範囲に及ぶまで、拡張乃至一般化できない。」(9頁13行~10頁27行)と述べ、本件訂正に付随して生じる理由として、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する旨の主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の【0009】によると、本件発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「特にフレキシブルディスプレイ等の前面板として好適に使用される、高いイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂を含む、高い表面硬度を有するフィルムを提供すること」であるところ、本件特許の発明の詳細な説明の【0133】ないし【0167】には、「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂」を含む樹脂組成物から形成される実施例1ないし11のフィルムの鉛筆硬度がいずれも「3B以上」であるのに対し、「2次元NMRにより測定して60%未満のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂」を含む樹脂組成物から形成される比較例1,2,5ないし8のフィルムの鉛筆硬度がいずれも「6B未満」であり、本件発明のフィルムが、本件発明の範囲外のフィルムと比べて表面硬度の指標である鉛筆硬度が優れていることを確認する記載があり、当業者は、「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」を含む樹脂組成物から形成することにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そうすると、「2次元NMRにより測定して60%以上のイミド化率を有するポリアミドイミド樹脂B」との特定事項を備える本件発明1、3ないし7及び9ないし13は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件発明1、3ないし7及び9ないし13に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
よって、上記主張は当該判断に影響するものではなく、申立人の上記主張はその理由がない。
第7 結語
上記第6のとおり、本件特許の請求項1、3ないし7及び9ないし13に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3ないし7及び9ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項2及び8に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項2及び8に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700170