特許異議申立
2021-700984
光学積層体及び表示装置
- 審判番号
- 2021-700984
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-136370
- 登録番号
- 6857771
- 請求日
- 2021年10月13日
- 審決日
- 2022年10月21日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】松谷 道子
- 【権利者代理人】西下 正石
- 【異議申立人】石川 照子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6857771号発明「光学積層体及び表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6857771号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第6857771号の請求項1、2、5ないし8に係る特許を維持する。
特許第6857771号の請求項3及び4に係る特許に対する特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6857771号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、令和2年8月12日(優先権主張 令和1年10月28日)の出願であって、令和3年3月24日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年4月14日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和3年10月13日に特許異議申立人 石川照子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和4年1月20日付けで取消理由が通知され、同年3月25日に特許権者 住友化学株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がされるとともに意見書の提出がされ、同年4月1日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年同月28日に特許異議申立人より意見書の提出がされ、同年7月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年9月27日に特許権者より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書の提出がされたものである。
なお、令和4年3月25日にされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、令和4年9月27日にされた訂正請求に対しては、すでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、本件訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、後に検討するとおり、本件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めても、特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、特許法第120条の5第5項だたし書規定の特別の事情があるときに該当し、特許異議申立人に再度の意見書を提出する機会を与えないものとする。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「と少なくとも一つの粘着剤層と耐衝撃層とを有する」とあるのを、「、該前面板の内部方向に、第1粘着剤層、耐衝撃層、及び第2粘着剤層を、この順に備え」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び5ないし8も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「5~140」とあるのを「35~105」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び5ないし8も同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「引張弾性率を」の後に
「有し、
第1粘着剤層が(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物からなり、
第1粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、
第2粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、
第2粘着剤層が25℃で0.01~0.80MPaの貯蔵弾性率を有し、
第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層とが、88~190μmの合計厚さを」を挿入する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び5ないし8も同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に「1~4のいずれか一項」とあるのを、「1又は2」に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし8も同様に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に「3又は4」とあるのを、「1又は2」に訂正する。
請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に「1~6」とあるのを、「1、2、5及び6」に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に「1~7」とあるのを、「1、2及び5~7」に訂正する。
(10) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし8について、請求項2ないし8はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1ないし3について
訂正事項1ないし3に係る請求項1の訂正は、光学積層体の積層構造を特定するとともに、耐衝撃層の厚さの範囲を減縮し、第1粘着剤層を構成する組成物及び厚さ、第2粘着剤層の厚さ及び貯蔵弾性率を特定するとともに、第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層の厚みを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし3に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1、3及び4、願書に添付した明細書の段落【0098】、【0106】、【0107】及び【0116】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3及び5ないし8についても同様である。
(2) 訂正事項4及び5について
訂正事項4に係る請求項3の訂正、訂正事項5に係る請求項4の訂正は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、当該訂正が、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
(3) 訂正事項6、8及び9について
訂正事項6、8及び9に係る請求項5、7及び8の訂正はいずれも、請求項3及び4が削除されたことに伴い、引用先の請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、当該訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項5又は7を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様である。
(4) 訂正事項7について
訂正事項7に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項6が引用していた請求項3又は4に関し、請求項3及び4に記載された発明特定事項が請求項1の発明特定事項として組み込まれた上で、請求項3及び4が削除されたことに伴い、引用先の請求項を請求項1又は2に変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7及び8についても同様である。
(5) まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。また、本件特許発明1ないし本件特許発明8を総称して、「本件特許発明」という場合がある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
前面板、該前面板の内部方向に、第1粘着剤層、耐衝撃層、及び第2粘着剤層を、この順に備える光学積層体であって、
該耐衝撃層が35~105μmの厚さを有し、
該耐衝撃層が0.1~10GPaの引張弾性率を有し、
第1粘着剤層が(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物からなり、
第1粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、
第2粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、
第2粘着剤層が25℃で0.01~0.80MPaの貯蔵弾性率を有し、
第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層とが、88~190μmの合計厚さを有する、
光学積層体。
【請求項2】
100~500μmの厚さを有する、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記耐衝撃層の材料が、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項6】
前記第1粘着剤層と第2粘着剤層とが、15/85~85/15の厚さ比rを有する、請求項1又は2に記載の光学積層体。
【請求項7】
温度25℃、屈曲速度30rpm及び屈曲半径1.00mmの条件下で前面板を内側にして180°曲げ伸ばしを行う連続屈曲性試験において、15万回以上の耐屈曲回数を示す、請求項1、2、5及び6のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項8】
請求項1、2及び5~7のいずれか一項に記載の光学積層体と、光学積層体の内部方向に表示ユニットとを備える、表示装置。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし8に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
申立理由1-1(新規性) 本件特許の請求項1、2、5、7及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-2(新規性) 本件特許の請求項1ないし3、5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-3(新規性) 本件特許の請求項1、3、5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-4(新規性) 本件特許の請求項1、2、5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-5(新規性) 本件特許の請求項1、5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-6(新規性) 本件特許の請求項1ないし4、6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-7(新規性) 本件特許の請求項1ないし4及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-8(新規性) 本件特許の請求項1、2、5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第8号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-9(新規性) 本件特許の請求項1、2及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1-10(新規性) 本件特許の請求項1ないし4及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-3(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-5(進歩性) 本件特許の請求項1、5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-6(進歩性) 本件特許の請求項1ないし6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-7(進歩性) 本件特許の請求項1ないし5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-8(進歩性) 本件特許の請求項1ないし5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-9(進歩性) 本件特許の請求項1、2、5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-10(進歩性) 本件特許の請求項1ないし5及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2-11(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第11号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし8についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由3は、概略次のとおりである。
一般に板乃至フィルムは、ガラスや樹脂等、その材料の化学構造やその他物性によって耐屈曲性や耐衝撃性は異なるものであるし、その厚さによっても耐屈曲性や耐衝撃性は異なるものと考えられる。
耐屈曲性及び耐衝撃性に優れた光学積層体とするためには、前面板の材料、物性、及び厚さ等、粘着剤層の材料、物性、及び厚さ等、並びに、耐衝撃層の材料、物性、及び厚さ等、その他にさらに含んでいてもよい層の材料、物性及び厚さ等が影響を与えると考えられる。
したがって、具体的な評価結果が示された、1種類の前面板と、4種類の耐衝撃層と、3種類の粘着剤層の組み合わせによる8個の光学積層体以外の請求項1に規定された広範囲の光学積層体が、優れた耐屈曲性及び耐衝撃性を有するものとは認められない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
また、請求項2-8に係る発明も、上記と同様の理由により、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
以上より、請求項1-8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
<証拠方法>
・甲第1号証:特開2019-14255号公報
・甲第2号証:特開2018-45213号公報
・甲第3号証:特開2019-108499号公報
・甲第4号証:特開2019-25899号公報
・甲第5号証:特開2015-93401号公報
・甲第6号証:特開2018-120120号公報
・甲第7号証:特開2017-204003号公報
・甲第8号証:国際公開第2018/105352号
・甲第9号証:国際公開第2014/171503号
・甲第10号証:特開2011-30363号公報
・甲第11号証:特開2019-65287号公報
・甲第12号証:特開2012-53288号公報
・甲第13号証:国際公開第2019/022208号
・甲第14号証:国際公開第2019/171989号
・甲第15号証:特許第6530125号公報
証拠の表記は、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。
また、特許異議申立人は、令和4年4月28日提出の意見書に添付して、次の参考資料1ないし5を提出している。
・参考資料1:3MTM Optically Clear Adhesives 8171・8172 Technical Data:2008年7月、(https://multimedia.3m.com/mws/media/486145O/3mtm-optically-clear-laminating-adhesines-8171-8172.pdf)
・参考資料2:3MTM Optically Clear Adhesives 8211・8212・8213・8214・8215 Technical Data:2010年1月、(https://multimedia.3m.com/mws/media/530755O/3mtm-optically-clear-laminating-adhesines-8211-8212-8213-8214-8215.pdf?&fn=03470.pdf)
・参考資料3:3MTM Optically Clear Adhesives 8142KCL Technical Data:2010年10月、(https://multimedia.3m.com/mws/media/703394O/3mtm-optically-clear-laminating-adhesines-8142kcl.pdf)
・参考資料4:3MTM Optically Clear Adhesives 8146-2 Technical Data:2011年12月、(https://www.tekra.com/sites/default/files/tt/8146-2%20TDS.pdf)
・参考資料5:3MTM Contrast Enhancement Film CEF28XX(8148-X)Series Technical Data:2016年、(https://multimedia.3m.com/mws/media/1232926O/3m-contrast-enhancement-film-cef28xx-8148-x-series-data-sheet.pdf)
第5 令和4年7月25日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
請求項1、2及び5ないし8に係る特許に対して、当審が令和4年7月25日付け特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。(なお、特許異議申立理由のうち、申立理由2-1の請求項1、2及び5ないし8に対する部分、申立理由3の請求項1、2、5、6及び8に対する部分は取消理由(決定の予告)に包含される。)
1 取消理由2-1(進歩性) 本件特許の請求項1、2及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1、2、5、6及び8についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、取消理由3の具体的理由は次のとおりである。
本件特許発明1は、「耐屈曲性、耐衝撃性に優れた光学積層体を提供すること」(【0006】)を課題とするものである。
そして、本件特許発明1は、
「前面板、前面板の内部方向に、第1粘着剤層、耐衝撃層、及び第2粘着剤層を、この順に備える光学積層体であって、
該耐衝撃層が35~105μmの厚さを有し、
該耐衝撃層が0.1~10GPaの引張弾性率を有し、
第1粘着剤層が(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物からなり、
第1粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、
第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層とが、88~190μmの合計厚さを有する、
光学積層体」
と、光学積層体において、「耐衝撃層」の厚みと引張弾性率、「第1粘着剤層」の厚みと材質、第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層の合計厚さが特定されている。
しかしながら、「光学積層体」の耐屈曲性や耐衝撃性は、光学積層体を構成する各層の材質や厚さ、物性等の影響を大きく受けるものであると考えられるところ、実施例1ないし6で具体的に検討されているのは、製造例2で製造したポリアミドイミドを前面板とし、耐衝撃層としてPIあるいはPET、粘着剤層として特定性状の(メタ)アクリル系透明粘着シートを用いた例のみであり、それらにおいて、効果の発現を確認しているにすぎない。
そして、例えば、前面板の素材が異なると耐屈曲性を有しないものとなることは技術常識上明らか(例えば、前面板に「ガラス」を用いた場合には、「耐屈曲性」に大きな影響があることは明らか)である。
してみると、前面板の材質や物性、さらには、各層の材質や厚み、物性等が必ずしも明らかではなく、また、光学積層体全体の耐屈曲性及び耐衝撃性の点からの特定もない本件特許発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるといわざるを得ない。
なお、特許権者は、令和4年3月25日に提出した意見書において、耐衝撃層に着目した主張をしているが、本件特許発明1の課題は、「耐屈曲性、耐衝撃性に優れた光学積層体を提供すること」であり、上記のように判断されるから、その主張は採用できない。
また、請求項1の記載を引用するものである本件特許発明2、5、6及び8においても、同様である。
したがって、本件特許の請求項1、2、5、6及び8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許の請求項1、2、5、6及び8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
1 令和4年7月25日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての判断
以下に述べるように、令和4年7月25日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由は、いずれもその理由がないものと判断する。
(1) 取消理由2-1(甲第1号証を主引例とする進歩性の理由)について
ア 甲第1号証の記載事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「積層フィルム、および積層フィルムを含む表示装置」に関し、次の記載がある。(なお、下線は合議体が付したものである。)
「【0001】
積層フィルム、および積層フィルムを含む表示装置に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のプラスチックフィルムは、表示装置の保護ウィンドウでの使用のために求められる機械的物性、例えば、硬度、および光学的物性をより改善する必要があり、同時にフレキシブル表示装置に利用するための優れた屈曲特性も充足しなければならない。
【0005】
よって、本発明の目的は、機械的物性、光学的特性、および屈曲特性をすべて充足する積層フィルムを提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、機械的物性、光学的特性、および屈曲特性がすべて改善された積層フィルムを含む表示装置を提供することにある。」
「【0075】
次に、図8を参照して第3実施態様による積層フィルム30を説明する。
【0076】
図8は、第3実施態様による積層フィルム30の断面を概略的に示した図面である。図8に示したように、図8の積層フィルム30は、図示していない表示装置の表示パネルの前面に配置される第1フィルム100と、第1フィルム100上部に配置される第2フィルム200、および第1フィルム100下部に配置された背面コーティング層400を含む。つまり、図8の積層フィルム30は、図6の積層フィルム10に比べて第1フィルム100下部に背面コーティング層400をさらに含むことにおいて構成上の差がある。
【0077】
背面コーティング層400は、光学的に無色、透明であるか、または無色、透明な媒質に染料を添加して積層フィルムの色座標を制御することができる。背面コーティング層400は、接着剤層または超弾性層とよく接着することができ、屈曲特性を維持することができるものであれば如何なる材料を含んでもよい。例えば、背面コーティング層400は、ハードコーティング層300と同一の素材を含んでもよく、従来の表示装置用ウィンドウのハードコーティング層として用いられた素材を制限なしに用いてもよい。例えば、背面コーティング層400は、(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリカプロラクトン、ウレタン-アクリレートコポリマー、ポリロタキサン、エポキシ樹脂、シロキサン共重合体、パーフルオロポリエーテル、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0078】
背面コーティング層400の厚さは、30nm~300nm、例えば、40nm~200nm、例えば、50nm~180nm、例えば、60nm~150nm、例えば、70nm~130nm、例えば、80nm~120nm、例えば、90nm~120nmの範囲で形成されてもよく、ハードコーティング層300に比べて比較的に薄く形成されてもよい。」
「【実施例】
【0161】
以下、実施例および比較例により、上記実施形態についてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例および比較例は、単に本発明を例示によって説明するためのものであり、本発明の範囲はこれによって制限されない。
【0162】
合成例1:アミド基含有オリゴマーの用意
丸底フラスコに、溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide)700gを投入した。この丸底フラスコに2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(2,2’-bis(trifluoromethyl)benzidine、TFDB)1モル当量(0.122モル、39.2g)とピリジン2.8モル当量(0.343モル、27.11g)を入れて溶解した後、残っているTFDBを50mlのジメチルアセトアミド(dimethylaceamide、DMAc)で洗浄し、投入、溶解して、TFDB溶液を調製した。テレフタロイルクロライド(terephthaloyl chloride、TPCL)0.7モル当量(0.086モル、17.4g)を、4回に分けて、25℃の上記TFDB溶液に混合し、15分間激しく攪拌した(これによりアミドオリゴマー溶液を得た)。
【0163】
次いで、上記で得られた溶液を窒素雰囲気で2時間攪拌した後、350gのNaClを含む7LのNaCl溶液に入れて10分間攪拌した。次いで、固形物を濾過し、5Lの脱イオン水に2回にわたって再懸濁および再濾過した。次いで、最終濾過物を適切に加圧して残存する水を最大限除去し、90℃および真空雰囲気で48時間乾燥して下記化学式Aで表されるアミド基含有オリゴマーを得た。得られたアミド基含有オリゴマーの数平均分子量は、約997であった。
【0164】
【化17】
[図:0001393070000001.jpg]
【0165】
前記化学式Aで、n0は0以上の整数である。
【0166】
製造例1:ポリ(アミド-イミド)コポリマー(共重合体)を含む溶液の製造
30℃に予備加熱された機械的攪拌機および窒素流入口を備えた250mlの4ネック二重壁反応器に合成例1で得られたアミド基含有オリゴマー21.7g(0.0152モル)およびジメチルアセトアミド(DMAc)143mlを添加して溶液を用意した。次いで、前記アミド基含有オリゴマーが完全に溶けるときまで前記溶液を30℃および窒素雰囲気下で攪拌した後、ここに4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(4,4’-(hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、6FDA)3.73g(0.0084モル)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’-biphenyltetracarboxylic dianhydride、BPDA)2.00g(0.0068モル)を徐々に添加した。次いで、ここに10mlのジメチルアセトアミド(DMAc)をさらに添加した後、この溶液を48時間攪拌して固形分濃度が16wt%であるポリ(アミド-アミック酸)コポリマー(共重合体)溶液を得た。次いで、温度を25℃に下げた後、前記ポリ(アミド-アミック酸)コポリマー(共重合体)溶液に、無水醋酸4.6gを投入して30分攪拌した後、ピリジン3.6gを投入して48時間さらに攪拌して、ポリ(アミド-イミド)コポリマー(共重合体)を含む溶液を得た。
【0167】
製造例2:ポリ(アミド-イミド)コポリマー(共重合体)を含む溶液の製造
30℃に予備加熱された機械的攪拌機および窒素流入口を備えた250mlの4ネック二重壁反応器に合成例1で得られたアミド基含有オリゴマー8.341gおよびジメチルアセトアミド(DMAc)143mlを添加して溶液を用意した。次いで、前記アミド基含有オリゴマーが完全に溶けるときまで前記溶液を30℃および窒素雰囲気下で攪拌した後、ここに、6FDA 12.05g、BPDA 1.332gおよびTFDB 8.273gを徐々に添加した。次いで、ここに10mlのジメチルアセトアミド(DMAc)をさらに添加した後、この溶液を48時間攪拌して固形分濃度が18.5wt%であるポリ(アミド-アミック酸)コポリマー(共重合体)溶液を得た。次いで、温度を25℃に下げた後、前記ポリ(アミド-アミック酸)コポリマー(共重合体)溶液に無水醋酸9.7gを投入して30分攪拌した後、ピリジン2.5gを投入して48時間さらに攪拌して、ポリ(アミド-イミド)コポリマー(共重合体)を含む溶液を得た。
【0168】
製造例3:ポリ(アミド-イミド)コポリマー(共重合体)を含む溶液の製造
30℃に予備加熱された機械的攪拌機および窒素流入口を備えた250mlの4ネック二重壁反応器に合成例1で得られたアミド基含有オリゴマー19.07gおよびジメチルアセトアミド(DMAc)110mlを添加して溶液を用意した。次いで、前記アミド基含有オリゴマーが完全に溶けるときまで前記溶液を30℃および窒素雰囲気下で攪拌した後、ここに、6FDA 6.936g、BPDA 1.531g、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエテール(2,2’-Bis(trifluoromethyl)-4,4’-diaminodiphenyl ether、6FODA)1.75gおよびTFDB 0.713gを徐々に添加した。次いで、ここに10mlのジメチルアセトアミド(DMAc)をさらに添加した後、この溶液を48時間攪拌して固形分濃度が19wt%であるポリ(アミド-アミック酸)コポリマー(共重合体)溶液を得た。次いで、温度を25℃に下げた後、前記ポリ(アミド-アミック酸)コポリマー(共重合体)溶液に、無水醋酸6.38gを投入して30分攪拌した後、ピリジン2.5gを投入して48時間さらに攪拌して、ポリ(アミド-イミド)コポリマー(共重合体)を含む溶液を得た。
【0169】
実施例1~2、および比較例1~9:ウィンドウフィルムの製造
製造例1~3で製造したポリ(アミド-イミド)コポリマーを含む溶液からフィルムを製造し、これらをそれぞれ単独で含むか、または前記製造されたフィルムを2以上組み合わせて、実施例1~2、および比較例1~9による積層フィルムを製作した。
【0170】
具体的に、基本的なフィルムの製造方法は、各製造例で製造されたポリ(アミド-イミド)コポリマーを含む溶液をポリイミドフィルム支持体またはガラス基板支持体上にキャスティングし、乾燥させて熱処理することによって製造するものである。この時、比較例1~5によるウィンドウフィルムは、製造例1~3で製造されたポリ(アミド-イミド)コポリマーを含む溶液をそれぞれ単独で用い、下記表1に示したような厚さの単一フィルムで製造した。この際に、比較例1および比較例3のように、厚さ80μmのフィルムはポリイミドフィルム支持体を用いて製造し、比較例2、4、および5のように、厚さ36μmのフィルムはガラス基板支持体を用いてフィルムを製造した。支持体の種類によって製造される積層フィルムの物性の差はないものとみられる。
【0171】
反面、実施例1~2、および比較例6~9によるウィンドウフィルムは、製造例1~3で製造したポリ(アミド-イミド)コポリマーを含む溶液をそれぞれ用いてフィルムを製造したが、ただし、前記のように製造されたフィルムを2枚ずつ組み合わせて第1フィルムおよび第2フィルムとして積層することによって作製した積層フィルムである。このとき、第1フィルムと第2フィルムの間に接着剤層として厚さ50μmのPSA接着剤層(PSA接着剤フィルム;3M社のOCA)を介在して製造した。前記第1フィルムと第2フィルムの厚さはそれぞれ36μmにした。これらの36μmの厚さを有するフィルムはガラス基板支持体を用いてフィルムを製造した。実施例1~2、および比較例6~9により製造された積層フィルムの第1層(第1フィルム)および第2層(第2フィルム)を形成するポリ(アミド-イミド)コポリマーの種類を下記表2に記載する。ここで、第1フィルムは、本明細書中に定義したとおり、表示装置の表示パネル前面に配置されるフィルムであり、第2フィルムは、前記第1フィルムの上に配置されるフィルムを意味する。
【0172】
また、前記製作された積層フィルムの厚さ、光特性、機械的物性、および屈曲性を下記表1と表2に共に記載する。ここで、光特性としては透過率および黄色指数(YI)を測定し、機械的物性として鉛筆硬度、引張弾性率(tensile modulus)、および圧入硬度を測定し、屈曲性は屈曲半径を1mmにして20万回折りたたんだり伸ばしたりすることを反復して、以下に示す判定基準に従って、その良否(通過有無)を確認した。前記各物性の具体的な測定方法および屈曲性の判定基準は以下のとおりである。
【0173】
[1]厚さ測定
Micrometer(Mitutoyo社)を利用して測定した。
【0174】
[2]透過率および黄色指数(YI)
黄色指数(YI)と透過率は、それぞれコニカミノルタ株式会社製の分光側色計CM-3600dを用いて、360nm~740nmの波長範囲で測定し、黄色指数はE313-73の値で、透過率はY(D65)の値を取った。
【0175】
[3]屈折率
屈折率は、Ellipsometer(M-2000、J.A.Woolam Co.)をGen-Oscモデルとしてセッティングし、可視光線領域の550nm波長で測定した。これは、図2のシミュレーション結果を求めるために用いた第1フィルムと第2フィルムの屈折率の測定に用いた方法である。
【0176】
[4]鉛筆硬度
鉛筆硬度測定器と三菱鉛筆株式会社製の鉛筆を利用してASTM D3363規格で鉛筆スクラッチ硬度を測定した。具体的に、厚さ2mmのガラス板の上にフィルムを固定した後、垂直荷重500gに鉛筆速度を60mm/minにして10mmずつ5回測定後、フィルム表面にキズがない最も高い硬度を確認した。
【0177】
[5]モジュラス(引張弾性率;tensile modulus)
Instron3365の装備で常温で幅10mm、長さ50mmのフィルム試片(サンプル)を0.5mm/mm/minの速度で引張してサンプル当たり5回ASTM D882方法で測定後、平均値を記載した。
【0178】
[6]圧入硬度および弾性変形
Fischerscope社製のマイクロインデンター(モデル名:HM2000)を用いてダイヤモンドチップでウィンドウフィルム表面に垂直に10mNの力を1mN/sの速度で加え、再び1mN/sの速度で力を0に減らした後、圧入硬度HV(ビッカーズピラミッドナンバー)とηIT(弾性変形)を測定した。圧入硬度は、チップに加わった力をインデンテーション後のチップの表面積で割った値であり、ηITは力を加える時の全体インデンテーションエネルギーで力を減らす時に弾性復元されたインデンテーションエネルギーのパーセント比率である。
【0179】
[7]屈曲性
屈曲性は、屈曲性測定装置(CFT-200、Covetech社製)を用いて、屈曲半径を1mmにして、サンプルフィルムを20万回折りたたんだり伸ばしたりすることを反復し、折りたたまれた部分に白濁ができたりクラックができた場合は「FAIL」と、何ら変化もなく、柔軟に折りたたまれたり伸ばされたりする場合は「PASS」と示した。
【0180】
【表1】
[図:0001393070000002.jpg]
【0181】
【表2】
[図:0001393070000003.jpg]
」
(イ) 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の実施例1、実施例2として記載された発明(甲第1号証の段落【0181】の【表2】を参照)をそれぞれ、「甲1実施例1発明」、「甲1実施例2発明」とする。
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
甲1実施例1発明の「第2フィルム」、「PSA接着剤層」、「第1フィルム」は、それぞれ本件特許発明1の「前面板」、「第1粘着剤層」、「耐衝撃層」に相当する。
甲1実施例1発明の「第1フィルム」は、その厚みが36μmであって、モジュラス(引張弾性率)が4.4GPaであるから、本件特許発明1における「耐衝撃層」の「35~105μmの厚さ」及び「0.1~10GPaの引張弾性率」との条件を満たす。
また、甲1実施例1発明の「PSA接着剤層」として用いている3M社のOCAは、参考資料1ないし5によると「Acrylic」であり、その厚みは50μmであるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物」であって、「5~100μmの厚さ」との特定事項を満たすものである。
してみると、両者は、
「前面板、該前面板の内部方向に、第1粘着剤層、耐衝撃層を、この順に備える光学積層体であって、
該耐衝撃層が35~105μmの厚さを有し、
該耐衝撃層が0.1~10GPaの引張弾性率を有し、
第1粘着剤層が(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物からなり、
第1粘着剤層が5~100μmの厚さを有する、
光学積層体。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
光学積層体に関し、本件特許発明1は「第2粘着剤層」を有するものであって、「第2粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、第2粘着剤層が25℃で0.01~0.80MPaの貯蔵弾性率を有し、第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層とが、88~190μmの合計厚さを有する」と特定されるのに対し、甲1実施例1発明にはそのような特定がない点。
上記相違点1について検討する。
甲第1号証の段落【0076】には、表示パネルの全面に積層フィルムを設けるにあたり、第1フィルムの下面に背面コーティング層を設けることが記載されているものの、当該背面コーティング層は、「ハードコーティング層300と同一の素材を含んでもよく、従来の表示装置用ウィンドウのハードコーティング層として用いられた素材を制限なしに用いてもよい」(【0077】)とされ、その厚みについても「30nm~300nm」(【0078】)とされている。
してみれば、甲1実施例1発明の第1フィルムの下面に「背面コーティング層」を設けるものとしても、「ハードコーティング層」のようなものであって、本件特許発明1の「第2粘着剤層」にあたるものであるとはいえないし、さらにその厚みについても、大きく異なるものである。
また、甲第1号証及び他の証拠全体の記載をあわせてみても、甲1実施例1発明において、特定の厚みかつ特定の貯蔵弾性率を有する第2粘着剤層を設けるとともに、第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層の合計厚みを特定のものとし、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことによって、甲1実施例1発明からみて「優れた耐屈曲性、耐衝撃性」を有するとの格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1実施例1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件特許発明2及び5ないし8について
本件特許発明2及び5ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は甲1実施例1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び5ないし8についても同様に、甲1実施例1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由2-1についてのまとめ
上記イのとおりであるから、取消理由2-1は、その理由がない。
(2) 取消理由3について
本件特許発明は、「耐屈曲性、耐衝撃性に優れた光学積層体を提供すること」(【0006】)を発明の課題とするものである。
そして、本件特許発明1は、
「前面板、該前面板の内部方向に、第1粘着剤層、耐衝撃層、及び第2粘着剤層を、この順に備える光学積層体であって、
該耐衝撃層が35~105μmの厚さを有し、
該耐衝撃層が0.1~10GPaの引張弾性率を有し、
第1粘着剤層が(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物からなり、
第1粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、
第2粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、
第2粘着剤層が25℃で0.01~0.80MPaの貯蔵弾性率を有し、
第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層とが、88~190μmの合計厚さを有する、
光学積層体。」
と、光学積層体において、「耐衝撃層」の厚みと引張弾性率、「第1粘着剤層」の厚みと材質、「第2粘着剤層」の厚みと貯蔵弾性率、第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層の合計厚さが特定されている。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における【0021】、粘着剤層に関する記載(【0097】ないし【0110】)、耐衝撃層に関する記載(【0111】ないし【0116】)及び実施例・比較例を通じてみると、当業者であれば、前面板の内部方向に設けられる第1粘着剤層及び第2粘着剤層の厚みが各々「5~100μm」(【0107】)であって、第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層との合計厚さが、「80~200μm」(【0110】)であって、耐衝撃層の厚さが「5~140μm」(【0116】)、「0.1~10GPa」(【0114】)の引張弾性率を有するとの特定事項を有することにより、発明の課題を解決するものと認識する。
そして、本件特許発明は、上記の特定事項を全て有するとともにさらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決するものといえる。
ここで、特許異議申立人は、令和4年4月28日に提出した意見書において、本件特許発明は前面板が特定されておらず、ガラス板や実施例と異なる他の素材を含むものであり、これらの素材の違いは「優れた耐屈曲性と耐衝撃性の両立」に影響するものであることなどを挙げつつ、本件特許発明は、サポート要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明は、前面板に設ける積層体として、本件特許発明で特定するところの、第1粘着剤層、耐衝撃層、第2粘着剤層を設けることにより、同じ前面板を用いた場合でも屈曲性及び耐衝撃性の点で有利な効果を奏するものといえるし、このことは、前面板が屈曲性を有するガラス板であっても同じことがいえるから、特許異議申立人の上記主張は採用しない。
よって、取消理由3は、その理由がない。
2 令和4年7月25日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
令和4年7月25日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由1-1ないし1-10、申立理由2-2ないし2-11及び申立理由3のうち請求項7に係る部分である。
以下、順に検討する。
(1) 申立理由1-1(甲第1号証を根拠とする新規性)について
上記1(1)で検討したとおり、本件特許発明1と甲1実施例1発明は、相違点1で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲1実施例1発明ではない。
また、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で特定する請求項2、5、7及び8についても同様である。
よって、申立理由1-1は、その理由がない。
(2) 申立理由1-2ないし1-10、2-2ないし2-11(甲第2号証ないし甲第10号証をそれぞれ主たる根拠とする新規性、甲第2号証ないし甲第11号証をそれぞれ主たる根拠とする進歩性について)
甲第2号証ないし甲第11号証の各々の記載からは、どのように発明を認定しても、少なくとも、本件特許発明1における、光学積層体が「第2粘着剤層」を有するものであって、「第2粘着剤層が5~100μmの厚さを有し、第2粘着剤層が25℃で0.01~0.80MPaの貯蔵弾性率を有し、第1及び第2粘着剤層と耐衝撃層とが、88~190μmの合計厚さを有する」と特定される事項の点についての記載がなく、相違点(以下、「相違点2」という。)となる。
よって、本件特許発明1は甲第2号証ないし甲第10号証のそれぞれに記載された発明ではない。
また、本件事件において提出された全ての証拠の記載を参酌しても、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を導くこともできないから、本件特許発明1は、甲第2号証ないし甲第11号証をそれぞれ主たる引用例としても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で特定する他の請求項においても同様に判断される。
したがって、申立理由1-2ないし1-10及び2-2ないし2-11はいずれもその理由がない。
(3) 申立理由3(サポート要件)について
本件特許発明7は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で特定されるものであり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
してみれば、上記1(2)と同様に判断されるから、申立理由3は、その理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、2及び5ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び5ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項3及び4に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700984