特許異議申立
2023-700166
麦芽発酵飲料の製造方法及び麦芽発酵飲料
- 審判番号
- 2023-700166
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-009960
- 登録番号
- 7120768
- 請求日
- 2023年02月16日
- 審決日
- 2023年07月20日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【権利者代理人】福島 直樹
- 【異議申立人】榎本 修
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1652.113-YAA(C12C) / P1652.121-YAA(C12C) / P1652.537-YAA(C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7120768号発明「麦芽発酵飲料の製造方法及び麦芽発酵飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7120768号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求のとおり、訂正後の請求項6及び8について訂正することを認める。
特許第7120768号の請求項7に係る特許を維持する。
特許第7120768号の請求項6及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7120768号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成30年1月24日を出願日とする特許出願であって、令和4年8月8日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和5年2月16日に特許異議申立人 榎本 修(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項6ないし8)がされ、同年同月17日に特許異議申立人 山内 慶子(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項6ないし8)がされ、同年4月20日付けで取消理由が通知され、同年6月21日付けで特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされたものである。
なお、下記第3のとおり、本件訂正は本件訂正前の請求項6及び8の削除のみの訂正であるから、特許法第120条の5第5項ただし書きに規定された特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるものとした。したがって、当審は特許異議申立人A及びBに意見書を提出する機会を与えていない。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項6の訂正について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項8の訂正について
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件
ア 請求項6の訂正について
請求項6の訂正は、特許異議の申立がされている請求項6に対してされたものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
イ 請求項8の訂正について
請求項8の訂正は、特許異議の申立がされている請求項8に対してされたものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項6及び8について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項6ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明6」ないし「本件特許発明8」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項6ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項6】(削除)
【請求項7】
原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、
アルコール度数が4v/v%以上であり、
グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料(但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。)。
【請求項8】(削除)」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年2月16日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(甲第A2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項7ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第A2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項7ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由A3(サポート要件)
本件特許の請求項6ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明6ないし8は、原料中の麦芽の比率、アルコール度数、並びに、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオールの合計含有量以外の構成は任意であり、アルコール度数が高い麦芽発酵飲料や、イソマルトース資化性を有し、かつ、グルコース抑制が解除されている酵母を用いて得られた麦芽発酵飲料以外の麦芽発酵飲料までを含むものであることから、サンプル1-2、1-3、1-5、1-6及び1-8といった具体例の例示のみで、本件特許発明6ないし8の全範囲にわたって、口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料を提供できるとは認められず、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項を本件特許発明6ないし8の範囲に及ぶまで、拡張乃至一般化できる根拠は見いだせない。
なお、本件特許明細書の表1に示された、本件特許発明6の具体例に相当するサンプル1-2とサンプル1-3の分析結果、及び本件特許発明7の具体例に相当するサンプル1-5とサンプル1-6の分析結果は、張り湯比の違いから考えられる糖質含有量及びアルコール濃度とは異なる結果を示している。これらサンプルのデータは、整合性に欠いており、信頼できるものとはいえない。従って、本件特許発明6及び7は、本件特許明細書において具体例によって何ら検証されていない発明であるといえ、この点からも、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。
(4)申立理由A4(明確性)
本件特許の請求項6ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明6ないし8は、麦芽発酵飲料(物の発明)であるが、「麦芽発酵飲料(但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く)。」と記載されている。このように、本件特許発明6ないし8は、「発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した」方法によって製造された麦芽発酵飲料を除くことにより麦芽発酵飲料を特定しようとする記載を含むものであり、その物の製造方法が記載されている場合に該当するものと認められる。
この場合において、その請求項の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するときに限られる。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、本件特許明細書に記載がなく、その存在を認める理由は見出せない。
従って、本件特許発明6ないし8は明確ではない。
(5)証拠方法
甲第A1号証:特開2002-199873号公報
甲第A2号証:特開2011-223987号公報
甲第A3号証:最新・ソフトドリンクス、株式会社光琳、1017頁、平成15年9月30日
甲第A4号証:Brewing Science Volume 2, Academic Press, p. 182-197, 1981
甲第A5号証:澱粉科学、日本澱粉学会、第28巻、第2号、p.118~124、1981年
甲第A6号証:Journal of Cereal Science, Elsevier Ltd., 60(2014)602-609
甲第A7号証:日本醸造協会誌、日本醸造協会、第71巻、第7号、505~510頁、1976年7月15日
甲第A8号証:J. Inst. Brew., September-October, Institute of Brewing, 1989, Vol. 95, pp. 333-336
甲第A9号証:国際公開第2017/010000号
甲第A10号証:特開2011-36129号公報
甲第A11号証:特開2008-48691号公報
甲第A12号証:ビールの科学 麦とホップが生み出すおいしさの秘密、株式会社講談社、74~81頁、2009年3月20日
甲第A13号証:科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)のウェブページ印刷物(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jbrewsocjapan1915/71/7/_contents/-char/ja),2023年2月1日印刷日
証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。
以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年2月17日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項6ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項6ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(サポート要件)
本件特許の請求項6ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明6ないし8は、「口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料を提供すること」を課題としていると理解できる。
本件特許発明6ないし8は、口当たりやキレに影響するアルコール度数の上限値の限定はなく、口当たりやキレに影響を与える、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオース以外の糖質の含有量が制限されていない。したがって、本件明細書の実施例であるサンプルだけから、本件特許発明6ないし8に規定する飲料においてアルコール度数をさらに向上させたときに、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオース以外の糖質の含有量が制限されていない本件特許発明6ないし8が、必ず口当たりやキレが改善した飲料となっていると理解することは不可能である。
また、本件特許発明6ないし8の実施例は、イソマルトース資化性を有する酵母1を親株として用い、2-デオキシグルコース耐性株(変異株)を2-DG濃度0.02%から段階的に最大0.5%まで引き上げることにより、取得した極めて特殊な酵母を用いて得られた飲料である。このように、本件明細書では、特殊な酵母を用いて製造された麦芽発酵飲料についてのみ口当たりおよびキレが改善されたことが確認されたが、該特殊な酵母を用いずに、実施例のサンプルと同様に口当たり及びキレを改善できる麦芽発酵飲料について何ら記載がない。よって、使用する酵母について何ら限定のない本件特許発明6ないし8の麦芽発酵飲料が口当たり及びキレの改善という課題を解決できると認識することはできない。
以上より、本件特許発明6ないし8の麦芽発酵飲料が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された内容により、当業者が「口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料を提供する」という本件特許発明6ないし8の課題を解決できると認識できる範囲のものである、ということはできない。
(4)証拠方法
甲第B1号証:Viva! Life, MINTEL GNPD, http://www.gnpd.com/sinatra/gnpd/hotlink/id=920750, 2008年5月
甲第B2号証:「食品の熱量(エネルギー)について ~エネルギー換算係数の話~」Japan Food Research Laboratories No. 35、2003年7月
甲第B3号証の1:特開2016-144467号公報
甲第B3号証の2:特開2013-201976号公報
甲第B3号証の3:特開2016-73222号公報
甲第B3号証の4:特開2016-86792号公報
甲第B4号証:「第2章 炭水化物」日本醸造協会雑誌、熊田順一、第71巻8号611~612頁、1976年
甲第B5号証:特開2016-135109号公報
甲第B6号証:酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達、財団法人大蔵財務協会、平成20年11月5日
甲第B7号証:国際公開第2014/196265号
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。
以下、順に「甲B1」のようにいう。
第5 当審による取消理由の概要
令和5年4月20日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
なお、取消理由1及び2は、それぞれ、申立理由のうち次の部分を包含する。
・取消理由1:申立理由A1の全部分
・取消理由2:申立理由A2のうち、請求項8に係る部分
1 取消理由1(甲A1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲A1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲A2に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲A2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由についての当審の判断
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項6及び8は削除された。そうすると、本件特許発明6及び8については、取消理由1及び2の対象は存在しない。
第7 令和5年4月20日付けで特許権者に通知した取消理由において採用しなかった申立理由についての判断
取消理由において採用しなかった申立理由は次のとおりである。
・申立理由A2(甲A2に基づく新規性・進歩性)のうち、請求項7に係る部分
・申立理由B1(甲B1に基づく進歩性)
・申立理由B2(甲B1に基づく新規性・進歩性)
・申立理由A3及びB3(サポート要件)
・申立理由A4(明確性要件)
以下、順に検討する。
1 本件特許発明6及び8について
上記第2で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項6及び8は削除された。そうすると、本件特許発明6については申立理由B1、A3、B3、及びA4の対象は存在せず、本件特許発明8については申立理由B2、A3、B3、及びA4の対象は存在しない。
2 本件特許発明7について
(1)申立理由A2(甲A2に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲A2に記載された事項等
(ア)甲A2に記載された事項
甲A2には、「ビール風味アルコール飲料の製造方法」に関し、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付した。
・「【請求項1】
糖化工程に続き発酵工程を行うことを含むビール風味アルコール飲料の製造方法であって、デキストリンを、糖化工程が終了した後に添加することを特徴とするビール風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
デキストリンを、糖化工程終了後でかつ発酵工程前に添加するか、あるいは発酵工程後に添加することを特徴とする請求項1に記載のビール風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
デキストリンが、重合度8以上の糖質を40質量%以上含むデキストリンである請求項1又は2に記載のビール風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
デキストリン添加後の糖化工程終了液又は発酵工程終了液における重合度8以上の糖質含量が0.05~2.0質量%となるようにデキストリンを添加する請求項1~3のいずれか1項に記載のビール風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法で得られるビール風味アルコール飲料。」
・「【0023】
実施例1
異なるデキストリンを使用した発泡酒の製造
3種類の異なるデキストリンを使用して、麦芽使用量の少ない発泡酒を醸造した。本実施例では、麦芽の代わりに、麦芽エキスを使用しているが、これは麦芽を糖化・煮沸、濃縮した麦汁(すなわち、糖化工程終了液あるいは発酵原料液)に相当する。なお、麦芽エキス10gは、糖質含量換算で、麦芽約7.14gに相当する。
【0024】
使用したデキストリンは、マックス1000(サンプル1,平均分子量2000、重合度(DP)8以上の糖質79.1%、粘度15、松谷化学工業株式会社)、パインデックス#2(以下“PDx#2”,サンプル2,平均分子量1700、DP8以上の糖質70.9%、粘度12、松谷化学工業株式会社)、TK-16(サンプル3、平均分子量910、DP8以上の糖質45.0%、粘度8、松谷化学工業株式会社)の3種類である。これらに加え、水溶性食物繊維として難消化性デキストリン(コントロール2で使用、商品名:ファイバーソル2、松谷化学工業株式会社)を比較対照に使用した。
・・・(略)・・・
【0050】
実施例5
麦芽使用量の多い発泡酒の製造
麦芽の使用量を50%に引き上げ、TK-16(実施例4と同じ)を用いて、表13の処方で発泡酒を製造した。
【0051】
表13
[図:0001402780000001.jpg]
【0052】
上記成分を混合し、80℃で30分間の煮沸を行ったあと、ナイロンクロスによりろ過を行い、ろ液に酵母を加えて、7日間、酵母による発酵を行った。その後、発酵液1Lあたり6gの砂糖を加え、さらに14日間発酵を行い、発泡酒を得た。得られた発泡酒は、エタノール除去、脱塩を実施し、HPLCで糖組成の分析を行い、その結果を表14に示した。
【0053】
表14
[図:0001402780000002.jpg]
【0054】
表14から、DP8以上の含量は、麦芽使用量が少ない実施例1~4の場合と同様、デキストリンの添加量と相関することが認められた。さらに、実施例1と同じ方法で、コク味、芳醇感、濃厚感について官能試験を実施した。
【0055】
表15
[図:0001402780000003.jpg]
【0056】
表15の結果から、実施例1~4と同様、0.05%(1Lあたり0.5g添加)の添加で、コク味、芳醇感、濃厚感の向上が認められたが、濃度を引き上げることによって、コク味、芳醇感、濃厚感が、さらに向上する傾向が認められた。」
(イ)甲A2に記載された発明
甲A2に記載された事項を、特に、実施例5の「コントロール」、「0.5g/L」、「1g/L」の各サンプルに関して整理する。
当該各サンプルの糖組成が表14のとおりであることからみて、各サンプルの原料中のDP1、DP2、DP3の含有量の合計は、それぞれ以下のように算出される。
・実施例5の「コントロール」:0.003+0.001+0.002=0.006%(w/w)
・実施例5の「0.5g/L」:0.002+0.012+0.010=0.024%(w/w)
・実施例5の「1g/L」:0.004+0.020+0.012=0.036%(w/w)
してみると、甲A2には次の発明(以下、順に「甲A2-4発明」、「甲A2-5発明」、「甲A2-6発明」という。これらは、それぞれ、実施例5の「コントロール」、「0.5g/L」、「1g/L」の各サンプルに対応する。)が記載されていると認める。
<甲A2-4発明>
「発酵液1Lあたり、麦芽エキス71.3g、砂糖47.1g、ホップエキス1.6g、大豆ペプチド7.5gを混合し、煮沸、ろ過を行い、ろ液に酵母0.6gを加えて、7日間、酵母による発酵を行った後、発酵液1Lあたり6gの砂糖を加え、さらに14日間発酵を行って得られた、DP1、DP2、DP3の含有量の合計が0.006%(w/w)である、ビール風味アルコール飲料。」
<甲A2-5発明>
「発酵液1Lあたり、麦芽エキス71.3g、砂糖47.1g、TK-16 0.5g、ホップエキス1.6g、大豆ペプチド7.5gを混合し、煮沸、ろ過を行い、ろ液に酵母0.6gを加えて、7日間、酵母による発酵を行った後、発酵液1Lあたり6gの砂糖を加え、さらに14日間発酵を行って得られた、DP1、DP2、DP3の含有量の合計が0.024%(w/w)である、ビール風味アルコール飲料。」
<甲A2-6発明>
「発酵液1Lあたり、麦芽エキス71.3g、砂糖47.1g、TK-16 1.0g、ホップエキス1.6g、大豆ペプチド7.5gを混合し、煮沸、ろ過を行い、ろ液に酵母0.6gを加えて、7日間、酵母による発酵を行った後、発酵液1Lあたり6gの砂糖を加え、さらに14日間発酵を行って得られた、DP1、DP2、DP3の含有量の合計が0.036%(w/w)である、ビール風味アルコール飲料。」
イ 本件特許発明7との対比・判断
(ア)甲A2-4発明との対比・判断
本件特許発明7と甲A2-4発明とを対比する。
甲A2-4発明は「DP1、DP2、DP3の含有量の合計が0.006%(w/w)」であるところ、甲A2-4発明の「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量」は、当該「DP1、DP2、DP3の含有量の合計」以下の値であることは明らかであるから、甲A2-4発明は、本件特許発明7の「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である」との発明特定事項を満たす。
甲A2-4発明の「ビール風味アルコール飲料」は、麦芽を発酵させて得られたものであるから、本件特許発明7の「麦芽発酵飲料」に相当する。
甲A2-4発明は、その製造方法からみて、発酵させる際にトランスグルコシダーゼが添加されていないことから、甲A2-4発明は、本件特許発明7の「但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料(但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A2-4-1>
「原料中の麦芽の比率」に関し、本件特許発明7においては、「50質量%以上67質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲A2-4発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A2-4-2>
本件特許発明7においては、「アルコール度数が4v/v%以上であり」と特定されているのに対し、甲A2-4発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点A2-4-1について検討する。
甲A2における「麦芽エキス」10gは、糖質含量換算で麦芽約7.14gに相当する(甲A2の【0023】)。
また、甲A2-4発明の「原料中の麦芽の比率」における「原料」とは、本件特許の明細書の【0022】でいう「原料」に相当する、全原料のうち水、ホップ及び酵素(酵素剤)以外のものであり、甲A2の表13の発酵原料液成分のうちの、「麦芽エキス71.3g」、「砂糖47.1g」、「大豆ペプチド7.5g」、「酵母0.6g」、及び、甲A2の【0052】に7日間酵母による発酵を行った後添加される旨記載される「砂糖6g」が、当該「原料」に相当する。
してみると、甲A2-4発明の「原料中の麦芽の比率」は、麦芽エキスの質量を麦芽の質量に換算することにより、以下のように算出される。
・「麦芽エキス71.3g」を「麦芽」の質量に換算し、これをもとに原料中の麦芽の質量割合を算出した場合
71.3×7.14÷10÷(71.3×7.14÷10+47.1+7.5+0.6+6)=約0.45=約45質量%
・原料中の麦芽エキスの質量割合を算出し、得られた値を糖質含量換算で麦芽相当の値とした場合
71.3÷(71.3+47.1+7.5+0.6+6)×7.14÷10=約0.38=約38質量%
したがって、いずれの場合においても、甲A2-4発明の「原料中の麦芽の比率」は50質量%未満であるから、相違点A2-4-1は実質的な相違点である。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲A2-4発明であるとはいえない。
また、甲A2の実施例5の「麦芽の使用率を50%に引き上げて発泡酒を製造した」との記載の「麦芽の使用率」とは、甲A2の表13の記載からみて、原料中の麦芽エキスの比率をいうものであり、上記のとおり甲A2の実施例5の「原料中の麦芽の比率」は50質量%未満であるから、甲A2には、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満」とする動機付けとなる記載はない。
そうすると、甲A2及び他の証拠をみても、甲A2-4発明において、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満」とする、すなわち、相違点A2-4-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を満たすものとする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲A2-4発明において、相違点A2-4-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲A2-4発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)甲A2-5発明との対比・判断
本件特許発明7と甲A2-5発明とを対比する。
甲A2-5発明は「DP1、DP2、DP3の含有量の合計が0.024%(w/w)」であるところ、甲A2-5発明の「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量」は、当該「DP1、DP2、DP3の含有量の合計」以下の値であることは明らかであるから、甲A2-5発明は、本件特許発明7の「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である」との発明特定事項を満たす。
甲A2-5発明の「ビール風味アルコール飲料」は、麦芽を発酵させて得られたものであるから、本件特許発明7の「麦芽発酵飲料」に相当する。
甲A2-5発明は、その製造方法からみて、発酵させる際にトランスグルコシダーゼが添加されていないことから、甲A2-5発明は、本件特許発明7の「但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料(但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A2-5-1>
「原料中の麦芽の比率」に関し、本件特許発明7においては、「50質量%以上67質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲A2-5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A2-5-2>
本件特許発明7においては、「アルコール度数が4v/v%以上であり」と特定されているのに対し、甲A2-5発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点A2-5-1について検討する。
甲A2における「麦芽エキス」10gは、糖質含量換算で麦芽約7.14gに相当する。
また、甲A2-5発明の「原料中の麦芽の比率」における「原料」とは、本件特許の明細書の【0022】でいう「原料」に相当する、全原料のうち水、ホップ及び酵素(酵素剤)以外のものであり、甲A2の表13の発酵原料液成分のうちの、「麦芽エキス71.3g」、「砂糖47.1g」、「TK-16 0.5g」、「大豆ペプチド7.5g」、「酵母0.6g」、及び、甲A2の【0052】に7日間酵母による発酵を行った後添加される旨記載される「砂糖6g」が、当該「原料」に相当する。
してみると、甲A2-5発明の「原料中の麦芽の比率」は、麦芽エキスの質量を麦芽の質量に換算することにより、以下のように算出される。
・「麦芽エキス71.3g」を「麦芽」の質量に換算し、これをもとに原料中の麦芽の質量割合を算出した場合
71.3×7.14÷10÷(71.3×7.14÷10+47.1+0.5+7.5+0.6+6)=約0.45=約45質量%
・原料中の麦芽エキスの質量割合を算出し、得られた値を糖質含量換算で麦芽相当の値とした場合
71.3÷(71.3+47.1+0.5+7.5+0.6+6)×7.14÷10=約0.38=約38質量%
したがって、いずれの場合においても、甲A2-5発明の「原料中の麦芽の比率」は50質量%未満であるから、相違点A2-5-1は実質的な相違点である。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲A2-5発明であるとはいえない。
また、上記(ア)と同様の理由により、甲A2及び他の証拠をみても、甲A2-5発明において、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満」とする、すなわち、相違点A2-5-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を満たすものとする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲A2-5発明において、相違点A2-5-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲A2-5発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)甲A2-6発明との対比・判断
本件特許発明7と甲A2-6発明とを対比する。
甲A2-6発明は「DP1、DP2、DP3の含有量の合計が0.036%(w/w)」であるところ、甲A2-6発明の「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量」は、当該「DP1、DP2、DP3の含有量の合計」以下の値であることは明らかであるから、甲A2-6発明は、本件特許発明7の「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である」との発明特定事項を満たす。
甲A2-6発明の「ビール風味アルコール飲料」は、麦芽を発酵させて得られたものであるから、本件特許発明7の「麦芽発酵飲料」に相当する。
甲A2-6発明は、その製造方法からみて、発酵させる際にトランスグルコシダーゼが添加されていないことから、甲A2-6発明は、本件特許発明7の「但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料(但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A2-6-1>
「原料中の麦芽の比率」に関し、本件特許発明7においては、「50質量%以上67質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲A2-6発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A2-6-2>
本件特許発明7においては、「アルコール度数が4v/v%以上であり」と特定されているのに対し、甲A2-6発明においては、そのようには特定されていない点。
相違点A2-6-1について検討する。
甲A2における「麦芽エキス」10gは、糖質含量換算で麦芽約7.14gに相当する。
また、甲A2-6発明の「原料中の麦芽の比率」における「原料」とは、本件特許の明細書の【0022】でいう「原料」に相当する、全原料のうち水、ホップ及び酵素(酵素剤)以外のものであり、甲A2の表13の発酵原料液成分のうちの、「麦芽エキス71.3g」、「砂糖47.1g」、「TK-16 1.0g」、「大豆ペプチド7.5g」、「酵母0.6g」、及び、甲A2の【0052】に7日間酵母による発酵を行った後添加される旨記載される「砂糖6g」が、当該「原料」に相当する。
してみると、甲A2-6発明の「原料中の麦芽の比率」は、麦芽エキスの質量を麦芽の質量に換算することにより、以下のように算出される。
・「麦芽エキス71.3g」を「麦芽」の質量に換算し、これをもとに原料中の麦芽の質量割合を算出した場合
71.3×7.14÷10÷(71.3×7.14÷10+47.1+1.0+7.5+0.6+6)=約0.45=約45質量%
・原料中の麦芽エキスの質量割合を算出し、得られた値を糖質含量換算で麦芽相当の値とした場合
71.3÷(71.3+47.1+1.0+7.5+0.6+6)×7.14÷10=約0.38=約38質量%
したがって、いずれの場合においても、甲A2-6発明の「原料中の麦芽の比率」は50質量%未満であるから、相違点A2-6-1は実質的な相違点である。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲A2-6発明であるとはいえない。
また、上記(ア)と同様の理由により、甲A2及び他の証拠をみても、甲A2-6発明において、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満」とする、すなわち、相違点A2-6-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を満たすものとする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲A2-6発明において、相違点A2-6-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲A2-6発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、特許異議申立書Aの第40頁(a)において、甲A2-4発明ないし甲A2-6発明における「原料中の麦芽エキスの比率」は、本件特許発明7における「原料中の麦芽の比率」に対応した記載であるか、仮に麦芽エキスと麦芽が異なるものとして認定されたとしても、甲A2の実施例5では麦芽の使用率を50%に引き上げて発泡酒を製造したことが記載されているように、甲A2-4発明ないし甲A2-6発明において原料中の麦芽の比率を50質量%とすることに格別な困難性は存在しない旨主張する。
しかしながら、上記(ア)ないし(ウ)のとおり、甲A2-4発明ないし甲A2-6発明における「原料中の麦芽エキスの比率」は、「原料中の麦芽エキスの比率」に麦芽/麦芽エキスの換算値である7.14/10を乗算することにより「原料中の麦芽の比率」に換算されるものであり、特許異議申立人が主張するような、本件特許発明7における「原料中の麦芽の比率」に対応した記載ではない。
また、上記(ア)ないし(ウ)のとおり、甲A2の実施例5の「麦芽の使用率」とは、本件特許発明7における「原料中の麦芽の比率」ではなく麦芽エキスの使用率であり、甲A2の実施例5の記載は、甲A2-4発明ないし甲A2-6発明において原料中の麦芽の比率を50質量%とする動機付けとなる記載ではない。そうすると、甲A2-4発明ないし甲A2-6発明において原料中の麦芽の比率を50質量%とすることに格別な困難性が存在しないとはいえない。
よって、特許異議申立人Aの主張を採用することはできない。
(オ)申立理由A2についてのまとめ
したがって、本件特許発明7に対する申立理由A2には理由がない。
(2)申立理由B1(甲B1に基づく進歩性)について
ア 甲B1に記載された事項等
(ア)甲B1に記載された事項
甲B1には、「Viva! Life」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001402780000004.jpg]
[図:0001402780000005.jpg]
」(第1-2頁)
(イ)甲B1に記載された発明
甲B1に記載された事項を「Viva! Life」に関して整理する。
第2頁の「Viva! Life」の写真からみて、「Viva! Life」は「アルコール分:5%」であり、100mL当たりのエネルギーが28kcalであり、麦芽の比率が25%未満である。そして、甲B6によれば、「アルコール分」とは、「1容量」である(第8頁の8)。
してみると、甲B1には次の発明が記載されていると認める。
<甲B1発明>
「麦芽の比率が25質量%未満であり、アルコール度数が5v/v%であり、エネルギーが28kcal/100mLである、アルコール飲料。」
イ 本件特許発明7との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明7と甲B1発明とを対比する。
甲B1発明は「アルコール度数が5v/v%」であり、本件特許発明7の「アルコール度数が4v/v%以上であり」との特定事項を満たす。
甲B1発明は原料として麦芽を使用した「アルコール飲料」であるから、本件特許発明7の「麦芽発酵飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール度数が4v/v%以上である、麦芽発酵飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B1-1>
「原料中の麦芽の比率」に関し、本件特許発明7においては、「50質量%以上67質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、25質量%未満である点。
<相違点B1-2>
本件特許発明7においては、「グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-3>
「麦芽発酵飲料」に関し、本件特許発明7においては、「但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
(イ)判断
相違点B1-1について検討する。
甲B1発明は、上市された商品であることからみて、その原料中の麦芽の比率を変更する動機がないから、甲B1発明において相違点B1-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人Bは、特許異議申立書B第18頁(3)において、甲B1発明のビールの風味やコク感を向上させるために麦芽の比率を50質量%以上67質量%未満に上昇させることは容易に想到し得る旨主張するが、相違点B1-1については上記のとおりに判断され、特許異議申立人Bの主張を採用することはできない。
(ウ)申立理由B1についてのまとめ
したがって、本件特許発明7に対する申立理由B1には理由がない。
(3)申立理由A3及びB3(サポート要件)について
ア サポート要件についての判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
イ サポート要件についての判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0004】ないし【0005】によると、本件特許発明7の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「口当たり及びキレが改善された麦芽発酵飲料」を提供することである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には、「本発明はまた、原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料(第2の麦芽発酵飲料)に関する。」と記載され、原料中の麦芽の比率、アルコール度数、及び所定の糖質の合計含有量の技術的意義について、【0012】には、「第1、第2及び第3の麦芽発酵飲料は、原料中の麦芽の比率、アルコール度数、及び所定の糖類の合計含有量が特定の範囲内であるため、口当たり及びキレが改善されている。」と記載され、【0022】には、「原料中の麦芽の比率は50質量%以上であってよい。原料中の麦芽の比率は、67質量%未満、66質量%以下、65質量%未満、60質量%以下、又は55質量%以下であってよい。原料中の麦芽の比率は、50質量%以上67質量%未満であってよい。原料中の麦芽の比率が上記範囲内である場合、口当たり及びキレがより一層優れたものとなる。なお、ここでいう「原料」とは、麦芽発酵飲料の製造に用いられる全原料のうち、水、ホップ及び酵素(酵素剤)以外のものを指す。」と記載されている。そして、【0018】には、アルコール度数について記載され、【0048】ないし【0049】には、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの含有量の測定方法について記載されている。また、本件特許発明7の麦芽発酵飲料に相当する「第2の麦芽発酵飲料」の製造方法に関し、【0050】には、第2の麦芽発酵飲料を【0015】ないし【0045】に記載の「上述の麦芽発酵飲料の製造方法」によって得ることができることが記載され、【0058】にはグルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの含有量の調整方法が記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0067】ないし【0079】には、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下」である「麦芽発酵飲料」が、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が450mg/Lより大きいサンプル1-4と比べて口当たり及びキレが改善されたことを確認する記載もある。
そうすると、当業者は、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下」である「麦芽発酵飲料」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明7は、発明の課題を解決できると認識できる上記「麦芽発酵飲料」を全て有し、かつ、さらに特定するものである。
よって、本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
ウ 特許異議申立人A及び特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人A及び特許異議申立人Bは、本件特許発明7は原料中の麦芽の比率、アルコール度数、並びに、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオールの合計含有量以外の構成は任意であり、アルコール度数が高い麦芽発酵飲料や、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオール以外の糖質の含有量が任意のものである麦芽発酵飲料や、イソマルトース資化性を有し、かつ、グルコース抑制が解除されている酵母を用いて得られた麦芽発酵飲料以外の麦芽発酵飲料までを含むものであることから、当業者は、本件特許発明7の麦芽発酵飲料が、本件特許の明細書の実施例のサンプルと同様に口当たりやキレが改善された麦芽発酵飲料を提供でき、発明の課題を解決できると認識することはできないことを主張する。
また、特許異議申立人Aは、本件特許発明7の具体例に相当するサンプル1-5とサンプル1-6の分析結果は、張り湯比の違いから考えられる糖質含有量及びアルコール濃度とは異なる結果を示しており、信頼できるものとはいえない旨も主張する。
しかしながら、特許異議申立人A及び特許異議申立人Bの主張はいずれも、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下」であっても発明の課題を解決し得ないとする具体的な証拠を提示するものではない。
よって、特許異議申立人A及びBの主張はいずれも採用できない。
エ 申立理由A3及びB3についてのまとめ
したがって、本件特許発明7に対する申立理由A3及びB3には理由がない。
(4)申立理由A4(明確性要件)について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
イ 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
ウ 明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項7の記載のうち、「原料中の麦芽の比率が50質量%以上67質量%未満であり、アルコール度数が4v/v%以上であり、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、マルトトリオース、パノース及びイソマルトトリオースの合計含有量が、450mg/L以下である、麦芽発酵飲料」は、それ自体不明確な記載ではなく、明細書の記載とも整合する。
また、本件特許の特許請求の範囲の請求項7の記載のうち、「但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。」は、「発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した」方法によって製造された麦芽発酵飲料を除くことにより麦芽発酵飲料を特定しようとする記載である。そして、「発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した」方法で製造された麦芽発酵飲料の具体的な成分組成等を正確に特定することは通常困難であるという不可能・非実際的事情が存在するといえる。そうすると、「但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。」との記載は明確である。
したがって、本件特許発明7に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明7は明確である。
エ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは上記第4 1(4)のとおり主張するが、当該主張は、「但し、発酵させる際にトランスグルコシダーゼを添加した麦芽発酵飲料を除く。」との記載に関し、不可能・非実際的事情が存在しないとする具体的な証拠を提示するものではない。
よって、特許異議申立人Aの主張は採用できない。
オ 申立理由A4についてのむすび
したがって、本件特許発明7に対する申立理由A4には理由がない。
第8 結語
上記第6及び第7のとおり、本件特許の請求項7に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項6及び8に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人A及びBによる請求項6及び8に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700166