特許異議申立
2023-700154
接合体、及び、絶縁回路基板
- 審判番号
- 2023-700154
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-199139
- 登録番号
- 7124633
- 請求日
- 2023年02月14日
- 審決日
- 2023年05月24日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】細川 文広
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】関 豊美子
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 金 公彦
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7124633号発明「接合体、及び、絶縁回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7124633号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7124633号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成30年10月23日(優先権主張 平成29年10月27日)の出願であって、令和4年8月16日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年2月14日に、請求項1~8に係る特許について、特許異議申立人 関 豊美子(以下、「申立人」という。)により、甲第1~4号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
Al系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、
前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層においては、前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層の前記銅部材側の界面から前記銅部材に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲におけるAl濃度が0.15at%以下であることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記セラミックス部材は、窒化アルミニウム、アルミナのいずれかで構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
前記活性金属化合物層は、活性金属の窒化物、又は、活性金属の酸化物のいずれかを含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の接合体を備えた絶縁回路基板であって、
前記セラミックス部材からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された前記銅部材からなる回路層と、を備えていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に、金属層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の絶縁回路基板。
【請求項7】
前記金属層は銅又は銅合金からなることを特徴とする請求項6に記載の絶縁回路基板。
【請求項8】
前記金属層はアルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項6に記載の絶縁回路基板。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
本件発明1~7は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。
(2)甲第2号証を主引用例とした場合について
本件発明1~8は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。
2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。
(2)甲第2号証を主引用例とした場合について
本件発明1~8は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。
(3)甲第3号証を主引用例とした場合について
本件発明1~8は、甲第3号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2003-55058号公報
甲第2号証:特開2015-92552号公報
甲第3号証:特開2013-211546号公報
甲第4号証:特公平4-74306号公報
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には、以下のa~bの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするセラミック体と銅板とを、金属成分として、銀50~89%、銅1~30%、ビスマス0.05~0.7%、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属10~30%を含んでなるろう材を介して積層し、それを1.0MPa以上の圧力で加圧しながら、酸素濃度100~1000ppmの窒素雰囲気下、昇温速度及び降温速度を5.5℃/分以上にして接合することを特徴とするセラミック体と銅板の接合方法。」
b「【0014】ろう材を挟んだセラミック体と銅板の積層体は、圧力1.0MPa以上で加圧しながら焼成される。加圧力が1.0MPa未満であると、ろう材が雰囲気に曝される隙間が大きくなるため、接合が不十分となる。加圧力の上限は2MPa程度である。
【0015】接合雰囲気は、酸素濃度100~1000ppmの窒素雰囲気である。酸素濃度が1000ppm超であると、基板縁部の酸化が顕著となり、接合不良を起こす。また、100ppm未満では、活性金属の酸化は抑えられ、良好な接合状態が得られるが、気化したビスマスが回路銅板表面に回り込み、ロウ材しみ出し不良が発生してしまう。
【0016】接合は、例えば温度750~900℃で0.5~2時間保持して行われる。750℃未満では接合が十分でなく、また900℃を超えると、銀や錫の銅板への拡散が過度となり、接合層が脆弱なものとなる。この温度範囲における保持時間が0.5時間よりも短いと接合が不十分となり、また2時間よりも長くなると、同様に銀や錫の銅板への拡散が過度となり、接合層が脆弱なものとなる。
【0017】本発明においては、昇温開始から750℃までの昇温速度と、750℃から室温等の取り出し温度までの冷却速度が、いずれも5.5℃/分以上にして行われる。昇温速度が5.5℃/分未満であると、ろう材が酸化されてしまい、接合が不十分となる。また、冷却速度が5.5℃/分未満であると、600℃以上の温度範囲において、ろう材のAgやSn等の成分が銅板側へ拡散してしまうため、基板としての信頼性が低下する。また、600℃よりも低温域において冷却速度が遅いことは生産性の向上につながらない。
【0018】本発明で用いられるセラミック体は、窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするものである。窒化アルミニウムを主体とするものとしては、強度と熱伝導率純度が400MPa以上、150W/mK以上、93%以上であることが好ましく、また窒化珪素を主体とするものとしては強度と熱伝導率純度が600MPa以上、50W/mK以上、93%以上であることが好ましい。これらのセラミック体には、市販品があるのでそれを用いることができる。
【0019】本発明で用いられる銅板は、無酸素銅板、特に酸素量が50ppm以下、特に30ppm以下の無酸素銅板であることが好ましい。
【0020】本発明によって製造される接合体は、接合層の厚みが8~13μmであることが好ましい。接合層の厚み8μm未満であると接合が不十分となり、また13μmを超えると、銅と錫の金属間化合物の生成量が増大し、接合層が脆弱なものとなる。接合層の厚みは、ろう材厚みによって容易に調節することができる。」
(イ)前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には「セラミック体と銅板の接合方法」が記載されており、当該「セラミック体と銅板の接合方法」は、窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするセラミック体と銅板とを、金属成分として、銀50~89%、銅1~30%、ビスマス0.05~0.7%、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属10~30%を含んでなるろう材を介して積層し、それを1.0MPa以上の圧力で加圧しながら、酸素濃度100~1000ppmの窒素雰囲気下、昇温速度及び降温速度を5.5℃/分以上にして接合するものである。
そして、前記(ア)bの記載によれば、前記「セラミック体と銅板の接合方法」は、ろう材を挟んだセラミック体と銅板の積層体が、圧力1.0MPa以上で加圧しながら焼成されるものであり、接合雰囲気は、酸素濃度100~1000ppmの窒素雰囲気であり、接合は、温度750~900℃で0.5~2時間保持して行われるものであり、昇温開始から750℃までの昇温速度と、750℃から室温等の取り出し温度までの冷却速度が、いずれも5.5℃/分以上にして行われるものである。
また、前記「セラミック体と銅板の接合方法」で用いられるセラミック体は、窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするものであり、銅板は、無酸素銅板、特に酸素量が50ppm以下、特に30ppm以下の無酸素銅板であることが好ましいものであり、製造される接合体は、接合層の厚みが8~13μmであることが好ましいものである。
(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、
「窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするセラミック体と銅板とを、金属成分として、銀50~89%、銅1~30%、ビスマス0.05~0.7%、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属10~30%を含んでなるろう材を介して積層し、それを1.0MPa以上の圧力で加圧しながら、酸素濃度100~1000ppmの窒素雰囲気下、昇温速度及び降温速度を5.5℃/分以上にして接合する、セラミック体と銅板の接合方法により製造される接合体であって、
ろう材を挟んだセラミック体と銅板の積層体は、圧力1.0MPa以上で加圧しながら焼成されるものであり、接合雰囲気は、酸素濃度100~1000ppmの窒素雰囲気であり、接合は、温度750~900℃で0.5~2時間保持して行われるものであり、昇温開始から750℃までの昇温速度と、750℃から室温等の取り出し温度までの冷却速度が、いずれも5.5℃/分以上にして行われるものであり、
前記セラミック体は、窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするものであり、銅板は、無酸素銅板、特に酸素量が50ppm以下、特に30ppm以下の無酸素銅板であることが好ましいものであり、接合層の厚みが8~13μmであることが好ましいものである、接合体。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「窒化アルミニウム基板」、「無酸素銅板」、「接合層」及び「接合体」は、それぞれ、本件発明1における「Al系セラミックスからなるセラミックス部材」、「銅又は銅合金からなる銅部材」、「前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層」及び「接合体」に相当する。
すると、本件発明1と甲1発明とは、
「Al系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層が形成されている、接合体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「接合層において」、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成され」ているのに対して、甲1発明は、前記「結晶質の活性金属化合物層」が形成されているか否かが明らかでない点。
・相違点2:本件発明1は、「前記活性金属化合物層の前記銅部材側の界面から前記銅部材に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲におけるAl濃度が0.15at%以下である」のに対して、甲1発明は、前記「Al濃度」が明らかでない点。
(イ)始めに、前記(ア)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲第1号証には、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されて」いることは記載されていない。
そこで、「接合体」の製造方法の観点から検討すると、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0034】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、図3及び図4を参照して説明する。
【0035】
まず、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図4において上面)に、Cu-P系ろう材24、チタン材25、及び回路層12となる銅板22を順に積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(図4において下面)に、Cu-P系ろう材24、チタン材25、及び金属層13となる銅板23を順に積層する(積層工程S01)。
【0036】
本実施形態では、Cu-P系ろう材24として、Pを3mass%以上10mass%以下の範囲で含み、かつ、低融点元素であるSnを7mass%以上50mass%以下の範囲で含み、さらに、Niを2mass%以上15mass%以下の範囲で含むCu-P-Sn-Niろう材を用いている。
ここで、Cu-P系ろう材24の厚さは、10μm以上50μm以下の範囲とされている。
【0037】
また、本実施形態では、活性金属元素であるTiを含むチタン材25の厚さは、0.05μm以上2μm以下の範囲内とされている。なお、チタン材25は、厚さが0.1μm以上1.0μm以下の場合には蒸着やスパッタによって成膜することが好ましく、厚さが1.0μm以上の場合には箔材を用いることが好ましい。
【0038】
次に、セラミックス基板11、Cu-P系ろう材24、チタン材25、銅板22及び銅板23を、積層方向に加圧(圧力1~35kgf/cm2(0.1MPa~3.5MPa))した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱して接合する(接合工程S02)。
本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内としている。
また、加熱温度は770℃以上950℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を5分以上120分以下の範囲内に設定している。さらに、600℃から700℃までの昇温速度を5℃/min以上20℃/min以下の範囲内に設定している。」
「【図4】
[図:0001398307000001.jpg]
」
(ウ)前記(イ)の記載によれば、本件発明1に係る「接合体」は、セラミックス基板の一方の面に、Cu-P系ろう材、チタン材、及び回路層となる銅板を順に積層するとともに、セラミックス基板の他方の面に、Cu-P系ろう材、チタン材、及び金属層となる銅板を順に積層する積層工程と、セラミックス基板、Cu-P系ろう材、チタン材及び銅板を、積層方向に加圧(圧力1~35kgf/cm2(0.1MPa~3.5MPa))した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱して接合する接合工程により製造されるものであり、Cu-P系ろう材として、Pを3mass%以上10mass%以下の範囲で含み、かつ、低融点元素であるSnを7mass%以上50mass%以下の範囲で含み、更に、Niを2mass%以上15mass%以下の範囲で含むCu-P-Sn-Niろう材を用い、Cu-P系ろう材の厚さを、10μm以上50μm以下の範囲とし、活性金属元素であるTiを含むチタン材の厚さを、0.05μm以上2μm以下の範囲内とし、真空加熱炉内の圧力を10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内とし、加熱温度は770℃以上950℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を5分以上120分以下の範囲内に設定し、更に、600℃から700℃までの昇温速度を5℃/min以上20℃/min以下の範囲内に設定して製造されるものである。
すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「接合体」は、「セラミックス部材」と「銅部材」の間に、ろう材と、チタン材のような「活性金属」からなる材料を積層して、加圧、加熱して接合することで製造されるものであって、そうすることで、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成され」るものであることを理解することができる。
(エ)これに対して、甲1発明に係る「接合体」は、「セラミックス部材」と「銅部材」とを、「銀50~89%、銅1~30%、ビスマス0.05~0.7%、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属10~30%を含んでなるろう材」を用いて接合するものであるから、「セラミックス部材」と「銅部材」の間に、ろう材と、チタン材のような「活性金属」からなる材料を積層して、加圧、加熱して接合するものとはいえない。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、そもそも「接合体」の接合に用いる材料が異なっているから、製造方法の観点からみても、甲1発明に係る「接合体」が、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成され」るものとはいえない。
また、甲1発明に特定されている製造方法によって、「接合層」に「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成され」ることが技術常識であるともいえない。
したがって、製造法の観点からみても、甲1発明が、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはいえない。
よって、前記相違点1は実質的な相違点であるから、前記(ア)の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるということはできないのであり、更に本件発明2~7について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人の主張について
(ア)前記相違点1についての申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
甲1発明に係る「接合体」の製造条件と本件発明1に係る「接合体」の製造条件は、加熱温度、保持時間、ろう材の量、活性金属の量及び接合の際の昇温速度が重複するし、本件特許明細書には、「結晶質の活性金属化合物層」を形成するための方法について何ら説明がなく、本件特許明細書の段落【0086】【表2】に記載された比較例3及び比較例4の加熱温度及び保持時間は、同段落【0064】に記載された実施例の加熱温度及び保持時間の条件から外れているのにTi-Nが「結晶質」となっているから、甲1発明においても、「結晶質の活性金属化合物層」が形成されると推認される(特許異議申立書29ページ12行~35ページ15行)。
(イ)ところが、本件発明1に係る「接合体」の製造方法と甲1発明に係る「接合体」の製造方法とは、そもそも、「接合体」の接合に用いる材料が異なっていることは、前記イ(エ)に記載したとおりであるから、甲1発明に係る「接合体」の製造条件と本件発明1に係る「接合体」の製造条件の加熱温度、保持時間、ろう材の量、活性金属の量及び接合の際の昇温速度が重複し、本件特許明細書に、「結晶質の活性金属化合物層」を形成するための方法について何ら説明がなく、更に、本件特許明細書に記載された比較例3及び比較例4の加熱温度及び保持時間が実施例の加熱温度及び保持時間の条件から外れているのにTi-Nが「結晶質」となっているとしても、このことから直ちに、甲1発明において、「結晶質の活性金属化合物層」が形成されると推認できるものではないので、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~7は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第3の1(1)の特許異議申立理由は理由がない。
(2)甲第2号証を主引用例とした場合について
ア 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア)甲第2号証には、以下のa~cの記載がある。
a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス部材とが、Ag及びTiを含む接合材を用いて接合されたCu/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面には、Ti窒化物又はTi酸化物からなるTi化合物層が形成されており、
このTi化合物層内にAg粒子が分散されていることを特徴とするCu/セラミックス接合体。」
b「【0029】
ここで、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)とは、図4に示すように、Ag-Cu-Ti系ろう材24を用いて接合されている。
そして、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)との接合界面には、図2に示すように、TiN(窒化チタン)からなるTi化合物層31と、Ag-Cu共晶層32と、が形成されている。なお、好ましい上記Ag-Cu-Ti系ろう材24のCuの含有量は、18mass%以上34mass%以下、Tiの含有量は、0.3mass%以上7mass%以下であるが、これに限定されることはない。また、本実施形態では、Ag-Cu-Ti系ろう材24として箔材を用い、厚さは3μm以上50μm以下の範囲内に設定するとよい。
・・・
【0031】
次に、上述した本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法について、図3から図5を参照して説明する。
【0032】
図3及び図4に示すように、回路層12となる銅板22と、セラミックス基板11とを接合する(銅板接合工程S01)。本実施形態では、無酸素銅の圧延板からなる銅板22とAlNからなるセラミックス基板11とを、Ag-Cu-Ti系ろう材24によって接合する。この銅板接合工程S01については、後で詳しく説明する。
・・・
【0036】
ここで、本実施形態であるCu/セラミックス接合体の製造方法となる銅板接合工程S01について、詳しく説明する。
銅板接合工程S01では、まず、セラミックス基板11の一方の面にAg-Cu-Ti系ろう材24を介して回路層12となる銅板22を積層する(積層工程S11)。
【0037】
次に、セラミックス基板11及び銅板22を積層方向に0.5kgf/cm2以上35kgf/cm2以下(4.9×104Pa以上343×104Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する(低温保持工程S12)。ここで、低温保持工程S12における保持温度は、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされており、具体的には570℃以上770℃以下の範囲内とされている。また、低温保持工程S12における保持時間は、30分以上5時間以下の範囲内とされている。なお、低温保持工程S12における保持温度は、590℃以上750℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、低温保持工程S12における保持時間は、60分以上3時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
この低温保持工程S12においては、AgとAlの共晶点温度以上に保持することから、図5に示すように、Ag-Cu-Ti系ろう材24中のAgと、AlNからなるセラミックス基板11とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して液相38が発生する。この液相38中において、Ag-Cu-Ti系ろう材24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成する。これにより、セラミックス基板11の表面が侵食される形で、TiNからなるTi化合物層31が形成されることになる。
【0039】
低温保持工程S12の後、銅板22とセラミックス基板11とを加圧した状態で、真空 雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag-Cu-Ti系ろう材24を溶融する(加熱工程S13)。ここで、加熱工程S13における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上とされており、具体的には 790℃以上830℃以下の範囲内とされている。また、加熱工程S13における保持時間は、5分以上60分以下の範囲内とされている。なお、加熱工程S13における加熱温度は、800℃以上820℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱工程S13における保持時間は、10分以上30分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
そして、加熱工程S13の後、冷却を行うことにより、溶融したAg-Cu-Ti系ろう材24を凝固させる(冷却工程S14)。なお、この冷却工程S14における冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
このように、銅板接合工程S01は、積層工程S11、低温保持工程S12、加熱工程S13、冷却工程S14によって構成されており、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板22と、が接合される。
そして、TiNからなるTi化合物層31内に、Ag粒子35及びCu粒子36が分散されることになる。」
c「【図4】
[図:0001398307000002.jpg]
」
(イ)前記(ア)aの記載によれば、甲第2号証には「Cu/セラミックス接合体」が記載されており、当該「Cu/セラミックス接合体」は、銅又は銅合金からなる銅部材と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス部材とが、Ag及びTiを含む接合材を用いて接合されたCu/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面には、Ti窒化物又はTi酸化物からなるTi化合物層が形成されており、このTi化合物層内にAg粒子が分散されているものである。
そして、前記(ア)b、cの記載によれば、前記「Cu/セラミックス接合体」は、セラミックス基板と回路層との接合界面に、TiN(窒化チタン)からなるTi化合物層とAg-Cu共晶層とが形成されているものであって、回路層となる銅板と、セラミックス基板とを接合すること(銅板接合工程)で製造されるものであり、銅板接合工程では、まず、セラミックス基板の一方の面にAg-Cu-Ti系ろう材を介して回路層となる銅板を積層し(積層工程)、次に、セラミックス基板及び銅板を積層方向に0.5kgf/cm2以上35kgf/cm2以下(4.9×104Pa以上343×104Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持し(低温保持工程)、ここで、低温保持工程における保持温度は、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされており、具体的には570℃以上770℃以下の範囲内とされているものであり、また、低温保持工程における保持時間は、30分以上5時間以下の範囲内とされているものであって、低温保持工程においては、AgとAlの共晶点温度以上に保持することから、Ag-Cu-Ti系ろう材中のAgと、AlNからなるセラミックス基板とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して液相が発生し、この液相中において、Ag-Cu-Ti系ろう材中のTiとセラミックス基板中のN(窒素)とが反応してTiNが生成し、これにより、セラミックス基板の表面が侵食される形で、TiNからなるTi化合物層が形成されるものである。
更に、低温保持工程の後、銅板とセラミックス基板とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag-Cu-Ti系ろう材を溶融する(加熱工程)ものであり、ここで、加熱工程における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上とされており、具体的には 790℃以上830℃以下の範囲内とされているものであり、また、加熱工程における保持時間は、5分以上60分以下の範囲内とされているものであり、加熱工程の後、冷却を行うことにより、溶融したAg-Cu-Ti系ろう材を凝固させる(冷却工程)ものであり、前記積層工程、低温保持工程、加熱工程、冷却工程によって構成される銅板接合工程により、セラミックス部材であるセラミックス基板と、銅部材である銅板とが接合されるものである。
(ウ)前記(イ)によれば、甲第2号証には、
「銅又は銅合金からなる銅部材と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス部材とが、Ag及びTiを含む接合材を用いて接合されたCu/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面には、Ti窒化物又はTi酸化物からなるTi化合物層が形成されており、このTi化合物層内にAg粒子が分散されている、Cu/セラミックス接合体であり、
前記Cu/セラミックス接合体は、セラミックス基板と回路層との接合界面に、TiN(窒化チタン)からなるTi化合物層とAg-Cu共晶層とが形成されているものであって、回路層となる銅板と、セラミックス基板とを接合する銅板接合工程により製造されるものであり、前記銅板接合工程では、まず、セラミックス基板の一方の面にAg-Cu-Ti系ろう材を介して回路層となる銅板を積層し(積層工程)、次に、セラミックス基板及び銅板を積層方向に0.5kgf/cm2以上35kgf/cm2以下(4.9×104Pa以上343×104Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持し(低温保持工程)、ここで、低温保持工程における保持温度は、AgとAlの共晶点温度以上、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされており、具体的には570℃以上770℃以下の範囲内とされているものであり、また、低温保持工程における保持時間は、30分以上5時間以下の範囲内とされているものであって、低温保持工程においては、AgとAlの共晶点温度以上に保持することから、Ag-Cu-Ti系ろう材中のAgと、AlNからなるセラミックス基板とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して液相が発生し、この液相中において、Ag-Cu-Ti系ろう材中のTiとセラミックス基板中のN(窒素)とが反応してTiNが生成し、これにより、セラミックス基板の表面が侵食される形で、TiNからなるTi化合物層が形成されるものであり、
低温保持工程の後、銅板とセラミックス基板とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag-Cu-Ti系ろう材を溶融する(加熱工程)ものであり、ここで、加熱工程における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上とされており、具体的には790℃以上830℃以下の範囲内とされているものであり、また、加熱工程における保持時間は、5分以上60分以下の範囲内とされているものであり、
加熱工程の後、冷却を行うことにより、溶融したAg-Cu-Ti系ろう材を凝固させる(冷却工程)ものであり、前記積層工程、低温保持工程、加熱工程、冷却工程によって構成される銅板接合工程により、セラミックス部材であるセラミックス基板と、銅部材である銅板と、が接合されて製造されるものである、Cu/セラミックス接合体。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「AlN又はAl2O3からなるセラミックス部材」、「銅又は銅合金からなる銅部材」、「Ti化合物層とAg-Cu共晶層」及び「Cu/セラミックス接合体」は、それぞれ、本件発明1における「Al系セラミックスからなるセラミックス部材」、「銅又は銅合金からなる銅部材」、「前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層」及び「接合体」に相当する。
すると、本件発明1と甲2発明とは、
「Al系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層が形成されている、接合体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明1は、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されて」いるのに対して、甲2発明は、前記「結晶質の活性金属化合物層」が形成されているか否かが明らかでない点。
・相違点2’:本件発明1は、「前記活性金属化合物層の前記銅部材側の界面から前記銅部材に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲におけるAl濃度が0.15at%以下である」のに対して、甲2発明は、前記「Al濃度」が明らかでない点。
(イ)始めに、前記(ア)の相違点1’が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲第2号証には、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されて」いることは記載されていない。
そこで、「接合体」の製造方法の観点から検討すると、甲2発明は、「セラミックス部材」と「銅部材」とを、「Ag-Cu-Ti系ろう材」を用いて接合するものであるから、「セラミックス部材」と「銅部材」の間に、ろう材と、チタン材のような「活性金属」からなる材料を積層して、加圧、加熱して接合するものとはいえない。
そうすると、前記(1)イ(エ)に記載したのと同様の理由により、製造方法の観点からみても、甲2発明が、前記相違点1’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはいえない。
したがって、前記相違点1’は実質的な相違点であるから、前記(ア)の相違点2’について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明であるということはできないのであり、更に本件発明2~8について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人の主張について
(ア)前記相違点1’についての申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
甲2発明に係る「接合体」の製造条件と本件発明1に係る「接合体」の製造条件は、加熱温度、保持時間、ろう材量、活性金属量、「セラミックス部材」の厚さ、「銅部材」の厚さ及び接合の際の加圧力が重複するから、甲2発明に係る「接合体」は、本件発明1の発明特定事項を備える蓋然性が高い(特許異議申立書40ページ8行~10行)。
(イ)ところが、甲2発明は、「セラミックス部材」と「銅部材」の間に、ろう材と、チタン材のような「活性金属」からなる材料を積層して、加圧、加熱して接合するものとはいえないことは、前記イ(イ)に記載したとおりである。
すると、本件発明1に係る「接合体」の製造方法と甲2発明に係る「接合体」の製造方法とは、そもそも、「接合体」の接合に用いる材料が異なっているのであるから、甲2発明に係る「接合体」の製造条件と本件発明1に係る「接合体」の製造条件の加熱温度、保持時間、ろう材量、活性金属量、「セラミックス部材」の厚さ、「銅部材」の厚さ及び接合の際の加圧力が重複するとしても、このことから直ちに、甲2発明において「結晶質の活性金属化合物層」が形成されると推認できるものではないので、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~8は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第3の1(2)の特許異議申立理由も理由がない。
(3)まとめ
よって、前記第3の1の特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)についての特許異議申立理由はいずれも理由がない。
2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
始めに、前記1(1)イ(ア)の相違点1の容易想到性について検討すると、甲第2号証に、「接合体」の「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層」を「形成」することが記載されていないことは、前記1(2)イ(イ)に記載したとおりであるから、甲1発明において、甲第2号証に記載された事項を適用しても、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないので、前記1(1)イ(ア)の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2~8について検討しても事情は同じであるので、前記第3の2(1)の特許異議申立理由も理由がない。
(2)甲第2号証を主引用例とした場合について
始めに、前記1(2)イ(ア)の相違点1’の容易想到性について検討すると、甲第1号証に、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されて」いることは記載されていないことは、前記1(1)イ(イ)に記載したとおりであるから、甲2発明において、甲第1号証に記載された事項を適用しても、前記相違点1’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないので、前記1(2)イ(ア)の相違点2’について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2~8について検討しても事情は同じであるので、前記第3の2(2)の特許異議申立理由も理由がない。
(3)甲第3号証を主引用例とした場合について
ア 甲各号証の記載事項等
(ア)甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明
a 甲第3号証には、以下の(a)~(b)の記載がある。
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物セラミックスと無酸素銅とをTiを含むろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、
該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有することを特徴とするセラミックス-銅接合体。」
(b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の接合方法に従って窒化珪素基板と金属板とを活性金属法により接合すると、ろう材層とセラミックス部材および金属部材との好適な濡れ状態を得ることができ、窒化珪素と金属板の接合強度が上がる。その一方で活性金属ろう材に含まれるTi成分は、金属成分中に拡散してろう材層を脆化させるので、ろう材層におけるクラックの進展能を増大させる。
また、特許文献2の窒化珪素回路基板によれば、接合条件によっては、接合後強度が異なり、窒化珪素基板と金属回路板または金属放熱板との接合によってできる反応層はろう材に含まれる活性金属であるTiと窒化珪素との反応による窒化物・珪化物混合相より形成される。特に珪化物は脆く、当然接合温度が高い場合あるいは接合時間が長い場合にはその生成量が多くなることが開示されている。
このような活性金属を含むろう材接合層により接合した窒化珪素回路基板は、ろう材接合層を脆化させるため、接合後の冷却過程やパワー半導体素子による加熱・冷却サイクルの付加により繰り返し熱応力が発生すると、ろう材接合層においてクラックが生じることもあるという課題を有していた。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、窒化珪素回路基板にパワー半導体素子を接合して使用した際に発生するろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ、加熱・冷却サイクルに対する耐性である耐ヒートサイクル性を改善することのできるセラミックス-銅接合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願第1の発明のセラミックス-銅接合体は、窒化物セラミックスと無酸素銅とをTiを含むろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有することを特徴とする。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ耐ヒートサイクル性を改善することのできる窒化珪素-銅接合体およびその製造方法を提供することができる。」
(c)「【0014】
本発明のセラミックス-銅接合体は、セラミックスと無酸素銅とをTiを含むろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であり、該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有する。・・・本発明のセラミックス-銅接合体に用いられるセラミックスは、回路基板または放熱基板として用いられるため、熱伝導率が高く、強度が高い窒化珪素または窒化アルミニウムなどの窒化物セラミックスからなることが好ましい。また使用する無酸素銅の含有酸素量は50ppm以下とすることが好ましく、更に好ましくは2~50ppmである。
【0015】
図1に示す回路基板8は、例えば、以下の通りにして製造できる。
[窒化物セラミックスの作製]
まず、本発明に好適に用いることのできる窒化物セラミックス4の製造方法について説明する。窒化物セラミックスの構成原料である窒化物原料粉末および焼結助剤に溶媒および分散剤を添加しボールミルで混合、粉砕する。ここで、混合、粉砕した原料に、バインダー、可塑剤を添加、混練し、粘度が所定の値になるように調整しスラリーとする。スラリーをドクターブレード法、押出し法等のシート成形手段により所定板厚でシート成形する。このシート成形体を所定形状に切断後、脱脂し、焼結炉内で1800~2000℃の窒素雰囲気で焼結して窒化物セラミックス(以下、セラミックス基板とも記す)4を得る。本発明のセラミックス-銅接合体に用いられるセラミックスは、回路基板または放熱基板として使用されることから、強度、放熱性を考慮して、その厚さは、0.1~1mmの板状形状であることが好ましい。セラミックスの厚さが0.1mm未満の場合は、回路基板または放熱基板とした場合に破損することもあるからであり、1mmを超えると放熱性が低下することもあるからである。同様の理由から、より好ましい厚さは0.2~0.7mmであり、更に好ましくは、0.3~0.5mmである。
【0016】
[無酸素銅板の酸化]
セラミックス基板4とほぼ同じ長方形状の二枚の無酸素銅板を用意する。一方は回路側金属板3となる無酸素銅板であり、他方は放熱側金属板5となる無酸素銅板である。無酸素銅板の回路基板または放熱基板として使用されることから、厚さは、0.1mm~3mmが好ましい。無酸素銅板の厚さが0.1mm未満の場合は、セラミックス-銅接合体が変形することもあるからであり、3mmを超えると、セラミックスとの接合界面の応力が高くなって、セラミックスが破損することもあるからである。より好ましい無酸素銅板の厚さは0.2~2mmであり、更に好ましくは0.2~0.6mmである。
これらの無酸素銅板の表面を高温の空気中で酸化処理する。酸化処理する際の空気の温度は100~300℃であり、好ましくは100~200℃である。100℃未満では酸化の効果が不十分であり、300℃を超えると酸化処理後に、表面の酸化膜が不均一に剥離し易くなり好ましくない。
【0017】
[回路基板の作製]
セラミックス基板4の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層10,11を印刷形成する。ろう材層を印刷する厚さは、接合後のろう材層の厚さが2~50μmとなる厚さとすることが好ましい。接合後のろう材層の厚さが2μm未満であると、セラミックス基板または無酸素銅板の表面にうねりや反りにより接合できないこともあるからであり、接合後のろう材層の厚さが50μmを超えると、接合体として十分な強度が得られないこともあるからである。より好ましい接合後のろう材層の厚さは、5~40μmであり、更に好ましくは10~20μmである。
窒化物セラミックスと無酸素銅とを接合する活性金属ろう材の組成はAgおよびCuを主成分とすることが好ましく、特にAg-Cu-In-Ti系合金粉末からなるろう材が好ましく、活性金属であるチタンの含有量は従来と同等の0.5~9重量%とすることができ、好ましくは0.5~5重量%、更に好ましくは1~3重量%とすることができる。少なすぎると十分な接合強度が得られず、多量に添加すると、ろう材そのものが脆化する。特に好ましいチタンの量は1~3重量%である。ろう材の酸素含有量は金属回路/ろう材相/窒化珪素基板間の安定した接合強度が得やすいことから5~1000ppmとすることが好ましい。活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し加圧・加熱してセラミックス基板と接合する。接合条件は、加熱温度700~850℃、無酸素銅板とセラミックス基板の押付け圧力1400~15200Paとすることが好ましい。冷却後、両方の面の無酸素銅板上にレジストパターンを形成後に、塩化第二鉄溶液によってエッチング処理して回路側金属板3と放熱側金属板5を形成する。ろう材層のうち露出した部分は過酸化水素とフッ化アンモニウムとの混合溶液によりエッチング除去する。さらに回路側金属板及び放熱側金属板にNi-Pメッキを施し回路基板8を作製する。」
b 前記a(a)の記載によれば、甲第3号証には「セラミックス-銅接合体」が記載されており、当該「セラミックス-銅接合体」は、窒化物セラミックスと無酸素銅とをTiを含むろう材層を介して接合した「セラミックス-銅接合体」であり、該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有するものである。
そして、前記a(c)の記載によれば、前記「セラミックス-銅接合体」に用いられるセラミックスは、窒化アルミニウムなどの窒化物セラミックスが好ましいものであり、その製造方法は、窒化物セラミックスの構成原料である窒化物原料粉末および焼結助剤に溶媒および分散剤を添加しボールミルで混合、粉砕し、ここで、混合、粉砕した原料に、バインダー、可塑剤を添加、混練し、粘度が所定の値になるように調整しスラリーとし、スラリーをドクターブレード法、押出し法等のシート成形手段により所定板厚でシート成形し、このシート成形体を所定形状に切断後、脱脂し、焼結炉内で1800~2000℃の窒素雰囲気で焼結して窒化物セラミックス(以下、セラミックス基板とも記す)を得るものである。
次に、セラミックス基板とほぼ同じ長方形状の二枚の無酸素銅板を用意し、これらの無酸素銅板の表面を高温の空気中で酸化処理するものであり、酸化処理する際の空気の温度は100~300℃であり、更に、セラミックス基板の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層を印刷形成するものであり、ろう材を印刷する厚さは、接合後のろう材層の厚さが2~50μmとなる厚さとすることが好ましいものであり、窒化物セラミックスと無酸素銅とを接合する活性金属ろう材の組成は、Ag-Cu-In-Ti系合金粉末からなるろう材が好ましいものであり、活性金属であるチタンの含有量は、0.5~9重量%とすることができるものであり、最後に、活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し加圧・加熱してセラミックス基板と接合するものであり、接合条件は、加熱温度700~850℃、無酸素銅板とセラミックス基板の押付け圧力1400~15200Paとすることが好ましいものである。
c 前記bによれば、甲第3号証には、
「窒化物セラミックスと無酸素銅とをTiを含むろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体であって、該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有するセラミックス-銅接合体であり、
前記セラミックス-銅接合体に用いられるセラミックスは、窒化アルミニウムなどの窒化物セラミックスが好ましいものであり、その製造方法は、窒化物セラミックスの構成原料である窒化物原料粉末および焼結助剤に溶媒および分散剤を添加しボールミルで混合、粉砕し、ここで、混合、粉砕した原料に、バインダー、可塑剤を添加、混練し、粘度が所定の値になるように調整しスラリーとし、スラリーをドクターブレード法、押出し法等のシート成形手段により所定板厚でシート成形し、このシート成形体を所定形状に切断後、脱脂し、焼結炉内で1800~2000℃の窒素雰囲気で焼結して窒化物セラミックス(以下、セラミックス基板とも記す)を得るものであり、
セラミックス基板とほぼ同じ長方形状の二枚の無酸素銅板を用意し、これらの無酸素銅板の表面を高温の空気中で酸化処理するものであり、酸化処理する際の空気の温度は100~300℃であり、
セラミックス基板の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層を印刷形成するものであり、ろう材を印刷する厚さは、接合後のろう材層の厚さが2~50μmとなる厚さとすることが好ましいものであり、窒化物セラミックスと無酸素銅とを接合する活性金属ろう材の組成は、Ag-Cu-In-Ti系合金粉末からなるろう材が好ましいものであり、活性金属であるチタンの含有量は、0.5~9重量%とすることができるものであり、
前記活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し、加圧・加熱してセラミックス基板と接合するものであり、接合条件は、加熱温度700~850℃、無酸素銅板とセラミックス基板の押付け圧力1400~15200Paとすることが好ましいものである、セラミックス-銅接合体。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
(イ)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下のa~bの記載がある。
a「1 窒化ケイ素、窒素アルミニウムおよびサイアロンから選ばれた窒化物セラミツクス焼結体と他のセラミツクス焼結体または金属部材とが、
(a)銅もしくは銅合金および(b)チタンと前記窒化物セラミツクス焼結体から拡散移行した窒素原子との反応により形成された窒化チタンを主体とする化合物層を介して接合されてなることを特徴とする窒化物セラミツクス接合体。」(特許請求の範囲)
b「(A)の方法
(1) 第1図に示すように、窒化ケイ素、窒素アルミニウムおよびサイアロンから選ばれた窒化物セラミツクス焼結体1,1の接合面および銅もしくは銅合金箔2の表面に、チタン等の粉末を有機溶剤に分散させてスラリーとして塗布し加熱乾燥して、チタン等の粉末層3を形成し、この粉末層3を対向させて重ね合せ不活性雰囲気中で介在層の融点以上の温度で焼成して一体化させる。
(2) 金属部材として、銅や銅合金を用いる場合には、第2図に示すように、窒化物セラミツクス焼結体1と金属部材4との接合面に、チタン等の粉末を有機溶剤に分散させたスラリーを塗布し、加熱乾燥して、チタン等の粉末層3を形成し、このチタン等の粉末層3を対向させて重ね合わせ不活性雰囲気中で介在層の融点以上の温度で焼成して一体化させる。
・・・
このようにして接合されたセラミツクス接合体の接合部の界面には、窒化物セラミツクス焼結体中の窒素とチタン等との反応によるチタンの窒化物を含む化合物層が形成され、また銅もしくは銅合金のチタンと合金化されて種々の組成の合金化相を形成する。
また、窒化物セラミツクス焼結体として窒化ケイ素やサイアロンのようにケイ素を含有するセラミツクス焼結体を用いた場合には、TiNの他に、例えばTi5Si3やTiSi2のようなSi-Ti化合物やSi-Ti-N化合物、Si-Ti-Cu化合物等も接合界面に形成される。これらの界面生成物は被接合物であるケイ素を含有する窒化物セラミツクス焼結体の結晶格子とエピタキシー関係をもつて成長するものと考えられ、これによりさらに高強度となる。」(3ページ左欄2行~右欄24行。当審注:「(1)」、「(2)」は「○に1」、「○に2」と記載されている。また、「Ti5Si3」は「Ti5Si3」の誤記である。)
イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「窒化物セラミックス」は、窒化アルミニウムが好ましいものであるから、本件発明1における「Al系セラミックスからなるセラミックス部材」に相当し、甲3発明における「無酸素銅」、「ろう材層」及び「セラミックス-銅接合体」は、それぞれ、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」、「前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層」及び「接合体」に相当する。
すると、本件発明1と甲3発明とは、
「Al系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層が形成されている、接合体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1”:本件発明1は、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されて」いるのに対して、甲3発明は、「接合層」において前記「結晶質の活性金属化合物層」が形成されているか否かが明らかでない点。
・相違点2”:本件発明1は、「前記活性金属化合物層の前記銅部材側の界面から前記銅部材に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲におけるAl濃度が0.15at%以下である」のに対して、甲3発明は、前記「Al濃度」が明らかでない点。
(イ)始めに、前記(ア)の相違点1”が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲第3号証には、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されて」いることは記載されていない。
そこで、「接合体」の製造方法の観点から検討すると、甲3発明は、「窒化物セラミックスと無酸素銅とをTiを含むろう材層を介して接合した」ものであるから、「セラミックス部材」と「銅部材」の間に、ろう材と、チタン材のような「活性金属」からなる材料を積層して、加圧、加熱して接合するものとはいえない。
そうすると、前記(1)イ(エ)に記載したのと同様の理由により、製造方法の観点からみても、甲3発明に係る「接合体」が、「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成され」るものとはいえない。
(ウ)更に、甲第4号証の記載事項から、甲3発明が、前記相違点1”に係る本件発明1の発明特定事項を有するものといえるか否かについて検討すると、前記ア(イ)a、bの記載によれば、甲第4号証には、窒化ケイ素、窒素アルミニウムおよびサイアロンから選ばれた窒化物セラミツクス焼結体と他のセラミツクス焼結体または金属部材とが、(a)銅もしくは銅合金および(b)チタンと前記窒化物セラミツクス焼結体から拡散移行した窒素原子との反応により形成された窒化チタンを主体とする化合物層を介して接合されてなる窒化物セラミツクス接合体が記載されており、当該窒化物セラミツクス接合体は、金属部材として、銅や銅合金を用いる場合には、窒化物セラミツクス焼結体と金属部材との接合面に、チタン等の粉末を有機溶剤に分散させたスラリーを塗布し、加熱乾燥して、チタン等の粉末層を形成し、このチタン等の粉末層を対向させて重ね合わせ不活性雰囲気中で介在層の融点以上の温度で焼成して一体化させるものである。
そして、窒化物セラミツクス焼結体として窒化ケイ素やサイアロンのようにケイ素を含有するセラミツクス焼結体を用いた場合には、TiNの他に、例えばTi5Si3やTiSi2のようなSi-Ti化合物やSi-Ti-N化合物、Si-Ti-Cu化合物等も接合界面に形成され、これらの界面生成物は被接合物であるケイ素を含有する窒化物セラミツクス焼結体の結晶格子とエピタキシー関係をもつて成長するものと考えられ、これによりさらに高強度となるものである。
(エ)前記(ウ)によれば、甲第4号証には、窒化物セラミツクス焼結体と金属部材との接合面に、チタン等の粉末を有機溶剤に分散させたスラリーを塗布し、加熱乾燥して、チタン等の粉末層を形成し、このチタン等の粉末層を対向させて重ね合わせ不活性雰囲気中で介在層の融点以上の温度で焼成して一体化させるに際して、窒化物セラミツクス焼結体として窒化ケイ素やサイアロンのようにケイ素を含有するセラミツクス焼結体を用いた場合には、接合界面に形成する界面生成物は、被接合物であるケイ素を含有する窒化物セラミツクス焼結体の結晶格子とエピタキシー関係をもつて成長することが記載されているといえる。
ところが、甲3発明は、「セラミックス部材」と「銅部材」とを、好ましくは、Ag-Cu-In-Ti系合金粉末からなるろう材により接合するものであって、チタン等の粉末層を用いるものではないから、甲第4号証に記載された事項から、甲3発明の「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成され」ているということもできない。
したがって、甲3発明が、前記相違点1”に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはいえないので、前記相違点1”は実質的な相違点である。
(オ)次に、前記相違点1”の容易想到性について検討すると、前記ア(ア)a(b)の記載によれば、甲3発明は、活性金属を含むろう材接合層により接合した窒化珪素回路基板は、ろう材接合層を脆化させるため、接合後の冷却過程やパワー半導体素子による加熱・冷却サイクルの付加により繰り返し熱応力が発生すると、ろう材接合層においてクラックが生じる、といった課題を解決するものであって、窒化物セラミックスと無酸素銅とをTiを含むろう材層を介して接合したセラミックス-銅接合体を、該接合体の接合界面を含む断面において前記無酸素銅と前記ろう材層との第1界面にTi濃度の第1ピークを有し、前記ろう材層と前記窒化物セラミックスとの第2界面にTi濃度の第2ピークを有するものとして、ろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ耐ヒートサイクル性を改善することのできる窒化珪素-銅接合体を提供するものであり、好ましいろう材として、Ag-Cu-In-Ti系合金粉末からなるろう材が挙げられるものである。
すると、甲3発明は、「セラミックス部材」と「銅部材」とを、Ag-Cu-In-Ti系合金粉末からなるろう材のような、Tiを含むろう材層を介して接合することを前提としたものであるから、甲3発明においては、甲第4号証のように、「セラミックス部材」と「銅部材」とをチタン等の粉末層を用いて接合することはそもそも想定できないので、仮に、甲第4号証に記載された接合界面に形成する界面生成物が、結晶質のTiN層といえるとしても、甲3発明において、甲第4号証に記載された、チタン等の粉末層を用いて接合する接合方法を採用する動機付けは存在しない。
すると、甲3発明において、前記相違点1”に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではない。
したがって、前記(ア)の相違点2”について検討するまでもなく、前記本件発明1は、甲3発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、更に本件発明2~8について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人の主張について
(ア)前記相違点1”についての申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
甲第4号証には、窒化物セラミックスと銅部材をTi系ろう材を介して接合した接合体が記載されており、このとき接合界面に形成される界面生成物は、被接合物であるケイ素を含有する窒化物セラミツクス焼結体の結晶格子とエピタキシー関係をもって成長するから、多結晶体である。
すると、窒化物セラミックスの上に形成されたTiN層は結晶質となるのであり、窒化物セラミックスを、構成元素としてAlを用いたサイアロンとした場合でも同じTiN層が形成されるから、甲3発明のTiN層も、結晶質を有するものと推認されるので、「セラミックス部材」と「銅部材」の界面に形成されたTiNを結晶質とすることは、当業者が容易になし得ることである(特許異議申立書45ページ下から5行~46ページ下から3行)。
(イ)以下、前記(ア)の主張について検討すると、甲第4号証に記載された事項から、甲3発明の「接合層」において、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成され」ているということはできないことは、前記イ(エ)に記載したとおりであるし、甲3発明において、甲第4号証に記載された、チタン等の粉末層を用いて接合する接合方法を採用する動機付けは存在しないことは、前記イ(オ)に記載したとおりであるから、甲3発明において、「セラミックス部材」と「銅部材」の界面に形成されたTiNを結晶質とすることは、甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではないので、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~8は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、前記第3の2(3)の特許異議申立理由も理由がない。
(4)まとめ
よって、前記第3の2の特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての特許異議申立理由もいずれも理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700154