特許異議申立
2023-700064
廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスの処理方法
- 審判番号
- 2023-700064
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-033756
- 登録番号
- 7106776
- 請求日
- 2023年01月20日
- 審決日
- 2023年06月07日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JX金属株式会社
- 【権利者代理人】アクシス国際弁理士法人
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 関根 裕
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (B09B) / P1651.537-Y (B09B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7106776号発明「廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスの処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7106776号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7106776号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許は、令和4年3月4日(優先権主張 令和3年3月5日(以下「本件優先日」ともいう。) 日本国)に出願され、令和4年7月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年1月20日に特許異議申立人中川賢治(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスの処理方法であって、
溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、前記カバーガラスを前記SiO2源の一部として供給することを含み、前記カバーガラスに由来するNaの量を基準に、前記カバーガラスの供給量を調整することを含む、処理方法。
【請求項2】
廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスの処理方法であって、
溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、前記カバーガラスを前記SiO2源の一部として供給することを含み、前記カバーガラス及び他のSiO2源を混合してから、前記非鉄製錬炉に供給することをさらに含む、処理方法。
【請求項3】
前記SiO2源は、前記カバーガラス及び珪酸鉱を含み、前記SiO2源の合計質量に対し、前記カバーガラスの供給量を10%以下とする、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記カバーガラスを前記珪酸鉱の粉砕装置に投入し、前記珪酸鉱とともに粉砕及び混合することをさらに含む、請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記非鉄製錬炉は銅製錬用の自溶炉又は転炉である、請求項1~4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記カバーガラスは、少なくとも前記カバーガラスと、フレームと、太陽電池セルと、封止剤と、ケーブルとを有する廃太陽光発電パネルから由来するものであり、
前記方法は、さらに前記フレーム及び前記ケーブルを分離する分離工程を含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
さらに、前記分離工程の後、前記カバーガラスを剥離することで、前記太陽電池セル及び前記封止剤から前記カバーガラスを分離し、前記カバーガラスを前記SiO2源の一部として非鉄製錬炉に供給する工程を含む、請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
さらに、前記カバーガラスから分離した前記太陽電池セル及び前記封止剤を焼却し、焼却物を非鉄製錬炉で処理する工程を含む、請求項7に記載の処理方法。」
第3 特許異議申立ての理由の概要
1 申立人は、証拠方法として下記2の甲第1号証~甲第8号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲8」ともいう。)を提出し、下記3の特許異議申立ての理由を主張する。なお、下記甲1~8は、いずれも本件優先日より前に公知となったものである。
2 証拠方法
甲1:特開2001-305502号公報
甲2:平成26年度 成果報告書 太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト/低コスト分解処理技術F/S(開発)「結晶シリコン太陽電池モジュールのリサイクル技術開発」、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構((委託先)三菱マテリアル株式会社)発行、平成27年2月
甲3:Elmira Moosavi-Khoonsari, et. al., "Critical evaluation and thermodynamic optimization of the Na2O-FeO-Fe2O3-Al2O3-SiO2 system", METALLURGICAL AND MATERIALS TRANSACTIONS, Vol. 47B, FEBRUARY 2016, June 2004, p.291-308
(URL:https://www.reserchgate.net/publication/283487441_Critical_Evaluation_and_Thermodynamic_Optimization_of_the_Na2O-FeO-Fe2O3-SiO2_System)
甲4:中野紘伸、「細倉鉛製錬における高濃度フッ素排水処理の改善」、全国鉱山・製錬所現場担当者会議-2018-「製錬講演集」、日本鉱業協会発行、平成30年6月、41~43頁
甲5:特開2002-239833号公報
甲6:Cajsa Samuelsson, et. al., "Investigations on the Metallurgical Use of CRT and LCD Glass", IEEE International Symposium on Electronics and the Environment, 2004, p.231-236
(URL:https://www.computer.org/csdl/proceedings-article/isee/2004/01299721/120mNBrlPA6)(DOI:10.1109/ISEE.2004.1299721)
甲7:特開2003-3220号公報
甲8:特開2015-110201号公報
3 特許異議申立ての理由
(1)申立理由1(進歩性:特許法第29条第2項)
本件発明1~8は、甲1に記載された発明及び甲2~甲8に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)の規定により取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明3~8は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。
第4 申立理由1(進歩性)について
1 甲号証の記載
(1)甲1には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、液晶パネルの製造工場において廃棄される廃液晶パネル、液晶表示装置の組立工場にて廃棄された液晶表示装置を分解処理して排出される廃液晶パネル、液晶を応用した製品の製造工場にて廃棄された製品を分解処理して排出される廃液晶パネル、および、市場にて廃棄された情報表示装置や映像表示装置等を解体処理して排出される廃液晶パネルを、再利用可能となるように処理する廃液晶パネルの処理方法に関するものである。」
「【0031】一方、上記パネル切断工程においてガラス基板1・1が切断された後の液晶パネル、つまり、液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片(シール樹脂体2を含む周辺部分)は、多量のSiO2を含んでいるので、適当な大きさに破砕若しくは粉砕した後、図1に示すように、例えば非鉄製錬炉に投入して珪石代替材料として、或いは、タイル材料として、好適に再利用することができる。ガラス切断片を珪石代替材料として用いた場合には、非鉄製錬炉内における化学反応によってSiO2が鉄等と結合するので、該非鉄製錬炉内に存在する鉄等の不純物をスラグとして取り除くことができる。尚、ガラス切断片にはシール樹脂体2や液晶等の有機物が混入しているが、有機物は燃焼材となるので、非鉄製錬炉を加熱する際の省エネルギー化に寄与することができる。また、1000℃を超える非鉄製錬炉内で有機物を燃焼させるので、該有機物を安全に処理することができる。さらに、一部の液晶パネルに使用されているクロムも酸化クロムとなって無害化されるので、安全に処理することができる。」
「【0053】ここで、液晶パネルのガラス基板1の材料として用いられているガラスの代表的な化学組成を、表1に示す。表中におけるガラス品種「S」はソーダガラスである。このガラスは、ナトリウムやカリウムを含有することから、蛍光X線分析機を用いて容易に判別することができる。ガラス品種「A」~「E」は、主にTFT液晶パネルに用いられているアルミノホウ珪酸ガラスと呼ばれる無アルカリガラスである。このガラスは、SiO2、Al2O3、B2O3、BaOを主成分とするのが特徴である。
【0054】
【表1】
[図:0001399391000001.jpg]
」
(2)甲2には、次の記載がある。
ア 6頁6~16行
「
[図:0001399391000002.jpg]
」
イ 7頁15行
「
[図:0001399391000003.jpg]
」
ウ 8頁「表2-4-1」
「
[図:0001399391000004.jpg]
」
(3)甲3のp.297「Fig. 2」には、次の記載がある。申立人による仮訳、仮想線付きのFig. 2、及びその解説を付した。
「
[図:0001399391000005.jpg]
」
(仮訳)
[図:0001399391000006.jpg]
(仮想線付きのFig. 2、及びその解説)
[図:0001399391000007.jpg]
[図:0001399391000008.jpg]
(4)甲4の41頁の図2には、次の記載がある。
「
[図:0001399391000009.jpg]
」
(5)甲5には、次の記載がある。
「【0106】非鉄精錬でのリサイクル処理方法は、液晶パネルに使われるガラスがSiO2を多く含むことに着目してなされたものであり、非鉄製錬炉では、ガラスはフラックス剤である珪石の代替材料として融点を下げ、流動性を増す働きと、不純物である鉄と化合して鉄を除去する働きをする。この結果、珪石の使用量を削減することができ、また、炉の設定温度を低くすること、つまり、エネルギー投入量を少なくすることができ、コストを削減することも可能となる。」
「【0108】しかし、非鉄製錬炉では、炉内の温度を正確に一定に保つ必要があることから、大量に投入する原料、還元剤、フラックス剤等は、あらかじめ混錬されて一定の大きさ、形状に成型しておくことが必要である。このため、廃液晶パネルは、前もって所定の大きさ以下に粉砕しておくことが必要となる。偏光板を効率よく粉砕するには剪断力が必要であるが、1軸粉砕機を用いた本発明に係る処理方法は、偏光板を十分に粉砕することができる。」
(6)甲6には、次の記載がある。申立人による抄訳を付した。
ア 231頁、表題
「Investigations on the Metallurgical Use of CRT and LCD Glass」
(抄訳)
[図:0001399391000010.jpg]
イ 231頁左欄「Abstract」
「Abstract:Thenon-ferroussmeltingindustryisamajorconsumerofsilicafluxwiththeaimtoformafayaliteslag.Whereaslead-silicateglass,withleadoxideasamajorconstituent,isbeenusedasaslagformeratleadsmelters,coppersmeltershavebeenreluctant.TheintegrationofCRTandLCDglassfractionsintoslagshasbeeninvestigated.」
(抄訳)
[図:0001399391000011.jpg]
ウ 232頁右欄1~12行
「Fromthisitmaybeestimatedthatmany concentratesneedsilicafluxadditionstoachieve theaimedatslagcompositions.TheoreticallySiO2 inglassmayreplaceSiO2-fluxadditions,giventhat theadditivemakesSiO2readilyavailable,thatany otherconstituentsdonotinfluencetheprocess negativelyandthatit'seconomicallyviable.
Dependingontheconcentrateandthecomposition oftherecycledglass, itcanreplaceSiO2flux.
Todaysmeltersusenaturalfluxvaryingbetween75-98%SiO2.Moreclaritymaybegainedfrom the subsequentconsiderations:」
(抄訳)
[図:0001399391000012.jpg]
[図:0001399391000013.jpg]
(7)甲7には、次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】銅製錬における電気銅は、下記方法で製造する。即ち、まず銅鉱石を、例えば自溶炉等で溶解し、カラミと銅硫化物と鉄硫化物とに富むカワを得る。カワは転炉で酸化し、得た粗銅は精製炉で精製する。純度が98~99wt%の精製銅は、銅電解精製用の陽極板(以下、アノードと記す)として鋳造する。アノードと陰極板(以下、カソードと記す)を、電解液の硫酸銅溶液を入れた電解槽中に交互に一定間隔で並べ、適当な電解条件で通電してアノードから電解液中に溶け出た銅イオンをカソードに電着させ、高純度の銅(電気銅)を得る。」
「【0016】精製炉中に装入した粗銅に対して、Na源としてのソーダ灰とCaO源としての生石灰との組み合わせ、あるいはソーダ灰と硅石とを組み合わせた添加剤(以後フラックスという)を投入する。添加剤は、精製炉に設けた装入口から直接溶湯上に投入することができる。例えば、溶銅等の装入に用いる容器に秤量した添加剤を載せ、この容器から装入口を通して直接精製炉内の溶湯上に投入する。精製炉へフラックスを投入する時期は、精製炉に粗銅を入れた直後でも良いが、酸化銅を含むカラミを排出した後とする方がより効果的となり望ましい。
【0017】Na源としてのソーダ灰は、市販の工業品を用いれば良く品位は90%以上であれば良い、また形状は炉の装入した場合に炉内で飛散しないように、顆粒状、フレーク状のものを選ぶ。また、ソーダ灰のNaを本発明の反応で利用するので、例えばNaを含むガラス等も利用できる。」
(8)甲8には、次の記載がある。
「【0024】
まず、分解工程について説明する。分解工程では、耐用年数が経過したり設備償却が済むなどして不要となった太陽電池モジュール1の太陽電池パネル40からフレーム2、端子ボックス9及び出力ケーブル8を取り外すとともに、太陽電池パネル40に残留しているシール材11を除去する。このようにして、カバーガラス3、太陽電池素子4、充填材7及び裏面保護材10を含む太陽電池パネル40を太陽電池モジュール1から分離する。フレーム2、出力ケーブル8及び端子ボックス9は、資源として再利用される。」
2 甲1に記載された発明
甲1(前記1(1)参照。)の【0031】には、「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片(シール樹脂体2を含む周辺部分)」を「適当な大きさに破砕若しくは粉砕した後」、「非鉄製錬炉に投入して珪石代替材料として」「再利用すること」、及び「ガラス切断片を珪石代替材料として用いた場合には、非鉄製錬炉内における化学反応によってSiO2が鉄等と結合するので、該非鉄製錬炉内に存在する鉄等の不純物をスラグとして取り除くことができる」ことが記載されているから、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片(シール樹脂体2を含む周辺部分)を適当な大きさに破砕若しくは粉砕した後、非鉄製錬炉に投入して珪石代替材料として再利用する方法であって、
ガラス切断片を珪石代替材料として用いた場合には、非鉄製錬炉内における化学反応によってSiO2が鉄等と結合するので、該非鉄製錬炉内に存在する鉄等の不純物をスラグとして取り除くことができる方法」
3 対比・判断
(1)本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」と、本件発明1の「廃太陽光発電パネル由来のカバーガラス」とは、ともに「ガラス」である点で共通する。
甲1発明の「ガラス切断片(シール樹脂体2を含む周辺部分)を適当な大きさに破砕若しくは粉砕した後、非鉄製錬炉に投入して珪石代替材料として再利用する方法」は、本件発明1の「溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、」「[S1][K2]ガラスを前記SiO2源」「として供給する」「処理方法」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ガラスの処理方法であって、
溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、前記ガラスを前記SiO2源として供給する、処理方法。」
<相違点1>
本件発明1は「廃太陽光発電パネル由来のカバーガラス」を「SiO2源の一部として供給する」ものであるのに対し、甲1発明は「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」を「非鉄製錬炉に投入して珪石代替材料として再利用する」ものである点。
<相違点2>
本件発明1は「カバーガラスに由来するNaの量を基準に、」「カバーガラスの供給量を調整する」のに対し、甲1発明は、ガラスに由来するNaの量を基準に、ガラスの供給量を調整するものでもない点。
まず、相違点1について検討する。甲1発明は、甲1(前記1(1)参照。)の【0001】に「本発明は」「廃液晶パネルを、再利用可能となるように処理する廃液晶パネルの処理方法に関するものである。」と記載されるとおり、廃液晶パネルの処理方法に関するものである。そして、甲1の【0053】~【0054】には、ガラス品種として「ナトリウムやカリウムを含有する」「ソーダガラス」と、「主にTFT液晶パネルに用いられているアルミノホウ珪酸ガラスと呼ばれる無アルカリガラス」があることが記載されているが、甲1発明の「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」が「ソーダガラス」であるとの記載はない。
これに対し、甲2の6頁6~16行(前記1(2)ア参照。)には、「太陽電池パネルから回収したガラスをグラスウール等の原料として再資源化するためには、ガラスの組成を把握する必要がある。」と記載され、同8頁「表2-4-1」(前記1(2)ウ参照。)には、太陽電池パネルから回収したガラスの組成として、Na2Oを13.50~14.80%、MgOを3.20~3.80%、CaOを9.00~9.50%含むものが記載されているが、この「太陽電池パネルから回収したガラス」を、非鉄製錬炉にSiO2源の一部として供給することについては、記載も示唆もない。
そうすると、甲2に記載された「太陽電池パネルから回収したガラス」がソーダガラスと同様の組成を有するとしても、「ソーダガラス」とはいえない甲1発明の「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」に代えて、甲2発明の「太陽電池パネルから回収したガラス」を採用し、非鉄製錬炉にSiO2源の一部として供給する動機付けがあるとはいえないから、前記相違点1は、甲1及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たことではない。
次に、相違点2について検討する。甲3のp.297「Fig. 2」には、「Na2O-FeO-SiO2系の最適化された液相投影三元状態図」が記載され、「Na2O」、「FeO」及び「SiO2」の含有量によってスラグの性状が変化することが示されている。しかしながら、甲1発明を認定した甲1には、SiO2とスラグの関係についての記載があるものの、Na2Oとスラグの関係については記載も示唆もない。そうすると、前記「三元状態図」に接した当業者であっても、Na2Oに着目していない甲1発明に基いて、「ガラスに由来するNaの量を基準に、」「ガラスの供給量を調整する」ことは、容易になし得たことではない。
そうすると、本件発明の効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲1~甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲4(前記1(4)参照。)には「図2 細倉の鉛精錬フロー」として、溶融炉に溶剤とガラスくずを投入することが記載され、甲5(前記1(5)参照。)の【0108】には「非鉄製錬炉では、炉内の温度を正確に一定に保つ必要があることから、大量に投入する原料、還元剤、フラックス剤等は、あらかじめ混錬されて一定の大きさ、形状に成型しておくことが必要である。このため、廃液晶パネルは、前もって所定の大きさ以下に粉砕しておくことが必要となる。」と記載され、甲6(前記1(6)ア~ウ参照。)には、CRT及びLCDガラスを、銅精錬所のスラグに組み込むことについて、天然フラックスを、リサイクルガラスの濃縮度や組成に応じて、SiO2フラックスと置き換えることができることが記載され、甲7(前記1(7)参照。)の【0002】には、「銅製錬における電気銅は、」「まず銅鉱石を、例えば自溶炉等で溶解し、カラミと銅硫化物と鉄硫化物とに富むカワを得」、「カワは転炉で酸化し、得た粗銅は精製炉で精製する」ことが記載され、甲8(前記1(8)参照。)の【0024】には、「不要となった太陽電池モジュール1の太陽電池パネル40からフレーム2、端子ボックス9及び出力ケーブル8を取り外すとともに、太陽電池パネル40に残留しているシール材11を除去」し、「カバーガラス3、太陽電池素子4、充填材7及び裏面保護材10を含む太陽電池パネル40を太陽電池モジュール1から分離」し、「フレーム2、出力ケーブル8及び端子ボックス9は、資源として再利用される」ことが記載されているとしても、甲4~甲8のいずれにも、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスを、非鉄精錬炉に、SiO2源の一部として供給することや、ガラスに由来するNaの量を基準に、ガラスの供給量を調整することについては、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明の効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲4~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明1は、甲1発明、及び甲1~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2
本件発明2と甲1発明を対比すると、甲1発明の「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」と、本件発明2の「廃太陽光発電パネル由来のカバーガラス」とは、ともに「ガラス」である点で共通する。
甲1発明の「ガラス切断片(シール樹脂体2を含む周辺部分)を適当な大きさに破砕若しくは粉砕した後、非鉄製錬炉に投入して珪石代替材料として再利用する方法」は、本件発明2の「溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、」「ガラスを前記SiO2源」「として供給する」「処理方法」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ガラスの処理方法であって、
溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、前記ガラスを前記SiO2源の一部として供給する、処理方法。」
<相違点3>
本件発明2は「廃太陽光発電パネル由来のカバーガラス」を「SiO2源の一部として供給する」ものであるのに対し、甲1発明は「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」を「非鉄製錬炉に投入して珪石代替材料として再利用する」ものである点。
<相違点4>
本件発明1は「カバーガラス及び他のSiO2源を混合してから、」「非鉄製錬炉に供給する」のに対し、甲1発明は、ガラス及び他のSiO2源を混合してから供給するか否かは定かでない点。
まず、相違点3について検討する。相違点3は、前記(1)の相違点1と同じであり、前記(1)で検討したとおり、甲1発明、及び甲1~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そうすると、相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明、及び甲1~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3~8
本件発明3~8は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、いずれも本件発明1又は2を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。よって、本件発明3~8は、前記(1)及び(2)に示したのと同じ理由により、甲1発明、及び甲1~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 進歩性に係る申立人の主張
申立人は、前記3(1)の相違点1の容易性について、特許異議申立書の13頁20~26行において、甲2には太陽光発電パネルのカバーガラスはNa2Oを含むソーダガラスで構成されていることが開示され、甲1にはNaを含有するソーダガラスを用いることが開示されているから、ソーダガラスからなる太陽光発電パネルのカバーガラスを、非鉄精錬炉に投入して珪石代替材料として再利用することは、当業者が容易に想到し得る事項である旨主張する。
しかしながら、甲1に開示された「ソーダガラス」は、前記3(1)に記載したとおり、ガラス品種として例示されたものであって、甲1発明の「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」が「ソーダガラス」であることを示すものではない。むしろ、液晶はアルカリ成分との相性が悪いので、液晶パネルには無アルカリガラスを用いることが多いというのが技術常識である。加えて、仮に、甲1発明の「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」が「ソーダガラス」であったとしても、「ソーダガラス」は建材の窓ガラスや飲料のガラス瓶など多種多様な分野で用いられるものであって、「ソーダガラス」であれば必ず「太陽光発電パネル」であるものではないから、甲1発明の「液晶パネルにおける枠状に残ったガラス切断片」を、数多ある選択肢の中から「太陽光発電パネル」に代えることが容易ということにはならない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
5 小括
以上のとおり、本件発明1~8は、甲1発明、及び甲1~甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
第5 理由2(サポート要件)について
1 判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、以下、この観点に沿って検討を進める。
2 本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスの処理方法に関する。」
「【0008】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、一実施形態において、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスを有効に利用する方法を提案することを課題とする。」
「【0018】
ただし、前述のように、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスは、通常のガラスと比較して、酸化ナトリウムの量が比較的に多いが、非鉄製錬炉に存在する酸化ナトリウムが多いと、スラグへのFeOの溶解度が小さくなる傾向がある。FeOの溶解度が小さくなると、2FeO・SiO2の生成反応が阻害されるので、結果として、SiO2源が溶剤として十分に機能せず、スラグの形成が阻害される恐れがある。そのため、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスは、SiO2源の全部ではなく、一部として供給する必要がある。
【0019】
好ましくは、カバーガラスに由来するNaの量を基準として、カバーガラスの供給量を調整する。より具体的には、SiO2源として、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラス及び珪酸鉱を含む場合、SiO2源の合計質量に対し、カバーガラスの供給量を10%以下とすることが好ましい。SiO2源の合計質量に対するカバーガラスの供給量の下限は特に限定されるものではないが、珪酸鉱との代替効果を得る目的で、0.1%以上、1%以上、3%以上、又は、5%以上としてもよい。カバーガラスの供給量を調整する考え方として、溶剤を含む、非鉄製錬炉に供給する装入原料全体のNa濃度に応じて調整してもよい。例えば、全ての装入原料のNa濃度(質量割合)の上限としては、0.2%以下とすることが好ましい。装入原料全体のNa濃度の下限は特に限定されるものではないが、珪酸鉱との代替効果を得る目的から、0.001%以上、0.01%以上、0.04%以上、0.05%以上、又は0.1%以上としてもよい。廃太陽光発電パネル由来のカバーガラス及び珪酸鉱以外のSiO2源は特に限定されないが、例えばテレビのブラウン管、建築用板ガラス、自動車用ガラスなどの産業系ガラスなどが考えられる。好ましくは、SiO2源は、カバーガラス及び珪酸鉱である。」
「【0028】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
(比較例のるつぼ試験)
廃太陽光発電パネルのカバーガラスと組成が類似するソーダガラスを用いて、廃太陽光発電パネルのカバーガラスと銅精鉱との反応性について模擬試験を行った。このソーダガラスの組成を表1に示す。また、通常の溶剤として使用される珪酸鉱の組成も表1に示す。このソーダガラスと珪酸鉱をディスクミルで粉砕した。
【0030】
【表1】
[図:0001399391000014.jpg]
【0031】
また、表2に示される組成を有する銅精鉱を用意した。
【0032】
【表2】
[図:0001399391000015.jpg]
【0033】
まず、加熱炉を1300℃までに昇温した。次に、Fe/SiO2が1.05となるように、銅精鉱と溶剤の割合を調整して混合し、るつぼに充填し、このるつぼを加熱炉に投入した。比較例では珪酸鉱をソーダガラスに置き換えた。表3に、参考例及び比較例において、珪酸鉱、ソーダガラス、銅精鉱それぞれの使用量、及び珪酸鉱とソーダガラスの合計質量に対するソーダガラスの割合を示す。
【0034】
【表3】
[図:0001399391000016.jpg]
【0035】
次に、1L/minの速度で空気をるつぼに吹き込み、30分間保持した。その後、加熱炉からるつぼを取り出し、大気中で自然冷却した。その結果、参考例において、スラグとマットの2相に分離し、スラグの主成分はFe2SiO4とSiO2であることを確認した。すなわち、スラグが正常に形成したことが判明した。一方、比較例では、FeとSiO2は反応せずガラスが分相し、期待されるスラグは形成せず、ソーダガラスは溶剤として機能しなかったことが分かった。その理由は、ソーダガラス由来のNa成分量が多すぎることにより2FeO・SiO2の生成反応が阻害されたことと推測される。」
3 判断
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書に記載されたすべての事項からみて、「廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスを有効に利用する方法を提案すること」(前記2の【0008】参照。)であると認められる。
この課題に対して、本件特許の明細書の【0018】には「廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスは、通常のガラスと比較して、酸化ナトリウムの量が比較的に多いが、非鉄製錬炉に存在する酸化ナトリウムが多いと、スラグへのFeOの溶解度が小さくなる傾向がある。FeOの溶解度が小さくなると、2FeO・SiO2の生成反応が阻害されるので、結果として、SiO2源が溶剤として十分に機能せず、スラグの形成が阻害される恐れがある。そのため、廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスは、SiO2源の全部ではなく、一部として供給する必要がある。」と記載されているから、当業者であれば、酸化ナトリウムの量が比較的に多い廃太陽光発電パネル由来のカバーガラスを、非鉄精錬炉に供給するSiO2源の全部ではなく、一部として供給する必要がある理由を理解できる。
そして、同【0029】~【0035】には、銅精鉱の溶剤として、珪酸鉱を用いた場合と、廃太陽光発電パネルのカバーガラスと組成が類似するソーダガラスを用いた場合とを比較した実験が記載され、【0034】の【表3】及び【0035】には、ソーダガラス0%の参考例はスラグが正常に形成されたが、ソーダガラス100.00%の比較例ではガラスが分相し、期待されるスラグが形成されず、ソーダガラスは溶剤として機能しなかったことが記載されている。
そうすると、「溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、前記カバーガラスを前記SiO2源の一部として供給する」との特定がなされた本件発明1又は2を直接又は間接的に引用して特定する本件発明3~8は、いずれも本件発明1又は2を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものであるから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
4 サポート要件に係る申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の18頁5~16行において、請求項3には「SiO2源は、」「SiO2源の合計質量に対し、」「カバーガラスの供給量を10%以下とする」と記載されているが、本件特許の明細書の実施例の欄においては、カバーガラスの供給量が8.38%及び4.29%のものしか開示されおらず、それ以外の場合に良好に操業可能であったか否かが確認されていないから、請求項3、及び請求項3を引用する請求項4~8はサポートされていない、との趣旨の主張をしている。
しかしながら、申立人は、カバーガラスの供給量が8.38%及び4.29%以外の場合に良好に操業できない具体的な証拠を示しておらず、前記3で検討したとおり、「溶剤としてSiO2源を必要とする非鉄製錬炉に、前記カバーガラスを前記SiO2源の一部として供給する」との特定がなされた本件発明1又は2を直接又は間接的に引用して特定する本件発明3~8は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
5 小括
以上で検討したとおり、本件発明3~8は、発明の詳細な説明又は技術常識に基いて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700064