特許異議申立
2022-701054
一般廃棄物焼却灰の処理方法
- 審判番号
- 2022-701054
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-218279
- 登録番号
- 7062748
- 請求日
- 2022年10月25日
- 審決日
- 2023年07月18日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JX金属株式会社
- 【権利者代理人】片山 修平
- 【異議申立人】佐伯 圭佑
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 関根 裕
- 審判官 塩見 篤史
- 分類
- P1651.537-YAA(B09B) / P1651.536-YAA(B09B) / P1651.55 -YAA(B09B) / P1651.121-YAA(B09B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7062748号発明「一般廃棄物焼却灰の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7062748号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7062748号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7062748号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成29年3月31日に出願した特願2017-72242号(以下「原出願」という。)の一部を、令和2年12月28日に新たな特許出願としたものであって、令和4年3月18日に手続補正され、令和4年4月22日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年5月6日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対して、同年10月25日に特許異議申立人 佐伯 圭佑(以下「申立人」ともいう。)により、そのすべての請求項に対して特許異議の申立てがなされたものであって、その後の経緯は、次のとおりである。
令和5年 1月18日付け 取消理由通知(当審)
同年 3月20日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 4月25日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年3月20日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を表す。
特許請求の範囲の請求項1を、
「一般廃棄物焼却灰を篩目が30~100mmの篩を用いて篩別する工程と、前記篩別する工程により篩別された篩下物を磁選する工程と、前記磁選する工程で磁選された非磁性物を、溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなり、操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉に投入する工程と、を有し、前記溶融炉に投入された前記非磁性物に含まれる鉄が酸化され、前記スラグに取り込まれる、ことを特徴とする一般廃棄物焼却灰の処理方法。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~5において、請求項2~5は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~5は、一群の請求項である。そうすると、本件訂正は、請求項1~5からなる一群の請求項ごとにされた訂正であって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
3 訂正の目的
本件訂正は、本件訂正前の「一般廃棄物焼却灰の処理方法」において、「前記溶融炉に投入された前記非磁性物に含まれる鉄が酸化され、前記スラグに取り込まれる」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正と認められる。
4 特許請求の範囲の拡張・変更の有無
本件訂正は、前記3に記載したとおり、本件訂正前の「一般廃棄物焼却灰の処理方法」のプロセスを限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
5 新規事項の有無
本件訂正の「前記溶融炉に投入された前記非磁性物に含まれる鉄が酸化され、前記スラグに取り込まれる」との訂正事項は、本件特許の明細書(後記第3の2参照。)の【0020】の「投入された非磁性物は、溶融し、非磁性物中のSiO2や溶融中に酸化されたFeやAlの酸化物等が、スラグ層14に取り込まれ、」との記載に基くものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
6 独立特許要件
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~5に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
7 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明等
1 本件訂正発明
本件訂正は前記第2のとおり認められたので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明5」といい、まとめて「本件訂正発明」もいう。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
一般廃棄物焼却灰を篩目が30~100mmの篩を用いて篩別する工程と、
前記篩別する工程により篩別された篩下物を磁選する工程と、
前記磁選する工程で磁選された非磁性物を、溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなり、操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉に投入する工程と、を有し、
前記溶融炉に投入された前記非磁性物に含まれる鉄が酸化され、前記スラグに取り込まれる、ことを特徴とする一般廃棄物焼却灰の処理方法。
【請求項2】
前記溶融炉が、投入された非磁性物に含まれる有価金属を溶融により回収できる炉であることを特徴とする請求項1に記載の一般廃棄物焼却灰の処理方法。
【請求項3】
前記溶融炉は、リサイクル原料を処理する溶融炉であることを特徴とする請求項2に記載の一般廃棄物焼却灰の処理方法。
【請求項4】
前記溶融炉が、電気炉、反射炉、炉床付きシャフト炉、長円形炉、ドラム炉、上部吹き込み式転炉のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の一般廃棄物焼却灰の処理方法。
【請求項5】
前記溶融炉から排出されたマット層を銅製錬工程にて処理して有価金属を回収することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の一般廃棄物焼却灰の処理方法。」
2 本件特許の明細書
本件特許の明細書には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、一般廃棄物焼却灰の処理方法に関する。」
「【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、シンプルな工程により、一般廃棄物焼却灰を適切に処理することが可能な一般廃棄物焼却灰の処理方法を提供することを目的とする。」
「【0011】
一般廃棄物焼却灰は、図1に示すように、まず、ステップS1において、篩目30~100mmの篩(本実施形態では50mm)の篩を用いて篩別する。ここで、篩目50mmの篩としては、例えばバケット型スケルトン(スケルトンバケット)を用いることができる。バケット型スケルトンは、ホイールローダや油圧ショベルなどの作業機に取り付けられるバケットの一つであり、底板に多数の篩目が設けられ、すくい込んだ一般廃棄物焼却灰を篩別する。この篩別により、バケット型スケルトンの篩目を通過しない篩上物と、通過する篩下物に分けられる。
【0012】
篩上物は、大型の鉄屑(例えば直径100mm以上の鉄屑など)が含まれる。この篩上物は、溶融炉での処理に適さない大きさであるため鉄スクラップとして外販することができる。
【0013】
一方、篩下物については、ステップS2において、磁力を用いた選別(磁選)が行われる。磁選には、例えばリフマグ(リフティングマグネット)を用いることができる。リフマグは、ホイールローダや油圧ショベルなどの作業機に取り付けられ、リフマグが有する電磁石の力(磁力)により、篩下物を磁性物と非磁性物に分別する
【0014】
篩下の非磁性物は、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)等の有価金属を含んでいる。また、篩下の磁性物は、小型の鉄屑を含んでいる。
【0015】
ここで、図2には、一般廃棄物焼却灰に対して図1の処理を行った場合の、篩上物、篩下物(非磁性物、磁性物)の重量、及び受け入れ時の一般廃棄物焼却灰に対する重量比率の一例が示されている。
【0016】
図2の例では、受け入れた一般廃棄物焼却灰のうち、91%が50mm篩下の非磁性物となることが分かった。
【0017】
次に、磁選された非磁性物と磁性物の処理方法について説明する。
【0018】
(非磁性物について)
非磁性物は、ステップS3において、溶融炉に投入する。なお、溶融炉の種類は問わないが、リサイクル原料を処理する炉であればよく、溶融にあたっては、スラグ層とマット層又はメタル層(以下、「マット層等」という。)を有する溶融炉であればよい。溶融炉の形式としては、たとえば、電気炉、反射炉、炉床付きシャフト炉、長円形炉、ドラム炉、上部吹き込み式転炉等を用いることができる。
【0019】
図3には、非磁性物を投入する溶融炉の一例である、溶融炉1が断面図にて示されている。図3に示すように、溶融炉1は、非磁性物の投入口11、20を有する溶融部10と、バーナータイル15とを備える。図3に示す溶融炉1への非磁性物の投入については、投入口11から非磁性物(符号「30」参照)を投入することで、一旦堆積した非磁性物(符号「40」参照)をバーナータイル15の燃焼炎16にて加熱溶融した後、溶融物41を溶融部10の湯溜り部18に存在するスラグ層14とマット層13等に流れ込ませる場合と、投入口20から直接、溶融状態のスラグ層14及びマット層13等に非磁性物を投入する場合とがある。
【0020】
投入された非磁性物は、溶融し、非磁性物中のSiO2や溶融中に酸化されたFeやAlの酸化物等が、スラグ層14に取り込まれ、一方、非磁性物中の金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)等の有価金属は溶融してマット層13に取り込まれるか、マット層13中で溶融してマット層13に取り込まれる。
【0021】
マット層13の品位としては、20~60質量%(硫化物の質量として)が好ましい。
【0022】
なお、リサイクル原料の処理工程における典型的なマット層は銅の硫化物である。
【0023】
マット層13等は、溶融状態で溶融炉1から排出された後、冷却される。冷却されたマット層13等は、必要に応じて粉砕して、マット層13等を構成する金属成分の製錬工程に持ち込まれ、目的の金属を回収するとともに、工程に付随する有価金属回収工程にて、貴金属を回収する。たとえば、マット層13等が、銅又は銅硫化物である場合には銅製錬工程に持ち込まれる。具体的には、本発明のマットは自溶炉に投入され、電解工程にて銅が製造される際に、貴金属は電解沈殿物となって貴金属の回収工程にて回収されることになる。
【0024】
一方、スラグ層14は、排出された後、冷却される。冷却されたスラグは、必要に応じて粉砕して、外販するか、そのまま、処分される。」
「【0027】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、一般廃棄物焼却灰を篩目が30~100mmの篩を用いて篩別(S1)することで、溶融炉での処理に適さない大きさの一般廃棄物焼却灰を篩上物として排除し、篩別された篩下物を磁選し(S2)、磁選された非磁性物を溶融炉に投入する(S3)。これにより、シンプルな工程により、一般廃棄物焼却灰の大きさや成分に合わせて、適切な処理を行うことが可能である。特に、本実施形態では、篩下の非磁性物を溶融炉(電気炉、反射炉等)に投入するので、非磁性物に含まれる有価金属を適切に回収することが可能である。」
「【0030】
10 溶融部
11 投入口
13 マット層
14 スラグ層
15 バーナータイル
16 燃焼炎
18 湯溜り部
20 投入口
40 堆積物
41 溶融物」
「【図3】
[図:0001402763000001.jpg]
」
第4 取消理由及び特許異議の申立ての理由について
1 取消理由通知に記載した取消理由の概要
(1)取消理由1(実施可能要件)
本件特許に係る出願は、発明の詳細な説明の記載が、後記アの点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 本件特許の明細書の発明の詳細な説明において、溶融物が「スラグ」と「銅の硫化物であるマット層」の二つに分離できるような条件は記載されていないし、鉄の融点よりも低い溶融温度で焼却灰を溶融させれば溶融物が「スラグ」と「銅の硫化物であるマット層」の二つに分離できるという技術常識もないから、「溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からな」る点を特定する本件訂正発明は、その実施において、当業者に過度の試行を強いるものといえる。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、原出願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記3の甲1に記載された発明並びに甲2及び4に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由に採用しなかった特許異議の申立ての理由の概要
(1)申立理由2(新規事項)
本件特許は、令和4年3月18日に提出した手続補正書でした補正が、後記アの点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
ア 特許請求の範囲の請求項1及び明細書の段落【0006】に「操業温度が鉄の融点より低い」との記載を追加する補正は、新たな技術事項を追加するものである。
(2)申立理由3(実施可能要件、委任省令要件違反)
本件特許に係る出願は、発明の詳細な説明の記載が、後記ア、イの点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 特許請求の範囲の請求項1において、操業温度の下限が特定されていないが、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、操業温度が1100℃未満である場合に、溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなる溶融炉をどのように実施できるのかを当業者が理解できるように記載されていないから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
イ 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなるものとするための手段、及び鉄のメタル層を作らないようにするための手段が記載されていないから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、発明の課題を解決するための手段を記載していないため、本件発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。
(3)申立理由4(明確性)
本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が、後記ア~ウの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものであり、同法第113条第4号に該当するから、本件特許は取り消されるべきものである。
ア 鉄の融点は、含まれる不純物によって大きく影響されるから、特許請求の範囲の請求項1の「鉄の融点」との記載は明確でない。
イ 特許請求の範囲の請求項1の「操業温度」との記載は、溶融物温度、炉内雰囲気温度、バーナー温度などのどこの温度を示すのかが明確でない。
ウ 特許請求の範囲の請求項1の「操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉」との記載は、操業温度の下限値が特定されて記載されていないため、その範囲を特定できず、明確でない。
3 申立人が提出した証拠方法
申立人は、甲第1号証~甲第6号証(以下「甲1」~「甲6」ともいう。)を提出した。
甲1:松井征男ら、「八王子市戸吹清掃工場電気抵抗式灰溶融炉稼働状況」、第10回廃棄物学会研究発表会 講演論文集I、廃棄物学会、1999年10月10日発行、第561~563頁
甲2:特開2000-79381号公報
甲3:特開2002-301447号公報
甲4:特開2003-221228号公報
甲5:特開2007-204826号公報
甲6:大島俊治ら、「還元型灰溶融炉を用いた溶融処理の集約によるメタル回収技術に関する考察」、第27回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2016、第197~198頁
4 甲号証に記載された事項
(1)甲1には、次の記載がある。
ア 第561頁 2.施設の概要
「
[図:0001402763000002.jpg]
」
イ 第561~562頁 3.溶融炉の特徴
「
[図:0001402763000003.jpg]
[図:0001402763000004.jpg]
」
ウ 第563頁 5.資源の再生利用状況
「
[図:0001402763000005.jpg]
」
(2)甲2には、次の記載がある。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、一般廃棄物又は産業廃棄物の焼却灰を従来の高温(1200℃~1400℃)溶融処理と比べて、低温の焼却灰の溶融温度以下(600℃~980℃)で処理して、ダイオキシン類を分解・無毒化し、同時に重金属類も安定化して溶出しないように変成する、合理的で経済的な方法を提供しようとするものである。さらに、この方法で生成する焼却灰の処理物は、地盤改良材、コンクリートの骨材(鉄筋コンクリートを除く)、道路地盤補強材などに利用できるように工夫して、焼却灰の再資源化を目指している。」
「【0029】[実施例1] 上記表1の焼却灰を図3のフローシートに従って処理した例
前処理
焼却灰(1)を2500kg/hで、前処理装置(21)に供給し、まず、目開き50mmの篩装置(図示せず)にかけて、篩分された粗大物は、鉄分を磁選機(図示せず)で除き、破砕して再度篩装置に戻す。篩下の灰分は、さらに磁選機(図示せず)に掛けて鉄分を除き、前処理済み焼却灰(2)を得た。この前処理済み焼却灰(2)は、灰分100部に対して未燃物5.4部と水分39.8部を含んでいた。また、この焼却灰(2)中には、灰分1gに対してダイオキシン類として、ポリ塩化ジベンゾダイオキシン類110ng及びポリ塩化ジベンゾフラン類47ngを含んでおり、これらの毒性等量の合計は1.8ng-TEQであった。さらに、環境庁告示46号「土壌の汚染に係る環境基準」に環境基準が定められている重金属類として、灰分1kgに対して鉛2830mg、カドミウム120mg、砒素20mg、総水銀8mg、セレン2mgを含有していた。」
(3)甲3には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、都市ごみや産業廃棄物などを焼却する焼却炉から排出された焼却灰に含まれているダイオキシン類などの有機塩素化合物を分解して無害化する焼却灰の再生方法に関する。」
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
(1)第1の実施形態
図1は、本発明を実施するための第1番目の工程図であり、先ず、図示しない焼却炉から排出された焼却灰(以下、主灰という)aを、例えば、網目が80mm角の粗目振動篩1で処理して主灰a中に混じっている80mmを超える大形物bを除去する。この大形物bは、粗鉄用磁力選別機2によって鉄片cと粗粒焼却灰dに分別され、図示しない破砕機により破砕後、粗目振動篩1に戻される。
【0010】一方、粗目振動篩1を通した主灰aは、細鉄用磁力選別機3によって主灰中の鉄片cを除去した後、例えば、網目が15mm角の細目振動篩4によって15mmを超え、且つ80mm未満の中間の大きさの物eと、細目振動篩4を通過する主灰aとに分別される。主灰aは、ダイオキシン分解装置(以下、ダイオブレーカーという(商品名))5によって主灰中の有機塩素化合物が分解、及び無害化される。」
(4)甲4には、次の記載がある。
「【0007】本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、焼却灰等に含まれている銅、鉄などの金属成分を有効活用することの可能な廃棄物処理方法を提供することを目的とする。」
「【0021】このように焼却灰の溶融物に硫黄又は硫黄化合物を添加することにより、硫化銅によるマットが形成される。これは、以下のような反応系によるものと推測される。すなわち、まず、焼却灰中の酸化鉄及び銅と硫黄とが反応して硫化鉄(FeS)と硫化銅(Cu2S)とが生成する。
【0022】ここでFeS及びCu2Sは比重が溶融スラグよりも大きいため、溶融スラグ層中を沈降して下層の溶融金属層中の銅と接触する。FeSは銅と反応してさらにCu2Sを生成する。また、鉄は炭素との反応性に富むため炭素と反応してFeC(鋳鉄)を形成する。具体的には、下記反応式(1)に示す反応が生じる。
【0023】
FeS+2Cu→Cu2S+Fe・・・(1)
このCu2Sは、いわゆるマットと呼ばれるものであり、比重分離により溶融スラグ層及び溶融金属層から容易に分離することができるので、焼却灰中の金属成分から銅を分離して回収することができる。そして、この硫化銅マット中には、硫化銅と少量の硫化鉄と不純物としての非鉄金属硫化物とが含まれるが、ここでの銅と鉄との比率は、溶融金属中における鉄と銅との比率からすればはるかに鉄が少ないものとなっている。また、式(1)で生成したFeCは他の残存金属成分とともに回収することができる。
【0024】以上のようにして焼却灰を溶融することで、溶融金属中の銅を分離することができる。そして、このようにして回収された硫化銅マットは、銅精錬の原料として使用するのに好適である。一般に銅精錬に用いる銅鉱石は、CuFeS2(CuS・FeS)を主成分としており、これに酸素を添加することによりCuを生成している。このとき副産物としてFeOスラグとSO2ガスとが生成するが、このFeOは二次廃棄物となるのみならず、銅精錬炉の耐火物の溶損の主原因となっていた。すなわち、この銅精錬原料中に含まれている鉄分は少ない方が望ましいのである。これに対し本実施例においては、硫化銅マット中には硫化鉄を少量含むのみであり、銅鉱石におけるFeSよりもその含有率が低いので、銅精錬原料として極めて有用なものとなっており、焼却灰中の金属成分である銅のリサイクル性が向上している。しかもこの硫化銅はFeSの含有率が低いので、鉄に起因する二次廃棄物も少ないため銅精錬炉の操業費用の低減を図ることができるという効果も奏する。」
(5)甲5には、次の記載がある。
「【0013】
反射炉型リサイクル炉での産業廃棄物の溶融処理においては、ベコが発生しないように、焼却灰の処理量を抑えているが、一旦ベコが発生した際は、重油バーナの燃焼量を増し、1500℃以上の高温に加熱し、ベコを溶解していたが、炉内を高温にすると、反射炉の天井、側壁の耐火物が損傷するという問題があった。
したがって、本発明は、反射炉型リサイクル炉において、重油バーナーによる燃焼を強化せずに、炉内に発生するベコをスラグ化するとともに有価金属をマットとして回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、産業廃棄物を反射炉型リサイクル炉の溶融部炉床に投入し、生成した溶融物を湯溜りに流出させてスラグ及びマットに分離する産業廃棄物の溶融処理法において、銅製錬スラグと硫化鉄(Fe2S)の密封混合物を、未溶融物の溶剤として前記炉床に投入することを特徴とする産業廃棄物の溶融処理法を提供する。
上述のように反射炉型リサイクル炉において1300~1400℃の操業温度において発生する未溶融物(ベコと称す。)を溶剤により溶融することに本発明の特徴がある。
以下、本発明法を詳しく説明する。
【0015】
日本で産出する銅製錬スラグには自溶炉スラグ、転炉スラグなどがある。これらのうち自溶炉スラグはセメント原料、サンドブラスト、土地造成などに再利用されており、転炉スラグは選鉱して自溶炉に繰り返され、自溶炉に繰り返されない転炉スラグ、即ち鉄精鉱は自溶炉スラグなどと同様にリサイクルされる。しかしながら、上記用途における銅製錬スラグの需要は減っているために、リサイクルされずに貯蔵に回される割合が多くなっている。
銅自溶炉スラグ及び転炉スラグの代表的分析値を次に示す。
【0016】
【表4】
[図:0001402763000006.jpg]
【0017】
銅転炉スラグとともに硫化鉄(FeS2)を均一に混合した混合物を袋詰め、缶詰、木箱詰めなどの適宜の密封物を未溶融物が存在している位置に投入することにより、未溶融物と接触させ、未溶融物を迅速に溶解する。溶剤を密封状態とすることにより、投入中に銅転炉スラグ及び硫化鉄を分散させずに、ベコに高濃度で接触させることができる。
溶剤中の銅製錬スラグは酸化鉄(Fe3+)含有率が高いために次の反応により金属鉄をスラグ化でき、またAl2O3含有率が低いために、スラグの温度を低く保つことができる。
Fe+Fe2O3→3FeO・・・・・・・・・・・・・(1)
2FeO+SiO2→2FeO・SiO2 ・・・・・・・・・・(2)
【0018】
反応式(1)においては、ベコ中の金属鉄を酸化第二鉄で酸化し、酸化第一鉄とする。この反応のためには、酸化第二鉄を多く含有する銅転炉スラグ(鉄精鉱)が有効である。次に、反応式(2)においては、高融点溶融物を低融点の銅製錬スラグに溶融し、低融点のスラグとする。この際、アルミナ含有率が高いと、スラグの融点が高くなるために、アルミナ含有率が低い自溶炉スラグなどの銅製錬スラグを使用する。
これら銅製錬スラグ中のSiO2, CaO, Al2O3自体は反射炉でスラグ中に移行する。
【0019】
また、硫化鉄(Fe2S)はベコ中の鉄(Fe)と次のように反応して、生成物をマット中に溶解させる。
Fe2S+Fe→2FeS・・・・・・・・・・・・・・(3)」
(6)甲6には、次の記載がある。
ア 197頁1~11行
「
[図:0001402763000007.jpg]
」
イ 198頁2~7行及び表2
「
[図:0001402763000008.jpg]
[図:0001402763000009.jpg]
」
第5 当審の判断
1 判断の順序
判断を行うにあたり、進歩性を判断する前提として特許請求の範囲の明確性が求められるところ、本件においては、明確性(前記第4の2(3)参照。)、新規事項(前記第4の2(1)参照。)、実施可能要件、委任省令要件(前記第4の1(1)及び第4の2(2)参照。)、進歩性(前記第4の1(2)参照。)の順で判断を行う。
2 申立理由4(明確性)について
(1)判断手法
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2)「鉄の融点」について
本件訂正発明の「鉄の融点」について、理化学辞典等にも記載されるとおり、鉄の融点は1538℃程度と特定できるから、「鉄の融点」との記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものとはいえない。
申立人は、特許異議申立書18頁20行~19頁2行において「鉄の融点は、不純物によって大きく影響される」、「銅などが多く含まれると、鉄の融点を下げる効果がある」と主張するが、本件訂正発明において、単に「鉄の融点」と特定しているのであるから、銅などをほとんど含まない鉄の融点と解すべきであり、申立人の解釈は採用できない。
(3)「操業温度」について
本件訂正発明の「操業温度」とは、溶融炉を操業する際の、溶融炉の溶融温度と同義と解されるところ、「操業温度」との記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものとはいえない。
なお、取消理由通知の12頁14~17行において、「本件発明1の「操業温度」は、溶融炉を操業する際の、「溶融炉の溶融温度」と同義と解される」と認定したところ、特許権者及び申立人から特段の異論はなかった。
(4)「操業温度」の下限値が特定されていない点について
本件訂正発明の「操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉」との記載において、操業温度の下限値は明示されていない。
しかしながら、「溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなり」、「前記溶融炉に投入された前記非磁性物に含まれる鉄が酸化され、前記スラグに取り込まれる」との記載も併せて考慮すれば、操業温度が、少なくともスラグや銅の硫化物が溶融する温度以上であることを理解できるから、本件訂正発明において、操業温度の下限値は明示されていなくとも、本件訂正発明の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものとはいえない。
(5)小括
したがって、本件訂正発明は、特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ではないから、その特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合している。
3 申立理由2(新規事項)
(1)判断手法
補正が特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否かは、当該補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2)令和4年3月18日の手続補正ついて
令和4年3月18日の手続補正は、特許請求の範囲の請求項1及び明細書の段落【0006】において、「マット層」が「銅の硫化物であるマット層」であり、「溶融炉」が「操業温度が鉄の融点より低い溶融炉」であるとの特定を追加する補正事項を含むものである。
まず、「銅の硫化物であるマット層」との補正は、当初明細書等の【0022】の「リサイクル原料の処理工程における典型的なマット層は銅の硫化物である」との記載を補正の根拠とするものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。
次に、「操業温度が鉄の融点より低い溶融炉」との補正について、当初明細書等には、「溶融炉」の「操業温度が鉄の融点より低い」との明示的な記載はない。
しかしながら、当初明細書等に記載された溶融炉と同様の溶融炉について、例えば甲5(前記第4の4(5)参照。)の【0013】には「反射炉型リサイクル炉での産業廃棄物の溶融処理においては、ベコが発生しないように、焼却灰の処理量を抑えているが、一旦ベコが発生した際は、重油バーナの燃焼量を増し、1500℃以上の高温に加熱し、ベコを溶解していたが、炉内を高温にすると、反射炉の天井、側壁の耐火物が損傷するという問題があった。」と記載され、同【0014】には「上述のように反射炉型リサイクル炉において1300~1400℃の操業温度において発生する未溶融物(ベコと称す。)を溶剤により溶融することに本発明の特徴がある。」と記載されており、当初明細書等に記載されたような「溶融炉」の操業温度を1500℃以上にするのは特別な場合で、通常の操業温度は1300~1400℃程度とされている。
そうすると、本件訂正発明の「溶融炉」においても、操業温度を1500℃以上にするのは特別な場合と考えられるから、「操業温度が鉄の融点より低い」との記載を追加する補正事項は、本件訂正発明の課題解決の対象である「溶融炉」をある程度明瞭にしたにすぎないものであって、当該特定事項の内容は当初明細書等において既に開示されていると同視して差し支えないものといえる。
なお、申立人は、特許異議申立書15頁1~9行において、「新たな技術的事項を追加するものである」と主張するものの、いかなる新たな技術的事項が追加されるのかについて、何ら具体的な例を示していない。
(3)小括
したがって、令和4年3月18日の手続補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
4 取消理由1、申立理由3(実施可能要件、委任省令要件)
(1)実施可能要件を充足するか否かの判断手法
前記第3の1のとおり、本件訂正発明1~5は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)実施可能要件の判断
ア 「溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層」の実施について
本件訂正発明は、方法の発明として、「溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなり、操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉に投入する工程と、を有し、前記溶融炉に投入された前記非磁性物に含まれる鉄が酸化され、前記スラグに取り込まれる」ことが特定されている。
これに対し、本件明細書には、【0011】~【0017】に記載されるように、篩別する工程と磁選する工程により鉄をおおむね除去した非磁性物を得た後、【0019】に記載されるように、非磁性物を、溶融炉のスラグ層とマット層に投入すると、【0020】に記載されるように、「投入された非磁性物は、溶融し、非磁性物中のSiO2や溶融中に酸化されたFeやAlの酸化物等が、スラグ層14に取り込まれ、一方、非磁性物中の金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)等の有価金属は溶融してマット層13に取り込まれる」とされている。
すなわち、本件明細書には、鉄をおおむね除去した非磁性物を溶融炉のスラグ層とマット層に投入すると、「溶融中に酸化されたFe」「の酸化物等が、スラグ層14に取り込まれ」、「銅(Cu)等の有価金属は溶融してマット層13に取り込まれる」ことが記載されている。
そして、例えば、甲4(第4の4(4)参照。)の【0021】に「焼却灰の溶融物に硫黄又は硫黄化合物を添加することにより、硫化銅によるマットが形成される。」と記載されるように、硫黄又は硫黄化合物を添加すれば、硫化銅によるマットが形成されることは周知であり、また、酸素を供給すれば鉄が「酸化されたFeの酸化物」となることも技術常識であることも考慮すれば、本件訂正発明の「溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなり、操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉に投入する工程と、を有し、前記溶融炉に投入された前記非磁性物に含まれる鉄が酸化され、前記スラグに取り込まれる」ことを、方法の発明として実施できるといえる。
イ 操業温度が1100℃未満である場合の実施について
本件訂正発明では、操業温度の下限が特定されていないが、本件明細書の【0020】の「投入された非磁性物は、溶融し、非磁性物中のSiO2や溶融中に酸化されたFeやAlの酸化物等が、スラグ層14に取り込まれ、一方、非磁性物中の金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)等の有価金属は溶融してマット層13に取り込まれる」等の記載を参酌すれば、酸化されたFe等が溶融する程度の温度で操業されることは常識的に明らかであるから、本件訂正発明の方法は、方法の発明として実施できるものである。
(3)委任省令要件の判断
本件明細書の【0020】には、「投入された非磁性物は、溶融し、非磁性物中のSiO2や溶融中に酸化されたFeやAlの酸化物等が、スラグ層14に取り込まれ、一方、非磁性物中の金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)等の有価金属は溶融してマット層13に取り込まれる」と記載され、前記(2)アで検討したとおり、硫黄又は硫黄化合物を添加すれば、硫化銅によるマットが形成されることは周知であり、また、酸素を供給すれば鉄が「酸化されたFeの酸化物」となることも技術常識であることも考慮すれば、本件明細書の記載に基いて、溶融物がスラグと銅の硫化物であるマット層からなるものとするための手段、及び鉄のメタル層を作らないようにするための手段を理解することができる。
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、発明の課題を解決するための手段を記載したものであり、経済産業省令で定めるところにより記載したものである。
(4)小括
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、本件訂正発明の方法を実施できる程度のものであり、発明の課題を解決するための手段を記載したものである。
5 取消理由2、申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1の「2.施設の概要」(前記第4の4(1)ア参照。)には、「焼却灰は篩、磁選、アルミ選別などの前処理後、トランス容量900KVAの灰溶融炉で溶融処理する」ことが記載され、同「表1」には、電気抵抗式灰溶融炉の溶融温度が約1500℃であることが記載されている。
イ 同「図1 灰溶融プラントのフロー」(前記第4の4(1)イ参照。)には、前処理設備において、篩処理で大塊物を除去し、磁選処理で鉄分を除去し、アルミ選別処理で金属アルミを除去し、選別された焼却灰を、電気抵抗式灰溶融炉に投入することが記載されている。
ウ 同「3.溶融炉の特徴」(前記第4の4(1)イ参照。)には、「溶融スラグと溶融メタルは炉内で完全に比重分離でき、専用の排出口から別々に排出する構造である」ことが記載され、同「図2 電気抵抗式灰溶融炉の構造」には、電気抵抗式灰溶融炉内に、比重分離された溶融スラグ層と溶融メタル層があることが示されている。
エ 同「表2 溶融生成物の分析例」(前記第4の4(1)ウ参照。)には、スラグは主にSi、Al、Ca、Na等の成分を含み、メタルはSi、Fe、Cu等の成分を含むことが記載されている。
オ してみると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「焼却灰を、前処理設備において、篩処理で大塊物を除去し、
磁選処理で鉄分を除去し、
アルミ選別処理で金属アルミを除去し、
選別された焼却灰を、電気抵抗式灰溶融炉に投入する焼却灰の処理方法であって、
電気抵抗式灰溶融炉は、その溶融温度が約1500℃で、炉内に比重分離された溶融スラグ層と溶融メタル層があり、
スラグは主にSi、Al、Ca、Na等の成分を含み、メタルはSi、Fe、Cu等の成分を含む、焼却灰の処理方法。」
(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「焼却灰を、前処理設備において、篩処理で大塊物を除去し」は、本件訂正発明1の「一般廃棄物焼却灰を」「篩別する工程」に相当する。
甲1発明の「磁選処理で鉄分を除去し」は、本件訂正発明1の「前記篩別する工程により篩別された篩下物を磁選する工程」に相当する。
甲1発明の「選別された焼却灰」は、磁選処理後のものであるから、本件訂正発明1の「非磁性物」に相当する。
本件訂正発明1の「操業温度」は、溶融炉を操業する際の、「溶融炉の溶融温度」と同義と解されること、及び鉄の融点は1538℃であることを考慮すれば、甲1発明の「電気抵抗式灰溶融炉は、その溶融温度が約1500℃」は、本件訂正発明1の「操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉」に相当する。
甲1発明の「溶融スラグ層」は、本件訂正発明1の「スラグ」に相当する。
甲1発明の「溶融メタル層」と本件訂正発明1の「銅の硫化物であるマット層」とは、ともに「金属層」である点で共通する。
してみると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「一般廃棄物焼却灰を篩別する工程と、
前記篩別する工程により篩別された篩下物を磁選する工程と、
前記磁選する工程で磁選された非磁性物を、溶融物がスラグと金属層からなり、操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉に投入する工程と、を有する一般廃棄物焼却灰の処理方法。」
<相違点1>
篩別する工程が、本件訂正発明1は「篩目が30~100mmの篩を用いて」行われるのに対し、甲1発明は篩目の大きさが明らかでない点。
<相違点2>
溶融物が、本件訂正発明1は、スラグと金属層からなり、スラグが「溶融炉に投入された」「非磁性物に含まれる鉄が酸化され、」「スラグに取り込まれる」ものであり、金属層が「銅の硫化物であるマット層」であるのに対し、甲1発明は「スラグは主にSi、Al、Ca、Na等の成分を含み、メタルはSi、Fe、Cu等の成分を含む」ものである点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明は、Si、Al、Ca、Na等を含むスラグと、FeやCuを含むメタルを分けて回収するものであって、このことは、甲1の第561~562頁「3.溶融炉の特徴」(前記第4の4(1)イ参照。)に、「溶融スラグと溶融メタルは炉内で完全に比重分離でき,専用の排出口から別々に排出構造である。」「またスラグはメタルを含まず、スラグの磁選処理の必要はない。」との記載からも明らかである。そうすると、甲1発明において、メタルとして回収しているFeをあえて酸化させ、スラグに取り込ませようという動機付けはない。
これに対し、まず、甲2(前記第4の4(2)参照。)の【0029】には「焼却灰(1)を2500kg/hで、前処理装置(21)に供給し、まず、目開き50mmの篩装置(図示せず)にかけて、篩分」することが記載され、甲3(前記第4の4(3)参照。)の【0009】に「図示しない焼却炉から排出された焼却灰(以下、主灰という)aを、例えば、網目が80mm角の粗目振動篩1で処理して主灰a中に混じっている80mmを超える大形物bを除去する。」と記載され、同【0010】に「粗目振動篩1を通した主灰aは、細鉄用磁力選別機3によって主灰中の鉄片cを除去した後、例えば、網目が15mm角の細目振動篩4によって15mmを超え、且つ80mm未満の中間の大きさの物eと、細目振動篩4を通過する主灰aとに分別される。」と記載されているものの、スラグやマット層の生成についての記載はない。
そうすると、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
次に、甲4(前記第4の4(4)参照。)の【0023】には「このCu2Sは、いわゆるマットと呼ばれるものであり、比重分離により溶融スラグ層及び溶融金属層から容易に分離することができるので、焼却灰中の金属成分から銅を分離して回収することができる」こと及び「式(1)で生成したFeCは他の残存金属成分とともに回収することができる」こと、すなわち、銅の硫化物をマットとして回収し、FeCをマットとは別に回収することが記載されているものの、「鉄が酸化され、」「スラグに取り込まれる」ことについては、記載も示唆もない。
そして、甲4に記載された事項は、鉄を酸化させてスラグとして分離するのではなく、FeCを含むメタル層として回収するものと考えられるところ、本件訂正発明1は、甲1発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、甲5(前記第4の4(5)参照。)の【0014】及び【0017】には、「産業廃棄物を反射炉型リサイクル炉の溶融部炉床に投入し、生成した溶融物を湯溜りに流出させてスラグ及びマットに分離する産業廃棄物の溶融処理法」において、未溶融物である「鉄」と、「酸化鉄(Fe3+)含有率が高い」「銅転炉スラグ」を接触させることにより、「金属鉄をスラグ化」することが記載され、同【0019】には、「硫化鉄(Fe2S)はベコ中の鉄(Fe)と次のように反応して、生成物をマット中に溶解させる」ことが記載されている。
しかしながら、前記したとおり、甲1発明において、メタルとして回収しているFeをあえて酸化させ、スラグに取り込ませてしまえば、メタルとして回収できるFeの量が減ることになるから、甲5の記載に触れた当業者であっても、甲1発明のFeを酸化させてスラグに取り込ませることには阻害要因があるというべきである。
そうすると、本件訂正発明1は、甲1発明と甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、甲6の198頁2~7行及び表2(前記第4の4(6)イ参照。)には、「操業条件により溶融メタルが鉄相と硫化銅相の二相に分離する特徴を有」することが記載されているものの、鉄を酸化させてスラグとして分離することについては記載も示唆もないから、本件訂正発明1は、甲1発明と甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、前記したような構成を備えることにより、溶融中に鉄を充分に酸化させ、固体状態(半溶融状態)の鉄のメタル層を形成しないという甲各号証とは異質の効果を奏するものである。
(3)まとめ
そうすると、本件訂正発明1は、甲1発明、及び甲2~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件訂正発明2~5
本件訂正発明2~5は、本件訂正発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記アと同じ理由により、本件訂正発明2~5も、甲1発明、及び甲2~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 申立人の主張
ア 実施可能要件について
申立人は、令和5年4月25日の意見書2頁18~21行において「銅の硫化物であるマット層を生成することと、FeをFeOとしてスラグに含めることが可能な酸素分圧を決定することとの両方の要件を満たすような条件について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、何ら記載されていない」と主張する。
しかしながら、前記第4の5で検討したとおり、本件訂正発明のように、操業温度が鉄の融点よりも低い溶融炉において、銅を硫化させるのに充分な量の硫黄又は硫黄化合物が存在すれば、銅が硫化して銅の硫化物であるマット層が生成し、鉄を酸化させるのに充分な量の酸素が存在すれば、鉄が酸化され、スラグに取り込まれることは、周知技術ないしは技術常識といえるから、申立人の主張は採用できない。
イ サポート要件について
申立人は、令和5年4月25日の意見書4頁9~12行において「電気炉のような密閉構造である溶融炉を使用する場合・・・焼却灰へ酸素を送り込む方法がなく、溶融炉の雰囲気の酸素分圧を調整して鉄を酸化させることができないため、「Feのメタル層を形成しない」という課題を解決できるものではない。」と主張する。
しかしながら、前記主張は、溶融炉が電気炉以外の炉である場合に本件訂正発明を実施できないことを証明するものではなく、本件訂正発明の「溶融炉」は「電気炉」に限定されたものではないから、申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701054